とある幻想の蜂蜜聖夜 (35)

(創約ネタバレ注意)
(IF展開ご都合展開注意)
(遅筆注意)

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____12/24 00:30 学園都市にて

「ふぅ…とりあえず離れられたわね」

「ぜぇ…はぁ… 相変わらず御坂さんは体力がゴリラ並みよねぇ…」

「あ? 喧嘩売ってる?」


 聖夜の夜真っ只中、突然火花を散らす少女二人。
この二人こそ学園都市の最高位能力者の第三位と第五位なのである!
現在一日中続く予定であった学校行事、清掃ボランティアをぶっちぎり、逃走生活が幕を開けた!

 と、学生として見本たりえない最高位能力者達であったが、その内心。乙女としては見本も見本。なぜなら彼女達はある男の為に抜け出してきたのだから!!!!!

(まぁ、私は彼と一目でも会いたいってのが優先力高いけど、御坂さんはなんだかんだ遊びたいだけかもねぇ… 粗暴力高いしぃ…)

「何よその顔、なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

「息を整えてただけよぉ… ふぅ…」

(まぁ、変なこというより計画力は考えているけどねぇ?)


 勿論冒頭の通り、彼女達は仲が良いわけではない。ただ目的の為に協力関係を結んでいるのである。当然、目的の障害となるのであれば切り捨てるのもやむない。
 そしてここはビルの屋上…ではなく、聖夜でちょっと気分が張り切ってしまった学生達で溢れた繁華街の真っ只中であった。

「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中ね… まぁしばらくは見つからないでしょう」

「ふふっ…ねぇ御坂さぁん?? 私がそんなことを考えてここを逃走先に選んだと思う?」

「……アンタまさか」

「はいポチっとな??」

 周辺を歩いていた学生が一気に御坂美琴を見つめ出す。勿論、御坂美琴が有名人であるから注目されているわけではなく、学園都市最上位能力者のうち第5位、食蜂操祈の力によるものであった。

「じゃっ、御坂さんが囮になるように足止め力よろしくねぇ??」

「ふっっっっざっけんなぁぁぁぁぁ!!!」

怒号と稲光が聖夜に鳴り響く。
しかし、黄金の蜂は風に流れるように消えていくのであった。

____

「はぁ…不幸だ…」

 同日朝。上条当麻は今日も不幸であった。最近あんまり言わなくなった台詞をつい吐いてしまうほどには。

別に昨夜に半裸幼女とランデブーしたとか学園都市統括理事長が自首したとかが(今はまだ)発生したわけではないが、それでもせっかくのクリスマスイブに補講があったし、その補講が電波障害のようなもので途中で切断されてしまったし、直接話をしようにも小萌先生は旅行中であった。というか旅行中ぐらい補講などせず旅行に集中して欲しいと上条は思うのだが、これが先生の愛なのか、それぐらいやらないともう自分はダメなのかとつい考えてしまう。是非とも前者であって欲しい。小萌先生ありがとう。

 しかしながらその先生の愛を不幸にも無碍にしてしまった上条当麻。現在一人でクリスマスイブの街並みを歩く。勿論インデックスも付いて来たがったのだが…

(なんか、アイツを倒して、右手を取り戻してからなんか違和感があるんだよなぁ…)

 神浄の討魔。自分が無意識に願った、自分よりうまく右手を使いこなす存在。それでいて、初めて生かしておけないと感じた存在であった。それを撃破してからというもの、何故かインデックスや土御門、青ピなど、所謂前の上条に関わりが深い存在と話していると、体が疼くような感覚が発生していた。

(記憶が戻る前兆かと思ったけど、別に何も思い出さないしなぁ…良い加減慣れないと…)

と思いつつ、インデックスから離れ一人街を歩いている辺り、まさしくいろんな意味で現実逃避の真っ最中なのであった。

みたいなやつ(とりあえずここまで)

あっ、星が??になってしまった…


____

 時は現在に戻る。場所はお嬢様らしからぬフードコート。元々人が多いところにクリスマスイブで更にと言った混雑具合だが、そちらの方が都合がいいとのこと。

「で、常盤台のお嬢様がなんであんな追われてる訳?」

「それは海より深く山より高い理由力があるのよぉ。 具体的にいうとウチの学校はクリスマスぶっ続けで清掃ボランティアって言う肉体労働力を強いてくるというか」

「おーけーわかった。つまりサボりなわけね。 御坂とかアンタのお陰でお嬢様のイメージがだんだん崩壊しているよ。 …いやまて、むしろ今時のお嬢様的にはそれがスタンダードなのか…?」

 上条がお嬢様の現実を知りかけたあたりでどこか上の空だった食蜂が真顔に戻る。

「『はじめまして』、とは言わないのねぇ?」

「? なんで?別にイギリスで既に会ってるだろ? あっ、もしかして覚えてない?」

「………っ、確認なんだけど貴方どこで私と会ったのかしらぁ?」

「ウィンザー城で死にかけてた所。 無事なようで何よりだよ。 間に合ってよかった」

「…なるほどねぇ」

 イギリスの時とは違う。あの時のように全てを覚えているわけではない。しかし自分のことを認識し、記憶できている。その時点で既に泣きだしそうになったが、それこそまた『違う』上条当麻であったらもう立ち直れない。ので

「…本物、なの?」

「あぁ… えっと、まぁあの場に居たってことはアイツを知ってるんだよな… 俺はアイツじゃないし、アイツが出てくるようなことは起こってないよ。 まぁ、証明はできないんだけどさ。 …そういえば、なんでアンタイギリスにいたんだ? あん時はバタバタして気づかなかったけど、学園都市の生徒だったんだろ?」

「…ふふっ、わからないの?」

「…? あぁ、そういえば御坂も常盤台か。アイツが呼んだとか?」

「まぁ、御坂さんについていったのはそうだけどぉ、理由については考えないわけぇ? そんなんじゃいつか背中を刺されちゃうんだゾ☆」

「?? それってどういう?」

「もぅ、このニブチンさん! 貴方っていつまでたっても理解力が低いのねぇ」

「…なぁ、もしかして初対面はウィンザー城じゃなかったりするのか?」

「………っ!?」


 上条当麻、ここにきて豪速球。勿論慎重に反応を確認しようとしていた食蜂操祈に取れるはずもなく、思わず作っていた表情が崩れる。そして

「その反応、そういうことだよな…」

「…あっ」

 それを見逃す上条当麻ではない。過去の上条当麻であればどうにかして記憶喪失をごまかそうとしていただろう。しかし、今は違う。

「悪い。ちょっと色々あって、今年の夏以前の記憶を全部失ってるんだ。だから俺は君との思い出はウィンザー城のことしか覚えてない。 …そんな泣きそうな顔をさせちまうぐらいには結構深い仲だったらしいな」

「………」


 勿論、この告白は食蜂操祈にとっては見当違いである。今年の夏以前どころか、ほんの少し前まで上条当麻の思い出に食蜂操祈の場所は存在しなかった。しかし、これはまるで食蜂操祈が今まで願い続けてきた小さな奇跡が叶ったかのようではないか。

 上条当麻はふと右手を見る。何も生み出さず、ただ壊すだけであったその右手から声が聞こえたような気がしたのだ。いつまでも女の子を泣かせているんじゃないこのクズ、と。

(お前なら、きっとこの子を俺以上に簡単に笑顔にさせてやれるんだろうな)

 しかし

(でも、俺はもう『過去の俺』には願わない。俺自身の手で救ってやりたいんだ)

 決意を胸に、右手を強く握りしめる。もう二度と、迷っているうちに間に合わないなんてことが起きないように。

「なぁ、よければ教えてくれないか? どんなことがあったとか、君の…名前を」

 何度も繰り返された自己紹介。きっと忘れられてしまうという諦観が常に付きまとい、嫌になることもあった。しかし、それもきっとこれで終わりだ。差し伸ばされたこの右手を握り返せば、きっと全てを打ち砕いてくれる。そして


「…私の名前は『食蜂操祈』。 話をしましょう。大切な、二人の話を」

「何でも教えてあげるし、何度でも話してあげるから」

「…もう二度と、私の手を離さないでね☆」


 少女は一滴の涙を流す。
 それはきっと蜂蜜のように甘く、幸せな味がしたことだろう。

とりあえずここまで。もうちっとだけ続くんじゃ(蛇足)

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