オルオ「俺がリヴァイだ」(66)
ペトラ「」
オルオ「……そしてこれは推測だが。おそらく今、俺の中にはオルオが入ってる」
オルオ「でなきゃオルオはどこに行ったんだって話だからな」
ペトラ「」
オルオ「……で。オルオを見なかったか?」
オルオ「ああ。つまり、リヴァイ兵長を」
オルオ「まったく……面倒くせえことになった……」
ペトラ「…………ハァァ…」
ペトラ「……ァァ」
ペトラ「オルオ……何で朝から頭痛くなること言うの? もういっかい寝てくれば?」
オルオ「ま。信じろってのが無理な話だ。オルオを見かけたら知らせろ。ああ、つまり俺を。いや、リヴァイ兵長を」
ペトラ「お願い、黙って……ほんとに頭痛いの……」
……ダダダダダダダダ
ダダダダダダダダダダ
バンッ!!
リヴァイ「兵長ッ!!!」
ペトラ「」
オルオ「……オルオか?」
リヴァイ「へ……兵長……?」
オルオ「オルオかと訊いている」
リヴァイ「……ハイッ!!」
オルオ「チッ……やはりテメェが俺に入ってやがったか……」
リヴァイ「兵長なんですね?!」
オルオ「ああ。俺だ」
リヴァイ「…………ああ……」ガクッ
リヴァイ「ああぁ…………良かった……」グスッ
リヴァイ「いや良くないですけど……ハァ……良かった……」
オルオ「俺じゃなかったら俺はどこに行ったんだって話になるからな」
リヴァイ「」コクコクコクコク
リヴァイ「あぁ……良かった……いや良くねえけど……」
オルオ「良くはねえだろ……見ろ。さっそくコレだ」
リヴァイ「は?」
ペトラ「」
リヴァイ「……ペトラ。お前、何て面だ。そりゃあ……」
ペトラ「」
オルオ「無理もねえ。おい、エルド達を呼んで来い。俺はエレンを地下から出してくる」
リヴァイ「ハイッ!」
ペトラ「」
ペトラ「」
エレン「」
エルド「」
グンタ「」
エレン「……」
エレン「……兵長」
オルオ「コッチがな」
エレン「……オルオさん」
リヴァイ「おう」
エルド「……集合」
エレン「」サササ
エルド「」サササ
グンタ「」ササササッ
エレン「エルドさんありがとうございます」ヒソヒソ
エルド「礼には及ばない。俺も助け合いたかった」ヒソヒソ
グンタ「まずここの認識は共有しておこう。余計な混乱は避けたい」ヒソヒソ
エレン「よろしくお願いします」ヒソヒソ
エルド「2人がいて良かった……今から俺達はチームだ。いいな」ヒソヒソ
グンタ「エレンは新入りだからこそ客観的に見られるはずだ。意見を頼む」ヒソヒソ
エレン「じゃあさっそく質問してもいいですか」ヒソヒソ
グンタ「どうぞ」ヒソヒソ
エレン「アレはマジで言ってるんですか。それとも本来は乗ってあげるべきところなんですか」ヒソヒソ
グンタ「エレン。いい質問だが残念な質問だ」ヒソヒソ
エルド「俺達の経験から言って兵長はくだらない冗談は言っても大掛かりな悪ふざけはしない。オルオも然り」ヒソヒソ
エレン「つまりマジなんですか」ヒソヒソ
グンタ「おそらくな。ただし、マジで言ってるってことと、実際問題マジだってことは違う。残念なことにな」
エレン「本気でそう思い込んでる可能性もあると……頭が痛くなってきました」
エルド「ペトラの二の舞にはなるなよ」
ペトラ「」
リヴァイ「……おいテメェら。何コソコソダラダラくっちゃべってやがる」
オルオ「すぐに受け止められるもんでもねえだろ……おいエルド」
エルド「…………はい」
オルオ「分かってると思うが口外はするなよ。お前達には隠せることじゃねえから明らかにしただけだ」
リヴァイ「言わなきゃバレなかっただろうがな」
ペトラ「」
オルオ「……間の悪いことにエルヴィンは今シーナに出向いてる。ヤツが戻って来ねえと俺達の処遇も決まらん」
リヴァイ「伝令を送りましょうか」
オルオ「……いや。向こうも外せねぇだろ。幸い明後日には戻ってくる」
オルオ「当面俺達がしなきゃならねえのは2つ。コイツらにこの状況を受け入れさせること。そして次の遠征の準備だ。正直、後者は厄介極まりねえ……1つ目をさっさと済ませてえところだな」
リヴァイ「けど、どうやって……」
エレン「ま、待ってください! 自然に二人で会話しないでくださいよ!」
エレン「正直オレは……自分達は、まだ頭がついていかないんです! 分かるように話してくださいよ!」
