芳乃「何事もなき平日」 (17)
ふっ、と目が覚めるとともに少しの蒸し暑さを感じます。
夏が過ぎ秋に変わるころですが、年々秋が短くなっているような。
催事へと赴くお仕事も多かったですが秋にもたくさんの仕事がまっているぞ、とはあの方のお言葉。
必要とされるのは嬉しいことでして、努力せねばなりませんね。
布団を片付けつつ心持ちあらたに、今日も一日がんばりましょう。
とは言いましても本日は平日、お仕事もありません。
ですので、学生の身らしく勉学に励むといたしましょう。
今日の朝餉はなんでしょう、と他愛のないことを考えつつ浴場へ向かいます。
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女子寮の浴場は早朝にも利用できますゆえ、身を清めるには最適でして。
汗を流し髪を整えていると紗枝がやってきます。
紗枝「芳乃はん、おはようさん」
芳乃「おはようございますー」
いつもと変わらぬ挨拶。
朝の身支度を整える時間が被ることが多く、半ば日課となっております。
紗枝「今日はお仕事どす?」
芳乃「今日はオフでしてー、学び舎へー」
紗枝「あらまあ、おふだなんて芳乃はんすっかり業界の人みたいやわぁ」
紗枝から勧められた椿油で髪を整えながらのんびりとした会話を。
紗枝「この前ばすとあっぷの秘訣ーいうんを聞いたんやけど」
芳乃「紗枝、事細かに説明をお願いするのでして」
紗枝「そない早口な芳乃はん初めてやわぁ」
のんびりと。
身支度も済みまして紗枝と別れ食堂へ。
朝餉はその時々いる方と共にすることが多いですね。
今日は蘭子がいました。
芳乃「蘭子ー、おはようございますー」
蘭子「あー芳乃ちゃん、おはよー……」
朝の蘭子は寝ぼけ眼でして。
芳乃「夜更かしでもしましてー?」
蘭子「勉強してて……」
芳乃「体には十分気を付けるのですよー」
蘭子「うんー」
髪を結んでいない蘭子は普段と同一ととらえられない方もいるやもしれませんね。
わたくしはこちらの蘭子も好きでして。
例えるなら……子猫のような?庇護欲をそそられますね。
身支度も済みましたので女子寮を出ます。
学び舎までは徒歩で。
都会は人や車の往来がとても多いですね。
みなみな毎日を必死に頑張っておりまして。
カンカンカンカン、と踏切の鳴る音が響きます。
開かずの踏切、とまではいきませんがここの踏切は大分長く。
迂回路を使いましょう。
踏切を越えた先に小さな黒猫が。
朝の蘭子を思い出しふ、と口が緩んでしまいました。
少し目線が合うと猫さんがこちらへ。
おや、そのままついてきてしまいました。
今日の通学は猫さんと一緒ですね。
少々こちらを二、三度見る人の目が気になりまして。
結局学び舎までついてきてしまいました。
懐いてしまわれたのでしょうか、しかし連れていくこともできず。
芳乃「ほらー、元あるべき場所に戻りませー」
言い聞かせるとたたたっ、と離れていきます。
聞き分けの良い猫さんでして、助かりました。
教室へ向かうと既に様々な話題でみなみな盛り上がっております。
「あ、芳乃ちゃんおはよー!」「おはよー」
芳乃「おはようございますー」
「一昨日のテレビ見たよー!旅番組のやつ!」
芳乃「おー、いかがでしたかー」
「よかったよー!ねえねえ、蘭子ちゃんと出てたけど仲いいの?」
芳乃「今日も朝餉を共にしましてー」
「そうなんだー!」
お仕事の都合でそう毎日は顔を出せず、行く日行く日で質問攻めにあってしまいます。
落ち着くまでゆっくり待ちましょう。
学生の本分は勉学でして、授業は真剣に受けなければなりません。
欠席する授業も多いですが怠ってよいわけではなく。
みなの助けを借りながらなんとか頑張っております。
ただし、その……
「はい、じゃあ単語の小テスト始めます 荷物しまってー」
英語は、その……
……わたくしは日本人でして、海を渡る予定もなく。
ゆえにわたくしには必要ないのでして……
いえ、泣き言は今は必要ありませんね。
級友直伝の単語張の力、ここで見せまして……!
ぎりぎり再試験は免れました。ほっ……。
本日は体育もありまして、体操着に着替え臨みましょう。
きびきびとした動作は得意ではありませんが、体を動かすことは好きでして。
本日は長距離走のようで。級友からは少しばかり文句の声もみえます。
わたくしとしては球技などより断然よい部類ですね。
準備運動を終えていざ走り始めると思っていた以上に足が軽いです。
アイドルのレッスンを日々こなしている成果がこのような所でも表れるものですね。
ふっ、ふっ、ふっ。
頭の中がすっきりとしていきます。
ふっ、ふっ、ふっ。
前へ、前へ。
……おや?いつの間にか走り終わっていまして。
ふぅふぅ、と息を整えていると周りには誰もおらず。
どうやら一番だったようでして、わたくしも驚きました。
知らぬ間に随分体力がついたのでしょうか?
学び舎でのお昼というものはとても賑やかでして。
仲の良い者同士で和気藹々と食事をしております。
わたくしはお昼は一人で食べることが多いですね。
みなみなとてもわたくしに優しく気遣ってくれることはわかっております。
しかしお仕事で休みがちであったり、わたくしの拝み屋の少し特異な血筋などもありまして。
やはり他のみなみなと同じように、というわけには少し行き辛いのでしょう。
どうしても一線を越えられない、わずかな壁を感じてしまいます。
少しばかり寂しくはありますが、悲観はしておらず。
時に頼り時に頼られ、お互いに信頼し合っている。
そんな関係は築けておりますゆえ。
お昼後の少し眠気に誘われる授業もすべて終わり、放課後でして。
部活動にみなみな精を出しておりますがわたくしはお仕事もあり帰宅部となっております。
しかし習慣となっていることもあり。
芳乃「今は焦るべきではなくー、様子を見て声をかけるのがよいでしょー」
芳乃「それでしたら恐らく鞄の小さな入口の中かとー」
教室に残って様々な方の悩みを聞いております。
なぜか評判になっているようで、先生が来られた時には驚きましたが。
人の悩みを聞き導くのはわたくしの使命でして、そのように。
芳乃「そこは示されている通りの範囲を広く復習する他ないかとー」
芳乃「授業で聞いたこの部分は大事でしてー」
芳乃「そこはわたくしより先生に聞いた方が早いのではー?」
……試験前に特別相談が多くなるのは学生の性、というものなのでしょうか。
日も沈みかけてきまして、相談に来る方もいなくなりました。
わたくしも帰りましょう。
下駄箱から出るとにゃあ、とかすかな声。
見ると今朝の猫さんがおりました。
待ってて下さったのでしょうか、これも何かの縁。
本日は猫さんと共に。
天も澄み渡った青を失い、薄橙が広がりまして。
てく、てくとゆっくり歩いていくとあの踏切に差し掛かります。
カンカンカンカン。
踏切が閉じられ、わたくしの目の前で隔たれます。
ふと、目の前の世界が少し色褪せたように感じました。
何故かは分かりませぬが、無性に寂しさを覚えるような。
人恋しい、というものなのでしょうか。
早く帰りたい、早く会いたい。
そのような想いが渦巻いています。
会いたい、とは誰にでしょう?
わたくしの壁を取り払ってくれた方、手を取って一緒に行こうと言ってくれた方。
心から共にいたいと願う方。
にゃあ、と猫さんの鳴く声がしてふと我に返りました。
見るとたたたっ、とどこかへ行ってしまうようでして。
いつの間にか踏切が上がるようです。
カンカンカンカン。
踏切が上がり始めた途端、世界に色が戻りました。
気のせい、と言われればそれまでかもしれません。
しかし確かにわたくしはそう感じまして。
踏切の向こうには会いたいと願った方がいたから。
ふわり、と心に花が咲き笑みが零れます。
踏切が上がりきり、わたくしは駆け出します。
声を届けるために、そばにいるために。
鮮やかな黄昏の中わたくしはこれからも。
芳乃「そなたー、共に参りましょー」
おしまい
見てくれた人はありがとう
よしのんボイス付きカード本当におめでとう
よしのんssは少なすぎるからあと100倍くらい増えて
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