王「………は?」
勇者「いえ、この装備です。チェンジで」
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勇者「これから魔王討伐に出るのに渡される装備が『革鎧』と『棍棒』って。
普通に町の武具屋にお手頃価格で売ってますよ」
王「しかし、初期装備なのだからそんな物であろう?」
勇者「だったら尚の事強力なの下さいよ。
この装備だと、旅立っても暫くは町の近くでスライム相手にレベル上げの毎日ですよ?」
王「うーむ……」
大臣「王よ、勇者様の言う事も尤もかと。
…それに、これは他国への政治的な牽制にもなるやも知れません」
王「ふむ、それもそうじゃな…よし。
勇者よ、新しく武具を用意するとしよう。
明日もう一度ここへ来るがよい」
勇者「分かりました」
――― 次の日 ―――
王「では勇者よ、装備を受け取るがよい」
勇者「………」
王「どうした勇者よ」
勇者「…いやこれ特に変わり無いんですけど」
王「何を言うか、良く見るがいい」
勇者「良く見るも何も…革鎧も棍棒もそのままですよ?」
王「はっはっはっ、同じに見えるか。
では、鎧の裏を見てみるがいいぞ」
勇者「鎧の裏?…えーと…」ゴソゴソ
王「裏地に昇り龍を刺繍しておいた」
勇者「防御力関係なかった!田舎のヤンキー仕様だコレ!!」
大臣「良くお似合いです勇者様」
勇者「裏地だよ!分かんないよ!!」
王「さらに兜も用意してある」
大臣「こちら、モヒ冠にございます」
勇者「ますますヤンキーに近付いただけなんですけども」
王「そして棍棒の方にも改良を施してあるぞ。
持ち手の所を見てみよ」
勇者「持ち手?あれ、何か彫って…」
王「職人の手でシリアルナンバーとお主の名前を彫り込んである。世に二本と無い一品じゃぞ」
勇者「深夜の通販の包丁か!!
しかもシリアルナンバー004だよ!001と2と3どうした!!」
大臣「…以前、旅立って帰って来られなかった勇者様達の番号です」
王「永久欠番と云うヤツじゃな」
勇者「縁起悪いわぁ!」
―――――
―――
―
王「どうした、まだ何か不服か?」
勇者「何故これで納得すると思ったのかを問い詰めたい気分です」
王「わしの若い頃はこれにボンタンでカチ込んだと云うのに」
勇者「あなたは何処の生まれなんですか」
大臣「確か王の出身は北Q…」
勇者「具体的な地名はいいです。
じゃ無くて!強力な武器防具って言ってるのに何故に刺繍だの名前だのを入れようと思ったのか」
王「ふむ。ならば、次こそはしっかりした物を用意しよう。
明日もう一度ここへ来るがよい」
勇者「そのセリフ昨日も聞きましたけど…分かりました」
――― 更に次の日 ―――
王「さぁ勇者よ、今度こそ受け取るがいい。熟練の職人が仕上げた最高級の品じゃ」
勇者「……」
王「カラーバリエーションも十色用意してある。
好きな色を選べ」
勇者「………」
大臣「更にはこの革鎧、中にA4ファイルまでなら折らずに入れられる程の収納性を持っております」
王「この鎧を身体の前後に背負って装備すれば防御力と共に収納量も倍にUPするな。
何なら両手にも装備すれば四倍だ!」
勇者「…いやこれ革鎧って言うか……」
王「武器も用意してある。革鎧の中を見よ」
勇者「…武器……」ゴソゴソ
王「さすがに棍棒のままでは何なので、削って細身に仕上げておいた」
大臣「中空構造にして更に肉抜きをし、軽量化もしております」
勇者「…」スッ チャララーララー チャラララララー♪
大臣「おぉ、棍棒に息を吹き込むと澄んだ音色が!」
王「うむ、何とも素晴らしい装備となったな!
では勇者よ、今度こそ魔王討伐に旅立つがよい!」
勇者「…あの、一つ良いですか?」
王「何じゃ、勇者よ?」
勇者「もうこれ勇者じゃない!学校帰りにジャンケンで負けた人ぉぉっ!!」
―――――
―――
―
魔王「側近、側近よ!」
側近「は、ここに…いかがなされましたか魔王様?」
魔王「うむ、少々相談がある。これの事なのだが…」
側近「魔王様の装備、ですか?
勇者が向かっている、との事ですので最高位の装備を御用意致しましたが…」
魔王「それなのだが……
少し、大袈裟過ぎないか?」
側近「大袈裟、と申しますと?」
魔王「例えばこの鎧」
側近「魔界最高の鍛冶職人が作った『極武の鎧』ですな。
こちらは『鬨の兜』
剣は『橙柑刀・王煉地』盾は『眼崙の盾』
いずれも最強最高のアームズです」
魔王「あぁうん、それは分かっておるのだがな…」
側近「魔王様?」
魔王「…少々、盛り過ぎな気がしてな」
側近「盛り過ぎ?」
魔王「勇者が向かっていると云う報だけでここまで装備するって、『あれ、魔王ビビってんの?』とか思われないか?
それに、コレクターとしては弱い装備も全てコンプリートしておきたいし最初から最強装備と云うのも…」
側近「はぁ?」
魔王「そもそもこれ重過ぎる。
装飾もゴテゴテ付いててトゲトゲが痛いし、やたら豪奢で何か使うのに気が引ける。
もう少しシンプルな方が我の好みだ。
いっそ、棍棒とか革鎧とかで良くないか?」
側近「何言ってるんですか貴方は!
何処ぞの世界に棍棒と革鎧で武装した魔王が居ますか!過剰な装飾も威厳を出す為です!文句言わずにちゃんと装備してて下さい!!」
魔王「いやしかし、これトイレ行くのもかなり大変なのだが…もう着ぐるみに近いし、何かスーツアクターの気分」
側近「我慢して下さい!!」
魔王「えー…」
―――――
―――
―
魔王「…結局、この装備のままで居る事になってしまった…」
魔王「はぁーー……、きっと勇者は旅の途中で色々な装備を収集しながら来るんだろうなぁ…」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
勇者「…結局、普通に革鎧と棍棒で旅立ちさせられてしまった…」
勇者「はぁーー……、きっと魔王はちまちま武器集めなんかしなくても、最初っから最強の装備で待ち構えて居るんだろうなぁ…」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
勇者・魔王「「うらやましい……」」
-Fin-
世の中ってままならない
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