杉下右京「成歩堂弁護士」 (256)

某日 某時刻

成歩堂「ふう…」

王泥喜「今日も弁護士の仕事、来ませんね」

希月「そうですね」

モニ太「暇ダナー」

成歩堂「まあ、これが平常運転だよ」

みぬき「ただいまー!」

成歩堂「おかえり、みぬき。ショーの方はどうだったかい?」

みぬき「うん、大成功だったよ!」

王泥喜「…相変わらずこの事務所はみぬきちゃんが一番働いてるなあ」

みぬき「みぬきが頑張らないとパパたちを食べさせていけないもんね。みぬき、頑張る!」

成歩堂「ハハハ、有難うみぬき」

成歩堂(何時までもみぬきに頼るわけにはいかないよな、流石に)

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ガチャ

希月「あれ?誰か来ましたよ」

王泥喜「もしかして、久々の依頼人!?」

みぬき「やったね、パパ!」

???「ここ、成歩堂なんでも事務所で間違い無いですか?」

成歩堂「はい、そうですが」

???「弁護の依頼もやってくれるってのも?」

成歩堂「ええ、喜んで受けますよ(元々、法律事務所だしね)」

???「だ、だったら、俺の姉ちゃんを助けてくれよ!!」


久々に受けた弁護の依頼。
それが、まさかあんな結末を迎えるとは。
この時の僕たちには知る由も無かった。

成歩堂「…ええと、まずはあなたのお名前を聞かせて下さい」

???「俺ですか?俺の名前は海野内斗(うんのないと)と言います」

成歩堂「海野さん、ですか。それで弁護して欲しいのは、お姉さんでよろしかったでしょうか?」

海野「ああ、名前は海野良美(うんのよしみ)。たった一人の姉ちゃんだ!」

成歩堂「なるほど。それで、良美さんは一体今どういう状態なんでしょうか?」

海野「姉ちゃんは…姉ちゃんは警察に捕まっちまったんだよ!!」

成歩堂「警察に…。一体、どのような容疑で?」

海野「…母ちゃんを、殺したって」

王泥喜「ええ!?」

希月「お母さんを…」

海野「姉ちゃんは殺してない!![ピーーー]はずなんか無いんだ!!無実なんだ!!」

成歩堂「お、落ち着いて下さい、海野さん」

海野「ううっ…姉ちゃん」

王泥喜「ナルホドさん。この依頼、受けましょうよ!」

希月「私からもお願いします!…身内がお母さんを殺したと疑われてるなんて酷過ぎます」

みぬき「パパ!」

成歩堂「…分かった。この依頼、受けよう」

海野「ほ、本当ですか!?」

王泥喜「俺たちに任せてください!」

希月「絶対にお姉さんの無実、証明します!!」

海野「よ、良かったあ…。何処へ行っても依頼受けてくれなくて…ここが、最後の望みだったんですよ」

成歩堂「…それはどういう意味なんですか?」

海野「…それは、姉ちゃんに会えば分かります」

希月「では、留置場へ行きましょう!」

某日 某時刻 留置場

良美「……」

海野「姉ちゃん!!」

良美「内斗…」

海野「姉ちゃんの無実を証明する為に、俺、弁護士連れて来たんだ!!」

良美「そう…」

希月「良美さん!私たちにかかれば、あなたの疑いなんかすぐに晴らして見せます!!」

王泥喜「(希月さん、大きく出たなあ…)取りあえず、俺たちに任せてもらっていいですか?」

良美「…………無駄よ」

希月「え?」

良美「だって、お母さんを殺したのは…私なんだもん」

王泥喜・希月「ええっ!?」

成歩堂「…どういうことですか、海野さん?」

海野「姉ちゃん、ずっとこの調子なんですよ…」

成歩堂「しかし、あなたはお姉さんの無実を主張していますが?」

海野「姉ちゃんが母ちゃんを[ピーーー]なんて、そんな、そんなこと絶対にあるわけがないんだ!!」

成歩堂「う~ん…(参ったな、どうも確証があってのことじゃないらしい)」

王泥喜「ど、どうするんですか、ナルホドさん?」

希月「その、依頼人を疑うわけじゃないんですけど、本人が罪を認めてるとなると…」

成歩堂(確かに。いくら周りが無実だと主張しても、本人が罪を認めている。そうなると、そもそも彼女を弁護することが出来ないかも知れない。当の本人がそれを望まないのだから)

海野「姉ちゃん、考え直してくれよ…。姉ちゃんが母ちゃん[ピーーー]なんて、そんなの絶対に嘘だ」

良美「内斗、これは嘘ではないわ。お母さんを殺したのは私。だから、弁護なんていらないの」

海野「嘘だ!!!!!」

王泥喜「…………」

成歩堂「?どうしたんだい、オドロキくん。まさか、例の?」

王泥喜「…はい。腕輪が反応しています」


オドロキくんこと、王泥喜法介のしている腕輪には秘密がある。
その腕輪は相手の嘘に反応し、それを身につけているオドロキくんに教えるのだ。
無論、この腕輪を付ければ誰もが同じように相手の嘘を見抜けるわけではない。
彼の持って生まれた人の癖を見抜く能力と合わせることで効果を最大限に発揮する。


成歩堂「(オドロキくんの腕輪が反応している。ということは、彼女は嘘をついている。つまり、彼女は無実である可能性があるってことか)…良美さん」

良美「はい?」

成歩堂「あなた、何か隠していないですか?」

良美「何をいきなり…隠してなんか、いませんよ」

成歩堂(まあ、彼女はそう言うだろう。だけど、僕にも見えるんだよね。彼女のサイコロックが!!)


そう、僕にも彼と同じような能力がある。
ある人から貰った勾玉により、相手が抱えた秘密が錠前として見えるんだ。
そして、彼女…海野良美さんにもそれが見えた。


成歩堂(ただし、見えても解除するための証拠品が今は無い…)

成歩堂「(さて、どうしよう?取り敢えずは…)海野さん。事件について聞きたいんだけど」

海野「あ、そういえば、まだ弁護士さんたちには話していませんでしたね」


海野さんは事件について僕たちに話してくれた。
事件のあらましはこうだ。

海野さんの母、海野月子(うんのつきこ)さん(62)が一昨日の晩、遺体となって発見された。
遺体には包丁が突き刺さっており、一目で他殺体ということが分かった。
第一発見者は彼の父、海野常勝(うんのじょうしょう)さん(65)。
遺体の側で良美さんが泣いていたという。
良美さんは「自分が母親を殺した」と自首し、今に至るのだそうだ。


王泥喜「…ナルホドさん。どうするんですか?」

成歩堂「…確かに彼女には秘密がある。でも、それが何かは分からないし、それを証明する術も今は無い」

希月「つまり…お手上げってことですか!?」

成歩堂「…悔しいけどね」

海野「姉ちゃん…」

良美「内斗…気持ちは嬉しいわ。でもね、私がお母さんを殺したの。それが事実」

海野「そんなあ…」

成歩堂(このままじゃ、彼女は…)


???「あれ?先客がいる」

???「おやおや」


その時、部屋に二人の人物が入って来た。
紳士風な壮年の男性と若い青年だ。
一見すると親子のようにも見える。
どういう関係なのだろうか?そもそも、誰なのか?


???「…申し訳ございません。お見受けしたところ、弁護士の方々のようですねぇ。彼女の弁護を?」

成歩堂「ええ、そんなところです。それで、あなたたちは?」

???「これは申し遅れました。私、警視庁特命係の杉下と申します」

???「同じく甲斐です」


この二人との出会い。
それが、この事件において重大なターニングポイントであるということをこの時の僕らは気づかなかった。

本日はこの辺で。
では、また。

お待たせいたしました。
続き行きます。

某日 某時刻 警視庁


米沢「如何でしょうか?」

右京「…………」

甲斐「この写真がどうかしたんですか?これ、遺体ですよね?」

米沢「ええ、先日の海野月子さん殺人事件のものです」

甲斐「何処か不審な点でもあるんですか?」

米沢「いえ、何がとは言えないのですが、何となく気になってしまいまして」

右京「…確かに気になりますねぇ」

米沢「おお、やはり!警部殿ならそう言って下さると思いました!」

甲斐「へ?」

甲斐「特におかしなところは無いと思いますが…」

右京「ビニール紐…」

甲斐「え?…ああ、確かにビニール紐が写ってますね」

右京「気になりますねぇ」

甲斐「古新聞でも結わえようとしていたんじゃないですか?…っていうより、この事件既に犯人が自首していませんでしたっけ?」

米沢「ええ、被害者の娘である海野良美が自首し、この事件は一応の解決を見ています」

甲斐「それなのに気になるんですか?」

米沢「虫の報せとでも言いましょうか、長年鑑識一筋でやっていますと、時折こうピーンと来ることがありまして」

甲斐「それが、この写真?」

米沢「ええ。警部殿も気にしてくださり、今はホッとしています」

右京「米沢さん、海野月子さんの検死結果は出ているのでしょうか?」

米沢「ええ。体内からは微量ですが睡眠薬の成分が検出されています」

右京「睡眠薬…ですか」

米沢「海野良美の供述によれば、母親の苦しむ顔を見たくなかったから飲ませたそうです」

甲斐「まあ、筋は通っていますね」

右京「…なるほど。取り敢えず、会いに行くとしましょうか」

甲斐「会いにって、誰に?」

右京「海野良美さんにですよ。彼女は今、留置所にいる筈です」

某日 某時刻 留置所


甲斐「あれ、先客がいる」

右京「おやおや…。お見受けしたところ、弁護士の方々のようですねぇ。彼女の弁護を?」

???「ええ、そんなところです。それで、あなたたちは?」

右京「これは申し遅れました。警視庁特命係の杉下と申します」

甲斐「同じく甲斐です」

???「警察の方だったんですか。僕は成歩堂龍一。弁護士をやっています。それで、この二人はうちの所員です」

???「同じく弁護士の王泥喜法介です」

???「同じく希月心音です!」

甲斐「よろしく」

???「…………」

甲斐「それであんたは…ん?どっかで見た顔だな…」

右京「海野内斗。彼女の弟ですよ、カイトくん」

甲斐「ああ、思い出しました。米沢さんから見せて貰った資料に顔写真がありましたね」

???「……フン、警察に開く口なんか無いね」

右京「おやおや」

甲斐「態度の悪い奴だなあ」

右京「ところで…」

成歩堂「ん?」

右京「もしかして、あなた方はあの星成太陽さんの事件を担当していらした?」

王泥喜「え?ええ、そうですが…」

右京「やはりそうでしたか。被告人が完全不利と言われる中、見事に無罪を勝ち取ったのは記憶に新しいですからねぇ。それにあの事件はとても興味深い事件でした」

甲斐「事件はともかく、よく担当の弁護士のことなんて覚えてましたね、杉下さん」

右京「ええ、何度も資料を読み直しましたから」

成歩堂「そ、そうですか」

右京「あ、もしよろしければ、彼女へお話を伺ってもよろしいでしょうか?お時間は取らせませんので」

成歩堂「え?良美さんにですか?…いいですけど」

希月「ナルホドさん!」

成歩堂「ココネちゃん、このままだと何も進展しないよ。ここは一度彼らに譲ってみるのも手だ」

希月「そう、ですね。分かりました」

右京「感謝します。1分で終わりますので」

成歩堂「え?あ、ハイ」

良美「…………」

右京「初めまして海野良美さん」

良美「…………」

右京「一つ、お聞きしたいことがあるのですが」

良美「……何でしょうか?」

右京「あなたの現在の収入についてです」

良美「え?」

右京「昨年、あなたは勤めていた会社を辞められていますよね?そして、犯行当時は無職だった。もしかして、収入は殆ど無かったのでは?」

良美「……それが、何か?」

右京「あなたが両親と同居するようになったのは、3ヶ月前。つまり、3ヶ月前にはもう一人暮らしをする余裕が無かった。間違いありませんか?」

良美「……ええ」

右京「……分かりました。有難うございます。では、行きますよカイト君」

甲斐「え?あ、ハイ」

右京「有難うございました、成歩堂弁護士」

成歩堂「え?いや、それはいいんですけど…そんなこと聞いてどうするんですか?」

右京「ええ、今の彼女の証言で、事件の全容がおぼろげながら見えてきました」

王泥喜「ええっ!?」

希月「ぜ、全容って…」

右京「では、失礼します」

甲斐「あ、待って下さいよ杉下さん!」

甲斐「杉下さん、一体彼女の言葉の何がそんなに重要なんです?」

右京「おや、カイトくん。気付きませんでしたか?」

甲斐「生憎、杉下さんみたいな思考回路はしていませんので」

右京「犯行当時、海野良美は財政難に陥っています」

甲斐「そのくらいは分かりますよ」

右京「そう、それが今回の事件のポイントだと僕は睨んでいます」

甲斐「…まさか、金目当てに殺したってことですか?確かに彼女の供述にそんな発言は無かったみたいでしたけど」

右京「当たらずとも遠からず…といったところでしょうか」

甲斐「…どの道、彼女が犯人なら動機の違いなんてそんな大きな問題じゃ無いじゃないですか。第一、彼女自首してますし」

右京「そう。問題は、何故彼女は自首したのか。そこなんですよカイトくん」

甲斐「…ますます分かんねえや」

一旦休憩します。

某日 某時刻 留置場


警視庁特命係と名乗った二人が留置場へ訪れ、良美さんへ一つ質問をしただけで帰ってしまった。
そして、壮年の男性曰く、それだけで事件の全容が見えたと言うのだ。
僕たちは呆気に取られてしまった。


希月「な、何なんでしょうか、あの二人?」

王泥喜「変わった刑事さんだったなあ。番刑事とも全然違うタイプだし」

希月「もう一人の若い方は、何となくナルホドさんに似てましたね」

王泥喜「あ、確かに」

成歩堂「そ、そうかな?(そんな似ていたかな?)」




良美「…………ゴホッ」

成歩堂「!!ど、どうしたんですか、良美さん!?」

良美「ゴホッ、ゴホッ!!」

海野「ね、姉ちゃん!!まだ治ってなかったのかよ!?」

成歩堂「まだ…?」

海野「姉ちゃん、昔から病気なんだよ。何千万人に一人の珍しい病気らしくてさ」

王泥喜「そ、そうだったんですか」

海野「今は治療法はあるらしいんだけど…姉ちゃん、治療しなかったのかよ!?」

良美「ゴホッ、ゴホッ!!」

看守「む?イカン!おい、誰か病院へ運べ!!」


良美さんの急な体調悪化により、その場は騒然となる。
あの様子だと、体調を持ち直しても暫くは面会謝絶かも知れない。
僕たちは仕方なく事務所へ帰ることにした。

某日 某時刻  成歩堂なんでも事務所


王泥喜「…結局、良美さんの口から弁護の依頼を取れませんでしたね」

希月「残念です…」

モニ太「悔シイヨー!」

みぬき「どうするの、パパ?」

成歩堂「……このまま、引き下がるワケにはいかない。僕はそう思うよ」

海野「それじゃあ…」

成歩堂「ええ、順番は逆になってしまいますが、取り敢えず僕たちで可能な限り捜査をしてみようと思います」

希月「そうですよね!それでこそ…」

みぬき「成歩堂なんでも事務所!だね、パパ!」

王泥喜「そうと決まれば、まず何処から始めましょうか?」

成歩堂「そうだね…」

成歩堂「オドロキくんとココネちゃんは二人で事件について調べてくれないかな?事件の詳細を知れば新たな事実が浮かんで来るかも知れないし」

王泥喜・希月「ハイ!!」

成歩堂「僕は、海野さんと一緒に、彼らの父親、常勝さんに会いに行って話を聞いてくるよ。いいかな、海野さん?」

海野「ハイ!是非!!」

みぬき「じゃあ、みぬきは事務所でお留守番しているね!」

成歩堂「頼んだよ、みぬき」

みぬき「任せて!蟻の子一匹通さないから!!」

成歩堂「(流石に蟻の子だったら一匹くらいは入ってきちゃうだろうけど…)それじゃあ、行って来るよ!」


こうして僕たちは捜査を始めた。

本日はこの辺で。
では、また。

本日分は短めになりますが、続きを。

某日 某時刻 警視庁


伊丹「ああん?事件のことを教えて欲しいぃ~?」

希月「その、ダメですか?」

伊丹「何で弁護士に事件のこと教えなきゃなんねえんだ。ほら、帰った帰った」

王泥喜「…希月さん、やっぱ無理だよ。直接警察の人から聞くだなんて…」

希月「やっぱり、そうですよねー」

芹沢「そもそも犯人は自首しているし、罪も認めているからね。今更弁護なんか必要ないんじゃないの?」

三浦「お前たち、国選か?」

王泥喜「い、いえ違いますけど…」

伊丹「じゃ、とっとと帰るんだな。もっとも、弁護士に捜査情報を漏らすバカなんか、どっかの亀以外にはいないだろうがな」

希月「ちなみにその亀さんはどちらに?」

伊丹「もういねえよ。ほら、帰れ!」

希月「取り付く島もありませんでしたねー。あの刑事さんも凄く怖そうな人だったし…」

モニ太「オッカナカッター」

王泥喜「流石にバン刑事みたいな人はそうそういないか…」

希月「バン刑事…いい人だったんですけどね…」

王泥喜「うん……」

王泥喜&希月「……………………」

王泥喜「…仕方ない、こうなったら地道に調べていくしかないね」

希月「これからどうしますか?オドロキ先輩」

王泥喜「そうだな。まずは新聞の記事の確認からだね。もしかすると捜査情報の一部が掲載されているかも知れないし」

希月「じゃあ、図書館ですね!Let's Do This!」

同日 某時刻 某アパート


成歩堂「ここが良美さんたちが住んでいたアパートか…(凄く昭和な感じだ…見た目とか)」

海野「ハイ。都内でも一、二を争うくらい家賃が安いらしいです」

成歩堂「へー、そうなんですか」

海野「事件直後は流石に近くのカプセルホテルに泊まったらしいけど、今は戻ってる筈です」

成歩堂「そういえば、海野さん…内斗くんでいいかな?」

海野「あ、ハイ」

成歩堂「内斗くんは良美さんたちと一緒に住んでないの?」

海野「ハイ。俺は住み込みで働いているので、一緒には暮らしてはいないです」

成歩堂(つまり、内斗くんは事件を直接見たわけではないのか。これはますます常勝さんに話を聞かないといけないな)

コンコン

成歩堂「すみません」

ガチャ

常勝「…どなたですか?」

海野「父ちゃん!」

常勝「内斗?その隣にいるのは誰なんだ?」

海野「弁護士さんだよ。姉ちゃんの弁護を俺が頼んだんだ!」

常勝「弁護…?良美が依頼したんですか?」

成歩堂「いえ、正式な依頼は…。しかし…」

常勝「なら、帰ってくれ」

成歩堂「え?」

常勝「帰ってくれ、と言った。正式な依頼を受けていないなら、あんたと話す義理はない」

海野「父ちゃん!!」

成歩堂「常勝さん。内斗くんはお姉さんの…良美さんの無実を信じています。ですから、話だけでもお願い出来ませんか?」

常勝「断る」

成歩堂(どういうことなんだ?いくら自首をしたとは言え、自分の娘が裁かれるかも知れないんだぞ?)

海野「父ちゃん!姉ちゃんが母ちゃんを[ピーーー]なんて絶対に有り得ないよ!このままじゃ姉ちゃんは…」

常勝「あいつは…良美は俺の目の前で月子を刺したんだよ。俺はしっかりとこの目で見た!!」

成歩堂「!?(それ、凄く重要な証言じゃないか!!)」

海野「う、嘘だ…。姉ちゃんが…姉ちゃんがそんな…」

常勝「分かっただろ?良美は無実なんかじゃない。あいつは…人殺しなんだ!!」

成歩堂(実の娘を人殺し呼ばわりだなんて……。親ならば、庇おうとは思わないんだろうか?)

成歩堂(もしも良美さんが無実だと仮定すると、常勝さんの目撃証言が間違っているということになる……)

成歩堂(常勝さんの目撃証言が間違いだった場合、常勝さんは嘘を吐いたということになる。何故、嘘を吐く必要があるのか?)

成歩堂(……そんな、まさか。でも、そう考えると良美さんが無実を主張しないことの辻褄が合う)

成歩堂(…でも、これはあくまで僕の推測に過ぎない。何処にもそんな証拠は無いんだ)

常勝「帰ってくれ!」

海野「父ちゃん!!」

成歩堂(ここで帰るワケには…でも、どうやって話を聞けば…?)


「おや、また会いましたね。成歩堂弁護士」


成歩堂「!?(こ、この声は…)」

右京「常勝さんへ会いに来ている…ということは、もしかして良美さんの弁護を正式に依頼されたのでしょうか?」

成歩堂「杉下刑事!…あ、いえ、その正式に依頼は受けてはいません(今のところは…)」

右京「おやおや、そうでしたか。それでも常勝さんに会いに来た、ということは独自に調査なさっている?」

成歩堂「え、ええ。そんなところです」

右京「そうでしたか。あなたはとてもいい弁護士のようですねぇ」

成歩堂「そ、そうでしょうか?」

成歩堂「杉下刑事も聞き込みを?(まあ、それ以外にここへ来る理由は無いと思うけど)」

甲斐「……一応、俺もいるんだけどなあ」

成歩堂「あ、すみません。ええと、確か甲斐刑事…でしたっけ?(……別に似ていないと思うけどなあ)」

甲斐「よろしくお願いします」

右京「我々も彼に聞きたいことがありまして、ここまでやって来た次第です」

常勝「フン、警察にも話すことなんて何もない。帰ってくれ!」

右京「そう仰らず、質問に答えて頂けないでしょうか?お手間は取らせませんので」

常勝「大体、取調べなら散々受けた。もう聞くことなんて無いだろうが!」

右京「申し訳ございません。何分、課が違うもんでして」

常勝「フン!」

本日はこの辺で。
続きはまた後日。

またも短めですが、本日分投下します。

右京「立ち話も何ですので、出来れば中へ入ってお話が出来ればと思うのですが…」

常勝「こっちは話すことなんか何もねえって、さっきから言ってんだろうが!」

右京「ええ、そう仰られてますねぇ」

常勝「じゃあ、帰れ!話がしたければ、正式な令状でも持って来い!」

バタン

甲斐「あ、閉めちゃった…。どうするんですか、杉下さん?」

右京「…新聞紙」

甲斐「え?」

右京「散らかったままでしたねぇ。事件当日と同じように」

甲斐「中、覗いたんですか?あんな小さい隙間から?…新聞紙がどうかしたんですか?」

右京「ええ、一つ確信が持てました」

成歩堂(…結局、話が聞けなかったな)

海野「父ちゃん、どうしてあんな…」

右京「ちょっとよろしいでしょうか?」

海野「え?俺?」

右京「一つ、確認したいことがあるのですが…」

海野「警察に開く口は無いね!母ちゃんを殺したとか言って姉ちゃんを逮捕するような奴らとはな!」

甲斐「おいおい、あんたのお姉さんは自首したんだろ?」

海野「同じことだろ!姉ちゃんは母ちゃんを殺したりなんかしねえよ!!」

右京「ええ、僕も同感です」

海野「へ?どういう…?」

右京「良美さんは月子さんを殺してはいない。僕はそう考えています」

成歩堂(!?どういうことだ?)

甲斐「杉下さん、海野良美が海野月子を殺していないってどういうことなんです?」

右京「言った通りですよ、カイトくん」

甲斐「え?でも、彼女自首してますし…」

右京「自首したからといって、それが全て真実であるとは限りません。それに、彼女の供述には些か不自然な点があります」

成歩堂「(不自然な点?)…杉下刑事。もし、よろしければ良美さんの供述内容に関して教えて貰うことは可能でしょうか?」

右京「残念ですが、我々には守秘義務というものがあります。如何にあなたが素晴らしい弁護士であろうと、教えることは出来ません」

成歩堂「(やっぱりそうだよなあ…)仕方、ありませんね」

右京「申し訳ございません。行きましょうかカイトくん」

甲斐「え?あ、分かりました」

右京「海野内斗さん。少し、我々についてきて頂けますでしょうか?」

海野「え?でも…ナルホドさん」

成歩堂「行って来てください。僕はお邪魔なようですので」

海野「…ナルホドさんがそう言うのであれば」

右京「では、彼を少し借りさせて頂きます」

成歩堂(…行っちゃった。杉下刑事は一体、何を考えているんだろう?良美さんが月子さんを殺していない…。そんな風に考える人が警察の中にいたことも驚きだけど、でも何か嫌な予感がするな)

~♪

成歩堂「お、携帯電話が鳴っている。オドロキくんとココネちゃんからかな?」

ピッ

成歩堂「もしもし」

王泥喜「あ、ナルホドさんですか?俺です。オドロキです」

成歩堂「どうだい?そっちは何か分かったかい?」

王泥喜「残念ですが、やはり捜査情報を教えてもらうことは出来ませんでした。代わりに図書館へ行って事件当時の新聞などを見ていたんですが…」

希月「基本的には内斗さんが言っていたことと変わりは無いですね」

成歩堂「そう…」

王泥喜「あ、動機についての記述はありました。どうやら、“母親に仕事をしていないことを咎められたのに逆上して殺した”ってのが一応の動機になっているみたいです」

成歩堂「逆上して殺した…。つまり、突発的な犯行だったわけだね?」

王泥喜「ええ、新聞に書かれている彼女の供述が真実であれば…ですけど」

成歩堂(真実…、そう言えば杉下刑事が言っていたな)

右京「自首したからといって、それが全て真実であるとは限りません」

成歩堂(彼女の供述は真実でない。だとすれば、やはり、彼女は…)

某日 某時刻 喫茶店


右京「申し訳ございません。お手数をお掛けいたします」

海野「…それで、何が聞きたいんだよ?」

右京「ええ、良美さんについてなのですが、病気を患っているそうですね?それもずっと前から…」

海野「…ああ、姉ちゃんが働き始めたばかりの頃だから、ちょうど10年前かな?何でも珍しい病気で治療法も無いって言われた。今は治療法が見つかったらしいけどな」

甲斐「お姉さん、治療を受けてはいなかったんでしょうか?」

海野「どうやら受けていなかったみたいだ。留置場で倒れちまったし」

右京「過去に、一度でも治療を受けてはいなかったのでしょうか?」

海野「…一回、姉ちゃんが倒れてさ。その時病院に運ばれてその病院で初めて病気のことが発覚したんだ。けれど、入院費も治療費も出せなくて結局家に帰らせられたんだよね。病気が原因で仕事も長続きしなかったそうだし、もしかすると貯金とかも無かったんだと思う」

甲斐「…それで、よくこの10年間、お姉さんが無事でしたね?」

海野「本当だよ。もう奇跡としか思えない…うう、姉ちゃん」

右京「良美さんを心配していらっしゃるのですねぇ」

海野「当たり前だろ!家族なんだから!!」

右京「なるほど…大体の事情は分かりました」

右京「あ、もう一つだけ」

海野「…何?」

右京「月子さん、或いは常勝さんのどちらかは左利きなのでしょうか?」

海野「え?父ちゃんが左利きだけど…何でそんなことを?」

右京「先ほど、部屋の中にチラッと左利き用のハサミが置いてあるのが見えましたので。細かいことが気になるのが僕の悪い癖。お陰さまでスッキリいたしました」

海野「…どういたしまして」

右京「本日は有難うございました。それでは。行きましょうかカイトくん」

甲斐「はい」

今日はこの辺で。
続きはまた後日。

相も変わらず短めですみません。
投下します。

某日 某時刻 警視庁


角田「よっ、お二人さん」

右京「角田課長。頼んでいた件について調べて頂けたでしょうか?」

角田「ほい。課が違うから大変だったんだぞ~?感謝しろよ!」

右京「いつも課長にはお世話になっております」

角田「ま、いつも美味いコーヒー飲ませてくれるからさ。そのお礼だよ。じゃな」

甲斐(たまにインスタンコーヒー使っているけどね…)

右京「……なるほど。やはり思った通りでした」

甲斐「それが、杉下さんが知りたかったことなんですか?」

右京「ええ、これで全てが繋がりました」

米沢「警部殿。こちらが凶器のナイフについていた指紋です」

右京「……これで、全てが揃いました」

甲斐「それじゃあ……」

右京「ええ、行きましょうか。カイトくん」

甲斐「はい!」

某日 某時刻 アパート前


王泥喜「あ、いたいた」

希月「ナルホドさ~ん!」

成歩堂「あれ?どうしてここへ?」

希月「気になって来ちゃいましたよ!」

王泥喜「まだ、常勝さんの話が聞けてないんでしたっけ?」

成歩堂「うん。今、その件で内斗さんと相談していたところ」

海野「父ちゃん、何か変だった。いつもあんなに怒ったりしないのに」

成歩堂(僕の推測が正しければ、その理由にも説明がつく。でも、証拠は無いんだよなあ)

右京「おや、あなたたちは」

成歩堂「……杉下刑事?」

成歩堂「常勝さんに何か用があるんですか?」

右京「ええ、その通りです」

王泥喜「あの…、ご迷惑かも知れませんが、俺たちも付いて行っていいですか?」

成歩堂「オドロキくん!」

右京「……ええ、構いませんよ」

成歩堂「!(許可…してくれた?)」

希月「有難うございます!」

右京「では、行きましょうか」

成歩堂(……杉下刑事は良美さんが月子さんを殺した犯人ではないと言っていた。もしかして、僕と同じことを考えているのでは?ということは、常勝さんへの用事って…)

コンコン

常勝「……またお前か」

右京「お気を悪くされたなら申し訳ございません。恐らく、これが最後になると思いますので」

常勝「で、何の用事なんだよ?」

右京「この事件の真相を確認しに来ました」

常勝「真相…だあ?」

成歩堂「!!(やはり!!)」

王泥喜「真相!?もう、分かったんですか!?」

希月「ええぇぇぇぇ!?」

右京「ええ」

右京「単刀直入に言います。月子さんを殺害したのは、常勝さん。あなたですね?」

常勝「なっ!?」

海野「お、おい、てめえ!何で父ちゃんが母ちゃんを…それも有り得えよ!!」

常勝「そうだ!!な、なんで俺が月子を…!!」

成歩堂「……(状況から考えて、良美さんが殺していないのであれば、実行したのは常勝さんに間違いない。良美さんが庇う理由もある。でも、だとすると常勝さんが月子さんを殺した動機が分からない。そして、母親を殺されたのに殺した相手を何故良美さんが庇うのか、その理由も……)」

右京「動機は、月子さんに掛けられた保険金です」

希月「ほ、保険金!?」

海野「な、何だよそれ?俺、母ちゃんに保険金が掛けられていたなんて知らねえぞ!!」

甲斐「こちらが証拠です。確かに海野月子さん名義で保険金が掛けられています」

常勝「…………」

王泥喜「保険金目当ての殺人だったのか……」

右京「いえ、正確には違います」

希月「?どういうことですか?」

右京「こちらの用紙をもう一度確認して下さい。保険金は常勝さんにも掛けられています。そして、受取人は……」

成歩堂「!?良美さんになっているじゃないか!?」

王泥喜「え?ということは、まさか…」

右京「常勝さんが行おうとしたのは、保険金目当ての……無理心中です」

常勝「!!!!!!!」

成歩堂「!?(そ、そういうことか!!)」

右京「現場写真に写っていたビニール紐が気になりました。新聞紙を一切まとめようともしていないのに、輪になったビニール紐だけが落ちている。それも、通常より長めで。僕はそのビニール紐には別の意図があったのでは、とそう思いました」

甲斐「まさか…首を吊るため?」

右京「常勝さんの計画はこうです。月子さんを刺殺した後、用意していたビニール紐で自らの首を吊る。後は、誰かに発見されるのを待てばいい」

甲斐「でも、そうはならなかった」

右京「恐らく、月子さんを刺殺した段階で良美さんに発見されたのでしょう。それで無理心中は断念したのだと思われます」

王泥喜「ちょ、ちょっと待ってください!それで、何で良美さんが自首することになったんですか?」

成歩堂「きっと、常勝さんを庇ったんだろうね(もっとも、それ以上に何か理由がありそうだけど)」

右京「その意図もあったのかも知れません。しかし、もっと明確な理由があります」

希月「明確な理由?」

右京「何故、常勝さんと月子さんはそうまでして、保険金を良美さんへ残そうとしたのか。それが最大の理由ですよ」

甲斐「良美さん、確か重い病気でしたよね?」

海野「ああ、それが何か?」

甲斐「治療費が払えなかった。あなた、そう言いましたよね?」

海野「ああ、……ま、まさか」

右京「ええ、保険金を使って良美さんを入院させ、彼女の病気を治療しようと思ったのでしょう」

常勝「くっ……!!」

右京「しかし、計画は当の良美さんにより阻害されてしまった。既に月子さんを殺害してしまったあなたは悩んだでしょう。そこで、もう一つの方法を思いついた。彼女を自首させ、警察に逮捕させることです」

希月「え?それってそういう……」

成歩堂「……そうか。そういうことだったのか!」

王泥喜「え?どういうことなんですか、ナルホドさん?」

成歩堂「受刑者が重い病気を患っていた場合、警察病院でそれを治療することが出来るんだよ。それも国の税金でね」

王泥喜「そうか、それで良美さんが頑なに弁護を拒んでいたのか」

希月「無罪になったら、治療が受けられないですもんね」

海野「そんな……じゃあ、本当に父ちゃんが?」

常勝「しょ、証拠がねえだろうが!!俺が、月子を殺したっていう証拠だよ!!」

成歩堂(確かに動機の証明は出来ても、常勝さんが月子さんを殺した証拠が……)

右京「凶器のナイフ……」

常勝「あ?」

右京「凶器のナイフにあなたの指紋がついていました」

常勝「そ、それがどうした?家のものに俺の指紋があってもおかしくないだろうが!?」

右京「そうでしょうかねぇ?あのナイフ、新品だったんですよ。少なくとも、日常で使っていたものではありません」

甲斐「良美さんの供述にもあります。近所の100円ショップで月子さんが購入したナイフを使用し、刺したって」

右京「100円ショップに確認したところ、事件当日に月子さんが購入したことを店員が覚えていました。つまり、あのナイフにあなたの指紋がつく筈が無いんですよ」

常勝「そ、そんな……た、確かに拭き取った筈……」

右京「それは、自白と受け取ってよろしいでしょうか?」

常勝「て、てめえ、ハメやがったな!?」

右京「あのナイフ、新品だったんですよ。少なくとも、日常で使っていたものではありません」

成歩堂「!?(す、杉下刑事!あ、あなたという人は……!)」

ミス
正しくは↓

右京「凶器のナイフにあなたの指紋がついていました」

常勝「そ、それがどうした?家のものに俺の指紋があってもおかしくないだろうが!?」

右京「そうでしょうかねぇ?あのナイフ、新品だったんですよ。少なくとも、日常で使っていたものではありません」

甲斐「良美さんの供述にもあります。近所の100円ショップで月子さんが購入したナイフを使用し、刺したって」

右京「100円ショップに確認したところ、事件当日に月子さんが購入したことを店員が覚えていました。つまり、あのナイフにあなたの指紋がつく筈が無いんですよ」

常勝「そ、そんな……た、確かに拭き取った筈……」

右京「それは、自白と受け取ってよろしいでしょうか?」

常勝「て、てめえ、ハメやがったな!?」

成歩堂「!?(す、杉下刑事!あ、あなたという人は……!)」

今日はこの辺で…。
続きはまた、後日。

短めですが続きを。

常勝「ふ、ふざけんな…ふざけんなあ!!!!」

右京「仮に同意があったとしても、あなたが行ったことは立派な殺人です。そして、良美さんはそれを知った上で自首し、虚偽の供述を行った。明確な捜査妨害であり、違法行為です」

常勝「ううぅっ…クソ、クソォォォ!この、人でなしが!!卑怯な手を使いやがってぇ!!」

右京「強引な手段を使用したことに関しては否定はいたしません」

常勝「うわあああああああああああ」

海野「と、父ちゃん……」

常勝「月子……月子ォォォ!!」

回想

ブスリ

常勝「すまねえ、月子…すまねえ!!俺も……すぐそっちへ行くからなあ」

良美「お父……さん?」

常勝「良美?な、何で?」

良美「何やってるのお父さん!!お、お母さんが!!」

常勝「……安心しろ、俺も今から死ぬ。そんで、お前は俺たちの保険金を貰って病気を治して、それで人生やり直せ」

良美「何言ってるの!!お父さんもお母さんもいなくなって……それでやり直したってうれしいわけ無いじゃない!!」

常勝「じゃあどうするんだ!?金が無いから治療も受けられない!!お前だってこのままじゃ長くは無い!!」

良美「でも……!!」

常勝「死なせてくれ……もう俺たちはあと何十年も生きられん。親は子供に何か残してやらなきゃならねえ。せめて、お前に保険金を……」

良美「嫌だ……お父さんまで死んだら嫌!!お父さんが死んだら、私も自[ピーーー]るわ!!」

常勝「良美……」

常勝「でも、もう月子は俺が殺しちまった……」

良美「………!!」

常勝「あ、良美。な、ナイフをどうするんだ!?」

良美「フキフキ 私、少し前に見たことあるの。重病の受刑者が警察病院で治療を受けているってドキュメンタリー」

常勝「……ま、まさかお前?」

良美「お母さんを殺したのは私。お父さんは無関係。それで、それで全てが丸く収まるわ」

常勝「そんな…お前に殺人の罪を着せるだなんて……それも、母親殺しの……」

良美「いいの。私、いつもお父さんとお母さんに迷惑ばかり掛けてたから、これはその罰なの。お父さんは知らない振りをしていて」

常勝「良美……」

某日 某時刻 アパート前


常勝「うわあああああああ良美、良美ぃぃぃ!!」

右京「……どのような事情があろうとも、殺人は決して許される行いではありません。そして、その罪を誰かに着せるなど以っての外です。あなたは、実の娘を殺人犯にするところだったんですよ?」

