朝日奈「さくらちゃんのバカァ!」さくら「我の台詞だ!」 (67)

 ダンガンロンパの二次創作SSです。

※注意※物凄いネタバレなので、見る人はゲームをクリアしてからをお勧めします。


 はじめてのSSなので、拙いところもあるとは思いますが
よろしくお願いします。

 基本的に、地の文=苗木の主観で書いていきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376803962

 希望に満ち溢れた学園生活。
モノクマなんて知らない、コロシアイなんて知らない。
そんな幸せな学園生活が。

 僕らにはあった…。
これは、『希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件』よりも少し前の。
僕たちの、2年生の夏の。とある昼休み。


朝日奈「さくらちゃんのバカァ!」
さくら「我の台詞だ!この分からずやめ!」

 クラスに響く怒号。
朝日奈さんと大神さんが珍しくにらみ合い、拳を握りしめていた。
朝日奈さんが顔を真っ赤にして大神さんに怒鳴っている。
とても異様な光景だった。


葉隠「なななな!何だべ!?突然びっくりだべ!」
舞園「どうしたんですか?仲の良い二人が喧嘩なんて!」


 クラス中がどよめく。皆が各々で顔を見合わせる。
それほどまでに、今目の前で舌戦を繰り広げる二人が、皆は信じられなかった。


 そもそも。
 2人は本当に仲が良い。
簡潔に言うなら、大神さんと会いたければ朝日奈さんを探せばいい。
そう言えるほど二人はほとんどの時間、一緒に行動する仲なんだ。

 同じクラスの皆もそう認識しているからこそ、戸惑いを隠せなかった。

十神「おい、苗木。なんとかしろ。食事が出来ん!」
苗木「えぇっ!僕!?」

 不意に十神くんが僕を睨みつけた。
多分。十神くんも心配なんだと思う。でも、正直彼がここで仲裁に入るのは『キャラ』じゃない。

そんなときに便利なのが僕。なにかとこういうパシリ役をやらされる。
まあ、それが僕の『キャラ』って奴だと自負してる。
そんな感じで、十神クンに背中を押されるような形で、あの二人の仲裁へ行く。


 でも、実際僕も気になることではある。
なんで、そんなに喧嘩しているのかっていう、理由が。

苗木「ちょっと落ち着いてよ朝日奈さん!大神さんも!」

 僕は小走りで朝日奈さんと大神さんの間に入った。
正直、大神さんの怒った顔を見た瞬間、死を決意したけど…。
それどころじゃない。クラスの友達同士が言い争っているのに傍観できる性分じゃない。


苗木「ねえ、なんでそんなに二人とも怒ってるの?理由を聞かせてよ!」


 朝日奈さんが、涙目になりながらさくらちゃんを指差す。そして、大きな声で叫んだ。


朝日奈「さくらちゃんが私にデブって言った!」
山田「ビクッ」


 ん?

 

さくら「そんな事言っておらぬ!我はただ…朝日奈の食事には偏りがあると注意しただけだ!」



 ん…。ん?話が呑み込めない。いや、多分単純なことなんだ。単純すぎて頭が否定しちゃうんだ。
実際『そんな事で』ってレベルにしか聞こえないんだから。本当に、『そんな事で』程度なのか?



朝日奈「だって!だってだって!さくらちゃんが私の素敵なドーナツタイムにくぎを刺すんだもん!」

さくら「だから!ドーナツばかり食べているぞ糖分の過剰摂取になると!
【太るだけではすまなくなるぞ】と注意しただけだ!」

朝日奈「あー!ドーナツまで馬鹿にした!ホントサイッテー!」

さくら「ぬうぅぅ!馬鹿になどしておらぬ!いくら我でも…。いくら朝日奈といえど、耐えられぬ!」

朝日奈「バカァ!さくらちゃんの大馬鹿!謝ってよ!私とドーナツに!」

さくら「ぬかせ!朝日奈を心配した我が悪だというのか!」


 う…うん。やっぱりこの喧嘩の理由は単純だ。
つまり…。大神さんが朝日奈さんの…『ドーナツ化現象』を邪魔しちゃって。
更に朝日奈さんが気にしている体型の事を言われてカチンときた。
確かに年頃の女性ならちょっと敏感になるところかもしれない。
でも、だからこそ大神さんは朝日奈さんのことを思って心配したんだ。

 あー。どうしよう。コレ、どっちも悪くないパターンの喧嘩じゃないか!

朝日奈「ワーコラ!ギャーコラ!ワギャン!ワンワン!あーだこーだ!」
さくら「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!」

 やばい。これは血を見ることになりかねない…。
どうしよう。こんな時。どうすれば…。
どうすれば止められるんだろう!
力づくなんて無理だし、落ち着かせるにも二人とも頭に血が上ってるし…。

 何か…何か…【閃け】!

苗木「そうか分かったぞ!」
朝日奈「えっ!?何?どうしたの苗木!いきなりビックリするじゃん!」

 大きく目を見開いて朝日奈さんが肩を強張らせた。
ちょっと萌えた…。いや、今はそれどころじゃない!

