ようこそ『悪』の帷の内側へ。歓迎するよ。
まずは自己紹介からだ。僕の名前はリリス。
『黒のリリス』と言えば、お気づきだろう。
そう、僕こそが秘密結社キサラギの最高幹部にして人類最高の頭脳を持つ悪の科学者だ。
うん。生きたまま人体に改造手術を施し、数多の怪人や戦闘員たちを生み出した張本人。
その証に、世界最高額の賞金をかけられた僕は文字通り『世界最高の悪党』と言えよう。
ああ、怖がらなくてもいい。僕は科学者だ。
僕の行いは全て知的好奇心によるものであるが、そのついでに君達を救済してやろう。
病に侵されない丈夫な身体が欲しくないか?
何事にも屈しない、強靭な肉体はどうかね?
あるいは、理不尽な正義に抗う力はどうだ?
そんな君達の願いは今、叶う。
全てをこの僕に委ねるといい。
全身麻酔から醒めたその瞬間。
君は悪の組織の一員となれる。
さあ、改造手術を始めよう。
これで君は6番目の検体となる。
戦闘員六号。それが君の新たな名前だ。
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「リリス様」
「なんだい、六号」
「背中が痒いんで掻いて貰えませんか」
緊急通信で呼び出されて急いで出向いた僕に、戦闘員六号はそんなお願いをしてきた。
現在、改造手術によって彼は包帯でぐるぐる巻きであり、腕1本動かせない状態である。
背中を掻くのはお安い御用だが、しかし。
「六号。一応、僕は最高幹部なんだよ」
「はい。知ってます」
「そのような雑事は僕の仕事じゃない」
「でもリリス様が手術を施したわけですし」
たしかにそうだけど。まあ、いいけどさ。
「ほら、どこが痒いんだい?」
「もう少し下っス」
「これ以上下がるともう腰だよ?」
「はい。尻と腰の境目くらいです」
うつ伏せになった六号を俯瞰して。
包帯を解いて、該当の箇所を晒す。
六号のお尻の谷間が僅かに見えた。
なんとなく、自分の胸と比較する。
僕は大きくはないけど美乳だから。
なっ。六号の尻の谷間のほうが深いだと。
「どうしたんすか? リリス様」
「い、いや、手術痕を確認してたんだ」
「なんだ。てっきり自分の胸の谷間と俺のケツの谷間を見比べてたんじゃないかと」
こいつ。尻の谷間を縫い付けてやろうか。
「無駄口はいいから、さっさと処置するよ」
ぽりぽりと六号のお尻の谷間を掻いてやる。
「リリス様、意外と上手っすね」
「こんなことで褒められても嬉しくない」
本当は、手術痕が疼くのだろう。疼く筈だ。
すぐに違和感はなくなるとはいえ、六号の身体はもう既に本来の人体の構造とは異なる。
全身の筋肉の繊維はより太く強靭なものに置き換えていて、戦闘服の負荷にも耐えられるよう作り替えた。もう普通の人間ではない。
「やはり傷口が痛むかい?」
「平気っすよ。こんな痛み」
軽くそう言って除ける彼には覚悟があった。
どんなに辛い手術だとしても、このまま正義に虐げられるよりはマシであるという覚悟。
「よしよし。君は偉いね。流石は僕の子」
「ガキみたいな見た目で何言ってんすか」
むっ。口の悪さだけは手術でも直せないか。
「六号。あまり僕を怒らせないほうがいい」
「その僕っての、どうにかなりませんか? 強く見せようとして逆効果になってますよ」
「う、うるさい!」
仕方ないじゃないか。僕はチビだから。
私なんて言ったらヒーローに舐められる。
もう僕は、チビでザコの『安田』じゃない。
僕はもう二度、正義面した連中に寄って集って虐められたくないんだ。だからね、六号。
「大丈夫っすよ」
「六号……?」
「これからは俺がリリス様を守りますから」
六号。君に心を読む機能は付けてないよ。
優しい人だ。いや、優しい人間"だった"。
だが今はもう戦闘員。悪の戦闘員なんだ。
「キサラギは仲間を大事にする組織だ」
「ウッス」
「君の心がけは素晴らしい。だからこそ、僕は君に改造手術を施して、戦闘員にした」
だからこそ、怪人ではなく、戦闘員にした。
「僕が改造した君はもう、ヒーローなんかに負けやしない。この先どんどん強くなれる」
「ウッス」
「しかし今は。動けない今は、僕が守ろう」
ズズンッ! と建物に衝撃が響いて、揺れた。
僕のモノクルには監視衛星が捉えた、急襲を仕掛けるヒーローたちの敵影が映っている。
僕はリリス。
黒のリリス。
全ての怪人と、戦闘員たちの母。
独り立ちするまでは、指一本触れさせない。
「遅かったね、ヒーロー諸君」
病棟の屋上にて、僕はヒーローを見上げる。
赤、青、黄、桃、白。目がチカチカするよ。
それぞれ何を象徴しているかは知らない。
カラフルな彼らに黒のヒーローはいない。
その理由は僕が居るから。黒のリリスが。
「改造手術は成功した。君達を脅かす新たな戦闘員の誕生だ。だが、まだ彼はまともに動ける状態ではない。故に襲ったのだろう?」
ヒーローという連中はいつもそうだ。
悪党に何をしてもいいと考えている。
大勢で取り囲んでリンチばかりする。
僕が昔、ノートに書いた当時としては荒唐無稽な実現不可能である理論を破いて捨てた。
忘れないよ。死ぬまで。あの残酷な正義を。
「戦闘員六号。僕が生み出した6番目の戦闘員にして最強の改造人間。僕では君達を倒すことは出来ないかも知れないが、彼を守り通すことは出来る。そして彼が、彼こそが!」
ヒーローのレーザー・ビームを触手で払う。
「君達正義の味方に、引導を渡す存在だ!」
白衣の下から8本の触手を展開する。
5人のヒーローそれぞれに照準を合わす。
残った3本で敵の攻撃を防ぎ、凌ぐ。
「うぐっ……ううっ……ちくしょう」
5人のヒーローのうち3人は倒した。
あと2人。しかし、僕の触手は1本だけ。
残りの触手は既に破壊されている。
「いいさ……やるがいい。だが僕がやられても触手たちは必ず、この建物を守り抜くぞ」
周囲に散乱した触手が蠢く。
僕の意思とは関係なく、プログラムで。
ただこの建物を守るために。
赤のヒーローに最後の触手を向ける。
しかし青のヒーローに回り込まれた。
羽交締めにされて、触手を踏まれる。
赤のヒーローが、勝ち誇って嘲笑してる。
「脅しのつもりかい? 僕に投降しろと?」
嘲笑で返すと、胸ぐらを掴まれた。怖い。
「屈しない。正義なんかに、悪は負けない」
勇気を振り絞る。僕はリリス。黒のリリス。
「必ずや、僕の仇を六号が……!」
「そんな重たい役目、御免っすよ」
振り返ると、そこに六号が這いずっていた。
「ろ、六号……?」
動ける筈ないのに。六号が這いずってくる。
「ど、どうして来たんだ! 君はまだ……!」
「いや……もう、我慢の限界だったもんで」
爪が割れている。それでも彼は前進する。
無様だった。ヒーローたちが彼を嘲笑う。
こんな奴に、自分たちが負けるものかと。
「戻るんだ! 君はいずれ最強の戦闘員に」
「いずれじゃ、遅いんですよ。何もかも」
今、強さが欲しい。今すぐ。この瞬間に。
そんな彼の思いが、ひしひしと伝わった。
テレパシー機能なんて、付けてないのに。
「今やらないと」
六号の手が赤のヒーローに踏み躙られる。
「今じゃないと」
六号の背中に青のヒーローが足を乗せた。
「今やらなきゃ、意味なんてねえんだよ!」
ぶりゅっ! と、六号の尻の谷間から、下痢便が噴出してヒーローのバイザーにかかった。
我慢の限界とは、便意のことだったらしい。
「リリス様ぁ!!」
「っ……いけっ! 触手たち!!」
あまりの惨状に僕の頭脳を持ってしてもまったくついていけないけど、六号が僕に何をして欲しいのかだけは、はっきりとわかった。
周囲に散乱した触手を1本にまとめて。
それを六号に接続する。六号の穴に。
僕と違って、たったひとつの尻穴に。
「お?」
ズボッ!
「フハッ!」
極太の触手を尻から生やした六号が、その圧倒的な万能感に酔い痴れて、愉悦を溢した。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
噴水みたいな下痢便のあと、尻からは1本の長大な触手が出現した。悪夢のような光景だ。
悪党。その2文字を体現した戦闘員の哄笑。
「寄って集ってリリス様を虐めんじゃねえ! この六号様が相手になってやる! いくぜ!」
六号の背中に足を乗せ、糞塗れになった青ヒーローが極太の触手を腹に受け、身体をくの字に曲げて吹っ飛んだ。唖然とする赤のヒーロー。六号の視線がモノクルごしに届いた。
わかっている。僕たちは仲間だ。僕は君の。
「何を見惚れているのかね、ヒーロー。君も六号のように尻から触手を生やすがいい!」
僕は君の生みの親だから。だから負けない。
僕の最後の触手が、ヒーローを貫いた。
いや、紙一重で躱されたか。まあ、いい。
尻を押さえ、恐怖で顔を引き攣らせている。
糞塗れの青のヒーローと貫通の恐怖を味わった赤のヒーローの正義は、もはや喪われた。
「まったく、無茶をするね君は」
「リリ、ス様……」
ヒーローが逃げ出したあと、僕は六号のお尻から触手を抜いてやり、綺麗に糞を拭いた。
「最高幹部である僕に尻を拭かせるとはね」
六号は応えない。減らず口など叩けない。
僕の触手を制御するのは至難の業なのだ。
ただでさえ足りない脳に過大な負荷がかかったことによって彼は意識を失ってしまった。
「恐らく君は今日のことを忘却するだろう」
脳は常に生存を最優先にして機能している。
だから、都合の悪いことは忘却してしまう。
それでも僕は。僕だけはこの日を忘れない。
「勝ったよ、六号。僕たち『悪』の勝ちだ」
包帯から僅かに覗く、彼の黒髪に触れる。
僕と同じ、真っ黒な黒髪。黒は悪の色だ。
黒が好きだ。何ものにも染まらない漆黒。
好きだよ、六号。私、初めてそう思うよ。
「ち、ちがわいっ! 好きじゃないやいっ!」
落ち着け。何言ってる。僕は私じゃない。
あどけない寝顔でこの僕を誑かすなんて。
六号め。悪い奴だ。さすが悪の戦闘員だ。
次の検体は女の子にしよう。いや待てよ。
もう怪人や改造人間ではなくいっそのこと。
「いちからアンドロイドを創ってみようか」
僕はリリス。黒のリリス。六号の生みの親。
【戦闘員、脱糞します!】
FIN
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