常勝「しょうがなかった…しょうがなかったんだよぉ!!」

右京「例え困難であろうと、道は他にもあった筈です。少なくとも、あなたたちの行いが正しかったとは思えません」

常勝「くそおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

成歩堂「………………」

フォンフォンフォンフォン


三浦「ほら、来い!」

常勝「………………」

伊丹「では、手柄は頂きますよ警部殿」

右京「どうぞ」

芹沢「いつも悪いね。今度何か奢るからさ、カイト」

甲斐「はい……」

バタン

フォンフォンフォンフォン

甲斐「……杉下さん」

右京「何ですか、カイトくん?」

甲斐「これで、これで本当に良かったんでしょうか?」

右京「はい?」

甲斐「この事件を暴かなければ……少なくとも良美さんは助かっていた筈です!」

右京「しかし、例え病気が完治したとしても、その先の人生において彼女には殺人犯という重い十字架が背負わされることになります」

甲斐「でも……!!」

海野「おい……」

甲斐「!!内斗さん?」

海野「嘘だと言ってくれよ……。これ、何かの悪い夢なんだろ?父ちゃんが母ちゃんを…それで、姉ちゃんまで…」

甲斐「…………っ!!」

王泥喜「あの……杉下刑事、良美さんはこの後どうなるんですか?」

右京「偽証による自首ですから、後日彼女には治療代の請求がいくと思われます」

希月「そんな!」

王泥喜「誰も…救われないなんて…」

成歩堂「……杉下刑事」

右京「成歩堂弁護士」

成歩堂「……確かに常勝さんはやってはいけないことをした。それは僕も否定はしません。でも、あなたのやり方には異議を唱えさせてもらいたい」

右京「僕のやり方…ですか」

成歩堂「先ほどの凶器の指紋についてです。あなたは、常勝さんを騙して自白を取ろうとした。違いますか?」

右京「何も、根拠なしで言ったことではありません。確かに凶器には常勝さんのものと思われる指紋があったのです」

成歩堂「本当にそうなんですか?」

右京「ええ、常勝さんは左利きでした。ナイフの柄には左利きの人物のものと思われる指紋が確認されています。恐らく、良美さんはナイフを拭くのが不十分だったんでしょうねぇ」

成歩堂「杉下刑事、それは嘘ですね?」

右京「嘘…とは?」

成歩堂「仮にそんな指紋があるのであれば、警察も初動捜査の段階で常勝さんを疑った筈です」

右京「…あなたはやはり優秀な弁護士なのですねぇ」

右京「ええ、あなたの言う通り、その指紋は確かなものではありません」

王泥喜「どういうことです?」

右京「指紋の上に指紋を重ねた場合、下にある指紋は消えるわけではありません。現在の科学捜査の力があれば、下の指紋を調べることは可能です」

希月「それなら問題ないように思いますが……」

成歩堂「ココネちゃん。彼の話をよく聞くんだ。杉下刑事は少し言葉を濁している。……杉下刑事、もしかしてその指紋はすぐに提出することの出来ないものなのではないでしょうか?」

右京「仰る通りです。偶然にも常勝さんのものと思われる指紋自体はナイフに残されていました。しかし、証拠として出すには時間が掛かってしまう。……この事件、時間が掛かれば良美さんが殺人犯として起訴されてしまい、それで再捜査が難しくなってしまいます。……時間がありませんでした」

成歩堂「だからと言って、このようなことが許されるはずがありません!!」

右京「そのことについてはこちらに非があることは重々承知しております。ですが、真実が闇に葬られ、無実の人間が捕まり、真犯人が裁かれないまま事件が終結を迎える……そんなことは決してあってはならない。そう、僕は考えています」

成歩堂「杉下刑事……」

右京「あ、一つだけ、よろしいでしょうか?」

成歩堂「……何でしょうか?」

右京「あなたに良美さんの弁護をお願いしてもよろしいでしょうか?」

成歩堂「僕に…ですか?」

右京「ええ、あなたはとても優秀な弁護士であるとお見受けいたしました。恐らく、彼女はこれから大変になると思います。あなたに彼女の助けになって貰いたい。そして、内斗さんの助けにも」

海野「うう…うう…」

成歩堂「……元よりそのつもりです」

右京「では、行きましょうかカイトくん」

甲斐「……はい」

こうして、海野良美さんを巡る事件は解決に至った。

真実は常に優しいものとは限らない。

そのことを僕たちは思い知った。


後日、病院で常勝さんのことを聞いた良美さんは号泣し、自白が嘘であったことを認めた。
内斗くんの頼みもあり、彼女は僕たちが弁護することを承諾してくれた。
この先、色々と大変だろうが、僕たちは依頼人を信じ、彼女を全力で助けることになるだろう。


しかし、この時僕たちは気付かなかった。

この事件はこれで終わりではなかったこと。
あの杉下刑事とまた出会うことになるということ。
そして、法曹界の闇へ再び足を踏み入れなくてはならくなること。


まだ、すべては始まりに過ぎなかったのだ。


第一章 完

というわけで、第一章完です。
もう少しだけ続きますので、お付き合いお願いします。

続きはまた後日。

短めですが、続きを。

某日 某時刻 地方裁判所 第3法廷


成歩堂「なっ……」

希月「そ、そんな……」

良美「……………」

???「どうやら、よく聞こえなかったようだからもう一度言いましょう。検察側は、海野良美を…海野月子殺害の犯人として有罪を要求します!」

成歩堂「な、な、な、なんだってえええええええ!?」

数時間前


成歩堂「よし、準備は整ったか」

希月「ハイ!」

王泥喜「頑張ってね、希月さん」

みぬき「オドロキさんと傍聴席から応援してます!」

希月「ハイ!頑張ります!!」

成歩堂「……流石に良美さんを完全に無実には出来ないけど、これなら情状酌量で刑を軽く出来る筈だよ」

海野「本当に…どうも、有難うございます!」


良美「……ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

成歩堂「なあに、これが弁護士の仕事だからね。それよりも、良美さん体調はどうですか?」

良美「はい、今は大分いい方です」

希月「良かった……」

王泥喜「でも、もう治療は受けられないんですよね?」

良美「少しの間、治療を受けたのが良かったんだと思います。少なくとも、留置場で会った時よりは気分は悪くないです。本当ですよ?」

成歩堂「分かりました。でも、気分が悪くなったら裁判中でも遠慮なく言ってくださいね」

良美「はい」

王泥喜「ところで、ナルホドさん。今日の検事は誰なんですか?」

希月「ユガミ検事では無いようですけど……」

成歩堂「火堂飛京(ヒドウ ヒキョウ)検事。僕も初めて知る人だね。もっとも、僕はつい最近弁護士として復帰したばかりだけど」

王泥喜「ふーん。何か名前からして、凄く怪しそうだなあ」

みぬき「何か手段を選ばなさそうだね!」

成歩堂「こらこら、人を名前で判断しちゃいけないよ。会ったら意外といい人かも知れないし(まあ、少なくとも裁判中はそういうの期待出来なさそうだけど)」

希月「どんな検事なんだろう…。ドキドキしますね!」

開廷


裁判長「これより、海野良美さんの裁判を始めます」

成歩堂「弁護側、準備完了しています」

火堂「検察側、準備完了しています。ヒッヒッヒ…」

成歩堂(……うーん。見た目もとても怪しそうな人だぞ)

希月「ユガミ検事とは違った意味でプレッシャーを感じますね」

裁判長「では、検察側。冒頭弁論をお願いしますぞ」

火堂「はい、分かりました。ヒッヒッヒ…」

火堂「えー、被告人の海野良美は、母親である海野月子をナイフで刺殺し……」

成歩堂(え?)

希月「……?何か、おかしくないですか?」

成歩堂「……うん。確か、常勝さんが月子さん殺害の容疑で逮捕された筈だ。(もっとも、僕はそこに至るまでのことを今も許したわけじゃない)」

希月「私たちの目の前で連行されましたもんね」

成歩堂「この裁判は良美さんの偽証と捜査妨害についてのものだった筈。検察側は一体何を……?」

火堂「……したがって、検察側は海野良美を海野月子殺害の犯人として有罪を要求します」

成歩堂「!?」

検察側の主張、それは良美さんが月子さんを殺害した犯人であるというものであった。
常勝さんは、あくまで共犯者。
主犯は良美さんだと言うのだ。

突然のことに、僕たちは頭が真っ白になった。

そして、これがまだまだ隠されていた法曹界の闇の一部であるということを知るのは、もう少し先のことだった。

というわけで、今日はこの辺で。
続きはまた後日。

短いですが

某日 某時刻 ??????


峯秋「…………」

???「悪い話じゃないと思うがね」

峯秋「確かに、悪い話では無いね」

???「君たちの失態を揉み消し、手柄に変える。まさに一石二鳥とはこのことだよ」

峯秋「それで、君たちの望みは何かね?」

???「なあに、消えて貰いたい人間がいるのですよ」

峯秋「消えて貰いたい人間…とは、検察庁も随分物騒なことを言うようになったものだね」

???「それほどに目障りな人間なんだよ。御剣怜侍という男はね」

峯秋「御剣怜侍…確か、検事局長の名前だったと記憶しているが」

???「お願いしますよ、次長殿」

某日 某時刻 地方裁判所 第3法廷


成歩堂「異議あり!この裁判は、海野良美さんの偽証行為に関してのものだった筈です!!」

裁判長「私もそう聞いておりましたが……」

火堂「お待ちを!!ヒッヒッヒ、成歩堂弁護士殿。事態と言うものは生き物ですぞ。刻一刻とその姿を変えていく……」

希月「しょ、証拠はあるんですか!?」

火堂「ヒッヒッヒ、気が早いですぞお嬢ちゃん。裁判長殿、検察側は証人の用意が出来ております」

裁判長「証人…どなたですかな?」

火堂「被告人の住んでいたアパートの管理人です」

成歩堂(管理人?)

管理人「…………」

裁判長「証人、名前と職業を」

管理人「あ、わたくし管理人(すが まさと)と言います。アパートの管理人をやってます」

希月「まさに管理人になるために生まれたような名前ですね!」

成歩堂(管理人にならなかったらどうするつもりだったんだろう?)

火堂「ヒッヒッヒ、管理人殿。あなたの証言をこちらの弁護士殿たちへお聞かせ下さいな」

管理人「は、はあ」

成歩堂(杉下刑事が推理した通りの内容で常勝さんは犯行を認めている。それをひっくり返すほどの証言とは一体なんなんだ?)

証言

管理人「え~っと、あれは確か事件のあった日ですな」

管理人「その、殺人事件が起きた時間の前でしたっけ?」

管理人「確かに彼女が家へ帰宅するのを見ましたよ」

管理人「それで、その10分くらい後に彼女のお父さんが帰宅してましたね」


成歩堂「……………………」

希月「……………………」

成歩堂「……ええ!?」

希月「う、嘘おおおお!?」

成歩堂(良美さんが常勝さんより前に帰宅していた……?そ、それだと、無理心中をしようとした常勝さんを良美さんが発見して止めたという推理が成り立たなくなる!)

火堂「聞かれましたか?良美殿は事件の前に帰宅していた。あの家は正直狭く、部屋もふすまを隔てた和室のみ。この状況で良美殿に気付かれないように弁護側が主張する無理心中など果たして出来ますかねえ?」

裁判長「た、確かに無理と言わざるを得ませんなあ」

成歩堂「ま、待った!!その証言だけでは無理心中を否定するのに弱いと弁護側は主張します!!」

火堂「お待ちを!!……ヒッヒッヒ、ではあなたはこう仰るのですか?良美殿は、常勝殿が月子殿を殺害するのを黙って見ていて、常勝殿の自殺だけは止めた、と?」

成歩堂「た、例えばですが、良美さんは常勝さんの犯行には気が付かなかった。しかし、自殺をする時に異変に気が付いた。それならば筋が通ります!!」

火堂「証拠がありませんなあ。良美殿が常勝殿の犯行に気が付かなかったことへの証拠が」

希月「うう……これ、不味くないですか?」

成歩堂「向こうには良美さんの指紋付きのナイフがある……彼女が殺害を行った証拠としては十分だ」

希月「……本当に良美さんは常勝さんよりも先に帰宅したんでしょうか?」

成歩堂「そもそも、常勝さんは何処かへ出掛けていたのかな?」

希月「え?」

成歩堂「検察側の主張はこうだ。“良美さんの方が常勝さんより先に家に帰っていた。だから、彼女のいる側で気付かれずに無理心中は無理だ”。じゃあ、無理心中自体が良美さんが帰宅するよりも前に行われていたら?」

希月「!!それなら検察側の主張は崩れますね!!」

成歩堂「常勝さんは月子さんを殺害後に外出、常勝さんが帰る前に良美さんが帰宅。……これならば、こっちの主張が通る」

希月「それなら、証人へ常勝さんが何時出掛けたのかを聞きましょう!」

成歩堂「うん。証人、よろしいでしょうか?」

管理人「え?あ、はい」

今日はこの辺ですみません。
続きはまた後日。

続きをば

成歩堂「証人、常勝さんが出掛けた時刻について教えてください」

管理人「知らね」

成歩堂「え?」

管理人「そんなん気にしてなかったからな」

希月「い、いい加減な証人ですね!!」

成歩堂「しょ、証人。あなた、自分の発言の重要性に気付いてますか?」

管理人「わたくしは、見たこと言えって言われただけで……。見てないことは言えないですわ」

成歩堂「ううぅぅ……」

成歩堂「(待てよ?“見てない”ってことは……)証人、それでは何かを聞いてはいないのですか?」

管理人「はい?」

成歩堂「常勝さんの声、とか物音、とか……何でもいいんです!」

管理人「う~ん……どうだったけなあ?」

火堂「お待ちを!!ヒッヒッヒ、証人殿。重要なのはあくまで見たことです。それ以外の証言は無駄……」

成歩堂「異議あり!!これは重大なことです!!常勝さんの出掛けた時刻によっては検察側の主張を覆せるかも知れません!」

裁判長「弁護側の異議を認めます。証人、質問に答えてください」

火堂「チッ」

管理人「……う~ん、あ!」

成歩堂「何か思い出したんですか?」

管理人「そうだ、確かあれは……」

管理人「事件の2時間前くらいに、彼女のお父さんと思わしき声が『競馬場へ行って来る』って話してたな」

裁判長「なるほど。ナルホドくん、こちらの証言は重要なのですかな?」

成歩堂「はい。2時間前であるならば、ちょうど死亡推定時刻ギリギリです。そうであるならば、弁護側はこう主張します。常勝さんは2時間前に月子さんを刺殺し、死体を隠したと!」

裁判長「そ、そうするとどうなるのですか?」

成歩堂「検察側の主張は、あくまで“常勝さんが良美さんの目の前で月子さんを[ピーーー]のは無理がある”ということでしたが、既に月子さんが死体であったならばどうでしょう?」

裁判長「た、確かにそれならば幾分かは可能性が高くなりますな」

火堂「お待ちを!!……ヒッヒッヒ、弁護側はあくまで可能性を示しただけ。事件の2時間前に海野月子が殺された証拠なんてありませんよ?」

成歩堂(確かに、今はまだそれだけだ。でも、これが突破口となるか知れない!)

火堂「ですので、検察側は一旦休廷しての再捜査を要求しますよ。ヒッヒッヒ」

成歩堂「へ?」

裁判長「さ、再捜査ですか?」

火堂「ええ。この続きは後日改めてということで」

裁判長「し、しかしですな……」

火堂「序審法廷制度……ですが、まだ時間はある筈ですが?」

裁判長「う、う~む。検察側がそう言うのでしたら……弁護側はどうでしょうか?」

成歩堂「え?べ、弁護側は再捜査に特に異議はありませんが……(何を考えているんだ、火堂検事は?)」

希月「検事の方から再捜査を申し出るなんて、滅多にあることじゃないですよ。何か、罠かも知れません!!」

成歩堂「……でも、こちらもこの件について向こうに対抗出来る情報や証拠品は少ない。再捜査自体は願ったり叶ったりだよ」

希月「そこは否定しませんけど……でも、弁護側にも有利になりそうなことを何で?」

成歩堂(そこなんだよなあ……彼の思惑が全く掴めない)

某日 某時刻 控え室


王泥喜「ナルホドさん!」

成歩堂「オドロキくん、みぬき」

みぬき「何だかスゴイことになっちゃったね、パパ」

王泥喜「再捜査の為、明日まで休廷なんて……向こうは良美さんを有罪にしたくないのでしょうか?」

成歩堂「うん。確かに、良美さんを有罪にするなら今日畳み掛けた方が圧倒的に有利な筈。なのに、それはしなかった」

希月「見た目や名前に反して、実は正々堂々とした人なんでしょうか?火堂検事」

成歩堂「う~ん。どうだろう?」

???「失礼します」

成歩堂「あなたは?」

???「私、武藤法律事務所の武藤かおりと申します」

成歩堂「はあ、ご丁寧にどうも。僕は……」

武藤「成歩堂龍一弁護士、ですね?弁護士をやっている人間であなたを知らない人はそうはいませんよ」

成歩堂「そ、そうですか?(きっと、あまりいい噂では無いんだろうなあ)」

みぬき「へ~、パパ有名人なんだね!」

王泥喜「あなたは一体?」

武藤「突然やって来て何だと思われるかも知れませんが、杉下警部が担当なさった事件と聞きまして」

成歩堂「あなたは、杉下刑事の知り合いなんですか?」

武藤「はい、昔何度か」

武藤「何やら妙なことになったみたいで」

成歩堂「ええ、検察側の意図が掴めません」

希月「突然殺人罪で起訴したり、かと思ったら再捜査の為に休廷を申し入れたり……ワケが分かりませんよ!」

モニ太「ワカラナイヨー」

武藤「……これは、噂程度の話なんですが、検察庁で何か色々動いているとか」

王泥喜「検察庁!?随分、大きなことになってますね」

武藤「あくまで噂ですから。でも、先ほどの検察側の行動は明らかに不自然でした。なので、それを伝えるべきかと思って来たんです」

成歩堂「武藤さん、貴重な情報、有難うございます」

成歩堂(検察庁……か。あいつは……御剣は大丈夫なんだろうか?)

某日 某時刻 警視庁


角田「暇か?」

右京「課長。お早うございます」

角田「おう。そう言えば、聞いたか?先日、お前たちが解決した事件。ほら、あの無理心中の」

甲斐「海野良美さんの事件ですね」

角田「そう、それそれ。その事件、再捜査されるらしいぞ」

甲斐「え?どういうことですか?だって、真犯人はもう捕まえたじゃないですか。自供だって……」

角田「それがさ。その、検察では父親と娘は共犯で、実行犯は娘の方だって主張したらしいんだよ」

右京「それは、確たる証拠があってのことでしょうか?」

角田「さあ?そこまでは流石に俺も知らないよ」

右京「……気になりますねぇ」

本日はここまでで
続きはまた後日

短いですが…。

伊丹「ったく、何が再捜査だ。検察は俺たちの捜査が不満だってのか?」

三浦「さあな。でも、何か裏にありそうな気がするな」

芹沢「それで先輩はするんですか?再捜査?」

伊丹「フン、気は進まねえな」

右京「でしたら……」

三浦「警部殿!いきなり何ですか?」

芹沢「カイトも」

甲斐「すみません」

右京「一つ、お手伝いして頂きたいことがあるのですが」

芹沢「……それを、調べるんですか?」

伊丹「警部殿、我々はあなたたちと違って暇じゃないんですよ?」

右京「しかし、先ほど再捜査は気が進まないと仰られました」

伊丹「まあ、確かにそんなことを言った……ような」

右京「検察側の今回の再捜査については明らかに不自然な点が多い……。調べてみる価値はあるのではないでしょうかねぇ?」

三浦「で、どうするんだ伊丹?」

伊丹「……ま、今回は引き受けますよ。ただ、勘違いはしないで頂きたい。我々は検察への不信から捜査するのであって、特命係に協力したわけではないですからね」

右京「ええ、それは承知しております」

甲斐「で、杉下さん。うちらはどうするんです?」

右京「そうですねぇ。さしあたっては、更に上について探りを入れてみるべきでしょうねぇ」

甲斐「上?」

右京「カイトくん。君、一つ頼まれてくれますでしょうか?」

甲斐「はい?」

右京「さて、カイトくんは行きましたね」

ピッ

ピッピッ

プルルルルルル


???「……もしもし。今、忙しいんですが」

右京「忙しいところ申し訳ございません。今回、是非とも君の力をお借りしたいのですが」

???「……またですか?この間の空港の件、どんだけ苦労したと思ってるんです?」

右京「お手数お掛けいたします」

???「……仕方ないですね。僕に出来ることであれば協力しますよ」

右京「お願いいたします。神戸くん」

神戸「やれやれ、人遣いの荒い元上司だ」

本当に短くてすみません。
時間が時間なのでここまでで。

続きをば

内村「……再捜査の件はどうなった、中園参事官?」

中園「ハッ、ただいま行っている最中であります。ただ……」

内村「……ただ?」

中園「その、現場の士気と言いますか、不満を漏らす者もチラホラと……」

内村「それを黙らせるのが貴様の仕事だろ」

中園「し、しかし、既に真犯人の自供が出て後は裏付け捜査のみだったところを一から再捜査というのは、やはり……」

内村「フン、それでもやらせろ。何たって警察庁たっての依頼でもあるんだからな」

中園「け、警察庁ですか!?」

内村「まあ、警察庁の言いなりなのは確かに気に食わんがな」

中園「一体、何がどうなっているんでしょうか?」

内村「それを貴様が知る必要はない」

中園「ご、ごもっともで!」

内村(……フン、そうやって上から見下ろしているがいい。その内寝首をかいてやる)

内村「ん?まだいるのか。貴様もとっとと行け!」

中園「は、はいい!!」

某日 某時刻 成歩堂なんでも事務所


成歩堂「さて、これから僕たちのすべきことを一旦まとめてみようか」

希月「とりあえず、アパート周辺の聞き込みですね!」

王泥喜「確かに、常勝さんの外出が本当だったなら、誰か目撃者がいるかも知れないからね」

成歩堂「さしあたってはそんなところか。警察の捜査状況も気になるところだけど……」

ピンポーン

成歩堂「はーい、どなたですか?」

甲斐「失礼します」

成歩堂「……あなたは確か、杉下刑事と一緒にいた」

甲斐「甲斐亨です」

成歩堂「何故、ここに?」

甲斐「うちの上司の命令で、あなたたちへ協力しに来ました」

王泥喜「協力…だって?」

希月「でも、警察の方の協力が得られるのは心強いですよね!」

成歩堂「(確かにそうだ。……でも)甲斐刑事、僕個人としてはこの間みたいなのは、あまり感心はしない」

甲斐「この間……ああ、杉下さんのですか」

成歩堂「真犯人が常勝さんだったからまだ良かったけど、下手をすれば冤罪を生むかも知れない行為だった。ああいう捜査をするのであれば、こちらとしてはあなたの協力を拒むことも考えています」

希月「え?でもナルホドさん、せっかく警察の方から協力を申し出てくれているのに、そんなむざむざ断らなくても……」

成歩堂「ココネちゃん。確かにこれは僕のわがままだ。でも、そこのところはハッキリさせておかないと、気持ちよく協力なんて出来ないよ」

甲斐「……ですよねー」

成歩堂「(ですよねーって、少し軽いなこの人)甲斐刑事?」

甲斐「いやね、僕も杉下さんのやり方は認めてるわけじゃないんですよ。いっつもギリギリなことするし、ぶっちゃけ違法捜査しちゃってるし」

成歩堂「は、はあ……(違法捜査って、大丈夫なのか?)」

甲斐「でも、あの人必ず見つけちゃうんですよ。真実を。それだけは認めざるを得ない」

成歩堂「その為なら、何をしてもいいと?」

甲斐「杉下さんは決して踏み外してはいけない線は超えない人だって、俺は信じてます。仮に杉下さんがその線を踏み外そうとしたら、俺が全力で止めます。まだ一緒になって短いですけど、俺はあの人の相棒…なんでね。だから、俺たちのこと信じてくれませんか?」

成歩堂「…………(真実、か)」

王泥喜「ナルホドさん、どうするんですか?」

成歩堂「……分かりました。甲斐刑事、協力をお願いします」

甲斐「勿論、その為に来ましたから」

成歩堂「では、甲斐刑事。捜査情報の提供をお願い出来ますか?」

甲斐「分かりました。とは言っても、俺たち特命係っていう窓際なんで何でも知ってるわけじゃないんですけどね。でも、答えられることには答えます。何を知りたいですか?」

成歩堂「そうだなあ……。まず、警察は本気で良美さんのことを殺人の実行犯だと疑ってるんですか?」

甲斐「実のところ、そういうわけではないんです。海野常勝の自供を元に裏付け捜査している最中で、ほぼ供述通りの結果だったらしいです。だから、今回の再捜査には疑問を持ってる人も多い」

成歩堂「(なるほど、警察も一枚岩ってわけでは無いんだな)管理人さんの証言の裏づけは取れているのでしょうか?」

甲斐「それは分かりません。少なくとも、最初の捜査の段階では管理人がそういった証言をしたって話は無かったそうです」

成歩堂「つまり、管理人さんは突然その証言をしたってわけですか?」

甲斐「ええ、正直とても臭いです」

王泥喜「それって、もしかして証言の捏造の可能性があるってことなんですか?」

甲斐「その可能性も含めて調べてくれている人たちがいます」


某日 某時刻 某所


伊丹「いっきし!」

芹沢「大丈夫ですか、先輩?風邪ですか?」

伊丹「誰かが噂をしていやがるな、こりゃ」

三浦「誰がお前の噂なんかするんだよ」

芹沢「亀山先輩ですかねー?」

伊丹「ったく、あんの亀が。人にくしゃみさせやがって。……連絡の一つくらい寄越しやがれってんだ!」

芹沢「それにしても、特命係に捜査情報流して大丈夫だったんでしょうか?」

三浦「へっ、どうせ揉み消されるかも知れない情報だ。消されるくらいならくれてやるよ」

伊丹「特命係ぃ~、こういう時のお前らだろぉ~が。しくじったらタダじゃおかねえぞ!」

成歩堂「……うん。大体分かりました」

甲斐「俺が知っているのはこのくらいです。また情報が入り次第、知らせます」

みぬき「…………」じーっ

甲斐「ん?君、どうしたの?」

みぬき「甲斐刑事って、パパにそっくりですね!」

甲斐「え?」

希月「あ、私もそう思ってたんですよ!」

王泥喜「実は、俺も」

成歩堂「そんな……似てるかなあ?」

甲斐「似て……ないと思うけどなあ」

成歩堂「コホン では、甲斐刑事。また何かあったら何時でも連絡を下さい。これ、携帯電話の番号です」

甲斐「あ、ハイ。じゃあ、これ特命係への電話番号です」

王泥喜「でも、聞けば聞くほど、今回の再捜査の裏には何か別のものが動いている気がしますね」

希月「検察も動かすとなると、敵はかなり巨大ですよ!」

成歩堂「……相手が誰であれ、真実を歪めようとするならば決して許しちゃいけない。僕はそう思うよ」

甲斐「それ、まるで杉下さんみたいですね」

成歩堂「杉下刑事も…ですか」

甲斐「じゃあ、俺は失礼します」

みぬき「甲斐刑事、また来て下さいね!」

某日 某時刻 検事局


御剣「うむ、それでは失礼するよイチヤナギくん」ピッ

女性「検事局長。警察庁の神戸尊という方がお会いしたいとのことですが」

御剣「警察庁?(何故、警察庁の人間が。それもこの時期に)……通してくれ」

女性「はい、分かりました」

御剣「………………」トントン

神戸「失礼します」

御剣「入って下さい」

今日はこの辺で。
続きはまた後日。

すみません、体調崩してました。
続きです。

神戸「初めまして。警察庁長官官房付きの神戸尊と言います」

御剣「警察庁の方がどういった用件でしょうか?」

神戸「またまた。34歳という若さで検事局長にまで上り詰めた天才の貴方なら、僕がここへ来た理由くらいもう察しがついてるんじゃないですか?」

御剣「うム…(警察庁の人間が今この時期にここへ来る理由……それは、無論)。例の再捜査の件、でしょうか?」

神戸「ま、それ以外は無いですよね」

御剣「目的は理解しました。それで……私には一体何の用で?」

神戸「今回の件、明らかに検察側の動きに不自然な点がある。そのことをあなたはどうお考えで?」

御剣「……(この男、私を疑っているのだろうか?)」

神戸「もしかして、貴方の指示…だったり?」

御剣「……それだけは断じて無いと答えさせて貰おう」

神戸「まあ、言葉ではそう言いますよねえ」

御剣「神戸さん。私がその指示を行った…その証拠でもあって言っているのだろうか?」

神戸「いいえ」

御剣「……神戸さん。これ以上、無駄な話は止めましょう。あなたは私を糾弾するために来たわけでは無いのだろう?」

神戸「あれ?分かっちゃいましたか?」

御剣「早く本題に入って貰えないだろうか?私も暇というわけではないのだ」

神戸「では、冗談はこの辺にしておいて。……この件に関して、検察庁の上層部に不穏な動きがあることを貴方は気付いているのでしょうか?」

御剣「……そういった動きがあることは薄々感づいてはいました。恥ずかしながら、再捜査の件になるまで確信は持てなかったのですがね」

神戸「裏で手を引いているのが誰か、心当たりがあるんじゃないですか?」

御剣「……………………」

神戸「ギブ&テイクで行きましょうよ、御剣検事局長」

御剣「……勘違いさせてしまったのなら言わせて貰いますが、私が黙っているのは未だ確かな証拠を掴めていないからです。それも無しにみだりに名前を出すわけにはいかない。そんな相手なのです」

神戸「その人物。恐らく、僕が思っているのと同じ人物だろうね」

御剣(なるほど。ある程度の確信があってここへ来ているのだな)

御剣「……神戸さん。先ほどあなたはギブ&テイクで行きましょうと言いました。ということは、何かギブがあるのでしょうか?」

神戸「流石に目ざといね。伊達に天才検事と呼ばれてはいないわけだ」

御剣「それで、どうなのです?」

神戸「勿論、あります。……とは言っても、あなたが一番欲しいものでは無いかも知れませんがね」

御剣「それを決めるのはあなたではない。この私です」

神戸「なるほど。では、これを」

御剣「うム。……これは!?」

神戸「少なくとも、貴方の疑いを決定付けるものにはなったんじゃないですか?」

御剣「…………いいでしょう。では、私からもあなたに伝えます」

御剣「この事件の黒幕と思わしき人物の名前。その名は火堂飛烈(ひどうひれつ)。検察庁特別監査長官だ。そして、今回再捜査を命じた火堂飛京の実の父親でもある」

神戸「……やはりね。御剣検事局長、あなたの口からその名前が聞きたかった」

御剣「……それで、これからどうするんですか、神戸さん?」

神戸「取り敢えず、元上司へその名前を教えてあげることにしますよ」

御剣「元上司?」

神戸「ええ。その元上司が言ってました。御剣検事局長が現役の検事だった時、ある頃から真実を求めることに誠実な素晴らしい人物へ変わった。そのことがとても印象に残っている、と。今でも検察庁の不正を次々と暴き、内部から法曹界を変えようとしているんでしょ?」

御剣「う、ム…(そういう風に言われると少し照れてしまうが、私をそこまで見てくれてる人物がいたのか。それは素直に嬉しい)。では、何故先ほどあなたはあんな態度を?」

神戸「気に障ったらすみません。エリートがあまり好きじゃないんですよ」

御剣「フッ」

神戸「では、これで僕は失礼します」

御剣「あなたとはまた違う機会で話をしてみたい」

神戸「その機会があれば。いい店、知っていますよ?」

御剣「フッ、それは楽しみだ」


ガチャ


御剣「……(私もようやく動く覚悟が出来た。この黒幕を追い詰めないことに、法曹界の未来は無いだろう。待っていろよ…火堂飛烈!!)」

本日はこの辺で。
続きはまた後日。

続きを

右京「……なるほど。そういうことでしたか」

神戸「ある程度は杉下さんの思っていた通りなんじゃないですか?」

右京「そこまで僕を買い被って貰っては困りますねぇ」

神戸「どうだか……。この借りと、この間の借り、早く返して下さいよ」

右京「ええ、善処します」

ピッ

右京「……これで、事件の全貌が見えてきました」

ブルブルブル

右京「はい、杉下です。……伊丹刑事ですか。……なるほど、有難うございます」

右京「……さて、あとはカイトくんを待ちますか」

甲斐「杉下さん、今帰りました」

右京「おやおや、ちょうどよいところでした」

甲斐「そっちは何か分かったんですか?」

右京「ええ、僕には事件の全貌が大分見えてきました」

甲斐「え?も、もう!?」

右京「行きましょうか」

甲斐「……相変わらず、一人で全部分かっちゃうんだから」

某日 某時刻 警視庁鑑識課


米沢「杉下警部。先ほどご連絡頂いた件ですが、現在確認中となっております。ご覧になられますか?」

右京「ええ、お願いいたします」

甲斐「杉下さん、これは何ですか?」

右京「海野良美さんのアパート周辺に設置された監視カメラの映像です。先ほど僕の方から米沢さんへ調べて頂くように連絡をしました」

甲斐「監視カメラ?あんな所にそんなのが付いていたんですか?」

米沢「ええ、目立たないところに設置してありました。どうやら近くの商店街が取り付けたようですな」

甲斐「なるほど。これで事件当日、海野常勝が本当に出掛けたかどうかの確認を行うというわけですね?」

右京「いえ、違います」

甲斐「へ?」

右京「僕が確認したかったのは、事件発生より前の映像です」

米沢「ええ。そう言われて一週間分の映像を借りてきました」

甲斐「そんなの見てどうするんですか?」

右京「……やはり、そうでしたか」

甲斐「ちょっと、自分の中で完結しないで俺にも分かるように説明して下さいよ」

右京「米沢さん。ここ、拡大して貰えますか?」

米沢「はい、お安い御用です」

ピッ

右京「ここ、人が映っていますね?」

甲斐「本当だ。でも、何で電信柱の陰なんかに……」

右京「米沢さん。申し訳ございませんが、少々お付き合い願えますでしょうか?」

米沢「え?それは別に構いませんが」

右京「では、行きましょうか」

某日 某時刻 成歩堂なんでも事務所


成歩堂「……分かりました」

ピッ

希月「甲斐刑事からですか?」

成歩堂「うん。貴重な捜査情報を教えて貰ったよ」

王泥喜「どういう情報ですか?」

成歩堂「その前に本人に事実確認を取りに行ってくるよ。出来れば詳しい話も聞きたいしね」

希月「じゃあ、私も付いて行きます!」

王泥喜「俺も」

成歩堂「う~ん、内容が内容なだけに、あまり大勢で押し掛けるのもよくないかも知れないな」

成歩堂「取り敢えず、オドロキくんはみぬきと留守番を頼まれてくれるかい?」

王泥喜「え?またですか?いや、別にいいんですけど、俺、今回あまり手伝えていない気が……」

成歩堂「いやいや、事務所を守るのも立派な仕事だよ。それに、事務所にいても情報を得ることは出来るし、やることはいっぱいあるよ(……多分、ね)」

希月「大丈夫です!オドロキ先輩の分まで、私がバッチリ話を聞いてきますから!!」

王泥喜「ハァ、仕方ないですね。分かりました。みぬきちゃんと一緒に留守番しています」

みぬき「一緒に事務所を守りましょう!オドロキさん!」

成歩堂「頼りにしているぞ、みぬき」

みぬき「行ってらっしゃい、パパ、ココネさん」

某日 某時刻 留置場


成歩堂「……なるほど。確かに甲斐刑事が教えてくれた情報と一緒だね」

希月「酷い!同じ女性として許せませんね!!」

成歩堂「男性でも許せないよ。とにかく、これは明日の裁判で武器になる」

良美「……お役に立てたでしょうか?」

成歩堂「ええ。辛い中、よく話してくれました」

希月「私たちが絶対にあの検事をギャフンと言わせて見せます!」

成歩堂「……………………」

-数時間前-


成歩堂「……お前の方から連絡をくれるなんて珍しいな、御剣」

御剣「成歩堂。今回、お前が担当している事件についてだが……」

成歩堂「……まさか、『これ以上の捜査は止めろ』とか言わないよな?」

御剣「フッ、私を見くびって貰っては困るな」

成歩堂「まあ、お前に限ってそんなことを言うわけないのは僕がよく分かってるよ」

御剣「……私はこれからある男と戦うことになるだろう」

成歩堂「ある男?」

御剣「その為に、明日の裁判では是非とも真実を明らかにして欲しい」

成歩堂「……御剣、僕はいつもそのつもりで弁護人席に立っているよ」

御剣「確かにお前はいつもそうだったな。今更なことを聞いてすまなかった」

成歩堂「いや、連絡をくれて嬉しいよ。今度する時は仕事じゃない連絡だったら嬉しいけどね」

御剣「フッ、その時が来るにはまだ早いだろう?」

成歩堂「ああ、僕たちはまだ戦っていかないといけない。この法曹界の闇と」

御剣「何時になるか分からない。だが、必ず我々の手で決着を着ける」

成歩堂「ああ、その為に」



成歩堂(その為に僕は法廷へ帰って来たんだ!)

