慕「偲はゆ?」 こーすけ「お前の名前と同じで普通に読めねえな」 (33)

シノハユSS

こーすけ「何だこの字?」

慕「今日の新聞に載ってた」

こーすけ「古新聞纏めて縛るの未だに出来ねえんだよな俺……」

慕「そのぐらい覚えーよ、おじさん」

こーすけ「結ぶのと反対側のヒモの交差する所がどうしてもズレるんだよなぁ」

こーすけ「ヒモは俺の大敵だわ」

慕「でも食生活は私のヒモみたいなもんだよね」

こーすけ「反論できないし申し訳ないとも思ってるが扶養されてるお前が言うな」

こーすけ「んー……」

慕「どしたの?」

こーすけ「お前が付けてくれてる家計簿と通帳見比べて唸ってる……って、なんかよく考えなくても問題だなこれ」

慕「だっておじさん結構だらしないし」

こーすけ「小学生に言われると一層情けなさが増すな……」

慕「特に赤字とかにはなってないし、大丈夫なんじゃないの?」

こーすけ「今は、な。お前も高校生や大学生になるんだしさ」

こーすけ「もーちょい貯金貯まらねえもんかなと」

慕「……高校とか大学って、たくさんお金かかるの?」

慕「私そういうのまだ分かんないけど、迷惑なら中学卒業したらすぐにでも働くから大丈夫だよ!」

こーすけ「……いやいやいや、ガキがなに金の心配とか迷惑だとか言ってんだよ!」

こーすけ「大学とか大して金かかんねーよ。お前がせびる小遣いの額が増えないかと心配になっただけだ」

慕「私そんなにがめつくないよ!? これからもそうだよもー!」



こーすけ「(あー、後数年ちまちま貯金して足りっかねー。ま、頑張るか)」

慕「今日の晩ご飯はポトフを作ってみました!」

こーすけ「食っていいのか!」

慕「おかわりもあります!」

こーすけ「うめ うめ」


慕「では、これよりおじさんのトマト苦手克服訓練を開始します!」

こーすけ「ちょっと待て」

慕「おかわり欲しかったらこのトマトサラダを食べるんだよ」

こーすけ「モスバーガーすら敬遠してる俺に無茶言うな」

慕「おじさんって、お酒飲まないよね」

こーすけ「仕事遅くなった時とかに飲んでるよ」

こーすけ「お前が寝た後に帰ってきて、お前が起きた時にはもうアルコール抜けてるだけだ」

慕「タバコも吸わないよね」

こーすけ「増税したからな」

慕「……あの、やっぱり私に遠慮して」

こーすけ「関係ねーよ、お前の考えすぎだ」

こーすけ「それにだ。もしも関係あったとしてだ」

こーすけ「お前の傍で好き勝手に飲む酒やタバコなんて、頼まれても嫌だね。めっちゃ不味そうだ」

こーすけ「お前は全く関係ないし、もしも微粒子レベルの可能性でそうだったとしても好きでやってんだろうよ」




慕「……ありがと、おじさん」

こーすけ「夕飯はカレーで頼む」

慕「うんっ」トタタッ

こーすけ「家ん中で走んなー、埃が舞うぞー」

こーすけ「今時の子が見てるアニメはすげーな」

慕「うん?」

こーすけ「なんで女の子がガチンコで殴りあってんだ……時代は変わったな」

慕「キュアキュアな感じだからね、仕方ないね」

こーすけ「俺が子供の頃の仮面ライダーとかとノリが同じなんだがどうなってんだこれ」

こーすけ「……いや、桐山漣とかのエピソード見るに俺達の世代がおっさんになっただけか」

慕「おじさんはまだまだ若いよー」

こーすけ「へいへいありがとな。今もまだ仮面ライダーとかやってんの?」

慕「私見てないけどCMによればフルーツを頭にかぶってオンステージするんだって」

こーすけ「へえ、フルー……ん? ん?」

こーすけ「いやそれこそマジでどうなってんだ!?」

慕「時代は流れてるんだよ、おじさん」

こーすけ「その流れに身を任せて同化すんのは無理だわ俺」




