美希「追憶のサンドグラス」 (12)


 千早さんが死んだ。

 死因は交通事故。

 収録を終えて、美希の誕生日パーティに向かう途中でのことだった。

 収録場所から千早さんの家までは歩いて五分。

 本当なら、その日はそこから直接帰るはずだった。

 美希……私は、自分が生まれてきたことを心の底から後悔した。

 千早さんが16。美希が15になった日のことだった。

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 なんで真面目な千早さんが死んで、不真面目な私が生き残ったのか。

 これは、最期まで口数の少なかった千早さんからの「そろそろ本腰を入れてみたらどう?」っていうメッセージなのかもしれない。

 千早さんの葬儀で泣きじゃくるみんなを見て、自分の涙が引いていくのを感じながら、私はそう思った。

 その日から、プロデューサーに頼んでボーカルレッスンを集中していれてもらった。

 もちろん、ダンスやビジュアルの特訓も怠らない。

 私のやるべきことは決まっている。

 千早さんが見られなかった景色を、私がかわりに見てくることだ。

 彼女が見るはずだった景色を、私が彼女のかわりに見てくることだ。

 「765プロ代表として、歌で大きな賞を取りたい」

 千早さんがいつか言っていたこの言葉を、私が彼女のかわりに成し遂げることだ。 

 私は、私と千早さんの魂、その二つを背負っている。

 その重さが、私に生きている実感をくれた。

 レッスンを始めてから、すぐに髪を切って色を暗くした。

 髪が重たいと綺麗に動けない。喉に髪の毛が当たると負担になる。

 金髪のままだと、それだけで評価する人も出てくるだろう。私は、それが嫌だった。

 だって千早さんは、決して外見に頼ろうとしなかった。

 だって、彼女になろうとするものが、喉以外に頼ってはいけないから。


 それから一年が経ったある日。プロデューサーが「そろそろ美希のオリジナル曲を発表しよう」と言ってきた。

 それまでの私は、千早さんの歌った曲をカバーする形でCDを出してきた。

 ……どれも千早さん以上の売り上げを出すことはできていないけど。正直、そんな未熟な私がオリジナル曲を出すなんて、とてもおこがましいことだと思う。

 それでもプロデューサーは「作曲家さんからビデオレターを預かってるから歌うかどうかはそれを見てから判断しろ」と、一枚のディスクを渡してきた。

 レッスンを終えて、自室のPCでディスクを再生する。

 そこには、私が今まで追いかけてきた人が映っていた。

 「こういう形で美希に何かを伝えるのは初めてだから緊張しています。先に謝っておくね。変なふうになってしまったらごめんなさい」

 聞きなれた……本当に聞きなれた、綺麗な声。
 ライブ映像を見ることはあったけど、こうしてオフに近いものを見るのは初めてかもしれない。

 「実は最近、作詞作曲を始めてみたのだけど……この前ね、初めて作った曲が完成したの! やっぱり、自分の表現したいことは自分で一から作りたいじゃない?」

 ……最初からわかってた。けど、これではっきりした。

 私じゃ、どうやってもこの人にはなれない。この人と私じゃ、歌に対する根本的な熱量が違いすぎる。

 プロデューサーは、それを私に自覚して欲しかったのかな。

 「それでね……私は、この曲を美希に歌ってほしいと思ったの。なんでかはわからないけど、美希ならきっと歌いこなせると思った。これが、「ティンと来た」ってやつなのかしらね。少し変わってるけど、これが美希への誕生日プレゼントです」

 それから、映像の中の千早さんは柔らかく微笑み。



 「美希。貴女は、私を好きでいてくれているようだけど、私を目指すなんてことはやめなさい。
  貴女は貴女のままでいることが、一番魅力的で素敵だわ。
  いつまでも自分の気持ちに嘘をつかない、まっすぐな貴女が私は好きよ?
 これから、もっと素敵な貴女になってね?」



 私が、一番欲しかった言葉をくれたのだった。

 溢れる涙を拭くこともせず、ポケットで震える携帯電話を取り出す。その着信の正体は、事務所のみんなからの誕生日おめでとうメールだった。


 奇しくも今日は11月23日。
 ビデオの中の日付は1年前の今日。
 この日私は、千早さんから最高の誕生日プレゼントを受け取り、彼女と同い年になったのであった。

 それから2週間後のバースデーライブ。

 私はスタッフのみんなに頼み込んで、この曲をセットリストに組み込んでもらった。

 千早さんの作った曲はすごく難しくて、覚えるまで大変だったけど。

 そこは「美希ならこれくらい平気よね」っていう千早さんからの挑戦状ってことにしておく。

 「みんなー! 今日は集まってくれてありがとー!」

 会場のみんなが私の一言で沸き立つ。

 最近気づいたけど、私はこの瞬間が一番好きなのかもしれない。

 「今日は、みんなのために新曲を用意してきました! 聞いてください!」

 これから私は、千早さんと違うアイドルになっていくだろう。
 千早さんはきっとそれを望んでいるし、これでいいのだと思う。

 「作詞・作曲! 如月千早! 歌! 星井美希!」

 『これから、もっと素敵な貴女になってね?』

 うん。なる、なるよ。千早さん

 「曲名は――」

 美希「追憶のサンドグラス」 Fin.

ちょっと早いけど美希誕生日おめでとう!
仕事で24時に書けそうにないのでフライングしました
これからもいい女になってください

乙!

こういう覚醒もありか

乙。
サングラスって書こうと思ったら偉くシリアスだった…
千早さんだったから美希は、覚醒したのかな?ほかの子だったらどうなってたんだろ

乙、良かったよ

最近の曲は流行りのアニソンみたいであんまり好きじゃなかったり

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