森久保「ドリーム・ステアウェイ」 (10)
1/夢の始まり
【ごーんごーんと鐘の音が聞こえる】
【始まりを告げる音が、終わりを告げる音が聞こえる】
【それは、一人の少女を目覚めさせる】
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乃々「……鐘の音?」
優しい音色が、私の耳をくすぐった。
ごーんごーんという鐘の音。
その優しい音は、これが夢であるとを私に認識させた。
そうだ、これは夢だ。夢の中だ。
だって、こんな優しい音が現実で聞こえるハズが無いのだから。
凛「確かに、夢も魔法も現実には無いかもしれない」
乃々「だ、誰ですかあなたは」
真っ白い空間に、突然現れた謎の人物。
誰だと言いながらも、この人のことを私は知っているような気がした。
ひどく懐かしく、遠い記憶。その中に彼女がいる気がした。
凛「もしも。もしも、あなたがこの現実を少しでも変えたいなら、手を伸ばして」
乃々「手を伸ばしてって……森久保なんかが変えられるわけ……」
凛「ううん、あなたなら出来る。ほら、耳を澄ましてみて?」
言われた通りに耳に意識を傾ける。
かつーんかつーん。
ヒールが地面を叩く音が聞こえた。
それも一つでは無い。大量に。
これは誰の足音だろうか?
凛「普通の女の子のだよ」
乃々「普通の……?」
凛「そう、普通の。あなたと一緒。ガラスの靴と綺麗なドレスを着ている普通の子たち」
あなたと一緒、と言われて驚いた。
気がつくと私は、綺麗なドレスとガラスの靴を履いていた。
よそ行きの格好で、私はどこへ向かうのだろうか。
よそ行きの格好で、みんなはどこへ向かっているのだろうか。
凛「みんな違う階段を昇っているけれど、目的地は一緒」
乃々「目的地……?」
上を見上げてみれば、立派なお城が建っていた。
そして、私の目の前にあるのは、気が遠くなるほど長い長い階段。
私はこの階段を昇るのだろうか。私は昇れるのだろうか。
凛「お膳立てはここまで。あとは、自分の気持ちで決めたらいいよ」
乃々「気持ちって言っても、森久保は……森久保は……」
気後れして後ずさりをする。
私なんかが夢を叶えられるわけ――
そう否定しかけた瞬間、体に冷たい息吹が吹きかけられた。
身も凍るような冷たさ。
そうだ、そうだ。私はこの冷たさを知っている。
私はこの冷たさを憎んでいる。構造を憎んでいる。
この冷たさが、この現実が嫌だったから、私は夢を求めたんだ。
乃々「私は……!」
凛「例えどんな結末になろうと、私はあなたの……乃々の味方であり続けるよ」
その声に後押しされるように、私は一歩踏み出した。
お城へ至る階段の、長い長い階段の一段目へ。
【ようこそ! 新しいシンデレラ!】
本日分はここまでです。
ありがとうございました。
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