<32ﾈﾝﾌﾞﾘﾉ11ﾚﾝｼｮｳﾁｭｳﾉ……

友紀「……」

ありす「また野球ですか……」

友紀「パンツを変えないってそろそろ無理があるよね」

ありす「え、何のことですかそれ」

友紀「広島の監督をしてる緒方って人がいるんだけどさ」

ありす「智絵里さんのご親戚……？」

友紀「……さぁ？……その人のゲン担ぎで『勝ったらパンツも靴下も替えない』ってのがあるらしくて」

ありす「へぇ……衛生的によろしくなさそうですけど、気合いが入るんでしょうね。今、チームは何連勝しているんですか？」

友紀「今、テレビでも流れてたけど……11連勝」

ありす「えっ……じゃあ、11日間同じパンツを……」

友紀「いやいや、ありすちゃん。プロ野球は毎日やるもんじゃないんだよ」

ありす「で、では……今、緒方監督のパンツは本当は何日目なんですか？」

友紀「6月14日から今日までで……15日目？」

ありす「ヒッ……」ｿﾞｸｯ

友紀「これは大変なことですよぉ……」

ありす「ど、どうなってしまっているんでしょう」

友紀「監督の檄ならぬ激臭で打者を塁上……すなわち臭いの及ばぬベンチ外に導くという捨て身の策……」

ありす「……」ｺﾞｸﾘ

友紀「梅雨時であることも考えると……パンツの中は今頃腐海の如く……キノコにカビが繁茂して」

ありす「いやぁっ、やめて下さい！」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

友紀「あっはっは、ちょっと怖がらせ過ぎちゃったかな」

ありす「怖いってレベルじゃないですよ！」

友紀「いやーあたしも自分で言いながら引いちゃったよ」

ありす「う、うぅ……」

ありす「……はっ」ﾋﾟｺｰﾝ

ありす「友紀さん、論破ですっ！」

友紀「へ？」

ありす「緒方監督は『パンツを洗わない』とは言っていないのでは？」

友紀「……んー、そういえばそうかも？」

ありす「つまり……毎日お風呂に入るタイミングでパンツを洗濯して乾燥機に入れ、風呂上りに乾いたパンツを履く……」

ありす「こうすればパンツを替えなくても腐海は発生しません！」ﾛﾝﾊﾟﾃﾞｽ

友紀「あーそういうのもアリかー」

友紀「でもこのゲン担ぎって『ツキ』を落とさないことが重要そうだからパンツに『こびりついているモノ』を洗うのは本末転倒に……」

ありす「友紀さんそろそろアイドルとしてアウトだと思います」

友紀「誰も聞いていないし平気平気」

ありす「私が居るんですけど……」

友紀「気になるなぁパンツの真相」

ありす「まだ引っ張る気ですか」

友紀「1人の野球人としては知らずにはいられないよ」

ありす「……うーん、巴さんのご実家の方とか……何か知っていらっしゃるかもしれませんね」

友紀「あぁ、広島で手広く事業をやっているんだっけ」

ありす「球団とも何か付き合いがあるかもしれません」

友紀「そうだね、ダメ元で聞いてみよっか。観戦に行ったら匂いを嗅いだって人もいるかもしれないし」

ありす「そこまで洗濯してない説を推しますか……」

☆

ﾃｸﾃｸ

ありす「巴さーん」

ありす「巴さーん！」

ありす「……」

ありす「これだけ探しても見つからないとなると……事務所内に居ないのでは」

<ｱﾘｽﾁｬｰﾝ

ありす「えっ？」

友紀「ありすちゃ……あっ、いたいた！」

ありす「巴さんはーーー」

友紀「そのことなんだけど、今ちひろさんに聞いてみたら……！」

★☆☆

ちひろ『巴ちゃんですか？』

ちひろ『今、事務所には居ませんよ。女子寮の共同調理室に居ると思います』

ちひろ『え？調理室で何を？……たしか、パ……』

★☆☆

友紀「調理室でパンツを……って、言ったんだよ、ちひろさんが！」

ありす「えぇっ！？……じゃあ、まさか……」

友紀「そう……熱心な広島ファンの巴ちゃんは、緒方監督にならって自分もゲン担ぎを実践していて……」

ありす「連日の勝利に喜ぶも、替えられないパンツに悩む日々……」

友紀「女子寮の大浴場で毎日同じパンツを洗うわけにもいかず、暑さと湿気も伴って巴ちゃんは徐々に壊れ始める……」

ありす「そんな時に気付いたのが……共同調理室に存在する『加熱機器』と『水道』……」

友紀「巴ちゃんはあられもなくノーパンでパンツの乾燥を待……って、言ってる場合じゃなーい！」

ありす「これは……巴さんのアイドル生命、いえ、女の子としての危機です！」

友紀「ありすちゃん！調理室へ行こう！」

ありす「ええ！巴さんの目を覚まさせないと」

友紀「教えてあげるよ巴ちゃん、女の子には広島の勝ち星より大事なモノが有るってことを………！！」

☆


ちひろ「友紀ちゃん、これは説教&減給ですねぇ……人の話は最後まで聞くのが大事ですよ」

☆

【女子寮・調理室前】

友紀「はぁっ、はぁっ、着いた……」

ありす「巴さん……どうか、無事でいて下さい……」

友紀「ありすちゃん、ここはあたしがドアを開けて様子を見てくるよ。中がどんな状況か……全くわからないから」

ありす「……分かりました。年功序列と行きたいところですが先鋒は任せます」

友紀「うん、行ってくるよ……」

友紀「巴ちゃん……」

友紀(大丈夫……あたしはどんな巴ちゃんだって受け入れるから)

友紀(たとえ……ノーパンの巴ちゃんでもーーー！)

ｶﾞﾁｬ

(……入り口正面には、誰もいないか……ん？)

～～♪

友紀(……広島の応援歌だ)

友紀(それにこの甘ったるい匂いは……)


巴「～～～♪」

ｸﾞﾂｸﾞﾂ

巴「んー、いい香りじゃ。やはり高級な苺は違うのぅ」

巴「さぁて、茹で具合は……」

ﾊﾞﾀﾝ

友紀「……」

ありす「どうでしたか？」

友紀「誰も居なかったよ」

ありす「そんなわけないでしょう。物音が聞こえるし、何か良い香りが漂ってきていますよ」

友紀「キノセイダヨ、事務所に戻ろう」

ありす「ん？……この香り……どこかで……」

<ｶﾞﾁｬ

巴「おう、どうしたんじゃ二人とも雁首揃えて」

友紀「あっ……」

☆

ありす「勝利した翌日は苺『パスタ』を食べる……これがゲン担ぎですか。赤いですし広島にピッタリですね」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

巴「1人は敵とはいえ、広島の勝利を願ってくれるのは嬉しいのぅ」

ありす「友紀さんの早とちりのおかげです」ﾁｭﾙﾁｭﾙ

巴「お？……どうした友紀、あまり食が進んでないようじゃが……具合でも悪いんけ？」

ありす「巴さん、おかわりいいですか？」ｺﾄｯ

巴「あぁ、ありすは成長期じゃからな、たんと食べるとええ」




友紀「」ﾁｰﾝ

おしまい。以下蛇足

ｶﾞﾁｬ

ありす「おはようございます」



巴「」

友紀「」



ありす「あっ……」

ありす「そんなに酷かったんですか昨夜の試合は」

巴「おぉ……ウチはまだマシじゃったが」

友紀「うぅ……もう何も信じられない……相川も澤村も実松も何もかもおかしいよ」

巴「ふぅ……まぁ、流れを切り替えることが大事じゃな」

巴「12連勝は成し遂げられんかったが……それよりとにかくウチは優勝を見たいんじゃ」

巴「勝ち越して貯金を作ることが何よりも大切じゃ。今年こそ広島が優勝するんじゃけぇ！」



ありす「えっ、週刊ベースボール……ですか？」

友紀「そうそう、7月6日に発売なんだけど。広島特集をやるから、興味があるなら買ってみるといいよ」

ありす「分かりました。発売日に探してみます」

友紀「うんうん」

巴「おい」

友紀「……あたしはまだ、諦めてないからね」