こーすけ「(……高っ! 何だこのCMの玩具、慕にプレゼントとか考えると財布が死ぬ!?)」

慕「……おかーさん」

慕「おかーさん……!」グスッ




こーすけ「(……どーすっかなぁ)」

こーすけ「(一年。一年経っても、まだずっとあの牌を見る度に泣いてる)」

こーすけ「(昔みたいにキラキラと笑わなくなったし、一年って時間があっても好転はしてない)」

こーすけ「(あの牌がある限り、時間が経っても傷は塞がらねえのかもな。なら、いっそ……)」

こーすけ「けど、なぁ」

こーすけ「もしもあの牌が、慕のこれからにとって良くないもんなんだとしても」


こーすけ「(……俺にとっても、姉貴との大切な思い出の品なんだってのが、な……)」


こーすけ「(あーくそ、いつでも会えた時はめんどくさい姉としか思ってなかったってのに、居なくなった途端にこうだ)」

こーすけ「(突発性シスコンかっての、いい年した大人が)」

こーすけ「慕をどうこう言う資格なんてねえんだよな、俺……ああクソ、なんか考えるか」

こーすけ「せめて慕が大人になるまで、どうにかしておく方法考えとかないと」

慕「卵と納豆一緒にご飯にかける人初めて見た」

こーすけ「これから大人になるまでに何度も見ると思うぞ、たぶんな」

こーすけ「俺達だって目玉焼きはずっと醤油だが、世の中にはソース派も塩派も居る」

慕「うそ!?」

こーすけ「オリーブオイルで作った料理に追いオリーブオイルをぶち込んで最後にオリーブオイルで味を整える料理人も居る」

慕「うそ!?」

こーすけ「他人の料理と父親の存在にケチつける事だけが生きがいの新聞記者だって実在する」

慕「うそ!?」

こーすけ「最後は嘘だ」

慕「もー!」

こーすけ「悪ぃ悪ぃ、TKG(卵かけごはん)作ってやるから許してくれ」

慕「それ作れない人居ないよ! 作ってもらわなくてけっこうだよ!」

こーすけ「あー、モテてー」

慕「モテたいの?」

こーすけ「モテたい」

慕「彼女欲しいの?」

こーすけ「欲しい」

慕「彼女出来たとして、何して欲しいの?」

こーすけ「そりゃお前、料理作ってもらったりとか、将来設計の話したりとか、一緒にただダラダラとテレビ見るとか……」

慕「私でいいじゃん」

こーすけ「確かに」

慕「だよね!」

こーすけ「……ん? あ、いやいやいや。そりゃ違うだろ色々と!」

こーすけ「あっぶねー、なんか違和感感じてなかったぞ今」

こーすけ「お前はダメ男量産機だな」

慕「?」

こーすけ「スーパーは一人暮らしだと主にカップ麺買いだめにしか来ねえんだよな」

慕「そんな不健康な生活もうさせないからね?」

慕「取り敢えず今日の目標は格安卵お一人様1パック!」

こーすけ「へいへい」



店員「お、今日も来たな小さな奥さん。今日は鯖も安いぜ」

慕「えへへ」

店員「それとロリコン」

こーすけ「お前が高二の時に屋上で叫んだ台詞とその後の先輩のお断りの台詞を近所に言いふらしてやろうか?」

店員「お互いの過去は詮索しないようにしようぜリチャードソン」

こーすけ「……痛み分けにしかなんねえからな」

慕「りちゃーどそん?」

こーすけ「気にすんな、ほらレジ行くぞ」

店員「今後とご贔屓にな、ロリチャードコン。略してロリコン」

こーすけ「慕連れては二度と来ねえよ!」

慕「あそこの店員さん知り合いだったんだ」

こーすけ「俺も今日会ってビックリしたよ」

慕「りちゃーどそんって何?」

こーすけ「……慕」

慕「なあに?」

こーすけ「世の中にはな、シャレにならないくらい不幸な人が居る」

こーすけ「だがそういったシリアスな理由とは無縁だが……触れちゃいけない事、思い出したくないって事があるんだ」

こーすけ「俺は既に燃やした中学時代の黒いノートと高校時代の俺をお前に見られたら自殺する」

こーすけ「麻雀牌を飲み込んで窒息死する」

慕「そ、そんなに!?」

こーすけ「俺を死なせたくなければ忘れてくれ」

慕「う、うんっ! おじさんは私が死なせないからね!」

こーすけ「……お前はいい子だな。黒歴史とか築かずにすくすく育ってくれよ」

慕「わわっ、乱暴に撫でないでよっ! じゃ、ろりこんってのも聞かない方がいいの?」

こーすけ「ああ、忘れろ。それと俺はロリコンじゃない」

慕「ねえ、おじさん」

こーすけ「なんだ」

慕「『私、大人になったらお父さんのお嫁さんになる!』とか言われてみたい?」

こーすけ「俺はお前のお父さんじゃないんだが……つか、誰から聞いたんだそんな台詞」

慕「学校の友達」

こーすけ「(姉貴が居たら大爆笑されてたな)」

慕「どうかな?」

こーすけ「……何が欲しいんだ?」

慕「えへへ、このカタログのエプロン可愛いなーって思って」

こーすけ「……あー、さいきんふところにはよゆうがあるなー」

慕「私、大人になったらおじさんのお嫁さんになる!」

こーすけ「ぐあー、しののみりょくにのっくあうとされてしまったー、かいにいかなくてはー」

慕「やたっ!」

こーすけ「次の日曜に行くか」

慕「うんっ、ありがとう!」

こーすけ「――ってな、そいつは廊下に立たされたわけだ」

慕「あははっ、なにそれー」

こーすけ「……!」

慕「? どうかした?」

こーすけ「……いや、なんでもない。しかし美味いなこの肉」

慕「鳥の胸肉をヨーグルトでね、色々するんだよ」

こーすけ「ヨーグルト!?」



こーすけ「(……さっき、一瞬だけど昔みたいに笑ってくれたな)」

こーすけ「(時間が解決してくれる、って思い続けて一年が経っちまったが)」

こーすけ「(何もしないままってのも、自分が嫌われるのを恐れて何もしてないみたいで嫌だな……)」


慕「トマトソースどばぁっ!」

こーすけ「ウオワァー!? 何しやがるテメエ!?」

慕「さあ、がばっと!」

こーすけ「食えるかこんなん!」

こーすけ「あ、大沼プロだ」

慕「このテレビに写ってるプロの人?」

こーすけ「ああ、しっかしぼちぼち引退かな……俺がガキの頃からプロやってる人なんだが」

慕「ジブリの宮崎監督みたいな」

こーすけ「どうせアイツはすぐに復帰するから心配するな。俺の知る限りパヤオの引退宣言っぽいのは五回目だ」

慕「そんなに?」

こーすけ「あのおっさんお前が生まれる前から映画監督やってんだぞー」

慕「私達も何十年もこんな感じに過ごしてるのかな?」

こーすけ「いや、その前にお前が嫁に行くと思う。悔しいが今ん所俺には彼女が出来るすらない」

慕「私ちゃんと行けるのかなー……」

慕「おじさんが一人でやっていけるか大丈夫か心配なうちは、難しいんじゃないかな」

こーすけ「ぬぐっ」

こーすけ「……努力するよ、出来る限り」

慕「あははっ、もー、しょうがないなぁ」

こーすけ「(俺にはもったいないくらい、可愛らしくていい子な姪だ)」

こーすけ「……」

こーすけ「(家族として、俺に他にしてやれる事ってなんだ)」



慕「(お母さんが居なくなっちゃったことは、とっても悲しかったけど)」

慕「(それでも一人ぼっちにならないで、おじさんが居てくれた事は、とっても幸せな事なんだと思う)」

慕「(家族として、私に他にしてあげられる事って無いのかな)」






つづく

終わり。皆! ビッグガンガン買おう!(ステマ)

第0話はネット上で無料公開配信中だぞ! 単行本に0話は収録されないので要注意だ!(ステマ)

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