――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「…………」ムズムズ
(藍子の膝の上に頭を乗せている)
高森藍子「その時に、公園にいた子どもがみんなで――……加蓮ちゃん? どうしたんですか?」
(膝の上に加蓮の頭を乗せている)
加蓮「いや、えーっとさ……」
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レンアイカフェテラスシリーズ第80話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「朝涼みのカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「七夕のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「ひまわり畑のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「7月24日の23時にて」
加蓮「汗。……私、臭くない?」
藍子「気になりませんよ?」
加蓮「ならいいけど……。外がバカみたいに暑いし、藍子は私を見るなりいきなり膝に手ぽんぽんって吸い込んでくるし」
藍子「あの時の加蓮ちゃん、ふらふら~ってこっちに寄って来て、途中で、はっ、って気付いていましたよね」
加蓮「わざわざ解説すんなっ」
藍子「えへっ♪」
加蓮「……なんか今日の藍子、楽しそうだよね。色々強引っていうか。理由もなく膝に頭乗っけさせられちゃうしさー」
藍子「ちゃんと理由はありますよ~?」
加蓮「ふうん」
藍子「加蓮ちゃんが、やってほしそうな顔だった、っていう理由がありますっ」
加蓮「……………………」
藍子「……………………加蓮ちゃん。あの、見るならせめて、睨んでください……。週末の粗大ごみを見るような目はやめてください……」
加蓮「…………まぁいいけど」
加蓮「こっちは汗が気になってるのにさ、藍子ってば離してくれないしー?」
加蓮「ふふっ。強引なのは嫌いじゃないけど、時と場所を考えてほしいなー?」
藍子「……加蓮ちゃん、強引なのが嫌いじゃないんですね?」
加蓮「えっ」
藍子「♪」ニコニコ
加蓮「……それは、いや、違うから。ほらあるでしょ。勢いっていうか」
藍子「ふんふん」
加蓮「例えばスタッフさんとかにさ。高森さんっていい子ですよねーって言われたらとりあえず否定しとこみたいなの。あるでしょ?」
藍子「?」
加蓮「あれっ」
藍子「もし、スタッフさんが加蓮ちゃんのことを褒めていたら、私も一緒に褒めますよ?」
加蓮「あー……。アンタってそういう子だっけ」
藍子「ついお話が盛り上がって、そうしたら私、加蓮ちゃんのいいところ、いっぱい教えちゃうんですっ」
加蓮「ハァ……」
藍子「何のお話がいいかな? あんまりプライベートすぎることはよくありませんよね。加蓮ちゃんは、アイドルですから」
加蓮「自分もアイドルだってこと忘れないようにしなさいよー」
藍子「大丈夫、忘れていませんよ。ふふ♪」
藍子「加蓮ちゃんのお話は――そう、例えば、周りのみんなに厳しいように見えて、実はすごく優しいところとか?」
加蓮「そんなことやった記憶ないんだけど」
藍子「え~。だって、この前、なかなか上手くダンスができない歌鈴ちゃんにアドバイス――」
加蓮「おらっ」ツネリ
藍子「きゃうっ!? いきなり太ももを抓らないで~っ」
加蓮「はーいそこまで。ちょーっと今日の藍子ちゃんは口が軽すぎないかなー? ねー?」
藍子「……加蓮ちゃんの、照れ屋さんっ」
加蓮「ほう」ツネリ
藍子「いひゃっ!? だから、痛いですってばっ。もう言いません、言いませんっ」
加蓮「私が膝の上にいる限り、藍子の命は私が握っているって言っても過言ではないのよ?」
藍子「……もうっ。加蓮ちゃんってば」
藍子「臭いは気になりませんけれど、外、すごく暑かったですよね」
加蓮「ね」
