【掌編】魔法使いの願い事 (5)
===
「とうとう運が向いて来たぞ」
薄暗くかび臭い秘密の地下室で、魔法陣を前にした男が言った。
彼は貧乏な魔法使い。
その日の食べ物にさえ困るような暮らしをしていたが、この魔法が無事に成功すれば、
途方もない富を得ることができるハズだった。
呪文を呟き、部屋の中におどろおどろしい空気が立ち込める。
「悪魔だ!」
男は自身が魔法陣の中に召喚した者の姿を見て、嬉しさの余り声を上げた。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1495396673
「悪魔、悪魔よ! お前は俺との契約により、願い事を何でも一つ叶えねばならん!」
「さよう。その為に呼び出したのだろう? では、願いを言え」
「もちろんだとも! 俺を今すぐ救ってくれ! もうこんな貧乏は嫌だ。
腹を減らしたまま床につくのも、先の無い未来に不安を抱えて暮らすのもまっぴらだ!」
「よかろう。では、貴様の望みを叶えてやる」
刹那。地下室に雷鳴のような轟音が轟き、辺りは闇の霧で包まれた。
それからしばらく、ようやく霧が晴れた地下室には、誰の姿も無かったと言う。
男は消え、悪魔も消えた。
文字通り、男は解放されたのだ。
……この愚かな魔法使いの話を聞いた時、私は思わず笑ってしまった。
私ならそんな失敗はしない。
呼び出す相手はちゃんと選ぶ。
魔法陣の前でほくそ笑み、私は呪文を呟いた。
神々しく現れた者の姿を見て「天使だ!」私は嬉しさの余り声を上げた。
「天使、天使よ! 私を今すぐ救ってくれ!」
===
以上、おしまい。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません