ハルヒ「あたし達はずっと一緒なんだからね」 (21)

涼宮ハルヒのSSになります。
初めてのスレ立てなのでなにかあればご指摘ください。
では短いですがお付き合いいただけると嬉しいです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494849904



「有希っ。ちょっと、おいてかないでよ」




 SOS団の団活の帰り、私たちは帰り道を一緒にすることが多くなった。
 涼宮ハルヒと朝比奈みくるが先頭を歩き、その後ろに私が。さらに後ろに彼と古泉一樹が並んで歩く。
 基本この形は変わらない。ただ、涼宮ハルヒが朝比奈みくるをかまいすぎて、結果として全体の歩みが止まることがある。
 こういう時、私は集団から離れすぎないよう、速度を調整して歩くようにしていた。
 とはいえ、歩みが鈍化、あるいは停止させている彼女たちと比べて常とそう変わらない歩幅で歩いていれば
自然と集団から離れ、先を歩くことになるのは道理だ。
 先に言ったように注意はしているけれど自然私が先を歩く形になる。
 すると決まって、涼宮ハルヒが「おいてかないで」と少し困った風に笑いながら私に言うのだ。
 私はその度に、自身にエラーが蓄積することを実感していた。

「置いて行かないで欲しい」それは先行くもの対して置き去りにされた側がいう言葉 。

 状況からみて涼宮ハルヒが私に対し、そう言葉をかけるのは当然と言えるし、なにも不思議に思う所はない。
 私自身、彼女の主張に正当性を認めている。つまり異論などはない。ただ――

 本来先行くものとは涼宮ハルヒや朝比奈みくる、彼や古泉一樹であって私ではない。

 情報統合思念体によって造られた対有機生命体コン タクト用ヒューマノイド・インターフェースである長門有希はこの肉体が消滅しても
意識は存在し続ける。大元である情報統合思念体に文字通り統合され、永遠に近い時を揺蕩うことになるだろう。
 それはきっと変わらない未来予想図。異時間同位体との同期を解除した私にとって確実な未来を知るすべはないが
涼宮ハルヒの監視が終われば私の任は解かれることになる。

 監視の終わりとは彼女の死と同義。
 病気や事故、それとも天寿を全うできるのか、顛末はわからない。
 しかし確実に言えることがある。いずれ涼宮ハルヒは確実に死ぬ生命体であり、私は違うという事。 

 


「……置いて行かれるのは私」








「? 有希、何かいった?」

「別に」

「そう? あっ、今度の休みの予定なんだけど、キョンの家が使えなくなったのよね。だから有希の家が空いてたらなーと思ったんだけど、大丈夫?」

「平気」

「さっすが有希! ちょっとキョン? あんたも有希を見習って、常日頃から自宅を明け渡す用意くらいしときなさいよね」

「お前は地上げ屋かっ。おい長門、あんまりコイツを甘やかすんじゃないぞ、そのうち本当に家を奪われかねん」

「あんたこそあたしのお母さんか! 有希、こんな奴の話に耳を傾ける必要はないわ!」

「あ、あの~二人とも落ち着いて下さぁい」

「喧嘩するほど仲が良い、とは言いますがここは公道ですからね。そういうのはまたの機会に、ということで」

 涼宮ハルヒと彼の喧嘩とも呼べないじぇれあい。それを朝比奈みくるが止めようと努力し、最終的に微笑を浮かべた古泉一樹が仲裁を行う。
 いつもの光景、平和な何事もない日々。ふと、この日常が永遠に続くかのように錯覚してしまう。
 それは「ずっと続いてほしい」という、私の願望がそうせるのだろうか。
 以前、涼宮ハルヒが夏休みを延々とループさせたことがあった。当時の彼女と似た心理状態にあるのかもしれない。
 
 朝比奈みくるが三学年に進級し私を含めた4人は二学年となった。高校生活でSOS団が全員揃っていられるのも今年で最後。
 ――以降、胸の内に巣食う不安(エラー)がぬぐえない。
 論理的に考えれば決定的な別れはまだ先であり、朝比奈みくるも高校を卒業してすぐ、未来へ帰還するわけではないだろう。 
 だが、と思う。彼女たちSOS団との触れ合いの中で私は人の心を理解し過ぎた。
 置いていかれることに恐怖を感じる。涼宮ハルヒの言葉が記憶領域に焼き付いて消去できない。




