・一人称の地の文アリ
・独自設定アリ
それでも良ければどうぞ
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1
部屋の明かりを消すと、室内が真っ暗に――ならなかった。開いている窓から入ってくる星と月の明かりには、慣れてしまえば歩くのには困らない程度の光量があった。
日付がかわり、それからいくらかが過ぎているくらいの時刻。親も既に寝静まっているだろう。私の家からは生活音は消えていた。学習机の上に置かれている時計の音と、わずかに吹いている風の音だけが聞こえる。周囲の住人もすっかり寝てしまっているみたいだった。
自分の部屋のはずなのに、深夜だというだけですっかり慣れない空間になっちゃっていた。昔の人が「丑三つ時」って言って怖がっていたのも、今は分かる気がする。
スマートフォンを手に取り、壁に寄りかかって座る。それから、スマートフォンの中に入っているなんちゃらカードを取り出し、機内モードにして、自分自身のケータイ番号に電話を掛けた。
ただ一つの光源が、暗い部屋の中でとっても眩しい。眠たくてしょうがない今の私の脳と目を強く刺激した。
はっきり言えば眠い。寝たほうがいいのも分かっている。それでも私は昨日ゆりりんから聞いた怪しいウワサを――「別の自分と繋がる電話」のウワサを試そうとしている。
どうしてなのかは、今の私には分からない。
もしかしたら、それを尋ねるために、私はウワサを試しているのかもしれない。
2
私がそのウワサを聞いたのは、今日――もう日付をまたいでいるから、昨日のことって言ったほうが正しいのかな――私こと高坂海美の誕生日の前日、八月九日のこと。
テレビ局での収録を終わらせて、さてこれから帰路に着くという時。たくさん動いてお腹を空かせていた私は、今日の晩御飯はなにかな~って考えていた。そしたらゆりりんからお声掛けがあった。
「海美さん、これから予定とかってありますか?」
「ないよ!」
即答だった。時間は二十時を回っていた。こんな時間よりも後に予定がある学生は、ほとんどいない。
「えっと……海美さんの誕生日って明日じゃないですか」
「憶えていてくれたんだー!ありがとー!」
恥ずかしながら、私はアイドル仲間の誕生日を全然憶えられていない。さすがにこの前誕生日を迎えたばかりの翼の分は憶えているけど、百合子のは全く記憶にない。確か、三月……だった、はず。
私はガサツだから、暗記はどうしようもないくらいに苦手だ。覚えなくちゃいけないことは、何度も繰り返して記憶する以外の方法を知らなかった。知り合ってから未だ誕生日を経験していない友達の誕生日なんて、本当に憶えられない。
「劇場のみんなの誕生日くらいなら、何も見ないでも言えますよ~」
翼はさらっと言い切った。恵美もさらっといえるんだろう。いやー、憶えられている人は凄いなぁ……。
「それで、ですね。明日はお仕事があるじゃないですか」
「うん」
明日はというより、明日もと言ったほうが正しい。ほぼ毎日お仕事があるのは、アイドルとして嬉しいんだけど、お盆期間を除いた夏休みのあいだ、ほとんど全てに仕事やレッスンがみっちり詰まっていると、ちょっと気が滅入るところがある。
一日休みを貰ったってどこか旅行したりする訳でもないし、一日かかるようなことをやりたい訳でも無いし、プロデューサーに一日休みが欲しいと言ったこともないけども……。
「そして、海美さんの誕生日でもあるじゃないですか」
「そうだね」
「けれども、私たちは別々の現場じゃないですか」
「ねー」
「一人の友人として、またユニットの仲間として、ぜひとも海美さんのお誕生日を直接お祝いしたかったんです。けれども、私たちは仕事の都合で会えないじゃないですか」
「そう……なの?」
私は昼から琴葉と一緒の雑誌の撮影が入っていて、それが終われば十七時半からレッスンの予定だ。いくら同じユニットとはいえ、私はゆりりんのスケジュールまでは把握していなかった。もしかしたら、ちょっと遠出するのかもしれない。
「そうなんです。ロケでちょっと仙台のほうまで」
「へー」
らしかった。仙台って……東北だよね?たしかに会えない可能性のほうが高そう。
「なので、今日中に前祝いとして、どこかお食事にでも……と思いまして」
「ごはんっ?行く行くっ!どこ行く?この時間だったらファミレスかな?それともカラオケにでも行く?私はオールでもいいよっ!」
「オールはちょっと……私は明日早いので……」
地方ロケだし、それもそうか。ちょっとざんねん。
「海美さんは食べたいものはありますか?」
「今食べたいもの……特には無いかなぁ」
お腹ペコペコだし、今ならなんでもおいしく食べられると思う。とはいえ、私だけが楽しめるものじゃなくって、一緒にいく二人も美味しいと思えるもののほうがいい。だから――
「任せるっ!」
そんなわけで、荷物をまとめて楽屋を発つ。それからタクシーに乗って、最寄り駅へ。さらに二人に連れられて歩くこと十数分。私たちはトンカツ屋の前に立っていた。
「おお、お肉……」
「翼が『一緒に行くならお肉がいい!』って言ってきかなくて……海美さんは大丈夫ですか?撮影って言ってましたけど」
「大丈夫!というか、むしろ、嬉しい!お腹ぺこぺこだし、がっつりしたものは大歓迎だよ!」
「そうですか、なら良かったです」
中に入ると、どうやらすいていたらしく、奥へと案内された。席に座ってメニューを開き、手早く注文を決めた。女の子の集まりらしくは無いと思うけれども、時間も時間だから仕方ない。
それから、私たちは三人で、ご飯を食べながらなんでもない話に花を咲かせた。テレビで見かけたスイーツの店について、他の子と一緒に行ったカフェについて。仕事で着たかわいい服について。
いつでも出来るような、あるいは顔を合わせればいつもしているような話題。
普段通りの会話を、私たちは楽しんだ。
そうして、私の誕生日会の代わりの食事会は特筆するようなこともなく終わる――はずだった。
3
「ところで、こんなウワサを知っていますか?」
と、百合子がいつもの「話したくて仕方がない」みたいな表情で切り出してきたのは、全員の食事が終わりそう……というか、二回もご飯をおかわりした翼の食べ終わりを、私たちが待っている時のことだった。
「どんなウワサ?」
翼が食べる手を止めて話を聞く体制に入った。
「『別の世界の自分と繋がる電話』のウワサです」
「別の……」「世界?」
私と翼で声が被った。興味があるのは私も同じだ。
「はいっ!短編小説のような話ですけど……」
百合子は、いつもよりもずっと目をキラキラ輝かせていた。
「えーっと……別の世界の自分って言われても、私にはぴんとこないかな……」
「別の世界……って、どーいうこと?」
「ふむ、そこから説明が必要ですか。なるほどなるほど」
そういうとすぐに百合子は手を組んで顎に乗せた。ユニットを組んでから一月も経てばこれが何をしている所作なのか分かるようになっていた。
これは、百合子が長考に入ったときのポーズ。私たち向けの説明を考えてくれているのだろう。
……理解できるかなぁ。
「そうですね……まずは別の世界の概念から説明しましょう。
今回の『別の世界』というのは、なにもファンタジー世界やSF世界、あるいはマンガのような世界という意味ではありません。
『今とは少しだけ異なる世界』のことを指します。並行世界、パラレルワールドと呼称されることが多い概念ですね」
「あっ、それならお兄ちゃんが読んでるマンガで聞いたことあるかも!」
と、翼が長文を一息に話す百合子の間に割って入った。
どうやら聞いたことがあったらしく「あんな感じのかな~」と一人納得していた。
……いやいや、よく分からないんだけど。
「えーっと……へーこー……へいこう……平行……」
数学でやった覚えがある。たしか、決して交わることのない二本の線……だっけ?
「具体的な例を挙げると、並行世界というのは『私たちがこうしてここで話していない』世界のことです」
「ん?どういうこと?」
頭の中が余計にごちゃごちゃした。
「ゆりりん、平行っていうのは、交わらないことだよね?図形の計算で使った気がする」
「……そうなんですか?」
え、なんで百合子が不安そうなの?
「……いえ、並行は使いませんよ」
使わないらしかった。私のなけなしの知識が敗北した、とても悲しき瞬間だ。
「数学で登場する言葉は平行ですね。私が今回使っている言葉は並行、並んで走ると書いて、並行です」
ちなみに難しい『こう』の字を使った平衡という、つり合いを示す言葉もありますね、と余計な注釈。
難しいことの上に複雑なことを乗っけられてしまい、相槌も打てなくなりそうだった。
「ですが、『本来なら交わらない』という意味では、平行でも正解だと思います」
「うん……うん?」
もうダメだ、ついていけない……。
と、私が絶望しているところで、翼が口を挟んでくれた。
「えーっと、わたしたち、今はこうして三人でを組んでいるわけじゃないですか~。でも、前のイベントのときに、ボタンの掛け違いがあったら、わたしたちはこうして話していないかもしれないですよね」
「それは……確かに。解散してた、かも……?」
「この前の夏フェス、本当にいろいろあったもんね……」
「ね~。で、その『もしかしたら解散していたかも』って世界が、並行世界……だよね?百合子ちゃん」
「やったぁ!」
翼が指をパチンと鳴らした。難しいクイズが解けた気分なのだろう。
私たちが同じユニットでない。それならありえる話だと思うし、実際にどうなっているんだろう――なるほど、そういう「起きていたかもしれないことが、実際に起きている世界」ってことかな。
最初の説明で分かるなんて、翼は理解がはやいなー。
「つまり、私たちがアイドルをやっていなかったり、劇場がなかったりするのも並行世界……ってことでいいのかな?」
「そうですね。翼の例も、海美さんの質問もおおむね正解です。」
そう言って、百合子はフォークを一本取った。
「よりイメージしやすいのはこちらのフォークですね。こちらの付け根が『世界が分岐した出来事』で、先端が並行世界です。このような話は、とあるゲームに出てくる世界線って言葉が分かりやすいですね」
「へぇー……」
難しいことを考え出す人もいるんだなぁ……。理解している百合子も百合子で凄い。
「このフォークの持ち手のように大きな線――事象の塊があり、その中にいくつも先端が――すなわち、可能性がある。けれどもこの線が向かう先は同じ……」
百合子はそう言って、フォークの先を左のてのひらにぷすっと刺した。それから、くるりとフォークを回して人差し指と中指に挟みこむと、もう一本フォークを手に取り、薬指と小指の腹で挟みこんだ。片方の先端を左の手のひらで受け止め、もう一方の先端はどこにも向いてはいなかった。
「先ほどの世界線とは異なる世界線でないと、世界の行く末は大きく変わらない……という考え方ですね。そうそう、作品によってはこの並行世界の概念が色々あって面白いんですよ。また別の作品で登場する並行世界の概念には剪定――」
「ゆりりん、ストップ。それ以上は私が付いていけない」
というか、既に今までの説明でも頭がいっぱいだった。
「あっ……。す、すみません……。私、また……」
「いいよいいよ。へーこー世界の詳しい話はまたいつかってことで」
「それで、百合子ちゃん。そのウワサっていうのは、どんなウワサなの?」
百合子をなだめる私の代わりに、いつしか全て食べ終わってた翼が本題を尋ねてくれた。
私も、固唾をのんで話の行方を見守る。
「……実は、その『別の世界の自分に繋がる電話』ってタイトルの通りで、言い表せてしまう話なんですよね……」
「え、ウソ!それだけっ?」
詳細も何もないのっ?
「いえ、詳細ならあります」
ズッコケそうな私たちにむけて、百合子は『別の世界の自分に繋がる電話』の手順を話し始めた。
まず、携帯電話の中のシムカードを外すこと。なんらかの手段で、電波が繋がらないようにすること。最後に、その状態で、自分自身の電話番号に電話をかけること。そうすれば、繋がる……かもしれない、とのこと。成功談も、失敗談も、どれも共通項が見つけられないらしい。
「ちなみに、私が試してもダメでした……」
「試したんだ……」
「そりゃ試しますよ!こんな面白そうな話!」
「うーん、わたしは試さなくていいかな~」
と、翼からは意外な反応が返ってきた。
「えっ、なんで!別の世界の自分から聞きたいこととか無いの!?」
この手のウワサ話とか好きだと思ったのに。
「うーん、どんな可能性でも、わたしはわたしだから、聞かなくてもいいかなーって」
「でも、他の可能性とか、知りたくない?」
百合子も、翼はもっと喰いつくと思っていたのか、今の翼の反応に好奇心を向けて訊ねた。
「うん。『他のわたし』なんて、ガマンできなくなっちゃうから。絶対、自分でもやりたくなるもん。だから、今のわたし以外、知らなくていい」
今の私にも、やりたいことはいっぱいあるから。そう言って翼は楽しげに笑った。少し羨ましかった。
「そっか、それは、翼らしいね」
「でしょ?」
翼は百合子にウィンクをして、それから残っていたお冷を一息に飲み干した。
「それで、海美さんはどうですか?」
百合子があいかわらずきらきらした瞳で、私にも訊ねてきた。
「私、私は――」
4
私、高坂海美はバレエを習っていたことがある。
始めた理由は、両親の教育の一環でしかなかった。それでも私がバレエを続けられていたのは、お姉ちゃんがいてくれたからだった。
親がキッカケで、兄弟姉妹の影響で。言葉にしてみればなんてことのない、どこにでもあるような、平凡な親と子の関係、ごく普通な家族の在り方だった。けれども、私たちのあいだには、一つだけ平凡じゃなかったことがあった。
私のお姉ちゃんは、非凡な存在だった。
お姉ちゃんは小さいころからバレエの才能を発揮させた。教室の先生は才ある姉のことを常に目にかけていた。
やがてお姉ちゃんは日本でも有数の――世界でも、同世代では敵うものがいないくらいのバレリーナとして成長した。疑う余地のないくらい、彼女は稀有な存在だった。
私の姉にあった才能は、バレエに関してだけじゃなかった。
勉強の才能があった。教えられたことは何でも吸収してみせ、常に全国模試でも上位に名前を残した。
運動の才能があった。身体を動かすことに対して非常に適正があり、陸上水泳球技の全てで学内トップに立てた。
芸術の才能があった。。歌も踊りも、絵を描くことも上手だった。その道を目指したなら、一流になれたと思う。
人を惹きつける魅力があった。彼女は誰からも愛され、周囲にはいつも誰かがいた。
とにかく、私のお姉ちゃんは凄い。文武両道とか、才色兼備とか、金声玉振とか、多芸多才とか、完璧超人とか。
オールマイティな人間に当てはまるような言葉は何でも当てはまっちゃうような、そんな人だった。
当然、両親はお姉ちゃんのことをほめたたえ、溺愛し、愛情を注ぎ続けた。幼い私も、お姉ちゃんを尊敬し、そして憧れた。尊敬も憧憬も消えてはいない。今なおずっと、私はお姉ちゃんの背中を追っている。
私は、お姉ちゃんのようになりたかった。
私の周囲も、私にそれを望んだ。
お姉ちゃんのようになりなさい。
あの人のようにやりなさい。
あなたにも出来るはずだよ。
そう言われて育った。ずっと言われ続けていた。
出来なかった。私には。
お姉ちゃんのようになんて、一つも。
じっとできない。落ち着きがない。我慢が足りない。大人しくならない。学習能力が無い。考えなし。才能が無い。駄目な人間だった。そんなことも出来ないのか。もっとやれるはずでしょう。お姉さんはやれたのに。なんであなたは。
そんな言葉をずっとかけられていた記憶がある。何度も何度も言われ続けた。言われなくなるまで。
そんな私を褒めてくれた存在は、粗雑で乱暴で女の子らしさのなかった幼い私を、私のままでいいと認めてくれたのは、お姉ちゃんだけだった。
いつしか、私はバレエを辞めていた。
私が行きたく無くなったからだったか、来なくてもいいと先生に言われたからか、それとも両親から辞めるように言われたからだったか。
もう憶えていない。
憶えていたとしても、しょうがないことだった。
5
ガクっと首が落ちた。昨日の出来事を振り返っているふちに少し眠っていたらしい。身体がびくってなる現象(前に百合子から聞いたことがある気がする。なんだっけ、ジャーキング?)のおかげで目が覚めたようだった。
手から零れ落ちていたスマホの画面を見る。寝る前と変わらず、私の番号へと発信したまま、らんらんと光を放っていた。私の意識が落ちる前と比べてなにか違いがあるとすれば、少し、音が鳴っているように聞こえる、くらい?
……鳴っていないはずのケータイから、音?
立ち上がって、ケータイを床から拾う。
ベットに寝転がり、耳に当てると、向こう側から女性の声が聞こえてきた。
『うーん、なにか聞こえてきた気がしたんだけど、気のせいかな……というか、本当に「私」に繋がるのかな……他の変なモノに繋がったりしないよね……』
この声はどこかで聞いたことがある。けど……私の知り合いに、こんな声の人はいなかった、気がする。
うーん、なにかキッカケがあれば思い出せそうなんだけど、思い出せない。喉に小骨が引っ掛かったときのようなすっきりとしない感覚。思い出せるように頑張れ、私――わたし?
あ、もしかして、この声の主って――
電話の相手は『別の世界の私』?
まさか、そんなことが。
正直、全く信じられない。けれどもウワサを試した人として、本当に繋がったかどうかを確かめないといけない。行動した者として、責任を果たす必要がある。
だから――
心を固めて、口を開く。
「もしもし、私……?」
『ひいっ!』
「ひいっ!」
怖い怖い怖い怖い!なんで悲鳴が聞こえてくるのー!
――って、何も聞こえてこない電話から急に声が聞こえてきたら、しかも「私……?」なんて質問してきたら、誰だってびっくりするに決まっている。私だって怖い。悲鳴を上げずにはいられない。だから、短く小さい叫び声が聞こえてきたって不思議じゃない。
というか、「私……?」って電話越しに訊ねてくる存在なんて、不意の悲鳴よりもはるかに怖い。完璧にホラー映画でしょ、そんなの。電話の向こう側の人は、そんなシチュエーションで、「ぎゃー!」って叫ばなかっただけ偉い。
うーん、これは悪いことをしていまったかなぁ……、でも私も怖い思いはしたし……。
『ふふふ……』
なんて考えていたら、電話の相手が笑い始めた。私も、その声につられて笑ってしまう。深夜だから、大声だけは出さないように、服の首回りを噛んで息を[ピーーー]。
私の行為に気づいたのか、電話の向こう側からも息が漏れる音がし始めた。
電話の向こう側の人、分かりやすいなぁ。
……当たり前か。
『はー、笑った笑った』
「どーいたしましてっ」
どうやら、電話の向こう側の人は十分に笑ったらしい。私も、さっきまで感じていた恐怖と、謎の緊張はどこかへ行ってしまっていた。
大きく一つ息を吐くと、電話の向こうの人が私に向かって話しかけてきた。
『もしもし、私』
「どうしたの、私」
どうやら「別の世界の自分と繋がる電話」のウワサは、本当だったらしい。
6
短くあいさつをすませると、すぐに二人とも黙ってしまった。私もウワサを試して電話をかけてはみたものの、気楽に話せると思っていたわけじゃない。おそらく、向こうの『私』もそうなのだろう。『私』だし。
……ところで、今、私は私たちを二人って数えたけど、私と私の場合は、二人とカウントしても良かったのだろうか。それとも私しかいないから一人……?いや、分身なんかは一体一体を一として数えて、分身の数だけ人数としてカウントしていた……はず。だから、今回の場合も二人で良いんじゃないかな……。
「高坂海美」が一人と『高坂海美』が一人で、二人。一たす一は二。小学生じゃなくても分かる、簡単な足し算だ。
なんて、話の切り出しに困ったからって、どうでもいいことを考えている場合じゃない。
「『ねえ」』
私たちの声が被ってしまった。私が次の言葉を話そうとしているタイミングは、向こうの私も私に話しかけようとしているタイミングなのかな……。ってことは、私はいつ『私』に話しかけたらいいのだろうか。
分かんない!
そもそも、電話の向こうが『高坂海美』であっても、今ここにいる私――高坂海美そのものじゃない。一体どこからどこまでが私と同じで、どこからどこまでが私と違うのかは分からない。だから、何を質問したら当たりさわりのない話になるのかも、分からない。
うぅ、自分との会話ってこんなに難しいんだ……。そりゃ、簡単だとは思っていなかったけど……。
と、落ち込んでみたものの、ここでまた二人揃って黙ってしまったら、さっきと同じように言葉に詰まり続けることになるんじゃないだろうか。
それは、まずい。今以上に気まずい。
――あ、一つ、切り出せる話題を思いついた。これなら、イケるんじゃない?
「えっと……ねえ、この『別の世界と繋がる電話』のウワサ、誰から聞いた?」
『だれ……だれ……えーっと、友達、から?』
明らかに言葉に詰まっていた。どうやら向こうの私も、どこまでが私に伝わるのかが分からなくて困っているみたい。
分かりやすいなー、『私』。
「その友達の名前、教えてくれる?」
『えっと……めぐみー――所恵美って子』
「めぐみー!」
『え、知ってるの?』
「知ってるよー!オシャレで、カッコよくて、でも、友達想いの!」
『そう、そのめぐみー!……ってことは、なんだ、良かったー。そっちの私も、アイドル、やってるんだ……』
電話の向こう側の私の声が、急にしおらしくなった。「高坂海美」がアイドルになるっていうことは、そんなに『私』の心を動かすことなのだろうか。
……いや、心が動かされることかも。うん、私も『電話の向こうの私』がアイドルやってるって知って、びっくりしたし。
きっと、向こうの『私』が知りたかったことは、他の高坂海美も、アイドルになれたかどうか、なんじゃないかな。
「そっかー、めぐみーかぁ!めぐみーも噂話とか好きそうだもんね!ねぇねぇ、めぐみーからどんな感じでウワサ話を聞いたの?」
なんてを推測していると感じさせないように、ちょっとオーバーリアクション気味な話し方になってしまった。でも、そっちのほうが私らしい、かな。
『……そっちの私はめぐみーからじゃないの?』
「うん。こっちはゆりりん――七尾百合子って子から」
『七尾百合子……って、あの子?本が好きで、大人しめな雰囲気があるけどちょっと変わり者な、あの?』
「多分、その百合子であってると思う」
本が好きな変わり者。なんて的確な表現だろう。
『……へぇ~、ちょっと意外かなぁ。ほら、私とゆりりんってタイプ違うから、あまり接点ないかと思ってたな』
「そう……かな?でも、ああ見えてゆりりんにも熱血なところがあるし、案外アクティブなところもあるんだー」
『へー!』
「でも、わたしと、ゆりりんと、バサバサ……伊吹翼って子の三人で、ユニットを組んでるっていうのが一番仲良くなった理由かなー。よく同じお仕事に行くと、いっぱいおしゃべりするし、帰り道に寄り道したりとかもするし」
『ユニット!いいなー、私はまだユニットとか組んだことないんだよねー。劇場でのお仕事が多めでー。他の子はユニット組んでたりするんだけど……』
劇場の外での活動もそこそこにあったこちらの私と違って、どうやら、向こうの私は劇場の中での活動が中心らしかった。
同じ事務所(そういや、同じ人がいるってくらいで、同じ事務所かは確認していなかった)のはずなのに、プロデュースの方針が違うとは考えにくいし……プロデューサーが違ったりするんだろうか?
『ねえねえ、ユニットの話、聞かせてっ!』
「うん、いいよ」
それから私は、私と百合子と翼のユニットの話を、もう一人の私に向かって聞かせた。
初めてのミーティングで名前を決めたときのこと、ちょっとした方向性の違いで解散しかけたこと、三人でショッピングに出かけたこと、それから夏フェス本番の大きなステージのこと。
この二か月の間にあったことを、向こうの私はとても楽しそうに話を聞いてくれて、話しているこっちも楽しかった。
……あ、私、こんな感じで人の話を聞いてるんだ。
知らなかった。
『そっかー、そっちはそっちで楽しそうー!しかも、劇場の外のお仕事が多い!いいなぁー!』
「劇場のお仕事が多いのは、こっちも変わらないよ」
『そうなの?話を聞いてると、そんな風には思えないけど……』
「私たちがたまたま外のお仕事が多いだけって感じかなぁ。劇場でのライブが活動の中心って子もいるし」
『へぇー……』
「でも、そっちの活動も気になるっ!ねえねえ、教えてっ!」
それから、向こうの活動について、『私』は話してくれた。
向こうの私によれば、あちらの世界での私たちは、五十二人が三つのグループに分かれて活動していること。グループのうちの一つであるフェアリースターズが活動を開始したこと。それとはまた違ったラインとして、五人組のユニットが始動したらしいこと。
私のいるこちらの世界とは、とても似つかない動き方だった。
「へー……そっちもそっちで楽しそうだなー!」
『そのセリフ、さっき私が言わなかったっけ』
「いいじゃん、私の言ったことだし?……で、そっちはどうやってめぐみーからこのウワサを聞いたの?」
『昨日、めぐみー、琴葉たちと一緒にカラオケに行ったとき!その時に、「ねえねえ、こんなウワサ知ってる?」って』
「あはは、そのセリフはどっちも変わらないんだ」
『みたい。お約束ってヤツかな?それで、めぐみーの話を聞いた琴葉がさ、その話にすごく興味を持って「恵美。その話、詳しく教えて」って体をずいーってめぐみーのほうに寄せたの。
でも、そのときしじみ汁片手に持ってて、それが面白くて。なおーがそのことに気づいて
「琴葉ー、ウワサがすっごい気になるのは分からんでもないけど、しじみ汁くらい置いたらどうなん?」
ってツッコミいれて。そしたら琴葉が「あっ!」てなって顔真っ赤にしちゃったから、もう面白くて』
「あはは、そっちの劇場のみんなも変わらず面白いんだ」
『うん。みんな、いい友達』
私たち二人の笑い声が共鳴して、そして消えた。また静かになった。話しやすい話題が尽きてしまったからだった。電話越しに『私』の呼吸音が小さく聞こえる。
「……ねえ」
今度は、声は被らなかった。
『なに?』
「一つ、質問したいことがあるんだけど」
『……いいよ』
ぎゅっと力を込めた。私の指の震え、電話越しに伝わっていないといいんだけど。
「なんで、ウワサを試してみようと思ったの?」
相手が『私』だからこそ、私は質問する必要がある。
私が一番知りたかったことを。
7
私がアイドルを目指すようになったのは、たった数ヵ月前のこと。
お姉ちゃんが海外へ留学する前の会話がキッカケだった。
「元気であること。正直でいること。まっすぐであること。笑顔でいること。一緒にいる人に、それを分け与えてくれること。それは、海美にしかできないことだよ」
海外留学のために家を出る前の日、お姉ちゃんが私の髪を指先でいじり回しながら言ってくれた。
「……それって、特別なことなの?」
お姉ちゃんにもたれて座っていた私は、身体をひねって後ろを向いた。少し引っ張られた髪が痛かった。
「うん、とっても特別なこと。少なくとも、私は、海美のようにはなれない」
「それは……そうじゃない?お姉ちゃんは私よりずっと凄いから」
「うーん……そういう意味じゃないんだけどな……」
苦笑した姉の微笑みが、私には理解できなかった。
「海美は海美だよ。出来ないとか、才能がないとか、そういうモノは関係無い」
「……?」
今、しれっとバカにされた……?
いやいや、お姉ちゃんがそんなことを。まさかまさか。
私が卑屈になって、そう受け止めちゃっただけだって。
「色々なことをやっていたら、きっと、特別なモノが見つかる。私は最初に出会ったモノが特別だっただけ」
そう言い切れるお姉ちゃんが少し……いや、かなり羨ましい。
私も、こうなりたかった。なれたら良かった。なれなかったけど。
「だから、海美は、海美のやりたいことをやりなさい。特別なことを見つけるために」
「やりたいこと……やりたいことかぁ」
バレエを辞め、夢や目標もなく、しかしそれでもいいかもしれないと思うようになっていた私には、やりたいことなんて一つも思いつかなかった。
本当にやりたいことが見つかったら、今度こそ、お姉ちゃんみたいになれるのかな。
「あ」
いや、でも――。
「うん?」
「ううん、何でもない」
「えー、なにか思いついた気だったじゃーん」
ぐりぐりと頭を押さえられた。ひざ元をタップすると手をゆるめてくれた。
「話して」
語気が強かった。
「ダメ……?」
「駄目」
「うーんとね……昔、アイドルになりたかったこと思い出した」
幼かったころの思い出。お姉ちゃんみたいになれなかったら、アイドルになりたかった。テレビの中の、人気者に。
幼いころだからこそ見られた、ただの夢。
「いいんじゃない?」
そんなものに、お姉ちゃんはとても軽く賛同してくれた。
「え、でも……」
「海美が心からやりたいと思ったなら、世界中のみんなが反対したとしても、それはやるべきこと。私は絶対応援するから」
「……本当に?なれると思う?」
「うん。海美はアイドルになれると思うし、アイドルに向いてると思う」
「本当に本当?」
「海美なら、海の向こうまで名前を轟かせるアイドルになれる。お姉ちゃんが断言する」
「お姉ちゃんがそこまで言うなら……。うん。やるよ、アイドル」
こうして、私はアイドルを目指すことにした。
運よくアイドルオーディションがあって、それに応募して、合格できた。
私はアイドルになれた。新人とはいえ、お仕事も貰えるようになった。
でも、この時の「アイドルになる」って夢を掲げても良かったのか、今なお私には判断できていない。
今まで、私の選んだ道が、正しかったことなんて無かったから。
そして、これからもそうだと、心のどこかに確信があった。
私が私の考えに自信を持てることなんて、きっと、未来永劫ないはずだって。
8
『……話さなきゃ、ダメ?』
「うん、話して」
うろたえる『私』に、私は電話をぎゅっと握って強く答えた。
『そう……そっか。分かった。でも、そっちも電話かけた理由、しっかり教えてね』
「うん。話す」
深呼吸する音が遠く聞こえた。
『……私は、本当にこれで良かったのかな……って思ったから。アイドルになって、良かったのかなって……「私」なら、分かってくれるんじゃないかな』
「それは……」
私も、同じだ。
根本的なところで私が信じられない。自分自身を信頼出来ない。アイドルになっても、夢に近づいても、決して変わってはくれなかった部分。
足元が不安でしかたなくて。バランスを取り続けないと、倒れてしまいそうで。動き続けないと、二度と歩けなくなるんじゃないかって。
今いる場所がちゃんとしている保証が無い、根源的な恐怖ってヤツは、私の中から一度も消えてくれなかった。
『私はアイドルになったよ。それでも、バレエに未練がなかったわけじゃなかった。だから、“バレエを続けている私”なんかとお話してみたかった。それで、電話をかけた……のかな。多分、誕生日だから、センチメンタルな感じになってた、っていうのも、少しはあるけど……』
ああ、それも同じだ。私にも「誕生日で、ちょっと感傷的になっているから」なんていう、気の紛れとしか思えない理由が無かった訳じゃない。
『あの日、偶然プロデューサーに逢って、スカウトされてアイドルになったけど、もしスカウトされていなかったらって──』
「ちょ、ちょっと待って」
『……え?』
今、とんでもないことを言われた気がする。
「スカウト、されたの?」
『う、うん』
「いつ?どこで?」
『え、えっと、お気に入りの、バレエの衣装のお店……。いつものあそこにたまたま行ったら、よく見る衣装とは全く違った、可愛い衣装を持った男の人がいて……。で、気になったから声をかけてみたら、その人が765プロのプロデューサーで……って感じだけど』
「そっか……そうだったんだ……」
アイドルになっているんだから、『私』もオーディションを受けたのだとばかり思っていたけど。
お気に入りの、あのお店で、『私』は声を掛けられたんだ。
スカウト、されたんだ……。
『そっちの私は違うの?てっきり同じ事務所でアイドルしてるみたいだから、プロデューサーに声を掛けられたのかなって思ってたけど……』
ああ、うん。やっぱり私と似たこと考えてる……。
「うん。違う。私は、765プロの新人アイドル募集オーディションに参加して、なんとか合格できて、アイドルになれた」
『オーディションかぁ……私も本当は受けるつもりだったんだけど、プロデューサーがその場で合格だって言ってくれたから。すっごく嬉しかった。バレエやってて良かったー!って、初めて思えたんだ』
バレエをやってて良かった。
そう断言できる電話の向こう側の私が、少し羨ましい。
バレエをやっていたことは遠回りだったんじゃないか。
アイドルという夢を追うためには、必要なかったんじゃないか。
小さい頃の私のやっていたことは、無駄だったんじゃないのか。
純粋な瞳でまっすぐに夢を見つめる仲間が、自分を叶えるためにひた走っていく姿を見てしまうたびに、私は、そう考えずにはいられなかった。
でも、そっか。バレエをやってたから、向こうの私は、アイドルになれたって、そう思えてるんだ。
今まで『私』がやってきたことは、確かに遠回りだったかもしれないけど、間違いなんかじゃなかった。
バレエ、やってて良かった。向こうの私は、そう言い切った。
だからきっと、私も――。
気付かれないように、手を伸ばしてケータイを遠ざけてから、小さく鼻をすする。
「私は──私が電話した理由は、特に無いんだ。ゆりりんが話していたことが気になって、試してみたかったから……かな。もし、バレエを続けている私から話を聞けたら面白いだろうなーって」
これは嘘じゃない。今の私と、ありえたかもしれない可能性の私。私どうしを並べて、どっちがより幸せそうかを比べたら、今の私が合っているのか間違えていたのか、答えが出せたかもしれないから。あるいは、私の選んだ道に、自信が持てたかもしれないから。
「だから、電話したんだ」
『だったら、私と繋がったのはイヤだった?』
「ううん、全然。むしろ、あなたと話せて良かった」
バレエをやってて良かった、って、私が言っているんだ。こんなに嬉しいことはない。
『……私も』
向こうの『私』も、私と話したことで、何かを貰えたのかな。
だとしたら、すっごく嬉しい。
ちょっとの空白の時間が生まれた。月光の音が聞こえた気がした。
「『ふあぁ……」』
あくびの音が被った。
「『ふふ、あははははは!」』
女の子らしくない笑い声も被ってしまった。
「も~、なんなのっ!」
『それは私のセリフだって……ってどっちも私か』
奇妙な光景に、私たちは声を出して笑ってしまっていた。深夜に似つかわしくない大きな声。つつましさの欠片もない。
『……もう寝よっか』
気持ちが切れたのは、私だけじゃないらしい……って、向こうも『私』か。同じような心の動きをしても、決して不思議じゃない。
「そうだね、寝よう」
電話を切るには、ちょうどいいのかも。
「それじゃあ、おやすみ」
『おやすみ』
9
翌日。誕生日当日の朝。
部屋に差し込んでくる太陽のまぶしさで目が覚めた。
体育座りで壁にもたれかかったまま眠っていたせいで、あちこち体が痛い。
……あれ、私、ベッドに移動しなかったっけ?
ま、いいか。
床に置きっぱなしになっていたケータイの画面は真っ暗だった。どうやら電池が切れているみたい。
すぐに立ち上がって充電器に繋ぐ。それから、軽くストレッチをして、階段を降りる。
無人のリビングのテーブルに、一通の手紙が無造作に置いてあった。宛先は、私。送り主は――お姉ちゃん。
手に取って、元の場所に戻して、キッチンへ向かう。嬉しい。すっごく嬉しいけど、この手紙の封を切るのは、帰ってきてからでいい。今は、そんな気分。
プロテインを溶かした豆乳の中へシリアルを入れ、かきこむ。使った容器は水で流してから食器洗浄機へ。それから部屋に戻って、荷物をまとめて、身支度を整え、すぐに家を出た。
お化粧は、シアターについてから。
「行ってきます!」
通勤中の電車で揺られながら、昨夜のことを思い返す。
よくよく考えると(よく考えなくとも)別の世界の自分との電話、なんてオカルトはあるはずがないと気づいた。
ゆりりんが試しても成功しなかったのは当たり前だし、成功したってウワサも本当かどいか分からないし。だからこそのウワサ話……なんだと思う。
充電ケーブルに繋いでいないままだったから、今朝、目が覚めた時にケータイの充電が切れていた。
手に持っていたはずのケータイが床にあったのは、床に落としたから。
移動したはずの私が移動していなかったのは、夢だった証拠。
だから、昨日の(今日の?)夜の出来事は、すべて私が見た夢だったんだ。
誕生日の日に、少し心が弱っていた私が見た、私のために私が贈った夢想に過ぎない。
あの繋がりは、まやかしだった。
でも。
改札を出て、靴ひもをきゅっと結びなおす。ふと空を見上げると、とてもきれいな青をしていた。
もし、昨日の夜の会話が現実だったなら。『電話の向こう側』なんてオカルトが存在していたなら。『バレエをやっていたから、アイドルになれた』という彼女の言葉が本当なら。
もう少し、私は私自身と私の過去に自信を持ってもいいのかもしれない。バレエを、姉の背中を追うのを止めてからずっと感じていた、どれだけがむしゃらに脚を動かしてもぬぐい切れなかった後ろめたさを、暗闇の中をひたすらに進んでいくような不安を、感じなくなれるかもしれない。
いつもよりちょっとだけ早く劇場に着いた。普段使っている電車を降りてから、いつもと同じペースで走っていたと思っていたから、ちょっと意外だった。
……というか、もうちょっと走りたい。走り足りないくらい。
気温が三十度を軽く超えていた街を、知らないうちにいつもよりハイペースで走っていたらしいのに、まだ足りないと感じてるなんて。
女子力が上がってきている証拠じゃない?なんて。
……うん。こんな感じが、私らしい。
難しいことを考えるのは、やめだ。
「おはよー!」
汗を拭ってから、劇場の扉を開ける。クーラーの効いた空気が気持ちいい。
今日は、どこまで走っていけるだろうか。今の道が正しくったって、まだまだ夢の途中なんだ。前のめりに走り続けよう。
がんばれ、『私』。
おわり。
《特技:常人に出来ないポージングができる》だった彼女を、この時期ぐらいは思い出してあげたいなと思います。
この3人のユニット珍しい思ったら、ミリシタ世界が別世界だったか
乙です
高坂海美(16)
http://i.imgur.com/24sJHXX.jpg
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>>4
七尾百合子(15)
http://i.imgur.com/zdoxXRJ.jpg
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>>5
伊吹翼(14)
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