淡「テルーがさらに患っちゃった」 (57)
淡「テルーが患っちゃった」の続きです
先日は結局、暗号解読に疲れてしまって皆の厨二名を見つけることは出来なかった
だけど皆諦めてはいない。今日こそは自分たちに与えられし名を…
ダメだ少し頭がテルエってきてる。気をつけよう
何より一番気をつけなければならないことは、テルーを見ても笑わないようにすること
まかり間違っても「テルエル」などとは言わないようにすることだ。最重要課題
うん、私なら出来る。きっと出来る。ミッションポッシブル
テルーが日記更新してる場面とかに出くわさなければ、何とか、多分
放課後の部活
今日も元気に部室のドアを開く
淡「こんちはー」
照「淡、早いね」
何で早速テルーに遭遇するんだ!!
しかも携帯をいじっていらっしゃる!!
やめろ、やめてくださいテルエル様マジ勘弁してください
堪えろ堪えろ堪えろ。大丈夫私なら出来る
淡「…担任の授業だったのでHRが無かったんだ。テルーも随分早いね」
照「ああ、私は6限がブランクだったんだ」
照「図書室で暇を潰していたんだけど、あそこの本は読み尽くしてしまったからね」
淡「…図書室は何てテルエられるんだろう…」
照「淡、何か言った?」
淡「ううん、何でもない独り言」
しまった口に出ていたとは!
訝しげな顔でテルーがこちらを見ている。どうしよう誤魔化さないと!
淡「えっと、テルーは結局部室で何をしていたの?」
照「うん?ああ…そうだな、淡には教えても…」
照「――いや、やめろ言うんじゃない!後輩を危険には巻き込みたくないだろう?」
照「だが、しかし…やめるんだ!黙っていろ、後輩を守りたいんだろう…?」
淡「…あの、テルー?」
照「――お前は黙っていろ、私が代わりに出る。…ああごめん淡、私も独り言」
照「今まで牌譜とにらめっこしていたから、頭を使いすぎて少々疲れてるみたいでね」
これほど話題選択ミスったと思ったときはないだろう
中盤をボソボソと聞こえないつもりで言ったのかもしれないが、私には全部聞こえてる
何だ、今は「自分の中にもう一人の自分がいる」的な設定なのか
やめろツッコむな堪えろ私頑張れ。超頑張れ
私は中盤だけは聞こえなかったことにして、全力で微笑みを取り繕って言った
淡「テルーは熱心だね。でもあまり無理しないようにね」
淡:…てなことがあったんだけど。私よく堪えたよ。誉めてー
菫:それは確かに勲章物だな。…それに対して亦野は…!
尭深:何かあったんですか?
菫:照の前でうっかり「テルエル」って単語を出してしまったんだ
淡:え、え?何て言っちゃったの?
誠子:……テルエル・ロマエ…
尭深:!?
菫:「こないだ劇場版テルエル・ロマエ観たんですよ!すっごい良かったですよ!」
淡:ブッフォwwwwwwwww
尭深:そんな厨二な映画見たくないwwwwww
菫:フォローするの大変だったんだからな!
誠子:面目ない
尭深:それでは今日こそ、我らに与えられし真名を見つけるとしましょうか
淡:あれ、これとか誰かの名前かも?
‡月★日(日)
天使が授けた刹那の休息を我らは受け入れず、聖戦に向けて悪魔の呪文を唱える
選ばれし者の崇高なる遊戯で黄昏を迎えた。常闇が迫りくるの中
緑の番犬(ターコイズ・ケルベロス)が紅い刃の鎧武者を眩耀の檻に閉じ込め、その従者とす
菫:今日も早速挫けそうだな
誠子:日本語なのに日本語じゃない
尭深:圧巻だね
淡:私たちの闇の使徒への道は険しいねー
誠子:なりたくないわ闇の使徒wwwwwとりあえず順番にやっていくか
菫:まず注目すべきは日曜日ってところだな
淡:あー休日ってことかな?なら「天使が授けた刹那の休息」は「休日」で良さそうだね!
尭深:確かこの日はIHが近かったから1日フルの練習だったね
誠子:…もしかして「聖戦に向けて悪魔の呪文を唱える」は、「IHに向けて練習することになった」でいいのか?
菫:なるほど。次の文に出てくる「黄昏」は夕方だし当たってそうだな
淡:あれ、なら「選ばれし者の崇高なる遊戯」ってさ…
尭深:まさか…そんな…そんな姿になってしまって…!
菫:あまりの変わり果てように初見じゃ気づけなかった…だと…?
誠子:私が、私がわかるか、おい、返事をしろ、崇高なる遊戯…いや…麻雀ンンンン!!
