【安価】ダーウィンズゲーム (323)

ダーウィンズゲームの世界で生き残りを目指します。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1581865075

まずは主人公の性別から
↓のコンマ一桁が奇数の場合は男性、偶数の場合は女性
0の場合は↓2でお願いします。

>>3
「8」のため女性に決まりました。

名前、容姿・性格、Dゲームを始めるきっかけ、異能の順番で決めて行こうと考えています。
↓3までで、コンマが一番大きかった名前にします。
1が弱く、9が強いです。また、0は9よりも強いです。

間中美里

>>6>>7は早耶Pという荒らしだから>>8採用にするか一度点呼とった上で再安価」にした方がいいぞ

>>10さん
あ、そうなんですね。わかりました。

それでは>>9さんの葛城冬華(かつらぎ とうか)に決定です。

それでは次に容姿と性格です。
また、年齢も決めたいですね。
小学生はアレなので、中学生・高校生・大学生あたりで
容姿・性格に合わせてお願い致します。
下5まででコンマ一桁が大きいものにします。
なんとなく書いていただければ、あとは私の方で膨らませます。

黒いロングストレートとで前髪メカクレ気味

性格は根暗で引っ込み思案
年齢は高校生

>>17さんが「9」だったので以下の通りです。
性別:女性
名前:葛城冬華
髪型:黒髪ロングストレート(前髪で目が隠れ気味)
性格:根暗で引っ込み思案
年齢についてはダーウィンズゲームの主人公が高校2年生のため、17歳で同級生でもよろしいでしょうか。

次にDゲームを始めるきっかけを下3まででコンマ一桁が一番高かったものにします。
性格などを加味していただけると幸いです。
(カナメと同じく急に招待、不良に無理やり、両親もしくは兄弟の治療費を稼ぐ等)

とても仲良かった友達と急に連絡とれなくなってその原因がDゲームに関係していると知ったため

おそらくIDが変わっていますが1です。

>>21さん「0」
とても仲良かった友達と急に連絡とれなくなってその原因がDゲームに関係していると知った
ことが原因でDゲームを始めます。

次に異能です。
Wikiを確認したところ、まず異能の種類が5種類に分かれていたりレア度が4種類あったりするようです。

まずはレア度から決めたいと思います。
下2番目のコンマ一桁
神話級・・・0
王級・・・2、5、7、9
超人級・・・1、4、8
獣級・・・3、6
また、コンマ2桁がゾロ目の場合は神話級です。

「神話級」 … 神の名を冠する本当に稀なもの(1%以下)
「王級」 …… 王や姫などの貴族の称号が入り強力な念動系が多い(4%以下)
「超人級」 … 機能そのものが名前になり個性的なものが多い(20%以下)
「獣級」 …… 動物の名を冠し身体強化系や五感拡張系となる(75%)と分類される

>>26さん「2」
葛城冬華の異能は王級です。
次に異能の能力詳細です。
下5まででコンマが一番高いものでお願い致します。
異能名称も思いついたら一緒にお願いします。
思いつかなかった場合はひとまず名称なしでも構いません。別で安価を取ります。
また、名称には「王」を付けるようお願い致します。
シュカの王級異能「荊棘の女王」
とある人の王級異能「虚空の王」

ひとまず今日はここまでですね。
また明日(今日)の夜あたりに更新すると思います。
よろしくお願い致します。

異能名称:悪霊憑きの女王
意思疎通が可能な悪霊を召喚・使役し、物体や生物に取り憑かせて強制的に操れる

壁の王

攻撃能力が無く一見すると弱い。しかしこの能力の持ち主は第4の壁を認識し、それを利用することができる

物語を自分の有利になるよう書き換えたり、相手の情報を知れたり…etc

氷雪の女王

氷や冷気を操ることができる能力。冷気を放って相手を凍らせたり、氷で武器を作るなど色々できる。さらに怪物や動物の氷を作るとそれらは動くことができるので、使役し操ることが可能。

>>31さん 壁の王
>>32さん 氷雪の女王

どちらもコンマ1桁が「7」のため、
多数決で決めたいと思います。

1.壁の王
2.氷雪の女王

先に3票入った方に決定です。

前もって考えていた設定は以上ですが、
最後に家族構成について安価で決めたいと思います。
私が勝手に決めたものの中からでご了承ください。
下1のコンマ一桁
両親と冬華の3人暮らし・・・1、3、7
両親他界、冬華の1人暮らし・・・4、8、0
両親と冬華と妹の4人暮らし・・・5、9
両親他界、冬華と妹の2人暮らし・・・2、6

それと物語の進行上、カナメと同じ学校という設定でよろしいでしょうか。

主人公:葛城冬華
性別:女性
容姿:黒髪ロングストレート(前髪で目が隠れ気味)
性格:根暗で引っ込み思案
年齢:17歳(高校2年生)
Dゲームを始めるきっかけ:とても仲良かった友達と急に連絡とれなくなってその原因がDゲームに関係していると知ったため
異能:壁の王
・攻撃能力が無く一見すると弱い。
・しかしこの能力の持ち主は第4の壁を認識し、
それを利用することができる ? →物語を自分の有利になるよう書き換えたり、
相手の情報を知れたり…etc

>>40で書いているつもりでした…
以下、書き忘れです。

>>39さん「5」
両親と冬華と妹の4人暮らしに決定です。

ひとまず設定を作り終えたので今晩、導入から始めます。
それまでに家族のお名前とか書き残していただけると幸いです。苗字は葛城です。
よろしくお願い致します。

父親は葛城 蓮でオナシャス

妹は葛城玲美(かつらぎ れみ)とか?

父:春幹(はるみき)
母:秋葉(あきは)
妹:夏実(なつみ)

壁の王の力はデッドプールみたいにこのスレ閲覧できるでいいの?
書き換える力をどうするかわからないけど

1です。

昨晩は更新できず申し訳ありませんでした。
今晩22時に始めます。

だいぶ時間オーバーしてしまいましたが、
まずはさわりの部分からです。
遅れてしまい申し訳ありません。

「それでね、葛城さん」

「は、はい…なんでしょう……?」

「あぁ、そんな怯えないで。怒るわけじゃないんだから。むしろ教えて欲しいのよ。佐々木さんのこと。ここ一週間、学校にも来てないし、お家の方も帰ってきてないって言っててね? 葛城さんって佐々木さんと仲が良かったじゃない? だから何か知ってるかなって」

饒舌に語り出す担任の先生を前に、葛城冬華は俯き気味に頭を横に振った。

「……いいえ、知りません」

「そう。……困ったわねぇ」

佐々木と呼ばれる少女は一週間前までは無遅刻無欠席を誇る品行方正な優等生だった。そんな優等生が突如として無断で学校を休み、それだけでなく家にも帰っていないというのはただ事ではない。

職員室内だけで隠し通せる事案を超え、四日前には捜索願を出している。また警察だけでなく、生徒にも佐々木の行方について聞いて回ったものの、手がかりは無し。佐々木の友人であった葛城も彼女が失踪してからすぐ同じことを訊かれたが、今と同様に頭を振るだけだった。

「警察もお手上げのようだし。……参ったわね」

事は保護者会にまで影響を及ぼしている。佐々木が居なくなったのは一週間前の平日、放課後のことである。いつも通り学校で過ごしてから、彼女は居なくなった。学校側の責任問題まで追求され、今では多少マシになったものの数日前までは固定電話が鳴り止むことはなかった。

「……ごめんなさいね、葛城さん。もういいわよ」

「申し訳ありません、お役に立てず……」

「葛城さんが謝る事じゃないって」

常日頃から俯き気味な彼女を励ますように先生は明るく微笑んでみせる。

「……はい、失礼します」

「うん。引き止めてごめんね。気をつけて────」

冬華が踵を返し、席を離れようとしたところで、

「あ、葛城さん。もうひとつだけ」

「はい?」

「人型アートって知ってる?」

「ひと、がた……?」

人型アート。人体の形をした芸術。パッと思いつく限りでは化学室に飾られた人体模型か。しかしそれなら人体模型と直接名称を出すはずだ。人型アートと言うのだから、芸術的な物体なのだろう。

「ええと、チョコレートとか?」

「え、チョコレート? あはは、違う違う。チョコを人型にしたら、まぁ確かにアートなのかもしれないけどさ。人型アートっていうのは、コンクリートとかの上に人型の穴が空いてる現象のこと。知らない?」

「コンクリートの上に?」

「うん。もちろんセメントが固まった後。しかも削られたって感じでも無さそうなのよね。まるで固まる前に人型の置物を置いて、固まった後に置物だけ取り出したような、そんな不思議なやつ」

都市伝説といった噂話には若干の興味が惹かれるところではあるが、にわかには信じ難かった。セメントが固まった後に人型の穴が開くなど、専門の業者が削っても出来るかどうか。

「佐々木さんの件もだけど、なんか嫌な感じがするの。だから葛城さんも気をつけてね」

「はい、わかりました。……気をつけます」

今度こそ冬華は踵を返し、職員室の扉の前で「失礼しました」と頭を下げて廊下に出ようとしたところで、

「っと、悪りぃな。痛くねぇか?」

「う、ううん。大丈夫。こちらこそごめんなさい」

扉を開けて一歩廊下側に踏み出したところで人にぶつかった。この場合、完全に彼が被害者であり、自分が加害者である事実を肯定して謝罪の旨を発す。

「えーと、あー。まぁ怪我がなくて良かった」

「……失礼します」

冬華は頭を下げてその場を足早に去る。

向かう先の予定はない。部活動に所属していない冬華の放課後の予定は決まって帰宅のみだったが、少なくとも鞄が置いてある教室へは向かっていない。自然と放課後に限って人気の無い場所へと足が進む。

辿り着いたのは屋上前の踊り場前の階段だった。

お昼休みに屋上が解放されていることもあって、お昼休みに限りこの辺りは人気が多いところだが、放課後はよっぽどな用事が無い限り生徒が訪れることはない。

「どうしてこんなところに…」

「やぁ。待ってたよ、冬華」

屋上へと続く扉の前で佇んでいたのは去年同じクラスだった伊藤という女子生徒。去年度までは冬華と同じく黒髪を腰あたりまで伸ばしていたが、今年度に入ってからは気分を一新してショートにしている。若干吊り目なところも合わさって活発な印象が増したように見える。

「伊藤、さん? どうしてここに……」

「どうしてここに居るのかはどうでもいいんだ。あぁ、そう。早速本題だけれど、先生に佐々木さんの行方についてまた訊かれているようだったからね。単刀直入に言うと、私は知ってる。佐々木の行方について」

「ほ、ほんとっ!?」

「嘘じゃないとも」

うんうんと頷く伊藤の近くに寄り、冬華は尋ねる。

「佐々木さんはどこにっ?」

「まぁ慌てるなよ。今さらどうにもならないんだから」

「今さらって……」

「冬華はさ、知ってるかい? Dゲームってやつを」

意地悪そうに微笑む伊藤とは対照的に、冬華は神妙そうな面持ちで伊藤の手元にある『ダーウィンズゲーム』と表示されたスマートフォンの画面を覗く。

名前の通り、ゲームとついているのだから遊び事の類なのだろう。しかしあいにく、ダーウィンズという単語からは何も連想されなかった。

「D……ダーウィンズ、ゲーム」

「そう、ダーウィンズゲーム。聞き覚えないかい?」

Dゲーム、ダーウィンズゲーム。何度も何度も頭の中の記憶からその文字に関する記憶を掘り出そうとする。しかしまったく覚えはない。ただし、

『冬華ってゲームとかする人だっけ』

『ゲームはしないかなぁ』

『そっかそっか。……うん、それがいいよ』

二週間ほど前、雨の日の放課後に佐々木と傘を並べて駅まで向かう途中にそういう話をした。共通の趣味が読書ということもあり、普段は本について話す機会が多かったが、ゲームという単語自体が佐々木との付き合い約一年半の歴史の中でたったの一度きりだ。

「聞き覚えあるようだね」

「ダーウィンズゲーム、では無いかもしれないけど」

「佐々木がゲームの話をしていたのなら、それはきっとダーウィンズゲームのことだよ」

ふふふ、と意地悪っぽく笑みを浮かべ続ける伊藤の真意が見えず、冬華は若干の苛立ちを感じながら改めて問う。

「それで、ダーウィンズゲームと佐々木さんにはどんな関係があるの?」

「まぁやってみれば分かるさ。ほら、招待するよ」

ダーウィンズゲームと表示された画面ではなく、伊藤はメールアドレス帳を見せた。SNSでのアカウント連携などは取り扱っていないようだ。

「ええと、たしか……」

伊藤のスマートフォンを受け取り、宛先に自分のメールアドレスを打ち込む。セキュリティ意識の薄い簡素なアドレスだが、一度も迷惑メールが届いたことがない優れアドレスであることを思い出しつつスマートフォンを返す。

すると数秒後、ブレザーの内ポケットが小さく振動する。招待メールが届いたのだろう。

「あ、でもわたしってゲームとかしないから……」

「あはは。じゃあすぐ退会すればいいじゃないか。アカウントを消すのは簡単なんだよ? あ、そのスタートってところをタップして」

伊藤の呼びかけと同時に冬華は『スタート』と表示された箇所を右手の人差し指でタップする。

「ようこそ葛城冬華。ダーウィンズゲームの世界へ」

「いや、すぐやめるけど────……えっ?」

「ん? どうかした?」

「いや、蛇────」

すぐ目の前に小さな蛇がいた。白い蛇。きめ細やかな鱗に覆われた細身で長い身体は一体どれほどか。

「たすけっ……」

危機を回避しようと咄嗟にスマートフォンを手元から落としたが、既に手遅れだった。手元のスマートフォンの画面から飛び出したソレは、優に冬華の首元まで身体を伸ばして噛みつく。

不思議と痛みは無かった。ただし、それ故に冬華の恐怖心を一層に募らせる。

噛まれた箇所を手で抑えるようにして冬華は虚ろに独言る。

「あれ、蛇は……伊藤さん?」

この校舎唯一の屋上へと続く階段を登った先、踊り場には誰もおらず、何も無かった。

ぼんやりと佇む自分と、仰向けに落ちたスマートフォン以外。伊藤と蛇はどこにも見当たらない。

一体何が起きたのかを把握する前に、激しい倦怠感が冬華を襲う。視界が歪み、身体がフラつく。

「うっ……これ、毒……?」

蛇に噛まれた直後の体調不良に毒を疑うも、抗う術が無い。保健室まで赴く体力もなく、冬華はその場で倒れた。

遅れてしまった上に短文で申し訳ありません。
明日、眼を覚ますところから安価を交えた初戦を行います。
22時30分ごろから始めれればと思います。
よろしくお願い致します。

始めます。

目を覚ますと真っ白な天井があった。

仄かに香る消毒液の匂い。お世辞にも寝心地が良いとは言えない硬いベッド。部活動に励む学生の声が窓越しに聞こえてくる。グラウンドからほど近い保健室に運び込まれたようだ。

「わたし、噛まれて…」

ベッドの上で起き上がり、首の右筋あたりを左手で撫でる。不思議と噛まれた傷は無い。身体の倦怠感も嘘のように無くなっている。

一連の流れが夢だったと仮定して、どこからが夢だったのか。佐々木の行方について問われたのは。無意識に屋上手前の踊り場まで向かってしまったのは。まるで来ることをずっと前から知っていて待ち構えていた伊藤とのやり取りは。そして蛇は。

「全部夢だったらいいのに」

佐々木が行方不明になったところから夢であるならば、ただの悪い夢として一言で片付く。

しかしこんなにもはっきりと一週間前の記憶を思い返せる夢があるとは思えない。非現実的な体験をした今日に限っては夢であったとしても不思議ではない。

「だいたい蛇って……。ないない」

馬鹿らしいと独り言ち、帰って試験勉強でもしようと枕元に置かれたスマートフォンと教室から運んで貰ったと思われる教材の入った鞄を手にしてベッドを囲んでいたカーテンを開く。


「あ、葛城さん。調子はどう?」

「ええと、おそらく大丈夫かと思います」

「屋上前で倒れていたってね。その記憶はある?」

「はい、急に目眩がしてしまって」

「顔色も悪くないし、大丈夫かしらね。帰宅途中に倒れたりしたら大変なんだけど……」

「無理はしないようにします。……ご迷惑をおかけしました」

看病をしてくれた保健室の先生にぺこりと頭を下げて、保健室を出て行こうとする。倒れた後だからか、鞄が重たく感じる。重い足取りを悟られないように真っ直ぐ保健室の扉へと手をかけ、

「あぁ、そうそう。同じクラスの須藤くん。あの子が運んでくれたのよ。たぶんもう帰っているだろうから、また明日にでもお礼を言っておいた方がいいかもね」

「わかりました。ありがとうございます、先生」

再度頭を下げて、保健室を後にする。


夕暮れの赤い光が校舎の窓から射し込む廊下を抜けて、今度は真っ直ぐ下駄箱へと向かう。文化系の部活動が終わる時間らしく、放課後すぐと大差ないくらい生徒と多くすれ違う。

授業の話。先生の話。同級生の話。先輩後輩の話。

何気ない話題に彼らは花を咲かせているようだった。

保健室から歩くこと五分。文化部の部活動終了時刻を迎えたにも関わらず誰もいない下駄箱で冬華は首を傾げる。

「どうして……」

わたしはすれ違っていたのだろう、と続いて胸の中で呟く。

部活動終わりの彼らが向かうべき場所は下駄箱ではないのか。まだ片付けが残っていたのか。教室に忘れ物でもしたか。それにしても比較的人通りが良さそうな下駄箱近辺に誰も居ないのは────

「あ、冬華。ようやく目覚めたんだね。待ちくたびれたよ。私のシギルもそんなに有能じゃあないからさ。君が真っ先に下駄箱に向かってきてくれて助かった」

「伊藤さん…!」


その口調が手伝ってどうにも彼女の存在がうざったく感じてしまう。一連の流れは夢だったのなら、この敵意は筋違いであり申し訳ない限りだが、その口ぶりから察するに夢ではなかったらしい。

上履きからローファーに履き替え、スカートの下にジャージを履いた伊藤は冬華の前に立ちはだかる。

「それで、君のシギルはなんだい?」

「シギル? ……なにそれ?」

「いやいや。君だってあの蛇に噛まれたんだろう。だったら使えるはずだよ。超能力。使い方を君自身が知らないなんてことはあり得ない」

「ちょう、のうりょく……?」

「そう、超能力。私たちプレイヤーは異能と書いてシギルと呼んでいる。人それぞれ異なるもので、手から炎を出すようなものから、人一倍遠くが見えるだけとか当たり外れが様々だ。それは呼吸をするのと同じくらい当たり前に使えるものなんだよ、普通はね」

あいにく非科学的な物事に対して否定的である冬華だが、それを戯言だと一蹴することも出来なかった。

彼女の異能についての正体は知り得ない。しかしこの下駄箱の周りに誰も居ないのは確かに非現実的なものだ。一刻も早く帰りたいであろう学生一人ひとりにドッキリを仕掛けたいから近寄らないでくれなど手間がかかり過ぎている。


異能とはアプリのプレイヤーになったことで発現するものだとしたら、自分には何が出来るのか。手から炎が出るようなヴィジョンはどうしても湧かない。人一倍遠くを見れるような気もしない。せいぜいグラウンド唯一の時計がぼんやりと見えるくらいだ。

「え、ほんとに分からない? 自分のシギルが?」

「わたしはまだ全部を信用したわけじゃ……」

「あーいいよいいよ。そーいうの。バトればいいだけだからね。そうすれば分かるんじゃないかな、自ずと自分のシギルが」

「バトる…?」

「このダーウィンズゲームではどんなことも合法なんだよ。人殺し推奨アプリ。もちろん現実のね。じゃあ早速始めようか、カツラギ トウカ。エンカウントバトルだ」

ブレザーの内ポケットがバイブレーションするのを感じて取り出すと、マナーモードにしていたスマホから急に愉快な音が鳴る。

『イトウ サキ vs カツラギ トウカ』
『バトルスタートまであと』

「ほら、もう始まっちゃうよ? さーん」

「え、げ、ゲームっ……?」

「だから殺し合いだって」

「にーい」と微笑みながらイトウはブレザーの内から黒い塊を取り出した。右の手のひらに随分と馴染み易そうなグリップ。細くしなやかな人差し指のかかるトリガーをカチカチと浅く押し込んで見せる。


突き付けられた銃口を前に、冬華は足がすくむ。

「うそ……それって……」

「ガチャで引いたんだよ。私ってツいてないタイプの人だからさ。これを引けたときはまぁ嬉しかったんだ。これでたくさん人を殺せるってね。ほら、逃げなよ」

カウントはゼロになり、バトル開始と表示されている。射程距離のある拳銃を片手にイトウは冬華に一歩ずつ踏み寄る。

「……ッ!」

すくむ足を引きずるように、鞄を捨てて冬華は逃げ出した。おぼつかない足取り。駆け出してすぐだというのに何度も転びそうになる。「うそ、こんなの…」と呟きながら斜線を切るように後ろを確認しながら距離を取ろうとする。

ローファーのまま校舎に上がったイトウは悠長に鼻歌を交えながら冬華の姿をゆっくりと追う。

「ほら、シギル使わないと死んじゃうよー? それともガチャしてみるとか? ふふ、それもいいかもね。拳銃を引き当てたら私と撃ち合いっこだ」

異能に覚えのない冬華はガチャという単語を耳にしてダーウィンズゲームのアプリ内を模索する。すると目立つ場所にガチャと表示されているボタンがあった。


保有ポイントは30ポイント。1ポイントで1回ガチャが引けるようだ。つまり30回。排出確率を見ている余裕なんて無かったが、イトウの口ぶりから察するにガチャからは拳銃などが排出されるのだろう。でも、それはいつ、どうやって届くのか。持つこと自体が罪に問われるのでは。様々な思考を巡らせながら、まずは警察を呼ぼうとホームボタンを押す。

「あれ、これって……」

電話の機能を開く前に、ダーウィンズゲームの隣に見覚えのないアプリを見つけた。最後に招待という形でインストールされていたダーウィンズゲームの他に、もう一つ付随でインストールされていたのだろうか。

アプリ名称は『虚構と現実』。

少なくとも自分で意図的にインストールしたアプリでは無いだろうと首を振り、警察への連絡を優先する。

「警察? 警察って……110番でもいいよね……っ!」

似たようなものだろうと震える指で番号をタップして110番へコールする。しかし一向に繋がる気配はない。五コール、十コール、二十コールとしたところで通報は諦めた。

掛けたことが無かったため憶測だが、こういうのは決まってすぐ繋がるもののはずだと認識している。しかし繋がらないということは、通報という行為を認められていないのだとわかる。


「通報とか出来ないからね。あと、先生とかに頼ろうとしても無駄だよ。校舎からは離れて貰ってるからさ。ははは、この校舎は私たちの貸切だ。存分に鬼ごっこをしようじゃないか」

通報が出来ないのと同じように、周囲の人を退けることもゲームの特性か。それとも────

「逃げ回ってばかりだと、いつまで経っても私には勝てないよ? ふふふ。このまま拍子抜けだけはさせないでよね……!」

威嚇のつもりか、イトウは誰もいない場所に向かって引き金を引いた。ドラマで見るような拳銃からは確かにそれらしい音が鳴った。そしてはっきりと弾は壁にめり込む。

「まずい、まずい……!」

電話機能の画面を閉じて、再度ダーウィンズゲームのアプリを開いて「降参」などのボタンを模索しようと謀ったところで、ホーム画面にある『虚構と現実』が目に留まる。

「これは……関係ない?」

アプリを起動すると、そこは真っ白な画面が広がるばかりだった。一番下に小さく下向きの矢印が書いてあり、そして『長押ししてみてね!』とも書いてある。

ホームボタンを長押ししろということだと解釈して、その意味を見出せないままホームボタンを長押しする。

スマホが小さく震えると、いつもの音声検索画面とは少し異なる画面が表示される。

『マイクに向かって質問してみよう!
きっと君の力になってくれるよ!』

ふざけるな、と一蹴したくなる衝動を抑えて、冬華はマイクに向かって口を開く。

「ど、どうすればいいっ?」

【安価です。下2の方の選択に決定です。
1.ダーウィンズゲームのアプリからガチャを引いてみよう。
2.ひとまず逃げ切って身を隠そう。
3.立ち向かってみよう。】

1


>>89さん 「1」】

『ダーウィンズゲームのアプリからガチャを引いてみよう』

問いかけに答えるかにように、どうしたらいいかが画面に表示された。信用しているわけではない。しかし現状を打破する唯一の手掛かりがガチャである認識は相違ない。

『虚構と現実』を閉じてダーウィンズゲームのアプリを開く。ガチャのボタンをタップすると、先ほど見たガチャの待機画面へと移行する。

「1回1ポイント……っ!」

1ポイントの価値を知らなまま、『ガチャを引く』ボタンをタップする。すると苦しそうに悶える蛇の画面が映し出された。胃に詰まったカプセルを吐き出す演出の後、1回1ポイントと引き換えに入手したアイテムが表示される。

【安価です。下2のコンマ1桁。
1、5、9:拳銃
2、7、0:日本刀
3、4、6、8:ゴム手袋(はずれ)
比較的当たりばかりです。】

ゴム手袋



と書けばゴム手袋を引かない法則

>>92 「1」拳銃
昨晩は区切らず終わってしまい申し訳ありません。】

カプセルが割られて出てきたのは「レアアイテムGET」という文字と拳銃のイラストだった。

チープなガチャ演出に若干の苛立ちを覚えながら、

「……それでっ」

どうすればいいのかを自らに問う。アプリに言われた通りガチャは引いた。拳銃も手に入れた。それじゃあその拳銃をどうやって手元に持ってくるか────

「うそっ……!」

射線を切り続けるために適当に走って向かっている先、三メートルほど前方の上空にダンボールが出現した。何の違和感もなく、突然それは現れる。


このままのペースで走ってちょうどの位置に現れたことで、自然落下したダンボールはトウカの手元に収まる。

「まさか……」

半信半疑だった。しかし蛇のこともあるし、イトウの言っていたことも加味すると、ダンボールの中に収められたブツにおおよその検討がつく。

「……」

一丁の拳銃と数発の弾とにらめっこしながら、トウカは同梱されていたマニュアルに目を通す。

ダーウィンズゲームのホーム画面やガチャ画面と同じくチープな漫画調で取り扱いが記載されていた。

「あれ、ガチャ引いたんだ。ふふふ。なになに? 大きさ的に刀とかじゃあないと思うんだけどなぁ。もしかして銃? あははっ、それって結構レアなんだよ? 私だってようやくの思いで手に入れたんだからさぁ」

いわく、結構なレアアイテムらしい拳銃の取り扱い説明書に目を通し、トウカは一瞬迷う。

セーフか、アウトか。


普段なら「いや絶対にアウトでしょ」と即決してダンボールごと捨てるはずだが、今はそうも言ってられない。イトウの持つ拳銃は確かに壁にめり込んでいた。倫理的に考えてセーフとかアウト以前に、殺されるかどうかの狭間の立場である以上四の五の言ってられない。

封を開け、拳銃と弾を取り出してダンボールを捨てる。拳銃は思っていたよりもずっと重く、弾はとても冷たかった。取り扱い説明書通りにおぼつかない手元の中で弾を充填する。多少手間取ったものの、しかし自分でも驚くほどスムーズに準備ができた。

【安価です。射撃センスを決めます。
ですがその前に運動神経がどれほどかを決め、
運動神経次第では射撃センスにも補正がかかるようにもします。まずは運動神経から決めます。
下2のコンマ1桁。
1が最低、数字が上なほど運動神経が良くなります。
9よりも0の方が良いです。また、ゾロ目の場合はコンマ一桁を優先しつつ固定で決めます。固定の値は7です。88か99、00以外のゾロ目が固定で7になります。

コンマ一桁:1(悪い)、5(普通)、7(学年トップクラス)、9(全国大会レベル)、0(世界レベル)
コンマ二桁がゾロ目:11(固定で7、学年トップクラス)、77(固定で7、学年トップクラス)、88(コンマ一桁を優先して8)、99(コンマ一桁を優先して9)
わかりにくかったら申し訳ないです。
また夜に更新します。】

はい

>>97 「9」全国大会レベル
次に射撃センスを決めます。
運動神経「9」により、射撃センスが+2されます。
ただし補正でカバーできる範囲は9までです。
コンマ一桁が3だった場合、補正後の値は5です。
コンマ一桁が7だった場合、補正後の値は9です。
コンマ一桁が8だった場合、補正後の値は9です。
コンマ一桁が9もしくは0の場合は、それぞれその値です。
コンマ二桁がゾロ目だった場合は固定で7です。
このときこれ以上の補正はかかりません。
レインの射撃が9ぐらいのつもりでいます。
下2のコンマでお願い致します。】

>>97 「9」全国大会レベル
次に射撃センスを決めます。
運動神経「9」により、射撃センスが+2されます。
ただし補正でカバーできる範囲は9までです。
コンマ一桁が3だった場合、補正後の値は5です。
コンマ一桁が7だった場合、補正後の値は9です。
コンマ一桁が8だった場合、補正後の値は9です。
コンマ一桁が9もしくは0の場合は、それぞれその値です。
コンマ二桁がゾロ目だった場合は固定で7です。
このときこれ以上の補正はかかりません。
レインの射撃が9ぐらいのつもりでいます。
下2のコンマでお願い致します。】

【謝って2回投稿してしまいました。
下2でお願いします。】


>>102 「1」 補正がかかって「3になります」】

「っ……ていうか、早すぎッ……!」

運動部にも文化部にも所属していないトウカの足はイトウを撒くには十分すぎるほどだった。

常に五十メートル走をしているかの如く校舎を駆け、そのペースが落ちることはない。それどころか軽々と階段の四段飛ばしを連続でし、イトウは追うのを諦めた。

「くそ……なんだよ、あいつ……」

去年の一年間、彼女とは一緒に体育の授業を受けていたはずだ。普段から目立たないやつだったため、体育の授業中も変わらず目立つことはなかった。しかし思い返してみれば長距離走でのタイムやソフトボール投げの飛距離などの体力テストでは常ぬ華々しい成績を残していた。

ともかく逃げ切られた後を追うのは効率が悪い。待ち伏せをされている可能性を考慮すると、待ち構えるというのが最善であった。

「まぁいいさ。これだけ逃げ回っていても結局、最後には私のもとに来るんだから。せいぜい足掻いてよね、トウカ」

残り四十五分と表示された画面に向かって笑みを浮かべ、イトウはシギルを発動した。






「ここまで来れば、大丈夫……かなぁ」

だいぶ前の時点でイトウのことを撒いたのは知っていた。しかしそれでも走り続けたのは正体不明の異能を回避するためだった。

手の内は明かされていないが、もしかすると不可避の遠距離攻撃を仕掛けてくるかもしれない、などと念には念を入れて走り回った。さすがに校舎の何階に居るのかを把握されていない限りは安全だろうと、二階の化学室に立て籠もる。

「あと四十五分……」

ダーウィンゲームのアプリを起動するとその画面が表示される。四十五分後に何があるのかは分からない。引き分けとして何もなかったことになるのか、どちらも敗北者として────

「死ぬとか、あるのかな…」

夢にまで思わなかった超常現象の渦中で、思っていたよりも冷静に最悪のケースを想定できている。少し走って気が紛れたか。しかし拳銃を握る手は震えていた。


これからのことを考えると、逃げっぱなしという訳にはいかない。制限時間を迎えたタイミングでどうなるかが分からないからだ。どこかでイトウと決着をつける必要がある。それは何処で。残り何分の時点で。

「……信用は、していないけれど」

常に最善の選択を取りたい願望を自己否定するかのように、自分の計画に自信が持てない。新しくスマホにルーレットやくじ引きといったアプリをインストールして運で決めるというにも考えたが、どうにも信用できない。

しかしそれらと大差のない一つの方法だけは信頼こそ出来なかったものの、疑う余地にまでは信頼を寄せているものがあった。

『虚構と現実』

そのアプリを開くと、ホームボタンを長押しするように推奨されたメッセージが表示される。

二秒ほどホームボタンを長押しすると、専用の音声認識のアプリが立ち上がる。

「これからどうしたらいい?」

必ずしもこの選択を取らなければならない訳ではない。あくまでも一つの選択肢として視野に入れるため、トウカは問う。


【安価です。このあとどうするか。
1.グラウンドへ
2.体育館へ
3.校舎の中に止まる
4.その他(できそうなものに限ります)
下1でお願いします。】

2


>>106 2.体育館へ】

最悪窓からなら逃げられると踏んでいた二階の化学室を棄てトウカは体育館へと向かう。

体育館に決めた理由は三つある。

一つ目はイトウの姿を常に視界に入れられ、かつ狭すぎず広すぎずの限られた空間であること。

二つ目はこの勝負に勝つ決定打。射撃のセンスに一抹の不安はある。しかし体育館ならば隣接している準備室にイトウを怯ませる道具が無数に眠っているはず。

そして三つ目は────

『体育館へ行ってみよう』

問いかけに対してのリアルタイムな返答。これは疑う余地無くナビの役割を果たしている。困ったらこのアプリを使うよう推奨されているのか。

しかし依然として自分の異能について、またイトウの異能については掴みきれないまま体育館へと繋がる連絡路前へとたどり着く。

もしイトウが待ち伏せをするならこの場所だろう。柱の陰にでも隠れて体育館へと急ぐトウカが通り過ぎたところで後ろから銃で撃てばいい。慎重に通る必要があると息を呑み、トウカは忍び足でおよそ十五メートルの連絡路を渡る。

「………」

壁を背にして歩くこと十数秒で連絡路を渡りきる。拍子抜けするほどあっさりと抜けられたが、勝負が終わっていないのは変わらない。

制限時間は残り三十分を切っていた。このゲームの勝利条件、敗北条件に気絶が戦闘不能としてカウントされることを願いつつ、体育館の扉を開ける。

バスケットボール部やバドミントン部の部活動中真っ只中の時間のはずだが、体育館は無人だった。校舎と同じく一般人は退避させられているのだろう。

【安価です。
2、5、7、0:準備室へ
1、3、8、9:トウカ
4、6:???
下1の方、コンマ一桁でお願い致します。
今晩続きをします。】

>>108 「8」
1、3、8、9:トウカではなくイトウでした。
イトウということでよろしいでしょうか。
改めて安価し直しした方がよろしいでしょうか。】

【昨日は更新できず申し訳ありませんでした。
>>107の安価ですが、再安価させていただきます。
2、5、7、0:準備室へ
1、3、8、9:イトウ
4、6:???
下1の方、コンマ一桁でお願い致します。 】

>>113 「6」???】

校舎から繋がる連絡路を抜けた先から入り、真正面に見えるステージ。全校集会などにも使われているそこの垂れ幕は閉じていた。

バスケットボールやバドミントンの羽根がステージに入ってしまうのを避けるために幕を閉じて余計な手間を取らせないようにしているのだろう。

ダーウィンズゲームが始まって部員は強制的に退去させられたのか、そこら中にバスケットボールや羽根が転がっている。羽根はともかく、ボールは銃には及ばないものの凶器になりえる。数も申し分なく、十分に撃退可能な道具の一手として数える。

「準備室には……」

通常、バレーボールは授業も部活動も第二体育館で行われる競技だが、確か予備のためにボールが準備室に眠っていたはずだ。バスケットボールよりは多少威力が落ちそうだな、と思いながら準備室にある道具を記憶から掘り返す。

ただし教室や部室の戸締りにはそこそこ厳粛な学校のため、それは今も例外に漏れず準備室は開けられないかもしれない。


ひとまず非常用にバスケットボールを一つ抱え、内ポケットに入れた拳銃の重さに色々と想いを募らせつつステージから脇の準備室に入る。

ステージ上部のプロジェクタースクリーンに投影する用のプロジェクターや、それを操作するノートパソコンなどが保管されていた。

部活動などの表彰者が待機する場所としても造られており、物が置いてあるとはいえ準備室の空間はかなり広く感じた。何か撃退に使えそうな物は無いかと物色していると、奇妙なモノを部屋の隅の方に見つける。

「……穴?」

まるでその空間が削り取られたかのように大小さまざまな大きさの正方形の数々が床から壁へと伝って不自然に空いていた。

どうしてそのような穴ができたのかは分からない。ただ、それを最初に見たとき人が壁に寄りかかっているように見えてしまったのがトウカにゾッとした印象を与えた。

「人型アートってやつ……なわけない、かな?」

先生が言っていた『人型アート』の存在と酷似していることを頭の隅に追いやり、この準備室に使えそうな物は無いと判断して準備室の内側にかかっていた鍵を施錠して体育館へと出る。


それとほぼ同時に、対戦相手は連絡路から現れる。

「おや、もう来てたのかい? なんだなんだ。シギルを使うまでも無かったってことなのかな」

誰もいない体育館で彼女の声はとてもよく響いた。

「その準備室、何があったか聞かせておくれよ」

「穴があった。不思議な穴が……」

「そう、それがダーウィンズゲームで負けた敗北者の後の姿さ」

「後の姿って…言ってる意味がよく分からない」

「いやいや、簡単な話だよ。とっても不思議だけれどね」

続けてイトウは饒舌に語る。

「ダーウィンズゲームのプレイ中に死ぬ、もしくはタイムアップになって点数の低い方は、ああなるのさ。体の周りに四角い枠が出来てね。足の先から少しずつ消えていくんだ。そうして残ったのがあのカタチだよ」

「そ、……」

そんな超常現象も同然のこと有り得ない、と口しかけるがガチャのこともある。そして今この状況でイトウが嘘をつく理由もない。


その事実を知った上で、疑問はただひとつ。

「だれ」

「ん? 何か言った?」

「誰なの。あそこで負けた人は」

「もうここまで言ったんだから、わかるだろう?」

銃を顔の側へと持っていき、イトウは微笑む。

「ちゃんとやったのはソレが初めてだ。なんと表現したらいいか分からないけれど、とにかく善かったよ。普段の彼女の行には全く非は無かったはずなのにね。無遅刻無欠席の優等生の人生を踏みにじった感覚は堪らないの一言に尽きる」

ふふふ、とお腹を抑え、堪えていた笑いが口から溢れ出すイトウを前に、トウカは内ポケットから拳銃を取り出してイトウへと向ける。

「もう喋らなくていい……!」

「ちゃんと狙って撃ちなよ。初心者」

挑発の意味も込めて、より当たりやすいようにイトウは腕を広げる。

「断言しよう。君に銃の才能はない。だって震えているんだもの。そんなんじゃ命中率は二割も無いんじゃないかな。だったらまだ床に転がってるバスケットボールを投げるか、バドミントのラケットと羽根で────流石の君でもそれは届かないか」

たしかに銃の腕が未知数である上に、牽制で良いはずが人に当ててしまうかもしれないという恐怖。また、シギルが不明な相手には分が悪い。

「どう、しよう……」

ブレザーの胸ポケットに音声認識の状態で待機させていた『虚構と現実』の意見を仰ぐ。

【安価です。
1.拳銃を使って攻撃(2割)
2.バスケットボールを使って攻撃(8割)
3.より確実に当てにいくため近づく(1割UP)
この後すぐの安価で命中について取ります。
ひとまずここではどの攻撃をするかお願い致します。
下1の方で決定です。】