うん。この二人をいい形で止める方法を思いついた!
これしかない。

苗木「ねえ、二人ってさ。その…。【格闘家】と、【スイマー】だよね」

淡々と、しっかり語りかけるように。
例えるなら、狼狽する殺人犯を宥めるような口調で喋る。

さくら「うむ」
朝日奈「え?うん…」

苗木「じゃあさ。こんな言い争いをするよりも。他にもっといい戦い方が、あるんじゃないかな…。
…………そう。【スポーツ】だよ!」


朝日奈「スポーツ…?」

喰いついた!でも、焦るな。少しずつ、まず二人の温度を下げるんだ。


苗木「うん。朝日奈さんが怒ってる理由も分かる。大神さんがそう言った理由もわかる。
でも、だからこそ。言い争いじゃあ平行線だと思うんだ。
なら、他の方法で優劣をつけるしかない。それが【スポーツ】だよ。負けたほうが勝ったほうに謝る。どうかな?」

 息をのんで二人の回答を待つ。ここでどちらかにちゃぶ台を返されたらお終いだ。

さくら「ふふ…。面白い。我が負けるはずはないがな」
朝日奈「いいよ!楽しそうじゃん!」

 よし!乗ってくれた!これで流血事件は起きなくて済んだ!


朝日奈「あ、でも水泳以外だよ!私の一番得意なスポーツだとさくらちゃん勝ち目ないだろうし?」
さくら「そこは素直に認めよう。流石に我とて、超高校級のスイマーと呼ばれる朝日奈の土俵で勝てるとは思えぬ。
ここは公平な勝負ができるものがいいな…」


なんだかんだ喧嘩しててもやっぱり仲が良いんだな二人は。
うーん。でも公平な勝負か。そこまでは考えていなかったな…。
何か…ないかな…。



霧切「トライアスロン…というのはどうかしら」

 霧切さん!?え…?
クールに壁にもたれかかって流し眼で見つめてくるけど。
なんか凄いノリノリだ…。


苗木「あ、うん。でも、なんでトライアスロン?」

 素朴な疑問を問いかけてみる。
霧切さんは口角をあげて笑った。
なんだか、僕にはそのニヒルな笑いが(待ってましたわ!その質問!)と、テンション急上昇の照れ隠しに見える。


霧切「このスポーツ選びには。2つ、問題があるのよ」

なんだか意気揚々としゃべり始めた。
ちょっと黙って聞いておこう。


霧切「1つは、2人だけで行うスポーツは水泳を抜けばマラソン、格闘技、武道等。
あまりにも大神さんが有利になってしまうわ。

そして2つ目。それは複数人で行うスポーツを選択した場合。
例えば野球は、桑田君の入ったチームが勝ってしまって、二人の勝負と言い難い。

故に。それら2つを解消するスポーツ。
複数人で行い、
かつ。
あくまでも彼女達以外のチームメイトは補助であり、最終的な決着をつけるのは朝日奈さんと大神さん。
それがトライアスロンだと思うの」


 霧切さん。今日始めてしゃべったと思ったら、物凄く饒舌だ…。
ずっと思ってたけど、霧切さんって。
クールなオーラまとってるけどこういうお祭り的な雰囲気だいすきなんだろうな…。

言ったら怒るから言わないでおk…
葉隠「霧切っち、クールなキャラ作ってる割にこういう祭りごと大好きだべ?」


 葉隠クン!?


霧切「……/////」


 あれ?霧切さんが反論せず腕を組んで黙った…。
可愛い…。
 あ、いやいや。そういう事じゃなかった。
霧切さんが、自分のキャラを壊してまで提案した道だ!
これを手離すわけにはいかない!

苗木「その案、とってもいいと思うよ。2人はどうかな?」

朝日奈「いいねいいね! じゃあ、3対3だね?私は勿論!水泳だよ!」
さくら「では、我もあえて水泳を選ばせてもらおう」

 二人とも喧嘩のときの『にらみ合い』から、【ライバル】って言った感じの目つきに変わった。
うーん。
当初の予定はいい感じに話を逸らせて、朝日奈さんが「あれ?なんで喧嘩してたんだっけ?」
とかなる事を想定していたのに…。

まあ、いっか!


大和田「面白そうな事になってきたじゃねーかア!
おいオーガ!俺もいっちょまぜろよな!」

うん。だよね。このクラスには、こういう【勝負】って言葉に弱い人が多い。
複数人の対決ってなっても人員には困らなそうだ。
これで大和田君が大神さんの味方に付く。

あ、ということは…。

石丸「兄弟が出るというのなら!この僕も立候補しようではないか!」


だよね。これで大神さんのチームは
大神さん・大和田クン・石丸クンの3人。


桑田「朝日奈!俺に手伝わせろよ!俺マキシマムカッケー活躍みせちゃうぜぃ!
ホラホラ!むくろちゃんも一緒に楽しもうぜ!こっち側でさ!」

むくろ「……え?何の話?え?え?」


桑田クンと…戦刃さん?こういう事にはあんまり参加しそうにないタイプなのに。
いや、寧ろそんなタイプなのに桑田君が無理やり誘ってる。
戦刃さん。お昼御飯に夢中すぎてこの一部始終を全部スルーしてたみたいだし…。

桑田クンも、ただ女の子に囲まれていたいだけって気もするけど…。

でも、スイマーと野球選手と軍人。

朝日奈さん側のチームも、ポテンシャルじゃあ大神さんのチームに負けてない。


 なんだか僕まで楽しみになってきた。


キーンコーンカーンコーーーン

朝日奈「じゃあ、放課後だね」
さくら「ああ、我が勝ったら、しっかりと我の忠告を耳に入れることだ」
朝日奈「そっちこそ、私が勝ったら謝ってよね!」



 そんなこんなで、この怒涛のお昼休みが終わる……。
今日の放課後。なんだかすごく大変なことになった気がする…。

とりあえず。書き貯めたのはここまでです。

ここからは書いてアゲての繰り返しになるのでだいぶゆっくりになると思われ。
とりあえず続きの目標は夕方くらい。

期待ありがとうございます!

