・スレタイ通り
・キャラ崩壊
・超遅筆
・ネタバレがあるかも
以上注意
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「そうか…。では、やはりやめるんだな……。」
「はい。後悔はありますが、きっとこれでよかったんですよ。」
「……。」
「最近は面白いって思えなくなってましたから。本当に嫌いになる前にやめられて運がよかった。」
「すまないな…。」
「先生が謝ることなんて全然ないじゃないですか。気にしないで下さい。」
「しかし…。」
「ホント気にすることないですって。俺が一人で突っ走って、勝手に無茶して、全部台無しにした。それだけですよ。
…でも、まあ。なくしてばっかりじゃなかったですから。だから」
「……。」
「だから、上向いて飛ぼうってね。そういうことですよ。」
ガキの頃は無敵だった。
何だってできると思ってたし、何にだってなれると思ってたし、どこまででも行けると思ってた。
少し手を伸ばすだけだでよかったんだ。
小学生の頃だ。
近所の浜辺で運命と出会った。
空を自由に飛び回る姿は本当にきれいで楽しそうで。
あんなふうになりたいと強く思った。
ガキだった俺の夢が決まった。
だから手を伸ばして、望んで、走って、追いかけて、叫んで。
やっと手に入れた時には俺はボロボロで、でも手につかんでいるものは本物で。
これでいいんだって思えたんだ。
―――――つかんだものはぜんぶこぼれてしまったけど
第一話「私に空を教えて下さい。」
「あーもー!なんで誰も起こしてくんないのかなあ。」
その日、俺は朝から全速力で通学路を突っ走っていた。
「はあっ、はあっ、くっそ、運動不足かも……。」
右腕に付けた腕時計で現在時刻を確認する。
「8時10分ギリギリだな…。」
肩に食い込むカバンの紐を握りしめると、少しだけ走るスピードを上げた。
「……あー、なんかイライラしてきたな。たまには遅刻したっていいんじゃねえの。」
昨日は懐かしい夢を見た。
だからだろうか、普段なら気にしないことでも何となく気になってしまうのだ。
……決して目覚まし時計を壊したことに対する言い訳ではない。
「俺の脳も気が利かないな…。かわいい女の子の夢でも見せてくれればいいのに。」
自分のアタマに文句を言うなんて見る人が見れば通報されそうな独り言を呟きながら走っていると、
道端にその体を放り出している女の子の姿が目に入った。
「あ、あれ?困ったな。このままじゃ家に帰れないよ~。
ああっ!もうこんな時間!このままじゃ遅刻だよ~。どうしよう~。」
あいつは、天然だな。
一目見てわかった。こんな朝方から、往来で大声で独り言なんて天然以外ありえない。
ほら、そうやって見るとどことなくアホっぽい顔をしているではないか。
俺がじろじろと女の子の方を見ていると彼女はさらに詳しく状況を教えてくれた。
「あうあう。今日から転校なのに初日から遅刻なんてできないよ。でも、鍵がないと帰れないし…。…う~、どうしよー!」
古来よりこんな言葉がある。
例え、ハゲだろうとホモだろうと変態だろうと女の子が困っているときに手を差し伸べなければならない運命にある、と。
俺は、ハゲでもホモでも変態でもないが男の子であるからしてかわいい女の子が困っているときに手を差し伸べないなんてできるはずもない。
「おい、キミ。パンツみえてんぞ。」
よって、女の子がこんな往来で下着を丸出しにしていることは看過できないのだ。
「えっ?うわわわ、きゃあっ!!」
俺が声をかけると、女の子は大声をあげながら飛び上がり、ピーンと背筋を伸ばしたかと思うと勢いよくスカートを抑えた。
「みっ、見ましたか!?」
「いや見てない。」
「そ、そうですか。よかったぁ~。」
さっき見えてるって言ったんだけどな…。
「カバンの上だろ。」
「え?」
俺は男の子であるからして、かわいい女の子が困っていれば助けなければならない運命にある。
よって、端的に解決策を示してみたのだがうまく伝わらなかったようだ。
「キミのカバンの上に置いてあるそれは、探している鍵じゃないのかなって。」
「ふぇ?あ、ああっ!こんなところに!」
私、びっくりしました!と言わんばかりに大げさに驚いた女の子はゆっくりと鍵をポケットにしまうと、こっちにくるっと振り向いた。
「ありがとうございますっ!!」
「うわっ!」
私、びっくりしました!
女の子は、頭を勢いよく、ブンッと下げると、俺の手を取ってぶんぶん降り始めた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!本当に困ってたんです。このまま、鍵か見つからなくて学校にも行けなくて、家にも入れなくて、
野宿することになったらと思うと…。」
なんかちょっとどころではなく大げさなことを言い出したが、さて…。
「な、なあ…。」
「いや~。ホントに不安で不安で。引っ越したばかりで知ってる人もいませんし、このまま高校デビュー失敗かなって思うともう泣きそうになっちゃって。」
もう5月に入ってるから高校デビューは失敗だと思う。
「あっ!その制服!私と同じ学校の制服ですよね!あ、あのよかったら学校のこととかいろいろ教えてほしいんですけど!あ、私今度CG学園の2年生になる島村卯月ですっ!」
「あのさぁ。」
「はい!何ですか!?」
「えっと…手…。」
「手?」
そこでようやく、島村さんは自分の手をじっと見つめる。
「―――~~~~っ。」
お、見事な瞬間湯沸かし器。
「うひゃあ!」
ズザザッっと勢いよく下がると、手をわちゃわちゃさせながら弁明を始めた。
「あ、あの。うわわ、すいません!すいません!なんかとってもテンパっちゃって!あ、でも鍵は本当にありがとうございます!
色々とえっと助かりました!それでそれで…。」
「待った待った。そんなに慌てなくてもいいって。それに別に何かしたって程でもないし。いいもの見せてもらったお礼だよ。」
「ふぇ。いいもの?」
おっと、余計なことを言ったかな。
「それに、学校行かなくていいのか?」
島村さんは、スマホを取り出して画面を見ると、途端に絶望的な顔になってしまった。
「あ、あと5分しかない…。走っても間に合わない…どうしよう…転校初日からちこく…。」
えらく分かりやすくしょんぼりしてしまったな。
このまま、ほっとくのは流石にダメかな?
今日のサボり計画はご破算か。まあ、いいもの見れたし…。
――最近はなんとなく使ってなかったけど。
「しょうがないな、今日は特別だ。」
空を見上げ。
「じゃあそこから行こうか。」
停留所を指さした。
「そこから…ですか?あの何にもないですけど。」
島村さんは目をぱちくりさせながら、不思議がっている。ってそっか。
「ああ、転校生ってことは知らないのか。」
「はい?」
「グラシュのことはわかる?」
「ぐらしゅ?ですか?」
「そうそう。アンチグラビトンシューズ。制服着てるなら説明は受けてるよな。その靴のこと。」
「あ、これですか?一応は聞いてるんですけど…。」
片足立ちになり足をプラプラさせる島村さん。
「そうそう。実際使ったことはある?」
「いえ、ありませんが…。」
「じゃあ、今日が初飛行になるな。行こう。」
「ええっ。あのっ」
「ホントは講習とかあるんだけどな。ま、大丈夫だよ。俺も講習とか受けたことないし。一応ペアリングで飛ぶから落ちはしないって。」
島村さんを引っ張って、停留所に向かう。
「時間が時間だから誰もいないな…。飛行禁止のランプもなし。飛行経路問題なし。」
「あのう」
「次は、靴の確認だな。島村さん足出して。」
「え、あの。はいっ!」
差し出された靴に異常がないか軽くチェック。ついでに自分の靴もチェックしておく。
「異常ないな。よし、行こう。」
「あの、行くってどこに……うひゃあ!」
あんまり大丈夫そうじゃない島村さんの背中をポンと叩き、俺は停留所の淵に立って自分のグラシュの電源をオンにする。
「よし、手ぇ出して。そう。じゃあ飛ぶから死ぬ気で捕まってなよ、まあ離しても落ちることはないけど。」
「飛ぶ……飛ぶ!?えっここからですか!?」
「いくぞー、1、2の……」
「うええええ。ちょ、まって。そんなことしたら!ここ崖ですよ!あ、やめて」
「3、FLY!!」
「きゃあああああああああああああああ!」
高く飛び上がった体に、朝の気持ちいい風が感じられる。
たまにはこういうのもいいかもしれないな…。
「きゃあああああああ、うあうあうあうあ、こんなのだめですよぉ~、おちちゃいますよぉ~。うえ~ん、助けてママー!!」
島村さんは、手をつなぐどころか半べそを書きながら全力で俺の背中にしがみついていた。
というか子供かよ。いまどき幼稚園生でも言わんぞ、助けてママーって。
流石に、罪悪感を感じた俺はかわいそうなおんなのこに優しい言葉をかけてやることにする。
「大丈夫だよ。グラシュの電源が入っている限り絶対に落ちることはないから。逆にそんな全力でしがみつかれる方が危ない。」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです。、だからその、ギュッと閉じてる目を開いて周りを見てみるといいよ。」
「怖くない?」
「高所恐怖症でないのなら。」
「うぅ……」
俺の言葉を聞き入れる気になったのか、背中から圧迫感が薄れていく。
……やっぱもう少しあのままでもよかったかな。
目を開けば、眼下には小さくなった町や木々、そして真っ青な海。上を見ればそこにはいつもより近くなった青空が広がっている。
「わあ……」
一度、目を開いてからは早かった。握りしめた手はそのままだが、視線をキョロキョロと周囲にめぐらし、その全身で空の散歩を楽しんでいる様子が伝わってくる。
「すごいすごい、すごーい!!すっごくきれい!あ、あの!わたし!感動しました!!」
「だよなぁ。やっぱ初めて飛んだ時の感動は忘れられないもんだよ。」
「あのあの!」
「ん?」
「こんなすごい光景を教えてくれて!!ありがとうございます!」
そう言って笑った彼女の笑顔は
まるで太陽の花が一気に花開いたようで
俺はちょっと惚れそうになってしまった。
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