>>118
2.バスケットボールを使って攻撃
下1のコンマ1桁 4と8以外で命中です。】

はい


>>120 「7」命中】

命中に不安の残る銃を辞め、トウカはバスケットボールを手にする。威力こそ劣るものの、元より殺すつもりはない。殺傷能力の高い武器に頼るより、イトウを生かしたまま降参に導く一手を取る。

投げ方は素人そのものだっただろう。ただ単純に投げて、腕を大きく広げるイトウへと向かわせる。

「はは、さすがに届かないっしょ。……え、まじ?」

コートの端から端以上の距離を渡り、ボールはイトウの腹部に命中する。ただし流石にそこまで届くのに威力が落ちていたのか、少しフラつかせる程度だった。

「いや、まじか。トウカは運動やった方がいいよ、本当に。君の輝かしい才能をダーウィンズゲームに誘ってしまったのは少し後悔している。十年後とかに君がテレビの奥で活躍していたかもしれないのにね?」

いたたた、と脇腹を手で撫でてイトウはもう片方の手で拳銃を構える。銃口の先にはトウカが居て、手は震えていない。このまま引き金を引けば命中は確実だろう。

「私はトウカの才能を買っているんだ。君ならきっと拳銃の弾だって避けられる。まぁ別に無理して避ける必要もない。バスケットボールを盾にすれば弾は止まるかもね。ただし、これから私は本気でトウカのことを撃つ。準備室に隠れようとしても無駄だ。必ず背を撃ち抜こう」

「ッ……!」

動体視力は良い方だと自覚している。避ける自身があるか無いかで言えばある。しかし当たりどころが悪ければ死ぬのは確実だろう。

「さぁ、いくよ」

脇腹を抑える手を拳銃へと持っていき、トウカへと狙いを定めた。たったの人差し指一本で生きるか死ぬか手綱を握られてる感覚がトウカを臆病にさせる。

【安価です。
1.避ける(6割) +避けた場合は1回攻撃
2.バスケットボールを投げて弾に当てる(7割)
下1の方お願い致します。】

2

>>122 「2」
2.バスケットボールを投げて弾に当てる(7割)
3、6、9以外なら銃弾回避
下1コンマでお願い致します。 】

>>124 「3」
銃弾回避ならず
当たった場所
1、3、6:右腕
2、7、0:左足
5、8、9:腹部
4:心臓
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

4


>>126 「1」右腕】


「ぐっ……ッッ!」

バスケットボールは銃弾に擦りはしたものの、完全に軌道を逸らすことはできなかった。おそらく胸を一直線に撃ち抜いていたであろう銃弾は逸れて右腕に命中する。

なんとも言えない痛みが右腕から全身へじわじわと伝わる。壁に頭をぶつけたとかタンスの角に足の小指をぶつけたとか、そういった次第に引いていく痛みとは異なり、絶対に引かない痛みがトウカを襲う。

「いやいや、それでもすごいよ。確かに君は擦り当てたんだからね。才能がある。ここで失うのは惜しい才能だ。……だからこそ、ここで仕留める」

左手で右腕を抑えるトウカに突き付けるように、再びイトウは銃口を向ける。右腕を負傷した今、利き手じゃない方であることも含めてバスケットボールによる軌道逸らしはほぼ不可能に近い。

「そろそろ時間も無くなってくる頃だし、言い残すことがあったら聞いておくよ」

「……時間切れになったら、どうなるの?」

「さっきも言ったけれど、あーなんだったかな。たしかダメージと技術、そして芸術だったはずだ。その三つの要素を運営が判定してポイント化する。合計値が低かった方がああなるってことだよ」


イトウは銃口をトウカからステージ脇の準備室────人型アートへと向ける。

「今のところ、ダメージでは私、技術ではトウカ、芸術でもトウカが優っているんじゃないかな。この距離でバスケットボールを当ててくるんだもん。ただし、ダメージでは圧倒的に私が優っている。トータルでトントンもしくは私の方が有利のはずだよ」

「……」

「無理しなくていい。右腕が痛い、死ぬのが怖い、ササキのことを────存分に断末魔を聞かせてくれ。誰にも言わないと約束しよう。見なかったことにするし、聞かなかったことにする。だから、私の知らないカツラギトウカを見せてくれよ」

ダーウィンズゲームを通して殺人に悦を感じるイトウのことをトウカは心の中で蔑む。口調も相まって憎たらしくてたまらない。

ササキ、自分、そしてまた他の誰か。彼女の殺人衝動は今後とどまることを知らず、さぞかし悪名を轟かせるのだろう。

「……どうして、わたしなの?」

「君と縁のある人物。ササキを最初に選んだのは、彼女の最期の表情を拝みたかったから。次に君を選んだのはササキの友達だったからだよ。私のシギルでここに誘導して、準備室の痕を見せるつもりだった。数少ない友人の見る影もない姿を見て、どんな表情をするか観察したかった。まぁその願望は叶われた」


「まだ続ける? このゲーム」

「あぁ。続けるとも。続けるしかない。このゲームは退会という機能は無いんだよ。放課後にすぐ退会手続きが出来ると言ったが、つまるところ死ねばそれまでということだ。で、次のターゲットはもう決まっている」

縁のある人物を標的にするとしたら、誰か。最も親交のあったササキは亡くなってしまっている。その他にも少なからず話し相手こそ居るものの、それはイトウの言う縁には不十分だろう。

だとしたら、誰か。

「たしか妹が居るって言ってたよね」

「ッ……!」

「行方不明になったお姉ちゃんを探すために妹さんはどうするだろうねぇ」

「そんなの……」

親友の安否に釣られた実績がある以上、姉の安否に釣られる妹の思考は十分に理解できる。

「これで三人。妹さんのお友達を誘うのは流石に無理があるだろうからね。また一から誰かを探すことにするよ」

「……った」

「ごめん、流石にこの距離だ。もう少し声を出してくれないと────」

「わかったと言っているッ!」

トウカの激昂にイトウは意表を突かれたように一瞬固まり、そして高らかに笑った。

「あははっ。そうそう、私が見たかったのはそれだよ。あー、いいものを見れた。くく、あのトウカがねぇ」

ひとり笑みをこぼすイトウを前に、トウカは



【安価です。
1.拳銃を使用(命中率3割 → 右腕負傷のため2割
交互に銃を打ち合う判定あります。

2.銃弾を避けて直接攻撃(2回判定。
最初は6割で回避、次は5割で回避。
どちらも受けた場合は死亡)
下1でお願い致します。】

2

>>130 「2」
2.銃弾を避けて直接攻撃(2回判定。
最初は6割で回避、次は5割で回避。
どちらも受けた場合は死亡)
1、3、7、9以外で回避。
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

一応


>>132 「0」回避
>>133 かなり今さらですが、ゾロ目の場合も
回避としたいですね。次以降忘れずに記載します。
ありがとうございます。】

ひとり笑みをこぼすイトウを前に、トウカはイトウへ向かって走り出した。動けば動くほど右腕の痛みが全身へと響くが、もはや気にしている余裕が無い。

「おぉ、来るか」

トウカは腕の痛みに耐えながら、一直線ではなく多少左右にフェイントを入れている。

「これでっ……!」

あのペースで向かってきたとして、二発か三発か打ち込む余裕がイトウにはあった。

それでも後退りしてしまうのは、トウカの気迫に万が一を感じたからだろう。おおよその狙いを定めながら拳銃の引き金を引く。

「────っ!」

「まじか……!」

十メートル程度の距離。トウカは寸前のとこで右に避けることにより銃弾をかわす。しかし右に大きく踏み込んだことが負荷になったのか険しい表情を浮かべ、一瞬立ち止まる。

「……絶対に止めないとッ」

死の連鎖をここで断ち切り、これ以上の被害者を出さないためにトウカは左足、右足と前へ突き出し元凶のもとへと再び駆け出す。

当然、銃を持つ相手に近付けば近付くほど、弾は避けにくくなる。さっきはギリギリ見えて身体が即座に反応が出来たものの、次は避けられないかもしれない。

それでも、イトウのもとへたどり着くだけの体力だけは残っていると見立てている。

人並み外れた運動神経には多少自信があるものの、特別力が強いわけでも格闘技の心得があるわけではない。もしイトウが何かしらの格闘技に精通していた場合、勝ちの目は皆無となるだろう。しかしそういったことに疎かった場合は勝機ありと確信している。

「次が最後だ……! トウカ!」

想像していたより彼女はずっと早い。腕の痛みなんて全く無かったかのように、イトウのもとへと近付いている。

これが最後、という言葉には偽りなく、当たれば勝ち、外れれば負けということは逆の立場であるトウカも理解していた。


【安価です。
2、4、6、8、0以外で回避。
また、コンマ2桁がゾロ目だった場合も回避です。
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

回避できるかな


>>135 「7」 回避】

あと一発か二発か。最悪、二発目を当てればいい。

その考えを捨て、次の一発をこのゲームの締めくくりにしようとイトウは慎重に狙いを定めて引き金を引くが、

「ッ────届いたっ!」

わずか五メートルほどの距離でもトウカは銃弾を避けた。そして一歩前へと力強く踏み込み、華奢な左腕をイトウへと伸ばす。

「ああ、すごいよトウカ……!」

拳銃を捨て、ブレザーの内側から柄と刀身を合わせて十センチ程度のナイフを取り出すイトウの姿を視認したトウカは真っ先にそのナイフを持つ手を掴む。

ナイフを取り出したということは格闘技の心得が無いと推測される。咄嗟にナイフを持つ手を掴めたことが功を奏したのか、至近距離でお互いが膠着する。


「やっと、ここまで届いた」

「あの距離で銃弾を避けるだなんて。右腕も右足も痛いだろうに。恐れいった。それに私がナイフを隠し持っていたのを知っていたかのような反応速度だ。一歩間違えればその手が真っ赤に引き裂かれていたかもしれないのにね?」

「ふざけないで。あとその口調やめて。イトウさんはそんな喋り方しないでしょう」

「まぁ確かに、Dゲームプレイヤーの中には他人に偽装するシギルの持ち主も居るだろうさ。しかし知っての通り、私は私だ。君のその言葉は深くない。普段の私と比べて少し違うな、程度だろう。言い方には気をつけたまえよ、トウカ。勘違いを呼ぶぜ」

トウカの知るイトウという人物は、少々悪ふざけが過ぎる程度のムードメーカーであった。どんな時も白線の内側で悪戯を繰り返していたはずだ。

「どうして、Dゲームを?」

「非日常だろうな。それと、ありきたりで申し訳ないが金だ。始めた当初、三十ポイントを保有していただろう。ガチャ一回につき一ポイント。また、一ポイントは日本円に換算して十万円だ。口座登録をすればすぐに三百万おろせるんだよ」


「……」

「間違っても『イトウさんも被害者なんだ』なんて思うなよ。自分の命を賭けているところも含めて私は好きでやっている。お金なんて二の次さ」

悪質なゲーム設計を描いた人間がイトウを変えた。

その思考を読まれ、真っ向から否定されるとトウカは下唇を噛んで、視線を下げる。

依然としてイトウはナイフを手放さない。一瞬の隙をついてナイフを振られる可能性が捨てきれない以上、トウカはイトウの手を掴み続けるしかない。

しかしイトウは左手でナイフを持っていて、右手はフリーだ。対してトウカは左手を使っており、右手は力が入らない。この至近距離でもイトウは有利な状況にも関わらず右手を使わないのは、どうしてか。

「そんな顔するなよ。まだゲームは終わってないんだから」

「降参とか出来ないの?」

「降参? あぁ、まぁ────」



【安価です。
7:「そういう選択肢もある」
7以外:???
下1のコンマ1桁でお願い致します。】

>>139 「4」 ???】

「降参? あぁ、まぁ────っ! トウカッ!」

イトウはナイフを手にしていない右手で強くトウカを押した。体幹には多少自信があったものの、右足首の痛みと切羽詰まる表情をした彼女へ為す術なく、掴んでいた手を離して二歩下がる。

「ッ……!」

トウカのすぐ背後から二発の狙撃音が響く。一発目で体育館のギャラリー後ろの換気用の窓に穴を開け、二発目で穴を通して容易くイトウの腹を貫いた。

振り返るが、敵の姿は視認できない。

イトウは手にしていたナイフを落とし、その場で膝をついて倒れる。

「シギルだ……。逃げろ、トウカ。奴はシギルで狙っている。次が来る前に逃げるんだ」

「そ、そんなの、勝手すぎるっ! どうしてわたしを……」


「いいか。シギルというのはなんでもありだ。一発目で百メートル先の窓ガラスを割って、二発目でその穴を通して人に当てることだって出来る。今みたいにな。……かなり離れているのにも関わらず、トウカにはすぐ後ろから銃の音が聴こえたのだろう? だが、私も後ろから音がした」

お互いが向き合っていたのにも関わらず、どちらも背後からの銃声を耳にしている。そして銃弾はトウカの背後、イトウの正面からやってきた。

「覚えておけよ、トウカ。このゲームはやらなければやられるだけだ。殺さないと殺されるぜ?」

その直後、両者のスマートフォンから「TIME UP」というアラームがマナーモード状態にも関わらず鳴る。

「スマホの画面には、さっき言ったダメージ、技術、芸術の点数が出ているだろうさ。……ほら、私の負けみたいだ」

イトウの身体を幾つかの立方体が包み込む。その立方体は次第に輝きを増していき、左足の先、右足の先、左足、右足、腰と足の先から頭へと向かって床に正方形の穴を開けながらイトウの身体を消滅させていく。

「ま、待って! まだ、たくさん訊きたいことがあるのに!」

「まぁ、せいぜい上手くやんなよ。私はこの殺し合いから一抜けだ。あー、そうだな。強いていうならエイスってクランには気をつけておけな。アイツらは揃って頭のネジが飛んでいる。イケてないトウカに限って寄ることは無いと思うが、渋谷には近寄るなよ」

「エイス……クラン…?」

聞き覚えの無い単語にトウカは首を傾げるが、判定は待ってくれない。早くもイトウの身体は胸あたりまで消失していた。


「私のシギルも効果切れだ。そろそろ生徒や教師が戻ってくる。……あぁ、そうだよ。私のシギルは人を誘導する力だ。大したもんじゃないだろう? でも、やる気を出せば放課後の文化部の連中ぐらいは────いや、そうだ。ササキの最後だ。アイツは最後にお前に対して『生きて』って言ってたな」

「ッ……あなたのことを、許したわけじゃないから」

「そりゃあ……そう、だよね」

「……」

「ごめん、トウカ。頑張って」

最後の最後で仮面を被るのを辞めたイトウは、そう言い残して消失した。体育館の床には人型アートだけを残し、遺物を残さない。

床に膝をつきっぱなしだったトウカはイトウのシギル切れで生徒が戻ってくる前に体育館を後にする。

謎のスナイパーからの追撃は無かった。イトウを撃った時点で踵を返したのだろう。

校舎と体育館を繋ぐ連絡路でトウカは振り返り、ササキとイトウの跡を脳裏に焼き付けて下駄箱へ向かう。


「拳銃で撃たれたなんて、正直に保健室で言えないもんね。……病院に行けるはずもないし」


【安価です。コンマ一桁。
奇数、0:狐の仮面を被った女性
偶数:イケてそうな女子高生
ゾロ目判定はなしです。
下1 コンマ一桁でお願い致します。】


>>143 「5」
5:狐の仮面を被った女性】

保健室には寄らず、ローファーに履き替えた冬華は校門を抜ける。学校外に出て、真っ先にしたのは連絡だった。

週末の夜、いつもなら家族揃って夕餉の時間にも関わらず、年頃の娘との連絡が途絶えたとなれば心配するだろう。ましてや佐々木の件もある。

ゲーム終了後、外部との連絡が取れるようになったおかげでメッセージだけでなく電話が何十件と一斉に通知が来た。

「……うん、うん。大丈夫。ごめんね、連絡するの遅くなって。明日帰ったら食べるから。……うん、はーい」

言葉とは裏腹に、冬華は痛みに耐えかねていた。未だに右腕に命中した弾は摘出できておらず、とっくの前から力が入らない。

どうしたものか、と左手で操作していたスマートフォンをロックし、ブレザーの内ポケットにしまい、すっかり暗くなった空を仰ぐ。

今夜泊まる場所がない。腕をどうにかしないといけない。Dゲームについて知らなければならない。

目下、するべきことはこの程度か。およそ十六年間生きてきて、どれもが初めてのことばかりだった。


もう少しで満月か、なんて思い耽たところで、月の前を何かが横切る。長身で後ろ一本に結った髪、身体つきから察するに女性か。

「いやいや、見間違いだって…」

件の人影は二階建ての一軒家と一軒家の間を跳躍で駆けているようだった。

人間業ではない。でも、シギルはなんでもありだ。

見間違えでなければ────

「良い眼をしておるな」

背後から声をかけられ、冬華は咄嗟に振り向く。

先には件の女性が佇んでいた。白い服に長い髪を後ろで一本に結っている。顔立ちは狐の面で隠れているが、美人な顔立ちをしているのは想像がつく。

「怪我をしているのか? ……ふむ。右腕が酷いな。右足はまぁ放っといても良かろう」

「あな、たは……」

「名乗るほどのものでもない」

ふっ、と面の奥で女性は笑みを浮かべるが、

「もちろん雑魚に教える名など持たぬというだけよ」

敵意を剥き出しにして、狐の女性は構えを取る。

「また……っ!」

またダーウィンズゲームか。心の中で悪態を吐くが、どうやっても戦闘を避ける手段は思いつかない。

眼前に立ちはだかる女性はいわゆるプロなんだな、と業界に参入して間もない冬華でも分かる。

手負いでなくとも端から逃げ延びる術は無いだろう。少なくとも冬華には二階建ての一軒家の屋根を跳躍で飛び回ることは出来ない。

「まずは小手調べよ」

左足をバネにし、コンクリートを抉ったんじゃないかと錯覚させるほどのスピードで女性は右手の手刀を冬華に振りかざす。


【安価です。
4、7、0以外:回避
ゾロ目の場合も回避です
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

酒羅胃鵡


>>146 「44」ゾロ目のため回避
本文の人物名ですが、原作(漫画)だとずっと
カタカナのため日本人はカタカナで統一します。】

「っ!」

右足を地に着けたまま左身を後ろに引かせることで、トウカは手刀を避ける。軸にした右足首が鋭い痛みを全身に響かせるが、そうも言ってられない。

正確には軽く当たっていた。腰まで伸ばした黒髪の先がソレによって斬られ、パラパラと空を舞っている。

「ほう、避けるか。まぁこれくらいは避けて貰わねばな。……次は、少しだけ当てに行くぞ」

女性は二歩、三歩と下がり、トウカも合わせて下がる。初撃と同じ距離を取らせてくれるらしい。

しかし「当てに行く」という言葉の通り、鋭い殺気が眼前の女性から放たれる。呼吸さえ忘れてしまいそうな威圧感に、トウカはこれ以上後退ることもなく、ただ良く相手を観察することしかできない。