淡:そんな謎の部活したくないwwwww
菫:おいお前ら、遊ぶのは大概にしろ。問題はこの後だ、後半が全くわからん
淡:ねーこの日ってさー、終わってからどっか行かなかったっけ
誠子:あー…皆で川に遊びに行ったんだったか?
尭深:あったよね、誠子が川でザリガニ釣りあげて…あ
菫:どうした渋谷
尭深:緑の番犬(ターコイズ・ケルベロス)って、誠子のことじゃ…
誠子:えっ
菫:ああ、なるほど理解した
尭深:ですよねやっぱり
誠子:ちょっと待て!番犬て何なんだ番犬て!!
菫:そんなことは照いやテルエル様に聞け
淡:でもケルベロスって結構カッコイイじゃん!よかったね誠子
誠子:よくねーよ!!
尭深:そうしてザリガニは紅い刃の鎧武者へ謎の進化…
淡:これwwwザリガニwwwwちょwwwww
淡:【訳まとめ】
△月▲日(日)
休日にも関わらず、IHが近づいているので1日練習。麻雀をし続けて夕方を迎えた
夕暮れの中で誠子がザリガニを捕ってケースに入れた。飼うらしい
誠子:従者にはしてねーよペットだよwwwww
淡:そろそろテルーの脳がどんな風になってるのか知りたくなってきた!
菫:やめておけ私たちでは理解できないぞ
尭深:あ、昨日の日記も名前っぽいのが出てるね
†月▼日(月)
後に降り懸かる賢者創造の試練。金色に煌く蛸(ゴールデン・オクトパス)は豊穣を司る女神(デメテル)と共に
聖霊力の源(エナジー)に服すのみ。深淵を免罪されるよう闇覇王の経典を授けた
淡:デメテル?テルエル様の同類か何か?
菫:ギリシャ神話の神の一人だな。収穫の女神デメテル
誠子:収穫…ハーベストタイム…てことはこれは尭深のことかな
尭深:良かった、比較的まともで
淡:タカミー女神だって。いいなー
菫:羨ましがってる場合じゃないぞ、淡
淡:へっ?
誠子:この金色に煌く蛸って…もしかして…
尭深:あっ…(察し)
淡:ちょおおおおっとおおおおおおお!?まさかこれって私のことじゃないでしょうね!?
菫:いや、どこからどう見てもお前のことだろ
誠子:ゴールデンwwwwwwオクトパスwwwwwwwwww
尭深:ブフッwwwwwwああ今日もお茶を無駄にしてしまった…
淡:なんで私がタコなのよー!!ひどいよテルー!!
誠子:いやお前が麻雀うってる時の髪は正直タコに見え…ブッフォwwwwww
淡:皆女神とか狩人とかカッコイイのに私だけ適当すぎるよ!!
淡:もっとこう、宇宙を統べる王(ロード・オブ・コスモ)とかあるでしょーに!!
菫:お前も若干テルエってきてるな
尭深:さて、気を取り直して、賢者創造の試練から行きましょうか
菫:これは簡単に想定できるな。おそらく中間試験だろう。問題は最後の文だ
淡:深淵を免罪…?もうここまで来ると暗号だね
誠子:どこもかしこも暗号だってのwwwww
尭深:慣れてきてる自分が怖い
菫:聖霊力の源(エナジー)は…お菓子っぽいな。淡はよく部室で食べているだろう
尭深:ではここまでをまとめると「もうすぐ中間試験。しかし淡は尭深と一緒にお菓子を食べてばかりだ」ですね
淡:テルーだって食べてるのに…
誠子:なら最後の文は何か心配してんのかな?
菫:昨日何か授けられなかったか淡?
淡:うーん…あ、テルーが1年の時使ってたってノート貰ったよ。赤点とらないようにって
淡:中の説明書きがところどころテルエってたけど凄くありがたかったよ!
誠子:何それずっこい!つーか正にそれじゃないか闇覇王の経典!!
菫:淡がこの中じゃいちばん成績やばいからな。それにしてもテルエルノートか…
尭深:ちょっと見てみたいような…いややっぱりいいです
淡:【訳まとめ】
○月☆日(月)
もうすぐ中間試験。しかし淡は尭深と一緒にお菓子を食べてばかりだ
赤点を免れてほしいので私の1年の頃のまとめノートをあげた
尭深:普通に良い先輩ですね
菫:照の心意気を無駄にしないためにも勉強頑張るんだぞ淡
淡:うん…ノート、現代文が漢文みたいになってるけど頑張るよ
菫:じゃあ全員のテルエる名が判明したところで、今日はこの辺でお開きにしよう
誠子:了解
淡:そんじゃまた明日ねー
尭深:お疲れさまでした
翌日
菫「試験も近いんで今日の部活はここまでにする。では解散」
部員一同「お疲れさまでした!!」
尭深 「淡ちゃん、勉強はかどってる?」
淡「全くもって!」
誠子「おいおい、お前には心強いテルエルノートがあるじゃないか」ぼそっ
淡「解読するのに時間がかかるんだよ~…ん?」ぼそっ
照「………」
淡「どうしたのテルー?険しい顔しちゃって」
照「ああ、妹からのメールを見ていたんだけど」
淡「そういやIH後に仲直りしたんだっけ?」
照「もともと仲違いしていたわけではないんだ。ただ…」
照「まだ力が制御しきれていない私の傍にいると、妹が危険だったから、ね」
ね、と言われましても
とりあえず今の言葉は全力でスルーすることにした
淡「で、なんでそんな顔がこわばってんの?」
照「………これを見て」
淡「ん?写真付きか~どれどれ…」
淡「妹さんと、もう一人は…確かミドルチャンプの人だったよね。手なんて繋いで仲良さそう~」
照「…ちなみに三日前に送ってきた写真はこれだ」
淡「ん?…妹さんまたミドルチャンプと一緒に映ってるね」
照「で一週間前の写真はこれ」
淡「あ、また手繋いでる…」
照「………」ギュルギュルギュル
淡「テルー?右手抑えてどうしたの?」
照「ああ、うん…こうでもしないと出てきてしまいそうだから」
何がだ
とは絶対に言わない。それこそ死亡フラグ…いや、闇の使徒へ志望フラグだ
淡「じ、じゃあ私試験勉強しないとだし、そろそろ帰るね!」
照「ああ。あまり寄り道しないで気をつけて帰るんだよ。逢魔が時は危険だから」
淡「…うん」
照「そんなに心配しないで。この辺りの悪魔は私の支配下だから…ね」
後半は例によって例の如く私に聞こえないように言ったつもりらしい
ただし例によって例の如く丸聞こえである
とりあえず妖怪系なのか悪魔系なのか設定統一してほしい
とは口が裂けても絶対に言えないけど
淡「よくわかんないけど、気をつけて帰るね。じゃあお先に~」
†月†日(火)
我が血を分けし大天使サキエルを摘み取らんとする邪悪な魔獣(イービル・ゴルゴーン)は重罪に値す
殺戮の羅針盤の針は血飛沫の回廊を指し、我が右手が再び疼きだす
我、Dynast of Justiceの名を持つ闇の主、呪詛を此処に放つ
邪悪な魔獣(イービル・ゴルゴーン)に災厄の降りかからんことを。禍事の訪れんことを
淡:うわぁー、分っかりやすーい
菫:サキエル…妹さんのことだろうな
尭深:じゃあ邪悪な魔獣っていうのは?
淡:ああ、全中チャンプのことだろーね。妹さんと仲が良いみたいだし
誠子:なるほど
菫:厨二なうえにシスコンまで患ってるとはもう手遅れだな
誠子:てかこれ全中チャンプの命やばくね?
淡:【訳まとめ】
○月○日(火)
妹の咲にまとわり付くピンクは許さない。潰せ潰せと右手が疼く
テルエルの名において呪いの言葉を唱えているところだ
ピンクに災厄が降りかかりますように。ピンクに不幸が訪れますように
誠子:((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル
尭深:((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル
菫:((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル
淡:原村さん逃げて超逃げて!!
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それはこの年齢に多い病気だった
そして人というものは、誰かに影響されやすい
更に、その誰かが強力であった場合、他者は影響を受けている自分に気付かず突き進んでしまうことがある
ふと振り返ったときに黒歴史となることを知らぬまま
私たちの秘密のチャットが始まってから数ヶ月経過した、ある日のことだった
尭深:新たなる聖霊力の源、新たなる豊穣を開拓せしもの
淡:新発売のお菓子が美味しかったんだね、今度教えてね
菫:明日、虚像の己が羽根を広げて天空に飛び立つ
淡:ああ、菫がインタビュー受けた麻雀雑誌が明日発売なんだね
誠子:金色に煌く蛸よ、終末の遊戯を過ごし、約束の湖畔に集結せよ!
淡:えーと週末の部活が終わった後にいつもの河原に行きたいんだね?……ていうか皆
菫:何だ?
尭深:何?
誠子:何だ?
淡:………いや、何でもないよ
誠子:そうか?というか虚像の己が天空に飛び立つ…よく考え付きましたね!
菫:新たなる豊穣を開拓せしもの、もうまいと思うが
尭深:週末と終末をかけてくるのも中々かと
誠子:最近テルエル様の日記も普通に読めるようになってきたよ。もしかして私の読解力向上してる?
菫:あれ案外一回読めば理解できるようになるよな
尭深:初めは散々言ってたけど慣れれば思ったより酷くないね
淡「思ったより…酷くない…だと…?」
どうしよう、皆は何を言っているんだろう
もはや日本語じゃないとか、暗号かとか大概酷い感想を述べていた皆はどこに行ってしまったんだ
私はそっとパソコンを閉じた
唐突な退室だが明日パソコンの調子が悪かったとでも言えば大丈夫だろうと自分に言い訳をする
とりあえずあれだ
淡「私だけでも落ち着こう。よし」
パソコンの横に置いていた紅茶を静かに啜った
振り返ってみれば最近のチャットでの皆の言動は、若干テルエっている
誠子「…悪い、奴らが来たみたいだ、落ちるわ」とか
菫「明日は学校の屋上に近寄るんじゃないぞ。訳は言えないが、危険なんだ」とか
尭深「世の中にはまだまだ知らないことが沢山あるんだね…私にもこんな力が秘められていたなんて」とか
淡「…あれ、若干とかそんなレベルじゃなく着実にテルエって…もう闇の使徒になってない?」
挙げ句さっきのテルエるっぷり。これはもしかしなくともマズいのではないか
テルエルブログを発見してから季節は2つほど移り変わった今
徐々に歯車が狂い始めている気がした。という説明すらテルエってきている
これは相当危険な事態だ
もっと振り返ってみれば日常生活にも妙な台詞が増えている気がする
例えば先日誠子が雨が降ってきた際に「空が…泣いてる…」とほざいていたり
タカミーが洗面所の鏡を見て「この鏡、不思議な力を感じる…」とかのたまってたり
菫なんか「悪い、ちょっとヤツを追いかけてくる…淡?お前には見えないのか」とか謎の設定を作り出していた
これは、これはまさか
淡「厨二病が、伝染してる…!?」
という台詞の言い方すらどこか厨二臭いのは何でだろうか
照「淡、おはよう」
頭を抱えそうになる寸前で、後ろから声をかけてきたのは全ての元凶だった
淡「あ…おはようテルー…」
照「…淡、どうしたの?」
淡「え?」
照「いつもならもう一人の私にも挨拶をしてくれるだろう?」
淡「…はい?」
照「まさか、忘れてしまったのか?もう一人の私のことを…!」
何 が ど う し た
ちょっと待って知らない何それどうした
いつも?いつもって?
…いや、よくよく思い出してみたら、その設定は聞いた気がする
菫「…悪い照、実は見てしまったんだよ。お前が鏡見ながらもう一人の自分、テルエルに話しかけてるの」
ああそうだ、菫がついにカミングアウトしたんだった
そうして菫の言葉に目を見開いたテルーは
照「皆には隠しきれないな。実は…――」
ともう一人の自分、テルエル様についての設定を事細かに教えてくれた
闇の末裔が何たるか云々、若干真実味のあるように話したせいで皆本気で受け入れかけていた
ブログを読んでいることはバレなかったが
代わりにその日から私達はテルーに挨拶をする時には、テルエル様にも挨拶をすることになった…気がする
私は一体何をしていたんだ、馬鹿か、馬鹿なのか
しかし日本人は周囲に合わせていなければならない生き物で
ここで私が「テルー、目を覚まして」と言ったところで私が変な目で見られるだけだろう
ツッコみたいことは色々あるが、全てをぐっと飲み込んで、私は微笑んだ
淡「ごめんね、まだ寝ぼけてたみたい。おはよう、テルエル様」
人には誰しも周囲には見せない側面がある
例えば好きな食べ物が屈強な見た目からは想像できない甘い物だったり
例えば凄く女性にモテるのに二次元女子にしか興味がなかったり
それに加えて私たちの年代はある病気を発症しやすい
そう、「年代」的に発症しやすいことを、私は失念していた
テルエルブログを笑いながら読み続け、気付かぬ間に厨二に慣れ親しんでしまった私たちが
年代的に発症するのはもはや必然的な流れだったのかもしれない
『チーム虎姫』には二つの意味がある
ひとつは麻雀の才能が飛び抜けている、攻撃特化なチームであるという名称
そしてもうひとつはそんな彼女達が患っている、あまりに酷過ぎる厨二っぷりを嘲笑う名称だ
ただ一人、途中で気が付いて厨二を脱した私を除いて
おわり
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