それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。
それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。
異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
突然超能力に目覚めた人々が現れました。
未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。
それから、それから――
たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。
その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。
ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。
part1
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 - SSまとめ速報
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part2
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part2 - SSまとめ速報
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part3
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/)
part4
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part4 - SSまとめ速報
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part5
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/)
part6
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/)
part7
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1384767152
・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。
・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。
・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。
・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。
・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。
・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。
・次スレは>>980
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
www57.atwiki.jp
☆このスレでよく出る共通ワード
『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。
『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。
『七つの大罪』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪と固有能力を持つ。『傲慢』と『怠惰』は退場済み
――――
☆現在進行中のイベント
『憤怒の街』
岡崎泰葉(憤怒のカースドヒューマン)が自身に取りついていた邪龍ティアマットにそそのかされ、とある街をカースによって完全に陸の孤島と化させた!
街の中は恐怖と理不尽な怒りに襲われ、多大な犠牲がでてしまっている。ヒーローたちは乗り込み、泰葉を撃破することができるのだろうか!?
はたして、邪龍ティアマットの真の目的とは!
『秋炎絢爛祭』
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……秋は実りの季節。
学生たちにとっての実りといえば、そう青春!
街を丸ごと巻き込んだ大規模な学園祭、秋炎絢爛祭が華やかに始まった!
……しかし、その絢爛豪華なお祭り騒ぎの裏では謎の影が……?
wikiちゃんと貼れてませんでした
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html
>>1乙
>>1おーつ!
そして、前スレ…本当にイルミナPは残念なイケメンだなぁ
童貞だしなぁ。神の子の誕生日なんか全力で中止させにかかるわ
ヘルメスのエメラルドタブレット……
本物だとすると錬金術師には最強のブーストアイテムじゃないですかー
どうも。続きを投下するよ
>>7
きさま!見ているなッ!
「あれ、ホントにあげてよかったの?たしかエメラルドタ……た……なんとかの一つとか聞いたことあるけど」
「ええ、ほぼ解析も終わってますし私が持っていたところで宝の持ち腐れですしね。100年くらい前に偶然手に入れただけで私にとってはただの骨董品ですよ」
二人は教習棟の階段を下りながらそんな会話をする。
「それに私にはこれがあれば十分ですしね」
イルミナPは皮手袋に包まれた右手を前に出して2,3回手のひらを握ったり開いたりしながらそう言った。
「ふーん……。ところでイルミナPちゃんはそろそろお腹減ってない?」
「たしかにもう昼間ですからね」
近くの壁に掛けられていた時計を見ればすでに正午を過ぎていた。
「どこかで昼食でもとりましょうか、唯」
「賛成♪じゃあどこ行こっか?」
イルミナPは折りたたまれた学園祭のパンフレットを取り出して目の前に広げる。
唯はそれを覗き込んだ。
「飲食系の出店は結構ありますね。しかし時間帯もちょうど昼時なのでどこも混んでいるでしょうしとりあえず近場から回ってみましょうか」
二人はとりあえず歩き出した。
先ほどのアンティークショップの前に比べて今歩いている廊下は人通りが多い。
教室は何かしらの店舗で埋まっており、人の出入りも頻繁に行われている。
「ところでどうして飲食系の模擬店が多いんでしょうかね?」
イルミナPはふと疑問に思った。
「ん?どういうこと?」
「いや、飲食物を取り扱う出店を行うとなると、手続きや衛生面の管理なんかでいろいろ面倒なことが多いと思うんですよ。
外部からの出店ならともかく、学生がどうして好き好んで飲食店をしようとするのか疑問に思ったんです。」
その言葉に対して唯はやれやれといった表情で言う。
「そんなこと考えてちゃダメダメだよイルミナPちゃん♪確かに手間はかかるかもしんないけどね、この子たちには今年の学園祭はこの一度だけなんだからさ!手間とか苦労とかよりもさ、この一度だけの学園祭で何をやりたいかが大切なんだよ♪」
「手間以上に何をしたいか……ですか」
「そう♪だから学園祭でやりたいこととなれば喫茶店とか食べ物扱ったりするのをみんなでやってみたいって人が多くなるんだと思うよ。みんなで考えたやりたいことをみんなでやり通すのが、きっと『学園祭』っていうものだからねー」
イルミナPの前を歩きながら喋っていた唯は振り向いてイルミナPの顔を見上げながら立ち止まる。
当然イルミナPも足を止めて唯の目を見るしかない。
「だからイルミナPもゆいのことばっかりに一生懸命になってパソコンの画面とにらめっこしてなくてさ、自分のしたいことをもっと考えてみたら?」
「……別に私は、いつも自分のしたいことをしているだけですよ」
イルミナPのそんな返答に唯はすこし不満そうな表情をするが、そのままイルミナPに背を向ける。
「そういうことなら……別にいいんだけどさぁー。あ、あの店偶然席空いてるみたいだから入ろー☆」
そんな風にある店の入り口の方に向かっていってしまう唯を見ながらイルミナPは頭を軽くかく。
そして軽くため息を吐いて唯の後を着いていった。
「お帰りなさいませにゃ。ご主人サマ!」
店内に入ると、そこには猫耳のメイドさんが待ち構えていた。
「話には聞いたことはあったけど、こういったお店に入るのはゆい初めて☆」
「なるほど……メイド喫茶ですか。……いいですね」
「ではこちらにどうぞだにゃあ!」
二人はそのまま猫耳のメイドに連れられて窓際にある席へと案内された。
メイドは頭に生えた耳を揺らしながら二人にメニューを渡す。
「注文が決まったら呼んでほしいにゃ」
そのまま猫耳メイドはせわしなく別のテーブルへと向かっていった。
「ずっと動きっぱなしだったのでようやく一息つけたという感じですね」
「まぁ店内は結構慌ただしそうだけどねー」
席が空いていたのは本当に偶然の様で、二人が入ってから店の入り口には徐々に列ができ始めていた。
「お嬢様ご主人様方一列に並んでくださーい」
その列を一人のメイドが整列させる声が聞こえる。
メイドが大量の主人に指示を出している姿だと思うとあまりにシュールである。
「慌てなくてもいいですが、メニューくらいはすぐに選びましょう。唯は何を注文しますか?」
イルミナPは手に持っていたメニューを唯の方を向けて広げる。
唯は頭を下げて、メニューを見ていると水を持ったメイドがやってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
水の入ったコップを置いた後メイドは二人にそう尋ねてきた。
唯は顔を上げて、メニューを指さしながらメイドの方を見る。
「じゃあ……このナポリタ……ン……を……」
唯の言葉が尻すぼみに小さくなっていく。
「どこかで見たことあると思いましたけど、お久しぶりですね」
そう言いながらそのメイド、柳清良は微笑んだ。
「うん……ほんとに、久しぶりだよね、ウリエル。何してるの?こんなところで」
唯はひきつった笑顔でそう返す。
「それはこっちのセリフよ。ずいぶん長い間存在を確認できなかったからとうの昔に風化でもしたのかと思ってましたけど」
唯はひきつった笑顔から軽く深呼吸をする。
そしてにやけたような表情に変えて清良を見る。
「ほんとに久しぶりに会ったと思ったら、ずいぶんとかわいい恰好してるねぇウリエル」
「この世界で生活するのにも仕事はしないといけませんからね。まぁ本職もありますけど」
「本職ねー。であの神さまは今も元気なのかな?」
「ええ、きっと元気だと思いますよ」
唯、バアルが天界から堕天された時にはまだウリエルこと清良は天界で熾天使をしていた。
そして清良がその後魔界へ行った時にはすでに魔界を後にしており、清良が魔界の更生施設で働いていることを唯は知らないのだ。
「ところであまりその名で呼ばないでくれます?ここでは柳清良と名乗っているので」
「どうしよっかなー。じゃあその本職ってのを教えてくれたら呼んであげないこともないけどね♪」
「そうですね。貴女にも聞きたいことがあるので教えましょう。私、とある任務でこの世界に来てるんですけどね
どうやら世界を滅亡させようとしている人がいるみたいなんですけど、何か知りませんか?バアル・ゼブル」
唯は水を一口、口に含んだのちに笑みを残したまま清良の方をじっと見る。
「あいにくあたし、ユイは隠居生活でのんびり過ごしてるだけだからねー。そんなこと企んでる人なんか知らないよ♪」
「本当ですか?」
「本当だよ。ゆいは何にもしてないよ。それにさぁ
仮に何かしてたとしてもここで本当のこと言うと思う?」
「……強引に聞き出すこともできなくはないですよ」
「ここで戦えば、きっとこの街灰になるけどいいのかな?」
二人とも笑顔のまま、にらみ合う。
「あの、すみません」
そんな二人の沈黙の中に交わる一つの声。
イルミナPが真剣な眼差しで清良を見る。
「どうかしましたか?」
清良も唯から視線を外して、イルミナPの方を向く。
唯の連れであることを知っているので依然警戒は解いていない。
「あの……
この『メイドさん特製萌え萌えオムライス』をいただけますか?」
「……はい?」
「……何やってるの?イルミナPちゃん」
二人からの冷たい視線にたいしてイルミナPはよくわかっていないようである。
「え……まぁ確かに魅力的なメニューが豊富にあって迷ってしまいましたけど……私何かしました?」
清良はそんなイルミナPに苦笑いのようなあきれたような微妙な表情をするしかなかった。
「……まぁいいでしょう。あなたの言うことを信じておきましょう、バアル。ですけどあなたは天界から追放された身。このままずっと見逃したままにはしませんよ」
清良は唯に背を向け、厨房の方へと戻ろうとする。
「何してんの?清良さん」
しかし清良のすぐ後ろで一人のメイドが腕組みをしながら待ち構えていた。
さっきまでとはうって変わって清良の顔色は青くなっていく。
「あ、あれ?チーフさん……なんでここにいるんですか?」
「店の方の客入りはあんまりなかったしね。こっちの様子を見がてら手伝いに来たんだけど……」
そのメイド、チーフはじろりと清良の目を見る。
「ずいぶんとお嬢様と楽しそうに会話してたみたいだけどさ……。今の店の状況わかってる?」
店内の席は埋まっており、メイドが忙しそうに動き回っている。
「み、みんな忙しそうですね……」
「うん。じゃあわかるよな」
「え、ええわかりますわかります。だから耳を引っ張らないでくださいいたいいたいです」
「えーっと、あの」
そんな風に清良の耳を引っ張りながら厨房に戻っていこうとするチーフだったが、その途中でイルミナPが呼び止める。
「このオムライスのおいしくなる魔法の呪文はちゃんとやってくれるんですよね」
「ええ、もちろん」
チーフは満面の営業スマイルでそう返した。
その後、清良が厨房からナポリタンとオムライスを持って二人の元へとやってきた。
その様子をにやつきながら唯は見ていた。
「ナポリタンです……お嬢様」
「ふふふ……ありがとー☆メイドの清良さん」
清良は唯の前にナポリタンを置く。
「オムライスです。ご主人様」
「じゃあ、魔法をかけていただけますか?」
一方のイルミナPは表情一つ変えずに真剣な眼差しで清良を見ながら言う。
清良は不自然な笑顔をしたまま、一筋の汗が垂れてきている。
そして持ってきたケチャップを手に取ってふたを開け、オムライスの上へと掲げた。
「お、おいしくな~れ……。おいしくな~れ♪」
そう言いながら清良はオムライスの上にケチャップをかけていく。
それを唯は楽しそうにみている。
「おいしくなる魔法の完了ですよ。め、めしあがれ♪ご、ご主人様」
そしてオムライスの上にはケチャップで描かれたハートが完成する。
それを見てイルミナPは満足そうな顔をした。
「ありがとう。私は満足です」
イルミナPは清らにそう言う。
清良はケチャップの蓋を閉めて、すこしだけ早歩きで厨房へと戻っていった。
「あの破壊天使が、メイド服着て、おいしくなる魔法かけてるなんて、貴重だねー」
唯は少し笑いをこらえながら言う。
対してイルミナPはオムライスにスプーンを差し込んで口へと運んで咀嚼する。
「日本のメイドによるおいしくなる魔法のオムライス。噂には聞いてましたけどこれは最高ですね」
彼は満足そうな顔をしたまま二口目を口にした。
「ではお会計***円になりますね」
「ええ!魔法かけてもらうと料金追加されるんですか!?」
二人は清良のちょっとだけ怖い笑顔を背にメイド喫茶を後にした。
以上です。
清良さんお借りしました
(みくにゃんもお借りしたかもしれません)
さてこのスレをずっと追ってきたそこのあなた
ROM専のあなたもです
あなたもこのスレに参加してみませんか?
大丈夫。私もすべての設定を把握し切れているわけではありません
気軽に参加してみませんか?
私はあなたの参加を心よりお待ちしております。
勧誘はこれくらいでいいか
いや最後の一文いらんだろ
乙ー
イルミナPwww空気読まな過ぎwww
乙です
イルミナPェ…
そしてキヨラさんに羞恥プレイですか…イイネ!
学園祭投下しまー
『何故に命を与えた?何を成すため生まれた?
神に祈りを捧げて届く願いは無いのに…』
ナニカの所へ帰りつつ、黒兎は歌う。誰にも、いや、誰かには聞こえる歌声で。
歌声に気付いた少女…ナニカは、振り返るとぬいぐるみの姿の黒兎を拾い上げた。
「黒ちゃん、お出かけしてたの?」
「そうダよー…えっと、お祭りだから楽しくなっちゃってサ」
「白ちゃんもー?」
「うん、ソウみたいだな」
「そっかー…」
どこか上の空のナニカに、黒兎は問いかけた。
「…加蓮来てるみたいだゾ?会いに行かないのか?」
「…やっぱり来てるんだ」
「感ジたのか?」
「うん…」
加蓮が来ている、それはなんとなく…なんとなくだが感じ取っていた。
でも、あの何でも有りだった混沌とした祟り場の時のように、軽々会いに行こうとは思えなかった。
「思い出しちゃったら…もうお姉ちゃんが死ねないって、死なないって、思い出しちゃったら…ヤだもん」
憤怒の街で、彼女は何回死を経験しただろうか。…覚えていない・死んだと思っていないのが幸いだが、それでも…不安だった。
自らを犠牲に誰かを守ろうとするかもしれない。自ら苦しみを引き受けてしまうかもしれない。
でも…不死でも、不老でも…体は痛みを感じるのだ。心は悲鳴を上げるのだ。
「お姉ちゃんが、ボロボロになるの、イヤ。それに、自分のカラダ…嫌いになったら、ヤだもん…夢は夢のままでいいの」
「…」
「…やだよ…お姉ちゃんには普通に生きてほしいのに…戦ってほしくないのにさ」
ぬいぐるみの姿の黒兎の腕を弄りつつ、少しだけ俯きながら彼女は言葉を吐く。
「でもさ、マタ会いたいのは事実だろ?」
「うん…」
「お祭り、一緒に楽しめばいいんじゃないカ?ほら、また記憶を消してもいいしサ?」
「…黒ちゃんはそう思うの?」
「んー…ちょっと知っている歌の歌詞ニ、こんなのあるんだけど…」
黒兎は再び歌う。
『無くしたくない記憶をくれた君には私を
忘れてなんて偽善ね何を願えばいいのか…』
それはナニカの今の状況に似ている気がした。
「結局さ、相手の心の声を聞かないで記憶消すのは偽善かもナ。…それでもイイカ?」
「…ぎぜん…?」
「嘘の親切だよ。大好きなお姉ちゃんの記憶を奪うのは、本当に親切カってコト。思い出を奪ってるんだから。最終手段ってことにしておけバ?」
「…お姉ちゃんの…思い出」
ギュッと、抱きしめながら、ナニカは思考する。
「…黒ちゃん、いい子だね」
「よせやい。アタシは仁加も加蓮も奈緒もスキだけど、もっと好きな人が居るんだ。その人の為なら仁加も裏切れるヨ?」
「好きな人?」
「マダ会ったこともないケどな」
「ん?…ふーん?」
ナニカにはよく分からなかった。会ってもいないのに好きになれるものなのだろうか。
会ってどんな人間か見なければ好きにも嫌いにもなれないと思うのだが…。
「ところでなんでずっと同ジ所にいるんだ?」
黒兎が飛び出した頃からナニカは同じところをウロウロしていたようだった。正直言っておかしい。
「…お金ないの」
「オ、おう…」
切実だった。
「…アタシが『拾って』こようか?」
「どこから?」
「え…あーあーんっと…誰かが自販機の下に落としてるかもしれないダロ?」
嘘だ。本当はちょっとそこらへんの目についたのを襲ってくるつもりだった。
「…」
「と、取りあえず歩こう?ずっと座ってるのはツマラナイだろ?」
「でもお腹すくよー?」
「…ガンバレ」
「えー…」
そう言いながらも立ち上がった所で、会話に夢中になっていた黒兎とナニカはやっとある気配に気づいた。
『メガネドウゾー』『マァマァ、オカネヨリメガネデショ』
「あ、ウっかりしてたワー…結構接近してたんだなぁー」
黒兎は己のうっかりをちょっと呪った。よりによってメガネのカースとは不運すぎる。
「あ…や、やだぁ…」
ナニカは激しく動揺する。後ずさりをしようとしたが、躓いて尻餅をついてしまった。
(おぅ…アタシがとっちめるべきだなこれは…アンチメガネカースになってモラおーっと)
怯えるナニカを守るべく、黒兎が動き出そうとする。
『メガネー』
「い、いやああああああああ!!やだぁ、やだぁ!!」
パニックになっていた。相手がメガネカースでなければ犯罪臭がする程に悲鳴を上げる。
「ちょ、離せ、離して、落ちツイて…!」
「いやああ!置いてかないでぇ!」
しかし、ナニカがギュッと抱きしめて、泥化しないと抜けられそうにない。
だが泥化して抜け出せばナニカはさらにパニックになりそうだった。
「ほラ、神父さん言ってただろ!素数数えろ!素数!」
「素数なんて知らないのぉ!」
「ですよねー!」
『メガネ!ホラメガネダヨー!』『メガネダヨー』
「いやだぁ…もういやだよぉ…こんなの食べたくもないし触りたくもないのにぃ…!」
ナニカは戦闘態勢に入ろうか、やっと決めようとしていた。
「コアさん!行くよ!」
『ブモッ!』
そこに、コアラの様な、機械のようなモノを引きつれた一人の少女が現れた。
そして少女の声に答えたコアラの様なそれは、変形すると鎧のように少女に装備された。
「喰らえっ!」
『メガネッ!?』
腕のパーツの金属の爪を振り下ろし、メガネのカースの一体を切り裂く。
「続けてもう一つ!」
『メーガーネー!?』
今度は周囲を飛んでいた二つのレーザーユニットから発せられたレーザーがもう一体を貫いた。
「ふぅ…あの変なカースモドキ、こんな所にまで湧いてるのかぁ…めんどくさいなぁもう!休憩くらいさせてよねー!」
『ブモ~』
周囲にカースがいない事を確認すると、装備はコアラの形に戻った。
「…助けてくれたの?」
『ブモッ!』
「アタシを誰だと思ってるの?アイドルヒーローのRISAこと、的場梨沙!これを恩に思って投票イベントがあったら投票してよね!」
『ブモ…』
梨沙はアイドルヒーローとして売れることでパパが喜んでくれると思っている。だからこうして名を売ることを忘れない。
…少々、押しつけがましいと思えなくもないが…駆け出しアイドルヒーローで、さらに子供だから仕方ない。
「アイドルヒーロー…リサ…んー?」
ナニカのアイドルヒーローの知識はあまり無い。存在は知っていてもどういった人物がアイドルヒーローだったかはあまり記憶にない。
強いて言えばカミカゼは知っている程度だろうか。
そしてあまりぱっとしないナニカの表情を見て、少し不満げ小声で愚痴る。
「…やっぱり、アタシのファンって偏ってない?大人の男の人ばっかり!」
『ぶも~…』
その様子を見て、ナニカは思い出したかのようにお礼を言う。
「えっと…助けてくれてありがとう、リサお姉ちゃん!アレ怖いから苦手なのー」
「もう、怖いし戦えないならパパとかママとかと一緒にいなさいよね!」
ここで誤解が発生した。梨沙はナニカを無能力者だと判断したのだ。
…実際はメガネが苦手なだけで恐ろしい程の化け物なのだが。
「あー…えっと、あたしね…パパもママもいないの。でも今は黒ちゃんと一緒だよ?」
「…いない…?それってどういう…」
親がいない。その意味が一瞬理解できなかった梨沙が問いかけようとしたが、後ろから人影が接近してきた。
「梨沙!戦闘態勢に入ったと思ったんだが…無事に終えたようだな」
担当プロデューサー…パップだ。監視されている梨沙は、戦闘態勢に入った瞬間、それが伝わるようになっている。
「当然!あんな雑魚、楽勝よ!ちゃんとこの結果、パパに報告してよ!」
「ああ、わかって…ん?」
パップは、ナニカを視界に入れると、梨沙に問いかける。
「この子を助けたのか?」
「…そうだけど?」
「おおっ!偉いじゃないか!ちゃんと小さい子を守れて!」
わしゃわしゃと頭を撫でようとするも、全力梨沙に抵抗される。
「頭撫でないでって言ってるでしょ!それにあんたに褒められる筋合いはないでしょ!もうっ!」
振り払われると、やれやれという仕草をして、ナニカに近づく。
…その光景がどう見ても犯罪臭がするが触れてはいけない。
「君も怪我がないようでよかった!子供が怪我するのは遊んでいる時だけで十分だからな!はっはっはっ!」
「おじちゃん、リサお姉ちゃんの知り合いさん?」
「お、おじ…ははっ、素直でよろしい!自分はアイドルヒーローRISAのプロデューサーだ。君もアイドルになるかい?名前は?」
「あたし?仁加だよー?」
「ちょっと、無能力者をスカウトする必要ないでしょ!もう、ヘンタイ!」
「名前を聞いただけでか!?」
「当たり前でしょ!」
小さい子供が好きなパップは、どうやらナニカを気に入ったようで…やっぱりどう見ても怪しい光景である。危ない香りが半端ない。
それをよく分かってないナニカは、のんきに黒兎に問いかけていた。
「アイドル…黒ちゃんどう思う?」
「お断りしまス。と答えさせてもらおうか」
「…君、それは?」
腰にベージュの人形を下げたパップは、言葉を発するぬいぐるみを持つナニカに咄嗟に質問してしまった。
「黒ちゃんだよ?あたしのお友達なのー」
「黒兎ダ。それ以上でもそれ以下でもない、タダの可愛らしいぬいぐるみさんダヨー」
「…そうか」
カースの核を埋め込んだ人形は、ちゃんと大人しくしている。そして目の前の黒いぬいぐるみからは、少なくとも似た感じはしなかった。
(それ以前に、カースを埋め込んだぬいぐるみなんて、こんな小さな子供が持っているわけがないな。自分としたことが思わず聞いてしまった…)
ただ単に、ぬいぐるみを操作できる能力を持っているのだろう。パップはそう判断した。
「…とりあえず、君はもっと人気のある場所に居なさい。はぐれたなら迷子預り所まで行くかい?」
「行かなーい。迷子じゃないから大丈夫だもん。お祭りにはお姉ちゃんも来てるから、探さなくても大丈夫!」
(パパとママはいないのにお姉ちゃんは居るんだ…よくわからない家族ね)
首を傾げる梨沙に、ナニカは駆け寄る。
「さっきは本当にありがとう!リサお姉ちゃん、アイドルヒーロー頑張ってね!」
「う、うん…」
そう言って笑顔で手を握ると、ナニカは手を振りながら去って行った。
…お互いに知らない事実。それは二人はとある少女に正反対の感情を抱く者同士と言う事。
加蓮に溢れるほどの愛を抱く少女と、加蓮に激しい憎悪を抱く少女。
お互いにそれを知っていたら、こうして触れ合う事もなかっただろうに。
それを、この場の誰も、知らない。
「…で、結局どうするンだ?加蓮を探すのか?」
「…まだ、決めてないよ。でもメガネに見つかるのイヤだもん!」
「そうか、まあゆっくり決めたらいいサ」
黒兎と会話しながらナニカは行く。
先程の少女が、加蓮を廻って敵になりそうだなんて微塵も思わずに。
以上です
嫌な予感がする?ハハハ、気のせい気のせい(目逸らし)
梨沙とパップお借りしました
イベント情報
・黒兎とナニカがセットで行動中。今は加蓮に対してどう動くかは未定
乙ー
その時はまさかあんな事になるとは思っていなかった……って、フレーズが浮かんだ(震え声
スレ乙&乙乙
エトランゼ因縁交わり過ぎぃ!
やだ何か怖い、ナニカと梨沙の邂逅何か怖い
文化祭時系列で投下しますー
『ハイ、デオチデェェェェス!!』
苦悶の叫びをあげて、カースが崩れ去る。
その前には、スーツにマント、シルクハットという珍妙ないでたちの男。
??「やれやれ、思ったよりてこずったな」
男が服についた埃をパンパンとはらっていると、やがて周囲から歓声が響いた。
「すっげぇぇー! 流石はプロデューサーヒーロー、『クルエルハッター』だぜ!」
「キャー! 素敵ぃー!!」
クルエルハッターと呼ばれた男は、眼鏡越しに柔らかい笑顔を群集に振りまき、その場を去った。
クルエルハッターが去った後も、人々はしばらく彼の話を続けていた。
「やっぱりかっこいいなー、クルエルハッター」
「ねー、カッコいいし強いし優しいし、いう事無しだよねー」
「そうだよなー。あとは……眼鏡さえなければなあ……」
誰かの言葉に、一部は首をかしげ、一部は大きくうなずいた。
黒兎の放ったアンチメガネカースが、少しずつ、人々に「眼鏡=悪」、という認識を植えつけていく。
――――――――――――
――――――――
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――――――――
――――――――――――
アイドルヒーロー同盟の事務所。
とあるアイドルの控え室。
??「おっせえなあ……たかだか肉買いに行くのに何時間かけてんだアイツは……」
外を歩けば少女と間違われるであろう、可愛らしい顔立ちの少年が顔を歪ませながら椅子の上にあぐらをかいている。
はっきり華奢といえるほどに細い体をいっぱいに使い、誰にともなく不満と苛立ちをアピールする。
その時、部屋の戸をノックする音が聞こえた。
??「はぁーい♪ どちら様ですかー?」
少年は先ほどの独り言とはだいぶ異なるトーンで戸の向こうへ問いかけた。
??『僕だよ、爛。今帰った』
戸の向こうからの声を聞いた少年――古賀爛は、再び顔を歪めた。
爛「おせえぞ。早く入れ、クールP」
呼ばれて部屋に入ってきたのは、先ほどカース相手に大立ち回りを見せたクルエルハッターその人だった。
クールP「悪いね、カースが現われたんで戦っていたのさ」
爛「ケッ、どうせ雑魚だろ? その辺の偽善能力者共に任せてさっさと帰ってくりゃあ良かったんだ」
クールP「そうもいかないね。同盟の民衆への好感度を上げるためだから」
爛「俺にはどうでもいいけどな。それより、買って来たモンさっさとよこせ」
爛は不機嫌そうに、クールPが手に提げているコンビニのビニール袋を指差した。
クールP「ああ、はいはい」
クールPが差し出した袋を乱暴に受け取り、爛は中身を確認して舌なめずりをする。
爛「そうそう、これよこれ」
袋から出てきたのは骨付きのフライドチキン。
小さな口を目一杯開けて齧り付くと、肉汁がじわと溢れてくる。
爛「……やっぱこの体は不便だな、口が小せえ」
クールP「……もう少しおしとやかにアイドルらしくしてくれないと困るな」
爛「いーだろ別に。『恐竜人間への変身能力を持ってて変身したら人格変わる』っつー設定なんだしよ」
爛は悪態をつきながらチキンをほお張り続ける。
クールP「まあ、それもそうだけどね」
爛「あーあ、いいよなあ裏方は。目立たねえから正体隠す必要ねえもんなあ、吸血鬼さんよぉ?」
クールP「心外だね。裏は裏で気を使うのさ、古の竜さん」
軽口を叩き合う二人。
その会話から分かるとおり、彼らは人間ではない。
爛の本当の名は「ラプトルバンディット」。古の竜、牙の一族に属している。
戦士団には所属していないものの、彼の敏捷性と謀略は戦士団からの評価も上々である。
……それ以上に「腹黒く信用ならない」と評価されるが。
クールPは吸血鬼、それも「利用派」と呼ばれる派閥に属している。
利用派の吸血鬼は様々な組織への潜入を開始しており、クールPはこのアイドルヒーロー同盟へと潜入したわけだ。
そして、そこで爛の担当プロデューサー兼ヒーローとなり、現在に至るわけである。
クールP「しかし、分からないね。爛、君は何故アイドルヒーロー同盟に入ったんだい?
君の計画成就の為に、アイドルヒーローになる必要は無さそうだけれど」
クールPの問いに、爛はチキンの肉を全て食いつくし、残った骨をバリバリと噛み砕きながら答えた。
爛「ああ、それな。俺の計画の為にどうしても利用してえ『奴』がいてな。ソイツのご機嫌取りの為に
そいつの部下になって働いてんのさ。そんで、そいつが他の能力者もご所望らしくてよぉ、
俺は今任務でアイドルヒーロー共をどうにかすっぱ抜く為にここに来たんだ。まあ言えばこりゃ親愛上げ作業だな」
クールP「そんな情報、ポンポン喋っていいのかい?」
爛「いーんだよ、親愛マックスで利用したらポイーするつもりなんだからよ。それよりテメェだクールP」
爛は手づかみしたチキンで脂ぎった指をクールPに向ける。
クールP「僕かい?」
爛「ああ。利用派吸血鬼がこんなトコに何の用なんだ? 最初に会ったときも言わなかったな」
クールPはそれを受けて少し考え込んだ後、口を開いた。
クールP「……そうだね、僕と同じニオイがする君なら信用出来るし、話そうか」
そう言って近くの椅子に腰を下ろすクールP。
クールP「僕は確かに利用派だけど、それはあくまで立場上なんだよ」
爛「人間界やら魔界の支配にゃ興味がねえってのか?」
クールP「まあね。僕の目的はただ一つ。……全ての吸血鬼を統べる、吸血鬼の王の座さ」
そう言って、クールPは口元をニタァと歪める。
クールP「その為に、利用出来そうな戦力を探して人間界に来たってわけさ。利用派を選んだ理由は、
『末端が一番自由に動けそうなのが利用派だったから』、かな」
爛「ひゅう、ますます似たモン同士だな、俺達は。……もう一回聞くがよ、人間界やら魔界の支配は……」
クールP「だって面倒臭いじゃないか。異世界相手に戦争ふっかけるなんて。それに……」
クールPは椅子から立ち上がり、コツコツと爛に歩み寄った。
クールP「いざ戦争になってもさ、割と圧勝出来ると思わないかい? 僕の企みと、君の企みが合わされば……ね」
爛「……ヒャハッ、やっぱテメェに会って正解だったぜクールP」
クールP「ふふ、僕もそう思うよ、爛」
そう笑いあう二人の顔には、元の可愛らしい、あるいは整った顔立ちからは想像もつかないほど下卑た笑みが浮かんでいた。
??『ピー、ピーピー』
突然、天井裏から機械音が響く。
クールP「おや、アラクネが帰ってきたか」
クールPが指をパチンと鳴らすと、天井の一部分を取り外して何かが部屋に入ってきた。
それは金属の体を持った、大型の蜘蛛だった。
爛「ああ、テメェのペットか」
クールP「エクス・マキナ、だよ。ちゃんと覚えてほしいね」
アラクネ『ピーピー、ピピー』
エクス・マキナ――『マキナ・アラクネ』は、口にくわえていた小さな電子部品をクールPに手渡した。
クールP「ああ、ご苦労様。……ほう、AIのパーツが回収出来たのは幸運だね」
爛「何だそりゃ?」
クールP「近頃よく現われる鰯のロボット、あれの残骸だよ。……計画の為に、兵隊は必要でしょ?」
爛「……なーるほど」
クールPは電子部品を小さな袋に入れて鞄にしまい、代わりに手帳を取り出した。
クールP「さあ、そろそろお仕事の話でもしようか。この後三時から某スタジオでグラビア撮影。
某週刊コミック誌の巻頭グラビアになるそうだから、しっかりね」
爛「……なあ、一応確認だがよ。俺がオスってもうファンにバレてんだよな?」
クールP「そうだね、それが?」
爛がビニール袋に入っていたお絞りで手を拭きながら聞くと、クールPは眉一つ動かさずしれっと答えた。
爛「……いや、人間ってぇのはある意味ものすごく逞しいんじゃねーか、って話だ」
クールP「ふふ、案外サクライさんからは外見でスカウトされたんじゃないかな、君は?」
爛「……やっぱチナミ経由で知ってやがったのか、俺が『エージェント』だって」
クールP「担当アイドルの事を把握するのは、プロデューサーの務めだからね」
爛「…………チッ!」
爛はやや乱暴気味に戸を開け、すぐそこにいた人物に挨拶した。
爛「あっ、某社の重役さん。この間はありがとぉございましたー♪」
続く
・ラプトルバンディット(古賀爛)
職業(種族)
アイドルヒーロー兼サクライのエージェント(古の竜)
属性
多重スパイ
能力
半竜・超竜状態への変化
詳細説明
古の竜の一員。【狡竜山賊】。
戦士団には所属しておらず、ある計画の為に地上へ。
そこでサクライと接触しエージェントになり、アイドルヒーロー同盟に潜伏する。
非常に狡猾で残虐な性格で、サクライの事も散々利用して捨てるつもりでいる。
半竜状態で爪・脚力が強化され、超竜状態で(他の古の竜と比べて)やや小柄なヴェロキラプトルの姿になる。
半竜状態で縦長の黒目と頬の鱗模様を隠すマスクをつけ、アイドルヒーロー「ラプター」を名乗る。
人間態の姿は某秋月君に酷似しており、他の古の竜には一度も見せた事が無い。
関連アイドル(?)
クールP(悪巧み仲間)
関連設定
古の竜
エージェント
・クールP
職業
プロデューサーヒーロー
属性
利用派吸血鬼
能力
マキナ・アラクネによる武具を用いた暗殺術
詳細説明
利用派に所属する吸血鬼。だが、他世界の支配には興味を示さず、吸血鬼の王を目標としている。
利用できる戦力を求めてアイドルヒーロー同盟でプロデューサー兼ヒーローとなる。
特殊強化繊維で作られた特製スーツとマキナ・アラクネを装着し、「クルエルハッター」となる。
ワイヤーや投刃で鮮やかにカースを抹殺する様は、まさに【仕事人】。
ラプトルが唯一信用する相手であり、彼もまたラプトルを唯一信用している。(同属のニオイがするから)
関連アイドル
ラプトル(悪巧み仲間)
関連設定
吸血鬼
エクス・マキナ
・マキナ・アラクネ
蜘蛛を模したエクス・マキナ。
クールPがアイドルヒーロー同盟に入る頃には既に彼と共にいた。
主が怪しまれないようにとやたら人当たりがよく、見た目の割りにアイドル達からの人気は高め。
ガイスト形態は鋼鉄製ワイヤー射出ユニットと八本の投げナイフ(ワイヤーで回収可)。
・イベント追加情報
ラプトルとクールPが悪巧みをしています。とくこうがぐーんです。
クールPはアラクネを使ってイワッシャーの残骸を集めています。
以上です
え?爛はクールっぽくないのにクールPなのって?
うん、彼は後々ライラも担当する予定だからね(まさかのネタバレ)
↓ちなみに爛を見たティラノ達の反応
ティラノ「古賀爛……俺らと同じ苗字だな」
ブラキオ「まあ珍しい苗字でもあるまいて」
乙ー
悪巧みしてて怖いな…というかアンチメガネってメガネかけてる人にやるんじゃなかったっけ?大半メガネかけていた可能性があるのかな?
果たしてどうなることやら。そして日本人は未来にいきてやがる
あと恐竜たち節穴じゃないですかーイヤダー
乙です
日本人は逞しい種族
…ティラノたちェw
>>45
周囲にメガネ=悪と植えつければ新しい眼鏡が生まれることはない。
つまり、そういうこと
日本人とかいうダメ種族
ちかたないね
投下します
いったい私は何を書いているのでしょう
前回のあらすじ
イルミナP「まったく、日本のメイドは最高だぜ!!」
唯とイルミナPの二人はそれなりにこの学園祭を満喫した。
そして日も傾いて、人々の脚は家路へと向かい始めていた。
生徒たちは今日の分の片付けを始めており、朝とは違った意味での人の流れができている。
そんな中、イルミナPと唯も傾いた太陽に照らされながら出口である校門を目指していた。
「今日は楽しめましたか?唯」
「どちらかというとゆいよりもイルミナPちゃんの方が楽しんでなかった?」
「そうですか?そんなことはないと思いますが……」
「ぜったいそうだよね!」
そんな風に今日のことを話しながら歩いていると、ふと唯の鼻先に水滴が落ちてきた。
「ちべたっ!んー?雨かな?」
唯はそう言って空を見上げるが雲はほとんどなくオレンジがかった太陽は依然輝いている。
「ん?唯、どうしました?……おや?」
唯が急に上を向いたので何事かと思いイルミナPは唯の方を向くがちょうど彼の頭にもぽつりと一粒の水滴が落ちてくる。
その雨粒は徐々に量を増してそれなりの雨量になってきた。
「どうやら今日も、平和なだけでは終わらないみたいだね♪」
唯は少しだけ楽しそうに言う。
そう、雨は依然ざあざあと振っているのにもかかわらず頭上には雨雲はない。
どこからともなく雨が降ってきているのだ。
周囲を歩いていた人々は突然の謎の雨から逃れようと雨のしのげそうな場所へと向かっていく。
そんな風に雨宿りをし始めた人々はそこでようやくその雨の異常さに気づく。
その雨はまるで墨汁を溶かしたかのような濁った黒色で辺りに真っ黒のな水たまりを作っていっているのだ。
「雨……ではないですね。触れても濡れないようですし」
「イルミナPちゃんもなんとなく気が付いてるよね。この雨、カースだよ」
唯のその言葉の後に周囲の水たまりが隆起してカースが湧いて出てきた。
それを見ていた人々はパニックになりながら悲鳴を上げ、その場から逃げ惑う。
「どうやらこの雨を降らしている本体がいる可能性が高いですね」
周囲にはごく普通の黒い泥状のカースのみ。
比較的この雨は規模が大きく、この状況を引き起こしているのは普通のカースではないことがわかる。
「どうする?放っておく?」
唯はそんなことをイルミナPに尋ねていると背後から一体のカースが唯に跳びかかってくる。
しかし唯は振り向くことなく、隣に魔方陣が出現。その中から炎の矢が飛び出てきてカースを貫いて蒸発させる。
そして核だけが残り、跳びかかった来た勢いのまま唯の方へと飛んできたのを唯は手に取って口に含んだ。
「このカース。強欲だね」
唯はカースの核を口内で転がしながら言う。
「少し気になるので寄り道してもいいですか?」
「うん!全然オッケーだよ」
「了解です。唯が手を出す必要はありませんよ」
イルミナPは唯の了承を取ると、右手の皮手袋を取ってタキシードの懐に仕舞った。
そして右手を腕まくりして、肩を軽く2,3回まわした。
露わになったのは艶のある金属光沢を放つ義手であった。
その義手は作り物のようでもなく筋繊維までも一つの金属で再現されていた。
それこそがイルミナPの最高傑作でありメインウェポン。
機構魔導義手、マジックハンドである。
「Release Lightning……Spread」
三単語の詠唱。そしてイルミナPは右手を振るう。
右腕の表面に魔術文字が高速で走っては消える。そして閃光が走り、右手から放たれた雷撃は周囲のカースをすべて焼き尽くす。
「とりあえずは本体に会いに行きましょうか」
そしてイルミナPは校門へと続く道から外れるように脇にある林の中へを入っていく。
それに続くように唯も付いていった。
依然林の中でも黒い雨は降り続け、周囲からはカースがひっきりなしに襲い掛かってくる。
「Release Blizzard Wide」
前方扇状に大気を凍てつかせる冷気を放出する。
そのまま草木ごとカースは凍り付いて勝手に砕け散って塵となる。
さらに右方からカースが跳びかかってくるがイルミナPはそれを一瞥して右手をそのカースに出す。
「Rlease Melt」
跳びかかってきたカースは右手に触れる直前で何かに遮られるように溶けるように蒸発する。
しかしその隙を狙ったかのように四方からカースの触手が伸びてきた。
背後についていた唯は個人空間ですぐ上空へと転移する。
その場に残されたイルミナPに鋭い触手は届きそうになる。
「疾風よ。我が力に従い、万物引き裂く暴風の刃を!トルネイド・ブリンガアァーーー!」
イルミナPは魔術の詠唱後、周囲360度の回し蹴りをする。
その脚からは幾重にも重なった風の刃が放出され、周囲の木々ごとカースを切り刻む。
そしてイルミナPを中心にして竜巻に巻き込まれたかのように木々が倒れて見晴らしがよくなる。
しかしそれでも雨は止まず新たなカースが湧いて出てきた。
イルミナPは上から降ってきた唯を両手でキャッチする。
「ナイスキャッチ♪それにしてもこのカース、大概強欲か色欲だよねー」
唯はイルミナPの腕の中でそう言う。
「全くゴキブリのごとく湧いて出てきますね。さっさと原因が出てきてくれればいいんですけどね」
『全くゴキブリとは失礼だな。俺の愛する子供たちのことをよ』
イルミナPがため息を吐きながらそんなことを言っていると前方から新たな声。
その声はカースの声のようにくぐもった声にもかかわらず、流ちょうな言葉を話している。
その前方の木の陰から出てきたのは不健康そうな男だった。
やせ形で簡素な服装をしながら、整えたことないような髪型をしている。
しかしそれ以上に目を引くのがその男の眼球が真っ黒く白目がないことに加えて、全身から黄金色をした炎と桃色がかった炎がところどころ立ち昇っていることだ。
その炎は全身のあちこちからは発火しているのにも関わらず服には全く引火していないことから普通の炎ではないことは明白だった。
「わざわざ出てきてくれるとは手間が省けましたよ。愛する子供たちがやられたから出てきたんですか?」
『まさか!俺がわざわざ出てきたのはその嬢ちゃんに用があるからだよ』
「ん?ゆいのこと?」
男は下品な顔をしながら唯を嘗め回すように見る。
『いやなぁ……あんたものすごくかわいいからよぉ……欲しくなっちゃったんだ。ああもう我慢できねぇ。嘗め回してオカシテボロボロニシテコレクションシテエヨォオオーーー!!!』
男はだんだんと言葉がカースのような喋り方になりながら頭をかきむしりながらせわしなく舌なめずりをする。
「うわー。これがよく聞くヘンタイってやつなのかな?」
「ええ、まぎれもない変質者ですよ。唯はこんな下品な男にかまわず下がっていてください」
イルミナPはそう言って唯をそっとおろして唯の前へと出る。
「じゃあここはイルミナPちゃんに任せるね。さっき上にいたときに変わったもの見つけたからちょっと出かけてくる♪」
そう言いながら唯は手のひらを広げる。
そこにはすでに壊されていたがプロペラの着いたカメラのようなものが握られていた。
「わかりました。ここはお任せください」
その声を聞いた唯は個人空間でどこかへ転移してこの場を後にする。
そして残ったのはイルミナPをさっきからずっと興奮して頭をかきむしりながらくねくねした動きをする男、それと周囲の大量のカースだけとなった。
「おい、そこのキモ男」
イルミナPはその気色悪い動きをする男に話しかける。
そこでようやく男は動きを止めてイルミナPの方を見る。
『あれ?あのカワイコチャンはどこ行ったんだ?おい、おいどこいったんだヨォーー!』
「あの方をお前のような気色悪い男の前にさらしておくのは忍びなかったんでね。この場を離れてもらいましたよ」
『ハァ?おいふざけんなよ帰ったとかどういうことだよお前と一緒なんかなんもうれしくねえんだよフザケンナフザケンナフザケンアアアアァァァァ!』
イルミナPの言葉を聞いたその男は四つん這いになりながら地面に何度も何度も頭を打ち付ける。
そしてしばらく打ち付けていた後に急にぴたりと止まって四つん這いのままゆっくりとイルミナPの方へと顔を向けた。
『殺ス』
その瞬間男は四つん這いのまま蛙のように上に跳びあがった。
それを合図にするかのように周囲のカースたちもイルミナPに迫ってくる。
「Release Fire Circle」
イルミナPがその言葉を発した後に右手を振れば彼を周囲を円状に炎が立ち上る。
当然迫ってきていたカースたちは炎に焼かれて次々と塵になっていく。
しかしその炎の壁を突き破って黒い触手のようなものが弾丸のようにイルミナPに襲い掛かってきた。
イルミナPはそれを横に軽く飛ぶように避けるがその触手は先ほどまでイルミナPがいた場所で動きを急に止めると、イルミナPが回避した方向に向かって直角に曲がって迫ってきた。
「くっ。Release Melt!」
それに対して右手を突き出して応戦する。
触手はその右手に存在する不可視の溶解壁に対して溶かされながらも勢いを殺さずに貫こうとしてくる。
『キェエエエェェ―――!!!』
さらに炎の壁は消え去って再びカースが進行してくる中にあの男は奇声を上げながらイルミナPの方向へと迫ってきていた。
先ほどからイルミナPに襲い掛かってきた泥で出来た触手は男の口の中から舌のように伸びており、それは溶解されるたびに絶えず喉から放出されていたのだ。
しかもどういう原理かはわからないがその男は空中の何もないところを四つん這いで蹴りながら加速して接近してきた。
そしてイルミナPの右手の前まで迫った直前で伸ばした触手を回収、再び空中を蹴りあげてイルミナPの頭上を通過する。
イルミナPは急いで右手の魔術を解除。振り向いて防御の態勢に入ろうとする。
男はイルミナPの背後に両手から地面へ着地して、足を浮いたまま丸めて、腕は腕立ての要領で曲げていく。
そして腕のばねを開放するように伸ばして両足をそろえてイルミナPへと鋭い蹴りを決める。
イルミナPは腕を交差させて間一髪その蹴りを防ぐ。
しかしその衝撃で数歩背後に押し下げられたうえに、義手でない左手は蹴りによって痺れている。
『はっ!この程度かマジシャンよぉ!』
男は両手足をそろえて地面に着地すると両手をイルミナPの方へ向けてそこから体に纏っているものと同色の炎を打ち出す。
「チッ!Release Ice Wall」
イルミナPも右手を男に向けて突き出す。
そうするとイルミナPの前に炎を防ぐように氷の壁が形成される。
『無駄だっつーの!はたしていつまで持つかな!?』
乱発される火炎弾は氷の壁に当たるたびに、それを溶かし、削っていく。
当たらずに後方に反れていった火炎弾は着弾するたびにそこから新たなカースが出現していく。
よってイルミナPの背後からはそのカースが迫ってきていた。
『まっさに前門のオレェ!後門の我が子たちってヤツだぁ!絶体絶命!さっさと死ねぇ!』
男はその言葉の後にさらに火炎弾の射出速度を上げる。
氷の壁は削れていき、そしてトドメと言わんばかりの一回り大きい火炎弾を射出、それが着弾すると見事に氷の壁は砕け散った。
氷の壁が溶けた際の蒸気によって視界は悪く男からはイルミナPを確認できない。
だからこそ聞こえてくるのは声だけだった。
「全く……数だけは多いってのが何よりも面倒なんですよ。だから出し惜しみはやめてさっさと終わりにしましょうか」
『ハァ!?何いってんだぁ?オマエヨォ!』
「Liberation Gluttony」
京華学院から少し離れたとあるビルの屋上、そこで黒いスーツに身を包んだ男が目を瞑りながら座っていた。
「カメラを壊されたか……」
彼は目を開けて立ち上がる。
彼はサクライP直属のエージェントであり、少し前に放流された複数の属性を持つカースの監視の任務に就いていた。
ただしサクライPからは監視はほどほどに済ませ、存続が容易でない場合にはすぐに撤退しろとの命令も受けていた。
その理由として彼の監視するカースは放流されたカースの中でも原罪に至るにおいて最初期の失敗作であり最大の失敗作でもあったからだ。
しかし利用価値そのものは低くはないので重要視するほどではないことを前提にして監視を付けていたのだ。
そして監視していたカメラは破壊され、あのカースを監視することは難しくなった。
このままいけばあの二人組にカースは始末されるだろうと彼は考えたのでこの任務を切り上げようとしたのだった。
彼はそのまま屋上から降りるために屋内からの出口へと向かおうとする。
しかし彼は足を止めた。止めざるをえなかった。
背中を伝う冷や汗。
背後からねっとりと絡みついてくる嫌な気配。
男はゆっくりと振り向く。
「ちーっす♪」
彼の背後に突如として魔方陣が現れてその中から一人の少女が出てきた。
彼にはその少女の見覚えがあったのだ。
つい先ほどまでカメラで監視をしていて、そしてそのカメラを壊した張本人なのだから。
「キミかなー?盗撮していた人は?」
彼はすぐに能力を使ってその場を離脱した。
もはや反射的にと言ってもよかっただろう。
あの場所に、彼女の前にいたくなかったからだ。
彼の能力は電気を操ることができた。
『あの日』以前は所詮は静電気をため込みやすい程度の体質だった彼だが能力を得てから少し経ったのちに彼は自身の能力によって家族を失った。
その際に自暴自棄になっていた彼をエージェントとして雇い、居場所を作ったのがサクライPだったのだ。
だから彼にとってサクライPは恩人であり尽くすべき雇用主となったのである。
彼は電気を操る能力によってカメラから発せられていた電波を直接視覚情報として収集していた。
また電気を操ったり、宙に飛び交う電波に介入することも可能であった。
その汎用性と能力そのものが強力なこと、さらにはその忠誠心の高さからサクライPからはエージェントの中でも重宝されてきた人物である。
そして彼の能力の中でも究極にして最高の、一日一回限りの大技。それが『電子化』である。
自身を一時的に電子に変換して光の速さで移動や攻撃ができるこの技は彼にとっても一度も破られたことはない技である。
そして今回、初めてその技を逃走の手段として使った。
電子化した彼はそのまま光の速さでとある山の中へと着地する。
電子化は消耗する技であるのですでに彼の息も上がっている。
いや、それ以上に生で見ることによってはじめて感じたあの得体のしれない少女の存在が彼の精神を大きく摩耗させていた。
彼はそのまま近くにあった木に寄りかかって深く深呼吸をする。
ようやく落ち着いてきたのか、緊張も解け始めて脱力する。
「ここまで来ればさすがに大丈夫だろう」
周囲は木々に覆われており、見たところほとんど人の手の入っていない原生林と考えられる。
そう、さすがに自身でさえ偶然跳んだ先であるこの場所をピンポイントで探しあてられるわけないのだと高をくくっていた。
彼は立ち上がって今回の情報をサクライPに送ろうと情報データを能力で送信する。
そのデータは強力な電波となってサクライPの元へと届く……はずだった。
なぜかその電波が自分の背後から戻ってきたからだ。
「すごいすごーい!一瞬でこんな遠くの山の中まで移動するなんてゆいびっくりしちゃったよー☆」
彼の前に現れたのは見覚えのある魔方陣。
当然その中からあの少女、大槻唯は出現した。
「ここら辺一帯はゆいがドーム状に個人空間の入り口と出口で囲んであるから、どんなものでも中から外には出られないんだよ☆」
彼にとっては人生二度目の絶望だった。
もはや逃げることはできないと彼は悟った。
「ぐ、う、うおおおおーー!」
だからこそ、無駄だとわかっていても、悪あがきとしてその得体のしれない少女に自身の特大級の電撃を食らわせる。
突き出した手のひらから放出される視界を奪うほどの眩い電撃。
電撃は唯ごと周囲の木々を飲み込んでいく。
さらに直接当たっていない周囲の木々にも引火すると同時に土煙や気の燃える煙によって少女の姿は見えなくなる。
「いきなり危ないなー!ゆいに当たったらどうしてくれるの?」
その声は彼の背後から聞こえてくる。
彼は急いで振り向くが、気が付いた時には彼は唯を見上げる形になっていた。
視界に映るのは倒れる自身の首のない体と、見下ろす少女。
その時点で彼は首を落とされたのだと自覚したと同時に、絶命した。
「頭だけあればいっか♪」
唯はそう言って男の頭を拾い上げて、再び魔方陣の中へと消えていった。
ここは京華学院の中に存在する裏山の一画である
広大な裏山を散歩できるような遊歩道も存在するがそれ以外はほぼ自然のままでその地理については用務員のおじさんしか把握していない。
ゆえにある程度派手に暴れたとしても騒ぎにはならないのだ。
『意味わかんねぇよ……。なんだよ……なんなんだヨォその腕!』
その中で炎を身に纏った男は叫ぶ。
その言葉の中には焦りや困惑が含まれていた。
「なんだっていいでしょう。あなたが知ったところで意味はないですし」
イルミナPは冷めた目で男を見ながらそう言う。
先ほどまで彼らの周囲には倒れた木々や炎によって燃え上がった樹木、またはカースがいた。
しかし現在にはそれらは存在せず、イルミナPを中心にして半径約20メートルくらいは木が生えていた痕跡は全く存在せずに地面がむき出しになっていた。
しかもその地面は何か大きな大顎によって噛みつかれたかのように抉られていた。
『いったいなんなんだヨその顎は!』
男の視線はある方向を見ている。
視線の矛先はイルミナPの右腕、マジックハンドであった。
しかし彼のマジックハンドはさっきまでとは大きく違っていた。
金属で出来たマジックハンドは今はまるで獣のように赤黒い剛毛で覆われている。
そして何よりも目を引くのがその腕を挟むようにして浮いている巨大な獣の上顎と下顎の骨であった。
いまだに黒い雨は降り続け新たなカースが湧いて出てくる。
そしてイルミナPに跳びかかっていくがイルミナPが右手をそちらの方へと向ける。
それだけでカースは空間ごと削り取られた。まるでその大顎によって喰われたかのように地面に新たな牙の跡を刻み付けて。
『クソッ!』
男はもはや勝てないと判断したのだろう。
そのままイルミナPの方を向いたまま後ろへ飛んで林の中に逃げ込んだ。
あの場から約20メートル圏内が射程限界だと判断した男は、とりあえず距離を取ろうとしたのだ。
移動速度ならこちらの方が上であると考え、距離を取りつつカースと、自身の舌での狙撃が現状の最善。
場合によっては逃げる算段も男は考えていた。
「逃げられるとでも?」
イルミナPは男が逃げ込んだ林の方角に右手を突き出す。
腕を挟むように浮いていた顎は、口を大きく開けるように右腕を中心にして離れていく。
そしてその顎がガチリと大きな音を立てて閉じる。
その瞬間、右腕前方の空間がその大顎に食われていくかのように削り取られていく。
それは扇状に広がっていき、歯型を残しながら木々を食らい尽くしていった。
『フザケンナ!オレハ……モット!!』
不可視の咀嚼は逃げる男に迫っていく。
そして男はそれに飲み込まれるように削り消えた。
それと同時に振っていた黒い雨は止んだ。
周囲にいたカースもどこかへと逃げていく。
「少々、やりすぎたか……」
イルミナPは禿げ上がった周囲の林を見渡しながらそうつぶやいた。
林の中を駆けていく一つの小さな影があった。
それは黒いカエルであり、体からは鮮やかな炎が上がっている。
『くっ……寄生体は飲み込まれちまったが何とか本体である俺は逃げ切れたぜ』
先ほどの男はこのカエルのカースに寄生されており、寄生体を犠牲にすることによってやられたことを偽装したのだ。
『まぁいいヤ、次は寄生体を探すとするか……。次は女の体でも狙ってみるかっと』
そのカエルは進みながら前方に人影を見つけた。
夕暮れ時の薄暗い林の中なのではっきりとはしないがその大きさ、体躯からして少女であることがわかる。
『ラッキー!せっかくだ。あの体をいただくぜ!』
そしてカエルは気づかれないように近づいていき、背後から一気に跳びかかった。
「ん?」
『なぁ!?』
しかしその少女に直前で振り向かれ、そのまま手でキャッチされてしまった。
『お……お前!あの時の嬢ちゃん!?』
「あー、さっきの変質者?ずいぶんとちっちゃくなったねー」
カエルが跳びかかったのは、唯であった。
もうこの時点でカエルは自身の失策に気が付いた。
あの男、イルミナPと一緒にいた時点でただの少女ではないこと。
さらにこのカエルは肌に触れさえすれば体内に侵食、寄生してその人間を内から食らうことができるのだが、素手で触れているこの少女の体内へとなぜか浸食ができないことに気が付いたからだ。
『ま、マテ!さっきはすまなかった……だから!』
「待たない♪」
そのまま唯はそのカエルを有無を言わさずに握りつぶした。
『グエッ』
そして文字通り潰れたカエルのようなうめき声をあげて、そのカースは消滅した。
唯は手のひらを開くと、そこにはビー玉大の一つの玉、そのカースの核が残っていた。
色は金色と桃色が混じったようなマーブル色をしている。
「……とりあえずイルミナPちゃんとこに行こうっと☆」
そして唯は生首を抱え、手のひらにカースの核を持ったまま魔方陣の中へと消える。
そして唯はそのままイルミナPの隣に現れた。
すでにイルミナPは林から出る少し前、近くに校門へと続く整備された道が見えている場所で唯を待っていた。
「どうやら派手にやったねみたいだねー!あとこれお土産ー」
唯は抱えていた生首をイルミナPに投げ渡す。
それを右手でキャッチした。
「誰です?こいつ」
「なんかゆいたちのこと盗撮してたから、やってきたんだっ☆」
イルミナPはその生首の顔を見るが、そのイルミナPの表情から心当たりはないようだ。
「まぁ食ってしまえばわかるでしょう」
右手に掴まれた生首は一瞬で消えた。
右手の力で削り取ったのだろう。
「Restriction Gluttony」
イルミナPの右腕が元の金属で出来た義手に戻る。
そして懐から皮手袋を取り出して右手にはめなおす。
「なるほど……ね」
そしてイルミナPは少し苦い顔をする。
「あの『仮面男』の差し金か……。これは」
「結局どういうことなの?イルミナPちゃん」
「どうやら先ほどのカースは、とある団体が作り出した新型のカースのようですね。その実証実験……とでもいえばいいですかね」
「とある団体?」
「ええ……。桜井財閥って知ってますよね」
「うん。あの桜井財閥だよね☆」
「どうやらそのトップがカースで何かを作り出そうとしているみたいですね……。さすがに食った男はそのことについては詳しくは知らないようでしたけど」
「ああ!そうだった」
唯は思い出したように手に持っていたカースの核を差し出した。
それをイルミナPは手に取る。
「これは……我々の『トーチ』に近いものですね」
「うん♪さっきの変質者の核だよっ!」
「なるほど……。通りで『雨』と『大罪の炎』が出ていたわけですね。つまりは複数の属性のカース……となると」
イルミナPは手を口元にあてて考える。
「まさか『原罪』の生成か?あの『仮面男』ならたしかに考えそうなことか……」
「あのさー『仮面男』って誰?」
唯のその質問に、イルミナPは思考を止めて唯の方を見る。
「ん……ああ。『仮面男』というのは私が勝手に呼んでるあだ名みたいなものですよ。『仮面男』とはサクライP、つまり財閥のトップの男のことですよ」
「んー?なんで『仮面男』っていうの?」
「えーっと……。数年前に一度会ったことがあるんですがね。ずっと仮面を被っていたんですよ」
唯は仮面舞踏会のような派手な仮面をつけた男を想像する。
「その人も変態なのかな?」
「そういう意味での仮面じゃないです。ペルソナですよ。精神的な仮面。つまり何を考えているのかが全く読めなかったということですよ。
それに当時から底知れぬ不気味さもありましたし、正直様々な人間を見てきましたけどあれくらい気味の悪い人間は指折り数えるくらいしか見たことがありません」
イルミナPはサクライPの顔を思い出しながら嫌な顔をする。
「あのころからずっと私の中で『もっとも嫌いな存在』の中に入ってますよ。あの男は、得体が知れないですからね。……予想通り、世界の多くを牛耳るようになりましたし」
イルミナPは核を唯に投げ返した。
「それには特に利用価値はないので食べても構いませんよ」
「そう?じゃあー遠慮なく」
そして唯は核を口の中に放り込んだ。
「ともかくその核は桜井財閥が『原罪』を作ろうとした際にできた失敗作ってところですね」
「『原罪』ねぇ……。いったい何に使うのか知らないけど」
「まぁ桜井財閥が計画の邪魔にならなければいいんですけどね。正直あの『仮面男』はできるだけ相手取りたくないですし……」
辺りはもう夕日に照らされており、若干暗くなってきていた。
「じゃあ今日は帰りましょうか。妙に疲れたことですしね」
「そうだねっ!今日は帰ろっか♪」
そして二人は校門から出ていく。
傍から見れば息が合っているような二人だったが、なぜかその歩調は合ってはいなかった。
機構魔導義手『マジックハンド』
表面の装甲としてアダマンタイトとオリハルコンの合金が使用されておりその強度だけでなく、魔力伝導性や電気伝導性はとても高い。
魔術的加工によって、本物の筋肉のように自在に動かすことができるうえ、欠損などしても魔力を通わせれば時間はかかるものの自動で再生する。
中心部分には特殊な回路が埋め込まれており、疑似的に保存領域を6次元空間まで拡張してあるので情報量の多い魔術であっても大量に記録、保存ができる。
処理速度は全宇宙でもトップクラスを誇る小型のスーパーコンピュータ。
ただし、この義手そのものがとある『モノ』を封じ込めておく封印となっているので実際には性能のうちの7割は封印に割かれている。
「Release」を合図に保存された魔術の起動準備をし、それに続くように属性を設定することによって最低2単語の詠唱のみで魔術の発動が可能となる。
さらに3単語目に範囲、規模などを指定する単語を組み込むことも可能。ただし『Melt』に関しては封印された『モノ』を利用したものなので規模指定はできない。
Liberation/Restriction Gullutony
『Release』に対して封印された『モノ』の力の一部を解放する呪文。
解放後には右手は獣のような腕になり、それを挟むように巨大な獣の顎が出現する。ただし浮いている獣の顎は実体は存在せずエネルギーのようなものである。
その右掌から前方を空間を削り取るように『捕食』することができる。射程は20メートルほどであり、瞬時に到達するわけではない。
一部だけでも強力な力なので長時間解放したままにはできない。
複数の属性を持ったカース
今回の属性は『強欲』と『色欲』のカースでありカエル型である。桜井財閥の放ったカースの一体であり失敗作。
属性の融合がうまくいかずに、『原罪』へと至る確率は3つの中でも特に低いものと考えられている。
ただし属性の融合がうまくいかなかったことによって、その位相差によって感情のエネルギーが増幅し合い、通常よりも高い知性が宿った。
その余剰の感情エネルギーは『大罪の炎』となって放出され、空に巻き上がった後に『雨』となって降り注ぎ新たなカースを生み出す。
これに似た、より増殖性を強化したものとしてイルミナティは『トーチ』と呼ばれるカースを完成させている。
またこのカエル型のカースはカースノイドとしての側面も持っており、本体はあまり力を持たない代わりに寄生能力を身に着けていた。
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「おれは モバマスSSを書いていたと思ったら
いつのまにか童貞と変態の対決を書いていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった… 中二病だとかその場のノリだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
以上です。
わたしはまんぞくだよ
複属性カース使わせていただきました
乙ー
童貞強いなー。そして、唯ちゃんコワイ
乙です
なにかよくわからんが強い…(確信)
まぁ、童貞も変態も力を持てば主人公になれる国ですし……
乙ー
で、電気の人ぉぉー!
明らかに有能っぽいし背景も重くて何か色々よさげだった電気の人ぉぉー!!
憤怒の街で投下します
憤怒の街、地下。
カイ「このっ、てやっ!」
もう何体ものカースを討ち、カイはぜえぜえと苦しげに息を吐く。
カイ「ちょっと、多すぎない……?」
討っても討っても、カースは目の前の水路の奥からわらわらと湧いてくる。
カイ「シャーク・インパクトは……アイツが防いじゃうしなあ……」
カイの視線の先には、リクガメを思わせる体躯の獣型カース。
『ギャウウウウウ!!』
先ほどからシャーク・インパクトでの一掃を何度も試みたが、全てあのカースに弾かれてしまっている。
カイ「潜れたら楽なんだろうけど……何でか潜れなくなってるし……」
地下水道全体に、カースの体と同質の泥が薄く広がっている。
これが、アビスナイトの固有能力である物体潜航を阻害しているのだ。
そしてその泥は、前方のリクガメ型カースの足先から際限なく広がり続けている。
カイ「いや……ちょっと難易度ルナティック過ぎない……?」
『ギギィーッ!』『ギャオオオオ!』
カイの呟きをよそに、リクガメ型カースの背後から別のカースが襲いかかる。
カイ「あーもう、こうなりゃ意地だ! トコトンまでやってあげるよっ!!」
カイが自らを奮い立たせ、ガントレットの刃を構えた、その時。
??「伏せたまえ、カイ君! 『~~、~~~』」
カイ「へっ? うわわっ!!」
背後からの声と共に謎の熱気を感じ取ったカイは、大慌てでその場に伏せた。
直後、カイの頭上を青い炎が走り、カースを焼き尽くしていく。
『ギェエエエー!?』『グアアアア!?』
カイ「すっご……今の声って……」
カイは立ち上がり、後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、先ほど知り合ったばかりの女性。
カイ「やっぱりキバさん!」
キバ「早い再会だったね、カイ君。もしかして、いらん世話を焼いてしまったかな?」
カイ「いえ、助かりました! ありがとうございます、キバさん!!」
カイはキバに駆け寄り、勢いよく頭を下げた。
その姿はまるで、飼い主に懐く子犬のようだ。
キバ「助けになったなら良かったよ」
キバは軽く笑みを浮かべ、カイの肩をポンと叩く。
カイ「あっ……でも、キバさんはどうしてここに? 別の用事があったはずじゃ……」
キバ「ああ、どうにも『懐かしい気配』がしてね……」
カイ「気配、ですか?」
キバ「ああ。だが、『奴』はあの時確かに死んだはず……」
見れば、キバは顎に手を当て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
カイ「うーん……でもこんな世界ですから、死んだ人間が生き返るもの不思議じゃないんじゃないですか?」
キバ「それもそうかもね。……まあ、奴も私も人間ではないがな……」
キバはポツリと呟いた。
カイ「えっ、何か言いました?」
キバ「いや、何でもないよ。気配はこの先からだな。……カイ君、危険だから君はここで待っているといい」
キバはそう言って水路の奥へと進んでいく。
カイ「あ、あたしだって戦えます! それに、今の恩返しもさせて下さい!」
カイは去るキバの手を取り、バイザー越しの熱い目を向けた。
キバ「…………しかし」
カイ「お願いします、キバさん!」
カイの手に、さらに力がこもる。
キバ「…………そこまで言うなら。ただし、自分の命は自分で護るんだよ」
キバはそう言い、僅かに燃え残ったリクガメ型カースの核を踏み砕いて先へ進んだ。
カイ「…………ありがとうございますっ!」
カイもそれに続いて、地下水路の奥へと進んだ。
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キバとカイが進む地下水路の奥。その更に奥。
少し開けた空間で、不気味に鼓動を続ける繭が、無数に天井からぶら下がっている。
『ルロロロロロ……』『オオオオオオン……』『ショアアアアア……』
そしてその繭から、次々とカースが生まれてくる。
ここは、無数にカースを生み出し、地下水路や地上に送り込む、いわばカースのプラントだ。
コマンドカース『サア、ユケイかーすドモォ! ニンゲンドモヲジュウリンシツクスノダ!!』
そして、新たに生まれたコマンドカースがその指揮を執る。
コマンドカースの指揮に従い、カースたちは四方の水路から出て行く。
そのまま水路をさ迷うもの、地上をうろつくもの、『学校』の防衛にあたるもの……。
多少ヒーローや能力者に倒されても、特に問題はない。
このプラントさえ無事なら、カースはいくらでも生み出せる。
そしてプラント自体を壊されようと、深く濃厚な呪いの塊である『プラントの核』が無事なら、プラントはまた再生される。
天井に張り付いたプラントの核が不気味に揺らめき、またカースが生まれる。
コマンドカース『フフフ、スベテハジュンチョウ! コノママイッキニニンゲンドモヲ……』
??「よーぉ、やってるか?」
コマンドカース『ッ!?』
突然背後から声をかけられ、コマンドカースは驚いて振り向く。
コマンドカース『コッ、コレハてぃあまっとサマ! ワザワザぷらんとヘ、ナンノゴヨウデショウカ!』
憤怒P「なーに、ちょっと様子見に来ただけだ」
そこに立っていたのは、彼らの主である憤怒Pこと、邪龍ティアマットだった。
憤怒P「プラントはちゃーんと動いてるみてぇだな」
コマンドカース『ムロンデス! コノフカキショウキデウミダサレタぷらんと二、ソウソウフグアイナド……』
その時。
一つの繭が、不自然にドクン、と揺れた。
憤怒P「あん?」
コマンドカース『ムッ!?』
繭の鼓動は、なおも続く。
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バーニングダンサーが学校に突入するより前のこと。
岡崎泰葉は学校の図書館にいた。
懐かしむような顔で、辺りを見渡す。
ふと、誘われるように一冊の本を手に取る。
表紙には、「昆虫図鑑」の文字。
何気なく、ぱらぱらとめくる。
……こんな物を見て、私はどうするというんだろう。
どこを開いても、載っているのは虫けら。虫けら。虫けら。
今まで葬った人間や、これから叩き潰すヒーロー達と大差ない、ただの虫けら。
しかし、それでも。虫けらの中にも、妙な「能力」で歯向かってくるものはいる。
それは「浄化の雨」であり、「猛毒の針」である。
それは「植物の使役」であり、「強烈な脚力」である。
それは「旧支配者との共生」であり、「頑丈な甲殻」である。
それは「未知の金属生命体」であり、「高熱のガス」である。
それは「固体への潜航」であり、「頑強な顎」である。
――鬱陶しい。
貧弱な、脆弱な、虚弱な虫けらが、小手先の能力だけで歯向かってくる。
鬱陶しい。鬱陶しい。鬱陶しい! 鬱陶しい! 鬱陶しい!! 鬱陶しい!!
泰葉の内に、みるみると憤怒が広まっていく。
広まった憤怒は姿を泥と変え泰葉の足元から現われ、泰葉が手に持つ図鑑を飲み込む。
やがて泥は図鑑を吐き出す。
パラリとめくれたその図鑑は、完全な白紙となっていた。
泥はそのままずぶずぶと床に沈んでいく。
泰葉はそれを気にも留めず、図書館を後にした。
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そして現在、カースのプラント。
図鑑を飲み込んだ泥が繭の一つに溶け込み、不自然な鼓動を促した。
コマンドカース『コ、コレハナニゴトカ!?』
憤怒P「黙ってみてな。……面白ぇ事が起きそうだな、ククッ」
鼓動は次第に速くなり、繭自体も膨張を始めた。
コマンドカース『オ、オオオオ……!?』
憤怒P「……来るか!」
やがて巨大な鎌が、繭を突き破って顔を見せた。
さらにもう一本。
繭を麻のようにビリビリと引き裂いて、ようやくその全貌が現われた。
コマンドカース『ナ、ナント……!!』
憤怒P「クッ、ククク……予想外のイレギュラーが産まれたようだなぁ……」
黒く光沢を持った体躯、鎌のようになった前足、異常に発達した後足、巨大な複眼……。
まるで子供が描いたような、「昆虫の合体生物」がそこにいた。
憤怒P「さあて、お前さんには……地上の掃除でもしてもらうかな」
憤怒Pの言葉に従い、巨大な昆虫はグッと身を屈め……
ゴォッ
コマンドカース『ヌォォッ!?』
轟音を残し、一瞬にしてその場を去った。
憤怒P「面白い結果を見せてくれよ……なぁ、『蟲の王《キング・オブ・バグズ》』」
含み笑いを見せる憤怒P、未だに呆然とするコマンドカース、我関せずと湧き続けるカース。
そんな光景に、突如として乱入した者がいた。
カイ「うわっ、カースが……こんなに……!?」
キバ「やはり、この気配はお前だったか……」
カイと、キバだ。
コマンドカース『ムムッ、アレナルハあびすないと! サテハコノぷらんとヲカギツケタカ!』
憤怒P「ん~? おやおやおやぁ~?」
憤怒Pはキバを見るなり、下品な笑みを顔面いっぱいに浮かべた。
憤怒P「久しぶりじゃあねえの、お互い狭苦しい身体に入っちまったもんだよなぁ、キバちゃんよぉ?」
彼の言葉を受けて、キバは拳を震わせ激昂した。
キバ「貴様が、貴様が何故生きている……答えろ、邪龍ティアマットォ!!」
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蟲の王と名づけられたそれは、鋭い鉤爪を持つ中足で地面を掘り進み、ついに地上へ到達した。
周囲を見渡すと、人影が見える。
三人……それに、人ではないがもう一つ、何かあるようだ。
蟲の王は穴から這い出し、ゆっくりと人影に近づく。
やがて、人影が蟲の王の存在に気付いた。
拓海「……ッ!? 何か来るぞ!」
有香「あ、あれは一体……!?」
星花「……なんと禍々しい……あれも、カースなのでしょうか……!」
精霊の祝福を受けた樹の下で鍛錬を続ける拓海と有香、そして星花とストラディバリ。
蟲の王は、初戦の相手を彼女たちに定めた。
続く
・リクガメ型カース
地下水道に出現した獣型カース。
特殊な磁場で自分より後方への攻撃を全て引き受ける能力と、
足先から泥を広げ相手の機動力を阻害する能力を持つ。
ただし、自分の耐久力を超える攻撃に関しては受けきれずそのまま通してしまう。
・蟲の王《キング・オブ・バグズ》
泰葉の足元から生まれた泥が昆虫図鑑を飲み込み、そこから得た情報で作った新型カース。
4mを越える体躯に《クロカタゾウムシ》の硬い甲皮、《サバクトビバッタ》の脚力、
《メダカハネカクシ》のジェット噴射による高速移動、《ミイデラゴミムシ》の高温ガス噴射、
《オオスズメバチ》の毒針、《オニヤンマ》の複眼、《グンタイアリ》の顎、
《オケラ》の中足、《オオカマキリ》の前足を備えている。
・イベント追加情報
カイとキバがカースプラントにて憤怒Pと遭遇しました。
イレギュラーカース『蟲の王』が出現、拓海達に接触しました。
以上です
某漫画読んでたらどうしてもやりたくなった蟲の王、後悔はしていない。じょうじ
キバ、憤怒P、泰葉、拓海、有香お借りしました。
おつー
憤怒Pをティアマット様と言う事は…このカースは先輩じゃなく憤怒Pに直接つくられたのか
誰かがナウシカごっこをする姿が目に浮かんだ…
乙です
蟲の王強い(確信)
先輩の怒りもどんどん強くなってらっしゃる
じょうじじょうじ
じじょじょ
しじょっ!
乙ー
カイさんがキバさんの犬(意味深)になったって?(難聴)
乙
先輩の力、地味にヤバイな
>>91
ぷちどるがいるぞー!
蟲か……
ミイデラゴミムシの機能は敵にまわるとめんどくさいからな、うん
お借りして
短編三つ投下します。時系列はフィーリングで
@あきはの1 『インストール』
愛海「晶葉ちゃーん?」
晶葉「……なんだ」
愛海「何って、お客さん来るよ? いっしょに接客しよーよー」
晶葉「断る! 私は今回は裏方で作業用ロボを貸出しするだけのはずだったろう!」
愛海「うーん、その予定だったんだけどね」
晶葉「どうして私がそんなこっぱずかしい衣装を着て接客なんてしなければならないんだ! 劇はどうした!」
愛海「劇は劇でやるよ? だけどほら、せっかくだから思い出作り。ねっ? 晶葉ちゃん、ね?」
晶葉「何が『ね』だそんな……おい、やめろっ! 私にそんなフリフリが似合うわけがないだろっ!」
愛海「だいじょーぶ、だいじょーぶっ♪ あたしの目に狂いはないから!」
晶葉「あぁもうっ、やめろ! 助けろ、ロボ……ロボ?」
ロボ『もうしわけありません、博士……』ピピッ
晶葉「な、なんで……ロボまでっ、どうして!?」
愛海「誕生日プレゼントにもらった『お願い聞いてくれる権』使っちゃった☆」テヘペロー
ロボ『行使した場合は多少の無茶でも聞くようにとプログラムされていますからね』ピピッ
晶葉「あぁっ、今改めて自分の頭脳が憎い!」
――――
愛海『いーい、晶葉ちゃんを引っ張り出すにはロボの協力が必要不可欠なんだよ!』
愛海『大丈夫、本当に嫌なら最初から来てなんてくれないからね♪』
愛海『あたしが無理やり着せたって言い訳があれば……おしゃれも遊びも楽しめるでしょ?』
愛海『ついでに……ウヒヒ……あ、いやいや、なんでもないよ? ホントだよ?』
――――
ロボ(やはり、愛海は博士のことをよく知っている……)
ロボ(強制終了させないということは、そういうことなのでしょうか)
晶葉「くそっ……私なんかが着ても面白くもなんともないだろう……?」
愛海「そんなことないよ! 可愛い! すっごく可愛い!」
晶葉「……そ、そうか?」
愛海「うん! ね、ロボ?」
ロボ『とても似合っていますよ、博士』ピピッ
晶葉「……そこまでいうなら、少しだけこのままでも……お、おい待て愛海。なんだこの手は」
愛海「ん? ほら、せっかくだからよそを見て回ろうかなって」
晶葉「こ、こんな恰好で外に出たら死ぬ! 死んでしまう! やめろぉっ!」
愛海「だいじょーぶっ♪ あっ、ロボもいっしょにくる?」
ロボ『作業を安全に終了させるための監督役が必要ですので、もう少しここにいます』ピピッ
愛海「そっか……じゃあ、またあとでね♪」
ロボ『はい。博士も楽しんでください』
晶葉「あぁっ、ロボまで私を裏切るのか!? やだやだやだぁっ! 恥ずかしいじゃないかぁっ!」
愛海「いい表情だよ! うひひひっ、いってきまーす!」
ロボ『いってらっしゃいませ』ピピッ
タッタッタッタ…
ロボ『―――ツンデレ? わかりませんね』ピピッ
@あきはの3 『りあくてぃぶ』
晶葉「ふむ……最近は割と物騒だからなぁ」
藍子「何作ってるの? 晶葉ちゃん」
晶葉「ほら、装着変身ヒーローとかいるだろう? あと、明らかに人間ではない……イワッシャーだったか」
藍子「あ、うん……そうだね……」
晶葉「あれらを見てると思うんだ」
藍子「……」
晶葉「私の影が薄くなってる気がする、と」
藍子「えっ」
晶葉「だって……私は天才ロボ少女だぞ! なのに、機械技術を理解できないままではその名が廃るじゃないか!」
藍子「で、でもほら。技術形態が違う……とか……?」
晶葉「そんなものは言い訳にすぎないっ! 機械生命体だの、金属生命体だの……知らないままじゃ終われないんだ!」
美玲「……いったい何の話なんだよ……」
晶葉「そこでだ、この私の発明した『スーパーアーマーくん』の実験に付き合ってほしい!」
藍子「あ、晶葉ちゃん。危ないんじゃ?」
晶葉「大丈夫だ。理論上は問題ない!」
藍子(あ、すっごく心配……)
晶葉「私の専門は機械の作成だ。乗り込む巨大ロボットを作るには資源が足りない」
晶葉「だからといって、操縦するタイプのロボットも取り回しに問題が出る」
晶葉「ならば! こうして装着型のものを作ってしまえばいい!」
晶葉「……それに、能力があっても人間なんだ。ケガをしたら痛いじゃないか」
藍子「晶葉ちゃん……ありがとう♪」ナデ…
晶葉「別に、私は私にできることをしているに過ぎない。前線になんて立てやしないのだし――」
アーニャ「ニェート。それでも嬉しいですよ、アキハ……スパシーバ♪」
晶葉「あ、あぁもうっ! いいから着るんだ! 爆発はしないから!」
藍子「うん、わかった」
晶葉「アーニャも、ついでにそっちにいる美玲も!」
美玲「えっ、ウチ!?」
藍子「……あ、結構動きやすい」
晶葉「当然じゃないか。動きを阻害していては鎧の意味がないからな」
アーニャ「どういう効果があるんですか……?」
晶葉「まだ兵装を付けられる段階じゃない。だから私にできる範囲でいろいろ仕込んでみた」
美玲「……結構、カッコイイかも………」
晶葉「ふふん、当然だ! 私の発明だからな!」
藍子「それで、できることって?」
晶葉「それはだな……喰らえ、スーパー豆鉄砲α!」ジャキンッ!
アーニャ「……!?」
晶葉「ファイアー!」
バババババ… ガキンッ!
美玲「……あ、れ? 痛くない」
晶葉「その鎧が壁になる。どんな衝撃だろうと吸収し、反射するんだ」
美玲「なるほど、スゴ……あっ」
晶葉「………ただ、だな」
ボロッ…
藍子「……鎧がすぐボロボロになっちゃうんだね」
晶葉「そうなんだ。一撃しか避けられない……衝撃を吸収して、炸裂する。そこに一点を集中しすぎたきらいがある」
美玲「ふーん、そうなのか……あと、コレ。なんか……ハズかしいぞ……?」
晶葉「炸裂した装甲は、まぁ……下に衝撃を残さないために吹き飛ぶからな……」
アーニャ「アー……セクシーですか?」
藍子「確かにすごいけど、こんなところ男の人には――」
ガチャッ
ピィ「ただい――うわぁっ!?」
藍子「……きゃあああぁっ!?」
美玲「へ、ヘンタイ!」
ピィ「ご、ごめん! でもみんないったい何があったんだ!?」
アーニャ「………フラグカイシュー、ですね?」
晶葉「……いや、本当にすまなかった」
この後、保護者からのクレームもあり流石の晶葉も衝撃を吸収する服の開発は流石にやめたとか
この鎧の考案者は、愛海だったらしいとか、なんとか
愛海「――いやね、実用化したらアイドルヒーローたちに支給したらとか考えてませんよ? ホントだよ?」
周子「ふぅん……?」
愛海「ごめんなさい」
@あきはの3 『謎の邂逅』
ロボ『おつかいリストの商品をください』ピピッ
店員「はいはい、いつもお疲れ様」
ロボ『いえ。それでは帰ります――』ピピピッ
カシュンッ ゴゴゴゴゴゴ… ボウッ!
ロボ『急いで帰らなければ……』ピピッ
マシン「これでマムの朝食のスクランブルエッグは確保でき――」
ゴチーンッ!
マシン「生体反応無し――異常検知。戦闘モードに――」
ロボ『何奴ッ!』ピピピッ
マシン「………む?」
ロボ『……ロボット?』ピピッ
マシン「……人類種によって作られたものですか?」
ロボ『貴方は何者ですか? 異質な雰囲気を纏っていますが』ピピッ
マシン「私はマムの手によってつくられたマシン……そういうことです」
ロボ『理解不能……?』ピピッ
マシン「――名などモノを物と定める記号。マムの子であるということ以外に、私に必要な情報などない」
ロボ『思考形態が私のものとは異なっているようですね。理解不能です』ピピッ
マシン「理解できないならば、仕方ないのでしょう。宇宙レベルたるマムから生まれた私もまた宇宙レベルなのだから」
ロボ『しかし、博士以外にここまでのものが作れる人間がいたとは……驚きです』ピピッ
マシン「人間? 愚かですね」
ロボ『では、あなたは何なのですか?』ピピッ
マシン「私はマム――『宇宙レベル』の――」
ピピピピッ ピピピピッ
マシン「……時間切れですか。急がねばマムの夕食に間に合いませんね」
ロボ『……食材ですか?』ピピッ
マシン「えぇ、マムには常に最高の料理をふるまわねばなりませんから」
ロボ『あなたも製作者には恵まれているようですね』ピピッ
マシン「当然でしょう。マムに並び立つものなどこの宇宙の存在そのものぐらいなのですから」
ロボ『私の博士はもっと静かで、しかし愛らしい方ですがね』ピピピッ
マシン「ほう……」
ロボ『――』ピピッ
晶葉「……パーツが届かないから新しい機械が完成しない」
愛海「まあまあ、ご飯食べて待ってようよ。はいあーん」
晶葉「あーん……ってばかもの! 私は子供じゃないんだぞっ!」
愛海「晶葉ちゃんのロボだもん、きっとお宝映像とか撮ってるんだよ。ね?」
晶葉「む……別に、そういう心配をしているわけでは……」
――――――――――――――――――――――――――
ヘレン「フッ………」
グゥゥゥ…
ヘレン「これが飢えるということ……なるほど、空虚な心は、穴を埋めたがるものね……」
マシン「つまり、マムが宇宙レベルであることは確定的に明らかであり――」
ロボ『博士は良き友人にも恵まれ、仲間も多くいます。仲間の素晴らしさというものは――』ピピピピ…
この後、日が沈みきってからようやく気が付きそれぞれ家に帰ったという。
――ロボは愛海の膝枕で眠る晶葉を、マシンは鉄材を齧るヘレンを目撃したとか、しないとか。
とりあえずのキャラ短編(仮)
試運転で博士とロボ、愛海、『プロダクション』をお借りしました
こんな感じで誰かの短編を数本書いていきますねー
あと、書いてから番号振り替えたから>>98は「あきはの2」です、はい
乙です
ほのぼのはやっぱりいいものだ…博士かわいい
マシンとロボの製作者愛がバリバリ伝わってきました
鉄材かじっちゃうヘレンさんマジ宇宙レベル
乙ー
ほのぼのいいなー
そして、ヘレンさんww
おつー
博士は可愛いし、師匠はいつも通り
そして『プロダクション』使ってもらってありがとうございますー
妖怪食っちゃ寝艦娘「鉄材よりもボーキサイトの方が美味しいです」
投下します
文化祭、カースの雨事件を別視点でどうぞ
一日目、ハリケーンガールズのライブステージは無事に大盛況で終わった。日はもう傾いていて、人々は帰っていく。
4人は今、ライブステージで今日しか出ないグループの小道具の片づけ等を手伝っている。
基本的には雨の時等は出しっぱなしにできない椅子の片づけをしたりだ。スタッフもいるが、手伝いはステージに参加した団体が自ら行っていた。
会場中央の撮影用カメラのセットされる場所の柵を片づけようとしたその時、迎えに来たあずきたちがやって来た。
「涼さーん!かっこよかったよー!」
「お疲れ様です!すごい演奏でしたね…!」
「仁奈もすげーと思いましたですよ!」
それぞれ同時に喋り出す。
「あはは、そう言って貰えると感謝感謝って感じ!」
ケイがそう言って笑うと、あずきがふと疑問を口にする。
「ミラさんは結構人が違ったよね…あたしびっくりしちゃった!なんで?」
「えっ、あ…そのーわからないんだよね…テンションが上がっちゃって…」
「開幕から『お前らー!盛り上がっていくぜー!!!』だから…いつもよりテンション高めだったわね」
「マーサ、恥ずかしいから盛り返さないでー!」
その時だった。ぽつり、ぽつりと水滴のようなものが落ちてきたのだ。
「ん、雨?」
会場は天井が開けたスタジアムホール。閉める事も可能だが今日は天気も良いので開いていた。…しかし空を見上げても雨雲らしきものは見えなかった。
「…みんな逃げるですよ!」
「これ…雨みたいですけど生きた呪い…えっと、カースでしゅ!……噛んじゃった」
そう言った類に敏感な二人が周囲に警戒と逃走を促す。
そう言っているうちに、どんどん水滴は雨となり、水たまりから核が生まれカースと化す。
『オンナダ!オンナガイルゾ!』『ホシイホシイホスィ!』『パットマッテガットヤッテヤルウウウ!!』
「うわあああああ!?」「くそ、なんなんだよこれ!」「マーマ、助けて!!」「誰か救援連絡を!!」「急げ、ドームを閉めろー!」
会場はパニックになる。それぞれが片づけを放棄して非常口へと駆けだした。
この雨が広範囲でカースになっているなら、救援も遅くなるだろうし、ドームを閉めにスタッフが駆けて行ったが閉まるのにはまだ時間がかかるだろう。
「…うそ、囲まれちゃった!?」
こちらも避難したいが…カースがジャマだった。しかも中央付近にいたのが原因で、彼女達だけ綺麗に囲まれ、孤立する構図になってしまったのだ。
「…みんなを襲うのはゆるさねーですよ!」
仁奈が逃げ惑う人々から厄を奪い、その厄をカースへ流しこむ。
逃げ惑う人々から触手や腕に捕まったり殴られる『不運』は無くなり、カースは連携がうまく取れないのか、別のカースの攻撃を受けたりしていた。
…仁奈が厄として奪えるのはあくまでも『不運』。不幸な運命と幸福な運命を持つ者から、不幸な運命のエネルギーを奪う。
そしてそのエネルギーで別の者に不運な運命を与えるのだ。
だから不幸な運命しか持たない者は救えないし、戦闘となればそこは運ではなく実力の世界。そこには仁奈が奪える不幸は少ない。
それでも多くの無能力者達を逃がすには十分だった。
「あずきも行くよー!涼さん、眠り草返すね!」
そしてこちらはまず囲まれている状況を何とかしなくてはならない。
あずきが背負っていた眠り草入りの袋を返す。
「使わないのか?」
「自衛に使って!守れる自信ないから…!」
「…わかった」
その返事を聞くと、すぐに戦闘を開始した。妖力の腕でカースを殴り潰し、裁ち鋏で切断していく。
「私も…鬼魔駆逐 急々如律令!」
歌鈴も取り出した折り鶴の式神に炎を纏わせ、カースを攻撃しながらも錯乱させている。
「こ、こんなことなら破魔矢を持ってくるべきでしたぁ!」
弓と矢が無ければ核を貫く程の攻撃は難しい。泣きごとを言いながらもとにかく撹乱に努めていた。
しかし、依然としてカースは湧き続ける。無能力者を数名庇いながらの戦闘というのも戦闘慣れしていない彼女達には荷が重かった。
仁奈の力はどんどん発動する機会を失い、式神に錯乱されたカースをあずきが潰し続けても終わりが見えない。
「…」
涼は庇われながら…その3人を見て、静かに眠り草を袋から取り出す。
「リョウ…戦うの?」
マーサがライブ前のように緊張しながらも何かを決意しているような表情を見てすぐに反応した。
ハリケーンガールズのメンバーも、涼が自分の力を恐れ、戦闘を好まない能力者だということを知っている。
だからこそ、その決心した表情にどこか危うさを感じてしまう。
「…アタシだって戦える。一人でも多いほうがいいに決まっているだろ?」
右腕に付けていた和柄のシュシュが眠り草に反応し、そこに秘められていたあずきの妖力と負のエネルギーが混ざり合う。
「…本気なんだね」
「ああ」
ミラの問いに頷く彼女は、もう誰の言葉を聞いても止まらないだろう。
「じゃあ約束して。…無茶だけはしないってさ!」
「わかった…いいか、アタシが道を切り開く。そしたら…」
「…アタシは二人と一緒に全力ダッシュ。オッケー把握した!出来なかったら承知しないから!」
ケイはあくまで明るく、涼を後押しした。
涼は静かに眠り草を鞘から抜く。
その瞬間、妖力と混じりあう、気を抜けば溶けてしまいそうなほどの『怠惰』のエネルギーが彼女の戦闘意思を止めようとする。
「…ああ、そこまで戦いたくないのか。だけどな…」
だが彼女は止まらない。止められない。
感覚で負のエネルギーを眠り草に押し返せば、そのエネルギーは刀に纏われ、暗い緑色のオーラを纏う妖刀と化した。
「『戦いたくない』…そんな事…今のアタシは思っていない」
使われることでさらに怠惰な感情を刀自らが生み出し、それが渦巻くオーラとなっていく。
彼の言葉が聞こえていれば『働きたくないでござる!』とでも言っていたのだろうか。
「そんなに嫌ならさっさと終わらせればいい。それで利害一致だからな」
轟々と渦巻いていたオーラが、穏やかな波のように治まっていく。初めて、眠り草が手になじんだように感じた。
怠惰に見せられるではなく、怠惰を乗りこなしたその瞬間、彼女は真の意味で眠り草の使い手となった。
刀の力によって、周囲の心の声が聞こえる。恐怖や困惑という雑然とした声の中に、確かに自分を信頼する声を聴いた。
そしてそれらの声が抑えられ、強く眠り草の声が脳内に響く。
『…聞こえるでござるか?…人徳があって羨ましいでござるなー』
(なんだよ、お前の声まで聞こえるのかよ…)
『然り、言うならばリンクした状態でござるからな。…緑だけに。フヘヘ。本来ならここで拙者の声と感動の初遭遇なんでござるが…まあいいや』
(おい)
『ふぅ…冗談はさておき、戦う決心をしたなら…拙者はそれに乗っかるだけでござる。抵抗するのも疲れる故。まぁ…拙者に妖力と負のエネルギーはおまかせあれー』
(…信頼していいのか?)
『…ふふーん、怠惰・イズ・ストロング!拙者は普段本気出してないだけ!涼殿にピッタリの強化を今思いついたでござるー!』
その声と同時に右腕に刀と同じ緑色のオーラが纏われる。そして腕が冷えていくような感覚が伴ってきた。
(っ!?何が、起きて…)
涼の思考を置き去りにして、力は働く。
黒い和服の広袖の様な形をオーラが作り出し、右腕だけ和服と言うアンバランスな姿になる。
『拙者の本髄、とくとご覧あれ。やっぱり長いものには巻かれたほうが楽!そんでもって力を利用するなら割と楽に強化できちゃう!わぉ!』
緑色の…植物の葉、または包帯の様なオーラが、右手と眠り草をがっちり結ぶ。
それは怠惰の負のエネルギーによって、付喪神の妖力を利用して彼女の能力を最大限に戦闘に生かすために起こした呪詛。
『ささ、能力使ってさっさと終わらせるでござる!今、怠惰を操る汝の腕は…妖力と負のエネルギーを受け、『物』と化したのでござるから!』
「今どんなことになったか、理解はしたけど…よく、分かんない力だなっ!!」
『拙涼殿は慣れなのか肉体が付喪神の妖力に適応していてたので…上手くいけば超強化でござるから、オマケでやっちゃった★』
(…上手くいけば?)
『あっ…せせせ拙者、オ、オーラの刃でビームサーベル見たいな感じにできるでござるよ!』
(今は気にしないでおいてやるよ…じゃあ、行こうか)
戸惑いつつも、涼は能力を込めた言葉を発する。
「『邪魔なカース、全て消す!』」
腕にかけた能力は彼女自身に適応され…彼女は自らを操り、自らに操られ…カースを切り裂いた。
風に乗ったように自在に宙を舞い、彼女の言葉は物を動かし呪いを貫く。
涼の体を動かすのは、涼の意思で操作する涼の能力であって涼ではない。奇妙な感覚を覚えながらも、自らの意思で彼女は刀を振るう。
刀を振るえばそのオーラの分まで刃が伸びたように、遠くのカースまで届いて切り裂く。
眠り草とリンクした影響なのか、核の位置はなんとなく感じ取れる。ただそこをオーラの刃で貫き、切り裂いていく。
『イ、イギュア!?』
『コワレルウウウウ!?』
涼の猛攻のおかげか、少しづつカースに切れ目が見えてきた。
その様子に気づいたあずきは、涼の姿に驚いてしまう。
「あ、あれ!?涼さん何それ!?」
「話は後で!それより今はみんなを避難させるのが先だ!仁奈!歌鈴!二人はメンバーを頼む!」
「仁奈にまかせるですよ!」
「任せてください!」
涼はあずきの真横に立ち、刀を構えなおす。
「あずき、切り開くぞ!」
「わかった!じゃあサポートはまかせて!!」
あずきも妖力でできた大きな裁ち鋏を二枚の刃に分解して双剣のように構える。
…一呼吸おいて、涼がアクションを起こした。
「はあああっ!!」
『ゴゲゲゲゲェ!?』
鞘には入れていないが抜刀するように振りぬけば、オーラの刃が広範囲のカースを真っ二つにする。
やっと囲まれていた四方に、非常口への道が生まれる。
「涼、ありがと!今のうちに逃げるよっ!!」
それを合図に仁奈と歌鈴、そしてハリケーンガールズのメンバーが走り出した。
『マダダ、オレハ…キグルミロリ…ソシテキョニュウヲ…アキラメナイ!!』
『シンゾウヲササゲタマエ!ココロモオカネモササゲテイイノダヨ!』
「あずき!」
「わかってるよっ!」
その道を塞ごうと、両側から迫るカース。それをあずきと涼が切り捨てていく。
「き、きゅ、急々如律令!」「もう、どっかいきやがれー!」
走りながらも歌鈴が式神を操作して援護し、ケイにおんぶされている仁奈も最低限のサポートを行う。
「カースを間近で見られる…ふむ、これはこれで…」
「ミラ、わけわかんない事言ってないでさっさと走って!」
「…これでも…全力疾走なのよ」
「それは知ってるけどっ!!」
あと少しだというのに他より走るスピードが遅いミラが若干遅れる。そこに不意を突いた形で触手が襲い掛かってきた。
それは仁奈にも変えられない運命じみた不幸で、一同は足を止めてしまう。
「…!」
『ツカマエタゼエエエ!!ゴウホウクロカミロリィー!!!』
「…ごめん、私はいいからみんな逃げて」
「ミラッ!!」
足を掴まれ、宙吊りにされながらもミラは逃走を促す。
捕まった彼女に向かって、他のカース達も群がってくる。少女としてこれほど絶望する状況は他にないだろう。
群がるカースがジャマをしてミラを捕えたカースに攻撃さえ届かない。しかし安易に遠距離攻撃を撃てばミラも巻き込まれる。
「…いいから、これは色欲なんだし、死にはしないわ。…多分」
「お前、その意味わかってるのかよっ!!」
「悪いのは私…いいのよ。カースに、この世の不思議に、世界の神秘に犯されるなら…構わないわ」
あくまでもポーカーフェイスを崩さずに真顔で言う。神秘を愛し、不可思議に憧れる彼女は、やはりどこか他人とずれていた。
「…ミラ、お前本当にわけわかんないな!!」
そのツッコミは涼の心の底からの叫びだった。
『グヘヘ!グフ、グヒャヒャ!!オカシテヤルゼェ!…オカ、シ…アレ?』
今まさにミラの服を脱がせようと触手が蠢くが…カースの様子がおかしくなった。
『レイ…メガネ…プ…キラ…ケス』
「…なにこれ」
その現象が起きていたはその色欲のカースだけではなかった。
他のカースも呻き、動きを止める。
『メガネハ…テキダ』
『コノヨカラ…メガネヲケサネバナラン』
「…わけわかんねーですね」
「と、とにかく今のうちにミラを!!」
涼が動きを止めたミラを拘束していたカースの触手を切り裂き、ミラをあずきが回収する。
「…ありがとう」
宙吊りになっていたからか、顔を赤くしながらミラは礼を言った。
まだカースは呻き続けている。このチャンスを逃すまいと、全員非常口へ逃げ込んだ。
扉を閉め、鍵をかける。チラリと見ればまだ動きは止まっていた。
涼が眠り草を鞘に納め安堵のため息を吐くと、腕は元の人の腕に戻っていく。が、少し中途半端だ。まだリンクは途絶えてない。
『…涼殿!ここからは意識的に拙者を媒介として体から妖力を吐くでござる。ほれほれ体から冷たいものを追い出すイメージをして!』
「こうか…?」
涼がイメージすると、腕に体温が戻ってくる感覚を覚えた。
彼女の中に残る妖力が眠り草に送り込まれ、浄化の鞘で浄化されていく。
眠り草の声が聞こえなくなるのを認識して、やっと腕に正常な感覚が戻ってきた。
「リョウ、ありがと…でも本当にゴメン!あたし達何もできなかった…」
「気にするなよ、アタシだってミラを守れなかった。あのラッキーが無かったら…アタシ…」
「気にしないでよリョウ、私がちょっと遅れたのが悪いんだから」
「でも、あずきももう少しうまく動けたらあんなことにならないで済んだかもしれない…。だから謝らせて!ごめんなさいっ!」
「だ、だったら私も破魔矢を持ってこなかったんです!ごめんなさいっ!」
「仁奈もあまり役に立たなかったですよ、ごめんなさい…」
「あ、あたしも…」
もはや謝罪大会だ。みんなが一通り謝った所で、何故か笑ってしまった。
「というかミラ!あの発言は乙女としてどうなのよ!!」
「え、なんか不味かった?」
「自覚ないんだ…」
雨が止んだ知らせが来るまで、暫くそうやって過ごした。
『…メガネハイジョー』
『メガネキラーイ』
その頃、スタジアムホール発生したカースは、紛れ込んでいたアンチメガネカースによって全てアンチメガネカースと化した。
カースの時よりも若干小柄になっているが、それでもこの数は思わずメガネをはずしてしまうほどの威圧感があった。
『メガネハイジョセヨ!』
『オオオオオ!!』
最初の小さな個体が体を震わせると、全てのアンチメガネカースはバラバラに散って行った。
それは雨の騒動に紛れ、殆どの人の目に着くことはなかったらしい。
…不自然なほどに。
「あは、黒の奴もくだらないけど面白い事をしてるじゃん?…本当に馬鹿のすることだけど」
「カースの雨…ね、あはは…役に立ちそうだし覚えておこうっと。もう雨は食べたから『覚えた』し」
「アタシは馬鹿どもとは違うんだ。誰よりも…少なくとも学習能力はな」
不気味な白い影は赤い瞳をぎらぎら光らせて笑った。
所々に雨のカースの被害者だろうか、血の甘い香りが漂う。
その香りを強く感じ取る場所…禿げてしまった山の中で首がない男の死体を見つけると、泥で捕食しながら憎々しげに言葉を吐く。
「ああ、世界はなんて―――…」
…だが、その言葉は最後まで空気を震わせることはなかった。
「…電気能力の人間か、さすがに魂はもうないようだし、脳をとられたから記憶もないか」
その捕食した対象の情報を『理解』していく。死体であろうが体が覚えていればそれはもう彼女の物。
「…でも『覚えた』。…電波も介入可能か。ふぅん…人間の癖に電子化もできるのか。ちょっと練習しないと無理だなコレ」
死体が覚えている能力を、体に刻み込んでいく。
「…まぁもうこれはアタシだけのものなんだけどな。あはは、ラッキー!」
ニタリと笑うと白兎はふわりと跳ねる。
ぴょこぴょこぴょこん。
「さて、流石に今日の所は教会に帰ろう。もう行かないとな」
白い鳥に姿を変え、彼女は教会へ飛んでいった。
眠り草(戦闘モード)
使い手の心と眠り草がリンクして、彼の声が聞こえるようになる。ウザい。
負のエネルギーによって使い手の能力を強化することがもう一つの能力。よって使い手に強弱が左右される。
負のエネルギーをオーラとして纏い、オーラを刃として切り裂ける。なのでリーチが見た目よりはるかに長い。
怠惰故に、戦闘が長引く程オーラは短くなっていく。短期戦にした方がいいだろう。
松永涼(半付喪神形態)
眠り草によってシュシュの妖力と負のエネルギーによる一種の呪詛を埋め込まれた状態。
片腕がまるで黒い着物の袖のような見た目になる。
彼女の能力が彼女自身に使えるようになり、物理法則等を無視した動きを可能とする。
イベント情報
・涼さんが覚醒しました
・アンチメガネカースが増えたよ!もう容赦なく切り捨ててもいいと思うよ!
・白兎が電気能力の人の残りの死体を食べました。ちょっと物足りなかったけどおいしかったそうです。
以上です
涼さんの戦闘をもっとかっこよく書きたい(願望)
ゴメンね電気の人…利用するものはする、それが白兎なんだから仕方ないね
乙ー
加蓮「ライブに間に合わなかった……」
それもこれもアンチメガネカースのせいか(違う
そして、白兎がヤバイ……これは倒せるのか?
>>128
ナニカ「時間歪めたりまた翌日来れば大丈夫だよお姉ちゃん…」
>>129
加蓮「!?」
その手があったか!
ぎゃああああ
今みたら思いっきり誤字ったあああああ
オリキャラとしてもこれは許されないぞ(白目)
ミラ→マーサでよろしくおねがいします…
名前をミスったなら、ケジメSSを書かざるを得ない
時間軸は上の話の前です
ハリケーンガールズのドラム担当、マーサこと根間真麻は、実に変人だった。
頭脳明晰、小柄で少し運動が苦手、天然気味な面もあり、好きな音楽は主にロック。
…それだけならまだいい。彼女はオカルトマニアだった。それも魔術や霊を好むのではなく、筋金入りの妖怪・モンスター・UMA好きだった。
「実態があるならば、この世に存在するならば…仲良くなって友人に、あわよくば恋人になれるでしょ?みんな生命の神秘、この宇宙の神秘なのよ」
そう言う彼女を変人と言わずにどういえばいいのだろうか。
小柄で黒髪で実はそれなりにグラマーではあるのだが、あまりにも『残念』すぎるので、男は寄ってこない。本人もそれでいいと思っているが。
子供のころからそう言った類の本ばかり読み、天体望遠鏡で星を眺めるのが好きだった。神秘と言う言葉が好きだった。次に好きな言葉はロマンだ。
ロックは両親が好きだった影響で好きになった。彼女も幼い頃から歌詞の意味も分からずにCDに合わせて空き缶を叩くのが好きだった。
ドラムの練習を始めたのも、その様子をみた両親がちょっと調子にのったのがそもそもの始まりだった。
さて…世界中が混沌に満ちたのは何時の事だっただろうか。世界中に今まで出会いたいと思っていた妖怪やモンスターが現れたのは。
時間は戻って、彼女達はとあるコスプレ喫茶で飲み物を飲んでいた。
「はぁ…神様ってロマンがないわ、私に超能力があれば世界中を旅してみんなと友達になりに行くのに」
横の席のケイの猫耳に手を伸ばしながら、マーサは溜息を吐く。
「アンタねぇ、超能力に目覚めても『水をお湯にする』程度だったらどうするのよ。運動苦手なくせに」
「なんだろー、その能力…割と便利じゃない?」
「…確かに、体液沸騰とかできたら強いわね」
「一気に物騒になったな…まぁマーサの言う事をやるには不便だろうけど」
「むぅ…」
そんな会話を聞くと彼女はココアを飲んだ。
人でありながら獣である獣人。それも彼女的には神秘の一つだった。友人も獣人で、話を聞けば世界が変わる前は耳などは隠して過ごしていたらしい。
「改めて思ったけど、マーサって意外に行動派だよねぇ…」
そう言うミラ、彼女も羊の獣人と人間のハーフだ。
涼も超能力者だし、自分だけ割と普通ではないかと彼女は思っている。
(あまり興味はなかったけど、魔術の練習でもしようかしら…)
世界は今、宇宙人のUFOは毎日のようにどこかでは目撃され、悪魔や妖怪が人に紛れ、奇妙な生物がひょっこり暮らしている。
カースという世界が変わってから生まれた謎の存在、どこかで聞く『世界は海に沈む話』。実に興味深い。
隠れていた神秘が溢れかえっている。それでも未だに謎を残すモノも多い。
それはやっぱり都市伝説だったり、オカルト類だったり、UMAだったりするのだが。
「みー!」
窓の外を見ると、黒い服を着た小さな人形のような妖精のような生物が外を飛んでいた。
世界はやっぱり楽しい。少しだけ笑うとマーサは再びココアを口にした。
以上、ケジメSSでした
名前ミスは許されんよ…(白目)
マーサが当初の予定以上に濃いキャラになった気がするけど気にしないで行こう
乙ー
間違えは誰にだってありますよ
それにしてもハリケーンガールズの面々はキャラがたってていいな
乙ー
ついに涼さんもバトルモードを得たか……
炎の鎌か鋼のトビウオがそっち行くかもしれませんよ(ニッコリ)
名前ミス……櫂の誕生日……うっ、頭が……
連続投稿になっちゃうけど投下スルヨー
死神は、神様に使える農夫。魂を刈り取って世界を循環させる。
母親のお腹から生まれるわけじゃない。卵から生まれるわけじゃない。
神様が選んだ魂に、黒い衣と鎌と死神としての姿を与えられた存在。
選ぶ基準?分からないけど…前世が悪人だとか、善人だとか、そういうのは多分関係ないんじゃない?
ただ、誰の祝福も受けずにいつの間にか死神の塔の中で生まれている。与えられる名前も単純なモノ。
その名前は死神の名簿にいつの間にか記されている。生まれる瞬間を誰かが目撃したわけでもないのに。
お母さんも、お父さんもいない。誰もその名を呼ばない。
『名』は存在を確立させる。姿と心を結びつける。
だから、死神は冷酷だと…たまに話に聞くんだ。信憑性は知らないけど。
もちろん、明るい死神もいる。それは生まれながらの性格だったり、転生が上手くいかずに前世の影響が残った魂だったり…?
でも、自分は…からっぽだったと思う。ただひたすら、皆と同じことをして、皆と同じようにいつの間にか消えると思って生きていた。
『先輩』『後輩』『上司』『部下』…それだけで成り立つ関係。友達なんていないし、名前よりも関係や仕事名や役職名で呼ばれるような…
名前は呼ばれるものじゃない。それが当たり前で、これからも変わることなくそうだと思っていた。
口数少なく、しっかり仕事をこなし、魔術も覚えて、ただひたすら静かに生きていた。
あの日、名を呼ばれるまでは。
その日もいつもと同じように魂を刈り取っていた。一段落して魔界へ帰ろうとした時だった。
魔界へつながるゲートの向こう側から…『ユズ』と、雪が舞う夜の寒空の中…呼ぶ声がした。
一瞬、誰を呼んだのかわからず、それが自分と気付いたのはワンテンポ遅れて。
そしてその遅れた思考を置き去りにして、ゲートの向こうから一筋の光が飛び込み、手に収まっていたのは杖だった。
輝く水晶の中を雪のように舞う星の光に、瞳を奪われた。
「…綺麗」
それが、自分の初めて自分の意思で、自分から能動的に発した言葉だったと思う。
世界が塗り替えられる感覚が、頭の中でスパークして弾ける。
意味がある空気の振動でしかなかった言葉を、音を、初めて感情を伴って理解した気がした。
灰色だった世界に輝くような色が加わった気がした。
これが、『ユズ』の生まれた日なのだろう。少なくとも自分はそう信じている。
この『ユズ』が選ばれた日。死神から魔力管理人になった日。それがアタシの誕生日。
「ん…う~ん…あ、寝てたのかぁ…って、汚い!」
目覚めたのは塔3階。机に本やメモを散乱させたまま眠っていたことに気付いて慌てて綺麗に片づける。誰かが来るわけでもないのだけれど、やっぱり綺麗な方がいい。
「はぁ…」
魔術開発は相変わらず進展がない。自分としては『アレ』を完成させたいけど…まだ初期段階。
サタン様と戦った時の…あの、呪文も無く、ただ『負けたくない』気持ちだけで生み出した結界。
凍てつかせる雪の様な光が降り注ぐ、誰も知らない魔術。
あれこそアタシの魔術。そう、信じている。雪がアタシに味方してくれたあの魔術…あれはどうしても完成させたかった。
アタシは雪が好き。夜が好き。生まれた日の事を思い出すから。
大罪の悪魔たちは姿すら見かけない。力を蓄えているのだろうか、何か企んでいるのだろうか…。
嫉妬・強欲・色欲…その大罪相手に、アタシは勝たなくてはならない。
切り札として用意してある…体に刻んだ魔術を完全に制御し展開する『無詠唱魔術』…あれもまだ練習中だ。
どんな相手が来ても、どんなに強くても…アタシはアイツらの魂を狩りとる。姫様も守る。…絶対に。サタン様の依頼なのだから。
「みみ~」
下の階から前回の実験の試験体の一体、ぷちユズメイドがアタシが起きた気配を察したのか来てくれた。
「あ、おはよー…眠気覚ましくれる?」
「み!」
すぐに二階へ飛んでいくと、常備してある釜から赤い液体をマグカップに注いでくれた。
その赤さに似合わない無臭が異常ではあるのだけれど、この液体の効能を身をもって知っているから飲んでしまう。
「…うん、久々に飲むと…舌が悲鳴を上げる不味さだよ」
これは人間界で言うスタミナドリンクとかエナジードリンクとか、そんな感じの魔法薬。
薬草、花の蜜、純粋な水、新鮮な牛の血、毒草数種、毒キノコ数種…それらを上手く調合すると、毒草や毒キノコの毒がいい感じに変化して薬になる…らしい。
味は不味いけど…何故か無臭。最初に作った薬屋はどうしてコレを生み出せたのカナ…?
でも意識はバリバリ覚醒する。眠気が吹き飛ぶ。体に力がみなぎる。
「さて、今日はいつもより張り切って行きますか!」
世界の狭間から、人間界へ。
空を飛びながら、登り始めた朝日に目をちらりとやる。…ユズの朝は、早い。
オレンジ色の空を横切って、神崎家にたどり着く。
窓の鍵を内側に待機させているぷちユズに開けてもらえば、簡単に神崎家がアタシに貸してくれた部屋に入れる。
けど、ベッドから二つの影が…!
「ユズ!お前は早すぎる…!明けの黄昏とほぼ同時とは何事だ…」
…姫様と蘭子様だった。眠そうな目をしながら…ずっと待っていたのかな。
「ふぁ…あ、おはようございますユズさん…ほら、一緒に…!」
「うむ」
「「ハッピーバースデー!」」
「姫様、蘭子様…!!」
差し出されたのは小さな箱。
「ユズさん、いつも夜はこっそり抜け出して、朝になると帰ってくるから…昼子ちゃん、こうすればいいって」
「なっ……く、ククク…一番目に祝うのは我だ!父上等よりも早く!」
「もう、姫様ったら…城じゃこんな事しなかったのに…あはは、本当にありがとう…ございます」
「なっ…それはユズが誕生日を言わぬから…!」
「人間界くらいですよ、書類に誕生日が必要なのって」
「あ、やっぱりそうなんですかー」
照れ隠しをする姫様の成長が教育係として嬉しくて…あの人の優しさを思い出して。
呪いを受けているサタン様。最近は大罪も狩って無いから…気まずくてあまり会いたくないけど…今日は会ってもいいのかな、そう思ってしまう。
「ユズ。…ちょっと立っていろ」
意識がそれた間に顔の赤みが薄れた姫様が、神妙な顔付きでアタシの目の前に立った。
…そういえば身長同じだったっけ。…真っ赤で綺麗な瞳が、アタシを見つめる。
「…時が授ける運命の小箱を開けよ。このサタンの娘…・悪姫ブリュンヒルデが祝福してやろう」
いつもより言葉遣いを意識していて、まるで儀式の様だ。
蘭子様を見ると…邪魔しないようにか、少し下がっていた。
言われるがままに小箱を開ける。中に入っていたのは小さな金と銀の翼の飾りがついたネックレス。
「我が友であり、我が師である魔術管理人ユズよ。この翼は我らが祈りを込めた物…汝に幸運と安らぎと成功があらんことを…」
小箱からそれを取り出し、ゆっくりと首の後ろに手をまわして、ネックレスを付けようとする。
緊張しているのが指の震えでよく分かる。
……
「…クッ」
…時間かかりすぎです姫様。ちょっとイラってしてますよね?
…ちょっと不安になったけど、姫様はちゃんとネックレスをつけてくれた。
「ふぅ…これで、よし」
「よかったーちゃんと付けれた…」
「余計な事を言うな…!」
そりゃ蘭子様もホッとするよね、あれちょっと不安になるよね…
首から下げられているネックレス。確かに二人の魔力を感じ取ることが出来た。…なんだか、あたたかい。
「姫様、アタシ、本当にうれしい…」
「ユズ、これからも…我と、蘭子と共に」
「…はい」
「…世界征服!その為に我の世界を征服しようとする輩を全て退治せねばなるまい!…勝手な願いだがそれまで、我が教書となってくれるか?」
…まだ世界征服諦めてないんですか姫様。
でも、よく考えれば…その言葉は『人間界を姫様が手に入れるまで侵略者から守るから教育係でいろ』という意味…なんだよね?
「仰せのままに、ブリュンヒルデ様。全ては我が主とその血族の為に」
儀式でも契約でもなんでもない、ただの口約束。でもアタシ、そして姫様達には意味のある約束。
「…ずっと一緒。貴方が立派になっても…でしょう?」
薄暗い部屋、登る朝日。
アタシが生まれた日は、約束の日にもなった。
「ふぁ…ゲフンゲフン…」
そこで、ほっとしたのか姫様が欠伸をする。
「眠いね、さすがに…」
「あはは、慣れない事するから…ほらお二人ともお部屋に戻って寝ないと…。月曜日ですよ?」
「やーめーろー!月の日がこれほど忌々しいとは思ってなかった!」
二人を部屋に戻して、ネックレスを改めて見てみる。
マジックアイテムでもなんでもないネックレスは、二人の祈りが込められた翼。
似合ってるカナ、なんて鏡を見る。
雪は降っていないけど…今日はいつもより素敵な日になりそう。
…そう思ってもいいよね?
以上です
柚ー!誕生日おめでとー!
誕生日のセリフが愛らしいぞー!
・二翼のネックレス
蘭子と昼子がお金を貯めて買ったネックレス。マジックアイテムではないが二人の祈りが込められている。
金と銀の翼は、それぞれ幸運と安らぎを意味するらしい。
乙ー
柚ちゃん誕生日おめでとう!
柚ちゃんおめでとー
未央「私の誕生日過ぎたんだけど…」
黒川さん「出番無しよりはマシでしょ?」
学ぶべき教訓は
風呂敷がたためなくなるんだから、あまりスケールの大きい話を一人で展開するべきではないということ
はい、超絶遅くなりましたが『普通力』戦終わらせます
色々とマジ申し訳なかったの
前回までのあらすじ
1.夏休みが明けた最初の日、
学校に到着した美穂を待ち受けていたのは『普通』ではない異常事態。
美穂のクラスは変わっていて、友人関係がリセットされていた。
お昼になって学校が終わると、美穂はすぐに帰路についた友人達を追うが
途中に様々な障害があり、『小春日和』の力を借りてそれらを跳び越えるものの
結局、友人達には追いつくことはできなかった。
その時、知り合った愛野渚の助けを借りて、美穂は異変の正体を探り始める。
2.異変の正体の手がかりを求めて、
渚と共に百発百中の占い師・藤居朋を尋ねる美穂
占い師が言うには、美穂の周囲の環境は「運命が大きく縺れている」とのこと。
彼女は異変を解決するためのヒントと先に訪れる助っ人の存在を仄めかし、
「強い意思」を持てば、異常事態は必ず解決すると語って、美穂を安心させた。
3.占い師の店から出た美穂の元に、元アイドルヒーロー・水木聖來から連絡が入る
彼女は美穂のために、今回の異変を解決するための助っ人を呼んでくれていた。
やってきた助っ人はアイドルヒーロー同盟からやってきた持田亜里沙とウサコ、そしてシロクマP。
彼女達に連れられ街中のファミレスにやってきた美穂達は『普通力』の存在を知らされる。
周囲から『特別』を排除する力『普通力』
この力によって、美穂は友人の島村卯月の周囲から遠ざけられていたらしい。
ショックを受ける美穂だったが、ひなたん星人の言葉で、
「卯月と友達でいたい」と言う自分の気持ちを再確認し、
友達に戻るために、周囲の環境を元に戻すために、その方法を亜里沙から聞きだす。
「特別なヒーローと友達になれること」を彼女の『普通』にすること。
それがこの異変を解決する方法。
亜里沙が言うには『強い意志』があれば、それは叶い、全てが元に戻るそうだ。
そして、亜里沙に促されてファミレスの窓から外を見れば、
そこには行列に並ぶ卯月の姿があった!
ウサコ「・・・・・・長いウサ、三行でお願いするウサ」
亜里沙「美穂ちゃんは、お友達の卯月ちゃんに会えなくなっちゃった」
亜里沙「それはどうやら『普通力』が邪魔しちゃっているみたいです」
亜里沙「だから『普通力』を抑えて無理やり友達になりなおしちゃおうっ!」
参考 美穂と普通力 その1 (美穂と渚)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/117-)
美穂と普通力 その2 (美穂と朋)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/504-)
美穂と普通力 その3 (美穂と亜里沙)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/760-)
”これは、今まで『普通』ではなかったことを、『普通』にしてしまう話”
美穂「・・・・・・う、うそ」
美穂がファミレスの窓から外を見れば、
そこには、いつの間にか出来ていた行列。
それは噂のマルメターノおじさんの屋台からソーセージを買い求めようとするお客さん達の行列。
そしてその中には、よく、本当によく見知った顔が一人。
卯月「早く順番来ないかなー♪」
美穂「卯月ちゃんっ!!」
美穂「い、いいい一体ど、どどどうやったんですか?!」
亜里沙「うふふ♪」
持田亜里沙はこのファミレスには人を待つために来たと言っていた。
偶然ではない。彼女は、島村卯月がこの場所に来るのを知っていた。
少女が必ずこの場所にやってくると確信していたのだ。
その手品の種を、美穂は尋ねる。
亜里沙「やっぱり女の子って噂話が好きよねっ♪」
亜里沙「流行には敏感だし、限定物とかにも弱いんじゃないかしら」
ウサコ「ウサコも女の子だから流行にはちょっと煩いウサー」
亜里沙「だから、先生はちょっとした噂話を流しておきましたぁ♪」
美穂「う、噂話?」
亜里沙(そう、噂話をこんな風に)
頭の中に響く声。亜里沙の能力、『メッセージ』による思念の通信。
亜里沙(「○×町のファミレスの近くに、マルメターノおじさんの美味しいソーセージ屋台が来てますよぉっ♪」)
亜里沙(ってこの町の、女子高生のみんなに伝わるようにねっ♪)
亜里沙(私の能力を正確に表すなら『聞きたい事を聞いて、伝えたいことを伝える力』なの)
亜里沙(テレパシーだけじゃなくって、噂話を流すこともできるんですよぉっ)
何のことは無い、ただ能力を使って女子高生達に情報を伝えただけだ。
噂話の様な形態で、女子高生達に情報が伝わる。
当然、美穂の友人の耳にもその情報は入る。
その情報に誘われて、島村卯月はこの場所にやってきたのだ。
渚「それってさァ、ほんとに来るかどうかは賭けじゃないのォ?」
亜里沙「そうねぇ」
噂話を聞いた卯月が、噂話に興味を示しやって来るかどうかはわからなかったはずだ。
卯月を呼ぶために噂を使ったのだとしたら随分と不確かなやり方に聞こえるが、
亜里沙「でも、卯月ちゃんならきっとこれで来てくれるって思ってたから」
美穂「卯月ちゃんなら?」
美穂(まるで、卯月ちゃんの事をよく知ってるみたいな言い方ナリ?)
島村卯月と言う人間をよく知っているかのような言葉に疑問を抱く美穂。
渚「あ・・・・・・そう言えば、私と違って亜里沙さんは”卯月ちゃんが来た”って事にすぐに気づけたって事はさ」
渚「卯月ちゃんの見た目を知ってたって事なんでしょォ?」
渚もまた、先ほどのやり取りで気になった点を尋ねる。
亜里沙「ええ、彼女の容姿も、その人となりもよく知ってましたよぉ♪」
2人の疑問に対して、肯定の返事をする亜里沙。
亜里沙「美穂ちゃんとの”通信”を通してね」
美穂「えっ?わ、私ですか?」
美穂「で、でも私そこまで卯月ちゃんの事詳しく話しては・・・・・・」
亜里沙は美穂と”会話”していたから、
卯月がここに来てくれると推測することができて、そしてその姿を判断する事ができたと言う。
しかし、人となりについてはともかく、島村卯月の容姿については美穂はまったく話していないはずである。
ウサコ(ありさ先生の能力は伝えて聞き取る能力ウサ!)
美穂(?)
ウサギのパペットが耳をくいっくいっと動かしながら、
亜里沙の能力について改めて語る。
ウサコ(聞きたいことを聞く力は)
ウサコ(美穂ちゃんが話す以上の事を聞く事が出来るウサ!)
美穂(話す以上の事を?)
亜里沙(えっとね、先生が使ってるこの力は”思念のやり取り”だから)
亜里沙(姿に関する詳しいお話がなくっても)
亜里沙(美穂ちゃんが”卯月ちゃん”の事を思い浮かべてくれるだけで)
亜里沙(卯月ちゃんの姿だとか性格は、”ただ言葉で聞く以上に確かな形”で私にも伝わってるの)
今、亜里沙達が能力を使い行っている会話。
それは言葉ではなく、思念のやり取りである。
故に、亜里沙がこの思念による通信で、聞き取ることのできる情報は”言葉”だけではない
例えば、美穂が思い浮かべた卯月ちゃんの容姿や、
卯月ちゃんがどんな人物であるかと言った美穂の抱く”イメージ”でさえ、
彼女は美穂から”聞き取る”ことができたのだ。
美穂「す、すごいです!亜里沙先生っ!」
亜里沙(うふふっ♪ありがとっ、美穂ちゃん)
彼女の持つ能力のパワーを知って、美穂は素直に感心する。
亜里沙(卯月ちゃんは女子高生らしく噂が好きな子で、)
亜里沙(日常の中にちょっと珍しいことを見つけたら、すごく嬉しい気持ちになっちゃう子)
亜里沙(って、美穂ちゃん自身から聞いてますよぉ?)
美穂「は、はい!そ、そうです!」
亜里沙(そんな卯月ちゃんだから、たまにしか見かけない人気のソーセージ屋さんの噂を聞きつければ)
亜里沙(今日は学校が終わった後も時間があるんだし、きっとここまで足を運んでくれる気になってくれるはず)
亜里沙(って信じることができたのっ♪)
亜里沙(まあ、それでも普通の条件の時であったなら、来てくれるかどうかやっぱり賭けになっちゃいますけどね)
それはそうだろう。
人の心は気紛れで、今日はそんな気分じゃないと言うだけで、あっさり自分を曲げてしまうのが世の常である。
例え、本日の島村卯月が死ぬほど暇だったとしても、噂に食いついてくれる確率が100%とは本来言い切れなかったはずだ。
亜里沙(だけど、占いのお話があったから確実に来てくれると思ってたわっ♪)
美穂の話に出てきた百発百中の占い。
チャンスは待てば、必ずやってくる。
そして占いに従うならば、願いは必ず成就する。
ウサコ(チャンスを呼び寄せるように環境を整えれば、必ずやって来るってことウサー!)
ウサコ(今回の占いに従っての”たぶん来てくれる”は、”絶対来てくれる”と一緒の意味だったウサ!)
亜里沙の言葉を、ウサコが補足した。
藤居朋の占い、彼女の言葉を信じる限り、彼女の占いは外れるコトを知らない。
彼女の占いの話があったからこそ、持田亜里沙はこの場に島村卯月が必ず来ると確信が出来ていたのだ。
亜里沙(さて、この距離でも卯月ちゃんと美穂ちゃんの間に斥力が起きていないのは)
亜里沙(美穂ちゃんが会おうとしたからじゃなくって、向こうから近づいて来たからですよ)
亜里沙(”ヒーローが自分に会おうとしてる”のは『特別』な事だけど)
亜里沙(”ヒーローと街中でそれに気づかずすれ違う”のは、卯月ちゃんにとっては普通の事で)
亜里沙(そして『普通力』にとっての『普通』の事だからねっ!)
現在、『普通力』はこの状況を認めている。
と言うよりも、この情況が島村卯月にとっての『普通』である限りは、
『特別』を排除するための力『普通力』は手を出すことが出来ないのだ。
亜里沙(うまく行列が出来てくれたおかげで卯月ちゃんは立ち止まってくれているみたいだし、)
亜里沙(この距離なら、『普通力』を跳び越えるのも少しは簡単かもしれませんねぇ)
美穂「それじゃあ、今が・・・・・・・チャンスの時っ!」
卯月との距離は、窓一枚隔ててはいるがこんなにも近い。
この距離ならば、これだけ近いならば、
これから美穂が、卯月と会おうとして発生する斥力の力も、
簡単に跳び越えてしまうことだってできるのかもしれない。
亜里沙(だけどその前に美穂ちゃんは”決断”しなくちゃ)
美穂(決断・・・・・・)
占い師は言っていった。
「チャンスの時が来た時は、勇気をもって決断すること。」
占いには従わなければならない、
だから”決断”は必ずしなければならない。
では、美穂は何を決断するべきなのだろうか。
亜里沙(それは、きっと)
亜里沙(卯月ちゃんの『普通』を多少なり奪っちゃうことね)
美穂「えっ?」
亜里沙(美穂ちゃんがしなくちゃいけないのは)
亜里沙(ヒーローとして、あの子と友達になる事よ)
亜里沙(”ヒーローと出会う事”、”ヒーローと友達になる事”)
亜里沙(”ヒーローと友達である事”、それらを彼女にとっての『普通』にするっていうこと)
亜里沙(それは少なからず、あの子の『日常』を奪うことに繋がっちゃうわ)
亜里沙(今は前例が無いから『特別』だけど)
亜里沙(前例が出来てしまえばそれは『普通』のこと)
亜里沙(美穂ちゃんが友達になったら、これからあの子はヒーローとも友達になれるかもしれないけれど、)
亜里沙(同時に”非日常”に巻き込まれる事が『普通』になってしまうかもしれませんねぇ)
美穂「・・・・・・」
淡々とこれから美穂のやろうとしている事を実行すれば、どうなるかを語る亜里沙。
美穂を巻き込むこの事態を、美穂の望む形で解決した際に発生するリスクは、
美穂自身ではなく、卯月が背負うリスクであった。
亜里沙(今はチャンスの時、つまり選べる時だから言ってるの)
亜里沙(ここで諦めれば、占いは外れちゃいます。『普通力』はきっとあの子を守り続けると思うわ)
亜里沙(ヒーローと友達になれる”非日常”を受け入れずに、ずっと平穏に過ごせるわね)
亜里沙(それとも、美穂ちゃんはあの子の”日常”を奪うことになってもお友達になりたいのかなぁ?)
ここに来て優しい先生は、意地悪な質問をするのだった。
美穂「なりたいです」
美穂「私は、卯月ちゃんと友達がいいですっ!」
しかし迷わずに、決断した。
美穂「だけど、卯月ちゃんの日常を奪うつもりなんてないです!」
美穂「友達との日常を取り戻したい、それが私のやりたい事ですからっ!」
ブレさせなかった意志を示した。
美穂「たしかにちょっとだけ、非日常に巻き込んじゃう事もあるかもしれません」
美穂「でも、私はっ!!」
美穂「友達を守るために!私はヒーローになりたいって思ったんです!!」
それは、『小春日和』を掴んだ時に掲げた願い。
美穂「だったら、非日常に巻き込んでしまったとしても、必ず友達を守って見せますっ!!」
美穂「だって!だって私は友達とずっとずっと!」
美穂「一緒にいたいですからっ!!」
パチパチパチ
小さな拍手が鳴った
美穂「・・・・・えっ?」
子供「お姉ちゃんヒーローなの?すごーい」 パチパチパチ
美穂「あっ」
気がつけば、店内の視線はすべて美穂に集まっていた。
席を立ち上がって大きな声で放った彼女の主張は、
当然ながら、ファミレス内に居た全員に聞かれていたらしい。
渚「美穂ちゃん、かっこよかったよ」
シロクマP「うんうん、若いね」
ウェイトレス「青春ですねぇ」
その場に居た皆が、温かい目で美穂を見つめている。
美穂「・・・・・・」
普段なら恥ずかしさで卒倒しそうな場面であるが、
今日の小日向美穂は慌てなかった。
ただ冷静に、
その腰にさしていた美しき刀を抜いた。
途端に彼女は黒いアイドル衣装に包まれ、
その顔に獰猛な笑みを作りだす。
美穂「 あ ~ は っ は っ は っ は っ は っ はっ!!!!!」
美穂「愛と正義のはにかみ侵略者ひなたん星人ナリっ☆」 シュバババーン!
美穂「この街はまるごとつるっと!ぜ~んぶ!私のものひなたっ☆」 キャピピピーン!
クルっと回転キメポーズ。いつもより多めに効果音も出しております。
日本一、横暴な刀によって作られた人格。
ひなたん星人の正式登場也。
美穂「ふっ!今度こそキメ台詞も言い切れたナリっ!(どやぁ)」
子供「へんしんすご~い!」
美穂「ありがとひなた♪♪」
美穂「って、あれ?このタイミングでの変身は・・・・・・」
美穂「も、もしかして私の人格を皆から注目されてる状況から逃げるために使ったナリっ!?」
美穂「な、なんかズルいひなたっ!!」
小日向美穂、こんな状況にも慣れたもので。
恥ずかしさで卒倒する前に人格を入れ替えたわけである。
なお、人格が変わっても記憶が消える訳ではないのであくまで一時しのぎ
今日の夜はベットで、この時の恥ずかしさに悶える予定でございます。
美穂「・・・・・・ま!別に構わないひなたっ☆」
美穂「どちらにしても”私”が卯月ちゃんともう一回友達になるなら、」
美穂「私になる必要があったナリっ♪」
我を通す力を持つ『小春日和』で、斥力を切り抜けて、
ヒーローとして、島村卯月と友達になる。
それが、この事態を解決する方法。
つまりは、解決のためには”ひなたん星人”になっておく事が必須である。
亜里沙(美穂ちゃん)
能力を使って、亜里沙は美穂自身に話しかける。
亜里沙(『普通力』に支配された『世界』は、あなたを違う学校にしたりはしなかったわ)
亜里沙(あくまで違うクラスに、それも隣のクラスにするだけだった)
『特別』を周囲から排除するならば、
『普通力』は美穂をもっと遠くにまで追いやっても良かったはずだ。
亜里沙(もちろん、それはそこまでの力は無いとか)
亜里沙(記憶を改竄する人数が少ないほうが無理が無いからとも取れるけど・・・・・・)
亜里沙(私は、それだけじゃなくって)
亜里沙(卯月ちゃんの非日常への憧れや、友達を応援したい気持ちが)
亜里沙(ほんの少しだけど『普通力』の発揮する力を抑えたんじゃないかなって)
亜里沙(能力のせいで友達としては居られなくても、)
亜里沙(それでも友達がヒーローとして頑張ってる姿を少しでも傍で見たかったからなんじゃないかなって、そんな風に思うの)
亜里沙(つまり、決して卯月ちゃんは美穂ちゃんのことを拒絶してるわけじゃないから)
亜里沙(きっと、きっとね!全部うまくいくって思うわっ!)
美穂(・・・・・・はいっ!)
亜里沙の励ましの言葉に、笑顔を思わせる声が返事をした。
美穂「当ったり前ナリっ!!卯月ちゃんは私にとってかけがえのない友達ひなたっ!」
美穂「そこのところ『普通力』にもきっちりと教え込んであげる必要があるみたいナリっ!!」
美穂「もしも、『普通力』が私と卯月ちゃんの関係を邪魔するって言うなら」
美穂「ひなたん星人総力を上げて全力で叩き潰すナリっ!!!」
渚(・・・・・・ひなたん星人総力?)
一人じゃんと突っ込んではいけない
亜里沙「さてさてっ!!それじゃあっ!ここからが本番ですよぉっ!」
ウサコ「『普通力』との真剣勝負ウサ!燃えるウサー!」
島村卯月の日常を守ろうとする力、『普通力』
それは『特別』を排除するためならば、どんな手であっても使ってくるだろう。
亜里沙「これから美穂ちゃんが挑むべき『普通力』!」
亜里沙「それが一体どんな風に美穂ちゃんを妨害してくるかはわからないですけれど、」
亜里沙「先生もできる限りサポートしますからっ!」
ウサコ「まずは、どうやってあの子に近づのくかよく考えるウサっ!」
美穂がどうやって、卯月に近づこうとするか次第で、
『普通力』の妨害は、その形を変えることだろう。
近づくためにどうするか。
まずはそれが『普通力』攻略の重要なポイントとなる。
美穂「そんなの決まってるナリ・・・・・・」
美穂の内の『傲慢』なる人格は、
自信満々に胸を張って、考えた作戦を高らかに告げる!
美穂「すぐさまこの窓を派手にブチ破って!!」
美穂「すぐそこにいる卯月ちゃんに元気よく挨拶するひなたっ!!」
渚「ちゃんと考えよう!よく考えようか美穂ちゃんっ!」
ひなたん星人の考えは、いきなり短絡的かつ過激であった。
亜里沙「うーん、でも悪い手じゃありませんねぇ」
渚「えっ」
亜里沙「どうやって挑んでも、『普通力』がどんな風に妨害してくるか分からないなら」
ウサコ「単純に最短距離を突っ切るのが一番いいウサっ!」
渚「確かに最短距離と言えば最短距離だけどさァ・・・・・・・」
短絡的で、作戦とすら言えない作戦ではあったが、亜里沙たちはそれを支持する。
ウェイトレス「あ、あの・・・・・・」
何処か不穏な会話を、心配そうに見つめるファミレスの店員
シロクマP「もしそうなった場合は、アイドルヒーロー同盟が弁償させていただきますから」
――
ところ変わって、ファミレス近くのソーセージ屋台
マルメターノおじさん「それにしても今日はお客さんが多いな」
彼自身は、屋台の噂が広がっているらしいとは知らず、
今日もいつもと変わらず、ソーセージを焼いては売っている。
マルメターノおじさん「よくわからない啓示に従ったのが良かったのかもなぁ」
今日、彼がこの場所でソーセージを売っているのは、
虫の知らせと言うか、ウサギの知らせと言うか。
(今日は○×町のファミレスの近くで店を開くといいことあるウサー)と言う声が、何処かから聞こえたからであった。
それに従った結果、ここまでの行列ができてしまった訳である。
彼のソーセージを食べたお客さん達はみんな、笑顔で帰っていく。
そして、
卯月「まだかなまだかな♪」 ウヅウヅ
ワクワクした様子で順番を待っている人たちが居る。
マルメターノおじさん「楽しみにされてるとわかると、こっちも気合が入るし腕が鳴るってもんだぜ」
マルメターノおじさん「回転率上げるか」
彼は、目にも止まらぬほどの速さでソーセージを焼き始めた。
――
美穂「!!」
美穂「ぎょ、行列がっ!凄い勢いで進んでいくナリっ!」
窓の外を見て、仰天する美穂。
行列の進む速度が、目に見えて上がっていた。
亜里沙「まずいわ、ソーセージを焼く速度が上がっちゃったみたいね」
ウェイトレス「やっぱりお客さんを待たせちゃうのは、飲食業としてよろしくないですからね」
美穂「・・・・・・」
このままでは、卯月がどんどん美穂から離れて行ってしまう。
これももしかすると、『特別』から逃れようとする、『普通力』の影響なのだろうか。
美穂は、その手に『小春日和』を構える。
渚「・・・・・・美穂ちゃん?」
美穂「こうなったら、もうやるしかないひなたっ!!」
どうやら窓をブチ破って、最短距離を突っ切る気満々であるらしい。
渚「一応聞いておくけど、考え直す気ない?」
美穂「私は、私の心をブレさせたりしないナリっ☆」
渚「・・・・・ははっ、それなら仕方ないっかァ」
渚「もし怒られちゃったらサっ、後で私も一緒に謝るよ」
ちょっと呆れた風に笑いながらも、渚は最後に彼女を後押ししてくれた。
美穂「渚さん・・・・・・ありがとナリっ!」
笑顔を見せる美穂。
そして、彼女の刀に強いエネルギーが込められる。
美穂「ラブリージャスティス・・・・・・っっ」
目の前の障害をブチ破るための、強烈な”意志”を込めた
横暴なる刀の一撃が放たれる。
美穂「ひなたんビィイイイイイイム!!!!」
――
ドッシャァアアアン!!
卯月「えっ!?!」
轟音がして、
行列が並ぶすぐ近くのファミレスの窓がジャラジャラと崩れるように割れる。
それと同時に、
弾丸の如く1つの影が店の中から飛び出してきた!
卯月「な、なに?!なんですかっ!?」
あまりに唐突な出来事に驚く卯月。
「ファミレスから女の子が飛び出てきたわ!」
「もしかして何かの撮影?」
「あれ?あの子もしかして?」
周囲もまた驚きの声でざわつきはじめる。
「・・・・・・・私の名前は」
たくさんの注目を浴びながらもそれは、
美穂「 小 日 向 美 穂 っ !!!」
高らかに名乗った。
美穂「キュートでカッコいいアイドルヒーローを目指す女子高生でっ!!!」
彼女の口上はさらに続く。
美穂「愛と正義のはにかみ侵略者っ!!!!」
美穂「ひなたん星人ナリィィイっっっ!!!!」
無駄に派手で、ともすればはた迷惑な登場であったが、
それでも彼女は、自信を持って、高らかに名乗り上げるのだった。
美穂「ふふっ、登場する時は派手な方がやっぱりヒーローっぽいひなたっ!」
美穂「掴みはきっとバッチリなりっ☆」
彼女の持論はさておいて、
卯月「・・・・・・」
目的の人物の注目はしっかりと引けたようである。
卯月「小日向・・・・・・美穂ちゃ」
「「「キャアアアアアっ!」」」
卯月「え?」
ひなたん星人の登場と同時に、辺りから黄色い悲鳴が響き渡る。
「ひなたん星人ちゃんよぉぉ!ひなたん星人ちゃんが居るわ!!」
「本物!?本物なのっ!!?」
「サインっ!サイン頂戴っ!!!!」
行列に並んでいた女子高生達が、
まるでイノシシの群れの様に!美穂に向かって飛び掛ってきた!
美穂「えっ!?あれ!?急に人気者ひなたっ!?」
ウサコ「落ち着くウサ!!『普通力』の影響ウサっ!!」
美穂の周りを取り囲もうと迫る女の子達。
急な状況の変化に困惑する美穂に聞こえるように、ウサコが叫ぶ。
亜里沙「ええっ!彼女達は『普通力』の影響を受けて」
亜里沙「ヒーローに会った興奮が昂ぶった子達!」
亜里沙「きっと美穂ちゃんが卯月ちゃんに近づこうとするのを妨害するためのっ!」
彼女達は地方新聞を通して、ひなたん星人の存在を知っていた女子高生達。
そしてこの場でヒーローと言うちょっとした有名人に出会えたことで、ほんの少しの興奮を覚えた少女達。
『普通力』は彼女達の興奮をさらに昂ぶらせる事で、美穂にけしかけたのだ!
全ては卯月と美穂が出会うのを妨害するためにっ!
第一の障害は噂好き女子高生軍団っ!!
美穂「えっ!?そ、それじゃあ私は同世代の女の子達を攻撃しなきゃいけないナリっ?!」
今も迫り来る女子高生達をさばききる!
それはひなたん星人の力と技術ならば決して不可能な事ではない!
彼女の必殺技の中には、相手を一切傷つけずに倒す「みねうち」だってあるっ!
しかしっ
美穂「何の罪も無い女の子を攻撃するのは、ヒーローとしてどうナリっ!?」
シロクマP「うーん、流石に不味いかな」
シロクマP「確かにちょっと興奮しすぎちゃってるみたいだけど・・・・・・」
シロクマP「それでも、曲がりにもファンの子たちを攻撃しちゃうのは」
シロクマP「ヒーローとして、アウトな行為だろうね」
シロクマPが冷静に状況を分析し、美穂に忠告する。
今回、美穂はヒーローとして卯月と友達にならなければならない。
それが、”ヒーローらしからぬ行動”を取って、卯月と会おうとしても意味が無いのだ!
ウェイトレス「それを言うなら、窓の破壊はヒーローとして不味くないんですかね」
シロクマP「・・・・・・た、建物の破壊はお約束みたいなものだから・・・・・・それにちゃんと弁償しますから、ね?」
と、とにもかくにも!!
目の前に迫る少女達、彼女達を切り抜ける事ができければ、
その奥に埋れて隠れてしまった島村卯月と話す事はできない!
しかし!彼女達を傷つけることも、ヒーローとしてできないっ!
美穂「い、いきなり八方塞りひなたっ!?」
ひなたん星人に打つ手なしっ!
みすみすと此度のチャンスを逃すしかないのだろうかっ!
亜里沙「うふふっ、早速だけどピンチですねぇ」
亜里沙「でも!そんな時に、頼れる先生がここに居ますよっ!!」
ウサコ「居るウサッ!」
美穂「亜里沙先生?」
いつの間にかファミレスの外に出ていた持田亜里沙が、美穂の隣に並ぶ。
美穂「何かっ!手があるナリっ!?」
亜里沙「ええっ!彼女達を傷つけずに退ける!」
亜里沙「そう言う事なら、先生ちょっと得意ですよぉ!」
誇らしげに亜里沙は答えた!
彼女はまっすぐに遠くの空に向けて、左腕を伸ばす。
人差し指は立てて、
他の4本の指は曲げて、
それは何かを指差すような姿勢。
亜里沙「すぅー・・・・・・」
そして大きく息を吸った後に、
周囲によく聞こえるように、
透き通った声で言い放った!
亜里沙「あっ!?」
亜里沙「あれはもしかしてラビッツムーンっ!!」
突然の亜里沙の言葉に周囲の喧騒がピタリと静まりかえる。
亜里沙の指差した方向には、本当に小さな黒い影。
ずっと向こうの空に何かが飛んでいるのは間違いないようだ。
しかし、それが何かはちょっとここからは確認できないし、
渚「・・・・・・そもそもラビッツムーンって飛べるんだっけ?」
渚「って言うかそんな見え見えの嘘に引っかかるような人なんて」
「ら、ららラビッツムーンだぁぁっ!!」
渚「引っかかる人居たぁっ!?」
「間違いないよ!あれはウサミンだよっ!」
「写真!写真取りに行かなきゃっ!」
こちらに向かってきていた女子高生達は、全員素早く方向転換!
皆して亜里沙の指差した方角へと向かって行く!
渚「えっ、えぇぇぇ・・・・・・」
亜里沙「うふふっ、亜里沙お姉さんの伝える能力を見くびったらダメですよぉ」
亜里沙「”嘘偽りのないように聞こえる”ように言葉を伝えれば、」
亜里沙「本当の情報だと思ってもらえるんですから」
亜里沙「それが実は嘘だったとしてもね♪」
真実を伝えるだけが『メッセージ』の持つ力ではない。
『メッセージ』は”伝えたい事”を伝える力。
伝えたい事であれば、誤情報すらも疑われない言葉として発信する事が彼女には可能である。
渚「・・・・・・亜里沙先生の言葉はどんな言葉でも信じちゃうってこと?」
亜里沙「ううん、本当はサブリミナルみたいに深層心理に訴えかける事ができる程度で」
亜里沙「まったく疑えなくなるくらいに、信じ込ませる事はできないんだけど」
亜里沙「彼女達はほんの少し認識を操作されてたみたいだから」
亜里沙「それを利用させてもらったのっ」
亜里沙「有名人と出会える興奮が昂ぶってるならそれを利用して、より注意を引ける情報を伝えちゃうだけですよっ!」
『普通力』の影響によって彼女達は、有名人と出会える状況に対する興奮が、
韓流スターを追っかけるおばちゃんもびっくりなほどに昂ぶっていた。
そんな精神状態の彼女達だから判断能力が著しく下がっており、嘘を見抜くことができなくなっていた。
そして彼女達を釣るなら、美穂よりもさらに有名人であるラビッツムーンの名前はこの上ない餌だったわけである。
美穂「菜々ちゃんが居るひなたっ!?何処にいるナリっ!?」
渚「・・・・・・じゃあ美穂ちゃんが引っ掛かってるのは?」
亜里沙「・・・・・・美穂ちゃんには普通の言葉として聞こえるようにしていたはずですけどねぇ」
ウサコ「普通に引っ掛かっちゃってるだけウサ」
シロクマP「・・・・・・純粋なんだね」
美穂「なんだ嘘だったナリ・・・・・・」
ガックシと肩を落すひなたん星人。
渚「美穂ちゃーん、今やるべき事はー?」
美穂「はっ!わ、わかってるナリ!ひなたんジョークひなたっ☆」
慌てて取り繕うひなたん星人、本当にジョークだったのだろうか。
美穂「・・・・・・少しは巷で有名になっちゃった私だけど、」
美穂「まったくまだまだ菜々ちゃんの人気には全然及ばないナリ!」
彼女と比べれば、ひなたん星人の知名度など足元にも及ばないのだろう。
改めて、目指す先の大きさを知る。
美穂「とにかくありがとうひなたっ、亜里沙先生!」
美穂「これで私と卯月ちゃんの間を遮る女の子達はいなくなっちゃったひなたっ!」
美穂「まずは第一関門突破ナリっ!!」
卯月「・・・・・・」
亜里沙の機転によって、卯月と美穂を遮る人間たちはこの場から去っていった!
そして彼女達の間に広がるのはわずか数メートルの距離!
卯月「あの、美穂ちゃ」
「ガルルルルル!!」
卯月「えっ?」
「ヒヒィイイイン!!」「パオパオーン!」「ワニワニワニ!」
第一関門を突破して安心したのも束の間、
彼女達の周りに何処からともなく様々な種類の動物達が現れた!
動物達に埋もれ!再び卯月の姿が見えなくなる!
美穂「こ、今度は動物さん達ひなたっ?!しかもなんか威嚇されてるナリっ?!」
現われた動物達は、「やんのかコラ?」と言わんばかりに美穂に迫ってきている。
美穂「まさかと思うけどひなた・・・・・・」
亜里沙「・・・・・・・」
耳を澄ます仕草をする亜里沙。
聞きたい事を聞き取る力を使っているのだろう。
ウサコもピコピコ耳を動かしている。
亜里沙「大変っ!近くの動物園から逃げ出してきた動物達みたいっ!」
ウサコ「たぶんこれも『普通力』の影響ウサ!」
美穂「やっぱりナリっ!?」
卯月の周囲から『特別』をどうしても退けると言う意志、『普通力』!
お次は近郊から脱走してきた動物達を引き寄せたっ!
美穂に立ち塞がる第二の障害は、脱走した動物達っ!!
美穂「カピバラさんなら相手にしたことあるけど・・・・・・」
美穂「シロクマさんっ!動物達を攻撃するのはヒーローとしてどうナリっ?」
シロクマP「さっきの女子高生達と違って向こうに攻撃の意志があるみたいだから」
シロクマP「傷つけずに攻撃するのはギリセーフかな?」
美穂「それなら今度は、ラブリージャスティスひなたんみねうちが使えるひなたっ!!」
シロクマPからの朗報に安心するひなたん星人。
しかし、
シロクマP「だけど、問題が無いわけじゃないよ」
美穂「えっ?」
シロクマP「ヒーローを名乗るならこの場合は、」
シロクマP「動物達を全員動物園まで帰すことが理想だね」
美穂「!? そ、それは!この状況だと無茶すぎる要求ひなたっ!!」
傷つけず動物達を捕まえるだけならまだしも、さらに動物園に帰さなければならない。
一匹一匹動物達の相手をして、捕まえた動物は動物園まで運んで・・・・・・
などと言った作業を真面目にやっては日が暮れてしまうだろう。
通常営業時のひなたん星人ならそれもやってみせるが、
今は、すぐにでも卯月と話したいのだ。
あまりに時間と手間が惜しい。
美穂「こんな時にセイラさんが居てくれれば・・・・・・」
動物達を引き寄せ頼み事ができる彼女であれば、それを実行するのは容易であったに違いないのだが。
渚「弱腰になったらダメだよ、美穂ちゃん!」
美穂「渚さん・・・・・・?」
シロクマP「そうだね、セイラちゃんも美穂ちゃんも同じ”ヒーロー”なんだからさ」
シロクマP「セイラちゃんに出来る事は美穂ちゃんにもきっとできるよ」
美穂「シロクマさん・・・・・・?」
子供「よくわからないけどお姉ちゃん、がんばってー」
店内から彼女への応援の声が届く。
美穂「そうナリ・・・・・こんな事くらいで諦めてたらヒーローじゃないナリ」
美穂「どんな困難にも立ち向かっていくのが私の憧れたヒーローひなたっ!!」
声援を受け、ひなたん星人は奮起する。
諦めない強い意志こそが、彼女をヒーロー足らしめて、
迫り来る困難にさえも立ち向かえる力を生み出すのだから。
ウェイトレス「けれど実際どうするんですか?」
ウェイトレス「事情はよくわかりませんけれど、すぐにでも脱走した動物達をどうにかする必要があるんですよね?」
ウェイトレス「1匹2匹ならまだしも、バラバラの方向に逃げられたら手におえないのでは?」
シロクマP「そだねぇ、時間制限のせいでなかなかの無理難題になっちゃってるね」
時間制限。とかくシビアな問題。
『普通力』の妨害は、時間をかければかけるほど強固なものになっていくだろう。
突破するには1つ1つの障害に迅速に対応する必要がある。
シロクマP「けれど幸い、『普通力』のおかげで逃げ出した動物達は全部この場所に集まってくれてるみたいだから」
シロクマP「きっと何とかなるでしょ、こっちには最強のネゴシエイターもいるしね」
店内から亜里沙の背中を見つめるシロクマPはニヤリと笑うのだった。
亜里沙「ええっ!むしろこれはチャンスですよぉ!美穂ちゃん!」
ウサコ「この場所に逃げ出した動物が全部集まってるって事は、」
ウサコ「やり方次第では一気に全員帰す事ができるって事ウサー!」
亜里沙「もし、それをする事ができたなら・・・・・・・誰がどう見てもヒーローなんじゃないかな?」
美穂「なるほど、逆に考えるひなたっ!」
美穂「動物達を帰す事ができたなら!私はぐうの音もなく、正真正銘のヒーローなりっ!」
確かに実行するのは難しいだろう。
しかし、ピンチすら切り抜け問題を解決してしまうその姿は、
きっと誰から見てもヒーローと呼べるに足るものに違いない。
美穂「だけど、肝心の全員帰すための方法・・・・・・」
美穂「私には全然思いつかないひなたっ!!」
胸を張って言うひなたん星人。そこは自慢げに居るべきところでは無いのだが。
亜里沙「美穂ちゃん。私達の手で帰すことが出来ないなら、自分達の足で帰ってもらえばいいんですよ」
美穂「?・・・・・・どう言うことひなた?」
不可解な亜里沙の発言の意味を尋ねるひなたん星人であったが、
その答えが亜里沙から帰ってくる前に、
「おい、何こっち無視して話し込んでるんだコラ!」
美穂「えっ?」
突然聞こえた、何者かの声。
「おう、ワシらに刃物なんか向けてええ度胸やのうワレ!」
続いて、別の何者かが喋る。
美穂「まさか」
その声は美穂の前方から聞こえていた。
つまりは、
「ワシら、アニマルパークからやって来た可愛い可愛い動物さんやで?」
「そんな危ないもん向けられたら困るわなー!」
明らかに美穂の行く手を塞ぐ動物達が声を発していた。
美穂「ど、動物達の声が聞こえてるナリっ?!」
亜里沙「ふふっ♪言葉が通じるなら、”お願いして帰ってもらう”ことも出来ないことじゃないですよねぇ?」
持田亜里沙の能力『メッセージ』は、動物達との会話さえ可能とする!
それはつまり動物達に動物園に帰ってもらうように説得・交渉が可能と言う事!
亜里沙「交渉が成功する秘訣は、時間をかけて説得する事だって言うけれど、」
亜里沙「今日は時間がないから、必殺技を使いましょうかっ!」
美穂「必殺技?」
亜里沙「ズバリ!アイドルとしての姿を魅せて相手の心を掴んじゃいましょう!」
美穂「魅了しちゃうってことナリ?」
亜里沙「ええっ!お願いを聞いてもらうなら、心を掴んじゃうのが一番じゃないかな!」
亜里沙「美穂ちゃんならきっとできるわよっ!可愛いアイドルらしく、カッコイイヒーローらしく、」
亜里沙「つまり、アイドルヒーローらしくね!」
美穂「アイドル・・・・・・ヒーローらしく・・・・・・」
美穂「ふふっ」
美穂「あ~はっはっはっはっは!!!」
美穂「なんだか嬉しくって思わず高笑いしちゃったひなたっ☆」
美穂「先生にアイドルヒーローなんて呼ばれちゃったら、私も頑張らないわけにはいかないナリっ!!」
気合を入れる、ひなたん星人。
持田亜里沙はどうやら美穂の夢を後押ししてくれているらしい。
ならば、その期待に答えないわけにはいかない。
美穂「動物さん達には、アイドルとしての私を見てもらって私の虜になってもらうナリっ!」
美穂「そしてヒーローらしくキラッと光る改心の一言で説得して、動物園までお帰りいただくひなたっ!」
「おっ、何か始まるみたいやで」
「一発芸でもするんかいな」
「ほほう、おもしれー。アニマルパークで日夜芸を磨いてるワシらを唸らせるような芸」
「はたして人間にできるんかのう」
動物達の注目が、美穂に集まる。
美穂「ふふっ、まあ動物さん達っ!そこで目を輝かせて見ているナリッ!」
美穂「アイドルヒーローひなたん星人は、あなた達のハートをしっかりとキャッチして魅せるひなたっ!」
宣言すると、まずは軽くステップを踏みはじめるひなたん星人。
「・・・・・なんやそれ、ダンスのつもりかいな」
それは、いつも美穂がテレビで見ているアイドル達の真似事!
「言うほど大したことな・・・・・・っ!?」
拙い技術かもしれないが、しかしひなたん星人は自信に溢れた笑顔で!とにかく魅せる!
「う、うそやろっ!ス、ステージが!ステージが見えとるでっ!」
あまり時間は掛けられない、だからほんのわずかに数秒間だけだが。
「み、見える!?あの人間の後ろにバックダンサーがいるのが見える?!」
たとえ一瞬の間だとしてもここは彼女のステージ!
「人間の技術がっ!ここまでのバックグラウンドを見せてるって言うんかっ!?」
全力で飛んでっ!全力で跳ねてっ!
そして最後に、渾身のカワイイポーズをキメる!
美穂「キラッ♪」 キランッ
美穂「動物さん達!大人しくお家に帰るひなたっ☆」
これこそが彼女の!アイドルヒーローひなたん星人の交渉術!!
美穂「どやっ!」
「まあ、そこそこやな」
「おまけして4点」
「素質は悪くないんやけど、ガツーンと来る物がないって言うか」
「惜しいけど、ちょっとワシらを帰らせるほどじゃないわな」
美穂「あ、あれっ!?思いのほか、ガチ批評だったナリ?!」
美穂「ここは感動のあまりにすんなり言う事を聞いてくれる場面じゃなかったひなたっ!?」
意外と辛口なアニマルパーク出身の審査員達っ!
「お前達ちょっと下がっとれ」
群れの中から一際風格のある一匹の動物が現われた。
「「「「ご、ゴリラさん!」」」」
美穂「ご、ゴリラナリ?」
それはなんと一匹の巨大なゴリラ!!
様子から察するには、明らかにこの群れのボス!!
ゴリラ「・・・・・・嬢ちゃん」
美穂「な、何ナリっ!!」
図体の大きな相手の登場にも、ひなたん星人は怯まない!
ゴリラ「話の前にまずはその危ない刀仕舞ってくれへんか?」
ゴリラ「それが人に・・・・・・あ、ちゃうわ」
ゴリラ「ゴリラに物を頼むときの態度とはちゃうわな?」
美穂「・・・・・・」
美穂「せ、正論ひなたっ!!」
彼の言うとおり、確かに頼み事をするのに刀を振り回していれば、
それはどう考えても頼み事ではなく脅しである。
美穂「確かにヒーローのやる事じゃなかったナリ」
少し迷ったが、刀を腰の鞘に仕舞うひなたん星人。
途端に彼女の漆黒の衣装は霧散して、
美穂「・・・・・・はっ!」
現われるのは小日向美穂本来の人格。
美穂「あっ、ああああのっ!えええええっとっ!」
唐突に人格を変わられて、慌てる美穂。
ゴリラ「まあ、落ち着きや、嬢ちゃん」
そうは言うが、ゴリラが目の前にいるのに慌てないほうが無理がある。
刀を抜いていない美穂は、ただの女子なのだから。
美穂(ど、どどどうしよう・・・・・・)
気づけばあまりに突拍子もない状況に放り込まれていて、
少しばかり泣きそうになるが。
美穂(・・・・・・だ、だけど!本当に怖いゴリラさんじゃないみたいだし・・・・・・)
美穂(ここで頑張らないと卯月ちゃんと会えないなら・・・・・・私頑張らないとっ!!)
それでも小日向美穂は覚悟を決めた。
たとえ刀が無くとも目的を為すため、ここぞと言う場面で立ち向かえる意志が彼女にはあったようだ。
少女の強い意思を秘める瞳を見て、何か思うところがあったのかはわからないが、
群れのボスたるそのゴリラは話しはじめた。
ゴリラ「嬢ちゃんの芸、あれダンスか?まあ何でもええわ」
ゴリラ「はっきり言って拙かったなかったけどな」
美穂「う、うぅ・・・・・・やっぱり全然ダメダメでした?」
覚悟を決めていたものの、ゴリラのダメだしには少し凹みそうになる。
人間ではなく、ゴリラに言われてしまった事のダメージは大きい。
ゴリラ「全然アカンとまでは言わへんよ」
ゴリラ「でもな、何や知らんけど、嬢ちゃんの何が何でもやり遂げるって」
ゴリラ「強い気持ちだけは充分に伝わって来たで」
美穂「・・・・・・ゴリラさん」
ゴリラ「だから嬢ちゃんが誠意見せて、もうひと頑張りするって言うなら」
ゴリラ「ワシらも動物園に帰ったってもええわ」
美穂「本当にっ!?あっ、でも・・・・・も、もうひと頑張りですか?」
ゴリラ「せや」
条件付では会ったが、どうやら美穂のお願いを彼らは聞いてくれるらしい。
ゴリラ「なんや話聞いてたら、自分アイドルなんやろ?」
ゴリラ「ワシらもアニマルパークのアイドルみたいなもんや」
ゴリラ「アイドルとしてコイツには負けてへんって意地だってある」
ゴリラ「だから、さっきの拙いダンスなんかじゃない」
ゴリラ「ワシらにも負けへんってくらいに、アイドルらしく可愛らしい頼み方してみせてくれへんか」
ゴリラ「それが出来るって言うなら、ワシらは喜んで帰るとするわ」
美穂「アイドルらしい・・・・・・可愛い頼み方・・・・・・・」
美穂「・・・・・・・あ、あのっ!!私!!やってみます!!!」
少女にあまり自身はなかったが、
動物達を説得してここから退けるには、どうやらやるしかないらしい。
ならば、覚悟を決めた彼女はその困難にも立ち向かう!
そこを越えた先に、美穂の求める人がいるのだからっ!
美穂「すぅー・・・・・・・はぁー・・・・・・・」
美穂「よしっ!」
美穂「らっ・・・・・」
美穂「らぶりーじゃすてぃすひなたんビームっ☆☆☆」
美穂「お願い、帰ってください♪♪ひなひなたんっ♪♪」 キランッ
念のため断っておくが、刀を抜いていない今の美穂は素面である。
彼女は素面で、素面でこれをやりきったのだ。
周囲の動物達が黙り込む。
ゴリラ「・・・・・・」
ゴリラ「そうか・・・・・・」
ゴリラ「これが・・・・・アイドルか」
美穂自身の人格による決死のカワイイポーズは、どこか動物達の心に響くものがあったらしい。
ゴリラ「よっしゃ!!ワシらは帰るで!!」
「「「「おうっ!!」」」」
さっさと帰り支度を始める動物達。
そして最後に群れを率いる長が振り返る。
ゴリラ「これからもアニマルパークをよろしゅうなっ!!」
それだけ言い残して、逃げ出した動物達は動物園に帰っていったのだった。
美穂「・・・・・・」
美穂「また一つ大切な・・・・・・何かを失った気がします」
亜里沙「元気出して。美穂ちゃん可愛かったから」
渚「ごめん、どの辺りからツッコめば良かった?」
すぐさま再び腰の刀を抜く美穂。
美穂「き、気を取り直して!」
美穂「これで、私を阻む動物達をアイドルヒーローらしく(?)追い払えたナリっ!!」
美穂「第二関門突破ひなたっ!!」
卯月と美穂の間を遮っていた動物たちは去った!
彼女達の間に残っているのはたった数メートルの距離っ!
卯月「・・・・・・」
今度こそ、今度こそ卯月と話してっ!
そして再び友達になってもらう!!
卯月「美」「ッシャアアアア!!」
「シュビドゥバッシャアアア!!」
「イェッシェェェイ!!」
美穂「はいはい、わかってたひなた・・・・・・」
やはり『普通力』の方も簡単には諦めてはくれないらしい。
卯月と美穂の間に割り込むように!突如として何十体ものイワシ型アンドロイド達が現われた!
そう第三の障害は皆さんもご存知、海底都市産の戦闘ロボットイワッシャー!!
亜里沙「次々とやってくる妨害に参りそうになっちゃうけど、」
亜里沙「でもどうやら、『普通力』の方も追い詰められてるみたいですねぇ」
亜里沙「『特別』を周囲からはじき出すはずの『普通力』が起している影響が、」
亜里沙「明らかに『普通』から外れてきてますからっ!」
ウサコ「動物達を呼ぶのはまだしも、ロボットを周辺地域から集めちゃうのはちょっと『普通』じゃないウサー!」
ウサコ「きっと『普通力』も妨害するためなら形振り構わなくなってるウサー!」
亜里沙「ロボットには先生の『メッセージ』は伝わらないですけれど」
亜里沙「美穂ちゃん、後は大丈夫ですねぇ?」
美穂「当然!!もう大丈夫ナリッ!」
イワッシャーが相手ならば、ヒーローとしてのひなたん星人が彼らを打倒することだって構わない。
こうして話している間にも、次々と周辺地域から集まってくる何十体ものイワッシャー達。
美穂「一体全体、何処にこれだけの数が隠れてたひなた・・・・・・」
美穂「だけど!この程度のことなら恐れるに足りないナリっ!」
美穂「このまま一気に『普通力』の斥力を切り抜けてしまうひなたっ!!」
前方に刀を構えて、屈むような姿勢で踏み込むひなたん星人。
美穂「ラブリージャスティス・・・・・・っ!」
地面を蹴る足に、漆黒のエネルギーを収束!
美穂「ひなたんロケットっ!!」
そして一気に猛烈噴射!!!
同時に『小春日和』にも強い負のエネルギーを込められる!、
「シャ/ーっ?!」
「イワ/ッシー!」
「シャオ/アッ!?」
突撃の勢いのままに、次々と迫り来るイワッシャーを断裁分離!
破竹の勢いで!漆黒のロケットはイワッシャーの壁を突破するっ!
そして一息に卯月との距離を詰めようとするひなたん星人!!
だが、そうは問屋がおろさない!
簡単には、突破されるような『普通力』の妨害ではないのだ!
周囲に集められたイワッシャーの数は百に届くほど!
数体のイワッシャーが倒されて道が切り開かれたところで
出来た道を周囲のイワッシャー達がすぐに埋めてしまうだけである!
だが、しかしっ
「・・・・・・・イワッ?」
埋まらないっ!!
ひなたん星人が切り開いた道を、周囲に集まっているイワッシャーの群れが埋めないのだ!
いや、それ以前にっ
「シャッ!?シャシャッ!?!」
周囲のイワッシャー達の足がまるで石化してしまったように!彫像のように動かないっ!
渚「・・・・・・・ふーっ!」
渚「うっわァ、あったま痛いなァ」
冷や汗をかきながら少女は呟く。
渚「流石にこれだけの範囲に能力を意識して使ったのは初めてだったから・・・・・・どっと疲れたよ・・・・・」
渚「けれど、なんとかうまくいったみたいだね」
渚もまた、美穂の手助けをするために店の外に出ていた。
その両の手は地面につけられている。
シロクマP「渚ちゃんも能力者だったんだね?」
同じく店から外に出てきたシロクマPが尋ねる。
渚「まァね!相手がロボットって言うなら遠慮する必要もないし、私の能力の出番だよっ!」
シロクマP「美穂ちゃんの周りのイワッシャー達の動作が停止しているみたいだけど」
シロクマP「何をしたのかな?」
渚「へへっ!地面とロボットの足の境界をなくしたッ!!」
彼女の力の1つ、「境界を無くす力」!
彼女の持つその能力は!
溶接よりも強力に、あらゆる物の完全な接着を可能とする!
シロクマP「それは・・・・・大変だったんじゃない?この数だし」
渚「そうでもないよっ、足を止めるのは卯月ちゃんや美穂ちゃんを囲んでる中心に近い位置の十数体かくらいで良かったから」
渚「中心地に近いロボットだけでも止めてしまえれば、それがバリケードになってくれるからね」
渚「簡単には取り外せないから、街の中にイワシロボットのオブジェができちゃう事になるけど」
渚「まァ、それは後でどうにかして同盟が片付けておいてよっ」
シロクマP「オッケー、承知したよ」
渚「さてっ、イワシロボットの壁ができちゃったから!」
渚「これでもう美穂ちゃんの事を『普通力』が邪魔する事もできないんじゃない?」
彼女がイワッシャー達の壁を作ったおかげで、
次に『普通力』が、女子高生や動物達などのお邪魔要素を周囲から呼び寄せたとしても
イワッシャーの壁に阻まれて、美穂の行く手を妨害する事が出来ない!
ならば彼女を止められるものはもう何も無いっ!
渚「後は友達と話すだけ!頑張りなよっ、美穂ちゃん!!」
暗中模索の多事多難。
紆余曲折、たくさんの困難がここまでにあったが、
ようやく、小日向美穂はここまで辿り着く。
美穂「たった一日の事なはずのに、どうしてか随分と長い間奔走していた気さえするナリ」
美穂「だけど、やっとこうして話すことができるひなたっ!」
卯月「・・・・・・」
美穂「卯月ちゃんっ!!」
ついに、小日向美穂は島村卯月と対面した。
アイドルヒーローひなたん星人として。
そして一人の友人として。
卯月「えっと・・・・・・美穂ちゃん・・・・・でいいんだよね?」
美穂「うん、さっき名乗った通りナリ」
美穂「私は小日向美穂」
美穂「そして、この町を守るヒーロー」
卯月「愛と正義のはにかみ侵略者、でしたっけ?」
美穂「えへへっ、先に言われちゃったナリ」
美穂「ひなたん星人ひなたっ☆」
はにかみ乙女は、にこりと笑って名乗った。
卯月「ええっと・・・・・・はじめまして、になるのかな?」
卯月「隣のクラスのヒーローとこんな所で会えるなんてすごく奇遇・・・・・・」
卯月「・・・・・・なんでしょうか?」
卯月「うーん・・・・・・はじめましては変な気が?」
『普通力』の少女。
彼女の認識は、自らの力によって書き換えられていたが、
しかし、彼女自身どこか違和感があるようだ。
卯月「あ、ごめんなさいっ!変な事聞いちゃってて!」
卯月「ちょっと説明が難しいんですけど、なんだか不思議な感じで!」
卯月「・・・・・・私、こうやってヒーローって呼ばれてる人たちと話すのが生まれて初めてなんです」
卯月「だから、これってすっごく特別な体験なはずなんですけど・・・・・・・」
卯月「どうしてでしょう?」
卯月「これが『特別』なことだな、って全然思えなくって」
卯月「不思議・・・・・・だよね?」
美穂「・・・・・・あははっ」
小首を傾げる少女の言葉を聞いて、美穂は笑う。
それは、心の底から安心した為に出た笑い声であった。
美穂「全然不思議な事なんてないナリっ!それは当然ひなたっ☆」
美穂「だって私は、卯月ちゃんとは毎日いつも顔をあわせてたから」
美穂「いつもみたいに友達とただ会って話すことが、『特別』なわけがないナリっ」
卯月「いつも・・・・・・・毎日・・・・・・・?」
美穂の言うとおり、彼女達は毎日顔を合わせ、共に時間を過ごしてきた。
卯月「・・・・・・・」
卯月「えへへっ」
卯月「・・・・・・・そうだったよね」
卯月「一緒にお買い物に言ったり、一緒に勉強したり」
それは何て事のない日常。
決して脚光を浴びることもなく、特に誰かが気にかけることもなく、
時間の流れに埋れていってしまいそうな些細な特別ではない日々。
卯月「美穂ちゃんとは、一緒に居ることが当たり前だったや」
『特別』ではないけれど、
卯月「・・・・・・」
卯月「本当に・・・・・・どうして忘れちゃってたんだろう」
それでも大切だった日々。
卯月「ごめん・・・・・・ごめんね、美穂ちゃん」
卯月「ぐすん・・・・・・」
美穂「えっ!?な、泣かないで欲しいナリっ」
美穂「えっと!その!卯月ちゃんが悪い所なんてどこにもないナリっ!」
卯月「でも私、美穂ちゃんのこと忘れちゃってて・・・・・・」
美穂「た、たとえ卯月ちゃんが私の事を忘れちゃったとしても」
美穂「絶対、ぜーったいっ私が忘れないひなたっ!」
卯月「美穂ちゃん・・・・・・」
美穂「私、こう見えても結構しつこくて負けず嫌いひなたっ☆」
美穂「同じ事があっても、またこうして会いに来るから」
美穂「だから、卯月ちゃんには笑っていて欲しいナリ」
美穂「卯月ちゃんは笑顔の方がずっと素敵ひなたっ!」
卯月「・・・・・・」
卯月「ふっ・・・・・・ふふっ」
美穂「卯月ちゃん?」
卯月「美穂ちゃん、その語尾おかしいっ!ふふふっ」
美穂「!? そ、それで笑うなんて酷いひなたっ!」
卯月「えへへっ、冗談ですよっ!可愛いと思います!」
美穂「・・・・・・えへへっ」
卯月「だけど・・・・・・素敵だな、友達が『特別』なヒーローだったなんて」
卯月「なんだか夢みたいで」
美穂「卯月ちゃん、ヒーローは『特別』じゃないナリ」
卯月「?」
卯月「そうなのかな・・・・・・?」
卯月「でも、今は世間にはたくさんのヒーローが居るから確かに珍しくはないのかも?」
美穂「えっと、そう言うことじゃないひなた」
卯月「?」
美穂「私が、ここまで来れたのは一人の力じゃないナリ」
美穂「渚さん、聖來さん、朋さん、シロクマさんに亜里沙先生とウサコちゃん」
美穂「みんなが私を助けてくれたから」
美穂「私にとっては、みんな間違いなくヒーローだったひなた」
美穂「誰かを守りたい、誰かを助けたい」
美穂「そう思えたら、誰だって誰かのヒーローになれるんじゃないかな」
美穂「だからきっと、それは『特別』なことじゃない」
美穂「私にとっては、いつも笑顔を見せて励ましてくれる卯月ちゃんだってヒーローナリっ☆」
卯月「・・・・・・」
卯月「ふふっ、いいですね、それ!そう考えるほうが素敵かも!」
美穂「ねえ、卯月ちゃん」
美穂「これからも私と・・・・・・・」
美穂「小日向美穂と、お友達で居てくれますか?」
卯月「・・・・・・」
卯月「えへへ」
卯月「また電話するから付き合ってくださいねっ!美穂ちゃん!」
美穂「喜んでっ!」
卯月「それじゃあ約束ですねっ♪」
美穂「うん、約束!」
少女達は約束を交わし――
――
――
――
「美穂ー!」
「起きなさい、美穂。」
美穂「んー・・・・・むにゃ・・・・・・もう少し」
美穂「あと5分だけ・・・・・・寝かせて欲しい・・・・・ひなた」
美穂(ふかふかした温かいお布団に包まれて、眠りの世界に浸ります)
美穂(ああ、こんなに気持ちいいのに、お布団から出るなんて事が出来るでしょうか、いや出来まい(反語))
美穂(誰にも私の眠りを妨げることはできないひなた♪なんて・・・・・・うふふっ)
母「・・・・・・学校遅れるわよ?」
美穂「・・・・・・えっ?」
パジャマ姿の少女が、ガバッと起き上がる。
美穂「あ、あれ?お母さんっ?!」
母「なんで親の顔を見てそんなに驚くのよ」
美穂「えっ、ええっ!?だ、だって私、さっきまでファミレスの前に居て・・・・・・」
美穂「動物達の前で踊って、イワシロボットをたくさん倒して、それでそれで卯月ちゃんと・・・・・・」
母「・・・・・・・夢ね」
美穂「ゆ、夢・・・・・・?」
母「また、変な本でも読みながら寝ちゃったのかしら?」
呆れたように、呟く少女の母。
母「・・・・・・朝ごはんは出来てるから、早く顔洗ってきなさいね」
母「”始業式”の日から遅れてたらかっこ悪いわよ」
美穂「始業・・・・・式・・・・・?」
美穂「あれっ!?今って何月何日何時何分何秒っ?!」
母「自分で時計見なさい」
携帯の画面を確認すると、
示されていた時間は、しっかりと始業式の朝で。
美穂「えっ・・・・・・嘘?じゃあさっきまでのは?」
美穂「本当に夢っ?!ま、まさかの夢オチっ!?!」
「私にはちょっと夢見がちなところがある。」と言う自覚が美穂にはあったが、
まさか、先ほどまでの騒動の終着点が夢オチだったとは、
それこそ、夢にも思ってはいなかった。
美穂「いやいやいやいや・・・・・・」
美穂「落ち着こう」
美穂「どう考えても、あの感覚は夢じゃなかったよね」
夢にしては、ここまでの体験はリアルすぎた。
仮に夢だとしても、『普通』の夢であったとは到底思えない。
美穂「・・・・・・」
美穂「・・・・・・怖いな」
だから怖い。
この後、自分は学校に行くことになる。
美穂「もしクラスが変わったままだったら・・・・・・」
もし騒動が少しも解決していなかったら、と考えてしまう。
それなら全てが夢だったほうがまだいいだろう。
美穂「・・・・・・もし携帯のデータが戻ってなかったら」
そう思うと、携帯の中身を確認するのも怖い。
画面をスタート画面から動かすことができない。
美穂「だけど、確認しなきゃ」
おそるおそる、指を画面に近づけて・・・・・・・
ミミミン!!ミミミン!ウーサミン!!
美穂「うひゃぁっ?!」
突然鳴り響く音に驚いて、手放しそうになったが、
慌てて通話ボタンを押した。
美穂「は、はははははい!も、もしもしっ、ここ小日向美穂ですっ!」
『おはよう!美穂ちゃんっ!』
電話からは、聞きなれた声。
『夏休みの後半はごめんね』
『なかなか電話する機会がなくって』
『それがどうしてだったかは、不思議な事に覚えてないんですけど・・・・・・』
美穂「・・・・・・卯月ちゃん・・・・・・卯月ちゃんなんだよね?」
卯月『うん?』
卯月『そうですよっ!島村卯月ですっ!!』
電話の先では、美穂の友達はなぜかフルネームで名乗るのだった。
卯月『あっ・・・・・本当にしばらくぶりだったから声忘れちゃってた?』
卯月『なんて・・・・・・』
美穂「うぐっ・・・・・・ひっく・・・・・・」
卯月『?!』
卯月『美穂ちゃん!も、もしかして泣いてます!?』
卯月『ほ、本当にごめんねっ!私が全然連絡しなかったから』
美穂「ううん・・・・・そうじゃなくって・・・・・・」
美穂「ちょっと怖い夢を見ちゃったから・・・・・・・ぐすっ」
卯月『そ、そんなに怖い夢だったんだ・・・・・・』
卯月『だったら美穂ちゃんがもう怖くないように、私も考えます!』
卯月『だから安心して!美穂ちゃんっ!』
力強い、友達の言葉を聞いて、ゴシゴシとパジャマの裾で美穂は涙を拭った。
美穂「もう大丈夫です!卯月ちゃんっ!」
卯月『・・・・・・そうですか?なら、良かったです!』
美穂「あの、卯月ちゃん」
卯月『何かな、美穂ちゃん?』
美穂「えっと・・・・・・あ、あのね」
伝えたい事はたくさんあったし、聞きたい事もたくさんあった。
何から言うべきか迷って。結局。
美穂「ずっと友達で居てくれてありがとう」
無難なお礼をする事にしたのだった。
卯月『どうしたの、いきなり?うーん、どういたしまして?なのかな?』
卯月『それじゃあ、こっちもありがとうですね!』
電話先から、笑顔を思わせる声がした。
こうして、小日向美穂はかつての日常を取り戻したのだった。
卯月『あ、そうだ!美穂ちゃん!』
卯月『どうしてあんな大事なことをずっと黙ってたんですか?』
卯月『なんだか水臭いですよ』
美穂「大事なこと?」
卯月『美穂ちゃんがヒーローをやっていたって話です!』
卯月『ひなたん星人の活躍の話、後で聞けるのを楽しみにしてますからっ!』
美穂「・・・・・・」
美穂(忘れていたわけではないけれど)
島村卯月は新聞を通して、小日向美穂がヒーローだと知っていた。
なにも特別な事ではないけれど、これまでの日常とのほんの些細な違い。
美穂(うーん、私の活躍のお話って言っても・・・・・・)
思い出すことと言えば、
「らっ・・・・・らぶりーじゃすてぃすひなたんビームっ☆」
「お願い帰ってください☆ひなひなたんっ♪」 キランッ
美穂「・・・・・・熊本に帰ろう」
卯月『熊本?!なんでっ?!』
――
――
彼女の日常は全て、あっさりと戻っていた。
卯月との連絡を終えて、
携帯電話の中身を確認すれば履歴はしっかりと戻っていたし、
今朝の通学路も、二人の友達と歩むことが出来た。
「あれ?あの子、もしかして”ひなたん星人”じゃない?」
「あっ、本当だ。ヒーローって本当に居るんだ。おーい」
卯月「美穂ちゃん、呼ばれてます!手を振りかえさないとっ!ほらっ」
美穂「うぅっ、促されるとなんだか一人の時より恥ずかしい気が・・・・・・」
友人に言われて小さく手を振り替えす。
茜「もっと大きく手を振りましょうっ!!」
美穂「えっ、お、おっきくですか?!」
戸惑いながらも、しっかりと大きく手を振り替えした。
「きゃああっ、手振り替えされちゃった!可愛い!」
美穂「う、うぅ~」
美穂(やっぱり、まだ恥ずかしい)
卯月「ついでだからお礼とかも言っておいた方がいいのかも、応援ありがとうございます!って」
美穂「えっ、ええっ!そ、それはまだ恥ずかしいよぉ!」
茜「恥ずかしいですか!?うーん・・・・・・」
茜「はっ!そうですっ!刀を抜いちゃったら恥ずかしさも吹っ飛んじゃうかも!!」
美穂「そっ!それだけは絶対ダメっ!」
美穂(通学中に友達には、私がヒーローをすることになった経緯は全部話しちゃったけど)
美穂(・・・・・・なんだかいじられるネタが増えているだけな気がする)
――
学校に辿り着いても教室が変わっているなんて事はなく、
しっかり夏休み前どおり2年の1組の教室。
「待ってたよ!美穂ちゃん!」
教室ではヒーローの到着にやっぱり騒がれはしたけれど、
またこのクラスに、普通に通える喜びの方が、恥ずかしさよりも勝っていた。
だから美穂は顔をあげて、誇らしく「自分がヒーローをやっている」と、
本来のクラスメイトたちに話すことも出来るのだった。
美穂(取り巻く状況も、周囲の環境も)
美穂(些細な違いはあっても、すっかり戻っちゃった)
あの騒動など、まるでなかった事であるかのようでさえあった。
美穂(あの騒動は・・・・・・もしかしたら本当に夢だったのかな?)
それが夢でなかったと確信したのは、
放課後、
愛野渚と再び会った時のことだった。
――
――
美穂「結局、あの時の事を覚えてる人は私達だけなんでしょうか?」
渚「どうなのかなァ?私の周りにはあまり影響がなかったからなんとも」
愛野渚は、覚えていた。
小日向美穂が『普通力』と戦い、奔走した時の事を。
渚「今もまだ、夢だったって言われたらそうなのかもって思うかもね・・・・・・」
渚「こうして放課後に、美穂ちゃんと会って話すまでは確信を持てなかったし」
美穂「私も同じです。渚さんと話すまでは『本当に夢だったのかも』って思ってて」
始業式を終えて、友人達との帰路に就いた美穂は、
例の交差点で、再び愛野渚と出会った。
赤信号で止まっているときに、渚の方から話しかけに来てくれたので、
卯月と茜には先に行ってもらって、少しだけ二人で話す時間を貰ったのだった。
美穂「セイラさんは覚えてなかったんです」
事件に関わった人物は覚えているのだろうかと思ったが、
そうではないらしく、
美穂が、今朝お礼のメールを送っておいた水木聖來は、
この事件の事を覚えていなかった。
『そっか、そんな事があったんだ・・・・・・』
『大変だったんだね、美穂ちゃん』
『もちろん、信じるよ。美穂ちゃんが嘘付くとは思えないから、安心して』
さきほど電話をした時のやり取りを美穂は思い出す。
斥力について相談した時と同じく、彼女はやはり美穂のことを信頼してくれているらしかった。
渚「あの出来事をほとんどの人たちが覚えてない」
渚「亜里沙さんが言ってた、『世界の縺れ』が元に戻ったって奴なのかな」
美穂「でも、どうして私たちは覚えてるんでしょう?」
美穂「・・・・・・後は、覚えてるとしたら亜里沙先生達かな?」
渚「だね、あの人なら何か知ってそうな気がするけど」
ウサコ(もちろん覚えてるウサー!)
美穂、渚「!!」
突然、頭の中に聞こえた声。
美穂「亜里沙先生?!」
――
――
シロクマPが走らせる車の中で、
亜里沙は目を瞑り、ずっと遠くに居る二人の少女に思念を飛ばす。
亜里沙(事件の事を覚えているのは、美穂ちゃんが知っている人たちの中では5人だけですよ)
亜里沙(美穂ちゃん、渚ちゃん、占い師ちゃん、私)
亜里沙(それとウサコちゃんっ!)
美穂(それじゃあ、シロクマPさんは?)
亜里沙(覚えてませんねぇ)
あの場にいた中でも、シロクマPはそのときの事を覚えていないらしい。
ウサコ(『世界の縺れ』が解消されたことで、世界はより無理の無い形に戻ろうとするウサー)
亜里沙(だから、あの時にあった事は覚えてないのが普通なんです)
亜里沙(美穂ちゃんは『小春日和』の所有者だから、どうあっても覚えてるみたいですけれど)
『小春日和』の強烈な意志は、
改変された時と同じく、解消された時も、その記憶を保持していてくれたらしい。
亜里沙(渚ちゃんや、占い師ちゃん。そして私も能力者だから)
亜里沙(何らかの形で記憶を保持できていたみたいですねぇ)
渚(能力のおかげだったかァ、私の場合はあの時の記憶と今の記憶の境界をなくしてるって事になるのかな?)
渚(うーん、自分の事ながらよくわからないけどサ)
亜里沙(さて、これから先生たちは、動物園に向かいます)
亜里沙(『普通力』の影響は、動物達を周りに集めたところまでで)
亜里沙(あのアニマルパークでの脱走は必ず発生するはずですから)
亜里沙(動物達との交渉にですね)
美穂(あの時の事は・・・・・・あまり思い出したくは)
亜里沙(うふふ、可愛かったですよぉ♪)
美穂(は、恥ずかしい・・・・・・・)
亜里沙(・・・・・・とにかく、美穂ちゃんおめでとう)
美穂(・・・・・・ありがとうございます、亜里沙先生も協力してくれて)
亜里沙(一番は美穂ちゃんが頑張ったからですよ)
亜里沙(うふふ♪また今度、美穂ちゃんにはシロクマちゃんと会いに行きますからね♪)
美穂(・・・・・・えっ、あっ!それって?!)
亜里沙(それは会ってからのお楽しみと言う事で♪)
亜里沙(それじゃあ、二人とも)
ウサコ(バイバイウサー!)
そして彼女は、少女達との通信を切る。
亜里沙「・・・・・・」
亜里沙「・・・・・・ふぅ、どうにか解決しましたねぇ」
ウサコ「一時はどうなる事かと思ったウサ」
シロクマP「お疲れ様です、先生」
溜息をつく亜里沙を運転席から労うシロクマP。
シロクマP「それにしても、そんな大変な事が知らない間に起きていたんですね」
亜里沙(うん、シロクマちゃんも色々巻き込んじゃってごめんなさいね)
彼女は、手渡されていたカップコーヒーを飲みながら、
能力を使ってシロクマPに返事をする。
シロクマP「いえいえ、わたしはひなたん星人ちゃんとの接点が、」
シロクマP「いつの間にか出来ててラッキーくらいに考えてるんで構いませんよ」
亜里沙(そう言ってくれて、安心したわっ)
シロクマP「ええ、本当に安心ですね」
シロクマP「先生も罪悪感に押し潰されずに済みますし」
亜里沙(・・・・・・え、えっと、シロクマちゃんそれはどう言う・・・・・・)
シロクマP「とぼけなくていいですよ、今回の事件」
シロクマP「最初に引き金引いたのは、先生でしょ」
亜里沙「ぶふっ」
ウサコ「即効でバレちゃってるウサ」
思わずコーヒーを吹き出す、亜里沙であった。
シロクマP「話を聞く限りだと」
シロクマP「事件が発生したきっかけは『小春日和』と『普通力』が出会った事ではなくて」
シロクマP「”ひなたん星人ちゃんが新聞に載った”のがきっかけです」
シロクマP「つまり、『普通力』の女の子に『友達がヒーローをやっている』と”伝わった”のが原因ですよね」
亜里沙「・・・・・・」
シロクマP「ところが、『普通力』には簡単な意識の操作と斥力による妨害ができますから」
シロクマP「新聞に載った程度で、その子に情報が伝わりはしないはずです」
シロクマP「いえ、むしろ通常であれば”新聞にさえ載らなかった”んじゃないですか?」
意識の操作と斥力による妨害を発生させる事ができる『普通力』ならば、
島村卯月の周りに『特別』な事が起こらないように、
そもそも、『友達がヒーロー』だとわかってしまう新聞を彼女に近づける事はなかったはずである。
いっそ、新聞にひなたん星人が載らないように操作することさえできたはずだ。
シロクマP「じゃあ、『普通力』の斥力を跳び越えてそれが伝わったのはどうしてか?」
シロクマP「いえ、それを伝える事ができたのは誰なのか?」
シロクマP「先生しかいませんよね」
彼女の力は”伝えたい事を伝える力”
時には、噂話のような形態で、
時には、虫の知らせの様に、
そして、時には『新聞』を通して、
伝えたい人に伝えたい事を伝えることが出来る。
亜里沙「・・・・・・正解です。はぁ、シロクマちゃんには敵いませんねぇ」
シロクマP「先生が解決のために随分と尽力してたらしいのも」
シロクマP「事態をややこしくしてしまったのが先生自身だったからでしょ?」
亜里沙「だってあそこまでこじれるなんて思わなかったもの」
亜里沙「卯月ちゃんに『友達がヒーロー』だって自然に伝えたら」
亜里沙「彼女は受け入れてくれるんじゃないかな、って思ったし」
ところが、亜里沙の想像通りにはならず、
島村卯月の『普通』を守る『普通力』は思った以上に強力で、
周囲の環境を捻じ曲げ、縺れさせるに至った。
シロクマP「どうしてそこまでしたんです?」
亜里沙「どうしてもしたかったんです」
亜里沙「『アイドルヒーローを目指してくれている子の一人が』」
亜里沙「『”普通力”と呼ばれる力が邪魔をしているせいで』」
亜里沙「『アイドルヒーローにはなれない』なんて」
亜里沙「そんな”啓示”があったら、」
亜里沙「あれこれ手も回したくなっちゃうでしょ?」
小日向美穂は、あのままではアイドルヒーローになる事は”絶対に”なかった。
彼女は『小春日和』と出会い、ヒーローたる力を得るに至ったが、
『普通力』を持つ少女には、その力の存在は隠し通されるはずであった。
なぜなら『普通力』は卯月の『普通』を守るために、周囲の意識さえ操作する。
美穂がヒーローである事を、卯月に隠して活動しているうちはそれでいい。
だが、美穂がヒーローである事が世間一般に、それもアイドルヒーローなどと広く知れ渡ってしまっては、
卯月の『普通』が守れなくなる。
だから『普通力』はそうなる前に美穂の周囲の意識を少なからず改変するつもりであった。
『普通力』の意識操作によって、美穂は新聞に載ることもなければ、
アイドルヒーローのスカウトにも目を付けられる事は確実になかっただろう。
ひなたん星人が有名にさえならなければ、卯月の『普通』の日常は守られるのだから。
小日向美穂は有名になることはない。
つまりアイドルヒーローにはなれないはずだったのだ。
それをとある方法で知った持田亜里沙は、
こっそりとほんの少し手を貸すつもりであったが、
シロクマP「逆に思いっきりこじらせてしまった訳ですね」
亜里沙「・・・・・・その通りです」
亜里沙「・・・・・・」
亜里沙(せっかく教えてもらえた”啓示”だけど)
能力を使って、亜里沙はある存在とだけ交信を始める。
亜里沙(ガブリエルちゃんは肝心な事は教えてくれませんでしたねぇ)
ウサコ(怒らない欲しいウサー)
ウサコ(完璧な解決法が最初からわかっていたなら、亜里沙先生にちゃんと教えたウサ)
ウサコ(ただ、世界に蔓延るたくさんの呪いのせいで)
ウサコ(わた・・・・・・・ガブリエル様も本来の力が十全に発揮できないウサ)
ウサコ(断片的な”啓示”しか伝えられないのはそのせいウサ)
ガブリエル、伝令の天使。
天使と呼ばれる存在の”啓示”によって、
亜里沙は『普通力』の存在を知り、今回の事態を知りえた。
彼女が引き金を引くこととなったのは、天使の啓示があったが故である。
亜里沙(呪い・・・・・・・つまりカースのせいなのよねぇ)
亜里沙(ガブリエルちゃんが、ちゃんとした姿をして地上で活動できないのも)
ウサコ(そうウサ)
亜里沙(ガブリエルちゃんが、大事な事をちゃんと伝えてくれないのも)
ウサコ(か、解決したんだし、もう許して欲しいウサ!)
亜里沙(・・・・・・カースはどうして、世界に蔓延することになったのかな)
ウサコ(人の負の感情と、悪魔の活動が関わっているウサ)
ウサコ(だけど根本的となる原因は、わたガブリエル様にもわかってないみたいウサ)
ウサコ(根本をどうにかしないと・・・・・・悪魔達を退治できたとしてもイタチゴッコウサ)
ウサコ(だから、ウサコと先生はカースについて調べてるウサ!)
持田亜里沙の『メッセージ』は、伝令の天使から伝えられた力である。
世界に蔓延るカースのせいで、自由には動けなくなってしまった一人の天使の代役として、
亜里沙はカースについて調べるために、アイドルヒーロー同盟の一員として活動しているのだ。
亜里沙(カースと言えば、美穂ちゃんの刀もカースなのよね)
ウサコ(だったウサ)
亜里沙(それにしては随分と、良い子みたいだったけれど・・・・・・・)
ウサコ(・・・・・・あそこまで呪いをプラスに変えられる力は興味深いウサ)
亜里沙(?)
亜里沙(それは美穂ちゃん自身の力なの?)
ウサコ(たぶん、そうウサー)
亜里沙(その力の正体は、ガブリエルちゃんにはわからないのかな?)
ウサコ(カースが関わってるから、わた・・・・・・ガブリエル様の力で調べるのがちょっと難しいウサ)
亜里沙(うーん・・・・・・本当にカースって何なんでしょうねぇ)
ウサコ(それがわかれば苦労なんてしないウサー)
シロクマP「先生、もうすぐアニマルパークですよ」
亜里沙「了解ですよぉ」
亜里沙「とにかく今は、少しずつでも私たちのできる事からやっていきましょうか」
ウサコ「ウサッ!」
――
――
――
マルメターノおじさん「それにしても今日はお客さんが多いな」
ところ変わって、とあるファミレスの近くに来ていたソーセージ屋台。
今日も店の主はいつもと変わらず、ソーセージを焼いては売っている。
マルメターノおじさん「こんなに行列ができるなんてなぁ、これほど嬉しいこともないぜ」
彼のソーセージを食べたお客さん達はみんな、笑顔で帰っていく。
そして、
卯月「美穂ちゃんも、ここのソーセージ屋台の噂知ってたんだね」
美穂「うん、えっとちょっとした伝があったから・・・・・・本当に美味しいみたいですよ」
茜「美味しいソーセージ!ワクワクしますねっ!!!」
卯月「でも長い行列だから結構待っちゃうのかも?」
茜「苦労は最高の調味料!!きっと行列に並んだ分だけ美味しくなるはずですっ!!!」
美穂「ふふっ、楽しみですね♪」
ワクワクした様子で順番を待っている人たちが居る。
マルメターノおじさん「ふっ、それだけ楽しみにされてるとわかるとこっちも気合が入るし腕が鳴るってもんだ」
マルメターノおじさん「よし!今日は特別だ!いつも以上に気合入れるか!!」
そう言うと彼は・・・・・・
左 手 の ソーセージを 串ごと 右 回 転 !!!
右 手 の ソーセージを 串ごと 左 回 転 !!!
卯月、茜、美穂「?!」
結構のんきしてた美穂達も、拳が一瞬巨大に見えるほどの回転圧力にはビビった!
そのふたつの拳の間に生じる芳しい香りの圧倒的破壊空間は!!
まさにマルメターノ的ソーセージの小宇宙!!!
彼は瞬くも無く、美味しいソーセージを次から次へと焼き上げていく!!
卯月「す、すごい!あんな技術があるなんて!」
茜「せ、世界は広いですねっ!!!な、なんだか燃えてきましたぁっ!!!」
美穂「行列の進みも前の時よりずっと早くなってる!!?」
美穂(改変されていた時はあんな凄い技術を披露してたように見えなかったけど・・・・・・)
美穂(どうやら卯月ちゃんの前でも、これくらい『特別』な事は『普通』に起きるようになったみたいです)
美穂「あーむっ」
出来る限り口を大きくして、ソーセージを頬張る。
美穂「あ、あふっ!」
卯月「あついでふっ!」
茜「あふあふっ!」
焼きたてのソーセージは、一口噛めばジューシーな肉汁が溢れて来て、
口の中が熱いもので満たされる。
美穂「ごくっ、でも、これ本当すっごくおいしいですねっ!」
卯月「うんっ!何だろう?お肉が違うのかな?」
茜「焼き方も凄かったですよねっ!こう・・・・・ギャロンギャロンって感じでしたっ!」
それぞれ感想を言い合いながら、ソーセージを食していく。
「「「ごちそうさまでした」」」
茜「美味しかったぁあー!!」
美穂「ふふっ、また食べたいですね」
卯月「それじゃあ、また一緒に食べに来ましょう♪」
美穂「また一緒に・・・・・・」
茜「?」
卯月「どうかした?美穂ちゃん?」
美穂「ううん、なんでも」
美穂「えへへ、また一緒に来ようね♪卯月ちゃん!茜ちゃん!」
卯月「うん!もちろんです!」
茜「また是非来ましょうっ!!」
こうして、少女の日常は取り戻された。
幾多の試練を打ち破り、手にしたそれはきっと掛替えのないもの。
そして――
「キャアアアアアアアアア」
突如、周囲に響く悲鳴
美穂「!?」
「イワッシー!」「シャーシャッシャ!!」「シャッチョサン!」
街に現われたのは、世間を騒がせる魚型ロボットたち!!
茜「あっちで魚のロボットたちが暴れてるみたいですっ!!」
卯月「美穂ちゃんっ!」
美穂「うんっ!」
友達の呼びかけで、腰に差した刀を抜く少女。
途端に彼女は漆黒の衣装に包まれて、
美穂「あ~はっはっはっは!」
高らかに笑い声をあげる!!
美穂「愛と正義のはにかみ侵略者ひなたん星人、呼ばれてただいま参上ナリっ!!」
美穂「この街はまるごとつるっとぜ~んぶ私の物ひなたっ☆」 キランッ
茜「美穂ちゃんカッコイイ!!」
卯月「美穂ちゃん、頑張って!!」
美穂「ふふん♪任せるひなたっ!」
美穂「この街は日常はきっと、私が守ってみせるナリ!!」
彼女にとって掛替えの無いものを守る為に、
ひなたん星人は今日も戦う。
美穂「でこぽぉんっ!!」
おしまい
『メッセージ』
持田亜里沙に天使ガブリエルから伝えられた能力。
伝令の天使から伝わった能力らしく、聞き取り伝えるための力。いわゆるテレパシー系統の能力。
聞きたい相手から聞きたい事を聞くことが、伝えたい相手に伝えたいことを伝えることが出来る能力。
能力の送信と受信に天聖気を使っているために、
天聖気を受け入れないものにはこの能力は、最大限には通じないことがある。
彼女の腹話術は、この『メッセージ』を利用しているのではないかともっぱらの噂。
『会話《コミュニケーション》』
メッセージを利用して、特定の人間同士の脳内会話が出来るようにすると言う通信手段。
この術に距離や範囲、人数などに制限は無いが、あまり広い範囲の多くの人間と会話しようとすると、
混線して訳がわからないことになるのでやらない。(と言うか多くの場合は電話やその他通信手段で事足りる)
能力名の通り、通信相手に亜里沙と会話しようと思う意志が無ければ、この能力は通じない。
『噂話《ゴシップ&ニュース》』
メッセージを利用して、特定地域にうわさ話を流す。
ひそかに女子高生の間にソーセージ屋台が来ているうわさを流す事などができる。
『共感《シナスタジア》』
メッセージの聞きたい事を聞き取れる力を利用して、
言葉から、映像や匂いや感触と言った付随情報を”聞き取る”ことができる。
(例えば誰かの噂を聞いただけで、その誰かの姿かたちをその目で見たことあるかのように情報を得ることが出来る)
『注目!《アテンション!》』
メッセージの伝えたいことを伝える力を利用して、
周囲に対して強力な注意喚起を行える能力。特定のものに大衆の注目を集めることができる。
『交信《コンタクト》』
メッセージを利用して、別種の生き物との会話が行えるようにする通信手段。
動物はもちろん、植物や虫とさえも会話を可能にする。
ただし”意志”がそこにあると認められるものとしか会話は出来ない。
『告知《アナンシエーション》』
持田亜里沙の能力。メッセージの持つ超常的な力。奇跡の行使。
聞きたいことを聞くために、伝えたいことを伝えるために奇跡すら引き起こす。
強大な能力であるため何度でも使える力ではなく、聞き取る方法や伝える手段も選べない。
彼女が通常の手段で知りえない情報を知るのも、この力のおかげ。
また、新聞を通して、『普通力』の持つ斥力すら跳び越えて、島村卯月に『小日向美穂がヒーローである』事を伝えたのもこの力。
そのせいで矛盾を抱えた世界が縺れることとなる。
つまり今回の事態を引き起こした犯人は持田亜里沙であった。
『ガブリエル』
受胎告知で有名な、熾天使の一人。神の力。
昔は洞窟で瞑想してたオジサンに何年も付き纏って神の言葉を伝えたりした事もあったらしい。
伝令の天使であり、全能神と人間を繋ぐメッセンジャー。
持田亜里沙に『メッセージ』(聞きたい事を聞き、伝えたいことを伝える力)を伝えた。
”神の力”と呼ばれ、神のメッセンジャーとして働き、
多くの命の誕生と死を見守ってきた彼女は、人々の持ち得る”能力”についても詳しいのだが、
地上にカースが大量に現れたことによって、彼女の力は大幅に制限されてしまったらしく、
知識を引き出す事も、本来の能力を十分に発揮する事も難しくなっているようだ。
現在は持田亜里沙と共に、カースを退治できるヒーロー達の後押しをしながら、カースについて調べまわっている。
本来の姿をみせることはないが、すぐ近くで持田亜里沙を見守っているらしいウサ
『世界の縺れ』
矛盾を抱えた世界が、無理の無い形になろうとして起こる現象。
異なる2つ以上の意志を受け入れるために環境自体が自らの形を歪め、許容しようとする働き。
『小春日和』の”特別なヒーローとして存在しようとする”意志と
『普通力』の”普通で平穏な毎日を送ろうとする”意志を受け入れるため、
小日向美穂のクラスを変え、記録の改竄を行った。
矛盾を解消してやれば、糸の縺れが解けるように世界の形は元に戻る。
いつまで夏休み直後の話してんだ!もう冬だよっ!!!もう二周年過ぎたよっ!!
本当に色々すみませんでした
次からはこんな事ないように気をつけます
結局やりたかった事は島村さんの能力の緩和ですね
ヒーローが傍にいることくらいは普通にしておきたいなあ、と思って
スケール広げすぎて色々やらかしちゃいました。はい、すみません・・・・・。
とりあえずは、VS普通力のお話ここまでです、
卯月、茜、渚、朋お借りしました
本当ご迷惑おかけしました
乙ー
ガブリエル……一体どこのウサ誰なんだ?
マルメターノおじさんは多分なんとなく覚えてそうだな
乙です
ガブリエル…一体何コなんだ…
そしてマルメターノおじさんがいろいろ持っていった気がするw
乙乙う
遅れたけどユズおめでとう!
やったねひなたん! 友達に戻れたよ!
それはそうとイワッシャーとかいう便利雑魚、ちかたないね
憤怒の街で投下します
突然変異的に誕生したカース、『蟲の王』。
その複眼が、三人と一体を捉えた。
拓海「こいつ……カースか!?」
一人はアイドルヒーロー「特攻戦士カミカゼ」こと、向井拓海。
有香「非常に……禍々しい気を纏っています……!」
一人はさきほど「狂戦士」となって暴れていた、中野有香。
星花「…………」
そして、オーラを操る能力者、涼宮星花と、彼女の使役する人形、ストラディバリ。
蟲の王『ギギギギギ……ギィィ!!』
蟲の王は本能で察した。
「こいつらは俺が狩るに値する」と。
蟲の王『ギィィィィッ!!』
大きく鎌を振り上げ、相手を威圧する。
拓海「ッ……! 闘る気か!」
有香「上等です! 鍛錬の成果を……」
拳を構える拓海と有香。
星花「お二人とも、お待ちになってください」
星花は一歩前に出て、二人を手で制した。
拓海「星花……?」
星花「ここは、わたくしが。……ストラディバリ、開演……!」
ストラディバリ『レディ』
星花の演奏に応え、ストラディバリがその巨体を起こす。
拓海「何言ってんだ! 一人でこんな化け物……」
星花「拓海さんも、有香さんも。まだ鍛錬は済んでいないでしょう」
有香「ッ……!」
星花「恐らくはこの先、更なる脅威が待ち構えているはずです。その為の鍛錬を、『この程度の障害で』
中断していただくわけには参りません」
有香「……しかし!」
拓海「分かった、アタシ達は続ける」
有香の反論を、拓海の言葉が遮った。
有香「拓海さん!?」
拓海「星花の言うことも最もだ。こんな状況を造ったヤツが、これで終わるとは思えねえ。
アタシ達が今打てる最良の手は、それに備えて鍛え続けることだ」
有香「…………」
拓海「その代わりに星花、一つ約束しろ。…………死ぬなよ」
星花「…………はい」
星花は振り向かずに答えた。
それを見た拓海はフッと笑うと、有香を連れてその場を去った。
星花「お約束は……お守りします。オーラバレット!!」
ストラディバリ『レディ』
先手必勝、と言わんばかりに、ストラディバリは大量のオーラの弾丸を発射した。
蟲の王『ギシィ……!!』
オーラバレットの直撃に、蟲の王はグッと身を屈める。
星花(先手は取れました! このまま一気に……)
蟲の王の動きに、星花は一瞬慢心した。
その一瞬を、蟲の王は見逃さなかった。
ゴォッ
星花「…………えっ?」
突如その場を支配した、轟音と暴風。
目の前には、離れた位置に屈んでいたはずの蟲の王。
一瞬遅れて、遥か後方で、ボゴォンという音が響いた。
星花「……ストラディバリ!?」
数十メートル後ろのコンクリート壁に、ストラディバリの巨体が叩きつけられていた。
星花(な、何が……一体、何が起こって……!?)
その元は、蟲の王の素体の一つ、『メダカハネカクシ』。
《メダカハネカクシという昆虫の仲間は、敵が迫ると、ガスを勢いよく発射し、》
《ジェット噴射のように水面を飛んで逃げる。それによって、》
《メダカハネカクシは自長の150倍の距離を一秒で移動すると言われ、》
《そのスピードは単純に人間サイズに直すと、時速945kmに相当する。》
蟲の王はそのジェット噴射を、「逃走」ではなく「突進」に利用した。
結果、ストラディバリは目にも留まらぬ速さで壁面に激突したのだった。
星花「そんなっ……!?」
蟲の王『ギシャアアアア!!』
蟲の王は前足の大鎌を振り上げ、星花に振り下ろす。
星花「ッ! オーラロケットパンチ!」
ストラディバリ『……レディ』
後方から放たれたロケットパンチが、蟲の王の巨体を吹き飛ばした。
蟲の王『シャギャアアアア!!』
星花「畳み掛けます! オーラボム!!」
ストラディバリ『レディ』
ストラディバリが胸部装甲を展開し、そこからオーラの塊を二発放った。
星花(直線コース! これなら先ほどのような突撃は……)
蟲の王『ギシャッ!!』
星花「っな……!?」
オーラボムが被弾する寸前、蟲の王は飛んだ。否、「跳」んだ。
羽根は一切広げず、その発達した『サバクトビバッタ』の後足で。
《サバクトビバッタ。トノサマバッタ同様、異様に発達した後足で飛び跳ねる事で知られているが、》
《もし人間大のスケールであれば、一回のジャンプで九階建てのビルを優に飛び越すと言われており、》
《これは昆虫の中でもトップクラスの――》
ズシンッ
蟲の王『ギギギギギ!!』
《――脚力である。》
星花「…………! オーラストリング!」
ストラディバリ『レディ』
ようやく星花の隣へと戻ってきたストラディバリが、蟲の王へ向けてオーラの糸を放った。
蟲の王『シャギャアア!!』
オーラストリングが前足の鎌に絡みつき、拘束した。
星花「今です! オーラロケット……」
ブチィッ
星花「!?」
オーラストリングが、いとも容易く引きちぎられた。
以前カイと亜季を襲った手練らしい女性ですら、この糸には苦戦していたのに。
星花「……オーラロケットパンチ!!」
ストラディバリ『レディ』
再度ロケットパンチが放たれる。
蟲の王『シャギッ!』
蟲の王は、今度は正面からドッシリと構えた。そして、
ギィィン
星花「……そん、な……!?」
鈍い金属音と共に蟲の王に直撃したロケットパンチは、そのまま勢いを殺され、地面に落ちた。
『クロカタゾウムシ』の甲皮に、一切の傷跡は無かった。
《作成された『ゾウムシの標本』に於いて度々見られる奇妙な事態。不恰好にもこの項目だけ――》
《この項目だけピンではなく糊で台座に留めてあるのだ。理由は至極単純、"針が刺さらないから"である。》
《"擬態"せず、されど"捕食"、固過ぎてされず、"翅"、固過ぎて開かず。》
《クロカタゾウムシ。体長15mm弱のこの黒い珠は、"最も硬い昆虫"の一つとして、その名を知られている。》
蟲の王『ギシシシシ……』
嘲るような声を上げる蟲の王。
星花「くっ……オーラストリング!」
ストラディバリ『レディ』
落下したロケットパンチをストリングで回収し、ストラディバリは体勢を整える。
星花(機動性、防御力……全てが通常のカースとは段違い、いえ、最早別次元ですわ……)
星花の頬を冷や汗が伝う。
その汗が頬から顎へ伝い、顎の先から雫となって滴り落ちる。
そして、その汗が地面にぶつかり弾けたと同時に、蟲の王が再び動いた。
蟲の王『ギッ!!』
星花「ッ! ストラディバリ!!」
ストラディバリ『レディ』
蟲の王は、ジェット噴射による体当たりを再度敢行した。
しかし、同じ手に二度もやられる星花ではない。
ガキィン
蟲の王『ギィッ!?』
事前に構えたストラディバリが、蟲の王の体当たりをガッシリと受け止めた。
星花「オーラバレット!!」
ストラディバリ『レディ』
ゼロ距離から放たれるオーラの弾丸。
しかし、蟲の王には傷一つつかない。
星花(このままではジリ貧……何か手を打たないと…………ッ?)
今、気付いた。
蟲の王が、ストラディバリとの力比べを続行しながらも、首だけをこちらに向けていることに。
そして、『グンタイアリ』の禍々しい顎が、自分へ向けていっぱいに広げられていることに。
星花「……えっ……」
次の瞬間には、右脚に焼かれるような激痛が走っていた。
星花「あっ……ぅああぁぁぁあああああ!?」
正確に言えば、焼かれるような、ではない。
実際に、焼かれていた。
星花「ああっ……ぅぁっ……はぁっ……あ……!?」
バイオリンを取り落とし、呻き声を上げながらその場にうずくまる星花。
星花「ぅぐっ……はっ……!」
星花の脚を焼いたのは、グンタイアリではなく、『ミイデラゴミムシ』の能力。
《ミイデラゴミムシ。蟲の王の口腔部を構成するこの昆虫は、"過酸化水素"と"ハイドロキノン"、》
《二つの物質を体内で合成し、超高温の『ベンゾキノン』を爆音とともに放出する。》
《蟲の王がそれを4mの巨体で行えば最早『屁っぴり虫』では済まない、火炎放射器さながらの大爆発を起こす。》
蟲の王『ギギ、ギギギギギ……!』
もう一度、蟲の王がベンゾキノンを放つべく顎を大きく開いた。
うずくまる星花の頭に、ピタリと照準を合わせる。
星花「……ッ!」
有香「はあああああああああああっ!!」
蟲の王『ギシッ……!?』
ベンゾキノンが放たれる直前、突然有香が現われ、蟲の王の横っ面に強烈な飛び蹴りを見舞った。
その結果、星花の身体を焼くはずだったベンゾキノンの軌道は大きく逸れ、近くのビルに着弾した。
星花「ゆ、有香さん……?」
拓海「星花! 立てるか!?」
少し遅れて拓海も駆けつけ、星花に手を差し伸べる。
星花「拓海さん……何故……?」
拓海「有香が『嫌な予感がする』って言っていきなり走り出したから追いかけてきたんだ」
有香「だああっ!!」
有香の渾身の正拳突きを、蟲の王は大ジャンプで回避する。
星花「……すみません、私なんかの為に、お二人の邪魔を……」
拓海「……ばーか、気にすんなよ」
拓海は俯いて震える星花の肩をそっと抱き、ゆっくりと立たせた。
星花「きゃっ……」
拓海「困ったときはお互い様……だろ?」
星花に後ろから密着してその身体を支えながら、拓海はにっと笑ってみせた。
有香「星花さん、これを!」
有香は星花が取り落としたバイオリンを拾い、彼女に手渡す。
星花「…………ありがとうございます、拓海さん、有香さん。……いけますか、ストラディバリ」
ストラディバリ『レディ』
星花の言葉に、ストラディバリが応える。
拓海「アタシが支えててやる! 思いっきりやれ、星花!!」
星花「はい! ストラディバリ、『アレ』を試しますわ!」
ストラディバリ『レディ』
蟲の王『ギャシャアアアア!!』
蟲の王が大鎌をストラディバリへ振り下ろす。
星花「行きます! オーラブレードッ!」
ザシュッ
鋭い音と共に、蟲の王の鎌が地面に落ちた。
蟲の王『ギッ!? ギィィィッ!?』
鎌を切り落としたのは、ストラディバリの手刀。
その手刀に、薄くオーラを纏わせてある。
星花「まだまだ行きますわ!!」
ストラディバリ『レディ』
ストラディバリが蟲の王へ大きく踏み込む。
星花「有香さん、離れて下さい!」
有香「は、はい!」
有香が大きく飛び退くと同時に、ストラディバリの手刀が蟲の王の腹へ深々と突き刺さった。
蟲の王『ギ……ギッ……!?』
身体を震わせた蟲の王が、三度ベンゾキノンを放つ為に顎を開いた。
星花「させません! ハァッ!!」
左から振るわれた手刀が、蟲の王の首をはね落とす。
蟲の王『!? ……!?』
それでも、蟲の王は未だ息絶えない。
蟲の王もカース。核が無事なら、再生出来る。
蟲の王『シャギャアアアアアア!!』
拓海「チッ、キリがねえぞ!」
星花「ならば、倒れるまで! ストラディバリ!!」
ストラディバリ『レディ』
ストラディバリの手刀からオーラが消え、代わりに握り拳を作った。
そしてそのまま、力任せに蟲の王を殴り飛ばす。
蟲の王『ギャシッ!?』
蟲の王は十メートルほど吹き飛ばされて地面に突っ伏した。
星花「もう一つ、行きますわ! ストラディバリ!」
ストラディバリ『レディ』
ストラディバリは蟲の王へ向けて両拳をグッと突き出す。
蟲の王『ギシッ!』
蟲の王はそれを見て嘲笑した。
(何だ。さっきの腕が飛んでくる奴か)
(そんなもの、俺の身体に通じない事はさっきハッキリしただろう)
(学習能力の無い、虫けらめ)
しかし、蟲の王の慢心はすぐに打ち砕かれた。
ギィィィィィィィィィィィィィィ
蟲の王『!?』
ストラディバリの前腕が、轟音を上げながら高速回転を始めたのだ。
(な、何だ……知らない! こんなものは知らない!)
(逃げろ……俺の本能がそう告げている!)
蟲の王は大慌てで星花達に背を向ける。
奴に汗腺があれば、今頃冷や汗でびっしょりであろう。
星花「遅い! オーラ、ドリルパァーンチッ!!」
ストラディバリ『レディッ』
轟音と共に、ストラディバリの拳が回転したまま発射された。
それと一瞬遅れて、蟲の王は尾部からジェット噴射でその場から逃走を図った。
メダカハネカクシ、本来の用途である。
(危ない所だった……あのままでは殺され…………!?)
街の外縁部が近づいてきた時、蟲の王は気付いた。
轟音が、遠ざからない。
むしろ、どんどん近づいている。
不審に思い、複眼で後ろをチラと見やる。
ズォッ
直後、二発のオーラドリルパンチが蟲の王の胴体を貫通した。
硬い甲皮も、身体の泥も容易く貫き、核も粉みじんに砕かれた。
蟲の王『シャギィィィアアアアアアッ!?!?』
――――
星花「……終わった、はず、です」
オーラドリルパンチの帰還を確認した星花がふうと大きく息を吐く。
拓海「すげえ……」
有香「あんな高速で逃げたのに……みるみる内に距離を縮めていきました……」
有香と拓海は、眼前の光景にただ唖然としている。
星花「…………うぐっ!」
拓海「ッ、星花!? やっぱりまだ痛むのか!?」
精霊の祝福を受けた樹、そして自らのオーラの力があるとはいえ、星花が右脚に受けたダメージは甚大だ。
星花「いえ、平気……ですわ……それよりも、お二人の鍛錬、の続き……を……」
有香「む、無理はダメです! 後は二人だけでなんとかやるので、星花さんは休んでいて下さい!」
有香はそう言いながら胴着の裾を少し破き、星花の右脚に包帯のように巻きつけた。
星花「し、しかし…………」
拓海「心配すんな、アタシ達なら大丈夫だ。星花は寝てな?」
拓海は星花をより一掃強く抱きしめ、頭をポフと撫でてやる。
星花「…………分かりました。あとは、お願いしま……」
言い終える前に、星花の頭がカクンと落ちた。
有香「せ、星花さん!?」
拓海「安心しろ、生きてる。多分、オーラとやらを一気に使いすぎたんだな。おい、スーの字。星花を運んでくれ」
ストラディバリ『レディ』
ストラディバリは、拓海から星花を受け取り、優しく抱き上げた。
拓海「……よし! 続きやるぞ、有香!」
有香「押忍!」
かくして二人は鍛錬を続ける。
来たるべき時の為に。
――――――――――――
――――――――
――――
――――
――――――――
――――――――――――
憤怒P「……ン? 蟲の王が死んだか?」
街の地下、カースプラント。
蟲の王の気配が消失したことを、憤怒Pは悟っていた。
憤怒P(やれやれ、能力者の一人も殺し損ねたか? 不甲斐ねぇ……)
カイ「シャーク・バイトォッ!!」
『ヒギィィィィィィッ!?』
憤怒P(だがまあ、データは取れた。ちーとばかしグレードダウンしちまうが、量産できなくもねえなあ……)
キバ『~、~~~』
『アンギャアアアアアア!?』
憤怒P(しかし、量産にも時間がいるな……少なくとも今日明日じゃできやしねえ。となると今優先すべきは……)
キバ「ティアマットォォォッ!!」
憤怒P「うおっと」
思考を続ける憤怒Pの隙を突き、キバが青い炎を放つ。が、憤怒Pはそれを容易く回避して見せた。
憤怒P「わーるいねえ、キバちゃんよぉ。ちょっーと急用が出来たんで失礼するわ」
キバ「ま、待てッ!」
コマンドカース『ユカセヌワァ!!』
翼を広げて追いかけようとするキバを、コマンドカースがガトリングガン状の両腕で妨害する。
キバ「チッ! 邪魔を……」
憤怒P「じゃーなー」
憤怒P(やっぱ、泰葉ちゃんを憤怒の王に『プロデュース』する方が優先だよなあ……ククク)
含み笑いと共に、憤怒Pは一瞬にして姿を消した。
カイ「き、消えた!?」
コマンドカース『てぃあまっとサマノモトヘハユカセヌ!』
コマンドカース『ソウトモ! コノアットウテキブツリョウデ、キサマラヲオシツブス!』
コマンドカース『カクゴセヨ! きばニあびすないと!』
気付けば、カースもコマンドカースも、最早プラントを埋め尽くさん数に膨れ上がっていた。
キバ「……地下水道中のカースを集めた、という感じだね」
カイ「…………」
大量のカースに囲まれ、キバとカイは背中合わせの体勢になる。
キバ「ここをさっさと破壊して、私は奴を追う! 行くぞ、カイ君!!」
カイ「はい! アームズチェンジ・ハンマーヘッドシャークアームズ!!」
二人が叫ぶと同時に、大量のカースが津波のように二人へと押し寄せた。
続く
・オーラブレード
掌に薄くオーラを纏わせて振るう手刀。
・オーラドリルパンチ
オーラを使って回転させることで破壊力・速度・貫通力を向上させたロケットパンチ。
・イベント追加情報
星花が蟲の王を撃破しました。
憤怒Pがプラントを離れました。泰葉の下へ向かうようです。
以上です
危なかった、持病のリョナ好き病が発症しかかった……
抑えられなかったら今頃星花さんの左肘から先がブチッモグモグされていた……
拓海、有香、憤怒P、キバお借りしました
あと最初に言い忘れてましたが、今回はマンガ「テラフォーマーズ」から引用した文がいくつか入っていました
乙です
蟲こわい(確信)
憤怒Pの方もラストっぽくなって参りました…!
乙ー
蟲の王がえげつないな…
大量生産されたらヤバイな
投下します
秋炎絢爛祭で賑わう京華学院。地上通路。
加蓮「えっと……ここがコレであそこがアレだから今いるのは…」
配られていた地図と睨めっこしながら北条加蓮は一人佇んでいた。
探しているのは同じバイト先の涼が所属しているバンド・ハリケーンガールズが演奏するライブステージだ。
同じバイトのよしみもあるし、友達(加蓮の中では)が演奏するとなっては行くしかない。
なによりこういう場所に来るのが始めてな彼女は、まるで遠足を楽しみに行く小学生のようにワクワクしながら来たのだ。
加蓮「…………………ここどこだろう?」
そして、迷子である。
加蓮「……ライブまであと1時間あるし…誰か人に聞けば多分大丈夫だよね」
そう独り言を呟き、キョロキョロと辺りを見回す。
けど、周りは人がいっぱいいて、誰に話しかけていいかわからない。
更に周りにはたくさんの屋台があり、いい匂いを漂わせていて、お祭りにいったことない加蓮にとっては珍しく。
加蓮「お腹すいたな…。すいません!それください!」
食べ物の誘惑に負け、タコ焼きの屋台へと向かって行ってしまう。
………それを来た時からずっと繰り返してるのだ。果たしてコレは何回目なのか加蓮にもわからない。
加蓮「うーん……ライブステージってどこだろう?」もきゅもきゅ
先程買ったタコ焼きを食べながら、加蓮は再び歩き始めていた。
そう歩いてると…
???「あれ?加蓮ちゃんじゃないですか~」
『こんにちは~』
加蓮「?」もきゅ
聞き覚えのある二つの声にタコ焼きを一つ口に入れながら振り向いた。
そこには、露出が激しく胸を強調した悪魔を彷彿させた衣装を着た一人の女性ーーー海老原菜帆とそれにとり憑いてる悪魔ベルゼブブがいた。
彼女の胸元には「小悪魔アイスクリーム店。教習棟○○○室にて絶賛営業中♡」と書いてあるネームプレートがぶらついている。
加蓮「あ!菜帆とベルちゃん。かわいい格好だね」
知り合いの姿を見つけ、ちょっとはしゃいでる。ただセクシーな衣装を見てかわいいと発する加蓮の発言が何処かずれている気がするが……
何故、彼女達が知り合いなのかというと
加蓮はのあさんが住んでいる家にご飯をよく食べに行くのだが、その時に同じくご飯目的でやってくる菜帆とベルちゃんと顔見知りなのだ。
菜帆「ありがとう~」
加蓮に褒められ、少し嬉しそうに笑う。
そして、視線は加蓮の持ってるタコ焼きに目がいく。
『そのタコ焼き美味しそうですね~。一つくれませんか~?』
加蓮「いいよ。はい!あーん」
加蓮が楽しそうに爪楊枝でタコ焼きを一つ刺すと、それを彼女の口に近づけて
『♪』パクンッ
ベルちゃんは餌付けされるペットのように、そのままタコ焼きを一口で食べた。
『美味しいですね~。後で買いましょうか~』モグモグ
菜帆「そうですね~」
加蓮「本当に美味しいよね。このタコ焼き」
幸せそうにタコ焼きを食べてる姿を見て、加蓮も釣られて微笑む。
しばらく、他愛のない話題で話していた。
何処のお店が美味しかったとか、あそこがオススメとか、小悪魔アイスクリーム店に来てくださいねとか、ほとんど食べ物の話題だが……
『ところで加蓮ちゃん。さっき何か探してるようでしたけど、どうしたんですか~?』
フッと思い出したようにベルちゃんは不思議そうに加蓮に聞いた。
加蓮「あっ!そうだった!実はライブステージを探してるんだけど場所わかる?」
菜帆「ライブステージですか~。それならあっちにいけば案内所がありますから、そこに詳しい行き方がかいてありますよ~」
『ここは広いですからね~。初めて来た人は迷子になるみたいですし~。迷子防止の為にいろんな場所に案内所があるんですよ~』
はっ!と思い出したように加蓮は二人に聞くと、二人は案内所に行くように進めた。
加蓮「ありがとう!じゃあ、私は行くね」
菜帆「いってらっしゃ~~い」
『気をつけてくださいね~~』
最後のタコ焼きを口に入れ、加蓮は急いで案内所へと向かって行った。
菜帆「あれ?けどライブってもう始まってるんじゃないかな~?」
『……菜帆ちゃん。それ先にいったほうがよかったんじゃないですか~?』
…………そう。もう既にライブが始まる一時間がたってしまっていたのだ。
そしてライブステージへ行くのに幾多の屋台があり、加蓮を誘惑して行く。
果たして、加蓮はハリケーンガールズのライブに間に合うのか?
…………恐らく間に合わないだろうね。
場所は変わり、加蓮がいる場所とは離れた京華学院のとある場所。
スキンヘッドでサングラスをした怪しい男ーーー的場梨沙のプロデューサー・パップはケータイを見ながらため息を吐いた。
パップ(加蓮もこの秋炎絢爛祭に来てるのか……まずいな。理沙は加蓮の顔を知らないからまだ大丈夫だが、万が一気づかれたら何をするかわからないからな)
困ったような顔をしながらサングラスをクイッとあげる。
パップ(まあ、こっちはこっちで梨沙を見てるとするか……こいつの機嫌も悪くなってるし、どうしたものか)
そう思いながらケータイをしまい彼は歩き出した。
腰につけてある人形が不機嫌そうに揺れているから機嫌とらないといけなと思いながら。
終わり
以上です。
果たして加蓮は間に合うのか?(棒読み
そして、パップのメール相手は何者か?
乙です
安定して残念な加蓮ェ…
あと4日はあるから大丈夫…だよね?
アイドルヒーロー同盟の話を投下
―『お前はこの私に産んでもらった事を光栄に思って生き続けていればよかったのに!!』
―それは自分があの女の最期に言われた言葉。
―『自分に自信が持てないようなお前が、家族殺しの罪を背負って生きれるわけがない!!』
―自分を産んだだけの女。母親ではない。あんな女王様気取りの女は違う。
―無知だった自分は、あの女の言いなりになっていて…家の人を全員殺した過去を思い出して吐き気がする。
―「お前が…『外に出たい』って願いも…許さないから…」
―高い塀の外から来た、外の世界の存在である『友人』と、自分は外に出る。燃える家を置き去りにして。
―自分は殺しの家系に生まれた。でも自分は自分の判断に自信が持てなかった。殺しの才を持たないこの女はそれを利用した。
―あの女の命令を聞くだけの人形だった自分は、強かった『爺様』も『父様』も…殺してしまった。簡単ではなかったけど。
―「道具じゃない…自分は人殺しの道具じゃ…」
―でも…自分を好きになれない自分は…きっと普通じゃないのだろう。
―外に出て、世界は広いと実感して。
―…世界はきれいだと思っていたのに。
―違った。世界中に汚い泥が蔓延っていた。
―世界をきれいにしたかった。
―そして…あの人に拾われた。
高級車が都内を走る。車内にはボディガードと秘書。そしてアイドルヒーロー同盟のトップ、TPがいた。
「今日の予定はこれから行われる特別評価会議の後…」
秘書の男が端末を動かしながら予定の確認をしている。
「問題はないな。…RISAの様子は?」
「特に目立った問題行動は少なく、北条氏も…パップ氏をプロデューサーにした事以外は特に何も行ってはいないようです」
彼女は特殊なアイドルヒーローだ。とある権力者…北条氏の推薦と言う名の介入によってアイドルヒーローになったのだから。
と言っても、TPと彼は友人であり、介入と言ってもそこまで大層なものでは無い。
アイドルヒーロー同盟としても、優秀な能力者が同盟入りするのは歓迎だった。
…それをTPは期待半分、不安半分で見ていた。彼女はアイドルの才能がある。だが…精神面に不安が見え隠れしている。
「…そうか、それならいいんだ。彼女も皆の希望になってくれるなら…」
「…なにか気掛かりな事でも?北条氏が何やら裏で行っているという噂でも気にしてらっしゃるのですか?」
「気掛かりか…噂ではないな。『極一部の事』に関してだ」
「は、はぁ…?」
「君はまだ若い。結婚もまだだろう、気にしなくてよろしい」
「…はい」
『ウォ、ウォゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「うわああああああ!」「誰か!誰か救難信号を送れ!!」
「こ、これは…!」
進んでいくと、渋滞が発生していた。道路にカースが出現したのだ。
車に乗っていた人々はすぐに車から離れて逆方向へ逃げ出していく。その様子を見るに、ほんの少し前に出現したのだろう。
「…これは…鬼型と言えばいいのでしょうか」
…それは、大きな黒い鬼の姿をしていた。強欲の王と呼ばれた個体ほどではないが、それでも平均よりは大分大きい。
それは…櫻井財閥の原罪の核を作成する際に生まれ、放流された失敗作。どこかには監視も居るのだろう。
『憤怒』と『高慢』。それが強く混ざり合ったカースは雄たけびを上げながら棍棒を振り回し、口から時折過剰エネルギーを光線として発していた。
光線は道路を砕き、ビルからも人が逃げ出している。どう考えても危険だ。国もこの周辺の修復にまた予算を使う事になるのだろう。
カチャリと、シートベルトを外す音がした。
今まで一言も言葉を発さなかった女性が、人形のような…袖の長い中華服を着た3等身程のキョンシー型エクスマキナを抱きかかえながら車を降りる。
「…マスター、清掃許可を」
「AP、あれは強すぎないか?同盟に連絡を回してもらおうかと思っているのだが」
「問題ありません。…人数が多いと逆に被害が出るかと」
『タオス!カース、タオス!』
APと呼ばれた女性は、まるで機械のように彼と言葉を交わす。…抱えられたエクスマキナは袖をブンブン振り回しながらその空気をぶち壊しているが。
「…行ってきなさい」
「感謝します」
「TP様!?あれを女性一人ではさすがに…!」
「…君は彼女の掃除を見てないから驚けるんだ。さぁ、こちらは避難しようか」
TPが携帯でどこかに連絡し、手を叩くと秘書と共に彼は消えた。
「…キン、行こうか」
『ガッターイ!!』
キンと呼ばれたエクスマキナが、変形してAPに装備される。
…袖が長く、手が見えない中華服の様な鎧。それに先の尖った靴となった。
そしてその間に鬼型カースがこちらに気付く。
『ギュオオオオオ!ウォオオオ!』
「…」
振り下ろされる棍棒を、まるで地面を滑るように高速移動して回避。そのまま滑るように鬼型カースの足元に接近する。
「…消毒します」
一瞬だけ制止すると、今度は高く飛び上がる。そして鎧の袖の部分からかぎ爪が出現し、炎を纏う。
鬼型カースの腰のあたり高度になると、そのまま空中でも滑るように高速移動する。そのままの速度でかぎ爪を振り上げると、落ちながら足を切り裂いた。
『ギョアアアアア!ゴアアアア!?』
それに動揺して鬼型カースが足を庇いながら暴れ出す。それを予測していたようにAPは再び滑るように高速移動し、距離を取る。
「…足じゃない」
少し悔しそうに呟きながら。
『ガアアアア…!!』
「…!」
その距離を取ったAPに、今度は鬼型カースが口から光線を放とうとしているのか、橙色のエネルギーが口に溜まっていく。
APは、自分の背後にビルが多くある事を思い出し、再び高く高くジャンプした。背後のビルよりも高く。それだけを考えて。
『グオオオオオオオオオオオオオ!!!』
口から放たれる光線が、曇り空を貫く。
何とかAPは空中を滑って回避に成功したが、それに苛立った鬼型カースは、薄い泥で周囲の地面を覆っていく。
あの高度から着地すれば泥でバランスを崩す。それを狙っているのだ。
「…不潔、そして頭も悪い」
APは薄い泥で覆われた道路に着地する。…不自然なほどにしっかりと。
『ガアアアアア!!』
しかし、元々着地を狙っていた鬼型カースはそれに気づかず棍棒を振り下ろす。
「…」
泥を纏っている道路の上を、先ほどと変わりなく滑るように高速移動する。
単純に結論から言えば…彼女は浮いていたのだ。物心ついた時から…地面から数ミリ程。だから彼女には足音がない。
彼女の『浮きながらの地面と水平に移動する能力』、そしてマキナ・キンの靴がもたらす強力な脚力での大ジャンプ。
それがこの奇妙で立体的な動きの正体だった。
振り下ろされた棍棒は、彼女には当たることはなかった。再びAPは高く飛び上がり、右腕のかぎ爪が引っ込んでグレネードランチャーが飛び出す。
「…消えなさい」
それを袖から取り出して構えると、体のど真ん中に向け、引き金を引いた。
打ち出された弾は鬼型カースの体に食い込んでから大爆発する。
その爆風に彼女は紛れ…露出した核を蹴り砕いた。
車に戻ると、TPと秘書も戻ってきた。
『タダイマ!ゴメン!』
「…申し訳ございません、戦闘が少々長引き道路等に被害が…」
キンを抱えながらAPは帰ってくるなり頭を下げて詫びる。
「…いや、よくやった。最低限の被害に抑えられたのはお前の功績だからな」
「…ありがたきお言葉」
頭を年甲斐もなく撫でられても、APは嫌がったりはしない。TPも、まるで娘のようにAPを扱っていた。
…だからこそ、戦闘させることに罪悪感を抱いているのだが…彼女が求めるのだ、『清掃』を。
「…運転を再開しなさい」
声に反応してコンピュータで操作中の車は再び発進し、同盟のビルへと向かって行った。
「これよりアイドルヒーロー同盟、特別評価会議を始めます」
TPの秘書が資料を抱えて宣言をする。
暗い部屋、大きなディスプレイが浮かび、円卓を囲むように同盟の上層部の人間が座り、その目の前にも小さなモニターがセットしてあった。
アイドルヒーローは、同盟に直接アイドルヒーローとして所属している者と加盟しているプロダクションからアイドル兼ヒーローとして登録している者に分かれる。
プロデューサーも、同盟の者とプロダクション出身の者が居る。
一般的にはどちらも同じ認識だが、同盟的には重要である。
同盟に直接所属している者の管理は同盟が行っている。…が、プロダクションのアイドルはそうもいかない。
だがヒーロー活動時の予算等は、同盟側が負担している。その為、アイドルヒーローやそのプロデューサー、プロダクションの評価は定期的に行わなくてはならない。
「まず、873プロダクション…相葉夕美、安部菜々等、各アイドルヒーローの功績を認め評価をプラスし…」
ディスプレイやモニターには様々な情報がグラフや表で表示される。そして評価のグラフが上がり下がりすることで分かりやすく評価を視覚で認識できる。
人気が下がったり、同盟の期待を裏切れば毎月の予算も減らされる。予算をヒーロー活動以外に使えば即予算は0だ。
この情報は各プロダクション、およびプロデューサーに当人の分だけ送られ、それによって刺激を与える事も目的になっている。
「…次に各プロデューサーの評価を行います。ヒーローも兼任しているクールP、彼のアイドル古賀爛。彼と彼女…失礼、彼らの人気は上昇中。評価に値します」
「うむ、女装とはな…」
ディスプレイには爛のアイドル活動時の映像が流れる。フリフリの服を着てきゃぴきゃぴな歌を歌っている映像だ。
「次のエボニーコロモPは…ん?」
その時、映像に乱れが生まれた。
「ん、どうした?」
「…同盟のビルに何者かが干渉したようですね、しかし無意味だったようです」
上層部の一人が問いかけ、通信機を取り出しながら秘書が答える。
「心配なさるな、このビルは人工知能が管理している…」
TPが焦る様子もなく周囲に言う。傍らに立つAPも、キンの口を塞ぎながら平然としていた。
「驚いた…まさかアタシの干渉が防がれるとは思ってもいなかったよ、相当優秀な物をお持ちのようで」
しかし、天井から落ちるように円卓の中央に突如として白い泥が現れると場の空気は凍り付いた。
円卓から蒸気ガスと防御壁が飛び出し、上層部の人間が座っていた椅子は下の階へ運ばれ、秘書の男も立っていた場所を囲むように防御壁が出現する。
「…えー…ボッシュートとか…どうなってんのこのビル。ハッキングしてモニタージャックして『私が白兎です』とかやりたかったのに」
声の調子から、蒸気ガスはあまり効果がなかったようだった。
防御壁が引っ込むと、間髪入れずにAPが部屋の壁の仕掛けからガトリングガンを取り出しその白い影を打ち抜く。
一点集中ではない。体中、穴だらけにするように。
彼女はドロドロして動くそれを『汚いもの』…カースの類だと直感していた。だからとにかく体中を。核を打ち抜く為に。
穴だらけになった白い影から溢れ出る赤い液体が白い円卓を汚していく。
「…やりましたかね」
『…AP、フラグ!フラグ!』
グチャ…ヌチャ…グチョ…
「…なに?」
『AP!コイツ、イキル、シテル!』
『生きている』。キンが言ったとおりだった。カースと酷似しているが、それには血が通っていた。
宇宙生命体と言われた方がまだ納得できる。さらに…ぐちゃぐちゃと飛び出た液体を吸収しながら、それは再生していた。
すぐにそれは形を取り戻していく。
「核はもう溶けちゃって…無いよ、ざぁ~んねぇ~んでしたぁー!…って、言った方がいいか?…痛かったんだからな?」
「…戯言を」
「はぁ…同盟にここまでする輩がいるとはな、アイドルヒーローをやっていないということは汚い仕事担当の子?可哀想に」
「かわいそう?」
心の底から憐れむ口調でそれは言うが、APは首を傾げる。やがてそれは形を作った。
男性とも女性とも思えない、適当に作られたと思える人の姿をしたそれは、ペコリと頭を下げる。
「どうも、どうせ監視カメラで見ているだろうから言うけど…アタシは白兎。おっと構えても弾の無駄だよ。分かってると思うけどアタシ、死なないから」
監視カメラに向かって自己紹介。そして次の武器を構えたAPを静止させる。
「…アリスを不思議の国へ導いた時計を持った白いウサギのように、アタシは幸福な世界へと民衆共を導く者だ。今後ともヨロシク」
極めて高慢にしかしそれを疑うことなく彼女は言う。
「今日はアイドルヒーロー同盟と交渉をしに来た…けど、こんな子が居るなら無駄か。…黒はお前の事気に入るような気がするよ」
「…黒?」
『クロ、ウサギ、イル?』
「うーん、ノーコメントで。ここらで退散させてもらうよ、作戦うまくいかなかったし」
「…キン!」
『…ガッターイ!』
円卓の上でそう言った彼女を、APが逃すまいとキンを変形させ装備して切りかかる。
「出て来い救世兵!」
「!」
しかし、一体の首なしの男が剣と盾、そして鎧を装備した…カースの様な生物が、盾でそれを防いだ。
「残念だ、ここから出るにはお前を諦めなくてはならないからな」
「…」
「…お前は今、檻の中にいる。解放されたくはないか?」
その問いに、APは激怒して珍しく口を動かして答える。
「…今の自分は檻の中にいない、檻の中に居ると思っているのは貴様だけ。…その言葉はあの人たちを侮辱する言葉だ」
「…やっぱり黒みたいなやつは苦手だ。ガラスの檻の中でそこが外だと錯覚している獣みたいな生き方をしてやがる」
そう言い残すと白兎は一瞬で消えてしまった。…「電子化」したのだ。
侵入には天井を這って認識操作してと…時間をかけたが、帰りはほぼ一瞬。だから誰も彼女を追う事は出来なかった。
しかし、置き土産を残していった。救世兵というカースをさらに数体置いて行ったのだ。
「消えなさい…」
炎を纏うかぎ爪が、鎧を砕く。鎧の下の…打撃耐性を持つ毛は容易に燃えていく。露出した白い核を、爪が切り裂いていく。
「…消毒します」
『ハーイ!』
キンと分離し、キンを高くほおり投げる。そして壁の仕掛けから今度は火炎放射器を取り出した。
『キル!キル!』
キンが鎧をかぎ爪で砕き、APが燃やしていく。
キンの背後から襲い掛かった救世兵は、天井から現れた複数のガトリングガンがコンピューター制御で動いて攻撃した。
「…」
『カンシャ!カンシャ!』
その後、救世兵は全滅した。燃やせればあっという間だった。
…だが、部屋は滅茶苦茶になってしまっていた。
「…お掃除しなきゃ」
壁の仕掛けから掃除道具を取り出しながらAPは少し溜息を吐いた。
『まさか侵入者が出るとは予想外でした。今後の課題とさせていただきます』
「ああ、あれは一体なんだったのか…」
ビル全体を人工知能が24時間監視し、さらにビルの内部には指紋登録をした関係者のみ取り出せる無数の武装が仕掛けられ、天井にはマシンガンが隠されている。
…アイドルヒーロー同盟唯一のビルはまさに要塞の筈だった。
だが、カースの様な生命体によって、今回初めて侵入されてしまったのだ。
TPは上層部に責められることはなかった。アレの異質性を上層部は皆理解していた。
だが、TPは彼の部屋でディスプレイに向かって誰かとその事について考えていた。
『カース…に酷似しています。が…血が通っており、さらにカースの何十倍もの回復速度。さらに高い知能を持っており…未だUNKNOWNです』
スピーカーの声はディスプレイに映像を映す。先ほどの戦闘の映像だ。
『…今後、アレの様な個体が増えると厄介です。アレの生み出した兵士型カース。あれは未知の白い核を所持していました』
核は『カースモドキ』扱いのメガネを除けば今まで大罪の性質の数と同じ七種類だったはずだ。それが今覆されようとしている。
『さらに、「黒」という仲間も存在する模様。…本当に何者なのか、データ不足です』
「…アイドルヒーロー関係者にも伝えるべきだな『未知の白のカース』の事を」
『了解しました。アイドルヒーローの携帯端末の定期連絡に情報を入れておきましょう。…いつどこで湧くか分かりませんしね』
「…世間一般には?」
『ミンナ、シル?』
APとキンが首を傾げながら質問すると一瞬の間を置いてスピーカーから返事が返る。
『…今は余計な混乱を起こすべきではありません。希少種の可能性もあります。アイドルヒーローたちに今回のカースの特徴を伝える程度に留めます』
「ああ、ありがとう。苦労を掛けるな」
『いえ、自分は一介の人工知能にすぎませんのでこれくらい負担ではありません』
「…ああ、わかってるよSP」
スピーカーの声…SPとそんな会話をするTPに、APが声をかける。
「…マスター、秘書がドアの外に」
『マッテル、オシゴト!』
「ああ、そろそろ行かなくては。AP、行くぞ」
「はい」
『行ってらっしゃいませ』
アイドルヒーロー同盟は若干の不安を抱え、そして警戒を抱く。
「…マスター、不安因子は…自分が」
APが、見えぬ敵に殺意を隠しながら少しだけ不安げに呟く。
同盟に不安をもたらす者は自分が殺してしまえばいいのではないかと…自分の才があればそれができるのではないかと。
「AP、君は人殺しの道具じゃない」
そんな彼女を見てTPはそう言って優しく頭を撫でる。
「…はい」
それが彼女に安心を与えた。
「…ですが、裏切者は…消します」
「…君がそれを望むのか?」
「当たり前です」
だが…狂信的な忠誠は崩れることはない。
『…白兎、導く者…まるで某映画だ。…さて、アイドルヒーローに連絡する内容を纏めないとな』
『全く、なんで父さんの同盟が狙われねきゃならないんだ…』
部屋には極小ボイスでスピーカーから音声が流れるだけだった。
AP(Aは刺客(Assassin)と忠誠(Allegiance)より)
職業
アイドルヒーロー同盟トップTPのボディガード兼アサシン
属性
忠犬&猟犬&狂犬
能力
宙に浮きながらの地面との水平移動、マキナ・キン装着
詳細設定
アイドルヒーロー同盟トップのTPに忠誠を誓う女性。年齢不明。
キョンシー型エクスマキナであるマキナ・キンの使い手。彼女とキンは姉弟であり親友の様な関係である。
口数が少なく、自分に自信がない。その為基本的に許可がないと行動できない。しかし激しく感情を発すると自分の為に動けるようになる。
暗殺者の家系に生まれ、厳しい修行を受けてきたが自我が薄く、それを利用した母親に命令されるがままに父と祖父を殺した過去を持つ。
家の外に出れないまま暮らしていたがキンと出会い、外の世界を知り外に憧れ自我が芽生え、母親の精神的支配から抜け出し、数年前に母親を殺して家出した。
外に憧れていた為にカース等を『この世の汚れ』と認識しており、カースの排除は『掃除』と呼んでいる。
TPに拾われ、娘同然の扱いを受けて過ごしている、彼女自身は彼の為なら道具になっても構わないと思っている。
マキナ・キン
キョンシー型エクスマキナ。単語だけで言葉を発する。
袖が身長より長く、袖の中で腕とミスリル製のかぎ爪を切り替えられる。切り替えた方は謎の収納をされているらしい。
無邪気で子供っぽい性格。少年寄り。APと出会い、彼女の運命を変え、それ以降ずっと一緒にいるAPの姉弟であり親友。
ガイスト形態は靴と袖が異様に長い中華服風の鎧。靴は高い脚力とジャンプ力を与え、袖は炎を纏うかぎ爪に加え、一定のサイズ以下の武器を収納できる。
APはその日の気分でマシンピストル・アサルトライフル・ライトボウガン・大量の手榴弾の束・ガトリングガン・グレネードランチャー・小型火炎放射器…等を収納している。
TP(TはTopから)
職業
アイドルヒーロー同盟創始者
能力
瞬間移動
※ただし必ず一人以上の同行者が必要であり、さらに移動先は彼が一晩以上過ごした部屋のみに限定される
詳細設定
『この世界には人々の希望となる能力者が必要である』という考えからアイドルヒーロー同盟を創り上げた男。
体が弱かった妻は息子を産んだ後亡くなり、その息子も若くして不治の病によって亡くなっている。
APを娘のように扱っているが、同時に距離の取り方を悩んでいる。
アイドルヒーロー同盟としてはフリーのヒーローはパフォーマンスの邪魔ではあるが、これも資金が無ければ同盟が成り立たないのが原因であり、彼は真面目に善側の能力者が全てアイドルヒーロー同盟に所属すれば…と常々思っていたりする。
常にAPと秘書の青年を連れている。秘書の青年はこれと言った特徴はない。
SP(サポート・プログラム)
世界有数の天才プログラマーであったTPの息子が無くなる前に完成させた人工知能。
同盟のビルの管理と監視・スケジュール管理・アイドルヒーローの端末への連絡&端末の位置情報把握…等の仕事を24時間同時に行っている。
世界中に常にデータを更新しているバックアップデータをいくつも保存しており、いざという時も対処できるようになっている。
他人には見せないが、TPを父さんと呼び、敬語を使わない感情を持っているような面がある。
それに加え人工知能とは思えない思考とデータ管理力を持っており、『今は亡き製作者の魂が埋め込まれているのではないか』というオカルト染みた噂がある。
ボイスは製作者の声を音声ソフト化して使用している。
救世兵
白兎が使役する、自然発生することがない正義のカース。
首なしの鎧をまとった兵士。鎧の下にはアバクーゾの毛があり、燃やせば容易に倒せるが燃やせなければ苦戦する。
首がないからか言葉を発することも少なく、白兎の命令を聞くだけの駒となってる。
…首がないって誰かさんを思い出す?…多分関係ないヨ!
以上です
時系列は学園祭1日目より後となっています
アイドルヒーロー同盟の人数が増えてきたし…って設定掘り下げた結果がこれだよ!
名前だけ梨沙ちゃんと北条氏、クールPと爛ちゃん、エボニーコロモP、
あとは櫻井財閥の放流したカースをお借りしました
…キンのモデルは某格闘ゲームのキョンシーだったり
乙ー
AP強いなー
そして、白兎暗躍コワイデス
ハロー
12月某日のお話投下させていただきますー
12月某日
小日向宅
美穂「るんるん♪ふふっ」
美穂「あ、肇ちゃん!おはよう!」
肇「おはようございます、美穂さん」
肇「?」
肇「今日はご機嫌ですね?いい夢でも見れましたか?」
美穂「えっ、やっぱりわかっちゃうかな?」
肇「ふふっ、美穂さんは顔に出やすいですから」
肇「どんな夢だったんですか?」
美穂「あっ、その……夢を見れたからご機嫌だったってわけじゃなくって」
肇「なるほど、他にご機嫌になる理由があると言うことですね」
母「誕生日なのよ、今日は」
肇「誕生日?」
肇「もしかして美穂さんのですか?」
美穂「えへへ、そうなんだ♪」
肇「それはおめでとうございます」
美穂「ありがとう!肇ちゃん!」
美穂「……って話してたらもうこんな時間!」
美穂「学校行ってくるね!」
母「……いいわねぇ、まだまだ誕生日を素直に喜べて」
母「年をとるとそう言うので喜べなくなっちゃって」
肇「いえいえ、美穂さんのお母さんもまだまだお若いかと」
母「あら、お上手。ふふっ、肇ちゃんありがとう♪」
肇「……」
母「ん?どうしたの?思いつめた顔しちゃって」
肇「あの……まさか今日が美穂さんのお誕生日だと露知らず」
母「あー」
母「プレゼントを用意できてないとか?」
肇「はい……どうしましょう……」
母(そんなの気にしなくてもいいのに)
母(肇ちゃんがただお祝いしてくれるだけでも喜ぶんだから、あの子は)
母(……)
母(ちょっと悪戯しちゃおうかしら)
母「困ったわねー」
肇「はい……」
母「肇ちゃんからプレゼントがもらえないと美穂、すっごくガッカリしちゃうかも」
肇「うっ……」
肇「い、今からでも何か探してっ……!」
肇「あ、でもこの後お仕事ですし……時間が……」
肇「うーん……」
母(悩んでる肇ちゃん可愛い)
母(こんなに慕ってくれてるなんて幸せね、あの子)
母「ふふっ肇ちゃん、そんなに悩まなくても……」
ガタッ!
肇「あの!!急いで今日中にお誕生日プレゼント用意します!!」
肇「お仕事行ってきます!!」
ドタドタドタ……
母「……行っちゃったわ」
母「んー、焚き付けすぎちゃったかしら……」
――
――
メイド喫茶『エトランゼ』
アーニャ「デイェーニ ラジュディエーニェ、誕生日ですか」
肇「はい……」
キヨラ「お友達の誕生日、それはめでたいですね」
肇「ええ……」
亜季「しかし、それでどうして顔が優れないので?」
肇「……お誕生日プレゼントを用意できていないんです」
肇「いつもお世話になっているので、こう言うときこそお礼を用意したいのですが……」
肇「直前まで気づかずに過ごしてしまったのは失態でした……」
アーニャ「あー……品物より気持ちが大切なのでは?」
アーニャ「祝ってもらえるだけで、その子も嬉しいと思います」
肇「はい……アーニャさんの言うとおりなのだとは思います」
肇「美穂さんはきっと、どんな形でのお祝いでも喜んでくれるのだと」
肇「ですが……その」
キヨラ「ふふっ、ちゃんとした形でも渡したいのよね」
キヨラ「記念品だとか思い出になる様なものを」
肇「……お恥ずかしながら」
キヨラ「恥ずかしがることはないと思うわ、いいんじゃないかしら」
キヨラ「プレゼントを渡したいと思える相手が居るのは素敵な事だから」
亜季「ならば、迷う事などありませんな」
亜季「すぐにでもプレゼントを用意しましょう!」
肇「だけど問題は……どんな物をプレゼントすればいいかなんです」
アーニャ「……どんな物をプレゼントすれば良いか、ですか」
亜季「やはり、貰って嬉しい物では?」
肇「美穂さんが貰って、嬉しいものってどんな物でしょう?」
キヨラ「年頃の女の子が貰ってうれしいもの……」
アーニャ「……」
亜季「……」
肇「……」
キヨラ「うーん、残念だけど世間一般の普通の女の子が欲しがりそうな物って言うと」
キヨラ「私には、わからないですね」 (←魔界の天使)
アーニャ「参考になりそうな意見は出せないですね……」 (←軍人上がり)
亜季「むむむ、世間一般のと言うと……少々管轄外かもしれません」(←平行世界のサイボーグ)
肇「……弱りました」 (←鬼の里出身)
「ふっふっふ」
肇「!」
亜季「この声は」
みく「おやおやぁ?皆さん何やらお困りのようですにゃあ?」 ニャーン!
「「「「みくさん(ちゃん)っ!!」」」」
みく「ふふっ!女の子のことなら、みくに任せるニャ!」
みく「肇チャンの悩み、エトランゼ1女子力の高いと噂のみくがお答えしてあげるよ♪」
肇「お、おおっ!」
アーニャ「なんだか今日はみくが輝いて見えますね」
キヨラ「後光が差してるわ……」
亜季「眩しいっ、眩しすぎますっ!」
みく「あれ?なんか一週回って、みくに失礼な気がするにゃ?」
肇「気のせいですよ」
みく「そうなのかにゃあ……?」
みく「ま、いっか」
みく「結局みんな難しく考えすぎにゃ♪女の子は可愛い物がすきなのっ♪」
みく「そこには種族も世界もきっと関係ないはず、ってみくは思うけどにゃ」
肇「おお……なるほどっ……」
キヨラ「確かに……」
亜季「一理ありますね!」
みく「そこでっ!!」
みく「肇ちゃんにはこれを渡しておくにゃ」 スッ
肇「……こ、これは!!」
アーニャ「……ネコミミですね」
亜季「ネコ耳ですな」
キヨラ「猫耳ですか」
肇「みくさん!これはどう言う……」
みく「肇チャン……この全世界全宇宙に共通の真理があるとするなら、それは」
みく「ネコが可愛いってことだにゃっ!!!」 ニャーン!!
「「「「にゃ、にゃんだってー!!」」」」
みく「だからネコミミっ!ネコミミをつければ猫の可愛さがワンタッチで……」
みく「いや!ニャンタッチで手に入っちゃうにゃ♪」
みく「ネコミミを装着すれば可愛さがなんと95割増し!(当社比)」
みく「おまけにネコチャンの気持ちもわかって一石二鳥にゃ!」
みく「そしてメリットがあるのは装着者だけじゃないのにゃ!」
みく「ネコミミを見る人たちも、溢れる癒しのオーラに包まれて心が温かくなるのにゃ!」
みく「つまり相手にプレゼントしても良し!装着して見せてあげても良し!」
みく「あなたの発想次第でネコミミの可能性は無限大にゃっ!!」
みく「だから誕プレ(誕生日プレゼントの略)にはネコミミこそが最適で、来年の流行間違いな……」
コツンッ
みく「うに゙ゃ、痛いにゃっ!」
チーフ「何を布教しているのかな」
肇「あ、チーフ。おはようございます」
チーフ「ん、おはよう」
チーフ「肇、早速で悪いけど」
肇「は、はい!」
チーフ「今日はもうあがりな」
肇「えっ……?」
チーフ「そんな悩んだ顔でいたら、悪戯にご主人様を心配させるだけだぞー?」
肇「……はい」
チーフ「今日はその友達のためにやれるだけの事をしっかりやって」
チーフ「そうしたら明日からは、すっきりした顔でちゃんと御奉仕するんだよ?いいね?」
肇「チーフ……」
チーフ「今日は肇の分も、みくがしっかり働くから」
みく「なんでそこでみくピンポなんだにゃ」
肇「みくさん!お願いします!」
みく「……しょうがないにゃあ」
みく「みくは出来る子だからね!肇チャンは大船に乗ったつもりでいるにゃ♪」
――
エトランゼ 控え室
肇「チーフやみくさん達のおかげで」
肇「どうにかお誕生日プレゼントを用意する時間を頂けました」
肇「しかもチーフの計らいで、こちらでお誕生日会も開いてもらえるみたい」
肇「あとはプレゼントを用意するだけなんだけど……」
肇「美穂さんの欲しい物…」
肇「心のこもった贈り物…」
肇「手作りとか……?」
肇「うぅ、難しい……」
肇「誰かに相談してみるのも手だとは思うけど」
肇「こう言うとき相談できる相手と言うのが私には少な…」
肇「……あの人なら?」
――
エトランゼ 客席
肇「お電話だけで相談するつもりが」
肇「わざわざ来ていただいてすみません」
肇「拓海さん」
拓海「別に構わねーよ、今日は空いてたし…たまたま近くだったしな」
美世「あれ?心配だから顔見たいって言ってなかったっけ?」
拓海「言ってねーよ」
美世「顔に書いてたよ?」
拓海「か、書いてねーよ」
肇「…そちらの方は?」
拓海「ああ、こっちは美世。アタシの相棒だ」
美世「原田美世って言うの。よろしくね」
肇「藤原肇です。よろしくお願いします」 ペコリ
拓海「それにしても……こうして会うのはあの時以来か?」
肇「そうですね。連絡だけはたまにさせていただいてましたが」
拓海「ま、元気そうで何よりだ。しっかり働き口も見つけてたみたいだしな」
美世「拓海も安心だね」
拓海「おう、そうだな」
拓海「肇、こっちでの生活は楽しいか?」
肇「…はいっ!」
拓海「ならいい、アタシからあえて言う事は何もねーよ」
美世「保護者?」
拓海「ちげえ」
美世「でも今のお父さんっぽかったよね?」
肇「ふふっ、そうですね」
拓海「……せめてお母さんとかにはなんねぇのか」
美世「頼り甲斐があるってことだよ、姉御」
肇「はい、姉御」
拓海「姉御か……まあそれなら悪い気はしないけどな」
拓海「それはそうと、肇の相談を聞く為に来たんだったな」
美世「あ、そっか。えっとお友達の誕生日プレゼントを用意したいんだったっけ?」
肇「はい、その人は美穂さんと言って」
肇「こちらで出来た私の大切なお友達なのですが」
肇「?」
肇「あの…拓海さん美世さんニコニコしてるようですけど…私何か面白いこと言いました?」
拓海「いや、気にすんな」
美世「拓海があまり心配する事もなかったのかもね」
拓海「だな」
肇「??」
拓海「ま、つまりはその美穂って奴があっと驚くくらいに喜ぶプレゼントを用意したいわけだな」
肇「はい、そうなんです!」
美世「肇ちゃん、その子ってどんな子なの?」
肇「そうですね……美穂さんはとても可愛らしい方です」
肇「穏やかで優しくて、少し……いや、かなり恥かしがりやさんですけれど」
肇「それでも目標や夢に向かって確かな一歩を踏み出せる、そんな強さのある方ですね」
美世「……のろけるね?」
肇「え、あっ…いえ、確かに大切な人ですがそう言う事ではなくてですね!」
肇「私にとっては…どこか眩しくて憧れの人なんです」
美世「ふふっ、そうなんだ」
拓海「憧れか、なるほどな」
拓海「いくつくらいなんだ?その美穂って言うのは?肇とタメか?」
肇「いえ、少し年上の方ですね。17歳と聞いています」
拓海「じゃあ今日誕生日ってことは、18になるわけか」
肇「え?」
拓海「え?」
美世「え?」
「「「…」」」
拓海「わかった、あえて何歳になるのかに触れるのはやめよう」
拓海「けど、まあそう言うわけでもあるのか」
拓海「アタシに相談しようと思ったのはよ」
拓海「同じくらいの年だからな」
肇「えっ?」
拓海「…」
肇「あっ…」
肇「ああっ!は、はいそうです!そうですともっ!」
拓海「お前、今の今までアタシの事もっと年が上だと思ってただろ」
拓海「アタシはまだじゅう……いや、年齢に触れるのはやめとくか」
拓海「とにかくそいつと同じくらいだっつの」
肇「す、すみません……」
美世「あはは、まあ拓海は同じくらいの女の子よりはちょっと大人びて見えるからね」
美世「可愛い系よりもカッコイイ系だし?」
拓海「まあな」
美世「まあ、あたしは拓海のこと可愛いとも思うけれど」
拓海「からかってんじゃねーよ」
肇「ふふっ」
拓海「なっ、笑ってんじゃねーよ、くそっ」
拓海「とにかくよっ!」
拓海「そいつに喜んでもらえるようなプレゼントって言うのを考えればいいんだろ?」
肇「はいっ!何かいい案はあるでしょうか?」
拓海「そうだな…」
拓海「ぬいぐるみとかいいんじゃねーか」
肇「ぬいぐるみ…」
美世「可愛いね、拓海」
拓海「それはぬいぐるみがって事でいいんだよな」
美世「ううん、その発想がちゃんと出てくる拓海が」
拓海「ちくしょう」
拓海「確かにアタシのキャラじゃねーけどよっ!」
拓海「今日中に用意してえって話だ。つまり時間もあまりないんだから」
拓海「何か買うとしたらそれくらいだろ」
拓海「後は……ストラップとかどうだ?」
美世「可愛いね」
拓海「ああ可愛いな!くそうっ!」
肇「ですが……女の子は可愛いものが好きと言うお話にも合致します!」
肇「そうですよね!みくさん!」
席の近くを通りがかったみく「ああ、うん……」
拓海「……おい、猫メイド何か言いたそうだな」
みく「…」
みく「…なんか普通」
拓海「あんっ?」
肇「……どう言うことでしょう?みくさん」
みく「よく考えるにゃ」
みく「美穂チャンは今、学校に言ってるそうにゃ」
みく「つまり…」
――
卯月「ジャーン!」
卯月「見てください美穂ちゃん!このストラップ!」
美穂「!!」
美穂「わあ!くまもん!!」
卯月「この間ショッピングに行ったときに見つけたんです!」
卯月「美穂ちゃん好きって聞いてましたから!」
卯月「お誕生日プレゼントです!どうぞ!」
美穂「いいの!?卯月ちゃん!えへへっ、ありがとー!」
卯月「ぴにゃこら太ストラップも近くにあって」
卯月「どっちがいいのかなって迷ったんですけど」
美穂「くまもんで」
卯月「だよねえ」
茜「ふっふっふ」
美穂「茜ちゃん?」
茜「じゃじゃーん!」
美穂「!!」
美穂「わ、わあ!えっとぬいぐるみ?」
茜「はい!!熊です!美穂ちゃん好きって聞いてましたからっ!!」
美穂(見えない……)
美穂「でも……手作りなんだね」
茜「熊のぬいぐるみがあったので買おうか迷ったんですが」
茜「勢いで作ってしまいました!!」
茜「ちょ、ちょっとヘタクソ……だったかもしれないですけれど」
美穂「……ふふっ」
美穂「そんな事無いよ、すごく嬉しい」
美穂「ありがとう、茜ちゃん♪」
美穂「えっと…二人とも!素敵な誕生日プレゼントをありがとうっ!」
卯月「えへへ」
茜「えへへ」
――
みく「入念に下調べができて、好みも知っている学校の友達と同じ物を渡して」
みく「果たして美穂チャンは、あっと驚くほどに喜べるのかにゃあ?」
拓海「……」
美世「……」
肇「……」
拓海「た、たしかに被りはまずいっ!!」
美世「思い出に残るのかって言うと微妙なのかもっ!」
肇「思っていた以上に難題かもしれませんっ!」
みく「みくは思うにゃ…」
みく「プレゼントには個性が大事だってね」
みく「はい、アーニャン」 サッ
通りがかりのアーニャ「?」 スチャ
ネコミミアーニャ「ダー……確かに…個性は大事かもしれないですにゃ?」
アーニャ「どうぞ、キヨラ」
通りがかりのキヨラ「あら?」 スチャ
ネコミミキヨラ「そうですねぇ、贈り物にその人の事を感じられると言うのは」
ネコミミキヨラ「とても素敵なことですから…にゃあ」
キヨラ「次は、亜季ちゃん」
通りがかりの亜季「おや?」 スチャ
ネコミミ亜季「ふむ、心に炸裂する個性……確かに思い出に残らぬはずがありませんにゃ」
亜季「肇殿!」
肇「!」 スチャ
ネコミミ肇「皆さんの言うとおりかもしれません……にゃ」
ネコミミ肇「贈り物の中に私の個性、私自身を込める……」
ネコミミ肇「なかなか……思いつかないことでしたにゃ」
肇「では、拓海さん」 スッ
拓海「ちょっと待て、なんでアタシにそれ回ってきた」
肇「えっと、つい流れで…?」
拓海「さも当然の様に不自然なことすんなっ!!」
みく「まあまあ、サービスのネコミミですにゃ♪」
拓海「いらんっ!!」
みく「えぇぇ、拓海お嬢様は意地悪だニャ」
みく「他のご主人様はノリノリでつけてくれるのにゃあ」
美世「拓海、空気、読もう」
拓海「空気って言ってもよ……」
みく「ちらっ」(期待のまなざし)
拓海「……ちっ、仕方ねえ。やればいいんだろやれば」
拓海「特攻隊長拓海、ここで覚悟を決めなきゃ名が廃るってもんだ」
拓海「……」
拓海「よしっ!やるぞ!!」
ネコミミ拓海「た、たくみゃんだにゃ♪」 ニャン!
美世「……」
肇「……」
みく「……」
アーニャ「……」
キヨラ「……」
亜季「……」
拓海「……」
拓海「おい、どうすんだ、この空気」
美世「拓海……」
美世「気合い入れすぎてて逆にドン引き!」
拓海「あんっ?!ちくしょう!!どんな罠だよっ!!」
みく「いやいや、可愛かったでございますよ」
拓海「目反らしながら言ってんじゃねーっ!つかなんだその語尾!」
肇「本当に可愛かったですよ」
拓海「真顔で言われても困るわっ!!」
チーフ「なあ君、よかったらこの店で」
拓海「働くかああっ!!!」
キヨラ「あらあら、キレのある突っ込み」
亜季「4連コンボですな」
アーニャ「ハラショー……お見事…ですね?」
拓海「ぜえ……ぜえ……」
拓海「わりい、熱くなりすぎた。話戻そう」
美世「贈り物の中に個性を……かぁ」
美世「それを意識したら確かに、学校のお友達と被ることはないかもね」
拓海「肇の個性ねえ、って言うとやっぱり」
肇「…刀ですねっ!」
肇「鬼匠・藤原一心の孫娘!刀匠見習い藤原肇!」
肇「刀作りには自身があります!」 ドンッ
美世「う、うーん……だけどプレゼントに刀を貰って喜ぶ女の子が居たらあたしは嫌かなあ……」
拓海「つか、今から作る時間ねーだろ」
肇「あ……そうですよね……」 シュン
拓海「ところで、美世は何か案はねーのかよ」
美世「あたしミニカー!!」
拓海「それ貰って喜ぶ女の子もなんか嫌だろ!!」
……
……
……
拓海「……」
美世「……」
肇「……まずいです」
美世「ここまで良い案が出ないなんて……」
拓海「17歳女子って言うのはこんなに難しいモンだったのか…」
美世「もう!拓海、同じ年頃って言ってたのに!」
拓海「だーっ!だからキャラじゃねーって言ってるだろ!」
拓海「可愛い系の女の子とかアタシにはわかんねーよ!」
拓海「だいたい美世も良い案なかっただろ!」
肇「い、いえお二人の責任では……」
拓海「あ、いや待て」
拓海「居るじゃねーか」
肇「えっ?」
美世「居るって?」
拓海「アタシらの知り合いによ、可愛い系で売ってる17歳が」
―
拓海「……と言う訳なんだ」
拓海「あんたを17歳の可愛い系の女子と見込んで聞きたい!」
拓海「あんたくらいの年の女の子が貰って喜ぶもんって何だ?」
拓海「教えてくれ!」
拓海「菜々!!」
菜々『 』
拓海「?……通信の電波わりぃのかな?」
拓海「何も聞こえねえ」
菜々(試されてる……)
菜々(試されていますよ……ナナ……)
菜々『あぁ、ええっと…ですねぇ…』
菜々『17歳の女の子が欲しい物ですか……』
拓海「ああ?わかんねぇか?」
菜々『そ、そそそそそんな事あるわけないじゃないですかっ!』
菜々『ナナはラブリー17歳ですからねっ!きゃはっ♪』
拓海「菜々が欲しい物でも構わないんだ」
菜々『ほ、欲しい物……』
菜々『さ、最新の炊飯ジャーとか……』
拓海「すいはん…なんだって?」
菜々『じゃなくってっ!!!』
菜々『はっ!』
菜々『か、可愛いストラップなんかいいんじゃないですかねぇ♪』
菜々『女の子は幾つになっても可愛いものが好きですし♪』
菜々(これはきっと17歳っぽいですよ!)
拓海「………そうか……やっぱそうなるよな……」
菜々(ふぇっ?!なんかガッカリされてますぅっ!!?)
菜々『あ、あぁ…今ノハ違ウクッテデスネ……』
夕美『ストラップかぁ……』
菜々『夕美ちゃん?』
拓海「お、夕美もそっち居るのか」
菜々『夕美ちゃんは、ストラップになにか思うところが?』
夕美『ううん、そうじゃないんだけどね』
夕美『菜々ちゃんの限定グッズとか女の子にもよく売れてるよね』
菜々『あっ』
菜々『あぁっ、確かに売れてます売れてますよ!』
菜々『アイドルヒーロー同盟の限定グッズ!女の子にも人気なんですよぉ!』
菜々『ナナのはすぐになくなっちゃうらしくって、嬉しいですよねぇっ!』
拓海「……アイドルヒーロー同盟の限定グッズか、そうかそう言う手もあるな」
美世「限定品って言うと確かに貰って嬉しいかも」
肇「……アイドルヒーロー同盟?」
拓海「あ、言ってなかったか?そう言えば」
美世「て言うかテレビで見た事無いのかな?あたし達の事」
肇「えっと…話の流れからするともしかして拓海さん達は?」
拓海「まあ、流れでやってるんだけどよ」
拓海「アイドルヒーローなんだ、アタシら」
肇「!!」
肇「だとしたら…」
肇「はっ!」
肇「で、では!今通話しているナナさんと言うのはもしかして!!」
美世「うん、ラビッツムーンだよ」
美世「てか、これ言っちゃっていいのかな?」
拓海「……多少は大丈夫だろ」
肇「……」
肇「拓海さん、美世さん!無理を言うようなのですが……お願いがあります!」
……
……
……
美穂「肇ちゃんにエトランゼにお呼ばれしちゃった」
美穂「エトランゼかぁ…文化祭の時に立ち寄った時の肇ちゃんの衣装可愛かったよね」
美穂「……」
美穂「お呼ばれしちゃうって事は、やっぱりお祝いなのかな?」
美穂「ふふっ、そうだとしたら嬉しいな♪」
美穂「あっ、と……たしかこの通りだったよね」
美穂「あったあった、エトランゼ…間違いなし」
美穂「それじゃあ、お邪魔しまーす」
カランカラン
肇「お帰りなさいませ、美穂お嬢様」
美穂「…」
美穂(美少女メイドにお出迎えされる、なう)
肇「?」
美穂「あ、ううん。やっぱりその服肇ちゃんにすごく似合ってるなと思って」
肇「ふふっ、だいぶ慣れましたけど、まだ少しだけ照れくさいですね」
美穂「可愛いメイドさん、お出迎えありがとう♪」
肇「も、もう。からかわないでください美穂さん」
美穂「えへへ、でも本当に可愛いよ?」
肇「う、うぅ…その…お、お席はこちらです」
美穂(恥ずかしがらせちゃった)
美穂(いつもとは立場が逆だから、ちょっと新鮮かな、ふふ)
↑ なお、今回彼女の余裕はここまでの模様
肇「こっちの席です、美穂さん」
美穂「ありがとう、肇ちゃ……」
拓海「よう」
美世「こんにちはー」
美穂「あ、こんに……」
拓海「……」
美穂「ちは……?」
美世「……」
美穂「……」
肇「美穂さん?」
美穂「……」
美穂「 ふ ぁ っ ! ? !」
美穂「えっ!?な、ななななななんでっ?!えっ!?」
美穂「う、うそ?!ゆめっ!?えっ?!」
拓海「すごい取り乱し方だな、おい」
美穂「ど、どどどどどどどどどうして!」
美穂「あ、アイドルヒーローのか、かカミカゼさんがここにっ!?」
美穂「それにメカニックの美世さんまでっ?!」
美世「ふふっ、良かったね拓海。あたし達の事知ってくれてるみたいだよ」
拓海「……ま、有名になったのは良いことなのかもな。複雑な気分ではあるけどよ」
美穂「え、えと!あのっ!お、お二人のご活躍はテレビでも良く見てて!」
美穂「うぅー…あ、あのっ!憤怒の街でのお話も!す、すっごくカッコよかったです!!」
拓海「……おう」
美世「拓海、ちょっと照れてない?」
拓海「う、うっせぇ!」
美穂「は、肇ちゃん!どうして二人がここに!?」
肇「話せば長くなるのですが、拓海さんは私の恩人でして……」
肇「……」
肇「色々あってこちらまで来ていただきました」
拓海「えらく省略したな」
肇「えっと、とりあえずご紹介を」
肇「拓海さん、美世さん。こちらが私のお友達の美穂さんです」
美穂「こ、ここここひ小日向っ!小日向美穂ですっ!!」
美穂「あ、あの!ふ不束者ですがっ!よろしくおねがいしますっ!」
美穂「……って、あ!な、なんか暴走しちゃってますよね!」
美穂「すみません!興奮しちゃってて!そのっ!」
美穂「えと、そうじゃなくって、そその…ううぅー!」
拓海「おう、わかった、とりあえず落ち着け」
美世「深呼吸する?」
美穂「は、はい!すみません!ちょ、ちょっと!待っててください!」
美穂「すぅー……はぁー……すぅー……はぁ……」
肇「美穂さん、どうぞお水です」
美穂「あ、ありがと、肇ちゃん」
美穂「ごくごく……ぷはっ」
美穂「……」
美穂「お、お待たせしました。も、もう大丈夫です」
拓海「じゃ、改めて自己紹介すっか」
拓海「カミカゼこと向井拓海だ、まあ知ってたみたいだけどよ」
美世「拓海の専属メカニック原田美世!あたしの事も知ってくれてたんだね!」
美穂「は、はい!お二人は有名なので!」
拓海「だけど有名って言うなら、お前もだろ」
美世「うんうん、あたし達も活躍は聞いてるよ」
美穂「……」
美穂「ちょっと待ってくださいね」
美穂「たぶん、いつもの流れなので心の準備だけさせてください」
拓海「おう」
美世「わかった」
美穂「……」
美穂「お、おっけーです、どうぞ」
拓海・美世「「ひなたん星人」」
美穂「……ふっ」
美穂「もう大丈夫ですよ、ええもう慣れましたとも……(震え声)」
肇(美穂さん、遠い目をしてます……どうやらまだ慣れてはいないみたいです……)
肇「拓海さんたちも美穂さんのこと知ってたんですね」
美世「うん、まあそれに気づいたのはついさっきなんだけどね」
拓海「肇が、『美穂もヒーローをやってる』って話してたときだな」
美世「商売敵と言うか……同業者の事は色々と知っておくべきってあたし達のプロデューサーも言ってたしね」
拓海「あいつも熱心って言うか、真面目って言うか、神経質って言うかよ」
美世「まあまあ、覚えておいて損はないんだけどね」
拓海「とにかく、そう言うわけだな。アタシらがひなたん星人の事を知ってたのは」
美世「結構活躍の噂を耳にするもんね」
肇「なるほど、そうでしたか」
美穂「……熊本に帰っちゃおうかなぁ……ぶつぶつ」
肇「美穂さん、こっちに帰ってきてください」
拓海「ま、挨拶もそこそこによ、主役も来たことだし始めるとするか」
美世「だね」
美穂「えっ?はじめるって……」
肇「決まってますよ、美穂さん」
美穂「……もしかして」
肇「はい!もちろん!」
肇「お誕生日祝いです!」
♪~
美穂(肇ちゃんの合図とともに音楽がなり始めて)
みく「お誕生日ケーキお待ちどうさまにゃ♪」 コトッ
美穂(テーブルの上に大きなケーキが運ばれてきました)
美穂(ケーキの上には、私の年の数だけ蝋燭が立っていて)
美穂(それぞれの頭に小さな炎が揺らめいています)
蝋燭(こんなカワイイぼくを吹き消すなんてできるはずがありませんよ!フフン!)
肇「それでは美穂さん、一息にどうぞ」
美穂「う、うん!」
美穂「ふ、ふぅ~~」
蝋燭(にぎゃあ)
美穂「良かった、一息で吹き消せて……私、毎年よく失敗しちゃうから」
パパァン!!
美穂「わわっ!」
美穂(色とりどり、クラッカーから紙ふぶきが飛び散ります)
肇「美穂さん、お誕生日おめでとうございます!」
美穂「……えへへ」
美穂「ありがとう!」
みく「はっぴーばすでーとぅにゃあ!!」
美穂「えっ、にゃ、にゃあ?」
みく「むむっ、なかなかいい返しだね♪」
みく「そんな美穂チャンには、みくからこれをご進呈にゃ!」 スッ
美穂「…ネコミミ?」
肇(あ、それ結局渡すんだ)
みく「ちらっちらっ」(期待のまなざし)
美穂「あ、あの……?」
美穂「……」
美穂「……」 スチャ
ネコミミ美穂「にゃ…にゃあ?」
みく「……みくは、またとんでもない逸材を掘り起こしてしまったかもしれないにゃ」
美穂(いつもやってる事に比べれば、このくらいは大したことじゃないよね)
美穂(……何か変な方向に慣れてしまってる気がしますけれど)
みく「それは、エトランゼからの誕生日プレゼントって事で美穂チャンにさしあげるにゃ」
みく「良かったら時々使って、ねこチャンの気持ちになってね♪」
美穂「は、はい、ありがとうございます?」
みく「それじゃあ、みくはこれで!あとは肇チャンのご奉仕をうけてゆっくりしていって欲しいにゃ!」
肇「み、みくさん…!」
みく「にゃは♪じゃあねえ!」 スタコラ
拓海「なんつーか……やりたいことだけやっていったな」
肇「そこがみくさんらしくて良いところなんですけれどね」
拓海「……そんじゃあ、次はアタシらの番だな」
美穂「えっ?」
美世「あたし達からの美穂ちゃんへの贈り物」
美穂「ふぇっ!?!」
美穂「えっ!いや!あ、あのっ!」
美穂「お、お二人からなんて!ま、まだ初対面ですし!そこまでしてもらっちゃうのも!」
美穂「そ、それにそんな凄そうなものいただけませんっ!」
拓海「ははっ、おいおい何を貰うつもりでいるんだよ、そんな大したもんじゃねーって」
拓海「アタシらから贈るのは言葉だけだ」
美穂「言葉ですか?」
美世「うん、アイドルヒーローの先輩として美穂ちゃんに贈る言葉だよ」
拓海「肇から聞いたけどよ、美穂はアイドルヒーローを目指してるんだってな」
美穂「は、はい!その……一応は!」
拓海「一応って何だ、そこは強く胸を張っておけよ」
美穂「す、すみません!」
美世「あはは、まあまあ」
美世「けど、そんな美穂ちゃんに何かあたし達がアドバイスができたらいいんじゃないかなってね」
拓海「ってな感じの事を言い出したのは肇なんだけどな」
美穂「肇ちゃん……」
肇「……差し出がましい事だったかもしれませんが」
肇「少しでも美穂さんの夢の応援が出来たらなと……」
美穂「ううん、ありがとう」
美穂「私はすごく嬉しいよ、肇ちゃん!」
肇「美穂さん……!」
拓海「な、なんつーか……すげえ眩しい笑顔だな」
美世「どうするの拓海、これアドバイスとかいるのかな?」
美世「このままで充分アイドルとして通用しそうなかんじだけど」
拓海「大丈夫だろ……こういうのは的確なアドバイスかどうかより」
拓海「”何か言ってやった”って事自体が大事なんだよ、たぶんな!」
拓海「……」
拓海「まあ、アタシもアイドルヒーローとしてはまだまだヒヨっ子だからよ」
拓海「大した事は言えねーけど」
美穂「は、はい!」
拓海「まあ、アレだ」
美穂「……」
拓海「……」
拓海「なるようになるだろ」
美穂「なるようになる…ですか」
拓海「おう」
美穂「……」
肇「……」
美世「……拓海」
美世「それ本当に大したこと言ってない」
拓海「だぁぁっ!アタシになんか良い感じの事とか言えっかよっ!」
拓海「アタシなんてよ、ヒーローなんて言うのもただ何となく始めた事だし」
拓海「今アイドルヒーローやってるのも流されてやってるようなもんだ」
拓海「つまり夢とか、憧れなんてものは最初はなくってだな」
拓海「何か目指して頑張ってるような奴の参考になるような事は言えねーよ」
美穂「……」
拓海「けどまあ、成り行きではじめたことだが」
拓海「結構性に合ってるのか、悪くねぇなって思うことが……」
美世「うんうん」
拓海「……がああ!くそっ!」
拓海「なんだっ!うまく言えねーけど!」
拓海「こんなアタシでもやっていけてるんだからっ」
拓海「マジで目指してる奴なら大丈夫だろ!」
拓海「夢を見続ければ叶うなんて甘い世界じゃないのは当然だけどよ」
拓海「正面から向き合って、努力できる奴の夢は、きっとそいつを裏ぎらねえだろうよ」
拓海「以上っ!!」
美穂「拓海さん……貴重なお話ありがとうございます」
拓海「……ちっ、なんか小っ恥ずかしいこと言っちまった……」
拓海「やっぱ忘れろ、今の」
美世「良い感じの事言えたんだから恥ずかしがらなくたっていいのに」
拓海「うっせ!うっせぇ!」
美世「ふふっ、拓海もちょっと照れ屋なところあるけれど」
美世「それでも今日までうまくやってこれたから、美穂ちゃんもきっと大丈夫だよ」
美穂「……はいっ!」
美世「……」
美世「『正面から向き合って、努力できる奴の
拓海「繰り返すんじゃねーよ!!ちくしょうっ!!」
美穂「あははっ」
拓海「ちっ、つい偉そうに説教じみたこと言っちまうなんて」
拓海「いつからアタシはそんなに偉くなったんだ……」
拓海「やっぱりアドバイスって言うのは大先輩に言ってもらうに限るだろ」
美世「ふふっ、本人は大先輩って言われるの嫌がりそうだけどね」
美穂「?」
ミミミン!ミミミン!ウーサミン!
美穂「あっ!あわわ、すみません!」
美穂「携帯に電話が掛かってきたみたいでその」
美世「噂をすれば、いいタイミングだね♪」
美穂「?」
拓海「構わねぇから、電話出てみな」 ニヤリ
美穂(なんだろう?)
美穂(……?知らない電話番号からだ)
ポチッ
美穂「はい、もしもし?」
『あっ、こんにちはー』
『えっと、小日向美穂ちゃんの電話であってますよね?』
美穂「……」
美穂「えっ」
『あれ、違ってました?おかしいですね……確かに教えてもらった電話番号を……』
美穂「いやっ、あのっ!」
美穂「あああのっ!わわたしが、こ、ここここ小日向みみほですっ!!」
『良かった!間違いなかったですね!』
美穂「えっ、嘘っ!!ええっっ!!?だって貴女は?!!」
『うふふっ、私が誰かわかりますか?』
美穂「……」
美穂「……」
美穂「な、菜々ちゃん……」
菜々『はいっ☆はじめましてですねっ!なっなでーす!!キャハッ♪』
美穂「……」
菜々『……』
美穂「……」
菜々『……』
美穂「……」
菜々『……あ、あれ?もしかして引いちゃってます?』
美穂「……ぐずっ、いえっ、そ、そうじゃないんですけど……ぐすっ」
菜々『!?って、あれ!?泣いてっ?!』
美穂「すみません…な、なんだか…感激しちゃってそれで……」
菜々『……そうでしたか』
菜々『大丈夫ですよ♪美穂ちゃんが落ち着くまでナナは待ってますからね!』
美穂「ありがどうございます……」
肇「美穂さん、お水です」
美穂「肇ちゃん、ありがとう…ぐすっ」
――
夕美「いいのかなぁ、事務所通さずにこう言うことしちゃってて」
菜々「ちょーっとまずいですけど……ば、バレなかったら大丈夫ですよっ!」
菜々「それにナナに憧れてアイドルヒーローを目指してくれてるなんて嬉しいじゃないですか」
菜々「だから内緒にしててくださいね♪」
夕美「んー、まあいいけど……」
――
美穂「すみませんっ!お待たせしました…っ!」
菜々『いえいえー』
美穂「あのっ、本当にっ」
美穂「本当に本当にっ、菜々ちゃんなんですよねっ?!」
菜々『はい♪正真正銘のラビッツムーンこと菜々ですよ♪』
美穂「私っ、菜々ちゃんの大ファンでっ!」
美穂「すっごく憧れてて、あんな風にみんなを笑顔に出来たらいいなって思ってて」
美穂「それで、ヒーローになりたいなって思って……」
美穂「あははっ……また、変な事言っちゃってますね私……ぐすっ」
菜々『変な事なんてないですよ、ナナも憧れる側でしたからその気持ちわかります♪』
菜々『美穂ちゃんも、ヒーローをやってるそうですね』
菜々『ヒーロー、楽しいですか?』
美穂「……はいっ、誰かにお礼を言われるのは恥ずかしいですけど……」
美穂「すごくあたたかいですっ」
菜々『ふふっ、そうですか♪』
菜々『……アイドルヒーローは一見、華やかに見える世界ですけれど』
菜々『時には辛いこともたくさんあります』
菜々『ですが、その温かい気持ちを忘れなければどんな逆境もきっと乗り越えられますから』
菜々『是非、素敵なアイドルヒーローになってくださいね♪」
美穂「はいっ!!」
菜々『お誕生日♪おめでとうございます、美穂ちゃん!』
美穂「はっ!」
美穂「あ、ああありがとうございますっ!!」
菜々『それにしてもお誕生日祝いですか……いいですねぇ』
菜々『この年になるとお誕生日で素直に喜べなく……』
美穂「えっ?」
菜々『じゃなくってっ!!!』
菜々『な、菜々もお誕生日祝い楽しみだなーって、あはっ☆』
肇「……良かったです。美穂さんが喜んでくれているみたいで」
美世「うんうん、お誕生日祝い大成功だね」
拓海「……いや、これで終わりじゃないだろ」
美世「?」
拓海「なあ、肇?」
肇「……はい」
拓海「後はしっかりやれよ」
……
……
……
帰り道
美穂「うっ、寒っ」
美穂「この時間になると冷え込むね……」
肇「すみません、こんな時間まで待っていただいて」
美穂「ううん、大丈夫だよ」
美穂「それより私のお誕生日会を開いてくれて…」
美穂「本当にありがとう肇ちゃんっ!」
肇「……いえ」
肇「美穂さんに喜んでいただけたなら幸いです」
美穂「うん、本当に素敵なお誕生日だった」
美穂「今日は一生忘れられない日になりそう」
肇「そう思っていただけたなら……何よりです」
美穂「うんっ!」
肇「……」
美穂「……」
肇「……」
美穂「……」
肇「……」
美穂「ねえ、肇ちゃん」
肇「!」
肇「なんでしょう、美穂さん?」
美穂「ちょっとだけ温まって行こうか」
……
……
美穂「はい、肇ちゃんの分」
肇「ありがとうございます、あつつ」
美穂「あ、気をつけてね」
肇「……屋外でも温かいお茶が飲めるのは便利な社会ですね」
美穂「そうだね、あまり意識はした事無いけれど……」
美穂「鬼の里には、自動販売機も無いんだよね?」
肇「はい、機械の類は全然です」
美穂「そっかぁ……」
肇「……」
美穂「……」
肇「……真冬の夜でもこの公園は暖かいですね」
美穂「うん、暖かいからこうしてベンチに座ってるだけで眠くなっちゃう」
肇「はい、まるで日溜まりの中に居るかのようです」
美穂「肇ちゃんと、初めて会ったのもこの公園だったよね」
肇「ふふっ、あの時も美穂さん眠ってましたね」
美穂「ううん、最初に眠ってたのは肇ちゃんの方だったよ」
肇「えっ」
美穂「ヒヨちゃんに出会った日、私この公園に来てたから」
美穂「その時このベンチで眠ってる肇ちゃんを見つけて……」
美穂「だから私がはじめて会ったとき、眠っていたのは肇ちゃんの方なんですよ」
肇「そうだったんですね、まさかあの時見られていたとは……」
美穂「ふふっ、肇ちゃんの寝顔可愛かったよ」
肇「み、美穂さんの方こそ」
美穂「……」
肇「……」
美穂「な、なんか熱くなってきたね?」
肇「そ、そうですね?」
美穂「……」
肇「……」
美穂「……」
肇「……よし」
美穂「……」 ウツラウツラ
肇「あ、あのっ!!美穂さんっ!!」
美穂「ふぇっ!?あっ!!はい!!すみませんっ!!寝てません!!」
肇「……」
美穂「……」
肇「……寝てました?」
美穂「……寝てました、すみません」
肇「ふふっ」
美穂「え、えと……どうしたのかな、肇ちゃん?」
肇「あの、これ受け取って下さい」 スッ
美穂「……これは?」
肇「お誕生日プレゼントです」
肇「……先ほどのお誕生日会で渡そうと思っていたのですが」
肇「なかなか取り出すタイミングが掴めなくて……」
美穂「……えへへ、肇ちゃんありがとうっ」
肇「こ、光栄です」
美穂「……開けてもいい?」
肇「ど、どうぞ」
ガサゴソ
美穂「あっ」
美穂「これ湯飲み?」
肇「はい、湯飲みです。市販の品物ですが……」
肇「美穂さんには、どんなプレゼントを渡そうかずっと悩んでいたんです」
肇「みくさん達や拓海さん達には、その事で相談していたのですが……」
肇「なかなかいいイメージが出てこなくて……」
肇「結局、直感でそれを選んでしまいました……」
美穂「……」
肇「すみません、それより良い物を思いつけなくて……」
美穂「……」
美穂「肇ちゃん、これ早速使ってもいいかな?」
肇「え?」
美穂「えっと、こうして移し変えて」
美穂「……」
美穂「よしっ、それじゃあいただきます」
美穂「ごくごく」
肇「……」
美穂「ふふっ、暖かいよ。肇ちゃん」
肇「はいっ」
美穂「……」
肇「……」
美穂「……」
肇「……」
美穂「肇ちゃんはいつか帰っちゃうんだよね」
肇「……はい、今はこちらでやるべき事がありますが」
肇「やるべき事を全て果した時」
肇「そう遠くない未来だと思います……」
肇「……その時は……鬼の里に戻ります……」
美穂「そっか」
美穂「寂しくなっちゃうね」
肇「……はい」
肇(出会いがあれば、別れがある)
肇(それが世の常です)
肇(いつかお別れの時が来たとしても)
肇(思い出があれば、寂しくないのかな)
肇(忘れられない今日が、形のある思い出となるのならきっと……)
美穂「肇ちゃん」
肇「は、はい。なんでしょう?」
美穂「もうすぐ私、冬休みだけど」
美穂「もし良かったら、肇ちゃんの故郷に行ってもいいかな?」
肇「えっ」
美穂「肇ちゃんの家の事、知っておきたくて」
美穂「ダメかな?」
肇「……もちろん大丈夫です、是非きてください」
肇「家族もきっと喜びます」
美穂「うん、それじゃあ約束だね」
肇「はいっ、約束です」
美穂「……」
肇「……」
美穂「あ……」
肇「雪ですね」
美穂「振ってきちゃったね」
肇「暖かい公園に雪が降る様は、少し奇妙ですね」
美穂「うん。だけど桜と雪が一緒に振ってくる光景はすごくいいかも」
肇「はい」
美穂「……」
肇「……」
美穂「ふふっ、暖かいね」
肇「はい、今日は暖かい日です」
……
……
……
小日向家
母(肇ちゃん、今頃うまくやってるのかしら)
父「なあ、お母さん……美穂がこんな時間まで帰ってこないんだけど」
母「そうねぇ」
父「どうしよう、お誕生日なのに……ぐすん」
母「はいはい」
父「もしかして……彼氏が出来たとか……」
父「う、うおおおおおおおお!!」
父「そんなの許さん!!絶対許さんぞおおおおお!!」
母「はぁ……まったくこの人は」
おしまい
と言う訳で美穂ちゃん誕生日のお話でした
小日向ちゃん誕生日おめでとー
亜季ちゃんも誕生日おめでとー
作中で触れようかと思ったのだけど、やはり難しくここで…
たくみんと菜々さんとの面識を持たせさせていただきました
美穂ちゃんは順調にアイドルヒーローオタク化してる気がします
みくさん、亜季ちゃんとたくみんやウサミン達って憤怒の街で会ってたりすんのかなーとか
その辺わかんなかったんで、割りと適当にどうとでも取れるように
みく、アーニャ、キヨラ、亜季、拓海、美世、卯月、茜、菜々、夕美お借りしましたー
結構借りたな……
乙です
17歳さんが試されすぎて吹いたww
というか全体的に吹いたww
アイドルヒーローに祝ってもらうとかすっごい贅沢だなひなたん!!おめでとう!
年齢はね、うん、触れたら負けよ(遠い目)
そして二人きりのしんみりした雰囲気もステキ
…肇ちゃんはやっぱりいつか帰るのか…
乙ー
誕生日おめでとー
菜々さん試されていて吹いたw
年齢……それは開けてはいけないパンドラの箱である……
乙でしたーん
白兎の暗躍、盛り上がってまいりました
でも爛ちゃん評価シーンでどうしても笑っちゃうの誰か助けて
美穂ちゃん誕生日おめでとう!
もう美穂ちゃんと肇ちゃんは結婚したらいいんじゃないかな
続けざまに誕生日投下ー
カイ「たっだいま~」
『キキキン♪』
仕事を終え、公園へと帰り着いたカイに、ホージローがすぐさま飛びついてじゃれつく。
カイ「あははっ、寂しかった? ごめんね、ホージロー」
星花「お帰りなさい、カイさん」
ストラディバリ『レディ』
ヴーン ヴーン
それに続き、星花とストラディバリ、そしてマイシスターも彼女を出迎えた。
カイ「みんなただいまー。……あれ、亜季はまだなんだね」
カイは周囲を見渡して、亜季の姿が無い事に気付いた。
星花「ええ、お仕事が長引いているようですわ」
カイ「そっかー。マイシスター、パートナーいなくて寂しい?」
カイは軽くマイシスターの身体を撫でてやる。すると、
??『君らはアレか、亜季の友人か?』
カイ「……へっ?」
聞きなれない声が響いた。
声は、マイシスターの方から聞こえる。
星花「マイシスターさん……お話出来ましたの?」
??『いやいや、俺はマイシスターじゃない、亜季の上司だ』
謎の声は星花の問いに答えた。
星花「亜季さんの上司の方……ですか?」
カイ「……あ、もしかして、アタシと亜季が初めて会った時に亜季が通信した人? 確か司令室とか」
司令室『ああ。ってことは亜季が言ってた友達ってのは……』
カイ「うん、あたしカイ。こっちはホージロー」
『キンキン』
星花「同じく、涼宮星花と申します。こちらはストラディバリです」
ストラディバリ『レディ』
カイと星花は、相手に向かって相棒を含めた自己紹介を行った。
司令室『おう、よろしく。……亜季はいないみたいだな』
マイシスターのカメラを通して見たのか、彼はそう呟いた。
カイ「あ、亜季に用事でした?」
司令室『ああ。まあ、アイツが戻るまで待たせてもらうか』
司令室『あ、司令。そういえば今日って……』
司令室『今日? ……ああ、そういやそうか』
星花「……何かございましたの?」
急に内輪で話を始めた司令室に、星花が怪訝そうに尋ねる。
司令室『ああ。君らは多分聞いてないか。今日アイツはだな……』
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亜季「ふう……すっかり遅くなってしまいました」
亜季はコンビニの袋を手に帰路を急いでいた。
彼女のバイト先、メイド喫茶エトランゼ。
今日は別段忙しかったわけではないが、閉店後にチーフが行っていた後処理を手伝った結果、こんな時間になってしまったのだ。
亜季(急がないと、今頃二人がお腹を空かせて待っているであります)
フルメタル・トレイターズの夕飯調達(主にコンビニ弁当)は当番制、今日は亜季が当番だった。
それだけに、帰りが遅れたことが二人に申し訳ないのだ。
亜季「やっと着いた……すみません二人とも、遅くなりました!」
公園に駆け込んで叫ぶや否や、カイと星花がこちらへ駆け寄ってくる。
亜季「すみません、残業が入ってしまって夕飯が遅く……」
カイ「亜季ハッピーバースデー!」
星花「おめでとうございます、亜季さん♪」
亜季「……へっ?」
突然のことに呆気にとられていると、ホージロー、マイシスター、ストラディバリも近づいてきた。
『キッキキン、キン♪』
ヴーン ヴーヴン
ストラディバリ『レディ』
亜季「え、えっと……バースデー、でありますか?」
司令室『ああ、悪いな亜季。こっちでそこのお二人に教えたんだ』
亜季「!? し、司令でありますか!? 何故急に……!?」
司令室『いくつか言っておきたいことがあってな』
亜季「言っておきたいこと……ですか?」
司令室からの言葉に、亜季はキョトンとする。
司令室『お前、ボディの定期メンテナンスの事忘れてないか?』
亜季「あっ……」
カイ「定期メンテナンス……?」
星花「やはり半分機械ですと、そういうのも必要なのですね」
司令室『やっぱりな。自分の誕生日も忘れるくらいだ』
亜季「め、面目ないであります……」
司令室『まあそういうわけだ。今すぐじゃなくてもいいから、近い内に一回帰って来い』
亜季「了解であります!」
亜季がビッと敬礼したところで、司令室が続けた。
司令室『それからもう一つ。カースとの詳しい交戦データがあったら、それを送ってくれ』
亜季「カースのデータを? それは何故でありましょうか?」
司令室『それが近頃、他の世界にも少数だがカースが湧き始めてな』
亜季「! ……なんと……!」
驚く亜季をよそに、カイと星花は不思議そうに首をかしげた。
カイ「カースが湧くって……普通じゃないの?」
星花「ええ、別段不思議ではないような……」
亜季「カースは以前まで、この第65535次世界にのみ出現していたのであります。それが……」
司令室『原因は判明してる。第65535次世界の境界線が一部不安定になって、そこから飛び出して来るんだ。
まあ規模が小さいから、世界そのものが崩れ去るようなことは無いがな』
カイ「なるほど……」
星花「それでも、未知の怪物が襲来するというだけでも充分な脅威ですわね」
司令室『そうだ。だから亜季にデータを送ってもらいたいんだが……』
亜季「了解しました。至急データを送信します!」
亜季はそう言ってマイシスターの装甲を一部開き、中のモニターとキーボードを操作した。
司令室『…………オーケー、これを解析して他の世界に送れば、多少は楽になるだろう』
司令室からは安堵の息が聞こえる。
司令室『よし、後は適当なタイミングでメンテナンスに戻ってきてくれ』
亜季「了解であります」
司令室『カイさんに星花さん、あとホージロー君とストラディバリ君だったな』
カイ「は、はいっ!」
突然名前を呼ばれ、カイは思わず上ずった声で返事をした。
司令室『亜季の事を頼むぞ、コイツこう見えて結構ポンコツだからな』
亜季「ちょっ、司令!?」
星花「ふふふ、そんなことはございませんわ。もう亜季さんには何度助けられたか」
司令室『それならいいけどな。じゃあ、そろそろ通信切るぞ』
亜季「はい、司令達もお元気で!」
司令室『ああ。亜季、いい誕生日をな』
祝福の言葉を最後に、司令室からの通信は途絶えた。
カイ「……いい上司さんじゃん?」
『キンキン』
亜季「私も、そう思います」
カイの言葉に亜季は目を閉じ、ゆっくりとかみ締めるようにそう言った。
星花「さあ、それでは亜季さんのお誕生日会を始めましょう」
ストラディバリ『レディ』
星花はそう言うと亜季からビニール袋を受け取り、中の弁当を近くのテーブルに並べ始めた。
亜季「……私は、上司にも仲間にも恵まれているでありますな」
ヴーン ヴーン
亜季「ふふ、もちろんお前もでありますよ」
亜季は少し口角を上げると、マイシスターを一撫でして星花の元へ向かった。
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――――
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――――――――――――
??「にしても……すごい量のデータですよ、これ」
??「……データ通りなら、カースはまだまだ進化を続けるな」
??「こちら側はもちろん、亜季も危ないかも知れませんね」
??「現在の亜季のボディはR級躯体のSC-01、新型とは言ってもそろそろ厳しくなる頃では……」
??「その場合は、代替ボディの用意が必要でしょうな」
??「おい、まさか……TP-02を使うのか? あれはSC-01と同じR級だ、交換しても焼け石に水だぞ」
??「ボディならまだ一つある」
??「司令官……まさか!?」
??「ああ、アレの調整を急げ」
??「は、はい!」
??「確かにアレは危険だが、それを何とかするのが俺たち裏方の仕事だ」
??「…………SR級躯体、HWG-0X…………」
続く
以上です
亜季ちゃんの誕生日を祝うと同時に亜季ちゃんパワーアップフラグを立てるという無謀な試み(白目)
ともあれ亜季ちゃん誕生日おめでとう!
一応、不安定な境界線の件は亜季ちゃんパワーアップフラグの一環なので
現時点ではそこまで大事にする予定はありません、あしからず
乙ー
誕生日おめでとう
パワーアップフラグきたー
乙です
亜季ちゃんもおめー!
RとかSRでボディ名の意味がやっと分かった…w
おっつおっつ
カースの進化ヤバイの
改めてまして亜季ちゃん誕生日おめでとー
とある魔法使いのお話投下します
さくら「『妖精の秘宝』ですかぁ?」
サクライP「ああ、そうだ。さくら君にはそれの調査を頼みたい」
これは、祟り場が終わり聖來がサクライPを追いかけ始める少し前の話である。
その日、魔法使いさくらは、
雇い主であるサクライPに呼び出され、新たな指令を出されていた。
さくら「それってどんな物なんですか、サクライさん?」
さくら「『秘宝』って言うだけあって凄そうな感じはしますけどぉ。」
サクライP「それが困った事に……よくわからなくてね。」
さくら「えっ?よくわからない?サクライさんにもですか?」
サクライP「ああ。現段階で財閥が『妖精の秘宝』について入手している情報は少ない」
サクライP「分かってる事と言えば、それはどんな形にも変化すること」
さくら「どんな形にでも、ですか?」
サクライP「それは時に『本』の形であり、『杖』の形であり、『生き物』の形であり、」
サクライP「どんな物にでも姿を変える、まさに魔法の様な存在だそうだ」
さくら「不思議ですねぇ?」
サクライP「不思議だろう?」
サクライP「そして、それは『妖精界』の建国に使われた物であるらしい」
サクライP「さくら君は『妖精界』を知ってるかな?」
さくら「えっと、全然!知りませぇん!」 ニッパー!
サクライP「はっはっは」
さくら「えっへっへー♪」
サクライP「まあ、さくら君が知らなくても無理はない。魔界の悪魔達にも知る者は少ないのだから」
さくら「名前からすると妖精さんが住んでる世界ですかぁ?なんだかとっても素敵ですねぇ!」
サクライP「その通り、妖精族と呼ばれる存在が住まう世界だ。」
サクライP「とは言え実態は、さくら君が想像するそれほど素敵なものかはわからないけれどね」
さくら「そうなんですかぁ……?ちょっと残念かもしれません……」
サクライP「何しろ見たことがある者がいないからね」
さくら「はいっ!わたし、いつか見てみたいでぇす!」
サクライP「そうだね、いつか機会があれば財閥の者を集めて行ってみるとしよう」
さくら「えへっ、楽しみです!」
サクライP「さて、伝承によれば、妖精界とはかつて魔界で起きた争いから逃れるために、」
サクライP「魔界を離れていった妖精達が作り上げ、今も住まう世界であるらしい」
サクライP「故に、彼らは魔界とはまた少し違う魔法や魔術、あるいは別の技術を使えるようだ」
さくら「ふむふむ、あっ!わかりましたよ!サクライさぁん!」
サクライP「ん?何がかな?」
さくら「『妖精の秘宝』はその妖精達が使ってるマジックアイテム!ですよねぇ!?」
サクライP「ふふっ、正解だよ。流石はさくらくんだ」
さくら「おっと、当てちゃいましたぁ?やったぁ!!」 ピョンピョン!
サクライP「妖精達の扱うマジックアイテムにして、唯一無二の国宝」
サクライP「それが『妖精の秘宝』だ」
サクライP「建国以来、妖精達はそれを大事に守ってきた訳だが、」
サクライP「何があったのやら。ある日、忽然と人間界に紛れ込んできたようだ」
サクライP「それを捜し求めて、妖精族達も人間界に来訪し、動いているらしい」
さくら「大変そうですねぇ。」
サクライP「当人達にとってはまたとない大騒動だろうね」
サクライP「だが、せっかく人間界に迷い込んできてくれたんだ」
サクライP「僕たちも是非、手に入れたいと思わないかい?」
さくら「なるほどっ!そう言う事なら、この一流の大魔法使いさくらにどぉんっとお任せくださぁい!!」
さくら「必ず見つけてきますよぉ!」
サクライP「ああ。期待してるよ、さくら君」
さくら「えっへっへー!それじゃあ早速!行ってきまーす!」
こうして、一流の大魔法使い(?)さくらは『妖精の秘宝』の探索に出発したのだった。
サクライP「……」
桃華「『妖精の秘宝』」
何時の間に現れたのか、サクライPの膝には金色の髪の少女が座っていた。
桃華「妖精界自体が存在するかどうかも疑わしいものでしたけれど」
桃華「ここ最近の情勢の動き、紗南ちゃまの集めてきた情報」
桃華「そして、魔界の争いの時代を実際に生きて見てきたフェイフェイちゃまの言葉で、」
桃華「確実に存在していて、どのような形であれどこの人間界に存在していることはわかりましたわ」
桃華「求める物が近くにあるなんて、まったく嬉しい限りですわね♪」
『強欲』の悪魔は静かに微笑む。
本日はどうやらご機嫌であるらしい。
桃華「ですが、あの子に手に入れられますの?」
サクライP「おそらくは手に入れられはしないでしょう」
何しろ情報が少なすぎる。
姿かたちもわからない物をたった一人の少女が捜し求めるなど、到底不可能。
海底に落とした透明な宝石を手探りで探し当てるようなものだ。
サクライP「ですが、今できる事と言えば、このくらいのものです」
桃華「『妖精の秘宝』はこれからわたくし達が為す計画のために必要なもの」
桃華「『カースドウェポン』と並んで、いえ、それ以上にわたくしが欲しているものですわ」
サクライP「ええ、ですから何としても手に入れなければなりません」
サクライP「さくら君ならヒントくらいは間違いなく掴んでくるでしょう」
サクライP「彼女とて、伊達に『エージェント』として働いてはいませんからね」
桃華「随分と、高く評価されてますわね」
桃華「そう言えば、心なしか普段より優しく接していましたし」
桃華「Pちゃま、まさかあの子みたいな子がタイプではありませんわよね?」
ジトッとした目で睨みながら、桃華はサクライPに伺った。
サクライP「はははっ、まさかっ!私の全ては貴女様の物ですよ」
桃華「ふふっ、それがわかっていらしたら結構ですわ♪」
サクライP「まあ、実際のところ彼女は優秀です。」
サクライP「きっと貴女様も、満足の行く結果になるかと。」
桃華「Pちゃまがそこまで言うのなら、わたくしも期待して待つことにしましょう」
――
場面は変わってとあるコンビニエンスストア。
加蓮「いらっしゃいませー」
さくら「えっと、何がいいかなぁ」
加蓮(大きな杖を持ってローブを着たリボンの女の子?)
さくら「うーん」
加蓮(魔法使いのコスプレ……かな?)
魔法使いの少女はコンビニに入ると、
傍にあったカゴを手に取って、すぐに飲料コーナーに向かうのだった。
さくら「やっぱり牛乳だよねぇ」
見つけた2リットルパックの牛乳をとにかくカゴに入れる。
さくら「このくらいあればいいかなぁ?」
さくら「う、うぅ、重い……」
さくら「あ、あとペットボトルのジュースも何か……あわわ、おっと」
大きな杖に、大量の牛乳も持ってるためバランスを崩して何度もこけそうになっていた。
加蓮(見てて危なっかしい、大丈夫かな?)
さくら「すみません、これくださぁい!」
加蓮「はい」
加蓮「○○円です」
さくら「えっと」
加蓮(!! お財布分厚い!?)
財閥で働いているさくらは、身の丈に合わない結構なお金を所持していたりする。
さくら「これでお願いします」
加蓮「は、はい、××円のお返しです。あ、ありがとうございましたー!」
さくら「うぅ、やっぱり重いぃ」
加蓮「……身長を気にしてるお金持ちの子なのかな?」
――
ごくごくっ
さくら「ぷはー!」
さくら「一仕事終えた後はやっぱりこれだよねぇっ!」
空になったピーチジュースのペットボトルを片手に一言。
さくら「……今考えたら、強化の魔法とか使っておけば良かったかも。」
そこまで考えは回らず、馬鹿正直に……もとい素直にコンビニから近くの公園まで、
一生懸命これらの荷物を運んできてしまった。
さくら「まあいっか♪切り替えて行こう!」
細かい事は気にしない方針で。
そうして公園の適当な一角で、作業を始める。
……
さくら「ここをこうしてぇ、ここはこう。」
お気に入りのピンクのチョークを使って地面に落書き。
ではなく、どうやら魔法陣を書いているらしい。
特殊な図形だとか、ミミズの様な文字を一生懸命書き足していく。
さくら「よぉしっ!完成!」
出来上がったのは直径に1m程の中サイズの魔法陣
さくら「エッヘン♪」
書き上げた魔法陣の出来に、ご満悦のようで。
さくら「……」
さくら「間違ってないよね?」
とは言え、自信はあまり無いらしくニ度三度と魔法陣に書き込まれた式を確認する。
さくら「よぉし!ちょーばっちり!」
書き込まれた式に間違いはないはず。
絶対、おそらく、たぶん、まあ大丈夫でしょう。きっと何とかなるってば。たぶん。
さくら「と、言う訳で、さっそく詠唱開始!」
大きな杖を両手で支え、垂直に魔法陣の中心に突き立てようとして、
さくら「って、あぁっ待って!ま、まだダメっ!」
発動直前ギリギリで、忘れていた事に気づく。
さくら「牛乳置いてなかった!」
すぐ足元のビニール袋から牛乳パックを一本ずつ取り出し、上の口を開封。
等間隔に魔法陣の円周上に並べていく。
全部で12本、
時計の数字を並べるように全ての牛乳パックを設置した。
さくら「これでよしっ!」
さくら「すぅー、はぁー。」
再び、魔法陣の中心に立って、一度だけ、深呼吸。
そして桜の杖を構えて、魔力を集中させる。
そして少女は言の葉をつむぐ。
さくら『意識の泉に吐き捨てられし、言葉たち。』
さくら『無意識の海に沈み飲まれし、言葉たち。』
さくら『いま、再び私の前に沸きあがれっ!』
さくら『言葉の探知魔法!』
さくら『スプリングワード!』
魔力を込めて、桜の杖を魔法陣に突き立てる。
その衝撃を鍵に、足元に描かれた陣に向かって杖に込められた魔力が一気に広がり、光を放つ。
同時に12の方角から、一斉に白の塔が吹き上がった。
設置されていた12の筒から全ての白が、空中に浮かび上がると、
白の塔は砕けて分散し、ビー玉の様に小さな幾つもの丸い粒となる。
そして、粒はふにふにと形を変えながら、
術者の回りをゆっくりと、地面に水平に回り始め、
それぞれが、別の、意味を持つ形へと変わっていく。
《が》 《で》 《し》
《ら》 《ず》 《ー》
《ん》 《れ》 《る》
粒が変形して出来上がったそれらは、中空に浮かぶ白い”文字”であった。
それらは次第に幾つかのグループを作って、綺麗に横に整列しはじめた。
《フハハ!我が世界征服計画の第一歩になれたのだ!光栄に思うがいい!フハハハハハ!》
《大丈夫だ、まーくん。このシビルマスクがついてるから!》
《きゃはっ☆》
《あ、おかえりなさい、都さん、翠さん。ゴローちゃん、飼い主さんが引き取りに来られましたよ》
《覚悟完了、カミカゼ参上!》
《知らない! かおるは、おねえちゃんがなに言ってるのか全然わかんないよっ!》
《巴が最近、つめたいんじゃぁぁぁぁぁぁぁぉぁ!!!!!》
《お、おおお…これなら歩く自然災害という風評被害が無くなる…。》
《せめてあと100円あれば……唐揚げ串が買えるのににゃあ……ぐぬぬ》
《わかるわ》
《いやぁ、それにつけてもボクはカワイイですよねぇ……》
《なに、全部一人で抱えちゃう気? 相棒だと思ってたのあたしだけ? ちょっとくらい頼ってよ》
さくらの周囲を、幾つもの白い”文字”が、
いや、『言葉』が浮遊し漂っている。
それは、過去に誰かが強い意思をもって世界に放った『言葉』。
それは、過去に誰かが何か思った訳でもなくただ世界に零した『言葉』。
それは、誰の言葉で誰に向けて言われたのか、わからないけれど、確かに世界に存在した『言葉』。
《お帰りなさい、由愛様。ふふっ、心配いりませんよ。少し、お腹が減っただけですから》
《風香さん!風香さん!見てください!人がいっぱいです!》
《えー親戚じゃないよー?あずきは涼さんの所有物だよー。》
《それは私の勝手だから、かってー事は言わないで》
《仕方ないわ。私という存在のレベルが大きすぎるのよ》
《私ね、世界中の人がみんな眼鏡をかければ、世界は平和になると思うんだ》
《愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人に敵うものはいないナリ!》
《…沙織、これは他人に迷惑を掛けるロボットを捕まえるボランティアだよ》
《あーば、くぞー!》
《はーんてーん♪》
《こずえはー……こずえだよー?こずえはねー……おにんぎょうさんなのー……》
《ごきげんよう、嫉妬の呪い様》
《君は……"月宮博士"という人を……知ってはいないかい?》
《みんなすごく頑張ったから、ご褒美にコハルがぺろぺろしてあげます~》
《そらちん完全復活!!》
《……私は食べていないわ。食べたのはアーニャよ》
さくらが生まれた村松の家は、探知魔法を得意とする一族であり、
この魔法もまた、彼らの生み出した探知魔法の一つ。
過去に、周辺地域で発された『言葉』の痕跡を無作為に集め、
宙に浮かぶ文字へと変換し、術者の回りを巡らせ閲覧できる形にする魔法。
その名を『広域型回覧式口跡探知魔法』と言う。
そんな花も飾りも無ければ、身も蓋も無い名前を嫌ったさくらは勝手に別の名前を付けているが。
さくら「えっへっへー♪」
魔法がキチンと発動していることを確認できたためか、
術者であるさくらは、得意満面の笑みを見せている。
ところでこの魔法、実は詠唱とかいらないのだ。
式の書き込まれた魔法陣と、触媒となる液体、後は発動するための魔力さえあれば、魔法として完成する。
つまるところ、先ほどの詠唱もまたさくらが勝手に足したもので、魔法自体には何の影響も無かったりする。
さくら「さて、目的の『言葉』を探さないと、だよねぇ!」
周囲を巡る『言葉』達の中から、
ただひたすらに手がかりとなる『言葉』を探るさくら。
そして、
さくら「!!」
さくら「はぁい、見つけましたよぉ!『妖精の秘宝』の手がかり!」
指令を受けてから半日も経たない、わずかな時間で
彼女はその尻尾を掴んだのだった。
さくら「よぉし……」
右手には、先ほど飲みきったピーチジュースのペットボトル。
見つけた手がかりとなる『言葉』から目を離さないようにして、それを構える。
さくら「えいっ!!」
『言葉』の移動する方向と、向かい合うようにペットボトルを振る。
そして虫取り網に虫を捕まえるように、うまくペットボトルの中に目的の『言葉』を捕らえた。
ペットボトルの中に捕まった言葉は、容器の底にぶつかって、形を失い元の液状に戻る。
さくら「あわわっ、蓋っ!蓋閉めないとっ!」
慌ててペットボトルの蓋を閉めるさくら。
同時に魔法を維持する集中力が途切れ、
さくら「あっ」
さくらの周囲を漂っていた白い文字が一斉に砕け散る。
さくら「つめたいっ!」
頭から白い液体を被ってしまうのだった。
さくら「うぅ……びしょびしょになっちゃったよぉ……しゅん……」
早苗「ちょっと君大丈夫?って言うか何?この惨状?」
さくら「あっ……」
早苗「……」
さくら「え、えと……その……」
早苗「……」
さくら「てへっ♪」
手がかりとなる『言葉』を見つける目的は達成したけれど、
公園の地面に落書きしたり、牛乳撒き散らしたせいで
たまたま通りがかった婦警さんにすっごく怒られました。
――
さくら「はぁ、災難だったなぁ……」
片手に大きな杖、もう片方の手にペットボトルを持ってさくらは目的の場所へと向かう。
ペットボトルに入っている白い液体は、ゆらゆらと波打って、うっすらと輝いている。
さくら「だけど、『妖精の秘宝』の手がかりになる『言葉』はこの中にしっかり捕まえたから、」
さくら「探知魔法を使えば、この『言葉』の持ち主、つまり手がかりを知る人にたどりつけるよぉ!」
さくら「『妖精の秘宝』もたいしたことないですねぇ!」
ペットボトルの中には先ほど集めた『言葉』の中にあった、
『妖精の秘宝』に関する、『言葉』を捕まえて、牛乳に溶かしてある。
これに魔力を通して、軽く揺らせば。
牛乳の表面に現れる波紋と、その輝きを見ながら、
ダウジングの要領で、その『言葉』を発した人物を探せると言う訳だ。
さくら「うんっ♪やっぱり魔法使いに出来ない事はない!エッヘン♪」
さくら「……」
さくら「どうしてこんなに凄いのに隠さないといけないのかなぁ。」
――
――
少女の家は、古くから続く魔法使いの家だった。
そんな彼女の家に、ある日、白い髪の少女が尋ねてきた。
一度は外の世界からの来客を拒む彼らではあったが、
当主が彼女の才能を見抜き、
「彼女は私達の仲間だから」
と言うと、彼らは暖かく迎え入れた。
村松さくらにとっては、その人が、
《はじめて見るお家の外の人間》 であった。
少女の周りの大人たちは言っていた。
外の世界には怖い人間がたくさんいるのだと。
《わたし達が一歩でも外に出てしまえば、》
《外の人間達は私達の身体を裂いて、頭蓋を砕いて、私達から何もかもを奪うのだ》
そんな風に、少女は外の事を教えられていた。
だから少女にはなかなか外出の機会はなかったし、
普段遊ぶことができるのも、大人達の目の届く村松の敷地の中だけ。
彼らが子供をその様に教育するのは無理もない事情があるのだが……
ともあれ、そんな訳で
村松さくらが、村松家を来訪した白い髪の少女に抱いていた最初の感情は、
興味と恐怖が交じり合った、少々複雑な感情であった。
「えっと~、ご当主さん……この部屋、私たち以外に誰か居ませんか?」
白い髪の少女は老人に尋ねた。
眉を八の字にして、困ったような表情を見せている。
もっとも彼女は普段からどこか困ってるような表情なので、本当に困っているのかはわからないが。
「こら、さくら」
「そんな物陰から隠れて見おって、客人が困っておるであろう」
「あれっ、バレてる!?な、なんで~」
老人の叱責の言葉に、さくらが物置の影から姿を現した。
「当たり前だ。ワシを誰だと思っておる。」
たとえ、どれほど優秀な魔法使いであっても
探知魔法を得意とする村松の当主の目から隠れ続けることなど、到底不可能であろう。
「ほれ、お前もお客人に挨拶しなさい」
「……さ、さくらです」
「ワシの後ろからじゃなくて、ちゃんと前に出て挨拶せんかっ!!」
「あの~、ご当主さん。私は気にしてませんので~。あまり怒らないであげてくださいね」
当人は、
本当にまったくこれっぽちも気にしていなかったのだろうが、
さくらにとっては、この言葉が切欠であった。
(あ、この人は私を怒らないんだ)
さくらが調子に乗った瞬間である。
瞬く間に、さくらは白い髪のお姉さんに懐いたのだった。
――
――
さくら「……」
”妖精界の秘宝”の手がかりを知る者の追跡をしながら、
さくらは昔の事を思い返す。
さくら「そう言えば、いぶさんも白い髪の魔法使いでしたよねぇ…?」
ふと、さくらの記憶に埋れた何かが繋がりそうになったが。
さくら「……」
さくら「あはは」
さくら「いやいやまさかですよねぇ」
さくら「だってお姉さんは、ちょー優しい人だったもん」
『憤怒の街』で出会った魔法使いイヴの事を思い返す。
あんな風に、冷徹な表情で全てを凍てつかせる恐怖の女帝(さくらヴィジョン)が、
まさか、あの時に村松を訪ねた優しい白のお姉さんなわけがないだろう。
と、さくらは結論付けるのだった。
――
――
「ねぇ、お姉さぁん」
「◆■ですっ」
こつん、とさくらの額を白いお姉さんがつつく。
「だって、発音が難しいですよぉ…」
「……初めて言われましたねぇ、そんなこと」
「今はお姉さんでいいですけど、ちゃんと名前覚えてくださいね?」
「はぁい」
優しいお姉さんの言葉に、適当な返事を返すさくら。
「それで、どうしましたぁ?さくらちゃん?」
「お姉さんは、お外から来たそうですけど……」
「魔法使いなのに……お外が怖くないんですかぁ?」
少女の家族は、魔法使いは隠遁するべきだと口を揃えていった。
それは”恐怖”ゆえであった。
魔法使いは今でこそ、世界に歓迎されている。
しかしそれは”あの日”を迎えてからの話である。
この頃はまだ、
彼らは、”特別”を操る絶対の『強者』でありながら、
同時に、”少数”と言う『弱者』あった。
後に村松さくらは、外の世界に憧れて、
家族の言葉を省みず、家を飛び出す事となる。
少女は知らないからだ。
魔法使いは、その万能の力を恐れられ、
人々に排斥された時代があった事を。
『魔女狩り』などと呼ばれる悪習が、
ほんの少し前まで廃れていなかった事を。
少女はちっとも知らなかったからだ。
錬金術と呼ばれる学問を修める名家の者。
300年以上の年月の果て、魔道を極めた男。
そのような真に『特別』なる者達は、表から裏から世界を牛耳ることができたが、
しかし村松家は、彼らとは違う。
探知魔法の使い手。所詮はその程度。
彼らよりも『特別』の強度の低い村松家は、ただ隠れ潜むことしかできなかった。
さくらの家族を含む多くの魔法使い達は表舞台に立とうとしなかったのではなく、
表舞台に立つことを許されていなかった。
特別な事が珍しい事ではなくなる”あの日”までは、隠遁の道を選ぶしかなかった。
魔法の力を隠すのは、力を独占したいからではなく怖いからだった。
人々に恐れられて、弾かれて、許されないのが怖いからだった。
「確かに……外の世界には怖い人たちもたくさん居ますねぇ」
「だけど、それはみんなが知らないからだと思います」
さくらの質問に、白い髪のお姉さんは答える。
「知らないから?」
「はい、外の世界の皆さんは魔法には素敵な事ができるって知らないから」
「そして、魔法使いの皆さんは外には素敵な物がたくさんあるって知らないから」
「お互いがお互いに知らないから怖いものだと決めつけちゃってるんですねぇ……」
「???」
「さくらちゃんには難しかったですかぁ?」
「う、うぅん、ちょっとだけ難しかったです……ちょっとだけですよ?」
「そうですかぁ、少しはわかってもらえたみたいでよかったです~♪」
さくらの返事をすると、白い髪のお姉さんは困った顔で笑いながらさくらの頭を撫でるのだった。
「えっへっへー♪」
「いつかは皆さんに、魔法を認めてもらえるといいですねぇ」
「ですねぇっ!」
――
それから、”あの日”を迎えて世界は変わったが、
それでも『村松』は、未だに外の世界を恐れている。
”あの日”以降の世界しか知らない、さくらを除いては。
さくら「……魔法はこんなに凄い力なんだから!」
さくら「サクライさんも、芽衣子さんも、セイラさんも」
さくら「みんな、私の事をすごいって言ってくれるし」
さくら「……いつかは、ヒーローみたいに」
さくら「みんなから認められるような、そんな魔法使いになれたらいいなぁ♪」
『探知』を得意とする『村松家』は、
家を飛び出して行ったさくらの事などは、とっくに見つけ出している。
それでも連れ戻すことをしないのは、
彼女の夢が、『村松家』その物の夢だからだろう。
外の世界は怖い。だが、決して憧れなかった訳ではない。
いつかは大手を振って、堂々と、
魔法使いと呼ばれる弱者が外の世界を歩ける日が来る事を願っていたのだから。
さくら「……それはそうと」
さくら「うーん、なかなか捕まりませんねぇ」
ペットボトルの中に捕まえた『言葉』を眺めながら、さくらは呟く。
《アタシは亜子!侵略者から地上の平和を守る為に来た異世界人!》
《侵略者から平和を守る為に!そう!平和を守る為に!『妖精の秘宝』を探してるねん!》
《頼む!世界の為に!アタシを手伝ってくれへんか、茜!》
さくら「この言葉、明らかに『妖精の秘宝』の関係者ですよねっ!」
さくら「ふふふーん♪アコちゃんって子は何処に居るのかなぁ♪」
自称・一流の魔法使いこと、村松さくらは気づかない。
追うべき人間を致命的に間違えてしまってることに。
おしまい
『広域型回覧式口跡探知魔法』
さくらの習得している魔法。村松の家が編み出した探知魔法の一種。
村松が独自に開発した魔法だが、単純な基本魔法の重ねあわせであり、
魔力とやり方さえ分かれば誰でも似たようなことはできるらしい。
過去に世界(周辺地域)に発された言葉を収集し、液体を媒介に視認出来る文字へと変換して、
魔法陣の円周上に浮かび上げ、漂わせる事で一つの情報スクロールとする魔法。
発動には、魔法陣と、中空に文字を描くための触媒となる液体が必要とする。小規模な儀式魔法に分類される。
魔法陣には言葉を集めるための魔法式、集めた言葉を液体に混ぜて繋ぎ留める魔法式、液体を中空に浮かべるための魔法式、etc...が描かれている。
触媒となる液体は色の付いた液体なら何でも良い、が用意出来るなら『魔法使いか魔族の血を混ぜた黒インク』がベスト。
ただそれらは適量集めるのも、後片付けも大変なので、さくらは牛乳を使った。
村松の探知魔法は地味なものが多いが、この魔法はその中でも派手な部類なのでさくらは気に入ってる。
詠唱と魔法の名前は、さくらが勝手につけ足した物で特に意味は無い。
◆方針
櫻井財閥 → 『妖精の秘宝』(こずえちゃん)が欲しい
村松さくら → 『妖精の秘宝』探索中。亜子を追っている。
と言う訳でさくらが妖精の秘宝を探していたというお話
さくらはそれなりにすごい子なんです、基本的に大雑把で何かと間違っちゃってるだけで
魔法使い関連のお話は一昔前は魔女狩りがあったって話から広げたのですが
割と自由にやってる魔法使い関係者も多そうなので、あくまで村松家の事情って感じですね
周辺から言葉を拾ってくる魔法は、
流石に憤怒の街や祟り場や宇宙や地底や海底やネオトーキョーとか遠くの言葉は拾ってきません。
メタ的な事言えば悪役が隠れた所で繰り広げた超重要そうな会話は拾えないから安心ってことだよ!
宣言し忘れ、
加蓮、早苗さん、イヴ、亜子ちゃん、その他諸々台詞お借りしましたー
学園祭前時系列だからたぶん加蓮がコンビニのシフト入ってた時期もあるよね?たぶん
乙です
さくらー!その子違うー!…まぁ仕方ないね
乙ー
追う人が違う!?
あこちゃんの災難が今始まる!
加蓮は多分シフト入ってるから多分平気さー
なんだか書かないといけない気がしたので
さくらの話の翌日の時間軸です
「ユズ、ユズ!ユズは居るか!?」
「ユズさんただいまー…!」
神崎家、ブリュンヒルデこと昼子と、蘭子が、帰宅するなり階段を駆け上がっていく。
まだ学園祭前。色々な準備もあって帰るのは遅くなるが、母親も父親も仕事で帰っては来ていない。
ユズの部屋の扉を開くと、携帯ゲームを操作しながら机に向かっているユズがいた。
「ユズ、またゲームばかりして…」
「…姫さまっ!前も言いましたけどこれは大事な魔術開発のアイデア回収の為でして!なんでそんな目で見るんですかっ!!」
なんだか哀れな者を見る目でユズを見る昼子の横から、ゲームを貸した張本人である蘭子が問いかける。
「ユズさん、どこまで進みました?」
「あ、3個目のダンジョンクリアしたところです!結構強かったなぁ…精神的にもきつくて…」
「…あーそのボスはキツイですよね…」
「うん…」
「阻害の術か…(無視された…)」
ちょっとそのゲームをやりたくなった昼子だった。
気を取り直して昼子は腕を組んでユズに詰め寄る。
「だがなユズ、その魔術とやらはできているのか?それが出来てなければ我は怒るぞ」
「…できてますヨ。うん」
「ならば我らの眼にその術を焼き付けてみよ!」
「…やらなきゃダメですか?」
少し気まずそうに指をもじもじ動かし、ユズはあまりやりたくないとアピールする。
「やれ」
「かしこまりました…」
ユズは手の平のあたりに意識を少し向け、魔力を集める。
魔力は半透明のカードの形となって、手のひらの上で回っている。
「これは…!」
それを見た蘭子が目を輝かせる。
―カッ!!
そのカードを勢いよく握りつぶすと、背後からぷちユズが出現した。
「みみー!」
「…」
―ブリュンヒルデの生暖かい視線!
―ユズは土下座した
「姫さま…アタシ…徹夜テンションで存在価値がよくわからない魔術作っちゃって…っ!」
「ユズ、もう良い、お前は疲れているのだ…」
昼子はポンポンと頭を撫でる。
「…あ!昼子ちゃん、ユズさんに教えないといけないことがあったよね!?」
「ム!すっかり忘れていた…」
「…ん?なにかあったんですか?」
「不審者情報ですよ!なんでも黒い服を着た女性が公園で奇妙な行動をしていたらしくて…」
プリントを見ると、そこには『黒い服を着た女性が公園で魔法陣を書き牛乳をぶちまける事案が発生』と書かれていた。
それはその女性(少女)がとある婦警に注意されるほんの少し前の目撃者が学校に連絡した結果であり、見た目の詳細情報は黒い服を着ていた…という程度だったのだが。
…人払いもせずにコンビニの近くの公園という普通に人が通る場所で目立つ格好で目立つ魔法を使っていたさくらの、知らないうちに起きた失敗であった。
「…魔法陣…?」
「まさか大罪の悪魔がこんなマヌケをやらかすとは思えぬが、念には念をという事でな…」
「…蘭子様、そこはどこの公園ですか?」
「えっと…確かあのコンビニの近くだから…それほど遠くないですよ」
「…ちょっと見てきます」
「ユズ、我らも連れていけ。命令だ」
「えー…仕方ないですね、でもそのあたりを見てきたらさっさと帰りますからね?」
しっかり鍵をかけ、一応結界のチェックを済ませると、神崎家から3人はその公園へ向かった。
「…あ、あそこですね、本当に微妙ですけど魔法に使われた魔力の痕跡が残ってます」
「…少し臭うな。なんだこの臭い」
「…やっぱり牛乳…?」
ほとんど日も沈みかけている公園の一角。そこでユズは缶バッジを杖に変える。
「流石に魔法陣自体は消されているよね…あ、そうだ一度やってみよっかな?」
独り言を呟くと、魔法陣があったらしい場所に片手を向けて意識を集中させる。
体に管理塔の魔術書の文字を刻み込み、生きる魔術書と化したユズは自身の中から『検索』する。
「…」
体の表面に、ゆっくり刺青のように文字が浮かび上がり、肌の上を流れていく。その文字はユズには理解できない文字。だけどそれが検索のキーワード。
「こ、これは…詠唱…?」
その文字列を、あらゆる言語の解読者である蘭子は無意識に目で追っていた。
『意識の泉に吐き捨てられし言葉たち 無意識の海に沈み飲まれし言葉たち いま、再び私の前に沸きあがれ 言葉の探知魔法 スプリングワード』
その文字は、魔力の痕跡に残る発動者であるさくらの唱えた(無意味な)詠唱。それをキーワードにして、ユズの中で検索されていく。
「…見えたっ!!」
杖を突き立てて、脳内に鮮明に浮かび上がる魔法陣を、腕に浮かび上がったのと同じような光の線で地面に浮かび上がらせる。
「ぜぇ…ぜぇ…はぁ…はぁ…ふう…割と疲れますねこれ」
「ユズ、無茶をするでない!後でしっかり生命維持の休息をとるのだぞ!?」
「あはは、流石にアタシも休みたくなりましたよ…」
僅かな痕跡と(無意味な)詠唱だけを手がかりに、かなり詳細な魔法陣を『検索』するのは、それなりにユズを疲労させた。
目の前で発動すればある程度の『属性』程度なら疲労もせずに見破る自身はあるが…今回は少し頭がくらくらする。
(アタシもまだまだ鍛錬が足りないなぁ…サタン様に顔向けできないよ)
かつて、鍛錬を好むキバに対抗していたら鍛錬大好きになっていたというサタンの鍛錬脳に影響されている彼女はそう考えて、息を整えると魔法陣を確認し始めた。
「…えっと…これは人間の魔法カナ?魔法をいくつもかけ合わせて、それを儀式魔法に昇華させた類の魔法陣。詠唱は…わかんないなぁ…」
「ユズさん…えっと詠唱…みたいな文字、私読めました!」
「蘭子様それ本当ですかっ!?…まさかあの文字も読めるなんて…能力者侮りがたしだね…」
後半はほぼ独り言のようにユズが驚愕しながらも蘭子の手を両手で握る。
「えっと、内容は…」
解読した詠唱を、一字一句間違えることなく告げる。それを聞いて、ユズは少し不可解な表情を浮かべた。
「ふむふむ…んー、でもこれ詠唱いらない系のやつじゃ…?」
「…詠唱は雰囲気とかもあるから…私も、呪文いらなくても呪文は唱えたいなーって…」
「蘭子、その感覚、我はよくわからんぞ」
「…これをやったのは…蘭子様と同じくらいの歳の人かな?」
「ふむ、つまり人間の学生か…敵ではなさそうか…?」
「断定は油断を生みますよ姫様。…まぁ少し適当そうな人だとは思いますが」
「え、なんでですか?」
「詠唱時はどんな人でも魔族でも一人称は基本『我』で統一されていますから。『私』は使わないですよ。結果に大きく影響するわけじゃないですけど…」
「教科書通り、教えられた通りにやれば『我』と唱えるだろうな。我は元から『我』だが」
「そしてこの魔法、どう考えても独学のものじゃないですから…教えた人が適当でなければその人が…ちょーっと適当な性格かと」
「なるほど…そんな分析もできるんだ…」
「…まぁ魔法の完成度自体は高いので、油断できる魔法使いじゃないですね…姫様たちのことが調べられた可能性もありますから…」
「どうするのだ?」
「ユズ…ガンバリマス」
ちょっと遠い目で過労神は呟いた。
「よせ、無茶をするでない!!」
もうとっくに居場所は嫉妬と強欲の悪魔にバレているのだが、ユズは生憎それを知らない。
(知らないとしてもいい度胸してるよね、アタシがいるこの周辺で探査魔法を使うなんて…)
腹が立つ。ブリュンヒルデを守るのも彼女の使命。だから探査をされて彼女のことが調べられたらと思うと…イラつく。
魔力の痕跡を杖に覚えさせる。僅かな痕跡は魂の波動ほどしっかりしたものではないが、もし出会ったなら…ちょっと調べさせてもらおうか。
…幸い、この魔術は彼女達を探るものではなかったが…ユズは思案する。もっと守るために頑張らなくてはと。
彼女達に近づくならば、調べるならば容赦はしないと。
・使い魔召喚カード魔法
ユズがとあるゲームに影響され、徹夜テンションで作った、カッこいいだけの召喚魔法。
魔力でカードを作り上げ、それを破壊した瞬間召喚する。
本人曰く失敗らしいが、言葉を発することなく召喚でき、時間差召喚も可能であったり、割と便利だったりする。
ちなみに他人に割らせることは不可能である。
・魔術書を刻み込んだ者
肉体に焼き付けた魔術書の文字は、魔界でも人間界でも天界でも使用されていない言語の物。
ユズは魔術・魔法関係ならば僅かな痕跡から比較的短時間で『検索』可能。ただし複雑さに比例してかなりの体力と精神力を消耗する。
詠唱は解読不可能だが、現在判明している限りでは蘭子のみ、ユズの体に浮かび上がる文字から解読可能。
方針
・喜多見柚、ガンバリマス!(白目)
以上です
ユズちゃんはたまに娯楽を満喫して、たまに使命に燃えすぎる生活を送っています
さくらが人払いする描写がなかったのでちょっとユズの魔術書を肉体に刻み込んだ者としての描写に利用させていただきました。
だってどう見ても不審者だからしょうがない!(目逸らし)
染み付いた牛乳の匂いはキツイから気をつけるんだゾ!
乙ー
さくらにげてー!柚ちゃんが怒ってるよー!
なんか、亜子を追いかけるさくらを追いかける柚の鬼ごっこが脳裏によぎった……
乙です
ペル○ナ!カッ!ですね。
5が楽しみです
小学校……給食当番で牛乳を落とす……
大参事……掃除の時間に時間がたったのに匂う雑巾……
吐き気がしてきた。
過労気味の柚にはいちごオレをプレゼントしよう
柚……苺………うっ頭が……
おっつおっつ
さくら「魔法は人に見せるもの」
クラリスこねー
投下します
「くそ、ここにもない・・・」
飴はおろか、せんべいすらない。
最近きたあの子たちが食べてしまったか。
「クラリスに頼んどけばよかったよ・・・」
最近、体が熱っぽくてだるい。それと同時に甘いものが無性に欲しくなる。
熱っぽさは甘いものを取ればいくらかましになるが、それも一時的なものだ。
俺は神父だ、神にも祈ったが治らない。医者にも行ったが熱をさげる薬をもらっただけで、その薬も効かない。
「ただいま帰りました。いかがですか、体の具合は」
クラリスが帰ってきた。
「ああ、まあまあだよ・・・」
ガチャリ
「おや誰かきたな・・・クラリス、行ってくれ」
「わかりました」
全く、今は平日の昼だぞ。普段なら俺もいないし何しに来たん「きゃああああああ!!!」
「どうした!」
来客は懺悔しに来たわけでもなく、聖書を読みに来たわけでもなかったようだ。
「ちっ、もう一人いやがったか・・・まあいい、おい、そこから動くとこいつが死ぬぞ」
「神父様・・・!」
クラリスが人質に取られていた。こいつは強盗か・・・
「やめろ、その子を離せ・・・」
「離すわけないだろう!・・・お前、ふらふらじゃないか。おとなしく寝てろ!」
くそ、クラリスに触れるな、許せん・・・く・・・
「おっ、よくみたらこいつは可愛いな、金と一緒に持って帰るかな・・・」
「や、やめてください!!」
くそ・・・許さんぞ・・・今すぐあいつをぶちのめしてやりたいが・・・体が・・・くっ
「神父様っ!!」
「おっと、ぶっ倒れちまった。さて、ゆっくり物色させてもらうかな・・・」
ガタ
「誰だっ!」
俺は薄れゆく意識の中、体が真っ黒な人を見た。
「ユルサンゾ・・・」
「な、なんだお前は・・・動くなよ、こいつが死ぬぞ!」
「ユルサン・・・」
「動くなって言ったぞ!!くそ![ピーーー]ええ!!」
「・・・」
「なっ・・・なんだこれは!!手が・・・手がブローチから・・・」
「・・・ユルサンゾ」
「ひ、こ、こっちくるな!やめろ!!うわあああああ」
ところで、誰にでも、絶対許せないことはあると思う。
親を侮辱されたり、夢を馬鹿にされたり。
世の中には、髪型を馬鹿にされるとぶちぎれる人もいるそうだ。
さて、俺にも許せないことはある。
それは・・・
十数年前
「うわああああああ!!クラリスが!クラリスが!!」
「ご、ごめんなさい・・・」
『ほら、ね?クラリスちゃんも謝ってるし、わざとじゃないんだから、ね?許してあげて?』
「うわあああん!!僕の!僕の!!」
『また買ってあげるから、ね?』
「ごめんなさい・・・」
「僕のシュークリームが!!」
俺は、俺のシュークリームをクラリスに食べられた。
たかがシュークリーム、と思うかもしれない。
だが、俺にとってはとても大事なものだ。
もちろん、クラリスにも悪気がないのはわかっている。
冷蔵庫にあったら食べてしまうかもしれないだろう。
だが、俺、いや僕は許せなかった。
その日、部屋からでなかった。
日も暮れたころ、母が部屋に入ってきて、僕にブローチを渡してくれた。
『これを握って、落ち着きなさい』
こんなことで落ち着けるか、と思ったが、不思議なことに、心が安らいだ。
気がついたら、僕は寝ていた。
起きたら、シュークリームの件について全く記憶が無かったんだ。
クラリスが、ごめんねってシュークリームをくれたが、全く覚えてないから、得した、と思ったな。
じゃあ何故今覚えているのかって?
今急に思い出したからだ。
ちなみにそのブローチは、俺が神父になった時にクラリスにあげた。
くそ、こんなこと思い出してたらシュークリームが食べたくなってきた・・・
シュークリーム・・・
シュークリーム!!
「シュークリーム!!」
「きゃっ!」
「神父様、大丈夫ですか?」
「うーん・・・なんだったんだ・・・」
俺が倒れて、黒い人を見たとこまで覚えているが・・・そういえば強盗がいないな・・・
「私もなにがなんだか・・・夢だったのかしら・・・」
まあクラリスが無事ならそれでいい。それよりも問題は、今非常に甘いものが欲しいということだ。今までにないくらい欲しい。
「クラリス、なにか甘いものはないか」
「ちょうどシュークリームを買ってきましたわ。一緒に食べましょう」
「ああ、そうだな」
しかし何故あんなことを思い出したんだろう・・・
そういえば熱がなくなったな
久しぶりすぎてssの書き方忘れた
なんか俺のssワンパターン・・・
神父に能力が発現したよ!ゴーストだよ!
名称未定
自律型
全身黒の、人型をしている。
大きさは成人男性程度、顔に大きな十字架のくぼみがある。
神父が許せない、と感じた、または感じるであろう事象に応じてクラリスや神父のまわりに出現。
許せない度合いによって体がより黒く、強くなっていく。
もっともドス黒く、顔の十字架
のくぼみが見えなくなった時、神すら泣いて許しを乞う。
ちなみに、クラリスのブローチから自由に体を出せる。強盗のナイフはブローチから手をだして止めた。
発現したきっかけは、クラリスのブローチ(もとは神父の)に封じられていた「許せない」という感情や、神父の強盗に対する感情、教会にきた子たちの影響などいろいろ重なったから。
神父とクラリスのこのゴーストに対する認識は曖昧である。
これでクラリスは安全だ・・・
乙です
シュークリーム神父!(違)
…最近来た子達が食べたって、おそらく犯人はひとりなんですがそれは
クラリスはマジで安全になったな
乙
シュークリーム神父強い!
忘れてた
シュークリーム事件により、神父はクラリスの能力がきかない
神父にクラリスの能力が効かないのはこういうことだったのか
少し遅れてメリークリスマス。
投下します。
また今回、少々のグロとアイドルに優しくない描写があります。
ご容赦ください。
木星軌道上周辺。
そこに一隻のそれなりに巨大な宇宙船が静かに動いていた。
「進路良好!目的地である地球はもう目の前ですぜ!船長」
その宇宙船のブリッジにあたるところの一席で、一人が声を上げる。
その様相は剛毛の亜人の様であり、この状況から地球人、人間でないことは明白であろう。
そしてブリッジの中央にある他の船員の椅子よりも少し豪華な椅子に座るのは肌の色は違えど比較的人間に近い見てくれはしていた。
くたびれたコートを身に纏い、その頭には髑髏の描かれた立派な帽子をかぶっている。
「ようやく近づいてきたな。あれがこの宇宙で今熱い星、『地球』か!」
その男は眼を爛々と輝かせて叫ぶ。
さらには興奮のあまり椅子から立ち上がった。
「キャプテン。興奮するのはいいですけど低速航空なんで到着まではまだ時間がありますよー」
それをまた別の椅子に座って目の前の機械を操作しているキャプテンと呼ばれた男と同じ種族であろう女性が立ち上がった男を収める。
「リフィア、野暮なことを言うんじゃねえよ。なんでもあの星には他にはないお宝がたくさんあると言われているらしいじゃねえか!だったら海賊として興奮しないわけにはいかないだろう!」
「まったく……。あなたは宇宙にその名を轟かせる大海賊『キャプテン・アヴァンレンティウス』なのですから、もう少しそれらしくどっしりと構えてくださいよー」
そんな風に言いながら女性はため息をつく。
その間も手を動かすのはやめてはいない。
「今更それを俺に言うのか?全く長い付き合いだっていうのによ!」
男、キャプテン『アヴァンレンティウス』はそんなことを言いながら、もたれるように勢いをつけたまま椅子に座る。
その勢いで椅子の背もたれは軋む音を立てた。
彼、アヴァンレンティウスは宇宙海賊である。
その名を宇宙に轟かせている大海賊である一方で、弱きを助け悪しきを挫く義賊としても名高い。
悪党だけでなく私腹を肥やす悪徳な商人、為政者をも狙ってきたので当然宇宙連合などの組織からA級賞金首として指名手配されている。
だたし民衆などからの支持は厚く、彼らのことを知る者からは歓迎を受けることもあるので、警察組織などからは厄介者として名高いと言えるだろう。
彼らも海賊であるので、お宝金銀財宝に興味がないわけではない。
そんなうわさを聞きつけて彼らはこの地球まで遠路はるばるやってきたのだ。
そんなわけで宇宙船『スターヴァイキング』はゆっくりと地球を目指していた。
「キャプテン、いくら最近注目されてる星だからといってこんな辺鄙な星に本当にお宝があるんすかね?」
宇宙船のブリッジの一席に座るクルーが疑問を口にする。
いくら宇宙の特異点として有名になってる星だとしても文明レベルはそこまで高くはない。
そんな星に何か目ぼしいものがあるとは思えないのだ。
「まー確かに本当にあるかどうかはわかんねー。だけどな、行ってみなくちゃわからねえ、なら行くしかねえ!これが俺たちの信条だろうが!」
「た、確かにそうっすね!キャプテン。わかりました!俺たちは黙ってついていくだけっすよ!」
疑問を投げかけたクルーは、顔にやる気を満たして手元のハンドルのようなものを思いっきり握る。
「それにお宝はなくとも、どうやら退屈した星じゃないみたいだしな!あの『ヘレン』もあの星にいるらしいしな!」
「あの『宇宙レベル』までもがあの星に!?それを言われるとほんとに何かありそうですねー」
「おうそうだぞリフィア。期待してたほうが楽しいしな!」
ブリッジの中は賑やかな会話が続く。
そんな中一つの計器が無機質な音を響かせる。
その音で談笑していたクルーたちの顔が一気に引き締まる。
「ボロ。敵か?」
キャプテンは剛毛の亜人のクルーに状況を尋ねる。
「いえ、まだわかりません!ですが何かが高速接近しているようですぜ!キャプテン」
「今解析しています!……な、なんですかこの速度!?ものすごいスピードで小型のミサイルのようなものが接近してきます!」
女性のクルーは焦るように言う。
そんな風にクルーたちに緊張感に走る中、キャプテンだけはにやりと笑う。
「さっそくひと悶着起こしてくるとは……俄然楽しみになってきたぜ!地球!飛来物に対して高プラズマフィールドを展開!念のため衝撃に備えろ!」
『アイアイサー!!!』
キャプテンは楽しそうに笑いながらもクルーに指示を出す。
そしてそれに答えるようにクルーたちは指示を迅速に行動に移す。
「飛来物、あと5秒後に衝突します!3、2、1……あれ?」
衝突までのカウントをしていた女性は疑問の声を上げる。
「目標、直前で消失しました!」
「はぁ?どういうことだ!?今更レーダーの誤認ってことはねえよな!」
ブリッジのクルーたちはざわざわと騒ぎ始める。
目標を見失ったことによって改めて索敵範囲を広げてみるが、それでもレーダーには引っかからない。
「マジで誤認ってオチはないよなぁ……」
クルーの一人が呟く。
それに対して女性のクルーはありえないというような顔をしながらそのクルーを睨む。
「そんなことはあり得ないですよ!反応だってあんなにはっきりと……。ねぇキャプテン!ってキャプテン!?」
女性はキャプテンに同意を求めようとしたが、いつの間にかキャプテンは女性の背後にいた。
しかも先ほどまでの楽天的な表情ではなく、見る者を畏怖させるような鋭い眼光を携えてだ。
「艦上方にフィールド展開だ!衝撃に気を付けろ!」
キャプテンはそう叫びながら、女性の前の機械を操作する。
それによって前方に展開されていた防御フィールドは艦の上方に改めて展開される。
そして間髪いれずに艦に衝撃が走る。
フィールドに高出力のエネルギーが衝突して、その勢いが殺しきれずに宇宙船を揺らした。
「馬鹿な!反応の全くないところからどうやってこんなエネルギー砲を!?」
「いくらステルスとはいっても攻撃してきた後なのに目標が確認なんてそんな出鱈目な!」
女性はレーダーをくまなくチェックしているがそれらしい敵の反応はない。
それなのに何もないところからこの宇宙船に向かってエネルギーの塊は放出され続けていた。
「ほんとにこいつは……エネルギー砲なのか?」
その大容量のエネルギーを防ぐために防御フィールドを展開し続ける艦の中でキャプテンは呟く。
「どういうことっすかキャプテン!?」
「プラズマフィールドの揺らぎがおかしい。通常のエネルギー砲ならその粒子相殺によって小規模な爆発が起きるはずなんだが……」
キャプテンは機械を操作して、上方カメラの映像を拡大させる。
「プラズマフィールドは形状を保ったまま……ですね」
「ああ……。まるで巨大な手か何かで押されてるみたいだ……。このままじゃまずい!緊急ワープをする!」
「ええ!?いまからですか?そりゃ無茶ですぜ。フィールド形成で艦のエネルギーがどんどん消費されるんだ!そんな状態で跳んだところでどこまで跳べるか……それどころかどこに跳ぶかもわからんですぜキャプテン!」
亜人のクルーは焦ったようにまくし立てる。
他のクルーもそれに同調しているようだ。
「やれと言ったらやれ!無茶だろうとやってきただろうが!」
周囲のクルーはキャプテンのその言葉を聞いて皆黙る。
そんな様子を見てキャプテンはニヤリと笑った。
「俺を誰だと思っている!このキャプテン・アヴァンレンティウスの言うことが信用できないってのか!?」
「……わかりましたぜキャプテン!空間ワープ装置起動準備!総員揺れるからしがみついとけ!」
キャプテンの叱咤激励に応えるようにクルーたちは各々の仕事に取り掛かる。
それに満足したようにキャプテンは自身の椅子にどっかりと座った。
しかしキャプテンが座った瞬間にそれまで艦を揺らしていた揺れがぴたりと止まった。
そんな奇妙さにクルーは皆手を止めてしまったのだ。
艦内は機械の駆動音やエンジンの動く音のみが鈍く響いている。
その静けさがあまりにも、不気味であった。
「敵エネルギー砲、消失……。目標、見当たりません……」
女性のクルーは、表情は驚いた顔をしながらも、淡々と現状を伝える。
キャプテンの頬に一筋の汗が流れた。
その瞬間、一つのエラー音が一回、鳴り響く。
「艦にデブリが衝突……。場所は後方ドック付近ですぜ」
そのクルーの言葉に、キャプテンは手元にあった受話器を手に取る。
「後方ドックにつないでくれ……」
「……はい」
その受話器は後方ドックにある通信機へとつながる。
しばらくの呼び出し音の後にカチャリと無機質な音が鳴った。
『はーい、こちら後方ドックより、ギリートだ。どうしたんだ?なんだか忙しそうみたいだったのに急に静かになりやがって……』
受話器から聞こえてきたのは、後方ドックにいた整備士の声であった。
その声の様子から察するに特に何もないようである。
「いや……異常がないならいいんだ。ワープをするから、総員に衝撃に備えろと伝えてくれ」
『どうしたんだキャプテン?艦内アナウンスでまとめて言えばいいじゃねえか!まぁわかったよ』
「ああ。よろしく頼むな、ギリート」
『まったく……。地球はまだ着かねえのか?なかなか居心地のいい星みたいだから早くゆっくりしぎゅあ』
先ほどまで地球への期待を話していた整備士の声はグチュリという肉の潰れるような音とともに途切れる。
そしてしばらく受話器は沈黙したままだったが、誰かが手に取ったのかカチャカチャという音がする。
『よぉ。こんばんは』
先ほど整備士とは違った男の声。
そしてカチャリという音と共に通信は切れた。
「ギリート……さん、どうしたんですか?」
女性は声を震わせながらキャプテンに疑問を投げかける。
「リフィア、言うな」
キャプテンは静かに女性を黙らせる。
「ちょっくら俺が見てくるっす。みなさん待っててください」
そんな中クルーの一人が立ち上がる。
「アルテッド、頼めるか?」
「もちろん。この艦で好き勝手暴れられちゃ困るっすからね。キャプテンの次に強い俺がさっさと片付けてくるっすよ」
そのクルーはゆっくりとブリッジの出口へと歩いていく。
「アルテッド……無茶はしないでください」
女性のクルーは、出ていこうとする男のクルーを心配そうな目で見る。
「それは無理っすね。俺は今、最高に怒ってるんで!」
そしてそのままブリッジからの出口の扉は開いて、左右に続く通路の右の方へと歩いていく。
ブリッジの扉はゆっくりと空間を隔絶するように閉じていこうとしていた。
しかし半分ほど閉まった扉から見えてきたのは噴き出す赤色。
通路を染め上げるかのような血痕をブリッジのクルーの瞳に焼き付かせながら扉は閉まった。
「……え」
「ア、アルテッドおおおおおおお!!!!」
女性のクルーを含めて他のクルーたちは何が起きたのか理解さえできていなかった。
その場にいたキャプテンだけが、先ほど出ていった男の死を理解し、その怒りを叫ぶことができた。
キャプテンの叫びと共にブリッジの扉が蹴破られ吹き飛んでいく。
その扉は一人のクルーを巻き込んでブリッジの操縦機械にめり込んだ。
「ようやく親玉発見だ。写真とも顔が一致する。えーと海賊アバランチさんだっけか?」
ブリッジに侵入してきた男は、蹴り上げた足を降ろしながら言う。
手には一枚の写真を持っているが、キャプテンの顔を確認した後、写真をクシャリと握りつぶして後ろへ投げ捨てた。
「お前が誰かは知らないが、俺の船で、俺の家族をここまで殺しておいてただで帰れると思うなよ……」
キャプテンはそう言って立ち上がると、帽子を捨てて腰から剣と拳銃を引き抜いた。
その眼光は、つい数分前までの楽天的な穏やかさは存在しない。
侵入者への殺意のみが込められていた。
「やる気なのは結構なことだが、俺もさっさと仕事を終わら……っと」
侵入者はセリフを途中でやめて軽くバックステップ。
キャプテンの剣での神速の如しの一閃は侵入者が先ほどいた場所をすでに通過していた。
キャプテンは侵入者に喋らせる隙を与えないほどすぐに距離を詰めて剣を振るう。
侵入者はそれをよけようとするが、避けた方向にはすでに拳銃が向けられておりキャプテンは迷うことなく引き金を引いた。
その神速の剣技と敵を逃すことなく追い詰める拳銃はもはや奇跡とまで言われるほどの技術。
強大な武器や絶大な権力など必要とせず、その奇跡のみで彼、キャプテン『アヴァンレンティウス』はこの広大な宇宙でも名の知られる大海賊までなり上がったのだ。
本来ならばその拳銃の弾は侵入者の命に届いていただろう。
しかしその鉛玉は侵入者を貫く手前でまるで壁に阻まれるように弾かれてあらぬ方向へと飛んでいった。
それを確認したキャプテンはけん制の意味を兼ねてもう一度剣を一閃、振るう。
当然侵入者はそれを避けるが、その動作の隙にキャプテンも後ろへ飛んで、侵入者との距離を開けた。
始まってから3秒も経っていない刹那の攻防。
周囲の生き残っているクルーのほとんどは何が起きたのかさえわかっていなかった。
「念動力、サイコキネシスか」
「ご名答だ。それなりに強いみたいだな、あんた。強者ってのは独特の雰囲気を出す」
侵入者は心底楽しそうにニヤリと笑う。
すると侵入者の周囲の空間が少しだけ歪んだように見える。
「念動障壁を厚くしたのか」
「そうだ。もうお前の剣も鉛玉も俺には届かない」
そして侵入者は余裕があるかのように脱力し、キャプテンを挑発するような動きを見せる
それでも決して広くはないブリッジの中でキャプテンは侵入者の動きから目を離さない。
「その程度の小手先の力に頼る者など、何度も見てきた!」
均衡を崩すようにキャプテンは侵入者に跳び込む。
「無駄なことが、わからねえかな?」
「それはどうかな!」
かつてキャプテンは侵入者と同じような力を使う者と何度か戦ったことがある。
そういった者は皆、その自らの絶対的な力に慢心していた。
そしてその慢心を突くことで彼は勝利してきたのだ。
いかに強力な障壁を張ったところでそれを扱うのは術者、能力者である。
その力の配分には個人個人によってむらがあるのだ。
そしてそのむらは、一朝一夕で何とかなるものではない。相応の努力をした達人でさえも、そのむらを無くすのを持続させるのは難しいほどに。
キャプテンはその弱所を見極め、己の剣を、弾を、その慢心した相手に届かせてきた。
その慢心はこの侵入者とて同じ。キャプテンはその障壁の弱所を、見極めようとする。
「だから、無駄だろう」
しかしキャプテンは絶望した。
その力の流れ、障壁を作っている力は精錬されているわけでもなくその隙は大きい。
しかしあまりにも常軌を逸していた。その力の密度そのものがありえなかったのだ。
まるでこちらの存在が矮小に見えるほど圧倒的な念動力の壁。
弱所が見えたとしても、その弱所でさえこの剣、宇宙の中でも特に固く鋭い金属で鍛えられたこの剣であっても貫く未来が、まるで見えない。
キャプテンは考える。
自分は何を相手にしているのだろうと。
圧倒的な力の差を悟った時、キャプテンはすでに侵入者を同じ生き物とは考えられなくなっていた。
それでも動き出した足は止まらない。
キャプテンにとって、剣先が到達するまでのその間、侵入者までのその距離が無限にさえ感じられた。
そしてその振り上げた剣が障壁に触れる前に伝えようとする。
その前に、せめて仲間には、家族には逃げてほしいとキャプテンは叫ぶ。
「逃げっ」
その一言を言い終わる前に、キャプテンはその赤い血といくつかの肉片だけを残して消える。
侵入者の念動力はまるでミキサーのように跡形もなくキャプテンを絶命させた。
残されたクルーたちは何が起きていたのかさっぱりわからなかった。
だがその赤色と、侵入者の退屈そうな言葉だけは理解できた。
「こんなもんか」
もはや抑えは効かない。
周囲のクルーたちは激昂し、各々に武器を手に取って侵入者へと特攻する。
それでも、侵入者は特攻してくる彼らには目もくれない。
そして宇宙船『スターヴァイキング』は圧縮されるようにひしゃげ、そのまま爆発、宇宙の塵となった。
こうして『アヴァンレンティウス』海賊団は、人知れずこの宇宙の片隅で壊滅した。
そんな粉々になっていく宇宙船を、侵入者である男は宇宙空間に何の装備もせずに立ち、見ていた。
「最後の任務だってのにどうしてわざわざこんな面倒なことろまで向かわせるかね……」
男は崩壊した宇宙船の残骸を一瞥しながら言う。
「でもまぁ……これでようやく私用に専念できる」
男ははるか遠くの星々を見つめながら虚空へと手を伸ばした。
「しっかし、こうして宇宙に出るのは簡単でも、それでもあの星には手は届きそうにねえな」
そして伸ばした手を降ろし、また別の方を見る。
「さぁ、待ってろアナスタシア。今からお前を、殺しに行く」
その視線の先には遥かに小さく見える青い星、地球があった。
――――――――――――――
――――――――――――――――
周囲には杉林で覆い尽くされている。
地面はところどころに落ち葉の茶色が見えるがほとんどは雪によって白く染め上げられており、同様に木々も雪を被っている。
そんな木々の間をある男は歩いていた。
歩調は特に速くもなく、まるで当てがないように林の中を進んでいく。
口から出た息は、外気に触れた瞬間白く染まる。
それだけでこの場の寒さを物語る。
男はふと、空を見上げる。
薄い白い雲に覆われた空からは幽かに太陽が透けて見える。
薄暗くはないが決して太陽ははっきりとは顔を見せない、そんな天気。
まるで自らの目的をはっきりと持てない自分のようだと男は思った。
そして再び歩き出す。
ふらふらと、さながら幽鬼のように林の中を男は進んだ。
そんなとき、ふと男の前方に開けた、広場のような場所を見つけた。
そこにはさほど大きくない、それでも厳かな雰囲気は崩さない教会が見える。
男はまるで引き寄せられるかのように、教会の方へと歩いていく。
そして男は、近づいたことによって教会の壁にもたれかかる一つの人影を目にした。
偶然、空を覆っていた白色の雲の間から太陽が一筋の光を差し込ませる。
その光はその人影に当たるように差し込んだ。
その人は光が周囲の雪に反射していたからかもしれないがキラキラと輝いて見える。
男はその美しさに惹かれるように、ゆっくりと近づいていった。
しかし、途中で枝を踏んだのかぱきりという音が鳴る。
その音に気が付いたのかその人影、女性は男の方を向いた。
女性は驚いた表情をしていたが、その音を鳴らした人物が人であることがわかると安心したかのように男に微笑みかけてくる。
『こんにちは。今日も寒いですね』
その笑顔は男にとっては眩しくて見ていられないようなものであったのにもかかわらず、目を離すことができなかった。
―――――――――――――――――
――――――――――――――
バタンという隣の部屋の扉が閉じる音で目が覚める。
カーテンが閉じられた薄暗い部屋の中、私は布団から這い出ようとする。
「……ハロードヌィ」
部屋の中には冷たい空気が充満しており、一瞬布団から出るのをためらう。
しかしロシアにいたときの冬はもっと寒かったと考えて、ゆっくりと布団から出る。
あったかい布団の中から出たので体は冷えていく。
近くにあった上着を羽織って、カーテンを開けに行く。
そしてカーテンを開けると、外の冷たい空気がガラスをひんやりと伝ってきた。
「シニェージュナエ トゥーツィエ……雪雲、ですか」
外には太陽は薄く真っ白い雪雲に遮られ、光を完全に地上へと伝えきれない。
どこまでも続くその白い雲に、今日は晴れないのかと私は早朝早々、少しだけ落胆するのであった。
※※※
『今日は関東地方全域においてお日様は顔を出しそうにありません。さらに一部の地域では雪が降るかもしれません』
『プロダクション』のテレビは今日の天気を語る。
外で天気をリポートする女性キャスターもそれなりの厚着をしているがそれでも少し寒そうだった。
「どうやら、雪が降るかもしれないらしいですね」
窓際で外を見ながらピィはコーヒーを啜る。
自身のデスクにマグカップを置いて天気予報後のニュースをなんとなく見ている。
「今日は一段と寒いですからね。ここまで来るのが少し憂鬱でしたよー」
ちひろもそれに同意しながら、後ろにから吹いてくる微弱な温風に目を向ける。
そこにはエアコンが稼働しており室内の温度を一定に保っていた。
「ホントにエアコン様様ですよー♪これがなかったら私凍え死んじゃいます」
「まぁ俺は一番初めに来たんで、部屋が温まるまでは寒かったですけどね……」
「それはどうもです。ピィさん」
ちひろは機嫌がよさそうに微笑む。
「それにしてももう12月ですよね。なんだかあっという間だった気がしますよ」
ピィは壁に掛かっている日めくりを見ながら言う。
「たしかにそうですよね。初めは一週間で倒産するとか言ってた気がしますけどなんだかんだでやってこれましたし……」
「まぁそれでも師走だっていうのにここは全く忙しくないんですけどね」
「ですよねー」
「はっはっは」「あははははー」
事務所の中で二人は笑う。
そしてひとしきり笑った後には沈黙が待っていた。
「本当に……大丈夫なんですかね?この会社」
「だ、大丈夫ですよー。きっとどうにかこうにかなってるんです。深く考えない方がいいですよー」
「……そうですね。考えるのはやめておきましょう!朝からこんな話してもしょうがないですよちひろさん。他の話題にしましょう!」
ピィは少し焦るように話題転換を図った。
「そ、そうですね!えーと……そういえばもう12月、クリスマスも近いですけどピィさんは予定とかってあるんですか?」
ちひろはふとクリスマスについての話題を思いつく。
我ながら楽しいことにうまく切り返したと思っているが、ピィの表情は逆に暗くなっていく。
「それを俺に……聞きますか?」
「な、なんだかすみません……」
「いいですよ。どうせ俺今年も一人のクリスマスですから……」
ピィは明後日の方向を向きながら低い鼻歌でモルダウを歌い始める。
「くっ。地雷を踏んでしまうとは……。ほ、ほらピィさん、どうせ私もクリスマスには予定なんてないですしここはいっそこのプロダクションでクリスマス会でも開きましょう!女の子いっぱいのハーレムですよ!」
そんな面倒くさい男のフォローをしていると、事務所の扉が開いた。
ちひろは『プロダクション』のメンバーのだれかが来たのかと思い普通に挨拶をする。
「あ……おはようございます。ってあれ?どちら様ですか?」
※※※
道を歩いていると、街路樹が冬になり葉を全て落としているのですこしだけ寂しそうに見える。
私は白いコートのポケットに手を入れながら『プロダクション』に向かって歩いていた。
今日はチーフからも特にシフトに入ってほしいという連絡もなかったので、とりあえずプロダクションへと行くことにしたのだ。
とっくに朝の9時を過ぎていて仕事が始まっているせいか人通りは少ない。
「おや、アーニャちゃんじゃないか」
歩く私に背後から老人の呼ぶ声。
振り向くとおばあさんが一人、私に近づいてきた。
「ドーブラエ ウートラ……あ、おはおうございます。おばあさん」
「おはようアーニャちゃん」
そう言っておばあさんは私に微笑みかける。
「この間はありがとうね。助けてもらって」
つい先日私はカースが出現した時に襲われていたこのおばあさんを助けたのだ。
「ニェート。いえ、当然のことをしたまでですよ。ヤー……私は、これでも街を守るヒーローをしてるので」
そう返すと、おばあさんは少し心配そうな表情になった。
「うーん、でもアーニャちゃんみたいな若い子が無理に戦わなくてもいいんじゃない?わたしは少し心配だよ」
「大丈夫ですよ。私は心配いらないです。みんなのためなら、私は頑張れるので」
「そうなのかい?くれぐれも、気を付けてね」
おばあさんとはそこで別れた。
私はこの街がいい街だと思っている。
住んでいる人は優しいし、皆一応に笑顔である。
だからこそ私は守りたいのだと思うし、ヒーローを始めたのだ。
「だから、心配しなくてもいいのに」
私を心配してもらう必要はない。
これは私が始めたことで、私が好きでこの街を守ろうと思ったからだ。
それに私の力なら、傷も癒え、ほとんど死ぬようなことだってない。
ならば私を心配する必要だってないはずなのに。
「……みんなの、気持ち」
いつかピィに言われたことを思い出す。
いったいみんなは私の何を心配しているのだろう?
結局のところ答えは出ない。
そんな私の体を、冷風が過ぎ去っていき私は少し身震いをする。
寒さは身にだけ染みているのか、それさえも今の私にはわからなかった。
―――――――――――――
――――――――――――――――
夜も更ける中、ひんやりと冷える雪の上に、一人の小さな少女が寝転がっている。
彼女の周囲にはコンクリートで出来た無機質な建物がいくつかある他には、特に何もない。
建物からもほとんど明かりは漏れてこないので、漆黒の空には星々が憚られることなく光り輝く。
少女はそれを冷え切った空気の中で身震いひとつせずに見ている。
『シェリエーブリェナエ。こんな夜中に何をしている?』
星を見ていた少女を覗き込むように一人の男が来た。
『隊長……。星を見ていました』
少女はゆっくりと起き上がりながら、隊長と呼ばれた男の方を見る。
『星……か。なぜまたこんな寒空の中見ていたんだ?』
『今日はよく空気が乾燥しているので星がよりきれいに見えるのです』
少女は少しだけ楽しそうに話すが、男の方は退屈そうな表情である。
『そうか。じゃあなんで星を見ていたんだ?』
先ほどの質問と似たようで違う質問をされた少女は少しだけ難しそうな顔をしながら思案する。
『……星が、きれいだからです。私は、そんな星を見ているのが、とても楽しいんです』
少女は控えめに答える。そんな様子を男は見下ろしている。
『そんなことする必要はない。明日も訓練があるのだから早く部屋に戻って休むんだな』
男はそっけなく少女に言い渡してその場を後にしようとした。
『……わかりました。星が、きれいだと思うことは今日でやめます』
寂しそうにそう言う少女を少しだけ男は驚いた顔をして再び見直す。
『どうして、そうなる?』
『……だって星が見れないのなら、星をきれいだと思う必要もないでしょう?』
『極端だな』
『……申し訳ありません』
男はため息を吐いて、しゃがみ込む。
そうすることによって男の視線の位置は少女と合った。
『お前が星をきれいだと思うことは今のお前にとって必要なことじゃない。だからとりあえずは、忘れておけ』
『……忘れる、ですか?』
『ああ、今はな。だが、そう思ってもいいようになる時が来るならば、思い出すがいいさ。星が、きれいだと思ったことをな』
そう言った後に男は、立ち上がって一つの建物の方へと向かっていく。
『じゃあ明日も訓練があるから遅れるなよ。俺も今日は寝る』
『……わかりました』
少女は男とは別の方向にある建物へ向かって駆けていく。
その様子を男はちらりと見て、十分離れたのを確認してまた一つため息をつく。
『まったく、特別扱いは駄目なんだけどな……。いつから俺はこんなに甘くなったのやら』
男は後頭部を軽く掻きながら立ち止まって空を見上げる。
そこには少女が見ていたものと同じ星空が広がっていた。
『きれい……ねぇ。そう思えないからこそ、遠いと感じるのか?』
男の目には空の星々が反射して映ってはいるが、彼はそれよりもさらに遠いものを見ているようであった。
―――――――――――――――――
―――――――――――――
ちひろが開いた扉の方向を見るとそこに立っていたのは、見知った顔ではなかった。
一目見て、その男は、とても大きかった。
男にとっては入口そのものが窮屈そうに見えるほどの巨体で、ぶつからないように少し頭を下げて室内に入ってくる。
見た目はヨーロッパ系の外国人の男性、30代半ばであろうがその顔つきは若々しさを感じるほどである。
そしてなかなかの強面であったが柔らかい表情をしておりそこまで威圧感を与えるものではなかった。
格好は整えられたビジネススーツを着用しており、質感からして上物であることも伺える。
そこはかとなくあふれ出る気品から、ちひろはあまりこの男に対して悪い印象を抱かなかった。
しかし目が合うと、ちひろも外国人との交流はあまりある方ではないのでそうしたらいいのかわからなくなった。
この突然の来客にちひろはパニックになりながらも、どうにかこうにか会話を試みてみる。
「マ、マイネームイーズ……チヒロ、センカワ。ア、ああアイムファイン!な、ナイストゥミーチュートゥー!」
会話になりそうになかった。
「ああ、日本語で結構ですよ」
そんなちひろを察してか男は流ちょうな日本語で話しかける。
「ど、どうも……。でこの『プロダクション』に何か御用ですか?」
ちひろはようやく冷静になれたのか、謎の来客である男に訪問の理由を尋ねる。
「私はこういう者でね」
男は懐から一枚の名刺を出して、ちひろに渡す。
名刺は英語で書かれていたので、ちひろにはすべてをすぐには読めなかったが名前のところだけは読み上げた。
「ジョン、ロウさんですか?」
「ええ、はじめましてジョン・ロウです。イギリスの方で小さな会社の経営をしておりまして、以前ここの社長さんにお世話になったので今回日本に来たついでに一言、あいさつをしようと思ってきたのですが……」
「あの、あいにく現在社長は居られないんですが……」
ちひろが申し訳なさそうにそう言うと、ジョンという男は残念そうな顔をした。
「そうですか……。いついらっしゃるかご存じではないですか?」
「それは、私たちにもわからないですね」
「……ここで待たせていただく、ということはできますか?」
「待つ、ですか?」
「はい。ここで社長さんが来るまで待たせてもらってもいいですか?」
「そ、れは……」
ちひろは思案する。
アポもなしで来たこの人をここで待たせてもいいのかどうかを考えた。
そんな悩むちひろの様子をみたジョンは少し申し訳なさそうな表情をする。
「やはり厳しいですよね。わかりました。また出直しますよ」
そう言ってジョンは出ていこうとする。
「ああ!ちょっとま」
「ちょっと待ってください」
ちひろが引き止める前にピィが帰ろうとするジョンを引き止めた。
ジョンはその声にこたえるように振り向く。
「せっかく海外から来てくださったんです。少し待つかもしれませんが、どうぞ」
「いいんですか?」
「はい。外も寒いでしょうし、少々手狭かもしれませんが休んでいってください」
ピィはそのままジョンを招き入れて来客用のソファーへ案内した。
「い、いいんですかピィさん!?というかいつ復活したんですか?」
ちひろの近くへと戻ってきたピィに対してちひろは問い詰める。
「まぁ俺は立ち直りが早いことくらいが取り柄なので、つい先ほど立ち直りましたよ。まぁそれは置いといて、別にいいんじゃないですか?向こうも待つことは承知してるでしょうしね。さっき言った通り海外からわざわざ来てるんだからここまで来てもらったのに帰すのも申し訳ないでしょう?」
「たしかに……そうですね。」
「とりあえずちひろさんはお茶でも出してあげてください。俺はあの人の対応をしておくので」
「わ、わかりました」
「怪しいドリンクは出さないでくださいよ」
「出しませんよ!」
不満のありそうな顔をしながらちひろは給湯室の方へと向かう。
逆にピィは『プロダクション』内をもの珍しそうに見渡しているジョンの対面のソファーへと腰かける。
「すみません。待たせることになってしまって……」
「いえ、私も急いでいるわけではないので気にしないでください。それよりもあの人の会社がどのようなものかを見学させてもらっているだけでも十分感謝してますよ」
「それにしてもロウさんは社長のお世話になったと話していましたけどいったいどのようなことがあったのですか?」
ピィが社長とのつながりをジョンに聞くと、少し悩むような表情を浮かべる。
さすがに出会って間もない人に踏み込んだ話だったのかとピィは内心反省をした。
「少々踏み込みすぎた質問でしたね。すみません」
「いえ、こちらこそすみません。当時の私は本当にろくでなしだったのであまり人に聞かせられるような話ではないんですよ」
ジョンはピィに軽く頭を下げる。
「それでもここの社長さんのおかげで私も比較的まともになれました。あの人には感謝してもしきれませんよ」
ジョンはそう言って優しく微笑む。
ピィはその話を聞いて、社長のことについて考える。
よくよく考えれば社長にスカウトされたのに社長のことはよく知らない。
今度社長のことについてちひろさんか直接社長にでも聞いてみようとピィは思った。
「ところで、この会社はどんなことをされているのですか?社長さんからは会社を立ち上げたことの連絡だけで業種について私は聞かされていないんですよ」
「そうなんですか?……そうですね、この会社では主に」
「おはようございます」
ジョンの質問に答えようとしていたピィの声を遮るように、事務所の扉が開かれる音と同時に朝の挨拶。
「ああ、おはようございます。楓さん」
扉から入ってきた楓は、ピィの前に座る謎の来客に目を丸くさせる。
「おや、またお綺麗な方ですね。どうも、ジョン・ロウと申します」
新たに入ってきた楓に対してジョンは立ち上がって丁寧に頭を下げる。
「こ、これはどうも。高垣楓です」
それに対してなんだかよくわかっていないようだがとりあえず答えるように楓も頭を下げる。
「えーっと、ロウさんは昔社長のお世話になった人みたいでな。日本に来たついでに社長にあいさつに来たみたいなんだよ」
「なるほど、そうなんですか。ふむ……海外から甲斐甲斐しくもやってきたわけですね。……ふふっ」
「お客さんの前でくだらないこと言わないでください。なんだか居られるとめんどくさいことになりそうだからちひろさんのところにでも行ってください。給湯室にいるので」
「ぶー……厄介払いするように言わないでください」
楓は不機嫌そうに見せるために口を膨らませつつも、言われたとおりに給湯室の方へと向かっていった。
「お綺麗なだけでなくなかなかユーモアな女性ですね」
「すみません。なんだか……」
―――――――――――
―――――――――――――
無機質なコンクリート張りの部屋の中で一人の少女と一人の中年の男が距離を空けて備え付けの椅子に座っている。
そのぬくもりを一切感じさせない室内にはその二人だけしかいない。
『今日が初の任務だ。これまでのような訓練ではじゃない。命をやり取りをする』
『……わかっています。隊長』
少女の方は男の言葉に対して頷く。
『これまでの訓練を思い出して、作業のように任務を全うしろ』
『ええ……無意志に、無遠慮に、無慈悲に。これまで言われてきた言葉です』
『わかっているならいい。お前は俺たち上の言うことだけを聞いていればいいんだ』
男は表情を変えずに冷徹に言い渡す。
『冷静な判断をしろ。確実に、任務を全うするための手段を模索するんだ』
『……了解です。隊長』
男の言葉を聞いた少女は立ち上がって部屋の中にあった二つの鉄扉のうちの一つを開ける。
扉からは外の日差しが入り込んで一本の蛍光灯のみで照らされていた薄暗い部屋の中に光をとり込む。
『いってきます。隊長』
外からの日差しを背にして少女は微笑みながらそう言った。
その少女を見た男は眼を見開く。
『……どうして、そんな』
『?……どうしました隊長?』
男の言葉の意味を少女はよく理解できていないようである。
彼女のその表情は無意識のものであったらしい。
その証拠に少女の表情も元の無表情に戻っていた。
『いや……気にするな』
『?わかりました』
少女は疑問が残るような顔をしながらも気にしないことにしたようで、そのまま扉から出ていった。
『……チッ』
舌打ちをした男は少しいらいついた様な顔をしながら立ち上がってもう片方の扉を開ける。
開けた扉の向こうには窓ひとつない廊下がむき出しの蛍光灯に照らされながら続いていた。
『まったく……俺は』
そのまま男は長く続く廊下を乾いた足音を鳴らしながらを歩いていった。
――――――――――――――――
―――――――――――――
「おはようございます。ちひろさん」
「あら?おはようございます楓さん。今日は随分と早いですね」
給湯室では火をかけたやかんの前にちひろは立っていた。
コトコトと音を立てているがまだ沸くには少しかかりそうである。
そんなちひろの隣を通り過ぎて、楓は冷蔵庫の扉に手をかける。
「今日の仕事は昼からですし、この寒さで目が覚めてしまったので来ちゃいました。……むぅ、これくらいしかないですね」
楓は話しながら冷蔵庫を開けて、その中身を物色する。
「さすがに……お酒は駄目ですね」
そして細長いクッキー菓子にチョコレートをコーティングしたお菓子を取り出してその子袋を開けて一本取り出し、口にくわえる。
「ちひろさんも、いります?」
「じゃあ、一本もらいます」
そう言ってちひろも一本手に取って口にくわえる。
その間に楓はリスのように菓子を頬張っていき、すでに二本目に差し掛かろうと手を袋に突っ込んでいる。
「それにしてもやっぱり社長って不思議ですね。いろんな人脈を持ってるみたいですし」
ちひろがピィたちの方向を横目に見ながら言う。
「たしかにそうですね。……意外な人との人脈も持っているみたいですし、今まで何してきた人なんでしょう?」
楓の疑問に対して、ちひろは腕を組んでうーんと唸る。
「私が入社したときからあんな感じでしたからねぇ……。正直私も皆さんと大して付き合いの長さは変わらないですし」
「でも周子ちゃんと知り合いだったくらいだから、海外の人と知り合いだとしても……不思議では、ないですね」
「たしかにそう言われればそうですね」
そんな会話をしながら楓は口にくわえていたお菓子を、ポキリと歯で折る。
そしてふと、思い出したように口にする。
「そういえば……ジョン・ロウさん、でしたっけ?」
「ええ。そうですね、それがどうかしましたか?」
「なんだかそんなような名前を……どこかで聞いたことがあるような、ないような」
楓は難しそうな顔をしながら思案する。
「たしかによくありそうな名前だとは思いますけど、もしかして知り合いですか?」
ちひろのこの質問に対しては、楓はすぐに首を横に振る。
「いえ、あの人にあったことは多分ないはずです。……そう、名前だけ。どこかで名前だけ聞いたことが、ある気がするんですけど……」
「名前、ですか?うーん、そんな有名人には私も心当たりはないですけど……」
そんなときにやかんが高い音を鳴らす。
「おっ!とと……」
ちひろは少し慌ててコンロの火を止めると、やかんの音は少しずつ小さくなっていく。
「ああ!そうです、思い出しました」
そして音が消え入りかけたときに、楓はひらめいたような表情をしながらそう言った。
「前に観た映画の主人公がそう言う名前だったんですよ」
「なるほど、そういうことだったんですね。いったいどんな映画なんですか?」
ちひろはお茶を淹れながら、楓に尋ねる。
「えーっと、スパイ映画です。二人の主人公が偽名として作中でずっと名乗ってたんですよ」
「?二人とも同じ偽名を名乗っていたってことですか?」
不思議そうな顔をしながら聞くちひろを楓は否定する。
「いえ。……片方がジョン・ドゥ。もう片方がリチャード・ロウという名前なんですよ。その名前を組み合わせるとジョン・ロウ。あの人の名前になるわけです」
※※※
『プロダクション』にたどり着いた私は事務所へ続く階段を上っていく。
まだ日中なので電気はついておらず、空も曇っているために窓から取り入れることのできる光は少なく、薄暗い。
そんな薄暗さと無機質な壁が、かつていた特殊能力部隊の基地を思い出す。
「ずいぶんと、昔に感じます……」
すでにここに来てから半年近く経とうとしている。
それまで過ごしてきた十数年間がまるでフィクションであったかのように、今の平凡な日常は感じさせてくれた。
あのころの私は何もなかった。
だから今の私はいろいろなものを得て、その得たものを自分の意志で守ろうとしている。
私の好きなこの街を、私にいろいろなものをくれた街、人々を守るために微力ながらでも力を使いたい。
そう、思ったから。
だからいつものように、私の好きなこの場所の扉を開けたのだ。
「ドーブラエ ウートラ……おはようございます」
※※※
それはまさに一瞬だった。
ピィの目の前にいたジョンが、『プロダクション』に入ってきたアーニャを確認した時、ニヤリと笑った。
その表情の変化は、彼の雰囲気を180度一変させる。
ピィは素直に感じる。
この禍々しい笑顔の恐ろしさを、対面に座っているだけでひしひしと感じてしまう。
アーニャもピィの目の前に座っている男を見て、表情を一変させる。
驚きの表情をしながらジョンを名乗る男の正体を口にした。
「カマーヌドゥユシェィ……隊長……どうしてここに!?」
男もそのまま視線を外さずにその場に立ち上がる。
「ああ……会いたかったぞ。……ビエーリィコォートォー!!」
まるで空気が圧縮されるように、空調で管理された室内の気流がうねる。
空気そのものを握りしめるように、強引な圧縮と破裂音。
出会って一つの会話のみ。
時間にして十数秒。
たったそれだけの間で、アーニャの頭部はトマトを握りつぶすかのように消滅した。
頭部を失った体は、どさりとその場に倒れる。
日常によって守られていたはずの『プロダクション』は一瞬で崩壊した。
「……おい、アーニャ?アーニャ!」
しばらく様子を呆然と見ていたピィは、ようやく思考が現実に追いついてきたのか声を上げながら立ち上がる。
そして頭を失ったアーニャの元へと駆け寄って、その体を軽く抱き上げる。
「おい!しっかりしろ!アーニャ」
聞こえているかもわからないのにピィはかける声を荒げる。
「うるせえな。……大丈夫だよそいつはぁ」
そんな様子を興味がなさそうに横目に見ながらどかりとソファーに男は腰を下ろした。
先ほどまでとは違い、丁寧な座り方ではなく足を組んで目の前の机を脚置きとして使用しながら座っている。
「ジョンさん!そんなことよりも……って」
ここでようやくピィもアーニャの先ほどの言葉を思い出して目の前の男の正体を理解する。
「ジョンさん……あなたは、いったい?」
「いつまでジョンジョン言ってんだよ。俺は適当に映画から偽名を拝借しただけだ。それにしてもようやく頭が冷えてきたか?」
退屈そうにジョン・ロウと名乗っていた男は言う。
「まったく我ながらあんな作り話でここまで騙せていたもんだよ。さぁ、まずは改めて自己紹介でもしようか。
ロシア政府直轄パビエーダ機関第17部隊、通称特殊能力部隊の隊長。コードネーム”P”だ。
よろしくな坊主」
そして脚を組みなおして、すこしだけ意地悪そうに、言った。
「今日はうちの元隊員、最後のコードネームは”ビエーリコート”、『アナスタシア』を、殺しに来た」
「じゃあ、アーニャ、アナスタシアをこんな風にしたのも……」
「当然、俺だよ。まぁほんのあいさつ代わりだけどな」
「……お前が!」
ピィはアーニャの体を床に置いて、怒りの表情を露わにしたまま隊長に殴り掛かる。
その拳は体重を乗せ、勢いよく隊長へと向かっていく。
「……ぐっ!」
しかし拳は触れる直前で不可視の壁に阻まれる。
その壁は拳の勢いとは逆の向きの反発する力場の様であり、普通の石などで出来た壁を殴るのより大きな衝撃をピィの腕に返す。
結果、成人男性の全力の拳の力に壁の反発の力を加えてそのままピィの拳へと伝えた。
「ぐあぁぁーー!!!」
バキバキと骨の砕ける音。
その衝撃でピィの拳はあらぬ方向へと曲り、血が噴き出してずたずたになる。
使い物にならなくなった腕をもう片方の腕で抱えてうずくまるピィ。
絶えず流れ出る血が痛々しさを物語る。
「まったく、素人が慣れないことするもんじゃねえよ。激情に任せて跳びかかってくるなんていい大人がすることじゃねえって聞こえねえか。今のその状態なら」
隊長は立ち上がってうずくまるピィの隣を過ぎて、倒れるアーニャの体の元へと向かう。
「どうしましたピィさん!?さっきの音は……」
そんなときに給湯室から騒ぎを聞きつけたのか、ちひろが戻ってくる。
そして血だらけでうずくまるピィと倒れている首なしの体を見てしまい、ちひろの顔はどんどん青ざめていく。
「キャ、キャアアアアアアアアアア!!!」
つい先ほどまでの日常とは一変した、事務所の中。
暴力によって支配された空間の中を、唯一立っている隊長には目もくれずちひろはピィへと駆け寄る。
「大丈夫ですか!?ピィさん!」
失血によってピィの顔色は悪く、脂汗がにじみ出ている。
呼吸さえするのがつらそうなピィであったが、駆け寄ってきたちひろの方を苦悶の表情ながらも向く。
「……ちひろさん、それより、も……」
「黙っててください!まずは血を止めるのが先です!」
ピィの言葉を遮って、ちひろは近くにあったタオルをピィの腕へと押し当てる。
「なるほど、ある意味では懸命だ。俺を狙うよりも、頭のない誰かもわからない体を心配するよりも、傷ついて苦しむ同僚を助けに行く。俺は実に利口だと思うな」
そんな様子をまるで他人事のように隊長は見下ろす。
そして視線を別の方向へと移し、視線の方向は給湯室へと続く。
「さて、高垣楓と言ったか?お前はお利口さんか?それとも愚か者、どっちだろうな?」
そこには楓が怒っているような、恐怖するようなどっちつかずの表情で立っていた。
隊長はそんな楓に一歩近づく。
そうすると楓は一歩、後ずさる。
そして、また一歩。
「……来ないで」
また、一歩。
「……来ないで、ください」
さらに、一歩。
「来ないで……くださいよぉ!」
普段の楓からは、想像つかないような必死の叫び。
それと同時に楓の周囲にいくつもの切り裂いたような傷が、壁に、物に付けられていく。
そして楓は力が抜けるように膝をつく。
周囲は鎌鼬の嵐のように、浅い傷を周りの物を無差別に刻み付ける。。
「こいつは、また……変わった力だ」
そんな様子を大した慌てる様子でもなく、隊長は興味深そうに見ている。
隊長はさらに一歩、膝をついた楓へと近づく。
「来な……いで!」
そして、ついに特大の斬撃が目の前の隊長へと振り下ろされた。
その刃の威力に隊長は眼を見開く
「なっ!?強っ」
その刃は、隊長を縦半分に、均等に、抵抗なく切り分ける。
はずだった。
刃は天井と床に大きな亀裂を作る。
だがその間に存在する隊長は健在であった。
隊長の目の前では、念動壁と刃がぶつかり合い、金属音に近い激しい音を立てる。
不可視同士の力の拮抗は空間の歪みさえ生み、周囲の紙などの薄いものはその衝撃ではためき、事務所内を舞う。
「あああああああああああああああああああ!!!!」
まるで枷が外れたかのように叫びながら能力を放出する楓。
楓は依然怒りと恐怖の入り混じったような表情をしているが、その眼の奥には光がない。
その方向も、まるで獣のような人の感情がこもっていないものであった。
「さすがに、思ったよりも強いな……」
それに対して隊長は焦るような言動をしながらも、表情からはまだ余裕が見られる。
「まったく、怒りか恐怖か、はたまた防衛本能かは知らないが能力が暴走するなんてのは……」
隊長は悪態をつきながらも、手を前にかざす。
「愚か者以下の、大馬鹿だな!」
かざした掌を握りしめる。
それだけで、あれだけの威力を誇っていた刃は、拳によって圧殺されるかのごとく掻き消える。
「うううううううううああああああああああ!!!!」
それでも楓は止まらない。
新たな刃を振り下ろすためにさらに力を溜めている。
「ここまで来たら、俺もちゃんと自衛しないとなぁ。もう、殺すしかないだろおおおおお!!!」
その声と共に隊長の手に収束する念動力。
先ほどの能力のぶつかり合いで見せたような空間の歪みが隊長の腕にも現れ、その力の密度がわかる。
そして楽しそうに、笑いながら隊長は拳を振りかぶる。
「恨むんなら、俺を恨むんだなあああ!!!」
そして床を蹴って、楓へと拳を振るう。
「ああああああああああああああ!!!」
それに対して楓も溜めていた力を解放。
いかなるものを分断する刃を放とうとする。
「あああああああああああああ、あ、あ……あ……」
しかし楓の刃が放たれる前に溜められていたエネルギーは霧散した。
楓はまるで糸が切れたようにその場に倒れ、気絶する。
「ああああ、あ?」
それに気づいた隊長も急ブレーキ。
楓の2,3歩手前で振りかぶっていた拳を止めた。
「ストーップ」
先ほどまで緊迫していた事務所内。
そんな中にうって変わって少し気の抜けるような制止の声が響く。
「それくらいにしといてくれるかな?おじさん?」
事務所の入り口に立つ、一人の少女。
『プロダクション』の大妖狐、塩見周子が立っていた。
「さすがにこれ以上騒がれると、困るからさ」
「突然横からしゃしゃり出てきて一体なんなんだ?嬢ちゃん」
「私はただのしがない一畜生だよ。正直あんたのような存在に覚えてほしい名前はないね」
周子はいつものようにお気楽そうな表情はしておらず、少し不愉快そうな顔をして言う。
「……まぁいいか。じゃあ別のことを聞かせてもらうが、あの状態の楓の姉ちゃんをどうやって止めたのかくらいは聞かせてほしいな」
「別に、楓さんの意識に直接恐怖を与えて強制的に意識を絶っただけだよ。どうやら能力に意識が振り回されていたようだからね」
「なるほどな。じゃあ俺にそれをやってみるってのはどうだ?もしかしたら俺を気絶させて戦闘不能にすることができるかもしれないぜ」
隊長は挑発するように言うが、周子はそんなことを気に留めずに、横たわる一つの体に近寄っていく。
「あんたと戦う気はないよ。それをやっても無駄だと思うしね」
そしてその横たわる人間の頬を軽くたたいて呼びかける。
「いつまで寝てるの?アーニャ」
いつの間にか頭が復活していたアーニャは、その呼びかけで目を開ける。
「う、ううん……シューコ?」
「寝起きで悪いけど、ピィを治療してあげて。さすがにちひろさんだけじゃこれ以上は厳しいだろうし」
ちひろは先ほど場所からは少し移動して、隊長から離れた位置にピィと共に居た。
床にはピィの血の跡がその場所まで続いている。
そしてちひろは依然できる限りの治療をピィにしようとしている。
そのおかげか幾分出血量は減ったように見えるが、それでもピィの顔色は失血で青く、危険な状態であることがわかった。
「……ピィ、さん。……ちひろ、さん」
「ずいぶん時間がかかったな。一回死んだ気分はどうだ?ビエーリコート」
アーニャはその呼びかけですべてを思い出す。
自分が隊長と出会って、意識が途切れたことを。
「……なにを、しに来たんですか!?隊長!」
「何をって……それはお前が一番分かっているだろう?裏切り者を始末しに来たんだ」
隊長はアーニャを見下ろしながら言う。
「でもそれっておかしくない?ロシア政府はアーニャのことに関しては沈黙させたはず……」
周子は隊長に反論するが、隊長はよくわからないと言いたそうな表情を浮かべる。
「どうしてそこにロシア政府がかかわってくる?俺がここに来たのは、ロシア政府に命令されたからじゃない。俺の独断だ。
実はお前の裏切りのせいでな、我が特殊能力部隊は最終的に解散になった。おかげで俺は所詮雇われの隊長だったから無職に、他の部隊員たちはバラバラに。
これでお前を恨まずに、誰を恨めばいいっていうんだ?
俺が裏切り者を始末しに来ることは、ごく自然なことだと思うが、違うか?」
「なら、私だけでいいでしょう!……他のみんなに、手を出す必要は、なかったはずです」
アーニャは周りの惨状を見ながら言う。
しかしそんなアーニャの言葉に隊長はあきれたような表情をした。
「俺はお前の頭を吹っ飛ばした。それだけだ。後は自衛をしていただけ、俺からは手を出していないんだがなぁ」
「……よくも!」
アーニャは隊長へと突っ込んでいこうとする。
「はい、そこまで」
しかし、周子は軽く脚を出すと、アーニャはそれに躓いて顔から滑るように盛大に転んだ。
「とりあえず、今日は帰ってくれないかな?これ以上騒がれると面倒なことにきっとなるでしょ。それはそっちにだって都合は悪いはず」
「別に俺は構わないんだがなぁ」
両者の一瞬睨み合う。
「シューコ!いったい何を、するんですか!」
そんな中打った鼻をさすりながらアーニャは周子の方を見る。
「ちょっとアーニャは黙ってて」
周子の視線はアーニャの方へと向く。
そして普段温厚な周子からは想像もできないような眼光に、アーニャはびくりと身を振るわせた。
そんなアーニャの様子を確認した周子は再び隊長の方を見直す。
しかしもう一度見た時には、隊長はまるで飽きたかのような表情をしていた。
「まぁいいや。たしかにお前の言う通り面倒だ。ここはいったん引くとしよう」
そしてそのまま事務所の入り口へと向かっていく。
「……パダジュディーチェ!」
帰ろうとする隊長を見て我に返ったアーニャは引き止める声をかける。
その声を聞いて、隊長は足を止めてアーニャの方を振り返った。
「安心しろ。今度はちゃんとアポはとる」
顎に手を当てて隊長は少し思案する。
そして思いついたように一つ提案をした。
「そうだ。あそこなら存分に、面倒なことにはならずできるだろう。
今日の午後6時、元、『憤怒の街』中心部。まだ復興の手が届いていないあそこなら、ある程度暴れても問題ないだろうしな
俺はそこで待っている。ビエーリコート、ちゃんと来いよ。隊長命令だ」
そして、相変わらずの、意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「もしも来なかった場合には、まずはここ、『プロダクション』の人間を、そしてさらに順に、この街の人間を一人ずつ、殺していく
ちゃんと来いよ。ヒーロー『アナスタシア』。
『悪役』の俺は、ゆっくり待ってるからよ」
そのまま背を向けて隊長は出ていく。
階段を下る乾いた音がしばらく続いた後には、静寂。
この静けさが、嵐の過ぎ去った後なのか、嵐の前なのかはわからない。
以上です。
こりずに続きます。
『プロダクション』からピィ、ちひろ、周子、楓さんお借りしました。
疑問が残る点などはあるかもしれませんがそれについては続きで説明する予定です。
アーニャの散々張った伏線的なものはこれ関連ですべて回収する予定。
乙です
宇宙海賊ェ…
そして隊長強すぎワロエナイ
このしおみーの安定感よ
乙ー
宇宙海賊は犠牲になったのだよ……かませの犠牲に……
奈緒、楓が殺されそうになったの知ったら晴が動きそうだな…
おつー
おおう、『プロダクション』が大変な事に……
皆様乙乙ー
ニューウェーブ揃いはじめかな? と勝手に期待したりまたもユズの深夜テンションが炸裂したり
神父のスタン……ゴーストにわくわくしたり取り乱す楓さんマジやばっかり!
投下しますよー
マキノ「カイ、来てほしい場所があるのだけれど」
フルメタル・トレイターズが寝泊りする公園を訪れたマキノは、おもむろにそう切り出した。
亜季「……いきなり現われて、ご挨拶でありますな」
亜季はマキノへ睨みを利かせ、拳銃を構える。
星花「カイさんは、お渡ししませんわ」
ストラディバリ『レディ』
マキノの前に、星花とストラディバリが立ちはだかる。
マキノ「貴女達には聞いていないの」
マキノも亜季たちへ鋭い視線を向ける。
亜季「…………」
星花「…………」
マキノ「…………」
まさに一触即発、その状態の打ち破ったのは、
カイ「ま、待って二人とも。……ねえマキノ、場所はどこ?」
二人が護ろうとしていたカイだった。
マキノ「このメモの通りに行けばいいわ」
そう言ってマキノはカイに一枚のメモを手渡した。
カイ「ありがと。……ごめんね二人とも、ちょっと行って来る」
そう言ってカイは駆け足で公園を出て行った。
亜季「……ど、どういうことでありますか?」
星花「カイさんは……どちらへ……?」
亜季と星花は呆然としてマキノに尋ねた。
マキノ「そうね、話しておく必要があるか……」
マキノはふぅ、と軽く息を吐くと、近くのベンチに腰掛けた。
マキノ「今日という日は特別な日なの。……あの三人にとってのね」
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某高級ホテルのロビー。
カイ「……すっご……」
眩く装飾された壁、天井にぶら下がるシャンデリア、端正に着飾った人々……。
日ごろ決して見ることが無いであろう光景にカイが見とれていると、従業員らしき男性が近づいてきた。
従業員「いらっしゃいませ、西島様ですね?」
カイ「えっ……あ、はい、そうです。西島櫂です」
突然偽名で話しかけられ、慌てて返事をする。
従業員「こちらへどうぞ。古澤様と松原様がお待ちです」
従業員に連れられ、カイはエレベーターに乗り込んだ。
従業員が最上階のボタンを押し、扉を閉めた。
数十秒ほどでエレベーターは停止し、扉が開く。
従業員「こちらです」
従業員の後を着いて行くカイ。
やがて従業員は、正面奥の部屋の前で足を止め、戸を四回ノックした。
従業員「古澤様、松原様。西島様がお見えになりました」
??「はい、お通しして下さい」
従業員「失礼いたします。さあ西島様、こちらへ」
従業員が戸を開け、カイを中に招き入れる。
従業員「では、失礼いたします」
従業員が戸を閉めると、部屋の中に一瞬静寂が訪れた。
そして、カイが口を開く。
カイ「……久しぶりだね、サヤ。…………それに、ヨリコ」
ヨリコ「ええ、久しぶりね、カイちゃん」
目の前に座っていたのは、サヤとヨリコ。
カイにとっては上司と同僚であり、戦う敵であり……かけがえの無い友でもある。
サヤ「んふふっ、ホラホラ、そんなトコにぼーっと立ってないで。こっちこっち♪」
カイ「あ、うん」
サヤに促され、カイも椅子に座る。
ヨリコ「じゃあ、始めようか」
カイ「そうだね。……誕生日おめでとう、サヤ」
ヨリコ「おめでとう、サヤちゃん」
サヤ「二人ともありがとう、うふっ♪」
左右から次々に祝福を受け、サヤはにこりと微笑んだ。
サヤ「ごめんね、カイ。急に呼び出したりして」
カイ「ううん、気にしないでよ。久々にヨリコ達に会えて……ってヨリコ?」
見ると、ヨリコの頬をつうっと涙が伝っていた。
サヤ「え、よ、ヨリコ? どうかしたの?」
ヨリコ「ご、ごめんね。カイちゃんとまたお話できたのが嬉しくて、つい……」
カイ「ヨリコ……ごめんね、あたし、まだ戻れないよ……」
ヨリコ「うん、分かってる。でも、いつか……」
サヤ「…………」
ヨリコ「あっ、ご、ごめんね。湿っぽい空気にしちゃって」
カイ「そ、そうだね! 今日はサヤの誕生日なんだし!」
二人がパッと顔を上げると同時に、部屋の戸が四回ノックされた。
従業員「古澤様、お料理をお持ちしました」
ヨリコ「ありがとうございます」
従業員「失礼いたします」
ヨリコの言葉を受け、従業員が料理を持って部屋に入ってきた。
カイ「おぉ……」
テーブルの上に、豪華な料理が次々と並べられていく。
従業員「では、ごゆっくりどうぞ」
従業員が退室してその後しばらく、カイ達は料理をつまみつつ歓談にふけった。
ヨリコ「でね、その時マキノさんが……」
カイ「あはは、マキノらしいね」
サヤ「ね、おかしいでしょぉ?」
ヨリコ「そういえばエマさんも……」
カイ「え、なになに? すごい気になる!」
サヤ「あれは傑作だったわねぇ」
敵同士である事を一時忘れ、三人は心から嬉しそうに笑いあっていた。
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ヨリコ「今日は会えて良かったよ、カイちゃん」
ホテルを出て、カイ達は人通りの少ない裏路地にいた。
理由は単純、帰還の瞬間を見られてのパニックを防ぐ為。
カイ「うん、あたしも。……ごめんね、サヤ。プレゼント用意出来てなくて」
サヤ「気にしなくていいわよぉ、来てくれただけでも嬉しいもの♪」
申し訳無さそうな表情を浮かべるカイの頭を、サヤは笑いながらポフポフと撫でてやる。
カイ「……ありがとね」
ヨリコ「…………さて、カイ」
先ほどまで柔らかく微笑んでいたヨリコが、表情をキッと引き締めてカイに向き直る。
カイ「……はい」
ヨリコ「私たちはこれより海底都市に戻ります。……急な呼び出しに応じてくれた事を感謝しますよ」
カイ「いえ……」
ヨリコ「次に会うときもまた……こうして笑顔で会いたいですね」
カイ「そうですね……きっとその時は……」
ヨリコ「…………では、さようなら」
サヤ「またね、カイ」
カイ「はい。サヤも、ヨリコ様もお元気で」
その言葉を背に、ヨリコとサヤはゆっくりと歩き始めた。
そして二、三歩進んだ所で、二人の姿は水柱の中に消えた。
カイ「…………あたしも帰ろ」
カイはくるりと踵を返し、亜季達が待つ公園へと帰っていった。
その足取りは、行きと比べて少しだけ軽かった。
おわり
以上です
サヤちゃん誕生日SSのはずなのになんかそれっぽくないね!(白目)
とりあえずアイへの依頼内容変更とかの件もきっと話しているでしょう、入れるの忘れたけどドチクショウ。
乙ー
ヨリコさん誕生日おめでとー
そして、kwsmsnの胃痛が加速する未来が見えた
おつーん
沙耶ちゃん誕生日おめー
そいではエージェントのお話投下しまー
前回までのあらすじ
サクライP『えっ?神の洪水計画について調べる?好きにすればいいよHAHAHAHAHA』
聖來「あのロリコン、いつかギャフンと言わせる」
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/910-)
鳩「ぽっぽー、くるっぽー」
一羽の鳩が、翼を大仰に広げて、そして大きく首を振る。
そのジェスチャーは『仕事の完了』を主人に報告するためのものである。
聖來「はい、ご苦労様」
鳩「ぽっぽー♪」
主人から労いの言葉を受けとると、純白の鳩は再び大空へと飛び立っていくのだった。
聖來「これで、サクライさんの方はよし」
紗南「……さくらさんに頼んじゃっていいのかな?」
聖來「『君の知るエージェントは好きに使ってくれていい』」
聖來「そう言ったのはサクライさんだよ?」
紗南「……だからセイラさんがさくらさんを使ってサクライさんを探すのも」
聖來「うん♪全然問題なしだよね?」
もちろんそれは詭弁ではある。
しかし、せっかく指揮権を譲渡されているのだから、
先を見越して、打てる手は打っておくべきと考え、
セイラはさくらに『サクライPの居所の探索』を依頼したのだった。
紗南「問題なしって……セイラさん……問題あるから財閥の端末じゃなくって伝書鳩使って連絡してるんじゃあ……」
聖來「あっはっは、まあそうなんだけどねぇ」
先ほど飛び立った伝書鳩は、そのような経緯で聖來におつかいを頼まれていたのである。
紗南「でも、さくらさんに見つけられるのかなぁ……」
聖來「……」
紗南「……」
聖來「とりあえず今は、さくらちゃんに賭けるしかないかな……」
こと探索における彼女の実力は折り紙つきではあるものの、
それでも少々不安は残るのだった。
聖來「けどま、きっと大丈夫だよっ」
聖來「二兎を追う者は一兎も得ず、なんて言うけどさ」
聖來「それは一人の手で、二羽の兎を追った場合だよね」
聖來「アタシも紗南ちゃんたちにも手伝ってもらえるならさ」
聖來「兎だって逃すことはない!のかもよ?」
紗南「……へへっ、協力プレーだねっ!」
聖來「だねっ!」
聖來「……っと、紗南ちゃん」
聖來「例の教会は、もうすぐそこなのかな?」
紗南「あ、うん」
紗南「この雑木林の道を抜けたら、もうすぐだよ」
財閥の病院からこの近辺まではバスがあったのだが、
バス停から教会までの交通手段はこれと言ってなく。
そこからは、2人は徒歩で教会へと向かっていた。
聖來「そっか。もうすっかり暗くなってきたし、急がないとね」
季節柄、日が落ちるのもだんだんと早くなってきた。
聖來達の歩く道は、人通りもなく、
そのうえ雑木林で挟まれているせいで、より一層と暗く感じる。
不均一に並ぶ外灯も、その間隔は広く、わずかな範囲を照らすばかりである。
聖來「……道間違えないようにしないとね」
紗南「うん、ちょっと待って!今、タウンマップ確認するから」
聖來(タウンマップって……)
紗南「とくれせんたぼーびっと!」
聖來「しかもそれ違うゲームのコマンドじゃないの?」
紗南「えっと、アタシ達の居る場所が今ここだから……」
紗南「……」
ゲームを起動して、能力を使い周囲から獲得した地理情報を確認していた紗南の表情が強張る。
聖來「紗南ちゃん?」
紗南「……セイラさん」
聖來「?」
紗南「何か……いるよ」
聖來「……」
紗南の言葉に、セイラは辺りを見回した。
2台の車がギリギリすれ違える程度の広さの舗装された道。
両側は乱雑に細長い樹木が並び立つ。
街の賑わいから少し外れた地点であるせいか、周囲はとても静かであった。
わずかに聞こえるのは風が木々を揺らす音だけ。
木々の影が揺れる度、辺りには落ち葉がぱらぱらと舞う。
聖來「動物では……無いね」
聖來が持つ能力『カリスマ』は周囲から人外を惹き付けてしまう能力。
動物の類を惹き付けてしまうのは、日常茶飯事であるため、
彼女はある程度その気配を察知することができる。
聖來(気のせいかもってくらい小さいけれど)
聖來(何かに見られてるような気配は確かにある……)
感じられるその気配は普通の動物のものではなかった。
彼らならば、聖來の能力に惹き付けれられてすぐ傍まで寄ってくるし、
そうでなくとも、人を警戒してじっと隠れ潜んでいるのが普通だ。
今の様に”まるで獲物を狙うようにねっとりとした視線”を感じる事はないはずなのだ。
聖來「正体はわかりそう?」
紗南「……ちょっと調べてみるね」
再び、紗南がゲーム画面に集中する。
紗南の能力『情報獲得』であるならば、相手が”計り知れない何か”でない限りは、
その正体を暴くことができるはずである。
紗南が忙しなく指を動かしている間にも、
聖來は周囲を警戒して見回し、とくに木々の間に注視する。
気配の主が、こちらを見ているのであれば、
それをこちらからも視認できる可能性は充分にあるからだ。
聖來「……」
木枯らしが、道の上に立つ2人の間をすり抜けて、
高く冷えた空に広がる枝葉がざわめく。
ふと、そのシルエットが揺れ動くわずかな隙間に、
聖來は何かの影を見つけた。
聖來「…あれは?」
1本の樹の枝の上に、小さな動物らしき影。
聖來(リス……?いや違う……)
辺りは暗く、遠目ではその姿はよくわからないが、
ただはっきりと分かるのは、それが白いと言う事。
季節を先取りした雪のように、真っ白な……暗闇の中に栄える何か。
紗南「おっ、みつけたよっ!」
聖來がそれの存在を確認するのと、ほぼ同時に紗南が声をあげる。
彼女が操作するゲーム上の画面には、うさぎのような生き物らしき何かの姿が捕捉されていた。
紗南「それじゃ、早速詳しい情報を……」
ザザッ――
プツンッ
紗南「えっ!?」
紗南がさらにコマンドを入れようとした途端に、画面が突如としてブラックアウトする。
ザザッ――
そして、画面が再び写ったと思うと……
ゲーム機から音声が漏れ出した。
――『きさま、見ているな』
聖來「紗南ちゃん!!危ないっ!!」
紗南「わっ!!」
聖來は妖刀『月灯』を取り出すと、
鞘に納めたままの刀を素早く振りぬいて、
紗南の手に持つ携帯ゲーム機を弾き飛ばす。
少女の手から、空中に放り出されたそれは、
綺麗な放物線を描き、数mほど離れた地面に落ちる筈であるが、
その直前に、その画面の中から白濁とした何かが蠢き、泥の様にこぼれだした。
紗南「ひっ!何アレ!?」
聖來「……」
まるでホラー映画のような光景にも、聖來は慌てず、
『月灯』の力で、瞬時に『小春日和』のレプリカを用意して構え、白い泥の動きをその目で追った。
「――やっ―ぱ便利な―力だ――なコレ」
白く濁るそれは徐々に、はっきりとしたフォルムを形成して……
「――――うん、なかなか悪くない」
一匹の真っ白な兎の姿となった。
紗南「……喋った」
「喋った?当然だろ。喋るくらいするさ」
少女の目に映るのは奇妙な生き物。
白い泥が形を織り成して存在するウサギのような小動物。
人の言葉を理解し、話すことのできる謎めいた何か。
聖來「あなたは……何?」
あまりに常識から外れたそれに対して、聖來は問う。
言葉を喋るのであれば、その問いかけにも
まともな答えが返ってくるのではないかと期待してのことだ。
白兎「何かだって?」
白兎「それはこっちのセリフだ」
白兎「お前達は何だ。なぜここに居て、どこに向かおうとしている?」
白兎「アタシの敵か?」
白兎と呼ばれるその存在が学園祭からの帰りがけに、教会に向かおうとしている聖來達の発見し、
その動向をずっと伺っていたのは、彼女達の目的を探るためであった。
(いったいこいつらが、この先にある教会に何の用があると言うのか。)
事の次第によっては警戒の対象となり得ると考え、じっと見張っていたのだ。
聖來「……この先になにか守りたいものでもあるのかな?」
白兎「……質問を質問で返すなよ」
聖來「あはは、それは悪かったね」
聖來「でも、あなたの事を聞かせてもらえないと」
聖來「”敵”かどうかは答えられないかな」
聖來は、真剣に射抜くような目でそれを見つめて、言葉を返した。
彼女の手に握られた刀は相変らず、白兎に向けられている。
左手に握られる刀の名は『月灯』、右手に握られる刀の名は『小春日和』。
両の手に鬼の打った刀を持つその構えに、一切の隙は無い。
白兎「……」
白兎「はあ……まあ、どっちでもいいか」
白兎「敵だとしても敵じゃないとしても……」
白兎「消せば一緒だしな」
表情が無いはずの兎の口角が一瞬だけ、つりあがったように見えた。
聖來「紗南ちゃん下がってて!」
紗南「う、うんっ!」
聖來の呼びかけで、紗南はすぐさま距離をとる。
手元にゲーム機が無い今、彼女にできる事はないだろう。
木陰に隠れて、ポケットに仕舞っていた”ある装置”を起動する。
すると途端に紗南の姿が消えてしまい、見えなくなった。
『ステルスデバイス』と呼ばれるそれは、非戦闘員である彼女に、
財閥から手渡された、緊急避難用の”姿を隠す”事のできるアイテムである。
白兎「見えなくなる能力か……?めんどくさいな」
聖來「あなたの相手はアタシだよ」
白兎の視線から紗南を庇うように、聖來は立ち塞がった。
白兎「……どうせ視覚的には見えなくなっても、その他の情報を全部消せるわけじゃないんだろ」
白兎「音か、匂いか、熱か……まあ、後でゆっくり探すか」
独り言のように呟いて、白兎は聖來へと向き合う。
白兎「さてと、これはテストだ」
白兎「地球人の能力者の力って言うのがどれほどのもんか」
白兎「練習を兼ねた実験って奴だな、あははー」
バチバチと擦れるような音が鳴り、白い兎の小さな身体を巡るように青白い光が迸る。
その様子に聖來は目を見開き、驚愕した。
聖來(スパーク!?)
白兎「ウェルダンに焼いてやるよ、その方が食べた時おいしいかもだしな?」
そう言って跳躍したうさぎのその白いシルエットが、
瞬間的に大きく輝いて、閃光の矢が聖來に向けて放たれる!!
紗南(じゅ、十万ボルト!?)
後方で、観察していた紗南には、
白兎から放たれた枝分かれする光が、どうやら放電によるものだと理解できた。
まるで某黄色いねずみのように、小さな身体から放たれるは強烈な電撃!
紗南(セイラさんっ!)
白兎「……」
やがて、電撃による発光が収まって、周囲の様子がはっきりと見えるようになる。
白兎「電気を作り出して、溜め込んで、放つ。この3つの動作にそれぞれタイムラグがあるな」
白兎「使いこなせば瞬間的に大量の電気の作り出して即座に放つこともできるはずだけど」
白兎「こればかりは要練習かなぁ?」
白兎「さて……」
独り言を呟いた後、白兎はその実験結果を確認する。
聖來「……」
果たして聖來の姿は先ほどと変わらず無事にそこにあった。
紗南(ほっ……)
後方に隠れる少女が安心して大きく息をつく。
白兎「なるほど、そんな風に防いだのか面白いな」
代わりに聖來と白兎の間には、
夥しい数の刀が絡み合い連なって格子の様に存在していた。
電撃によって焼け焦げたその刃達は、次の瞬間には砕け散り、
その内側からはボロボロになった枯れ葉が数枚現われる。
妖刀『月灯』の分身たる刃。
聖來は『月灯』の特性を使って、道に落ちていた枯れ葉を刀に変じさせていた。
白兎の電撃は聖來には届かず、その前方に存在する刀の群れにぶつかると突き刺さる地へと注がれて、
聖來は無傷で電撃をやり過ごすことができたのだ。
白兎「けど解せないな、いくらタイムラグがあるって言ってもさぁ」
白兎「初見でその隙を突いて即座にそんな反応ができるもんか?」
兎は沸きあがった疑問を投げかける。
白兎「まるで何をしてくるか、わかってたみたいな対応だぞ?」
聖來「……似たような能力を持ってる人を知ってたからね」
その疑問に対して聖來は、どこか悲しげな表情で答えた。
聖來「こっちこそ質問」
聖來「その能力は、どこで手に入れたのかな」
白兎「……へえ、気づくもんなんだ」
その質問をされた事に、白兎はほんの少し驚きの声をあげる。
聖來「あなたは最初、ゲーム機から現われた」
聖來「それは紗南ちゃんのゲーム機から発せられていた電波に介入して」
聖來「さらに自身の肉体を電子化した後、電波を通り道にこちらまで移動してきたから」
聖來「違う?」
白兎「……」
能力の性質を既に知っていたかのような推察。
それが彼女にできたのは、
聖來「そしてさっきの電撃……この能力は……元はあなたの物じゃないはずだよね」
その能力が、彼女の仲間である『エージェント』の1人が持つ能力であったからだ。
白兎「なるほどねぇ、知り合いだったのか」
白兎「それはお気の毒なことだな」
どこか嘲るような声で、兎は言葉を放つ。
聖來「……彼に何をしたの」
そんな兎を聖來は睨みつけて、問いかける。
その声は、怒りを隠そうとはしていない。
白兎「おっと、勘違いしてもらったら困るな」
白兎「あのクビナシは、アタシが発見した時にはとっくに活動を停止してたんだ」
白兎「アタシはただ落ちていた物を拾っただけ」
白兎「筋違いな逆恨みはやめてくれよな」
聖來「……」
聖來「はぁ……」
心を落ち着ける為に、目を瞑り大きく息を吐く。
聖來「そっか、まあ恨むってわけじゃないけどさ」
聖來「さっきの質問に答えを返すよ……」
聖來「あなたはアタシの敵だっ!!」
元アイドルヒーローは強く言い放った。
白兎「そうかいっ!じゃあ消さないとなっ!」
聖來の叫びに白兎が応え、戦いの火蓋が切って落とされる。
バチバチとまた何かが擦れるような音がして、再び兎の身体が発光する。
光を放ちながらその獣は、軽やかに駆けはじめた。
兎の纏う電気エネルギーは、その疾走のスピードをさらに加速させる。
白兎「さて、アンタの能力は小さな物体を剣に変える能力ってとこか?」
聖來「どうだろうね」
白兎「落ち葉はそこらに山ほど落ちてるからな」
白兎「さっきみたいに防がれる事を考えたら迂闊に攻撃はできないな」
白兎は、安易に近づくことはしない。
付かず離れずの距離を保ち、隙を伺うようにしながらぐるぐると聖來の周囲を疾駆する。
対して、聖來は跳び回る光の線を見失わないように、その軌道を目で追った。
白兎の放つ電撃は、聖來の持つ『月灯』の作り出す刀によって防がれてしまう。
しかし『月灯』の作り出す刀による防御は落ち葉を利用する性質上、一定の距離が必要となる。
だから接近戦になったならば、聖來は簡単に電撃を防ぐことはできないであろう。
しかし、白兎が聖來にそれほどまでに接近すると言う事は、同時に聖來の刀の攻撃が届く位置に入り込むことになる。
接近時における攻撃の速度は、おそらくは聖來の方が速い。
お互いにうまく隙を見つけ、先に攻撃を当てる方法を探りあう。
白兎「剣を作り出したところで、それを手で持って使う奴がいなかったら攻撃にはならない」
白兎「つまりお前の攻撃は、接近しないとこっちには通らない」
白兎「でも、こっちはお前に近づかなくてもいいんだ」
聖來「!」
先に攻撃を当てるための一手を思いついたのは白兎。
疾走を続けながらも、その白い塊はボコボコと蠢き、
その背に突起物を作り出す。
二本の突起は木の枝のようにバキボキと折れ曲がり、支柱となる骨格へと変形、
それに肉付けをして、体毛を作り出し、さらに羽毛で覆う。
わずかな時間でそれは鳥の翼へと変形し、
疾走の勢いのままに跳躍、そのまま飛翔を開始した。
聖來「……昔の人は兎は鳥の仲間なんて言ったそうだけど」
聖來「本当の事だったのかな?」
冷や汗をかきながら聖來は呟く。
白兎「なんだ、くだらない冗談を吐く余裕があるのかよ」
白兎「それじゃあ……こっちもくだらない事教えてやるか」
白兎「落ち葉ってさ、地面に落ちてるから落ち葉って言うんだ」
聖來「……」
白兎「高い位置から放つ電撃は、どうやって防ぐんだろうな?楽しみだ」
ニヤリと兎が笑った気がした。
現在、空中に居る白兎と、地上に立つ聖來の間には、
落ち葉の様な、『月灯』の幻想を被せるための物体が存在しない。
つまり、放たれる電撃の進路上に刃の障害物を置く事はできず、
電撃は何にも邪魔されることなくまっすぐと、聖來の身体を頭上から貫くこととなる。
空中に居る白兎には、刀による攻撃は届きそうにはない。
それでも聖來は『小春日和』と『月灯』、2本の妖刀を真っ直ぐと白兎に向けて構えた。
白兎「無駄だよ、お前の攻撃はここまで届かない」
白兎「一方でアタシはと言えば、後は安全圏から電撃を放つだけの簡単な仕事さ」
翼を大きくはためかせ滞空するその獣は、
バチバチと音を鳴らしながら発光し、電気を生み出していく。
聖來「……砕けろ」
その言葉を合図に、彼女の持つ刀は両方とも砕け散った。
白兎「なっ…?」
聖來「騙しちゃったみたいで悪いね、でもこの状況ならまず当てられる」
聖來の両手には、二丁の銃が握られている。
白兎「お前っ!」
バンッ!ババンッ!
閃光が撃ち落される前に、二発の銃撃音が鳴った。
先に攻撃を当てたのは聖來であった。
『月灯』によって幻想を被せていた二丁の銃による狙撃。
地上を高速で駆け回っていた時と違って、
空中で、攻撃行動に移るために停止していたそれに狙いを定めるのは容易であった。
銃弾は二発とも見事に命中し、真っ白な空飛ぶ獣は、
真紅の血を流しながら地面へと墜落する。
白兎「がっ……」
白兎「あぁっ……」
重力によって、地面に叩きつけられたそれは、
血溜まりの中でしばらく痙攣していたか、
「……」
聖來「……」
やがて、ピタリと動きを止めて、それっきり動かなくなった。
紗南「……」
紗南「……やったの?」
後方で、様子を見ていた紗南が安心して聖來に近づこうとするが、
聖來「動いちゃだめだよ、紗南ちゃん」
紗南「えっ?」
彼女はそれを制止した。
聖來「トドメはまださせてないかもしれないからね」
そう言いながら、聖來は銃口をもう動かなくなった白い塊に向けて、
バン!ババン!バン!バン!バン!ババン!
さらに6発、肉塊に弾丸を放つ。
一発当るたびにそれは拉げて、辺りに血が飛び散る。
紗南(セイラさん、ちょっとグロいです……)
聖來「……」
聖來は冷静に弾丸を撃ち込んだ物体の様子を観察する。
脚部に3発、頭部に2発、背部と右翼部に1発ずつ、そして心臓部にも1発。
計8発。放った弾丸は全て問題なく命中しており、
ヒットした部分は見るも無残に砕け散っているか、ぽっかりと穴が穿たれて血が流れ出ている。
これならば、まず動くことはないだろう。
それが生き物ならば、動いてはならないはずだ。
白い肉塊は、完全に静止してしまっている。
それでも、聖來は警戒は緩めない。
先ほどまで蠢いていたこの生き物は、明らかに普通の存在ではなかった。
異常な何かを相手取るならば、こちらも異常なまでに警戒しなければならない。
聖來「……」
両手に握られた2つの銃口の向きを、その白い獣からは決して離さず、
少しずつ、近づいていく。
肉塊が動く気配はやはりない。
そして、一定の距離まで接近したところで、
聖來の背後から、
「悪いな、これでアタシの勝ちだ」
”背後から”、そいつの声が聞こえた。
聖來「くっ!」
慌てて声の方向に振り向いて、
そこに存在するものに目を向ける。
聖來は目を向けてしまった。
声を発するゲーム機に。
聖來「…しまっ!」
慌てて振り向いてしまったのが、ミスであった。
視界の外で何かが発光する。
慌てて銃の引き金を引くが、
聖來「ぁがあっ―――!?!?!」
それより先に彼女の肉体に強烈な電撃が浴びせられた。
その衝撃で、銃口はぶれて弾丸は見当違いの方向へと飛んでいく。
白兎「おっと、危ないな」
ありえないはずの声がする。
血に塗れて、脚は弾けて、翼は?げて、頭を半分失いながら、
その肉塊は生きていた。
白兎「普通さぁ、動かなくなった相手に6発もぶち込むもんかなぁ?」
白兎「我慢して声をあげないのも結構大変なんだぞ……くそっ、まだヒリヒリする」
白兎「まあ、でもやっと隙を見せて近づいてきてくれたよなっ!」
聖來「―――あっ――ががっ―!!?」
能力によるゲーム機の遠隔操作。
それによって地に転がっていたゲーム機から音声を発生させて、
白兎は、聖來に致命的な隙を作り出すことに成功した。
そして、これほどまでに接近しているのならば、
ほんのわずかな隙に対応する暇を与えず、電撃を当てることができる。
白兎「どっちが攻撃を先に当てようが、アタシの勝ちは最初から揺るがなかったんだ」
白兎「だって、アタシは何を喰らっても死なないんだからさ」
血を流していた肉塊はボコボコと蠢きながら、そのフォルムを修復する。
何発も銃弾を打ち込まれ、その肉体がどれだけ破損したところで、白兎はものともしない。
本来形無き泥は、どれだけ崩れ去ったとしても再生することができるのだから。
聖來「…………っあ……」
強烈な電撃を受けたことで、聖來は地に倒れ伏した。
白兎「……」
白兎「……興味深い奴だったけど、なんて事はないな」
紗南「う……あっ……セイラさん」
同行者の惨状をその目で見て、少女は思わず声を出してしまった。
白兎「あぁ……そうだ、もう一人居たんだったけ」
頼りになるヒーローが敗北し、残されたのは紗南一人。
紗南「ひっ……こ、来ないで」
『ステルスデバイス』によって発生する光学迷彩フィールドは、
あくまで静止状態にある者の姿を隠す程度の事しか出来ない。
白兎「なるほど、動いたら位置がよくわかるな」
動的状態にある者の姿を完全に隠す事はできないのだった。
怪物が、少女に向かって少しずつ迫ってくる。
その白くしなやかなフォルムが、狂気じみた威圧感を放ち少女の恐怖を煽る。
白兎「情報獲得能力か」
白兎「こいつの能力も食えば、それはアタシのものになるんだし……」
白兎「さっそく頂くとす」
ザクッ!
少女に迫っていた白兎の背に、何かが突き刺さった。
聖來「ぜぇ……はぁ……」
息も絶え絶えになりながらも、聖來は1本のナイフを投擲し兎の背に命中させたのだ。
白兎「……しぶといなぁ」
聖來「くだ……け……」
その言葉を合図に、白兎に突き刺さったナイフが砕け、その内側から長剣が露出する。
突き刺さるナイフが瞬時に剣に変わった事で、白兎の肉体はさらに大きく切り開かれた。
白兎「長剣を投擲に適したナイフに変えておいて、命中したら長剣の形に戻すか」
白兎「ふん、効果的かもしれないけれど、アタシには無意味だな」
剣によって、その身体を貫かれていても白兎は平然としている。
白兎「いやいや、まあこれでも痛くはあるんだけどな?」
白兎「しかし……そっちの方も電撃浴びたくせに随分、元気そうじゃないか」
白兎「お前あれか、マサラ人か?」
聖來「あはは……そうだね」
聖來「ヒーローは……それくらいタフじゃないと……勤まんないかな」
白兎(……)
白兎(おかしい……)
その敵対者の様子に、白兎は首をかしげる。
聖來「はぁ……はぁ……」
電撃の命中はたしかに確認した。防御したわけではないはず。
だから服はところどころ焼け焦げているし、体力も相当に消耗しているようだ。
だがそれにしては聖來の外傷は少ない。
いや、それどころか
白兎「傷が再生しているのか?」
聖來「……まあね、ちょっとしたチートを使わせてもらっててさ」
気づけば息も整っていた、表情も妙に晴れ晴れとしている。
聖來「……ふぅ、よしっ!」
静かに息をついて、姿勢を整える。
聖來「お待たせ、仕切りなおしと行こうかっ」
傷を癒したヒーローが再び、立ち上がった。
白兎「……やめだ」
その姿を見て、白兎は呟いた。
聖來「……やめ?」
白兎「不死身対不死身、いつまでも決着の付かない泥沼はごめん被るってこと」
白兎「これ以上は続けてもアタシに何の特にもならない」
白兎「長期戦になって、騒ぎを聞きつけた人間が寄ってきたり……なにより援軍が到着したら困るのはアタシだしな」
聖來「……」
白兎「こっちに向かって走ってくる気配が複数ある。あんたの仲間だろ?」
白兎「だったらこのまま戦闘を続けるわけにはいかないね」
聖來「……この場から逃がすと思う?」
白兎「思うね、そっちにだってアタシをどうこうする手段なんてないだろう?」
聖來「あるよ、2つくらい」
白兎「キシャシャ、嘘付け」
聖來(やっぱバレるか)
白兎「大人しくしとけよ、今回は見逃してやるって言ってるんだからさ」
聖來「……」
白兎「おま―え達の力はなか――なか興味―深かったよ」
言いながら、傷ついた兎はその形をアイスクリームのようにグチュグチュに変える。
突き刺さっていた剣が抜け落ちて、口のような部位を作り出すと体内に残っていた7つの塊をペッと吐き出した。
白兎「だけど――その使い手―自身は――どうなんだろうな」
流れ出た血さえも巻き込んで、そろ泥はさらに形を大きく変形させた。
紅が混じりあい、その表面になんとも醜い色合いを映すが、
変形していくうちに、それらの色はすべて白に飲み込まれる。
やがてその形は収束し、
白兎「――兎も角」
元の真っ白な兎の形となる。
白兎「アタシが拾ったこの能力はそこそこには使えるな」
白兎「いい練習になった、お前の同僚の能力は大事に使ってやるよ…キシャシャ」
聖來「……」
白兎「それじゃあな、元アイドルヒーローさん!バイビー!」
再び電気を纏いながら、兎は雑木林に駆け込み闇の中へと消えていく。
木々の間をしなやかに高速で走り抜ける獣に、追いつくことは難しいだろう。
白の姿は見えなくなり、後には二人の人間が残される。
聖來「……」
紗南「……」
薄暗い夜道。やはり人通りは無く、辺りは静寂に包まれていた。
聖來「はぁっ!」
聖來の声が、その静寂を破った。
聖來「あっぶなかったぁっ!」
張り詰めた緊張感が解けて、聖來は地面へと仰向けに倒れこむ。
聖來「本当ごめんね、紗南ちゃん危ない目に合わせちゃって」
紗南「ううん、でも本当に殺されるのかと思っちゃった……」
紗南もまた力が抜けてその場にへたり込む。
こんな危険な目に合うのは、憤怒の街以来であった。
聖來「だね……命があっただけ幸運だったってことで」
紗南「うん……良かったよ本当に」
紗南「セイラさん、身体は……大丈夫なの?」
肉体を焼くほどに強烈な電撃。
その攻撃を受けて、今聖來がこうして無事で居ることが紗南には不思議でならない。
聖來「まあね……財閥から支給されてた装備である程度軽減できてたのはあるけど」
聖來「一番はやっぱりそれのおかげかな」
寝込みながら、聖來はその場に落ちている1本の剣を指差す。
紗南「ナイフから出てきた剣だよね」
紗南「……どっかで見たような?」
その剣の装飾に紗南は見覚えがあるような気がした。
聖來「『紅月の剣』だよ」
紗南「あっ」
以前、祟り場と呼ばれる結界の中で遭遇した吸血鬼の一行の装備。
聖來は彼らとの戦闘の際に、その装備を拝借していた。
聖來「いわく『吸収攻撃』ができる超☆レア装備だそうだからね」
聖來「うまく相手に突き刺せたから、アタシの傷を回復できたってわけ」
紗南「……じゃあセイラさんの見せてた『不死身』って」
聖來「剣があの兎に突き刺さってた、あの一回限定だね」
今にして思えば綱渡りだったと思う、ナイフを回避されてたらそこで終わっていたし、
剣の力に気づかれていても終わっていた。
聖來「だけどまあ……やっぱり敗北は敗北かな」
聖來「最後の言葉、たぶん情報を取られちゃったんだろうし」
紗南「……あ、そっか……電気への干渉能力」
聖來「あの能力なら、紗南ちゃんのゲーム機の中に残ってるデータを読み取るくらいは朝飯前だろうね」
聖來「戦闘中にもずっとゲーム機に干渉してたみたいだから……」
聖來「それも敵が音声機能を使ってきたから気づけたんだけどね」
聖來「はぁ、もっと早くに気づいておくべきだったなぁ……」
おそらくは遭遇した時から聖來との戦闘中も、ずっとデータの読み取り作業をしていたのだろう。
遭遇時点で気づいていれば、先にゲーム機を破壊しておくなり対応が出来たはずだ。
もっとも、強力な電撃攻撃の方を真っ先に警戒しなければならないため、
気づいていても、それを考慮に入れて対応する余裕があったかは疑問ではあったが。
相手もそれをわかっていてうまく戦闘に持ち込んだ節がある。
聖來「……怒りと焦りで周りが見えなくなってたかも、反省しなきゃ」
聖來「どのくらいの情報を盗られたのかな?」
聖來は紗南に確認をとる。
紗南「一応小まめにメモリーカードは交換してるから、たくさんの情報を盗られちゃったわけじゃないと思う」
紗南「病院を出発する前に一度交換したし……でも……」
聖來「アタシ達2人のことくらいは、知られちゃってるわけか」
聖來「能力と立場、それに何を目指していたかも……」
先ほどの白兎はこちらの正体を探っていたのだから、まんまと目的を果たされた形である。
紗南「あのさ、セイラさん……ちょっと言いづらいんだけどさ」
紗南「えと…アタシの能力ね」
聖來「ん?」
紗南「たぶんしばらく使えそうにない……と思う」
聖來「えっ、どうして?」
紗南「あの白いのの事を調べようとしちゃったから……メモリが壊れちゃってると思う……」
聖來「それは、また新しいのを用意すれば……」
紗南「一回ね、極端に大きな情報を探ってメモリをパンクさせちゃうと能力自体が使えなくなっちゃうんだ」
聖來「……うそ、それどれくらいの期間?」
紗南「わかんない……憤怒の街でパンクさせちゃった時は2日くらいでまた使えるようになったけど……」
聖來「……」
彼女の能力は、元は怠惰の悪魔ベルフェゴールの能力だ。
しかし、その質は元の能力よりも遥かに劣る。
ベルフェゴールの場合は、どれほど不可思議で莫大な情報であっても探れたし、
ゲーム機内に専用の記憶媒体を用意する必要などなかった。
紗南の『情報獲得』は、悪魔の能力を人の身に落とし込んだ際に、その質をかなり落さなければならなかったのだろう。
聖來(能力が一時的に使えなくなるのも、きっとベルフェゴールにはなかったリスク)
聖來(それが必要なのは、紗南ちゃん自身の心を壊しちゃわないためなんだろうね)
混沌めいた情報を調べてメモリをパンクさせた結果、能力が一時的に使用不可能になるのは、
触れてはならないコトに触れてしまい、精神が壊れてしまう事を回避するための防衛機能。
すなわちリミッターのようなものだろうと聖來は考えた。
聖來「うーん、もう少し早く教えてくれれば良かったかな」
紗南「う……ご、ごめんなさい」
聖來「あ、攻めてるわけじゃないんだよ」
聖來「聞かなかったアタシも悪いし、仕方ない仕方ない」
紗南「……」
本当に申し訳なさそうな顔をする紗南。
へたり込んだまま落ちているゲーム機への方へと近づき、手を伸ばしてそれを拾う。
コマンドを入力し、能力を使って起動させようとするが画面にはやはり何も映らない。
紗南「うぅ……」
聖來「……紗南ちゃんの能力でも計り知れない存在か」
紗南「何だったんだろうあいつ……嫉妬の悪魔の手先だったのかな?」
聖來「……たぶん違うかな、断定はできないけれど」
紗南「えっ、どうして?」
聖來「アタシ達の目的を探っておいて、それを見逃したから」
聖來「つまりアタシ達を敵だとは判断しなかった事からかな」
聖來「そうだね……邪魔になりそうならいつでも排除できる、あるいは泳がして利用するべき奴らだって思ったんじゃない?」
紗南「……じゃあ……なおさら何だったんだろう……」
聖來「……カースに似てたけど、絶対的に違う正体不明の何か」
彼女達を襲おうとした白い獣の正体は、闇の中。
聖來「……」
だが、例え少しでも正体を掴む為に、
聖來はあの怪物の言葉を思い出す。
「さてと、これはテストだ。地球人の能力者の力って言うのがどれほどのもんか」
聖來「地球人って言い方……それにウサギ……」
紗南「セイラさん?」
聖來「……まさかね、考えすぎかな」
聖來は目を瞑って手で地面に押すと、スッと勢いよく立ち上がる。
聖來「さて、もうすぐ救援が来るし」
聖來「教会を尋ねるって感じでもなくなっちゃったから」
聖來「一旦帰ろっか」
紗南「……いいの?」
聖來「うん、態勢を立て直すためにもね」
今回ばかりは一旦引いて、準備を整え改めて、教会を尋ねた方が良いと判断する。
聖來「紗南ちゃんは能力がいつ戻るのかもわからないし」
紗南「う…」
聖來「あっと…紗南ちゃん、気にしない気にしない♪」
聖來「とりあえず、こっちの事はいいからさ。普通に文化祭楽しんでおいで」
そう言って、ニッコリと少女に微笑む。
紗南「……うんっ」
少女もまた柔らかに微笑み返した。
月明かりが照らす夕闇の道での出来事であった。
おしまい
『ステルスデバイス』
どっかの機関の超技術によって作られた光学迷彩フィールド発生装置。
起動後は一定時間、使用者の姿を視認できなくする。
発生する光学迷彩フィールドは映像を投影し透明化するカメレオン型であり、
静止状態の人間を隠す事には非常に高い性能を発揮するものの、
少しでも動作を行えば、投影される映像の遅延によって結構簡単にバレる。
紗南は「まるでスマデ○にも登場したあのアイテムみたいだね」と評した。
『月灯・刀剣形態零式「月灯」』
妖刀『月灯』によって作り出される『月灯』の再現レプリカ。
この幻想だけは『月灯』の特性を完璧に再現しており、本物と寸分狂わない。
本体同様刀としてはまるで役に立たず、
その刀身に写る物に、記憶にある刃の幻想を被せるだけである。
『月灯・刀剣形態漆式「ナイフ」』
妖刀『月灯』によって作り出される『投擲用ナイフ』の再現レプリカ。
現在『月灯』の作り出せる幻影の中では、最小サイズの刃。
『月灯』の幻影は、不思議な事に、被せる対象となる物体の重量や形状に関わり無く、幻影の内側に納めることが出来る。
つまり、『月灯』の刀身に写りきる物限定ではあるが、幻影の刃の中に”収納する”と言う使い方ができる。
これを利用して色々な物を携帯しやすいナイフの形にして、聖來は持ち歩いている。
と言う訳で
白兎と遭遇してロリ島さんと会いにいくどころじゃなくなったお話
当初の目的は紗南ちゃんの能力制限のはずだったんだが……
どうしてこうなった
白兎と因縁ができたわけですが
紗南ちゃんこのまま文化祭に行っちゃったら逆に危なくね?とも思います
どうにか自衛してもらわないと
白兎お借りしましたー、……こんな感じで大丈夫だったろうか
お二人とも乙です
サヤ誕生日おめ!
敵同士でもやっぱり幼馴染みの関係が優先される3人…これからどうなるのか
白兎が楽しそうでなによりです
そして疑われるウサミン星人
…やっぱり敵にすると怖いわ(今更)
乙ー
疑われるウサミン星人ェ……
学園祭一日目終了間際の時間軸でお送りします
「雨あめふれふれ母さんがー♪」
『蛇の目でお迎え嬉しいナー♪』
「ぴっちぴっち♪」
『ちゃっプちゃっぷ♪』
『「らんらんらん!」』
歌声とともに周囲のカースが切り裂かれる。
学園祭を襲ったカースの雨、ナニカと黒兎もそれの相手をしていた。
「ねぇねぇ、ジャノメってなぁに?」
『知らヌ』
「だよねー」
巨大な獣と化した黒兎が、ナニカを背に乗せて爪と牙でカースを殲滅していく。
そして若干残る倒し損ねたカースは、ナニカが背から生み出す生命体が泥を喰らい、核を破壊していた。
生み出した蝙蝠を黒兎が改造した、足が異様に長くそして翼が傘のように変貌した生きた蝙蝠傘をさして、一応カースの雨に触れないようにしている。
「やっぱりなんでもいいから食べたいよ、お金ないけど…たこ焼きとかクレープとか食べたいのー」
『お金がないって悲しいコトなンだ…』
「お姉ちゃんみたいにバイトってできないの?」
『変身すればできなクはないだろうけどサ…多分仁加には無理。アタシは言うまでもなく』
「そっか、うーん…」
人々は屋内に逃げたり戦える人は戦ったり。
ナニカと黒兎は周囲に人がいないことをいいことにストレスを発散するように暴れまわっていた。
「白ちゃんは大丈夫かな?」
『白は白で何とかしてるだろ、あいツはカースとかに負けるほど弱クないし』
黒兎は黒兎で遠距離からアンチメガネカースを操り、感染増殖を怠らない。多数のカースが固まっているスタジアムの方向に行くようにという指示をこっそり飛ばす。
「うーん…お腹すいてるけどカースって美味しくないんだよねー甘くもない、味しない、つまんない!」
『水と同じじゃン』
「カースはちょっと暴れるからお水と一緒にしたらダメなの!お菓子食べたい!」
『…』
会話しながらも、暴れるように四肢と尾をフル活用してカースを蹴散らす。ナニカは背につかまっているだけだが落ちる気配はない。
そして黒兎はスタジアムのアンチメガネカースにある程度集まったら人気のない方へ行くようにこっそり指示を飛ばす。
そして、その雨もついに止んだ。
「あ、雨止んだ?」
『お、マジだ…帰るか?』
「うん!」
『…アーでもちょっと待って、アタシ用事があるンだった』
「なになにー?」
アンチメガネカースを、学園の外へ誘導し、完全に解き放つつもりだ。誘導だけではいざという時全滅しかねない。
今、かなり増えたとは言え…ピク○ンのごとく、一気に全滅なんて事もヒーロー達に遭遇してしまえば有り得てしまう。
だから誘導兼ガードマンをやるのだ。この学園から放流するまで。
『フハハ、ノーコメントだよ』
「ずるーい!!」
『ずルくなーい、ズルくなーい!先に帰ってナよ。ホラ降りて』
「…やだ」
『わがまま言うナって、また明日もくるだろ?』
「…むー」
黒兎がくるりとその場で宙返りをして、ナニカは真上に飛び上がる。黒兎はそのままある程度体を小さくさせて駆け出し、ナニカは小さな翼を広げてふわりと着地した。
『じゃア、教会で!』
去っていく黒兎に手を軽く振る。
「…もうみんな帰ってるしアタシも帰ろーっと」
不機嫌になりながら、ナニカは道を学園祭から去ろうと歩き出す。
先程の騒動もほぼ終わり、数名ほどのけが人は運ばれていったがそれでも被害はそこまで出なかったようだ。
雨が止んで、戦っていたり避難していた人々も帰り始めていた。
小さな少女が一人で帰るのはどうしても目につく。ナニカは帰る人々が怪しまないように、できる限り紛れるように歩いていた。
そして彼女の瞳は見間違うことなく、もはや宿命か運命のように加蓮を見つけてしまった。
「…」
記憶操作で彼女は自分の事は覚えていない。自分が忘れさせたのだから。
だから、加蓮は自分を知っている筈がない。見つかっても問題ない筈だ。
それでもすこし距離を置いて、ナニカは物陰に隠れる。
「…」
やっぱり、寂しい。
自分で行動して、それに納得している筈なのに。
(なまえをよんでよ)
無茶な事を思い、願う。それが不可能だと知っているのに。
(ひとりにしないで)
もう完全な一人ぼっちじゃないけれど、それでも一番愛しい人は天地がひっくり返ろうとも愛しいまま。
その愛しい人の記憶を消して、それでも愛されることを願う。
けれど夢の記憶ごと全てを思い出す事を恐れている。
(ねぇ、まってよ)
声に出さないように、物陰に座り込む。
(お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん…)
ポロポロと涙が流れる。
許されないと、そう自分で決めていた。自分で自分の首を絞めていた。
(…アタシ、何がしたいのかわからなくなってくるの、助けてよ…)
世界をシアワセにしても、会う事は許されますか?
記憶を戻して、真実を知っても、この化け物を愛してくれますか?
貴方も化け物だということを、知っても愛してくれますか?
(これじゃあシアワセになれないよ。お姉ちゃんが好きでいてくれないといやだよ)
(ぜんぶ、いちばんさいしょからやり直したらうまくいくのかな…?)
(夢の事、なかったことにして、さいしょからやりなおす?)
夢で会うことを止めて、夢での記憶を刺激しないようにする…つまり『初めまして』として会えば…そうすればナニカは現実である程度会う事はできるだろう。
しかし、それを決心するのも、ナニカにはできなかった。
…だが、ナニカの存在が確立された今、夢の中の『僕ら』『私達』が存在する場所以外、加蓮が介入するのは難しくなりつつある。
…つまり、お互いに夢が独立しつつあるのだ。繋がりを失っていくように。
決断は早めにすべきなのだろう。一歩を踏み出す時なのだろう。しかし、今のナニカには踏み出す勇気も、後押しされるような展開も無い。
今、ナニカはただの臆病な少女だ。自分が一歩踏み出したせいで全てが壊れることを恐れている。
(…わかんない、わかんない)
幼い見た目の割には賢い存在だったナニカも、やはり精神面は未熟な子供で。
ただ寂しくて、返事を心のどこかで期待して、彼女を呼ぶ。
「…お姉ちゃんっ…!」
しかし、その声は風にかき消されてしまった。
「…?」
(誰かに呼ばれたような気が…)
声は聞こえなかったけれど、その姿を見かけることはなかったけれど、加蓮は振り返っていた。
その加蓮の後ろで、影が揺らめいたような気がした。
そして別の場所。木々が生い茂る人目につかない場所に黒兎はいた。
「…サて、アンチメガネカースの皆の衆。いっぱい増えてアタシは嬉しいよ!」
『ウォォ!!マザー!マイマザー!』
人型の姿をした黒兎が、森の中、大量のアンチメガネカースを集結させ、まるで教祖のように演説をしていた。
「諸君、眼鏡は排除すべき存在ダ。それをしっかり世界中の人々に教えなくてはならない!!」
『オオオオオオオオ!!』
「眼鏡のせいで怯えて暮らす少女がいる!それだけで我ラの活動理由は十分だ!諸君には全国に散ってもらわなクてはならない!もちろんある程度の手助けはするゾ!」
『メガネハイジョー!!』
「いいか、まずハ全員一つに固まッてくれー!」
『メガネハテキー!!』
黒兎の号令で、アンチメガネカースはその大量の透き通った黒い体を1つの個体に集結させていく。
それはどんどん巨大化して、全盛期の強欲の王より2回りほど小さい大きさになった。
「よーし、デハ、安全なところまでアタシが先導してやろう!」
黒兎が翼を生やした獣の姿になって、動き出すと、それは木々に隠れるように体をぺったんこにさせて、まるで水が地を這うように動き出した。
誰にも見つかることなく、それは暗くなってきた森の中を這う。
学園からかなり遠くに来ると、森も途絶えようとしていた。
「…よし、散レ!!」
黒兎の号令で、大きな体のそれは破裂するように小さな大量の個体に別れた。
再び大量になったアンチメガネカースは街に、森に…散って行った。
「よーし、オ仕事完了!あとは帰るだけー!」
それを見届けると、のんきに陽気に黒兎は翼をはためかせて飛び去った。
…アンチメガネカースは、ゆっくりとメガネへの嫌悪感を植え付けていく。
結局、何もできずにナニカは教会へ戻っていた。
帰り道が少し荒れている事に警戒心を抱くが、周囲に気配がない事を確認すると、安心したように歩き出す。
帰り道、白兎も黒兎も戻ってきた所を遭遇したため、二人をぬいぐるみの姿にして抱きかかええる。
ナニカが教会の扉を開くと、クラリスと神父が待っていた。
「…ただいま、クラリスお姉ちゃん、神父のおじちゃん」
「ああ、心配したんですよ…!…やはり学園祭に行っていたのですか?」
少しだけ気まずそうに、けれど楽しかったことを思い出しながらナニカは答える。
「うん、お金なかったけど、楽しかったよ?」
そこに、神父が顔にはあまり出していないが、確実に少し怒っていると感じさせながらナニカに注意する。
「…あまり勝手に外に出ると、クラリスが心配してしまう。どこかに行きたいなら、どこに行くか言うんだ。いいな?」
「…うん、わかった」
ナニカは『ごめんなさい』は言えない。それでも躾と言うのはある程度効果はあるようだった。
「お祭り…明日も行っていい?明日はね、今日と違うんだって!」
無邪気に、彼女はお願いをする。
「あのね、リサお姉ちゃん、歌うの明日からなんだって…だから」
そういうナニカの頭にクラリスがポンと手を置いて撫でる。
「大丈夫ですよ、ちゃんとどこに行くのか教えてくれるなら、怒りませんから」
「…うん、そうする」
「…けれどせっかくのお祭りなのにお金がないのは…そうだ、あまり大きなお金ではありませんけど…」
クラリスが、教会のどこからか小さなポシェットと小銭入れを出してくれた。
「…少しだけ、ですけど…お祭りで何か食べてきてもいいんですよ?」
「…!クラリスお姉ちゃんありがとー!!」
「いえいえ、楽しんできてくださいね?」
「うん!」
その小銭入れが入ったポシェットを大切そうに持つと、彼女は部屋に走って戻って行った。
「…いいのか?」
「大丈夫ですよ、私の問題がない範囲で出しましたので…大金ではないですし」
「いや、クラリス…お前はいいのか?」
「…あの子、少し不機嫌な事が多い子なんです。…それで、あの楽しそうな顔の為だったら少しくらい大丈夫って…」
「…そうか…昼飯くらいは奢ってもいいんだぞ?」
「うふふ、牛丼ですか神父様?」
ナニカは自室に戻る。与えられたのはポシェットだけじゃない。数着だが普通の子供が着るような服もある。
「…また貰っちゃった」
ポシェットを机の上に置く。眺める表情は少しだけ不機嫌そうで、少しだけ嬉しそう。嬉しいのを不機嫌で誤魔化すようだった。
神を信じる者がクラリスを許してしまうなら、ナニカはクラリスを許した瞬間自分が駄目になってしまう気がするのだ。
「…瑞樹ちゃーん、入っていい?」
ナニカの部屋はキヨミと瑞樹の部屋の間だ。そういえば見かけてないなと彼女の部屋の扉をノックする。
「…いいわよ、入ってらっしゃい」
「うん!」
透けた体の彼女は、ソーセージ売りのおじさんが預けに来た、同じくらいの年の女の子。
どうも話を盗み聞ぎしたところ、『追われている』らしい。
それを知らないふりして、ナニカは彼女と仲良くなろうとしている。
「瑞樹ちゃんはお祭り行かないの?」
「…お祭り…ああ、秋炎絢爛祭ね…わかるわ」
彼女は中学校の教師だった。だからもちろん知っていた。
…教え子と過ごす青春の場が、また一つ奪われていた。
「行かないの?」
「…無理よ、こんな姿は目立つわ。それに私はあまり外に出たくないのよ」
いつレヴィアタンに見つかるかもわからない。
クラリスというシスター、神父、騎士団を名乗る3人組、そして目の前の彼女。…見つかったら巻き込んでしまいそうで、怖いのだ。
「…そっか」
二つのぬいぐるみを抱きかかえたまま、座っていたナニカは立ち上がる。
「…瑞樹ちゃん、お祭りの時間が終わったら、アタシと遊んで?」
「…そうね、少しだけなら…いいわよ」
「ありがとう!じゃあまたね!」
手を振ってナニカは扉を閉じた。
ナニカ就寝後、白兎は動き出す。
「あの二人組は櫻井財閥の裏組織、エージェントの一員。目的は神の洪水計画に関わる女からの事情聴取」
独り言を呟いて、頭の中の情報を整理する。
「消去法であの瑞樹って子だよなぁ…狙われてるのって…まぁ関係ないか、神なんて洪水起こそうがぶっ殺すだけだし」
「そしてあの女は元アイドルヒーロー…アイドルヒーロー同盟なら良い能力者が何人か見つかるかも」
そして彼女はこの思いを胸に、アイドルヒーロー同盟を襲撃することになる。…失敗したが。
「…しかし解せないな、あの女、情報探っても不死なんてどこにもない」
刀の事、悪魔の事…手に入れた様々なあの二人に関する情報を閲覧して、白兎はある事実に気付き、笑いながら怒る。
「…嘘をついたな。このアタシに嘘をついたなあの女!!あはは、これは許されないなぁ…よりにもよって不死を偽るか!」
気狂い兎は許さない。『正義』は嘘を許さない。
「本当に不死だったと仮定して、殺してやろう。『正義』に嘘を吐いた罰を受けてもらわないとな、不死を殺すための攻撃で!」
精神が崩壊する程の『死の拷問』。不死であろうとも精神が死んでしまえばただの道具。
そう、奈緒の精神が壊滅したように…何度も殺してやると、決める。
「そうだ、あいつの『カリスマ』を否定してもいいな…アタシが究極生命体である為に生物の頂点だと、思い知らせて…」
痛めつけることを考え始めた思考回路を戻す。
「…セイラ、アタシは『悪』のお前を許さない。櫻井も、エージェントも『悪』だ。『正義』の化身のアタシが断定してやる」
だが…潰すのはまだ先にして、精々利用してやる。
白い影が、夜の教会の一室で小さな笑い声を上げていた。
以上です
ナニカと波乱万丈な学園祭(一日目)はこれで終わり、二日目待機です
加蓮、クラリス、神父、ロリ島さん、名前だけ梨沙、キヨミ、櫻井財閥と聖來さんとエージェントをお借りしました
・ナニカの思考がぐらぐらしてます
・アンチメガネカースが本格的に放流されました
・白兎がエージェントを利用できる悪と認識しました
おつー
聖來さん……アカン……
本当に教会を尋ねるどころじゃなくなってた件
乙ー
加蓮気付いて!気付いてあげて!!
そして、セイラさん逃げてー!!全力で!!
乙でしたー
こええ……白兎超こええ……
もうただただ超こええ……
俺氏、2013年最後の投下の模様
爛「チョロかったな」
とあるスタジオを出て、クールPが運転する車に乗り込んだ爛が口を開いた。
クールP「一発OKの連続だったね」
ハンドルを切りながら、クールPもそれに淡々と返す。
彼らが話しているのは、先ほどまでこなしていた仕事の話。
某週刊少年漫画雑誌の巻頭を飾る、水着グラビアの撮影である。
爛「スタンバイに入ったら水着が二種類あった時ぁ流石にビビッたが」
片方はごく普通の男物の水着、もう片方はパレオまでついたビキニだった。
クールP「ほんと、君の言う通り。この国って逞しいよね」
爛の軽く青ざめながらの呟きに、クールPは苦笑した。
爛「……あ、悪い。ちょっとアイツから連絡来てるな」
爛が鞄から携帯電話を取り出した。
クールP「なら適当な場所に車停めようか? 『すぐそこに第三者がいる』って走行音とかでバレたらまずいし」
爛「ああ、頼む」
車は少し走り、人気が無い廃墟の周辺で停まった。
爛「サンキュ。……待たせたな、サクライ」
サクライP『いやに遅かったけれど、どうかしたかね?』
通話の相手は櫻井財閥頭首、サクライPだ。
爛「人がいねえトコまで移動したんだよ、察しろ」
サクライP『ああ、そうか。失礼。今回連絡したのは、ちょっと確認したい事があってね』
爛「確認? 何のだよ?」
サクライP『海底都市という組織が進行中の神の洪水計画は知っているね?』
爛「ああ。それがどうかしたか?」
サクライP『その計画に関して、君達古の竜はどこまで知っているのかな?』
爛「……悪いが、俺ぁ何も知らねえ」
サクライP『そうか、残念だ』
爛「まあ……関わってそうなヤツなら覚えがあるな」
サクライP『ほう、詳しく聞かせてもらえないかな』
爛「俺らの中の『海の一族』。その大将のプレシオアドミラルなら何か知ってるかもな。
ソイツが今行方不明で、プリンセスと戦士団の一部が捜索の為にこっち来てんだ」
サクライP『ふむ、なるほど。参考にさせてもらおう』
爛「用が済んだんなら切るぞ。こっちは忙しいんだ」
サクライP『ああ、すまなかったね。では、お仕事頑張ってくれたまえ……爛ちゃん』
人を小馬鹿にしたようなその言葉を最後に、サクライPからの通信は途絶えた。
爛「うぜっ……」
クールP「終わったのなら、車を出すよ」
爛「ああ、頼むわ」
爛は携帯電話を仕舞い、ぐったりと座席に全体重を任せた。
クールP「よし、じゃあ事務所に向けて…………」
少女「きゃああああー!」
爛「……あ?」
少し離れた所から、少女のものと思しき悲鳴が聞こえてきた。
クールP「……悪いね爛。戻る前にもう一仕事だ」
そう言ってクールPはアクセルを踏み込み、車を急発進させる。
爛「相手は何だ? カースか、イワシロボか、それとも新勢力か?」
クールP「シンキングタイムは無さそうだよ。悲鳴はそう遠く……ホラ」
クールPがブレーキを強く踏み込むと、車は鋭い音と共にその場に停車した。
目の前には三体のカース。そして、それに追われる一人の少女。
『マアテエエエエエエエエエ!!』
『クッテヤルウウウウウウウ!!』
『アタシトヤセンシロオオオ!!』
少女「誰か、助けて……っ! やだああ!」
爛「カースか。よし、ちょっくら行ってくるわ」
爛は荷物から仮面を取り出し、それを装着する。
仮面の内側で、瞳は縦長になり、頬に鱗のような模様が走った。
勢いよくドアを開け飛び出した爛の手には、鋭い鉤爪。
アイドルヒーロー、『ラプター』の参上である。
クールP「やれやれ、血の気が多いな。僕達も行こうか、アラクネ」
アラクネ『ピピー、ピーピー』
静かに車を降りたクールPは、どこからか取り出したマントとシルクハットを身につけた。
そして右腕にマキナ・アラクネが取り付き、プロデューサーヒーロー、『クルエルハッター』が参上する。
クールP「君、カースは僕たちが倒す。君は急いで逃げたまえ」
少女「く、クルエルハッター様に爛ちゃん……!? あ、ありがとうございます!!」
少女は深々と頭を下げ、走ってその場を去った。
クールP「様、ね……もしかして僕のファンだったのかな」
爛「何で俺はヒーロー名じゃないんだよ、ったく」
顎に手を当てて軽く思考するクールPと、「またか」といった風に毒づく爛。
『オオオオオイ! オレタチノエモノ、ナニニガシテクレテンダヨォ!!』
『カワリニオマエラヲクッテヤルカラナ!!』
『ニガストカシツボウシマシタ、ミクニャントナカチャンノファンヤメマス!!』
そして、思い思いに激昂するカース達。
爛「うっせーなぁ……喰うのは俺の専売特許だ」
クールP「悪いけど……僕らの『成績』の犠牲になってもらうよ」
二人は非常に極悪な笑みと共に、カースへ向かって突っ込んでいった。
『カースパアアアアンチ!!』
爛「ノロマが、当たんねえよ!」
カースの拳をジャンプでかわした爛は、そのままカースの腕の上を走っていく。
爛「でぁっ!!」
そしてそのまま、カースの横っ面に強烈なキックを見舞った。
『オボオオッ!?』
『サバクノハオレノタイザイダァァァッ!!』
別のカースがクールPへ向けて拳のラッシュを振り下ろす。
クールP「よっと、ほっ……ねえ君、自分の手、見てみなよ」
そのラッシュを容易くかわしたクールPが、嘲るようにカースを指差した。
『ヘ? …………ナ、ナンジャコリャアアアア!?』
見ると、カースの腕にはいつの間にか無数の切り傷が刻まれていた。
クールP「言われるまで気付かないのか……間抜けだね、君は」
クールPは再び嘲りながら、いつの間にか取り出したナイフ二本を両手の平でクルクルと弄んだ。
『イタイイタイイタイイタイィィィ!!』
クールP「さっさと決めようか」
ふん、と鼻を鳴らしたクールPは、ナイフを右腕に取り付いたアラクネの胴体に収納する。
そして、アラクネの尾部から一本のワイヤーが高速で放たれた。
『ヒギイッ!?』
ワイヤーはカースの身体に深く突き刺さり、先端のクローが核にガッシリと噛み付いた。
クールP「…………パニッシュ」
クールPが左手の人差し指でワイヤーをピン、と弾く。
すると、クローの中央部から一本の杭が鋭く打ち出され、カースの核を貫いた。
『ウギャアアアアアアアアアアアア!!』
崩れ落ちるカースに目もくれず、爛の方を振り向いたクールPが突然表情を変えて叫んだ。
クールP「爛、後ろ!」
爛「あぁ!?」
言われて後ろを振り向くと、すぐ目の前にカースの拳が迫っていた。
爛「やべっ……!」
『マチニマッタヤセグボアッ!?』
突然、カースが右へとすっ飛んでいった。
爛「!?」
クールP「な、何だ……?」
そこに立っていたのは、銀の鎧に身を包んだ小柄な少女。
ライラ「……グランパ直伝、《六骨》」
拳を突き出したままの体勢で少女――ライラはそう呟いた。
クールP「……何事かな……?」
ライラ「技を撃ってから技のお名前を言うと三割増しでかっこいいと、グランパが言っていましたです」
爛「いや、そこじゃなくてお前の名前だ……よっ!」
『イヤン!!』
腰に両手を当て自慢げにそう言うライラに、爛はカースへ踵落としを決めながら突っ込んだ。
ライラ「わたくしの、ですか? はい、わたくしライラさんですよー」
爛「ライラねえ……で、何か用か?」
『ヤッ、ヤッ、ヤメッ、テッ!』
カースの頭上で踵落としを連発しながら、爛は腕組みして尋ねる。
ライラ「わたくし、カースをやっつけて修行を続けているでございます」
クールP(銀一色の、魚介を模した鎧……彼女はまさか……)
爛「へーえ、まあいいや。首突っ込んだんなら最後まで手伝えよ、ライラ!」
ライラ「わかりましたです。グランパ直伝、《大堕威骨》」
ライラは自分が吹き飛ばしたカースの懐に飛び込み、廻し蹴りを叩き込む。
『チュウハァッッ!?』
爛「やるな、あいつ……ぉらっ!!」
『ンォオッ!!』
爛がカースの頭を強く蹴って跳び上がる。
クールP「ふっ……」
そしてクールPがそのカースへナイフを次々と投げつける。その数、八本。
『バアカ! ソンナナイフジャカクマデトドカネエヨ!!』
カースの言う通り、八本のナイフは全て泥の表面で止まってしまっている。
クールP「なあに、お楽しみはこれからさ」
続いてワイヤーを射出するクールP。標的はカース、ではなく、体表に刺さるナイフの一本。
そして先端のクローがナイフを掴み、鞭のように振り回し、カースの身体を切り裂いた。
『ウギェッ!?』
そしてそのナイフを放し、別のナイフを掴み、また振り回す。
放ったナイフはクルクルと回りながらクールPの手元へ戻ってきた。
更にナイフを放し、また別のナイフを掴んで振り回す。
全てのナイフがクールPの手元に戻ってくる頃には、カースの腕がビチャビチャと崩れ落ちていた。
『ウェエエエ!?』
爛「ナイスだ、クールP!」
すかさず爛が駆け出し、カースの胸倉を掴む。そして、
爛「ドリャリャリャリャリャリャリャリャァァァア!!」
泥を掻き出すように連続でキックを叩き込む。
やがて泥の奥から、赤い核が顔を覗かせた。
爛「死ぃねぇぇっ!!」
その核を、爛の鋭い鉤爪が切り裂く。
『ウ、オ、オアアアアアアアア!!』
爛「ハッ、一昨日来やがれ泥野郎!!」
崩れゆくカースに向け、爛は中指をビッと立てて挑発した。
ライラ「グランパ直伝、《剣鋼骨》」
ライラの手刀がカースの身体を切り裂いていく。
『クソッ! コラッ! グランッ! プリィィッ!!』
反撃にカースがパンチを繰り出すが、
ライラ「ほっ、グランパ直伝、《骨挽》」
ライラのカウンター裏拳がカースの腕を叩き潰した。
『ミョウコオオオオッ!?』
その隙を突いて、ライラはカースの懐に潜り込んだ。そして、
ライラ「《六骨》、《六骨》、《六骨》、《六骨》、《六骨》」
一瞬の内に放たれた計三十発の連続パンチが、泥を瞬く間に穿っていく。
『ジンッ……ツウ……!!』
ライラ「トドメですよー、グランパ直伝、《頭鎧骨》」
そして露出した核を、痛烈なヘッドバットが襲った。
『タイハアアアアアアアアアッ!?』
ライラ「んんっ、結構なお手前でございました」
爛「おーい、伸びとお辞儀を器用に同時進行してるトコ悪いがよ。お前何者だ?」
ライラ「? ライラさんはライラさんですよー」
イラついた様子で尋ねる爛に、ライラはきょとんとした顔を向けた。
爛「いや、名前じゃなくて。所属とか……」
クールP「……所属は海底都市。そして君はウェンディ族。……違うかい?」
爛の言葉を遮って、クールPがライラに問いかけた。
ライラ「はい。海底都市からやってきましたです」
クールP「やはりね。その鎧を見てピンと来たよ」
クールPが顎に手を当てほくそえむ。と、
シャルク「やっとおいつきました。ライラさま」
ガルブ「とつぜんかけだして……おや?」
ライラのお付きである、二体のカスタムイワッシャーが現われた。
爛「うおっ、何だこの派手なイワシロボは!?」
ライラ「イワシロボではないです。シャルクとガルブなのですよー」
爛「……随分マイペースだなコイツ」
シャルク「あなたがたは、どちらさまですか?」
ガルブ「もしや、ライラさまがなにかごめいわくを?」
クールP「……あー、とりあえず状況を整理しよう。ライラさん、シャルクさん、ガルブさんだったね。
詳しく話を聞きたいから、一緒に来てもらえないかな?」
額に手を当て眉間にしわ寄せ、クールPは三人を車へと誘導した。
――――――――――――
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――――――――
――――――――――――
クールP「……なるほど、お祖父さんの鎧を引き継いで武者修行ね」
クールPはバックミラーに映るライラの姿を見た。
後部座席の真ん中で、大きな銀のシーラカンスを抱えるその姿は、まさに『華奢』という他無かった。
クールP「とてもじゃないけれど、君みたいな少女の力とは信じられなかったね、あの戦いぶり」
ライラ「失敬でございますね、紛れも無くわたくしの実力でございますよ」
クールP「はは、それは失礼。謝罪するよ」
シャルク「しかし、いにしえのりゅうのおうにきゅうけつきのおうとは……だいそれたやぼうというほかありませんね」
ガルブ「ええ。なぜそれをわれわれにはなしていただけたのですか?」
シャルクとガルブは、先ほど話を聞いてからの疑問をぶつけた。
どう考えても他言無用な内容を、出会ったばかりの得体の知れない三人組に話す。
その行動が、どうも不自然に思えてならなかったのだ。
爛「ま、包み隠さずに言えば、お前らを利用したいってわけだ」
助手席で爛が口角を吊り上げながら言う。
ライラ「面と向かって利用すると言うですか?」
爛「お前は修行を積みたいんだろ? 俺らと居ればその内、魔族に竜族に古の竜に吸血鬼、
そんな奴らとタップリ戦えるはずだぜ?」
ガルブ「なるほど。いちりあるようにおもえます」
ガルブが納得しかけるが、そこへシャルクが口を挟む。
シャルク「しかし、そのちからをかいていとしへふるうようなことがあれば……」
クールP「ははは、その心配はいらないよ。僕らはこっちの世界にはさほど興味が無いからね。それに」
ライラ「それに?」
クールP「推測だけど、お祖父さんから貰った地上のお金、そろそろ尽きる頃じゃないかい?」
シャルク「……たしかに。あとひとつきもたてばきれいさっぱりなくなってしまいます」
ライラの代わりにシャルクが答える。
ガルブ「しかし、それがなんのかんけいが?」
爛「さっきも言ったが、俺らはアイドルヒーロー同盟っつうトコに所属してる。まあ要するにライラ、
お前もアイドルヒーローやらねえか? ってことだ。給料出るぜ?」
ライラ「お金がもらえるでございますか? それは素敵ですねー」
シャルク「しかし、じぶんでいうのもなんですが、われわれはごらんのとおりえたいのしれないれんちゅうです」
ガルブ「そうです。そんなわれわれがすんなりとそういったそしきにはいれるものでしょうか?」
クールP「そんな心配は無用さ。『顔立ちが良くて』、『能力を持っている』。この二つが揃っていれば、
大体OKサインが出るよ」
爛「そうだな。素性とか結構二の次だぜ、ウチ。噂だが宇宙人もいるって話だし、何より俺らな」
爛は自分を指差し、不敵に笑った。
クールP「シャルクさんとガルブさんは、ボディガードとでもしておけば平気そうだね。幸い街には今、
『紅と蒼の無害なイワシロボット』の噂が広まっているし」
シャルク「ふむ……」
ガルブ「……」
クールPの言葉で、シャルクとガルブは少し考え込む。
ライラ「では、そのお話をお受けしますです」
シャルク「……そうですね、われわれのデメリットはすくないようにおもえます」
ガルブ「なにより、ライラさまがそうけつだんされたのであれば」
ライラが力強くうなずき、シャルクとガルブもそれに続いた。
クールP「決まりだね。事務所に戻ったらアレコレ手続きをしてもらうから、これからよろしく、ライラ」
ライラ「はい、よろしくですクールP殿、爛殿」
爛「おう。……そうだ、ちょっくら報告すっか」
何を思ったか爛は携帯電話を取り出し、どこかへ連絡を入れた。
爛「……あ、向井先輩おっつー。今平気? ……いや何、ちょっと今クールPの奴が新人拾ってな。
……うん、戦い方がもうガチの殴り合いでよ。……そうそう、だからアンタとは気が合うんじゃねえかと思って一足先にな。
……そう、そういうわけだから、事務所の先輩方にもそう伝えといてくれや。……はい、はーい、そんじゃ」
通話を切って爛はライラに笑いかけた。
爛「とりあえず、自己紹介の準備はしとけよー?」
ライラ「はい。ありがとうございますです」
ライラが爛へ深々と頭を下げた。
クールP「……そうだ、忘れる所だった。君たちに確認しておきたいことが」
シャルク「なんでしょうか?」
ガルブ「われわれにこたえられることなら、なんなりと」
その言葉を受け、クールPの顔がニィと歪んだ。
クールP「君達、『神の洪水計画』の概要とか、何か知らない?」
ライラ「…………?」
シャルク「かみのこうずい……?」
ガルブ「それはいったいなんですか?」
クールP「…………ああ、なら、いいや…………」
歪んだクールPの顔は、みるみる内にしぼんで真顔に戻ってしまった。
続く
・イベント追加情報
サクライPが『プレシオアドミラル』の名を認識しました
ライラ一行がクールPに拾われました
ライラの技《内耐骨》が《大堕威骨》に変更されました
以上です
「ライラさん、アイドルヒーローになる・前編」でした
爛ちゃんが初登場時ちょっと猫被ってたのは外部のお客様を警戒してなので、
内部に対しては割と素で接しますよ、という
サクライPと名前だけ拓海お借りしました
それでは皆さんよいお年をー
乙です
爛ちゃんとクールPについにライラさんが加わったか
ライラさんかわいい強い
乙ー
ライラちゃんアイドルヒーローになったかー
果たしてどう行くのか楽しみ
あけましておめでとうございます
短いですが新年記念にちょこっと投下
唯「今年も気が付けば年末だよー。なんだかあっという間だったねー」
智絵里「そうです……ねぇ。私も今年一年、何をして過ごしていたのか……よく思い出せません」
イルミナP「結局今年も炬燵で年越しですね。
炬燵の上に乗っているのがバレンシアオレンジと飴のツリーってのがおかしいところですけど」
唯「探したけどイルミナティ本部内にはこれしかなかったし……」
イルミナP「ちょっと『個人空間』で日本まで行って買ってきてくださいよ。おつりはあげますから」
唯「えー……。外出たくないからヤダ」
イルミナP「このままじゃ堕落していく一方ですよ。炬燵は私が暖めておきますから、さぁ」
唯「すでにゆい堕天してるからこれ以上落ちようがないからだいじょうぶー☆」
イルミナP「そう言う問題じゃないですよ。って唯布団引っ張ってかないでください。
バランスが悪くなるでしょうが。
智絵里もどさくさに紛れて炬燵に潜っていかないでください。
炬燵そんなに大きくないんですよ」
唯「ゆいの陣地は渡さないよ!」ズルズル
智絵里「あぅ!……ゴメンナサイ」モソモソ
イルミナP「やめなさい!私の布団がなくなる!
っていうか智絵里はさらに潜っていくんじゃない!
脚がこっちまで到達してますし!」アシツカミ!
智絵里「つめたっ!……は、放して!」ケリッ!
炬燵内でさほど放たれた一つの蹴り。
それはさほどの力が込められているわけではなく、少女の小さな足によって放たれた蹴りである。
しかしその蹴りがイルミナPの腹部へと直撃すると、肋骨の軋む音と共に炬燵からミサイルのごとく弾き飛ばされる。
「ぐああああああぁぁぁーーー!!!」
そして背後の壁に激突して、苦悶の表情を浮かべながら腹部を押さえ、倒れた。
イルミナP「う、がはぁ……。だから……嫌いなんだ……」ガクッ
智絵里「あ……ご、ゴメンナサイ」
唯「アイスの大福食べる?ちえりーん」
智絵里「あ、うん。……一つもらうね」
唯「……」モグモグ
智絵里「……」モチモチ
テレビ<デデーン!全員アウトー!
唯「クフッ……」
智絵里「……」
智絵里「寒いなぁ……早く、春にならないかな……。
あ……あけまして、おめでとうございます」
以上です
オチなどない
訂正
>>600 さほど放たれた
→ 先ほど放たれた
詰めの甘い一年の始まり……
新年早々乙です
ほのぼのとしてらっしゃる…ww
チエリエル強い(確信)
怖いわ(恐怖)
乙ー
チエリエルwww
なんという事故……
乙&あけおめー
イルミナティ平和すぎるww
「ライラさん、アイドルヒーローになる・後編」
はじまるよー
拓海「オイ爛! どういうことだよこれは!?」
アイドルヒーロー同盟事務所のロビーに、拓海の怒号が響き渡る。
拓海以外にも、ロビーにはそこそこの人数が集まっている。
爛「どういうことって……何がだよ?」
拓海「お前らが連れてきた新人のことだよ!」
そう言って拓海は爛の後ろに立っている少女、ライラに目を向けた。
ライラ「……? わたくしがどうかしましたか?」
拓海「そのデケエ銀の魚! それと両脇のイワシのロボット! こいつウェンディ族じゃねえのか!?」
海底都市。ウェンディ族。神の洪水計画。
これらの情報は既に、アイドルヒーロー同盟に通達されている。
親衛隊サヤに襲撃されたナチュルスター、及びイヴ非日常相談所によって。
シャルク「……らんどの。どうもおはなしがちがうようですが」
シャルクがそっと爛に耳打ちする。
爛「あー、まあ多少はな。今クールPが上に話しにいってっけど……」
爛もそれにひそひそと返す。
ライラ「はいです。ライラさんはウェンディ族ですよー」
拓海「スパイに来たにしちゃああっさりしてやがんな……何が目的だ?」
ライラ「ライラさんはここへお金を貰いに来ましたです」
菜々「銀行強盗ならぬ同盟強盗ですか!?」
菜々が思わず大声を上げた。
夕美「落ち着いて菜々ちゃん、そんな言葉無いから」
ガルブ「ライラさまはクールピーどのにスカウトされ、アイドルヒーローとしてデビューするために
こちらへやってまいりました」
ガルブが事情を説明すると、周囲は更にざわつきだした。
モブアイドル「あ、え、新人って……ホントに?」
モブP「いや待て、罠かも……」
スタッフ「で、でも、それならあの子を連れてきた爛サン達もスパイってことになるんじゃ……」
爛(ドキッ)
拓海「…………悪いが、簡単には信用できねえ」
ざわつきの中、拓海が腕組みしたまま口を開いた。
ライラ「では、どうすれば信じてもらえますですか?」
クールP「ああ、予想した通りの騒ぎになってるね」
美世「あ、あれがウェンディ族……? 普通の人とあんまり変わらないんだ……」
そこへ、人の波を掻き分けながらクールPと美世がやってきた。
爛「おせえぞクールP」
クールP「いや、ごめんごめん。ちょっと手間取ってね」
拓海「美世……?」
美世「拓海、ちょっと遠出になるよ! 準備しててね」
爛「……何が始まるんだ?」
クールP「第三次……っと、ジョークは置いといて。駐車場まで来てくれるかな。ちょっと移動するから」
車のキーを指先でクルクルと回しながら、クールPはライラを誘導するように歩いていった。
ライラ「?」
――――――――――――
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――――――――――――
クールPが運転する車と、美世が運転する車がある場所にたどり着いた。
そこは、とある採石場。
仮面のバイク乗りが戦ったり、五色の秘密チームが戦ったりする例のアレである。
爛「うおっ、こんなトコあったのか」
クールP「上層部に掛け合って、ちょっとお借り出来たんだよ」
ライラ「で、ここで何をするのでしょう?」
クールP「まあ、簡単に言えば拓海君と殴り合ってもらう」
シャルク「なぜです? かのじょはいずれライラさまとどうりょうになるにんげんなのでは……」
クールP「君達は分からないと思うがね、彼女のようなタイプは、拳を通じて語り合うものなのさ」
ガルブ「いまいちよくわかりませんが……ここはクールピーどのにしたがいましょう」
ライラ「かしこまりました。では、頑張りましょうカンタロー」
『ゴトトン』
ライラがカンタローを抱えて車を降りると、拓海もバイクを準備していた。
拓海「…………」
ライラ「…………」
二人は一瞬だけお互いを見やり、そして、
拓海「 転 身 !! 」
ライラ「オリハルコン、セパレイショーン」
同時に変身の掛け声を挙げ、採石場の中央へと駆け出した。
カミカゼ「……覚悟完了、カミカゼ参上!」
ライラ「アビスカル、ウェイクアップですよー」
鋼の鎧を纏った二人が今、対峙した。
クールP「あー二人とも。先に言っておくけれど、お互いにギガフラッシュと固体潜航は使用禁止だからね」
カミカゼ「ああ」
ライラ「了解でございます」
二人はクールPを一瞥もせず、ただお互いを見据えている。
クールP「ならいいや。よし……始め」
クールPがパンと手を叩くと、まずはカミカゼが飛び出した。
カミカゼ「先手ッ、必勝ォッ!!」
強烈な右ストレートがライラを襲う。が、
ライラ「グランパ直伝、《骨挽》」
ライラはそれを左手でパシッと受け、カミカゼのパンチの勢いを利用して裏拳を叩き込む。
カミカゼの横顔へ一直線に進んだ裏拳は、すんでの所でカミカゼの左手に抑えられた。
カミカゼ「ッ! ……やるじゃねえか……」
ライラ「お互い様です」
クールP「……美世君、ちゃんと撮れてるかな?」
クールPは戦場から視線を逸らし、隣で大きな機械を操作する美世に話しかけた。
美世「あ、はい。バッチリ出来てますよ」
クールP「それは良かった。ここの使用、『同盟の新しいプロモに使えそうな映像撮って来い』って条件付だったからね。
撮れてなかったら大目玉を喰らってしまうよ」
美世「まともに映像が撮れないからギガフラッシュが、絵的に映えないから固体潜航がそれぞれ禁止でしたっけ」
肩をすくめるクールPと、苦笑する美世。
それを見て、シャルクとガルブはポツリとつぶやいた。
シャルク「いわゆる、おとなのじじょうというものですか」
ガルブ「やはりふくざつなのですね」
ライラ「グランパ直伝、《大堕威骨》」
カミカゼ「させるかっ!」
ライラの廻し蹴りをカミカゼが右手でガッシリと受け止める。
ライラ「あっ」
カミカゼ「でぇいっ!」
ライラは脚を掴まれた状態で、地面に大振りで叩きつけられた。
ライラ「ぅっ……」
カミカゼ「まだだ!」
続けてカミカゼが、仰向けのライラへ踵落としをしかける。
ライラ「ッ、グランパ直伝、《六骨》」
ライラはすかさず六発のパンチを繰り出してそれを弾き返した。
カミカゼ「んなっ!?」
踵落としという不安定な体勢でそれを喰らったカミカゼは、大きくよろめいた。
その隙にライラは立ち上がり、カミカゼへ手刀を振り下ろす。
ライラ「グランパ直伝、《剣鋼骨》」
カミカゼ「ちぃっ!」
ギリギリで踏ん張ってガードしたカミカゼだったが、手甲に長い傷跡が刻まれた。
カミカゼ「だぁっ!!」
ライラ「うあっ」
カミカゼのローキックで、ライラが再び地に伏した、かに見えた。
ライラ「《六骨》、《六骨》、《六骨》」
カミカゼ「ぐああっ!?」
ライラは地面に向けて六骨を二度放ち、その反動で急速に体勢を整えた。
そして六骨をもう一度放ち、無防備なカミカゼの胴へと直撃させたのだ。
カミカゼ「ぐっ……!」
ライラ「すぅーっ……《大堕威骨》」
鋭い廻し蹴りが、カミカゼの体を高速で天高く打ち上げる。
ライラ「とぉー」
そして、ライラが大ジャンプでそれに追いつく。
大技、《堰終》を決めるためだ。
しかし、上空でカミカゼに追いついたライラが見たものは……
カミカゼ「……よぉ」
ライラ「…………!」
大堕威骨をガッチリとガードし、空中で体勢を整えていたカミカゼの姿だった。
ライラ「わわっ、と、ぐ、グランパ直伝、《堰終》っ」
ライラは大慌てでカミカゼの体を掴み、勢いをつけて落下を始める。
カミカゼ「させるか!」
地面に叩きつけられてたまるかと、カミカゼはグッと体を起こし、ライラの上になった。
ライラ「さ、させませんです」
負けじとライラも体をよじらせる。
上下がめまぐるしく入れ替わりながらも、二人はドンドンと落下していく。
そして、
ズゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン
轟音と共に、採石場全体に土煙が舞う。
クールP「うわっ、これは……」
爛「洒落なんねえぞ、今の……」
美世「た、拓海!?」
シャルク・ガルブ「「ライラさま!」」
五人は撮影を放って落下地点へと駆け出す。
五人がたどり着く頃には土煙も消え、その場に大の字で倒れる二人の姿があった。
カミカゼ「ぜぇっ……はぁっ……」
ライラ「ケホッ……エホッ……」
どちらの鎧もひどく損傷し、顔を隠すバイザーもヒビだらけになっている。
美世「拓海、大丈夫!? ……鎧!」
カミカゼ「鎧かよ!」
美世の発言に、カミカゼは勢いよく上体を起こして突っ込んだ。
美世「冗談冗談。でもその様子なら大丈夫そうだね」
シャルク「ライラさま、ごぶじですか!?」
ライラ「は、はいです。どうにか生きてますですよ……」
ライラも上体をゆっくり起こしてシャルクに答えた。
ガルブ「ごぶじでなによりです」
カミカゼ「…………おい」
気付けば、カミカゼはジッとライラを睨み付けている。
ライラ「はい?」
カミカゼ「……ん」
カミカゼはライラへ向けてぐっと右手を伸ばした。
ライラ「……ええと、こう、ですか?」
カミカゼが伸ばしてきた手を、ライラはぎこちなく握る。
直後、カミカゼはライラの手を強く握り返してきた。
カミカゼ「……悪かったな、疑って。戦ってみて分かったぜ、お前は悪人でもなきゃ、嘘をつけるほど器用でもねえ」
ライラ「……わたくしも、タクミさんのことがよく分かった気がしますです。とてもとても熱くて、まっすぐな方でございます」
カミカゼ「……へへっ」
ライラ「……ふふ」
どちらからともなく、自然と笑みがこぼれる。
カミカゼ「これから『仲間』としてよろしくな、ライラ、シャルク、ガルブ」
ライラ「こちらこそよろしくです、タクミさん、ミヨさん」
シャルク「カミカゼのじつりょく、しかとはいけんしました」
ガルブ「ライラさまともども、これからおせわになります」
カミカゼとライラはお互いに最高の笑顔を見せ、お互いのパートナーの助けを得て立ち上がった。
クールP「いやあ、うまくいって良かったよ」
少し離れた所で、クールPは顎に手を当てうんうんと頷いた。
爛「アイドルヒーロー同盟でも有数の実力を持つカミカゼ……そいつに認められたとあっちゃあ、
ほかの奴らもそうそう疑いはしねえだろうな」
クールP「そうだね。まあ、彼女を疑っても意味は無いよね。本当にスパイじゃないんだから」
爛「まあその分、ライラと一緒に行動する俺らも動きやすくなるってわけだ」
クールP「怖いくらいに順調だね。……さあ皆、そろそろ帰ろうか」
クールPが少し声を張って、拓海達へ呼びかけた。
拓海「おう」
美世「帰ったらすぐ修理してあげないと……」
ライラ「カンタローも看病してあげますです」
『ゴトンゴトン』
シャルク「しゃいんしょうのようなものももらえるのでしょうか」
ガルブ「なんだかわくわくしますね、シャルク」
皆が一様に車へ向かう中、クールPは突然立ち止まって考え込んだ。
爛「……どした?」
クールP「……いや、彼女のヒーロー名だけど…………『仮面ライラー』って、どうかな?」
爛「……フツーにアビスカルでいいだろ」
続く
以上です
拳と拳で語り合うのは定番ですよね
拓海、美世、菜々、夕美お借りしました
乙です
ライラさん無事にアイドルヒーローに加入か
殴り愛って素敵だよね
乙ー
何故か、最後の必殺技をやろうとした時天井に頭ぶつけるのを想像してしまった
財前時子で予約します
すいません、>>627は僕です
そろそろ投下します
昔々、あるところに一人の神様がいました。
しかし、その神様は自堕落な上にとても怒りっぽい性格で、たくさんの幸せをうばい、そして、たくさんの土地をダメにしました。
そんなある日、神様は別の神様に言われて、神様をやめることになりました。
神様の管理している土地や人を、神様がダメにしたから出す。
しかし、神様は喜びました。
これで、自分は自由だ!と。
神様の仕事は辛く、大変で、煩わしいと思っていたから、神様はとても、喜びました。
元神様はハハハと笑います。
そして神様は地獄に落ちて、悪魔になりました。
元神様の悪魔は喜びました。
悪魔になったから自分は自由だ!これからは、好き勝手に生きてやる、と。
悪魔は好き勝手にいきました。
どこまでも自分勝手で、果てしなく自堕落な、悪魔らしいと言えばとても悪魔らしい生活を続けました。
そのうち、怠惰の証を手に入れて、怠惰の悪魔と呼ばれるようになりましたが、それでも変わらず悪魔は自堕落な生活を続けました。
悪魔はケラケラと笑います。
でも、ある日、悪魔は地獄のルールを破り、勝手に人間の世界に行ってしまいました。
悪魔は長いときを生きているうちに、今の生活に飽きてしまったのです。
今の人間の世界は、悪魔が神様だった頃に見た人間の世界とは、まるで別物でした。
でも、今の人間界は悪魔の好きなものでいっぱいでした。
混沌と恐怖、悲しみや憎しみが溢れ、悪魔はそこで飽きることなく人々を恐怖に苦しめました。
自分を神様だと勘違いした人達を病魔で苦しめ、土地を腐らせ、水をダメにし、風に毒をのせ、炎で人々の暮らしを邪魔しました。
悪魔はゲラゲラと笑います。
でも、楽しい時間はすぐにすぎ、終わりがやって来ました。
悪魔の世界の王さまが怒って、悪魔から怠惰の悪魔の証を奪ってしまったのです。
その上、悪魔の体と魔法を奪われてしまいました。
悪魔は両手を上げて喜びました。
これで、自分は自由だ!何にも縛られず、抑制されず、好きに生きれる!
悪魔は可哀想な一人の女性に取りつきました。
悪魔は今もどこかで、笑っています。
そして、時はたち現代。
平和で静かなお正月の空を、一人の女性が佇んでいた。
その女性はまるでごみでも見るような目で地上を見下ろす。
「退屈ね」
一言、女性は呟いた。
「まったくもって、退屈だわ」
風が吹き、髪が靡く。
物憂げに口を開けると、そこから白い息が吐き出される。
「それにしても、家畜共の「お正月」という行事は本当に理解できないわ。ただ年が変わるというだけでこんなに大騒ぎして、そしてその後はだらだらと過ごすんですもの」
女性は退屈そうに呟く。
いや、退屈そうにではない。本当に退屈なのだ。
「あなたたちに自堕落に過ごす権利なんて、あるわけないじゃない。自堕落に過ごせるのはこの世界でただ一人、この私だけよ」
そして両手を広げた。女性を中心に五つの緑色の玉、怠惰のカースの核が浮かぶ。
「躾は必要よね。色々と、ね」
女性の口に嗜虐的な笑みが広がった。
核から泥が溢れ、それが形を作る。
カースはまるで、騎士のような形になった。
「きびきび動きなさい、豚どもよ。あなた達の存在意義はただ私の退屈しのぎの相手をする、ただそれだけなのだから」
五体のカースが地上に降り立つ。そしてその直後、平和だった町からは恐怖の悲鳴や泣き叫ぶ声が聞こえだす。
それを聞いて、女性は恍惚の表情を浮かべ、震えた。
「あぁ、いいわ!いい声で鳴くじゃない!」
カースは暴れる。怠惰の特性には不釣り合いなほど、暴れまわる。
耳に悲鳴が届くたびに、女性の頬の赤みはましていく。
「ふふふふ、そうよ、もっと鳴きなさい豚どもよ。そしてあなた達の存在意義を再確認しなさい」
暫くして、アイドルヒーローが数人やって来て、カースを倒していく。
その光景を見て更に笑う。
「そうよ抵抗しなさい!もっとよ、もっと抵抗して私を楽しませなさい!」
女性の笑い声は更にエスカレートし、それに呼応するように、カースも力を振るう。
女性が作り出したカースの存在意義は自分の主人を楽しませること。それ以外のことは考えない。それ以外の事はなにもしたい。
ただただ、暴れる。
数時間後、カースは全て駆逐された。
怪我人の救助が始まる。痛みに悶える男性や泣き叫ぶ少女。それらが女性を喜ばせる。
「ふふ、さて。余興はこれくらいにしておいて、本番にうつりましょう」
女性は地上へと降りていった。
地上は大惨事となっていた。
荒れ果てた街並みはとても数時間前まで平和であったとは思えない。
瓦礫の下敷きになりもがく女性がいた。
親とはぐれて泣き叫ぶ男の子がいた。
血まみれでピクピクと痙攣する夫婦もいた。その間に挟まっている女児は動いてすらいない。
それらに近づき、女性は囁く。
「ねぇ、あなた。生きたい?」
「………!」
虫けらのように死にかけている人々にそう囁けば、大体の人は首をたてにふるのだ。
「そう。なら私のために歌を歌いなさい。私を称える歌を、私だけのために」
そして、怠惰の核を死に損ないどもに押し付ける。
核は人体にするすると潜っていった。
「さぁ、呼びなさい。私の名を」
怠惰のカースドヒューマンと化した人々の前で、女性は言葉をはっする。
カースドヒューマン達は口を開いた。それは最初は呻き声にしか聞こえないが、だんだんと大きくなっていく。
「バ…………・ペ………………」
「バ…ル・ペ………オ、」
「バアル・ペ………オ、」
「バアル・ペオル……」
「バアル・ペオル…………!」
「バアル・ペオル……!」
「バアル・ペオル!」
「バアル・ペオル!!」
「バアル・ペオル!!!」
その合唱に包まれながら、「バアル・ペオル」は満足そうに笑みを浮かべた。
「ふふ、退屈しのぎにはなったわ。また遊びましょう」
バアル・ペオルは僕となったものたちの前から去った。
「拒否する権利はない。あなたたち人類(家畜)は一人のこらず全てこの財前時子(バアル・ペオル)の玩具なのよ」
こうしてバアル・ペオルの日常は過ぎ去る。
どこまでも自分勝手で、果てしなく自堕落な、財前時子の時は過ぎていく。
乙ー、ライラさんアイドルヒーロー加入ですかー
仮面ライラーはないww
ではでは投下しまーす
時系列的には文化祭2日目
美穂誕生日よりも前の話になります
奇しくもこちらもアイドルヒーロースカウトのお話。
美穂ちゃんもついにアイドルヒーローに
財前時子/バアル・ペオル
初代怠惰の悪魔にして元神様。自分の持つ力は他の神様とサタンにほとんど奪われているが、地上に潜む怠惰のカースの核を食らうことで少しずつ魔翌力を取り戻している。現在は怠惰のカースの制作ぐらいはできる。非常に身勝手な性格で、人の涙や悲鳴が大好物。自分を満たすために他人を不幸にすることに躊躇しない。彼女は今もどこかで怠惰のカースをばらまき人々を恐怖に貶めている。
崇拝者
バアル・ペオルによってカースドヒューマンにされた人間のこと。役割は「バアル・ペオルを称える歌を歌うこと」それ以外はなにもしない。生きるための行動すらしなくなるため、彼らの寿命は短い。
ここまでです。
乙ですー、
投下中に割り込んじゃって本当申し訳ない
書き込み前に更新はちゃんとするべきでしたね、本当スンマセン
時子さん称えてきます
やはり時子さんはSでございますね
初代組では積極的に悪事を働く珍しいタイプ
はい、では投下します
いや、下手な事して申し訳なかった
改めて時系列的には文化祭2日目でございます
美穂「……」 ソワソワソワ
美穂「……大丈夫だよね?」
行列に並びながら、少女は不安そうに体を揺らしている。
美穂「……」 ソワソワ
美穂「本当に大丈夫かな?」
心配なのだ。この場所に居る居候の鬼の少女のことが、
美穂「肇ちゃん、お仕事失敗して落ち込んでたりとか……」
美穂「お客さんから心無いことを言われて泣いちゃったりとか……」
美穂「うぅ、心配だよ……」
いささか心配しすぎであるように見えるが。
美穂は昨日、肇と交わしたやりとりを思い出す。
――
文化祭1日目が終わり、自分達の催し物の片づけを終えると、
美穂は、同じく文化祭に来ている肇の事を待っていた。
帰る場所は一緒。せっかくだから一緒に帰ろうと約束していたのだ。
しばらく待っていると、仕事を終えた肇が待ち合わせ場所までやってくる。
美穂「お疲れ様。肇ちゃん、お仕事どうだった?」
肇「……行列が……行列が……」
美穂「は、肇ちゃん、大丈夫?」
空ろな目で呟く少女が心配で声を掛ける。
肇「だ、大丈夫ですにゃ、お嬢様」
肇「あ、じゃなくって大丈夫です美穂さん……本当に……」
美穂「……肇ちゃん」
とても大丈夫そうではなかった。
その後の道すがらも会話は少なく、
家に到着するやいなや、肇は倒れるように眠り込んでしまうのだった。
美穂「……」
肇が「お仕事が決まりました」と喜んで、美穂に報告したのがほんの数日前の事。
まだ慣れぬ仕事場は、どうやら凄まじく忙しかったらしく、鬼の少女は疲労困憊であったのだろう。
――
美穂「……」 ソワソワ
と、まあそのような経緯があったために、
美穂はクラスの催し物の方を友人達に任せて、
肇の様子を見に来たのだった。
「お帰りなさいませにゃ。お嬢様!」
美穂「ひゃ、ひゃい!」
ネコミミのメイドさんに声を掛けられる。
どうやら美穂の順番が回ってきたようだ。
「お席までご案内しますにゃ」
美穂「お、お願いします」
ネコミミメイドに案内されて、空いている席まで連れられていく美穂。
その途中で、
「おや?」
美穂「……あっ」
美穂は知り合いと出会うこととなる。
シロクマP「やあ、こんにちは。ひなたん星人ちゃん」
窓際のとある席。
座っていたのは一匹の熊。
スーツを着込む一匹の白熊であった。
美穂「シロクマさんっ!?」
美穂「ど、どうしてここに?」
シロクマP「んー、普通にお仕事だよ?」
シロクマP「同盟もこの文化祭には忙しなく動いてるからねえ、色々と」
美穂の疑問に、熊はサラリと答える。
美穂(忙しなく動いてる割には……)
とても暇そうに見える。
シロクマP「あ、みくちゃん」
シロクマP「この子、わたしと合席でいいから」
みく「えっ……うーん、そうしてもらえるならみくは助かるけれど」
みくと呼ばれたネコミミのメイドが答える。
何せ、現在エトランゼ店内はほぼ満席なので、
少しでも席を詰めて座ってもらえるなら、ありがたい話である。
美穂「は、はい。私も大丈夫です」
みく「……それなら、こちらのお席にどうぞにゃ♪」
ネコミミのメイドは、美穂が座りやすいようにシロクマPの向かいの椅子を引いた。
軽く頭を下げながら、いそいそと美穂は席に座る。
みく「ご注文が決まったら呼んでほしいのにゃ、お嬢様♪」
美穂「わ、わかりました」
美穂の案内を終えると、
みくは忙しそうに次のご主人様とお嬢様のところに向かうのだった。
シロクマP「なんでも頼んじゃってね」
シロクマP「わたしが出すから」
美穂「そ、そんな悪いです!」
シロクマP「あはは、気にしなくていいよ。どうせ経費で落すし」
美穂「えっ、いいんですか?それ?」
シロクマP「これもお仕事だからね」
何故か、キリッとした顔で白熊は答える。
「お仕事」が随分と軽く便利なワードのように聞こえた。
しかしまあそれならば、と美穂は適当な食事を注文するのだった。
美穂「……あの、『はじめまして』になるんですよね?」
とりあえず、真っ先に疑問に思っていた事を美穂は尋ねた。
シロクマP「うん、そうだね」
シロクマP「わたしはひなたん星人ちゃん……っと、美穂ちゃんって呼んだほうがいいかな」
シロクマP「美穂ちゃんとは初対面だよ」
美穂「……」
美穂の友人の持つ能力を巡り、奔走したあの事件。
シロクマPにも美穂は助けてもらったのだが、当人はあの事件の事を覚えていないらしい。
シロクマP「とは言っても、亜里沙先生から何があったかはだいたい聞いてわかってるからさ」
シロクマP「気にせずに話してもらって構わないよ」
美穂「でしたら……あ、あのっ!ありがとうございましたっ!」
美穂「シロクマさんが亜里沙先生を呼んでくれていなかったら私……」
シロクマP「あはは、いいよいいよ」
シロクマP「それだって言ってみればお仕事の一環だったしね」
美穂「シロクマさん…」
シロクマP(まあ……そもそもあの事件を引き起こしたのは、亜里沙先生なんだから本人の差し金なんだろうけど)
シロクマP(その”わたし”が亜里沙先生を助っ人に呼んだのも、大方ウサギの知らせがあっての事なんだろうなぁ)
などと、しみじみ白熊は亜里沙から聞いていた話を思い返すのだった。
美穂「……亜里沙先生は今日はご一緒じゃないんですね?」
シロクマP「まあね、いつも一緒に行動してるってわけじゃないからさ」
シロクマP「わたしにはわたしの仕事が、先生には先生の仕事があるしね」
美穂「先生のお仕事ですか?」
確か、亜里沙先生は『ヒーロー応援委員』と名乗っていたはずだ。
シロクマP「うん、今もどこかのヒーロー達の為に動いてるみたいだよ」
シロクマP「ただ、あの人もなんだか自由にやってるみたいでさ」
シロクマP「同盟の上の言う事も聞く気があるんだか、ないんだか」
本日、この場には居ない亜里沙先生の噂話を少々。
シロクマP「って、ちょっと愚痴っぽくなっちゃったね。ごめんね?」
美穂「い、いえ!お気になさらず!」
その後も、世間話が続く。
同盟の活動の話だとか、世間で起きている事件の話だとか、
テレビでもよく流れる話を聞きながら、美穂は相槌を打つ。
シロクマP「この学園祭にもカースが現われたりしてるみたいでさ」
シロクマP「呼べるヒーロー達は呼んでいて……」
美穂「なるほど、だからシロクマさんもここに……」
学園祭の話に、お仕事の話。
広い学園での出来事であるため、美穂はカース騒ぎの事を詳しくは知らなかったが、
どうやらヒーロー達が動いてくれているらしく、あまり心配の必要はないらしい。
だが、もし襲われたときには、自衛もしなければならないだろう。
美穂(クラスのみんなや肇ちゃんを守るためにも……私も頑張らなきゃ)
シロクマP「あ、ところでさ」
そんな枕詞を置いて、話は変わる。
シロクマP「美穂ちゃんは、どうしてアイドルヒーローを目指してるのかな?」
美穂「それですか?えっとですね……」
美穂「テレビで見る菜々ちゃんやセイラさんに憧れてて……」
美穂(……はっ!)
話しかけて美穂は気づく。
美穂(こ、これっても、もももしかして)
世間話から、話の内容は美穂自身のことに変わっていた。
それも、アイドルヒーローを目指す理由について。
アイドルヒーロー同盟のプロデューサーが、そんな事を聞くとすれば、
目的は一つだろう。
シロクマP「憧れて、かぁ……なるほどねぇ」
美穂「あ、あのっ!ししシロクマさんっ、ここれって!」
シロクマP「はい、お水」
美穂「あ、すすみません、おっ、落ち着きます…!」
少し興奮しかけたところに、目の前に置かれていたコップを手渡される。
それを受け取りごくごくと飲んで、気持ちを落ち着かせようとする。
美穂「ふ、ふぅ……あ、あのすみません」
シロクマP「いやいや、突然こんな話を振っちゃったからかな。ははは」
これは失敬した、と言った感じにシロクマPは笑う。
美穂「えと、シロクマさん。それでこのお話ってやっぱり…」
水を飲んで少し落ち着けたつもりだが、やはり気持ちははやる。
少女の夢が叶う糸口か、すぐ目の前にあるのだから。
シロクマP「うん、まあ美穂ちゃんの想像通り」
シロクマP「”スカウト”みたいなものだと思ってもらってもいいのかな」
美穂「……!」
思わず息を呑む。
心臓がばくばくと動き始めたのが自分でもわかった。
シロクマP「地域を守る為に精力的に活動している、ひなたん星人ちゃん」
シロクマP「アイドルヒーローとしては是非に欲しい人材だね」
美穂「え、えええと!そそそのっ!」
興奮で顔も熱くなってきた、言葉もしっかりと紡げそうにはない。
シロクマP「ただね」
シロクマP「わたしは、美穂ちゃんの事はよく考えたいんだ」
美穂「えっ?」
よく考えたい?
それは、どう言うことだろう?
シロクマP「わたしは”ひなたん星人”ちゃんの事はそれなりに知っているんだけど」
シロクマP「”美穂ちゃん”の事はほとんど知らないよね?」
美穂「……」
少しだけ頭が冷えてきた。その言葉の意味をしっかりと考える。
世間には、カースを狩るヒーロー”ひなたん星人”の事はそこそこに知られている。
だがきっと、”ひなたん星人”を演じる”小日向美穂”のその素顔を知る人間は少ないだろう。
彼女がヒーローであるときと、そうでないとき。その人格はガラリと変わってしまうためだ。
シロクマP「だからさぁ、せっかくこうやって会えたし」
シロクマP「わたしは”美穂ちゃん”自身の事を色々と聞きたいなって」
美穂「……」
少女は判断する。
なるほど、これはたぶん、俗に言うところの
美穂(め、面接…なのかな)
そう思うと、緊張してきたが、
美穂「は、はいっ!ななんでも聞いてくださいっ!」
少女は力強く答えた。
シロクマP「あはは、いいね。頼もしい返事」
シロクマP「だけどそんなに構えなくてもいいよ、面接ってわけじゃないんだし自然体でさ」
美穂「えっ、は、はいっ!」
美穂の考えはあっさりと否定されたが、やはり緊張はとれそうにはなかった。
シロクマP「……そだね、菜々ちゃんやセイラちゃんに憧れてって言ってたね」
シロクマP「菜々ちゃんは……一応は同世代だからかな?」
美穂「……えっ?一応は?」
シロクマP「あ…あはは、気にしない気にしない!」
何故か慌てるシロクマP。何か失言だったのだろうか。
しかし、うろたえる姿はどこか可愛くほんの少し美穂の緊張がやわらぐ。
美穂「そうですね……確かに私と同じ17歳だからと言うのもありますね」
シロクマP「う、うん。そ、そっか」
美穂「……」
改めて、ラビッツムーンこと安部菜々に憧れる理由を少しだけ考えて、
少女は語り始めた。
美穂「菜々ちゃんっていつも明るいですよね」
美穂「テレビで見る菜々ちゃんはどんな時でも明るく元気に振舞ってて」
美穂「その様子が、本当に心の底からアイドルをやる事もヒーローである事も楽しんでるみたいでした」
テレビの中の憧れのヒーローの姿は可愛くて、強くて、
そして何よりも、楽しそうだった。
シロクマP「……そうかい、楽しそうだから憧れた?」
美穂「はい…でも」
美穂「絶対に楽しい事ばかりなんて事はないはずですよね」
シロクマP「うん、そうだね」
美穂「テレビで見てるだけだと……すぐにはわからなかった事なんですけれど」
美穂「アイドルヒーローについてちょっと考えれば、誰でも気づけると思うんです」
美穂「その明るさの影には、色んな悲しみや痛みを背負ってることに……」
シロクマP「だね。アイドルヒーローだって、心があって感情がある人間だもの」
シロクマP「わたしや美穂ちゃんと同じでさ、彼女達にも彼女達の苦悩があるよ」
ヒーローは、どんな苦難を前にしても民衆に笑顔を見せる。
まるで「こんな事は何でもないことだから、安心して欲しい」と言うかのように。
人々はその顔に安心する。ヒーローの勇姿に「ああ、きっと大丈夫」だと、希望を受け取る。
けれど、きっとみんなわかっている。何でもないことな訳がないはずだと。
本当は、ヒーローたちだって苦しい時は苦しいはずなのだ。
美穂「だからカッコイイんですよね」
美穂「その心の強さが、カッコよくてアイドルヒーローに憧れちゃいました」
美穂「中でも菜々ちゃんは、特に可愛くてかっこよくて」
美穂「誰よりも明るいから、素敵だなって」
彼女の明るさは、その裏の苦悩など微塵も感じさせはしない。
そして、その明るさが人々に希望を振りまく。
美穂「風邪をひいちゃって心細い時でも」
美穂「友達と喧嘩しちゃって寂しい時でも」
美穂「テレビに映る菜々ちゃんの明るさを見てると」
美穂「勇気がもらえるみたいで…私もまた明日から頑張れるかなって思うんです」
美穂「私もそんな風に強くなって、誰かに希望を届けることが出来るなら」
美穂「どれだけ素敵な事かなって、本当に本当に今でもそう思います」
シロクマP「……そっか」
少女の熱い思いを聞いて、シロクマPは微笑む。
シロクマP「美穂ちゃんみたいに思ってくれるファンが居てくれて、」
シロクマP「菜々ちゃんはきっと嬉しいんじゃないかな」
美穂「そうだとしたら私も嬉しいです」
少女も同じ様に微笑んだ。
シロクマP「それじゃあセイラちゃんについても、似たようなところかな?」
美穂「そうですね…セイラさんも明るいですけど、どこかクールですよね」
美穂「どんなお仕事でもサラッとこなしちゃいそうで」
美穂「失敗する姿なんか想像できなくて、そこがカッコいいなって」
シロクマP「……」
美穂「?」
ほんの少しだけシロクマPの顔が険しくなっているような気がした。
シロクマP「……ん?……あ、ごめんね」
顔を覗かれていることに気づき、シロクマPは慌てて顔つきを元に戻す。
美穂「い、いえ…あの?もしかして私変な事言っちゃいました…?」
心配で尋ねてみる。
シロクマP「ははは。いや、そうじゃないんだよ」
シロクマP「ただね……うん、ただ…」
シロクマP「……わたしはさ、セイラちゃんのプロデューサーだったって聞いてるかな?」
美穂「はい、えっと……シロクマさん自身から」
シロクマPは覚えていないが、美穂はその事を彼自身から一度聞いている。
シロクマP「恥ずかしい話、彼女がやめちゃったからさ」
シロクマP「わたしの評価結構…いやかなり下がったんだよね」
美穂「……あっ」
アイドルヒーロー同盟は、予算の決定の為に定期的にプロダクションの評価を行っている。
所属するヒーローが活躍すればするほど、予算は鰻登り。プロダクションもヒーロー活動に力を入れると言う訳だ。
しかし、逆に人気アイドルヒーローが突然やめてしまうなんて事があればどうなるか。
シロクマP「ふふっ、恨んでるとかはもちろん無いけれど」
シロクマP「ちょっと複雑な気分だったから、それが顔に出ちゃったのかな?」
美穂(あ…あわわわ…)
とんでもない地雷を踏んでしまったのかもしれないと、少女は慌てるのだった。
美穂「あ、あああの!すすすすみませんっ?!」
あたふたしながらも、美穂は頭を下げる。
シロクマP「ん?美穂ちゃんが謝ることじゃないよ?セイラちゃんの話を振ったのはわたしだし」
シロクマP「彼女がアイドルヒーローをやめた事だってわたしの…プロデューサーの責任なんだから」
美穂「うっ…そ、その…すみません…」
シロクマP「……」
俯きながら、視線だけあげて美穂はシロクマPの顔を伺う。
美穂(怒っては…いないのかな?)
水木聖來がアイドルヒーローをやめてしまった理由を美穂は知らないが。
だが、やめてしまったのならシロクマPとの間には、何か悶着があったはずだろう。
憧れのセイラさんの話をする前に、その事をちゃんと考えておけば…と反省する。
シロクマPは窓の外を眺めながら、遠くを見つめているようだ。
昔の事を思い返すように。
シロクマP「ねえ、美穂ちゃん」
美穂「ひゃ、ひゃいっ!?」
なおも窓も外の方を向きながら、不意にシロクマPは美穂に呼びかけた。
慌てて顔を上げて返事を返す。
シロクマP「美穂ちゃんには大切な物ってどれだけあるかな?」
美穂「…大切な…物ですか?」
シロクマP「うん、なんでもいいよ?」
シロクマP「家族に、友達に、恋人に、夢に、目標」
シロクマP「大切にしたいもの、譲れない思い」
シロクマP「どんなものでもね」
美穂「私の大切なもの……」
少女は思い浮かべる。
これまでに出会った人たちの事。その人たちとの思い出。そして自分の夢。
大切なものは数え切れないほどあった。
シロクマP「その中でさ、もし1つしか選べないとしたら」
シロクマP「美穂ちゃんならどれを選ぶ?」
美穂「えっ?」
白熊は、真面目な目を向けて、そんな質問を少女に投げかける。
シロクマP「あっ、あまり深刻に考えなくてもいいよ。心理テストみたいなものだし」
美穂「う、うーん……」
そうは言うが、質問の内容が内容だけに少し真剣に考えてしまう。
美穂「……どうしても1つだけなんですか?」
シロクマP「ふふっ、どうしてもって言うなら2つ選んでもいいよ?」
シロクマP「でも全部は選べない。何かは切り捨てなくちゃいけないとしたら?」
美穂「うっ、うーん……?」
選んでいいものが2つに増えたが、ますます難しくなった気がする。
美穂「……」
悩みに悩んだが、
美穂「……すみません……選べないです」
出した答えは選択しないこと。
美穂「どれも私にとってはかけがえのないもので……」
美穂「家族も友達も夢も大切にしたいです……」
シロクマP「なるほど、欲張りさんだね」
美穂「す、すみません。で、でも欲張りたいです!」
謝りつつもそこは強く言い切った。だって少女には、切り捨てていいものなんて本当に1つもなかったのだから。
美穂「シロクマさん、この質問にはどんな意味が…?」
不思議な心理テストの意図を少女は尋ねる。
この心理テストを通してこの人が伝えたい事が必ずある、と美穂は考えた。
シロクマP「わたしが言いたかったのはね、人生は選択の連続だってことかな」
美穂「選択の連続?」
シロクマP「そっ」
シロクマP「どんな時でも、君の人生の前には選択肢が山ほどある」
シロクマP「そしてどんな時でも選べる道は1つだけって事だよ」
シロクマP「……」
シロクマP「まあ、単刀直入に言っちゃえば」
シロクマP「アイドル」
シロクマP「ヒーロー」
シロクマP「学業」
シロクマP「美穂ちゃん、これ全部できる?」
美穂「えっ……あっ」
尋ねられてから気づく。”選択”の意味を。
それは、今まさに美穂がしなければいけない人生の選択の話。
シロクマP「アイドルヒーローってさ、折れる骨が何本あっても足りないくらい大変で、とにかく忙しくってね」
シロクマP「アイドルとヒーローの両立ってだけでも忙しいのに、学校に通って勉強もする気ならなおさらだよ?」
シロクマP「もちろん友達と過ごす暇なんてほとんどないね」
美穂「そ、そのぉ……」
現在、美穂は学校に通いながら、ヒーロー”ひなたん星人”として活動している。
なので、一応は『学業』と『ヒーロー』の両立はできているのだが。
それだって自分の好きなように活動できる『フリーのヒーロー』だから続けられている事であり、
『アイドルヒーロー』ともなれば、その忙しさは『フリーのヒーロー』とは桁違いであろう。
美穂「う、うぅ……」
色々と、アイドルヒーロー活動に夢を思い描いていたが。
『時間』と言うあまりに現実的な問題が圧し掛かる。
シロクマP「わたしはね、君が”友達との日常”を取り戻すために戦ったのを知ってるよ」
シロクマP「だから、美穂ちゃんはきっと”今の日常”も捨てたくないんじゃないかな。とも思ってる」
美穂「……」
今の日常。何気なく友達と話したり遊びに行ったりする日々。
果たしてアイドルヒーローとして活動をはじめたら、これまでと同じ様に友人達との日常を過ごせるだろうか。
いや、きっとできない。できたとしても、それは相当な無茶なのだろう。
今ならば美穂にも、シロクマPが「よく考えたい」と言った理由が分かる。
シロクマP「だから選択なんだ」
シロクマP「これからアイドルヒーローとして活動するか、しないのか」
そう言って、シロクマP二本の指を器用に立てたVサインを美穂に見せた。
それが現すのはどちらかしか選べない2つの道。
美穂「…………」
少女は悩む。
目の前に指し示されたアイドルヒーローの道。夢が叶うチャンス。
美穂「………………」
悩む。悩む。
でもきっとアイドルヒーローをはじめたら、とても忙しくなる。
これまで同様に気軽に友人とは遊べないだろう。
美穂「…………………………」
悩んで悩んで。
美穂「あ、あのっ」
シロクマP「答えを聞く前に幾つか言わせてもらっていい?」
美穂「…は、はいっ」
美穂が答えを出そうとしたタイミングを狙い済ましたかのように、
シロクマPは言葉を遮ったのだった。
シロクマP「『選択する』って言うのはね。何かを選び取った結果、何かを犠牲にするってことでさ」
シロクマP「それは美穂ちゃんがさっき語ってくれた理想のヒーロー像にも当てはまる話でもあるんだ」
美穂「私の理想のヒーロー像…」
シロクマP「そう、”どんなに苦しくても我慢して笑顔でみんなに希望を届けられる”」
シロクマP「そんな素敵だけど、とても過酷なヒーロー像のこと」
美穂「……」
素敵だけど過酷。少女の可憐な夢には、シビアな痛みが伴う。
シロクマP「わたしは誰かの為に生きられる事って尊い事だと思うよ」
シロクマP「だけどその為に自分が苦しい時に我慢する必要なんて無いとも思う」
シロクマP「生きていれば色んな局面で選択を強いられると思うけど」
シロクマP「もし選択肢に『自分』があった時は、真っ先に『自分』を大切にしてあげなさいね?」
美穂「……はい」
美穂「だけど、もし私が苦しいことから逃げたら…私の周りの大切な誰かがその苦しさを代わりに受け止めるのだとしたら」
美穂「私はきっと過酷な道を選んじゃうんだと思います」
シロクマP「ふふっ、君は優しい子だね」
シロクマP「だけど、覚えておくといい。君自身も誰かの大切なんだからね?」
美穂「……覚えておきます」
自分を大切にしろ。自分を捨てるような選択はするな。
もし、美穂が「アイドルヒーロー」になると言う道を選ぶとして、
それは誰かのための選択ではなく、自分のための選択であるべきなのだと。
きっと、そう言う事を伝えたかったのだろう。
シロクマP「それと、決断するのはさ。別に今じゃなくてもいいんだよ?」
美穂「えっ?」
シロクマP「人生思い立ったらすぐ実行。なんて言うけれどさ」
シロクマP「わたしとしては悩めるうちは、たくさん悩んでおいたほうがいいと思う」
シロクマP「君はまだ若いんだからさ、悩める時間は充分にあるよ」
シロクマP「だったら焦っちゃう事はない」
美穂「……大切な事だから時間をかけて…よく考えてから答えをだすべき。って事ですか?」
シロクマP「そ。せっかく選べる選択肢があるなら、選択の幅を今すぐに狭めちゃうことはないしさ」
シロクマP「他にもやりたい事やっておきたい事もたくさんあるんじゃない?そうだね…恋とかにも興味が沸いちゃう年頃でしょ?」
美穂「恋……えっ、こ、恋なんて」
まったく興味が無いと言えば嘘になるだろう。年頃の少女なのだから、ロマンスに憧れる事だってある。
美穂「う、うぅ…」
想像するとなんだか恥ずかしくなってきた。
シロクマP「はっはっは」
シロクマP「まあ、とにかく今はあえて答えは聞かないよ」
美穂「結論は……保留ですか?」
シロクマP「だね。その方が美穂ちゃんにはいいんじゃないかなってわたしは思ってた」
美穂「シロクマさんはいいんでしょうか?」
美穂「その…シロクマさんにとっては、あまり特にはならない事じゃないかなって思うんですけれど……」
シロクマP「そうだねえ、本当ならイイ感じに言いくるめちゃって」
シロクマP「すぐにでもアイドルヒーローをやってもらうのがわたしにとってはベストな選択なのかもしれないけれど……」
シロクマP「……ま、いいんじゃない?1人くらい適当に仕事してるプロデューサーが居たってさ」
シロクマP「今更評価が下がるって訳でもないし、今ある仕事だけでも結構食べていけるしね」
シロクマP「だから私の事は気にしなくてもいいよ」
フリフリと手を振るジェスチャー。やはりその仕種は何処か可愛い。
シロクマP「とにかくしばらくの間はさ、自分の道の事をよく考えてみてよ」
美穂「……はいっ」
美穂「……自分の道をよく考えて……う、うーん……」
美穂「なんだか難しいですね」
進むべき道、将来の事。
自分自身の事だけれど、考えれば考えるほどに色んな事を迷ってしまう。
シロクマP「色んな人たちに話を聞いてみるといいんじゃないかな」
シロクマP「ご両親とか、お友達とか」
シロクマP「うん。特にご両親にはね。ほら、ヒーローって危険な職業だからさ」
美穂「……そうですよね。たくさん相談してみます、色んな人たちに」
シロクマP「とは言え、美穂ちゃんの人生は美穂ちゃんのもの」
シロクマP「アイドルヒーローになりたくて、居ても立っても居られなくなったなら」
シロクマP「わたしはいつでも歓迎しちゃうよ」
美穂「?」
そう言いながらスッと何かが手渡された。
それは熊の顔の形に切り取られたカードの様な紙切れ。
そこにはシロクマPの名前と、諸々の連絡先が書かれている。
美穂「名刺……ふふっ、かわいい形ですね」
シロクマP「キャラクターを売りにできるのがわたしの強みだからね」
得意げに白熊は言う。周りの目を引いてしまう見た目も白熊Pにとっては1つの武器なのだろう。
シロクマP「美穂ちゃんが、アイドルヒーローとして活動するしないに関わらず」
シロクマP「困った事があればさ、いつでも気軽に連絡してくれればいいから」
美穂「シロクマさん……ありがとうございます!」
深々とお辞儀して、お礼を言った。
シロクマP「あっ、そうだ」
思い出したようにポケットから、またも紙切れを1枚取り出す。
シロクマP「説教じみたお話をしちゃったけど、最後まで聞いてくれたお礼にこれも渡しておこうかな」
美穂「い、いえ!私も色んなこと考えなきゃって思えたのでっ!そのっ、本当にありがとうございますっ!」
美穂「これは……チケットですか?」
シロクマP「うん、それがあればこの学園祭でのステージで行われるイベントは全部いい場所で見れちゃうよ」
美穂「えっ?」
シロクマP「関係者特権みたいなものかな、たしかRISAのステージもあったはず…」
美穂「り、RISAのステージも!?」
美穂「えっ、ええぇっ?!い、いいんですかっ!こ、こんなの貰っちゃってもっ?!!」
シロクマP「構わないよー。美穂ちゃんなら有効活用してくれそうだし。まあ、できるだけ他の人には内緒にしててね」
美穂「わぁあ!シロクマさん!本当に本当にっ!ありがとうございますっ!」
シロクマP「それだけ喜んでもらえるなら何よりかな」
嬉しくて目を輝かせる少女の様子を、白熊は穏やかな目で見つめるのだった。
――
シロクマP「……そう言えば頼んだ料理はまだ来ないのかな?」
美穂「あっ、そうですね。そろそろ席についてから時間も経ちましたし…」
美穂「お店混んじゃってますから、遅くなちゃってるのかも」
丁度その時、2人の座る机に向かってメイドが料理を運んでくる。
シロクマP「っと、噂をしていたら来たみたいだね」
美穂「本当ですか?あっ!」
肇「え、えっと……お、おお待たせいたしました。お、お嬢様」
美穂の目を向けた先には、
和風のメイド服に身を包んだ鬼の少女が顔を赤くして、立っていた。
肇「うぅ…美穂さん、見に来られるなら来ると事前に言ってくれていれば……」
どうやら、美穂にその姿を見られるのが恥ずかしいようで、
もじもじとしながら、小さな声で不服を申し立てるのだった。
美穂「……かわいい」
肇「へ?」
美穂「かわいいよ、肇ちゃん!すっごく!」
肇「あ、あの美穂さんっ!?」
同居人のその愛らしい姿に思わず、その手を取ってしまう美穂。
肇「え、えっと……」
その行為に鬼の少女はますます顔を赤くする。
シロクマP「……お熱いね?」
美穂「えっ?……はっ!こ、これは違います!」
肇「い、いえ!そ、そう言う関係ではなくってですね!」
慌てて手を放し、左右に手を振る2人。
ほとんど同時に同じ仕種をする。
シロクマP「あはは、仲が良いのはよく分かったよ」
美穂「うぅ……」
からかう様なシロクマPの言葉に、美穂もまた顔を赤くするのだった。
シロクマP「肇ちゃんだっけ?」
肇「は、はい?」
突然、シロクマPが肇に話を振る。
シロクマP「アイドルとかやってみる気ない?」
肇「えっ?」
美穂「えっ?!」
美穂「は、肇ちゃんもスカウトするんですか!?」
シロクマP「ははっ、だってこんなに可愛いしさ?」
美穂「それはその……た、確かにすっごく可愛いですけれど」
とは言え、私は保留だったのに?と言う気持ちもちょっぴりある。
肇「えっ、えっと、そ、その…こ、困ります」
シロクマP「そう?残念」
美穂「……ほっ」
なので、肇の答えにほんの少し安心してしまうのだった。
美穂(あ、でも……肇ちゃんとコンビでヒーローって言うのもいいのかも)
コンビやユニットを組んでいるアイドルヒーローは珍しくはない。
憧れのラビッツムーンだって、ナチュラル・ラヴァースと言う相方的存在が居るのだし…。
美穂「うん、それもアリなのかな」
肇「あの…美穂さん、よく分からないですけど考え直してください」
――
美穂(アイドルヒーロー……かぁ)
本日の出会いを受けて、
少女は再び、頭の中でその存在について考える。
アイドルヒーロー。
歌って踊って戦える女の子の憧れ。
蝶のように可憐に舞い、重機関砲のように豪快に敵を討つ。
その愛らしい勇姿に、誰もが好感を抱き、勇気を貰う。
この時代における人々の希望の象徴。
そんな希望の象徴と並び立つのが少女の夢。
シビアで過酷な痛みを伴う、とても素敵な夢。
美穂(私にとって何が一番大切で、何を選びとりたいのか)
美穂(ちゃんとよく考えなきゃ)
少女の夢は今にも届きそうだったけれど、
その答えは一時保留。
彼女が決断するのは、まだまだ先のお話。
おしまい
『特別チケット』
ステージイベント関係者に配られるチケット。
持ってるだけで学園祭でのステージを全て特等席で見られるとか言う垂涎の一品。
そのためオークションに出品されてることもままあるとか。
と言う訳で
美穂ちゃん、アイドルヒーローに…ならないお話。
これからはわからないけれど
しばらくはアイドルヒーローオタクのフリーのヒーローのままかなって思います
みくちゃん菜々さんお借りしましたー
割り込み本当申し訳なかったです
乙です。
和風メイド肇かわいい(小並感)
美穂の決断はまだ先か……
割り込みの事は気にしないでください。
お二人とも乙です
時子さまが新年早々暴れてらっしゃる…
力は奪われていても大惨事じゃないですかやだー
そうですよね、菜々さんは年が近いですよネ(棒)
決断はいつになるやら…
お二方乙ー
時子さま大暴れじゃないですか!いやだー
こわいわ
美穂ちゃんアイドルヒーロー保留かー
どんな選択を選ぶのが楽しみですね
お二方乙でしたー
バアル・ペオル怠惰どころか大暴れやないですかやだー!
しかも初代大罪組で一番活動してるし……怠惰って何だっけ(遠い目)
揺れ動く美穂ちゃん、決断はどうなりますかね
ところで美穂ちゃんと肇ちゃんはこれもうキマシ塔建ててませんか? てか建ててますよね?(歓喜)
学園祭初日終了時系列で投下します
京華学園内、保健室前の廊下。
若神P「それっ」
若神Pの投げた光輪が泥を掻き分け、カースの核を両断した。
『ギェエエエエエエ!!』
そして、カースの体がドロドロと崩れ去っていく。
先ほどから降り注ぐカースの雨、それに伴うカースの大量発生。
さらに、一部の小型な個体は校舎の中にまで入り込んでいた。
若神P「ふう……」
最も、小型な物はそう脅威でも無いので、若神Pの様に校舎内の能力者達でも対処出来ているが。
ふと、窓の外を見やる。
「ぴっちぴっち♪」
『ちゃっプちゃっぷ♪』
『「らんらんらん!」』
兎に似た巨大な獣が幼い少女を背に乗せ、カースを次々と屠っていく光景が目に映った。
若神P「…………」
この世のものならざる不可思議な気配もさることながら、その圧倒的な光景に、若神Pは思わず言葉を失う。
若神P「……雰囲気というか、気配はカースみたいだね。普通のカースとは、だいぶ違うみたいだけど……」
まあ、人を襲っているわけではないようだし、そっとしておこう。
みりあ「……あれ、若神Pさん?」
保健室の戸を開け、みりあが姿を現した。
若神P「あ、みりあちゃん! もう体は平気なの?」
みりあ「うん、もうすっかり元気だよ!」
若神P「…………良がっだぁぁぁ……」
みりあの笑顔を見た瞬間、若神Pは膝から崩れ落ちるようにみりあに抱きついた。
みりあ「ひゃっ!? ちょ、ちょっと若神Pさん!?」
若神P「本当良かった……一時はどうなることかと……グズッ」
みりあからは見えないが、若神Pは顔をクシャクシャにして泣いていた。
みりあ「あ、あの……若神Pさん……あの……?」
その時、若神Pの肩をトントンと叩く手があった。
みりあの物ではない。みりあの両手は、若神Pの背中に回されている。
不審に思った若神Pが涙を拭って振り向くと、そこには。
早苗「Hey」
小柄で童顔でついでに巨乳な婦警さんが、警棒を片手に立っていた。
若神P「Oh」
――――――――――――
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――――――――
――――――――――――
早苗「……ああ、ご家族だったのね。ごめんね、女子小学生に抱きつく変質者がいると思ってつい」
婦警さん……早苗はそう言ってケラケラと笑った。
若神P「笑い事じゃないと思いますけど……」
若神Pが正座させられたまま苦言を呈す。
神となってまだ日が浅いとはいえ、まさか人間に正座させられる日が来るとは。
早苗「若い子が細かいコト気にするんじゃないの。……おぉっと、あたしだってまだ若いわよ!?」
若神P「聞いてません……」
早苗の一人ノリツッコミに、若神Pは力なく言い返した。
早苗「あはははっ。……っと、どうやら雨も止んでるみたいね」
みりあ「あ、ほんとだ」
三人が外を見ると、カースの雨はすっかり止み、辺り一帯も静かになっている。
若神P「カースもいなくなったみたいですね」
早苗「よし、じゃあ今のうちに帰りましょう。お姉さんが避難誘導してあげるから」
元々そのための緊急出動だし、と続けた早苗は、正門の方へ向けて歩を進めていった。
早苗の後に続いて、若神Pとみりあも校舎の外へと出た。
外には学園を出る人々に交じり、早苗と同じく緊急出動してきた警官達が目立った。
しかし被害が想定より小さかったようで、そこまで緊迫した雰囲気ではない。
その内、一人の警官がこちらに駆け足で近づいてきた。
警官「片桐先輩! 校内に残っていた人は……」
早苗「うん、こちらのご兄妹だけよ。この子らはあたしに任せて、あんたはそっち」
警官「はい!」
警官はまた駆け足で元の位置に戻り、人々をゆっくり誘導していった。
警官「さあ、足元に気をつけて」
隊長「あ、ああ……すまない。C、立てるか?」
隊員C「へ、平気です……」
早苗「……若神P君、だったわね」
若神P「は、はいっ」
突然話しかけられ、若神Pは少し慌てて返事する。
早苗「みりあちゃんの事、しっかり守ってあげるのよ? お兄ちゃんとして、ね」
若神P「は、はい……」
早苗「みりあちゃんも、お兄ちゃんやお母さんと頑張るのよ?」
みりあ「はいっ!」
早苗「うんうん、素直で元気があってよろしい!」
夕日に照らされた早苗の屈託無い笑顔は、二人にはとても素敵な『お姉さん』に見えた。
早苗「……さあて、早いこと仕事済ませてビールしこたま飲みたいわねー」
若神P・みりあ「「…………」」
次に飛び出た早苗の言葉は、二人のそんな思いを無残に粉砕したが。
――――――――――――
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――――――――――――
マキノ「……とんだ災難だったわね」
サヤ「まさかカースが空から降ってくるなんて……」
寝泊りするホテルへの帰り道、マキノとサヤはため息交じりに呟く。
マキノ「あのカースドヒューマンとの戦闘でオクトが損傷しなければ、私も対抗出来たのだけれど」
サヤ「それは言いっこ無しよ。サヤだって病み上がりで戦えなかったもの」
マキノ「…………それもそう、か。なら、今回は二人の落ち度ということで、ね」
サヤ「ええ、それでいいわよぉ♪」
二人は向き合って小さく笑いあった。と、そこに。
『メガネオイテケ!』
『メガネッコダ! メガネッコダロウ!?』
『ナアメガネッコダロオマエ!!』
マキノ「ッ!?」
サヤ「カース!? ……でも、見た事が無いタイプ……」
二人の前に、三体のアンチメガネカースが姿を現した。
マキノのアビストーカーは大きく損傷、自己修復を見込んでも、戦えるようになるまで最低一晩は要るだろう。
サヤはといえばまだ電撃による後遺症で、戦えるほどに体が動かない。
平たく言ってしまえば、絶体絶命である。
マキノ「……サヤ、貴女は逃げなさい」
サヤ「えっ……?」
マキノ「あのカース、先ほどからしきりにメガネメガネと口にしている。……察するに、標的は私一人」
マキノはアンチメガネカースから片時も目を逸らさず、冷静にサヤに語りかける。
マキノ「つまり、私がオトリになれば、少なくとも貴女は無事に逃げられるわ」
サヤ「そんな……出来るわけないじゃない!」
マキノ「ではどうするというの! この状況で、それ以上の手があるとでも!?
私たちの身分上、地上戦力の救援も期待出来ない!」
サヤ「そ、それは……」
『……ナア、アノメガネ……マスクドメガネトオナジニオイダゾ』
『タシカニ……トイウコトハ、ヤツノナカマカ!?』
『ナルホド、ツマリ…………ユー、ウィル、ダァァァァァァァイ!!』
アンチメガネカース達は、マスクドメガネ……上条春菜と接触したマキノを、マスクドメガネの仲間と判断した。
そして一体のアンチメガネカースが、マキノへ鋭い触手を伸ばす。
マキノ「ッ!?」
サヤ「マキノッ!!」
??「ブレイクソウルッ!!」
パァン
アンチメガネカースの触手がマキノを捕らえるよりも早く、見えない何かが触手を吹き飛ばした。
『ウギャア!?』
マキノ「……!?」
『ナ、ナンダナンダ!?』
サヤ「今のって……まさか?」
『ア、アソコダ! アソコニダレカイルゾ!』
二人と三体のアンチメガネカースが、ある一点に目を向ける。そこに立っていたのは、
エマ「アビスマイル、オンッステーーーーーーーーーーージ!!」
二人の仲間であるアビスマイル、エマだった。
マキノ「エマ!?」
サヤ「何でここに……」
エマ「話は後! まずはこいつら片付けないと!」
『グオオ……マスクドメガネノナカマニミカタスルカ……』
『ナラバオマエモタオスゥゥ!!』
『クラエエエエエエエエエエエ!!』
三体のアンチメガネカースが、無数の触手をエマへ伸ばす。
エマ「すぅー……はっ!」
直後、エマの体は地面へと潜り込み、触手は何も無い地面に突き刺さった。
『ナニッ!?』
エマ「こっちだよっ、ブレイクソウルッ!!」
驚くアンチメガネカースの背後からエマが飛び出し、ギターからの音波を連続で浴びせた。
アビスナイトやアビスカルにも搭載されている、固体への潜航機能である。
『ギャアアアアアア!?』
エマ「まだまだ! サウンドビットォ!!」
エマの背から六基のビットが射出され、内三つが地面へ潜った。
残った三つが一体のアンチメガネカースを取り囲むように飛行し、
エマ「それっ!!」
三方向から絶え間なく音波を浴びせ続ける。
音波は泥の体を容赦なく穿ち、やがてレンズ型の核すら震わせ、粉砕した。
『ウグアアアアアアアアアアアア!!』
『トモヨ!? オノレ、ユルサギェエエエエエエ!?』
拳を振り上げたアンチメガネカースが、突然叫び声を挙げた。
地面に潜っていた三基のビットが、音波で泥を、核を震わせながら地上に浮かんできたのだ。
そして、
『ヒイイイイイイイイイイイイイ!!』
耐え切れなくなった核は粉砕され、アンチメガネカースの体は崩れ落ちた。
エマ「さあ、ラスト! アゲていくよっ!!」
『コシャクナァァァァ!!』
残ったアンチメガネカースが、レンズ型の核から光線を乱射した。
エマ「うわわわわっ! ……っと、あっぶな! 二人とも平気!?」
辛うじて光線を回避したエマが、マキノとサヤへ問いかける。
マキノ「ええ、こちらは大丈夫よ」
サヤ「エマ、思いっきりやっちゃって!」
エマ「……オッケー!!」
二人からのサムズアップに、エマも力強いサムズアップで返した。
エマ「行けぇッ、ビットォ!!」
エマの号令で六基のビットが自在に飛び回り、アンチメガネカースに音波を当てては離れてを繰り返していく。
『ヒ、ヒットアンドアウェイトカ……セコイマネヲ……!!』
エマ「そうかな! じゃあトドメは真っ向勝負してあげるよっ!!」
そう言ってエマはギターをジャカジャカと激しく掻き鳴らした。
エマ「もういっちょ! ブレイク、ソウッ!!」
『オボァッ!?』
音波でアンチメガネカース正面の泥が派手に吹き飛び、核がむき出しになった。そこへ、
エマ「どっりゃあああああああ!!!」
エマの強烈な飛び蹴りが直撃し、核は粉々に砕け、アンチメガネカースは雄たけびと共に消え去った。
『グオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
エマ「ふぅー……二人とも、怪我無い?」
『カラララ』
ウェイクアップを解除したエマと戦闘外殻のルカが、マキノとサヤに近づく。
マキノ「……ええ、おかげさまで」
マキノは少し顔を赤らめ、目を逸らしながら答えた。
「自分が犠牲になる」と宣言したものの結局エマに助けられた、そんな格好のつかなさが少し恥ずかしかったのだ。
サヤ「そ、それより。なんでエマがここに? 海底都市の方は大丈夫なの?」
エマ「うん、それなんだけど……隊長に追い出されちゃって」
マキノ「スカルP隊長に? 詳しく教えてもらえないかしら」
エマ「うん。ほんの数時間前の事なんだけど……」
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スカルP「エマ、ガンバッとるの」
エマ「あっ、隊長! ハイ! この資料整理、あと二時間くらいで終わるんで!!」
スカルP「たかだか数十枚にか……不得手にもほどがあるのう、お前」
エマ「うっ……」
スカルP「まあ、ここは手があいとる他のモンにやらせるか。エマ、お主はちょっと地上行って休んどれ」
エマ「へっ?」
スカルP「ほれ、金とアビスドライバーをヨリコ様から預かっとる」
エマ「ちょっ、隊長ストップ! アタシまで地上に行ったら、海底都市の警備は……」
巫女「その心配はいらないわ」
エマ「あ、巫女さん」
巫女「侵入者対策に、彼女……アンダーワールドの傭兵を呼び戻してあるの」
エマ「そうなんだ……でも流石に手薄すぎじゃあ……」
巫女「大丈夫よ、隊長さんに新しい戦闘外殻もあるし」
エマ「あ、新しい戦闘外殻!?」
スカルP「うむ。量産型戦闘外殻、『アビスソルジャー』。その試作品じゃよ」
エマ「量産型……そんなの出来たんだ?」
巫女「まだ試作の段階よ。それでも隊長さんが着れば、一騎当千の活躍は間違いないわね」
エマ「へー……」
スカルP「まあそういう訳じゃ。サヤ達と合流して、休暇を楽しんで来い」
エマ「えっと……分かりました! ゆっくり休んできます! 行こ、ルカ!」
『カララ、カラ』
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エマ「……というわけで」
マキノ「完全に厄介払いされているわね、体よく」
サヤ「ええ、ヨリコ様は純粋に休ませようとしたんでしょうけど……」
エマ「やっぱり? あははっ」
呆れ気味にため息をつく二人とは対照的に、エマはあっけらかんとしている。
マキノ「にしても、量産型ね……興味深いな……」
マキノが顎に手を当て考え込むと、サヤもゆっくり口を開いた。
サヤ「隊長が戦線復帰に、あの傭兵。不死身の怪物でも来ない限り、海底都市は安泰も同然ねぇ」
マキノ「そうね。休暇もマリナさんの捜索もじっくりと出来そうね」
エマ「マリナさんって……手掛かり見つかったの?」
マキノ「ええ。詳しくは、ホテルに戻ってからでも話しましょうか」
サヤ「はぁい♪」
エマ「おーっ!」
三人と三体がホテルへの帰路に着く中、マキノはふと思った。
マキノ(一晩で人数が三倍になってしまったけど……大丈夫かしら?)
――――――――――――
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海底都市、海皇宮。
ヨリコ「では、スカルP、アイ様、よろしくお願いしますね」
アイ「ヨリコさん、念のために言っておくけれど」
地下世界アンダーワールドの傭兵、アイが一歩前に出た。
ヨリコ「はい。これはカイ奪還とは別の依頼として、報酬も別に用意してあります」
アイ「ああ、是非そうしてもらいたいね」
ふっと小さく笑ったアイは踵を返し、スカルPに向き直った。
アイ「では、隊長さん。私はどこを回ればいいかな?」
スカルP「そうじゃな。お前さんは第五分隊を連れて第五地区を見回ってくれ。ワシは第七地区を見る」
そう言ってスカルPはアイに海底都市全体の地図を手渡した。
アイ「了解したよ。異常を見かけたら通信を入れればいいね」
アイは通信機を持った手をひらひら振ってみせると、第五分隊の兵士達を連れて部屋を出て行った。
スカルP「……では、ヨリコ様。ワシも失礼いたします」
スカルPもそれに続き、残った兵士達と共に部屋を出た。
ヨリコ「……ありがとうございます、巫女さん。あなたが侵入者の情報を得てくれなければ、今頃は……」
ヨリコは玉座に座ったまま、傍らに立つ海龍の巫女を見上げる。
巫女「うふふ、ヨリコ様のお役に立てて嬉しいわ」
巫女はフードの下で、柔らかく笑みを浮かべた。
その笑みの真意は、巫女以外の誰も知らない。
続く
・アビスソルジャー
ドクターPが作成した戦闘外殻。
鮭をモチーフにしている。無力な一般人でも運用できる。
・イベント追加情報
エマがマキノ&サヤと合流しました、二日目からは三人でまわります
スカルPとアイが兵を引き連れ海底都市内への侵入者の捜索を開始しました
第五地区と第七地区以外はモブ兵士達が見回ります
以上です
マキノンSR化はやすぎんよぉ!
いいよ!引いてやるよ!引いてみせるよ!(涙目)
ナニカ、黒兎、早苗、巫女、アイ、
没ネタスレからアビスソルジャーの設定お借りしました。
乙です
若神Pと早苗さんのやりとり…w
留守番はかわいそうだからね、エマちゃんも楽しむといいよ!
>不死身の怪物でも来ない限り、海底都市は安泰も同然ねぇ
露骨にフラグが立ったぞ!いいのかサヤ!?
おつー
その具体的な例えwww
なんだか異様に長くなっちゃった奈緒ちゃんin海底都市投下します
都市を数日にわたって調査し、そしてあまり情報は入手できなかった。…どうやら神の洪水計画の事は、一般市民には伝わっていないらしい。
ならば王宮、または神殿へ潜入し、何らかの情報を掴みに行くしかない。
奈緒は現在の隠れ家から王宮や神殿への道のりを数日にわたり視察していた。そこへ侵入し、緊急事態の際は問題なく隠れ家に帰還できるように。
…そして今日、都市のあちこちに兵士がいるのを目撃した。不自然なほどに増えた兵士。何かを探すように彼らは動いていた。
例の悪魔がこちらの事を知ったのか、それとも別の能力者か…とにかく、異変が起きているのは間違いない。
見つかって捕まってしまってはどうなるか分かったものでは無い。だから慎重に考える。
最初に目撃したのは隠れ家がある第七地区。だが別の地区も見に行けば、そこにも兵士は居た。恐らく自分がどこにいるかまではわかっていないのだろう。
すぐに見つかることはないだろうが、結局は時間の問題だ。…こうなってしまったからにはもう動くしかないだろう。
夏樹が定期連絡用の穴を開けるのは昼だ、それまでに奈緒は動き出す。
本当にマズイ時はすぐさま隠れ家に帰還して脱出し、問題なく海底都市を去れるように荷物の準備も済ませる。
荷物も片づけ、箱に使わない道具を整理し、部屋の掃除を済ませた。
立つ鳥跡を濁さず。それを一応意識している。
「定期連絡、こちら夏樹。奈緒、報告はあるか?」
背後に穴が開いた気配を感じ取って振り返った。
夏樹の部屋と今いる部屋を穴が繋ぎ、奈緒は現在の状況を報告した。
「夏樹…ちょっとヤバイかもしれない」
「ヤバイ?…何かあったのか」
「見回りの兵士が今朝から街のあちこちに居る。目的があたしにしろそうじゃないにしろ、見つかるかもしれない」
「…なるほど。確かにそれはヤバいけど…奈緒、なにかする気か?」
「あ、わかる?」
「わかるね。どう考えたって今から撤退してこっちに帰ってくる感じの声じゃないからさ」
「…だって、あたしまだ何もできてないから。まだこれからって時なんだ、撤退なんて選べない」
「…」
せっかく敵の懐まで来ているのに奈緒は何もできていない。それが奈緒は許せなかった。
その決意した声を夏樹は聞き逃さない。そして、少しだけ考え込む。
「…王宮か神殿、どちらかだけだ。今晩中に行けるか?」
「夏樹…いいのか?」
ネバーディスペアの形式上のリーダーはきらりでも、実質的には(不本意ながら)夏樹が仕切っている。
指令を下すのはLPだ。だが、指令が直接下されてない場では夏樹が判断し、動きを決める。
…今、LPはこの場にいない。彼が今ここにいれば安全を優先しすぐにでも帰還するように促すだろう。
だがそれではロックではない。
「一度決めたなら少しでも足掻いて、結果を出す!奈緒…覚悟、決めてるだろ?」
奈緒はすぐに頷く。
「…だけど、これは一種の賭けだ。見回りが多いって事は捕まりやすいって事だからな」
奈緒の異質な強さは夏樹もよく分かっているが、奈緒にも苦手な事はあるし、相手の手の内はまだ分かっていない。
悪魔がどれ程の強さかもわかっていない。奈緒より強い者がいてもおかしくないのだ。
「うん、分かってる」
「せめてアタシも行けるなら楽なんだけどなぁ…とにかく、スニーキング用の装備…あ、これだこれだ」
夏樹が別の穴を展開し、そこから装備と道具を取り出す。
「…とにかく、察してると思うけどLPさんには伝えないからな」
「ああ…LPさんには悪いけど、あたしにも意地があるから…ワガママだと思うけど」
「今の状況を考えて、多少の無茶をしたくなるのはアタシもよく分かる。ワガママだなんて切り捨てないさ」
神の洪水が実際に起きれば地球滅亡の危機なのだ。躊躇していられない。
「LPさんは…まぁなんとかしてみるよ。帰還用の連絡装置もちゃんと持ってるから今晩無事に終われば帰って来れるからなぁ…なんて言おう」
「…なんかそっちの方が不安だな」
「誤魔化したりとかは苦手なんだよ…まぁ、心配するなって。なんとかするから…とにかく…待ってるからさ」
「…おう」
苦笑いしながらLPにどう報告すべきか考えつつ、奈緒の返事を聞くと夏樹は穴を閉じた。
暗くなった夜、奈緒は行動を開始する。
黒い潜入用のスーツに身を包み、潜入用の道具を装備し、泥をまるで布のように纏って顔を隠している。
獣の姿ばかりだった泥のイメージは増えていた。加蓮と関わってから…いや、憤怒の街で翼を持つ蛇龍に止めを刺したあの時からだ。
繋がって、再び離れて。二人は僅かな時間ではあったが無意識にイメージを共有していた。それが切欠だったのだ。
布のように纏ったり、武器のように構えたり。泥はあまりにも万能で便利で、奈緒はそれをたまに恐ろしく思う。
この泥は肉体でありながら道具である。カースの力だけではありえないこの力を、悪人が手にしたらどうなってしまうのだろうかと。
…元を辿れば彼女と分離した、悪しき『正義』の呪いの事など、全く知らずに。
「さて、行くか…!」
黒い翼を生やした黒い人影が、都市の連なる屋根を駆ける。
広場の付近であるために屋根が途切れてしまっている場所に来ると、奈緒は黒い翼を広げ、宙を駆けた。
「あれは何だー!」
「何なんだー!」
「やばっ…!」
だが、運が悪い事に飛んだ場所のすぐそばに見回りが居たのだ。
暗い夜と言っても、海底都市では飛行するモノ自体が珍しい為か、その風を切って飛ぶ姿は一瞬だったにしても兵士たちの目についた。
それでも勢いを落とすことなく奈緒は飛んだ。
「飛んでいった方向には…王宮と神殿…。例の侵入者でしょうか」
「…スカルP様!どういたしましょう!」
「うむ、陽動の可能性も考え…奇数部隊のみ王宮と神殿方向へ向かう様に通信をだしてくれ」
「了解しました!」
(…急がないと不味いな…!)
その騒ぎの気配は奈緒自身にもよく伝わっていた。
光を避け、神殿付近の暗闇に着地する。目標は神殿に決めていた。
神殿の方を選んだのは王宮と比べ見回りも少なく、それでいて重要な情報がありそうという直感に従っての行動だ。
一応夜目が利くほうではあるのだが、片目には管理局開発の小型暗視スコープを装備している。
神殿の入り口に近づくと、二体の見張り役のイワッシャーが居るのが見える。
(…陽動とかが居ると楽なんだけど)
一人ではやはり無謀な気がするが、一度やると決めたからには行くしかない。泥を足に纏い、人の形からその形を変える。
右手にサイレンサー付きの拳銃を構え、息を整える。
利き手は多分虎の手にされた左だったから、右手だけで道具を使うのはあまり得意ではない。
それでも今は止まっている暇はない、泥の一部を腕に変化させ、右腕を支える。
奈緒から見て奥の方のイワッシャーの、レーザーを発射することが出来る頭部に狙いを定め、引き金を引いた。
奈緒以外には拳銃の音は聞こえず、ただ静かにイワッシャーの頭部を銃弾が貫く。
「……シャ?」
頭部を破壊され、撃たれたイワッシャーの機能が停止する。
「シャ!?」
攻撃されなかった方のイワッシャーは、急に倒れたもう一体に戸惑う。
そして奈緒は物陰から一瞬でイワッシャーに距離を詰め、頭部を虎の左手で猫パンチ…ではなく泥を纏った爪でえぐり取るように拳を放つ。
「シャ…」
奈緒は右手も虎の手に変化させると、その爪で倒れた二体の頭部と胴体部を切り離し、神殿の出入り口付近から退かせておく。
まだ周辺に気配がない事を確かめると、長く暗い廊下を静かに走り出した。
「スカルP様!神殿の見張りのイワッシャーが破壊されています!」
スカルPと第七分隊の兵士たちが王宮と神殿のすぐそばに来ると、奇数隊が通信通りに集まってきた。
「…侵入者は神殿か。そこに何か重要な物はあるのかい?」
第五分隊と共に行動していた傭兵アイが、神殿に視線を向ける。
「神殿には守護神プレシオアミドラルの亡骸が祀ってありますが…」
「…それ以外には?」
「…メンテナンスを終えたヨリコ様のアビスエンペラーが、再び神殿に保管されておるの。それ以外に目ぼしい物はないはずじゃ」
「その他の使用されていない戦闘外殻は研究所にありますし、資料等も殆どが皇宮にあります」
「相手にとって神殿では唯一価値があるとも言えるアビスエンペラーも簡単に動かせる代物ではないからの。侵入者に少し同情するわい」
「…ふむ、なるほどね」
ドクターPによって『メンテナンス』を終えたアビスエンペラーは、現在プレシオアミドラルの亡骸のすぐ近くの部屋で保管されている。
アビスエンペラーはプレシオアミドラルの魂が無くては起動しない。
だから有事の時に海皇が装備し、民を導くアビスエンペラーは、本来はずっと神殿に安置されている筈だったのだ。
そのアビスエンペラーは核を埋め込まれ呪いの力を宿し、プレシオアミドラルの魂は呪詛で少しずつ自由を失いつつある。
「それに神殿の構造は基本的に一本道…袋の鼠じゃの」
「…ただ、この人数だと神殿の中で動きづらい。神殿へ行った事がフェイクの可能性もあるから、人数は分けるべきだね」
アイは聞いた情報から、まだ半分ほど侵入者が神殿に居る事を疑わしく思っていた。
それに屋内に大量に兵士がなだれ込んできても、もし戦闘になった場合に被害が大きくなるだけだろう。
「そうじゃな、ワシの部隊とお前さん達の部隊で行くとしよう。第一、第三分隊は万が一侵入者を見かけたらすぐに連絡をしてくれ!」
「かしこまりました!」
他の部隊に命令を下すと、アイとスカルPを先頭に、兵士達が神殿内部へ向かって行った。
その頃、プレシオアミドラルの魂が宿る亡骸の前で、海龍の巫女は呪詛を少しづつ強めていた。
魂が壊れてしまっては意味がない、壊さぬように、自我を残さぬように、慎重に。
「…あら」
ふと、深くフードを被った巫女は振り返る。
「侵入者ね、わかるわ」
その声に廊下の闇にまぎれこちらを覗いていた者がビクリと反応する。
「出てきなさい、貴方はこちらへ来た時点でもう終わっているのよ?マヌケな子ね」
巫女は杖を構えるが、その構えた杖を銃弾が弾き飛ばした。
「あら、戦う気?」
観念したのか、暗闇から深い夜の闇の様な人影…奈緒が飛び出す。
巫女はその飛びかかってくる人影を躱すと、弾かれた杖を拾う。
「感情的になっちゃったのかしら?…でもそれももう関係ないわ。さっきも言ったでしょう?」
廊下に足音が響いてくる。たくさんの足音だ。奈緒の顔が青ざめる。
「貴方はもう終わっているのよ?」
その言葉と共に、兵士たちが部屋に入ってきた。
…巫女がニタリと笑った気がした。
「巫女様!ご無事でしたか!」
「ええ、無事よ…私の事はいいの、まず侵入者を捕えましょう」
「そうじゃな、巫女殿は兵士と一緒に離れていてくれるかの?ここはワシらに任せてくれ」
「わかったわ」
「やれやれ…殺さない程度に痛めつけて捕まえればいいんだろう?」
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ絶対ヤバイ!!)
一対多。実力者らしき者は二人。それでも圧倒的に不利だ。奈緒は神殿を選んだ自分の判断を呪うしかなかった。
「ハナ、おいで。オリハルコン、セパレイション」
「では行くかの!オリハルコン、セパレイション!」
「アビスグラップル、ウェイクアップ」
「アビスソルジャー、ウェイクアップ!」
「…あぁっ!畜生、やってやる!」
アイとスカルPは、掛け声とともにオリハルコンの鎧を纏う。
奈緒の攻撃は殆ど意味をなさないだろう、それはなんとなく察していた。
それでも、帰還しなくてはならない。逃げなくてはならない。
脚は異形に、両腕を虎の物にしたまま、四足歩行するように体を低く構えた。
「秘伝、《六骨》」
「っ!」
スカルPが繰り出す6発のパンチを、その速さに驚きつつも寸でのところで回避する。
アビスソルジャーは量産型故にアビスカルより性能は劣るが、それでもスカルPの身体能力の邪魔をすることはない。
「良く回避したね、だけど無意味だ」
しかし、回避した先を読んだアイが奈緒の横に駆け寄り、ナイフを振り下ろす。
(速っ…!?)
奈緒の左腕から鮮血が舞う。
兵士の一人がそれを見て情けない悲鳴を上げた。
「ひっ!腕が!」
…その言葉通り、時としてオリハルコンすら切断する斬撃は骨を断ち、腕がポロリと落ちていたのだ。
「どうだい、降参するかい?このままだと君は出血多量で死ぬよ?」
「…『それは無理だな』」
奈緒が返事と共に動き、脚と右腕だけで左腕を回収すると、あっという間に腕は再び元通り接合される。
「なるほどね。なら容赦はいらないか」
「…これは骨が折れるのぉ」
それを見てアイとスカルPは回復能力を持っているとすぐに理解する。…スカルPはあまり乗り気ではないようだが。
「…まだ…!」
奈緒が黒い翼を展開し、スカルPに突っ込む。
「…すまんの、秘伝、《骨挽》」
「ガハッ…!」
スカルPは冷静に、その勢いを利用して裏拳を叩きこむ。
「…グァ、ガアアアア!!」
口から血を吐きながら、奈緒の翼の羽が牙のように変形し、まるでサメの捕食のようにスカルPを挟むように襲い掛かる。
「ぐっ…」
「まだ、まだァ!」
「ぐおっ!」
牙を抑えるスカルPに、奈緒は異形の足で蹴りを叩きこんだ。
脚の爪がオリハルコンに僅かながら傷をつけ、スカルPは吹き飛ばされる。
量産型である為に、アビスカルなどと比べると頑丈さに欠けるアビスソルジャーではダメージを抑えきれなかったようだ。
「スカルP様!!」
殆どの者が吹き飛ばされたスカルPに視線を向ける。
奈緒はその隙に翼を広げ、宙へ逃げようとする。
「一度頭を冷やした方がいい。これは1対1じゃないのだから」
しかしそこに冷ややかな口調と共にアイが下から打ち上げるようなキックを放った。
「グ…ァ…!」
奈緒が高い天井に激突し、そのまま重力に従い落ちていく。
「…秘伝、《崩骨》」
そして落ちてきた奈緒を立ち直ったスカルPの掌底が襲い、壁に叩き付けられた。
「…やったかの」
「死んでないといいけどね」
スカルPとアイが、壁にもたれて動かなくなった奈緒を少し遠くから見ていた。
グチャグチャグチュグチュと音がするから再生はしているようだが、彼女自身が動かないのだ。
巫女はそんな奈緒を見て、一つだけ思い当たる種族が居た。
(…吸血鬼の類かしら…?…けれどそれでは説明がつかない事が多すぎる。カースの力だとしてもこんな力はあり得ない筈…)
吸血鬼も弱点を除けば不死身の類だ。あの回復力は異常だが、個人差かもしれない。
黒い力から連想したカースの力は殆ど感じず、それではカースドヒューマンだったとしてもあれ程の戦闘能力と再生力を同時に持っているのはおかしい筈。
しかし、それでは異形の方が説明できないのだ。それに彼女が所属している筈の宇宙系組織に、利用派であろうと吸血鬼が所属しているのは不自然だ。
…カースの力をほとんど感じない原因は奈緒に埋め込まれた暴食の核が、小さな欠片だからなのだが。
(…わからないわ)
結局、巫女はまだ判断を下すのは早いと結論付けた。
奈緒は壁に叩き付けられたまま、意識が朦朧としていた。
彼女自身のとも言えない感情が、内側で渦巻いていく。
―痛い、いたい、イタイ…!
骨が何本も折れている筈だ。内臓だってボロボロになっているだろう。
そんな体が再生をしているのが、感覚でよく分かる。
死ぬことは許されない…でも、血が足りない。ダメージが酷すぎる。
―タリナイ、血ガ、タリナイ
―強サガホシイ、モット、モット
―モット、強イモノ食べナイト…
彼女の中の浄化された筈の小さな暴食の呪いが蠢く。
きらりとそれなりに長い間離れているのも原因なのだろう、呪いの力が奈緒に広がっていく。
鉄の味がしていた筈の、吐いた血まみれの口の中が砂糖のように甘いような…異常な錯覚が襲う。
内側にあるはずの器官が泥のように溶けていく。蛹が内側で溶けて変態して蝶に変わり羽化するように。
―タリナイ、タリナイ、ナニモカモ…タリナイ
―…オナカスイタ
全く動かなかった奈緒が俯いたまま立ち上がった。
場は再び緊張する。
彼女が吐いた血は、神殿のあちらこちらを真っ赤に染めていた。プレシオアミドラルの亡骸にまで血が付着している。
何名かがその血や返り血を浴びていたようだが、鎧の下には届いていないようだ。
(甘い香りがする。気が狂いそうなほど甘ったるい香りがする)
いや、既に狂っているのかもしれない。
さらにスーツと泥の服で見えないが、奈緒の肌に消えたはずの傷跡が藍色の刺青のように刻まれていく。
捕まっていた時は飢えてはいたが今ほどの強い暴食の感情など無かった。
しかし今、彼女は自ら求める。飢えを満たすような強さを持つ者を。あの時より強い暴食の感情を開放していく。
もはや奈緒自身の意識は薄く、その体を動かしているのは獣としての生存本能の塊だった。
「ッアアアアア!」
奈緒がその感情に振り回されるようにアイに飛び掛かる。
「まだ、これだけ動けるのか…だんだん本性が露わになってきているようだね」
しかしその単純な攻撃は難なく回避されてしまう。
だが奈緒は泥と一体化した髪を硬化させ神殿の床に突き刺し、飛び掛かった勢いを殺さぬままグルリと方向転換して再び襲い掛かる。
「…!」
それすらもアイは回避するが、奈緒も生物の範囲を超えた身体能力で追い詰めていく。
執拗に、逃がさぬように、髪が触手のように伸びてアイの移動範囲を狭めていく。
「アイ殿…!」
「!」
『アオオオオオオオオン!!』
『シャアアアアア!!』
「なにっ!?」
スカルPがそれを中断させようと横から素早く間合いを詰めようとしたが、奈緒から分離した生命体がそれを妨害する。
そしてついにアイに逃げ場が無くなり、奈緒にのしかかられるようにして捕まってしまった。
その姿は半分以上が藍色の模様が刻まれた黒い異形と化しており、大きな虎の前足が抑えつけて離さない。
虎の最大の武器は牙ではなく発達した前足だ。前足で獲物の体力を削り、そして力尽きた獲物を抑え、捕食する。
「っ!」
「…グルルル」
「このっ…!離せ…!」
どんどん奈緒の背から泥が溢れ、アイにのしかかる重量が増えていく。
さらに噛みついてきているが、オリハルコンの鎧に阻まれてアイ自身はまだ無事ではあった。
それでも鎧の隙間から何かされる可能性も高く、アイは命の危機さえ感じていた。
『アォオオオオオオン!』
『ヒィイイイイイイイイイン!』
「邪魔をする出ないわ!」
兵士やスカルPも、奈緒から溢れるように生まれた黒い生命体に行動を妨害されて近寄れない。
状況はまさに一転し、絶体絶命としか言いようがなかった。
「…これは…暴食?」
巫女は巫女で、今になってやっと暴食の呪いの気配に気づいた。
「わからないわ…これほどのカースドヒューマンなら殆ど隠すこともできない筈、それにまともな自我なんてないはずなのに…」
(頭がすげぇ痛い…痛い……)
肉体は暴走し、暴食の感情が爆発していた。このままでは目の前の彼女を骨すら残さず喰らい尽くすだろう。
それと同時に、彼女は葛藤する。殺されかけた相手とはいえ目の前の人を喰らおうとする暴食をなんとか抑えようとしている。それが頭痛となって彼女を苦しめる。
「…グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
悲鳴のように、雄たけびのように、奈緒は獣のように咆哮する。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「!?」
そこに居た者達は驚愕した。
その咆哮とシンクロするように、プレシオアミドラルの咆哮が海底都市に響き渡ったのだから。
「…!」
その咆哮と同時に一瞬だけ拘束が緩まった。その隙をアイは見逃さない。手にしたナイフでぎらぎらと光る赤い目を切り裂いた。
「あ…ギャアアアアアアアアああああああああ!!!?グア、あああ、あ、アアア!?」
血が飛びり、目を潰された奈緒がパニックを起こす。そのパニックが原因か、泥は一斉に奈緒の元へ戻り、アイも解放された。
目を抑えて悲鳴を上げていた奈緒は、そのまま疲れ果てたように動かなくなった。
「…今度こそ終わっただろうね?」
「わからん…取りあえずアイ殿は下がっておれ。ワシらに任せておくのじゃ」
「…わかったよ」
しかし、巫女は咆哮の時に説明しがたい、なにか『嫌な予感』を感じた。
「…は、はやくあの侵入者を捕えなさい!今のうちにとにかく早く!」
「わかっておる、あれは何かおかしい!」
兵士達も倒れた奈緒を捕獲すべく、駆ける。
『…寝てたから状況はよくわかんねぇが…大人数で倒れてる女を襲うなんて、テメェら良い根性してやがるな!』
その次の瞬間、謎の声と共に、兵士たちは吹き飛ばされた。
吹き飛ばしたのは右腕が変形する黄金の鎧。さらには海の色の様なマントまで装備されている。
それは装着者がこの場にいない筈のアビスエンペラーだった。
「う、動いたじゃと!?」
「アビスエンペラーが…わ、わからないわ…」
「…そうか、あれが例のアビスエンペラーか」
兵士たちを吹っ飛ばした攻撃を回避したスカルPは驚愕するしかなかった。海皇であるヨリコ専用の戦闘外殻が、彼女がいないこの状況で動いているのだから。
うごかしている存在に心当たりがある巫女は狼狽える。呪詛がまだ不完全とはいえ、プレシオアミドラルの魂は縛っていた筈だったのだから。
アビスエンペラーの足元でやっと正気に戻った奈緒は、朦朧とした意識の中、無意識にスーツの装備からある物を取り出していた。
「…」
ピンを外し、手放すとコロコロ転がっていく。
「…あれは…!」
アイが反応すると同時に、濃い煙幕がスモークグレネードから噴き出した。
視界が奪われ、皆が思わず目を塞ぐ。
そして煙が晴れた時、そこに奈緒の姿は無かった。
「逃がしたか…!」
アイがいち早くそれに気付き、悔しそうに周囲を見渡す。
「全分隊に連絡!侵入者が逃亡した!神殿周辺に包囲網を敷くのじゃ!黒い格好の女じゃ、逃がすでないぞ!」
スカルPも通信機を取り出し、外の部隊に命令を下す。
「…侵入者を捕えるのが私の依頼内容だ。行かせてもらうよ」
アイも神殿の外へ出ていった。
『…おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るな』
不満そうな声がアビスエンペラーから聞こえてくる。
「黙った方が身の為じゃぞ。…ヨリコ様のアビスエンペラーをどうやったかは知らんが勝手に使った罪は重いからの」
『…どうやったか?それはそこの怪しい巫女さんが良く知っているだろうよ』
「なに?」
「…っ!」
『ま、お二人でごゆっくり話し合ってればいいさ、俺はもう遠くへ行かせてもらうからよぉ!』
「待たんかーっ!」
「ま、待ちなさい!」
『待つわけないだろうが!!』
右腕を鈍器に変えたまま、アビスエンペラーは神殿の壁を壊し神殿の外へ飛びだしていった。
「…巫女殿、ワシがこの事をヨリコ様に伝えてこよう。なぁ…聞かせてくれ、あれは一体なんだったんじゃ、何か知っておるのか?」
茫然としつつスカルPが巫女に問う。
「わからない、わからないわ…」
しかし巫女はただそう言う事しか出来なかった。
アビスエンペラーはその高い機能をフルに活用し、夜の都市を高速で駆ける。
兵士に何度か遭遇し、止めようとして来るが、いとも簡単に吹っ飛んだ。
兵士達が神殿周辺に集まりだしたせいか、その遭遇頻度も下がり、ついには気配すら感じない程の位置に来た。
アビスエンペラー…に憑依したプレシオアミドラルが、周囲に誰もいない事を確認して小声で喋り出す。
『おい、聞こえるか』
「…」
『返事しろっての!』
「…だ…れ?」
虚ろな返事が返ってきた。
『俺はプレシオアミドラル様だ!知ってる筈だろうが!』
「…プレシオ……あ、そうだ…ピー助の知り合い!」
『…フタバイキングだからな、一応言っておくが』
「わかってるよ…うん」
『まぁ…死んでないようでなによりだ』
すぐに意識が戻ってきたことプレシオは安堵した。
「なぁ…ちょっと待ってくれ、今の状況がよくわからないんだけど…」
そこに奈緒がプレシオに戸惑い気味に質問する。
『覚えてねぇのか?』
「だから聞いてるんだよ…全く分かんねぇんだ。てっきり捕まったのかと思ってた」
『仕方ねぇな…』
どうやら意識が朦朧としていたからか、殆ど覚えていないようだ。プレシオは面倒そうに説明する。
魂であっても真夜中に近いこの時間帯はプレシオは眠っていた。しかし周囲であまりにもうるさかったので起きてみたらあの状況だったのだ。
『…どこから言うべきかね…まぁ捕まりそうになっていたお前を助けたのは紛れも無くこの俺よ!』
「じゃあ…今アタシが鎧の中にいるのはなんでだ?」
『それか?俺は幽霊みてぇなもんだ。巫女の妙な術で動けなかったが…さっき力を振り絞ったらなんか知らんが動けたんで、近くにあった鎧に憑りついたんだよ』
『つまり…俺はこのアビスエンペラーとかいう鎧を体の代わりに動いている訳だ。お前は空っぽの鎧の中に入ってきた…と言う事だな』
煙幕の中、彼女が泥のように溶けて鎧に入って来た時の恐ろしい光景を思い出さないように、説明を手早く済ませる。
あの時の奈緒は、まだ少し暴食の感情が生きていた。強い力を欲し、喰らう事を思考の奥底で欲していた。
そこにアビスエンペラーが現れ、奈緒はその力を欲し、喰らえなかったアイの代わりに捕食しようと泥のように溶けて襲い掛かったのだ。
だが幸運なことにオリハルコン製のアビスエンペラーは食えるモノではなく、中に誰も居なかった。
そして泥の状態のまま、奈緒は暴食の衝動により居もしない中の人を喰らおうとアビスエンペラーの隙間から中に入ってしまい、そのまま現在に至るのである。
『…要するに、お前の知識で言う、「ニーサン!」とか言っているアレだな』
「…うん、よく分かった。けど、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど『お前の知識』って…?」
『ああん?俺だって知るかよ、なんか知らんがお前の知識も俺のモノになってやがる』
「え…え、え?マジで?」
『大マジだ。なんなら他の事も言うか?お前の部屋の机の上から二番目の引き出しには…』
「わ、わーっ!わーっ!ほぁーっ!ぬわーっ!バカ、バカ、バカァ!」
『わかった!わかったから少し黙れ!』
プレシオのカミングアウトは奈緒に全力で阻止された。
『…とにかく、お前のおかげで俺はいろいろ分かったし、自由になれたわけだ。俺はお前を捕まえる理由もねえし、逃がしてやるよ』
「あ、ありがとう…で、どうやって脱ぐんだコレ」
奈緒の肉体はもう普段通りの骨も内臓もある普通の体になっている。脱ぎ方が分からないので鎧に閉じ込められているような感じになっているのだ。
『それはだな、こうすればいいんだよ』
アビスエンペラーがプレシオサウルス型の金属生命体の姿に変形し、奈緒と分離する。
「おおー…やっぱりよく分かんねぇけどスゲェ技術だな…」
『俺もこういうのはよく分かんねぇな。まぁ便利だけどよ。さっき壁を壊した時ついた傷も元通りに戻ってるしな』
「金属でも再生するんだな…」
『科学の力ってすげーって奴だろ、俺はそういうの詳しくないんで聞いても適当に言うからな』
「…じゃあ止めておく」
「…そういえば神の洪水について何か知らないのか?守護神なんだろ?」
『あー…ったく、いろいろ知ったが何が神の洪水だ。俺は守護神として崇められてたが洪水なんて何もしらねーぞ?』
「関係ないのか?」
『ったりめーだ!俺はあの巫女の妙な呪詛で動けなかったんだからよ!まぁ今は自由の身だがな』
「巫女…あのフードの女…だよな?」
『おう、あの巫女にヨリコ…職業で言うと海皇サマは騙されちまってる。アイツはどう考えても黒幕だな。妙な術ばかり使う汚ねぇ奴だ』
「アイツが…」
神殿に居た巫女を思い出す。確かに彼女からは少し不気味な雰囲気を感じた。
『とにかく、ここから逃げるならとっとと逃げな。…飛ぶんじゃねーぞ?ここで飛ぶと目立つからな』
「ああ、そうするけど…お前はどうするんだ?」
『俺か?…一応、あの嬢ちゃんに忠告するつもりだが…あの巫女がどうも不気味でよ…なにかされる気がしてならねぇ』
ヨリコに忠告をしたい気持ちもあるが、あの巫女が何かしらの呪詛でまた縛り付けてくる不安がある。
そしてプレシオは自覚していないが、今アビスエンペラーにはとあるカースの核が埋め込まれている。
勘の様なもので、巫女には近寄らない方がいいとプレシオは判断していた。
『…まぁ俺はここに残って俺がやりたいことをやるだけだ。フタバ達には悪いが、まだ会うのは当分先になるな』
「…そっか、わかった。なんか変な事になったけど、ここまで連れてきてくれてありがとな」
『また追われるんじゃねーぞ?』
「なんだよ、そっちこそ下手な失敗とかするなよ?」
『俺の心配している暇があったらさっさと行きやがれってんだ。「ねばーでぃすぺあ」の仲間がいるんだろ?』
「人の記憶勝手に見るんじゃねえよ…もう見るなよ!あたしもう行くからな!」
『…はいよ』
奈緒は手を振って、夜の都市を急いで駆けだした。
今の位置は見覚えがある。すぐ近くに隠れ家がある場所だ。
(アイツの心遣いかな…多分)
隠れ家の扉を開き、スーツを脱いで片づけ、急いで最後の帰還準備を済ませる。
箱の中に荷物を詰め込み、来た時と全く同じ部屋に戻ったのを確認する。
隠し戸を開いて、奈緒は外への通路に潜水し、無事に海底都市を脱出した。
隠し通路のハッチを閉めて砂で隠し、暗い夜の海の中、ただひたすら上に向かって泳ぎ続けた。
暫くして月の光が見えてくる。暗い藍色の夜の海から、一筋の光を目指して奈緒はひたすら泳ぎ続ける。
水面が近づいてきた。
「せーのっ!」
イルカのように水面から飛び出し、翼を広げる。
空中を飛びながら箱の中から通信機を取り出して、スイッチを入れるとすぐに少し上に穴が開かれた。
「奈緒!お帰り!」
「李衣菜…!ただいま!」
穴から伸ばされる李衣菜の手を掴み、釣りあげられるように引き上げられる。
その勢いが着いたまま、計算されていたのか積まれていたタオルにボフッっと突っ込む。
…無事、少々ダイナミックな帰宅をした。
「奈緒ちゃーん!お帰りなさーい!きらり達ずっとずーっと待ってたにぃ!」
「きらりー!力強いから!強いから!」
「ごめんなさーい、じゃあちょっち弱めのはぐはぐ☆」
きらりがタオルで体をワシャワシャ拭きながらハグをしてくる。
もうかなり遅い時間だが…きらりの言う通り、李衣菜と夏樹もずっと待っていたようだ。
「遅かったから心配したよ!もう、奈緒が遅いから、何かあったのかってなつきちも落ち込んじゃうし…」
「落ち込んだって言うか…アタシの判断ミスのせいで奈緒が帰って来ないって気がしてだな…なぁ奈緒、侵入した時に何かあったのか?」
「うん、あったよ」
奈緒が侵入した時にあったことをできる限り説明できるように話す。
記憶が曖昧な所はできるだけ話さないように…そして心配をかけないように受けたダメージの事は減らして話しているが。
「ねぇ…奈緒はスニーキングできてなかったって事なんじゃないの?」
「あたしもそれは自覚してたから言わないでほしかったなぁ…思い切り見つかっちゃってさぁ…」
「…でも奈緒ちゃんすっごく頑張ったの!お疲れちゃーん!」
そう言って揉みくちゃに拭かれた奈緒をきらりが抱える。
「よーし、奈緒ちゃんスペシャル入浴ターイム☆スペシャルだからきらりも一緒ねーっ!」
「ふ、風呂ぐらい一人で入ってもいいだろ!?はーなーせー!」
「…ちゃんと体が温まるまで入るんだぞー」
「疲れているんだから暴れない方がいいと思うよー?」
「ふ、二人とも止めてくれよぉー!!」
抵抗空しく、奈緒が風呂場へ連れていかれるのを夏樹と李衣菜は見送った。
「…で、LPさんにはどう報告しようか、真夜中な訳だけど」
「あの人なら多分起きてるだろ。奈緒の帰還連絡と、情報を伝えないと…」
李衣菜が一応と、メモ帳とペンを取り出しつつ、奈緒の話をまとめ上げる。
「呪術使いの巫女が黒幕で、海皇専用の強力な装備であるアビスエンペラーは現在『脱走中』。けど奈緒を倒すくらいの実力者が最低でも二名居る…って?」
「…鎧を装備した相手を倒すのが奈緒は難しい事を考慮しても、やっぱり海底都市の技術は進んでいるみたいだな」
「再生する金属の鎧とかもそうだけど…やっぱりよく分かんない事がまだ多いね。黒幕らしい巫女の実力もまだ分からないし…」
「だな…とにかく、アタシは奈緒の話をありのままに報告するだけだ。奈緒のスニーキングの実力については今後話し合うとしても…黒幕らしき人物の情報をつかめたってのは、大手柄だな」
「だね、何とか平和に終わらせたいものだけど、今は交渉自体難しいからなぁ…海の中に私は絶対入れないし!」
「それは仕方ない事だな…っし、送信完了っと。だりー、きらりと奈緒のパジャマ出しておけよー」
「りょーかーい」
報告を済ませた夏樹の言葉に従って、李衣菜が部屋を出ていく。
暫く直接会えなかった奈緒に、きらりはさぞかしはしゃいでいる事だろう。
少しだけ溜まった疲れが義眼の入っている目の瞼を閉じさせる。
(ああ…思ってたよりアタシは奈緒を心配しすぎたみたいだな…)
そこでようやく疲労している事に気が付いた夏樹は、少しの間だけ視覚ユニットを腕に収納して眠りにつくことにした。
(…無事で、よかったよ。本当に)
情報
・奈緒が帰還しました。
・海底都市の神殿が血まみれ&壁に大穴があきました。(血は恐らく時間が経って既に『喰らう』力を失っている筈)
・管理局が今回の事を大体把握しました。
・海底都市のあちこちで金色の戦闘外殻、アビスエンペラーが目撃され始めました。
・グラトニーモード
奈緒の『暴食』が暴走した状態。
瀕死の時に渇望し、飢え、求めることで覚醒する。
獣の生存本能が捕食する方向で暴走し、奈緒の意識は殆ど無い。
とにかく一度決めた相手をとにかく喰らおうと襲い掛かってくる。頑丈な鎧でも装備していない限り、無事では済まないだろう。
瞳はぎらぎら輝き、全身に過去に受けてきた傷の数だけ藍色の刺青が刻まれている。
全身を自在に変形させる事も可能で、圧倒的な強さを誇るが…知能は低下しているようだ。
この姿にいきなりなったのは、恐らくきらりと暫く離れて行動していた影響である可能性が高いようだ。
再生能力がさらに強化されているが、瞳が唯一の弱点であり、そこを襲われると操作していた泥が動きを止め、元に戻ってしまう。
アビスエンペラー(奈緒同化状態)
プレシオアドミラルが憑依して自律行動しているアビスエンペラーの内部に、肉体が泥と化した奈緒が入り込んだ。
内部に泥が満ちていても少々重量が増した程度で活動に支障はなかった。
アビスエンペラーに埋め込まれたカースの核がプレシオの意識街ではあったが奈緒の肉体に反応し、知識と記憶をある程度読み取ったようだ。
プレシオはネバーディスペアのことや奈緒のアニメ関連の知識やちょっした秘密を知ったらしい。
以上です
サヤの建てたフラグを回収するだけの簡単なお仕事…アイさんとスカルPの二人を一人で相手にするとかムリゲーすぎるじゃないですかー!やだー!
…とか考えていたらこうなっていたんだ…アイさんには非常に申し訳ない事をしたと思ってます(白目)
奈緒ちゃんは可愛いんだ、決して化け物じゃないんだ…
乙ー
kwsmsnの胃痛がもうヤバイwwww
さて…kwsmsnが本腰いれそうだな
乙です。
やめて!もう川島さんの胃はとっくにぼろぼろよ!
海底都市で目撃される黄金の鎧とか完全にホラーじゃないですかやだー!
投下します
実際長くなってしまったので読む前に覚悟がいる
‐プロローグ‐
十二月も半ば過ぎ去ったその夜もまた、タカラダ・トミゾは孫との団欒を楽しんでいた。
「オジイチャン、ここ、ギアに負荷がかかり過ぎるよ」
「そうか、そこはオジイチャンも気になっておったのだ」
「ここはもう一回り大きいネジを使おう。子供はけっこう乱暴に振り回すんだ」
孫のトミスケは十歳にもならぬ子供だが、そのアドバイスは的確だ。
玩具で遊ぶ祖父と孫、傍目にはそう映るだろう。しかしそれだけではない。
トミゾはネオトーキョーに本社を置く大手玩具メーカー、オタカラダ玩具の社長にして開発チーフである。
試作品の玩具を持ち帰り、孫と一緒に遊ぶことで子供のリアルな目線からのアドバイスを得るのだ。
「アッ…。…オジイチャン、ちょっとぼくトイレ」
夢中でLEDカタナを振り回していたトミスケだが、尿意が無視できぬレベルに達したか、慌ててトイレに駆けて行った。
トミスケの両親……即ちトミゾの息子夫婦は、物心のつかぬ息子を残して反ルナールテロの巻き添えで死んだ。
妻を病で亡くして久しいトミゾにとって、トミスケは最後の家族だ。
そしてトミゾは孫の中に非凡な才能を見出だしていた。彼は遠からぬ将来、孫に全てを譲るつもりでいた。
(その日まで、トミスケも会社も、ワシが守らねば…)
吹き込む冷たい風に、トミゾの思考は中断された。ガラス戸は閉めたはずだが、いよいよボケたか。
立ち上がり振り向いたトミゾの目に飛び込んだのは、人が通れるほどの大きさに切り抜かれたガラス戸だ。
「バカナ! 金属線入り強化ガラスだぞ!?」
侵入者か!? トミゾは中腰で身構え、前後左右に油断なく正拳突きを繰り出す。社長たる彼は護身用の武術を修めているのだ。
「出てこい賊めッ! ワシの生活、ワシの宝には指一本アバッ!」
背後から首筋に手刀の一撃を受け、トミゾは気絶! 賊は彼を手際よく拘束、抱え上げると、ガラス戸を抜けてテラスに出た。
ネオトーキョー一等地の超高層住宅、地上三百階の上空に、一機の大型ステルスヘリが音もなく待機している。
賊はトミゾ老を担いだままテラスから跳躍、苦もなくステルスヘリに乗り移った。
「お疲れ様です」
キャビン内で待機していたサポートメンバーにトミゾ老を預け、彼女は固いシートに腰掛けた。
通気性の悪いボディスーツの胸元を開け、汗ばんだ素肌を外気に晒す。
その仕種に下品さは感じられない。一仕事を終えリラックスするプロの姿だ。
「なに、こういうスリリングなミッションもたまには悪くないさ」
狭苦しい機内で留守番していたハナを優しく撫でながら、傭兵アイは微笑んだ。
ステルスヘリはネオトーキョーの夜空に溶け込むように姿を消す。
既に遠くなった超高層住宅の一室から、幼い悲鳴が微かに響いていた。
‐1‐
『タカラダ社長失踪! テロ可能性重点』『オタカラダ株大暴落、投資家の自殺件数が昨年度から倍増』
午前九時。朝のワイドショーが、昨夜の事件をセンセーショナルに報道する。
平常通りカートゥーンが始まった一つを除き、どのチャンネルも同じような緊急特集だ。
「…クリスマス商戦真っ只中だってのに、気の毒な」
ミルクティー片手に、低俗大衆新聞を読みながら黒衣Pが言った。見飽きたニュースだ。もはや画面を見もしない。
「ところでプロデューサー、オタカラダって?」
尋ねたのは彼の担当アイドルヒーロー、斉藤洋子だ。上質ソファに体を埋め、ココア豆乳をフウフウと吹いて冷ましている。
「ああ、女の子には馴染みが薄いか? エート、リキチャン人形」
黒衣Pは説明を続けようとしたが、合点がいったというような洋子の表情に、続く言葉を危うく飲み込んだ。
オタカラダとダイバンドウの商品展開傾向の相違だの、業績の推移だの、難解な無駄話を聞きたい気分ではあるまい。
「それで、そのタカラダ社長はまだ…」
「そうだな。失踪したのが昨夜のことだし、捜査も始まったばかりだ」
会話はそのまま途切れた。洋子はココア豆乳を啜り、黒衣Pは猥褻ページのエロチック小説を読み始めた。
冬の朝の穏やかなひと時。しかし、それはほんの数秒後に呆気なく終わりを迎えた。
「洋子ちゃん、黒衣くん、おはよう!」
事務所玄関から聞こえた声に、二人は顔を見合わせた。
一呼吸の後、洋子はトイレに隠れようと試みた黒衣Pの首ねっこを掴み、上質ソファに座らせる。
来客用スリッパがパタパタと音を立て、訪問者…アイドルヒーロー同盟のヒーロー応援委員、持田亜里沙が姿を現した。
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「家庭訪問にしては突然過ぎやしませんか、センセイ?」
亜里沙と向き合って座る黒衣Pの表情はぎこちない。その隣で洋子もまた不動。
この来訪が意味することを察し、二人には珍しく緊張状態にあるのだ。
「ごめんね、黒衣くん。先生もさっき指示を受けたばかりで、詳しいことは…」
「わざわざセンセイが来た以上、世間話で終わるはずもないんでしょうね。 …繋いでください」
亜里沙の能力が、洋子と黒衣P、そして二人の直属の上司の間に脳内会話ネットワークを築く。
“メッセージ”による脳内会話は、電話やメールに比べて遥かに高い秘匿性を誇る。
どれほど優秀な諜報員とて、“脳内を覗く能力”でも持たない限り脳内会話を傍受することなど不可能だ。
亜里沙が派遣された意味もそこにあった。電話やメールでは話せぬ内容……重要な仕事の話だ。
タカラダ社長失踪事件を終息させるためのヒーローミーティングが始まった。
‐2‐
ネオトーキョー第一産業区。ごく初期に開発され、今では辺境と化した一画に、その施設はひっそりと存在していた。
地上部分に見えるのは寂れた工場……その正体は、地下十層に及ぶオワン形状の暗黒娯楽施設“女狐の巣”だ。
これはルナール所有の施設だが、その存在を知るのは社内でも一握りの重役とエージェントだけである。
ルナール社はこの施設の中で、明るみに出せない顧客と数々の黒い商談を行ってきたのだ。
「…それで、いつまで私をここに閉じ込めておくつもりだ? 私は暇じゃない、年内の仕事がまだ幾つか残っているんだ」
ここは“女狐の巣”第四層にある貴賓室。室内据え付けの大画面モニタを睨むアイの眼には、明確な怒りが滲む。
タカラダ・トミゾの身柄を依頼者に引き渡して既に二日、彼女はこの間ずっと貴賓室に留め置かれていた。
最高級の食事も不足のない娯楽もアイは必要としていない。これがオモテナシの皮を被った軟禁であると気付いているのだ。
「解放する気がないなら、せめてハナを返してもらえないか。あの子がいないとなかなか寝付けない」
『それはできません。あの金属シャコが何らかのハイテック兵器であることを我々は掴んでいる』
アイは歯噛みした。戦闘外殻さえあればこの状況を打開するのは容易だが、先方もそれは薄々勘付いているようだ。
これ以上話しても埒が明かぬ。アイは通信を切断、一拍の間を置いて、モニタに報道番組が映った。
『タカラダ事件解決へ アイドルヒーロー投入』のテロップと、若い女の姿。それは実際アイにとって僥倖であった。
およそ半日後、傭兵アイは拘束状態を解かれ、再び依頼者の前に姿を現すこととなる。
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夜のハイウェイを疾駆する一台の軽バン。側面には朱色ファイアパターンで彩られた『アイドルヒーロー同盟』のステッカーが輝く。
システムを自動操縦に切り替えた運転席で、エボニーコロモは情報整理に勤しんでいた。
彼らが“代表”と呼ぶ直属の上司は、配下に数名の情報収集エキスパートを有している。
今回のヒーローミーティングで得られた情報は、ルナールを内偵している諜報員から得られたものだ。
「つまり、この件はルナール社の内輪揉め…ってことですよね」
助手席の洋子が言う。勉強は苦手と自認する彼女だが、仕事に関することなら話は別だ。
「そうなるな。オタカラダも…まあ、それなりに良い思いをしてたらしいし、文句を言える立場じゃない」
ルナール社が現在のような大企業に成長する過程で、規模の大小を問わず数多くの企業が従属を強いられた。
それに伴う反発や軋轢を和らげるため、ルナールはガス抜きを用意していた。
ルナールの利益に直接影響しない業種数社には、資金援助を行いながらも経営に干渉しない、極めて寛大な方針を取ったのだ。
そして、オタカラダ玩具もその“特権企業”の一つであった。
「普通に考えて、ルナール社内の覇権主義者が黙ってるわけなかったんだよな」
「ずっと不満が燻ってて、こんな形で爆発しちゃったんですね」
結果として今回の事件が起こり、ルナール社の奥ゆかしい配慮は台無しになった。
では、囚われのタカラダ社長はどこに? 答えは既に出ている。社用軽バンは『第一産業区』の看板が立つ出口を抜けた。
目指すは地図にも記されていない辺境の暗黒施設。その存在を知るのは、ルナール社でも一部の重役!
「…黒幕、いると思います?」
「いないだろうな。今頃何食わぬ顔で憩ってるんだろう。何にしろ、俺達のやることは変わらない」
「タカラダ社長を救出して、実行犯を捕まえる、ですねっ!」
エボニーコロモは頷いた。無表情な黒子ヒーローマスクの下で、その表情は険しい。
二人はかつて、憤怒の街での重要任務を完遂できなかった。上層部の評価は決して芳しくない。
“代表”は今回の仕事を得点稼ぎと言ったが、果たしてそう気楽にやれるものか。
強力な能力者である洋子はともかく、非能力者の出戻りヒーローに、居場所は残されるのか……。
(…アー、駄目駄目、シリアス過ぎるのは良くない)
エボニーコロモはネガティヴ思考を追い払おうと努めた。相棒に不安を悟られれば迷惑を掛けることになる。作戦前には禁忌だ。
軽バンは寂れた工場の敷地にしめやかに滑り込み、その動きを止めた。
胡乱な車両の目撃情報から、地下への進入経路は既に割り出されている。
状況は遥かに良い。作戦開始だ。
‐3‐
「すみませんねミス・トーゴー。本当はもう少し寛いでいただきたかったのですが」
「御託は結構。私は虫の居所が悪い、さっさと報酬と違約金を支払うのが身のためだ」
アイは現在、“女狐の巣”第九層のコントロールルームにいる。
室内には彼女の他に男が二人と、特殊合金ワイヤで拘束された巨大金属シャコが一体。
片方の男の傍にはガイコツめいて不気味なドロイドが控え、その頭から伸びるケーブルは男の操作するコンピュータ機器に繋がる。
「報酬はお支払いできません、すみませんね。貴女のお食事代に充てさせていただきました」
アイの方を見ようともせず、男はキーボードを叩く。と、機器から一枚の紙が吐き出された。
「クソッ、ハズレです。すみませんついでに、もう一件お仕事を依頼したいのですが」
「ふざけた奴だ。こうも馬鹿にされて、私がハイと答えるとでも?」
アイは制裁プランを練る。この男達はおそらく素人だ。たとえ銃を持っていても、ナイフの方が速い。
金属骨格ドロイドの存在は気がかりだ。まずはコイツを先に始末するべきか。
その時、アイの瞬時の思考を遮るように、壁に背を預けて立つ狐面の男が口を開いた。
「この金属シャコ、アンタにとって余程大切な物だと俺は踏んでるんだが」
同時にドロイドが動き、ハナの可動部を曲がらない方向に曲げようとする!
何たる非道! オリハルコン製ボディは強固だが可動部は比較的脆弱! ハナが苦しげな声を漏らす!
「卑怯な…!」
以前のアイであれば、この下らないパフォーマンスの間に二人の男を始末していたであろう。
しかし今、アイは迷っていた。ハナとの付き合いはそう長くもないが、情が移ってしまったか。
ハナのボディから何らかの危険な異音が聞こえる! 迷っている暇はない!
「……依頼を受けよう」
苦渋の決断! ハナは拘束されたまま無造作に転がされた。駆け寄ろうとするアイの前にドロイドが立ちはだかる。
「そのドロイドはオフィス向け知能重点タイプですが、耐久性テストを依頼します。すみませんね」
欺瞞! ハリウッドSFの殺戮ロボットを思わせる強靭な合金骨格は無言にして暴力的だ。
「ヨロシク、オネガイシマス」
ドロイドが、無機質な合成音声を発した。
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“女狐の巣”最下層はオワン構造をそのまま活かし、フロア全体が中心に向かって緩やかに傾斜する円形闘技場となっている。
そして今、闘技場中心で向き合う一人と一体! テストの名を借りた傭兵解体ショーの始まりだ!
『それではテスト開始します。攻撃モーションを確かめるのでしばらくお待ちください』
ドロイドは中腰で身構え、前後左右に油断なく正拳突きを繰り出す。数日前にも見たその動きをアイは覚えていた。
「…悪趣味な」
ドロイドから距離をとりつつ、アイは苦々しく呟き……しかし次の瞬間には、その悍ましい事実を頭から追い出した。
彼女が着用しているボディスーツは防弾・防刃性能を有するが、強靭な合金の腕に殴られれば長くは耐えられまい。
余計な感傷が命取りになるであろうことを、アイは戦う前から理解していた。……だが、その時!
「マグネモ!」
正拳突きを繰り出したドロイドの右腕、肘から先が射出! 磁力誘導ナックルだ! 完璧な奇襲!
「なッ!?」
アイは咄嗟に跳躍、致命的打撃を避け……否、反応が僅かに遅れた! 合金マニピュレータがアイの足首を掴む!
「マグネモ!」
ドロイドが右腕を振り上げる! 不可視の磁力ワイヤで引っ張られたナックルは一本釣りめいて急上昇する!
頭に血が上る感覚! 視界が赤く染まる! このまま頭を天井に打ち付けられて死んでしまうのか!?
せめてものガード体勢をとった直後、天井の一部が円形に赤熱、熔解した! 液化天井を突き破り朱色の人影!
「たあーッ!!」
その朱色はシャウトと共に空中前転、勢いを乗せた踵落としをナックルに叩き込む!
極大衝撃にマニピュレータが動作不良を起こし、アイを手放した! 一瞬の浮翌遊感の後アイは落下!
朱色の踊り子ヒーローが手を伸ばしてアイを引き寄せ、そのまま脇に抱えて着地!
「…君は…そうか、君がタカラダ社長救出作戦の」
「《プリミティヴ》、バーニングダンサーです。参考人として詳しく話を聞きたいところだけど…」
「このドロイドをどうにかするのが先、だろう? だが、私の推測が間違いでなければ社長は…」
二人と一体は対峙する。仕切り直しだ。天井の照明がバチバチと音を立てて爆ぜ、訪れる暗闇と静寂。
洋子はアイの言わんとする所を理解した。ドロイドの内奥から、強い無念を感じたのだ。
「でも…それでも、助けます。あの中にタカラダ社長がいるなら!」
「…退くつもりはないようだね。ふむ…さっきの礼というわけでもないが、私も頑張ってみようか」
非常灯が灯ったその瞬間、二人の能力者は敵に向かって跳躍していた!
‐4‐
闘技場を見下ろす特別観覧室。ハナを足先で小突きながら、ジュダマツは上機嫌であった。
オタカラダのヒラ社員に過ぎない彼に“オツカイ”を名乗るルナールエージェントの男が接触したのは一週間前のことだ。
男はジュダマツにタカラダ社長の略取を持ち掛け、成功の暁には相応の地位も約束した。
(このご時勢にオモチャ屋は落ち目だ。社長が消えてルナールに吸収されれば、給料も上がる!)
以前からオタカラダの方針に不満を抱いていたジュダマツに、この提案を拒む理由はなかった。
また、男が社長の生死に言及しなかったことはジュダマツを更なる凶行に駆り立てた。
旧知の闇医者に頼み、タカラダ社長の生体脳をルナールから提供されたドロイドに移植したのだ。
(社長は老い先短いが、機械の体なら不死身だ。じっくりとアイデアを搾り取って、特許で一生安泰!)
彼が“ゴールデン・グース”と呼ぶこの計画は、既に最終局面に入った。
元々使い捨てるつもりだった傭兵と乱入アイドルヒーローの始末も、ドロイド優位の今となっては時間の問題だ。
「オイ、あのアイドルヒーロー妙だ」
共犯者たるオツカイが口を挟んだ。
「いつも近くにいるはずの黒子野郎、姿が見えねぇ。…迎撃するぜ」
オツカイは狐面を脱ぎ捨てた。ガイコツめいて不気味な合金頭部が露わになる。この男もまたドロイド戦士!
オツカイの出撃から三十秒後、特別観覧室の扉が再び開いた。
「早かったですね、何事もありま」
振り返ったジュダマツは凍り付いた。無表情な黒子ヒーローマスクが彼を見下ろしていた。
その左手には、破壊されて間もないオツカイの頭部があった。
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~~~~~~~~~~~~~
「マグネモ!」
一瞬の隙を突いてドロイドの両腕が射出、バーニングダンサーを空中で磔めいて拘束する!
ドロイドの腹部が展開し、何らかの発射口が露出、眩い光を放ち電力を充填!
「シメ・ウチ!」
巨大プラズマ光弾をバーニングダンサーは避けられない! 凄まじい爆発! 彼女の絶叫も光の奔流に掻き消された!
視界が晴れた時、そこにあるのは倒れ伏す洋子の姿だ。炎の装束は消え失せ、ピクリとも動かない。
続いてドロイドは発射口をアイに向ける。その威力は今実証されたばかりだ。
「シメ・ウチ!」
放たれる巨大プラズマ光弾! さらに磁力誘導ナックルが周囲を高速旋回し、鳥籠めいてアイを逃がさない!
光弾が凄まじい爆発! アイの姿が光の中に消え……
「オリハルコン、セパレイション」
涼やかな声が響く。プラズマ光弾が弾け、霧消した。オリハルコン! ……オリハルコン!
「アビスグラップル、ウェイクアップ。…無事で良かった、ハナ」
アビスグラップル無傷! 拘束を解かれたハナが間に合ったのだ!
ハナを取り戻した今、アイに枷はない。アビスグラップルは真正面からドロイドとの距離を詰める!
「マグネモ!」
ドロイドが両肘から先を飛ばす! ダブルナックル! アビスグラップルのナイフがナックルを一刀両断!
「マグネモ!」
ドロイドが両膝から下を飛ばす! ダブルキック! アビスグラップルのナイフがキックを一刀両断!
「シメ・ウチ!」
ドロイドの腹部が展開! プラズマ光弾を
「遅い!」
アビスグラップルの投擲ナイフが磁力浮翌遊するドロイドの腹部を貫通! 発射口が暴発!
勢いは止まらない! 踏み込みからの左パンチが胸部を打つ! 打つ! さらに打つ!
CLASH! 絶え間無く打ち込まれる拳に合金胸郭が破砕! 続く渾身の右パンチがドロイドの胸部を貫通した!
「オノレ…ゾクメ…トミスケニハ、トミスケ…ケケニニ…」
四肢を失いながらも起き上がろうともがく錯乱ドロイドに、アビスグラップルはゆっくりと歩み寄る。
「種をまいた一人である以上、私がケジメを付けなければならない。貴方個人に恨みはないが」
「…恨みがないなら、ちょっと…だけ…待っててもらえませんか…?」
背後から声。先程バーニングダンサーを名乗ったアイドルヒーローだ。辛うじて意識はあるようだが、足取りは覚束ない。
「おや、大した回復力だが…私が止めを刺すから、安心して休んでいてくれ」
洋子は歩みを止めない。アイは肩を竦めて道を空けた。ヒーローという人種には、時として何を言っても無駄なのだ。
「洋子、実行犯は確保した。撤収だ」
エボニーコロモだ。スマキにされたジュダマツを肩に担ぎ、何らかのドロイドの頭部を首刈り族めいて腰からぶら下げている。
「…プロデューサー。タカラダ社長…助けないんですか…?」
「生身の体はもう処分しちまったらしい。そうでなくても、どのみち元には戻れないんだ」
エボニーコロモの声はそのヒーローマスクと同じく無感情だ。淡々と、自分に言い聞かせているようでもある。
「洋子だって、その重傷じゃ放っとくと死ぬぞ。撤収だ。…俺達が出遅れた、それだけだ。仕方ない」
「仕方なくなんてないですっ!」
洋子は無意識の内にエボニーコロモを一喝していた。体の奥底に朱色の灼熱を感じる。これは怒りか、それとも……。
「私は諦めたくない! タカラダ社長も! プロデューサーのことも!」
エボニーコロモは明らかに動揺したようだった。ジュダマツを取り落とし、その場で膝から崩れ落ちた。
「…そのドロイドの中に、タカラダ社長の脳味噌が入ってる。洗脳にハイテック要素は一切無い…だそうだ」
エボニーコロモはそれ以上何も言えなかった。彼は深々と頭を下げ、洋子は振り向かなかった。
やがてエボニーコロモが顔を上げた時、その眼前には石造りの祭壇と、煌々と燃える朱色の炎だけがあった。
‐エピローグ‐
ヨクボはルナールでも五指に入る重役であり、そして今日、オタカラダ玩具の社長補佐に就任する予定であった。
オタカラダ新社長のタカラダ・トミスケは十歳にもならぬ子供であり、補佐とは名ばかりにヨクボが実権を握るのだ。
玩具は廃業、生産ラインを全てヨクボの手中に収め、以てルナール内での発言力をさらに高める。
特権企業を一つ潰すことになるが、それによるデメリットよりメリットの方が遥かに大きい。
「ジュダマツ君、逮捕でなく死んでくれていればもっと良かったが…この際文句は言うまい」
でっぷりと肥えたヨクボの顔に、邪悪な笑みが浮かんだ。彼こそがタカラダ社長失踪事件の黒幕なのだ。
……しかし、ヨクボの企みはルナール上層部に筒抜けであった。
元より不穏分子として密かに監視されていた彼は、この一件により反逆者と断定されたのだ。
狐面処刑サイボーグ部隊が迫りつつあることを、そして明日の新聞が彼の自殺を報じることを、ヨクボはまだ知らない。
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ネオトーキョー一等地の超高層住宅。斉藤洋子は自身の背丈を遥かに超えるコンテナを背負い、三百階を目指す。
「…はぁっ…はぁっ…よいしょっ…」
現在二百階。コンテナが重すぎてエレベータを使えなかったのは誤算だった。体の調子も、まだ万全とはいえない。
それでも洋子は、その荷物を誰でもない自らの手で運びたかった。
「大丈夫 ですか お嬢さん。やはり 私が 自力で …」
コンテナの中から声。アクセントや繋がりがやや不自然なそれは、タカラダ・トミゾの声をサンプリングした音声プログラムだ。
洋子の能力により洗脳を解かれた彼は、孫を守るために二度目の生を望んだ。
破壊されたドロイドの体に、アイドルヒーロー同盟技術者達から新たな手足を与えられたのだ。
「駄目ですっ、トミゾさんが歩いてたら、プレゼントのっ、ワクワクが…っ」
荒い息をつきながら、洋子は階段を上る。三百階まであと少しだ。
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暗い地下駐車場に、一台の軽バンが佇む。黒衣Pは倒した運転席のシートに横たわり、思いを巡らせていた。
脳裏に浮かぶのは、望まず機械の体を与えられ、二度の死を経験したかつての宿敵だ。
自我すら失い、ただ破壊を撒き散らす殺戮人形と化した男と、トミゾ老は同じ道を歩むのではないか。黒衣Pは恐れていた。
それでも彼は、最終的にトミゾ老を信じた。洋子の「大丈夫です」を。
「鍵もかけずに物思いに耽るなんて、聖夜とはいえ緩みすぎだ」
助手席からの声に、黒衣Pは跳ね起きた。傭兵アイがそこにいた。
「…アンタか。悪いが洋子はいない」
「構わないよ。ついさっき、今年最後の仕事が終わったばかりでね。知った顔が見えたから声をかけただけさ」
「そうか。…いろいろ面倒をかけたみたいで悪かったな。おかげ様で、何とか首は繋がってる」
「何のことかな。まあ、ハナには伝えておくよ」
黒衣Pが職を失うことはなかった。
オツカイの頭部に残された記録と差出人不明の記録映像が、タカラダ社長を無事救出することは不可能であったと証明したのだ。
「それで、ヒーローというのは年末もまだ忙しいのかい?」
「他はどうだか知らないが、俺達は今日で仕事納めだ。洋子もまだ本調子じゃないしな」
「噂をすれば、洋子くんだ。…なんだ、意外と元気そうじゃないか。それに…いや、これ以上はよしておこう。じゃあ、良いお年を」
エレベータの扉が開き、洋子が現れた。黒衣Pが再び助手席を見た時、既にアイはいなかった。
洋子は軽バンを見つけ、大きく手を振った。それだけで、黒衣Pには充分だった。
【終わり】
いじょうです
長々とお付き合いいただき申し訳ない
クリスマスにも洋子バースデーにも間に合わないしいつの間にかアイさんメインっぽくなってるし
スペシャルサンクス:
あいさんとありさてんてーに出演していただきました
!ノーティス!
・アイにとって今回の件は小銭稼ぎ程度で済むはずだった。裏切られることなど傭兵の常とはいえ…
・エピローグ時点で12月24日の夜。現状、時系列的には最後か。アイが地上で仕事してても問題はない…はず
乙です
エボニーコロモPと洋子さんみたいな関係もなかなか良いものだ
アイさんがハナに愛着が湧いているのにちょっと和んだ
…でも災難に巻き込まれ過ぎじゃないですかね…アイさん幸運値低め?
乙ー
アイさん大変そうだな…
洋子さんとエボニーコロモはいい感じの仲だねー
お二方乙ー
奈緒ちゃん生還出来たか……
プレシオ様奈緒ちゃんの秘密教えてくださいお願いします
相変わらずエボニーコロモは格好ええのう
アイさんにはもうお疲れ様としか言い様が無いですね(白目)
長くなったけど憤怒の街の太眉堕天使迎撃戦はじまるよー!
「それ」を最初に感じ取ったのは、街の郊外にいた魔法少女だった。
カインド「――――!」
グレイス「何よ……この悪寒……!?」
ファイア「今になって……何か厄介なのが来たようね……」
店長「何だって……!?」
少し遅れて、隣に居た見習い魔法使いも身震いする。
裕美「…………また、何か来たの……!?」
深き者と共生する少女は、黙って空を見据えている。
里美「……………………」
琴歌「里美ちゃん……?」
少し離れた場所で。
謎多き二人は、ただ笑っていた。
周子「おー、元気なのが来たみたいだね。どうする?」
志乃「心配いらないわ。彼女たちなら自力で切り抜けられるでしょう」
街の内部。
少女を見初めた若き神が、不快そうに空をにらみつけた。
若神P「悪魔……じゃない、堕天使か……こんな時にはた迷惑だな……!」
みりあ「だてん、し……?」
マリナ「天国から地獄に落ちて、悪魔みたいになっちゃった天使の事よね。それが来たっての?」
別の場所で。
未熟な魔法使いの少女がパニックを起こす。
さくら「えっ? えっ? ええっ? な、な、何ですかぁ今のお!?」
芽衣子「お、落ち着いてさくらちゃん! 何があったかは知らないけど、とにかく落ち着いて!」
病院で。
普段飄々としているある魔法使いの表情から、笑顔が消えた。
イヴ「……スゴイ邪気ですね~……」
ネネ「い、イヴさん……?」
ここ『憤怒の街』に居る、魔力と関わる全ての者が、「それ」の到来を感じ取った。
「それ」は、神によって強くされた者。
「それ」は、かつて「傲慢」に唆された元・天使。
「それ」は…………。
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亜季「……クッ、キリがないでありますな……」
街の上空。
ある学校の敷地内に集まったカースを、亜季は淡々と狙撃していく。
亜季「チッ、これも弾切れ……回収! マイシスター!」
亜季の手から大型のガトリングガンが消え、別のガトリングガンが現われた。
狙撃が長引き、弾切れを起こす武器が増えてきている。
本部からの弾薬データアップデートは先ほど済まされたばかりだ。
向こうにも他の職務がある以上、こちらのワガママを通してもらうわけにもいかない。
亜季「ガトリングの弾をケチる羽目になるとは……。…………ッ、そこぉ!!」
亜季は突然懐からナイフを一本取り出し、背後へ向けて投擲した。
??「あら。……危ない危ない、当たる所だった」
それをいとも容易く回避したのは、黒い翼を生やした少女だった。
彼女は亜季を無視し、彼方へ飛んでいくナイフをじっと見つめている。
亜季「何者でありますか、お前は……?」
??「あ、私? ……どうしようかな、黙っててもいいけど……」
少女は亜季から目をそむけ、一人で何か呟いている。
亜季「お喋りがお好きなようですな。嫌な気配を隠しきれていないでありますっ!」
亜季が懐から取り出した拳銃を構え、少女へ向けて三度引き金を引いた。
??「……いけない、また口に出てた。いい加減直さなきゃ。あと、隠す気はないのよね」
少女はそれをひょいと避け、腹が立つほどの澄まし顔を亜季へ向けた。
亜季「もう一度聞きます。お前の名は? 所属と目的は?」
拳銃を構えたまま、亜季は少女に問いかける。
??「……うん、悪いけど、名乗る気は……」
「…………アザエル…………!」
どこからか響いてきた、鐘が鳴るような涼しい声で、少女の言葉は遮られた。
千鶴「この声…………参ったな、もう追いついたの?」
松尾千鶴――アザエルは振り向き、また独り言をもらした。
亜季「お前……直す気ないでありましょう。というか、今のは一体……」
アザエルに一言突っ込んでから、亜季も声のした方へ目を向ける。
聖「…………」
グリフォン(雪美)「…………」
そこにいたのは、白い翼を生やした少女、望月聖――ミカエル。
そして、獅子の体躯に鷲の頭と翼を持った幻獣、佐城雪美――グリフォンだった。
千鶴「ミカエル……思ったより早いのね」
腕組みしたアザエルは、聖と雪美に蔑むような、哀れむような目を向けた。
聖「あなたの好きには……させない……」
千鶴「追いつくのは結構だけれど、分かっているでしょう? あなた達じゃ私には勝てないって」
聖「…………」
グリフォン(雪美)「…………」
アザエルの言葉に、二人は反論できず押し黙る。
アザエルの能力、すなわち「自分に向けられた術を先読みし、相手より速くそれを返す」能力。
それがある限り、二人に勝ち目は無いだろう。
聖「…………確かに、私たち『だけ』ではあなたに勝てない。でも…………」
聖はそこで言葉を切り、右手の人差し指をすうっとアザエルの後方へ向けた。
亜季「…………へっ? わ、私でありますか?」
急に指差され、亜季は戸惑う。
聖「そう、あなた。あなたの助けがあれば、きっと勝てる。ここと似た別世界から来た、羽ばたく機兵……」
亜季「! ……知っているのですか? 平行世界の事も、私の事も……」
聖の言葉に、亜季が食いつく。
聖「知っていたわけじゃない……今、知ったの。お願い、助けて」
亜季はその言葉を受けしばし黙っていたが、やがてアザエルに拳銃を向けた。
千鶴「あら?」
亜季「こんな何を信じればいいか分からない状況ですが……お前のその嫌な気配だけははっきりと信じられるであります!」
聖「……ありがとう。私は、聖。この子は……雪美」
亜季「私は大和亜季であります。行きましょう! 聖殿、雪美殿!」
亜季の言葉の直後、聖は雪美の背に飛び乗った。
グリフォン(雪美)「aaaaaaaaaaaaaaa!!!」
咆哮と共に、雪美が鋭い鉤爪をアザエルに突き立てる。しかし、
千鶴「……はぁ、当たるわけないのにね」
アザエルはそれを軽々と回避した。
しかも、ため息と独り言のオマケ付きだ。
亜季「こちらも!」
アザエルの回避地点へ向けて、亜季がガトリングガンを掃射するも、
千鶴「やめておいた方がいいわよ。弾の無駄になるもの」
腕組みしたままのアクロバット飛行で、大道芸のように避けられてしまった。
亜季「くぅっ……速すぎる……! 聖殿、奴に何か弱点は!?」
聖「彼女は……自分を標的とした魔法を先読みして、それを自分の術として撃てるの……相手よりも速く……。
だから、物理的は攻撃ならダメージは与えられる。だけど……」
千鶴「それすら私には当たらないって、今身をもって理解したと思うけど?」
アザエルが聖の言葉を遮る。
聖「ええ……あなたが地上の銃火器の弾よりも速く動けることは、計算外だった……」
亜季「そんな……打つ手無しですか!?」
千鶴「そうなるわね」
アザエルがゆっくりと両腕を広げる。
彼女の両手の平に、大きな黄色い球体が複数出現した。
亜季「カースの核!? しかも、憤怒じゃない……!」
千鶴「そりゃあ、堕天したんだもの。カースくらいは作れるわ」
傲慢を司る黄色い核から黒い泥がみるみる溢れ出し、翼を持った数体のカースになった。
『カァァァァァァァァ!!』
『アオォォォォォォォ!!』
『キィィィィィィィィ!!』
聖「ッ…………」
千鶴「さあ、行きなさ……」
ドシャッ
アザエルが号令をかけるよりも速く、二筋の『銀』がアザエルの両脇に羽ばたくカースを貫いた。
『イァァァァァァ?!』
『ジェアァァァァ!?』
千鶴「…………!?」
聖「…………何…………?」
亜季「……人……?」
亜季が辛うじて捉えた『銀』の正体は、二人の女性だった。
片方は、全身を銀の鎧で包み、右手に一振りの剣を持っている。
もう片方はまだ幼さが残る、少女といっていいほどの年齢に見える。
その両足には、不可思議な銀の靴が履かれていた。
一同が呆気に取られていると、鎧の女性は聖達の前にゆっくりと降下し、靴の少女はマイシスターの上にふわりと着地した。
??「あなたが堕天使ってやつ? 若神P君の言ってた通り、なんか嫌~な感じねえ」
??「幼き少女に怪物をけしかけるなど……その悪行、断じて許せません!」
千鶴「……何よ、あなたたち?」
突然現われた二人に向けて、聖がゆっくりと口を開く。
聖「……遥かな海の底で自由を求めた翼……。……遥かな星の果てから降り立った鋼の舞姫……」
??「あら? お姉さんの事知ってるのかしら?」
??「ええと……何処かでお会いしましたでしょうか?」
二人は不思議そうな表情を浮かべつつも、そのまま言葉を続けた。
マリナ「知ってるなら隠さなくても良さそうね。あたしはマリナ、しがない海底人よ」
琴歌「西園寺琴歌と申します。義によって、皆様に助太刀いたします!」
亜季「あ、これはどうもご丁寧に。私は大和亜季、こちらは聖殿と雪美殿で…………ん?」
二人の自己紹介に返そうとした亜季だったが、ふと「ある事」が引っかかった。
亜季(海底人……? それにあの鎧……まさか)
亜季「ウェンディ族……でありますか?」
マリナ「あら、そっちも知ってたんだ。まあ知ってるなら話は早いわよね。手伝ってあげる!」
言うが早いか、マリナは剣を構えなおし、アザエルに向けて突進していった。
亜季「えっ…………カイを狙っているわけではない……のでしょうか……?」
琴歌「私も! はぁっ!」
思案する亜季をよそに、琴歌もアザエルに向けて飛び掛る。
千鶴「わっと……話が終わったならそう言ってよね、全く……行きなさい」
マリナの剣と琴歌の蹴りを回避した千鶴がカースへ改めて指示を出す。
『ギィィィン!!』
グリフォン(雪美)「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
飛んできたカースの一体に、雪美が喰らいつく。
マリナ「うっひゃあ、ド迫力……っとぉ!」
マリナはカースの突進を回避し、そこへハンドガンを数発撃ち込んだ。
『ギェィィィ!?』
ヴーン ヴーン
『ガオッ! ギッ! ゴアアア!!』
マイシスターが高速で飛びまわり、一体のカースを翻弄する。
琴歌「やああっ!!」
宙を蹴って舞う琴歌の鋭い廻し蹴りが、カース三体の体を纏めて両断する。
『タッ!?』
『トッ!?』
『バァァァッ!?』
亜季「マイシスター、回収! ならば私は、これで!」
味方が増えて誤射を警戒した亜季はガトリングガンを回収させ、懐からビームソードを取り出した。
亜季「せぇやああああっ!!」
そのままビームソードをアザエルへ振り下ろす。
千鶴「ッ……今のは少し危なかったか。ハッ!」
間一髪でビームソードを回避したアザエルの手の平から放たれた黒い光弾が、亜季の腹に直撃する。
亜季「ぐぅっ……!?」
マリナ「亜季ちゃん!」
琴歌「亜季さん!」
二人がハンドガンと飛び蹴りで救援に入るも、アザエルはそれすら回避してみせた。
千鶴「頭数が増えても、結局は同じよね。フンッ!!」
アザエルが両腕をバッと広げると、彼女の周囲に無数の黒い光弾が浮かんだ。
千鶴「……消えなさい」
アザエルが指をパチンと鳴らすと、その光弾が一斉に弾け、亜季達を襲った。
亜季「っ! マイシスター!!」
亜季の号令で、マイシスターが三枚の大きな鉄板を射出する。
一枚は琴歌へ、一枚は聖と雪美へ、最後の一枚はマリナへ。
射出の直後にマイシスターは琴歌の背後へ回り、亜季もマリナの元へ急ぐ。が、
亜季「うぁあああああっ!?」
マリナ「亜季ちゃん!?」
寸でのところで間に合わず、無数の光弾が亜季を襲った。
琴歌「亜季さん! っはぁ!!」
琴歌が鉄板をアザエルへと蹴飛ばす。
千鶴「だから、無駄だって言うのに」
アザエルは最早、避けもしない。
次々と黒い光弾で鉄板を穿ち、ただの鉄屑へと変えた。
亜季「…………クッ……!」
マリナ「……ねえ、誰か魔法の心得とかあったりしない? それなら……」
マリナの言葉に、聖が小さく首を振る。
聖「駄目……彼女は、相手の魔法を先取り出来るの……」
琴歌「そんな……!」
千鶴「ええ、そうね。一部魔法の弾速なら私を捉えられるかも知れないけど……」
亜季「魔法は、そのまま奴の攻撃になる……!」
マリナ「ちょっと、これって滅茶苦茶やばくない?」
今まで余裕ぶっていたマリナの顔に、焦りの色が見える。
琴歌はマイシスターの上から、ただアザエルをにらみつけている。
亜季は腹部を押さえながら、なおもビームソードを構えた。
千鶴「……はぁ。そろそろ、お喋りはおしまいにしないかしら?」
大きなため息をついて、アザエルは再び無数の黒い光弾を生み出す。
亜季「ッ! ま、まずい!」
亜季唯一の防御手段、三枚の鉄板は今しがたボロボロに破壊されたばかり。
あの無数の光弾を、防ぐ術は無い。
千鶴「ふふふ…………」
アザエルは嘲り、指を盛大に鳴ら……
ズドッ
千鶴「…………え?」
呆然とした表情を浮かべるアザエル。
アザエルの集中が途切れた為か、光弾も次々と消えていく。
千鶴「…………は、はぁぁぁぁっ!?」
自分の体に何が起こったかを大体把握したアザエルは絶叫した。
右の翼に、丸い穴が空いている。それも、比較的大きな。
羽の乱れ方からして、「何か」が飛んできたのはアザエルの真後ろ。
聖「…………清らかなる、一矢…………」
アザエルが振り向くと、遥かな彼方。街の郊外に、「何か」を撃った人物がいた。
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グレイス「……ひゅう」
エンジェリックグレイス――兵藤レナが小さく肩を竦める。
ファイア「カインディングアロー……相変わらずの命中精度ね」
カインド「いえ……本当は、体を狙ったんですけど……僅かに逸れてしまって……」
ベテラン魔法少女、エンジェリックカインドこと三船美優。
彼女の放った光の矢……カインディングアローが、遥か遠方に浮くアザエルの翼を穿ったのだ。
店長「いやいや、当てるだけでも大したものだろう。……そら、敵さんの反撃だ!」
店長――シビルマスクの言葉の直後、無数の黒い光弾がこちらへ向けて飛来してきた。
ファイア「任せて。ファイアズムサイズ、リフレクト!」
前に進み出たエンジェリックファイア――服部瞳子が、手に持った黒い炎の鎌を高速で回転させる。
その鎌が、飛んでくる光弾を次々と弾き飛ばした。
グレイス「んー、パターンが単調ね。頭に血が上ってるのかしら?」
店長「それだったら、あっちの連中も多少は楽になるかな?」
店長はそう言って目を細め、光弾が飛んでくる方向を見据えた。
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千鶴「このっ! このっ! このっ! このぉっ!!」
結論から言えば、グレイスの言葉は当たっていた。
アザエルは目の前の聖達に目もくれず、闇雲に郊外へ向けて光弾を乱射している。
聖「…………分かった。彼女の能力の、弱点」
アザエルに聞こえないよう、聖は小さく口を開いた。
琴歌「弱点……?」
マリナ「今の矢で、分かったっての?」
琴歌とマリナが、それに同じく小声で聞き返した。
聖「今の矢も、魔法と似た性質を持つモノ。だから…………」
亜季「…………そういうわけでありますか」
納得のいった様子で亜季が頷く。
聖「みんなは……彼女の注意を引いて。彼女が、足元を気にする暇が無いくらいに……」
亜季「了解しました。琴歌殿、マリナ殿、ごにょごにょごにょごにょ……」
亜季が琴歌とマリナにそっと耳打ちすると、二人は大きく頷いた。
マリナ「ええ、それで行きましょう」
琴歌「当てられないなら……ということですわね」
聖「雪美も……お願いね」
グリフォン(雪美)「a」
雪美の返事を聞いた聖は少し微笑み、雪美の背を降りた。
亜季「行きますよ……すぅっ……マイシスター!!」
亜季の大声に反応してマイシスターが二門のバズーカを射出し、アザエルが振り向く。
千鶴「ッ……、はぁ、また何かする気? 言っておくけど、無駄よ」
亜季「やってみれば分かるでありますよ! ファイアー!!」
亜季は両腕に構えたバズーカの引き金を引き、計六発の弾頭を発射した。しかし、
千鶴「……ねぇ、当てる気あるの?」
アザエルが回避するまでもなく、バズーカの弾は六発とも、まるで見当違いな方向に飛んでいく。
しかし亜季は慌てない。それどころか、にぃっと笑みさえ見せた。
亜季「コイツを当てる気なんて、さらさら無いでありますよ! ……今です!!」
亜季の言葉で、琴歌、マリナ、雪美が飛び出した。
千鶴「陽動!? でも避けられない訳じゃ…………えっ?」
咄嗟に回避しようとしたアザエルだったが、誰一人としてアザエルの方へは向かってこない。
琴歌も、マリナも、雪美も。飛んでいくバズーカ弾を追いかけていく。
千鶴「え? な、何? 何なの?」
その光景を唖然としながら見つめるアザエル。
亜季「…………聖殿、今のうちに」
聖「ええ…………」
その隙に、亜季がそっと聖に耳打ちする。
アザエルの足元に、じゃら、と小さく金属音が鳴ったが、当のアザエルはそれに一切気付いていない。
やがて、三人がバズーカ弾に追いついた。
琴歌「やあっ!!」
マリナ「それっ!!」
グリフォン(雪美)「aaa!!」
琴歌が足で、マリナが剣の腹で、雪美が爪でバズーカ弾を弾き飛ばした。
弾かれたバズーカ弾六発が、一斉にアザエルへ向けて飛んでくる。
千鶴「……なるほど、陽動に陽動を重ねたってわけ。でも、叩く力が強すぎたんじゃないかしら?」
アザエルは頬を掻きながら、問いかけとも独り言ともつかない言葉を漏らす。
千鶴「あれじゃ私に届く前に爆発するわよ。…………ほら」
アザエルの言葉どおり、バズーカ弾はアザエルに届くより遥かに速く爆発した。
その爆風も、アザエルには微かに届かない。
千鶴「……さて、万策尽き果てたって感……きゃあっ!?」
亜季と聖の方へ向き直ろうとしたアザエルが、突然叫び声をあげた。
アザエルの体は、突如足元から這い上がった金色の鎖で、瞬く間に雁字搦めにされてしまっていたのだ。
千鶴「これはっ……大天使の鎖……!?」
亜季「言ったでありましょう、コイツを当てる気はさらさら無いと」
亜季が得意げにビームサーベルを仕舞い、ナイフを取り出す。
聖「あなたは、『陽動に陽動を重ねた』って言ったけど……ちょっと違う……」
突き出した手の平から金の光を放ち続ける聖の下へ、琴歌、マリナ、雪美が戻ってくる。
聖「陽動に陽動を重ねて、そこにもう一つ……陽動を重ねたの」
マリナ「反撃のきっかけは、さっきの聖なる矢の一撃をあなたが喰らった事ね」
琴歌「聖ちゃんはそこから、あなたの能力の弱点を見つけ出したのです」
聖「……あなたは、『自分に向けられている』と認識できた魔法しか、先取ることが出来ない」
千鶴「…………!!」
聖にピタリと言い当てられ、アザエルの顔が青ざめる。
亜季「そこでまず、お前に認識されずに拘束の魔法を撃つ必要があったのであります」
千鶴「その為に……あんなに回りくどい手を……!?」
マリナ「まあ、バズーカも当たったら当たったで良かったんだけどね」
琴歌「少し、強く蹴りすぎてしまいました」
グリフォン(雪美)「a」
亜季「いえいえ、お三方ともグッジョブでしたよ」
バツの悪そうに笑う二人と、申し訳無さそうに頭を下げる雪美へ、亜季はグッとサムズアップを送った。
千鶴「クッ……!!」
その光景を、アザエルは恨めしそうににらみつけた。
マリナ「さて、トドメいっちゃいましょうか!」
マリナの鎧の一部が、サーフボード状に変形する。
聖「ええ。…………」
聖の手の平から溢れる光の粒子が、亜季のナイフを、琴歌の脚を、マリナのボードを包んでいった。
亜季「これは……」
聖「『魔力を吹き飛ばす魔法』……それとほぼ同じもの。魔法と物理の複合なら……彼女にも届くはず」
琴歌「そういうことでしたら…………はぁっ!!」
マリナ「いやっほう!! スプラァァァッシュ……」
亜季「おおっ!!」
三人が光の粒子を纏ったまま、アザエルを取り囲むように飛び回る。そして、
琴歌「やあああああああっ!!」
マリナ「ストライィィィィクッ!!」
亜季「でぇああああああっ!!」
三つの『魔力を奪う一撃』が、三方向から同時にアザエルに襲い掛かった。
千鶴「きゃああああああああああああああああっ!!?!!?」
爆風と絶叫の中に、アザエルの姿は消えた。
マリナ「ふぅー……やったか、でいいのかしら?」
聖の下へ降り立った三人の内、マリナがそう口を開く。
聖「いいえ。まだ死んではいない……けど、あれだけの魔力を一気に失えば……当分は、何も出来ないはず……」
琴歌「残った魔力を振り絞って、ワープ魔法を唱えた……ということでしょうか?」
聖「そのはず……」
琴歌の言葉に、聖がゆっくり頷いた。
亜季「……いやしかし、大変な強敵でしたな。雪美殿も、お疲れ様でありま……あれ?」
雪美「…………」
亜季が隣で羽ばたくグリフォンの方を見やると、グリフォンは小さな少女へとその姿を変えていた。
琴歌「これが、雪美ちゃんの本来のお姿……ですか?」
マリナ「あら、可愛い」
雪美「……ひじ、り……」
雪美はふらふらと飛びながら、聖に抱きついた。
聖「……疲れたよね。うん、ゆっくり休んでていいから、ね……」
雪美「…………分かった…………すぅ……」
そのまま雪美は、聖の腕の中ですやすやと寝息を立て始めた。
聖「ふふ…………ぁ」
直後、聖の体が大きくふらつき、慌てたマリナに支えられた。
マリナ「ぉ危なっ! ……あらら、聖ちゃんもお疲れだったみたいね」
マリナの言葉どおり、聖も雪美を抱きしめたまま深い眠りに落ちている。
琴歌「どこか、安全な場所へ運んでさしあげましょう」
マリナ「だったら、あそこに病院があったわよ。何人か能力者もいたみたいだし、あたしの家族も今そこにいるの」
マリナが指差した先には、少し遠いが確かに赤い十字の看板が見えた。
琴歌「決まりですわね」
亜季「あー、それではお二人のことはマリナ殿と琴歌殿にお任せしても構いませんか?」
亜季が申し訳無さそうに口を開いた。
亜季「どうも街の中は機械が正常に作動しないらしく、サイボーグである私が街へ降りるのは、少々危険なのです」
マリナ「そういうことなら、任せて」
琴歌「私たちが責任を持って、お二人をお守りします。では」
そう言うとマリナは雪美を、琴歌は聖を抱きかかえ、ゆっくりと病院の方角へと飛んでいった。
亜季「お二人とも、お達者で! ……さて、マイシスターもお疲れ様であります」
ヴーン ヴーン
亜季「ん?」
マイシスターからのサインで、亜季はある事に気付いた。
亜季「弾薬がアップデートされている……そ、そんなに長い間戦っていたのでありますか……」
幸か不幸か、アザエルとの戦いが長引いた結果、弾薬データ更新の時間が来ていたのだ。
亜季「……まあ、結果オーライでありましょう。行きましょう、マイシスター!」
亜季はマイシスターから射出されたスナイパーライフルを手に取った。
亜季「ハッ!」
そしてそのまま、校庭で戦う高峯のあの背後に迫るカースを狙撃し、撃破した。
続く
・イベント追加情報
アザエルが亜季、聖、雪美、琴歌、マリナ、美優によって撃退されました。
マリナと琴歌が、眠る聖と雪美を連れて病院へ向かっています。
若神Pとみりあが病院に来ています。
以上です
アザエルの能力に個人的解釈に基づく弱点をつけましたが、
こうでもしないと帰ってくれなさそうだったんですこの子(白目)
美優、レナ、瞳子、店長、裕美、里美、琴歌、周子、志乃、さくら、芽衣子、イヴ、ネネ、
千鶴、聖、雪美、名前だけのあお借りしました(登場順)、今更だけど多いなちくしょう
間違えた
瞳子は借りてないわ
乙です
アザエル千鶴撃退成功!やっぱ強いわ(確信)
弱点発覚して、なんとか撃退だもんなぁ
乙ー
アザエルやっぱり強い(確信
一対多数とはいえ油断してたからなんとか勝てたけど、自分の弱点を理解して最初から本気だしてたらと考えると怖いな…
皆さん乙デスヨー
奈緒ちゃんの潜入調査がドキドキだったり
アイさん働きまくりマジ有能だったり
さりげなく亜里沙先生に出番があったり
迷子かと思ってたアザエルちゃんマジ強かったり
アイドル達の活躍にうきうきしてる
では投下しますー
前回までのあらすじ
UB「私ノ名前ハUnlimitedBox」
UB「研究者100人分ノ英知ヲ搭載シタ櫻井財閥製ノ『カースドスーパーコンピューター』ダ」
桃華「やっぱりサクライ!百人乗っても大丈夫ですわっ!」
UB「ちょっ、物理的に乗せようとするのはやめっ!無理!無理だからっ!」
参考
桃華とUnlimitedBox
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/909-)
『このように秋炎絢爛祭は今年も人で賑わっており~』
テレビの中のレポーターは、人ごみに翻弄されながらも、
祭りの様子を視聴者にお届けするため、大きな身振り手振りを交えながら、
懸命にざわめきに負けない様に声を張り上げている。
菲菲「ふんふん」
それを見つめて頷くは1人の魔神。
ソファーにゆったりと身体をあずけ、テレビに映る景色を興味深げに眺めている。
計り知れぬ者アモンこと楊菲菲のために、櫻井財閥が用意した彼女の拠点たる住居のその私室には、
彼女が”人間”として暮らすのに何一つ不自由なく過ごすための生活用品が一通り揃っていた。
おかげで彼女が地上の一般常識を身につけるのに、一切苦労しなかったものだ。
菲菲「その点ではマンモンちゃんに感謝ダヨー」
菲菲「それにしてもみんな楽しそうだネー」
テレビを見ながら魔神は呟く。
魔神は、お祭りが大好きであった。元は人々に祭られる神々の集合であるが故だろうか。
とにかく生まれついての性分のようなもので、人々が騒がしくしているのが彼女は好きなのだった。
菲菲「祟り場の時もなかなかよかったヨー」
菲菲「……そう言えば、あの時はなんだか知り合いを見かけた気もするネ?」
当時は変なテンションになっていたためうろ覚えであったが、
思えば、魔界出身の知り合いと遭遇してたような気がする。
一瞬、思い出そうと試みたが、
菲菲「……ま、いっかー」
すぐに諦めた。
この魔神、適当であった。
『あっ、あちらには変……独特な格好をされた方もいますねー』
『え?何時間もずっとあの場所に…?か、関わらないほうがよさそうですねぇー」
テレビには一瞬、ベンチに座る奇妙な井出達の男が写ったが、
お茶の間には似つかわしくないと判断したのか、すぐに場面が移り変わるのだった。
菲菲「……」
菲菲「ふぇいふぇいも行こうかなー」
聞く者が聞けば飛び退き驚くような独り言を漏らす魔神。
菲菲「うーん、ふぇいふぇいが出かけたらマンモンちゃんは嫌がるだろうけど……」
自分を利用する気満々の悪魔に気を使う必要などはなくとも、多少の恩はある。
勝手な行動を取るのはほんの少し悪い気もするのだ。
菲菲「……いっそマンモンちゃんも巻き込んじゃおうカナ?」
悪い気なんて言うのは、一瞬しただけであったが。
菲菲「地下施設で神様殺しの武器を作るのに一生懸命みたいだけれど」
菲菲「あんな所に籠ってたら健康にも悪いネ!」
『強欲』の証の所在を通じて、彼女が何処にいるのかは初代『強欲』の悪魔たる魔神にはわかる。
彼女が何をしようとしているのかも、だいたい予想はできていた。
菲菲「よし!」
少女は掛け声をあげて、立ち上がる。
菲菲「そうと決まれば善は急げダヨー!」
かくして魔神は、地下に引きこもる『強欲』の悪魔の元へと向かうのだった。
――
――
――
UB「――『裏切り』、でゴザイますか?」
抑揚の無い機械音声が室内に響く。
桃華「ええ、その子に相応しい名前ですわね♪」
くつくつと上機嫌に笑いながら『強欲』の悪魔は言葉を紡ぐ。
彼女の目線の先には、透明な筒のような機材の中に満たされた無色の液体の中で、
ぷかぷかと白銀の宝石の様な玉が浮かんでいる。
それの、暫定的な名前は『劣化原罪』。
そして今、新たに名づけられた名前は『裏切り』。
『裏切り』のカースの核。
UB「確カに、相応しクハあるでショウネ」
感情のこもらない声が、桃華の言葉に同意した。
UB「偽造と偽装、そしてアラユル真実ヘノ反逆こそ、ソの呪いの力」
UB「そレユエにお嬢様の”支配能力”さえも拒絶シタ」
UB「首輪をつけるコトサエままならない」
UB「だから『裏切り』……ナノデショウ?」
機材の中で濁った煌きを放つ呪い。
それは、性能を測る実験の最中に、『強欲』の悪魔の力でさえも退けたのだった。
UB「今は負のエネルギーの供給を絶つ事で、ドウニカ抑えてはイマスが……」
UB「再び、エネルギーヲ送り再活動を始メタ場合には、その暴走ハ免れナイでしょう」
到底、制御は不可能。強欲なる英知を搭載したカースドコンピューターが、そう結論をだす。
それはその核の内に眠る力の異質さを意味していた。
UB「シカシ……改めて名前をツケタと言う事は」
UB「お嬢様はあくまでコレを利用サレルつもりのようだ?」
カースドコンピューター、UBは推測する。
名前を付けたと言う事は、然るに、それに価値を見出したと言う事。
それが彼女にとって必要なものであると言う事。
桃華「ええ、求めていたものよりも劣り、」
桃華「さらにはわたくしの支配さえも跳ね除ける、とんだじゃじゃ馬でしたけれど」
桃華「わたくしの願いを叶えるためには……きっとこの子はとても有益ですわ」
桃華「そう、わたくしの目的は『神様を裏切る』ことに他ならないのですもの」
彼女の魂を捕らえるため、あるいは彼女の野望を阻止するため、
この世界には幾つかの神々が動いている。
そして彼女の願いは、その神々に囚われないこと。
神の力、絶対の法、世界の理から背くことが『強欲』なる悪魔の願いであった。
それは即ち、神への、創造主への裏切りを意味する。
UB「神と呼ばレル者達の支配カラの逸脱コソ、お嬢様の目的」
UB「故に、お嬢様は『原罪』を求めタわけですが」
UB「なるほど、その域まで至っテハおらずとも」
UB「アらゆル力を拒絶スルこれであるならば、確かに求める結果ニ届きうるのかもしれマセン」
異質なる『裏切り』の呪いの力。
彼女の言うとおり、この力であるならば神の造りだした法に抗うことも可能なのかもしれない。
UB「ただし、その手綱をうまく操レルならばデスが」
桃華「問題ありませんわ、なぜなら……うふふっ」
問題はない。UBの指摘に悪魔は不敵に笑って答えたのだった。
桃華「UBちゃま、そもそも『裏切り』と呼ばれる行為がどのような時におきるのかお分かりになるかしら?」
にこやかな笑みを浮かべたまま桃華はそんな質問を、目の前の機械に投げかける。
UB「……」
口元は笑みを浮かべながらも、
その視線、その目つきは、何かを値踏みしているかのようである。
その問いに対して、それがどのように答えるのか、測っているかのようであった。
UB「……そうデすね」
わずかな思案の後、UBは答える。
UB「『共生することを止める事でメリットを得られる』と判断シタ時デハ?」
桃華「……ウフッ♪」
桃華「UBちゃまは面白い言い方をしますわね」
桃華「ですが、かねがねその通りですわよっ♪」
その答えは、どうやら悪魔にとって満足のいく答えであったようだ。
桃華「同盟を破棄するのも、約束を破るのも」
桃華「そこにそうするべきメリットがあるからですわね」
それが彼女の問いかけの答え。
メリット、利益の存在こそが人を裏切りと言う行為に走らせると彼女は言う。
桃華「つまり『裏切り』は、”欲望が強まった”時にこそおこるのですわ」
桃華「人は『強欲』に求めるからこそ、他人を『裏切り』ますの」
UB「ふむ……なるほど」
UB「お嬢様の考えデハ、『裏切り』ハ『強欲』カラ生まれる物であルと」
桃華「そうですわ!だからこそわたくしは、『強欲』から生まれたこの子に『裏切り』と名づける事にしましたの♪」
『裏切り』は、人が『強欲』であるが故に生まれるもの。
核の製造にあたって、『強欲』が強すぎた為に『原罪』に至れず偶然出来たそれは、
まさに彼女にとって、『裏切り』の核であったのだろう。
桃華「うふふっ♪わたくしを裏切るほどまでに強い欲望……」
桃華「だからこそ期待もできると言うものですわ」
UB「っくっく……人は欲望故に裏切るデスか」
UB「ソレハ、マルでお嬢様の配下達の話デもあるようですが?」
ここまで桃華の話を聞いて、UBはさらに指摘した。
その声には相変らず抑揚は無いが、わずかに笑っているかのようにも聞こえる。
桃華「確かに……財閥の内側には……わたくし達の一番の駒である『エージェント』達の中にさえも」
桃華「自分自身の野望の為に、このわたくしを出し抜こうと企んでいる方達も少なくないようですわ……」
櫻井財閥と言う組織の内側に潜む裏切り者の存在。
彼らは今も虎視眈々と、財閥を支配する『強欲』なる親子の隙を伺っている事だろう。
桃華「……うふっ♪」
桃華「ですが、わたくしはそれも結構な事だと考えていますのよ」
桃華「いいえ……きっと、そうでなくては意味がないのですわ」
桃華「…………聖來さん、チナミさん、爛さん」
桃華「皆様、求める物は違えども、その心の内には確かな欲望を宿していますわ」
桃華「そして欲しい物を得る為に必要な力もまた確かに備えていますのよ」
桃華「力は、求める方の手中にこそ収まるものですから」
桃華「うふふっ♪わたくしはそんな『強欲』な方達だからこそ仕えさせるに相応しいと考えていますの♪」
彼女の配下は、それぞれ異なった思惑があって彼女の組織に従っている。
例えば「知らない世界を旅したい」、例えば「みんなに認められる魔法使いになりたい」、
小さな願望があって、大きな野望があって、確かな希望を求め、それを叶える為に己の意志で行動している。
だからこそ、価値がある。
己の『欲望』のために行動できる者達だからこそ仕えさせる意味がある。
たとえ、その『欲望』が強すぎるために『裏切り』の刃を向けるのだとしても、
『強欲』たる悪魔にとって、それも望むところなのだろう。
桃華「人間は『欲望』を得たからこそ、ここまで進化する事ができましたわ……」
桃華「『欲望』に忠実であるからこそ……神の言いつけさえ裏切って、確かな『知恵』を手にする事ができたのですから」
桃華「まあ、それに……もし彼女達がわたくしを裏切ろうとしても」
桃華「その『欲望』がある限り……彼女達の力はわたくしの手中」
桃華「ふふっ♪」
UB「……『裏切り』から『強欲』から生まれルモノ……であるナラバ、」
UB「お嬢様はそレらをコントロールし管理する事がデキルと言う事デスか」
UB「それが人間でアッタトしても」
UB「そしてカースであったとシテモ」
桃華「うふっ♪ええ、その通り」
桃華「わたくしにとって大事なのはその心の内に宿す欲望、わたくしやPちゃまに対する忠誠心などは二の次でいいのですわ♪」
UB「……」
桃華「『強欲』は望む力にして臨む力」
桃華「何かを手にするために立ち向かえる者だけが、あらゆる結果を手にする権利を得ますの」
過剰すぎるまでの自信は、少女のうちに宿る強大な『欲望』の表れ。
彼女が求める心はきっと誰よりも強い。何故なら、
桃華「わたくしは『強欲』を司る悪魔、ですから世界の全てはわたくしのもの」
桃華「すべての『欲望』そして『裏切り』さえも支配して、必ず神様もわたくしの足元に仕えさせて魅せますわ♪」
誰よりも『強欲』なる悪魔は『裏切り』の核を静かに見つめ、そして優しく微笑んだ。
桃華「そうそう、UBちゃま」
桃華「当然わたくしはあなたの『欲望』にも期待していますのよ?」
桃華「あなたに搭載した『英知』。使い捨てるつもりはないのですからね?」
『強欲』の悪魔は期待する。
その手で機械の箱の内に閉じ込めた『強欲なる英知』に対しても。
UB「……買いカブリ過ぎでしょう、この箱から出るコトサエ叶わぬ私の事を」
コンピューターからはやはり気持ちの籠らない機械音声が響く。
桃華「そんな事ありませんわよ」
抑揚の無い謙遜の言葉にも、少女はどこか優しく言葉を返した。
桃華「あなたはわたくしの産み出した『強欲』のカース」
桃華「その欲望も必ず、あなたを進化させますわ♪」
桃華「じっくりと……お考えなさいな、その箱から出る方法を」
桃華「その『欲望』が本物ならば、外側から掛けた鍵を内側から開けることも可能かもしれないのですから」
桃華「もちろん、わたくしも簡単には裏切らせるつもりはありませんけれど…うふふっ♪」
UB「……ご期待ニ添えるものカハわかりませんが、セイゼイ足掻いてみましょう」
桃華「ええ、頑張りなさいな」
その激励の言葉をもって、話を区切ると少女は席を立った。
UB「……オヤ?どこに行かレルおツモリです?」
桃華「フェイフェイさんが、こちらに向かってきていますわ」
『強欲』の証を通じて、初代『強欲』の悪魔である彼女の所在を、桃華は知ることが出来た。
目的はわからないが、どうにもこちらに向かってきているらしい事も。
桃華「この場所は侵入者への対策をそれはもう山のように用意してはいますけれど」
桃華「あの方ならば、真正面から突破してせっかく用意したそれらを破壊しかねませんもの……」
桃華「それに……万一彼女を追跡する者が居て、この場所が外に漏れる事は避けなくてはいけませんし」
初代『強欲』の悪魔である魔神は強大な力を持っている。多少の障害などはまったく問題としない。
それ故に細やかな点で配慮に欠ける。もし追跡者が居たとするならその存在に気づかないか、気づいても放置する可能性が高い。
彼女をここまで辿り着かせるのは、当代『強欲』の悪魔にとっては高いリスクがあった。
桃華「まあ、フェイフェイさんはわたくしにご用があるのでしょうから」
桃華「わたくしの方から外に出て、お迎えにあがることにしますわ」
UB「外に出られマスカ、それは珍シイ」
UB「リスク回避のタメニハ、ソレも致し方無しなのデショウが」
UB「しかし、この地下から出てシマって神々の目は誤魔化セルノデ?」
『強欲』の悪魔があえて地下に籠り続けている理由。
それは、そこが安全地帯であるからである。
天から見下ろす神の眼を極力避ける為に用意した場所。
当然そこから出てしまっては、彼女の安全は保障されない。
桃華「……それなのですけれど」
桃華「最近になってようやく、あの不快な男と女神の情報源がわかりましたのよ」
UB「ほう?そんな事よく調べる事がデキマしたね」
桃華「言いましたでしょう?欲すればこそ手に届く」
桃華「ふふっ、財閥の人材の力を甘くみてはいけませんわよ♪」
桃華「……『神様新聞』、それが彼らの情報源」
UB「ほう、新聞デスか」
桃華「そう、新聞ですわ」
UB「なるほど、神の物と言えどソレが新聞でアルト言うならば、」
UB「刊行されてから実際に情報ガ手に届くマデニ、タイムラグがアルのは自明の理」
桃華「何より記事になるほどセンセーショナルな話題でなければ、注目される事さえ無いと言う事」
桃華「つまりは……」
少しだけもったいぶってから、彼女は結論を出す。
桃華「目立たなければいいのですわ♪」
そう言って、彼女は何処からか『眼鏡』を取り出してかけた。
屋外で、神の目を誤魔化すため、
どうやら変装をして、出かけるつもりらしい。
UB「ナるホど……しかし、危険ニハ変わりません」
UB「消失が確認サレタ失敗作とその監視に付けていたエージェントの死亡」
UB「それらの件カラ、お嬢様に繋ガル情報がお嬢様の敵に漏れテイル可能性もアリマス」
UB「何より……地上をウロツク死神にはご注意のホドを」
彼女の敵は多い。一度外に出れば、狙われる事もあるだろう。
桃華「UBちゃま。確かにわたくしは七罪の悪魔一と言っていいほどにかよわいですけれど」
桃華「この『欲望』は誰にも負けないつもりですのよ」
桃華「財閥の情報……わたくしの自由……」
桃華「どこぞのどなたかに…わたくしのものが奪われてばかりと言うのも、つまらないお話ですわよね?」
桃華「……わたくしは『強欲』を司る悪魔、そして世界の全てはわたくしのもの」
桃華「奪われたものは、当然すべて奪い返しますわっ!」
彼女は力強く宣言した。
桃華「こほん……とは言え」
桃華「さきほども言ったように”今は”目立つつもりはありませんし」
桃華「フェイフェイさんのご用が済んだら、すぐに帰ってくるつもりですから心配の必要はありませんわよ」
桃華「では、行ってきますわね♪」
そう言って、席から離れると
少女はこの部屋に存在する唯一の出口へと向かい、
魔術を用いて、硬く閉ざされた扉を開く。
桃華「ああ、そうですわ」
そして開いた扉の前に立つ少女は思い出したかのように振り向いた。
桃華「わたくしが不在の間、UBちゃまには『裏切り』の核のさらなる製造を頼んでおきますわね」
UB「……」
UB「……失礼なガラ、正気デスカ?」
桃華「ふふっ♪できない事はないでしょう?材料も余っていますし」
桃華「一度作った物ならば、機械を操るあなたに再現は容易なはずですわ」
UB「……もちろん可能ですが、問題は」
桃華「多少のリスクがあったとしても、わたくしの目的を果たすためには少し数が必要になりますのよ」
UB「……」
桃華「心配ありませんわ。きっと何もかも、悪いようにはなりませんから…うふふっ♪」
桃華「それではよろしくお願いしますわね、UBちゃま」
上機嫌に言い残すと、彼女は身支度を整えるため、
地下施設から出て行くのであった。
――
――
少女が部屋を出ると、扉は大きな音を立てて再び硬く閉ざされる。
扉はハイテクとオカルトを重ねた幾つものロックによって、限られた者にしか開けない仕組みだ。
UB「……やれやれ」
暗い地下室の中、ただ一つの声だけが響く。
呆れたような、面白がるような、そんな思いの籠った声。
UB「お嬢様は本気で君の力を計画に組み込むつもりらしい」
「……」
機械の箱の内側から理知的な声が響く。
しかし『強欲』の少女が外に出てしまい、その声に返事をする者は誰もいない。
UB「しかしそれは私にとって……いや、私達にとって僥倖」
UB「君の力の有用性、お嬢様と同じくして私も正しく理解しているつもりだ」
「……」
声は誰に向けられたものだろうか。
室内に存在する物はと言えば、強欲と英知を抱える呪われたコンピューターとそして……
UB「真実に対する反逆の力、問題を解く鍵はすぐそこに……」
UB「っくっく、君はどうする?」
「……」
『裏切り』と名付けられた呪いは静かに時を待つ。
おしまい
『《裏切り》の核』
桃華の命令で、”Unlimited Box”が作り出したカースの核。『原罪』に近かったが、至らなかった。『劣化原罪』。
偽造と偽装、そしてあらゆる真実に対する反逆こそがその呪いの力である。
『正体隠しの眼鏡』
マジックアイテム。『正体隠しのサングラス』と効果はほぼ同様。
掛けると、人物としての存在感が消え、他者から顔を認識されづらくなる。
また、自信の持つ力の気配を隠す効果もあり。これによって悪魔だとは一目で見抜かれないが、
しかし、力を行使するたびにこの効果は急激に薄れていく。
櫻井桃華は有名人であるため、これを掛けないと満足に外出もできないご様子。
このアイテムを本人はなかなか気に入っているようです。あら…ポワワ…。
◆方針
菲菲……学園祭に興味津々
桃華……外に出ます
UB……外に出たいです
ちゃま、再び引きこもり生活を卒業するお話。
今度はどうなってしまうことだろう
学祭にしれっと強欲組が紛れてるかも?
乙ー
ちゃま…メガネ……………あっ!(察し
にしても裏切りとUBがどう動くのかな?
乙です
メガネ…フラグですねわかります
裏切りのカースか、嫌な予感しかしないわ
しかも量産体制に入ってらっしゃる
乙です。
裏切りとUBの動向が気になる……。そして学園祭に着々と旧大罪の悪魔が集結してる気がする。
投下します。時系列は学園祭二日目です。学園祭に旧大罪の悪魔が(白目)
多くの人で賑わう秋炎絢爛祭。
その上空を飛ぶ影がひとつ。
茶色がかかった髪をなびかせ、白いコートを羽織った影、バアル・ペオルは、人々の喧騒を空から見下ろしていた。
「…………」
空からは様々なものが見えた。
友人と笑いあう少年少女、子供のてを握って歩く両親、威勢よく声を張り上げる売り子の姿。
そこには笑顔が溢れ、希望に満ちていた。
それらを眺めているバアル・ペオルは、口の端を吊り上げるようにして、にぃ、と笑った。
バアル・ペオルは想像した。
あの笑顔が恐怖に歪む光景を。絶望し逃げ惑う姿を。
「ふふふ、ふふ。ははははは」
そしてバアル・ペオルはとうとう声を出して笑いだした。両手に一つづつ怠惰のカースの核が握られている。
「…いや」
しかし、その核はバアル・ペオルの手から放たれることなく消滅した。
「もう少し人の集まるところでカースを作ろうかしら。そうすればもっと……。ふふふふ、そうときまれば、早速」
バアル・ペオルは元々は怠惰の悪魔である。しかし、自らを満足させるためには努力を惜しまないのだ。どれだけ面倒な作業でも耐えることができる。
そうして、バアル・ペオルは地上へ降りた。
場所はかわり地上。
「………」
一心に人の集まる場所を探すバアル・ペオル。
「お、そこのお姉さん!よってかない?」
髪を染めた男が声をかける。
「ソーセージ安いよ安いよ!買ってきな!」
「わかるわ!わかるわ!」
筋骨粒々の男と小動物が声をかける。
「………」
しかし、それをバアル・ペオルはすべて無視した。
いちいち返答するのが面倒と考えているからである。自分の興味が向いたものにはどこまでも真摯なくせに、こういう些細な行動を面倒くさがるところは怠惰らしい。
(………それにしても)
バアル・ペオルは思案する。
(どこもかしこも、人だらけねぇ)
首を回し辺りを見渡す。
物珍しそうに屋台を覗く女の子、二人組の少女、眼鏡をかけた三人組の女性、本を小脇に抱えた大学生。他にも様々な人間がバアル・ペオルの視界に入った。
(これなら空の上からカースを放って眺めた方が楽だったわね……)
そんなことを考えながら、ふと考えた。
(そうだわ。いいことを思い付いた。この学園全体に結界を張りましょう。そしてその中に大量のカースを放って眺める……)
ふふふ、とバアル・ペオルの口から笑い声がもれた。頭に逃げ惑う人々の姿が浮かぶ。
(結界は簡単に壊れないような丈夫なものを作りましょう。簡単に壊れてしまっては、人間が逃げてしまう。そんなことはさせないわ。この場にいる人間は私を楽しませるための人形。そしてこの学園は人形を閉じ込める為の箱庭……)
バアル・ペオルはこの学園を見渡すための場所を求めて再びあるきだした。
さらに場所はかわり裏山。
そこから京華学院を見下ろす。
(さて、結界を張ろうかしら。大きさは……適当でいいわね)
と、結界を張ろうとしたその瞬間。
「オンナ!オンナ!!ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
と、どこから沸いて出てきたのか、蠍のような姿の色欲のカースが現れた。
「うわあああああ!!」
そしてそれから逃げる一人の少女。
「オカサセロ,オカサセロ!!!」
「嫌だあ!パパ、ママ!どこぉ?!助けてえええええ!!」
しかし、バアル・ペオルはまったく動じない。正確には聞こえているのだが、面倒なので無視した。
そして同じくバアル・ペオルの姿に気づかない少女とカース。
「オオット!ツカマエタ!!」
「うわあああああ!嫌だあ!」
そしてとうとう捕まってしまった少女。
「ゲヘヘヘヘヘヘヘ。イタダキマース」
色欲のカースが触手を使って少女の体をまさぐる。
「ひぃ?!やだ、やだ!やだぁ!!」
「ギャハハハハ!ナケナケモットナケ!!」
「あああああああ!!」
少女の恐怖が最高潮まで達したそのとき、
(五月蝿いわねぇ……)
とうとうバアル・ペオルがカースの方に向いた。
ゆるりと色欲のカースに近づくと、中指の先に少量の魔力を集める。そして、放出した。
「ギャ」
それだけでカースの体は弾け、核を砕いた。
「はっ!雑魚のゴミムシの癖に私の邪魔をするなんて百兆年早いのよ!」
最早跡形もなくなったカースに向かっていい放つ。
それを見た少女は思う。この人はヒーローだ。私を助けてくれたのだ。
「……あ、ありがとう、ござい、ま、す」
色欲のカースに襲われていた少女が口を開く。いくらバアル・ペオルにその気がなかったからといって、助けられたのだ。お礼を言うのは当たり前である。だが、バアル・ペオルはそんな少女を見下ろすと、
「ん?あら、まだゴミムシがいたのね」
「え?」
「はぁ。五月蝿くてとても集中できないわねぇ」
なんでかは解らないがとにかく怒っているのかと思って、少女は頭を下げる。
「え、あ、ごめんなさ」
「五月蝿い」
そう呟き、先程と同じように指先に魔力を集める。
顔をあげた少女に指を突きつけ、魔力を放とうとした、その時。
「はい。ストーップ」
時子の真後ろから声が聞こえた。
「?」
指を下げてそちらを向く。普段なら無視するだろうが、その時は何となく、そちらを向く気になったのだ。
そこには、スキンヘッドの大男がいた。サングラスをかけ腰には人形が括りつけてある。
「いやぁ、さっきのは凄かったな。あのカースを一撃で葬るなんてな」
にやにやと笑いながら近づく男。
「………何のよう?」
バアル・ペオルが男に向き直ったとき、少女が全力で逃げたが、その時は既に少女に対して興味を失っていたのでほうっておいた。
ちなみに、男が声をかけたのはその女の子を逃がすためでもあったのだが、それをバアル・ペオルは知らない。
変質者のような男はバアル・ペオルに近づき、こう言った。
「ねぇ君、ちょっと話いいかな?」
無言で、問答無用で魔力を込めた指先を向ける。
「あ、ちょ、ちょっと待って!別に怪しいものじゃないから!嘘じゃないから!」
「どう見たって怪しいわよ」
そして魔力を放った。が、
「……!」
息を飲むバアル・ペオル。そこには既に男は存在せず、バアル・ペオルのすぐ右側にいた。
「あ、あぶねぇ。気を付けてくれよ。あんなのくらったら死んじまう」
バアル・ペオルは男を見つめて考えた。
(この男、ただ者じゃない…)
そしてニヤリと笑った。
(こいつの話を聞く方が楽しめそうね)
バアル・ペオルは話を聞く事にした。
かくして、バアル・ペオルの学園祭をめちゃくちゃにする計画は奇しくも男のお陰で阻止されたのだった。
「おお!話を聞いてくれる気になったか!」
「えぇ。でもつまらない話だったら殺すわよ」
「うん、そういう直球なところもいいな!やはり俺の目に狂いはなかった」
一人でうんうんと頷く男。
「……あなた何者なの?」
「あ、俺か?俺は、こう言うものだ」
男は懐から紙を出してバアル・ペオルに手渡した。それは名刺であり、こう書かれていた。
『アイドルヒーロー同盟プロデューサー パップ』
「アイドルヒーロー同盟………?」
バアル・ペオルは目を見開いて名刺を見た。そしてすぐさま名刺を破り捨てた。
「おいおい、替えはいくらでもあるけど破くのはやめてくれよ。勿体ないじゃないか」
「アイドルヒーロー同盟ですって?」
パップの言葉は無視していい放つ。その声には若干怒気が含まれていた。
「あぁ。君は美人だし、おまけに強い。需要は高いと思うんだけどな」
パップはバアル・ペオルが怒っていることに気づいてないのか、それとも気づいててわざと無視してるのかは解らないが、言った。
「だから、アイドルヒーロー、やってみない?」
「………冗談じゃないわ」
「どうして?」
完全にキレたバアル・ペオルはパップに叩きつけるように言葉を放った。
「私は!混沌が好きなのよ!ゴチャゴチャしてて、濁ってて、混ざってて、泥々してる、混沌が何よりも好き!なのに、この私に、秩序を守るためのアイドルヒーローになれですって?ふざけるのも大概にしなさい!!」
憤慨するバアル・ペオルにさすがに気圧されたらしいパップ。だがそれで諦める彼ではない。
「混沌が好き、か。でも、アイドルヒーローにも色々な人種がいてね?その種類の豊富さといったらまさに混沌と呼んでいいくらいさ」
「はっ!アイドルヒーローが、何をやってもこの私に敵うはずがないわ!」
何をいってもアイドルヒーローになるきはないらしいな、とパップは思案する。
「はぁ。やめよ、やめ。こんなの時間の無駄よ。じゃあね、あなたの話はとても退屈だったわ」
バアル・ペオルはパップの前から立ち去ろうとしたとき、パップは名案を思い付いた。
「あ、そうだ!なぁ、俺と戦わないか」
「……戦う?貴方と?」
足を止めパップに顔を向ける。
「あぁ。俺も実は、あんたの好きな混沌をこの身に宿している」
そう言って胸の辺りをさするパップ。
「それで、俺と戦って俺が勝ったら君はアイドルヒーローになる。それでどうだ?」
「……私が勝ったら?」
パップを見つめる。
「…君の願いを何でも聞こう」
それを聞いて、バアル・ペオルは吹き出した。そして、それは徐々に大きくなって大気を震わせる。
「ぷっ、ふふ、ふふふふふふふふふふ!はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
ひとしきり笑った後、バアル・ペオルは向き直った。
「いいわよ。面白い!貴方が負けたらあなたは私の奴隷よ!」
パップを指差し高らかに宣言する。
「はは、俺が負けることが君のなかではもう決定してるんだな。でも俺も負けるわけにはいかないんでね」
「そうこなくてはね!その意気込みに免じて私に触れることが出来たら勝ちにしてあげる」
「そりゃどうも」
そして、パップは自信の混沌を解放させた。腕が虎のような縞模様に、両手が鉄の爪に変異する。
「へぇ。それがあなたの混沌?」
「あぁ。その通りだ」
相手に飛びかかる姿勢で喋るパップ。
「CO……ハングリー・タイガー…」
その姿を見て、
「カースド・オズ……?この感じはもしかして暴食……」
「あぁ、その通りだ!」
その瞬間、バアル・ペオルに飛びかかり、一気に肉薄し、体に触れる。筈だった。
「あらぁ……。変身して思考まで獣みたいになっちゃったのかしらねぇ……」
だがしかしパップの伸ばした腕はバアル・ペオルに届かなかった。
パップの体が天から延びた巨大な腕に取り押さえられたかのように、叩きつけられ地面にめり込んだからである。
「ぐっ!……なんだ、この重さは……!」
地面に這いつくばるパップを見下ろし嗜虐的な笑みを浮かべるバアル・ペオル。
「ふふふ……。あなたの重さを10倍にしてあげたわ。それじゃあ動くこともままならないでしょうねぇ」
「ぐ……くぅ!」
余りの重さに苦悶の表情を浮かべるパップ。
「ま、でもさすがにこれじゃあ勝負にならないわねぇ…」
と、パップを見下ろし近づく。
そしてパップのすぐ近くで腰を下ろし顎を持ち上げ目をあわさせる。
「ねぇあなた。『家畜以下の私の重さを元に戻してください』ってお願いしてごらんなさいよ。そしたら、戻してあげなくもないわ」
余裕の表情を見せた。
「……ぅ」
パップの口から声が漏れた。それを聞いて顔を近づける。
「あらぁ?よく聞こえないわねぇ。ハキハキ喋りなさいよ虫じゃないんだからさぁ!」
さらに顔を近づけ、
「があああああああ!!!」
そしてすぐに後ろに飛び退き距離をとった。
「なっ………!!」
今度はバアル・ペオルが驚愕する番だった。なんとパップは立ち上がったのだ。
「そんな、私の魔術の影響下で立ち上がるなんて……!!」
「魔術…?」
立ち上がり、しかし依然辛そうな表情のパップ。
「へぇ。それが、あんたの、能力、ってわけか……。流石にきついな……」
最初は驚いていたバアル・ペオル。だがしかし、それはすぐに喜びの笑顔になった。
「いいわ、いいわよあなた!最高よ!もっと、もっと私を楽しませなさい!」
指先を向けると今度は炎の槍が飛び出した。
避けることができず、肩と足に直撃する。
「うふふはははははははははははは!!どうしたの?立ち上がれてもその場から動けないのかしらぁ?!」
「ぐっ……。言いたい放題の、やりたい放題だな、あんた……。でも、そういう、ところも、人気出そうだな……」
なんとか立ち続け、思案するパップ。
(しかし厄介だな……。こう自分の体が重いと本当に一歩も動けねぇ……。次に倒れたら間違いなく立ち上がれない……)
「ほら、次よ!」
次は指先から延びる水の鞭だった。
動けないパップを鞭で無茶苦茶に叩く。その度にパップの体には水に叩きつけられたような衝撃が走った。皮膚はさけ、骨は砕ける。
(ぐぅっ!痛ぇ……!ヤバイな、なにか突破口は……)
ヒントはないかとバアル・ペオルや回りを見る。と、あることに気づいた。
(はっ……!よく見たら俺だけじゃなく、草や葉っぱも地面に沈んでめり込んでるじゃねえか!それに……)
パップの耳にミシミシとなにかが沈む音が届いた。
(木も!)
パップは気が地面に沈んでいくのを視認した。
(なら……!)
力を振り絞り両腕を上げる。
「ふふふ、なにする気?そんな距離じゃ私に届かないわよ!」
バアル・ペオルとパップの距離は確かに離れており、目測で十メートルは離れていた。
しかし、
「距離?……関係ない。でも、できれば使いたくなかったよ……」
それをきき、バアル・ペオルは素早く土から壁を作り自分を守った。
その次の瞬間、パップが腕を振るうと、土の壁に大きな爪痕が出来た。あっという間に壁が崩れ落ちる。
「なにっ?貴方なにをした!」
しかし、そこにはもうすでにパップはいなかった。
「いない……逃げたのかしら。いや、違うわね」
よくよく見ると地面には何かを転がしたようなあとがあった。
「動けないから転がって逃げたのね……逃がさないわよ」
跡を追った。
「はぁ、はぁ……」
斜面を転がるパップ。はたからみれば滑稽に見えるかもしれないが、やつの攻撃から逃げるにはこれしか思い付かなかったのだ。
そして、それは正しかった。
「おっ!」
地面を蹴りジャンプして立ち上がるパップ。
「ふぅ~。やっと戻った……」
首をぱきぱきと鳴らす。
「あの魔術は、俺単体にかけるものではなく、あいつの周りにあるものすべてにかかる物だと思ったが、どうやら正解のようだ」
後ろから迫る足音。
「へぇ、よくわかったわね。正解よ」
パップの背に声をかけるバアル・ペオル。
「あぁ。花丸を貰えて嬉しいよ。ついでにもうひとつ。その魔術は使ったあとにクールダウンが必要なんだろ?そうでなきゃ今使ってるよな?」
そこまで推理して見せたパップに向かって笑顔を向けるバアル・ペオル。
「ふふふ、正解よ。大正解!あの魔法を受けた者は大抵私に屈服するか何をされたかわからないまま死ぬのにね。貴方みたいなのは久しぶりよ!」
「そうか。さて、答え合わせもすんだし続きといくか」
「えぇ」
パップは飛びかかる。しかし、一直線にバアル・ペオルに飛びかかるのではなく、バアル・ペオルを撹乱するように飛び回る。
パップが先程使った、CO『ハングリー・タイガー』の持つ空間切断能力は使わなかった。女性で、しかも自分がスカウトする相手を傷つける訳にはいかなかったからだ。先程は、自分が宣言してからならバアル・ペオルは必ず何らかの方法で防ぐと思ったから、流石に命の危険を感じたからやむ無く使用したが。
「鬼さんこちら!手のなる方へ!」
たっぷり撹乱し、そしてバアル・ペオルの体に触れようとする。
「はいタッチ……」
しかし、パップがバアル・ペオルの体に触れることはまたしても失敗した。バアル・ペオルの姿がパップが触れる瞬間に消えたのである。
「あら残念。こっちよ、虎さん」
ギュオオオ!
そして、パップの右側に表れたバアル・ペオルの魔術によって生まれた突風を受けて吹っ飛ぶ。
「うおぉ!」
受け身をとり、うまく着地。すぐさま体制を整える。
「へぇ。こんどは瞬間移動か……」
見ればわかることだった。この手の能力を使う人ならごまんと見た。なのですぐにバアル・ペオルが使ったのが瞬間移動だと解った。
「その通り!あなたは私に触れることは最初から不可能だったのよぉ!」
「いや、俺は必ずあんたに触れて見せる!そしてあんたをアイドルヒーローにする!」
そのときバアル・ペオルは見た。そして、目を見開いた。パップの目に宿る諦めないという強い意思を。
バアル・ペオルは問う。
「貴方……。これだけ力のさを見せつけられて、なぜ諦めない?」
バアル・ペオルはそれが解らなかった。今まで自分を前にした人間は一人残らず絶望し、諦め、死んでいった。
「そこまでして、私にアイドルヒーローになってほしいの?」
勿論バアル・ペオルはパップを殺す気で戦っている。それでも諦めないパップに、バアル・ペオルは疑問に思った。
「何でかって?それは…」
一呼吸おいて。
「それは……?」
「それは!」
「それは……?!」
そしてついにパップはいった。諦めない理由を。
「あんたは美人だ!」
………二人の間に沈黙が流れる。
「……え?」
「そう、あんたは美人だ!おまけに強い!」
さらに語気を強めていった。
「俺はあんたに惚れた!その強気な目線!艶やかな髪!妖艶な雰囲気!全てに惚れた!」
予想を超えたパップの言動に身動きがとれない。
ボロボロに痛め付けられた体で、強く地面を踏みしめみ、バアル・ペオルに近づく。
「だから俺以外の人にも見てほしい、あんたの凄さを、あんたの強さを。みんなに見てもらって認めてほしい。この喜びを、俺だけじゃなく複数の人間と共有したい。だから俺はあんたをアイドルヒーローにしたい」
そして、バアル・ペオルの顔にそっと触れた。
「俺の勝ちだ。なってもらうぞ。アイドルヒーロー」
それをきき、今の自分の状況を認識して、そしてバアル・ペオルは…。
「ふ、ふふふふ…」
笑った。とても楽しそうに。とても嬉しそうに。
「ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
盛大に笑った。ゲラゲラと、悪魔のように。
「ふふふ、ふふふ…。こんなに笑ったの久しぶりよ、本当に……」
バアル・ペオルは未だに腹を抱えて笑っている。
「ふふふ、いいわよ。面白いじゃない!いいわ、なってあげる!アイドルヒーローに!正義の味方になってあげわるわ!」
こうしてバアル・ペオルはアイドルヒーローになり、自分が殺めた人数と同じくらいの人間を救うが、それはまた別の話……。
C・O(カースドオズ)
的場梨沙の母親が研究所からくすねた金属生命体OZにカースの大罪の核を取り込ませる事により、更なる進化をほどこしたもの。
普通のOZと同じく生物に寄生し、みるみるとその生物のパーツに擬態し、独自に進化をしていき、その生物の身体を金属生命体にあう身体に徐々に侵食させていく。
最初は研究所でもCOの研究をしていた。
ただ、初期段階でその核の大罪にあった感情が倍に膨れ上がり、大抵の生物はそれに耐えられずカースドヒューマンに成り下がり狂い死んでしまう為、OZ適合者より確率が低いと言われている為凍結し終わってしまった。
だが、梨沙の母親は独自にそれを研究し、CO適合者を完成させた。
普段は核の大罪の感情は抑えられてるが、段階を上がるごとに感情も大きくなりCOの強さも大きくあがる。
適合者にはその大罪にあった感情を抑え込む精神力と生への執着が必要とされる。
≪ハングリータイガー≫
パップに移植されたCO。
第一段階を発動すると、両腕が縞模様の獣のようなフォルムてま、5つの鋭い爪のような刃が生えた異形の腕に変化。それは金属でできている。
この姿になると、物資だけではなく、空間を斬る空間切断能力をもっている。その為離れた場所でも目に見える範囲なら斬りつける事はできる。
胸の部分に移植された場所は胸。
第二段階になると、巨大な四足歩行の虎のような異形に変化する。
この状態だと、空間切断能力に加えて、その口から生えた牙で、物資だけではなく空間を食べて、削り取る能力を得る。
暴食の核の力もあわさり、その食欲は無限で食べたものは無限消化機関≪タルタロス≫へといき消滅する。
略称魔術
(スキップ・スペル)
バアル・ペオルの能力。魔術を使うためには詠唱を行うことが必要だが、彼女はこの詠唱なしで魔術を使えるのだ。威力はそのままで、そのうえ出が早いのでバアル・ペオルは重宝している。ちなみに、この能力は魔術の詠唱を面倒くさがったバアル・ペオルがやってみたら一発でできた代物であるとはあまり知られていない。
ここまでです。
なんだかパップがかませ犬っぽくなっちゃったかな……。すいません。お目汚し失礼しました。
イベント情報
・時子さまがアイドルヒーローになるよ!やったねパップ!
乙ー
パップカッコイイ……ありがとうございます!
そして、トキコさまやっぱり強い(確信
面倒くさいから無詠唱やったらできたとか流石、怠惰だ!
乙です
やだ、パップ普通にイケメンじゃないか
アイドルヒーローって確かに混沌だよねー
面倒くさいで無詠唱ができる初代大罪クオリティ
ユズちゃんはその域に行けるのだろうか
乙乙ー
ちゃまもUBも時子様もパップももう怖いの一言に尽きますね!(白目)
憤怒の街最終決戦準備(うちのこ版)投下します
あと、本編投下後に最新版に更新したアイドル設定の一部も投下します
憤怒の街内の病院。
炎P「う、うわあああああ!?」
氷P「なんだコイツ、カースじゃないぞ!?」
ある一室で震える炎P、氷P、電気P、DrPの四人。
??「…………見つかったか」
電気P「何なんだコイツ!?」
??「目撃されたからには……消しておくか」
四人の前に立つのは、漆黒の鎧で全身を固めた謎の人物。
声から男性であることは推測できる。
DrP「ま、まずい、逃げるぞ!」
四人が慌てて部屋を出た。
??「させんよ。プラズマ擬態、展開」
呟いた男の姿が、ジジジというノイズ音と共に背景の中へ溶け込んだ。
電気P「消えた!?」
次の瞬間、消えたはずの男が四人の目の前に姿を現した。
氷P「うわっ!?」
??「お前達に恨みは無いが、ここで死んでもらうぞ」
男の両腕が機械音を上げながら回転し、二振りの刀に変形した。
それぞれ刃に『MURAMASA』『MASAMUNE』と彫られている。
DrP「に、人間じゃない……!?」
炎P「あ、あああ……!」
震える四人へ向けて、男の無慈悲な刃が振り下ろされ……
みりあ「『バン』! 『バン』!」
??「ムッ……?」
……る直前、赤城みりあが指先から放った二筋のビームが刀を弾き飛ばした。
DrP「君達は……さっき来た……」
若神P「Drさん、ここは僕たちがやるんで逃げてください」
若神Pが指先で光輪を弄びながら、眼前の男をじっと見据える。
DrP「わ、分かった。すまない、頼んだぞ」
DrPを先頭に、四人はみりあ達の背後に続く廊下を駆けていった。
??「目撃者が増えたか。ならば全員消すか」
男の両腕が再度回転し、今度は二丁のガトリングガンに変形した。
??「発射」
みりあ「『ガン』!」
男の腕から弾丸の雨が吐き出されると同時に、みりあが両腕を大きく広げてバリアを張った。
無数の弾丸がバリアに衝突し、その場にポトポトと落ちていく。
みりあ「ねえ、若神Pさん。あの人って……」
若神P「うん、やっぱりアンドロイド……ロボットだね。遠慮は要らないよ」
若神Pが光輪を男……アンドロイドに投げつける。
??「回避行動」
アンドロイドは射撃を中断し、バックステップでそれを回避した。
若神P「みりあちゃん、今!」
みりあ「はいっ! 『ジャキン』!!」
みりあが両手を前方へピンと伸ばす。
すると、右手の先に『邪』、左手の先に『禁』と書かれた方陣が出現した。
??「……?」
アンドロイドが首を傾げた直後、方陣から光の刃が飛び出しアンドロイドを襲った。
??「……緊急回避」
咄嗟に回避したアンドロイドだったが間に合わず、左腕が根元から切断された。
みりあ「きゃあっ!?」
ショッキングな光景に、思わずみりあが両手で目を覆う。
若神P「落ち着いて、みりあちゃん。アンドロイドだってば」
みりあ「あ、そ、そっか……ふう」
アンドロイドはしばし左腕を注視していたが、突然しゃがみこんでジジジというノイズ音を上げ始めた。
??「……プラズマ擬態、展開」
みりあ「わっ、き、消えた!?」
若神P「大丈夫大丈夫。みりあちゃん、使えるヤツあるでしょ?」
みりあ「あっ、はい! えっと……『ギン』!」
みりあの右目に、『吟』と書かれた小さな方陣が浮かぶ。
それは、視えないモノを視る力。
隠れていても、消えていても、『吟』を通したみりあの目には、通用しない。
みりあ「見つけた! 『バン』! 『バン』! 『バン』!」
一見何も無い空間を、みりあの『蛮』が撃ち貫く。
ガシャン、という音が響いたかと思うと、地に伏した状態でアンドロイドが姿を現した。
??「……!? 理解不能、理解不能……!」
よろけながらも立ち上がるアンドロイド。
若神P「よし、みりあちゃん!」
みりあ「はいっ! はぁぁぁ……」
みりあがぐっと腰を落とし、拳を引く。
拳の先に、『呑』と書かれた方陣が現われた。
??「まずい……」
アンドロイドはみりあ達に背を向け、一目散に逃げ出した。しかし、
若神P「させないっての」
若神Pの放った光輪に足元を掬われ、一瞬バランスを崩してしまった。
みりあ「『ドン』!!」
突き出されたみりあの正拳から、光の鎖に繋がれた光の球が一直線に伸びていく。
そのまま光の球はアンドロイドの体を押しつぶし、病院の壁へと叩き付けた。
??「?!!??!?!?!??!!?!?!?!?!?!!??!?!?!?!」
光の球が消えてもなお異音を上げ続けていたアンドロイドは、ついに事切れたように動かなくなった。
みりあ「やったあ! ……あれ、若神Pさんどうしたの?」
若神Pは、切り落とされたアンドロイドの左腕を拾い上げ、ジッと見つめている。
若神P「いや、これ……中の部品に文字が書いてある」
みりあ「あ、ほんとだ……えっと……る、る……?」
若神P「ルナール……かな? もしかしたらコイツの製造元かもね」
若神Pが左腕を放ると、数基の光輪がそれを粉微塵に切り刻んだ。
若神P「……ま、考えても仕方ないか。行こうみりあちゃん、Drさん達に終わったって伝えに行かないと」
みりあ「うん!」
若神Pに続いて、みりあはその場を離れた。
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??「……アンドロイドからの信号が途絶えた……破壊されたか?」
憤怒の街のとある一角で、スーツ姿の男が呟く。
彼は、ネオトーキョーに本社を置く大企業、ルナール・エンタープライズの社員である。
彼の任務は、新たに開発された新型アンドロイドの性能テスト。
特殊な磁場の中でも行動可能な新機能を試す為に、機械が正常に作動しない、ここ憤怒の街を訪れたのだ。
??「…………仕方ない。機能自体は問題無かったわけだし……報告の為に本社に戻るか」
そう言って彼は、近くに停めていた黒塗りの特殊な車に乗り込み、その場を後にした。
…………数分後、その車は赤黒い液体を撒き散らして大きくひしゃげた、変わり果てた姿となっていた。
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病院のロビー。
若神P「Drさん、侵入者は倒しましたよ」
DrP「ああ、ありがとう若神くん、みりあちゃん。助かったよ」
若神Pとみりあへ向けて、DrPと炎P達が深々と頭を下げる。
DrPの背中で、青い髪の少女が眠っていた。
雪美「…………」
みりあ「その子は誰?」
マリナ「雪美ちゃんよ」
若神P「あ、マリナさん」
DrPの後ろから、マリナが二人へ声をかけた。
金髪で、何だか不思議な雰囲気を纏った少女を抱きかかえている。
マリナ「で、この子が聖ちゃん」
聖「…………」
マリナ「空で堕天使の子を相手する時に助けてもらったのよ」
若神P「そういえば、嫌な気が消えてますね…………ん?」
若神Pが言葉を切り、怪訝そうに聖の顔を覗き込む。
マリナ「どうしたの?」
若神P「……あ、いえ、何でもありません」
若神P(やっぱり熾天使ミカエル……!? なんでこんな所に……)
仮にも神である若神Pは、一目で聖の正体に気付いていた。
しかし、それを口には出さない。
一目で彼女を熾天使と見抜いたなどと言っては、自分も天界の関係者だ、と暴露しているようなものだ。
それをこの場で知られると、大きな騒ぎに発展しないとも限らない。
みりあ「…………そういえば、美世さんは?」
辺りをきょろきょろ見回していたみりあが、バイクの修理を行っていた原田美世がいない事に気付いた。
イヴ「カミカゼの修理が終わったからって、届けに行きましたよ~」
若神P「ええっ、一人で!? 危険じゃ……」
マリナ「ああ、問題無い無い」
若神Pの言葉をマリナが遮り、それに栗原ネネが続いた。
ネネ「マリナさんと一緒に聖ちゃん達を運んでくれた人がいたんですけど、今はその人が美世さんに
ついていてくれてます」
マリナ「ええ、琴歌ちゃんって言うの」
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拓海「……なあ星花。ホントに寝てていいんだぞ?」
有香「そうですよ。星花さんこそ体が……」
星花「お気遣い感謝します。ですが、もう大丈夫ですので」
二人の言葉にゆっくり首を振りながら、星花は指先の糸を通じて二人にオーラを流し続けている。
星花「それよりも……あちらの方角で、何か良くない力が肥大しているのを感じます」
星花が示した遥か先から、爆音や怒号が響いてくる。
時折、空からビームのようなものが流れているのも確認できる。
星花「おそらく……時が来たかと」
拓海「……みてぇだな」
有香「はい……」
三人が静かにその方角を見ていた、その時。
美世「拓海ー!」
美世がバイクに乗りながらこちらに接近してきた。
拓海「美世! カミカゼの修理終わったのか!」
美世「バッチリ! もう壊さないでよね!」
拓海「へへっ、ったりめーだ!」
鼻をこすって笑顔で答えてみせる拓海。
美世「有香ちゃん、拓海の事よろしくね」
有香「押忍! お任せください!」
星花「拓海さんのご友人の方ですね? 初めまして、わたくし、涼宮星花と申しま……」
星花が自己紹介をしかけた、ちょうどその時。美世に呼びかける声があった。
琴歌「美世さん、追ってきたカースは全て倒し……」
星花「……えっ……」
銀の靴で軽やかに舞う少女を見て、星花は思わず言葉を失う。
琴歌「……あ……」
それは、琴歌も同様であった。
星花「…………琴歌ちゃん……!?」
琴歌「…………星花さん……!」
星花「ご無事だったのですね……急に連絡が取れなくなるので、心配で心配で……!」
琴歌「それはこちらもです……『涼宮財閥の一人娘が家出したらしい』という噂を聞いて……」
二人の頬をつうっと、一筋の涙が流れた。
拓海「な、なあ、美世。この子誰だ?」
美世「えっと、琴歌ちゃんって言って、さっき知り合ったの。護衛お願いしてて……こっちの子は?」
有香「星花さんといいます。回復みたいな技を使えて、特訓を手伝ってもらってたんです」
拓海「知り合いだったみたいだな……」
少し置いてけぼりを食らった三人が、ひそひそと言葉を交わす。
琴歌「あ、今里美ちゃんもいらしてるんですよ」
星花「里美ちゃんもですか? いつかまた、雪乃さんを交えた四人でお茶をしたいですね……」
琴歌「ふふふ、そうですね」
いつの間にか、星花と琴歌はお嬢様特有のふんわり空間を作り出していた。
拓海「……おーい、二人とも。戻ってこーい」
星花「あっ……も、申し訳ありません。……ともあれ、ご無事なようで何よりですわ」
琴歌「ええ、お互いに、ですね」
拓海の言葉で我に返った二人が、くすっと笑う。
拓海「……さて、ありがとよ美世。んじゃ早速暴れて来るぜ。ほら、有香」
拓海はバイクに跨ってフルフェイスヘルメットを被ると、予備のヘルメットを有香に手渡した。
有香「あ、ありがとうございます」
有香は慣れない手つきでそれを被り、拓海にしがみつくようにバイクの後部に座った。
星花「……では、わたくしも…………ッ……!」
ストラディバリ『レディ』
歩を進めようとした星花だったが、脚の痛みでよろけ、ストラディバリに支えられる。
拓海「無理すんなって言ったろ? 星花はまだ休んでな」
星花「しかし……お二人だけを行かせるわけには…………」
その光景を見ていた琴歌が、ゆっくり口を開いた。
琴歌「……では、私が星花さんの代わりに、お二人に同行させていただきます」
有香「琴歌さん……?」
琴歌「困っている人を捨て置けない、そういう性分ですので」
星花「琴歌、ちゃん…………すみません、お願いできますか?」
琴歌「もちろんです!」
琴歌は星花に振り向き、非常に自信に満ちた笑みを浮かべた。
星花「……ありがとうございます、琴歌ちゃん」
拓海「……よし、なら星花は美世を病院まで送ってくれ」
拓海が振り向き、遠くに見える赤い十字の看板を指差した。
星花「はい、かしこまりました。よろしくお願いしますね、美世さん」
美世「うん、よろしく! ロボット君もよろしくね」
美世がストラディバリの体を一撫でする。
星花「その子は、ストラディバリと申しますの」
美世「そうなんだ。よろしくね、ストラディバリ」
ストラディバリ『レディ』
拓海「……よし、そろそろ行くか」
有香「はい!」
琴歌「準備は万端です」
拓海がバイクのエンジンをかける。
有香がしがみつく腕に力を入れる。
琴歌がトントンと軽く跳ねる。
美世「頑張ってね、拓海、有香ちゃん」
星花「琴歌ちゃん……また会いましょう」
三人はその言葉に振り向かず、ただうなずいてみせた。
そして、
ドゥッ
大きな音を残し、拓海のバイクと琴歌は高速でその場を去った。
星花「…………では、病院へ向かいましょうか。ストラディバリ」
ストラディバリ『レディ』
星花の言葉に答え、ストラディバリはユニコーン形態へとその姿を変化させた。
美世「……よっ……と。お願いね、星花ちゃん」
星花「はい、お任せください」
星花と美世を背に乗せ、ストラディバリは病院へと歩を進めていった。
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地下、カースプラント。
キバ、カイの二人と、大量のカース、コマンドカース達との戦いは続いていた。
キバ「チィッ、キリが無いな……!」
カイ「さっきからあの繭壊してますけど……すぐ直るんですよアレ!」
現在、プラントにある繭は六つ。
先ほどのカイの攻撃で内二つを破壊したが、気付けば二つとも元通りに修復されていた。
コマンドカース『フハハハハ! ミヨ、コノアットウテキナブツリョウヲォ!!』
コマンドカース『キサマラニカチメハナァイ!!』
コマンドカース『シネェェ!!』
大量のカース弾が二人を襲う。
カイ「ッ、シャーク・インパクトォ!!」
キバ『~~~、~~~』
カイが極太のビームでカース弾をなぎ払い、キバが翼で弾き返す。
キバ「…………チッ!」
キバは焦っていた。
邪龍ティアマット。死んだはずのアイツが生きていた。
恐らくはまた何かよからぬ事を企んでいるんだろう。
早くヤツを止めなくては、何か取り返しのつかないことが起こる。そんな気がするのだ。
カイ「…………キバさん」
キバと背中合わせになった体勢で、カイが口を開いた。
キバ「どうした、カイ君」
カイ「あたしが突破口を開きます。だから、キバさんはヤツを追って下さい」
キバ「……何だと?」
カイ「よく分かりませんけど、キバさんはアイツと因縁があるんですよね? だったら……」
カースの群れを見据えながら、カイは続けた。
キバ「……気持ちは嬉しいが、君一人置いていくのは忍びないね」
カイ「……シャーク……」
カイはキバの言葉に応えず、ガントレットにエネルギーを溜めている。
キバ「……カイ君……!?」
キバが振り向くと同時に、カイはガントレットを天に掲げて叫んだ。
カイ「インパクトォォォォォッ!!!」
真上に向けて放たれたシャーク・インパクトが天井をぶち抜き、空の彼方へ消えた。
そして、天井に穿たれた穴から、雨が地下道へ流れ落ちてくる。
キバ「……雨……?」
その内、一体のカースが雨粒に触れた。と、
『ウウギャアアアアアアアアアア!?』
そのカースが悲鳴を上げながら、シュウシュウと消えていったのだ。
『ナ、ナンダ!?』
『ナニゴトダ!?』
カイ「これって……?」
街の郊外、ナチュルスターが降らせる『浄化の雨』。
カースを弱らせ、弱いカースを浄化する力を持った雨が、今まで届かなかった地下へと落ちていく。
コマンドカース『ア、アノアメニフレルナ! キケンダ!!』
カース達が一目散に駆け出し、カイ達と距離を取る。
キバ「……よく分からんが、これを利用しない手は無いな。……カイ君!」
カイ「はい! シャーク・インパクトォ!!」
キバ『~~、~~~~』
カイがビームで、キバが炎で、プラントの天井を出鱈目に攻撃し始めた。
天井はたちどころに穴だらけになり、流れ込む雨によるカース達の絶叫が響き渡った。
『イギャアアアアアアアア!!』
『シヌゥ! シヌゥゥゥゥゥウゥ!!』
『タスケテェェェェエェェェェエ!!』
阿鼻叫喚、地獄絵図。
カースの立場に立ってみれば、これ以上に相応しい言葉は無いだろう。
カイ「すごい、半分くらいに減りましたよ!」
キバ「ああ。……カイ君。さっきの君の言葉……甘えてしまっていいかな?」
キバが大きく翼を広げ、カイに問いかける。
カイ「……もちろんです!」
キバ「ありがとう。……縁があれば、また会いたいね」
キバはふっと微笑み、翼をはためかせて飛んだ。
そして、天井の近くまで来た時、ある物に気付いた。
キバ「……ん?」
天井の中央で輝く、赤い半球。
カースの核にもよく似ている。
キバ「……さしずめ、『このプラントの核』……といったところかな? ……ふんっ!!」
キバはその核へ一撃、翼を叩き付けた。
軽快な音と共に核が砕け散ったのを確認したキバは、そのまま地上へと飛んでいった。
コマンドカース『アアアア!? ぷらんとノカクガァ!?』
コマンドカース『コレデハサイセイデキヌ!!』
カイ「へー? ……いい事聞いちゃったなあ」
慌てふためくコマンドカース達に、カイが一歩詰め寄る。
カイ「もうこの繭は再生できないんだね? ……だったら!」
ガントレットをソーシャークアームズに変形させ、一つの繭を切り刻んだ。
カイ「ますますもって、あたし一人でもなんとかなるねッ!!」
そのまま別の繭へ向けて駆け出していく。
コマンドカース『イ、イカン! マユヲマモレェ!!』
コマンドカースの指示で、カース達が我先にと繭の前に集まっていく。
カイ「邪魔ァッ!!」
カイは勢いのままカースの群れを切り伏せ、繭へ刃を突き立てた。
続く
・カイ(地上人名・西島櫂)
職業(種族)
ウェンディ族
属性
装着系変身ヒーロー
能力
アビスナイト装着による物質潜航能力
優れた身体能力
詳細説明
海皇ヨリコの命で地上に立った、親衛隊の一員。
しかしその後ヨリコに反旗を翻し、海底都市を裏切る。
地上で会った亜季、星花と共に「フルメタル・トレイターズ」を結成。
現在は三人+αで公園暮らし。
相棒のホージローを身に纏い、「アビスナイト」に変身する。
関連アイドル
・亜季(仲間)
・星花(仲間)
・ヨリコ(上司・幼馴染)
・サヤ(同僚・幼馴染)
関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻
フルメタル・トレイターズ
・ホージロー
カイの相棒である戦闘外殻。姿は大型の金属製ホオジロザメ。
顔は怖いが非常に人懐っこく、よくカイにじゃれる。
「物質潜航能力」により、土でもコンクリートでも木でも石でも「潜航」が可能。
・アビスナイト
カイがホージローを纏いウェイクアップした姿。
取り立てて目立った能力がある訳でもない、いわゆる万能型・汎用型。
鮫の上顎型ガントレットを変化させることで様々な武装が使用可能。
・シャーク・ストレート
地面に潜って背ヒレだけ出し、背ヒレから放たれるエネルギー波で敵を両断する。
・シャーク・サウザンド
ソーシャーク専用。高速で敵の周囲を動き回りながら斬り続ける。
・シャーク・インパクト
ハンマーヘッド専用。極大のエネルギー弾をビーム状に撃ち出す。
・シャーク・バイト
ノーマル専用。地中から猛烈な加速と共に飛び出し、敵に全身で喰らいつく。
・大和亜季
職業(?)
戦闘サイボーグ
属性
サイボーグヒーロー
能力
多数の火器を使用した複合戦闘術
詳細説明
平行世界の平和を管理する機関から第65535次世界へ転送された戦闘サイボーグ。
複数の躯体を持ち、現在使用している躯体の型式番号は「SC-01」。
到着してほどなく任務がなくなってしまい、トモダチになったカイの手助けをすると決める。
その後星花と会い、三人で「フルメタル・トレイターズ」を結成。
現在は三人+αで公園暮らし。
○亜季の手持ち武器
・「拳銃」二丁 威力「低」連射「中」速度「中」範囲「低」射程「中」
・「アサルトナイフ」二本 威力「低」連射「-」速度「高」範囲「低」射程「-」
・「ビームソード」一本 威力「高」連射「-」速度「高」範囲「低」射程「-」
関連アイドル
・カイ(仲間)
・星花(仲間)
関連設定
マイシスター
フルメタル・トレイターズ
・マイシスター
亜季をアシストする小型のステルス無人輸送飛行機。
亜季の指示に応じて搭載してある火器等を投下、回収する。
普通自動車くらいの大きさで、内部に人間が乗り込むことは不可能。
スパ○ボDのブラン○ュネージュをイメージしてもらうと分かりやすい。
○マイシスターに搭載中の火器等
・「片手持ち大型ガトリング砲」二本 威力「中」連射「高」速度「高」範囲「中」射程「中」
・「片手持ち大型バズーカ」二本 威力「高」連射「低」速度「低」範囲「中」射程「高」
・「ハンドレールガン」二丁 威力「中」連射「中」速度「最高」範囲「低」射程「高」
・「長距離スナイパーライフル」一丁 威力「中」連射「低」速度「高」範囲「低」射程「最高」
・「片手持ち火炎放射器」一基 威力「中」連射「低」速度「低」範囲「高」射程「中」
・「ハンドマシンガン」二丁 威力「低」連射「高」速度「高」範囲「中」射程「中」
・「ミサイルポッド」九発入り 威力「高」連射「低」速度「低」範囲「高」射程「高」
・「二連装超大型ビームキャノン砲」一対 威力「最高」連射「最低」速度「高」範囲「高」射程「高」
・「150cm四方防壁用鉄板」三枚 威力「-」連射「-」速度「-」範囲「-」射程「-」
・涼宮星花
職業
家出少女
属性
お嬢様
能力
オーラ、及びオーラを用いてのストラディバリの操作
詳細説明
大財閥涼宮家の一人娘。人間の生命の力であるオーラを操る能力を持つ。
この能力で人々を救いたいと思うも両親から反対をくらい、ある日ついに家出を決行。
道中助太刀したカイや亜季とチーム「フルメタル・トレイターズ」を結成。
現在は三人+αで公園暮らし。
関連アイドル
カイ(仲間)
亜季(仲間)
関連設定
ストラディバリ
フルメタル・トレイターズ
・ストラディバリ
オーラの力で動く戦闘人形。ある程度は自立行動が可能。
しかし細かい動作や臨機応変な行動となると、星花の指示が必要になる。
また、ユニコーンを模した高速移動形態への変形も可能。
オーラは自動回復するが、あまり短時間に連続使用すると星花がひどい疲労状態に陥ってしまう。
・オーラロケットパンチ
圧縮したオーラで前腕を発射する技。
・オーラストリング
オーラを練った糸で相手の動きを封じる。見た目以上に頑丈。
・オーラバレット
頭部から少量のオーラで出来た弾丸を連射する技。
・オーラボム
展開した胸部から凝縮されたオーラの砲弾を二発放つ技。
・オーラブレード
掌に薄くオーラを纏わせて振るう手刀。
・オーラドリルパンチ
オーラを使って回転させることで破壊力・速度・貫通力を向上させたロケットパンチ。
・ノーヴル・ディアブル
目元を覆い隠す、金属質で黒地にピンクのラインが入ったペルソナ。
製作者は錬金術師の相原雪乃で、知人の涼宮星花に贈られた。
悪魔をイメージさせる衣装が光の粒となって内蔵されていて、装着者の衣服を瞬時に変更させる。
作られた時点では無名で、譲り受けた際に星花が名づけた。
星花はこれを正体隠しに使い、変装時はそのまま「ノーヴル・ディアブル」と名乗る。
・フルメタル・トレイターズ
詳細不明の新鋭ヒーローチーム。
カイ、ホージロー、亜季、マイシスター、星花、ストラディバリの六人(?)を正式メンバーとする。
メインとなる三人が反逆の経験者(裏切り、命令違反、家出)である事と、
鋼のボディを持つパートナーを連れている事から『鋼鉄の反逆者達』を英訳して名前がついた。
「敵が現れたら市民に被害が出る前にさっさと倒す」という信条で行動している。
公園に寝泊りするホームレス系ヒーローでもある。
・イベント追加情報
病院にルナール社のアンドロイドが潜伏していましたが、みりあが撃破しました。
マリナが聖、雪美と共に病院に到着しました。
拓海、有香、琴歌が学校へ向けて移動を開始しました。
星花、美世が病院へ向けて移動を開始しました。
浄化の雨が地下道にもいきわたり始めました。
カースプラントの核が破壊され、自己再生能力がなくなりました。
キバが地上へ出て、ティアマットを追っています。
以上です
みりあちゃんの新能力については今度の設定更新で
炎P、氷P、電気P、DrP、雪美、聖、イヴ、ネネ、拓海、有香、美世、琴歌、(名前だけ)里美、
キバ、(名前だけ)ティアマット、ルナール社の設定お借りしました
乙です
ついにプラント撃破ですね
乙です
憤怒の街もそろそろクライマックスかな?
先輩がどうなるやら…
おつー
いよいよ終盤だが果たしてどうなることやら
投下します
時系列は奈緒ちゃんが帰還する日の話です
宇宙管理局地球派出所は地下にある。その施設の手術室の入り口には、『手術中』のランプが光っていた。
「ん……ふが?」
明るい殺菌ライトが照らす手術台の上、李衣菜は目を覚ました。
「李衣菜ちゃん、おはよう…っておかしいかしらね、始めたのはお昼で、しかももう夕方だし…」
「あーあーんっんん…あー…」
喉の声帯補助装置を戻し、返事をする。
「…大丈夫ですよ、おはようございまーす。さっそく装置ずれてましたけど」
「ごめんなさいね、やっぱりコレは本人がやらないと」
「むぅ…」
声をかけたのは管理局の女性技師だ。李衣菜は久々の本格的メンテナンス兼、改良手術を受けていた。
「気分はどう?それなりに大きな改良手術だったから不具合がないといいんだけど…」
「えーっと」
それを聞いて李衣菜は手を開いて閉じたり、手足を軽く動かして、違和感がない事を確認する。
「…大丈夫です、今のところは変なところはないですよ」
「それならいいわ、次にこれなんだけど」
技師の女性がある物を冷蔵庫から取り出した。
「………アイスにしか見えないんですけど」
「そりゃアイスだもの。普通のじゃないけどね」
「えー」
見た目はガリガリ君的な棒アイスだ。色も水色で、見た感じは本当に普通のアイスである。
「いい?これは蘇生薬に別の薬を混ぜてアイス状に凍らせたモノで、ちょっとメンテナンスついでにほぼ使用されていなかったパーツを利用して経口摂取という形でその部分から採取するとそのパーツが化学反応を起こして消化反応と同じように…」
早口で次々と説明の言葉が飛び出してくるが、李衣菜にはあまり理解できない。
「あの、ちょっと分かり辛いんで簡潔に言ってください…」
「簡潔に?そうね、回復アイテムよ。自然治癒を促すの。他にも肌とかキレイになるわ。味は…李衣菜ちゃん味覚無いから…ね?」
「は、はぁ…なるほど…?」
「まぁ仕組みなんて理解しなくていいのよ、李衣菜ちゃんは痛覚がない分、ダメージ受ける事多いから…」
強力な再生力を持つ奈緒であっても、痛覚がある為に無駄に攻撃を受けることはしない。
しかし、李衣菜は痛覚がないためか、多少の攻撃ならば回避より攻撃を優先しがちだ。それは強みでもあるが弱みでもあった。
李衣菜の体を流れる蘇生薬が肉体を生きている時のままに保ち続け、その副作用でいろいろと強化されている。
ある程度の攻撃は傷すら負わないが、傷を負ってしまえば治療は必要だった。
「すみません、なんか迷惑かけてばっかりで…」
「気にしないで、取りあえずもう帰っていいわよ。上に夏樹ちゃん達居るから一緒に帰りなさいね」
「はーい」
李衣菜が手術台から降りて着替えを済ませる。
「アイスは後で送るわ。それなりに作れるし、定期的に送るから、過剰にならない程度に食べておいても構わないわよ。むしろ戦闘中には食べれないから…」
「あっ、そんな欠点が…」
「私も李衣菜ちゃん改良後に気づいたわ。『あっコレ戦闘後に一旦帰還してからじゃないと食べれないかも』って」
「…致命的に遅いですね」
「ゴメンね☆」
「もう…」
「とりあえず、今日もありがとうございましたー」
「何か不具合があったらすぐ教えてねー」
「わかりました!じゃあ私はこれで」
頭のボルトごと隠せる、大きめのキャスケットを被る。この位の季節ならこういう帽子は比較的目立たない。
研究室から退室して、廊下をすれ違う人達に挨拶しながら通り過ぎ、一番奥の扉を開き地上への階段を上る。
階段の扉を開けるとそこは小さな倉庫だ。扉をしっかりと閉じ、ロックがかかっている事を確認すると倉庫の外に出た。
倉庫がある場所は都内某所にあるカフェ・マルメターノ。管理局が経営し、隠れ蓑にしているのだ。
一旦倉庫から出て、それなりに客が出入りしている表をちらっと見つつ、表の入り口とは別の従業員用の扉を使う。
休憩室に入ると従業員が一人いた。
「あっ李衣菜さん、いつもお疲れ様です。夏樹さんときらりさん呼んできましょうか?」
「そちらこそお疲れ様です。呼んできてもらって大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよーそろそ休憩終わるので!」
そう言って出ていった、メガネをかけた比較的若い外見の従業員…彼も管理局の一員であり、少なくとも地球人ではないらしい。
客に不審に思われる事がない外見の管理局の者達が、このカフェで働いているのだ。
待つと言う程の時間も経たずに、夏樹ときらりが入ってきた。
管理局の一員である夏樹達も、今日はここで手伝いをしていた。
二人ともカフェの制服であるエプロンとシャツを着て、夕方まで働いていたわけである。
夏樹はそれに加えて義手である肘まで隠す長い手袋をつけ、髪を降ろしている。
「いつみても思うけど意外と似合ってるよねー」
「夏樹ちゃんセクシーよねー☆」
「…あまり嬉しくないからな…こっちは大変だってのに」
「あはは、お疲れ様」
「あ!そういえば今日ね、李衣菜ちゃんのロールケーキすっごく売れたの!」
そういえばと、きらりが思い出したように言ったのは、今日李衣菜が作ったロールケーキの事である。
ちょっとした気まぐれの様なもので、自分だけ働かないのは悪いからと、朝のうちに作っておいたものだ。
「え、それホント?」
「アレ旨いからな、結構人気あったぞ」
「そっか、また作ろうかなぁ…奈緒の分も取ってあるし」
「今日帰ってくるから、きらりとーってもたのしみぃー!」
「楽しみって…一応任務だからな、任務」
「むぇー…わかってるもぉーん!でもさみしーの!」
「まぁ無事に帰って来れるならそれが一番だよ」
「だな、取りあえずさっさと帰るか」
―…ガチャガチャ
「!」
そう言って夏樹が空間転移の穴を開けようとしたが、従業員用の扉のドアノブを回す音にピタリと動作を止める。
極稀に悪戯半分に子供が入ってくることもあるのだ、下手に見られるのは良くない。
「…なんかヘンな感じがすぅ…?ぞわわーって感じ…」
「ぞわわ…?」
「…」
きらりが放ったその言葉で、李衣菜と夏樹が警戒する。
―ガチャ、ガチャガチャ…ギィ…
しばらくガチャガチャ動かされていたが、少ししてやっと開け方を理解したのか、扉が開かれた。
『…イマココニメガネイナカッタカ!?メガネシスベシ!!』
「ヘーイ」
『ヌワーッ』
扉を開けたのはアンチメガネカースだった。
だが入った瞬間に李衣菜が振り下ろした箒に核を破壊され、見事に撃沈した。
「今のって…カース…だよね?」
「…多分カースだと思うにぃ」
「多分って…きらりが多分とか言うの珍しいな」
「うーん…なんかねぇ、いつものカースと違うのー…時々見るメガネがとーっても好きなカースに似ているけどぉ…それともちょっち違うかもー?」
七つの大罪のカースでもない、カース。殺人・原罪…それらは大罪を混ぜ合わせた物。
だが…狂信・正義、そしてメガネ。それらは番外であり例外だ。七つの大罪とは殆ど関係がない。
この宇宙のどこにも、それらは存在しなかった筈のモノだ。
「うーん…確かに『メガネシスベシ』とか言ってたよね」
「メガネ好きなカースとは逆に、メガネ嫌いなカースって事か?嫌いっていうか嫌悪レベルだったと思うけど」
「あれ、メガネってこんな事が起きるようなすごい物だったっけ…きらりは何か感じたりした?」
「えっとねぇ…近くて、遠いの。それでいっぱいゾワゾワーって!」
「…?」
「カースなんだけど、ちょっと違うが感じすぅ…なんなんだろーね?」
「…さぁな、取りあえず…あ、いたいた」
夏樹は会話しながらも扉の外にユニットを飛ばし、付近に仲間がいないかさりげなくチェックしていた。そこで三体がブレーメンのように重なって物陰に隠れていたのを発見する。
『フェェェ…ミツカッタヨォ…シンジャウヨォ…』
『コウイウトキ、ドウイウカオスレバイイノカワカラナイヨォ…』
『ワラエバイイトオモウヨォ…』
「ほいっと」
『フォルテッシモーッ!』
『ワタシガシンデモォー!』
『カワリハイルモノォー!』
視覚ユニットが放つレーザーが付近にいたアンチメガネカースの核を破壊した。
「…もういないよな、今度こそ帰るか」
「「はーい」」
軽く確認を済ませると、扉を閉めて穴を開け、三人は帰宅していった。
だが、扉の外に置いてあったゴミ箱の蓋を開けて、ひょこっと別のアンチメガネカースが顔(?)を覗かせた。
『アア…我ガ同志ガ四体モ…ナゲカワシイ…ナゼ、我ラハ人々ニ受け入レラレナイノダ?』
その個体は他のアンチメガネカースよりも少し知的に喋っていた。
『シリマセン』『カースダカラ?』
その横から、同じくゴミ箱に隠れていた二体のカースがその独り言に答える。
『カースだから…他ノカースガ悪イカラ、我ラモ迫害サレル…ナルホド』
ゴミ箱から降りて、そのカースは不定形な体を変形させていく。
『人々へメガネノ愚カサヲ伝エルニハ、人々ト同ジ姿ヲスレバイイノデハナイダロウカ?』
二本の足で大地に立ち、核を二つに分けて瞳に擬態させる。
『似タ姿ナライロイロと便利デハナイカ?ホラ、ワカルカ?』
『ワカ…ル…ワ?』『ナルホド、ワカラン』
黒く透明な泥は、色の濃度が部分ごとに変わっていく。
暫くすれば、そこにはレンズの様な少し不気味な瞳をした、濃度の違う黒だけで彩られたショートヘアの小さな少女がいた。
『コウスレバ、殺サレナイ筈ダヨ。カワイイッテ皆ガ大好キダカラ。ネー?ミンナデヤロウヨ』
『…イインジャナイカナ』『ホホウ…』
ニコニコしながら、少女に擬態したアンチメガネカースは他のアンチメガネカースを誘う。
『マネシテミヨウ』『ソウシヨウ』
誘われた他の二体がその擬態を真似て、子供の姿に擬態する。
『カワイイカナー?』『ドウカナー?』
『イイヨイイヨーカワイイヨーコレデミンナ攻撃シナイヨー!』
『ホントー!?』『ヤッタネー!』
本当に子供のようにキャッキャッと子供に擬態した三体は笑い合う。
そこに、上空からふわりと黒い影が降り立った。
「いぇい、こンばんは。アタシのカワイイ子ウサギちゃん達。なーんてな」
『『『マイマザー!』』』
キャーキャー言いながら、三体は降りてきた黒兎に群がった。
「…目を離している間に随分とまァ変わって…びっくりしたぞ」
『我々ハネ、メガネの愚カサヲ人々ニ教エナイトイケナイカラ!ガンバッテカンガエタノ!』
「あれ…コんな性格だったっケ…まぁいっか」
カースの攻撃や動きは、外見に影響されることが多い。獣型は爪や牙を使うし、人型は腕や足を使う。若干性格が変わったのも外見に影響を受けているのだろう。
「人に擬態…素晴らしい。こレでまた、同志が増えるだろうな!もっと皆に教えてあげてネ。もっと同志ヲ増やすんだよ?」
『『『ハーイ!』』』
「いい子だね子ウサギちゃん。お前達に特別な名前ヲあげよう。そうだなァ…アンチメガネチルドレンで…AMC!AMCと名乗れ!」
『『『ハーイ!』』』
「もっとAMCが増えたら、アタシとっても嬉しイ!白はまたバカにするんだろうけど、アタシのステキな同志だからな!」
『『『ハーイ!』』』
「はい解散!散れィ!」
『『『アラホラサッサー!』』』
黒兎の号令で、3体は別々の場所へと散って行った。
「いやー、まァまさかああなるとは思わないよなー…仁加と別行動していてよかった、良い物見れた♪予感ってすごいわー」
黒兎は上機嫌だ。
「白もどこかに行っテいたし、アタシだって好きに動く時間があってもいいよねー」
「仁加…寂しがるかな、急に姿消しタし…アタシもさっさと戻りまショっと」
少し気まずくなったか、翼を広げると黒兎はどこかへ飛んでいった。
時の流れと共に、狂信は着々と広まっていく。
『メガネ、だめなんだよー』『なんだよー』『だよー』
『お菓子くれるのー?』『『わー』』
『同志、メガネを許しちゃダメなんだからねー』
AMCは、着々とその数を増やしている。アンチメガネカースからAMCになる個体は全部ではないが、それでも増えていく。
『ギャアアアア!!』『キミヲミウシナウウウウウウウ!!』『メガネイズギルティィィィィ!!』
「どうだ!カースめ!」
アンチメガネカースが、あるフリ―のヒーローの攻撃を受けていた。
大地に立つそのヒーローの袖を、小さな手が引いた。
『ねーねーお兄ちゃん』
「あれ、君いつのまに…」
いつの間にかそばにいた幼い子供に、そのヒーローは拍子抜けする。
『んしょ、んしょ…』
素早く、静かに、その一体のAMCはヒーローの体をよじ登った。
『同志をいじめないで?』
「えっ?」
『ばーん!』
瞳に擬態した核のエネルギーを自ら解放し、そのAMCはボンッと音を立てて自爆した。
「…」
自爆と言っても小さな核のエネルギーは大したことは無く、彼は気絶するだけで済んだ。
だが、そこに他のAMCが群がってくる。
『同志いじめたの?』『メガネだめなの』『メガネだめー』
狂信の波動が、彼の精神にメガネへの嫌悪を植え付ける。
『みんな逃げたかな』『同志が助かってよかったね』『よかったー』
アンチメガネカースは、その隙にヒーローから逃げ出した様子だった。
それを確認するとAMC達は人々に紛れるべく、どこかへと消えていった。
カフェ・マルメターノ
都内某所にあるおしゃれなカフェ。不定期ではあるが夜にはワインバーとして経営される時もある。ソーセージがおいしいらしい。
それなりに安い値段設定の為、学生や女性を中心にひそかに人気がある。
名物のはぴはぴ☆パフェは様々なサイズ(ちっちゃい・ふつう・おっきい・まっくす☆)が揃えられている。
※ちっちゃいサイズで普通サイズです
その正体は地下にある宇宙管理局太陽系支部地球出張所の隠れ蓑であり、店員は関係者のみで構成されている。
店長はLPという事になっている。ネバーディスペアのメンバーも時々手伝いに来ているようだ。
キュアイス
アイスの形をした薬品。管理局が作成した薬に李衣菜の体を流れる蘇生薬を混ぜたもの。色は水色。
非常に味が悪いが普通の人間でも経口摂取のみでしか効果が出ないらしい。
その味の悪さたるや、一時的に味覚が麻痺する程。しかし薬としてはかなり高品質。自然治癒促す等の効果がある。
アンチメガネチルドレン(AMC)
知恵を持ったアンチメガネカースが生存率を上げる為に人間に擬態した姿。それに伴う様に一部のアンチメガネカースもそれを真似た。
知恵を持っているのは確かではあるが、外見に影響されているのか行動は子供っぽく、尚且つ狂信者そのもの。
狂信自体が特殊なせいか知恵を持ったことで生まれた副産物はないが、多数存在する知恵を持つカースであり、基本的にグループで行動する。
どこにでもいる。いつの間にかいる。仲間を攻撃されると近くの仲間を呼びよせる。
見かけた人々を真似て子供サイズで擬態する為、外見は基本的に同じものは少ない。
全体的に黒い幼稚園児~小学校低学年程度の子供の姿をしているが、まるでレンズのような少し不気味な瞳をしている。
核を二つに分け、瞳に擬態させているらしく、目からビームが出るぞ!洗脳もできるぞ!すごいぞー!
知恵を持ち進化した狂信はぶれる事は決して無い。仲間の利益になると判断すれば自爆さえ躊躇しない。
他のカースと比較すると核が露出してさらに薄い為か僅かな衝撃で死ぬことが多い。しかし一撃で葬らないと泣き叫ぶ。
以上です
カフェ・マルメターノなんてネタ、拾わずにはいられないよね!
髪降ろしなつきちが見れるかもしれません、稀に。
李衣菜のロールケーキネタはアンソロネタだったり
AMCは狂信者をマイルドにしようと子供にしたら、さらにえげつなくなった気がするでござるの巻
情報
・AMCが発生しました。基本的に好き勝手に動いています
乙ー
やだ、AMCコワイ
果たしてコイツらとめられるのか?
久々に投下します。時系列は学園祭一日目の黒い雨降ってる時です
梨沙「もう!きりがないわよ!」
黒い雨が降り注ぐ中、梨沙は鋭い爪で迫りくるカースを踊るように切り裂き、遠くにいるカースを二つの自立式レーザーユニットが撃ち抜く。
人々は建物の中に避難し、梨沙は外で一人、無数のカースを相手にしていた。
仁加を助け、再びコアさんと学園祭を見て回ってると急に降り出した黒い雨と湧き上がるカース。
梨沙はアイドルヒーローRISAとして、人々を建物に避難させ、自分はコアさんを装着し、ここでカースを食い止めているのだ。
『ヒャッハー!!!ロリィーダ!!!!』
『ピイポウクンデース!!!!!』
『フンデクダサイッ!!』
梨沙が踊るような攻撃の隙を狙い、背後から数匹のカースが飛びかかってくる。
が
梨沙「エルファバ!!!」
『ブケラッ!?』
『アベシッ!?』
『アリガトウゴザイマスッ!!!』
梨沙の背後から、全身がエメラルド色に輝く女性が現れ、カースにラッシュを食らわせ吹き飛ばした。
彼女の能力……ゴースト≪エルファバ≫。
それにより自分への隙を無くし、踊るように立ち振る舞うのが彼女の戦闘スタイルだ。
『マダマダァッ!!!!』
『オレヲマンゾクサセロォォォ!!!』
『ロリハサイコウデスッ!』
だが多勢に無勢。カースの数は減る様子を見せない。
後方にいるカース達が一斉に梨沙に向かい泥の塊が放ち始めた。
梨沙「エルファバ!!!叩き落として!!!」
エルファバを前方に出し、ラッシュを放ち、泥を叩き落とし、自身はダンスの容量で取り残した泥をよけて行く。
梨沙「ぐっ!………このままじゃキツイわね」
だが、何発かは彼女の身体に当たってしまい、ポツリと辛そうに呟く。
彼女のこの戦闘スタイルは主に近接メイン。それも力より身軽さを生かした動き。更に自分をサポートする二つのレーザーユニットとゴースト≪エルファバ≫。
それにより多数の相手の戦闘は得意としてるのだが………
梨沙「いくらなんでも………減りなさいよ!!!!!!」
前方やいるカース達の中へ飛び込み、ブレイクダンスのように回転し、両脚の爪で周りのカースを斬り裂き、その隙を狙った他のカース達をエルファバで殴り飛ばし、遠くのカースの群に向かい牽制するようにレーザーユニットから攻撃を放つ。
それでも、カースの数は減ることはない。寧ろ雨が強くなるたびにカースの数も増えてくる。
梨沙(本当にどうすればいいのよ…。いっそ空に向かって貯めてたエネルギー使ったほうがいい?けど……)
梨沙はチラッとエルファバの両腕を見る。
両腕には3メモリずつマークがついており、右腕の3メモリ中2メモリ分が光っていて、左腕の3メモリは光ってなかった。
梨沙(エルファバが殴ったカースと泥の分の衝撃、カースの叫び声の音、そして私に当たったカースの攻撃の半分の衝撃。コレで半分も溜まってないのね……空に放って黒い雨を吹き飛ばすのにも、全然足りないわ。それに吹き飛ばしたとしても元凶をなんとかしない限りすぐ復活しそうね)
かといって、今すぐ元凶を探しに行く事もできない。何故なら自分がここを離れたら避難してる人達が危険だ。
『マダオワランヨ!』
梨沙「終わりなさいよ!」
自身に来たカースをエルファバで殴り飛ばし、距離を取るように後ろに飛ぶ。
梨沙(コアさんのレーザーユニットもエネルギー切れになる……。ああ!ダメ!こんなのパパに見せられないじゃない!)
このままでは、梨沙がやられるのも時間の問題。
梨沙「…………もう!!雨止みなさいよ!!!」
苛立ち気に叫びながら、再びカースの群れに飛び込もうとした。
その時だった。
梨沙「あっ……」
『ギギ!?』
『アメガァ!?アメガァ!?』
黒い雨が突然と止み始めたのだ。
梨沙は知らない。この時、イルミナPが元凶を倒した事を。
だが………
梨沙「今が一掃チャンスね」
そう言いながら、エルファバでカースを何体が殴り飛ばし、エルファバの右腕のメモリを見れば3メモリとも光っていた。
梨沙「コアさん!!!フルチャージ」
梨沙の言葉に反応するかのように上空へ飛び、二つのレーザーユニットの先をカースの群の後列に向け、赤紫に光り輝き始める。
梨沙「シュトゥルム………」
それと同時にエルファバがカースの群れに向かい、右腕を突き出すようにしながら向け、左腕を後ろに下げ殴る構えを取り始める。右腕の光が徐々に左腕へと移動し緑色に輝き始める。
『オイ!アレヤベェンジャネエノ?』
『コンナバショニイテタマルカ!オレハヘヤニカエル!!』
『アッ……アカンヤツヤ』
カース達も二色の光に身の危険を感じ、我先にと逃げ出そうとする。
だが、逃がさない!
梨沙「ヴェアヴォルフゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオンッッッッッッッゥゥゥ!!!!!!!!!!!
その叫びと同時に、エルファバが左腕を前へと殴るように突き出した瞬間。
左拳から轟音と共に、エメラルドに輝く光の奔流が砲撃のように放たれ、前方にいるカース達を飲み込んだ。
だがその距離は短く、よけきれたカースも多い。
そのため、同時に上空の二つのレーザーユニットから赤紫に輝く二つの巨大な光の柱が放たれ、とり逃したカース達を焼き払っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パップ「お疲れ様。梨沙、コアさん。大変だったろ?」
梨沙「疲れたってレベルじゃないわよ……」
『ぶもっ………』
カース達がいなくなり平穏になった場所で、疲れきったように壁にもたれかかってる梨沙とコアさんにパップは労いの言葉をかけていた。
パップ「明日はライブもあるんだ。今日は寮に帰ってゆっくり休んでくれ。後はこっちでやっとくから」
「はーい」と疲れきった返事をしながらトコトコと帰る梨沙達を見送りながら、パップは戦闘で壊れた建物や屋台を見まわす。
どうやったら明日までに修理できるか考えながら修復の専門業者に連絡する手はずを考えていた。
無論、パップも手伝うの確定である。下手したら寝ずに働かないといけないと考えると、苦笑いしてしまう。
パップ「それにしても一日目でこの惨状か……」
秋炎絢爛祭はまだ初日だ。初日でこの被害ならカースの出現や悪事も増えるのは目に見える。
パップ「こっちに来てくれるアイドルヒーローを増やすよう直談判するしかないか……」
果たして、それでどのくらい来てくれるのかと考えると肩の荷が重く感じる。
パップ「スカウトもなかなか上手くいかないしな…そんなに怪しいか?俺は」
そう溜息をつきながら、彼はケータイを取り出し明日の秋炎絢爛祭が通常通り行えるよう修復業者に連絡するのであった。
明日、自分が運命的な出会いをするのを知るよしもなく。
加蓮「やっとカースがいなくなった…」
それを同じくして北条加蓮は落ち込んだ様子でトボトボと歩いていた。
自分が色んなお店に目移りしてたせいで、涼のライブは間に合わず。
更に黒い雨によるカース達の出現により、人々を守るために戦っていた。
そのため、涼に会えずじまいで彼女の始めての学園祭は終わりを告げた。
加蓮「?」
フッと自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして、彼女は振り返った。
けど、誰もいない。それに聞いたことないはずの声なのに………
加蓮「……………」
探さないといけないような気がした。会わないといけないような気がした。
だけど、今探してもここにはいないのはなんとなくわかる。もしかしたら明日来れば……
加蓮「………ごめん。涼。明日もライブいけないかも」
そう呟くと、彼女は歩き始めた。
そして、彼女は気づかない。
『それがいいよ≪私≫。あの子を探そう』
彼女の影が揺らめき
『寂しがり屋の女の子を見つけるかくれんぼ。早く見つけてあげな』
動き
『あっ、いい魂がいるね。もーらい』
黒い腕が飛び出し、空中にいる何かを掴み影の中へとりこんだ。
彼女は知らない。自分の影の中にサクライ財閥のエージェントの……………えっと電気の人の魂を取り込んだことを……
さあ、二日目はどうなることやら?
終わり
以上です
果たして加蓮は会えるのだろうか?
そして、電気の人ごめんなさい
イベント追加情報
・パップがアイドルヒーロー同盟に秋炎絢爛祭に来るアイドルヒーローを増やすよう頼みました
・加蓮が二日目から誰かを探し始めます
・影が電気の人の魂をとりこみました。電気の人ェ………
乙です
で、電気の人ー!!電気の人はぎ取られ過ぎぃ!もう何も残ってないよこれ!
アイドルヒーロー増援要請キタコレ
はてさて加蓮と彼女はどうなることやら
お二方乙です
AMCこええ!キュアイス……誰かが間違って食べないことを祈ろう
つくづくむしりとられる電気の人ェ……そして梨沙つよい
ずっと言うの忘れてた…。>>846のCOの設定はメタネタスレの◆AZRIyTG9aM氏の考案した設定です
>>847
時子さんが楽しそうで何よりです
そんな時子さんに張り合えるパップ、べぇですね
>>882
ぅゎょぅι゙ょっょぃ。ルナール社員に何があった……
残すは決戦だけかな?
>>905
箒で倒されるカースさん……
白もヤバいけど黒もヤバいですね
>>919
やっぱりょぅι゙ょっょぃんですけど
そして電気のひとぉおお
皆様、乙です
ではでは投下ー
前回までのあらすじ
肇「お待たせしました、ご主人様。こちらがオムライスです」
シロクマP「それじゃあ、ケチャップで『氷菓子』って書いてもらっていい?」
肇「……えっ、オムライスなのにですか?」
美穂とシロクマP
>>644-
美穂「……」
「それでー、次どこ行く――」
「RISAのライブまでまだ時間あるよね――」
「うまいって噂のソーセージ屋台って何処だ――」
「昨日言ってたアイスクリームのお店なんだけど――」
「すみませーん、落し物ってどこに届ければ――」
美穂「……♪」
本日は学園祭2日目。場所は京華学園・教習棟前。
「もー、この学園広すぎでしょ――」
「この本掘り出し物だよー。古本屋さんで見つけちゃって――」
「なんかこの学園でカースが現れたそうじゃん、ヤバくない?――」
「ヒーロー達も来てるんだし大丈夫だろぉ――」
「アンティークショップってあるみたいだけど何を売ってるのかな――」
美穂「ふん……ふふん♪」
行き交う人々の中、鼻歌なんて歌っちゃいながら私は待ちます。
「ねえ、さっき喫茶店でクマ見かけたんだけど――」
「俺はロリコンっぽいハゲ見かけた――」
「私はロリコンっぽい高校生みかけたよ――」
「ちくわ道明寺」
「マジかよ、日本終わったな――」
「誰だ今の」
美穂「……ふふんふーん♪」
タッタッタ
肇「お待たせしました、美穂さん!」
美穂「あっ、ううん。早かったね」
肇「ええ、思っていたよりもお店が落ち着いてきたので」
肇「みくさん達のご好意で、少しだけ早く休憩を取らせてもらう事ができましたから」
美穂「そうだったんだ。えへへ、それじゃあ行こっか、肇ちゃん!」
肇「はいっ!学園のお祭り、さっそく一緒に回りみましょう!」
と言う訳で、本日、わたくし小日向美穂は、
肇ちゃんの休憩時間の間と言う短い時間ではありますが、
2人で一緒に学園祭を楽しみたいと思います!
美穂「肇ちゃん、今日はお仕事大丈夫だった?」
肇「ええ、昨日よりもずっとうまくやりきる事ができたと思います」
美穂「ふふっ、そっかうまく出来てるんだ」
昨日の様子から、お仕事今日も大変なのかな?と思ったのですが、
どうやら心配はなかったみたいです。
嬉しそうに報告してくれる肇ちゃんの言葉に、
私もついつい自分の事みたいに嬉しくなってしまいます。
肇「ふふっ、なにしろ今日は”鬼心伝心”を使いましたので」
美穂「……えっ」
『鬼心伝心』。肇ちゃんの使う妖術、鬼のおまじないの一つ。
たしかその効果は……
肇「みくさんの心、技、体の動きを読み取って、私の動きに反映させました」
肇「あの場では、みくさんがもっともプロフェッショナルなメイドさんですから」
肇「ふふっ、みくさんが日本一のネコミミメイドなら、私も日本一のネコミミメイドと言う事ですにゃ」
美穂(……結構ずるい事してた)
ですが、相手の技量をそっくりそのまま自分の技術として扱えてしまう”鬼心伝心”は、
戦ったりするよりも、こう言う場面でこそ活躍するべきなのかもしれません。
美穂「でも、そっかぁ……もうお仕事慣れちゃったんだね。まだ日が浅いのに肇ちゃん凄いな」
肇「可愛らしい格好をするのはまだ少し恥ずかしいですけれどね……」
肇「ですが……その……それも憧れていたので、悪い気はしないですね」
美穂「憧れてた?」
肇「はい、ヒーローとして活躍する時の美穂さんのように」
肇「華やかでとても可愛らしい格好で舞台に立つような事もしてみたい、なんて思ったりもしていましたよ」
美穂「あ、あぅ……も、もう!肇ちゃん!」
肇「ふふっ」
ほんの少しからかうように笑う肇ちゃん。
肇ちゃんの話だったはずが、いつの間にかこっちが恥ずかしがる事になっちゃってました。
だけど……私に憧れていてくれたと言う言葉。
それは、ヒーロー”ひなたん星人”にとって一番のファンであると言う事で、
それはそれは嬉しい気持ちにもなってしまいます。
美穂「えへへっ」
美穂「でも、それならシロクマさんのお誘い受けちゃっても良かったかもね」
肇「……私がアイドルに……ふふっ、想像してみれば楽しそうです。確かにそれも良かったかもしれませんね」
アイドルヒーロー同盟に所属するプロデューサー、シロクマPさんのお誘い。
お誘いと言うのはアイドルヒーローのスカウトなのですが、
シロクマさんは私だけではなくって、肇ちゃんの事にも興味があったみたいでした。
私もシロクマさんの気持ちがよく分かります。
身内贔屓を差し引いたとしても、肇ちゃんこんなに可愛いのだし意外と強いし……。
うぅ……アイドルヒーローを目指している事を公言しているからには私も負けてはいられないのですが……。
肇「ですが」
美穂「?」
肇「今は使命が。私にはやるべき事がありますから」
美穂「使命……残りの刀の所有者探しだよね?」
肇ちゃんには使命があります。
肇ちゃんのお爺さん、藤原一心さんから託された刀『鬼神の七振り』の所有者探し。
肇「もちろん。それもです」
肇「それとお爺ちゃんに託されているのは、もう一つ」
肇「刀の材料探しもですね」
美穂「『原罪』のカースの核だったよね?」
『原罪』のカースの核。肇ちゃんのお爺さんの最高傑作となる刀の材料だそうです。
私には、『原罪』どころかカースの事もよく分かっていないのですが……。
美穂「……」
アホ毛「♪」
私の頭上では何かが蠢いています。
ヒヨちゃんの仕業です。
ヒヨちゃんは、私が腰に携えている刀の中の人格と言うか……もう1人の私と言うか……。
そう言えば、私は……ヒヨちゃんの事もよく分かってないのかなあ……。
ちなみにヒヨちゃんは、時々こうして私の髪の毛を操作して今の気持ちを伝えてきているみたいです。
私には見えない位置なので、彼女の動きは感覚的に理解するしかないのですが。
肇「『原罪』については今のところ……少しの手がかりも無いですね」
美穂「そうだよね、私も色んなカースと戦ってきたけど……虹色の核なんて見た事無いから」
美穂「うーん……私よりずっとずっとヒーローとして活躍してるセイラさんもやっぱり知らないみたいだったし」
肇「……」
肇ちゃんは困っている顔をしています。
手がかりが無い以上、まったく先の見えない道を正しいかどうかもわからずに歩むもので、その不安は私にもわかりました。
美穂「シロクマさんを通して、同盟の人たちにも『原罪』を探してもらえるように頼んでみてもよかったかな」
そんな様子を見かねて、何気ない提案。
しかし、これは失言で。
肇「い、いえ!それは!」
美穂「肇ちゃん?」
肇「……あまり……たくさんの人を巻き込んでしまいたくはなくて……」
美穂「あ……ご、ごめんね」
肇「……」
美穂「……」
はい……私が考え足らずでした。
「巻き込みたくはない。」
肇ちゃんがそう思うのも当然の事で、
それは、きっと例の”刀を狙う悪い人たち”のせいなのだと思います。
――
――
ここで回想。
時間は、夏休み。
私たちの住む町に妖怪さん達が跋扈した『祟り場』と呼ばれる事件が収束した頃に戻ります。
肇父「父の刀を狙う者達は、昔はそれなりにいてな」
肇父「なにしろ我が父は界隈では、『鬼匠』と名が通っているほどだ」
肇父「天下一を目指す剣士、より強い力を求める妖達、あるいは国の支配を企む妖術師の一派」
肇父「譲り受けに来ようと熱心に父の元を通う者達も多く居たが……」
肇父「中には、力ずくでも、どんな手を使ってでも刀を自分の物としようとする悪しき輩も同じくらい居たものだ」
美穂「……」
肇ちゃんのお父さんのお話を聞いて、思わずごくりと息を飲んでしまいました。
私の頭の中では、聞く限りに恐ろしい人たちがずらりと並び立ちます。
肇父「まあ、そのような者達の大方は、以前に私がフルボッコにした故に」
肇父「未だに父の刀を狙っている悪しき輩はもはやほとんど居ないのだが……」
美穂(フルボッコって……)
肇「でも、今回の『祟り場』でお父さんは襲われたんだよね」
肇父「うむ、間違いなく私を狙って……いや、私の持っていた『鬼神の七振り』を狙っていたのであろうな」
肇ちゃんが言ったとおり、
こんな物騒なお話をしているのも、肇ちゃんのお父さんが今回の『祟り場』で何者かに襲われたからなのです。
それも……おそらくは『鬼神の七振り』を狙う人たちに。
肇父「心を読めなかったが故に、襲撃者の正体は私にも掴めなかった」
その人達について分かるのは心が読めない相手であったと言う事くらいです。
例えばロボットの兵隊さんだとしたら、心が無いので心を読む能力は通じないのでしょう。
肇父「とは言え、予想はついているのだ」
肇父「おそらく、此度の襲撃者はあやつらの差し金なのであろう」
美穂「あやつら?」
肇父「……我が父に、『鬼神の七振り』の製作を依頼した依頼主」
美穂「!?」
肇「!」
依頼主、と肇ちゃんのお父さんは言いました。
『鬼神の七振り』の製作は、誰かが肇ちゃんのお爺さんに頼んで作ってもらった刀なのだそうです。
私はその時にその話をはじめて聞いたのですが、
隣で聞いている肇ちゃんも、驚き方からして初耳だったのだと思います。
肇父「そやつらの名は……」
――
――
美穂(櫻井財閥……)
櫻井財閥。
それが、あの時教えてもらった『鬼神の七振り』を狙う心当たりのある組織の名前です。
『櫻井財閥』の名前は、もちろん私も聞いた事があります。
間違いなくあの、世界的にも有名な大財閥のことですよね……。
道行く人に声を掛けて、「櫻井財閥って知ってますか?」と聞いたら、
8割の人が、「知ってるよ」と答えると思います。
そのくらい有名です。
残り2割の人は、「櫻井!?知るかっ!!」と何かに怒ったように答えると思います。
そのくらい有名です。
ただ、有名は有名ですけれど、
みんな……多くの人は名前を知っていると言うだけで、
その実体……全体像となると、知ってる人はどのくらい居るのでしょうか?
私が櫻井財閥について知っていることと言えば……
例えば、この学園から少し離れた位置にある病院。櫻井財閥が運営しているそうです。
例えば、私がよく卯月ちゃん達と買い物に行くデパート。経営者は櫻井財閥の関係者だそうです。
例えば、クラスで流行っているマスコットキャラクターのグッズ。製作には櫻井財閥に連なるグループの企業が関わっているそうです。
本当にどこでも名前を聞けちゃいますね。
だから……ますます、どんな組織なのかわからなくなった気がします。
名前と、その事業。なんとなく、そして少しだけは知ってはいました。
けれどなんとなくでしか知りません。少しだけしか知りません。
全体の内のほんの一部。私が知っているのはそのくらいです。
世界に名だたる『櫻井財閥』。その実体は、私たち一般人からすればとにかく巨大です。
たとえ身近にある一部からその存在を知っていても、その全体像は大きすぎて見えていないんです。
広い海岸。砂浜で向こうからやってくる波に触れる事はできても、地平線の向こう側は見えない。
怪獣映画に出てくるような怪獣の傍に居て、その足元はよく見えていても、頭は雲の上にあって見えない。
丁度、そんな感覚であると言いますか。
気になったので、インターネットでも調べてみました。
後でわかりましたけれど、その時使ったパソコンの生産事業にも、
櫻井財閥が大きく関わっているらしくって、なんだかここまで来ると怖いですね。
それはさておいて、
「櫻井財閥(仮)」で検索、検索ぅ。
出てくるのは良いお話と、まことしやかに囁かれる悪い噂です。
まずは良いお話から、
カースの大量発生によって、私達を恐怖のどん底に陥れたあの『憤怒の街』と呼ばれた災害。
その解決の為に、『櫻井財閥』はヒーロー達と共に初期から動いてくれていたのだそうです。
『憤怒の街』には、『櫻井財閥』に所属する能力者さん達が派遣されていたようです。
彼らは果敢に攻略の足掛りとなる地図を作成し、その後も街の中心地付近で救護活動を行い、
怪我した人たちを財閥の運営する病院に運び込んで、たくさんの人たちを救ったそうです。
驚きなのが、『憤怒の街』での活動に力を入れるように強く進言したのは、
まだ12才のご令嬢であったらしく、その事で彼女をはじめ櫻井財閥に多数の感謝の言葉が寄せられていました。
このお話には、私は素直に感激しちゃいました。
『憤怒の街』での救助活動は、私にはできなかった事なので。
見知らぬ誰かのために、尽くして戦う。まるでヒーローみたいですよね。
一方で悪い噂。
検索した限りではこちらの方が多種多様、
都市伝説めいた嘘みたいなお話から、散々な罵詈雑言までエトセトラ。
と言うか悪口満載です。まるで低評価が並ぶカスタマーレビューでした。
その中の幾つかをご紹介。
「櫻井財閥の当主は悪魔と契約している」
「櫻井財閥に関わったジャーナリストが死体で発見される事件が多すぎる」
「死神事件の黒幕は櫻井。魔法使いの活躍に何か不都合があるに違いない」
「『憤怒の街』での救助活動も形だけのパフォーマンス。救助した身寄りの無い人間は人体実験に使っているらしい」
「櫻井財閥に仕事貰いに行った研究員が帰ってこない件について」
……黒いです。すごくブラックです。
ここでは紹介しませんでしたが、もっと危ないお話もあったりして……。
これ全部、本当のお話なんでしょうか……。ネットで真実は語れないと言いますが……。
うーん、嘘みたいだけど、真実味のあるお話もあって怖いなあ。
良いお話と悪い噂。
ここまで評価が真っ二つに分かれるのは、
櫻井財閥と言う組織が、本当に2つの顔を持っているからでは無いでしょうか。
ちょうど私と、”ひなたん星人”みたいにです。
それは表と裏の関係。
コインのようにひっくり返る真逆の顔を兼ね備えているのだと思います。
2つの顔と言えば、『綺麗な花には棘がある』って言いますよね。
美しく見える物ほど、その裏には人を傷つけちゃう棘があるのだって。
綺麗な美談で、美しく飾られる『櫻井財閥』にも、
その陰には、たくさんの人を傷つけてしまう棘があるのかもしれません。
善と悪。正しいと間違い。本当と嘘。それらが複雑に絡み合う……
巨大な茨の庭園。
『櫻井財閥』について調べて、私が抱いたのはそんな印象でした。
……と、閑話休題です。
とにかく、櫻井財閥が肇ちゃんのお爺さんに『鬼神の七振り』の製作を依頼したのは間違いないようです。
そして刀の完成を目前にして、櫻井財閥はその研究から手を引いた。
いえ、肇ちゃんのお父さんによると、とある事件の影響によって手を引かざるを得なかったそうです。
行き場を失い、お爺さんの手元に残った刀は、孫の肇ちゃんに託されて、人の世に。
と、言うのがこれまでの『鬼神の七振り』に纏わるお話の流れだったみたいですね。
もし櫻井財閥が、『鬼神の七振り』を半ば諦めるように研究を放棄したのだとしたら……。
そしてもし櫻井財閥が、噂どおりのブラックで危ない組織なのだとしたら……。
なるほど確かに、『鬼神の七振り』を狙って肇ちゃんのお父さんを襲った理由になるのかもしれません。
うーん、それでも幾つかの疑問は残っちゃうんですけどね。
「どうして奪おうとしたのか」とか……。
あ、もちろん、「刀が欲しいから」って理由なのはわかります!
でも……「欲しい」だけなら……真っ先に「奪う」って方法を選んだのはちょっと変かなって。
他にもたくさんやり方はあると思うんです。
例えば、肇ちゃんのお爺ちゃんにもう一度頼むとか……。
既に断られちゃったのかもしれませんけどね。
……考えてもよくわかりませんね。襲撃者の正体が本当に彼らとも限りませんし。
とりあえず今の私には、警戒を怠らないようにすることしかできないでしょう。
さて、長々と思考しちゃいましたが。
美穂「……」
肇「……」
沈黙が続いちゃってます。ちょっと気まずいです。
そう、私が8レスにも渡って回想を交えつつ現状を省みることができたのは、
この沈黙の長さのせいだったりします。
はい、気まずいです。
美穂「……」
肇「……」
刀を狙う襲撃者の存在。肇ちゃんにもきっと思うところがあるのでしょう。
肇ちゃんは優しいから、
『鬼神の七振り』を託した私たちの事を心配してくれているのかもしれません。
でも、日本一、欲張りな刀こと『月灯』を託したセイラさんは元アイドルヒーロー。
そして日本一、大喰らいな刀こと『餓王丸』を託した珠美さんと言う人は、妖怪退治屋さんだそうです。
セイラさんは言うまでも無く、珠美さんも肇ちゃんから聞く限りは、かなりの実力者です。
きっと2人とも私なんかが及ばないくらい強い人達で、だから簡単には負けたりなんかしないはずです。
もう1つ。肇ちゃんの手元を離れた刀。
日本一、自堕落な刀こと『眠り草』。それは危機回避能力に秀でた刀だと聞いています。
だとしたら、まだ出会ったことの無い所有者の人をちゃんと守ってくれているはずです。
美穂「だからね、きっと大丈夫だよ肇ちゃん」
肇「……そうですね。美穂さん、ありがとうございます」
美穂「ううん。それにね」
美穂「私も負けたり……負けないつもりで頑張るから、安心してほしいかな」
ここで負けたりなんてしないと言い切れたらカッコよかったと思うのですが、
自分自身の強さにそこまでの自信は持てないのが私でした。すみません…。
肇「ふふっ、美穂さんは良いアイドルヒーローに絶対なれると私は思いますよ」
どこか自信のない私の言葉に、
肇ちゃんは力強く笑顔で答えてくれるのでした。
――
美穂「さてと、それじゃあ何処から見回ろっか?」
難しいお話はここまで。
悩む時間も大切だってシロクマさんは言ってたと思うけれど、
今は時間がありません。
なにしろ京華学園は、私達の学校なんかとは比べ物にならないほどに広大な学園で、
肇ちゃんの休憩時間だけではとても回りきれませんから!
少し落ち込んじゃった気持ちを晴らすためにも、
今は、すぐにでも学園祭を楽しむために行動することが大事なはずです!
肇「そうですね、まずは……」
ぐぅー
肇「……」
美穂「……ふふっ」
美穂「まずはご飯だね?」
肇「す、すみません。妖術の使いすぎで……」
肇ちゃんは妖術を使うと、何故かいつもお腹が減るようです。
今日は朝から『鬼心伝心』を使っていたようなので、今はお腹ぺこぺこな事でしょう。
美穂「うん。食べ物系の出し物は多いから、せっかくだし色んなところ回ろう!」
肇「……はいっ!お供させていただきます」
そうと決まれば、飲食系屋台が多い地上通路。まずはそこから攻めて行きましょう。
――
肇「出し物と言えば……」
美穂「?」
ベンチに座り、屋台で買ったクレープを頬張りながら肇ちゃんの言葉に耳を傾けます。
肇「美穂さんは、この学園祭での出し物は何を?」
美穂「あ、そう言えば話してなかったね」
肇「今日は私に付き合ってもらっていますが……美穂さんはお仕事大丈夫でしょうか?」
美穂「うん、持ち回り当番制だから大丈夫」
まあ、何と言うかですね。高校生はみんな遊びたいんです。
何かを提供するのも楽しいのですが、せっかく大きなお祭りなのですから色んな所を見て回りたい。
なので、みんなにできるかぎり自由な時間ができるように、持ち回り制に。
そして、出し物のために役割を果たしているときでも、この学園を見て回れるように……
美穂「私たちはね、これをやってるの」
ポケットから1枚のカードを取り出します。
肇「?」
肇「網目のマスに1から9の番号が…?美穂さん、これは?」
美穂「それはね、スタンプカードだよ」
と言う訳で、私達の出し物はスタンプラリーです。
肇「……なるほど、スタンプを持っている人を探してこのカードに判を押してもらうと」
美穂「うん、9点分のスタンプを集めれば豪華景品?と交換してもらえるみたい」
私達のことながら、なかなかに遊ぶことしか考えていない出し物だと思います。
何しろスタンプを持っている人は、そうと分かる格好で学園内を好きに歩き回ると言うルールですから。
もちろんある程度は自由に活動していてもいいのですが……本来の役割をサボっている人が居ないとは限りません。
そこはみんなのやる気と情熱を信じるしかないですね。
……まあ、私も今現在サボってるに近い状態ではあるので、あまり人の事を強くは言えないのですが……。
肇「9つのスタンプを集めるのは、とても大変そうですね」
美穂「そうでもないよ、9点分だから2点や3点のスタンプを集めればすぐに埋まるから」
肇「なるほど、得点の高いスタンプがあるんですね」
肇「それなら今からでも……」
美穂「えっ?」
どうやら肇ちゃんはスタンプを集める気のようです。でもとてもじゃないけど休憩時間中には……。
先ほどは簡単そうに「すぐに埋まる」と私も言いましたが、それは時間を使って広い学園を回ることができればの話であって。
肇「えっと……ダメでしょうか?」
美穂「……」
そんな顔でお願いされて断れるでしょうか、いやできまい(反語)
美穂「頑張ってみよっか」
肇「はいっ!」
美穂「……ふふっ」
美穂「それなら、まずはこの区画に居る番人を探してみよう」
肇「?……番人と言う呼び方は……何かを守っているみたいですね?」
肇「もしかして?」
美穂「肇ちゃん鋭いね!うんっ、スタンプのために勝負を仕掛けてくることがあるみたい」
もちろん勝負とは言っても、物騒な事は全然なくって
じゃんけんとか駆けっことかボードゲームとか簡単で誰でもできるものです。
勝負が絡むスタンプは、総じて高得点なので短時間クリアを目指すなら是非とも狙っていきたいところです。
肇「では、少し覚悟を決めて挑まなければいけませんね」
美穂「ふふっ、そうだね」
肇ちゃんの心は静かにですが燃えているようです。良い傾向です。
美穂「それじゃあ、このクレープを食べ終わったら早速……あれっ?」
肇「美穂さん?」
そこで、私はようやく気づきました。
美穂「私のクレープがない?」
手元にしっかり持っていたはずのクレープがありません。
おかしいです。全部は食べていなかったはずなのですが……
もぐもぐ。むしゃむしゃ。
美穂「?」
ふと、ベンチの後ろから何かを食んでるような音が聞こえます。
振り向けば、背後には……
美穂「誰もいない?」
肇「いえ、何かの気配は確かにあります」
どうやら気のせいではなく、肇ちゃんにも何かが居ることがわかったようです。
美穂「もしかして下かな?」
私はベンチの背もたれを乗り越えるようにして下を覗き込みました。
するとそこには、
「もぐもぐ」
美穂「あっ」
居ました。
こぐま「……もぐもぐ」
そこに居たのはこぐまさんです。
2.5頭身程度の、まるでぬいぐるみのような、
白くて可愛いこぐまさんが、クレープを食べていました。
こぐま「マ?」
あ、向こうもこちらに気づいたようですよ。
こぐま「……!!」
こぐま「マっ!!マっ?!」
覗かれていることに気づいて驚いたのか、こぐまさんは慌てて逃げ出します。
2つの小さな足でトテトテと、お世辞にも速い速度ではなく。どこか覚束ない足取りです。
こぐま「マっ!?」
あ。
こてん、と転げちゃいました。
美穂「……かわいい」
肇「……?この子は何でしょう?」
美穂「こぐまさん」
肇「い、いえ、それは見れば分かるんですけれどね」
ついボケちゃいましたが、肇ちゃんの言いたい事は分かります。
二足歩行で歩いて、間接部にはどこか光沢のある金属のような部分が見えるくまのぬいぐるみ。
機械?……あ、でもクレープ食べてたし……。
……不思議です。不思議な生き物です。
こぐま「マぁ……」
こぐまさんはふるふると震えながら、すぐそこの木の陰の後ろでこちらの様子を伺っています。
たぶん、隠れてるつもりなんだろうなぁ……。可愛いです。
正面から改めて見てみると、どこかシロクマPさんに似ているかも。
美穂「怯えちゃってるのかな?」
肇「人が怖いのかもしれませんね」
美穂「うーん……何か誤解を解くいい手はないかな……」
言いながら、私はごそごそとポケットを探ります。
美穂「あ、これなら」
肇「それは?」
美穂「お菓子。私に『番人』の役割が回ってきたときはこれを配ろうかなって思ってたんだ」
スタンプを配る役は、そうとわかる格好で歩き回らないといけません。
私は魔法使いのコスプレで頑張るつもりでした。
もう過ぎちゃったけど、ハロウィンも近いのでお菓子も一緒に配れば喜んでもらえるかなって。
ちなみに文化祭の季節は秋です。誰がなんと言おうと今は秋です。
私はクッキーを袋から取り出すと半分に砕いて左の手のひらの上に乗せます。
そしてベンチの横にしゃがみ込み、
美穂「おいでー」
こぐまさんに喋りかけます。
クレープを美味しそうに食べていたので、たぶんクッキーも好きだと思います。
こぐま「マ?」
私の予想通り、こぐまさんはこちらに興味を示してくれたみたいです。
こぐまさんはトテトテと、おそるおそるこちらに近づいてきます。
こぐま「……マ?」
そして私の前に立つと、小首を傾げました。
……可愛すぎませんか、この子。
美穂「はいっ、あげます!」
こぐま「マっ!」
私が許可を出すと、両手を伸ばしてクッキーを受け取ってくれました。
こぐま「もぐもぐ…」
早速口入れています、既に無警戒です。
信用してくれているのは嬉しいのですが、
こんなに簡単に人の事を信用してしまっていいのでしょうか……?この子が少し心配です。
こぐま「……」
こぐま「マぁあ♪」
美穂「ふふっ」
頬に両手を当てて、感激しているようでした。
喜んでもらえたようでよかったです。
こぐま「マっ!」
美穂「あっ」
ぴったりと、こぐまさんは私の足元にくっついています。
美穂「……懐かれちゃった?」
肇「ふふっ、みたいですね」
こぐま「マぁ!」
美穂「えへへ」
甘えん坊のクマさんですね、悪い気はしません。
私はこぐまさんを両手で抱え上げます。
あ、意外と軽いですね。
こぐま「マ♪」
抵抗されることは無く、すっぽりと私の両腕の間に収まるのでした。
美穂「さて、この子はどうしようか?」
肇「どうするとは?」
美穂「うーん、親とか居ないのかなぁ。もしかしたら誰かのペットなのかも?」
こぐま「マっ」
こぐまさんは首を振ります。どうやら違うみたいです。
野生の生き物?いえ、触り心地は意外にもふかふかですけど機械みたいな部分も見えてますし……
不思議です。不思議な子です。
こぐま「マっ♪マっ♪」
肇「……とにかく美穂さんに懐いてるみたいなので、一緒に連れて行きませんか?」
美穂「そうだね、この子の事を知ってる人に会えるかもしれないし」
少なくともこんな所に1人(?)にしているよりは、たぶん良いと思います。
美穂「シロクマさんに聞けばわからないかなぁ?」
アイドルヒーロー同盟ならこの子のような生き物についても知っていそうです。
こぐま「マぁ?」
それにしても……そっくりだなぁ。白い小熊さんだし。
美穂「ふふっ、とりあえずキミの事はプロデューサーくんと呼ぼうかな♪」
こぐま「マっ!」
プロデューサーをやってるシロクマさんにそっくりなので、『プロデューサーくん』。
我ながら安易な名付けですけれど気に入ってくれたようで何よりです。
美穂「それじゃあ、行こっか」
美穂「肇ちゃん、プロデューサーくん」
肇「はいっ」
Pくん「マっ」
さて、運命的な出会いを果たしたところで文化祭はまだまだこれから。
たくさん楽しんで大切な思い出を増やしたいと思います。
おしまい
『プロデューサーくん(マキナ・ウィッチキス)』
小さな白いクマのぬいぐるみの姿をしたエクス・マキナ。
無邪気で人懐っこく、悪戯と甘いお菓子が好き。
ガイスト形態はウィッチハット。一定の条件を満たすと装備者の魔力を増幅させる力を持つ。
『スタンプラリー』
『秋炎絢爛祭』における高校生組の出し物。
『京華学院』の様々な場所に居る高校生達からスタンプを貰って、豪華景品を手に入れよう。
スタンプをくれる『番人』たちは勝負を吹っかけてくることがあるかも?勝てば高得点のチャンス!
スタンプカードと景品の交換は教習棟で受け付けています。
※教育現場では今回の文化祭について、指導の一環としての外部生徒との交流が軸と考えられており、
高校生組の出し物は一部、他校生と協力して行われているものもあります。
そのため『スタンプラリー』に置いても美穂の学校以外の生徒が『番人』を勤めている事があるかもしれません。
◆方針
美穂……櫻井財閥を警戒中。文化祭を楽しむ。
肇 ……少しの間お仕事休憩中。文化祭を楽しむ。
と言う訳で、みほたんうぃっちフラグを立てるお話。
櫻井財閥に対する美穂の認識はこんな感じ。
肇ちゃんに休憩を取らせて貰ったり、高校生組の出し物を決めてしまったり。
色々と動かさせていただきました。失礼ー。
おっつおっつばっちし☆
髪下ろしたなつきちの色気はやべえの
しかしAMCえげつねえ……
リスクのでかい大技ってロマンよね、わかるわ
電気の人ェ……とうとう残っていた魂までもが……
>>923
そういや書いてなかった
ルナール社員は普通にカースに叩き潰されてます、説明不足失礼しました
美穂ちゃんは鬼神の七振りだけでなく魔力まで得てしまうのか、強い(確信)
アイドルヒーロー同盟で短く投下しますー
今回も前回同様、最新版に更新したアイドル設定の一部も投下します
ヒーロー「やっ、やめろぉ! 俺に眼鏡を近づけるなあ!!」
アイドルヒーロー同盟事務所内の一室。
アンチメガネカースと戦っていて気を失ったとあるヒーローが、震えながら暴れていた。
モブP「お、落ち着け!」
ヒーロー「暴れんなってリーダー!」
それを、彼のチームメンバーや担当プロデューサーが必死に抑えている。
クールP「……何の騒ぎですか? 眼鏡がどうとか……」
シロクマP「あ、クールPさん。彼が例の特殊なカースと戦ったらしいんですが……」
シロクマPが、たった今部屋に入ってきたクールPに答える。
シロクマP「どうも、その時に洗脳のようなものを受けたようで、こうして眼鏡への嫌悪を吐き散らして……」
クールP「……不可解ですね、どうせ洗脳するならもっと何かあったでしょうに、何故眼鏡を……」
黒衣P「シロクマP、出たぞ。ああ、クールPもいたのか」
二人の会話を遮り、黒衣Pが部屋に入ってきた。
クールP「黒衣Pさん……出た、とは?」
黒衣P「現場の防犯カメラの映像が出た。犯人が映ってるかも分からん」
シロクマP「それは……是非確認しましょう」
三人は早足で部屋を出て、映像を確認しに向かった。
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『どうだ!カースめ!』
『ねーねーお兄ちゃん』
『あれ、君いつのまに…』
『んしょ、んしょ…』
『同士をいじめないで?』
『えっ?』
『ばーん!』
『…』
『同志いじめたの?』『メガネだめなの』『メガネだめー』
『みんな逃げたかな』『同志が助かってよかったね』『よかったー』
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倒れたヒーローを放って、真っ黒い体の少年少女が散り散りになっていき、映像が止まった。
クールP「…………」
シロクマP「…………」
黒衣P「…………」
スタッフ「……今回の件が映ってるのは、ここまでッス……」
スタッフが映像を巻き戻し、ヒーローがアンチメガネカースと戦う所からまた再生する。
黒衣P「同士、か……。それに、あの姿……」
クールP「上手い事真似てますけど、カースでしょうね」
シロクマP「一体が自爆で気絶させ、その隙に集団で洗脳した、と……」
黒衣P「眼鏡嫌いのカース、か。確か、眼鏡大好きなカースもいなかったか?」
シロクマP「ええ、どちらも目撃情報が増えています」
クールP「コイツら、別のカースを同種へ変換する能力を持っているんでしたね」
黒衣P「ああ。命題が眼鏡じゃなきゃホラー映画みたいな連中だ。……とにかく」
黒衣Pが立ち上がる。
黒衣P「『子供に擬態したカースにご注意』と、警報を出すべきだろう」
クールP「そうですね。気絶程度とはいえ、明らかに人間に危害を加えている」
シロクマP「ええ。この映像、早速上層部に提出しておいてくれるかな?」
スタッフ「了解ッス」
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――――――――――――
パップ「おー、三人とも!」
三人が部屋を出ると、突然野太い声が飛んできた。
黒衣P「パップか。RISAのライブはどうだった?」
パップ「それどこじゃないな。京華学院全体にカースが大量発生でもうてんやわんやだったぞ」
シロクマP「そんなことが?」
パップ「ああ。勢いだけで言えば『フェス』に迫るモノがあったんじゃないか?」
クールP「フェス……そんなにですか?」
不特定多数の要因が絡み合い発生するカースの大規模大量発生、『フェス』。
以前にGDFが強力なGC爆弾で街一つ犠牲にしてそれを焼き払ったのは、記憶に新しい。
パップ「まあ、ちょい言い過ぎかもな。それで学園祭二日目以降は、学園に向かうアイドルヒーローを
増員してもらうよう上に掛け合ってきたトコだ」
シロクマP「そういうことでしたか」
パップの言葉に少し考え込んでいたクールPが、おもむろに口を開いた。
クールP「なら、二日目は爛とライラを向かわせますよ」
パップ「おっ、いいのか?」
クールP「ええ。本来はオフなんですが、アイツはオフって言っても寝て食って寝るだけなんで」
クールPは肩をすくめて苦笑する。
クールP「それに、あわよくばライラのデビュー発表も出来ればな、と」
シロクマP「んー、わたしも個人的にちょっと行こうかな。もしかしたらあの子に会えるかも」
パップ「あの子……ああ、『ひなたん星人』か!」
クールP「彼女がアイドルヒーローになってくれれば、心強いですよね」
(目立つヒーローが増えれば、そのまま僕と爛の隠れ蓑になってくれますしね)と、クールPは心の中で続けた。
シロクマP「そうだね、まあ無理強いは出来ないけども」
黒衣P「なら、俺も洋子のスケジュールを確認しておくか」
パップ「ありがとうなお前ら! そうだ、今日終わったら飲みに行かないか?」
パップが酒をすするようなハンドサインを示す。
クールP「いいですよ、出来ればワインを置いてる店で」
シロクマP「あまり飲めませんけど、それでよければ」
黒衣P「俺も大丈夫だ」
三人の言葉を聞いて、パップはパンと手を打った。
パップ「ようし! そうと決まればチャチャッと仕事済ますか!」
そう言って踵を返していくパップを見送り、シロクマPが口を開いた。
シロクマP「じゃ、わたしもそろそろ行こうかな。お二人とも、また後で」
黒衣P「ああ、また後でな」
シロクマPがこちらに手を振り、階段をゆっくりと下っていった。
クールP「僕も、オフがなくなった事を爛に伝えないと」
黒衣P「噛み付かれたりしてな」
クールP「まさか。こう見えて、僕らお互いに信頼してますんで。じゃ」
黒衣Pにひらひらと手を振って、クールPはエレベーターに乗り込んだ。
クールP(…………にしても、眼鏡のカースと眼鏡を嫌うカースねえ…………)
クールP(爛に伝えてやれば、サクライさんへの手土産程度にはなるかな?)
扉が閉まって独りになると、クールPは静かにほくそえんだ。
続く
・ヨリコ(地上人名・古澤頼子)
職業(種族)
ウェンディ族
属性
国家指導者
能力
アビスエンペラー装着による高い戦闘能力
嫉妬の呪いの力
詳細説明
側近の補佐を得ながら政治を行う、史上最年少の海皇。
病を取り払った恩からか、海龍の巫女(≒レヴィアタン)には厚く信頼を寄せている。
また地上の美術品への関心が深く、たまにこっそり収集の為地上に出て来たりもする。
離反したカイに未だ未練があり、どうにか連れ戻そうと画策している。
関連アイドル
カイ(部下・幼馴染)
サヤ(部下・幼馴染)
瑞樹(部下)
関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻
・アビスエンペラー
ヨリコ専用に開発された、守護神プレシオアドミラルを模した姿の戦闘外殻。
通常の戦闘外殻と違う金色のボディと、海皇の証である青いマントが特徴。
現在は嫉妬の核が埋め込まれており、装着したヨリコの人格を豹変させる。
○ヴァリアブルアームズ
アビスエンペラー唯一にして最大の武器。
各戦闘外殻の性能を参考にした十種の武器へと変形する。
・プレシオの首
基本形態。そのまま振り回して使う事も可能。
・ナイトバッシャー
相手を周囲の空間ごと断裂するほどの切れ味を誇る剣。
・スパイクパニッシャー
かなりの重量と破壊力を誇るトゲ付きハンマー。
・スティングランス
突貫力に優れた槍で、先端から神経毒を注入する事が出来る。
・ストーカーテンタクル
戦闘外殻の修理やコンピュータへのハッキングが可能な触手型アーム。
・スマイルサウンダー
強力な衝撃波で敵を吹き飛ばすスピーカー型衝撃波発生ユニット。
・ストラトスエッジ
斬撃武器としても使える、連射性能に優れた弓型ビームガン。
・スカルディフェンダー
あらゆる衝撃に耐える大型の盾。
・グラップルファング
目に留まらぬ猛スピードのパンチを繰り出すクロー付きナックル。
・エンペラーキャノン
協力無比なビーム砲。必殺技の「ハイパーボルテクスシュート」を放つ。
・サヤ(地上人名・松原早耶)
職業(種族)
ウェンディ族
属性
装着変身系ヒール
能力
アビスティング装着による飛行能力
優れた身体能力
詳細説明
海皇宮親衛隊の一員。
カイやヨリコとは幼馴染の関係にあり、彼女もカイの帰還を望んでいる。
また同僚であるエマやマキノとも仲が良く、オフは遊びに誘うこともあるとか。
相棒であるペラを身に纏い「アビスティング」に変身する。
関連アイドル
・ヨリコ(上司・幼馴染)
・カイ(同僚・幼馴染)
関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻
・ペラ
サヤが連れる戦闘外殻。姿は大型の金属製アカエイ。
サヤにぺったりと甘えるが、サヤ以外には決して懐かない。
尾には複数の薬品を封入したカプセルが仕込んである。
・アビスティング
サヤがペラを纏いウェイクアップした姿。
空中を飛び回りながら相手をエストックで突き刺す高機動戦が得意。
・べノムエストック・パライズ(サヤ曰く「ビリビリモード」)
相手の筋肉を痺れさせる薬品を撃ち込む。
・べノムエストック・ポイズン(サヤ曰く「ジワジワモード」)
猛毒の薬品を撃ち込む。
・べノムエストック・チャーム(サヤ曰く「メロメロモード」)
相手の思考・判断力を奪う薬品を撃ち込み、一時的に意のままに操る。強い意思を持つ者には無効。
・スパイクP
職業(種族)
ウェンディ族
属性
装着変身系ヒール
能力
優れた身体能力
詳細説明
海皇宮親衛隊の一員。
現役の親衛隊では最年長である為か、負担の多い任務を任される事が多い。
相棒であるバイオを身に纏い「アビスパイク」に変身する。
ヨリコには忠誠を誓うが海龍の巫女は何か嫌い。
関連アイドル
カイ(同僚)
ヨリコ(上司)
関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻
・バイオ
スパイクPが使役する戦闘外殻。姿は巨大な金属製ムラサキウニ。
スパイクPの意向で自我は無く、スパイクPの指示に淡々と従う。
頑丈な体と鋭い棘が最大の武装。
・アビスパイク
スパイクPがバイオを身に纏いウェイクアップした姿。
防御・遠距離戦・拠点防衛に特化している。
・スパイク・ミサイル
棘をミサイルのように高速発射する。
・スパイク・スコール
全ての棘を上空に放ち時間差で広域を攻撃。敵味方識別不能の危険な技。
・スパイク・タップ
右手甲の棘を地面に突き立て、それを軸に高速回転、独楽のような動きで敵に突進する。
・イベント追加情報
アイドルヒーロー同盟上層部へ、AMCの映像が提出されます。
学園祭二日目、爛とライラ(&クールP、シャルク、ガルブ)が学園祭に向かいます。
以上です
ネームドアイドルが一人も出てこねえ(驚愕)
シロクマP、黒衣P、パップ、(以下名前だけ)梨沙、美穂、洋子お借りしました。
+アビスエンぺラーの説明及びヴァリアブルアームズについては、まとめWikiの没ネタスレから拝借しました
お二人とも乙です
魔女っ子ひなたんフラグきたー!
櫻井財閥(仮)は卑怯だw
学園祭にライラさんか、マキノンとかどうリアクションするのか…w
P同士の話も楽しいなぁ
お二方乙ー
ひなたんウィッチ化するんです?
Pくんカワイイな
学園祭に二人とも来るのか。梨沙のLIVEの後にゲスト出演させる感じかな?
トキコさまに爛とクールPはどんな反応するのか……
乙です。
クマと黒子スーツとHAGE
すごい絵である。クールPがまともに見える。
どうも、ひと月間があいてしまいました。
前回のあらすじ
P隊長「……あと5時間か。寒いなぁ……」
「右腕、よし!」
神経が通っているのを確かめるように、右手を回して、指を動かすピィ。
そして腕がちゃんと動くことを確認した後、ポケットから携帯電話を取り出す。
「いったいどこへ電話をかける気?」
ソファーに座る周子は横目でピィを見ながらそう尋ねる。
周子の隣には黙ったままのアーニャ。
向かい側には気絶したままの楓が横になっている。
少し離れたところでちひろが呼んでしまった救急車をキャンセルするために電話をかけていた。
「どこへって、とりあえずGDFあたりに協力を要請する。あとは社長にも頼んであらゆるコネを使ってできる限りの協力を取り付けてみる」
「それはやめておいた方がいいかな」
今まさに電話をかけようとしていたピィの出鼻をくじくように、周子はピィの行動を否定する。
「どうしてだ周子!?素人の俺でもわかる。あの男のヤバさは異常だ。
アーニャ一人はおろか並のアイドルヒーローでも歯が立つわけがないぞあれは!
だったら救援を求めるべきだ!
仲間を、一人で、あの男の元へ行かせるなんて自殺行為俺が見逃せるとでも思ってるのか!?」
身をもって感じた隊長の危険性からのピィの提案。
そんなピィに周子は同調することなく、冷静に言い返す。
「素人だからこそ、そう言う風に考える。あの類のには数は意味なんてないのさ」
「ヤー……私も、シューコに賛成です。あの人に数をそろえて挑んでも、いたずらに犠牲者を増やすだけです」
「アーニャ!お前までどうして……」
「ピィさん。あなたは、隊長のことをほとんど知らないから、そう言えるんです。
仮に、GDFやアイドルヒーロー同盟に、協力を求めたとしても」
アーニャはここで一度言葉を切って、頭を、視線をじろりとピィの方へと向ける。
「あの人を指す名を出せば、確実に断られます。
『コードネーム”P”』、『ハリケーン』、『局所天災』、『ルール破り』、『沈黙する全滅屋』、『眠らぬ黄昏』、『台無し男』、『盤を引っくり返す者』、『対面致死』、『正面から来る卑怯者』、『チートプレイヤー』、『理不尽傭兵』、『イレーザー』、『外側の殺し屋』、『アンフォーチュネイト』
これ以外にもある、全く定まらない呼び名。
きっと誰かは知っています。
名は定着せずとも、知れ渡っている、恐怖の存在。
それが私の……カマーヌドゥユシェィ、隊長です」
仰々しくも、誇張ともいえる呼び名を連ねるアーニャに周子はまるで納得した様子である。
「誰もが抱く感想は同じ、ってことだね。こんなやり過ぎともいえる呼び名がしっくりくる。しっくりしてしまうんだからさ」
妙に納得した様子の周子に対して、ピィはやはりいまいちわかっていないようである。
「たしかに大層な呼び名だが、具体的にどれぐらいやばいのかがわからん。いったいあの隊長はどんな男で、どんな人間なんだ?
多分さっき話していたことは全て嘘っぱちだろうし、あの男が何者なのか余計に分からなくなってきた……」
そんな風にピィは言って頭を抱える。
「ツィエースナシチ……正直、正直言うと、私も本当に詳しくは知りません。」
「は?知らないってどういうことだアーニャ?」
「隊長とは……十年以上の付き合いですが、彼の作戦に随伴したことは、一度しかないです。
彼が、どういう人間かはある程度知っていても、彼の力については、その一回の作戦。それだけしか知らないです。
彼の能力はサイコキネシス。物を手で触れずに動かしたりできる、ポピュラーな異能の力。
特殊能力部隊でも、8割を占めるその力。
……それが、隊長の能力です。」
「なるほど。とは言いたいところだけどやっぱりいまいちわからないな……。
サイコキネシス、つまり念動力ってのは確かによく聞くし、『あの日』以前でも最も代表とされるような特殊能力だよなぁ。
まぁ当時ならインチキばっかりだったけど、聞く感じでは隊長は『あの日』以前から、えーっと……サイキッカー?ってことみたいだけど。
いくら間近で見たとしても、あの男の、底の見えないあの力が、そんな単純なものだとはあまり思えないんだが……」
「エータ ヴィエールナ……その通りです。
隊長の力は、他の有象無象のサイキッカーと同等では、全くありません。
……隊内では、あくまで推測ですが、部隊内の訓練を受けた平均的な念動能力者を1とするならば、低く見積もって、隊長は千。
イーミェヌナ……まさに、一騎当千。
部隊内での隊長の推測は、そうでした。
だけど、部隊で任務を全うするようになってからの、数か月後に初めて、だだの一度だけ、いつもは単独で遂行する隊長の任務に、数名の隊員を伴っていくことが命令で下されたんです」
アーニャはその時の情景を思い出す。
その瞳に映るのは、体液と業火の赤一色。
「場所はロシアとカザフスタンの国境近く、トロイツクから北へ数キロメートル。
……その周辺の廃工場に潜伏していた、異能テログループの殲滅でした。
そこで隊長から命じられた命令はただ一つ、『何も手を出さずについてくること』です。
ヴラーク……敵の根城に侵入するときにはまず、他の敵に察知されないように、監視を片付けるのが基本です。
ですが、隊長は正面から、堂々と、隠れる気なく進んでいったんです。
……後は、監視も、戦闘員も関係ありませんでした。
監視役だったであろう男は、隊長を見る間も無く、原形をとどめない肉片となりました。
異常を察知して、隊長に向かってきた戦闘員も、同様に肉片となりました。
正体不明の異能を使ってくる者も、その能力ごとすり潰すように、肉片となりました。
恐怖で逃げ惑う者も例外なく、肉片となりました。
……隊長が歩くだけで、敵は自動的に、人の形を留めない肉片となる。
誰が付けたかわからない炎と、人体から搾りつくした血液によって、視界は赤一色の地獄絵図でした。
ヤー……私たちがこれまでしてきた、命のやり取りとは全く違う。
ただの一方的な殺戮。物を動かすだとか、衝撃波を発生させるだとかとは次元の違うサイコキネシス。
……あの人の前に、人数をそろえたとしても、戦いにすらなりません。
ただ命を消費して、……リェカー クローヴィェ……血の川を作り出すだけです」
アーニャの脳裏に映る残酷な情景。
ピィは先ほどアーニャの頭が吹き飛ばされたことを思い出す。
アーニャはたとえ傷ついても、能力の特性なのかまるで体内に血を留めているかの如く出血することはない。
それに実際に人間をすり潰して、血液が飛び散るなんて普通の日常を生きている限り絶対にお目にかかることはあり得ない。
だからこれまでに平凡な日常を過ごしてきたピィにはその地獄絵図を完全に想像することはできなかった。
それでもアーニャの頭をいとも簡単につぶしたように、人間を丸ごとミキサーにかけるように潰すことを隊長が可能であることは想像がついた。
「たしかにあの隊長とかいう男の恐ろしさはわかったんだが、結局サイコキネシスってのはどういうことができるんだ?」
これまでのピィのイメージとしては、サイコキネシス、念動力と言えば手を触れずに物を動かしたりするイメージがあった。
しかし人間をミンチにできるというような荒唐無稽な力があることを知って、今までのイメージはほとんど壊れてしまっていた。
「……物を動かす超能力には、サイコキネシスとテレキネシスがあると言われます。
ノ……しかし、私はその知識は必要なかったのでよく覚えていないのです……」
アーニャは少ししゅんとした表情をする。
「……シューコ、わかります?」
「結局あたしを頼るのね……」
周子はアーニャに対してあきれた表情を向ける。
「しょーがない。知り合いの受け売りだから詳しくはないけど簡単に説明するよ」
そう言って周子は立ち上がって、壁に沿うように置かれていたホワイトボードを転がして持ってくる。
先ほどの騒ぎとは少し離れた場所にあったので、このホワイトボードは無事であったのだ。
「まぁざっくーりと説明するとね、てれきねしすーっていうのは物を念じて動かすわけ。
物そのものを動かすから、イメージとしては飛行機とかヘリコプターみたいにその物が動くみたいな感じかな?」
周子は『てれきねしす』の文字の下にヘリや飛行機の絵や、念じて物を動かしているような簡単な絵を描く。
「それに対して、さいこきねしすってのはさ、物に力を与えて動かすわけ。
物理的なエネルギーを与えてるから、これは物を手で持ち上げたりとか押したりとか、外部から力を与える感じかなー。
もっと単純に言えば、ただの力。エネルギーだよ」
そして『さいこきねしす』の文字の下には、人が物を持ち上げるような絵を描いた。
「まぁ一般的にはこんな感じかな?」
「なるほど。さすが周子先生だなぁ」
「……さすがです。シューコ先生」
「はっはっはー。褒めても何にも出てこないよー」
「亀の甲より年の功だね、せんせぇ(裏声)」
瞬間、いつの間にか電話を終えていたちひろがピィの背後に立っていた。
その表情はいつもの優しい笑顔であったが、その目には冷え込むように冷たく影がかかっている。
そして無言のまま、ピィの首へと手刀を一撃。
ちひろの一撃は悪ふざけの過ぎたピィを処断する。
それだけでピィは苦悶の表情を浮かべながらうめき声を上げながらその場に膝をついた。
「今のはさすがに擁護できませんよ」
「同感。今のはさすがに……キモいよ」
「恐ろしく速い手刀……。ヤー……私でなければ見逃してしまいます」
皆がピィを見る視線は冷ややかでピィの体感温度は一気に下がる。
「す、すんません……。悪ふざけが過ぎました」
そう言いながらピィは首を押さえながら、よろよろと立ち上がった。
「それとさりげなく『亀の甲より年の功』とか言ってたけどあたしに喧嘩売ってるのかな?」
「め、滅相もございません、周子大先生」
立ち上がりかけていたピィだが、周子のにらみを受けて再び膝をつく。
そして流れるようなきれいなフォームで、土下座。
「うん、よろしい。ところでちひろさん電話終わったんだ」
「ええ、救急車については、同僚のドッキリで早とちりしてしまったということにしておきました。
全く電話口で、かなり怒られちゃいましたよ……」
「アー……それは、おつかれさまです」
「じゃあ話を戻すけどさ」
周子はそう言いながらクリーナーでホワイトボードに書かれた絵を消していく。
「あくまであたしの言ったのはほとんど一般的な知識レベルってこと。
多分ネットか何かで調べればこれくらいのことは簡単にわかると思うよ。
じゃあ、サイコキネシスは、具体的にどんなことができるのかってことになるけど……」
「周子みたいな妖怪もインターネット使うんだな」
「あたしがまだ山の中とかで生活してると思ってんの?
今時妖怪にだって情報社会の波は押し寄せてきてるよ」
周子はクリーナーを置いて、手を前に差し出す。
するとじわりとにじみ出てくるように周子の手の周りに紫がかったオーラ状の何かが纏わられる。
「シューコ……これは?」
「これは妖力だよ。
まぁ今回はあんまり関係ないから説明は省くけど、ポルターガイストの元とかでもあるから一応サイコキネシスと似たようなことができるし、目でも見えるからちょっと再現してみるね。
じゃあここで問題。
ピィ、こういった力を使う上で最も使いやすい方法はなんだと思う?」
周子は唐突にピィへと質問を振った。
急に質問を振られたピィは土下座状態から顔を上げて周子の方を見る。
「ええ!?えーっと……び、ビームみたいに放出、する?」
「まぁ間違ってはないけど、それは不正解。
それは最も基本的で、簡単だけど応用性が全く効かないからね。
武器を直接投げてるようなもんだよ。そして、あたしが聞きたかったのは武器の使い方ってこと」
そして周子は目を閉じて少し集中する。
するとその紫のオーラは形を変えていき、一つの形を作り出した。
「これは……手?」
ちひろはその手の形をした妖力を見て思わず口に出した。
「そう。手だよ。
こういったある程度自由にできる力は、自分たちが最も扱いやすい手段。
つまりは日常的に、ほぼ毎日使っているといってもいい手の形で使うのが、もっとも使いやすいんだよ」
周子は、その作り出した手でホワイトボードの縁に置かれたペンを取る。
これによって手では触れてないのに、『手』で掴みあげて、物を動かしたことになった。
「これは超能力者も例に漏れないはず。
きっと、アーニャのいた部隊の隊員もこんなかんじで超能力を使う人が大半だったんじゃないかな?
そして、アーニャを攻撃したのもきっとこの『手』だと思うよ」
「ダー……たしかに、そんな気がします」
周子はペンを置いて、自身の手を閉じたり開いたりする。
それに連動するように妖力の手も同じ動きをした。
「ただし、多分普通のサイキッカーなら物を押したり動かしたりするのがやっとだと思う。
あたしもあんまりこうやって妖力使わないから、その程度だし。
だからこれはあたしの予想。
あの規格外の男が、その手を使って人間を潰す方法なんて大概は限られてくるでしょ」
「……そうか。『握る』か」
ピィが思いついたその答えをそのまま口にする。
「そう、並のサイキッカーができなくてあの男にできること。
それは多分、『握りつぶす』ってことだと思うよ。
そこまでしてしまえば、よほどのことがない限り殺し損ねるってことはないだろうしね」
そして周子はアーニャの方を向き直る。
「アーニャは、これからあの男と、隊長と、戦うんだからこれぐらいのことは知っておくといいよ。
勝つためには、敵を知ること。これは必須だからね。
多分、サイキッカーの相手取り方は、アーニャもよくわかっているはずだから。
さて、あたしの役目はこれで終わり。
後はアーニャしだいだよ」
少し、突き放すような言い方。
まるで話はこれっきりのように、周子はホワイトボードを片付けようとする。
「ちょ、ちょっと……待ってくれ。周子は、戦って……いや、協力を、これ以上協力してくれないのか?」
ピィの困惑するような声。
しかし周子はまるで気に留めない。
「戦う?なんであたしが?」
「いや……だってお前は、あの男をアーニャ一人で戦わせる気なのか?
人数を増やすのがだめなら……少数精鋭で、戦う方がいいだろう……。
戦えない俺が言えることじゃないかもしれない。
だから無責任にも俺は、周子にも戦力として戦ってほしいと、アーニャを助けてやってほしいと言うんだ。
俺は周子があの隊長に負けず劣らずに強いことを知っているし、一緒に戦ってくれるなら百人力だ。
でも、それに対して周子、お前が戦わない、『アーニャを見捨てる』、そう言ってるようにしか見えない。
アーニャが確実に負けるとは……思わないが、実際お前からはそんな雰囲気を、感じるんだ」
戦えない者が、戦える者に戦ってほしいというのは、無責任であるが自然だろう。
できる者が、できない者の分までその責任を負うのは、たびたびあることだ。
「……ふふっ、あはははは」
周子の、空っぽのような笑い声。
到底笑顔とはいいがたい歪んだ笑みを周子は浮かべ、そして笑い声が消え入ると同じように、表情はなくなっていく。
「……全くホント、無責任なことを言うねピィはさ。
でも『あの隊長に負けず劣らず』っていうのは買い被りだよ。
仮にあの男に、化物的なサイコキネシスだけだったのなら、まだ同じあたしが負けず劣らずって表現は正しいよ。
でも所詮、あのサイコキネシスは前座で、表向きの力。あたしじゃああの隊長の根幹に、手も足も出ない。
だからピィの言うとおりだよ。あたしはアーニャを見捨てる。
いや、もしもアーニャが行かないなんて言うのなら、あたしは何をしても、アーニャをあの男に差し出すよ」
迷いなく、そう言い放つ周子。
ピィは目を見開き、ちひろは目を伏せる。
「……どうして?」
「あの男は、多分ここ『プロダクション』のことを調べてきているはずだよ。
なら、ある程度の人員だって把握してるはず。
当然、美玲のことだって。
そんな男が、『プロダクション』の人間を殺すって言ったんだよ。
なら、あたしはあの子、美玲を守るためなら仲間だって売る」
「……それは」
「それに、あたしはあの子を残してまだ死ぬわけにはいかないからね。
だったら手段は選ばない。
自分の最もかけがえのないものを守るためなら、大切なものを捨てる覚悟なんてのはとうの昔からできてるし、これまでもあたしはそうしてきた。
勘違いしてもらっちゃあ困るんだよ。
あたし、塩見周子は悪意から生まれた、悪の妖怪なんだよ。
間違ってもあたしはヒーローじゃない。すべてを守ることは、あたしには不可能なの」
物事の優先順位。
誰よりも長い時を生きてきた妖怪の言葉は、誰よりも重く、絶対的な意志が込められていた。
そんなことを言われたら誰であろうと言い返すことなどはできない。
周子の言うことはもっともであり、その言葉はごく一般的であり正当性を持ったものである。
「じゃあ……一つ、聞かしてくれ。
充分な強さを持つ周子が戦うことを拒むほどの危惧する敗色というのは何なのか?
あの男を見て、どうして強い周子は勝てないとわかるのか?
周子の言う、隊長の根幹っていったい何なのか?
その理由を、教えてほしい」
周子は黙ったまま、先ほど座っていたソファーに座る。
そして少し大きめの息を吐いて、思い出すように語り始めた。
「あの男に、隊長にあたしは勝てないから。
分が悪いとか、勝つ方法がわからないとかそう言うんじゃないんだ。
あたしは、あの男に、絶対に勝てない。強さとか、能力とかそんな問題じゃなくてね。
これは推測ではなく経験だよ。
約400年前から、今もきっと変わらない。
あの類の化物の前に勝ち負けは存在しない。
ただの一方通行の殺戮しか無いってことを、あたしは痛感してるから」
まるでかつてあの男に会った事があるような言い方を、周子はする。
「ああ、いや。あの隊長とは会ったことはない。
今日さっきのが初顔合わせ。はじめましてだよ。
でも隊長と同種の人間には、会ったことがある。
結構昔のことは忘れっぽいあたしだけどさ、これだけはきっとずっと忘れられないと思うよ。
約400年前、ヨーロッパから来た船に乗っていた、堅牢な鎧と、一振りの三叉槍を携えた一人の男が日本にやってきたことを。
ほんの些細な、嫌な昔話だよ」
周子は生きてきた膨大な記憶を掘り起こして、そのことを思い出す。
いつも楽天的で、自由で、優しい妖怪はその忌避する記憶を紐解く。
「とはいっても多くを語れることは少ないけどね。
実際、それと会ったのはほんの少しの間だし、あたし自身逃げるので手いっぱいだったからさ。
そいつは当時、狩人(カッチャトーレ)って名乗って、どうやら化物退治を生業としていたらしくてね。
日本を訪れたのもそれが目的だったみたい。
そのときに少しの間狙われただけさ。
たった半日くらいの出来事でさ、船から降りてきたそいつを興味本位で話しかけて少し雑談した後には、戦闘開始。
ホントに化物だったよ。ただの、何の能力も持っていない人間のはずなのに、その槍で大地を裂いて、その鎧で空を蹴り、あらゆる常識をあざ笑うかの如くぶっ壊す。
当時でもあたしはそれなりに化物として自信はあったけど、ホントにその時、久しぶりに命の危機を感じたよ。
そして、あたしが命からがら京都に逃げ込んだ。
数日後、うわさで日本の力の弱い妖怪や、有名ではない妖怪は全て、何者かに駆逐されたって話を聞いたよ。
あたしにはそれをしたのがその槍男だってのは確信したけどね。
ある意味誰にも知られぬままに、その槍男は日本妖怪の時代の終演の一端を担ったんだ。
……なんであのとき、気まぐれで話しかけちゃったのかって後悔したよ。
なんてことはない、それだけの話」
この場にいる者で、その槍男がどれほどの恐怖を周子に与えたのかわかる者は周子だけだ。
けどその周子の苦々しい表情が、その経験の壮烈さを物語る。
「そしてあの隊長とかいう男は、そっくりだったよ。
顔とかじゃなくて、雰囲気がさ、400年前の狩人と全く一緒なんだよ。
さっき言った、根幹が同じ。
きっとあれはそういう存在。きっとどうしようもなくて、どうでもよく常識を覆し、どんなものでも世界から壊しつくす。
勝敗じゃなく、あれにはきっと一方的に壊すことしかできない、そんな存在なんだよ」
ひとしきり喋った後の、静寂。
あまりにも抽象的すぎる、ささやかなエピソード。
それは理解しがたいものだったが、説得力だけは十分に備わっていた。
「ただそれだけ、きっとわかんないだろうけど、だから私は勝てないと思うから、戦わない」
「ダー……。忠告、感謝です」
そんな中で、ずっと沈黙していたアーニャは立ち上がる。
事の渦中にいる彼女は、迷うことなく事務所の出口へと向かっていく。
「アーニャ……どこへ?」
それを口にしたきっとピィにもわかっていたし、そこにいて話を聞いていた誰もがわかっていた。
アーニャのこの後の行動を。アーニャがこの後どうするかを。
「スパシーバ……ピィさん。いろいろと気を回してもらって、私は嬉しいです。
でも……これは私の問題です。
今、プロダクションがこんな状態なのも、ピィさんが傷ついたことも、楓がそこで倒れていることも。
争い(スポール)とか、闘争(バリバー)とは無縁だった、この場所を巻き込んでしまったのは……私の責任です。
ヤー……私、一人の責任です。元から、誰かの手を借りる必要など、なかったのです」
まるで、飼い猫が自分の死期を悟った時にふらりといなくなるようなそんな感覚。
前々から、妙に感じていた正体不明の儚さが、今のアーニャからはっきりと見えていた。
「……私は、私と、隊長の因縁を、終わらせに行きます。
私は……私の意志を持って、隊長を倒します。
カージュドィ ツィエラヴィエーク……みなさん、それでは、行ってきます」
そして、アーニャはプロダクションから出ていった。
なぜかその背中をピィにもちひろにも引き止めることはできなかった。
多分、アーニャの意志に言葉が届かないと、思ってしまったからだ。
きっと、あまりに自分は無力で、言葉の力の無さを悟っていたからだろう。
***
「多分その隊長ってひとは『外法者(Dest Law)』じゃないかな。
天界にある『危険存在図鑑入門編』の中でも、最重要警戒存在として載っている、存在しているけど確認できないヤッバイ存在!
ぶっちゃけ対処方法は、会ったら逃げる。そんなことしか書いてないんだよねーこれがさ」
アーニャが出ていった後、次にプロダクションに来たのは未央だった。
未央は入っくるなり事務所内の惨状を見て、『なんじゃこりゃー!台風でも通過したのかー!?』と驚いていた。
そして事の顛末を話すと、やれやれというような表情をしながら、
『また解説未央ちゃんかー……。たまにはメイン張りたいよねー……』
とよくわからないことを言いながらも、一つのことを語り始めた。
「危険な生物だとか、魔獣だとか、悪魔と名を連ねる『デストロー』。
その実態は、凶暴だとか、危険な能力を持っているとかじゃないんだよねー。
『デストロー』は血統とか、因果とか関係なくごく普通の一般家庭から、突然生まれたりするのさ。
さてここで一つ、話は変わるけどね、『運命力』って知ってる?」
突然の未央の話題転換。
ピィやちひろには聞きなれない単語だが、周子は知っているらしくそれに反応を示した。
「ある意味、能力とか不思議なことじゃないし、いまいちはっきりしないことだからよくわかんないけどさ。
たしかその人の、運命?と言えばいいのか……えーと、周囲の物事の流れ?を左右する力だったっけ?」
「そのとーり!ほぼ模範解答ありがとー周子さん。
この世界には、アカシックレコードだとかパラレルワールドとかいろいろあるけど、世界には川のような流れがあるのだ!
世界そのものを変えるならば、その方向に流れを変えなくちゃならないとかいろいろあるわけなのですよ。
そしてその流れを形作るものの一つとしてあるのが、『運命力』ってわけ。
ちなみに天界出版より『神さま教本デスティニー編』の90から118ページ辺りに詳しく書いてあるから参考にしてみてね!」
「なんだかタイトルが主役交代しそうな教本だな……」
「とにかく、そんな運命力だけどそんな流れを強引に作り出す強力な『運命力』を持つ人もいるの。
たとえば、その人の周りでは平穏が全く無い、いわゆる漫画のようなトラブルメーカーだったりとか。
たとえば、その人の周りでは争いが絶えず、いつも何かしらの闘争が起きているヘルメーカーとか。
たとえば、その人の周りでは平和そのもの、争いも起きない穏やかな日常なピースメーカーとか。
そんな何の能力もないはずなのに、まるで世界がそうなるかのように、時には世界そのものを変えるほどの『運命力』も持つ人もいるわけ。
さてここで話は戻って問題!
『外法者(デストロー)』もある意味運命力に関連してるんだけど、いったいどんな力でしょーか?はいピィくん!」
「え、ええ!?また俺?」
話を聞いていただけのピィは急に名指しされて慌てる。
「えーっと……外法者っていうくらいだから、そいつの周囲で犯罪とかが起きやすくなるのか?」
「ああ……うん、そうだね。じゃあ次ちひろさん!」
「なんか雑じゃない俺の扱い?」
「うーん……逆に運命力がない……とか?」
自信なさげに応えるちひろだったが、未央はサムズアップをして笑う。
「さすがちひろさん。だいぶ近くなってきたよー。じゃあ最後に周子さん!」
「たぶん、だけどさ、運命力がないどころか、運命というかその世界の流れそのものに乗ってないんじゃないかな?
なんというかさ、同じ世界で勝負していない。
あたしはそんな印象を、どっかで持っていたからね」
「さっすがほぼ正解だよー周子さん!
デストローは世界の流れに乗ってない。
そんな世界の外側から、世界に縛られないで生きてる存在なんだよ。
だから、世界の『ルール』を無視できるんだよ。
法律であろうと、常識であろうと、物理法則であろうと、超常現象的なものだったとしてもそこに明確な『ルール』さえあれば、そこに世界があれば無視できる。
決まっていることを無視できる。無視しようと認識すればなんだって無視できる。
ルールであるならどんなことだって破ることができる。
究極のルールブレイカーにして、異端からも排除された異端なんだよ」
そんな未央の言葉に、ようやく合点がいったような表情をする。
「なるほどね、道理が合ったよ。
そんな根本を覆されてちゃあ、絶対に勝てるわけがないね。
あれだけ意味不明だった理由が、ようやく分かった」
「でもそんな無敵に見えるデストローだけどね、弱点というか、欠点があるのさ」
「欠点?」
ピィは未央の言ったことを疑問を持つように反復する。
「そう、欠点。
世界に縛られないってことは、逆に世界に介入できないわけなんだよ。
だから、世界的に有名であったり、歴史に名を遺していたり、はたまたこれから世界にその存在を轟かせる人や、事柄には介入できない。
介入しようとしても、世界が拒絶して介入させない。
そんな欠点があるんだよ。
デストロー自身は絶対に世界に名を残せない。
世界には、歴史には、物語には介入できずに、その一生を終える。
ある意味、怒涛で、平凡な人生。デストローは運命に縛られない代わりに、劇的な運命も存在しない。
これが、周子さんの言う400年前の槍男と、その隊長さんの正体だと思うよ」
「なるほど、な」
納得をしたような、それでもまだ理解できないような、そんな表情をする3人。
だが唯一、このことを話した未央だけは納得がいかないような表情をしていた。
「でも本来ならデストローはこのプロダクションに来ることさえできないと思うんだけどなー……」
「?……どうしてですか?」
そんなことをぽつりとつぶやく未央だったが、それを疑問を持ってちひろは投げ返す。
「え……ああ、うーんとなんというのか、ね」
しかし未央の言葉を遮るように一つの低い、お腹の鳴る音。
「お……おなか、すいたーん……」
少しぐったりした様子で、周子はそうつぶやく。
時計を確認すれば、12時を過ぎてもはや1時近くだった。
「とりあえず、お昼にしましょうか……」
ちひろは周子を見ながらそう言った。
***
白色強い灰色の空の下、道行く人々は各々に鎧をまとうかの如く厚着をして自らの道を歩いていく。
そんななかで、プロダクションを出たアナスタシアはちらほらと雪が舞い落ちる中、女子寮を目指していた。
アーニャは以前、数回ほど、GDFの簡単な仕事の依頼を受けたことがある。
その際に、GDFのある程度の装備の使用許可をもらっており、一部の武器を提供してもらっているのだ。
自宅である女子寮に置いてあるそれらを一度取りに戻るためにアーニャは歩いていた。
しかし一部の武器とはいっても、ほとんどが非殺傷なのであの隊長にはきっと物足りないだろう。
それでも無いよりはましである。
今の状況は束の間の自由の代償ものだ。だからこそ、アーニャは誰かに手を借りくことなくあの隊長と相対しなければならないと考える。
いかなる形で決着が着こうとも、この因縁を終わらせなければならないと。
「あれ?アーニャンだにゃ!」
目的地へ向かって歩を進めるアーニャに背後から一つの声がかかる。
その特徴的な語尾を聞いた時点でその主を判別することができた。
「アー……。プリヴェート、みく。それと、のあも」
「ええ、こんにちは……アーニャ」
アーニャに声をかけてきたのは、前川みくと高峯のあの二人であった。
二人とも、この雪降る寒空の中なのであったかそうな格好をしている。
「歩いていたら偶然アーニャンを見かけたから、つい声をかけちゃったにゃ。今からどこかにお出かけ?」
今のアーニャの状況を知らない二人は、何の遠慮もなしに近づいてきた。
アーニャとしてはできれば早く自分の部屋に戻りたかったので、ここで引き止められるのは少し困る。
「ダー……。ええ、少し、急ぎの用事があるので……自宅に必要なものを取りに戻る途中だったんです」
なので、とりあえず急いでいることは明確に伝えつつ、正直に、だが事の本筋を伝えないように言葉を返す。
きっと今のアーニャの『用事』の内容を伝えればこの二人のことだ。強引にでも協力するとか言い出しかねない。
それは避けなければならない。先ほど一人ですべてを終わらすと決意したばかりなのだ。
だから何も二人には教えない。何も言わずにアーニャは去ることを選んだ。
そんなアーニャの胸中を知りえないみくはいつもと変わらない様子で話す。
「こんな寒い中アーニャンもだいへんだにゃあ……。みくもできればこたつの中でのーんびりしていたかったんだけど……」
みくは不満そうな顔をしながらため息を吐く。その息は寒さで白く昇っていく。
「のあチャンに買い物行くからって無理やり連れだされたにゃ。みくをこんな雪の日に連れ出すなんてホントにひどいにゃあ……」
「……なにみく?こんな寒空の中、私一人買い物に行かせて……貴女はこたつで、安息を楽しむつもりだったのかしら?」
半ば強引に連れ出されたことに文句を言うみくだったが、それをのあは隣のみくを横目でじろりと見つめる。
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