「『おいてかないで』……」


「当たり前でしょ」
 



 はっ、と思考に埋没していた私の意識が現実に引き戻される。
 気づかない間にうつむいていた顔を上げると涼宮ハルヒが虚を突かれた顔で立っていた。
 他の三人は少し離れた先でこちらを伺っている。
 先ほどとは違い、最後尾は私。
 まるで今後の行く末を示唆するかのような逆転した位置関係に、息が詰まった。

「どうしたの有希。具合でも悪いの?」
 
「……大丈夫」

「本当に?」

「本当」

 咄嗟にしぼりだした言葉で取り繕うと、彼女は少々訝しんだものの苦笑して引き下がった。 

 ――声に出していた。浮かび上がったのは驚愕、次いで焦りに類する感情。
 これもエラーが蓄積した故の誤作動だろうか。
 私らしくない行為だったと思う。今は引き下がってくれた彼女も同じような出来事が続けば
いずれ不審に思って改めて問いただしてくるだろう。そうなったとき、しかし私は真実を話すことができない。
 結果涼宮ハルヒのストレスが一定ラインを超え、閉鎖空間ないし、なんらかの能力の発露が
周囲に影響を与える可能性がある。
 ならばこのエラーを不要なものとして消去するのが最も合理的な選択。

 ――合理的な選択、と理解しているのに……。
 今の私はこのエラーと向き合いたいと考えている。だから、出来れば機械的に処理したくはなかった。
 

「有希」
 

 再び、彼女が私の名前を呼んだ。
 また何か、私は不審な態度をとってしまったのだろうか。
 彼女の顔色をうかがうも、そこにあったのは静かな微笑み。

「おいてかないから、はい」

 そういって私に手を差し出してきた。

「手、つなぎましょう」

「……」

「ほらっ」

 動かない私を見かねたのか、やや強引に手をつないでくる涼宮ハルヒ。
 暖かいと思った。物理的な意味だけでなく、彼女が私を気にかけて手をつないでくれる事、そのものが。
 私と彼女の時間は今この瞬間確かに重なり合っていて、同じ時間を生きている事を実感する。
 ただ、これもいつかは失われてしまうのだろう。どれだけ今が輝いていてもいつか彼女も私を置いて先にいく。
 けれど、この瞬間は紛れもなくかけがえのないもので――結局、堂々巡りに陥る思考回路。
 それが少しだけ、憂鬱だった。

「なに考えてるのか知らないけど」
 
 そう言って私の瞳をのぞき込む涼宮ハルヒ。
 その顔は常になく真剣で、私は思わず息をのんだ。

「有希はあたしが見つけた最ッ高にカワイイ無口キャラなんだから絶対に離したりなんかしないわ」

「……」

「だから置き去りになんかしない。 皆もそう、あたし達はずっと一緒なんだからね、有希!」

 彼曰く、大輪の花を咲かすような100Wの笑みを湛えて涼宮ハルヒは言い切った。
 
「……そう」
 
 彼女の考えている内容と私の悩みには小さくない齟齬がある。それでも、嬉しかった。
 何かが解決したわけではない。未だ私は彼女たちに置いて行かれることに恐怖を覚えるし
今後確実に来るであろうその日を忌避する気持ちが消失したわけでもない。
 ただ、いつかくる別離に怯えて今を楽しめないのでは本末転倒というもの。
 彼女のおかげでそう思えた。

「さ、行くわよ!」

 彼女に手を引かれて、皆の下に駆けていく。
 三人に視線を向けると、ちゃんと私達を待ってくれていた。
 いつか、時の果てで私という存在が消え去るときも同じように待っていてくれるだろうか。
 いや、他でもない。彼女が、涼宮ハルヒが言ったのだ。
 私を置き去りになんかしない、ずっと一緒だと。 なら、それを信じよう。
 ――もし今の私の心情を朝倉涼子が知れば「ヒューマノイド・インターフェースがバカげてる」と一笑に付すだろう。
 実際、涼宮ハルヒの言葉が私の望む形で実現する可能性はゼロに近い。
 
 けれどそれを信じる事こそが今の私がエラーに対して導き出せる、唯一の答えだった――。

これで終わりです。 
本当に短いお話で申し訳ない……次があればもう少し長いお話に挑戦したいと思います。
それではありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom