第2話　絶叫！　神代の道具現る

　水、時に雨となって乾いた大地を潤し、時に濁流となって全てをなぎ払うその姿は、古来より生と死を司るものとされてきた。
地上のあらゆる存在がその恩恵に感謝し、その怒りに畏怖を持ってひれ伏していたのだ。

　曰く、日本書紀・神代上によれば、火神を生んだイザナミが焼け死ぬ際、
水神の罔象女――ミツハノメ――を生んだという。古事記でいう弥都波能売神その方だ。
　天の安河原の水を治め、慈愛の眼差しを持って植物の生育を助けるその姿は、さながら全ての母と言ったところ。
　蛮行を極め鉄と火で地上を統べたあの人間でさえ、灌漑(農作)用水の神、
井戸の神としてミツハノメを崇め奉り、今尚各地でその信仰は息づいているのだ。

――時は平成二十八年、数百年ぶりに目を覚まし地上を眺めたミツハノメは驚愕した。
　あの緑生い茂る美しい娘達や、爪と牙を持ち健気に生を謳歌する息子達は何処へ行ったのだ･･････。
何度視線を漂わせても、見渡す限り鉄とコンクリートばかりである。
　ミツハノメは涙を流した･･････僅かに残された山々は深い悲しみに包まれ、やがてその涙は水脈を辿り、木々の声となった。

「どうかお気を確かに、ミツハノメ様･･････まだ、希望は･･････救いはあります」

――自然の化身、百獣の願いと自然の怒りが生み出した深緑の神、樹娘である。ミツハノメにとっては、最後の娘同然であった。
　ミツハノメは一本の枯れ枝を拾い上げ唇を重ねると、樹娘の元へそれを送った。土と水を司り全てを育む、恐ろしい神代の道具を生み出したのだ。

　強力な武器を手に入れた樹娘の人間界侵攻は、その勢いを増していくだろう。
　戦え、樹娘よ。今こそ人間に原初の恐怖を思い出させるのだ！


「わーい、じょ、う、ろ！　じょ、う、ろ！　皆これで早く密林になれるよ！　ふふ、多分１２０年後くらい」

「あの、ここは私有地ですので、如雨露で木を育てられては困るのですが･･････」

「じょ、う、ろ！　じょ、う、ろ！　あ、水汲んでこよー！」

「あ、あの･･････ここは私有地ですので、水道を勝手に使われては困るのですが」

「おーばーおーるっていいなぁ」

　樹娘、復讐の鬼である。そしてその時間の感覚は･･････やはり途方もなかった。
　水神の加護の元、新しい鎧に身を包む樹娘の侵攻は、まだ始まったばかりだ！

続く