グンタ「仮に真に受けるとしても、何か証明になるものが必要です。そんなものあったら余計に混乱する気もしますが……」
エルド「受け入れた体で接しろというなら従います。が、俺達にはそもそもどちらに従えばいいのかも判別できないんです」
リヴァイ「好き勝手に言いやがって……兵長の言うことが信用できねえのか!」
オルオ「フン…………証明」
オルオ「それは俺も考えた」
オルオ「例えば記憶だ」
エレン「記憶?」
オルオ「俺が知っていてオルオが知らないことは山ほどある。その中でお前達に通じる話があれば、多少は証明とやらになるだろう」
エレン「あ、そうか。皆さんは長く一緒なんですもんね。それなら……」
エルド「確かに……」
グンタ「記憶……兵長との……」
オルオ「そして先ほど、エレンを呼びに行く前に実践した。これがその結果だ」
ペトラ「ドウシテ……ドウシテ オルオガ…ソノコトイウノ…?」
ペトラ「ソッカ…コレハユメ…オキタラ イツモノヘイチョウト…ワタシノ ダイジナ オモイデ……」
エルド「」
グンタ「」
リヴァイ「こいつは何を言ってるんだ……」
オルオ「分からん。俺……つまりお前にあの話を持ち出されたのがよほどショックだったらしい」
エルド「分かってるじゃないですか」
リヴァイ「……あの話って何ですか」
オルオ「お前が知ったんじゃ証明にならねえだろ」
オルオ「とにかくお前ら。ペトラみてぇにならない程度の、手頃な記憶を探せ。俺もさっきから何かないか考えてる」
リヴァイ「逆に俺が知っていて兵長が知らない、お前らとの記憶でも証明になるわけだ。なんかあんだろ。思い出せ」
エルド「ううん……俺はオルオとは付き合い浅いからな……突っ込んだ話をした覚えがない……」
グンタ「俺も表面的な付き合いだからなー……プライベートでは全く接点がない……」
リヴァイ「クソッ……いい仲間を持ったぜ……」
エレン「オレは、お二人とも無理ですね」
オルオ「お前の状況は変わらねえよ。エレン」
オルオ「俺達がお前を囲ってるんだ。そのうち誰と誰が入れ替わろうが、お前の立場に変わりはない。ただ俺達が面倒なだけだ」
エレン「はあ」
リヴァイ「妙な気起こすなよ? クソガキ」
エレン「はあ……」
ペトラ「ハァ……ソラガ アオイ……」
グンタ「……手頃な記憶といっても、すぐには浮かびません。何にしてもすぐに信じるのは無理だ」
エレン「…………先ほどの、やることは2つある、というのは?」
エレン「2つ目は遠征の準備……この事態を隠すことが何か遠征の妨げになるという意味ですか? あとオレはどちらを見て口を聞けばいいですか?」
オルオ「2つ目はそんな次元じゃねえよ。好きな方向いてろ」
オルオ「……ま。ひとまず事態を認識しておけばそれでいい。俺達はさっそく2つ目に取りかかる」
エルド「2つ目とは?」
オルオ「肉体改造だ」
エルド「」
オルオ「お互い長年鍛え上げた道具を取り上げられて、他人の使い込んできた代物をあてがわれたんだ。コイツに至っちゃロートルもロートルだ」
リヴァイ「とんでもありません!!! 光栄の極みです!!!!」ビシッ
オルオ「まずはこの身体を乗りこなさなくちゃならねえ……幸い遠征まで3週間近くある。来い。オルオ。早急に取りかかるぞ」スタスタスタ
リヴァイ「ハイッ!!!! お供します!!!!」タッタッタッタッ
エレン「」
エルド「」
グンタ「」
***
エレン「結局あれから訓練に行ったきりですね。もうすぐ昼ですけど」
エルド「ウケなかったんで引っ込みがつかなくなって帰ってこられないのかもな」
グンタ「やめろエルド。何だかこっちが居たたまれない」
ペトラ「」
エレン「……ペトラさんずっと膝抱えたままですね」ヒソッ
エルド「ペトラ。お前もいい加減戻って来い。そりゃ混乱するのは分かるが」
ペトラ「混乱はシテナイちょっと整理に時間ガカカカルダケ」
グンタ「重症だな…」
バタンッ
オルオ「ああー…」
リヴァイ「」
エレン「あっ、昼食準備できてます」
リヴァイ「」
エレン「へ…兵…? い、いや、オル……?」
リヴァイ「……オルオだ。ちょっと黙ってろクソガキ」
オルオ「テメェこそシャキッとしろ。情けねえ」
リヴァイ「ハ、ハイッ…!」