藍子「私の方こそ、臭い、大丈夫ですか? 臭かったら正直に言ってくださいね……?」
加蓮「気にならないよ。それに藍子の方が先に来てたじゃん。クーラーで涼んでたんだから、汗も大丈夫でしょー」
藍子「それもそうですね」
加蓮「汗とか臭いどころか最初に頭乗せた時から冷たいくらいだったし。……ひょっとして結構待ってた?」
藍子「ううん、待っていませんよ」
加蓮「気遣いとかいいから」
藍子「本当ですもんっ。と、言うよりも、どれくらい待ったか覚えてません」
加蓮「覚えてない?」
藍子「はい。加蓮ちゃんを待っている間なんて、あっという間ですから! 10分くらいだったかもしれませんし、1時間くらいいたかもしれませんね」
加蓮「ならいいけどさー……。いいんだけど、やっぱりなんか気になっちゃうよ」
藍子「加蓮ちゃん、やっぱり真面目です。待った、って言っても、外の暑い日差しの下で待った訳ではありませんから、大丈夫ですよ?」
加蓮「そういう問題? それは私が真面目なんじゃなくて、藍子がボケすぎてるだけだからね」
藍子「違いますっ、加蓮ちゃんが真面目すぎるんです」
加蓮「いーや藍子がボケボケすぎだね。ゆるふわナントカが頭にまで侵食しきってんじゃないの?」
藍子「加蓮ちゃんは真面目すぎるので、明日から学校の委員長とか、生徒会長になればいいと思いますよ?」
加蓮「今すぐ老人ホームとかに行っても藍子なら問題なく生活できそうだよねー?」
藍子「む~」
加蓮「むー」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……あははっ」
加蓮「たはは……。何言い合ってんだろうね、私達」
藍子「今さっき、頭のてっぺんから熱が抜けちゃいました。ひゅっ、って感じで」
加蓮「藍子、一瞬すごくぽかーんってしてたよね。もしかしてその時?」
藍子「たぶんっ。そうしたら、どうして言い争っちゃったのか分からなくなってしまいました」
加蓮「私はもう1時間くらいバトルできるけど」
藍子「はいはい、加蓮ちゃん。ここはカフェですよ~。争わなくていい、癒やしの空間ですよ~」ナデナデ
加蓮「ふにゃあ……じゃないっ!」
加蓮「ふ、振り払いたいのに起き上がれない……っ! この魔女め……!」
藍子「なでなで~」
加蓮「ふにゃあ……」
藍子「えへ♪」
加蓮「…………。…………藍子。いい? 藍子。そのまま続けてみなさい。1分以内に寝てやるんだからね、私」
加蓮「そしたらアンタ独りぼっちよ。話し相手もいなくなってしばらく独りになるわよ」
加蓮「独りは寂しくて寂しくて仕方ないわよ。それでもいいの? それでも私を撫でるの?」
藍子「それは寂しいですね。じゃあ、加蓮ちゃんを撫でるのは、お喋りにちょっと疲れちゃった時、ってことで♪」
藍子「その時は私も、ちょっぴりお昼寝しちゃおうかな?」
藍子「そうしたら、また加蓮ちゃんの夢にお邪魔できるかもしれませんね」
加蓮「……………………」
<カランコローン
加蓮「あ、珍しい。お客さんだ」
藍子「珍しいですね~、って、珍しいなんて言ったらこのカフェのみなさんに失礼ですっ」
加蓮「藍子も言ったじゃん」
藍子「い、今のはつい……。加蓮ちゃんに、つられちゃったから」
加蓮「あははっ。こんな暑い中お疲れ様ー」(小声)
藍子「お疲れ様です」(小声)
加蓮「うわ、なんかモワッとする」
藍子「扉が開いちゃったから、外の暑い空気が入って来たんですね……」
藍子「店員さんに言ったら、扇風機、貸してもらえるみたいですよ。メニューの1ページ目の下、ここのところに書いてあります。ほらっ」パラパラ
加蓮「なんかすごい真面目な字ー。限定メニューとかのフォントは丸っこいヤツなのに」
藍子「そういえば……。あれ? 加蓮ちゃん、見てください。今の限定メニューのページ。これですっ」ハイ
加蓮「南極をイメージしたシャーベットパフェ……。なんか格好いいね」
藍子「見てほしいのは、文字の方です」
加蓮「文字? あ、ホントだー。夏は格好いいモードにしたいのかな?」
藍子「もしかしたら……。夏だから、クールなイメージにしたかったのかも?」
加蓮「えー。クール=格好いいっていうのは私達だけでしょ」
藍子「じゃあ、加蓮ちゃんに影響されて、クールと言えば格好いい! みたいな考えになったのかもしれませんね」
加蓮「あははっ。なんだかちょっと照れちゃうなぁ。そういえば、前に私達が元になったっぽいメニューがあったりもしたよね」
藍子「あれは……見て見て、今もありますっ」
加蓮「またやってみる?」
藍子「え~。今日は、バトルは無しですよ。今日は加蓮ちゃんを膝の上に乗せて、ゆっくりして、ときどき、加蓮ちゃんを撫でる日なんですから♪」ナデナデ
加蓮「ふにゃあ……」
加蓮「じゃ、」ブンブン
加蓮「ないって、」ブンブン
加蓮「の!」ブンブン
藍子「ひゃっ」
加蓮「人の1日を勝手に決めるなっ。そんなに膝に何か乗せて撫でたいなら猫でも飼いなさいよ。みくちゃんにでも相談してさー」
藍子「……」ジー
加蓮「……何?」
藍子「……♪」ナデナデ
加蓮「ふにゃ――うりゃあ!」ツネリ
藍子「いっ! 爪を立てないでくださいっ。本当に痛いですっ」
加蓮「ふしゃー……!」
加蓮「とにかく、扇風機は大丈夫だよ。クーラー結構効いてるし、逆に寒くなっちゃいそう。今はちょっと、モワッとしたのが気になっただけだから」
藍子「は~い」
加蓮「今日も天気予報で猛暑日って言ってたよね。何日連続だっけ……」
藍子「熱中症に気をつけましょう、って、テレビでもラジオでも毎日言っていますよね」
加蓮「そーそー。藍子は――」
藍子「対策、バッチリしてますっ」
加蓮「よろしい。そういえば35度とか36度ってさ、もう人の体温と同じくらいじゃん」
藍子「そうですね~。私も、平均体温はそれくらいかな?」
加蓮「私もー。ってことは、36度ってそこら中に私や藍子がいるみたいなもの?」
藍子「私や加蓮ちゃんが外にいっぱい……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……今度LIVEのMCパートでこの話してみよ。絶対喜ぶよ。藍子のファンのみんな」
藍子「私は、今度のラジオの収録でお話してみようかな?」
藍子「あ……。ラジオの収録と言えば、加蓮ちゃんっ」
加蓮「また何か宿題を出されたの?」
藍子「はい。身の回りのちょっとした秘密のお話を用意してきてほしい、って、Pさんから」
加蓮「ふうん。秘密の話ねー」
藍子「加蓮ちゃん。加蓮ちゃんの知っている秘密のお話、教えてくださいっ」
加蓮「秘密、か。いいけど、タダで教えるのはちょっと……ね?」
加蓮「藍子ちゃんの秘密を何か1つ教えてくれるなら、教えてあげるのもやぶさかじゃないんだけどなー?」
藍子「うっ……。Pさんのお話じゃダメですか」
加蓮「うっわーこの子Pさん売ったよ。ありえなくない? ……ちなみに藍子の知ってるPさんの秘密って?」
藍子「それは――」
>>16 3行目の藍子のセリフ後半を訂正させてください。
誤:~~~って、Pさんから」
正:~~~って、モバP(以下「P」)さんから」
藍子「……」
藍子「…………」
藍子「………………」
加蓮「…………うん」
藍子「………………このお話は聞かなかったことにしてください」
加蓮「暑さで頭やられてない? 扇風機、持ってきてもらう?」
藍子「大丈夫ですっ」
□ ■ □ ■ □
藍子「すみませ~ん。アイスココア、おひとつお願いします。加蓮ちゃんも、何か飲む?」
加蓮「コーヒーお願いー」
藍子「だそうですっ」
加蓮「お願いねー」
……。
…………。
加蓮「……? 店員さん、なんか考え込んでた?」
藍子「え?」
加蓮「いや……何だろ。何か言いたそうにしてた気が――」
加蓮「まぁどうせ私への文句とかでしょ。藍子ちゃんの膝の上は私の物だからねー?」
藍子「あはは……」
加蓮「身近な秘密ってさ、番組的には私から聞いた話より未央や茜の話を期待されてるんじゃないの?」
藍子「そうでしょうか?」
加蓮「うん。だって藍子だよ? あ、もしかしたら歌鈴や愛梨かもしれないね」
加蓮「……特に愛梨の秘密とかみんなすごい知りたがるでしょ」
藍子「?」
加蓮「ってことで、未央や茜に聞いてきなさい」
藍子「それが……おふたりには、もう聞いた後なんです」
加蓮「あ、そうなんだ。なんて?」
藍子「未央ちゃんは――あっ、そうだ。未央ちゃんの返事……」ポチポチ
藍子「はい。未央ちゃんの返信が、これですっ」
加蓮「なになに。"一流のトップスターに秘密なんてない。あったとしたら、それは世界が滅びようと決して開いてはいけないトップシークレットなのさ……"」
加蓮「…………この子いつから蘭子語を勉強し始めたの?」
藍子「どちらかというと、飛鳥ちゃんっぽくありませんか?」
加蓮「確かに。そっか。未央、今そういうお年頃なんだね……」
藍子「そうかもしれませんね……」
加蓮「藍子。こういうのは余計なこと言っちゃ駄目だよ。お姉さんとして、暖かく見守ってあげよう」
藍子「未央ちゃんには、未央ちゃんなりの事情があるハズですよね。困った時と、相談された時だけは、手伝ってあげなきゃ」
加蓮「うんうん。……お姉さんとしてって言ったけど、私達と1個しか違わないか」
加蓮「で、1歳年上な茜はなんて?」
藍子「いつもの通りです。ぼんばー! って」
加蓮「あ、うん」
藍子「その後、隠していましたが私は猫も好きです! って送られてきました」ポチポチ
藍子「はい、これ」スッ
加蓮「へー、意外。ホントだ、猫と一緒に遊んでる茜が映ってる。……あははっ。隠しごとが猫も好きですなんて茜らしいっ」
藍子「私も、びっくりしちゃいました! よく、ワンちゃんと遊んでいるところを見るから」
加蓮「この前も見せてもらったんでしょ? 茜の撮影の時の」
藍子「はい。茜ちゃん、前より可愛くなっていましたよね~」
加蓮「……う、うん? そうだね??」
加蓮「茜は猫派でもあったんだ。茜自身が犬なんだし、犬1本かと思ってた」
藍子「茜ちゃんは、茜ちゃんですよ?」
加蓮「ほぼ犬でしょあの子。でもさ、実は猫も好きでしたっていうのはちょっと話として弱くない?」
藍子「う~ん……」
加蓮「未央は突っ込んで聞いたら冗談でも何か教えてくれると思うんだけどなー。でも茜の秘密って方がなんか需要ありそう。猫は論外だけど、もっとこう別の……」
加蓮「だけどどうやって聞き出そう。正直あの子、私の交渉術とかと相性最悪なんだよねー。誰か協力してくれそうな人っていたかなぁ」ブツブツ
加蓮「いや、今なら逆に未央の秘密の方がアリかな? 今をときめくアイドルの! みたいな」
加蓮「未央、また何かイベントに誘ってくれないかな。そしたら自然に聞くこともできそうなんだけど」ブツブツ
藍子「…………、」
藍子「えい」ツネリ
加蓮「んみっ」
加蓮「どしたの急に。ほっぺた抓ってきて」
藍子「む~」
加蓮「……いや、だからどしたの?」
藍子「む~~」
加蓮「伝わらないってばっ。……あー、ほら、店員さん来たよ。藍子のアイスココアだよ」オキアガル
藍子「む~~~」
加蓮「聞く耳持ってないし……。店員さん、ありがとねー。……藍子、とりあえずココア飲んだら?」
藍子「…………いただきます」ズズ
加蓮「私も、いただきます」ズズ
藍子「……ふうっ」
藍子「む~~~~」
加蓮「あははっ、顔がころころ変わって面白っ。パフェとか頼んだら、またふにゃーって顔になっちゃったりするの?」
藍子「……」プクー
加蓮「で? どうしたのよ。言いたいことは直接言わないと伝わらないんじゃなかったのー?」
藍子「…………。笑わないで、聞いてくださいね」
加蓮「ん」
藍子「今、ちょっとだけ、思い出したことがあって」
加蓮「うんうん」
藍子「加蓮ちゃん。前に未央ちゃんのお話をした時のこと、覚えていますか?」
加蓮「……覚えて、って、凛や奈緒の話ならまだしも未央の話っていっぱいしてるし、どれのことか分かんないよ? 」
藍子「パーティーの計画のお話をした時です。それと、未央ちゃんはみんなを楽しませる子で、それがすごく真剣なのが伝わってくる、って、加蓮ちゃんが未央ちゃんについてお話をした時の――」
加蓮「あぁ、そんな話もしたね」
藍子「あの時……」
藍子「あの時…………」
藍子「……」
藍子「む~」
加蓮「……」ズズ
藍子「……」
加蓮「……」ズズ
加蓮「ふうっ」
藍子「……」
加蓮「ん」クイッ
藍子「……」ズズ
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……。……え、何? 未央に嫉妬でもしたの?」
藍子「……」コクン
加蓮「えー……」
藍子「前までは、ぜんぜんそんなことなかったんですけれど、あの時だけはすごく……心の端っこと端っこが、火で炙られているような気分だったんです」
藍子「加蓮ちゃんが未央ちゃんのこと、いっぱい見ているんだな、って分かって――」
藍子「……加蓮ちゃん、よく、未央ちゃんと仲良さそうにしていますもんね。未央ちゃんも、加蓮ちゃんと一緒にいると、いつもとは違う楽しさがある、って言っていましたよ」
藍子「あと、Pさんもおふたりのことをお話していました。加蓮ちゃんと未央ちゃんが考えた企画は、プロの方も唸っていた、って」
藍子「……余計なお話に、なっちゃうかもしれませんけれど」
藍子「私、加蓮ちゃんがそうやって楽しそうにしているのを見て、少しほっとするんです」
藍子「ほら、加蓮ちゃん、前は壁を作っていて、誰かとお話することがあんまりなかったから――」
藍子「……今さっき、加蓮ちゃんが考え込んでいるのを見て……その時の気持ちを、少しだけ思い出しちゃって」
加蓮「…………」
藍子「……む~」
加蓮「……ハァ。いや、あのさぁ。最初に未央とか茜の話をしまくって、いつだったかポジパでのバーベキューに誘ったのアンタでしょ」
藍子「分かってます」
加蓮「あれなかったらたぶん私、今も未央と話なんてほぼしないし、茜のこと茜ちゃんって呼んで関わらないようにしてたよ?」
藍子「分かってますもんっ」
加蓮「今だって、話振ってきたの藍子の方でしょ」
藍子「最初に持ちかけてきたのは、加蓮ちゃんの方っ!」
加蓮「そもそもアンタが詳しく語るからこうなるんじゃないの?」
藍子「う……」
加蓮「それに、私なら別に気にしないけど? 藍子が未央や茜と一緒にいようと、なんだったら凛とか奈緒と仲良くしててもね」
加蓮「後から私の前で2人のことを楽しそうに喋ってようと、楽しそうにしてるなーってくらいしか思わないよ?」
藍子「……私だって、いつもはそうです。あの時と、今だけです。真夏の日差しを受けている時のように、心が熱くなって、焦げてしまいそうになったのは……」
加蓮「…………」
藍子「い、今はもう大丈夫ですよ? 今はきっと、私より外の温度の方が高いと思いますっ」
加蓮「36度って藍子の体温と同じくらいなんじゃなかったの?」
藍子「あれから結構経ちましたから、ひょっとしたらもう2度くらい上がっちゃっているかもしれませんよ?」
加蓮「38度って言ったら……」イヤナカオ
藍子「?」
加蓮「体調悪い時ってだいたいそれくらいの体温になるから……。体温計で測った時にさ、38.5とか6とか見たらうげーってならない?」
藍子「あぁ、わかります……」
加蓮「それが見たくないから体温計無しで体温が分かるようにしたんだけどね」
藍子「えっ。あれって、加蓮ちゃんがなりたくてなったことなんですか!?」
加蓮「うん。ふふっ。加蓮ちゃんの特殊能力。ラジオで暴露しちゃう?」
藍子「加蓮ちゃんがいいのなら……言っちゃいましょうかっ」
加蓮「言っちゃえ言っちゃえ。それくらいの方がちょうどいいでしょ」
藍子「こんなに暑い日は、あちこち歩き回るより、どこかでのんびりしている方が好きかな……」
藍子「加蓮ちゃん。公園の木陰って、すっごく涼しいんですよ。知っていましたか?」
加蓮「えー、絶対暑いよ」
藍子「涼しいんですっ」
加蓮「暑いって。木陰ってちょっと陰になってるだけじゃん」
藍子「涼しいですっ」
加蓮「暑い。絶対暑い。私、ちょっと前……梅雨が明けた頃かな? 日傘のCMに出してもらったことがあるんだよね」
藍子「日傘のCMですか?」
加蓮「確か3日後に流れるから、気付いたら見てね」
藍子「は~い。どうせなら、録画してじっくり見ちゃいますね」
加蓮「そ、そこまではしなくていいけど……」
加蓮「撮影の時、日傘を持って実際に外に出て撮ってもらったんだけどさ。普通に超暑かったの。もちろん撮ってもらう時は、涼しー! って感じでやったけどね」
藍子「なるほど……」
加蓮「ちょうど今日くらいの温度かな? まず靴裏がヤバイ。サンダルだったし」
藍子「確かに、それだとすごく暑いですよね」
加蓮「夏用のスニーカーでオススメとかってある?」
加蓮「……いや、目は輝かせなくていいから。あるならそれ買うだけでいいから。指折り数えてどれ勧めようって悩まなくていいからね?」
加蓮「でCMの話なんだけど。足元は暑くて、手も足も暑くて。日傘で遮ってる頭も普通に暑くて……」
加蓮「日傘で陰作っても、普通に暑いくらいなんだよ。木陰なんて、それ以上に暑いに決まってるでしょ」
藍子「……そこまで言うなら加蓮ちゃん。今度、一緒に公園に行って、試してみますか?」
加蓮「いーよ。暑かったらその後ここ来て、ぜんぶ藍子の奢りね」
藍子「じゃあ、もし私の言う通り、本当に涼しかったら……。そうですね~」ウーン
藍子「う~~~ん」
藍子「う~~~~~ん……」
加蓮「……ふわ。なんか目が重くなってきた……。慣れてきたけど私って藍子の膝の上にいるんだよね。なんかもう当たり前みたいに――」
加蓮「あー……」
藍子「う~~~~ん……? 加蓮ちゃん? どうかしたんですか?」
加蓮「別に」
藍子「……」ジー
加蓮「……」チラ
藍子「……」ジー
加蓮「……この前さ、私、藍子に怒鳴ったじゃん」
藍子「ひまわり畑の時のことですか?」
加蓮「うん。いつまでドキドキごっこをしてんのよ、って」
加蓮「けどさー……。あの時も言ったけど、私、そういうごっこ遊び自体を否定する気はないの」
加蓮「あの時はその……。ほら、私がちょっと真剣になりすぎてたって時期だったし」
藍子「わかりますよ。私が未央ちゃんのことをズルいって思った時と、きっと同じなんですよね」
加蓮「そうかもね。でも、1つ1つのことにドキドキするのって、いいことだって思う」
藍子「1つ1つのことに、ドキドキすること……」
加蓮「そうだね……。例えば、私がここで藍子とのんびりすることなんてもう当たり前になっちゃって。最初の頃は緊張――……緊張はしてないけど特別感があったでしょ?」
藍子「加蓮ちゃん。私は、けっこう緊張していました。だから加蓮ちゃんが緊張していたとしても、大丈夫ですよ? お互い様です♪」
加蓮「うっさいっ」ツネリ
藍子「いたいっ」
加蓮「藍子に膝枕をしてもらうのだって、最初は……確か事務所でだったっけ。ドタバタしちゃって、ちひろさんに叱られて……ってこと、あったよね」
藍子「ありましたね。懐かしいです……」
加蓮「今はもうすごい慣れちゃって、ドキドキもしなくてさー」
加蓮「藍子、あの向日葵畑で言ったよね。ずっと一緒にいたいって」
加蓮「いろんなことに慣れて、ドキドキしなくなっていって……その方が、ずっと一緒にいられるんじゃないかなって」
加蓮「ちょっとしたことにわざわざ心を揺れ動かされるのって、ワクワクして楽しいけど、疲れちゃうでしょ?」
藍子「……そうかもしれませんね」
加蓮「でもさー。ドキドキしたい、って気持ちも分かるんだ。例えそれが、ごっこ遊びだったとしても」
加蓮「……うん。私、何が言いたいのかわかんないっ。ふふっ」
藍子「う~ん……。加蓮ちゃんの気持ちはなんとなく伝わったから、大丈夫ですよ」
加蓮「ホントにー?」
藍子「本当ですっ」
加蓮「私のこと、ホントに分かった?」
藍子「分かってますってば~」
加蓮「分かったつもりになって自己満足してない?」
藍子「む……」
加蓮「あははっ。ちょっとしつこかったかな」
加蓮「藍子の、さっきの未央に嫉妬したって話を聞いた時、うわ重っ、しかも面倒くさい、って思っちゃったけど、私も人のこと言えないね」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「何?」
藍子「さっきの加蓮ちゃんの言葉を借りるなら……。私の前にいる限り、加蓮ちゃんの気持ちは、私が握っちゃいますっ」
藍子「それを、忘れちゃダメですよ? ……なんて。えへへっ♪」
加蓮「……たはは。否定できないもんね」
藍子「そうそう。さっきの公園のお話……。もし私が勝ったら、っていうのは、考えても思いつきませんでした」
加蓮「へー、珍しい。最近藍子ちゃんがワガママ言ってばっかりだから今度は何させられるかなーって身構えてたのに」
藍子「もうっ。私がわがままになっちゃったのも、今思いつかなかったのも、加蓮ちゃんのせいなんですからっ」
加蓮「私? ワガママになったのはまぁなんとなく分かるけど……」
加蓮「いや、藍子って結構前からワガママじゃなかった? 押しがすごく強かったでしょ」
藍子「違いますっ。お母さんも、昔の私はすごく大人しかったって、よく言ってくれますから」
加蓮「……それわざわざ言うってことは、昔と比べて今の藍子がよほど言い放題になったってことだからね?」
藍子「う」
加蓮「よく考えてみたら藍子、ここで遅くなった時に何回お母さんに連絡お願いしてる?」
藍子「ううっ」
加蓮「私がお母さんに頼めばいいよって言っても、悪いですからとか、加蓮ちゃんが怒られちゃうかもしれませんよとか言って、いつも藍子のお母さんにお世話になっちゃってるじゃん」
藍子「うううっ」
加蓮「藍子のお母さん、いつも私に藍子のことでお礼言ってくれるけど、藍子は帰った後とか私を降ろした後とかに何か言われてるんじゃないの?」
藍子「ううううっ……」
藍子「……うううううううううっ~~~~!」
加蓮「あははっ。犬みたいになった」
藍子「いいですもんっ。私はわがままな子ですもん……。お出かけしたくなったらお出かけして、お散歩したくなったらお散歩して、加蓮ちゃんと会いたくなったら連絡しちゃう悪い子ですもんっ!」
加蓮「あっはははははははっ!!」
藍子「…………」
藍子「……やっぱり私、周りのみなさんを困らせちゃってますよね」
加蓮「はいはい、全然そんなことはないから安心しなさい。逆に、藍子を奪い取ってる私の方が困らせてる方だよ」
藍子「加蓮ちゃんが?」
加蓮「今でもまだ未央やら茜やらが藍子ちゃんを返せーって言ってきてるからね? ……未央のヤツ、最近私に言いたい放題になりやがって」
加蓮「最近は歌鈴まで便乗してきたり、そもそもこっち側じゃない筈の奏まで悪ノリし始めてるし」
加蓮「奏が出てきたせいか美嘉が乗ってきて? いやそこの2人は藍子の何を知ってるっての! ってなっちゃってさー」
加蓮「そうそう、藍子この前莉嘉と一緒に遊んであげたんでしょ。莉嘉まで藍子ちゃんをちょーだいとか言い出したんだよ? もうすっかり私が悪者みたいになっちゃって」
藍子「あ、あははは……」
加蓮「私のことはともかく……。たぶん前にも話したけど、藍子はいいんじゃない? ワガママになっても」
加蓮「やりたいことをいっぱい見つけて、言いたいことをいっぱい言って。ねっ?」
藍子「……はいっ。でも、やっぱりわがまま放題なのは良くないと思うから……ひかえるところはひかえて、それで、ときどき言うようにしますね」
加蓮「うんうんっ」
藍子「ところで加蓮ちゃん」
加蓮「お、早速言いたいこと?」
藍子「ひまわり畑で言ってた私のこと、実はまだ根に持っていたりしますか……?」
加蓮「あと半年くらいはこのネタで藍子を困らせようと思ってます」
藍子「加蓮ちゃんこそ、ちょっとでいいのでひかえてくださいっ!」
加蓮「私そろそろ眠くなってきたから聞こえなーい」
藍子「……もうっ」
【おしまい】
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