星野愛久愛海「お前は俺にとって……推しの子だからな」星野瑠美衣「……そっか」 (20)

"そんなに優しい言葉を口にしないで
いつだってクールなあなたらしくない
誰にも媚びず 誰とも群れることなく
世界で1番 孤独なLover”

乃木坂46 - 【世界で一番 孤独なLover】

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「仮にも私は妹なわけで、私が嫌いなタイプと兄が付き合うのは嫌なわけ。なので、お兄ちゃんが付き合うべき女性を私が決めます」

星野瑠美衣(ルビー)
このアホは一応、今世での俺の妹だ。
母親譲りの整った顔立ち、煌めく瞳。
高校生になってますますアイに似てきた。

そんな妹は俺と同じく前世の記憶を持ったまま生まれ変わった、所謂"転生者"であり、赤ん坊の頃から意思疎通を図ることが出来た。
流暢に会話する気味の悪い赤ん坊の兄妹だ。
そして俺と妹の嗜好はある1点で一致してる。

それは母親であるアイのファンであること。
しかもお互いに熱狂的にアイを推している。
それはアイが死んでからも変わっていない。

初めてアイのライブを見に行った際のこと。
つい本能で思わずヲタ芸を踊ってしまった。
双子の赤ん坊がサイリウムを揃って振っている様子は動画に収められ拡散され、今でも探せばすぐに見つかる。若気の至りだった。

俺たち兄妹は性格的にはあまり似ていない。
それはそうだ。前世では他人なのだから。
それでもアイの存在のおかげで俺たちの共通認識は一致していた。アイ至上主義である。

なので、その部分においては馬の合う仲睦まじい兄妹だったと言えるだろう。
それに、妹には言っていないが、俺は前世でこのアホと同じようにアイが大好きな女の子のことを知っていた。だからかも知れない。

「ちょっとお兄ちゃん、私の話聞いてる?」
「……お前って無駄に元気だよな」
「無駄にってどういう意味よ!?」

今の健やかに成長した妹の姿が俺は嬉しい。

「そもそもお兄ちゃんってこれまで一切彼女とか作らなかったじゃん? なんで?」
「そりゃ同世代だと精神年齢違いすぎるし」
「げ。マジで前世おっさんだったわけ?」

おっさんというほど歳は食ってなかったが、今世で高校生になった俺の精神年齢は完全におっさんと言えるだろう。つまり妹だって。

「お前だって似たようなもんだろう」
「だから女に歳の話しないでってば」

この男女平等のご時世に何を言ってんだか。

「そういうお前だってこれまで彼氏を作ったことないんじゃないか?」
「妹の彼氏事情詮索するとかシスコンキモ」

あまりにも一方的すぎて不条理な妹である。

「お兄ちゃんはシスコンな上にマザコンだから彼女になった人は大変だよね」
「余計なお世話だ」

たしかに俺の推しは未だに母親のアイだ。
アイが死んでからどれだけ時が流れても、彼女以上のアイドルは現れない。これからも。

ただもしかしたらと。最近思うことがある。

「ルビー」
「なによ。改まって」
「お前はもうアイドルなんだよな」
「まあね。必ずドームに立つから!」

このアホならもしかしたらと錯覚するのだ。

「ママみたいな究極のアイドルに私はなる!」

まるで自分に言い聞かせるように宣言する妹を見るたびに俺は疑問を覚えてしまうのだ。

「アイみたいな究極で完璧なアイドルになって、それでお前はどうしたいんだ?」
「え?」
「だからその後だよ」

前世で特殊な環境で育ったという妹は将来というものを考えるのが苦手らしく首を傾げ。

「んーそんな簡単になれるもんじゃないし」
「そりゃそうだろ」

アイは完璧だった。簡単にはなれない存在。

「でも、アイみたいになるんだろ?」
「なる!」
「それで、お前の夢はおしまいなのか?」
「夢……」

恐らく俺はこの妹よりも精神年齢が高いと自覚している。だからこそ考えさせたかった。

「死ぬまでアイドルを続けるのか?」
「わかんないよ……そんなこと」

きっと妹は今を生きている。そこが危うい。

「なれたら、そんとき考える!」
「そうか」

それもまた生き方だ。ただ過酷だとは思う。

「あれー? お兄ちゃん、もしかして……」
「なんだよ」
「もしかして私を心配してんの?」

腹の立つ笑顔にアイの面影を見てしまった。

「……俺に面倒かけんなって話だ」
「なんでよ! 私のお兄ちゃんでしょ! 妹のひとりくらいおんぶに抱っこで面倒みてよ!」

少しは遠慮しろよ。まあ、意味なんてない。

「なら、困ったときは言えよ」
「わかった!」

本当にわかってんだか、定かではない。
妹関連の問題は後手に回ることが多い。
なにせこのアホは前世の特殊な環境なせいか世間一般の常識に疎いのである。箱入り娘。

小学校も中学校もそして高校も。
まるで初体験なのような浮かれっぷり。
処世術なんか欠片もない。自由人。
その振る舞いはアイに似ているが違う。
アイは嘘で固めて建前を振りかざす。
日常から自分を演じて、鎧を見に纏う。
実の息子として生まれた俺でさえ本心を読めないところがあった。だからこそ強いのだ。

しかしルビーは違う。こいつは素でアホだ。

「ところでお兄ちゃん」
「ん?」
「なんで家のトイレが封鎖されてんの?」
「お前がアイドルになったからだ」
「アイドルだってトイレくらいするよ?」

ドルヲタの癖にこんな寝言をほざくなんて。

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