教師「えーでは。今日のHRは以上。あまり遅くならないうちに寮に帰りなさいよー」


 先生がいつも通り終業を知らせて教室を去っていく。
いつも…なら。
身支度を済ませて、帰ろうとした所に…
葉隠れクン辺りに掴まってカラオケとかに連行されるんだけど…。今日は違う。
皆がピリピリとした緊張を張っている。



「さて…そろそろ始めるか…」



 緊張を破ったのは、意外な人だった。

苗木「十神クン…?」

十神「聞こえなかったか?始めるかといったんだ。どうせお前たちは、場所の準備などしていないだろうからな?」


 十神クンは颯爽と教壇の前に立って、ニヒルに笑った。
お昼休みに見た霧切さんの笑いと同じはずなのに、彼のはどう見ても人を見下した冷めた笑みだ。

十神「そんな愚鈍なお前たちに、俺は興味があったので準備してやることにした!」

 そういうと、十神クンはパチンッと指を鳴らした。それに呼応するように。

ジェノ「あらほらさっさ~♪」


 腐川さ…いや、多分今はジェノサイダーの方だ。異様にテンションが高い。
ジェノサイダーは、十神クンの指に呼応して、黒板に大きな模造紙を張りつけた。


朝日奈「これは…?」
苗木「地図…?」


 十神クンはまた嫌な笑い方をしながら僕を指差した。

十神「言い出しっぺのくせに何もしないとはな!笑わせる。
これがこの学園をスタート地点に置いた場合のトライアスロンのルートだ!
海までが遠いから、順番はラン→バイク→スイムの順番だ。
スイム1.5km・バイク40km・ラン10kmのショートディスタンスだ。
ちゃんとルート上には十神財閥の人間がスタンバイしている。


別にお前たちのためじゃないぞ?勘違いするな?俺が興味あったからだ!」

 皆がポカーンと口をあけている。
【ツンデレ】とか言って女性陣が十神クンをからかうことは以前からよくあることだけど。
ここまで露骨なツンデレには…。
僕も返す言葉がない。


さくら「感謝する。十神よ…。我らのために…」
十神「何!?だからお前たちのタメにやttt」
朝日奈「ここまでお膳立てしてもらったらもう後には引けないね!」


 大神さんと朝日奈さんが凄く火花を散らしている。
十神クンの自己主張も、かき消されてしまっている。
小さく「ちっ…もういい!」といって自分の席に戻った十神クンはちょっとかわいそうにも思えた。
でも、入学当初に比べて十神クンは本当に丸くなった…。っていやいや。いまはそういうことじゃない。


ジェノ「あー。そーいうワッケでぇ~!まず走るヤツからなんで、
    泳ぐヤツとチャリのヤツは校庭のお車で中継地点に行っちゃってくださ~い。
    って白夜様が言ってたー。
    ゲラゲラゲラゲラ!まじ白夜様ツンデレー!萌えるぅぅうう!」


もう、十神クンの事は許してあげて…。


ジェノ「あ、撮影もしっかりやるみたいだからぁん、
    観覧する引きこもり共わぁ!
    視聴覚室に移動してくだっさぁあい!」


朝日奈「絶対に負けないんだから!」
さくら「それはこちらの台詞だ!」

大和田「バイクの相手はオメーか?ああ!?暴走族なめんじゃねーぞ!?」
桑田「バイクじゃなくてチャリだろこのリーゼント!!元野球部の脚力見せてやるよ!」

戦刃「えっと…。その…。よろしくね。石丸君」
石丸「ああ!こちらこそ!正々堂々、スポーツマンシップにのっとった走りをしよう!」



 それぞれが火花を散らす。
超高校級同士の真剣勝負なんて、正直お金を払ってでも見たい勝負だ。
正直、興奮が抑えきれない。

十神「そうか。ああ。分かった。
朝日奈たちがスイムのスタートラインにつき次第始める。
石丸と戦刃にはそろそろと伝えろ…」


 十神クンとインカムで十神財閥の人が話し合っている。
一朝一夕で作り上げたコースにしてはかなり凄い仕上がりだ。これも。
【超高校級の才能】故なのかもしれない…。

 それとは別に…こっちはこっちで変な盛り上がりを見せている。
皆、元々インドアな人間だからなのか、本当にただのスポーツ観戦のノリだ…。



山田「やはり朝日奈葵殿の勝利でござろう!スイマーの名に恥じぬ勝利をおさめる!」


ジェノ「ゲラゲラゲラゲラ!オーガちんにはモンドたんがいるだろーがよぉ!
    その時点でオーガちん圧勝だっつの!ホルスタインはビービー泣いて負けんのよぉ!」


葉隠「俺の占いではぁあああ!オーガが勝つべ!」



舞園「私は、仲の良い朝日奈さんを応援したいところですね」


江ノ島「残念な…お姉ちゃんが…いる……時点で…
    うぷぷぷぷ。朝日奈ちゃんに勝ち目はないんだよー!
    結論を述べますと、大神さんのチームが勝つことは、確定的に明らかです。はい。」



 どうやら、どっちが勝つか言い争っているみたいだ。


セレス「さあ、決まった方からお入れください。お入れください」

 あれ?セレス…さん?
一体何をしてるんだろう。目安箱みたいな木の箱を持って。皆に向けて。

皆はその箱に紙を入れてる…。あれ、他にも何か入れてるみたい…。
ん?お金!?


苗木「ちょっとセレスさん!?何やってるの!?」

セレス「あら。苗木君。あなたも賭けますか?一口1000円からですわ」

いや、多分こうなるんじゃないかっていう予想は粗方付いていた。
でもでも、元はと言えばただの喧嘩の決着だよ?
しかも僕たちまだ高校生だし、こんな堂々と賭博なんてしてちゃ駄目じゃないか


苗木「それは違うよ! 高校生なんだしギャンブルなんt」
セレス「……死にたいですか?」

 殺気を感じた。
セレスさん。最近になって素が出るから怖い。指についてる爪みたいなので本当に喉元刺されそう…。


苗木「いや…。うん。なんでも…ない。」

僕って弱いな…。ってつくづく思う。
威圧されると本当に委縮しちゃって何もできなくなる…。

セレス「学園中を回ってましたの。多分30くらいは集まったんじゃないでしょうか?」

苗木「え…?もしかしてそれ全部盗む気じゃ…」
セレス「そんなことしませんわ。わたくし。ギャンブラーとしてのプライドがありますのよ?」
苗木「あはは。そうだよね…(ホントかな…」

でも、超高校級の【ギャンブラー】って言われるセレスさんが。
普通にギャンブルに楽しむワケないんだよね…。
絶対裏がある。

でも、それを探っても僕は絶対に得はしないから…。そっとしておこう。





十神「そろそろ始めるぞ!」

 十神クンのその声に、皆画面の方へと向き直った。

 今まで話していた皆が黙り込んだ。食い入るように画面を見つめる。
画面に写された、石丸クンと戦刃さん。


 いま、横に立つ黒服の人が。ピストルを構えた。




 始まる。
意地のぶつかり合い。

意志のぶつかり合い。

プライドのぶつかり合い。

超高校級の才能のぶつかり合い。



朝日奈さんと、大神さんのぶつかり合い。



トライアスロンが…。

感想、乙、ありがとうございます

ごめんなさい。
ちゃちゃっとレースを始めたかったんだけど。
セレスと十神が出しゃばってきてしまった…。

次から本編なので。また数時間、書けしだい投下します。
ご飯とかで遅くなるかも…。

石丸「そ…そろそろろろ…はじ…はじ…まる…のか……」

むくろ「え?石丸クン。もしかしてもなくて緊張してるよね?」

石丸「あ…ああ…兄弟はおろか。僕の走りによって大神くんの命運まで握っていると考えると……」

むくろ「命運って…。戦場じゃないんだから…さ…」

石丸「何を言う!戦場ではないか!大神くんと朝日奈くんの戦いの場だ!
   確かに銃撃戦や流血はないが、これも立派な戦場だ!
   僕は走り続けるぞ!兄弟にたすきを渡すまで!」

むくろ「(戦場…)…そっか。
    ……そうだよね。うん。じゃあ…私も。本気だすね!」


黒服「はい…。承知いたしました…。
   それではお二方。開始の銃声を鳴らさせていただきます。
   それを合図に10kmを走破してください」







葉隠「あっちゃー。戦刃っちに戦場とか言ったらダメダメだべ。
   戦刃っち本気だしちまうべ!」

霧切「確かにそうね。でも、石丸クンもその会話のおかげで緊張が解けたみたいよ?
   あの顔、覚悟を決めた顔よ…」

 霧切さん…。本当にノリノリだ。多分漫画だと【キリッ】って入りそうなくらいに。

山田「うーーーーむ。しかし緊張しますな…。
   戦力差がこれほどまでに圧倒的な二人…。どうなることやら…」




 黒服の指に力が入っていくのが、画面越しに分かる。
銃声が鳴る…。それが近づくたび、僕の鼓動も早くなる。


黒服「いきます…3…2…」


石丸「…ゴクリ…」
むくろ「……」




黒服「1……」






パァン!!






二人が一斉に地面を蹴った!

十神「ランコースは直線1キロ、あとは山のふもとを沿うように9キロの平坦な道のりを選んだ。
   純粋なスピードと持久力の勝負だ…が…
   何…だと…馬鹿な…!!」


 十神クンがモニターを2度見して、唖然とした。
いや、そもそも皆が唖然とした。


 ありえない。



 戦刃さんは速かった。流石軍人。肩を一切動かさず、風のように走っている。
でも、その速さは異様と呼ぶほどではない。確かに速いのだが。人のレベルの範疇だったんだ。
僕たちが驚いたのはもう一人の選手の方だった。


葉隠「開始1分も経ってねーべ!ウソだろ!」


 石丸クンだ。彼は100m位を全力疾走したかと思うと、口をあけ、大きく肩を上下させながら走っている。
端的に、『バテて』いた…。


山田「うむむむ…。颯爽と立候補したので、インドア人間の割に実は走れるんだぜキャラかと思っていたが…。
   とんだ見込み違いじゃないかぁあああ!」


ジェノ「えー!きよたんダメダッメじゃーん!これは萌えねーわ…」




『石丸「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…クソォ!うぉおおおお!」』


苗木「石丸クンまたスピードを上げてる」


十神「長距離走において、一番疲れる走り方だな…」


ジェノ「もー駄目だわ。完走できるかどうかも怪しいラインだわ…」



 皆、悪態をつきながらため息を交わらせる。
あまりにも戦力差が膨大すぎる。
水鉄砲がグレネードランチャーに立ち向かうようなものだった…。



ん?
ちょっとした点に僕は気付いた。
些細だけど、大きな着眼点。

苗木「待ってよ…。ねぇ、石丸クンのスピードってさ…。
   確かに彼は。100m走っては100m休む。っていう、疲れる走り方をしているかもしれない。
   でも、絶対これだけは間違いないんだ…。
   ホラ、よく見てよ」


皆、僕の言葉で気づいてくれたようだ。石丸クンの【超高校級の才能】に…。



 彼は、【風紀委員】。
すなわち。ルールは絶対に破らない人間なんだ。
例えそれが、【自分自身に課せたルール】でも。


苗木「石丸クン。言ったよね。
   『僕は走り続けるぞ。兄弟にたすきをつなぐまで!』って…。
   だから、絶対に歩かない。歩きそうになったところで彼は逆に踏ん張ってスピードを上げる…。
   それが彼の、石丸クンの『才能』なんだ!」


ジェノ「たぁしかに!きよたんバッテバテだからよく見てないけど。
    結果的に人並み以上に速いじゃーーーーーん!!これ凄くね!?きよたんヤバくね!?ゲラゲラゲラ!」




 でも、駄目なんだ。確かに石丸君はすごい…。でも、これは勝負。
対戦相手が存在する。いくら石丸君が頑張ったところで…。

相手は【軍人】それも超高校級の…。

多分。もう…中間地点くらいには…。



十神「なん…だと!おい!見ろ!」



 十神クンが狼狽して別のモニターを指差す。
それは、大和田君と桑田君が待っている中継地点の映像。


『大和田「おいおいおい!どうなってんだよゴルァ!」』
『桑田「えー!?そういうのアリになっちゃったん!?それ色々マズいっしょ!」』



 戦刃さんだ…。
戦刃さんがもう、中継地点のカメラから見える位置にいる。

 でも…。
ルート通りの道ではなく、山を下山する形で…。


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!
ダダダダダンッッッッッ!!!


むくろ「ふぅ…」

 山から戦刃さんが降りてきた…。

桑田「え…?どっから来たの…?むくろちゃん…」

むくろ「ん?山だよ?
    だって山の周り回るより突っ切った方が速いから…」


江ノ島「っとに…残姉ちゃん…アホかよ…」


桑田「むくろちゃん。トライアスロンってわかる?むしろマラソンしってる?」
むくろ「うん!戦場だよ!」


葉隠「これは…マジモンのバカだべ…」
山田「お主に言われたらもう末期ですな…」


十神「ゴニョゴニョ」
黒服「え…あ…はい…」


黒服「あの。戦刃様…」
むくろ「はい?」

黒服「ルール違反なので、スタートからやり直してください…」
むくろ「………え?」

黒服「えっと、我々が引いた白線の上がルートです。そのルート通りに走り、
   同じ距離を走破した時の優劣を競うので、これは違反となります…」


むくろ「えー……そんな……」



江ノ島「苗木さんよ…本当に私様のお姉ちゃんフェンリルにいたであろうか?
    そっこーんとっこーどうおもっちゃう感じー?
    正直…妹として…はず…かしいです…」

苗木「僕に聞かれても…」




桑田「とりあえず!むくろちゃん!もっかいスタートからやり直し!!!」

むくろ「え?え?え?…あ。うん。わかった!」

石丸「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ウォオオオオオオ!」
石丸「ヒギィ…ヒグゥ…ウァアアアアアアア!」

石丸(今、一体…何キロだ……戦刃君とは…どれだけ離れているのだ…。
  このままでは…兄弟に…顔向けできない…。
  ああ…駄目だ…意識が…とおの……)

石丸「ウオォォォォォオオオオオオオ!!」



葉隠「おいおい!このままだと石丸っちマジで死んじまうべ!
   かけっこで死人が出るとか前代未聞だべ!世紀末だべ!」

山田「なんまいだ~!なんまいだ~!」



石丸(もう…前が…見えない…無理だ………




  いや…駄目だ……………これでは駄目だ…



  自分の課したルールすら守れない人間が…。
  誰が……風紀を守れるというのか…


  でも…今の僕は……そのルールを破ろうとしてしまう……


  そうするとルールを守るのは誰になる…?
  風紀を守るのは誰になる………・・・・・・



  風紀を…


  風 紀 を 守 る の は……)



石丸「僕だぁあああああああああああああああああ!!!」

苗木「見えた!中継地点から石丸君が!
   あと1km前後!」

葉隠「がんばれ!あとちょっとだべ!」

江ノ島「あ、あのマリオカートのキラーみたいなの。残姉ちゃん…」

山田「ぎゃぁああああ!あれは殺す目だ!あの戦刃むくろ殿の眼光が青白く光ってるぅうう!」


霧切「残り300m!戦刃さんが抜いたわ!」


戦刃さんのスピードはとても速く、最初のスタートダッシュの比じゃ無かった。
逃げるよりも追う…という事なのだろうか。
獲物を追う狼のような鋭い眼光で、追いぬいた。


ランの勝者は朝日奈チームだ。


戦刃「ごめんなさい。朝日奈さんにも謝っておいて…」
桑田「勝ったんだったら文句ねーよ!任しとけ!高校時代チャリ通学の俺をなめんじゃねぇ!」


でも、その差はほぼないといってもいい。30秒から1分程度の差で…。


石丸「兄弟ィイイイイ!あとは任せた!大神クンにつないでくれ!」
大和田「おうよ!兄弟の魂はたすきで受け継いだ!そこで寝てな!」






 トライアスロン、2番手、バイクの開幕だった。

すいません。
改行とかの勝手が難しい…。
なにか読みづらいとかあったら言ってください。

次は大和田VSアポです。
日付変わった後くらいになら……

桑田「おらおらおらおらおらおらおらぁ!ひゃっほーい!」


 桑田クンが。
シャカシャカシャカシャカと、リズミカルに上り坂を自転車で走っている。
十神クンの情報によると、山を丁度1つ上り下りするルートらしく、のぼり側はほぼ一直線に7kmあって、そこから下り坂が急カーブもまじえつつの33km。
ただのスピード勝負ではなく、下りでどれくらいブレーキを我慢できるかが肝…。らしい。

 でも、流石は桑田クン。走攻守の3拍子揃った超高校級の【野球選手】だけはあって、リズムよく上り坂を駆け上がっている。

 そして、それに追いつこうと一生懸命に後ろから追い上げるのは大和田クン。
でも、少しずつ、見て分かる距離がゆっくりと離されていく。


桑田「口だけかよ!大和田! もうオメーがコメ粒くらいに見えるぞー!」

大和田「ほざいてろ…。後ろ見てしゃべる暇あったら!今のうちに差つけとけゴルァ!」

桑田「言うじゃねーか!ならこっちだって手加減なしのスーパーフルMAXでいっちゃうぜー!」


霧切「大和田君。目に見えて離されているのに、悔しがるそぶりすら見せないわね」

葉隠「多分。諦めたんだべ」

ジェノ「それはないない! モンドちんに限ってぇ、『諦める』なんて言葉!
    あったら私の萌えが消えるわ!
    モンドちんは男…否!漢なの!」

山田「うむむむ。言葉だけじゃ分かりにくい言い換えですね。わかります」


 うん。だって僕にも分かるよ。
上り坂が桑田クンに有利なのは一目瞭然だよ。
大和田クンが喧嘩に明け暮れる毎日でも、
スポーツという土俵では持久力で桑田クンに一歩及ばない。

 でも、下り坂は逆なんだよ。
多分。桑田くんも、気付いている。



葉隠「下り坂に入ったべ!」

桑田「こんくらい離しとけば十分かぁ?
   この下り坂、大和田はゼッテー俺より速い…。
   カーブでのブレーキのタイミング、体重移動。そんなん俺に分かるわけがねぇ!
   でも、大和田はきっと完璧のタイミングでそれをしかけてくる
   早いとこ下っちまうぜ!」



 桑田クンは丁寧に坂を下る。かといってあまりにも慎重って事ではない。
普通の速度だ。
異様な速度なのは。大和田クンの方なんだ……


 下りも後半の頃。桑田くんは振り向いた。


 風を切る自転車がいた。
いた。と思ったら。すでにぬかされていたんだ…。


桑田「マ…マジ…かよ…」

大和田「…………」

桑田「アイツ…【一切ノンブレーキ】で下り続けてんのかよ…。
   そりゃ反則だろうよ…忍耐力とかじゃあねぇ、恐怖がねーのかよ…」



 ビュンビュンと風を切る。自転車なのに、それは2輪車のようだ。
桑田くんとあった差は、綺麗に反転し、逆転した…。

 ―桑田と大和田の順位が入れ替わる少し前―


さくら「そろそろ大和田は、着くころだろう…」

朝日奈「ふんだ!戦刃ちゃんと桑田をなめないでよね!
    こっちだってそろそろだもん!
    むしろそっちがそろそろならこっちはもうすぐだよ!」

さくら「なにをそんなに意地になる…。まあ、我とて同じか…」

朝日奈「ふんだ!いくらさくらちゃんだからってドーナツを馬鹿にしたのは許さないからね!」

さくら「されど…。我もその場しのぎで謝罪はしたくないのでな…」

朝日奈「やっぱり!泳いで決着つけるしかないみたいだね!
    桑田くんの方が先に来ても文句言わないでよ?」

さくら「ん? ふふ……」

朝日奈「何がおかしいのさ!」

さくら「前を見ろ…」

朝日奈「あ…大和田……!」

大和田「ドラァアアアア!オーガ!兄弟の血と涙のたすきだぁあ!
    いっちょぶちかませェエエエ!」
さくら「かたじけない。大和田よ…」


朝日奈「桑田は!?」

大和田「丁度今山を下った所じゃねぇか?あと5分もすればつくだろうよ!」

朝日奈「5分!?ちょっと桑田ァアア!もう!どんだけ遅いんだよ!もーう!」

苗木「圧勝…だったね。大和田クンの」

山田「いやー。かっこいい!頭文字D、自転車verとでもいいましょうか…」

葉隠「ん?何やってんだべ桑田っち!
   完全に立ち止まってんべ!」

 僕はモニターを見た。
そしたら、そこには確かに立ち止まっている桑田くんがいた。
しゃがみ込んで、何かを探しているようだ。


葉隠「おーい!仮病かこんにゃろ!走り切るべー!」
山田「なんという卑劣な奴!元々大神さくら殿に買収されていたのか…!」


『桑田「おい…これって…アリだよな?」』

皆「?」

『桑田「ルート上をキッチリ移動してたすきを届ける競技だろ!?
こ う や っ て !!」』


 桑田くんが足元からつかんだのは、野球ボール!?
それにたすきをぐるぐる巻きにしたものを、700m手前から遠投した。


十神「戦刃も相当だとは思ったが…。
   桑田も相当の馬鹿だったとはな…
   
良いわけないだろ!」


 もちろんそこは【才能】だ。
700mの距離なんてものともせず。
しっかりと何度かバウンドして朝日奈さんの手元にたすきがいきわたった。


でも、どう考えてもコレ。ルール違反…だよ…ね?

十神「おい黒服!桑田自身にゴールまで走!」朝日奈「許す!!」


え?


朝日奈「スポーツには何が起こるか分からない!
    ナイス機転だよ!桑田!」


 十神クンが言い終わる前に、朝日奈さんはスタートしてしまった。

…………

……



苗木「ま…まぁ。いいんじゃないかな。
   今回の原因の朝日奈さんがOKしたってことはさ…」


十神「はぁ…もう知らん!」
霧切「十神クン…仕方のない事よ…。
   だって戦刃さんも桑田クンも朝日奈さんも。
   頭カラッポだもん…」


 霧切さん…。それはあまりにもひどいんじゃないかな…。
言いすぎとかじゃなく、あまりにも事実だから・・・。

 でも、これで最後。もう日も暮れてきた…。
スイム…。朝日奈さんが2~3分遅れでのスタート。
本当にこれ…どっちが勝つんだろう。

 っていうかそもそも…これ、なんでこんなことしてるんだろう…。

 皆、改行についてのご意見ありがとうございます。
 とりあえずここまで書いた。
 もう後は流れで書けそうだけど…。
 明日起きたら書きます。

朝日奈「1.5km…。20分…。ううん。もっとだね…」

 朝日奈さんが着水する。
大神さんは結構先にいるけど…。

朝日奈「手加減…しないよ!」


 すごく綺麗だった。
褐色の肌が、水をかきわけるようになめらかに動いている。
とても抵抗の無い体型には見えないのに。
彼女は尾ひれがあるかのようにスイスイと泳いでいる。

霧切「凄いわね…朝日奈さん。まるで人魚みたい」

葉隠「ばるんばるんしてるべ…」
山田「………拙者、トイレに行ってくるでござる」
十神「………」

大神「ヌオオオオオオオオオオ!」


 でも、先を走る大神さんも速い。
朝日奈さんを人魚。そう、柔の泳ぎと例えるなら。
彼女は剛の泳ぎ。

 海が割れる。
大神さんのバタ足が、モーゼのように海を切り開いている。


 遠目で見れば、魚雷を追いかける人魚だ。
これが超高校級の水泳…。

 【幸運】なんていう特別枠で入った僕には。
目の前のモニターで起こる事が、CGやアニメーションに見えてしまう程。
現実離れしている光景だった。

朝日奈「見えた。さくらちゃん…。
    でも、このまま抜かしたら、あのバタ足に巻き込まれちゃうよ…。
    折り返し地点を大回りする形で抜こう…。」


大神「ウヌゥウウウウウウ!」


 折り返し地点が見えた。
まだ差は埋まり切ってない。でも、縮まっている
朝日奈さんが軌道を変えた。大神さんのモーゼバタ足を避けつつ。
抜かすために折り返し地点を半周するようなルートだ。


 それにしても、スタートに比べて。大神さんのスピードが若干落ちている気がする。


十神「大神は、後半ますます遅くなる。
   体力の問題ではない。消耗するスピードが朝日奈と段違いだからな…」

霧切「ええ、そうね。彼女を作り上げる【筋肉】が、今は重りになってしまっている。
   抵抗力で人並み以上にパワーは必要だし」

十神「これは…勝負あったな」

霧切「そうかしら…。私にはそうは見えないけど?」

十神「何?」


ジェノ「……私の白夜様とイチャついてんじゃないわよ…あのクソアマ!」

大神「筋肉が悲鳴をあげている…。
   水泳とは、こんなにも体力が奪われるというのか」

 更に言えば、もう日も落ちている。
水も冷たく体温が奪われているんだ。正常な状態よりも。ますます体力の消耗は激しい。

朝日奈「ごめんね!さくらちゃん! この勝負もらったよ!」


 朝日奈さんが大神さんを射程距離に入れた。
後ろを振り向く事の出来ない大神さんも、気配で分かった。


 抜く、抜かれる…。
山田「抜く…」

 大神「む?」


 あれ?
朝日奈さんの動きがピタっと止まった。
いや、朝日奈さんが…。
いなくなった!


舞園「見て!朝日奈さんが沈んでる!」
十神「何があった!おい、黒服!何があった!」


霧切「…やっぱり」

苗木「やっぱり? そうか…。【肉離れ】だよ!」

十神「肉離れだと?超高校級と比喩される朝日奈だぞ?」

苗木「うん。でも皆。考えてほしいんだ。
   朝日奈さん。大神さんに今日怒られていたんだよね…。
   そんなにドーナツばかり食べてって…。
   いつもの朝日奈さんもドーナツを食べてるのに。今日に限って忠告したってことは。
   
   きっと。いつも以上に食べていたってことなんだ。
   更に、今は夏の海。想像以上に体温変化が激しい。
いつも以上なんだよ…。朝日奈さんにとって。
【糖分の過剰摂取】と【体温変化】。その要因で【肉離れ】しちゃったんだ!」



十神「クソッ…。救護班!朝日奈を救助しろ!」
霧切「その必要はないわ」

大神「朝日奈ァアアアアア!」
朝日奈「さくら…ちゃん?」


 大神さんが、180度方向を変えて、気付いたら朝日奈さんを抱きかかえていた。


大神「無事か!朝日奈!」

朝日奈「う…うん。大丈夫。
    でも、勝負…」

大神「今はそれどころではない!速く岸まで戻るぞ!」

朝日奈「え!?ちょっと!」


ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!


 それは…。
流石に…。
人間じゃあないと思うんだけど…。

ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!