「手負いじゃ。これを避けたら儂が何とかしてやる」

その言葉が聴こえてきたのは、狐の面をした女性が地を跳ねた後だった。


【安価です。
2、6、8、0:回避
1、3、4、5、7、9:直撃
ゾロ目は回避です。
下1 コンマ1桁】


>>148 「9」直撃】

「遅い。これでは避けれぬな」

狐の面をした女性はたった一度だけコンクリートを片足で蹴り、地面と平行に五メートルは移動してトウカの耳元で囁く。

一瞬遅れて、手刀はトウカの腹を突き抜いた。

「ぐ……ッ!」

「当てに行くと言ったであろうに」

女性の声がトウカに届くことはない。意識はある。聴覚がやられたわけでもない。ただ、痛すぎる。

正常な呼吸方法を忘れてしまったかのようにトウカの呼吸は乱れ、額には脂汗が滲む。制服は貫かれた辺りを中心にして血に染まり、コンクリートの上に血溜まりを作る。

「は……ぁ、はっ……ぁっ……!」

「……おい」

呼吸を乱しながらも、トウカが地面の上に伏すことは無かった。自分の腹を貫いた女性の腕を無意識に左手で掴んでいる。

「意識が無いか。……しかし困るぞ、これは」

解こうと思えばすぐに解けるほど力が弱かったが、邪険にも扱えない。女性にとって、トウカの評価は優に『助ける』の価値を超えていた。

「士明よ。シンジュクじゃ。カエデのところへ連れて行く。我ながら、なかなか面白い拾い物をしたの」

「承知致しました、お嬢様」

電柱の裏から現れた燕尾服で身を包んだ老紳士は、恭しく頭を下げて近くに停めてある車を取りに行く。



「さて、シンジュクまで生きられるか。娘よ」



【安価です。
イベント「宝探しゲーム」の開催まで残り10日
参加は確定とさせてください。
下1のコンマ一桁で完治するまでの日数を決めます。
一桁が1だった場合、翌日には完治。
一桁が9だった場合、9日後に完治。
また、イベントまでの特訓期間にも影響します。
1日で完治した場合は9日特訓、
9日で完治した場合は1日特訓です。
一桁が0の場合は10日で完治とし、すぐにイベントです。
今回はゾロ目判定なしです。
完治早くない? というのは最もなご意見です。
ご容赦ください。
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

>>151 「0」10日後(イベント開始日)】


この十日間─────正確には七日間、本当に色々なことがあったとトウカは目を覚ますのと同時に思う。

瞼を閉じればそれらの出来事は鮮明に蘇ってくる。

運び込まれたダンジョウ拳闘倶楽部というランキング第四位が率いるクランにはおよそ三十人弱のDゲームプレイヤーが所属していた。

その中には自然治癒を促進させるシギルを持つカエデという金髪碧眼の女性が居て、意識を失っている三日間は付きっきりで看護をして貰っていた。

目を覚ましてからは一日に三回程度カエデのもとを訪れ、自然治癒の促進に励む。

五日も経つ頃には不自由なく動けるようになっていたものの、まだ安静にしていろとクランリーダーからのお達しにより外出は一度を除いて叶わなかった。

その一度というのは、家族と学校への挨拶だ。

ダンジョウ拳闘倶楽部へ長期間お世話になるきっかけにもなった狐の面をした女性─────名を雪蘭(シュエラン)の執事をしている士明(シーミン)と共に実家へ赴き、

「トウカ様ほどの才能を眠らせておくのは惜しい」

と合法的に格闘技の世界へ引きずり込まれた。

両親は「どうぞどうぞ」と、常日頃から運動の才能があるのにも関わらず運動部に所属してこなかったトウカへの不満が解消されたように快諾し、学校も夏休み間際だけれど申請すれば可能よ、と手続きは簡単に済んだ。

それらを経てダンジョウ拳闘倶楽部にてDゲームについて詳細を知り、またイベントの告知にも目を通した。

「宝探しゲーム、かぁ」

渋谷を舞台にした宝探しゲームと言うが、もちろんそれには人の生死が密に絡んでくる。ダンジョウ拳闘倶楽部からも何名か選出されている。

トウカは初心者ということもあり、好意に甘えて一緒に行動してくれるという約束までこぎつけたが、開始位置はランダムのためすぐに合流できるかは分からない。

何度も何度もルールに目を通し、迎えた今日。

トウカは初のイベント開始日を迎えた。

【安価です。
1.ダンジョウのもとへ
2.カエデのもとへ
3.イヌカイのもとへ
4.両親・妹に電話(父、母、妹を選択してください)
安価下1】

ミスった
4妹

>>155 4.家族に電話 → 妹
今後の展開を考えて、妹との仲を決めます。
コンマ一桁
4、8:仲悪い
1、3、7、9:仲良し
2、5、6、0:とても仲良し
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

虎視眈々

>>157 「5」とても仲良し】
家族の名前は以下の通りです。
父:葛城 蓮(かつらぎ れん)
母:葛城 秋葉(かつらぎ あきは)
長女:葛城 冬華(かつらぎ とうか)
次女:葛城 玲美(かつらぎ れみ)
父親の名前は>>43
母親の名前は>>45
妹の名前は>>44からいただきました。
ありがとうございます。】


前回のDゲームは確かに命を賭けたものだった。

たまたま対戦相手が油断していて、多少の友情関係があったから無事にこうしているが、何も知らないまま見ず知らずのプレイヤーと対戦していたら確実に負けていた。

その自覚のあるトウカは休学の理由としている格闘技について学ぶ必要があった。銃を使うつもりは依然として無いため、必然と格闘技に頼らざるを得ない。

「雪蘭さんとまではいかないけどね…」

十日前、胸の下を手刀で抉られた経験のあるトウカにとっては笑い事でなく、格闘技を越えた暗殺術を学ぶつもりはなかった。少なくとも護身術。近距離で敵の銃などを無力化するくらいまでを目下の目標とする。

ただし今日までは身体を動かすことは禁止されているため、格闘技の門を潜るのはイベント終了後ということになる。

そう打診した数日前に雪蘭は相手してる暇などない、と踵を返しながらこう言った。

「格闘技? 教えてやっても良いが、まずは次のイベントとやらを生き残らねばな。そうしたら考えてやる」

暗殺術を極めた雪蘭には当然、格闘技の心得があるはずだと確信している。


また、ダンジョウ拳闘倶楽部に所属していない以上、このクランを頼り続けるわけにはいかない。対して雪蘭はクランに属さないソロプレイヤーかつ少なからず両者間に関係性が出来てしまっているため自然と頼りたくなってしまう。

「……怖いけど、いい人なんだよね」

トウカには手刀を受けた以降の記憶が無い。無意識に腹を貫いた腕を掴んでいたことも、それでいて雪蘭から視線を外さなかったことも。

そういった記憶が無いからこそ、「避けたらなんとかしてやる」と言いつつ、避けれなかったにも関わらず傷の治療をしてくれるカエデのもとへと連れて来られているのは彼女も気にかけてくれているのだと思う。

かくして大会とかには全く興味が無いけれど、生き残るために敵を無力化できるくらいの技術はちゃんと身に付けようと思い至ったトウカはひとまず今日から始まるイベントに備える。

「……そうだ」

イベントは開始日こそ決まっているものの、開始時刻は明言されていない。曰く、突然転送が始まるらしい。もしかしたらすぐに始まるかもしれない。

最後にやり残したことはないか、と考えると真っ先に最愛の妹のことが思い浮かんだ。


もう二度と声が聞けないかもしれない─────トウカが妹の声を、ではなく、妹がトウカの声を聞けない可能性が大であるため、手軽に電話をして話しておこうと思い至り、『葛城 玲美』の名前をタップする。

早朝だというのに、レミはすぐに出た。

「レミ? おはよう。早いね」

『えー? いつもこの時間には起きてるよー。それよりさ、お姉ちゃんこそどうしたの?』

「なんとなくレミの声が聴きたくなっただけ」

『なにそれ。練習は順調? お姉ちゃんの運動神経なら余裕かなー。格闘技って運動神経関係あるよね』

「まぁ、うん……」

饒舌に話すレミに、格闘技の門をくぐるという名目で家出をしているトウカは話を合わすしかない。実際にはまだ門をくぐる前で止められている。

身体を動かす系だから運動神経は密に関係いているだろうと、憶測で物を言う。

『てっきりやるならスポーツかなって思ったのにね。バレーとかバスケとか、サッカーは似合わなそうだけど、お姉ちゃんならなんでも出来そう。私的には水泳やって欲しかったんだよ。水着姿がテレビ越しに観れるから』

「テレビ越し……」

『いや、実際さ。お姉ちゃんってこれまで体育の評価ずっと良かったじゃん。学校一、足が速かったり、トスとかシュートとか上手かったり。ちゃんとやってたら全国大会とか余裕で狙えたんじゃない?』

単純にその気が無かった、の一言に尽きる。


小学校では地元の各スポーツ業界のクラブから勧誘を受け、中学校ではほぼ全ての運動部から勧誘を受け、高校に入学して一年と少しが経過した今でも熱烈な勧誘を受けている。

それでもやらなかったのはきっと嫌だったからなのだろう。上手くなればなるほど衆人の目に晒される機会が増える。何百個、何千個といった目に見られるのが恥ずかしくて、失敗したときにブーイングを受けるが嫌だと殻に閉じこもってきた。

特別これまで失敗があった訳ではないが、ありえる可能性を考えると表舞台に立つことができない。

『私は嬉しいな。お姉ちゃんが活躍できそうな業界に足を踏み入れてくれて。師範代とかに殴られるとかしてない? 大会って地下闘技場みたいなところで殴り合いとか?』

「そういうのは無いからねっ? あくまで護身術的な」

『ふーん。えー、でもでも、ムキムキになったりしちゃうのかなー? そういうのはやめてほしいなーって』

「そこまで鍛えるつもりは無いってば」

理想としているのは雪蘭ただ一人。無駄のない女性らしさ溢れる肉体というのはあのことだろう。

少なくとも外から見る限りは羨ましい限りだが、実際のところ服の下は腹筋が割れているかもしれない。

そこまでするのは勘弁、とトウカは話を変える。

「最近困った事とかない?」

『困ったこと? んー?』

電話越しでもレミが頭を傾げているのが想像つく。

「近況を知りたいだけだよ」

『困った……不思議に思ってることならあるけどね』

「不思議? 人によって階段の段数が違うとか?」

『そういうありふれた七不思議じゃなくてさ。渋谷のモアイ像あるよね。アレにどうやって穴を開けたのかなって』

「あぁ…」

三日ほど前、渋谷駅近くの待ち合わせ名所であったモアイ像の周辺に人型アートが出現した。


事情を知っている者の間では『渋谷の十二人殺し』と言われているもので、ネットニュースを見たトウカは心底驚いた。

ただし事情を知らない者からすれば、あれはもはや人型の原型を留めていない物が多く、正体不明の穴がモアイ像周辺に点在している程度の認識だろう。

「なんだろうねー」

『私の勘だと、あれは人だね』

「えっ……?」

『死体がああなったんじゃないかって。名探偵レミの勘がそう告げてるの。ほら、近ごろ失踪者の報道多いでしょ? ……あぁ、そういえばお姉ちゃんの同級生のササキさんとイトウさんもだったね』

「そ、そう……だね。怖いね」

勘の良すぎる妹に少し嫌な予感を覚えながら、トウカは妹との電話を終わらせようとまとめに入る。

「名探偵レミさんの言う通りかもだから、あまり遅い時間に外出とかしないでよね?」

『はーい。わかってまーす』

「あと、知らない人からの変な勧誘は受けないこと」

『ん、なにそれ。受けるわけないじゃん』

「友達からでも怪しい勧誘は断るようにね」

『なんか具体的じゃない? もしかしてお姉ちゃん、道場に入るのを名目に拉致とかされた? この何気ない会話の中でSOSしてたとか? お、落ち着いてっ! 冷静に外の風景を電話越しに伝えて……!』

「そういう冗談はもういいから。ほら、もうすぐ夏休みだからって怠け過ぎないようにね」

『んーーー。はーい。お姉ちゃんも元気でね。練習が辛くなったらすぐに電話するんだよ?』

「レミもね。困ったことあったら聞くから」

悪ふざけの流れを断ち切り、トウカは最愛の妹との電話を終える。

『葛城 玲美』と表示されていた画面が閉じると、特別『ダーウィンズゲーム』と『虚構と現実』のアプリが目に付いた。


【安価です。
1.イベント開始
2.ガチャ
3.ダンジョウ拳闘倶楽部を散策
2もしくは3を選択した場合は、それぞれの行動終了後に自動的にイベントが開始されます。
2と3の両方は選択できません。
下1でお願い致します。】

3


>>165 「3」ダンジョウ拳闘倶楽部を散策】

イベントのルールは何度も目を通した。今さらアプリを開いてすることもないだろう、とトウカは与えられた自室を後にする。

いつ転送が始まるか分からないということで念のため拳銃を携帯し、日々の特訓に励むDゲームとは何の関係もない倶楽部の一員らを横目に建物内を散策する。

昨晩のうちにカエデとの最終調整は済んでいて、本調子となったトウカの足取りは軽い。

未知のイベントへの不安はあるし、生存を賭けたロワイヤルにも恐怖心はある。しかし今になって足掻けることもない、と。おろしたての新品の高校の夏服に気持ち良さを感じながら建物内を歩いていると、


【安価です。
1・4・8:ダンジョウ
2・6・9:カエデ
3・5・7・0:イヌカイ
下1のコンマ一桁でお願い致します。】


>>167 「6」 カエデ
カナメの学校の女子生徒の制服はセーラー服でした
今さらですが、ブレザー等々はお忘れ下さい。】

「あ、トウカちゃん。もういいのー?」

ふわふわとした金髪が目立つ小さな女性─────カエデと遭遇する。カラーコンタクトとは一線を画す宝石のような本物の碧眼が金髪と相まって眩しい。

「はい。色々とお世話になりました」

「いいってば。雪蘭さんの頼みだしねー。それより、トウカちゃんの制服姿はやっぱりステキねー」

「そ、そうですか……?」

舐めるようにトウカの周りを一周しながら微笑むカエデにトウカは気恥ずかしさを感じる。

これと言って目新しいものはない。地味なセーラー服だ。首元には赤いリボン、白と黒を基調とし、スカートも至って普通の紺色だ。

「まぁねー。こっちでは良く見かける制服なんだけどー、トウカちゃんが着ると……いやらしさ? があるわ」

「それ、日本では褒め言葉じゃありません……」

日本贔屓しているロシア人のカエデにとって日本の制服姿はどれも素敵なものらしい。服飾も文化の一部と捉え、異国の文化へ敬意を評しているのか。


「黒タイツってエロいんじゃないのー?」

「好きで履いてるだけですっ!」

まさかただの黒タイツをエロいと解釈されるとは思っておらず、顔を少し紅く染めながらトウカは間違いを正す。

新品の制服は士明によって手配されていた。まったく一緒のものをサイズの狂いなく、七着も。

一週間ずっと制服姿でいるというのも流石に飽きてくるため、黒のハイソックス縛りにとらわれず、ニーハイソックスや黒タイツを取り入れることで気分を一新しようとした。季節柄、黒タイツは暑くて仕方がなかったが、よく動くことを想定されたタイミングで黒タイツ以外は憚られた。

なおボロボロになった制服は意識を失っているうちに処分されている。一年間と少しの付き合いがあった制服に袖を通すことはもう二度とない。

「何にしてもイベントまでに怪我が治って良かったわ~。いつ死んでもおかしくない状況だったけれど、そのあたりはトウカちゃんの生命力がよほど強かったのねー?」

「それは、よく言われます」

普通は腕を撃たれたまま数分、數十分も動けないと。それに腹を貫かれながらも生きていることは奇跡だと、何度もダンジョウ拳闘倶楽部の面々に賞賛された。

「私やダンジョウは今回のイベントに参加しないけれど、トウカちゃんならきっと生き残れるわ。きっとまたこうしてお話できることを楽しみにしてるわねー」

「はい。……絶対にご恩はお返し致します」

「気にしなくてもいいのにー。……あ、そろそろみたいね」

カエデの表情が変わってからトウカは気がつく。自分の体を、いくつもの正方形が包み込む。

思い返すのはイトウの最後。

間違って死亡判定にならないでよね、とトウカは祈りながらカエデに別れを告げる。

「絶対に、生きて帰ります」

カエデの声が届く前に、トウカは渋谷へ転送された。


【安価です。
奇数:ホテルの一室(カナメと一緒のルート)
偶数:渋谷のとある場所(オリジナル)
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

さげ

[>>170 「0」 渋谷のとある場所】

「ここは……?」

転送先はシックなバーだった。

日中である今は営業時間外らしく、カウンター周辺には誰もいない。席の数は8個。ボックス席は無く、たった一つの出入り口からカウンターと平行に細長い内装をしている。照明は薄暗く、雰囲気がとても良い。

「ドラマで見たような場所だ」

そんな感想を抱きながら、棚に並んでいるボトルを横目にスマートフォンのロックを指紋で解除する。

『ダーウィンズゲーム』を開くと、イベントルールが目に入る。

「誰もクリア出来ずに制限時間を迎えた場合は、リングが三個未満のプレイヤーはゲームオーバー…」

ゲームオーバーとは、つまりこのゲームから一抜けということだろう。現状、唯一のDゲームから解放される手段である。

ただしそれには死が伴うことをよく知っている。


制限時間は二十四時間だったのだろう。着々と一秒ずつカウントダウンしていき、残りは二十三時間と五十九分を切ったところだ。

参加プレイヤーは三百人。さすがにものの一分で脱落した者はいないらしく、キリ良く三百と表示されている。

「トパーズ、ペリドット、ラピスラズリ、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド……」

トパーズが100ポイント、ダイヤモンドが2000ポイントと、日本円換算すると最低でも一千万円、最高で二億円の配布という大盤振る舞いだ。

七種類の宝石が埋め込まれたリングを集め、誰もクリア出来なかった場合は制限時間終了時にリングを三個持っていなかったらゲームオーバー。

その際のリングのランクは問わないようだ。

一通りルールを読み終えたトウカは首を傾げる。

「んー」


【安価です。
イベントルールを見て気がつくことがあるか。
の前に、頭の良さをコンマで決めます。
頭の良さに応じてイベントルールの判定をします。
下1のコンマ二桁を反転します。
「.28」 → 「82」
「.31」 → 「13」
以下、目安です。
200人の同級生のうち
01~10:180番
12~30:150番
31~50:110番
51~70:70番
71~80:50番
81~90:30番
91~95:10番
96~97:1番
98:全国模試一位
11~66までのゾロ目は81~90の30番とします。
88は96~97の1番とし、
99は98と同じ全国模試1位とします。
77もしくは00は素で世界関数とします。
下1のコンマ一桁を反転でお願い致します。
夜続きをやります。】

>>150 「50」 → 「05」 200人中180番ぐらい
脳筋……アホな子ですね。
次にイベントルールを見て気づくことを判定します。
7もしくはゾロ目:気がつく
それ以外は無しで
下1のコンマ一桁でお願い致します。】


>>176 「8」気づかない】

「ペリドット、ラピスラズリ……て、なに?」

ルビーやサファイア、ダイヤモンドのことはもちろん知っていた。しかし聞きなれない二つの宝石にトウカは首を傾げる。イベント中はダーウィンズゲーム以外のアプリが起動しないため、調べる術がない。

少し考えた挙句、「まぁルビーとかサファイヤ以下の宝石なんだろうね」と結論を下してカウンター席から降りる。

歩きながらイベント専用のアプリ、異次元カメラを起動すると、ルールに記載されていた通り建物越しにリングの在り処を教えてくれる。

「……ということは、リングが動いてたらそこに人が居るってことね」

早速いくつかのリングが動き始めた。渋谷を舞台として三百人がそれぞれリングを漁っている割には近辺に人が多すぎる。

時間はまだたっぷりとある。うかつにリングを手にすれば他のプレイヤーを招きかねない。しかし、だからと言って制限時間ギリギリまでこのバーで粘っていても、そのときリングを抱えているのは強者のみだろう。

動くか動かないか、選択を迫られる。


【安価です。
1.移動(遭遇、戦闘判定、リング獲得判定)
2.この場に留まる(この後の安価で来訪者の判定)
下1でお願い致します。】

1


>>178 「1」移動】

時間の経過と共に一部へリングが集中することは簡単に予想できた。

関東において悪名を轟かせているエイスの王(ワン)がもし噂通り参加しているとしたら、後半戦からのリング探しは困難だろう。

参加プレイヤーのカウントが緩やかに減っていくスマホの画面を見ながら、バーを出ることを決心する。

異次元カメラ越しに外を見る限り、近辺にリングの反応はない。しかしリングを持っていない人は居るかもしれない。扉を開けてすぐ襲われる可能性だって十分にありえる。

「……迷ってても仕方ないよね」

一度決めたことを考え直していては埒があかない。


シギルの詳細についてハッキリと分かっていれば多少自信を持てたのかもしれないが、十日経った今でも分からないものは仕方がなく、頼れるのは人一倍動ける身体そのものだった。

