エミヤオルタメインのssです。
妄想多分に含みますので注意してください。
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「ヒーローは期間限定でね、大人になると、名乗るのが難しくなるんだ」
かつてオレが父と仰いだ存在は、憔悴した眼で曇天を仰ぎ、隠れた満天を覗こうとした。
曇り空は夜空に浮かぶ星も、月も見せる事はなく、さめざめと小雨を降らして縁側の土を濡らしていく。
その光景は、あまりにも醜かった。
ただ一人、救えて良かった、と。
助けられたのはどちらなのか、と。
疑ってしまうぐらい綺麗な笑顔を浮かべたその男は、正義の味方になりたかったらしい。
”なった”、ではなく、”なりたかった”、と表したのは、その理想を他ならぬ男自身が諦めたからなのだという。
曇り空の向こうに隠れた月夜は、男が求めた正義の終着点だ。
だがその道は険しいだけでなく、物理的に不可能なのだと大人になって思い知ってしまった。
磨耗した理想は諦観へ変わり、男にとって唯一の希望であったその願いが初めから存在しないお伽話なのだと悟った時、男は子に”自分と違う道を提示した”。
魔術師ではなく、父としての振る舞いを取った養父、衛宮切嗣。
恐らく彼が生涯で求め続けた光と理想、切り捨てた明るさがその子供に眠っていたからこそ、彼はその帰結を選んでいる。
子が父と同じ道を歩み、世界に絶望してしまわないように。
その明るさを抱いたまま、泡沫の夢に眠る様に。
衛宮士郎には幸せになってほしいから、と、切嗣は捨てたはずの優しさをここに来て初めて取り戻したのだ。
幼いオレには、理解出来ない。
何故切嗣がそう諦めてしまうのか。
死ぬ筈だったオレを、たった一人でも救えた切嗣は紛れもない正義の味方ではないのか。
「任せろって」
知らず、そう呟いた。
空っぽのオレの心に、切嗣は唯一の理想を与えてくれた。
何もかも失って、人形の様に生きる筈だったオレを救ってくれたのは、他ならない切嗣の笑顔なのだから。
本人が認めなくとも、オレ自身が切嗣を認めて、じいさんが切ったその理想をオレが嗣ぐと決意したのだ。
「俺が代わりになってやるよ。任せろって」
????じいさんの夢は。
#はてなになってしまうので伸ばし棒で代用します、すみません#
それが全ての源泉、エミヤシロウという男の捻れ狂った骨子の形成だ。
初め、切嗣はまだ幼いオレに、自らの大望を託す事を迷っていたらしい。
だが、聞き分けなく縋るオレに根負けしたのか、やがては彼の辿った生涯を明かし、実力行使の一端としてオレに魔術なる非科学を教えてくれた。
尤も、オレは魔術師として半人前どころか欠陥品に近く、一般人にしては恵まれた部類である多量の魔術回路も、宝の持ち腐れであると容赦無く告げられた。
ただ、一つ。
それこそ封印指定ものである固有結界がオレの体内には眠っているらしく、そこから零れ落ちた投影魔術に限定すれば半ば英霊の域に達する事も大袈裟ではないらしい。
ともあれ、オレには一つだけでも出来る事がある。
ならばそれを研ぎ澄まし、理想の糧に費やそうと決意するのに躊躇いはなかった。
幼い内から血に塗れた世界の一端を見聞し、人を殺す術、自らを生かす術を学び、やがては父を嗣ぐ立派な殺し屋としての自分が完成していた事に、最早疑念すら浮かばない。
元より衰弱していた切嗣は教えられるだけの全てをオレに教えた後に逝去し、一人取り残されたオレは正義の味方を目指して奮闘した。
そこに至るまでに何をすればいいのか、
そもそも正義の味方とは何なのか、
切嗣さえ知り得なかった理想の答えに惑いながら。
一つの選択があった。
それは聖杯戦争。例え地獄に落ちようと忘れる事はない麗しき騎士王の話。
オレの不手際によって堕ち、苦しみ、やがてはオレの手によった葬られた唯一無二のパートナー。
何度も助けられた彼女の胸に、オレは刃を突き立てた。
それは魔術戦争。未熟者のオレに魔術のいろはを教え、敵でありながら師範代わりになってくれた学園きってのあかいあくま。
勝ち抜くため、彼女を騙して剣を向けた。
それは無謬の天秤。最愛の女性を切り捨て、泣きそうな姉を前に、顔も知らぬ誰かの為に鉄心の正義を貫くと決意した時。
姉を殺し、女を見捨て、一人勝ち残ったオレは確かに死ぬべきだった多くの命を救う事ができた。
ただ、助けた億の命と引き換えに。
最も愛しかった少数の命を切り捨てた。
とある菩薩を追い詰めた時、その過程に多くの命を犠牲とした。
かつて引継ぐと誓った正義の理想は歪み、捻れたまま突き進んだ己の咎を償う様にオレは魔道へと堕ちていく。
結果的に、切欠はこれだったのか。
鉄の心はやがて錆つき、一つの要因など瑣末ごと。
大人になるにつれ、オレもかつての切嗣の様に自らの理想が不可能である事を薄々感づいてはいた。
それでも、そんな事は分かっていながらオレは絶対にこの理想を諦めないと誓ったから。
柔軟に生きる事の出来ない不器用さは最早人ではなく機械と同じだ。
だからオレがそうなる事は必然だった。
意思もない、自由もない、世界に隷属するだけの装置の完成という訳だ。
差し当たって、任務の遂行に支障を来す記憶と感情は投棄した。
最早理想の源泉も、この力の在り方も、オレには全て関係ない。
そんな日々がいつまでも続くと思っていた。
最早時間など意味を持たぬと悟っていた。
次に呼ばれる時は英霊か、守護者か、抑止力か。
ともあれ無機質な傭兵として我が身を研磨する道に異質はない。
故に。
最も不可解な異質が、人理継続保証機関カルデアにて眠っていた事に、思わずオレは失笑した。
「ひどい面構えだ」
オレを召喚したその少女は、かつての自分を想起させる程に無限の勇気と希望に満ちていた。
多くの絶望を体感し、死の恐怖を経験し、それでも尚笑い続ける少女の光明は最早若さ故の無鉄砲で説明できまい。
詰まる所、彼女もオレとは違う方向で狂っているのだ。
決して諦めず、決して引かず、前に前に進んで必勝を確実とする。
どれほど無才無能であろうと歩み続けるそのあり方は御伽噺で、人間を辞めた聖人に通ずるものを想起させた。
「まあいい。おかしなナリをしているがこれでもアーチャーだ。せいぜいうまく使え」
彼女が何者であろうと思慮に値しない。
オレはオレの赴くまま、救済の道路を敷き詰めるだけのこと。
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