 大神さん…。

水の上を走っている…。


葉隠「…………」
山田「…………」
ジェノ「…………」

 ドパパパパパ!!
ズザーーーーーーー!


 ゴール地点。
朝日奈さんを抱えた大神さんがゴールした。
黒服さんも、ポカンと口をあけたまま、勝利の銃声を鳴らすのを忘れていた。

大神「ハァ…ハァ…」
朝日奈「凄いねさくらちゃん…」
大神「友を…。朝日奈を助けたいという思いがあれば…。我は何でもしよう」

朝日奈「でも…。これじゃ勝負は私の負けだね…」

大神「何を言っている…。勝負は引き分けだ。
   同時にゴールしたのだからな…」

朝日奈「えー!?それは違うって!」

大神「そもそも。我が勝った時の言い分は、忠告を受け入れることだ。
   今回の事で、【糖分の取り過ぎ】の弊害を知っただろう…」

朝日奈「う…うん…。ごめんなさい…」

大神「いや、我も意固地になってた。
   朝日奈の愛する物。ドーナツをを貶してしまったのだからな。
   すまぬ…」

朝日奈「ううん。私の方こそごめん。
    ドーナツより大事なものがあるのに…。私気付いてなかったよ」

 モニターを見ながら。僕たちは惜しみない拍手を送った。
モニターに映る。
二人は、勝負を超えて何かを得ていた。


葉隠「うぅぅぅ。麗しき友情だべぇえ」

山田「戦いの中…。生まれる感情!人はそれを!敵と書いて友と呼ぶ!」

舞園「なんだか、素晴らしい映画を見たみたいです」

ジェノ「あっらっら~?なにこのいい雰囲気?」

江ノ島「はぁ…。ギリギリの勝利で言い争いになって…。あれは反則だとか喧嘩になって
    『結局!無意味なスポーツ大会になった!』なんていう…。
    絶望的なオチを期待してたっつぅのによぉおおおおおお!
    でもぉ、そういう落ちを期待したぁ、私の希望が失われたって意味ではぁ?
    ある意味これも絶望ですね…ゾクゾクします…」




霧切「所で」
十神「ああ。俺も言おうと思っていたところだ」

霧切・十神「これは一体なんのためにやったのだろうか…」

霧切「むしろ。石丸君が一番頑張った気がするわ」
十神「とんだピエロだな…」

大会が終わって 

―食堂―

 遊び疲れた皆で集まって、ご飯を食べながら僕たちは談笑した。

桑田「いやー。ビックリだぜ!
   帰ったらもう仲直りだもんよ!俺の努力はなんだったって感じだよ!」

大和田「アァア!? たすき投げるのが何が努力だ!兄弟なめてんのか!」

石丸「いや、兄弟。いいんだ。僕は称賛されるために頑張ったのではない!
   己の限界のために努力をしたまでだ!」


むくろ「ごめんね盾子ちゃん…。
    石丸クンに大差をつけて、絶望的な状況を作ろうと思ったんだけど…」

江ノ島「気にしないでください。
    あなたが私様の姉であるという事実がある時点で…。
    最高に絶望的ですから」

むくろ「…………ウルウル」

十神「ったく。面白くなると思っていたのに。
   結局は茶番だったな」

朝日奈「ちょっと!そんな言い方ないじゃん!」

苗木「あははは…。まあまあ。
   いいじゃんか。誰も損してないわけだし…」

葉隠「あー!」


葉隠「損と言えば損したべ!セレスの賭けだよ賭け!
   引き分けっつぅことは払い戻しだべ!返せ!」

山田「確かに。僕は2000円も賭けてましたからな!」

セレス「はて?何をおっしゃっているのですか?」

山田「え?」


セレス「私。賭けていましてよ?
    今回の勝負に。そう…『引き分け』ですわ
    あいにく。私しか賭けておりませんでしたので…。ごめんなさい。
    全額いたただきますわ」


葉隠「ちょっと待てぇえ!証拠見せるべ!証拠!!」
山田「納得いきませぬぞぉおお!」
セレス「あー!うるせぇ!三下ァ!」

ギャーギャーギャー!



 こんな学園にいると。
起こる事すべてが規格外だ…。
発端は、どこにでもあるクラスメイトの喧嘩なのに…。
こんな皆とともに過ごしていると…。本当に楽しい。

2年の夏休み。もう学園生活も折り返しか…。

 ずっとずっと…。
こんな幸せな時間が続けばいいのにな…。

霧切「ふふ…そうね」
苗木「え?霧切さん!僕…。声に出てた?」
霧切「エスパ…ゲフンゲフン。
ええ、ばっちり聞こえてたわよ」
苗木「もう…。でも、本当に飽きない学園生活だよ」

大神「朝日奈よ…」

朝日奈「んー?」

大神「さっき言っていた、ドーナツよりも大事なものに気づけたとはなんだ?」

朝日奈「え!?いや…えっと…」

大神「言えぬというのか?」

朝日奈「あ、いや…そうじゃないけど。改めて言うと恥ずかしい…。
    その…。さくらちゃんだよ。ドーナツよりも大切なもの。
    私の大事な親友。さくらちゃん!」

大神「ふふ…。すまぬ朝日奈。答えが分かっていながら。
   直接言われたいばかりに、知らぬふりをしてしまった」




朝日奈「えー!何よそれ!
    もう…。さくらちゃんのバカ…。」

大神「ふふ…。我の台詞だ…。」


~完~

以上です。

ここまで読んでくれた人。ありがとう。
また近いうちに適当なSS書こうと思うので、またよかったら見てください。

ノシ

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