まどか「うぅぅぅうぇぇぇええん」グスグス
杏子「悪かったって…もう泣くなよ」
ほむら「時は」
さやか「数分前に遡る!!!」
杏子「誰に向けて言ってんだ」
~~~~~~~~~~
まどか「いらっしゃ~い…って、あれ?杏子ちゃんも来てくれたんだ」
まどか「あれ、杏子ちゃんも来てくれたんだ?」
さやか「運悪くそこで出会っちゃってね。まどかん家行くって言ったら、暇だか
らあたしも行くって」
杏子「運悪くとか言うな」
まどか「まあまあ、上がって上がって」
杏子「土曜なのにマミはいないんだな」
ほむら「誘ったんだけど、同級生と先に予定が入ってたらしいわ。映画を見ると
か何とか……」
まどか「お茶淹れてくるからちょっと待っててね」
ほむら「手伝うわ」
スタスタ
さやか「久しぶりに来たけど、相変わらずかわいらしい部屋だね~」
杏子「ふーん、これがあいつの部屋か……ぬいぐるみだらけだ」キョロキョロ
さやか「ねえ杏子、友達の部屋に来たら最初にやることって何か知ってる?」
杏子「……いや」
さやか「エロ本探しに決まってんじゃん!」
杏子「なわけねー」
さやか「はぁ、やれやれ…これだから屋根なしは」
杏子「てめー喧嘩売ってんのか!」
さやか「まあ落ち着きなさいって…これはいわば友達であることを確かめ合う儀式!友達でも何でもない人に部屋を勝手に荒されたら、そりゃあ確かに怒る」
さやか「BUTだがしかし!友達ならば少しくらいハメを外しても笑って許してくれるはず!!」
さやか「『もう杏子ちゃんってば、私がそんなもの持ってるわけないでしょウフフフ』みたいに……
そういう風にお互いに冗談を言い合える仲こそ、真の友達の証なのよ!!」
杏子「いろいろと突っ込みたいところ満載なんだが……とりあえずあたしの名前を使うのやめろ」
さやか「さあほら、二人が帰ってくる前にちゃちゃっと…ね?」
杏子「じゃあ、まずはさやかがやればいいだろ」
さやか「あたしはほら…もうそういうのやったことあるから」
杏子「すでに経験済みかよ……で、その時のまどかの反応はどうだった?」
さやか「『さやかちゃんのバカバカ!』って、ポカポカ殴られながら怒られた……あれは可愛かったなぁ」
杏子「いや、失敗してんじゃねーか」
まどか「お待たせー」
ほむら「お菓子もあるわよ」
杏子「お、うまそーじゃん」
さやか「もう、杏子がもたもたしてるから戻ってきちゃったじゃんか」
杏子「一人で盛り上がってただけじゃねーか」
まどか「何の話?」
さやか「杏子がね、『まどかのヘソクリはどこかなーぐへへへー』って」
ビシィッ
さやか「痛いです杏子さん……」ジンジン
杏子「さやかが悪い…一応弁解しとくが、言ってねーからな?」
まどか「分かってるよ。杏子ちゃんはそんなに悪い子じゃないもんね」ティヒヒ
杏子「……そりゃどうも」
杏子「これうまいな」モグモグ
まどか「パパが朝から作ってくれてたんだよー」モグモグ
さやか「まどかのパパさん料理上手だもんね。まどかはまだまだみたいだけどね」ニヒヒ
まどか「そ、そんなこと!…ちょっとあるけど……でも、これから勉強するんだもん!」
ほむら「そういうさやかこそ、もう少し女らしくすればいいのよ」モグモグ
さやか「どういう意味よ」モグモグ
ほむら「そんなんだから上条恭介にフラれるのよ!!」
さやか「うっさいわーーーーッ!!!」
杏子「うまいけどさ、パウンドケーキって全然ケーキっぽくないよな~。やっぱクリームがねーと」モシャモシャ
まどか「そうかな?」
さやか「あ、まどかまたぬいぐるみ買ったんだね」ヒョイッ
まどか「うん、そうだよ。可愛いよねぇ、」
杏子「何だそれ?」
まどか「可愛いでしょ?この猫ちゃんがレイちゃんで、熊ちゃんがモンド君!さやかちゃんが持ってるのがデーボ君だよ」
さやか「うわぁ、なんか呪われてそうな名前のぬいぐるみだね……」
ほむら「可愛いわね…そっちのウサギはなんていう名前なの?」
まどか「その子はトレホ君だよ。私のお気に入り!」
さやか「あぁ、あの時のやつ?」
まどか「うん!あ、これはね、私が初めてUFOキャッチャーで取ったぬいぐるみなんだよ!結構大変だったんだ~」
杏子「ふーん」
ほむら「なら愛着があるのね。可愛いと思うわ」
まどか「他にもさやかちゃんとお揃いのカエル君のとか……」
杏子「なあ、ぬいぐるみって必要か?」
三人「……え?」
杏子「ん?なんか変なこと言った?」
さやか「まどか、こいつは駄目だ。手遅れだよ」
ほむら「ぬいぐるみを愛でる趣味がない女子など存在していないと思っていたわ…哀れね、杏子」
杏子「な、なんだよ…邪魔じゃないか?」
まどか「で、でも、こんなに可愛いんだよ?ぬいぐるみに一杯囲まれてぬいぐるみを抱きながら寝るのって、幸せだよ…?」
杏子「そんなもんか?いまいち理解できねー」
さやか「ねえ、まどかってまだぬいぐるみ抱いて寝てるんだって……可愛いね」ヒソヒソ
ほむら「そうね、可愛いわね」ヒソヒソ
まどか「二人とも笑わないでよ!とにかく、杏子ちゃんもぬいぐるみの良さを知るべきだよ!」
杏子「別に知りたくはないんだけど」
まどか「ほら!トレホ君だよ!!」スッ
杏子「お、おぅ……」
まどか「どう?可愛いでしょ?抱き心地も最高なんだよ!」
杏子「……まあ、確かにサラサラしてるしフカフカしてるけど」
さやか「いやー、このモフモフ感たまんないよね~」モフモフ
ほむら「最高ね」モフモフ
まどか「でしょ!?そうでしょ!?」
杏子「でも、それならQBとあんま変わんないような――」
ほむら「杏子、それはぬいぐるみに対する冒涜よ」
さやか「恥を知りたまえ恥を」
杏子「なんであたしばっかりアウェーなんだ……」
さやか「そういえば、ぬいぐるみって意外と頑丈だよね。腕掴んでブンブン振り回してもなかなか破れないし」
まどか「そうかな?確かに何年経ってもあんまり変わらないと思うけど」
杏子「へー、頑丈なのか」ググッ
まどか「あ、あんまり引っ張ったら流石に――」
ブチッ
杏子「あっ…………首が……」
映画館
マミ「クシュン!」
女子1「大丈夫マミ?風邪引いたの?」
マミ「そうなのかしら……季節の変わり目は辛いわね」
女子2「ほら、もうすぐ始まるよ」
マミ「ふふ、楽しみね」
女子1「タイトルなんだっけ?」
マミ「確か、『スーパーブラザー』だったかしら?」
再びまどかの家
「…………」
杏子「……あの」
さやか「トレホ君の首が……」
ほむら「見事に体と分離してしまったわね……」
杏子「その、まどか…?」
まどか「……ふぇ」
杏子「わ、悪かったな……」
まどか「ふぇえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇんん」
杏子「ちょ!落ち着けってまどか!」
~~~~~~~~~~
まどか「うぐぅぅぅぅぅぅぅ」グスン
杏子「ほ、ほら!紐かなんかで結べば戻るって!だから泣き止めってば!」
まどか「そ、そんな、こと…言ったってぇぇぇ……ひっく…グスン……」
さやか「よしよし……おぉよしよし。所詮ヤツは人の痛みの分からぬ冷血動物…そういえば、ヤツの髪の毛は冷酷な契約を迫る白い獣の目と同じ色をしているわ…!」
杏子「そんなピンポイントな動物一匹しかいねーだろ……」
ほむら「杏子、素直に謝ったほうがいいんじゃないかしら?」
杏子「そ、そりゃ勿論……ごめんなまどか、ちょっと力入れ過ぎちまって」
さやか「あたしもごめん。ぬいぐるみが頑丈とか、変なこと言わなきゃよかったよ……」
まどか「ひっく……ううん、しょうがないよ…二人は悪くないよ。何年も前のだから、きっと繋ぎ目とか脆くなってたんだよ」ニコッ
杏子「うっ……」ズキン
まどか「だからこの話はもうおしまい…そうだ、パパが特製ココア作ってくれてたんだった!私とってくるね!」トテトテ
ガチャッ バタン
さやか「ありゃ相当無理してるねー」
ほむら「一番のお気に入りだったみたいだものね」
杏子「……悪い、あたし帰るわ」スクッ
ほむら「ちょっと、あなたが帰ったらまどかの頑張りが無駄になってしまうわよ」
杏子「だからってこのままいられるかよ……心配しなくても、このぬいぐるみはあたしが何とかするよ」
ほむら「何とかって…どうするつもりなの?」
杏子「UFOキャッチャーの景品なんだろ?だったらあたしがおんなじやつ取ってきてやるよ」
杏子「じゃあ、この場は適当に任せたぞ」ヒュン
さやか「適当にって……っていうか二階の窓から飛び出して行っちゃった」
ほむら「さやか、あのぬいぐるみ取ったのって何年前なの?」
さやか「小六ん時だから、二・三年前…?もうどこにも置いてないっしょー」
ほむら「やっぱり……同じのは無理よね」
さやか「そもそも、あいつお金持ってるのかな?」
杏子「くそっ、どこのゲーセン探してもあのぬいぐるみはねえな……」
杏子「いっそどっかから盗んでくるか……いや、あいつが受け取るとも思えねーしなあ」
マミ「あら、佐倉さん?」
杏子「ん?なんだマミか…今日は用事があったんじゃなかったのか?」
マミ「えぇ、お友達と映画にね…今帰りなんだけど、良かったらうちに来る?」
杏子「あー……いや、今日はやめとくよ」
マミ「?珍しいわね、佐倉さんが断るなんて」
杏子「別にいいだろ。っていうか、そんな頻繁にマミん家行ってるか?」
マミ「いつもは何も言わなくてもご飯作ってくれ、って勝手についてくるじゃない」
杏子「あたしはなんだと思われてんだよ……とにかく、今日は用事があるんだよ」
マミ「……もしかして、何か悩みでもあるの?」
杏子「うっ…いや、そんなんじゃ、ねーけど……」
マミ「良かったら聞かせてもらえないかしら?」
マミの家
マミ「それで、何かあったの?」
杏子「……」ムスッ
マミ「あの、佐倉さん?」
杏子「……」ムスムスー
マミ「…………きょ、杏子…さん?」ボソリ
杏子「……」ムスット
マミ「何か言ってよ!」
杏子「ぬいぐるみ」
マミ「え?」
杏子「マミはぬいぐるみとか持ってねーの?」
マミ「ぬいぐるみ?そうねぇ…うちには一人しかいないわね」
杏子「一人って……っていうか持ってるのか、意外だな」
マミ「どういう意味かしら」
マミ「寝室にあるから、ちょっと待ってて。すぐ持ってくるわね」スタスタ
杏子「マミのがもしまどかのと同じだったら……いや、無理か」
マミ「お待たせ。ほら、可愛いでしょ?」
杏子「へぇ、マミのもウサギなんだな……でも、まどかのとは別か」
マミ「鹿目さんの?」
杏子「いや、なんでもない」
マミ「……佐倉さん、その顔は嘘を吐いてる顔ね」
杏子「別に嘘なんて吐いてねーよ」
マミ「本当かしら?そういえば、汗を舐めると嘘をついてるかどうか分かるらしいわね?」スクッ
杏子「なぜ立ち上がる」
マミ「あら、佐倉さん汗かいてるんじゃないかしら?」
杏子「か、かいてねー!かいてないからジリジリ近づいてくんな!!」
マミ「さーくーらーさーん」
杏子「分かった言う!言うから顔を近づけるなぁぁぁぁぁぁ!!………………ァゥ」
杏子「――ってなわけで、こう、ぬいぐるみの顔がブチっとな」
マミ「なんだか他人事とは思えない話ね……鹿目さんは許してくれたの?」
杏子「ちゃんと謝ったんだけどさ、そんなんで許してもらえてるとも思えねーし、やっぱりあいつも辛そうだったし」
杏子「なんとか代わりを探そうかなと思ってたんだけど……」
マミ「見つからないのね……」
杏子「そうなんだよなぁ」
マミ「でも、鹿目さんにとって思い入れのある物なら、例え新品の同じぬいぐるみを見つけられたとしても、それは鹿目さんの知ってるぬいぐるみではないわけよね」
杏子「どういう意味だ?」
マミ「鹿目さん、ぬいぐるみに名前付けてたんでしょ?」
杏子「ああ、トレホ君…って言ってたかなー」
マミ「へぇ……ダニーかしら」
杏子「何の話だ」
マミ「つまり、鹿目さんにとってトレホ君はその子だけなのよ…例え新しいものを貰っても、鹿目さんは喜んでくれるかしら?」
マミ「悲しいけど、その子はもういなくなってしまったのよ」
杏子「ん……それでも、このまんまだと後味悪くってさ」スクッ
マミ「どこに行くの?」
杏子「まだ行ってないゲーセン探してくる」
ガチャッ バタン
マミ「そういえば、今でも置いてあるのかしら?ゲームセンターに……」
数時間後、ゲーセン
杏子「ここが最後のゲーセンか……期待はできねーが、とりあえず入るしかねえな」
杏子「UFOキャッチャー、UFOキャッチャーはっと……ここか」
杏子「あった!!」ダッ
杏子「けど、あるのは熊だけか……」
杏子「熊か……」
杏子「だが他のゲーセンに戻る時間はもうないし……」
杏子「…………そりゃ確かに、あいつのぬいぐるみは帰ってこないさ…でも、だからってあたしが何にもせずにいられるわけじゃない…!」
杏子「トレホ君にはちょいとばかし遠いが、これを手に入れてまどかにやる!それですっぱり諦めてもらう!!」
コイーン
杏子「諦めて貰う……んなこと、できるかどうか分からねえ」
ウィーウィーン スカッ
杏子「くっ」
コイーン
杏子「だが、あたしが許してもらうには、もうこれしかねえんだ!!!」
ウィーンウィーン スカッ
杏子「だぁ!?なんだこれふざけんな!!」ゲシッ
コイーン
杏子「まだまだ、これからだ!」
杏子「はぁ…はぁ……あと一回か…くそっ、どっかで資金調達しとくべきだったかな」
杏子「やっぱり千円ぽっちじゃ取れねーか……」
コイーン
杏子「頼むぞ……こい!」
ウィーンウィーン
杏子「そのまま…そのままいけ!!」
ポスッ
杏子「っしゃおらアアアアアアアアア!!!!!」
杏子「ぬいぐるみゲットだぜ!!後はこいつをまどかに渡すだけだ!」
杏子「……でも、今日はもう遅いし、明日にした方がいっかな」
杏子「やっべー、文無しになったのすっかり忘れてた……」グギュゥ
杏子「お腹空いたなぁ……」
杏子「どっかで盗んでくるか…?」
杏子「それともマミん家か、ほむらん家に…………」
杏子「いや、これはきっとあたしへの罰だ…潔く受け入れよう」グゥー
杏子「今日は橋の下だ!」
杏子「いかん、マジでお腹空いた…眠れん」グキュー
杏子「今魔女が出てきたら確実に負けるレベルだぞこれ……」
杏子「ぬいぐるみか…こんなもんのせいで、あたしはとんでもない苦労させられちまった」
杏子「……親父もお袋も、こういうの買ってくれなかったからなぁ」
ダキッ
杏子「抱いて寝るのが幸せ、か……」
杏子「ま、今日くらい、いいよな」
杏子(…………暖かいな)
翌朝
杏子「空腹のせいで全然眠れなかった……こんなの久々だな」
杏子「適当に時間潰してから行くか」
まどかの家
ピンポーン
知久「はーい」ガチャッ
杏子「ど、どうも」
知久「おはよう…えっと、まどかのお友達かな?とりあえず入りなよ」
杏子「お邪魔します……」
知久「まどかー、お友達が来てくれたよー」
まどか「はーい……!杏子ちゃん!?」
杏子「よ、よう…おはよう」
まどか「杏子ちゃん、それは…?」
杏子「あぁ…その、悪かったな、昨日は……こんなんで、罪滅ぼしになるとは思えねーけど、せめてもの償いとしてだな」
杏子「これをトレホ君だと思って受け取ってくれ!!!」
まどか「……あの、そのことなんだけどね…?」
杏子「?」
まどか「じゃーん!トレホ君復活!」
杏子「……」ポカーン
まどか「祝!!!復活!!トレホ君復活!!……だよ?」
杏子「……」
まどか「杏子ちゃん…?」
杏子「はぁぁぁぁ!?」
まどか「えへへ……ちゃんと直ったんだよ」
杏子「え、だって、昨日は首がブチって!?ブチィってなったろ!?おかしいだろぉ!?」
まどか「落ち着いて杏子ちゃん」
杏子「いやいやいやいやあたしの頑張りはどうなるんだよーー!?」
まどか「落ち着いてってばぁ!!」
杏子「で、どうなってんだ?」
まどか「うん、ほら、私って手芸部でしょ?」
杏子「知るかよ」
まどか「だからね、パパに教えてもらいながら頑張って直したんだよ」
杏子「…それだけ?」
まどか「ちょっと粗いところもあるけど、これはこれで味があっていいかなって」
杏子「……なんだよ、あたしはなんのために探し回ったんだか」ズーン
まどか「ごめんね。さやかちゃん達には、見かけたら気にしないでって言ってもらうようお願いしたんだけど」
杏子「いや、全部あたしが一人でやっちまったことだし」
まどか「うん……でも、この子も可愛いよね」
杏子「そうか?欲しいんならやるぞ、どうせあたしには必要ないし」プイッ
まどか「んー…でも、これは杏子ちゃんが持っとくべきだよ」
杏子「いらねーって」
まどか「杏子ちゃん、ぬいぐるみ取ったの初めて?」
杏子「そういや、いつもUFOキャッチャーやるときはお菓子のやつばっかで、ぬいぐるみは取ったことなかったな……」
まどか「どうだった?嬉しくなかった?」
杏子「…まあ確かに、つい叫んだりはしたけど……」
まどか「それだよ!初めて自分の手で取るのってとっても嬉しいことなんだよ!!」
まどか「トレホ君って、ちょっと大きいじゃない?だから私、取るのにすっごく時間かかっちゃったの」
まどか「でも、必死の思いで、自分の力で取ったからこそ、私はトレホ君のこともっともっと大好きになれたんだよ」
杏子「……悪かったな、そんな大事なものブチっとやっちまって」
まどか「それはもういいんだよ…杏子ちゃんにも、できたら初めて取ったその子を大切にしてあげてほしいの」
まどか「勿論、無理にっていうわけじゃないんだけど……」
杏子「……」ジー
まどか「どうかな…?」
杏子「はぁ……分かった、しばらくはあたしが預かっとくよ」
まどか「杏子ちゃん!」パアァ
杏子「でも、やっぱり邪魔だと思ったら、そんときは受け取ってくれよな」
まどか「うん!精一杯可愛が――」
バタッ
まどか「あれ、杏子ちゃん!?どうしたの!?」ユサユサ
杏子「……く」
まどか「え?」
杏子「食いもんを……く…れ……」ガクッ
まどか「えぇー……と、とりあえずパンでいいかな」
杏子「いやー、死ぬかと思ったね実際。魔法少女なのに」モグモグ
まどか「洒落にならないよ……ごめんね、朝ごはんの残りしかなくって」
杏子「いいっていいって…っていうか、昨日もそうだったけどまどかの親父さん料理うまいよな!ありゃいい腕してるわ」
まどか「そ、そうかな///」テレテレ
杏子「あぁ、自信もっていいって!ほむらの飯食ったことある?」
まどか「ほむらちゃんの?私はまだないかな」
杏子「あいついっつも目玉焼きとインスタントのラーメンしか食ってないんだぞ。そりゃ育つもんも育たないわなー」
まどか「あ、あはは……」
まどか(ちゃんとした物食べられてる私は一体……)ペタペタ
杏子「ご馳走さん、美味かったって伝えといてくれ」
まどか「もう行っちゃうの?」
杏子「だって、もう用事ないし」
まどか「う~ん……そうだ!名前まだだよね?」
杏子「名前…?」
まどか「その子の名前!まだ付けてないんだよね?」
杏子「そりゃまあ、まどかにやるつもりだったし」
まどか「名前付けた方が絶対可愛いよ!!」
杏子「いや、いいって別に」
まどか「せっかくだから、さやかちゃん達も呼ぼっか」ピッピッ
杏子「人の話を聞け。あいつらが来るとなんか面倒なことになりそうなんだけど……」
さやか「呼ばれて飛び出てさやかちゃん!何やら異様にハイテンションで見~~参ッ!!」ビシッ
杏子「テンション高えなおい」
ほむら「聞いたわよ杏子、名前を付けたいんですって?必殺技に」
杏子「そんなものはない」
マミ「名付けといえば私よね!」
杏子「知らん」
マミ「えっ……」
杏子「というか、お前ら揃いも揃って暇なんだな」
ほむら「それじゃあ、各自持ってきたものを用意して」
杏子「?」
さやか「じゃじゃーん!私のはまどかとお揃いのカエル君!」
マミ「私のは鹿目さんのと同じく、ウサギさんよ」
ほむら「私のは黒猫のぬいぐるみ。とりあえず全員のを参考にするといいわ」
杏子「なんでみんな当たり前のようにぬいぐるみ持ってんだよ!?」
マミ「あら、女の子の嗜みとしては当然じゃないかしら?」
ほむら「えぇ。自分の舌で全ての自分の歯に触れられないくらい当然よ」
さや杏「マジ!?…………」
さやか「謀ったなほむらぁ!?」
杏子「てめえふざけんじゃねえ!」
ほむら「ごめんなさい、触れられるの間違いだったわね」クスッ
杏子「絶対わざとだろ!」
まどマミ(騙された……)
まどか「なんだかこういうのって楽しいよね。みんなでぬいぐるみ持ち寄ってお喋りって」
杏子「あたしは早く帰りたいんだけど……」
マミ「私から紹介させてもらうわね。この子の名前はアンジュよ」
四人「……」
マミ「あら?変だったかしら?」
さやか「いや、普通すぎてマミさんっぽくないというか」
ほむら「もっとこう、マミさんらしいウィットに富んだ名前を期待していたのだけれど」
マミ「私らしいって…例えば?」
さやか「ジオルノとかジョッヴァーナとかね」
マミ「どういうイメージよ!?」
杏子「お前らの方がよっぽどじゃねーか」
ほむら「私のはエイミーよ」
さやか「これまた普通だね」
まどか「でも、可愛いよね」
杏子「そ、そんなんでいいのか…?」
ほむら「あなたはどうなの、さやか」
さやか「私のカエル君の名前は、カエル君だよ」
杏子「……え?」
さやか「だから、カエル君って言う名前のカエル君」
杏子「ちょっと待て…それって名前か?」
さやか「だって、クロノトリガーのカエルだってカエルだし、パペマペのカエル君もカエル君だし、がまくんとかえるくんシリーズのかえるくんだってかえるくんって名前なんだから、あたしのカエル君もカエル君って名前でいいわけ」
杏子「何言ってんのか全然分かんねー」
まどか「じゃあ最後は私かな」
ほむら「頼んだわ、まどか」
まどか「これが新・トレホ君です!それから、こっちがレイちゃんとモンド君で、この子がデーボ君」
まどか「で、棚の上に並んでるのが左から順番に――」
まどか「――ってな感じです」
杏子「多すぎて覚えきれねえよ」
マミ「まあ、大体の傾向は分かったからいいんじゃないかしら」
ほむら「さて、以上を踏まえた上で名前を付けなさい、杏子」
杏子「えぇー……っていうか、やっぱり名前って必要か?」
ほむら「さあ、早くしなさい」
杏子「いや、早くって言われても……」
ジー
杏子(視線がうざったい)
まどか「決まった?」
杏子「じゃあ、もう、適当でいいんだろ?」
さやか「なになに?」
杏子「まさひこ」
四人「…………え?」
杏子「まさひこでいいだろ、もう」
ほむら「ごめんなさい杏子、私達の耳には届いたんだけど心には届かなかったみたいで……もう一度言ってもらえるかしら?」
杏子「だから!まさひこだっつの!」
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
杏子「なんだよ!?あたしが勝手に名付けたんだから文句ねーだろ!?」
さやか「ぬいぐるみにまさひこて……まさひこて」
ほむら「常識を疑うわね」
杏子「お前らの常識が全てだと思うなよ!!」
マミ「い、いいんじゃないかしら…?佐倉さんが可愛いと思って付けた名前なんだから」
まどか「そうですよね!笑うのはよくないですよね!?」
杏子「…もういいよ!名前も決まったんだからあたしは帰るぞ!」
まどか「あ、杏子ちゃん!」
杏子「なんだよ!」
まどか「お昼ご飯、食べてかない?」
杏子「……」グゥー
マミ「すいません、私達までご一緒に頂いてしまって」
詢子「いいのいいの。こんなに大勢なのは久しぶりだからね、遠慮せず食べてよ」
さやか「相変わらずパパさんの料理はおいしいですね!支店長とか狙えますよ!」
知久「どういたしまして」
杏子「くそ、出鼻挫かれた」
ほむら「挫けすぎじゃないかしら」
さやか「まどかも嫁入り前に早く料理覚えなよー」
まどか「分かってるってば~…」
杏子「ほむら、お前もだぞ。そしてあたしにインスタント以外の飯を食べさせてくれ」
ほむら「ほっといて頂戴」
まどか「ほむらちゃん、一緒に頑張ろうね!」
ほむら「…えぇ、善処するわ」
タツヤ「がんばえー」
「ご馳走様でした」
杏子「さて、今度こそあたしは帰るわ」
まどか「もう行っちゃうの?」
杏子「世話になったな」
さやか「杏子~、まさひこ君を忘れておるぞー」ポイッ
杏子「投げんなよ!」ヨッ
マミ「またね、佐倉さん」
ほむら「さようなら」
ほむら『今日もいつも通りあの場所で』
杏子『分かってるよ』
杏子「お邪魔しました」
杏子「ぬいぐる…まさひこ邪魔くせえなぁ。抱きしめながら歩くのって変じゃないか…?」
ギャル1「あの子ぬいぐるみ抱いてるよ」
ギャル2「やだぁかーわーいーいー」
杏子「……心なしか視線が鬱陶しい」
杏子「でも抱いて運ぶ以外どうしようもねえし」
杏子「そういや、昨日から風呂入ってなかったな……」スンスン
杏子「あー、でも、銭湯入る金もねえ」
杏子「……」ジー
杏子「はぁ……ほんっと、こいつのせいで散々だよ」ギュッ
ほむら「お待たせ杏子…って、どうしたの?」
杏子「いや、公園でまさひこ隣に座らせてボケっとしてたら、子供がわらわら蟻みたいに群がってきて……」
ほむら「それでそんなに泥だらけなのね」
杏子「どうせ暇だったし一緒になって遊んでやってたんだよ」
ほむら「……変わったわね」
杏子「ほっとけよ」
ほむら「まさひこまで泥だらけじゃない」
杏子「こいつがやたら人気でさ……頂戴とかいうが奴もいたんだけど」
ほむら「あら、あげなかったの?あなた、ぬいぐるみなんて…って言ってたじゃない」
杏子「別に、せっかく名前も付けたし、まどかも持っとけって言ってたし……」ゴニョゴニョ
ほむら「そういうところが変わったって言うのよ」
杏子「はぁ!?」
ほむら「さ、魔女を探しに行くわよ」
杏子「なあ、あたしはとんでもないことに気付いちまった」
ほむら「何?」
杏子「まさひこが邪魔で戦えない」
ほむら「……は?」
杏子「だから、まさひこを持ちながらだと槍振り回せねーじゃんって話」
ほむら「…どこかに置いとけばいいじゃない」
杏子「そんな…そんなことして誰かに盗まれたらどうすんだよ!?」
ほむら「じゃ、じゃあ、人が入って来れない結界の入り口でいいんじゃないの?」
杏子「使い魔に見つかったら八つ裂きじゃねえか……却下だね」
ほむら「……あなた、たった半日で随分愛着が沸いたのね」
杏子「んなこと……いや、あるんだけどさ」
杏子「なんか、別にどうってことない普通のぬいぐるみなんだけど、名前付けたら急に大切にしたくなってさ」
杏子「なんつーか、一人じゃなくなったみたいっていうか」
ほむら「そう…いいんじゃないかしら」
杏子「という訳で今日の魔女狩りは任せた」
ほむら「……と思ったけど、あなたが魔女を譲るなんて予想以上に重傷ね」
杏子「どっかでこいつを綺麗にしてやりてーし、魔女に汚されたらやべえだろ」ギュッ
ほむら「分かったわよ、私の盾に入れてればいいでしょ」
杏子「やだよ、火薬臭くなったらどうすんだ」
ほむら「だったらまさひこが魔女や使い魔たちに嬲られて蹂躙されていく様を見届けているといいわ」
杏子「ぐっ……仕方ねえ、当分の間お別れだまさひこ…!」スッ
ほむら「あの杏子をここまでにさせるなんて……実は呪いの人形だったりするのかしら…?」
魔女「クフゥ…」
シュアーン
ほむら「楽勝だったわね」
杏子「あぁ。ほむらがバズーカと間違えてまさひこを取りだしたときはどうしようかと思ったがな」
ほむら「危うくあのまま放り投げるところだったわ」
杏子「てめえ、そんなことしたらタダじゃおかねえぞ!?」
ほむら「分かったからその物騒な槍を近づけないで。もう少しでまさひこでガードしてしまうところだったわ」
杏子「なっ!?危ねえ、もう少しでまさひこが傷モノになるところだった…」
ほむら「その言い方はやめなさい」
杏子「いいからまさひこ返せよ!」
ほむらの家
ほむら「どうしてうちまでついてくるのよ……」
杏子「だって、まさひこを綺麗にしてやらないと駄目だろ?」
ほむら「いや、だからって、どうしてうちなの?」
杏子「細かいことはいいんだよ!」
ほむら「お風呂にする?ご飯にする?それとも――」
杏子「風呂に決まってるだろ!」スタスタ
ほむら「……駄目ね、からかいがいがないわ」
ジャバジャバ バシャバシャ
杏子「なあ、ほむらー」
ほむら「何?ひょっとしてシャンプーが切れてたかしら?」
杏子「まさひこって石鹸でいいと思うか?まさかリンスってことはないよな?」
ほむら「…え?いるの?まさひこがそこに!?」
杏子「当たり前だろ?」
ほむら「……どうしましょう、本当に予想以上に溺愛してしまっているわね」
杏子「あたしはどうすればいいんだ?」
ほむら「ちょ、ちょっと待ちなさい…いくらなんでもあなたがそこまでまさひこにラブってしまうとは思わなかったから混乱しているのよ……」
杏子「は?」
ほむら「好きなように洗えばいいでしょ?」
杏子「そっか!ようし、まさひこ~汚れを落として綺麗になろうな~」ワシャワシャ
ほむら「こんなの杏子じゃないわ……ぬいぐるみに魂でも操られてるのかしら……」
ほむら「御飯よ」
杏子「はいはい」ダキッ
ほむら「御飯の時くらい置いておきなさい。大体まだ乾いてないでしょう」
杏子「え、でもせっかくだし」ギュゥ
ほむら「そこで抱きしめないでよ!水滴がこぼれるじゃない!!」
杏子「ちっ…悪いなまさひこ、飯食ったらすぐ撫でてやるからな」
ほむら「乾かしてからにしなさい…あぁもう、こんなに濡らして……あなたの着てるそれ、私のパジャマなんだけど……」
杏子「なんだよ、また粉々に砕いてレンジでチンしたインスタントラーメンかよ」ズゾゾー
ほむら「話を聞きなさい」
ブオーーン…
ほむら「ほら、これでいいでしょう?」
杏子「サンキュー」ダキッ
杏子「暖かいなぁ」ホクホク
ほむら「もういいでしょ、早く寝なさい」
杏子「あたしテレビ見たいんだけど」
ほむら「そんなものいつでも見れるでしょ」
杏子「あたしは見れねえんだよ!」
ほむら「ほら、もう寝るわよ。私は明日学校なの」
杏子「分かったよ」
パチン
杏子「……なあ、ほむら」
ほむら「何かしら、ぬいぐるみラヴァー杏子」
杏子「昨日さ、人生で初めてぬいぐるみを抱いて寝たんだよ」
ほむら「……そう」
杏子「うちの家が貧乏だって話、したっけ?」
ほむら「まあ、聞いたことあるわよ」
杏子「親父もお袋もぬいぐるみなんて全然買ってくれなくってさ……モモと…妹と抱き合って寝たりしてたんだ」
ほむら「あなたにもそんな可愛い時期があったのね」
杏子「茶化すなよ…でさ、昨日そん時の気持ちを少し思い出せた気がしたんだ……最高だな、これ」
ほむら「……」スクッ
杏子「ほむら?」
ほむら「私も今日は抱いて寝るわ」
杏子「……そうか」
翌朝、学校
ほむら「――とまあこんな感じで、見たら呆れるほどの入れ込み様なのよ」
さやか「何それ超見たい!」
まどか「杏子ちゃん、気に入ってくれたみたいだね」
さやか「くっそぅ、いつの間に強気っ娘からぬいぐるみ愛しちゃう可愛い系にシフトチェンジしちゃったんだ…あたしもそれ路線で行こうかな?」
ほむら「どうせ上条恭介はもう戻ってこないのにね」
さやか「ほむら、あんた私のこと嫌いでしょ?」
ほむら「失礼ね、蒸しパンと同じくらいには好きよ?」
さやか「……ちなみにまどかはどれくらい?」
ほむら「パンのカテゴリーで言えば、クロワッサンくらいには」
まどか「よく分からないよそれ…」
公園
杏子「まっさひこ~、まさひこ~」ルンルン
杏子「はぁ~……フカフカだぁ~……」ダキッ
\オカーシャンマッテー/ \コッチヨー/ \ナワトビスルヨー/ \イーチ ニーイ フレディガクルゾー/
杏子「……なあまさひこ…お腹空いたなぁ……」
QB「まさひこって誰だい?」
杏子「なんだよ、QBか」
QB「何だよとは失礼だなぁ…君がいつまで経っても動かないから様子を見に来たんじゃないか」
杏子「どういうことだ?」
QB「?まさか本当にこの魔女の気配を感じていないのかい?」
杏子「え……あぁ、確かにあるな」
QB「どうしたんだい杏子、君が魔女退治に精力的じゃないなんて珍しいじゃないか」
杏子「……QB……QBかぁ……」ポリポリ
QB「どうかしたのかい?」
杏子「でもなぁ、こんな奴に託すのもなあ」ウーン
QB「ほら、早くしないと逃げられてしまうよ」
杏子「仕方ない!QB、まさひこを頼む!」スッ
QB「まさひこ?って、そのぬいぐるみのことかい?」
杏子「いいか?絶対に傷つけたりするんじゃねえぞ?誰かに盗まれたりしても駄目だ」
杏子「もしまさひこになんかあったら……」
QB「あ、あったら…?」
杏子「責任…取ってもらうからな?」
杏子「おらおらー!!」ザシュッ
魔女「ヌハァ…」
シュアーン
杏子「楽勝楽勝!さーて、まさひこを迎えに行かねーと」タッタッタ
QB「やあ、おかえり杏子」
杏子「まさひこは無事か!?」
QB「そりゃあ勿論」
杏子「ただいままさひこ~!相変わらずフカフカだなお前は!」ダキッ
QB「……あの杏子がこんなにまでぬいぐるみを溺愛するなんて…これはどういうことなんだろう」
二週間後
マミ「佐倉さんが」
ほむら「本格的に壊れてしまっているわ」
まどさや「はい?」
ほむら「四日前に杏子が私の家に泊まりに来たんだけど――」
~~~~~~~~~~
ほむら「杏子、サニーサイドアップができたからご飯にするわよ」
杏子「うんうん、それでさやかったらさー」アハハハ
ほむら「……杏子?」
杏子「お、悪いなまさひこ。話はまた後でだ」
ほむら「あの、何してたの…?」
杏子「何って、まさひこと話してただけだけど」
ほむら「……え?」
~~~~~~~~~~
さやか「え、何?杏子がいつのまにか転校初日のほむらみたいな電波ちゃんになっちゃってたわけ?」
ほむら「私のことを蒸し返さないで!」
まどか「さ、流石に私もそこまではしたことないかな……」
マミ「私は二日前に魔女退治で一緒になったのだけれど――」
~~~~~~~~~~
マミ「ティロ・フィナーレ!!」ボシュゥーン
マミ「ふぅ、なんとか勝てたわね…佐倉さん、できればあそこで助けて欲しかったんだけど……」
杏子「まさひこ無事かなぁ……」
マミ「聞いてるの?」
杏子「あ、マミ。魔女やっつけた?」
マミ「それはまあ、見ての通りよ」
杏子「よっし、まさひこ迎えに行ってくる!」タッタッタ
マミ「……え?」
~~~~~~~~~~
マミ「……あの佐倉さんが、グリーフシードに目もくれず走り出すなんて、絶対に変よ」
まどか「杏子ちゃん、どうしちゃったんだろう……ちょっと心配だね」
さやか「うーん、こりゃ本格的に金星から電波でも受信してるんじゃないの?」
まどか「さやかちゃん、真面目に考えてよ!」
さやか「そうは言ってもねぇ」
ほむら「とにかく、杏子にあったら変なことしないように気をつけて見張ってて」
さやか「何に気をつければいいのさ?」
マミ「まさひこ君に没頭するあまり、魔女退治も録に行ってないのよ…そろそろソウルジェムが危ないかもしれないわ」
さやか「仕方ない、ちょっくら探してみますか」
杏子「魔女の反応があるな……QB、いるか?」
QB「呼んだかい?」ヒョイッ
杏子「まさひこを頼む。終わったらすぐ戻ってくるからな!!」タッタッタ
QB「あぁ、頑張ってくるといい」
QB「……最近の杏子は魔女を倒してもグリーフシードをほったらかして一目散にこちらに帰ってくる」
QB「そろそろソウルジェムが限界に近付いてる頃合いかな」
QB「さてと……」
ポイッ
QB「どうせなら目の前で見た方が確実に絶望できるはずだろう」
QB「このぬいぐるみが魔女にズタズタにされるところをね」
杏子「ほらほらこれでどうだ!!」ザシュズバァ
魔女「セイッ」
杏子「っと危ねえ!こいつでどうだ!?」ザクッ
魔女「メガッ」
杏子「へへっ、そろそろ終わりにしてやるさ…!」
使い魔「ワッショイワッショイ」
杏子「ん?なんだ、使い魔が何か担い、で……あ、あぁ、あ……」
使い魔「ドッセーイ」ポイッ
魔女「インフィニティ!」ブスッ
杏子「ま…」
杏子「まさひこ~~~~~~ッ!!!!」
さやか「救いのヒーローさやかちゃん!!ズバッと登場!!!」ズバババーン
魔女「シーット…」
シュァーン
さやか「ふふーん、さやかちゃんにかかればざっとこんなもんよ……大丈夫杏子?」
杏子「……」
さやか「杏子…?」
杏子「まさひこが……」
さやか「まさひこ君?……あ!」
杏子「まさひこが…死んじまった……」
さやか「死んだというか破れたというかだけど……」
杏子「…………ははっ」
さやか「…?」
杏子「ははっ、あっはははははははははははあはっはっははは」
さやか「ちょ、杏子どうしたの!?落ち着きなって!」
杏子「まさひこが、まさひこが死んだんだよ!!」
さやか「だから落ち着きなって!ぬいぐるみは死んでなんかないよ!」
杏子「バカ野郎…腹をぶち抜かれたんだぞ?死んでないわけないだろ?あーあ、やっぱQBなんか信じるんじゃなかったな」
さやか「だから!ぬいぐるみに死ぬっていう言い方は――」
杏子「まさひこは家族だったんだよ!!!」
杏子「……あたしの、家族だったのに……親父の…名前だったのに……」
さやか「え…?」
杏子「まさひこっていうのはさ…あたしの親父の名前なんだよ」
杏子「名前なんてどうでもよかった…だから、ふと思いついた親父の名前にしたんだ……」
杏子「でもそしたら、どんどん、手放せなくなって…」グスッ
杏子「抱きながらねてたらさ…ヒック…今度は、モモみたいだなって、思えてきて……」エグッ
杏子「暖かいなって思ったら、お袋が抱きしめてくれたこと思い出して…」グスン
杏子「まさひこを抱いてると、あたしの家族がそこにいたんだ……」
杏子「まさひこは家族だったんだよ!!!」
さやか「……」
杏子「でも、それも所詮幻…くだらねえ絵空事だったのさ」フラフラ
さやか「杏子……」
杏子「バカだよあたし、ぬいぐるみなんかに入れ込んじゃって……二度も家族を失う辛さを味わうなんて」
さやか「杏子駄目!早まらないで!!」
杏子「今、そっち行くからな」
さやか「杏子オオオオオオオオオ!!!!!!」
杏子「わぶっ」ボフッ
さやか「あれ?」
杏子「だぁ!なんだこいつは!?」バッ
さや杏「……ん?」
まさひこ「……」トテトテ
さやか「…おかしいな、あたしには腹から綿むき出しのまさひこ君が一人で歩いてるように見えるんだけど」
杏子「ま、まさひこ…?」
まさひこ「……」ヨジヨジ
杏子「まさひこ……」
まさひこ「……」ナデナデ
杏子「あたしを、慰めてくれるのか…?」
まさひこ「……ガンバッテ」ボトッ
杏子「まさひこ!?」
さやか「喋った!?」
杏子「おいまさひこ、しっかりしろ!まさひこ!!」バシバシ
さやか「もう動かないの?」
杏子「なんでだ…なんで動いてたんだよ……なんであたしを、連れて行ってくれなかったんだよ…」
さやか「あんたねえ!まさひこ君の気持ちを無駄にする気!?」
さやか「まさひこ君がどうやって動いたとか、なんで動いたとか、そんなことはどうでもいいの!」
さやか「まさひこ君が言いたかったのは、杏子に生きていて欲しいってことでしょうが!!」
杏子「う…うぅぅぅ……さ、さやかぁぁぁぁ……」グスン
さやか「やれやれ…仕方ない、今はさやかちゃんの胸を存分に使って泣くがいい」
杏子「うううぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
杏子「くそう……QBにまさひこを頼んだのが間違いだった……」
さやか「よしよし…おぉよしよし。所詮QBは人の痛みの分からぬ冷血動物…そういえば、ヤツの毛の色は冷酷なホワイトライオンと同じ色をしているわ…!」
ほむら「待ちなさいさやか、ジャングル大帝は名作よ」
さやか「うおっ!?どっから現れたほむほむ」
ほむら「その言い方はやめなさい」
マミ「佐倉さんは無事なの!?」
さやか「えぇ、笑ったり泣いたり死にそうになったり忙しかったみたいですけど、こうして無事に――」
杏子「余計なこと言ってんじゃねえ!」ビシィッ
さやか「うっ…痛いのですよ杏子さん……」
マミ「一体何が起きてたの?」
杏子「……言いたくない」
さやか「実はですね」
杏子「おいこら!」
さやか「――という奇跡体験をしてきました」
ほむら「マミさん、今日は四月一日だったかしら?」
さやか「いや、エイプリルなんとかじゃないって」
マミ「そうねぇ、ちょっと信じられないけど……案外ない話でもないかもしれないわよ」
マミ「佐倉さんの思いが、まさひこ君にご家族の魂を宿らせて動かしたとか…ロマンチックじゃない?」
杏子「別にどうでもいいよ、そんなこと……まさひこはもういない、それだけだ」
ほむら「そういえば、まさひこ君はどこにいるの?」
さやか「あそこだよ、ほら」
杏子「もういいんだよ、全て終わったことだ……」
マミ「……これ、直るんじゃないの」
杏子「え?」
数日後
まどか「はい!ちょっと縫い目とか気になるかもしれないけど…どうかな?」
杏子「まさひこ!久しぶりのまさひこだーー!」ギュッ
まどか「お腹が破れてただけだからなんとかなったんだよ。喜んでもらえてよかったぁ!」ティヒヒ
杏子「サンキューまどか!もう離さないぞまさひこ~~~~!!!」ダキッ
さやか「全く、子供みたいにはしゃいじゃって」
ほむら「それにしても、ぬいぐるみにまでお父さんの名前をつけるなんて、あなた相当アレよね」
杏子「ふむ、アレの内容によってはあたしの槍がほむらを貫くことになるかもな」
マミ「まあまあいいじゃない。無事まさひこ君が戻ってきたんだもの」
まどか「あ、それからもう一つ頼まれたのもできてるんだよ」
杏子「もう一つ?」
まどか「はい、これ!」
杏子「うわ、なんだこれ!?めちゃくちゃ見た目気持ち悪いぬいぐるみじゃねーか!!」
QB「あの、僕なんだけど……」プルプル
杏子「喋った!?」
ほむら「QBにきぐるみを着せる感覚でぬいぐるみを被せたのよ」
QB「ほら、君が僕に言っただろう?責任を取ってもらうって……散々ボコ殴りにされた揚句、まあそんな訳で、こうして責任を取らされる羽目になったわけなんだ」ウネウネ
さやか「気持ち悪いほど気持ち悪いね。うねうね動くの止めてよ、マスコットキャラにあるまじきキモさだよ」
QB「さあ杏子!僕を存分にぬいぐるみとして可愛がるといい!」
杏子「いや、これ、ぬいぐるみに対する冒涜だろ」
QB「……じゃああの、僕は帰るから」
ほむら「早く帰りなさい外道」
QB「なんで外道呼ばわりされなきゃならないんだ……」ブツブツ スタスタ
杏子「うぜぇ……所詮奴は人の痛みの分からぬ冷血動物…だな」
完
関係ないけど今日は11月23日…いいフサ(さん)の日だね
乙
この子に名前つけようと思うんだけど何がいいですかね
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2296196.jpg
>>127
デーボ
そういえば俺「まさひこ」じゃねえから
某漫画でぬいぐるみに「まさひこ」って付けてたからだから
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