名医「あなたの病気を完璧に治してみせましょう」 (13)


私はある医者のもとを訪れた。

ただの医者ではない。
どんな難病や不治の病にも挑み、たちまち治してきたといわれている名医である。


「……いかがでしょうか?」

「ご安心下さい。あなたの病気を完璧に治してみせましょう」


診察を終えた名医は力強くいった。


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まず私は、全身をくまなく観察された。

CTスキャナーのようなコンピュータ機器での撮影はもちろん、胃カメラも飲んだし、
直腸からカメラも入れられた。同時に体液や皮膚なども摂取された。

肉眼でもじろじろと見られた。この時ばかりは少々照れ臭かった。


「ふむふむ、なるほど」


名医は一週間後また来るように告げると、私を帰宅させた。


一週間が過ぎ、私は再び病院を訪れた。

すると、名医は驚くものを見せてくれた。


「これがあなたの新しい体です」


液体に満たされたカプセルの中には、もう一人の私がいた。


目を丸くする私に、名医が説明する。


「この新しい体は、クローン技術にて、忠実にあなたの体を再現したものです。
 おっと忠実ではありませんね。まったくの健康体ですから」


なるほど、この体にチェンジすれば私は晴れて病を克服できるというわけだ。
いくらかのおぞましさは感じるが、これも医学の進歩と納得せねばなるまい。

しかし、疑問も生じる。


「理屈は分かりました。ですが、私の“意識”はどうなるのですか?」

「というと?」

「昔どこかで、このように自分のコピーを作って若返りを図った男が、
 なにもかも記憶や意識までも継承した新しい体を作ったまではよかったが、
 古い体にも意識は残ったままだったので、その意識は古い体とともに処分されてしまう……
 という話を目にしたことがあります。私もそうなってしまうのでは?」


名医はにっこりと笑った。


「ご安心下さい。あなたの意識はそっくりそのまま新しい体に移します。
 つまり、古い体にもあなたの意識が残るということはありません」

「そんなことが可能なんですか」

「可能です」


断言された。

名医はなぜ可能なのかをあれこれ説明してくれたが、私にはちんぷんかんぷんだったので割愛する。


さっそく手術が始まった。


手術の途中、私は完全に眠らされていたが、自分の意識が古い体から新しい体に移る感触を、
夢うつつの中でなんとなく感じ取ることができた。


私がベッドの上で意識を取り戻すと、もうなにもかもが終わっていた。


目覚めた後は、すがすがしい気分だった。
まるで生まれ変わったような心地よさであった(実際、生まれ変わったようなものであるが)。


手術後、念のために何日かは静養させられたが、特に問題は起こらなかった。


この医者はまさしく天才だ、名医だ……と私は思った。


そして、いよいよ退院の日、私は礼を述べるとともに、名医にあることを尋ねた。

「ところで……私はどんな病気だったのでしょうか?」

名医はカルテを確認しながら告げた。

「えぇっと……軽度の胃潰瘍です」










― 終 ―

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