バーの扉に触れ、ギィと音を立てながらゆっくりと前へ押す。夏らしい全身に絡むようなジメッとした空気を浴びながら、バーを後にする。

転送先であるバーは地下にあったらしく、扉を出てすぐの斜面がそこそこある階段をゆっくり登る。

「会いませんように。会いませんように」

ルールにリングのやり取りには必ず戦闘をしなければならないというルールは無かった。しかしバトルロワイヤルモードとして、殺し合いは推奨されている。

見つかり、分が悪いと感じたとき差し出せる物は命しかないのか。手早くリングを集めればそれで見逃して貰えるかもしれない。

イベント開始前は「まぁ大丈夫でしょ」という謎の自信に満ちていたが、実際に始まると嫌な汗が滲み出るのがわかる。

階段を登りきり、その先の外と繋がる重い鉄の扉を押すと、眩しい陽の光を浴びる。


【安価です。
奇数:他のプレイヤーと遭遇
偶数:遭遇なし
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

>>181 「9」 他のプレイヤーと遭遇
1:制服姿の女子高生
2:四十代ぐらいの小太りのおじさん
3:大学生くらいの男性2人組
4:左目に切り傷のある隻眼のカタギじゃなさそうな男性
5:制服姿の女子高生
6:目元に隈のあるスーツ姿の女性
7:???
8:大学生くらいの男性2人組
9:制服姿の女子高生
0:左目に切り傷のある隻眼のカタギじゃなさそうな男性
ゾロ目:シュカ
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

はい


>>183 「9」制服姿の女子高生】

さて、と一呼吸ついてトウカは異次元カメラを頼りに数年ぶりの渋谷を散策する。

ダンジョウ拳闘倶楽部にて聞いていた話の通り、プレイヤーでない一般人は強制的に退去させられている。

なんでもイベント開始時と同時にエリア内に居る一般人のスマートフォンから特殊な電子音が流れ、自然とエリア外に出るという信じがたい現象が起こっているらしい。

今回はその光景を見損ねたが、人が洗脳されている姿を特別見たい願望はトウカに無かった。

異次元カメラによると、最寄りのリングは六百メートルほど離れていた。見渡す限り人の姿は無く、また日陰も極端に少ない。日陰を壁伝いにリングのある場所まで辿り着くのは不可能らしい。

しかし裏を返せば待ち伏せするような場所も無いと解釈することもできる。

距離は六百メートル。体力には自信がある。全力で走り続ければ二、三分程度で着くだろう。


行くか、行かないか。

短時間であったものの、考えが一つの物事に集中していたせいか、すぐそばまで忍び寄る人の気配にギリギリになって気がつく。

「そ、そこに居るのは分かっているんだからっ!」

リングのある方面とは逆。バーへと続く階段のある扉からすぐ近くの路地裏から人影が覗いていた。

影だけでは背が分からず、男性か女性か分からない。

しかし、すぐに性別を知ることはできた。

「あ、影出てたのね。ごめんなさい、驚かせるつもりは無かったの」

そう言いながら路地裏から黒のローファー、紺のハイソックス、すらっと伸びた白い脚に、膝上数センチのチェック柄のスカート、紺のベストを着た女性が現れる。

見たところ年齢はトウカとそう変わらない。制服姿であることを加味して同い年か一つ違いだというのはすぐに分かった。


【安価です。
1・3・7・0:「よければこのイベント中だけ協力しない?」
2・5・6・9:「驚かせるつもりは無かったの。驚かせる前に殺れたらなって思ってたわ」
4・8:「あっちから人、来てない?」
下1のコンマ一桁でお願い致します。】


>>186 「3」
「よければこのイベント中だけ協力しない?」】

「えーと、一人よね?」

トウカは首を縦に振った。

初対面の相手とはどうにも口で話せない。根の暗さがこういう時に限って嫌になる。

「あぁ、よかった。団体行動はどうにも苦手でね? 私も一人なの。よければこのイベント中だけ協力しない?」

「協力?」

「えぇ。二人合わせてリングを六個集めるの。ポイントはどうでもいいわ。私は生き残りたいだけ。あなたがダイヤモンドとかを狙うんだったら、ちょっと考え直させて欲しいけれど」

一人で三個を集めるより、二人で六個を集める方が現実的だ。何よりも後ろをケアできる存在が大きい。

トウカにとっては願ってもない申し入れだった。

「私も、なんでもいいです。生き残れれば」

「そう? じゃあ契約成立ね」

小走りで近寄り、女性はトウカの手を取る。

「……かわいい。近くで見るとかわいいわね、あなた」

「か、かわ……?」

「ぱっちり二重でまつげ長くて、髪も────って、こんなこと話してる場合じゃないっ。まずは自己紹介ね」

女性は一歩、二歩と下がり、短いスカートの端を摘んで恭しく一礼をした。


【安価です。
今回は女子高生の名前を決めます。
このあと頭の良さ、運動神経、シギルと決めます。
下3までで案をお願い致します。】

壬生 翔子(みぶ しょうこ)

諸星 琴音(もろぼし ことね)

緑河 弥生 (みどりかわやよい)


1.>>188 壬生 翔子(みぶ しょうこ)
2.>>189 諸星 琴音(もろぼし ことね)
3.>>190 緑河 弥生 (みどりかわやよい)
先に2票入った名前に決定します。】

【先に3票入ったため、緑河弥生に決定です。
次は頭の良さを決めます。
次の運動神経と決め方がちぐはぐで申し訳ありませんが、
トウカと同じくコンマ2桁を反転させて決めます。
「.28」 → 「82」
「.31」 → 「13」
以下、目安です。
200人の同級生のうち
01~10:180番 トウカ
12~30:150番
31~50:110番
51~70:70番
71~80:50番
81~90:30番
91~95:10番
96~97:1番
98:全国模試一位
11~66までのゾロ目は81~90の30番とします。
88は96~97の1番とし、
99は98と同じ全国模試1位とします。
77もしくは00は素で世界関数とします。
下1のコンマ一桁を反転でお願い致します。

【先に3票ではなく2票でした。
安価は下1の二桁でお願い致します。】

>>190 「90」→ 「09」
トウカと同じぐらいですね。
次に運動神経です。
1が最低、数字が上なほど運動神経が良くなります。
9よりも0の方が良いです。
また、ゾロ目の場合はコンマ一桁を優先しつつ固定で決めます。固定の値は7です。88か99、00以外のゾロ目が固定で7になります。

コンマ一桁:1(悪い)、5(普通)、7(学年トップクラス)、9(全国大会レベル)、0(世界レベル)
コンマ二桁がゾロ目:11(固定で7、学年トップクラス)、77(固定で7、学年トップクラス)、88(コンマ一桁を優先して8)、99(コンマ一桁を優先して9)
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

うりゃ

>>199 「0」 0(世界レベル)
頭の良さ同じくらい、運動神経はヤヨイの方が良いことになりました。
次にシギルを決めます。
下3までで案をお願い致します。
今回はコンマ2桁を反転させ、値が大きいものに決定します。

それと>>198にて>>190のコンマと書き込みましたが、>>197です。申し訳ありません。】

【申し訳ありません。
先にシギルのランクを決めます。
次に異能です。
Wikiを確認したところ、まず異能の種類が5種類に分かれていたりレア度が4種類あったりするようです。

まずはレア度から決めたいと思います。
下2番目のコンマ一桁
神話級・・・0
王級・・・2、5、7、9
超人級・・・1、4、8
獣級・・・3、6
また、コンマ2桁がゾロ目の場合は神話級です。

「神話級」 … 神の名を冠する本当に稀なもの(1%以下)
「王級」 …… 王や姫などの貴族の称号が入り強力な念動系が多い(4%以下)
「超人級」 … 機能そのものが名前になり個性的なものが多い(20%以下)
「獣級」 …… 動物の名を冠し身体強化系や五感拡張系となる(75%)と分類される

下1のコンマ1桁でお願い致します。】

>>203 「0」神話級
神様の名前にちなんだ強シギルですね。
それでは改めて下3までで、コンマ二桁を反転させて一番数字が大きいものにします。よろしくお願い致します。】

天照大神(アマテラス)

光を操ることができる能力。強い光で相手を目眩まししたり、ビームを出すことができ、他にも光で剣や弾丸など形を変えることが可能。ただし光なので鏡などは反射してしまうことあるがそれを利用して遠くにいる敵に当てることができる。

>>208 「77」天照大神に決定です。
光を操ることができる能力。
強い光で相手を目眩まししたり、ビームを出すことができ、
他にも光で剣や弾丸など形を変えることが可能。
ただし光なので鏡などは反射してしまうことあるが
それを利用して遠くにいる敵に当てることができる。】



「私は弥生。緑河弥生ね」

そう言ってヤヨイはスカートを摘んでいた左手ではなく、腰の胸の前で誠意を見せていた右手を差し出す。

「えっと、葛城冬華です。よろしくお願いします」

「歳は?」

「十六。今年の冬で十七」

「あ、ほんと? よかった。私も一緒」

トウカが手を取ると、ヤヨイはぎゅっと手を握り返し、微笑む。

至近距離で顔を見ることによって、一つ気がつく。

「綺麗な瞳……」

「ふふっ。瞳って。なかなか人の口からは出ないわよ? 普通は綺麗な眼とかっていうと思うけれど、そう言って貰えるのは嬉しいわ」

ぱっちりとした瞼の奥には翡翠の瞳があった。宝石と見紛う美しさとはこのことだと思う。


「ぜひともエメラルドのリング欲しいわね。実物って見たことないから。私の眼とどっちの方が綺麗か感想聞かせてね?」

「う、うん」

お互い初対面だというのに、ヤヨイは気にせず饒舌に喋る。その流暢な口はイトウに通ずるものがあるが、あの時とは全く状況が異なる。

「さて。もちろんシギルの言い合いは無しよ。危なくなる前に助け合う。自分に余裕があって、相方が危なくなったら助ける。自分に余裕がなくて、相方が危なくなったら助けない。おーけー?」

「お、おーけー」

「うん。おっけーおっけー。まぁ安心してよ。私って強いから。シギル無しでもね」

シギル無しでも、と聞いて真っ先に思い浮かべたのは雪蘭の動きだった。目にも留まらぬ速さで、平気で腹を貫通させるほどの手刀を繰り出す技術。

暗殺術に特化した彼女はシギル無しでも十二分にDゲームの世界を渡り歩いて日本サーバーの第一位に君臨している。

そんな彼女とまで期待するのは野暮だが、一人よりもずっと心強いのは確かだった。

未だにシギルの詳細を知らない身としては、ヤヨイの存在はかなり心強い。

「じゃあ、どうしよっか」

自己紹介もほどほどに、行動に移る。


【安価です。ダイヤモンドのリングまであと5ターン
これからの行動でターンを消費していきます。
1.リングのところへ移動
2.バーへ戻り、ヤヨイと交流
また、この後の安価でヤヨイとの信頼度を決めます。
信頼度は交流することによって上げることができます。
信頼度によっては助けてくれる場合、
もしくは助けなければならない場合が出てきます。
ひとまずつぎの行動を下1でお願い致します。】

2

>>212 「2」 バーへ戻り、ヤヨイと交流
ヤヨイとの初期信頼度を決めます。
最高値は100です。90ぐらいが家族です。
信頼度は以下の仕様です。
トウカからヤヨイへ/ヤヨイからトウカへ
60(友達)/30(手助けはする)の場合、
トウカはヤヨイのことを友達だと思っていますが、
ヤヨイは「まぁ危なくなったら助けてあげてもいいかな」
ぐらいの関係です。
初期値は30/30です。
プラスアルファとして下1でトウカ→ヤヨイ、
下2でヤヨイ→トウカを判定します。
コンマ一桁×1.5倍をした値を初期値にプラスします。
下1と2でそれぞれお願い致します。】

はい

>>212 「9」 ×1.5倍で14 (今回のみ13.5から切り上げ)
>>213 「6」 ×1.5倍で9
トウカとヤヨイの関係は44/39になりました。
かけ算をしたときに小数点以下が発生した場合は次回以降は切り捨てに致します。
また、ゾロ目の待遇も記載忘れていました。
次回以降気を付けます。
今回はここまでです。
ありがとうございました。】

>>216のレス指定がめちゃくちゃですね…
>>214の「9」、>>215の「6」です。
また、44/39は友達未満知り合い以上/知り合いです。】


>>212 「2」バーへ戻り、ヤヨイと交流
残り4ターンでダイヤモンドのリング出現です
ターンの消費は一通りを終えてから次のターンへ移ります】

変わらず最寄りのリングは六百メートル先にあった。

ヤヨイとの出会いが無ければ、今ごろはリングを手にしていたか。それとも既に戦闘まで発展していたか。

そんなことを考えながら、トウカはバーへと続く扉を見る。

「この先、なにかあるの?」

「わたしの転送先だったバーがあって…」

「バー! いいわね、バー。無人だったのでしょう? せっかくだから行きましょう。普段は入れないところなのだし」

リング集めよりもバーへの興味が優ったヤヨイに手を取られ、バーへと続く扉を開く。地下へと続く階段を降りていくと、店名が刻まれた扉へと行き着く。


まったくの躊躇なくヤヨイは扉を開け、中の雰囲気を愉しむように長細い店内を見渡す。

「ドラマで見たようなところね。雰囲気も良いし、欲しいくらい」

「欲しい……って」

「幸い、お金には困ってないからね。このイベントを生き残れたら買おうかなって。そうしたらトウカも招待してあげるね」

「それ、死亡フラグというやつでは…?」

「エイスと当たらない限りは大丈夫だって。リーダーの王のシギルもいまいち分からないけれど……個室なら勝機があるわ」

渋谷を拠点としているエイスのクランリーダーである王のことはダンジョウ拳闘倶楽部にて聞いていた。

クランの方針はやりたい放題で、特に王は人の指を瓶に詰めるのを趣味としている。血で赤く染まった水が入った大きな瓶の中には何十人もの指が詰められていると囁かれている。

その王を相手に勝機を見出すヤヨイは誇張なく、自信満々な笑みを浮かべていた。


【安価です。
1.「Dゲーム始めてどれくらい?」
2.「これからどうしよう」
3.その他
下1でお願い致します。】

2


>>220 2「これからどうしよう」】

ヤヨイは店主側に回り、辺りを物色し始める。

「好きに座ってていいよ」と言われたトウカは八席並ぶカウンター席の中、扉から五番目の席に腰をかける。

「んーと、んーと」

そう言いながら店内を物色したヤヨイは二つのグラスと炭酸水の入ったボトルを取り出す。

何の躊躇いなくキャップを捻り、プシュッと音を立てたボトルを傾け、グラスに注ぐ。

「ま、バチは当たらないわよ」

炭酸水の入ったグラスを手に取ったところで、共謀罪の肩を担いてしまったと後悔する。


「私たちの出会いに、乾杯」

「……乾杯」

店主側と客側で、互いにグラスを傾けてカチンと響く音を愉しんでから炭酸水を口に含む。

何の香料も入っていない炭酸水は全く味がなかった。

「さて」

グラスを置き、ヤヨイは真剣な面持ちで切り出す。

「彼氏は、」

「これからどうするか、だよね」

「連れないなぁ。そういうとこよ」

もしかして真面目ちゃん? と嫌そうな顔をしながら、天を仰いで「よしっ」と意気込む。

「いっせーので、でどうするかを言い合いましょう。あいにくだけれど、私はあまり頭が良くないの。直感を信じるタイプでね? ということで、どうかしらこの案は」

「私も、それでいいと思います」

「思いますって。同級生なんだからタメでいいわよ」

「……じゃあ、それで」

頭が良くないのはトウカも同じだった。運動がものすごく出来るわりには勉強ができず、しかし趣味は読書ということで「変なやつ」と言われた経験は数知れず。

論理的に考えるよりも直感を信じて突き進むというのはトウカの性に合っていた。

「いっせーので、」

考える時間も無しに、ヤヨイは切り出す。


【安価です。
1.「すぐにリング集め」
2.「しばらくここで待機」
2を選択した場合は2ターン消費し、
ダイヤモンドの出現まで残り2ターンになります。
下1の方お願い致します。
また、下1のコンマ一桁が「4」か「0」だった場合は襲撃ありです。
4と0以外のゾロ目はシュカです。】

2


>>223 2「しばらくここで待機」】

「もう少しここで」

「夕方までバーで」

表現こそ違ったものの、二人の意見は合った。

「へぇ。一応聞いておくけれど、どうして?」

「……一人だったら今すぐにでも外に出てた。でも、二人なら戦闘を視野に入れて行動できるから」

「私もそんなところね。時間の経過と一緒にリングが強い人たちのもとに集まるのは必然だし、そこを叩きましょう。もしそれがエイスや花屋だとしたら、サイアクだけれど」

「花屋?」

「都内のDゲームプレイヤーの中で危険視されてる一人。なんでも植物を操るシギルらしいわ。それで花屋ってね」

ダンジョウ拳闘倶楽部に世話になっている間、Dゲームの詳細とエイスについてだけ教わった。

それ以外のプレイヤーについては全く知識がなく、そういった危険人物の情報は必ず武器になるだろう。


「その情報って、どこかで知れるの?」

「情報屋にお金を払えば、かなぁ。あとは自分の足で探したりね。手っ取り早いのは前者。でも、かなりぼったくられるわ」

お金を対価に情報を仕入れる。

まさしく情報屋の名に相応しい職務だった。得意なことをビジネスとして展開する姿勢は見習いたいな、とトウカは思う。

「あとはこの前、パンダくんが初心者にやられてたわね。その初心者がまだ生きているのかは知らないし、このイベントに首を突っ込んでいるのか……」

そのプレイヤーの正体は高くて知れなかった、とヤヨイはため息混じりの息を吐く。

「パンダ、くん」

「うん、パンダくん。顔バレが怖いのか、球団のぬいぐるみの格好をした人でね? 初心者狩りを好き好んでやってるやつよ。私はせいせいしたわね。右も左も分からない初心者を襲うなんて私のポリシーとは真反対」

「あぁ、うん……そう、だね」

そのポリシーには共感きる部分が大きい。

しかしトウカはそのポリシーから外れた者によりDゲームの世界へ誘われ、紆余曲折を経て命を助けられている。

とても複雑な思いを、炭酸水で紛らわす。

「それにしても、ほんと知らないのねぇ」

「ご、ごめんなさい……」

「いえ、そういうのはいいのよ。結局、私たちはイベント中だけ利用し合う関係なんだからさ。だから、今はマズイ。かなり情が移ってる。下手に命を賭してでも助けるなんて気にならないうちに、行動しないとね」

「……」

結局のところ、やはりそれがトウカの心を引きずる。

助け合う。けれど自分の命は賭けない。

それがこのイベント中に共同戦線を張る協定だ。

もしヤヨイが危険に晒されたとき、頭の悪い自分には何ができるだろう。

────そのときは、きっと。


【安価です。
5、7、0で特殊イベント
4で襲撃
その他で会話を続けます。
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

>>226 「6」普通の会話】

「はい、真面目なお話はここまで。襲撃とか無い限りはDゲームに関する話は禁止ね」

パンパン、とヤヨイの手拍子が響く。

言葉の通り、真面目な話はここまで。これからはもっとプライベートの話をしよう、と意図が伝わる。

「トウカってさ。スポーツ得意でしょ」

「え、どうして?」

「さっきリングのところまで走ろうとしてたよね。狙撃とかあるかもしれないのに、あの距離を走ろうなんて運動神経に自信が無いと無理だって」

「あぁ……うん」

意を決して走り出そうとしている姿を路地裏から見られていたと思うと恥ずかしく、ヤヨイから目を逸らす。

基本的に動きを観察されることは好ましくない。

小学生の頃、全学年男女含めて足が一番早かったために体育の時間で走っている姿をクラスの全員から見られた経験が今でも鮮明に思い返される。


もはやトラウマも同然で、それ以来は普通を心掛けてきた。ただし勉強ができない分、体育の成績に直接影響する場面では本来の自分を見せていた部分もある。

「で、私も体力には自信があるのよ。頭は悪いけど」

「一緒……!」

「いや、そんな目を輝かせないでよ。勉強が出来ないと私たち学生が肩身が狭いんだって……って、あれ。トウカも勉強できないの? そんななのに」

いかにも文学少女、とでも言いたそうなヤヨイの視線はこれまで幾度となく浴びてきた。ただの同級生なら、いつも通り目を伏せてしまうところだが、ヤヨイ相手では違った。

「勉強は苦手。覚えること多くて、一度覚えれなかったものを後でまた使うって言われても……」

「あー、それね。わかるわかる。ほんと勉強するくらいなら死んだ方がマシってね」

「ううん、そこまでは……」

トウカは真面目に向き合いながら単純に覚えられないのに対して、ヤヨイは根本的に勉強を嫌っていた。

「あれー? うっそ。私たち完全に似た者同士だと思ったんだけどなー」と駄々のようにこねるヤヨイを横目に、トウカは炭酸水を口に含み、

────あぁ、楽しい

似た者同士との会話は楽しい、と心からそう思った。


【安価です。
ダイヤモンドのリング出現まで残り2ターン
あと2ターン後に強制でイベントが発生します
1.リング探し
2.バーでもう1ターン消化
下1でお願い致します。
また、コンマ1桁が「4」だった場合は襲撃です
ゾロ目の場合は何もありません。】

1

これ行動してもしなくてもカナメ君がクリアして終わり?


>>229 「1」 リング探し
>>230 リング集めなくてもカナメがクリアしますが、強制的にイベントに巻き込まれます。
それとこの後の安価でルールの意図に気付くかもう一回だけ極少ない確率で判定します。】

「と、まぁいい時間ね」

似た者同士の雑談は種が尽きることなく、薄暗いバーの雰囲気をものともしないほど盛り上がった。

中学二年生の頃、クラス対抗リレーのアンカーを務めて学校史に刻んだ武勇伝について話したところでひと段落つき、ヤヨイはスマホの画面をトウカに向ける。

「あと百三十人。最初の半分以下になったわね」

「あぁ、うん……」

当初の参加人数は三百人だった。この短期間に百七十人もの人が命を落としたのか、と思うと胸の奥が痛くなる。全く知らない人で、もしかしたら自分の命を狙っていたかもしれない人に対して同情の念を抱く。


イベント参加は強制。もし誰もクリア出来なかった場合はリングを持ってないと死ぬ。当初の参加人数全員に三個ずつ行き渡るリングは用意されていない。取り合うしか道が残されていない状況に追い込まれたら、誰だって────

「トウカ。余計なこと考えないの」

「……でも」

「確かに参加してるのはみんな人。家庭を持っていて、家には親とか兄弟、子供だっているでしょう。会社ではその人がいないと仕事が回らないとか、クラスではムードメーカーとして親しまれていたり……」

「……」

「このゲームの基本仕様は、殺すか殺されるか。あんまり気負いすぎないようにね」

あれだけ楽しげに話していた時とは一転、ヤヨイは沈痛な面持ちでトウカから視線を逸らし、ふぅと息を吐く。

「まぁ、とはいえ。今回はリング争奪戦。別に殺して奪えなんてルールは無いわ。話の通じる相手なら、リングを渡せば見逃して貰えるかもね」

「あなたはそうする?」

「話の通じる相手ならそうする。話が通じない相手はポカンね」

可愛らしい表現で誤魔化しているが、ヤヨイの覚悟は決まっているようだった。


「そうと決まったら行きましょう。そろそろ日が暮れていい感じだわ」

「見つかる可能性が減るってこと?」

「まぁ、それも理由の一つ。もう一つは私のシギル」

と言いながら、ヤヨイは客側のスペースへ回って、そのまま唯一の出入り口へと向かう。

重厚な扉に手をかけたところで、

「最後に言い残すことは?」


【安価です。
1.「来週の土曜日、一緒に渋谷に来よう」
2.「できるだけ……頑張る」
3.「あなたのこと信用してもいい?」
4.その他
この選択肢の後で信頼度を決めます。
その他は常識的な範囲内でセリフをお願い致します。
下1でお願い致します。】

1


>>235 「1」 「来週の土曜日、一緒に渋谷に来よう」】

息を呑む音がバーに中に響く。

不思議とそれが恥ずかしいとは思わなかった。

「来週の土曜日、一緒に渋谷に来よう」

トウカの決意に、ヤヨイは刹那的に驚いた表情を見せた後、ふふっと笑みをこぼして返答する。

「えぇ、ぜひ。喜んで」

よほど面白かったのか、「あー、おもしろい」と言いながら目元の涙を拭う。

「おもしろかった?」

「それはもう。トウカって渋谷とか普段来ないでしょう? それなのに行こうだなんて。無計画にも程があるわ」

「渋谷は……」

これまで目的があって来たことはない。

唯一思い返せるのは、一年半ほど前に妹と一緒に新宿近くのコンサートホールを訪れ、帰りに代々木公園で花見をしてから渋谷駅を利用した。

ブティック等に大した関心を抱かないトウカには今後も含めてまったくの無関係な地帯だと、自身でもよく分かっていた。


「話の流れ、的な?」

「なにそれ。トウカってそういうこと言えたのね。でも渋谷に来るのは賛成よ。おそらくアナタは暇するでしょうから、私の服選びの後に良いところ連れて行ってあげる」

「本屋さんっ?」

「せっかくのお出掛けに本屋さんは勘弁。池袋よ。私、池袋の水族館の年パス持ってるの。同伴者は安く入れるから。あと、展望台とかプラネタリウムも安くなるって書いてあったかな」

本屋の選択肢を否定されたトウカだったが、魅力的な提案に目を輝かせる。水族館、展望台、プラネタリウム。普段行くことのない夢のような施設に高揚せずにはいられなかった。

「都内だったら水族館も展望台もプラネタリウムもたくさんあるでしょうに。行ったことないって、もしかしてインドア系?」

「外には出るけど、あんまりお金は使わないかな」

ただでさえ本以外に物欲が無いにも関わらず、本すらも家族で出かけた時に買ってもらっている。

そのため、おそらく一般的なお小遣いを毎月余らせて
貯金はたまっていく一方だった。


友達とお茶をする、などの出費は生憎と無い。

「やっぱりトウカって変わってるわね。というか、ただ友達が少ないだけかしら。普通は友達と遊んだりでお小遣いが足りないって困窮するところなんだけどねぇ」

「う……」

「私がお金使わせてあげるわ。来週の土曜日に、ね」

だからDゲームのポイントを現金に換算せず、家の貯金全部持って来てね。

と言いつつ、階段を登った先。地上へと続く最期の扉を何の躊躇もなく開く。

むわっとした空気が全身を包む。夕方の渋谷だというのにまったく音がなかった。特定のプレイヤー以外の一般人の姿が無いからだろう。

「やっぱり。これならいける」

人が居ないというのに、渋谷の街は明るかった。

その輝きを空から見下ろしたらどれほどか。トウカはシギルの中には空を飛んだりするものもあるのか、ということを考えながら地上のアスファルトを踏む。

「さぁて。目標は二人で六個ね」

「……結構、固まってるね」

異次元カメラを通して三百六十度、周囲を見渡す限りではリングが独りぼっちになっている事は無かった。

必ず他のリングと共にある。この渋谷内で誰のものでもないリングは存在しない。

「あんまり固まりすぎてないところに行くわよ。そこがエイスの溜まり場だったらサイアクだから」

と、ヤヨイは先導してリングが二個固まっている方角へと足を進める。トウカはその半歩後ろをついていく形で、リング探しはようやくスタートした。


【安価です。
下1のコンマ1桁がトウカ→ヤヨイの好感度
下2のコンマ1桁がヤヨイ→トウカの好感度です。
現在は44/39で会話イベントをこなしたことにより、
47(危険な目にあっても助けてあげたい/42(可能な限り助けたい)
になりました。
プラスαで判定をします。
コンマ1桁マイナス5をして余剰分が上乗せされます。
「3」だった場合は3-5で-2となるためプラス無し
「8」だった場合は8-5で3プラスされます。
ゾロ目だった場合は固定で8プラスされます。
下1と2よろしくお願い致します。】

はい

>>239 「5」5-5で0
>>240 「1」1-5で-4
どちらもプラスαの上昇は無しです。
トウカ/ヤヨイ
47(危険な目にあっても助けてあげたい/42(可能な限り助けたい)

次に会敵する相手です。
1・4・7・0:エイス
2・5・6・8:大学生くらいの男性2人
3・9:ダンジョウ拳闘倶楽部の人(イヌカイ等)
ゾロ目:???
下1のコンマ1桁ででお願い致します。】

えい

>>242 「7」エイス
昨日は更新できず申し訳ありませんでした。】

可能な限り日陰を徒歩で進むこと十五分。

バーから最も近かったリングの反応まで三百メートルほどのところまで二人は忍び寄っていた。

「サーチ機能は使えないようだし、アレが私たちに気がつくことはないでしょうね」

と、異次元カメラでビル二棟越しにリングが集まっている場所をターゲットに決めたヤヨイは微笑む。

「サーチ機能?」

「Dゲームアプリの機能。1回1ポイントで対戦相手の位置が分かるみたい。高さはダメみたいだけれどね」

「高さ…」

例えば校舎を舞台にした場合、この位置というのは特定できても、それが1階か2階か3階かが分からない。

この機能について知っていれば、あんなにも校舎中を走り回らなくても避けれたのか、と今さら思う。


「1回で10万円って……馬鹿げてるわよねぇ」

「でもそれで会敵を避けられるなら…」

もしこのイベントから無事に帰り、いつかDゲームに巻き込まれることになった場合はサーチ機能を有効に利用しようと肝に銘じる。

どうせこのゲームで保有しているポイントを日本円に換金するつもりは無い。単純にお金に困っていたとしても、アルバイトを始めるだろう。

「それで、あれ。狙うの?」

「もちろん。何人いるかは分からないけど……」

異次元カメラをそっちの方角に向け、リングの反応を数える。


【安価です。
下1のコンマ2桁を反転させます。
反転後の1桁目:リングの数
反転後の2桁目:プレイヤの人数
「24」の場合は「42」として、
リング4個、プレイヤー2人となります。
「0」は再安価いたします。
反転後の2桁目が0だった場合は、
下2のコンマを反転した二桁目をプレイヤーの人数とします。
ゾロ目の場合は特殊イベントです。】

>>245 「11」
ゾロ目のため特殊イベントです。
奇数:カナメ
偶数:王(エイスのリーダー)
下1のコンマ1桁でお願い致します。】

はい


>>248 「8」 王(エイスのリーダー)】

「……やけにリングが多いわね」

ビル二棟先にリングが複数固まっていた。それはバーからでも異次元カメラ越しに見えていたが、実際に近付いて見るとその数はあまりにも多すぎた。

「反応が重なってて見えない部分もあるけれど、最低でも十は…二十、三十持っていてもおかしくないわ」

「それも一人が持ってる……?」

宝石がついたリングだけに、アクセサリーとしても見栄えが良いのだろう。異次元カメラ越しに、リングの反応が人の形を作っていた。

その周囲にリングの反応は無く、その存在だけが気味悪く目立っている。

「なーんか嫌な予感。一攫千金のチャンスではあるけれど、これはまずいわ。エイスの王とか花屋の可能性がある。あー、あと無敗の女王ね」

「無敗の女王?」

「そ。名前はシュカって言ったかな。未だ誰にも負けたことがないとか────あぁ、でも。噂だけれど、パンダ君を倒した新人プレイヤーがシュカを降参させたとかって小耳に挟んだわ。情報屋から買った情報じゃないから信憑性は無いけれどね」

初心者狩りに続き、無敗の女王まで。


噂が確かなら新人プレイヤーはどれほどのセンス、もしくは強いシギルを与えられたのだろうと考える。

「シュカは鎖を操るそうよ。今回、彼女も参加しているようだからもしそれっぽい人を見かけたら逃げるように。それと例の新人プレイヤーもね」

特筆して警戒するべきプレイヤーは四名。

エイスの王、花屋、無敗の女王、そして新人プレイヤー。残り百人近くなったプレイヤーの中に、彼らはリングを着々と集めているのだろう。

その周りには、一体どれほどの血が流れているのか。

「……ほら、またヤなこと考えてる。今はあっちをどうするか。バレないうちに逃げるわよ。サーチ機能が無く、リングも持っていない私たちをこの距離で見つけるのなんて、シギルじゃないとムリ。もしそのシギルを持っていたら運が悪かったことにしましょう」

一刻も早く、と二人は多数のリング反応のあるプレイヤーから離れようと来た道を戻る。


【安価です。
奇数:エイスの構成員4名
偶数:エイスのリーダー王
奇数の場合でも王が立ち塞がる可能性あります。
下1のコンマ1桁でお願い致します。】


>>251 「6」エイスのリーダー王】

「トウカ、バーまで全力で走るわよ」

「ぜ、全力っ?」

「えぇ、そう。この距離なら、わざわざ薄暗い道を通る必要はない。明るい道を正々堂々と全力で駆け抜ける」

でも、と言いかけたところでトウカは息を呑む。

リングを数十個保有しているアレに居場所がバレるのは他のプレイヤーにとっても避けたい出来事。

街灯近くを一定の速さで走るトウカらを撃ち抜くのは造作もない。しかしリングを保有していないプレイヤーを殺害するのと、リングを数十個保有しているアレに居場所を知らせるのは釣り合わない。

それどころか他のプレイヤーもトウカらと同様に接触を避けようとしているだろう。よっぽどの自信が無い限り、そして人を殺すことに快感を覚えていない限りは狙われることが無い、と二人は公道を走る。


「そこの信号を左に────ッ!?」

左に抜けた先、目的地まで残り数百メートルのところで道路の真ん中に巨漢が立ちふさがっていた。

「おいおい、遅かったじゃねぇか」

威圧的な声色。ドレッドヘアに鋭い目つき。筋骨隆々なその身体は平均的な成人男性の腕さえ容易く折ってみせるだろう。

二人は確認するまでもなく、直感で分かった。

その男こそ、Dゲームプレイヤー界隈で悪名を轟かせている────

「エイスの……」

「王(ワン)……!」

「へぇ。知ってるんだぁ、俺のこと」

とことんシギルを利用して悪事を尽くす最低な人間に相応しい笑みに、二人は一歩後ずさる。

「まぁまぁ。別に今すぐ殺そうってわけじゃないからさ。俺様から聞きたいことは一つ。生き残りたいか、生き残りたくないか。それだけだ」

「……生き残りたい、と言ったら?」

「俺たちと仲良くしようよ。ほら」

ジャラリ、と腕につけた多数のリングを見せつける。その数は想定通り、二十を優に上回っていた。


「このイベントか終わるまで残り半日と少し。俺たちに付き合ってくれたらリングを三個ずつやる。俺たちもハッピー、君たちもハッピーな良い条件だよなぁ」

「……下衆ね」

王には聞こえない声で、ヤヨイが言い捨てたのをトウカは心の中でだけ同意して表情には出さない。

「シンキングタイムは十秒。話し合ってもいいぜ。一人だけでも大歓迎だ。二人揃ってだと尚良し」

あぁ、でも。と、王は続ける。

「俺の流儀はテイクアンドテイクッ! この意味が分かるよな?」

「て、テイク……て、なに?」

「あぁ?」

トウカの真面目な質問に、王は顔をしかめる。

一瞬の間を置いて、ヤヨイの方を見やるとそちらも頭の上からクエスチョンマークを沸かせているような表情をしていた。


「お前ら……あぁ、いいや。めんどくせぇ。一緒に来たら命は取らねぇ。一緒に来なかったらこの場で殺す。こう言えば分かるか?」

王の直接的な表現でようやく二人は意図を理解し、アイコンタクトを取り合う。

「さて。十秒だ」

カウントダウンが開始する。

「私は、あなたに任せる」

九秒、八秒、七秒。

刻一刻と制限時間が迫る。

「……わたしを信じてくれる?」

六秒。五秒。


「えぇ。約束は守る主義なの。一緒に渋谷、行くんでしょう? なら一つじゃない」

四秒、三秒。

トウカは頷くと、王の方へ一歩近付く。

「にー、い。お、まだ一秒残ってたぜ?」

「いらない」

「へぇ」

興味深そうな視線を送り、返答を促す。

「で、どうするの? 生きたいか。死にたいか」

「わたしたちは……」


【安価です。
1.「あなたみたいな下衆に着いて行くくらいなら死んだ方がマシ」
2.「情報をあげるから見逃して」
3.「……生きたい。リングのことは約束して」
4.その他(状況に合ったもの以外は再安価させていただくかもしれません)
下1でお願い致します。】

1


>>257 「1」「あなたみたいな下衆に着いて行くくらいなら死んだ方がマシ」】

キッと巨漢を睨みつけ、吐き捨てるように言う。

「あなたみたいな下衆に着いて行くくらいなら死んだ方がマシ」

「なら無理やりだな。死んでも────」

「忠告。がっつきすぎるのはモテないわよ」

一歩、二歩と。ヤヨイがトウカより前に出た。

近くにあった街灯に手をかざし、王の意識をトウカよりも自分に惹きつけようと挑発的な姿勢をとる。

「生憎だが、モテモテでたまんねぇんだよ。喉の潰れた命乞いをするようなやつらにばっかだけどなぁ」

「あら。それは失礼。醜い者同士お似合いね」

「……テメェ」

トウカにNOを叩きつけられたときは表情一つ変えなかった王だが、ヤヨイの挑発は癪に障ったのだろう。


先にお前だ、とヤヨイの方へと向かって踏み出す。

「腕をへし折られても、足が無くなっても文句は言えねぇよな。あぁ、安心しろ。俺たちはそれでも愉しめるような連中だからよ」

「安心していいわ。私はそういう強欲で傲慢な男を嬲るのが趣味なの」

お互いが挑発し合い、その間も二人は近寄る。その距離は約十メートル。このペースでヤヨイの足だと十歩。王の足だと五歩まで迫る。

「よくよく考えたらアナタが居る限り渋谷で遊べないのよね。私、嫌いな物は先に食べてしまうタイプなの。何事も目につくものは先に消してしまおうってね」

「それは甘ぇな。俺は嫌いな物は捨てるタイプだ。いいじゃねぇか、捨てても。俺みたいな男には似合わねぇ。地を這う蟻が拾って食えばいいのさ」

「自分が蟻以下だということも理解していないだなんて。随分とお粗末な人形生物ね」

「……マジで死んどくか」

「えぇ、どうぞやれるものなら」

「予告する。一秒後、お前は首根っこを掴まれて命乞いをする」

「予告しましょう。あなたは私の前で膝をつく」

言い切る前に、王はヤヨイの視界から姿を消した。

言い終わると同時にヤヨイの背後に現れ、容易くヤヨイの首をへし折れるであろう五指で首を掴みにかかる。


【安価です。コンマ一桁。
4・8・0:王の先制攻撃
1・3・6・7・9:ヤヨイの先制攻撃
2・5:トウカ発砲(命中率は3割です)
王よりヤヨイの先制攻撃確率が高いのはシギルのランク故です。
下1でお願い致します。】

>>262 「6」 ヤヨイの先制攻撃】

────この瞬間がタマラねぇ

男でも女でも、ごく稀に王の容姿に怖じけず果敢に立ち向かう姿勢を取る者がいる。

初見では理解できるはずのない絶対先制の異能。

虚空の王(ベルゼブブ)。

それが王がDゲームから与えられたシギルだった。

自分を中心として、半径五メートルまでの距離なら瞬間移動ができる。また、わずか一メートルほどとなってしまうが、空間を切り裂くことも可能だ。

人は前しか見えていない。突然背後に現れた人間の攻撃など避けれるはずがない。勘の良い相手でさえ、気付けても動けない。それがどんなシギルであっても。

実際に数えきれぬプレイヤーを殺して回った。会敵して半径五メートルまで近寄り、あとは背後に瞬間移動をしてから空間を切り裂く。


それでいつも、上手くいっていた。

「おそい」

────おかしい。何がおかしい。どうしてだ。

どうして俺の右肩が痛む。今の「どさっ」という音はなんだ。背中が痛ぇ。地面が冷てぇ。

「なにが、起こった」

「さぁて。なんでしょうね」

膝をつかせることは出来なかったものの、恰幅の良い腹を仰向けにしている姿はヤヨイの笑いを誘うのに十分だった。

「……あら、蟻以下ね。仰向けになってるわ」

ふふっ、と右手で口元を隠して挑発的に嘲笑う姿を見て、王は腹の奥が煮え滾る思いをバネに、


「ぶっ殺すッ!」

首の根を掴むのを辞め、いつもの連携で出し抜こうと考えた。背後に迫り、あとは切り裂くだけ。これを避けれた者はいない。いるはずがない。例えそれがランキング一位であたっとしても。

小生意気に嘲笑を浮かべる小娘のシギルは得体が知れない。未だに右肩が痛む。貫通してはいないようだが、地味に痛いのがまた癪に触る。

だが、これは油断したせいだ。可能であれば命はとらない。仲間内で廻すのはやめだ。俺一人でこいつに対して陵辱の限りを尽くし、蟻以下の存在にして棄てる────

「おまえ……っ!」

瞬間移動をした先、あとは右手を振りかざすだけ。

そう思っていたのに、瞬間移動をした先で。

「どうしてこっち向いて────」

「ワンパターンすぎ。拍子抜けね」

ヤヨイの両手元には光が集まっていた。それは可視化されたもので、とても眩い光は一帯を照らす。

まずい、と察した王は空間を切り裂くのを辞め、光から距離をとった。


「なんだ、それ……!」

「そう聞かれて教えるバカがどこにいるのよ」

両手でお椀の形を作り、口元に持っていく。

「ふ」

小さく、光の集合体に向けて息を吐く。

それは光の速さで王の脇腹を穿つ。

「ッ……なんだ、それェ……っ!」

一瞬、脇腹付近が痛んだものの致命傷ではない。右肩もそうだったが、殺傷能力は低いようだ。しかしそこそこ痛いものは痛い。何よりあの速さ。目にも留まらぬ速さで何発も撃たれたらたまったものじゃない。

得体の知れないシギルに、王は一歩下がった。


【安価です。
7・0:「チッ……めんどくせぇ」王 撤退
それ以外:「二人まとめて滅茶苦茶にしてやる」
ゾロ目:???
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

>>267 「7」王 撤退
明日の22時頃に更新します。
王がどうしても小物になってしまいます。
ここで倒すわけにはいかないというのも含めて、
上手に役を立たせれなくて申し訳ありません。
問題はトウカのシギルをどうするか、考えています。
Siriのように安価先でアドバイスを出す、というのも
なんだか微妙な気がしています。
壁の王についてアドバイスを戴けると幸いです。】


>>267 「7」 王 撤退】

「チッ……めんどくせぇ」

そう言い捨てて、王は踵を返す。

足取りは重かったが、それは負傷によるものではない。この場で敵対している二人を滅茶苦茶にしてやろうという意識がこの場に引き止めようとしている。

しかしゲームクリアを目指す王がこれ以上この場に留まることはできない。

苦渋の決断だったが、目的地へと急ぐことにした。

「逃げるのね」

「逃げねぇ。お前は絶対に殺す」

「後ろから刺してもいいのよ」

「お前のシギルに殺傷能力なんて無ぇだろ」

「小物相手だから使わなかっただけ」

「……ああクソ、ムカつきやがる……ッ!」

背を向けて頭をかく王の背を穿とうと、ヤヨイは右腕を伸ばし、人差し指を突き付ける。


手に集まっていた光は指の先に集中する。それは肩や脇腹を狙った光線とは比べ物にならない。筋骨隆々な王をもってしても無事では済まないだろう。

「やめとけ。今は見逃してやるって分からねぇか」

「……」

ヤヨイは手を下ろした。人差し指の先に集まっていた光は霧散し、街灯だけが彼女らを照らす。

怠そうにその場を立ち去る王の後ろ姿に、ヤヨイは声をかける。

「予告するわ。あなたは出し抜かれる」

「出し抜かれねぇ。お前はぜってぇぶっ殺す。顔は覚えたからな」

「良い迷惑よ。さっさとくたばれ」

数メートル離れた距離でも十分に聞こえる舌打ちをして、その直後に王の姿は消える。

引いてくれたのか、逃げたのか。トウカにはその真意を汲み取れなかったが、ひとまずは退けた。

凶悪クランであるエイスのリーダー王を。


たった一人で容易くあしらって見せた彼女は今、

「……トウカ、来て来て」

その場から一歩も動かず、トウカの方を向いて手招きする。今さら彼女のことを信じられず罠を疑う、といった思考は一切働かなかった。

トウカはヤヨイのもとへ駆け寄ると、

「わっ」

「……ごめん」

ヤヨイはトウカの胸へと向かって崩れ落ちる。同じくらいの体型だったため、トウカがそれで押し倒されることはなかった。

「めちゃくちゃ怖かった……」

「無理、してたの?」

ヤヨイの背中に手を回し、優しく語りかける。

「そりゃあね。捕まったら何されるか分からないし。あなたのことも守りたかった。だから、似合わないことをした」

「……ありがとう。本当に」

「いいのよ。トウカの胸の感触でチャラね」

「ッ!」

ヤヨイのことを遠ざけようとするが、背中に手が回り逃れることができない。気が付けばヤヨイの足はしっかりと地についている。態勢からしても不利だと悟ったトウカは、

「……今回だけだから」

「えへへ。やったぁ」

命を助けられたことに加えて、拝むことは叶わなかったもののヤヨイが喜ぶ顔が想像できた。

安いものかな、とトウカは友達を抱きしめた。


【安価です。
1.「で、結局リング0個だね」探索
2.「あの人、どこに向かったんだろ」追跡
3.「さっきは本当にありがとう」会話
下1でお願い致します。
(王さんが冷静すぎるのはご容赦下さい。
ひとまず今はクリアを目指して小娘に
構っている暇はない、と……)】

3


>>276 「3」「さっきは本当にありがとう」】

王の姿が消えたのを確認して戻ってくる輩が居るかもしれない、と二人は辺りにリングの反応が無いことを確認して適当なお店に入る。

暗い裏路地よりも「あなたのことを守りやすいから」という理由でヤヨイが半ば強引にトウカを先導した。

「で、ケーキ屋さん?」

「無銭飲食なんてしないわよ。あ、バーではちゃんとお金置いてきたからね。市販の炭酸水ボトル半分で千円。よく知らないけれど、チャージ料も込みよ。……足りなかったかしら」

「……さぁ?」

そういったお店とは年齢的にも縁の無いトウカは頭を傾けることしか出来なかった。

鼻歌交じりにご機嫌にショーケースを眺めるトウカの横顔を見て、トウカはほっと息を吐く。

リングを多数持った相手を見つけた時からずっと気を抜くことも許されなかった。見つからないように、逃げるために、他のプレイヤーが戻ってくる前に。


気疲れした、とはこのことだろう。数キロ走る程度では呼吸一つ乱さない自信はあるが、今回は常に自分以外に気を配らなければならなかった。その疲れが今になってどっと来て、壁に寄りかかる。

「初心者のトウカには辛かったかな」

「……アナタに比べれば全然」

先の戦闘においてトウカは何もしていない。ただ啖呵を切っただけで、一切の戦闘行為をしなかった。

注意を引き、命を賭し、退けるまでに至ったヤヨイの苦労は知れない。ケーキ屋に店主が居たならば、好きなだけ食べてと促すことも厭わない。

「でもイベントはこれからが本番。危険視してた王は大したことなかった。奇襲もしくは……」

「うん、わかってる」

「……トウカがドジを踏まない限りは大丈夫。あとは花屋と無敗の女王と有望の新人プレイヤーの三人ね」

「無敗の女王と新人が組んでる可能性あると思う?」

「どうだろうねー。私には、ああいう人たちのことは分からないかな。何を考えているかなんて、理解したくもない」

一人殺せば殺人犯、十人殺せば英雄。

むかし読んだ本に、そう書いてあったことを思い出す。

新人プレイヤーはともかく、花屋と無敗の女王は確実に多数の人を殺めている。それこそ十人どころでは無いだろう。殺人犯でも英雄でも無い、もっと高いところで何を考えているのか。


その思考を理解したくないのはトウカも同じだった。

一度理解してしまえば、戻ってこれなくなりそうで。

胸の奥が痛むのを、深呼吸で紛らわす。

「さっきは本当にありがとう」

「私がしたいと思ったからしただけ。そのお礼はトウカの胸で返してもらった。それでお終いでしょう?」

「ううん。……わたし、やっぱり覚悟できてなかった。アナタほど戦う意識も、能力も。なのに口からは強がった言葉だけが出て、本当に……危なかった」

「……」

独白するトウカをヤヨイはただ傍観した。

宥めることも、近付くことさえせず。

「……ありがとう。ほんとうに」

頭を下げるトウカを見て、ヤヨイは目を逸らす。

視線のやり場に困り、天を仰いで蛍光灯へと右手を伸ばす。

「協力関係。私が危なくなったら助けてよね。それでチャラにしよう」

「でも、わたしのシギル……」

「シギルなんてどうでもいい。結果的に私の命が助からなくてもいい。けど、助ける姿勢だけは約束して。……裏切りとかそういうの、嫌なの」

物悲しそうに震える声は、トウカの心に響く。

「わかった。約束。絶対に助ける。もちろんあなたの命も。……生き残ろう、二人で」

「えぇ、もちろん。まぁ、私は強いから助けられる場面なんて無いと思うけどね」

「たしかに」

王を容易くあしらった実績のあるヤヨイはプレイヤーの中でも屈指の実力者であることは間違いない。

そのシギルについて、疑問が湧き上がる。


【安価です。
奇数:シギルについて
偶数:これからについて
ゾロ目:???
下1のコンマ一桁でお願い致します。】

はい

>>280 「2」これからについて】

自分の中に眠るシギルについて、何か手掛かりが掴めるかもしれないと考えたトウカは、

「あの────」

「それよりもこれからどうするか……ん、なに?」

「う、ううん。なんでもない」

訪ねようとし、断念する。

確かに今はシギルよりもリング集めが優先だ。

残り時間の余裕はまだあるものの、すべてのリングはこの場にいる二人以外に配られた。制限時間までに合わせて六個保持していなければゲームオーバー。

それを避けるためには異次元アプリを使ってプレイヤーを探しに行くことが要求される。

ゲーム開始後すぐにリングを集めていれば後半には標的にされ、リングを集めていなければ標的を求める。


人を惑わし、殺し合いをさせるシステムに改めて苛立ちそ覚えたとき、ヤヨイが続けて口を開いた。

「とにかくリングを集めるしかないでしょう。あんなにもリングを持っていたにも関わらず、行動を続ける王の動向は気になるけれど、あんな小物は放っておきましょう」

「小物…」

「えぇ。あの人、めちゃくちゃ怖いけど、シギルを使って相手の背後にしか移動できないワンパターンな男よ。……王(ワン)、パターンね!」

「そ、そう」

決して敵の背後にしか現れられないとも考えにくいが、確かに二度ともにヤヨイの背後に現れている。

勝てるかどうかはともかく、後ろだけをケアしていればなんとかなるのかな、とトウカは考察する。

「そんな王のことを退けた私のシギルだけど、ごめんね。教えることは出来ないの。トウカが信用できないって意味じゃなくて、アレ」

ヤヨイが右手の人差し指は店内のレジの真上。防犯カメラに受けられた。

「トリニティっていうクランでね。Dゲームを使って賭場をしているの。普段のマッチ戦はもちろん、イベントもね」

「そんなことができるの?」

「噂だけれど、イベントの勝利特権って聞いたことがある。監視カメラとかドローンとかを使って中継して、安全なところからその様子を見守る。どっちが勝つか、誰が勝つか。お金を賭けているみたい」

「へぇー」

ヤヨイの話を聞いて、トウカは相槌を打つ。


【安価です。
3・5・7・0:「イベントの勝利……って今回もあるのかな。だとしたら何だろう」
1・2・6・8・9:「中継されているから私のシギルについては話せない。手の内を明かしたくないの」
4もしくはゾロ目:???
下1でお願い致します。】

はい


>>283 「0」「イベントの勝利……って今回もあるのかな。だとしたら何だろう」】


トウカの相槌は実に淡白なものだった。

他のことに意識が取られているような、素っ気ない相槌にヤヨイはむっとした表情をして、

「ちゃんと私の話きいてた?」

「もちろん聞いてたよ。それで一つ、訊いていい?」

「トリニティの支配人とかはあんまり知らないわよ」

「そうじゃなくて」

一拍置いて、トウカはなんとなく思った疑問をぶつける。

「イベントの勝利条件……って今回もあるのかな。だとしたら何だろう」

「は?」

「だから、ここの文章」

イベントのルールが書かれたスマホの画面を見せて、気になった箇所だけを読み上げる。


「ゲームをクリア出来ずに制限時間を迎えた場合、リングの所有数が三個未満のプレイヤーはゲームオーバー。この文章、変じゃない?」

「……確かにそうね。制限時間を迎えるまでにリングを三個持っていれば等しくクリアなんて書いてないわ」

「リング以外に勝利条件がある、とか?」

「否定はできないけれど、不親切すぎ。いえ、このゲームだとそれがありえるのか。……それにしてもヒントが少なすぎる。ただリングを集めるだけだとゲームオーバーにはならないけれど、クリアには届かない」

「宝石に関連付けた順番で何かを示しているのかも。一グラム当たり何円で売れるのか、を昇順に並び替えて一番上から先頭の文字を繋げてくとか」

「めちゃくちゃありそう! あー、でもこのイベント期間中は調べ事とか出来ないわ。この辺りにジュエリーショップとかあったかしら」

うーん、うーん、と唸りながらヤヨイはこの辺りの地理を脳内で構築する。その間にトウカは宝石の種類を改めて見直す。

「トパーズ、ペリドット、ラピスラズリ、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド……」

聞き覚えがあるものがほとんどだ。しかし知らない物も幾つか混じっている。

「ペリドット。ラピスラズリ……?」

イベント直後と同じく、やはりその二つだけがピンとこない。どれほど高価な宝石か。例えばどの服飾に使われがちなのか。色さえ分からない。


「ひとまず高価なもの順として、やっぱりダイヤモンドかしら。そういえばダイヤモンドの加工ってダイヤモンドでしか出来ないってテレビで観たことあるわ」

「あ、私もそれ知ってる。硬いんだっけ、ダイヤモンドって」

「……硬度もあるわね。ダイヤモンドが一番として、それ以外は全く知らないけれど」

価格に次いで、硬度。

宝石を順序づける方法は一先ず二つに絞られた。

ただどちらも最初から最後までの順序が分からない。イベントルールに記載してあったポイント順に並び替え、先頭の一文字目を繋げてみたが訳がわからない。

前提から間違っていたのかも、と振り出しに戻って一息つく。

「リング集め以外に、クリアがあるのは間違いないと思う。ただ、クリアまでの道のりは分からない。さっき話した通り、宝石の価格や硬度順に何かのワードを並び替えたモノを辿るのかもしれない」

「でもわたしたちの手持ちのリングはゼロ個」

「そう。だから、結局はリングを集めないといけないわけ。誰かがクリアするとも限らないし」

トウカは首を縦に振った。

誰かがクリアするとも限らないのだ。ひとまずリングを集めておけばゲームオーバーは回避される。

リングを持つことで狙われる側になることを承知した上で、行動を開始することにした。

「あぁ、それと。もうすぐダイヤモンドのリングがイベントエリアに出現するそうよ。一番高価で硬い宝石。これを巡って、もっと熾烈になるかもね」

いつ行動するか、判断を委ねられる。


【安価です。
すっかりアレでしたが強制イベントまであと1ターンです。
1.今すぐ行動(リング探し。敵と遭遇した場合はトウカのシギル覚醒判定が極小であります。
2.ダイヤモンドのリング出現まで待機
下1でお願い致します。】

1


>>288 「1」今すぐ行動
一通りの行動が終わった後、強制イベントです】

ゲームクリアへの糸口を見つけて二人はケーキ屋を後にして、リング探しへと戻る。

異次元カメラで確認できるリングまでは数キロある。この期に及んでリングを所持していない二人を待ち構えているプレイヤーは居ないはずだと気軽に外に出て、街灯の近くを歩く。

「もしもの時は守ってあげられるからさ。灯のあるところを歩こう」

灯。

そこにヤヨイのシギルについて秘密がある。あの王を退けた異能にはとても興味があったが、先に話された件もある。迂闊に手の内を晒すのは良くない。お互いのためにもこれ以上は踏み込まないでおくことにした。

「一番近くでリングを二つずつ持った二人組。少し遠くにはリングを三個持った一人。四個ずつ持った三人組もいるわね」

「制限時間はかなり余裕あるね」

「急がなくてもいいから確実に取りに行きましょう。可能な限り人殺しはナシで。一つでもリングを分けて貰えたらクリアが見えるかも」

「……」

話の通じる相手だとしても、近くに寄ってきたプレイヤーを良い人だとはまず思わないだろう。

必ず保持しているリング目的だと構え、話す暇もなくシギルもしくは銃などで攻撃してくるかもしれない。

いずれにしても戦闘行為は避けられないと、トウカは選ぶ。


【安価です。
1.リングを二つずつ持った二人組(4個)
2.リングを三個持った一人
3.リングを四個ずつ持った三人組
交渉の余地としては3 > 1 >2
戦闘の勝利確率としては2 > 1 >3の順です。
下1でお願い致します。
また、同時にコンマ一桁が4もしくはゾロ目で強制イベントです。】

1

>>290 「1」リングを二つずつ持った二人組(4個) 】

交渉の余地。もし戦闘になった場合。

二つの情報を加味して、トウカは決断する。

「二人組じゃないかな。あっちもリングが足りなくて焦っているだろうけど、……もし戦うことになっても可能性がありそうなのは二人組」

「三個持った一人じゃなくて?」

「一人で三個集めるのって結構大変じゃない? それを成し遂げているから、たぶん強い人」

「三人は論外として、まぁ妥当ね。二人で四個。一個ずつでも分けて貰えれば、私たちに必要なリングは残り四個。全部を奪う気はない。これでいい?」

「もちろん」

特別、二人はDゲームに対して特権を求めるつもりは無い。しかしクリアまでの糸口が見つかった今、クリアまでの手掛かりは揃えたい。

極論リングは分けて貰えなくても、リングに隠されているであろうヒントを入手できればいい。

二人の意見は一致し、二人組の方へと足を進める。


【安価です。
3・6・9:エイスの二人組(交渉の余地なし)
1・5・8:大学生(男)二人組(交渉の余地弱)
4・0:男子高校生の二人組(交渉の余地中)
2・7:ダンジョウ拳闘倶楽部の二人組(リング獲得)
ゾロ目:カナメ
下1でお願い致します。】


>>292 「3」エイスの二人組(交渉の余地なし)】

街灯の下を歩くこと十五分程度。標的に決めた二人組の近くまでやってきたトウカらは、ここでようやく建物の影を歩き始める。

「さぁーて。どんな人なのかなっと」

異次元カメラでリングの保持数を確認すると、今度は間違いなく二個ずつ。二人合わせて四個。

先の王ほどの危険は感じず、路地裏から相手の様子を伺う。

背中に「8」と書かれたジャケットを着た厳つそうな男性が二人。それ以上を確認する前に、トウカの隣でヤヨイが「あー、ダメなやつね」と呟く。

「エイス?」

「そ。エイスのメンバー」

端的にヤヨイが言うと、ヤヨイも路地裏に引っ込む。

「別のところ行く?」

「見た感じそこまで強くは無さそう。私とアナタで一人ずつ。それでも十分に勝機はあるでしょう」

一戦力として数えられることに文句は言えない。

心の何処かで戦力として数えないで、と思ってしまっている自分に苛立ちを覚える。

────これは、当たり前のことなんだから。

表情には一切出さず、自分に言い聞かせる。

「どうするかはアナタに任せるわ。なんとなくだけれど、アナタに着いていけば大丈夫な気がするから」

「過信しすぎ…」

普通な意見だけを述べているはずだが、こうも信用されているのはどうしてか。

その期待に応えられるか不安を感じながら、ヤヨイは決断する。


【安価です。
1.戦闘
2.逃げる(ターン消化で強制イベント)
下1でお願い致します。
また、下1のコンマ一桁が4・9で敵に見つかって強制で戦闘です。】

1


>>294 「1」戦闘
コンマ一桁「8」のため敵にはバレませんでした
>>293の最後ですが、
×ヤヨイは決断する
○トウカは決断する
でした。失礼致しました。】

「行こう」

「えぇ、わかったわ。その上で、単純な興味なのだけれど、理由を訊いておいてもいいかしら」

「いつまで経っても拉致があかないから。以上」

「まったくもってその通り。同感だわ」

ゲーム開始から五時間程度が経つにも関わらず、未だにリングを所有していないのは二人を除いて何人か。

そして他のプレイヤーがゲームクリアに向けて動いているのはどれくらいいるのか。

リングをあれだけ持っていても尚、積極的にイベントに参加している王の狙いは掴みきれない。単純に換金アイテムであるリングを貪欲に探し求めているだけなのかもしれない。

「捕まえてリングを奪うわよ」

「あと、可能ならあの人の狙いも聞き出そう」

「末端のメンバーにまで伝わってるか分からないけれどね」

標的の二人組はスマホを片手に、背を向けている。


路地裏から飛び出して、トウカの脚なら十秒かからない。しかし確実に気が付かれるだろう。およそ五秒もの間に、敵が反撃しないとも限らない。

一度、至近距離からの銃弾は避けたことあるが、あれは本当に奇跡に等しかった。

この距離から腰の銃を引くか。当たる可能性は低く、当たったら有利に事が運ぶだろう。しかし外れればこの有利な状況を白紙に戻すことになる。

それとも、

「……あぁ、やっぱりね」

ぐい、と顔を大通りに出していたトウカは袖を引っ張られ、路地裏に引っ込む。

「な、なに?」

「このまま走り出すつもりだったでしょう?」

「……もしくは銃を使うか。迷ってた」

「攻撃系のシギルじゃない訳ね。銃の腕は?」

「たぶん、……あんまり」

ダンジョウ拳闘倶楽部での療養期間、利き手を怪我していた関係で一度も射撃練習が出来なかった。

初戦にて偶然手にした拳銃だが、結局一度も使用した経験がない。打ち方だけは教わったものの、やはり自信は持てない。

「私がやろうか?」

とても魅力的な申し出に、トウカは迷う。

【安価です。
1.「ううん。わたしが決意したところ、見てて」
2.「……お願いしてもいい?」
下1でお願い致します。】

1


>>297 「1」「ううん。わたしが決意したところ、見てて」
トウカの一人称です。】

────この申し出を受けたら。

この申し出を受けたらわたしはいつまで経っても前に進めず、大事なときに迷って致命的なミスをする。

それならいい。

自分の判断で自分の身体が傷付くのは。

けれど、あなたのことを守れないのは絶対に嫌。

シギルの後押しを前提としたDゲームの中で、未だに異能の力を発揮させていない自分にできることは数少ない。

運動神経には自信があっても、敵は女性とは限らない。力勝負ではまず勝ち目がなく、格闘技にも疎い。

シギルが使えたら。

呼吸をするのと同じような感覚でシギルを発揮できると聞くが、出来る気がしない。

呼吸をするように手から炎を出す。物を動かす。人を操る。色々やったが、何もできなかった。


もし力を存分に発揮できたらあなたのことを救えるかもしれない。必ず約束を果たして、対等になりたい。

そのためには、前に進まなければならない。

「……やってやる」

言い聞かせるようにして、あなたの制止を振り切ってわたしは表通りに出る。変わらず、あの人たちはわたしに気付いている様子はない。

直線距離で百メートル弱。呼吸ひとつ乱さずに到達できる自信はある。体育で計測した五十メートル走のペースを維持して到達できる自信もある。

だいたい十秒。気付かれるまで五秒、気付かれてから五秒。

シギルを、銃弾を、肉体を。

わたしは避けて、……それから。

倒す術を実行できるのか。

ううん、考えていても仕方がない。

何も考えず走り出すか、銃で狙うか。

決めないと。


【安価です。
1.何も考えず走り出す
2.銃を使う(決意したことにより命中率+1→4割)
下1でお願い致します。
また、下1のコンマが奇数:「力を抜いて。一緒にやりましょう。大丈夫。一緒なら」
ゾロ目:「わ、王さんっ! お疲れ様っすっ!」】

2


>>300 「2」銃を使う
コンマ一桁が「3」だったためヤヨイの手助けありです】

やっぱり走るのは危ない。

取っ組み合いになったら勝てる自信は無いし、そこに至るまでも不安ばかり。

なら、銃を使うしかない。

命はとらないように。足を撃ち抜く。

腰に下げたホルダーから拳銃を取り出す。

重い。どっしりと、腰に下げていたときよりもずっと重く感じる。それにグリップの部分はとても冷たく、わたしの手を震えさせる。

カタカタ、カタカタと。

夏場の夕方から夜へと移り変わるタイミングだというのに、身体が冷たい。嫌な汗が滲む。

あぁ、嫌だ。怖い。でも、やらないと。

大丈夫。引き金を引くだけ。わたしの腕なら一発で心臓に命中とか、そういうのは無いはず。


深呼吸をして、拳銃を構える。ドラマの見よう見まねだけれど、サマにはなっている……と思いたい。

「はぁ………ふぅ」

風が止むまでの間に呼吸を整える。

こういうときに限って風がとても強い。安物の傘なら一瞬で裏返ってしまいそうになるくらい。

目を閉じて、集中する。

風は、弱まった。手の震えも止まりつつある。

まずは右のスマホを持っている方。そしてその次に、左のリングを弄っている人。

一発目の発砲音が彼らに届くまでに、二発打ち切らなければ負けなのかもしれない。

でも、これしか────

「力を抜いて。一緒にやりましょう。大丈夫。一緒なら」

銃を持つ方の方にポン、と優しい手が乗せられる。

「最初から二人でやる予定だったでしょう? 前に進むための決心をしているようだったからここまでは茶々を入れなかったけれど、決心はついたのよね?」

「……うん。わたし、やるよ」

「そ。ならいいわ。打ってみなさい。外しても私がフォローしてあげる。大丈夫、私のはアナタのそれより速いから。反撃される前に戦闘不能にするわよ」

街灯近くに寄った彼女は、照らされる光の膜に右手を潜らせる。周囲の光が彼女の右手に纏う。

あれが、シギル。

じゃなくて、今は。前を見よう。

まずは右の人。太ももを撃ち抜く。体勢を崩した瞬間にもう一人の足を撃ち抜き、両者が膝をついたところで直接組み伏せる。

フォローがどの程度のものか分からないけれど、あくまでそれは念のため。私が済ませる。

もう一度深呼吸そして、狙いを定めて引き金を引く。


【安価です。
下1のコンマ一桁が2・5・8・0の場合は命中
下2のコンマ一桁が1・4・7・9の場合は命中
1人目が下1のコンマ一桁、
2人目が下2のコンマ一桁です。
上記それぞれの一桁の他にゾロ目の場合も命中です。
下1と下2のコンマ一桁でお願い致します。】

はい


>>303 「8」一人目 命中
>>304 「1」二人目 命中】

発砲音が辺りに響くのとほぼ同時に、彼らは足を撃ち抜かれて体勢を崩す。片方は地に膝をつき、もう片方はなんとか地に足をつけているが、竦んでいる。

今しかない、とトウカは走り出す。

ヤヨイの制止を振り切って、彼らのもとへと。

「ッ、くそ……!」

発砲音と向きで発砲した者の位置を掴んでいた男が、走ってくるトウカに銃口を向ける。距離はまだ五十はある。狙いが定まらず、引き金を引くのに躊躇する。

「チッ……っ!」

もう片方の男が、膝をつきながら右手を平を向ける。

第三者からも視認できる淡い赤色の光が彼の手に集まり、それは球型に構築される。

────あれは、炎っ?

シギルによって何もない場所から造られた火の球は、


【安価です。
奇数:「死ねッ! くそアマッ……!」
偶数:「私を助けるまでは、死なないでよね」
ゾロ目:第三者
下1でお願い致します。】

はい

>>307 「1」「死ねッ! くそアマッ……!」】

「死ねッ! くそアマッ……!」

火の球は、火力を増して放たれた。

およそ四十メートルの距離。

「ッ……!」

当たるよりも避けるよりも前に、その熱さにトウカの脚が竦む。

当たったらどうなるのか。

制服が焼ける、燃える。その先は。肌が露出する。

それどころでは済まされるはずがない。肌に大きな火傷の跡が残るか。それはカエデのシギルで跡を残さず治せるのか。

火傷で済まされず、勢いからして火の球は腹を貫通する恐れがある。そうなったら生き残るのは絶望的だろう。

リングを一つも集められないまま、家族にお別れを告げるよりも前に、友達を助けるよりも前に。

────いや、そうだ。ササキの最後だ。アイツは最後にお前に対して『生きて』って言ってたな。

Dゲームを始めるきっかけにもなった、イトウの一言。それはトウカの友達が遺した言葉であり、同じ言葉をイトウも遺した。

絶対に死ねない、とトウカは眼前に迫る炎から逃れようとする。


【安価です。
1・4・6・8で命中(怪我の具合についてはこの後)
その他およびゾロ目で避ける
下1でお願い致します。】

避けて


>>309 「3」回避】

「これくらいッ!」

すぐ眼前にまで迫った命の危機を、左に跳躍することで回避する。ただまともな着地を想定した動きは取れず、受け身を取れるような状況でもなかった。

コンクリートの上に転がる形で、危機を逃れる。

「……無事?」

腹に手を当て、自分が無事であることを確認する。一瞬でも判断が遅れていた場合、今ごろは痛々しい火傷の痛みに耐えかねて意識を失っていたかもしれない。

「ッ……」

それどころか死んでいたかもしれない、と思い至るよりも前にトウカは立ち上がり、彼らに向かって走り出す。結局のところ、まだ目標は達成できていない。

炎のシギルにはリロード時間が必要らしく、連発はしてこない。ただし着々と手元に赤い光が集まっているところから察するに、残りの三十メートル弱を走り切るのと同時くらいだろう。

もう片方の拳銃を手にした男は、再度走り出したトウカに照準を合わせている。一発避けても二発目が。二発目を避けるのはもっと難しい。

それでも走り切らなければならない理由があった。


【安価です。
奇数:回避判定
偶数:「もう十分よ。あなたの覚悟は伝わった」
ゾロ目:第三者
下1でお願い致します。】

s

>>311 「8」「もう十分よ。あなたの覚悟は伝わった」】

────あと、少しッ!

僅かな間に死線を二回潜り抜ければ、無事彼らの元へと辿り着くことができる。

ただし辿り着いたところで二人は足を怪我しているのみ。素手の取っ組み合いでは分が悪いかもしれない。

それでも、まずは彼らの元に辿り着かなければ何も始まらなかった。拳銃は勢い余って走り出しと同時に捨てている。トウカに出来ることは持ち前の身体能力と動体視力を活かした技しかない。

こんなことなら拳闘倶楽部の中をもっと視察していれば良かった、と後悔を抱きながら一歩一歩を強く踏みしめる。

「おい、早く撃てッ!」

「あぁっ、くそ、ちょこまかと……!」

二人の声がはっきりと聞こえるところまで来た。


あと七、八歩で辿り着く。

しかし拳銃を持った男は生け捕りを諦めたのか、大まかに狙いを定めて引き金を引こうとする。

「死ねッ、くそ野郎……!」

発砲音が鳴ることはなかった。

トウカの後ろから幾つかの光の筋が彼らの四肢を目にも留まらぬ速さで撃ち抜いたからだった。

「がッ……これ、はァ……ッ?」

光の筋は肉と骨を突き抜け、向こうへと消える。両肩と両足に極小の風穴が開き、彼らは悶え苦しむ。

表紙に拳銃を落とし、溜めていた火球は霧散する。

何が起こったのかはトウカにも分からず、立ち止まって振り返ろうとしたとき、

「もう十分よ。あなたの覚悟は伝わった」

隣から声をかけられ、ビクッと身体を震わせる。

「はや」

「言ったでしょう。私も運動神経には自身があるって」

「それにしても……」

トウカは走り出してから後ろを振り返っていない。確かなことは言えないが、声をかけられるまでは拳銃を捨ててきたところに残っていると思っていた。


「足音もしなかったような…」

「言ってなかったけれど、ウチって忍者の家系だから。忍び足とかしちゃうのよね」

「ほんと?」

「嘘に決まってるじゃない」

真面目ね、と苦笑したヤヨイは先導して地に膝をついて悶える彼らの元へと辿り着く。

痛みに耐えながらも、その眼だけは確かなものだった。ギラギラとした眼で少女二人を睨む彼らに、ヤヨイはふっと笑う。

「リングを出しなさい。あとついでに貴方達のリーダーが何をしようとしているのかも」

「誰が喋るかよ……。リングはやらねぇ。喋らねぇ。さっさと失せろッ!」

「残念だけれど、私の主義は生易しいものじゃないの」

「あぁ?」

「テイクアンド……ギブ? もう一回テイクだったかしら。ほら、貴方達のリーダーが日頃から言っているアレよ」

「ふざけッ!」

腕の痛みを耐えて右手を大きく振りかぶるが、腕は伸び切らず、苦笑しながら見下ろす彼女に触れることも無かった。


振りかぶる直前で男の腕の半分程度の細い手によって制止されていたからだ。

「リングを渡して」

「……殺さないでくれ」

「約束する」

トウカの真摯な一言に、男はまともに動かせない左手でズボンのポケットの中を探る。数秒後に二つのリングが地に転がったのをヤヨイが拾う。

「……お前も出せ」

「……チッ」

皮肉のつもりか、トウカらに聞こえる舌打ちをして、もう二つのリングが足元に転がる。トウカは一瞬躊躇った後に、拾い上げる。

「さて。これで用済みね」

「……行こう」

「えぇ。そうね」

追ってきたら殺す、と言わんばかりの眼で彼らを一瞥したヤヨイの足取りは軽く、来た道を戻る。

トウカはその場の立ち止まり、申し訳なさそうに頭を下げてその後を追う。

取り残された二人は、暫く動けそうになかった。


【安価です。
奇数:「なに、この数字」
偶数:狙撃
ゾロ目:???
下1のコンマ1桁でお願い致します。】


>>316 「4」狙撃
数字に気がつく前に強制イベントです
申し訳ありませんが、ヤヨイ編を導入だけです】

「これでリングが四つになった訳だけれど───」

よほど機嫌が良いのか、二つのリングをファッションの一部として右の細腕に通したヤヨイは、金属が擦り合う音を立てながら振り向く。

これからどうしよう、と尋ねるつもりだったのか。あるいは振り返った前方、トウカの後ろに残るエイスのメンバーに敵意が無いことを念のため確認しようとしたのかもしれない。

それが功を奏し、一瞬だけ判断が早まる。

「ごめんッ!」

力強い一歩を踏み出し、ヤヨイはその場でトウカを押し倒し、自分もその上にうつ伏せる。唐突にコンクリートに背を打ち付けたトウカは呻き声を上げ、そんなつもりは無くても睨むような視線を向けてしまう。

「な、」

なんで、なぜ、どうして。

そんな言葉が口から出る前に、一発の銃声が響く。

ほんの少し離れた距離で男の呻き声が聞こえたかと思ったら、ばたりと膝立ちしていたおよそ男性程度の体重が地に伏せる音が聞こえる。


その直後、再び全く同じ音がする。

「な、に……?」

「押し倒しておいてアレだけれど、一瞬だけ目を瞑ってて。めちゃくちゃ光るよっ!」

「ひっ…」

言われた通りトウカは目を瞑り、ヤヨイは密着していた身体を少し起こして光を纏った右手を振るう。

光は塊となって三メートルほど前方へと放たれ、強烈な閃光を辺りに撒き散らす。

「早く、今のうちに」

起き上がったヤヨイはトウカの手を引き、無理にでも狙撃の無い路地裏へと引き寄せる。

目眩しの時間は極わずかで、距離は稼げなかったものの、なんとか路地裏に身を隠したヤヨイは安堵をつく。

「も、もういい?」

「ん。ああ、うん。いいよ目を開けて」

目をゆっくり開けたトウカは何度か瞬きをした後、なにが起こったのかを尋ねる。


「狙撃。最初に狙われたのはさっきの人たちね。私たちも危なかったのよ? どうして先に手負いじゃない方を残したのかは分からないけれど」

「……さっきの人」

「もうダメ。諦めて」

複雑な表情をして俯くトウカの背を叩き、ヤヨイは改めて手を引き、入ってきた方とは別の表通り付近で様子を伺う。

「角度的にこっちに出ればすぐ狙撃されることは無いはず。さっさと逃げましょう。せっかく手掛かりが見つかったんだから、クリアを目指さないと」

「そう、だね。……うん」

頭を二、三振って、頬を両手で二回叩く。

深呼吸をした後に、持っていたリング二個を見る。

「でも、これ───いッ!」

人差し指と親指で摘んでいたリングが弾き飛ばされる。極々細いリングに、弾が当たったのだと理解するまでそう時間は要さなかった。

「はやくっ!」

リングがある限り位置は特定され続ける。


ヤヨイはその場にリングを捨て、来た方とは逆の表通りへと足を急ぐ。

「(さっき撃ってきた方向とは別……!? 射撃手は二人か、それ以上か。まずいわね)」

トウカの手を引きながら表通りに出て、とにかく遮蔽物に囲まれた道を通るように言いつけて走らせる。

次の射撃が来るまでの間に周囲を見渡し光源を探す。

表通りだけあってお店はずっと先の交差点まで軒並んでいて、ほとんどのお店から照明が溢れている。街灯もすべて正常に眩い光を灯していた。

「(光はある。あとは何処から……)」

最寄りの街灯に両手が触れると、手の周りに光が集まる。触れ続けるほどその光は大きくなる。

ある程度の光を集めた後、お店を背にして敵の狙撃を待つ。敵の位置を知る方法は狙撃された方向から逆探知しかない。

ただ、一度目と二度目の狙撃されたであろう位置が違いすぎるのが引っかかる。敵の数が分からない以上、強気な行動は憚られた。

「(ターゲットが私になっていてくれればいいけれど。あの子は……)」

先に見せた射撃センスと思い切り、動体視力を鑑みるにそう簡単にやられるような人じゃない。

そう理解していても、やはり攻撃系のシギルが無いとこの先の戦闘が思いやられた。


【ひとまずここまでです。】

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom