聖來「Doggy's heart」 (21)
皆もすなるえすえす投稿といふものを、我もしてみむとするなり
初投稿です
※水木聖來のss
※設定はオリジナル(プロダクションの会社形態は346に近いイメージ)
※作者の装備はガラスのこころです。怒っちゃやーよ
以上苦手な方はブラウザバックどうぞ
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「……なんだこれ」
初秋のAM1:30。
寝苦しさに目が醒めた。
愕然とした。
「なんで聖來は俺の上で寝てんの?」
ここはどこかって?
我が職場。プロジェクトルームの片隅。
俺個人では買おうとも思わない、十何万のデスクチェアの上だ。
リクライニングを目一杯傾け、臥床と言ってもいい慎ましさで寝る俺の胸元に、ブラウンのボブヘアが載っていた。
くーくーと規則正しく上下する小さな肩。
間違いなく、俺の担当するアイドル、水木聖來だ。
漂って来るアルコールとシャンプー、そして女子特有の甘い匂い。
何より、鳩尾に当たる男子大量殺戮兵器、B82の感触。しかもこの感じ…生だ!
ヤッたか!?
ヤッちまったのか!?
左耳で俺の鼓動でも聴くかの様にうつ伏せる聖來の横顔は、トレンドマークである前髪で隠れて見えない。
この衝撃を受けてもなお寝惚けているのか、俺自身の記憶も曖昧で、状況が理解できない。
もし聖來が普段通りなら、起きたらきっとその顔は真っ赤に染まるのだろう。紅葉おろしの様に。
(ん?紅葉おろし?)
我ながら、咄嗟に出た比喩にしては随分とニッチな比喩対象が出たな、と思った。
何故おろしが付いた?
普通紅葉で止まる筈だ。
「……ああ、そうだ」
紅葉おろしに誘われて、ここに至るまでの記憶もおりてくる。
簡単な話。
俺は紅葉おろしを見たのだ。
そう遠くない過去、って言うか、ついさっき。
~ ~ ~ ~ ~ ~
ほんの2時間半前の事だ。
聖來とユニットを組む別プロジェクトの松本沙理奈から電話が入った。
「Pさんまだぁ?早くしないと聖來が噛み付いて来そうでヒヤヒヤするんだけど」
直後に聞こえた「噛み付かないよ!」の声を聞いただけで、我が担当の荒れっぷりが分かった。
そりゃそうだよな、2時間も待たせたら怒るよな。
ごめん聖來。
~ ~ ~ ~ ~ ~
セーラーマリナー
トライアドプリムス、月下氷姫に次ぐジュエリークール部門第三のビッグユニットとして俺が企画し、今や夏の風物詩として定着した二人組の人気ユニットだ。
デビューから3年目を迎えた夏も、彼女達は忙しかった。
各地のフェスや海でのイベント参加はもとより、マリングッズやらビールやらのキャンペーンガール、リゾートツアーのイメージキャラクター、雑誌のグラビアなどなど、フルスロットルで動き回った。
だが、いかに苛烈で暑い夏であろうと、終わりはやって来る。
8月いっぱい続いた仕事ラッシュもようやく落ち着き、二人はまた個々の活動に専念しつつある。
勿論、仕事をしただけでは水兵(マリナー)の気はすまなくて。
「「ご褒美ちょうだい!」」
この夏最後の仕事を終えた直後、夢みたいに綺麗で泣けちゃう夕陽を背に、二人に約束をとりつけられた。
その時、何故だか俺の目には、聖來の後ろでパタパタと動く尻尾が見えた気がした。
~ ~ ~ ~ ~ ~
かくして、打ち上げは企画され、アイドル二人とフォローしてくれた沙理奈の担当Pと俺の静かな飲み会が決定した……のだが。
「……え?Pさん…来れないの?」
茫然と呟く聖來に、俺は必死に弁を立てるしかなかった。
「いや別に行けないわけじゃない。行ける。いや、行くさ、必ず」
むくれて睨み上げる聖來の視線に、動揺が隠せない。
うわぁ尻尾がパンパンに膨らんでるのが見える。
ちょっとやめて、軽く涙目とかズルいからやめて。
まあこれに関しては完全に俺が悪いので、言い訳はしない。
「ごめんな、明日俺休みだからどうしても今日中に話しときたいらしくてな」
「それ誰が言ったの?」
「ブロッサムキュートにいる同期のPだ。新規ユニットをウチと共同で企画したいんだと」
もしかしたら新しい仕事に繋がるかもしれないだろ?と嗜めると、ため息と共に聖來は頷いた。
「…ハァ、分かったよ。でもできるだけ早く来てね」
あいよっと頭を撫でてから早2時間。
やっと書類が纏まった。
ブロッサムキュートからの提案は悪くなかった。悪くなかったって言うか最高だった。
このユニットが出来たなら、より一層聖來の活躍の場は増える。
「っと、流石に遅くなったな。タクシー捕まっかな…」
遅れた分の手土産ならば、十分な物が用意出来た。
~ ~ ~ ~ ~ ~
15分間のシティクルーズを終え、会場である創作居酒屋の個室に着いた頃には、二人の死体ができあがっていた。
聖來と沙理奈の担当Pだ。
「おっそーい!二人ともすっかりできあがっちゃってるわよ!」
「できあがってるって言うか鎮火してるな」
酔いからか声のボリュームがおかしい沙理奈に手刀をきって謝りつつ、彼女とその担当Pの対面。卓に突っ伏す聖來の横に加わる。
兎にも角にも腹が減った。
店員にビールを頼み、飯を掻き込む。
和風カルパッチョの紅葉おろしがやたら美味く感じた。
~ ~ ~ ~ ~ ~
運ばれて来たビールで沙理奈と乾杯し、グビリと煽った所で、聖來がムクリと真っ赤な顔を上げた。
「あ、聖來起きた」
「遅れてごめんな、結構顔赤いけど大丈」
「トイレ」
剥き出しの不機嫌さで俺の言葉を切り捨てて、我がシンデレラは立ち上がる。
途中、少しフラついたので、堪らずその手を取り、抱き押さえた。
「おいおい大丈夫か?」と顔色を伺うと、聖來はキッと強い視線で睨んで来た。
155cmの小柄さを感じさせない、彼女の意志強さを感じさせるブラウンの瞳。
デビューから5年。俺はいつだって、その力強い目に頼って来た。
「遅いよ…バカ」
拗ねた口調で呟いて、聖來は目を伏せる。
「ごめんな」と素直に謝り、聖來も頷き返した所で。
「はいはい、続きはトイレの中ででもどーぞ」
呆れた様な沙理奈の茶々に、俺達は慌てて手を離した。
「ト、トイレ、トイレ行くからPさんどいて」
「なら前まで俺が」
「大丈夫!大丈夫だから!」
バタバタと危なげない足取りで逃げる聖來を唖然として見送ると、沙理奈が呆れた様に呟いた。
「全く、あれで私より一つ年上なんだから奥手よね」
「言ってやるなよ、外見子供っぽいのコンプレックスなんだから」
思わず苦笑して、カルパッチョの続きをいただく。
童顔低身長ではあるが、あれで中々いい女っぷりだとは思うのだが、そう見ない連中もいるらしい。
にしても美味いなこのカルパッチョ。
おろし好きの俺にとって紅葉おろし付きは嬉しいアレンジだ。
最早お気に入りになりつつある。
~ ~ ~ ~ ~ ~
はぁ?と深い溜息に顔を上げると、気怠そうな沙理奈が突っ伏す担当Pにしなだれかかっていた。
どうやら、溜息ではなく深呼吸だったらしい。
身体を密着させ、彼女がすっぽり収まりそうな広い背中に顔を埋めている。
童顔な彼女の担当Pは「うーん」身じろいだが、沙理奈は離れようとしない。
「……どうした?腹でも痛いか?」
「違うわよ……その、ほら、アレが近いの」
「…ああ、そう言えばそろそろ一月か」
セーラーマリナーはユニットの性質上露出が多く、オーディエンスの前に立つ事も多い。
加えて、繁忙期の衣装は殆どが水着か、それに近い露出度だ。
そうなると、全女性にとっ大問題の、月に一度のアレが死活レベルの問題になる。
普段は、そう言った問題はアシスタントの千川さんやブロッサムキュートの柳さんなどが対処しているが、地方巡業も多いセーラーマリナーの場合、対処できるのが俺だけ、なんて状況もある訳で。
そうなると、非常にセンシティブかつデリケートな問題だが、触れないわけにはいかなくなるのだ。
しかしながら、そこに申し訳なさを感じていた日々も、今は昔。
最近ではご覧の通り自己申告して来る事も多くなった。
「もう辛くなって来てるのか?」
「…そうじゃないけど、もっと深刻かも」
すぐにでも柳さんにメールして明日の朝受け取れるように薬でも手配してやろうか、なんて考えて、
「ムラムラするのよ、物凄く」
一旦、考えるのをやめた。
「……お前何言ってんの?」
「さあ?でもだから待ってたのよ、Pさん。貴方が来てくれるの♪」
ひとしきり担当Pを堪能したのか、晴れやかな顔で沙理奈が笑うと、タイミングよく店員が個室に顔を出した。
「松本様、お呼びになっていたタクシー来ましたよ」
「オッケー♪じゃあPさんお疲れ様♪私この人連れて帰るわ♪ほらほら立って帰るわよ」
「ああ、なるほど……気を付けて」
色々な意味を込めた言葉を送り、俺は同僚に肩を貸して立ち上がらせる沙理奈を見守った。
自身の担当Pを見詰める沙理奈の目は、どう見ても色めきだった獣の目だった。
「次飲む時は遅れないでよね」
「分かってる、そんじゃまた」
返事代わりにウインクした沙理奈は、俺の横を通る時、ボソッと呟いた。
「そう言えば聖來もそろそろよね……食べられない様に気を付けてね♪」
一瞬茫然としてしまったが、すぐに俺は沙理奈に振り返った。
「カメラ待ってるかも知れないから気を付けろよ!」
「はーい」の返事と共に、沙理奈は右手をヒラヒラと振って帰っていった。
思わず、溜息が出た。
何ともまあ、ファンの皆さんには見せられない光景だ。
アイドルが担当Pをお持ち帰りだなんて。
さすが当プロダクションきっての肉食系女子、松本沙理奈。叶わんね全く。
明日は凹んでんだろうなぁアイツ(沙理奈担当P)。
まああのB92を独占できるのならば殺されたって文句は言えない。むしろ釣りが来るレベルだ。
「羨ましい限りだねぇ…」
「何が羨ましいの?」
「B9じゅ…聖來、もう大丈夫なのか?」
「分かりやすい切り替えだねPさん」
笑ってる。
聖來が笑ってる。
それ自体はいい事だ。
物凄くいい事だ。
超かわいいもん。
でも何でだろう。
後ろで尻尾振ってる感じがない。
むしらパンパンに膨らませてるこの感じ。
「いやホント心配したんだぞ!もう大丈夫か?」
これで赦してくれない?と小首を傾げてみたのだが、返って来たのは溜息とガン無視だった。
「沙理奈達、帰ったんだ」
「あ、はい」
多少赤味は残るものの、ほぼ回復したらしい聖來は、軽い足取りで沙理奈がいた対面席に腰掛けた。
「あの、聖來さん?」
「ねえPさん」
「はいはい何でしょう聖來さん」
「何でこんなに遅くなったのかな?」
「それはだから打ち合わせで…」
「……ホントに?」
「本当だよ、あ、資料見るか?実はな…」
とっておきの手土産を披露する機会だ、とワクワクしながら鞄を取ろうとして。
「ねえPさん、ホントの事言ってよ」
普段の聖來とは違うトーンに手を止めた。
「ホントの事って…何だよ」
何も言い争いがしたい訳じゃない。
聖來が見せた不安。
俺への不信。
それがパフォーマンスに障る前に、ここで摘み取ろうというだけの事。
それだけの事。
なのに。
(…泣いてる)
聖來の目から、一粒の涙が零れ落ちた。
「アタシの事、もうあんまり関心ない?」
(は?何言って…いや違う。何がそう思わせるようになった?)
『アイドルとプロデューサーは信頼関係が何よりも肝心です』
アイドル課に配属されたその日に先輩に言われた事だった筈だ。
俺自身、信頼関係は何よりも重視して接しているつもりだ。
では、一体何故、聖來にこんな事を言わせるまでになった?
「そんな訳あるか、俺はお前のプロデューサーだぞ」
「……ホント?」
「当たり前だろ、。今日だって……うわ何でガチ泣きしてんのさ聖來」
「うっ、ぐす……だって、だって最近、私一人だと、Pさん現場にも来てくれなくなっちゃったし……マリナーの時だって、沙理奈とばっかり…」
「そりゃだって、ユニットの時の聖來大人しいから集中してんのかと」
「嫌われたくなかったんだもん、私までワガママ言って、Pさんに…迷惑、かけたくなかったんだもん…でも沙理奈も頑張りたいから、だってアタシ分かるから…」
その一言は、どんなに一撃よりも俺の心にクリーンヒットした。
セーラーマリナーとして活動する松本沙理奈は、確かに少し甘えん坊だった。
一番の歳下である彼女は、しょっちゅう俺や聖來にイタズラを仕掛けて来た。
それが彼女なりの緊張のほぐし方なのだとは、担当Pから聞いていたから、沙理奈のイタズラには毎回リアクションして、できる限りリラックスしようと努めた。
だが、その結果、聖來には殆ど何もしてやれなかった。
聖來の芯の強さに頼る余りに、彼女のメンタルケアを怠っていた。
幼い外見とは裏腹に、聖來は実にしっかりと周りを見て、空気を読み、気を使っている。
だから、最近では現場に同行せずとも、彼女ならばやれると信じ切っていた。
言い逃れはできない。
愚痴は続く。
「LINEだって既読付くまで時間かかるし、付いてもすぐ返事くれないし」
「ごめん…」
何をやってるんだ俺は。
オーディエンスの反応ばかり気にして、自分の担当アイドルの気持ちに気付けてないなんて。
聖來の愚痴は、ことごとく俺の心に刺さった。
どんなに場数を踏んでも、アイドルは舞台では一人ぼっちだ。
例えユニットを組んでも、呼吸を合わせる緊張感には一人で挑まねばならない。
観客との一体感に包まれたとて、パフォーマンスは止められない。
俺たちプロデューサーに求められるのは、その緊張感のコントロールとケアだ。
周りが全員年上で、一人だけ違うプロジェクトからの参加と言う沙理奈のプレッシャーに心を傾けすぎた。
だからと言って、聖來を放っておいていい理由にはならないのに。
(聖ちゃんとの件で確認済みだろ、馬鹿野郎!)
水木聖來は責任感が強い。
歌がまだ苦手だった頃、同じ部門の一回り歳の離れた望月聖に頭を下げて歌を教わりに行った。
歳下だらけの札幌よさこい祭では、皆の姉の様にメンバーをまとめ上げた。
プロ意識と言う名の責任意識、悪くすれば強迫観念に変わるそのメンタルに、俺は甘えたのだ。
「ごめん聖來、本当にごめんな。俺が悪かった。寂しい思い、させた」
俺は聖來の元に行き、そっと肩を抱き締め、できるだけ優しく、頭を撫でた。
これがデビュー当時から変わらぬ、聖來を落ち着けるコツ。彼女が優しいお姉さんでいられる秘訣だ。
しばらく、そのままでいた。
段々と強張りは解れ、えずきが凪いでいったが、体温は熱いままだ。
「……落ち着いた?」
「……うん、ごめんね。急に泣いちゃって」
「いいんだよ、泣いちゃっても。むしろ俺の前でこそ…って、今の俺にそんな資格ないけど。でも、言ってくれてありがとう。ごめんな」
「ん……もっかいギュッてして…」
乱れた前髪を撫でつつも、決して顔を上げない聖來を今一度抱き締める。
「…ありがと♪これでまた頑張れる」
少し掠れたヴィスパーボイスに赦されて、俺は少し前屈みになって席に戻った。
その様子を聖來が目を細めて見たことにも気付かずに。
「じゃあPさん飲もうか♪」
「え?いきなり!?」
「泣きたいほど寂しい思いさせたのは赦したけど、遅刻はまだ赦してないもん♪はい♪これ全部飲んで♪」
どこからともなく鬼殺しのボトルをドンッと卓に置いて、聖來は笑う。
「でもこれ千川さんすら[ピーーー]酒だよ?俺死んじゃうよ?」
「ちひろさんにそれ言っとくね♪」
「マジごめんなさい勘弁して下さい一生のお願いですやめてください黙ってて下さい」
「じゃ、頑張ってね♪」
~ ~ ~ ~ ~ ~
アルコールが喉を焼く。のぼせた様に体が熱く、心臓が鼓膜に移った様にドクンドクンと頭に響く。
くーくーと突っ伏して眠る聖來を前に、俺は最後の一口を飲み込んだ。
これでボトルはすっからかん。俺の勝ちだ。
「プリョリューシャーの、経験を、甘くみる、にゃよ……」
ああ糞、全然舌が回らねえ。烏龍茶を流し込み、酔いを醒ます。
未だに体育会系気質の強い芸能界。
その中で働く男を舐めるもんじゃないよ、お姫様。
飲んで飲んで飲んで吐いて、俺はこの強い肝臓を手に入れたのさ。
しかし我ながら、話術で競い飲みに持ち込んだのは良策だった。
お陰で早々に担当アイドルの寝顔という極上の肴が手に入った上、自分のペースで飲めるようになった。
そうなりゃこっちのもんだ。
「あの、そろそろラストオーダーのお時間なのですが……」
「あ、おあいそでお願いします。あとタクシー呼んでもらえます?」
「はい、喜んで~」
~ ~ ~ ~ ~ ~
店を出てすぐ、違和感を憶えた。
この仕事を始めてから身に着いた、自分でも不思議な感覚だ。
通りに止まる車に、人の気配がする。斜向かいに建つホテルの上階から、視線を感じる。
ざっと位置関係を把握し、俺はおぶった聖來を背負い直した。
タクシーに乗る僅かな間に、3ショットは献上したかもしれない。
「すいません。この名刺の住所までお願いします」
茨城県出身の聖來は、スカウト当初からウィークデーは都内のアパートに住み、週末になったら実家に顔を出す生活スタイルだった。
だから、レッスンに熱心な彼女から、彼女の愛犬わんこへの餌やりを頼まれることも多い。
だが、今のこの状況。
聖來の家に直行する事はできない。
俺の家なんてなおさらだ
そぁらみろ。
案の定、停車していた車が動き出した。
こういう時は事務所へ向かうに限る。
幅広い年齢のアイドルや女優を抱える我が事務所には、こういった酔い潰れた場合の宿泊施設もあり、しかもこのケースを想定して申請は済んでいる。
幸い明日は俺も聖來もオフだ。
今晩はそこを寝床としよう。
~ ~ ~ ~ ~ ~
長くも濃密な記憶の整合性がとれ、胸を撫でおろ……せないな、この状況は。
俺は確かに聖來をベッドに寝かせたはずだ。
だが、ここへ向かう途中で思い付いたいくつかの案を纏めておこうとデスクに戻って……繋がらない。
改めて問う。
何故聖來がここにいる?
「……お前起きてたな?」
我ながら酷く酒焼けした掠れ声だ。
だが、少しだけ聖來の握力が強まったのをワイシャツ越しに感じた。
(相変わらず嘘が下手だな)
笑っちゃうほど嘘のつけない聖來に、思わず苦笑する。
(ありがとう沙理奈、お陰で変にテンパらなくて済む)
「……いつか」
汗で少し湿った茶髪を撫でる。
「お前とそういう仲になりたいのは、俺も同じだ。お前は俺が最初に見つけたシンデレラだからな。……でもな」
少し手を止め、デスクに広げていた資料を手に取り、聖來にも見える場所まで持ってくる。。
アップトゥデイト
セーラーマリナーにブロッサムキュートの太田優を加えた聖來の新しいユニットだった。
「セーラーマリナーの活躍に目を止めた同期がな、うちの太田を加えて一年中活躍出来るユニットにアップデートしないか?って言ってくれてんだ。俺はもっともっと聖來をみんなに知ってもらいたい。聖來が好きなもの、大切な仲間、何が心情で何に一生懸命で何にこだわっているか、聖來の持つ色んな魅力をみんなに知ってもらいたいんだ」
また少し、握力が強まった。
「だから、な、もう少しだけ、待て、できるか?」
ゆっくりと、聖來が顔を上げる。
ほんのり桜色に染まった頬に一筋だけ流れる涙が、綺麗だった。
「……うん♪」
犬にとって、世界はご主人を中心に回る。
いつだったか、聖來に言ったことがある。
「わんこは聖來に似てるけど、聖來もわんこに似てるよな」
どうやら俺も、聖來というワンコに似てきたらしい。
でも仕方がない、こんな魅力的な笑顔を見せられちゃ、頑張らない訳にはいかない。
了
突貫だったので色々と粗が目立つけど、以上です。
聖來P及び沙理奈Pの方々、違和感を憶えたなら申し訳ない。
作者なので堂々と自演上げ
このSSまとめへのコメント
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