ペトラ「…………兵長」
オルオ「……ちょっとはマシになったか。ペトラ」
ペトラ「……はい。先ほどは取り乱してすみませんでした……」
オルオ「ああ……で。何故そんな何も無いところを見て話す」
ペトラ「いえ……まだ整理のつかないこともあるので……」
エレン「あっ、あの、ずっと訓練されてたんですか?」
オルオ「……それ以前だ。いきなり立体機動なんざやったら間違いなく故障する」
オルオ「とりあえず身体の動かし方を教えてやっただけだ」
リヴァイ「ヤバイ……オモイ……」
オルオ「ヤバいのはテメェが全然なってないせいだ。重いのは普段のテメェが軽過ぎるからだ。おい、メシにしろ」
カチャカチャ カチャカチャ
オルオ「」モグモグ クモ゙グモ
エレン「」
グンタ「」
エルド「」
リヴァイ「…………俺が豆を食ってる」
グンタ「オルオが無心で豆を食ってる……」
エレン「昨日は俺の皿に二人分よそってたのに……」
エルド「おい……そろそろ真に受けるしかなくなってきたぞ。ペトラ」
ペトラ「シラナイ。ミテナイ」
オルオ「卵が欲しいな……後で注文しておけ、オルオ。名義は俺でいい。ああ、つまり、お前がサインしとけ」ブツブツ モグモグ
リヴァイ「あの……兵長は俺の身体をどうしたいんですか……?」
ペトラ「その言い方やめて」
リヴァイ「急に入ってくんなよ」
オルオ「とりあえず5kg増やす」
リヴァイ「ごッ?!」
オルオ「とりあえずな。でないと話にならん。我ながら無謀な数字だ……あくまで目標値だが」モグモグ
リヴァイ「すみません……俺が不甲斐ないばっかりに……」
オルオ「お前が気に病むことじゃない。俺がコイツを扱いきれねえだけだ」モグモグ
リヴァイ「兵長……」
ペトラ「」
エレン「またペトラさんの意識が……」ヒソヒソ
グンタ「消えかけのロウソクみたいだな……」ヒソヒソ
エルド「エレン、二人に会話させるな。お前が繋げ」ヒソヒソ
エレン「無茶言わないでくださいよ……」ヒソヒソ
エレン「……あ、あの、兵長」
オルオ「ああ」モグモグ
エレン「その、そんなに勝手が違うものなんですか? 失礼ながら、オルオさんも兵士として、とても優秀な方だと聞いていますが……」
リヴァイ「バカ野郎!! 兵長とオレが比べられるか! 阿呆か、馬鹿ッ!!」
エレン「す、すみません……」
グンタ「何つー理不尽な……」
オルオ「さっきも言ったが、別にコイツの身体が悪いわけじゃない…………いや。むしろ、エルド」モグモグ
エルド「は」
オルオ「若いって良いぞ」
エルド「……え。何故ピンポイントで俺に振るんですか。俺、グンタ寄りですよ。かなり」
オルオ「敏捷性が違う。打てば響くというかな。柔軟でバネもある」
リヴァイ「恐縮です!!!」
エルド「兵長。まさか俺を同世代だと思ってたんですか」
グンタ「首から上はむしろ相当老いてるんだが……俺達はどう受け止めりゃ良いんだ……」ヒソヒソ
エレン「えっ、オルオさんていくつなんですか? 兵長とそんな変わらないのかと……というか兵長っていくつなんですか?」ヒソヒソ
ペトラ「今日はオ庭トカ散歩シテミヨ」
オルオ「悪くはねえ……が、いかんせん馬力が足りない。3週間でどこまで仕上げられるか分からんが……やるしかねえだろ」モグモグ
リヴァイ「申し訳ありません!! ご面倒おかけします!!」
エレン「あの……兵長」
オルオ「うん?」グモグモ
エレン「どうも、その……戻らないことを前提に考えてらっしゃるように、聞こえるんですが……」
オルオ「……そう仮定するしかねえだろ。わけも分からずに、こんなわけの分からねえことになってるんだ。楽観視する気はない」
グンタ「マジか……」ヒソヒソ
エルド「マジならな……そろそろネタばらしが欲しいとこだ」ヒソヒソ
エレン「でっ、では、1か月後の壁外遠征は……!」
オルオ「それを決めるのは俺の役目じゃない。エルヴィンの仕事だ」
オルオ「だが、アイツが戻るのを悠長に待つ気もない。やれるだけのことはやる。それが俺達の仕事だ」
リヴァイ「さすがです!!」
オルオ「……」
リヴァイ「分かったかエレン!! 兵長は考えがあってのことなんだ! 余計な口答えすんな、クソガキ!!」
オルオ「…………なあ。オルオよ」
リヴァイ「ハイッ!」
オルオ「どうも、さっきっから、スプーンが止まってるように見えるが……」
リヴァイ「」
リヴァイ「」ダラダラダラダラ
オルオ「…………お前よ。オルオ」
オルオ「もしも、俺達が戻ったときに……」
オルオ「俺の肉がちょっとでも落ちてやがったら……」
オルオ「そのぶん、テメェから削ぐぞ」
リヴァイ「……」
リヴァイ「」……カチャカチャ
リヴァイ「……」パク パク
リヴァイ「俺ハ豆ヲ食ベル機械……俺ハ豆ヲ食ベルキカイ……」
ペトラ「ウッ……ウウッ……こんなの兵長じゃない……」シクシク
エルド「あくまで引っ張るか……」
グンタ「兵長も疲れてんだろうな……」
エレン「あの……先輩方は……俺を、監視する役目なんですよね……?」ポソ
***
リヴァイ「おおー……」グッ グッ
リヴァイ「懐かしいな……姿勢制御訓練」
リヴァイ「まあ言っちまえば、木を組んで滑車つけただけですけど。でも、よく本部に用意できましたね」
オルオ「メガネ用だ」
リヴァイ「は?」
オルオ「クソメガネだ。アイツの研究用資材を拝借した。お友達は死んじまったしな。エレンの協力実験にも使うつもりだったらしいが……」
リヴァイ「ハ……そりゃあ、お気の毒に……分隊長殿……」カチャッ
オルオ「……チッ」ギシギシ…
オルオ「焚き火で焼かれる豚みてえで、この装置は好かないが……仕方ねえ。……おい。吊れ」
オルオ「」キコキコキコキコキコキコ……キシッ
リヴァイ「うおっ」キコキコキコ……
リヴァイ「!」ガクッ…
リヴァイ「ふっ……!」グラグラグラ…
オルオ「重心を探れ。理解しろ。言っとくが、身体が勝手に動くような、便利な歳じゃねえぞ……」キシ…
リヴァイ「は、はいっ……いやっ、そんな、とんでもない、まだ……お若いじゃ……なっ……!」グググッ…キシキシキシ…!
オルオ「機嫌が取りてえなら動くな。自然に静止できるまで、立体機動訓練はさせねえぞ」キ…
リヴァイ「は……い……」ミシ…ミシミシ……
リヴァイ「…………まさか……この歳で、初歩訓練とは…………いや、今は……俺は、違うのか……」キシ…キシ…
オルオ「……」
オルオ「……オルオ」
リヴァイ「はいっ!」
オルオ「いくつで志願した」
リヴァイ「12です!」
オルオ「……」
オルオ「…………まだガキじゃねえか」
リヴァイ「え。ガキでした」キシシ…
リヴァイ「当時は、まだ少なかったですよ。マリアの、前、でしたから……」ミシ…
オルオ「……前年か。訓練凍結のあった期生だな」
リヴァイ「ええ、後方部隊に、従事しました、トロストで…………前線には、出ませんでしたが……ッ」グラッ…ギシッ…!
オルオ「……当然だ。志願兵団はジジイがほとんどだった」
リヴァイ「……ですが、見ました。兵長を。壁上で」キシ…
オルオ「」
リヴァイ「俺も、ペトラもです……兵長が、開門時に、近場の巨人を……片っ端から、倒してるのを……」キキ…ギギギ…
オルオ「…………ああ。聞いた。ペトラから」
リヴァイ「ハ、あいつ……」ギシ…
リヴァイ「……」キシ…
リヴァイ「俺達がウチに入ったのは、兵長のおかけです」
オルオ「……」
リヴァイ「でなきゃ俺は、せいぜい、酒飲み団でしたから…………ペトラは、憲兵も、考えてたみたいですけど……」キキ…
オルオ「……」
オルオ「……」…キシ
オルオ「……」
オルオ「……おかげってのは、違うだろ」
オルオ「駐屯兵団が酒飲み団なら、ウチは何だ。死に急ぎ団か?」
リヴァイ「……」キシキシ……
オルオ「……」
リヴァイ「……兵長」
リヴァイ「全然動かないですね」
オルオ「……言ったはずだ。重心を理解しろ」
オルオ「おい……もう下ろせ」
キキ……キコキコキコキコ…………カシャッ
オルオ「お前はまだ続けろ。俺は慣らしてくる」
リヴァイ「ハイッ!」ギシッ…
エルド「」
グンタ「」
グンタ「……エルド」
エルド「……ああ」
グンタ「俺の考えてることが分かるか?」
エルド「この状況に慣れてきた自分が空しい」
グンタ「さすがだエルド……空しいって言葉がドストライクだ……」
エルド「しっかりしろ、グンタ。言っただろ。俺達はチームだ」
リヴァイ「お前ら……」ギシギシッ…
リヴァイ「いいか!! 兵長はマジでやってんだ!!」ギィッ!!
リヴァイ「次に兵長をナメたこと言ってみろ!! ただじゃおかねえぞッ! おい!!」ギシギシミシッ!
グンタ「」
エルド「」
グンタ「…………お……おお……」
エルド「…………オルオ。もし、お前が、オルオなら。頼むから、一人称『兵長』はやめてくれ」
>>27でオルオさんが噛んでいる
○兵長のおかげ
×兵長のおかけ
***
エレン「夜です」
グンタ「……何だ。急に」
エレン「いえ、何となく」
グンタ「閉めるぞ」
ガシャ ガシャンッ
エレン「今日グンタさんなんですね」
グンタ「灯りは? 眩しくないか?」
エレン「平気です」
グンタ「お前も災難だな。ずっとこんな地下室で」
エレン「はあ……まあ。仕方ありませんから……」
エレン「……でも、その」
エレン「調査兵団に入るまでは、完全に化け物扱いだったので……いや、化け物には違いないんですが……」
エレン「先輩方は、一新兵として扱って下さるので。感謝してます」
グンタ「……」
グンタ「……」フー…
グンタ「……お前は、物分かりが良過ぎる」
グンタ「俺がお前なら、せいぜい暴れてやるけどな」
エレン「ハハ……オレが暴れたら、シャレにならないですから……」
グンタ「シャレで暴れるわけじゃないだろ。我慢の効かないことはある。頭では分かっててもな」
エレン「……」
グンタ「……ま。今は、あの二人の方がよっぽどシャレにならないけどな」
エレン「アレどうなるんでしょう……明日には戻ってると良いんですが……」
グンタ「どうかな。それで戻るなら、何のためだったのか分からん」
エレン「お二人……グンタさんとエルドさんは、本当に入れ替わったとお考えなんですか?」
グンタ「……今朝エルドも言ってたが。オルオはともかく、兵長はこんな悪ふざけに付き合う人じゃない」
グンタ「まったく馬鹿げてるけどな。何がどうなってそうなるんだか……」
エレン「……今朝」
エレン「オルオさんが……いや、兵長? が仰ってた、『記憶』は?」
エレン「片方しか知らないグンタさんとの記憶があれば、確かに信憑性は増すと思います。何も浮かばないんですか?」
グンタ「……」フー…
グンタ「……お前は、物分かりが良過ぎる」
グンタ「俺がお前なら、せいぜい暴れてやるけどな」
エレン「ハハ……オレが暴れたら、シャレにならないですから……」
グンタ「シャレで暴れるわけじゃないだろ。我慢の効かないことはある。頭では分かっててもな」
エレン「……」
グンタ「……ま。今は、あの二人の方がよっぽどシャレにならないけどな」
エレン「アレどうなるんでしょう……明日には戻ってると良いんですが……」
グンタ「どうかな。それで戻るなら、何のためだったのか分からん」
エレン「お二人……グンタさんとエルドさんは、本当に入れ替わったとお考えなんですか?」
グンタ「……今朝エルドも言ってたが。オルオはともかく、兵長はこんな悪ふざけに付き合う人じゃない」
グンタ「まったく馬鹿げてるけどな。何がどうなってそうなるんだか……」
エレン「……今朝」
エレン「オルオさんが……いや、兵長? が仰ってた、『記憶』は?」
エレン「片方しか知らないグンタさんとの記憶があれば、確かに信憑性は増すと思います。何も浮かばないんですか?」
グンタ「いいや?」
エレン「えっ」
グンタ「あるさ。そりゃあな。お互い、あの場で切り出す話じゃなかっただけだ。今頃は、エルドが確かめに行ってるだろ」
エレン「何だ……そうだったんですか……」
エレン「皆さん、ずっと一緒に戦ってこられたんですもんね」
グンタ「ずっとってほどじゃないが……アレで面倒見の良い人だからな。兵長は。兵長だけが胸にしまってる話なんて、それこそ団員の数だけあるんじゃないか?」
エレン「はあ……」
エレン「……」
エレン「……あの」
エレン「オルオさんとの記憶は?」
グンタ「無い」
エルド「あ」
オルオ「……何してる」
エルド「酒です。持って伺うところだったんですが」
オルオ「……ここでいい」
オルオ「どうも……落ち着かねえ。部屋に他人がいるみたいでな。と言って、部屋を替わるのも面倒だ……」
エルド「そんなもんですか」カチャ
エルド「ああ……確かに妙な気分ですね」トクトクトク…
エルド「アイツと差し向かいで飲むことなんか、ないんで……どうぞ」
オルオ「ああ……別に、お前達のプライベートに口出す気はない」
チンッ
エルド「険悪なわけじゃありませんよ? 単純にアイツ、下戸なんで」グビッ
オルオ「」ピタッ
エルド「」
オルオ「……一人でやれ」コトッ
エルド「……いただきます」
エルド「難儀ですねえ……」ゴクッ
オルオ「他人事だと思いやがって……」
エルド「……今朝のアレ。考えてました」
オルオ「……"記憶"か?」
エルド「ええ」
オルオ「まだ半信半疑ってわけか……まあいい。テストしてみろ」
エルド「その前にもう一杯」グイッ
オルオ「チッ……いい身分だな……」
エルド「…………あー…」
エルド「……兵長」
オルオ「……」
エルド「結婚を考えたことは?」
オルオ「……何で、それだ。よりによって」
エルド「他に良いのがなかったんで」
オルオ「チッ……」
オルオ「……俺は」
オルオ「言ったと思うが」
オルオ「ここに来る前から。俺は、そんなことができる人間じゃない」
オルオ「既婚者ならウチにもいる。案外、結構いる。相談事は、そっちをあたれ」
エルド「……」
オルオ「…………フー…ッ」
オルオ「……相談には乗れねえが」
オルオ「俺の勝手を言えば」
オルオ「……お前達には。それができるヤツらには。俺は残らず、所帯を持ってもらいたいと思ってる」
エルド「……」
オルオ「巨人を根絶やしにしたところで、おそらく、この世界の根っこは変わらねえ」
オルオ「仮に外界が開けば、商会は爆発的に力を増すだろう。貧しい人間はますます貧しく、肥えた豚共はますます太る……」
オルオ「……世界がどうなるか、俺には分からない」
オルオ「それでも……いつか。この戦いに、ひとまずのケリがつく時。その時に。どこの誰とも知らねえ奴等より、俺は……」
オルオ「お前達のガキがいる世界の方が、俺は、いい」
オルオ「……こんなとこだったか?」
エルド「……ええ。ありがとうございます」
オルオ「チッ……!」
オルオ「おい。コイツ、一滴も飲めないのか?」
エルド「一杯くらいなら平気だったと思いますよ」
オルオ「よこせ」
エルド「はいはい」トクトクトク…
エルド「どうぞ」
オルオ「」グイッ!
オルオ「」ゴクッ ゴクッ ゴクッ…
オルオ「…………ああーっ」カタッ
オルオ「あああ……」
オルオ「……………ああ」
オルオ「……コイツ。安上がりでいいな」
エルド「ハッハッハ!」
ペトラ「」
リヴァイ「」
ペトラ「……」
リヴァイ「……」
ペトラ「……そっちの戸締まりは」
リヴァイ「済んだぜ」
ペトラ「……そ」スタスタスタ
リヴァイ「おいおい……それが真に受けてない奴の態度か?」
ペトラ「……」
ペトラ「」クルッ
ペトラ「……私、真に受けてないなんて言ってない。受け入れたくないだけ」
リヴァイ「違わねえだろ……あ? いや、違うのか?」
ペトラ「……その顔でそういう馬鹿みたいなこと言うのやめて」スタスタ
リヴァイ「……てめえ。何だ、その態度。昼間のアレはどこ行ったんだ」ツカツカ
ペトラ「え、何でこっち来るの」
リヴァイ「俺の部屋こっちだろ」
ペトラ「」
ペトラ「…………ハァァ……」
ペトラ「」
ペトラ「~~~!!」ダンダンダンダンッ!
リヴァイ「お前、床を砕くつもりか……?」
ペトラ「……」…スタスタスタ
リヴァイ「……ま。お前が信じてるなら良い」スタスタ
ペトラ「何が良いわけ?」
ペトラ「大体、私達が信じるかどうかは事の深刻さには関係ないでしょ? 問題はどうやって二人が戻るかじゃない」
リヴァイ「そんなこと言ったって、どうしてこうなったか分からねえんだ。最悪このまま次の遠征に行くことになる。お前らにそれを受け入れさせるのが先決だ。兵長も昼間そう言ってただろうが」
ペトラ「その顔でまともなこと言うのやめて。あと兵長って言うのやめて」
リヴァイ「てめえ……」
ペトラ「……どうしてかは分からなくても、何か理由があるはずよ」ツカツカ
ペトラ「きっかけがあるはすでしょ。何か心当たりないの?」ツカツカツカ
リヴァイ「それはもう俺も兵長も考えた。そんなもんねえよ」スタスタ
ペトラ「嘘!」カッ
リヴァイ「」
ペトラ「……」
ペトラ「……正直に答えて。オルオ」
リヴァイ「……ペトラ。お前」
リヴァイ「俺のせいだって言いてえのか?」
ペトラ「誰もそんなこと言ってないでしょ?」
ペトラ「オルオが兵長にこんなことするわけないじゃない」
リヴァイ「当たり前だ」
ペトラ「でしょ? だから、ただ本当のことを教えて欲しいの。何か禍々しいおまじないとかしなかった? 邪悪なものと取引とかしなかった? 最近何かいわくつきの呪いの鏡とか手に入れなかった?」
オルオ「ペトラ……お前、俺は何言っても傷つかないと思ってねえだろうな……」
>>34が二重投稿
完全にオルオさんのせい
>>42の最後がオルオになってる…おのれ…
***
エレン「朝だ!」
リヴァイ「何だ。急に」
エレン「卵だ!」
リヴァイ「……はしゃぐな。ガキが」
エレン「オムレツだー!」モグモグモグモグ
ペトラ「フフ、良かったわね。エレン」
ペトラ「兵長、ありがとうございます。私達のぶんまで……」
オルオ「こんな状況だ。飴玉のひとつもないとやってられねえだろ。もっとも、こんなもんで誤魔化せる事態でもねえがな」
エレン「ウマイ……ウマイ……」モクモク
エルド「ほぼ誤魔化されてるな……」
ペトラ「育ち盛りだから……」
エレン「ああー……アイツらにも食わせてやりてえなあー……」モグモグ
グンタ「あの幼なじみっていう二人か?」
エレン「はい。あっ、えっと、アイツらもですし、同期のヤツらにも……」
エルド「今期のトロスト区か……あんなことになっても志願してくれたんだ。確かに、労ってやらないといけませんね。兵長?」
オルオ「俺にタカるな」
グンタ「……」
グンタ「……おい、チームリーダー。抜け駆けか?」ボソ
エルド「……お前も今夜行って来い。なかなかシュールな体験ができるぞ」ボソ
グンタ「シュールって何だよ……」ヒソ
リヴァイ「おい、そこ。何か良からぬこと話してやがるだろ」
ペトラ「確かに今期のトロスト区は、どうなるかと思ったけど。残ってくれたのは、エレンのおかげかもね?」
エレン「はい?」モク
ペトラ「エレンが彼等の希望になったんじゃないかなって」
エレン「はあ……」モク
エレン「それは、分かりませんが……」
エレン「その……いいヤツらです。皆」
ペトラ「……そう」クスッ
オルオ「……ペトラ。お前、ようやく落ち着いたな」
ペトラ「はい。もう大丈夫です。昨日は失礼しました、兵長」
グンタ「早いな……」カチャカチャ
エルド「タフだな」モグモグ
ペトラ「それで、兵長。オルオにも昨日話したんですが、二人がこうなったのには、何かきっかけがあると思うんです。お心当たりありませんか?」
オルオ「俺も考えてるが……ねえな」
ペトラ「こんなわけ分からない事態ですから、きっかけ然としたものではないかも知れません。些細なことでいいんです。私も考えてみます」
オルオ「ああ」
リヴァイ「……昨夜とは随分態度が違うじゃねえか。ペトラ」
ペトラ「オルオが兵長の身体でなきゃ力づくで吐かせるのに……」
バタンッ!
「おっはよー!!」
オルオ「」
エレン「お、おはようございます」
ハンジ「おはようエレン!」
ハンジ「いい朝だねー! つーか良い匂い!」
ハンジ「さすが精鋭班の朝食は豪華だねー。私なんか今朝は机の端っこに転がってた堅パンと飲み残しのお茶だったよー。まあ大体いつもそんな感じだけど」
オルオ「うるせえのが……いや。面倒なのが来やがった……」チッ…
ハンジ「おっ! 今日のオルオはまた一段と気合い入ってるね~。リヴァイかと思っちゃった」
リヴァイ「……おい、クソメガネ」
ハンジ「おはよ。リヴァイ」
リヴァイ「朝っぱらから何しに来やがった。速やかに回れ右で帰れ。風呂入って出直して来い」
エルド「さりげなく日頃思ってること言ったな」ヒソ
グンタ「いいぞ、もっと言え…」ボソ
エレン「絡まれる前に食っとこう……」モクモク
ハンジ「何しにって、午前中にはエルヴィンが帰ってくるんだろ? 待ちきれなくって」
リヴァイ「てめえ……またろくでもねえこと企んでやがるな……」
ハンジ「とんでもない! 素敵なことだよ! あとオムレツひとクチちょうだい」
リヴァイ「誰がやるか。とっとと帰れ」
ハンジ「ちぇっ……ほら。ソニーと、ビーンが、死んじゃったろ……?」…グス
グンタ「何か始まったぞ……」
ハンジ「それで考えたんだ……壁外から定期的に巨人を調達する術はないだろうかと……」
オルオ「何故いきなりそうなる……」
ハンジ「1、2体じゃ今回のような闇討ちを許してしまう! もっと、大規模、いやせめて中規模のガーデンが必要なんだ!」
エレン「ガーデン……?」
ハンジ「ファームじゃ家畜みたいじゃない。だからガーデン。私とあのコ達の秘密の花園!」
オルオ「おい。誰かコイツを摘まみ出せ」
エルド「朝食が済んでからにさせてください。髪にパン屑のついた人間に近づきたくありません」
ハンジ「あはは手厳しい」
ハンジ「でね。それで昨夜、捕獲用の新型兵器の設計図案を描いたんだ。昨夜って言うか、ついさっきまで描いてたんだけど。あああ……エルヴィンが予算を都合してくれたら、すぐにでも取りかかりたいなあー」キラキラ
リヴァイ「キラキラじゃねえ、失せろ。クソメガネ」
ペトラ「」イライライライラ
エレン「ペトラさんは何を苛立ってるんでしょうか」ヒソ
エルド「オルオがここぞとばかり物真似に励んでるからだろうな」ヒソ
グンタ「まさか兵長はそんなこと言わないなんて言えないからな……」ヒソ
エレン「なるほど……」ヒソ
リヴァイ「とにかく目障りだ。出直せ。ついでに風呂に入れ。そのウザい髪洗って来い」
ハンジ「……風呂」
ハンジ「それも昨夜考えていたんだ……」
ハンジ「いや。私は常々考えていた」
オルオ「馬鹿か。考える間があったら顔でも洗え」
ハンジ「違うよオルオ。私のことじゃない」
ハンジ「どうして巨人は風呂に入らずにいられるんだろうか」
ハンジ「人間に限らずあらゆる生物は新陳代謝を欠かさない。体毛は抜けては生え爪は伸び種族によっては歯も伸び、表皮は垢となって新たな組織に入れ替わっていく」
ハンジ「人間はそれら老廃物をしばしば入浴によって落とすけれど、同様の習性は動物や昆虫にも見られる。毛繕いや脱皮、砂浴びや水浴びなんかでね」
ハンジ「でも巨人にはそうした行動が見られない」
ハンジ「そもそも食事を取らないとされる巨人にとって老廃物とは何だろう」
ハンジ「私達の身体は日々こうやって栄養を摂取している。動物は草から、草は土と水から。だからこそ新たな組織を作り、古い組織を排泄することで新陳代謝をなしていける」
ハンジ「つまり食事の必要がない巨人という種族と新陳代謝とは根本的に性質が合わないわけだけれど」
ハンジ「では巨人の体は新陳代謝が行われないと仮定すると、これもまた明らかに不自然だということが言える」
ハンジ「そもそも100年前から……」
オルオ「」ガタッ!!
ハンジ「おっ、どしたのオルオ」
オルオ「」ガシッ
ハンジ「え?」ズル
オルオ「」ズル ズル ズル
ハンジ「え え え」ズリ ズリ ズリ
オルオ「」ドカッ!
ハンジ「え」ドテッ
バタンッ!!
……ドンドンドンッ!
オルオー! チョット オルオー! ドンドンドン!
オルオ「……」
オルオ「……で?」
オルオ「オルオ」
リヴァイ「……は?! はい?!」
オルオ「……いつまで、豆を皿の端に集めておくつもりだ?」
リヴァイ「」
リヴァイ「」ダラダラダラダラ
リヴァイ「……」……パク…パク…パク…
ペトラ「…………頭イタイ……」ハァ…
エレン「絡まれなくて良かった……」モクモク
このSSまとめへのコメント
すっごい面白かったです!!全然想像できないケド・・・ぜひまた書いてください!!兵長サイコーーーーー!!!
ちょっとーっw最高なんでまたかいて下さい!