チカン電車 百合ver (195)

オリジナル エロ 百合
寝れないから一つ書きます。
単純にエロが書きたいだけのものです。
書きためなしです。


いつもより早く起きて、電車に乗った。
それが間違いだった。自分が花も恥じらう女子高生だったことを忘れていた。

社内はおっさんの加齢臭やら汗臭さやらが充満して、最悪の極み。
社会の歯車の一つとして頑張っている?
そんなの知ったことではない。

こっちは女子高生だ。

将来の保険料やら年金やらのために生かされてるようなもんだろ。
むしろ、敬って欲しい。

ああ、話がずれた。
とにかく朝の電車内は、人に押されてもみくちゃにされて最悪だった。

私はとにかく早く椅子に座りたくて、座席のすぐ近くに陣を構えた。
鼻息の荒い、お腹だけが妙にでっぷりとした子豚の隣に仕方なく立つ。

と、ちょうど電車が止まった。

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駅のホームで待っていた、余裕のないサラリーマンに道をあけてやる。
そいつは子豚の腹に一度当たって、跳ね返りながらもバックを盾にまた奥へと邁進していった。

続いて雪崩のように人・人・人。通勤ラッシュ。

最後尾に同じ高校の制服を見かけた。
肩より少し短いショートカットのクラスメイト。
名前は佐藤。下の名前は知らない。
話したこともない。

まず、グループが違う。
大まかに言えば、私は体育会系。佐藤はどちらかというとおっとり文化系。
話もどうせ合わないから、話しかけたことはない。
いや、嘘だ。後ろの席だから、プリントを渡す時とかに、何度か声はかけた。

線の細いか弱い印象。
たぶん、私が触ったら折れる。たぶん。

そんなことを考えていたら、隣から声がした。

「おはよう」

これまた、蚊の鳴くような声だった。
聞こえないふりをして遊んでやっても良かったが、どうも佐藤は息を切らしているようだった。

「おはよう」

オウム返し。佐藤は透けるような白い頬を赤くさせて、肩で息をしていた。

佐藤は扉の前に立っていた。そして、キョロキョロと辺りを見回す。

「何してんの?」

「えっと、どこ持とうかと思って」

確かに、佐藤の背ではつり革を持つことは物理的に不可能だった。
そして、移動しようにも子豚が邪魔している。
仕方ない。

「ちょっとおじさん」

「ふー?」

日本語で喋れ。汗を撒き散らしそうな勢いで子豚がこちらを振り返る。

「この子そこに移動させてあげてよ」

「ふー!」

いや、たぶん日本語を喋っているのだろうけど、私にはふごふごという雑音のようなものにしか聞こえなかった。
それでも、OKサインを手で出してくれたので、意思が通じたことだけは理解できた。

子豚が左脇のOLに怪訝な顔をされながらも、横にずれる。
意外といいやつ。

「ありがとう」

人並みに飲まれながら、もはや姿も見えない場所から佐藤が言った。

「どーも」


私はちょっとばかりこそばゆくなりながら、携帯を取り出して意味もなくメールを見た。
受信なし、と。

電車が発車する。学校まで20分。それまでこの体勢か。
きついな。

地べたに座り込みたい気分になったが、私だって車内の複数人から恨みを買いたくはない。
幸い子豚が斜め後ろに移動したおかげで、子豚ヒートと子豚ブレスからは解放されたわけだ。

電車が一際ガタンと揺れた。態勢を維持するために必死に手すりを掴む。
窓から見える景色が大きく斜めにずれていく。

「ひゃあ」

聞き取れたのが奇跡、と思われるくらい小さな声で佐藤が悲鳴を上げた。
たぶん、この揺れで押しつぶされたに違いない。小さいから。

まあクラスメートのよしみで人道支援してやりたいけど、残念ながら私の入る隙間がもうない。
悲しいかな。

次の駅に着けば、またアリのような大群が押し寄せてくるのだろう。
細くて良かった。少しでも空間を食わずに済むし。

うちのオヤジと一緒に満員電車に乗った時のことを、ふいに思い出す。
もうちょっと、体の節々が引っ込んでいたら、あの時あの小学生の女の子を電車の中に入れられたのに。

それから、無条件でお腹の大きいやつが憎くて仕方ない。
親戚のガキンチョに、大人になったらみんなお腹大きくなるのって聞かれたことがあるが、
断じて違うと言ってやりたい。そうならない努力をしてもらいたいもんだ。

私がひとりで勝手にイライラしていると、車内放送が流れてきた。
耳障りな音楽に、ラップが混じっている。

斜め後ろのOLが舌打ちしている。
むっちゃ怖い。
そういうのは心の中で留めといて欲しいもんだ。

全力支援

たんたん、と続いて足音。
座席にいる若いイケメンリーマンが音楽を聞きながら、足でリズムを刻んでいる。
イケメンだからって何でも許されると思ったら大間違いだ。OLはどうやらそれで苛立っていたようだ。

私は自分には甘いが他人の迷惑行為には厳しい。
とくに、朝の寝起きはイライラする。

そして、せっかく早く起きてこの電車に乗れた幸せな気分が、もはや30%としか残っていない。

人知れずため息を吐く。

「……ゃ」

また、壁1枚くらいの隔たりがあるんじゃないかと言うような小さな声が聞こえた。
佐藤が、再び押しつぶされているのかもしれない。

私は少し頑張って体を捻ってみる。ちっこい佐藤が窮屈そうに立って、プルプルしている。
おーおー、押しつぶされている。
可哀想に、後ろにおっさんがいて、ちょうどそいつの口元が佐藤の首筋あたりに位置してしまっている。

そのポジショニングは狙っているとしか思えない。

(なんだ、あいつ近すぎない?)

少しでも揺れれば、おっさんのたぶんカサカサの唇が、佐藤の首筋にくっつく勢いだった。

案の定、電車が揺れて―――私は思わずゲロりそうになった――男の唇が佐藤の首筋に当たったのを見た。
たぶん、こうやって注意していたから発見できた。佐藤の周りのやつは各々好き勝手にして、気づいちゃいない。

それから、よく見るとおっさんの両腕が上下に、不自然に動いている。
ここからは上半身しか見えない。

(なに……?)

「……ぁ」

電車が揺れ、また、佐藤の声が聞こえた。
私は耳がいい方だ。
親にも言われたことがある。

よく考えたら佐藤以外だれも声を漏らしちゃいない。
そもそも、満員電車でいくらか細いからと言ってもそんなに頻繁に声を出すだろうか。

佐藤が下を向いているせいで、横髪が邪魔して表情が分からない。

しょうがない。

「ちょ、ちょっとおっさん」

「ふー?」

「あの子の後ろの人、大丈夫? チカンじゃない?」

「……」

子豚のおっさんが佐藤を見る。おっさんの方が背が高いから、よく見えるだろう。

「ねえ、大丈夫だった?」

「ふーふー」

「はあ!?」

なんてことだ。あの後ろのおっさんはあろうことかイチモツをがっつり生で、制服に擦りつけているらしい。
子豚のおっさんは気持ちの悪い顔をさらに気持ち悪くさせて、鼻息を荒げていた。

「ふー」

「羨ましい?」

「ふー」

「じゃないって! 早く止めに行ってよ!」

「ふ!?」

子豚のおっさんはプルプルして、首を振った。

「なんでさ、捕まえて駅員さんにつき出してよ」

「ふーふー」

そこで子豚は小声になった。

(ふー)

(仲間がいるかもしれない? いや、たぶんいる? 後でこっちが報復されかねない?)

それは確かに嫌だ。嫌だけど、佐藤がみすみす痴漢されているのを放置するのはもっと嫌だ。
とにかく、何とか次に駅で降りよう。
学校は、やむを得まい。

それに次の駅でさらに人が入ってきたら、佐藤を完全に見失ってしまう。

私は子豚のおっさんにお願いする。

(お願い、次の駅で助けたいから、停車の衝撃で転がったように見せかけてくんない?)

子豚は逡巡したけれど、3回くらい小刻みに震えて頷いた。
次の駅のアナウンスが流れる。

早く早く。

ホームが見えてきた。
電車が止まり始める。
車内が大きく揺れる。
子豚が転がっていく。

私は子豚の後に続いて、すぐに佐藤の制服を掴んだ。

「ほら、学校遅れるよ!」

「え?」

佐藤は顔を上にあげて、目に涙を溜めながら、口をアホみたいに開いていた。
子豚を肩ごしにちらりと見る。

あんたはいい仕事したよ。

心の中で礼を言って、私は佐藤と途中下車した。

私は佐藤の顔は見ずに、袖を引っ張ったまま、とにかく構内のトイレに猛ダッシュした。

鏡には化粧直しやら、歯磨きをしている女性が並んでいて、しょうがなく個室へと二人で入る。
互いに息を切らせて、壁にもたれ掛かった。

「大丈夫っ……だった?」

私は、漸く佐藤の方を見る。

「…っ……っ」

右手で胸を押さえながら、佐藤は首を横に振った。
大丈夫じゃないらしい。

「まあ、満員電車だと……可愛い子は狙われるって言うし」

何のフォローにもなってないな。

「っ……ンっ……」

佐藤がやっと顔を上げる。
顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
唇を固く結んで、泣くのを我慢しているようだった。

それから、壁からずり落ちるように地面にしゃがみ込む。
チカンにあった女の子の対処なんてわからないし、知りたくもないけど、とにかく佐藤は何かに耐えるように震えていた。

「わ、私何か飲み物を買って」

雰囲気に耐え切れず、私は温まるものでも買いにいこうとドアに手をかける。

と、佐藤が私のスカートを掴んでいた。

「まっ……」

声は出ていなかったが、待ってと言いたいのだろう。

「いや、ちょっとだけだって」

「おねが……」

と言っても、いつまでもここにいるわけにもいかない。
生憎ここのトイレの個室は3つ。外が少し騒がしくなってきていた。

「……立てる?」

佐藤が首を振る。腰が抜けてしまったらしい。
私は頭の中で、佐藤をおぶってどこまで行けるか考えてみた。
考えなくても、行けるとこまでしか行けない。





トイレの扉を開いた。
待っている女性たちに好奇の目で見られながら、

「はい、ちょっとごめんなさいね」

私達はトイレを後にした。

私はなんとかエレベーターを利用して、地上まで出てきたが、人目に付きすぎるわ腕が痺れてきたわで早すぎる限界を感じていた。

「あー、どうしよ……っ」

ビル群を見渡す。
東横イン発見。

「佐藤、あんたいくら持ってる? 私は3000円」

「……1万」

「オーケー、割り勘ね」

「ありが……う」

「タクシー代は高いよ」

私はヨロヨロとホテルを目指した。

「お客様の部屋番号は210号室になります。ごゆっくりお過ごしください」

私たちを訝しげに見つめながら、ただし笑顔は崩さずホテルマンはそう言ってカードキーを手渡してくれた。


私の足腰もそろそろ悲鳴を上げていた。
210号室の扉を急いで開いて、私たちは崩れるようにベッドへ倒れ込んだ。
汗で体は気持ちわるいし、心臓は痛いし、体が変な方向に固まって動けない。
動けないのは佐藤も一緒で、まだまだ止みそうにない涙を流しながら、ベッドに埋もれていた。

私の背中も涙でぐしょぐしょだった。
移動中ずっと顔を押し当てていたからそうなるのは当たり前なのだが。

「ちょお、休憩……」

泣いている佐藤を、どうにかこうにか慰めてやらねばいけないのだろうと思ったけれど、
いかんせん体が言うことを効かない。

5分休憩。
5分後に再起動するから。

目を瞑ろうとして、ふと佐藤のスカートについていた白いシミが視界に映った。
せめて、この気色悪いスカートだけでも脱がせてやろう。

私はのっそりと体を起こす。

「佐藤、そのスカート履いてるの嫌でしょ。ホック外せる? 脱ぎなよ」

「……っん」

佐藤は返事も半ばに、スカートに手をやってホックを外した。

「下にハーフパンツか何か履いてる?」

佐藤は首を振る。

「え!? 履いてないの?」

それは、もう痴漢してくれと言っているようなものではないだろか、と思ったけど口には出さずに、

「じゃあ、私のスカート貸すから」

「ありが……とう」

被介護者の着脱の手伝い、かのように私はスカートを脱がして自分のを履かせてやった。
とりあえず、佐藤のスカートをベッド下に置いて視界から外す。

私は再びベッドに倒れこむ。
スプリングがギシギシと音を立てた。

佐藤は両膝に顔を埋めている。
私のスカートもびしょびしょになりそうだった。

しかし、チカンなんて初めて見た。
そして、されている奴も初めて見た。

言っちゃ悪いが、男が痴漢をするのは生理現象だと思っている。
だから、しっかりされる側が叱ってやればいい。

だから、佐藤のような奴がいい餌食になってしますのは仕方がない。
痴漢が仕方ないとは言わないけれど。

「佐藤……あんた、私が近くにいるんだから何かサインを送るとか」

怖くて体が動かない、か。

「隣の人に助けを求めるとか」

無理、か。

「はあ、でも今日は1本早く乗ってて良かったわ。いつもは違うし」

佐藤は何も喋らない。

「佐藤、あんたは1本遅く乗った方がいいかもね」

私は息を大きく吸って、吐いた。
よし、ちょっと回復した。

「さて、あんたも痴漢くらいでうじうじしない。痴漢されるくらいいい女だったってことにむしろ誇っていいから。私なんて生まれてこの方そんな目にあったことないし」

自嘲気味に私は笑って、佐藤の両肩に手を置いた。
佐藤は漸く顔を上げる。

「泣く子は苦手なのよ」

「ごめん……っ」

「謝ることじゃないけど……」

佐藤は、私の腕をたぐり寄せて、私の胸に顔を擦りつけるように抱きついてきた。

「怖くて……何にもいえなかったのっ……」

「……」

「隣の人にも声っ……かけれなくて……っ」

「ん……」

「……次は、宮下さんと一緒に行っていい?」

「いいけど……」

順々に私の質問やらに律儀に返答して、佐藤は最後にこう付け加えた。

「次会うときは泣かないから……苦手にならないで……っ」

「いや、泣いたっていいっつーか……」

「宮下さん……今日っ……凄くカッコよかった……っ」

「どうも」

「いっつも……思ってたけどっ……」

「へ?」

「今日助けてもらってっ……もっと思った」

「あ、りがとう」

佐藤はなんとか振り絞ってそこまでを言い終えたようだった。
事切れたように、また、何も話さなくなった。 

私はベッドから降りてポッドのコンセントを穴に差し込んだ。
机の上を漁ると、コップが2つとインスタントアッサムティーが2袋あった。


「はい、熱いから気をつけて」

渡そうと思ったけれど、先ほど私の腕を掴んだ力加減的に、コップを落としかねない気がする。

「あー、やっぱり、ちょっと冷めるまで机置いとくわ」


「……あの、私シャワー浴びてきていいかな」

また、袖を掴まれて止められる前に、私は確認する。
佐藤はゆっくりとこちらを見る。
見捨てられた子犬ような目だった。

「ど、どうしたらいいの」

「……一緒に入る」

「え」

さすがに小さいからと言って、佐藤を介助できる自信はない。

「大丈夫、もうたぶん立てるよ……」

と言いつつも、佐藤はベッドからはいはいでお風呂場へ向かおうとしていた。

「あー、ちょっと待って! と、とりあえず、お湯張るから」

「あ……ごめんね。ありがとう」

どうしてこんな状況になってしまったのか分からないが、やっぱり電車を一本早めたのが原因だったのだと思う。
もしかしたら、私が一本早めなければこんなことにもならなかったのでは。
例えば、私の位置にいつも佐藤がいたと考えればどうだろう。

「佐藤……ごめん」

「え」

ちょうど、髪についたシャンプーを洗い流す所だった。目を閉じてこちらを向く。

「もしかしたら、私がいつも佐藤のいる所にいたんじゃない」

「……確かにいつもあそこにいるけど」

「ああ! やっぱり!? 絶対これ、私が一本遅らせておけば起こらなかったよ……」

「そんな、そんなことないって……でも、どうして今日は1本早いので来たの?」

「え、佐藤がこの時間に乗るって言ってたから」

ごめん、もう眠い。続きはまた今度です。

おつ
期待

おつおつ、スレタイ女の人に痴漢されちゃう話かと思ったよ


女に痴漢される訳ではないけど、これはこれで

ゴミスレ。死 ね

繝代Φ繝?〓縺?□

「私、宮下さんにそんなこと言ったっけ……?」

佐藤が首を傾げる。
あ、やば。

「言ったっていうか、たまたま聞いたっていうか」

「そうなんだ」

「うん」

沈黙。

「……」

佐藤は無言で髪の毛にシャワーをかけて、ぱちりと目を開いた。
私はその目から隠れるように、そろそろと口元まで浴槽に身を沈めた。

「どうして、それで一本早めたの?」

髪の毛を手で絞りながら、至極当然な質問をする佐藤。

「いや、ほら佐藤に会えるかなーって……思いまして……」

「一緒に登校……したかったの?」

「そういうわけじゃ……ないようなあるような」

「どっち……?」

「ど、どっちでもいいじゃん!」

逆ギレとか馬鹿じゃん。

「う、うん」

佐藤は案の定、少しびくついてそれ以上突っ込まなくなった。

佐藤は黙ったまま浴槽にも入ろうとしないので、仕方なく私は声をかける。

「怒鳴ってごめん。寒いし、浴槽入りなよ」

「う、ん……あの」

「うん、ごめん。ガキ臭いことした。ちょっと一緒に登校してみたかった。そんだけなの」

「あ……」

「あんたいつも一人で登校してるって、朝練行く時友達が見たって言ってたわけ。寂しくないのかなあって」

多少気恥ずかしさを覚えながら、私は早口で捲し立てた。

「私こんななりしてるけど、なんかそういうのって気になるというか。しかも、何かその友達が憂いを帯びてるとか何とか言うわけよ」

「あの……」

「それでさ、何か気になって……って、早く入りなよ」

「立ち上がれない……」

「あ」

私は、佐藤の脇を抱えて何とか浴槽に浸からせた。

「ありがとう……」

恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに眉毛を下げて佐藤が言った。
それから、ぽつりぽつりと口を開いて、

「本当は私……あの電車で痴漢を待っていたの」

「はあ?!」

衝撃的な事実に脳が追いつかない。

「ご、ごめんなさい」

佐藤は意味もないのに、反射的に謝っていた。

「そ、それはどういうことなわけ? 私は、変態から変態を守っていたという解釈でいいわけ?」

「ち、違うの……」

「違うのって言われても、それ以外に何がどうあってチカンを待つかっていうね……」

私が佐藤のことを180度考え直そうかと思案する前に、

「練習だったの……」

また意味不明なことを彼女は言い放っていた。

「……痴漢されるための?」

「ち、違うよ」

佐藤は首を横にブンブン降る。

「じゃあ、何さ……」

「痴漢を撃退するための……練習」

「げ・き・た・い?」

「うん……今日は、惨敗だった……けど」

今日はって、いつもあんなことやっているのか、こいつは。
いかんいかん、佐藤のペースに巻き込まれている。
たぶん、チカンにあって錯乱しているのかもしれない。
誰が? 私と佐藤の両方に決まってる。

「私、電車に乗ったら……ほとんどいつも痴漢に会うの……」

「マジで、すげえ……」

「前は、触れるだけとか体の当たる所に立ってるとかそいうのが多かったんだけど、最近エスカレートしてきて」

もう、同一人物の犯行じゃないかと疑いたくなる。

「今日……みたいなのは初めてで……」

佐藤は自分の体を自分の両腕で抱きしめる。

イイね!

いい雰囲気。期待!

チカンに初めても次もあっちゃいけないと思うのだが、佐藤の中では日常茶飯事なのだろう。

「でも、ああいう人もいるんだって今回分かったから……なんとか、自分の力だけで防ぐようにしないと……」

佐藤はさらに体を縮こまらせていた。自分のことは自分で守らなければいけない。私にはそんな風に見えた。

「あのさ、親とかには言ってあるの? 佐藤がそういう目に会いやすいって……」

「ううん、うちはお父さんしかいなくて……その、凄く言いにくいの」

「男の人には言いにくいかもしんないけどさ……」

「うん……それに、お父さん腰が悪くて私のこと車で送るっていうのも難しくて、余計な心配かけてそのストレスでまた腰悪くしちゃったらいけないから……」

佐藤いいやつ。

「んー……」

私は腕を組んで考える素振りをする。

「どうしたもんかね」

登校中に浮かない顔で通学する佐藤が容易に想像ついてしまう。
お節介の血が騒ぐ。一緒に登校するか。いや、でも根本的な解決になってない。
今朝みたいに気前のいい子豚がそうそういるわけないし。

「あのさ、まずはさ短パン履くところから始めよっか」

「え、履いたらダメでしょ?」

「そんな校則ありません」

「うそ。お父さんが言ってた……気がする」

親子揃って、ネジがちょっと緩んでいるようだ。

「じゃあ、持ってないの?」

「うん……」

「……はあ、じゃ、あたし何枚か持ってるから1枚あげる。とりあえずそれ参考にして買いな」

佐藤が顔を上げる。

「それは、悪いよ……」

「いいって、別に」

「……ありがとう」

今にも泣き出しそうな表情だった。

「友達に相談しなかったの?」

「友達……言えないよ。チカンによく合うなんて……巻き込んじゃうといけないし」

こいつのお友達グループで、他にチカンに合いそうな奴いたっけか。

「そう、優しいねえ」

「それに、気持ち悪いって……思われたくない」

「気持ち悪い?」

「いつもチカンに合うなんて……気持ち悪いでしょ」

友達に言えないのは、大方この理由なんじゃないだろうか。
たぶん、父親も。

「別に気持ち悪くないって」

「……宮下さん、優しいから」

「ホントだって」

佐藤は頑なに首を降る。

「だって、ほら……」

私は佐藤の体を引き寄せる。

「きゃっ……」

「こうやって触っても全然気持ち悪くないし」

「……み、宮下さんっ……」

「何恥ずかしがってんの?」

「だ、だって……裸で……」

「女同士でそんなに強張ってたら、男にされた時どうするわけ……」

「お、男の人は……わからない……失神するかも?」

「ぷっ……まずいわそれは……第一に今日のストーカーに手も足も出せてなかったくらいだしね……」

このままこの状態が続いても、チカンを退けられるようになるとは思えない。

「おし、じゃあ練習しよう。私がチカン役してあげる」

「え? あ、い、いいよ」

「遠慮するなって……ほれ、手始めに」

佐藤の胸をわし掴んだ。

「…………」

Dカップといったところか。
佐藤は目を見開いて、金魚のように口をパクパクさせている。



「ほれほれ、こんな時はなんて言うんだっけ?」

佐藤はハッとして、一度唾を飲み込んでから、

「こ、この人チカンです……っ」

演技なのにざっくりと心を抉られるような気持ちになった。
冤罪ってこんな感じかな。いや、同じにしちゃ悪いか。

「言うのおっそい!」

手にちょうど収まった胸をさらに揉みしだいた。

「やっ………っ」

「……何、感じてんの?」

「そ、そんなこと……」

「もう、練習になんないじゃん。はいはい、チカン行為がエスカレートしてきましたよ」

私は左手で佐藤の胸を揉みながら、右手でお尻を撫で回す。

「ひゃっ……めっ……て」

「聞こえないよー?」

「やめてっ」

「おお、声量は足りないけど言えるじゃん」

私は、手を離して軽く拍手する。佐藤は少し息を荒くしていた。


しかし、なんという弾力。
本当に同じ胸なのか。
私は少し切なくなりながら、自分の胸にそっと手を当てる。

「……あの……っ」

「なに?」

「もう一回……お願いしてもいいかな?」

急に積極的になったな。

「いいけど……じゃあ、今度は後ろ向いて」

「……う、ん」

佐藤のきめ細かい背中が視界に広がる。
私はどこから攻めようかと思案して、とりあえずお尻にそっと手を触れた。
もちもちとしている。もちをこねるようにお尻で円を描く。

「……っ」

佐藤は震えながら耐える。

「って、耐えてたらダメじゃん!?」

「あ……ご、めんね……」

「大丈夫? 何か、トラウマとか思い出してない?」

「……ううん、逆で……触られることに慣れたら緊張して喋れなくなることもないかなって……」

慣れてしまうのは果たしていいのか悪いのか。

「だから、もっと……触って欲しい……」

変態めいた台詞だった。おかしなことに、私はその言葉に軽く衝撃を受けていた。
つまり、何でもしていいということ―――いや、違うけど。

好きにいじってということ―――いやいや、違うでしょ。

何だろう。男が聞いたら喜んで飛びつきそうな台詞だ。
だから、私が飛びつくのは変だと思う。

「怖くない?」

私は一度確認の意味も込める。
佐藤は無言で首を振る。彼女は、待っている。

私は湯船を揺らして、右手をそっと佐藤の横腹に当てた。びくりと腰を震わせる。
ぜい肉はなく、ほどよく柔らかい。上下に撫でてやると、まるで尻尾を振るみたいにお尻を動かしていた。

「佐藤……さ」

「……うん」

「太もも触るよ」

「……恥かしいから、確認しないで……」

確認しなかったら、ただの変態なんだけど。
私自身も、触って拒絶されたらと思うとうかつに手が出せない。

そんなことを考えながら、佐藤の内ももにタコの足みたいに腕を絡ませる。

   【このスレは無事に終了しました】
  よっこらしょ。
     ∧_∧  ミ _ ドスッ

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     /    つ. 終  了 |
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      書き込まないでください。

えろい

えろい

いいね
続き期待してる

手のひらで、何度も太ももを撫でる。
その度に、佐藤は魚のように跳ねていた。

私は体のラインに沿わせて、指先をゆっくりと胸元へ近づけていく。
下乳に人差し指と親指が引っかかる。
マシュマロみたいな胸に飲み込まれていく指が少し気持ちがいい。
変態の素養があるのかもしれない。

「……っ」

佐藤は耐えている。声を押し殺して。

「声、出してもいいけど……」

そんな提案をするけれど、佐藤は首を振る。
ふいに佐藤の感じる声が聞いてみたくなった。好奇心? 欲情? わからない。
もう少し、刺激を強くすれば自然と出るかもしれない。

滑るように私の指は胸全体を覆っていく。後ろから佐藤の胸を揉みしだく。
下から上に向いて、優しくたゆませる。
時折手のひらにあたる突起が、先程まで柔らかかったのに、すぐに硬くなって手の平を引っ掻いていた。

「何か立ってる……」

「……っそういうこと……言わないでほしい」

「……チカンが言葉で攻めて来る時もあるんじゃない?」

人差し指の腹で、乳首を転がしてやる。
湯船が波だった。

「んっ……うん……」

佐藤の息が荒くなっていく。
それを聞くと、こっちまで変な気分にさせられる。

「ねえ、佐藤、今どんな気持ち?」

「……っえ」

「私はね、ちょっとエロい気分……」

「……宮下さん」

吐息のような声だった。

「ねえ、こっち向いて?」

私は佐藤の胸を揉むのを止める。手が疲れてしまったのもあった。
佐藤は、緩慢にこちらに顔を向ける。
お湯に長く使ってるせいか、それとも気分の高揚のせいか、頬を上気させていた。

「大丈夫? のぼせてない?」

「う、ん……少し」

「そ……んー、ちょっと上がろうか」

私自身は長湯は得意な方だ。佐藤は、見た目にも得意という感じではなさそうだった。

「倒れられても困るし」


善意で言ってあげたのだが、佐藤は、

「もう少し……」

と、私の唇に軽く啄むようなキスをした。

「……」

固まった。一瞬何が起きたのか分からず、何度か瞬きする。
生暖かさが、唇に広がって、すぐに去った。
先程まで、胸を揉んでいた自分が言える台詞ではないけれど、

「な、何!?」

「……ごめん」

佐藤は謝った。

「……唐突過ぎっ」

「あの……嫌だった?」

「嫌っていうか……」

「嫌だったならごめんね……」

「……早すぎて良くわかんなかった」

「え」

「もっかい」

「……いいの」

「……ん」

私は目を瞑って唇を突き出す。何やってんだ。変な気分になって、ままごとみたいな恋愛擬似体験でもやりたかったのか。
頭の中で、そんなことをぐるぐる考えながら、佐藤の柔らかな唇の感触を今度はしっかりと感じることができた。

眠いので、今日はここまで

おつ

おつおつ

乙、最高です

宮下さんがガチなのかと思ってけどそう言う訳でも無いの?

>>49
イメージ的には流されやすい、微百合な子

唇を離すとねっとりとしたものが顎に滴り落ちてきた。
どちらのともつかない。佐藤は口を半開きにして、惚けている。

「エロ……」

「え……?」

唇に感じた熱のせいか、だんだんと恥ずかしさがこみ上げてくる。
佐藤を直視できなくなって、私は視線を逸らした。

「宮下さん……」

「何?」

「私、いつも宮下さんが後ろを振り返る度に、凄く緊張してた……」

「……へえ」

「話しかけてみたい、触って、抱きついてみたい……そんな事考えてた」

私は佐藤に視線を戻す。

「な、何言ってんの……」

「でも、それっておかしい事だって分かってた……お父さんにも、昔叱られたことあった」

親父に言うとかすげえな。佐藤はゆっくりと右手で私の顎を触る。
背筋をぞくりとしたものが這い上がる。私は無意識に後ろへと後ずさった。

「我慢してた……」

「なに、私狙われてたわけ……?」

「そういうんじゃ……でも、そういうことに……なっちゃうのかな」

佐藤は小首を傾げる。その仕草は、先ほどまで子犬のように震えていた時とは、別人。誰だよ、これ。
妙な艶めかしさを感じてしまう。

「……私、あんたにそんな風に思われるようなことしたっけ」

クラスメイトで、後ろの席で、日に二言三言くらいしか離さない関係だって言うのに。
まあ、私も雰囲気に流されてこんなことになっちゃったけど。

「ふふっ……」

佐藤が笑った。嬉しそうに。佐藤は私の顎から手を離す。

「なになに?」

「知らないと思うけど……、佐藤さんが私の話ししてるの偶然聞いたことあるの」

「?」

「佐藤さんの友達と同じ電車に乗っとた時の話しなんだけどね」

それで、私はピンと来た。

「ああ! なんか、暗い顔してたって……」

「そう、それ……教室で話してたの聞いた……佐藤さんが、心配してくれてたの覚えてる」

確かに、友達は笑い話にしてたけど、私は結構真剣に聞いてた。
後ろの席ってだけで、なんというか親近感みたいなものはあったっけ。
何か、あったんじゃないかって思った。

「あれは、好奇心とか、世話焼きたくなる性分というか……」

私は意味もなく言い訳する。

「それでもいいよ……それが、そんなことがね……あの時の私には凄く嬉しいことだった」

佐藤は少し迷って、

「今までは、こんな人になりたいって思ってただけだったけれど……その時から、変わっちゃったんだと思う」

「……」

ちょっと頭の整理をしよう。

後ろの席のちょっと大人しい、ついお節介を焼きたくなるようなクラスメイトが、私のせいで何か変わっちゃったらしい。
それは、つまり、ああ、ちょっと待って、私少し嬉しいみたいだ。少しどころか、結構嬉しい。
裸のお付き合いのおかげなのか、お遊びみたいなもんじゃんって思ってたのに。
佐藤は案外エロいし、私はそれで興奮しちゃってるわけだし。

「やっぱり……私も、どっかでこうなること望んでたのかも……」

「冗談でも、嬉しい……」

けっこう勇気出して言ってみたのに、ストライクだと思って投げたボールがアウトコースだったかのような返答だった。

「い、いや、あのね……」

とは言うものの、自分だって意識して佐藤のことをそんな風な目で見たことなどない。
そもそも男と付き合ったことだってないのに、こういうシチュエーションでどんなセリフを吐いたら
相手が喜ぶかも分からない。誰か教えて。ヘルプミー。

「宮下さん、今日は本当にありがとう……」

「い、いいよ別に。助けれて良かったし」

「……私、宮下さんに……一つだけ謝らなくちゃいけないことがあるの……」

と、佐藤はそこで一度口を閉じる。

な、なに。実はチカンは全部自作自演でしたとか。
それだったら、私とんだピエロじゃねーか。
その場合は、とりあえず泣きながら佐藤を引っぱたこうか。

などと、私が勝手な妄想を企てるくらい、佐藤は続きを言うのを躊躇っていた。

「ま、まさか」

「え?」

「い、いや」

「もしかして……気づいた?」

これは、もしや本当に……。

「うそ……っ」

「……ごめん、嘘をつくつもりじゃなかったの」

お、おおう。佐藤は今にも泣きそうだ。
泣きたいのはこっちだ。

「お父さんに……チカンされてるなんて、言えなかった……」

「はあ?!」

狭い風呂場に私の声が反響する。ところがどっこい、全く話は違った。

「どういうことですかそれは……」

「気がついたきっかけは……いつの頃からか、お父さんが自分の服を家で洗わなくなったことだったかな……初めの内は年頃の娘だからって、そう言われてた。でも、以前チカンにあった日に、お父さんがコインランドリーで洗濯してるのを見かけて……その日はね、私勇気を出して気づかれないように手鏡でチカンの姿を見た日だったの……」

「チカンと同じような服を洗ってたと……」

「……そう、それに私が来たのわかったとたん、凄く急いで袋に詰め込んでた。……でも、私こんなことで疑うことなんてできなかった……偶然だって思ったもん」

「うん……」

「でも、怖かった。その日から、何日か手鏡で確認したけど、毎回服装も変わってた。可能性が少しでもあるのが嫌だった。だから、それを無くしたくて……けど、チカンされてる時に確かめる勇気もなかった。……だから、簡単な作戦を考えたの。電車からいったん降りたフリをして、後ろの方の車両からもう一回乗り直す。恥ずかしかったけど、制服の上からジャージを羽織って帽子を被って……それで、チカンが降りる時、一緒に降りた」

佐藤は目を瞑る。思い出しているのかもしれない。
閉じた瞼から、大粒の涙がポロポロ溢れてきて、私はまだ何か言おうとしていた佐藤の体を抱きしめた。

「……私の家に着く駅じゃなかった……だからっ……ほっとしたのっ……でも、すぐに気がついた。いつも小説を出版している所の編集者の人とよく合う喫茶店がある……から……っ二人が笑いながらっ……」

佐藤は、泣き崩れながらも、私に縋るように言った。さっきの比ではない。
恐怖とか悲しみとかそういうもんじゃない。絶望ってやつだ。

「もう、いいよ言わなくて」

「……っ」


助けたつもりになっていた。でも、さらに奥に、もっともっと救われないものが隠れていた。


佐藤も私も体がふにゃふにゃになるくらい時間が立っていた。
お湯はもう温くなっている。


「聞いてくれて……ありがとうっ……全部吐いたら……少し楽になった」

「いや……」

「私の中で、変わったのってね……憧れだったものが希望になったことだったの……あなたがいる、それだけで今は毎日あの電車に乗っても平静でいられる……それだけで救われてる」

何にもしてないけど。

「ありがとう」

そう、佐藤は私に何度も礼を述べた。けど、肝心なことを言わない。

「……佐藤。あんたこれからどうするの」

「私、お父さんのこと嫌いじゃないの……」

はあ?

「なんとか……頑張ってみるよ……」


眠いのでここまで。百合なのに甘くならない……

何これ重い

もっとエロくて良いんだぜ

お父さんこれ男を意識させようとしてんのかね
でも百合に突き進んでください佐藤さん


犯人が親とは面倒なことになってるなぁ

何を頑張るんだこいつは。

「頑張って、お父さんがいつか止めてくれるまで耐える……」

「ば、ばかたれ……あんたのお父さんはさいつ警察にお縄になってもおかしくないんだよ?
私が通報することだってできるんだよ?」

「それは、ダメ!」

佐藤はそこで、初めて私に反抗的な目をした。

「ダメじゃないっつーの……あんた家のことだ。部外者がとやかく言うことじゃないかもだけどさ、そのうち私じゃなくても別の誰かに言われちゃったらさ、どうすんのよ……」

「それは……」

「あんたがお父さんを悪者にしたくないってのは分かるけど……あんたのお父さんこのままじゃ……」

こんなことされて親父が好きとか、佐藤はかなりキてるのかもしんない。いや、親父には負けるけど。
でも、どんだけ娘に愛されていようが、佐藤の親父は立派な犯罪者。

「……分かってる。だから、誰にも言えなかった……宮下さんも、変だって思うよね。こんなことされてまだ、自分の父親が好きだなんて……」

「ああ……あんたは変だって思うよ。でも、それは佐藤の家のことを知らない私が決めることじゃない……」

「なら……このまま私の特訓に付き合ってくれる?」

何事もなかったように、波風立てずに、自分が痴漢行為に慣れればいいって思ってる。とんだファザコン野郎だよ、佐藤お前は。

「そんなの、ごめんだね」

「……そうだよね……うん、ごめん」

佐藤はショックを隠すように、ちょっと笑う。その表情に心底呆れながら、私は言った。

「私は私の好きなようにするよ。あんたの親父に、一回説教してやる」

佐藤は、俯いていた顔を上げる。

「え?」






佐藤の顔には、何を言い出しているんだ宮下さんは、という言葉がありありと書かれていた。
それはとりあえず無視した。私は、どうしても、腹の底から沸々と湧いてきた気持ちを抑えきれない。

「ああ、とにかくさ、あんたの親父だからじゃなくて、痴漢野郎に一発制裁を入れよう。そうしよう。今決めた」

「や、やめてよ……っ」

私は浴槽を勢いよく出る。ばしゃあ!と水しぶきが飛び散った。
後ろで佐藤が小さく悲鳴を上げる。それも、とりあえず無視する。
タオルで乱暴に体を吹いて、ドアを開ける。ひんやりとした空気が気持ちいい。

「宮下さん待って……っ」

濡れたまま、佐藤がシャワールームから飛び出てきて私の腕を掴む。
形の良いFカップが水しぶきを飛ばしながら揺れる。

「待てないね。あんたの家の事情は知らないけど、私はこのむしゃくしゃした気分をぶつけてやらないと気が収まらない」

「お父さんに乱暴しないで……」

いやいや、逆にこっちがされかねないけど。
それは口に出さずに、私は佐藤を抱きしめた。

「きゃっ……」

「とにかく、このまま佐藤が悩んでるのを見たくない! 私が嫌なの! あと、痴漢は犯罪! 理由はそれだけ! 分かったか!」

後ろの席のよしみだ。
乗りかかった船だ。
佐藤をこのままにしておけないんだって。それだけ。

「宮下さん……そんなの勝手だよ」

宮下がまだ何か言ってる。それも無視する。
無視して、黙って私は佐藤にキスをした。

「んっ……はっあ」

修正:佐藤がまだ何か言ってる

佐藤の口から唾液も酸素も何もかも吸い出すように、キスをした。

一度、口を離してやる。

「っ……っあ」

軽く酸欠になった佐藤にもう一度口付ける。

佐藤が考える隙を与えないように、私は何度も唇にしゃぶりついた。
舌で歯の羅列を辿って、口内を犯す。経験があるわけじゃなかった。なんか、もう黙らせるにはこれしかないっていう直感。
世の中、そんな単純なもんだろう。

「……っつ、み、やしたさん……やめっ……んっ」

「そう……? 気持ちよさそうにしてるけど」

「気持ちいいけど……っ」

互いの肌と肌とが触れ合う度に、パチュンパチュンと音が弾けた。
寄り添うっていうもんじゃなくて、ぶつかってる。
佐藤の胸の突起を指で弾いてやると、さらによがった。
と、佐藤は膝を折って、壁伝いにずるずると崩れ落ちた。壁が水滴でシミになっていた。

「なんでっ……こんないきなり」

佐藤の両腕を壁に縛り付け、私は乳首に吸い付いた。
甘ったるい香りと、肉肉しい感触が口の中に広がる。

「ひゃって……」

ちゅぷんっ、と音を立てて、私は乳首を解放する。

「こうでもしないと、あんた言うこと聞いてくんないでしょ」

「ええ……っ?」

「さ、気持ちよくなりたかったら、素直に私の言うこと聞いて、私の指示に従いなさいな」

「……宮下さん……」

「なに?」

「ばか……だよ」

「そうだよ。知らなかったの」

「知らない……だって、こんなに話したこと今までなかったんだもん」

「私も知らなかったよ……佐藤がファザコンのとんだ変態だって」

「……ひどいよ」

「どうとでも」

私は佐藤の顔に近づく。彼女はキスされるかと思ったのか、目を閉じる。
方向修正して、なんとなく耳を甘噛みした。

「くぅっ……ん」

犬みたいに鳴いた。佐藤の震えが私の舌に伝わってきた。

「……佐藤さ」

「っなあに……」

刺激に耐えていた佐藤の頬をぺちぺちと叩く。恐る恐る目を開く佐藤。
私は彼女の横髪を耳にかける。

「こうしたら、もっと可愛いんじゃない」

佐藤が髪をかけた私の手にそっと触れる。

「……ずるい」

「何が?」

「ずるいよ……こんな風にしてもらったら……」

「もらったら?」

「宮下さんに……頼りたくなる……っ」

私はため息を吐く。
佐藤はというと、またポロポロ泣いていた。

分け合った痛みの何分の一も、私は理解できてないんだろうけど、
とりあえず佐藤の笑った顔を見たいとかっていう、
少年漫画のヒーローみたいな単純で勝手な欲望を叶えるために、

「いいよ……」

私は佐藤の頭をわしゃわしゃとかき乱して、得意げに笑ってやった。

ちょっとご飯食べてくるので抜けます。

思わず漫画にしたくなるような素晴らしい文章

思わず漫画にしたくなるような素晴らしい文章

「くっしゅん」

服を着終わってから、佐藤が小さくくしゃみをした。
ちょっと、裸でいる時間が長すぎたな。

「そう言えば、佐藤歩けるようになったんだ」

「あ……」

父親の痴漢のせいで腰抜かしたくせに、父親のことになると威勢がよくなる。
つくづく不思議だ。
それだけは、きっと私には一生わかんないと思う。
それ以外は、分かってあげたいと思う。

「さて、じゃあ作戦を考えよう」

「本当に……」

「うだうだ言わなーい!」

「はい……」

「佐藤のお父さんは、だいたい毎朝いんの?」

「ううん、金曜だけ」

「その心は?」

「毎週1回編集の人と打ち合わせしてるの」

「なるほど、それで……となると、チャンスは来週……か」

「……お父さんは、たぶん何もしないと思うけど……女の子がやっぱり危険すぎるよ……」

「……確かに、私の貧弱な腕じゃあ難しい。大の男を押さえつけるとか無理」

「どうしよう……」

「……男友達呼ぶって手もあるけど……」

と、言い終わる前に佐藤が悲愴な顔をしたので止めた。

「ごめん……今のは無神経だった」

「ううん……ありがとう。でも、そうだよね……男の子に知られるのは嫌だけど……それしか」

「いや……奴に頼もう」

「奴?」

「私の友達の武ちゃん」

「たけちゃん……女の子……?」

「うん。身長148cmのミニマム」

「……小学生?」

「ところがどっこい私たちと同じ高校2年生なのさ」

「……だ、ダメ。そんな小さな体でお父さんを抑えられるわけない……」

「いや、これがけっこう」

「危ないから、ダ・メっ」

佐藤は慌てて私の肩を揺さぶった。
がくがくと揺れる私。

「た、タンマタンマ! ちっこいけど、頼れる奴なんだって。ちなみに、あんたのこと私に教えてくれたの、武ちゃんなの」

手が止まる。

「朝練の……」

「そうそう……」

「本当に大丈夫……?」

「大丈夫…………たぶん!」

「たぶん?!」

―――
――――――
―――――――――


駅を降りると、いつもの喫茶店の入口前に、真方君が腕を組んで立っていた。
僕が声をかけると、彼は愛想笑いもなく、僕を待たずに店に入っていった。
僕は駆け足で、彼の後についで喫茶店の扉を開く。

カランコロン――寂れた鈴のような音が店に響いた。

店主は一回だけカウンターへ顔を出して、また中に引っ込んでいく。
あんたか。そんな表情をしていた。

僕は資料の入った茶封筒をカバンから取り出しながら、奥のテーブル席に腰をかけた。

「遅いぞ、佐藤」

「ごめん、待たせたね」

「5分遅刻。まあいいさ、今週の収穫は? 情報は新鮮な内に取り入れておかないとな」

「……それが」

「しくじったのか? まさか、警察沙汰になって」

「違うさ……ただ、今日は娘と同じ高校の女の子に邪魔されてしまってね」

真方君は舌打ちして、爪を噛む。イライラすると出る彼の癖だった。

「そうか、顔バレはしてないんだろうな」

「それは、大丈夫」

「お前は昔からトロいからな……だが、行為が途中で終わってしまった映像ほど、萎えるものはない」

「そうだね……」

「小説のネタになりそうか?」

「ああ……」

「今度のが売れなきゃお前本当にやばいんだが、その辺分かってるか」

「分かってる」

「俺だって、ヤミ金に手を出したりしたくはないんだ……」

「……他の作家さん達は大丈夫なのかい?」

真方君は皺の寄った眉間を揉みながら、

「他の奴の心配してる場合か……お前は上からの指示に従っときゃいいのさ。余計なこと考える暇があるなら、エロいネタの一つや二つを考えろ」

おおよそ微笑むとは程遠いのだが、唇の端を釣り上げて言った。

「ああ……」

「……お前、本当に余計なこと考えるなよ。……自分の娘に手を出した時点で……同罪だからな」

僕は返事はせず、一度軽く頷いた。
そうだね。もう戻ることは考えてはいないさ。
僕らはみんな頭をどうかしてしまったんだろう。

「真方君、最終章のプロット少し変更したんだ。見てくれるかい」

机の上に置いた茶封筒を彼の前まで滑らす。

「……どれどれ」

真方君が、胸ポケットからメガネを取り出して、茶封筒から書類を取り出す。

「コーヒー飲むかい?」

「いや、いいさ。あれは胃にくる。医者にも止められた」

彼は文字を指でなぞる。
左の人差し指で丸を書いたり、バツを書いたりしている。
その後で、右手の赤ボールペンで僕の書いたプロットにチェックを入れる。

「砂糖やシロップをたくさん入れると大丈夫らしいよ」

「それは、もう飲み物じゃないな」

―――
――――――
―――――――――


私のポケットで携帯のバイブが自己主張していた。
学校にいる時にかけてくる馬鹿は、大抵メンドくさい用事を背負ってくるから出ないようにしている。

「武子、携帯鳴ってるぞ」

「えー、いいよ。先生取って」

「お前はそんなんだから……私のことはいいからさっさと取れ」

「あーめんどくさいなー、もう」

何だか嫌な予感しかしなかったけれど、電池が無駄に減るのももったいないので、ポケットに手を入れる。
鳴動が止まる。着信アリ。

「何か宮下に緊急出動要請されてる……佐藤も一緒だって」

「あいつら、学校休んで何をやってるんだ」

「さあ……じゃあ、ちょっくら」

私は服を着直して、カバンを片手に、宿直室から出ようとした。
と、先生に腕を掴まれる。

「どこへ行く。まさか、午後の授業に出ないつもりじゃないだろうな?」

「……まっさかー!」

私はにっこりと微笑む。

「そうだよな」

先生も口角を上げる。目は笑っていない。

「ごめん、先生! さよなら!」

私は右足を軸にその場で思いきり二回転して、保健室の扉に向かって走る。
扉を思いきり開ける。

「また、夜にね!」

投げキッスして、私は廊下を走り出す。

「おい、馬鹿! 武子! 廊下は走るな! 転んだらどうする!」

後ろからそんな叫び声が聞こえた。

―――
――――――
―――――――――

「おーい、こっちこっち!」

「翔ちゃん!」

「しょうちゃん? あ……ちっさい」

「佐藤さん、あんたも同じくらいじゃん。てか、なになに、翔ちゃんってば真昼間から逢引きー? 親友を放ったらかしてそりゃないんじゃないのー」

「ごめんって、この埋め合わせはいつか必ず」

「じゃあ私の部屋片付けてくれる?」

「あー、まあいいよ。なあ、佐藤」

「え、私?」

私が話を振ると、佐藤はきょとんとしていた。

「じゃ、なくてさ、翔ちゃん……また面倒なことになってるの?」

「うーん、まあそんな感じ」

「まあいいけどさー。翔ちゃんも、いい加減にしとかないと痛い目みるよ」

「そうだけど、だいたい武ちゃんが種火つけて、私が引火させるパターンが多くない?」

「そうだっけ」

「そうそう」


私は今までの経緯を武ちゃんに説明する。
飲み込みが早く、ノリの良い武ちゃんは一つ返事でオーケーしてくれた。

「なるほどね、最後のトリに私の出番を用意してくれたってわけかー」

武ちゃんは多少めんどくさそうに言った。それから、視線の先を佐藤に移す。
佐藤はびくりとして、後ずさる。

「大丈夫、私は人畜無害で有名だから」

「自分で言うか」

「誰も言ってくれないから」

あはは、と武ちゃんが笑う。

「あの、武……さん?」

「あ、私武子って言うの。だから武ちゃんね」

「た、武子さん、嫌だったら……ちゃんと言って欲しい」

佐藤が言った。私は、反論しようとしたが、佐藤に手で静止される。
私も素直に引っ込む。確かに、私ちょっと喋りすぎだ。

「……翔ちゃんに言われたからするんじゃないよ」

武ちゃんは小さい体で、一度大きく伸びをする。

「……?」

「佐藤さんが頑張ってるみたいだから応援したくなったんだよ……まあ、それは翔ちゃんも同じなのかな?」




佐藤は、私を見る。とりあえず頷いておく。それから、武ちゃんの方を見る。

「佐藤さんって泣き虫だー」

小学生がからかうように、武ちゃんは無邪気に笑った。
それを見て、私も張っていた気が少し緩んだ。

「やっぱり、頼りになるのはどんな時も武ちゃんだ」

「さって、話はこれで全部なの?」

「あー、そうだな」

「じゃあ、帰るよ」

「どこに?」

「学校」

私は佐藤と顔を見合わせる。

「「あ」」

「えー、忘れる普通? 人のこと学校から呼んでおいてー?」

武ちゃんが呆れたように、私の肩を叩く。

「……はは」

何日かぶりに笑ったかのような感覚で、私は佐藤と笑い合った。 

今日はここまでです。

訂正レス74:宿直室の扉から出ようと

あ、ちょっと間違えました。
訂正レス74:私は右足を軸にその場で思いきり二回転して、宿直室の扉に向かって走る。

おつおつ

思ったよりお父さん酷かった
鉄拳制裁はよ
エロだけじゃなくてストーリーもあるんですか読むの楽しみになるじゃないですかやったー!

私たちはその後、武ちゃんに連れられ学校に戻った。
案の定、武ちゃんは仲良しの学年主任に報告し、めんどくさいことに私たちは揃って宿直室で反省文を書かされる羽目になった。

「だる……」

「ごめん……」

学年主任が授業から戻るまで、後40分。
それまでに書かなければ親に言うと脅され、私は渋々ペンを揺らす。

「いや、いいんだけどさ。これは学年主任ラブの武ちゃんのせいだし。私らをここに連れてきた時、見た? 褒められて嬉しそうにしてたあの武ちゃんの顔といったら……いてて」

私は、手首をこねくり回しながら言った。

「仲良いんだね」

「そりゃ、まあ、うん」

「?」

「……へっ」

「どうしたの?」

「なんでもないよん」



私はミミズののたくったような字を目をこすりながら見つめる。

「よし」

「宮下さん、もうできたの?」

「ううん」

小休止を取るため、机に右頬を押し当てる。
肩がふっとラクになった。眠い。

「てか、佐藤今日家に帰んの?」

ふと思った疑問を口に出す。
佐藤はすぐに返事をせず、迷うように右手を口元に寄せた。

「どうしよう……」

「どうしようって……まあ、普通にしてたら気取られないと思うけど」

「そうだね……」

こいつが家に帰った所で、親父にはなにもバレちゃいないのだから、特別警戒しなくてもいいだろう。
家か……。いつも、佐藤はチカンされた後も、何食わぬ顔で授業に出て、何食わぬ顔で家に帰り、父親と夕飯を食べ、
父親と同じお風呂に入り、同じ家で寝ていた。それは、私には想像もしたくない、佐藤家の日常。

「帰るのが嫌とかそんな感じ?」

「そういうわけじゃ……ない」

ないんだ。それはそれでビックリだよ、佐藤。

「ただ……」

口ごもって、佐藤はゆっくりと私の服の袖を掴んだ。
なんだ、なんだ。私は顔を上げる。


掴んだ手から何かを汲み取って欲しいのだろうか。
それは、ちょっと無理だわ佐藤。宮下さんエスパーじゃないんで。

「お父さんのこと……今日は忘れたい……」

「どういう……こと?」

「……あの、良ければ……宮下さんのお家に泊めて欲しい」

「あー、そういうことね。そら、もう全然構いませんが」

「ホント? ありがとうっ」

「いーえの。そりゃ、まあそうなるよねー。うち、今、両親仕事でいないからさ、空き部屋ならいくつかあるから」

「……あ、うん……ありがと」

「それとさ……佐藤」

私は佐藤の手を両手で握り締める。
言おうか言うまいか、少し迷う。
佐藤は、多少怯えた表情で私を見つめている。

「な……なに?」

「あのさ……ご飯作れる?」

佐藤の肩が少しこけた。

――――――
――――――――――――



「武子……」

「何だい、美香ちゃん」

「美香ちゃん言うな!」

美香ちゃ―――先生が、私のお尻を引っぱたく。

「いたあっ!? ひどいな、もー。美香ちゃんの大事なお尻が使い物にならなくなったらどうすんの?」

「どーして私にとって大事なものになるんだ!? お前のお尻が!」

「しー……それは、もー、最後まで言わせないでよー」

人差し指で美香せん――ちゃんの脇腹をつつく。
うぐっ、と声を漏らして美香ちゃんは口に手を当てる。

「やめんかっ……武子、学校では先生。これは二人で決めた約束だろ」

「はーいはい」

私は適当に返事する。
美香先生は、嘆息混じりに眉間の皺を伸ばしている。

「反省文は……書き終わっているようだな。武子、そこの時計のアラーム1時間後にセットしといてくれ」

仲良く一緒に夢の国に旅立った翔ちゃんと佐藤を交互に見つめ、美香ちゃんが小さな声でそう言った。

今日はここまでです。

おつおつ

佐藤はうちの玄関にちょこんと座っていた。
なぜかと言うと、足の踏み場もないくらい汚くなっていたリビングを、私が片付けているからだった。

「ちょ、と……まっ」

最後のブツを押し入れに放り込み、開かないようにしっかりと押し込む。
奥の方の服やら、タオルやらが反発してくるが、構わず押しつぶす。

「ふいー……おっけ、佐藤上がってよし」

玄関から細い声が聞こえた。リビングに佐藤がひょっこり顔を覗かせる。

「ありがとう……」

「いやー、こちらこそ食料選びからしていただいてありがとうございます。何分、冷蔵庫に何にもなくて」

スーパーの袋を片手に、佐藤は首を振った。

「ううん、大したものはできないけど」

「いいのいいの。手料理が食べられるだけでマジで嬉しいから」

「……そう言ってくれると作りがいがある」

「こちらが台所になりますー」

「うん」

材料を取り出して、佐藤が夕食の準備に取り掛かる。
私はその周りをウロウロと歩く。

「あの、何かすることは?」

「ないよ……座ってて」

「ほら、何か洗うとか剥くとか切るとか」

私はそう提案するが、彼女は首を振って笑った。
料理の下手な女は大人しくお座りしておけ、ということらしい。
という訳で、私はすごすごとリビングのソファーに座り、テレビをつける。

佐藤は手際よく、材料を切っていく。
ふと、何か足りないような気がして私ははたと思いついた。

「佐藤、エプロンつけなきゃ制服汚れる」

「え、あ……」

私は、壁にかけてあるエプロンを佐藤に手渡す。
茶色の生地に淡いクリーム色のグラデーションが可愛らしい。私が少し前まで使っていたものだ。

友達にもらったものだ。
最初は張り切って付けて、パエリアとか作ろうとしちゃったのはいい思い出。
出来上がったのは、ただの焼き飯だったが。


どうして気合の入った時に限って、上手くいかないのか。神のみぞ知るというやつか。
過去の失敗を思い出して落ち込みながら、すでにフライパンで材料を炒め始めている佐藤を眺める。

「佐藤のさ……」

「うん?」

「制服エプロン……ってエロい」

「……っえ」

「と思う」

「や、やだっ……」

佐藤は油と熱で香ばしい香りのするフライパンを火にかけたまま、その場にしゃがみ込む。

「ちょ、そんな恥ずかしがり屋だったっけ……って、フライパン」

「ご、ごめん、いきなりだったから」

佐藤は立ち上がり、慌ててフライパンの中を混ぜ返す。

「思ったことが口からだだ漏れだったわ、ごめん」

「びっくりする……」

「や、エロくて可愛いんだって、ホント」

佐藤はまたフライパンをそのままにしてしゃがみ込み、少し咳き込んでいた。

「フライパンフライパン……」

「あ」

彼女はまた立ち上がってフライパンの柄を握る。

「ホントに……今は何も言わないで」

別段、何も特別なことは言ってないつもりだけれど。

今日はここまでです。

佐藤かわいい。乙

「じゃあ、ここでごろごろしてるわ」

家に来てもらってご飯を作ってもらって、自分はソファーで寛ぐ。
家政婦?彼女?
これは病みつきになりそうだわ。

「宮下さんは、嫌いなものとかある?」

「いやー、雑食だわ。特に好き嫌いない」

「わかった」

立ち直りの早いやつ。
私はしだいに香ってくる匂いに、お腹を抑える。
辛抱たまらん。起き上がって、ふらふらと吸い寄せられるように冷凍庫に手を伸ばす。

「アイス……」

「宮下さん……」

「なに?」

私が、アイスの袋に手を伸ばした直後、佐藤が私の袖を掴んで呼び止める。

「夕飯前にアイスは……」

「ダメって?」

「う、うん」

「いいじゃん別に」

と、ばっさり切ろうとしたら、

「だ、だめ」

と、案外頑固。

「どーしても?」

「……ご飯食べれなくなるかもだから」

「……私の料理全部食べて欲しいなーって?」

「そう、だよ……できれば」

佐藤が恥ずかしそうに頷いている。
可愛すぎてクラッとする。

「あんた、それ卑怯だわ」

「え?」

ここに穴があったら、叫んでいるところだ。


それから、ご飯ができるまで私はソファーで一眠りさせてもらって、佐藤に揺り起こされて目が覚めた。

「ふにゃ……」

「ご飯食べよ……」

「うん……」

目を擦りながら、佐藤の腕を支えに起き上がる。


佐藤の手料理は美味しかった。
美味しすぎて、涙が出た。比喩表現とかではなく、リアルに出た。
なので、佐藤はびっくりして茶碗をひっくり返しそうになっていた。

ティッシュで鼻を噛む私を心配そうに見ていた。

「あー、なんでもない。なんて言うか、ホッとしたというか……あ、これも美味しい」

ティッシュ片手に、私はひょいひょいとオカズに手を伸ばす。

「ずっとここにいて私のご飯作って欲しいなー……」

もごもごと口を動かして佐藤を見ると、照れながらはにかんでいる。

「それも……いいかも」

お、乗ってきたな。

「じゃあ、部屋は私と同じ」

「どうして?」

「朝も起こしてもらう」

「えー……」

佐藤は呆れた声を出した。

「そして、私はダメ人間の道を突き進む……のであった」

「何それ……クスクス」

「いや、でもさマジで朝弱い……今日一緒に寝たら分かるよ」

「あの、一緒に寝ていいの……?」

「何言ってんの、今さら。確認しなくても、いいに決まってんじゃん。まあ、私の寝相のせいで、起きたらその辺に転がってたとかになってたらごめん」

「それは……気をつける……あ」

「なに?」

「口にご飯が……」

私が口に手を伸ばすよりも一足早く、佐藤はそれをとって自らの指をぺろりと舐めた。

「ちょ、ちょ……なんちゅー恥ずかしいことを」

「え? あ、お父さんにいつもやってたからつい癖で……」

おいおい。親父にやってたのかよ。
目も当てられないとはこのことだ。

「あんたたちが仲良しこよしなのは十二分に分かった……」

なのに、なんであんなことになるのか。
そして、こいつはまだ親父に未練タラタラ。
助けた側としては、正直納得いかないし、妬ける。

「他に親父としてたことってあるの?」

「特には」

首を小さく捻る。

「例えば……うーん、ほら過剰なスキンシップだったなって言うようなの」

「……あんまり気にしたことなかったけど」

「友達に言われたこととかない?」

「そう言えば、料理してたらよく腰周りに抱きついてきて……それは、友達に変って言われた」

なんじゃそりゃ。
往々にして、こいつの家の中では痴漢行為がはたらかれているらしい。

「でも、それは普通のことでしょ?」

「私は嫌だけど」

「そうなの」

「残念だけど、ほとんど女子高生は嫌だと思う。てか、セクハラだし」

「……そうなんだ」

このどっかずれた感覚は生まれ持ってのものなのか。それとも、親父の調教によるものなのか。
はたまた、気遣いから生まれたのか。

「無防備というか、無用心というか……」

「気をつけるね……」

夕食を終え、片付けは私が行うと佐藤に言ったが、一緒にやると聞かなくて二人並んで食器を洗う。
隣に並ぶと、佐藤のちっさいのがよく感じられる。
一緒になりたくはないけど、親父がこいつに抱きついてしまう理由は分かる。
きっと、この健気な感じもオヤジ的にぐっとくるものがあるんだと思う。
私もご他聞に漏れず。

「佐藤って、よく見るとさ、ちっさいな」

「……よく見なくても小さいの分かってるよね」

「うん」

あっさり返事をしたら、佐藤が私の足を踏んできた。

「暴力反対!」

「暴言反対……」

泡立ったお皿を佐藤に渡しながら、私は足を踏み返す。
カチャカチャとお皿の音が台所に響く。
ドタドタと、下半身で繰り広げられる戦い。
が、数分後にお互い飽きてきて、また黙々と食器を洗う。

お互いどちらが先に動くか様子を伺っている。
そんなくすぐったい緊迫感に耐え切れなくて、

「ふふっ……」

「だははっ……」

どちらともなく笑う。

「私……宮下さんって、もっとクールなイメージだった」

「そう? それなら、佐藤がファザコンとは知らなかった」

「……そうやって、私のこと素直に伝えてくれる所も、嬉しいの」

「ただの、嫌味にしか聞こえないと思うんだけど……」

「でも、そう言うのって普通の友達は言わないから」

「普通の友達ねえ……じゃ、私たちどんな関係になったの?」

「なんだろう……」

佐藤は、蛇口を捻ってタオルで手を吹きながら呟く。

「まだ、どんな関係にもなってない……かな。だから、言い合えることもある……」

「……そうかもね」

佐藤は私の体にしがみつく様に抱きついてくる。まるで、あやされたくて甘える子どもみたいだ。
私は佐藤の着ているエプロンに手を伸ばす。

「な、なに?」

「や、エプロン外そうかと」

「自分でできる……」

「ごめん、でも……外させて。なんかムラムラしてきた」

「え……」

佐藤の腰が逃げようとする。

「ムラムラって……」

「はっ……いや、ごめん」

何やってんだろ。女の子相手に。
いや、でも何だかさっきから凄く甘い香りが。
佐藤、どこの香水つけてんだろう。これは、親父もひっかからざるおえない。
などと、バカなことを考えて、佐藤から体を離す。

「はっはっは、さて、風呂でも」

わざとらしく言って、歩き出そうとして、服を引っ張られ首がしまる。

「おえっ……ご、ごめんなさい。ムラっとしてすいません」

「……」

「へ」

佐藤は後ろから私の方に両手を置いて、頭を背中に引っ付ける。

「いいよ……」

小さな声だ。愛しさに心臓が波打つ。
なんというか、憎たらしい程可愛らしい。

「宮下さん……」

佐藤の手がするすると私の胸に伸びてくる。

「ひゃ……」

くすぐったくて思わず叫ぶ。
服の上から、私の申し訳程度の乳房が包まれていた。

「すごくドキドキ言ってる……」

「そりゃ、まあ……ていうか、触るか掴むかどっちかにしてよ。そのフンワリ感くすぐったい……」

ちょっと2時間ほど抜けます。

支援

「背中……暖かい」

背中でボソボソと喋るものだから、むずむずする。

「私も……っと、あら」

私が振り返って抱きつこうと手を伸ばしたら、そこに佐藤の姿はなかった。
下を見ると、佐藤がしゃがんで縮こまっている。
なんとも言えない顔をしている。

「なぜ、しゃがんだ」

「な、何となく……」

それから予備動作もなく、佐藤は私の脇をするりと抜けてリビングへ移動する。

「こら、佐藤! 私の胸は安くないから! 無銭おっぱい反対!」

「ええっ……と」

ぎこちなく笑って、2、3歩後ずさる。

「なぜ、逃げる」

佐藤は言い淀んで、少しもじもじしながら言った。

「あの……お手洗い貸してくれる?」

「なんだ、早く言えばいいのに……」

「ちょっと、言える雰囲気じゃなかったから……」

私はゆっくりと佐藤に近づいて、その手を掴む。

「こっち」

「え……あ、ありがとう」

リビングの斜め前。ディズニーのカレンダーがかけてある。
月が二か月前から変わってない。

「このトイレ一つ問題があって」

「う、うん」

「扉が壊れてしまらなくてさあ」

「……え」

私は実演してみせた。

「いくよ、ほら」

ガタガタと、扉が何かにひっかかって動かない。

「そ、そんな……」

佐藤が開け放たれた扉の取っ手を引っ張ってもびくともしない。

「というわけなんでよろしく」

「我慢する……」

「マジで」

「うん」

それは体によろしくない、と思ったけど佐藤はどうも言っても聞かなさそうだった。

「まあ、限界来たら行きなよ」

「……」

私は一人暮らしみたいなものだから、そこまで気にしてなかったけれど、佐藤みたいに
箱入り娘さんには抵抗あるか。

「佐藤……お腹押してもいい?」

「絶対……だめ」

意地悪くそう言ったら、佐藤はまた後ずさりながら泣きそうな顔をしていた。
絶対と言われたら、押したくなる不思議。

と、ピーンポンと家のチャイムが鳴った。返事をする前に、

「お届けものデース!」

玄関を勝手に開けて、どかどかと入ってきたのは武ちゃんだった。
ダンボールを一つごとりと廊下に置く。

「ふいー」

「武ちゃん、どしたの?」

「毎夜一人寂しくしてる翔ちゃんのために、お・す・そ・わ・け」

「はい?」

「それでは佐藤さん、ごゆるりと!」

やたらハイテンションで、嵐のように武ちゃんは去っていった。

「何だったんだ……」

私はダンボールの横にしゃがみ込む。斜め張りのシールは、白地に赤で『割れ物注意』と書かれていた。
佐藤も私の向かい側に座って、ダンボールを見つめている。

「まあ、開けてみよっか」

ガムテームをビリビリと破いて、蓋を開く。

「……」

私は手にとってそれを掲げる。

「登美……ノーブルドール?」

山吹色の液体の入った瓶のラベルにはそう書かれていた。

「……ワインかな」

佐藤がぽつりと言った。

「ワイン……飲めないっつーの」

これで盛り上がっていこうぜ! 的な?

「佐藤飲む?」

冗談っぽく聞いてみる。

「……飲めないことはないけど」

「ええっ?!」

予想外の返答に、驚いて瓶を落としそうになった。
衝撃の新事実。

「飲めるの!?」

「お父さんの晩酌に付き合ってるから……」

「人は見かけによらないというか……」

食事前のアイスを止めるより、高校生の飲酒を止めるべきかな。
なんて、野暮ったいことは言わないさ。

「よーし、飲めないけど、飲もう!」

「大丈夫?」

「私?」

「うん」

「さあ」

佐藤は心配そうに、眉根を寄せる。

「まあ、飲むって言っても、たかが知れてるから」

昔、近所のお姉さんにワインを無理やり飲まされたことがあった。
それ以来、ワインは嫌いだし、お酒も嫌い。
きっと、成人しても嫌いだろう。

「スプーン一杯くらい、まずは味見、そして捨てる」

「ええっ……」

「というのは嘘だけど、残りはどうしようかなあって……」

「飲まないなら飲むけど……」

佐藤がさらりとそんなことを言ってのける。
それは、なんだか悔しい。とっても悔しい。いや、こんなことで意地を張る私は馬鹿だけれども、

「……いや、虎穴に入らずんば、虎子を得ずってね」

「得るものは少ないと思う……」

佐藤の呆れた声はとりあえず無視した。

ダンボールに入っていた2つのワイングラスに、佐藤がワインを注いでくれた。

「何か祝う?」

「何を?」

「二人の出会いに?」

「……」

佐藤が白い目をしている。
こいつ、さっきまであんなにべったりだったくせに。猫か。天邪鬼か。

「いいよいいよ、今日は佐藤と仲良くなった記念ってことで」

「……宮下さん」

「なにさ」

「ありがとう……」

ワイングラスが嬉しそうに鳴った。

数分後、まだ私はしっかりと意識を保っていた。

「なにこれ、すっごい飲みやすい……ジュースみたい」

ワインボトルを掴んで、どぽどぽと豪快にグラスに注ぐ。

「ホント……って、宮下さんもう2杯目!?」

「大丈夫、余裕だった。私の敵にあらずだった」

「それは……後で酔いが回るから、もう止めておいて」

佐藤は私からワインを奪う。

「大丈夫、いける」

「……目が座ってる」

「知らん」

「……お水っ」

と、佐藤は言い残して冷蔵庫の方へ駆け寄っていく。

「お水はないけど、牛乳ならあるよー」

「あった……」

パックごと佐藤は牛乳を私の目の前に置く。

「飲んで……」

「え、いやあさすがにワインの後に牛乳はむりむり」

佐藤が無理やり牛乳パックを私の口に近づけようとする。

「ちょ、や、やめ」

「宮下さん、顔真っ赤だよ……?」

「佐藤さんの前だと恥ずかしくて」

佐藤はまた、牛乳を押し当ててくる。

「牛乳はいらないってば」

私は残っているワインを一気に飲み干した。

時間の経過はもう良く分からないが、けっこう経った頃。
私は気分良く、牛乳を飲んでいた。

「ワインと牛乳って合うねえ……」

「宮下さん……結局全部飲んじゃった」

「何言ってんの……あんたも半分飲んだじゃんか……」

頭の中がくわんくわんと、洗濯機のように回っている。
佐藤は回っていないから、たぶん私の頭の中だけ回っているんだと思う。
あー、そう言えば洗濯してないなあ。

「佐藤、脱いで」

「……み、宮下さん?」

「洗濯するから。さっさと脱ぐ」

「……い、いや」

佐藤が首を振って回っている。
佐藤も回っているなら洗濯はいいか。

「なんだ、佐藤もちゃんと回ってるじゃん……」

「大丈夫……?」

「大丈夫ってさあ……大丈夫じゃないから聞くの? それとも大丈夫だから聞くの? ねえ、どっち?」

佐藤の両肩を掴んで、ふと頭に浮かんだ疑問を投げかける。
彼女は困った顔で、

「わ、わからない……宮下さん、揺らさないで……わ、私」

「?」

佐藤は急に立ち上がって、駆け出した。

「こら、どこ行く……っとと」

私も立ち上がろうとしたが、視界が回って足元がふらつく。
転びそうになりながら、佐藤の後を追いかけた。

「さとーさんや、どこへ……」

壁伝いに廊下を歩いて、私はすぐに佐藤を発見した。
佐藤はトイレに、とても静かな空気を纏って腰掛けていた。
一瞬、誰もいないのかと錯覚してしまうくらいだ。

「さとーさん、何トイレと一体化してんの……ああ、トイレになりたいの」

「来ないで」

きっぱりと拒絶された。

「ひどい……私が何した」

「出てって……」

「ここは私の家だって……さとーさん、まさか乗っ取る気?」

「違うから……トイレから出て」

「トイレになりたいくせに、私に指図とはいいご身分だな……」

「い、意味が分からない……」

佐藤は顔を真っ赤にして、私をトイレから押し出そうと躍起になっていた。
私は、そこではたと気づく。

「さとーさん、まさか用を足しにきたの?」

「そうだよ……」

「そうだったんだ……ごめんごめん。手伝うよ」

「……っ!?」

私は持っていたエプロンを装着する。
それから、佐藤のスカートをめくり上げて、パンツを脱がしてやる。

「や、やだ止めてっ……!」

なぜか、手伝ってやっているのに佐藤はパンツを必死に掴んでいる。
だけど佐藤はとっても非力なので、すぐに脱がすことができた。
準備完了、いつでも発射オーケー。

「ひどいっ……」

佐藤は何か言っていたが、私は自分もトイレに行きたいのでさっさと済まして欲しくて佐藤のお腹をワサワサと触る。

「後がつっかえてるんで、早くしてくださーい」

「押さないでっ」

「押さなきゃ出ない」

私は至極当然の原理を説いた。

「……みやしたさん……っ」

佐藤は震えながら、私を睨みつけている。

「こわっ……そんな奴にはお仕置きっ」

私は掴んでいたパンツを放り投げて、両手で佐藤の太ももをこじ開ける。

「や、今度は何っ……」

「こんだけ押してもでないってことは、入口が詰まってんのちゃうんですかあ……」

どこから出るのかあんまり詳しくは知らない。たぶんこの辺。
わさっとした茂みの下側に手を入れて、少し湿った部分に指を擦りつける。

「やめてっ! お願いだからっ……」

「なんかぬるぬるする……漏れてる?」

「っひぁ……」

擦るたび、佐藤の太ももがホールドしてくる。

「痛い痛い……あら、指入る」

「ぅっ……やぁめえ」

中指が飲み込まれていく。大きな穴が空いている。
あ、これ膣じゃね。ということは、この辺りをいじってやればいいかな。

「ほら、出しちゃってよ」

突起物を摘んでひねり上げる。

「っひィ……っあ」

粘液は溢れてくるけど、どうも目的のものとは何か別の液体のようだ。

「ねえ、なにこれー」

少し青臭い匂いが鼻腔をくすぐる。
指に絡んでいたのは透明な卵の白身みたいなものだった。

「やだやめっ……見せないで」

「?」

佐藤は両手で顔を覆っている。
私はもう一度、下の方に指を入れて、今度は二本突っ込んで、かき回す。
佐藤が仰け反り、両手で私の頭を掴む。ぴちゃぴちゃと、水音が響く。

「っ……やっもォ……」

気がつけば、佐藤は涙を流していた。

「あ」

私は金槌で頭を叩かれたように、目が冴えた。
もしかしなくても、嫌がっている?

「さ、佐藤? 大丈夫?」

かき回していた指を引っこ抜いてやる。
慰めようと、佐藤の唇に啄むようなキスをしてやった。

「ふぁっ……」

佐藤の腰の抜けるような吐息が私の耳横を通り過ぎていった。

そして――、

「み、見ないでっ……」

水音――、

「見ないでぇっ……っひ……見ないでぇっ……!」

佐藤の叫びが、開け放たれたトイレから家中に響き渡った。

今日はここまで。

おつん

すばらし

頭が痛い。ほっぺた、首、体の至るところで血流の速まりを感じていた。

「あのさ……」

トイレに座ったまま、泣きじゃくる佐藤を目の前に、私は呆然と膝立ちする。
一体全体、なぜこんな状況に……記憶はあるが経緯は不明である。
私がやったことには違いないのだが。

「と、とりあえず吹きますね」

意味不明なタイミングでの敬語。佐藤は嗚咽を漏らすばかりで、何の反応も見せない。
カラカラとトイレットペーパーを巻き取り、それをゆっくりと佐藤の濡れそぼっているであろう下半身に当てる。

「ちょっと、我慢してくださいね」

拭き取る度に、佐藤の腰がびくんと跳ねる。
私は腰を抑えて、固定してやる。まだ、世界が回っているような感覚なので、手があまり上手く動かせないでいた。

「よし、これでいいだろう」

私は水を流して、パンツも履かせてやってから、手を洗う。
介護ってこんな感じかな。

「宮下さん……」

と、佐藤が何もかも終えた後、漸く口を開く。

「なに」

「……っ」

次の瞬間、視界が反転する。佐藤が勢いよく私を押し倒していた。

「いったっ……なにすんのさ!」

「それは……私の台詞だから……」

「悪かったって。だから、責任とって最後まで貫き通してみたのに」

「こんな……恥ずかしいこと……いくら酔ってるからって」

「ごめんって……でも、泣き叫ぶ佐藤はエロ可愛かったかな」

「確信犯!?」

「てへ……」

その後、佐藤にほっぺたを何度か引っ張られ、お酒の酔いもすっかり醒めた頃に、私は漸く解放された。
今は、佐藤から3メートル程離れた所でテレビを見ている。
彼女の方をちらりと盗み見る。体育座りで、こちらを頑なに無視。私が何をしたって言うんだ。
私の灰色の脳細胞は、すでに先ほどの事を酔っていたからしょうがない、と正当化し始めていた。

「佐藤、お菓子食べる?」

なので、悪びれもなく佐藤に声をかける。

「いらない……」

「そう……」

ぶっきらぼうに返事をされた。ちょっと、寂しいじゃん。

「佐藤……」

「……」

次は返事をしてくれない。

「肩でも揉みましょうか……?」

とにかく機嫌を取ってみる。

「好きにして……」

「おお」

テリトリーに入って、触れることを許されたようだ。

「でも、変なことしないで……」

「わー、信用ゼロ……」

むすっとして、こちらに背をむけてくれる。
案外、もう許してくれているのかも。などと、都合の良いように解釈しておく。
肩に触れる。張りのある場所を探して、そこをほぐすように押してやる。

「っ……上手」

「へへっ……良かった」

何分かして、今度はソファーに横になってもらい、肩甲骨や背中の方に指を這わせる。
気持ちいいか聞いてみたら、今度は返事をしてくれなかった。

「佐藤さんや……?」

「すー……」

寝てる、だと。細い吐息が聞こえる。

「……寝るほど良かったか」

まだ寝るには早いけど。疲れているのだろう。まあ、しょうがないか。
リモコンを手に取り、テレビを消す。

「あれ……」

この部屋こんなに静かだったっけ。
きょろきょろと部屋の中を見回す。柱時計の音と冷蔵庫の音が耳に障る。
電気を消した廊下は、そこから全く別の空間に繋がるような気味悪さがあった。
いつもの家だ。何が違う? 寝そべっている佐藤を見る。

「……すー」

なんだろう、ほっとする。
この家で、こんな風に無防備に寝ている佐藤が妙に嬉しいみたいだ。

「信頼回復かな……」

佐藤の頭を軽く撫でてやった。

――――――
―――――――――

「お風呂貸してくれてありがと……」

「いいえの」

風呂上がりの佐藤は、ほっぺたを桜色に染め上げて、私の部屋の抱き枕(通称「うさぎ」と呼ばれる)の耳を伸ばしている。

「気に入った?」

「私の家、こういった可愛らしいもの置いてないから……羨ましい」

「ここに、住んだら毎晩抱けますが」

「それも、いいかも……」

「うちのうさぎ、夜はすごいよ……」

「……」

「ずっと起きてる」

「抱き枕だからね……」

もー、冗談の通じない子だこと。

「さって、じゃあ寝ますか」

ベッドの端に座っている佐藤が立ち上がる。

「私どこで……」

「ああ、右隣の母さんの部屋で」

「え……」

佐藤が一瞬寂しそうな顔をする。

「はい、これ枕」

「あ、え……うん」

「そのうさちゃんは持って行っていいから」

「……う、ん」

「はい、それじゃあ」

私は、佐藤を隣の部屋まで引っ張っていって、中に押しやる。

「おやすみー」

「おやすみ……」

手を振って、私は自室へと戻る。
3分後に、泣きそうな顔の佐藤が戻ってきた。

「ひどい……」

「ごめん、ごめん……ここ、おいでー」

先にベッドに入っていた私は、隣をぽふぽふと叩いて佐藤を招く。先のいたずらのせいで、抵抗の色を見せながらも、
佐藤は素直にそれに従った。そろそろと入って、顔だけ布団から出して、こちらを向く。

「暖かい……」

「暖めておきました」

「……」

もうすっかり冷えた足で、佐藤が私の足に触る。

「わひょっ……」

「わひょって……クスクス」

笑われると恥ずかしいなあ。

「電気消しまーす……」

照れ隠しも兼ねて、スイッチに手を伸ばす。

「うん……」

今日はここまで

ちょろっと続けます

真っ暗。視界から佐藤が消える。目の前にいるのは息遣いでわかるけど、何となく手を伸ばして頭を触ってみる。

「なに……?」

「いや、いるなーって思って」

「?」

見えないけれど、佐藤はまた、宮下さん意味がわからないという顔をしているに違いない。

「宮下さん……」

「ん?」

「今日は……ありがとう。私、来週頑張ってみる……」

「おお、その意気だ」

「あなたに言われても、まだ踏み出せないことだらけだけど」

「私がついてる。心配するな」

「心配だらけ……」

「そりゃないぜ、さとっつぁん」

佐藤が小さく吹き出す。

「……へへ」

私、佐藤のツボを心得てきたかもしんない。
何より、彼女が私に対して嬉しい反応を見せてくれるのが、たまらない。

「さとー……」

そろりと私は佐藤の腰に腕を回す。少しだけ頭を引っ込めて、彼女の胸の位置に顔を埋めた。

「どうしたの……?」

訝しげな口調。何かされるんじゃないかと思っているのかもしれない。

「こういう風にさ……誰かに抱きついてみたかったんだ」

そう、私は案外と甘えん坊だった。だって、明日学校に行けば、また普段通りに戻るのだから。
体裁というものがある。学校でイチャコラするつもりはない。

佐藤の心臓の音が、薄い布越しに伝わってくる。早い。

「ドキドキしてる?」

佐藤に聞く。

「少し……」

胸の柔らかさと佐藤の体の匂い。佐藤の女の子らしい部分に、クラクラする。変だな。自分だって同じようなものなのに。

佐藤がもぞりと動いて、私の頭を胸と腕で包み込む。

「宮下さん、子どもみたい……」

いや、まだ子どもですもん。

「可愛い」

「え……っと」

何年ぶりに言われただろうか。しかも同性。
私は少し戸惑いながら、照れ笑いする。

とりあえずここまで

おつかわいい

百合を物色していたら見つけたこれいいですねー

佐藤に抱かれるのは、とても居心地が良かった。女性特有の柔らかさがそうさせるのだろうか。

「苦しくない?」

「いや……」

佐藤の腕に力が入り、さらに密着する。互いの胸の鼓動が重なり合ってうるさい。
恥ずかしいんだけれど、止められそうにない。

「宮下さん……」

「なに?」

「あの……ずっと」

「うん」

「ずっと……こうやってしたいって思ってた。いつも、すごく……すごく、我慢してた」

「……えと」

「あ、べ、別にベッドの中で一緒になってとかじゃなくて……ただ、抱きしめたらどんな感じなんだろうって思って……だから、今、嬉しい……ホントに嬉しいの」

「私、すでに狙われていたんですね……」

「狙うとかそんなんじゃ……」

「……私もさ、振り返ってプリント渡したりするだけじゃなくて、もっと普通に話したいって思ってたよ……佐藤に背中だけじゃなくって、私自身を見て欲しかった」

まさか、それを言う日が来るなんて誰が想像できただろうか。
きっと何にも伝えることなく、この季節もこの学年も終わるだろうと思っていたのに。

佐藤の心臓は先程よりも早く打ち鳴らされている。今のセリフを言うのに、どんだけ緊張してんだか。

「今さらだけどさ……佐藤は、私のこと好きなの?」

「……好きなんだと思う」

「そっか……」

「でも、それがおかしいのも分かってる……」

おかしくなんてない、とは私には言えなかった。なぜなら、私の中でさえ、今この状況がどこか現実離れしていたから。
だからすんなりと受け入れることができるのかもしれない。

「もし……私に合わせてくれてるなら……」

「そんなことはないって」

久しぶりにきたらかなり進んでた
乙です

合わせてなんかない。この温もりにずっと包まれていたい。
佐藤が私を好きだと言ってくれることも、嬉しい。
ただ、なぜか、私の喉の奥には、魚の小骨を引っ掛けたような気持ちがぶら下がっていた。

「どうしたの?」

「ううん……」

考えるのは止めだ。考えてもどうしようもない。
今、この瞬間は私は幸せだ。それでいい。

「宮下さん……夜は大人しい」

「そう……かもね。それか、さっきはしゃぎ過ぎて疲れたのかも」

「そっか……」

「このまま、抱きついて寝てもいい?」

「いいよ」

佐藤が柔らかく私を見て、微笑む。包まれてるって、こんな感じかな。佐藤の小さな体が、とても大きく感じられる。
抱きしめる力を強めたり、弱めたりして、そうしていつの間にか私は眠ってしまっていた。

翌朝、慌てる佐藤に体を揺すぶられて起床した。
正確には半分瞼が開いた状態で、視界に佐藤の胸の辺りが飛び込んできた。

「おはよう、宮下さんっ……学校に遅れるよっ」

「お……っぱい」

「……」

眠い。目が開かない。もう、無視しよう。

「宮下さんっ……起きて」

「ムリムリ……ムリダーヨ」

「……制服は?」

「……」

目をつむったまま、私は腕をのそりと上げる。

「あそこに……ひっかけて」

「あれだね……」

佐藤はごそごそと、何か音を立てている。
ただ、私は眠すぎて目を開ける力はない。
と、急に布団が剥ぎ取られた。しかし、私は微動だにしない。

「……もう、脱がすよ」

なにい? が、私は動く気はない。
胸元のボタンが外されていく気配を感じた。

「……家政婦?」

「家政婦だって……こんなことしない」

ヒヤッとした空気が胸元とお腹を撫でる。

「起き上がって……」

「や」



私は足元の布団をまた引張てきて、潜り込む。暖かい。気持い。寝よう。

「やって……どうしよう」

どうもしなくていいから。

「……もう一緒に寝よ」

のそのそと、私は佐藤の体を布団の中に引きずり込もうとする。

「わ、たし制服だからっ」

「よいよい」

「よくないよくないっ」

佐藤の困った声が布団の上から降ってくる。
あー、でもそろそろ起きないと遅れるような気はする。
起きようか。起きまいか。いや、起きなきゃダメなんだけど。起爆剤欲しい。

「さとーさん……」

「なに?」

「ちゅー……」

布団の中でもごもごと私は言った。

「……ええ」

「さすれば……むにゃ」

「そんな……」

悩んでる佐藤可愛い。早く早く……あ、あれ、でもこれ悩んでいる間に起きれそうな気がする。
脳みそがだんだんと覚醒していく感覚。目が冴えてきて、

「ふんっ……あ、起きれた。おはよう!」

私は上半身を起こす。

「……」

その後、なぜかまた佐藤にほっぺたをつねられた。

始業ベルが鳴ったのは、私たちが学校に到着するとっくの前の話だった。今は、佐藤と空き教室で小休止。
携帯を見ると、ハートマークでやたらデコレートされた翔ちゃんからのメールが来ていた。
内容は、ただの冷やかし。

「はあ、授業始まってたね」

「うん」

佐藤は周りから見て、優等生に入る部類だ。こういうことが続くと、進路にも響くだろうか。

「マジで、ごめん……はあ」

寝起きの私よ、恨むからね。

「気にしないで」

とは言え、やることもなしにここにいてもなあ。
幸い、鍵が開いてたから良かったけど。ん? 鍵が開いてるってことは、また誰か閉めに来るんじゃないでしょうか?

コツ――廊下から、靴音。

「お、やばっ……」

「え、あ」

「どこかに隠れる所は……例えば、掃除用具入れとか、あった!」

教室の隅にある掃除用具入れの扉を開ける。よく、漫画とかならここに入って……、

「せ、狭すぎる」

無理だ。二人は入れない。

「ど、どうしよう佐藤……佐藤?」

「ごめん」

「どわ?!」

佐藤は私を突き飛ばして掃除用具入れに放り込み、そのまま、勢いよく扉を閉めた。
衝撃で、私は数秒呆ける。やたら大げさな足音が止まる。

「ここで何してる!?」

「すいません」

「あ、こら逃げるな!」

男の声。どこの担任だろうか、って、じっとしている場合じゃなくて。

私が教室の外に出た頃には、もう二人共その場にはいなかった。

「あのバカ……っ」

どっちに追いかけっこしに行ったんだ。
キョロキョロしながら、廊下に立っていたのがいけなかった。
早いこと、身を隠しながら別の場所に移動するべきだった。

「宮下」

「げ、美香ちん」

「誰が美香ちんだ!」

「……こんな所で会うなんて、奇遇じゃん」

「奇遇も必然もない! お前というやつは、またこんな所で油を売って……授業はどうした授業は!」

「寝坊した!」

「またか!」

「ごめん!」

「ごめんじゃなーい! ちょっと、来い!」

美香ちんが、私の首根っこを引っつかむ。

「わわ、こんな所翔ちゃんに見られたらなんて言われるか」

「ば、バカ。あいつのことは今は関係ないだろ」

「浮気現場?」

「違う!」 

「って、今美香ちんと付き合ってる場合じゃないから」

「どの口がそれを言うか……」

「今、急いでんだって」

「……佐藤か?」

急に立ち止まって、美香ちんが肩越しに私を睨みつける。
睨むというか、見据えるというか、悪意はない。それが分かったから、私も少し冷静に返事を返す。

「うん、そう」

「……宮下」

「何さ」

そこで、美香ちんは少し言いにくそうにして、私の肩に手を置いた。

「佐藤は……やめておけ」

「……は?」

「いや、だから……その」

「急に何なの美香ちん……」

私は美香ちんに多少苛立っていた。

「理由は、お前の方が分かるんじゃないのか……」

「だから、何の理由なの」

「佐藤……には父親がいる。この意味、分かるだろ」

「分かりません」

「……宮下、あまり大きな声では言えないが、佐藤は」

私は、そこで美香ちんの腕を振りほどいた。

「美香ちんのアホンダラ!」

「み、宮下……!」

私は階段を駆け上がって、上に逃げた。美香ちんは追ってこない。
何、遠慮してんだろう。馬鹿だなあ。先生なんだから、しっかり生徒追いかければいいのに。
でも、ひどいじゃん。せっかくできた友達。せっかく知った温もり。
ちゃちな表現だけどさ、幸せな気分が台無しだよ。

「あーあ」

私は屋上の扉を思いきり蹴っ飛ばして、開けてやった。
そこには、それなりに綺麗な空が広がっていた。

レス142訂正:こんなところ武ちゃんに見られたら

その日、私は昼休みから教室へと顔を出した。翔ちゃんが、嬉しそうに抱きついてきたけど、少しだけ罪悪感。

「佐藤は? 来てない?」

「佐藤さん? 来てないなー」

「おかしいな、私より先に捕まったのに」

「捕まったって……どうせ、翔ちゃんの遅刻のとばっちり受けたんでしょ」

「あー、うんそうなんだけど……」

「どうしたの?」

歯切れの悪い私に、武ちゃんが首を捻る。

「いや……」

「気になるの?」

「そりゃ、まあ」

「……何かあった?」

あって欲しくはないけれど、あったと言う事なのだろう。
先ほど美香ちんに言われた言葉が、喉に刺さっていた小骨に張り付いている。
親父がどうしたって言うんだ。佐藤の中の親父の存在がなんだって言うんだ。

「美香ちゃんに聞いてみようか?」

武ちゃんが、いつになく真面目な顔で言った。

武ちゃんが、甘えに甘えて美香ちんから聞き出してくれたのは、佐藤の家の住所だった。
佐藤は、どうやら父親が探していたらしく学校に電話が掛かってきていたようだ。

(武ちゃん、美香ちんありがと)

私を掃除用具入れに隠した後、佐藤は父親に強制送還されて行ったらしい。
無断外泊、連続遅刻で担任も父親と一度話をした方がいいだろうと判断したのだ。

どうして、こういう問題を当事者だけで片付けさせるのか。
当事者同士に問題があるから、亀裂が入るんじゃないの。
あいつの家は、蜂の巣か何かか。

「……」

私は携帯の地図から目を話し、前方の表札に視線を転じる。
佐藤。普通の庭付き二階建て。玄関横の新聞受けには結構な量の雑誌やら、広告やらが詰まっている。
かと思えば、石段には草一つ生えてないし、庭も案外と綺麗。

インターホンを探したけれど、ついていないようだ。
しょうがなく、玄関の扉を叩く。

「ごめんくださーい」

返事はない。もう何回か叩いてみる。ガラスが割れてしまいそうだ。
しょうがない。手も痛いし、普通に開けよう。引き戸に手をかけると、

「あ……」

案外と、すんなり開いて拍子抜けした。

「こんにちはー」

近所迷惑にならない程度の大声で叫ぶ。外が明るくて気づかなかったが、中は照明がついていた。
こつんと足先に何か当たる。学校指定の黒色のローファーが鈍く光っていた。

「帰ってるよね……」

その靴の横に、男物の靴。それに気づいた瞬間、どうしようもなく気持ち悪い気分が襲ってきた。
嫉妬のようなものかもしれないし、男性に対する嫌悪なのかもしれない。
こんな気持ちは初めてだった。とにかく気分を害する。忘れよう。私は首を振る。

「もしもーし」

不法侵入で訴えられたらどうしようか。
まあ、それでも、いいや。佐藤が無事を確認できたらそれでもいい。
靴を脱いで上がると、ぎしりと廊下が音を立てた。

(やばっ……心臓痛い……)

呼吸が荒くなる。そこからは、できるだけ、音を立てないように奥に進んだ。
と、シャワー音。誰か、お風呂に入っているようだ。

「……え?」

声が聞こえた。男と女。二人分だ。
聞こえたのは、風呂場からだった。

『おと……っさ……もう』

シャワー音をかき消すような、激しい水音。

『っ……はあ……イくのかい?』

『うんっうんっ……イくイっちゃう』

『これじゃあ、お仕置きにならないよ……』

パチュンパチュンと、何かと何かがぶつかり合う音。いや、何かじゃない。
私には分かっていた。それが、佐藤と佐藤の親父が交じり合う音だということが。

私は動けないまま、二人の喘ぐ声を聞いていた。

『もっと……ぐちゅって…‥』

『……こら、耳を噛むな』

『おいひっ……んあっあっ……っぅ』

『……っう』

『私……っ……友達が……できた』

『そう……かい』

『……だから、まだ頑張れるっ……っあはあ』

『うん……っう…‥出す……よ』

『いいっ……よ』


分からなかった。私は、佐藤に騙されていたのだろうか。
だとしたら、滑稽だ。でも、分からない。ならば、なぜ、私に助けを求めるような言葉を発したんだ。
おいおい、佐藤、あんた何がしたいんだよ。私を苛めたいのか。泣けてくるよ。叫んでしまいそうだよ。
この扉をぶち破ってしまいたい。でも、言うべき言葉は私の中のどこにもなかった。だから、私は何もできなかった。

私は二人の絶頂に達する声を聞いた。鶏の断末魔みたいだった。
これは、何の試練だろうか。佐藤の悦のこもった声は余りにもエロくて、少し濡れた。

佐藤と父親はまだ風呂場から出る気配はない。親父は、また娘に挿入していた。
佐藤の感じる声は、私が知るよりも卑猥で激しく甲高い。荒々しさに酔いしれている。

「……っ」

その声を何度も何度も聞いていると、まるで自分が佐藤を犯しているような気分になってくる。
ホテルで見た、ベッドの中で感じた愛おしさが込み上げてくる。

そしてそれが、一気に冷めていくのも分かった。

こういう要素があるなら最初に書いておいてほしかったな

私は佐藤のことを何も知らなかった。それが悔しくて悔しくて、泣いた。
気がついたら、近くの公園のベンチで膝に顔を埋めて泣いていた。

携帯を見ると、武ちゃんから、『今、どこ?』と短いメールが送られていた。着信も4件程あって、全部武ちゃんだった。
私はそれに返事を返す。来て欲しいけど、来て欲しくない。そう送って、場所も何も告げずに携帯をカバンの奥底に突っ込んだ。

「……うっ……ひっぐ」

これっぽちも女の子らしくない泣き方で、私は声を押し殺す。
斜陽がまだ、私を照らしている。早く沈んでしまえ。

こんな所で泣いていても、非生産的だ。でも、家に帰って一人で泣いて、佐藤のことを感じるのも嫌すぎる。言うなれば、何にもしたくない。

「っ……うえっ……ぐ」

ティッシュも持ってない。ハンカチもない。顔、誰にも見られたくない。

「っず……っ」



>>151 ごめん、最初は入れる予定なかった。バッドかハッピーかも決めてないので、切るなら今のうちかも……

今、思えば、親父の痴漢を防ぐ方法なんていくらでもあったんじゃないだろうか。
だって、毎週金曜日にあの車両にいなくていいし、椅子のそばにだって頑張れば陣取ることはできる。

そもそも、佐藤は泣いてはいたが、痴漢を撃退する練習などと言ってはいたが、痴漢を拒否するような決定的な言葉を言っていない。思い返せば返すほど、私は踊らされていたような気さえする。

「っ……っず」

でも、そんなことはどうでも良かった。佐藤が一緒にいてくれるなら、どうでもいい。
鼻をすすり過ぎて、鼻腔がつーんとする。

「いた……」

一緒に、カフェに行ったりカラオケに行ったり、旅行に行ったり……。
そんな風に考えていたのは私だけだったのだろうか。それは、特別なことじゃないけど。

「友達か……」

佐藤が、風呂場でよがりながら言った言葉だ。
友達になったばかりなんだ。これからだったんだ。なのに、こんなのってない。

公園の街灯が灯る。気がつけば、辺は真っ暗だった。
蛾の群れの下で、私は砂利音に顔を上げる。

「……佐藤」

「武子さんから宮下さんが……私の家に行ったって」

私の知っている佐藤だ。少し、おどおどしてる。だから、だろうか。私は驚くことも逃げることもせずに、返答した。

「行った……」

「……あ」

「聞いた」

「……なにを」

「風呂場の……」

その一言で、佐藤は默した。言い訳を考えようとしているのか、それとも事実をありのままに受け止めているのか。

「みやしたさ」

「あんたさ、親父のこと本当に好きなんだね……」

何か言う前に、私は遮った。

「それだけ愛されてるなら、そりゃあ痴漢の一つや二つはしちゃうよ。ごめんごめん、変な介入しちゃったわ」

「そうじゃ……」

「あー、大丈夫誰にも言わない。今日のことは、武ちゃんにも誰にも。今、忘れる。すぐ忘れる、はい忘れた!」

私は乾燥した唇と、口内をひきつらせるように笑った。

「これで大丈夫」

勝手に家に入ったことは言及して来なかった。それが、佐藤の攻めるポイントだと思っていたけれど。佐藤は何も言い返してはこない。

「……」

「それからさ、金曜の話し。あれ、やっぱり無しね」

「え?」

「だって、どう考えても迷惑だと思うもん。ごめんごめん」

「そんなことないっ」

「嘘ばっかり。お父さん困るじゃん」

「そうだけど……」

「佐藤は、お父さん困らせたくないんでしょ」

「それも、そうだけど……」

「だったら、もう私出る幕ないし」

ちょっと2時間程抜けます

親父ぃぃぃぃ!!!

追いついた
はよ!はよ!

私はまた顔を膝に埋めた。もう、佐藤の顔を見てられない。
自分の言った言葉が、割れたガラスのように胸の辺りに降り注いでいるようだった。

「お父さんは好き……何よりも大切」

「うん……」

「でも、痴漢とか、セックスとかダメだって分かってる」

「ん……」

「それでも……嫌じゃないの……小さい頃から少しずつそうなっていった」

小さい頃から、親父の手垢がついてる。こいつの貰い手はいるんだろうか。
むしろ、親父が許してくれるのだろうか。佐藤、あんたずっとこのままでいいの。
私には色々言いたいことがあったけれど、それを飲み込んで佐藤の言葉を黙って聞いた。

「私とお父さんは……きっと切っても切れない……おかしな事だと思う」

「……」

いつか、あの家を出る時が来るかも知れないよ?
いつまでも、学生じゃないんだから。家族だからって、いつまでも一緒になんて、夢物語に過ぎないでしょ。
そうしたら、私と佐藤なんてもっと永遠から程遠い。

「ずっと、こんなことばかり繰り返してたから……」

砂利が鳴る。顔を上げる。佐藤がジャングルジムの方へ歩いていく。

「頭の重要な部分が、麻痺してるのかも……」

彼女は懐かしむように、見上げていた。少なくとも私にはそう見えた。







「でも」

佐藤は、ジャングルジムに登り始める。小さな彼女は、一見すれば小学生に見間違えてしまう。
昔は、ここでこうやって遊んでたのかもしれない。

「電車で宮下さんが私を助けてくれた時……っしょ」

檻の上まで登った佐藤は、その頂上でゆらゆらと仁王立ちしていた。

「危な……」

私は、どきりとして立ち上がる。

「その時、私……始めて怖いと思った。お父さんのこと。それと……あっ」

佐藤の体が、斜めに倒れていく。無音のスローモーションビデオを見ているようだった。
お尻を打ち付けるように、佐藤は檻から落ちた。

「佐藤!」

そんなに高さはなかったが、私は走って佐藤の元に駆け寄る。
彼女はしゃがみこんで、お尻をさすっている。

「大丈夫っ? ばか、あんな所に登るから……」

「大丈夫……むしろこれくらい当然なんだと思う」

「はあ……?」

「宮下さんを傷つけた分、私も傷つかないといけない」

「……何言ってんの。私は、これっぽちも傷ついてませんが?」

「……そっか」

佐藤は服についた土を払いながら立ち上がる。

「宮下さん……」

馬鹿な私。涙でぐちゃぐちゃの顔を見せておきながら、恥ずかしげもなくよくそんな事言えたものだ。

「……人生色々、女も男も色々だし」

適当にはぐらかす。佐藤は足元をふらつかせながら、ポケットからハンカチを取り出した。

「これ、使って」

「……ありがと」

素直に受け取って、目元を拭う。ついでに、鼻も噛んでやった。ささやかな抵抗だった。なんともまあガキ臭いこと。

「はい、どうも」

「うん……」

「……もう、遅いから、私帰るわ。あんたも、お父さん心配するから帰んなよ」

この辺は、街灯も少ない。田舎過ぎる。
それこそ、正真正銘の痴漢に出会ったら事だ。




「じゃあね」

私は踵を返す。佐藤に背を向け、逃げるように歩き出す。ハンカチなんて意味ない。優しくするな。

「宮下さん……」

佐藤が私の手を掴む。柔らかな体温。握り返したい。
けれど、私は振り向きはしない。

「佐藤……もう」

「……気味が悪いって分かってる。でも、お願いがあるの」

「お願い……?」

「お父さんのことなかったことにはできない。でも、離れる努力をしたい」

「何を……」

「勝手なお願いなのは分かってる。だから、一度だけ言うから」

私の手がじんわりと湿っていた。私のではなく、佐藤の汗だった。

「金曜日、もう一度一本早い電車に乗って、一緒にお父さんを止めてください」

佐藤がなぜ未だにそんなことを言うのか、私には理解し難かった。その心変わりは、一体何故なんですか。
私のためなんですか。そう思っていいんですか。思わせぶりじゃないんですか。後ろを盗み見る。佐藤はその小さな体を半分に折り曲げて頭を下げていた。

小さな頃から染み付いたものを、そう易易と変えられるものなのかっていうね。
そうそう、私たち別に付き合ってるわけじゃないし。
ていうか、近親はまずいし。
佐藤このままほっといたらやばいし。はっ。

「……」

私は怒っているのか。苛立っているのか。それは、もう水に流していたのか。
佐藤の行動に一喜一憂し過ぎだ。自分の気持ちがよく分からない。佐藤の家のこともよく分からない。
でも、後ろの席で、ロクに話もしないのにいつも笑ってくれる彼女のことが、私は――。

「………っ佐藤のバカあああああ! 好きだバカああああ!」

夜の帳に飛び込むように、公園から猛ダッシュで私は走り去ったのだった。

その夜、私は武ちゃんに電話した。まず、電話を無視したことを謝った。
美香ちんを振り切って逃げたことに対しても謝った。

そのお詫びに、武ちゃんの好きなものを一個買ってあげることを約束したら許してくれた。

『おい、私は?』

後ろの方から、ドスの利いた美香ちんの声。

「ええっと」

『冗談だ。おまえ、ちゃんと帰ったのか?』

「帰ったって」

『佐藤の家に行ったのか』

「うん」

『そうか。ま、まあ……その気にするなよ。そういう家庭もある』

「美香ちん……知ってたの?」

『1年前に佐藤が学校に行ってない時があって、その時に家庭訪問に行ったんだが……まあうん、そんな経緯で』

「止めてよ」

『無茶言うな……』




悩ましいため息が電話越しに聞こえる。

『親子の度の過ぎるスキンシップだと思えば……』

「いやあれは……!」

『なんだ? 途中で』

待てよ、美香ちんが見たものと、私が見たものにずれがあったらどうする。
どの程度のものを見たんだ、美香ちんは。私が見たものだとすれば、もっと事は大きくなっているはず。

「いやー、ファザコンだと思うよ、実際」

『互いにコンプレックス持ちならば止めようがないだろ』

「……そうですね。もう美香ちんはいいから武ちゃんと代わってくださーい」

『おま、仮にも教師に『あ、はいはい。聞いてたよ』

「武ちゃん、頼みがある」

『……みなまで言うない。分かってる』

「美香ちん、後ろ?」

『ううん、ベランダに行ってるよ』

その夜、私は武ちゃんに一つだけお願いをした。
佐藤はきっと怒るだろう。いや、泣くか叫ぶか悲しむか。

けれど、これだけは譲れなかったのだ。

その日、その曜日。
私は、いつもより早く起きて、電車に乗った。それが間違いじゃなかったことを証明してやる。


「武ちゃん、あんたスカートの下にジャージ履かないでよ」

「朝練の時の癖でつい」

「ま、そっちの方が武ちゃんはいいか」

「でしょー」

電車が揺れる。後ろの何か柔らかなものにあたって前のめる。

「あ、すいません……あ」

前の子豚だった。相変わらずだね。何がとは言わないけどさ。

「武ちゃん、ちょっと寄って。もう少しで電車着くから」

「はーい」


電車が止まり始める。金属の金切り声がうるさい。
ホームで待つ人・人・人。すし詰めの車内は、特に動きはない。

極力不自然のないように、私は周囲に目を見張る。

電車が完全に止まる。先頭の一人がタッチダウンを決めるアメフトプレーヤーのように、容赦なく満員電車に突っ込んでくる。ほかの乗客もそれに続く。

「うおっ……」

武ちゃんは小さすぎて、波に飲み込まれないかと心配だったが、鍛え抜かれた足腰のおかげでむしろ乗客を跳ね飛ばさん勢いだ。と、最後尾に同じ高校の制服を見かけた。

肩より少し短いショートカットのクラスメイト。
佐藤だった。佐藤は、目を見開いていた。何せ、あれから私は教室で一切佐藤と会話しなかったから。たぶん、嫌われてたと思っているに違いない。

「……」

「……」

すれ違って、佐藤はまた押し流されていく。

私は挨拶はしなかった。でも、これでいいのだ。佐藤が嬉しそうに車内に乗り込んで来られても困るし。なにせ、これから佐藤の嫌がる方法で、佐藤の親父を止めるのだから。嫌われていると思っていた方が、やり易いじゃん。

その代わり、佐藤の行き着く先をチラチラと確認した。後ろに何人かいる。が、佐藤のすぐ真後ろに陣取っているのは――
一人。その男はニットと薄茶色のサングラスを掛けて、文庫本を片手で持って読みふけっている。

電車が発車する。私は武ちゃんと目配せする。
私たちは現行犯でとっちめるなどと、そんなことは考えちゃいなかった。

男の方を見る。やはり、そいつだった。
注意して見ると、文庫本がカモフラなのはバレバレだった。
サングラスを上にずり上げて、電車の揺れに合わせて動いているようにも見える。

(……家で飽き足らず、電車でも痴漢か……)

その後、何駅か過ぎて学校に着く直前に、後ろの子豚が急に話しかけてきた。

「え? なに」

「ふー」

「あ、久しぶり……今日はいいよ。ありがと」

「ふー?」

「大丈夫。任せて」

「ふー……っ」

「そんなそんな、照れるって」

隣を見ると、武ちゃんがキョトンとしていた。
その顔は、どうやって会話しているの? って顔だな。何となくだよ。

(さて……)

果たして、電車は学校のある駅に着いた。
佐藤はなぜか降りようとしない。

(あいつ、なんで降りないわけ……っ)

このままだと佐藤も現場に居合わせることに。後からなら、いくら罵声を浴びせられても構わない。
でも、一緒だと決心が揺るいでしまう。いや、でもいて欲しいような。ああ、くそ!

などと一人で百面相をしている間に、電車は次の駅へと向かっていた。
親父はマスクを装着している。手馴れてやがる。

アナウンスが鳴り、扉が開く。佐藤の親父は大きめのバックに文庫本を突っ込み、娘から顔を隠すようにして電車を降りていく。私たちもそれに続く。佐藤の親父は、すでに走っていた。たぶん、何か勘付いたんだ。
そりゃ、娘が下車する駅まで付いてきたらそりゃびびるか。

「武ちゃんっ」

「うん」

後ろから、佐藤が着いて来ていたが構わず親父を追いかける。
やっぱり私もジャージを履いてくるべきだったかな。

改札を抜けると、親父は人並みをかき分けるように私たちから遠ざかっていく。まずい、はぐれるわけにはいかない。
親父をできるだけ視界から外さないように、私と武ちゃんも人を押しのけて階段を上っていく。誰かに怒鳴られたが気にしない。

「っ……」

人にぶつかって転けそうになりながら、親父をしっかり視界に捕捉。
と、親父は急に走るのを止めて、とある喫茶店の前で立ち止まった。
親父の他に、もう一人いる。中肉中背の黒スーツ男。

「武ちゃん……」

私は武ちゃんに止まるよう、手で制す。物陰に隠れて、二人を観察する。
親父の方が、周囲を確認して、男に何か渡している。
二人は二言三言会話して、店の中に入っていった。

「……本丸発見ってか」

「翔ちゃん、後ろ……」

「え、あー」

息も絶え絶えの佐藤が、後方からこちらに向かって走ってきている。
無理しちゃって。ここで佐藤を足止めするよりも、いっそ一緒に行ってしまうか。まあ、何だ。なんとかなる。


「っはあっ……宮下さん……武子さん……まっ」

「佐藤さんは、体力ないねー」

「……佐藤、危ないから後ろにいなよ」

「な、何するつもりなの」

「そりゃ、ナニするつもりです」

私は佐藤の息が整う前に、お店に特攻した。


錆び付いた音色が、私たちを迎え入れる。
店主が少し驚いた顔で、挨拶してきた。武ちゃんが、愛想笑いで返す。

閑散とした店内に、先客が2名。親父の方が驚いて立ち上がる。その拍子に椅子が、盛大に後ろに倒れた。
こちらは何も言ってはいないのに、かなり動揺している。やはり娘と、娘と同じ学校の生徒がいるからなのだろう。

「あんた、佐藤の親父? ちょっと、顔貸して」

あれ、これじゃあカツアゲしに来た不良高校生みたいだ。
武ちゃんが、横で苦笑していた。

「何かね。君たちは」

全く眼中に入れてなかったもう一人の黒スーツ――たぶんこの人が編集者か――が、親父と私たちの間に割り込む。

「今、大事な商談の最中なんでね。話なら、また後でお願いできるかな」

黒スーツは柔らかな物腰で言った。親切丁寧に、帰れと言っているようだ。

「あー、すいませんがこちらも大事なお話がありまして」

私も一応礼儀として、腰を低くしてみる。

「君たち、高校生だろ。学校はどこだ? 言いなさい」

なんという反抗的な態度。

「そこの佐藤さんが知ってるよー」

武ちゃんが、親父の方を指差す。
親父は、ややパニックになっている様子だった。
黒スーツが反抗的な目で、私に言った。

「佐藤。学校に連絡して、連れ戻すように言え。……全く、お前がだらしないから」

「ああ……」

私と武ちゃんは顔を見合わせる。

とりあえず、この二人が正真正銘のダメな大人というのを理解したので、私は口火を切る。

「おい、痴漢野郎ども。こっちは、警察に電話しますがよろしいですか?」

私は携帯を開いて、発信準備完了を見せつける。

「何を根拠に、そんな事を」

黒スーツが呆れた顔で言った。見事に知らぬ存ぜぬを装っている。

「電話をするかしないかは、これから言う条件を呑むか呑まないかで決めようと思ってるんだけど」

「君は何を言ってるんだ。遊びにしてはタチが悪い。あれか、巷で有名な親父狩りか。おい、佐藤。お前の娘はどういう教育をしているんだ。こんな友達と付き合っていているなら、ちゃんと止めないか」

佐藤の親父が、こちらに一歩近づいて、

「早く学校に戻りなさい……」

娘を見向きもせずに言った。

「いやいや、親父さん。あんたが娘に痴漢してるの見てたよー」

武ちゃんが、可愛いらしく言った。

「なんだそれは。だから、証拠は」

私は、黒スーツには言ってないのに、しゃりしゃりと会話に入ってくる。

「……あの、話聞いてましたか? 根拠もなにも、ここに生きた証人がいますから」

私は佐藤を指で指す。そして、続ける。

「まあ、証拠があろうが証言があろうがどっちでもいいんです。これ以上、こいつに手を出さないで。触んないで、変態行為しないで、とりあえず近づかないで」

「み、宮下さ……もご」

「佐藤さん、ちょっと黙って」

武ちゃんが、佐藤の口を塞ぐ。

「ふざけるな! 冤罪もいい所だぞ! おい、佐藤、お前も何か言え!」

「君たち、悪ふざけは止めてくれないか。第一、君たちは見たというけれど、娘はどうなんだ。そうやって、口を塞いでちゃ分からない。娘にも何か言わせてあげてくれ」

武ちゃんは、佐藤の口から手を離した。
佐藤は、親父の方を見る。親父はゆっくりと近づいて、佐藤の手に触れた。
佐藤は少しびくりと肩を震わせる。その手を払いのけようとしたが、佐藤に視線で止められた。
彼女の手は震えていた。正確には親父の手も震えていた。

「お父さん、ごめんね……でも、こんな生活長続きしないよ」

「何を言っているんだい……お父さんが、お前に何をした」

「お母さんの代わりに……たくさん愛してくれた」

佐藤は、笑って親父の手を離した。佐藤の覚悟を見たような気がした。親父は目を見開いて唖然としていた。
裏切られた、いや置いていかれた。そんな表情をしていた。

「……いいのか、佐藤。お前、生活できなくなるぞ」

「あ……」

「俺たちの大事な商品だ」

私は、すぐそばにあった机を思いきり叩く。

「今、なんて言った」

もう殺せよこいつら

むしろ俺が殺してやりたい

おいおい近親相姦ネタなら投下する直前のレスにでも警告書いといてくれよ
マジで不愉快だから勘弁してくれ

黒スーツは、汚い顔で笑った。

「君たちは何も知らないだろから教えてやるがね、佐藤は借金まみれのドブネズミなんだよ。娘の養育費もまともに払えちゃいない、腐って落ちた官能小説家だ。私が同級生だったよしみで、こいつの借金の肩代わりをしてやっている」

「真方君……それはっ」

「娘には言っていないのかな? 何、今日話そうが、成人してから話そうが同じことだよ。佐藤の娘というが、養育という面から見れば、私も父親みたいなものなんだがね。私がその担保をどう扱おうが、君たちには関係ないことだろう」

「……それが、土地やら家やらならケチなんてつけやしない。よりにもよって、娘を売るとはね」

「何を言っているんだい。その娘が3度の飯を食えるのも、父親と仲良くハメ合えるのも、全てその娘が体を張っていたからこそだ。売るだなんてとんでもないね。生きるために、働いていたと言えるんじゃないかな」

「私には、あんたが儲かるための金ヅル、としか聞こえないんだがな」

>>177 ごめん、ここまで読んでくれたのに悪かった。途中で付けるべきだった。言い訳だけど、構想は練ってないので最初の段階では無理

黒スーツは、そこで笑うのをやめた。どっかの寺で見た木彫りの大仏のような顔で、

「ガキが! 大人しく返してやるから、さっさと帰れと言っているんだ!」

佐藤がビックリして、腰を抜かしたのが分かった。私の腰を掴みながら崩れ落ちる。
私は私で、黒スーツの男の怒鳴り声が耳に障ってイラついたし、何か顔に飛んできたような気がして袖でゴシゴシと顔を拭った。佐藤の親父がオロオロと、黒スーツをなだめようとしている。

「や、やめなよ、真方君。大人げない」

「今さら、お前だけ逃げるつもりか、佐藤」

「そうじゃないさっ」

「じゃあ、こいつらに何をすべきかお前にも分かるだろう」

「……分かってる」

「言っておくけど、話し合う気なんてさらさらないから」

私は佐藤を脇に寄せながら、吐き捨てるように言った。

「へえ」

黒スーツが指を鳴らす。

「ここは俺の弟が経営している喫茶店でね」

店の奥から黒スーツによく似た男が出てくる。

「さすがに女子高生と大人3人じゃあ、分が悪いんじゃないだろうか」

何て、半端な大人だろう。何て半端な悪人だろう。こいつらの下で育った佐藤は、これからどんな未来を描けるのだろうか。
面白くない毎日だったと、笑いながら場末のスナックで働かされ、不器用に世間と戦って。それは、ダメ、絶対ダメ。

「あんたらみたいな大人がいるから、私らは安心して電車にも乗れないんだよ……武ちゃん!」

「いえっさー!」

黒スーツが笑った。

「はっ、何をふごお!?」

「小さいからって、馬鹿にしないでよ」

武ちゃんが上段から突き出した握り拳が、黒スーツのみぞおち辺りに刺さるように当たっていた。

「かはっ……」

黒スーツがよだれを垂らして跪く。こちらを一度見上げるが、みぞおちを押さえながら、力なくうずくまる。

「真方君、大丈夫かいっ」

「お嬢ちゃん、お店で暴れないでくれ」

黒スーツの弟が武ちゃんの胸ぐらに掴みかかる。武ちゃんは半歩下がって、それを避けながら懐に潜り込んだ。
次の瞬間、武ちゃんの右肘は、男のみぞおち辺りに下から抉り込まれていた。

「ぐふっ……」

弟は少しよろけながら、机に手をついて足を踏ん張らせていた。

「おいっ……ガキども……」

「っん!?」

黒スーツが復活して、いつの間にか佐藤が首を羽交い締めにされていた。
喉を押しつぶされて、笛のような音が口から漏れていた。

「佐藤!? ちょ、おま」

「真方君、娘にはっ」

「うるさい! 佐藤、お前はいつもそうだな。自分のことは棚に上げて、善人面をする! お前も俺たちと同じ穴のムジナだろうが!」

「佐藤さんを離せ、このウジ虫やろう!」

武ちゃんが、汚い言葉を吐きながら履いていた靴を黒スーツの顔面にクリーンヒットさせる。

「いつっ! 舐めてるのか! この娘の喉くらい」

「舐めてんのはそっちだよ。私たちがのこのこ何の対策もなしにここに来ると?」

私は口元をぺろりと舐めた。

「は?」

ダアン! と、耳をつんざく様な衝撃音。いや、銃声。黒スーツが振り返る。

「警察だ……娘の友人を離してもらおうか?」

武ちゃんの親父が2発目の威嚇射撃に入ろうと、引き金に指を引っ掛けてそう言った。

黒スーツとその弟がカラスのように喚きながら、警官によってパトカーに詰め込まれている。
それを眺め終わってから、私は佐藤と佐藤の親父を見た。

「お父さん……」

「僕は……もう、そんな風に呼んでもらえるような人間じゃない。いや、じゃなかった……」

手首についた手錠が、妙に痛々しく見える。仮にも佐藤の親父なのだ。

「貯金通帳が、父さんの本棚の一番右端にあるから、使いなさい」

彼は、それだけ言って、佐藤から離れた。なんだ、その捨て台詞は。全然かっこよくない。

「お父さん!」

親父が振り返る。それを言い放ったのは、佐藤ではなく、私だった。

「警察に言う前に条件があるって、言ったでしょ」

「……?」

私は、佐藤の手を掴んだ。

「え、宮下さん」

「私、娘さんが好きです。娘さんを私に預からせてください! というか、娘さんください!」

「ええっ」

親父は、丸めた背中をますます丸める。それから、小さく、憑き物が降りたように笑ったのだった。






おわり

これで、とりあえず終わり。
あんまりイチャイチャ百合じゃなくてごめ。
一応ハッピーエンドということで。

読んでくれてありがとー

ごめん、書き忘れてた
>>183に追記



私はその、純然たる笑顔に向かって、同じように微笑み返す。
それから、

「ごめん、佐藤」

大きな一歩を踏み出す。腰の辺りでキツく指を折るように右手を閉じていく。
腰を捻って、佐藤の親父の鼻っ面に思いの丈を込めた痛みをぶち込んでやった。

「ふぐぁっ?!」

親父は後ろ向きにパトカーのシートに倒れ込んだ。

「はあ、スッキリした」




今度こそおわり

乙 近親相姦さえなければ完璧だった

おつ

ごめんさげミスった

>>1は害悪なキモ[ピザ]だな。ついて、百合豚もな、さっさと自殺しとけよks

おつ
最後駆け足みたいな感じがしたけど面白かった

>>190
お前も死んどけ、読みたくなければそっ閉じしろks

新婚生活も見たかった。おつ

最初にごちゃごちゃ箇条書きで言い訳するssはつまんない
そして自分に合わないものはそっとじしてログも消せばいい

百合メインじゃないじゃないですかー!
でも面白かったからいいや、乙
佐藤さんと宮下さんのイチャラブ番外編待ってる

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