──「出る杭は打たれる」という諺があるように、他人より優れている人間は憎まれるのが世の常である。
他人に嫌われたく──疎まれたくなければ、可能な限り自分の存在感を消すことが得策だ。少なくとも俺はそう生きてきた。
……だがしかし、これはあくまで俺だからそうしただけである。
俺と似ている彼女──誰もない空き教室で、一人本を呼んでいた雪ノ下雪乃は、俺と正反対の生き方を選んでいた。
つまり、正解はひとつではない。存在しないのだ。
……だがしかし、某錬金術師はこのようなことも言っている。
──ないのなら、作ってしまえばいいのだ。
代行ありがとうです
書き溜めないので遅くなると思いますがお願いします
八幡「おいーっす」
雪ノ下「……こんにちは比企谷くん。今日も相変わらず死んだような瞳をしているわね。なにが楽しくて生きているのかしら」
八幡「相変わらず辛辣だな……。俺じゃなかったら死んでるぞ」
雪ノ下「ふふっ、私だって誰にでも同じことを言っているわけではないのよ?」
八幡「台詞だけ見れば胸キュンなのに、このタイミングで言われると胸キュンというより胸シュンだな……」
八幡「……あれ、ていうか雪ノ下。お前、その左手どうした? 包帯なんか巻いて」
雪ノ下「……これは。料理をしていたらちょっと失敗してしまってね。なにか問題でも?」
八幡「猿も木から落ちるとは言うが、お前でもそんなミスすんのな。まぁちょっと気になっただけだ」
雪ノ下「そういえば、由比ヶ浜さんからのメールは読んだかしら?」
八幡「えっ、なんだそれ……。えーっと──あぁ、きてたきてた。……へぇ、アイツは今日休みか」
雪ノ下「というわけで、私はもう帰るけれど、比企谷くんはどうする?」
八幡「んじゃあ俺も帰るかね。そんじゃあな」
雪ノ下「私は職員室に鍵を返してくるわね。さようなら」
学校という場所はあまり好きではないが、俺は学校からの帰り道は嫌いではない。
夕焼けの染まる校内。人気のない廊下。響き渡る吹奏楽部のチューニングの音。
どれもが風情に溢れていて、歩くだけで非常に心地が良い。
──でも今日は、それらを邪魔する雑音があった。
女子A「ねぇ見た? アイツのあの顔www」
女子B「見た見たwww マジ超ウケたわwww」
女子C「マジ調子乗ってるからな、いい気味だったわwww」
八幡「……裏門から帰るか」
踵を返そうとしたその時──聞き覚えのある名前が、鼓膜を揺らした。
女子A「マジ雪ノ下のあの顔なwww 左手カッターで切ってやったら泣いてやがんのwww」
女子B「天下の雪ノ下様も痛みには弱いんでちゅねwww」
八幡「──マジかよ」
ブー、ブー
八幡「着信……? 由比ヶ浜からか。『裏門で待ってる』……無関係ではなさそうだな」
支援
八幡「……きたぜ」
由比ヶ浜「あ、ヒッキー。ごめんね急に……」
八幡「いや気にすんなって。ところで、聞きたいことがあるんだが……」
由比ヶ浜「……ゆきのんのことでしょ?」
八幡「……気付いてたのか」
由比ヶ浜「うん……あのね、A子ちゃんとC子ちゃん。あとC子ちゃんも私の友達なんだ」
八幡「ふぅん。それで?」
由比ヶ浜「いや、なんていうか……A子ちゃん達に止めてって言ったほうがいいかな?」
八幡「馬鹿やめろ。そんなの火に油を注ぐだけだっつーの」
由比ヶ浜「で、でもでもっ! 見てられなくって……」
八幡「……ちょっと、場所を変えるか」
誤字っちゃった(´・ω・`)A子、B子、C子です
この時間帯はすぐ落ちるぞ、書き溜めなしで大丈夫か?
由比ヶ浜「へぇー……ヒッキー、喫茶店なんて行くんだ」
八幡「俺がっつーより小町だな。先週一緒に来たんだ」
由比ヶ浜「仲いいよね、二人共」
八幡「まぁな。……それより、本題だが」
由比ヶ浜「あぁうん、そうだね」
八幡「まず、アイツがイジメられている原因だな。なにか知ってるか?」
>>21
が、頑張りますが落ちたらSS速報のほうに移ろうと思います……
由比ヶ浜「うん……なんかね、こないだの調理実習の時、A子ちゃんとゆきのんが同じ班だったらしいんだけど」
由比ヶ浜「同じ班だったA子ちゃんが好きな男の子が、ゆきのんの料理をべた褒めしたらしくってね。それで……」
八幡「プライドが傷つけられたってか? ふん、八つ当たりも甚だしいじゃねえか」
八幡「というか、いつものアイツならすぐに相手を言い負かしてやるんじゃねえの?」
由比ヶ浜「そうなんだけど……どうしてなんだろうね」
八幡「流石にそこまでは分からないか……」
考えていても埒が明かないということで、その日は変な気分を引きずったまま帰宅した。
愛する妹が作ってくれた料理を食べ、ベッドに横になる。
目をつぶると、一人苦しみに耐えながらも平気な顔をしていた、放課後の雪ノ下の顔がチラついた。
──俺は、どうしてアイツのことがこんなに心配なのだろうか。
八幡「よう雪ノ下」
由比ヶ浜「ああ、ヒッキー遅い!」
雪ノ下「……ご飯は一人で食べるのが好きだと、あなた達には再三言っているつもりなのだけれど」
由比ヶ浜「まぁまぁゆきのん釣れないこと言わないでさぁ。皆で食べたほうがご飯は美味しいよ?」
雪ノ下「だとしても、放課後でもないのに部室に集まるなんて初めてじゃないかしら?」
八幡「この悪天候じゃ俺のベストプレイスが使えねぇんだよ。それにどこで飯くおうと俺の勝手だろ」
雪ノ下「……それもそうね」
俺と由比ヶ浜は、できるだけ雪ノ下を一人にさせないように心がけて行動を開始した。
休み時間になれば交代で適当に理由をつけて雪ノ下のクラスへ出向き、昼休みは部室に集まる。
イジメというのは第三者が口を出した所で無意味なケースが多く、仮になにかすればイジメがより陰湿になるだけだということは俺の経験上ほぼ確実だからである。
──だが、こうしている間にも雪ノ下の傷は深まる一方だろう。
どうにか、どうにかしなくては……。
放課後、俺はいつものように部室へと向かう。由比ヶ浜は掃除当番があるらしく、少し遅れてくるそうだ。
八幡「おっす」
雪ノ下「……あら比企谷くん。今日も幽霊のメイクがよく似合っているわね」
八幡「俺はいつだってスッピンだっつの。なめんなよ」
八幡「……なぁ雪ノ下」
雪ノ下「……なにかしら、比企谷くん」
八幡「お前、最近包帯の数が増えてきたみたいだけどさ。それも料理の傷なのか?」
雪ノ下「……えぇ、そうよ」
八幡「……本当か?」
雪ノ下「どういう意味かしら?」
八幡「俺は前に、嘘をつくのは悪いことではないって言ったけどさ。それはケースバイケースっていうか……まぁ、困っている時に困ってないとか言い張るのだけはやめろや」
八幡「そんなのは、誰も幸せになれない」
雪ノ下「……ありがとう。でもごめんなさい、今回だけは……見逃して?」
──そう言う雪ノ下は、いつもの傍若無人な姿とはかけ離れていた。
窮地に追い込まれた人間というものは、不思議と一人になりたがる傾向がある。
そういう場合は、周りに相談してみれば実は大したこと無い問題だったと気付かされたりすることがたまにあるのだが、何故か一人で抱え込もうとするのが人間の悪い癖なのだ。
──だとしたら。周りの人間が目一杯手を伸ばしてやるしか無い。
相手が気付いていようがいまいが、そんなものは無視だ。関係ない。
強い人間ならば、きっと手を掴んで無理やり引き上げてやることができるだろう。だがあいにく俺は無力だ。
友達も少ないし、目は死んでいるし、なにより周りからあまりよく思われていない。
ならば、俺は俺のやり方で、彼女を救ってやろうじゃないか。
──引き上げることができなければ、代わりに落ちてやればいいのだ。
応援どうもです。もう少しだけ時間くだしあ
──次の日の朝。俺が教室に入ると、クラスメイトの連中の視線が突き刺さった。
彼らは皆同様に俺の机を取り囲んでおり、そして机の上には「例の物」が積まれている。
葉山「なぁヒキタニくん……これ、どういうことか説明してくれるよな?」
葉山が指差した先──俺の机の上には、A子、B子、C子、そして──雪ノ下の体操服が置かれていた。
戸塚「……違うクラスの子達がね、体操服を盗まれちゃたらしくて。それで全クラスの人の机の中を探してみたら……」
葉山「君の机の中にあったそうだ」
憎悪の眼差し。いつものことだ。だから俺も、極めていつも通りに返答した。
八幡「──あーあぁ、バレちまったか」
八幡「そうだよ、犯人は俺だ。アイツら、顔は悪くないが体は好みなんでな。それ、使わせてもらったぜ」
言うと、人垣の中にいた三人が座り込み、号泣を始めた。A子とB子、そしてC子だ。
──イジメというものは、団結力を深めるには最適な行為である。
仲間内で共通の敵を作ることにより、愚痴を言い合い、仲間意識を強めていく。
ならば、イジメられていた人間といじめていた人間の前に共通の敵が現れた場合──どうなるだろうか?
答えは簡単だ、仲間意識が芽生える。
特に今回のケースは、イジメられていた側に非はあまりない。敵が現れれば、被害者も加害者も同時に「仲間」になることができるのだ。
このSSまとめへのコメント
期待、待ってるぞ!