真希波・マリ・イラストリアス「そろそろ可愛い子犬が欲しいにゃん」 (25)

本作品には現在公開中の『シン・エヴァンゲリヲン』に関するネタバレが含まれております。
まだ観ていない方はくれぐれもご注意ください。

それでは以下、本編です。

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久しぶりに訪れた両親が暮らすマンションの一室で、僕は父さんと向き合っていた。

父である碇ゲンドウは多忙な人で、話したいことがあると言ってもなかなか時間を取って貰えず、母である碇ユイに頼み込んでなんとか今日この場を設けて貰うことが出来た。

父は今どきマラソン選手でも使わないようなスタイリッシュなサングラスを着用していて、熱心に新聞を読み耽っている。

しかし、よく見るとその新聞は逆さまであり、そのことを指摘するべきかどうか迷うところではあるが、ひとまず触れないでおく。

「父さん」
「なんだ、シンジ。改って」
「実はマリさんと結婚しようと思って……」
「駄目だ」

兼ねてより交際していた真希波・マリ・イラストリアスとの結婚について切り出すと、父は逆さまの新聞紙から顔を上げることもなくきっぱりと切り捨てた。

勝手にしろと言われるものとばかり思っていたので少々面食らってしまったが、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。

「駄目って、どうしてさ」
「理由はいくつかある。ひとつはマリくんの年齢のことだ。彼女は私の大学時代の同期であり、既に50歳を越えている」
「年齢なんて……そんなの関係ないよ」

たしかに父からしてみれば複雑な心境かも知れないが、それはあくまでも父の問題であって僕には何ら関係のないことだ。

「ならば年齢についてはひとまず置いておこう。今度は私からお前に尋ねたい。シンジ、何故マリくんなんだ。その理由を聞かせろ」
「何故って……僕にはマリさんしか居ないから。僕を愛してくれるのはマリさんだけだ」

マリさんに僕は救われた。彼女が見つけてくれなかったら僕はずっと独りぼっちだった。
彼女だけは僕を探して、迎えに来てくれた。

「シンジ。嘘をつくな」
「僕は嘘なんて……」
「私にはお前の気持ちが手に取るようにわかる。お前はただ単純にマリくんの胸の大きさに惑わされただけだ。目を覚ませ、シンジ」
「やめてよ、父さん!」

なんてことを言うんだこの父親は。
このご時世にそんな発言は許されない。
いくら実の父親だからって、いや実の父親だからこそ許すことは出来ない。頭に来た。

「父さんに僕の何がわかるって言うのさ!」
「わかる。わかるとも。父親だからな」
「今更、父親面して……!」

カッとなって育児放棄親父に罵詈雑言をぶち撒ける寸前で、母さんが割って入った。

「シンジ。落ち着いて」
「でも母さん!」
「この機会を逃せば、お父さんは何かと理由をつけて半年は捕まらないわよ」

冷静な母の言葉で頭が冷えた。落ち着こう。
ようやく手に入れた機会を無駄にはしたくない。大丈夫。話せばきっとわかってくれる。

「父さん。僕はそんな理由でマリさんと一緒になりたいわけじゃないんだ。僕はただ、彼女と幸せになりたいだけで……わかってよ」
「お前のその気持ちに嘘はないのだろう。しかし、シンジ。私にはどうにも解せない」
「解せないって、何がさ」
「お前とマリくんはこれまでほとんど接点がなかったにも関わらず、何故交際に発展したのか、それがわからない。私が知る限り、ゼーレのシナリオにもそんな展開はなかった」

ゼーレのシナリオってなんだよと、そんな文句を飲み込みつつ、内心面倒臭い父親だと思っていることを顔に出さないようにすることを心がけて、僕は父に懇願した。

「父さん、頼むから結婚を認めてくれ」
「私はこれでも父親として、お前たちの馴れ初めについては一応把握している。学校の屋上で空挺降下したマリくんとぶつかったのが最初の出会いで、次に再会したのはそれから14年後。再会と言っても初対面も同然の彼女と結婚すると言われても、理解に苦しむ」
「チッ。うるさいな……糞親父」
「シンジ、冷静に」

いけない。つい悪態を吐いてしまった。
父さんは昔から僕を苛つかせる天才だ。
完全にペースを握られている。マズイ。

「いいか、シンジ。そも男女が親密になる過程というのはそんなに単純なものではない。たとえば私とユイの馴れ初めは……」
「父さんと母さんの馴れ初めなんて聞きたくないよ! そんなのどうでもいいだろ!?」
「お前も暴行事件を起こして運命の相手に身元引き取り人となって貰えばわかる筈だ。本当の恋とはそこから始まり、そして真実の愛を知ることになるだろう。私とユイのように」
「どうでもいいって言ってるでしょう!?」

思わずぶん殴って留置場送りになるとこだ。
マリさんに身元を引き取って貰い、そこから父さんと同じ悲惨な人生を歩む寸前だった。

「僕にはマリさんしか居ないんだよ! イケメンスケに撫でポのアスカは心神喪失状態の僕の口にレーションを無理矢理詰め込んできて危うく窒息死寸前だったし、綾波のそっくりさんは村に馴染んで人間らしくなってきたと思ったら目の前で水風船みたいに弾け飛んじゃうし、リア充トウジの妹のサクラちゃんは口より先に手が出やすいどころか衝動的に銃をぶっ放すヤンデレ気質だったし、ミサトさんは責務を全うして加持さんのところに逝っちゃったし、だから僕にはもうマリさんしか居ないんだ!!」
「喚くな。現実などそんなものだ。いい加減大人になれ、シンジ。でなければ帰れ」

言わせておけば。しかし、ぐっと堪える。
大人になるとはつまり、我慢を覚えること。
如何なる理不尽も受け流せることを、この大人気ない父親に理解させなければならない。

「父さん。マリさんは良い人だよ」
「ああ、知っている」
「だから、何も心配はいらないよ」

この男にほんの僅かでも父親としての自覚があるならば、これまでの発言の中には息子に対する心配があって然るべき。その筈だ。

「父さんは僕が一時の感情に流されて結婚しようと思っていると誤解して、だから心配してくれたんだよね? 大丈夫だよ、安心して」
「本当に胸に目が眩んだわけではないのか? 違うと、母さんの前ではっきり言えるか?」
「しつこいな……もう黙れよ」

ああ、苛々する。なんなんだこの親父は。

「あなた、シンジを信じてあげましょうよ」
「しかし、母さん。胸の大きさで結婚相手を決めようとしている息子の目を覚ましてやるのは父親の務めだ。私だって、もしも相手が胸の小さな女性ならば反対はしなかった」
「それは間接的に私の胸が小さいと?」
「ち、違うぞ、母さん。私はあくまでも、母さんくらいの胸の大きさの女性が結婚相手として適切であると考えているだけで……」
「しばらく離れて暮らしましょうか?」
「ま、待ってくれ!? もうどこにも行かないでくれ! 頼むから! ユイ! 行くな!!」

僕に代わって母さんが父さんを懲らしめてくれた。妻の尻に敷かれる、情けない父親だ。

「あの、ちょっと聞いて貰っていいかな?」

そこでこれまで黙っていたマリさんが初めて言葉を発し、その内容に僕は耳を疑った。

「実はもうお腹に赤ちゃんが居てさ」

!?

「認めて貰えないと困っちゃうんだよね」

空気が凍り、一瞬で溶け、狂乱に包まれた。

「あらあら、そうだったの」
「シンジ! どういうことだ!?」
「知らないよ! 子供も何も僕はまだ童t」

納得した母親と、憤激した父親と、寝耳に水な僕が騒いでいるとマリさんは咳払いして。

「とまあ、てなわけで。これからは義理の娘としてよろしくね、六分儀くん」
「……その呼び方はやめろ」

よほどショックだったのかガックリと肩を落とした父の背中を労わるように撫でる母に優しく微笑まれ促され、僕はマリさんの手を引いて席を立つ。帰り際に、父に一言告げる。

「父さん。子供が産まれたらまた来るから」
「ああ……楽しみに、待っている」

あれほど憎んでいた父に自分の子供を見せるのが待ち遠しいと感じるのは、僕が大人になれた証拠だろうか。悪くない気分だった。

「それで、マリさん」
「んー? どうかした?」
「さっきのどういうこと?」
「ふふーん。だぁって、ああでも言わないと認めてくれそうになかったじゃん」

帰り道、爆弾発言について尋ねると、やはりあれは彼女の口から出まかせだったらしい。
それはそうだ。僕はこれまで子供が出来るような行為を彼女としたことはないのだから。

「ユイさんにはバレてたみたいだけどね」
「母さん、やけに落ち着いたもんな」
「でもまさかゲンドウくんがあんなに喜ぶとはねぇ。やっぱり孫は可愛いみたいね」

あれは喜んでいたのか。分かりづらい人だ。

「まさか父さんが僕の結婚に反対するなんて思わなかったから、かなり焦ったよ」
「洒落臭かったけど、やっぱりなんだかんだ愛されてるってことなんじゃないの?」
「そうなのかな」

逆説的に、なんとも思っていなかったら反対なんてしないのは理解出来るけれど。
単に僕を困らせたかっただけのような気が。

「ところでさ、ワンコくん」
「そのワンコくんって呼び方やめてよ」
「今晩は犬っころみたいになって欲しいな」
「は? それはどういう……?」
「嘘を真に変えようってこと」

思わず立ち止まると、マリさんが顔を寄せ。

「そろそろ可愛い子犬が欲しいにゃん」

そう囁かれた僕の顔はたぶん真っ赤で、マリさんはクスクス笑いながら、いつものようにくんくん僕の臭いを嗅いで、ふと気づく。

「おや? ワンコくん、うんち臭いよ?」
「だ、だって……マリさんが子供出来たとか言うから、びっくりして、それで、つい」
「フハッ!」

やれやれ。敵わないな、マリさんには。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

理不尽に耐えることが大人になるということならば、この哄笑も耐え切ってみせよう。
マリさんの笑顔を見ているとポカポカする。
ついでにお尻もポカポカして、愉快だった。

父さん。僕はこの気持ちが、愛だと思うよ。


【シン*エヴァン下痢ヲン】


終劇

最後の最後に何しとんねんこのお漏らシンジは…
と思ってたら書いたのお前さんかい!
面白かったよ乙!

>>11
楽しんで頂けたようで何よりです
マリは個人的に大好きなキャラクターなので、今回の映画の終わり方はとても嬉しかったです
最後までお読み下さり、ありがとうございました!

面白かったです。

一つ訂正を入れるなら新劇はゲンドウの苗字が碇でユイの苗字が綾波です。

>>14
それは知りませんでした
教えて頂き、ありがとうございます
勉強不足で申し訳ありません

お読み下さり、ありがとうございました!

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