希月「ナルホドさん?」

成歩堂「ん?あ、ああ。ごめん。少し前の電話のことを思い出してたんだ」

希月「ミツルギさんからの電話でしたっけ?何を話していたんです?」

成歩堂「必ず真実を突き止める。そういう話さ」

希月「……ハイ!」

成歩堂「じゃあ、良美さん。明日の裁判もよろしくお願いします」

良美「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

成歩堂「じゃあ、行こうココネちゃん!」

希月「ハイ!」

翌日 某時刻 地方裁判所 第3法廷


ざわざわ……

カツン!


裁判長「これより、海野良美さんについての裁判を再開したいと思います」


成歩堂「弁護側、準備完了しています」

火堂「検察側、準備完了していますよ。ヒッヒッヒ…」

成歩堂(……これが、最後の大勝負になる!!)

裁判長「それでは、検察側。昨日の調査の結果をお願い……」

成歩堂「裁判長!!」

裁判長「な、何ですかな、ナルホドくん?」

成歩堂「弁護側から一つ、申し上げたいことがあります!」

裁判長「し、しかし、検察側の調査結果を……」

成歩堂「(相手に先手を取らせてはダメだ!多少強引でも、ここは……)これは大事な話なのです!」

裁判長「しかし……」

火堂「裁判長!」

裁判長「ひ、ヒドウ検事?」

火堂「ヒッヒッヒ、裁判長。なあに。調査結果は逃げません。弁護側の話くらい聞いてあげてもいいじゃありませんか」

裁判長「う、う~む。あなたがそう仰るのであれば……」

火堂「……とのことですよ?弁護士殿?」

成歩堂「(その余裕、何時までも保てると思わないで欲しいな!)有難うございます。では、弁護側は……」

希月「ナルホドさん……!」

成歩堂「コクッ 弁護側は、火堂飛京検事が海野良美さんにストーカー行為を働いたことを告発します!!」

火堂「なっ!?」

裁判長「な、なんですとおおおおおおおお!?」

本日はこの辺で。
終わりが大分近くなりました。
続きはまた後日。

続きを
今日は完結しないと思います

火堂「な、な、なななな、何を言い出すのですかあ!?」

成歩堂(流石の火堂検事もこの事態は想定していなかったみたいだな)

裁判長「な、ナルホドくん!いきなり火堂検事を告発とは、君は本当に奇想天外ですな!」

成歩堂(まあ、普通でないことは否定できないな)

裁判長「……しかし、私には分かりません。火堂検事が被告人をストーカーしていた。それが事実だとして、何か問題でも?」

成歩堂「大アリです。火堂検事が被告人に特定の感情を抱いた上での起訴であるならば、その信憑性に疑問の余地が生まれます」

希月「そもそも、警察は真犯人は常勝さんとして捜査していて、その裏付けもほぼ取れていました!その上で、良美さんを殺人罪で起訴しようとするのは不自然以外のナニモノでもありません!」

火堂「お、お黙りなさいィィ!!」

ざわざわ……

火堂「わ、私は、被告人海野良美が海野月子を殺害した犯人だと確信した上で、彼女を殺人罪で起訴したのですっ!!」

成歩堂「その根拠とは?」

火堂「昨日の裁判でのこと、もう忘れたのですかぁ?アパート管理人の証言ですよぉ!これは無視出来ませんよねぇ!?」

希月「それはあくまで可能性を提示したに過ぎません!」

火堂「可能性があるなら、とことん調べるぅ……これ、誰の定石でしたっけねぇ?成歩堂弁護士殿ぉ?」

成歩堂「……残念ですが、その必要はなくなったようです」

火堂「ハァ……?」

成歩堂「弁護側は新たな証人を召喚します。警視庁特命係の杉下右京警部です!」

火堂「なっ!?」

ざわざわ……


右京「さきほど、成歩堂弁護士よりご紹介に預かりました、警視庁特命係の杉下と申します」

裁判長「これはご丁寧にどうも。あなたの噂はこの私も聞いたことがあります。いくつもの難事件を解決なさったとか」

右京「いえ、僕はただ、気になったら調べずにいられないもので…僕の悪い癖」

火堂「…………」ギリリッ

成歩堂「(とうとう火堂検事が黙り始めたな。攻めるなら今しかない!)杉下刑事!早速ですが、事件についての証言をお願いいたします」

右京「ええ。分かりました。海野良美さんが真犯人であると火堂検事が主張するこの事件。僕の見解、及び警察での捜査では、未遂に終わった海野常勝氏による無理心中である可能性が非常に高い。また、海野常勝氏もそれを認める供述を行っています」

火堂「ふ、フン。彼は被告人と親子関係にあるのですよ?娘を庇おうとしているに決まっています!」

右京「いえ、それでは最初に海野良美さんが供述したことと矛盾します。海野良美さんは常勝さんを明らかに庇っていました。真犯人であるならば、常勝さんを庇う理由が何処にあるのでしょう?寧ろ、罪を押し付ける格好の相手ではありませんか!」

火堂「気でも変わったのですよ!」

右京「……状況から考えて、二人が事件において何らかの共犯関係にあったことは確かです。しかし、彼女の供述が自らの犯した殺人を隠す為だとしたら、火堂検事の主張は些か不自然であると言わざるを得ませんねぇ」

火堂「しかし、管理人の証言があります!あなた方警察の見解に疑問を投げ掛ける証言が!!」

右京「その件でしたら、もう既に謎は解けています」

火堂「はっ!?」

右京「それが、先ほど成歩堂弁護士の主張した、あなたの海野良美さんへのストーカー行為なんですよ」

火堂「だから、何でそうなるのですかぁ!?だ、大体私はストーカー行為なんてしておりませんぬっ!!!」

右京「いえ、あなたは彼女へ執拗なストーカー行為を行っていたんですよ。その証拠がこちらにあります」

火堂「なっ!?」

右京「裁判長、こちらへ証拠品を提出いたします」

裁判長「これは…ビデオテープですかな?」

右京「それはアパート前を撮影したもので、商店街の方たちが取り付けた監視カメラとなっています」

成歩堂「それの一週間前から事件前日までの内容を見て下さい!」

裁判長「ふむ、では見てみましょう」

右京「裁判長、こちらに人影が映っているのが見えますでしょうか?」

裁判長「……ああ、確かに見えます!」

成歩堂「その人影は毎日決まった時間にその場へ現れて、じっとアパートを見つめたり、時々良美さんの部屋の前まで行ったりしています。明らかに怪しい行為です」

希月「この人物は良美さんへのストーカー行為を疑われてもおかしくないですね!」

裁判長「……しかし、残念ながらこの人物の顔がよく見えませんなあ」

火堂「そ、そうだ!そ、それが私であるなどと証明が……」

右京「ところがあるのですよ」

火堂「な、なあ!?」

成歩堂「最近の警察のカガク捜査は物凄く発展していますからね。あなたもご存知では?」

火堂「う、ううぅ……」

右京「こちらはその人物を拡大し、鮮明にした部分を写真としてプリントアウトしたものです」

裁判長「ほほう……これは老眼が進んだ私の目にもくっきり見えますなあ。ん?これは……」

成歩堂「火堂検事。あなたで間違いありませんね?」

火堂「ぐ、ぐぬぬっ……!!」

成歩堂「なぜ、事件前から彼女の元へ訪れ、このような行為に及んでいるか、あなたに答えられますか?」

火堂「ぐはあ!!」

右京「海野良美さんは、以前警察へストーカー行為に遭っていると被害届を出したそうです。その記録の存在をある刑事が見つけ出してくれました。先ほどの証拠品と合わせて、彼女がストーカーの被害を受けていたことは間違いないでしょう。また、事件現場からはこのようなものが発見されました」

裁判長「それは……手紙ですかな?」

右京「ええ、内容は彼女へストーカー行為があったことを更に裏付けるものとなっています。ですが、それよりも重要なことはこの手紙に残された指紋です」

裁判長「指紋…ですか?」

右京「ええ、良美さん、月子さん、常勝氏……それ以外の指紋がこの手紙からは見つかっています。封筒の中に入っていたものですから、郵便局員などといった可能性は無いと言っていいでしょう。では、これは誰の指紋なのか?」

火堂「ハァ、ハァ……」

右京「火堂検事。もしも、彼女へストーカー行為など働いていない。濡れ衣だと主張なさるのであれば、疑いを晴らす為にも指紋の照合のお手伝いをお願い出来ますでしょうか?」

火堂「ここここここここ、断るぅ!!!!」

右京「それは自白と受け取ってもよろしいでしょうか?」

火堂「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うううううううううううう!!!!!」

火堂「だ、大体、それと管理人の証言と何の関係があるのですかああああ!?」

右京「それも、この監視カメラに映っています」

成歩堂「彼女、家に入ってからすぐに出て行って共同トイレに駆け込んでいます。ちなみに共同トイレは一階と二階に一つずつ。この手の古いアパートでは珍しい構造ですね。そして彼女が駆け込んだのは二階の方」

右京「管理人は彼女の帰宅は証言しましたが、その後の行動については何も言っていませんでした。恐らく、それは火堂検事により止められていたのでは無いでしょうか?」

希月「そうか!火堂検事に必要だったのはあくまで先に良美さんが帰宅していた…その情報だけ!」

成歩堂「証言自体は嘘では無いというわけです」

右京「そして、常勝氏が帰宅したのは彼女がトイレから出る前です」

成歩堂「弁護側の主張が通ることが映像的に証明されました」

火堂「く、くそ……」

裁判長「な、なるほど。これは確かに弁護側の主張が証明されたことになりますね」

右京「直前に良美さんは郵便受けから何かを手に取っています。これは僕の推測なのですが、恐らくそれは例の手紙で、玄関先でその内容を確認した良美さんは思わずトイレに駆け込んでしまったのでは無いでしょうか?」

成歩堂「昨日、被告人に確認したところ、概ねそうであるとの返答を得られました」

火堂「ひ、被告人の証言など何の証明にもなりませんよっ!!!!」

右京「しかし、状況の説明はつきました。この上で何か反論などはありますでしょうか?」

火堂「ぐ、ぐぐぐぐ……犯人は、犯人は海野良美……」

成歩堂「あなたは彼女への腹いせから、このような起訴へと至った!」

希月「男としても法に携わる人間としても……最低です!!」

火堂「ま、まだだ……。まだですよ!!な、ナイフの指紋です!!被告人の指紋のついたあのナイフ!!こちらにはそれが……」

右京「残念ですが……」

火堂「な、何ですか!?今度は一体何を言うつもりですかああああ!?」

右京「先ほど、成歩堂弁護士が仰られたように、日本の科学捜査は進歩しているのですよ」

火堂「だから何!?何なのぉ!?」

右京「良美さんの指紋の下についていた指紋、つい先ほどそれが常勝氏のものであると証明されました」

火堂「なあっ!?」

成歩堂「つまり、これで物証としても常勝さんの無理心中が証明されたわけです」

右京「これであなたの主張は全て覆されました」

火堂「い、いや、違う!こ、こんなのは…嘘だ、絶対に有り得ない……」

右京「いい加減、お認めなさい」

火堂「は、犯人は海野良美…海野良美なんですよおおおお」

右京「火堂さあああああんッッッッ!!!!!」プルプル

火堂「ひ、ヒィィィィィィィ!!!!!!」ビクッ

ざわざわ……


裁判長「……今回の裁判でまた一つ真実が明らかにされました。それでは、まず検察側が主張した被告人海野良美に対する海野月子殺害についての判決を行います」


無 罪 !


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裁判長「勿論、彼女には他の罪での裁判が残っています。ですが、弁護側の尽力によって殺人犯という濡れ衣は晴らせたと言っていいでしょう」

良美「……ナルホドさん。有難うございました!」

成歩堂「……いえ、僕だけの力では無いです。特に杉下刑事。あなたの協力が無ければ、彼女の疑いは晴らせなかった」

希月「協力、有難うございます!」

右京「いえ、お礼を言われるほどのことではありません。真実が闇に葬られ、正しくない罪で裁かれることを阻止したかった。それだけですよ」

成歩堂(御剣……僕たちは真実を勝ち取った。後は、お前の番だぞ!)

同日 同時刻 ???


コンコン

???「誰だ?」

御剣「私です。火堂検察庁特別監査長官」

飛烈「おや、若き検事局長殿。何か私に御用ですかな?」

御剣「率直に言わせて頂きたい。あなたを告発しにきた」

飛烈「告発?穏やかでは無いですねえ。一体、何の罪で?」

御剣「今回の再捜査の件で、あなたが行った警察側への不当な介入……つまり、捜査妨害ですよ」

飛烈「ヒッヒッヒッ…それは、面白い冗談ですねえ」

御剣(ここでこの男を倒さねば、法曹界に未来は無い!)

というわけで本日はここまで。
続きは後日です。

続きです。

飛烈「御剣検事局長、あなたはとてもジョークのセンスがあるようですねえ。喜劇役者にでもなれますよ」

御剣「フッ、あなたも負けず劣らず喜劇役者の才能がおありのようだ」

飛烈「なに?」

御剣「知らないのですか?先ほど、例の裁判が終わったと報告がありました。どうやら被告人は無罪のようですね」

飛烈「…………」

御剣「つまり、あなたが用意していた捏造の証拠などは今この時を以って無意味と化したのです。これが喜劇でなくて何でしょうか?」

飛烈「捏造?何のことだ?」

御剣「私に一々説明させますか。まあ、いいでしょう」

御剣「火堂検察庁特別監査長官…いや、火堂飛烈!貴様はこの裁判において捏造した証拠で被告人を有罪にし、それを私が仕向けたことのように偽装しようとしていたな!?」

飛烈「それはそれは、また突飛なことを言いなさる……何か証拠でも?」

御剣「フッ、これはある人物から頂いた資料だ。警察に保管されている事件の証拠品何点かを本日借り受けるという内容のもの。ここに貴様の名前がある」

飛烈「事件の証拠品を調べるのは検事として当然のことでしょう?何せ、息子が関わっている裁判なんでねえ」

御剣「検察庁特別監査長官という肩書きを持つ貴様が捜査……?とても、信じられんな。そもそも、貴様は現場から退いてもう何年になる?」

飛烈「それは御剣検事局長。あなたも同じでは?ああ、あなたはこの間の宇宙センター立てこもり事件で法廷に立ちましたっけねえ」

御剣「……とにかく、あなたが事件の証拠品に関わろうとしたことは確かだ」

御剣「貴様の筋書きはこうだ。息子である火堂飛京に被告人を殺人罪として起訴させ、裁判を引き延ばす。当然、弁護側の反発は免れない。議論の末、検察側が再捜査を提案すればほぼ確実に翌日以降にまで裁判を引き延ばせる。その間に貴様は証拠品に被告人が不利になるような偽装を施し、それで有罪を勝ち取らせる。あとはその工作を指示したのが私であるという偽装を行えばいい」

飛烈「ヒッヒッヒ、御剣検事局長殿。そんな偽装、すぐにバレてしまうと思いますよ?昨今の警察は優秀ですからねえ」

御剣「寧ろ、バラすのが貴様の真の目的だ。証拠品が捏造だったということがバレた時、私がそれを指示したことにすれば、懲罰は免れない。私は検事を辞めなければならなくなる。……私を検事局長の座から引きずり落とすのが貴様の魂胆なんだろう!?」

飛烈「ヒッヒッヒ、御剣検事局長殿。あなた、小説家にでもおなりになられたらどうですか?いい線行っていると思いますよ?」

御剣「だが、この工作を実現させるためには一つのハードルがある」

飛烈「……伺いましょうか」

御剣「……警察が再捜査に応じる必要があるのだ」

飛烈「確かに……事件は終結しようとしていた。ちょっとやそっとじゃ再捜査なんてとてもとても……」

御剣「だが、貴様はやった。警察庁の人間を利用してな!再捜査が行われたこと自体がそれを証明している!!」

飛烈「……御剣検事局長殿。あなたが今まで言ったことはただの推測に過ぎません。この私が、そんなことを誰に依頼したと?証拠がありませんなあ」

御剣「……………………」

飛烈「話は終わりですか?ヒッヒッヒ、なかなか有意義な時間でしたよ。では、失礼……」

???「やあ、遅れてすまないな」

飛烈「!?き、貴様は!?」

御剣「フッ、あなたのことをお待ちしておりましたよ。甲斐峯秋警察庁次長」

飛烈「ななななな、何故貴様がここに!?」

峯秋「いけないかい?」

御剣「いえ、よくいらして下さりました」

峯秋「確か、再捜査についてだったよね?」

御剣「是非ともあなたの口から証言して頂きたい」

峯秋「ふむ……確かにこの男から再捜査についての打診はあったよ。それを仲介したのも私だ。だが、私のやったことはそれだけだ。この場合、実際に指示を下したのは君、ということになるのかね?」

飛烈「な!?なぜ、貴様……!?」

峯秋「いやねえ、おたくの息子さん。えらい失態を犯したそうじゃないか。巻き添えは食いたくないものでね」

御剣「懸命な判断、感謝いたします」

飛烈「ぐがが…がが」

峯秋「いやいや、人事ではないな。うちにもバカ息子がいるからねえ」

飛烈「き、きき、貴様あ……!!」

峯秋「私が直接指示を出さずに、あくまで仲介だけに留めた時点でこうなる可能性くらい分かりそうなものだがね。よっぽど彼のことが憎かったのかい?」

御剣「火堂飛烈、貴様の捜査妨害はこれで証明された!」

峯秋「可哀想に……当然、今の役職は剥奪だろうね。最近は世間も厳しい。親子揃って不祥事なんてやらかしたら、もうここにいることなんて出来ないと思うがね」

飛烈「あの……バカ、息子おおおおおおおおおおおお!!!!!」

御剣「これで、チェックメイトだ」

数分後


御剣「これで奴はもうお終いだ。証拠品を偽装される前に防げた。全てあなたのおかげです、甲斐次長」

峯秋「やれやれ、私も暇では無いのだがね」

御剣「まさか、あなた自ら来て頂けるとは」

峯秋「たまたまだよ。本来であれば、こんな茶番に付き合う義理なんて無いからな」

御剣「では、何故?」

峯秋「何故だろうかね?」

一時間前


峯秋「……珍しいな、お前から電話とは」

甲斐「……さっき、例の裁判が終わった。被告人の無罪判決でな」

峯秋「それだけの為に連絡したのか?下らん……」

甲斐「今回の再捜査の件、あんた関わってるだろ?」

峯秋「……答える義理はない」

甲斐「このまま、逃げるつもりかよ!?」

峯秋「……用はそれだけか?なら、切るぞ。私も暇ではない」

甲斐「あんた、警察官だろ!!」

峯秋「……………………」

プツ

峯秋「……フン、青二才が分かったような口を」

秘書「甲斐次長、検察庁より電話が入りました」

峯秋「ん?誰からだ?」

秘書「御剣検事局長からです」

峯秋「御剣……」

飛烈(それほどに目障りな人間なんだよ。御剣怜侍という男はね)

峯秋「……そういえば」

甲斐(……さっき、例の裁判が終わった。被告人の無罪判決でな)

峯秋「……ここらが切り時だな」



峯秋「……では、私はこれで失礼するよ。御剣検事局長」

御剣「重ね重ね、お礼を申し上げます」

峯秋「君とは、もっと仲良くしたいね」

御剣「そう言って頂けると光栄です」

バタン

ブロロロロロロロ

御剣「……フッ、彼と飛烈が密会していることを教えてくれた神戸さんには改めて感謝を申し上げねばな」

御剣(……だが、甲斐峯秋、噂通り侮れない男だ。今回はこちらの味方をしてくれたからいい。だが、いずれ敵となる可能性は十分にあるだろうな)

同日 某時刻 被告人控え室

成歩堂「……そうか。そっちも片が付いたのか」

御剣「ああ、これで一つ、闇が払われた。今はそう思いたいものだな」

成歩堂「じゃあ、また連絡する」

ピッ

成歩堂「……杉下刑事。今回の件、改めて有難うございます」

右京「いえいえ、先程も申し上げた通り、僕は僕のすべきことをしたまでです」

希月「でも、これでやっと事件は解決!ですね!」

王泥喜「希月さん、まだ裁判は終わって無いよ」

成歩堂「そうだよ。本来行われる筈だった、偽証についての裁判が残ってる」

希月「……すっかり忘れてました」

右京「あなたがたであれば、きっと彼女を正しい判決へ導けると僕は思います」

成歩堂「……有難うございます」

右京「では、我々はこれで。行きますよ、カイトくん」

甲斐「はい!」


希月「行っちゃいましたね」

王泥喜「何だかんだあったけど、やっぱり凄い人たちだったな」

成歩堂「うん、今回は彼らに随分と助けられた。今度は僕らが依頼人を助ける番だ」

希月「ハイ!」

王泥喜「よし、絶対に大丈夫だ!」

成歩堂(彼らとは、捜査のやり方で見解の違いはあった。でも、彼らも僕たちも真実を見つけようという、その意思だけは一緒だった。今度、彼らとまた会った時、その時こそちゃんと手を取り合って真実へ向かって行ける。…そんな気がするんだ!)

成歩堂「でも、彼らが間違っていた時、僕は…僕たちはこう告げるだろう」




異議あり!!!!!!




同日 某時刻 マンション


笛吹「へ~。大変だったのね、亨」

甲斐「毎度のことながら、杉下さんといると本当に退屈しないよ」

笛吹「私は亨にそっくりな弁護士さんが気になったな~」

甲斐「いや、俺は似てないと思ってるんだけどね」

笛吹「当人同士はそう言うもんよ。私もその弁護士さんの顔、見てみたいな」

甲斐「何だよ~、俺、嫉妬しちゃうぞ?」

笛吹「プッ、何似合わないこと言ってんのよ」

甲斐「お前がそう言うからだろ?」

笛吹「アハハハハ、あ~お腹苦しい~」

甲斐「ったくよぉ」

同日 某時刻 花の里


幸子「へ~、そんなことがあったんですか~」

右京「ええ、あったのですよ」

幸子「でも、その弁護士さん。とても優秀なんでしょ?私も、一度会って見たかったですね」

右京「何か相談事でもおありなのでしょうか?」

幸子「ほら、私ってついてないじゃないですか。今はこうして平穏な日々を過ごせてますけど、何時また事件に巻き込まれるか不安で不安で……。そういう時、優秀な弁護士さんがいてくれたらとても心強いじゃないですか」

右京「何もしていないのであれば、胸を張って堂々と無実を主張すればいいじゃありませんか」

幸子「でも、必ずしも無実が証明されるわけじゃありませんし…特に味方が誰もいないなんて時は」

右京「もしもその時が来たら、我々が必ず真実を明らかにして見せます」

幸子「杉下さん……もう一杯如何ですか?」

右京「頂きましょう」

こうして、警視庁特命係と成歩堂なんでも事務所が絡んだ事件は終わりを告げた。
彼らとその仲間の手により、真実は明らかにされ、悪は退かれた。

だが、世の中には隠されそうになる真実がまだまだある。

彼らは戦い続けるだろう。
真実を求め続ける限り。




THE END

と、いうわけでようやく完結です。

いつも短めの投稿で申し訳ございませんでした。

また、いつか相棒SSか逆転裁判SSか、或いは両方を書きたいと思っています。

応援有難うございました。

それでは、さようなら!

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