【艦これ】加賀「猫ちゃんかわいいにゃ~よ~しよしっ」景雲「」パシャッ (50)





猫「なお~」ゴロリ

加賀「ふふふ、よしよーし……」ナデナデ

加賀「すごくコロコロしてるわ……」ニコッ

猫「にぃー」

加賀「……ふふっ」







景雲「」パシャッ パシャッ

加賀「」ビクッ






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それは、ある日のお昼下がり……私が鎮守府のすぐ外で、ある子猫と出会った時のこと。

私は日ごろの人との接し方において、(そのつもりはなくとも)愛想が無いと思われてしまうことがよくあるそうです。
不本意ながらも私自身、そのことはしっかりと自覚をしているつもりでした。

……しかし、いくら無愛想とはいえ、私だって一人の艦娘です。
このように気持ちの良い午後の時間に一匹の子猫を可愛がり、至福の波に呑まれたいと思う時だってあります。

そんな、私の隠れて過ごしたい日常の一場面を、からかい半分で覗き見る者が現れたとき……。



ブロロロロロ……

ガガガッ

ヒュルルルルル……

グシャッ!


瑞鶴「あぁーっ!私の景雲~っ!!」バッ



私の取るべき行動は一つでした。








瑞鶴「なんてことすんのよ一航戦!」

瑞鶴「景雲を本当に艦載機で撃墜するなんて~っ!」

加賀「それはこちらの台詞です……」ハァ

加賀「その新型の偵察機を使って、貴女が何をしようとしていたかは容易に想像できます」

加賀「そうやって人の弱みを握ろうなんて、卑怯者の行……」



景雲「」ボロッ…

瑞鶴「どうしよう……景雲が全く動かなくなっちゃった……」ヘナッ…

瑞鶴「私の……景雲が……ぁ……」ポロ…ポロ…

加賀「……」








瑞鶴「あ……ぁ……」ポロ…ポロ…

加賀「……今回の非は貴女にあります」

加賀「それに新型とはいえ、私の艦載機で容易に落とせるようでは性能も知れているわ」

加賀「これに懲りたら、おとなしく鎮守府に戻りなさい……いいわね?」

瑞鶴「……」ポロ…ポロ…


スッ…

瑞鶴「……」トボ…トボ…

加賀「……」








加賀「はぁ……」



どうやら今回、瑞鶴も反省はしているようです。
涙を抑えつつ、それ以上の文句も言わずに、そのまま静かに鎮守府へと帰っていきました。

それを見届けた後……私は彼女が景雲を拾い忘れ、この場に残して行ったままだということに気が付きました。



よく見てみると、その特徴的な胴体の中央にできた無数の穴から、もくもくと黒煙が立ち登っています。

つまるところ……私は迎撃の際、この機体の発動機を撃ち抜いてしまっていたことが分かったのです。








景雲の「ハ70」は彗星と同じ発動機を並列に繋げた特殊なもので、鎮守府の設備では修理が難しいと言われていました。
戦闘外の……しかも瑞鶴の悪ふざけが元で起こった事故のため、軍令部に本格的な修理を打診することもはばかられます。


彼女が涙を流して悲しんでいた理由が、ここに来てようやく理解できました。

同時に瑞鶴が改二となり、ほとんどの空母が扱えなかった景雲を受領した時の、あの嬉しそうな顔が頭に浮かびます。



猫「にゃ~」ゴロゴロ

加賀「……」

加賀「いささか、やりすぎました……」シュン








……仕方がありません。

私はその場で壊れたままの景雲を手に持ち、手持ちの道具でそのまま破損個所の修理に移りました。



加賀「……」カチャカチャ

加賀「……だめね……」ハァ


しかし、整備においてずぶの素人である私がそれをどうこうできるはずもなく、時間だけが刻一刻と過ぎていきます。
手がオイルで黒くなる中、私は次第に胸を締め付けられるような思いに駆られてゆきました。

元々彼女が悪いとはいえ、人の大切なものを私が壊してしまったことに……変わりはないのですから。








……そんな時でした。

私の背後より、一人の御老人の声が聞こえてきたのです。



「おぉキッカ……こんなところにいたのかい」


私が後ろを振り向くと同時に、今まで隣で気持ち良さげに寝転がっていた子猫ちゃ……子猫が、その御老人の下へ駆け寄っていきました。
おそらくキッカとは、この子の名前なのでしょう。

御老人は私に気が付くと、声をかけてくださりました。


老人「こんにちは」ペコ

加賀「……こんにちは」ペコ








老人「お休みのところ、すまなかったね」

老人「うちのキッカがご迷惑をおかけしなかったかい?」

加賀「いえ……そんなことは」

老人「そうか、それはよかった……」ヒョイッ

猫「にぃ」ジタバタ

老人「……ん?」チラッ



老人「こりゃまた……懐かしいものと出会えたなぁ……!」

加賀「へ?」








老人「景雲だよ景雲!」

老人「これはお嬢さんの持ち物なのかい?」

加賀「いえ、身内の物ですが……」

老人「そうかそうか、はははっ」

老人「それにしても実際に動くようになってるのか……よくできてるなぁ!」

加賀「そうですか……」



加賀「……でも、それはもう動きません」

老人「ん……?」

加賀「実は……」








老人「あははは、なるほど」

老人「それが原因で、こいつと巴戦をやっちまったと!」

加賀「えぇ……」

加賀「実のところ、これを直すことが出来ずに困っています」

老人「ふむ……」

加賀「もし心当たりが御座いましたら、お近くに住まわれている方で」

加賀「腕の良い修理工をご紹介いただきたいのですが……」シュン



老人「……なら、うちに来ると良いだろう」ニコッ

加賀「え?」

老人「ちょっち、付いてきてくれ」フフッ

加賀「えぇっ、あの……」オロオロ




この辺りで寝かせて頂きます。

お読みいただいた方の思っていた話とは違うかもしれませんが、
それでもよろしければお付き合いいただけるとうれしいです。

ありがとうございます。




………………
…………
……



老人「ささ、さんざ散らかってるが……入って入って」ニコニコ

加賀「……ここは……」



案内していただいた先は、いかにも町工場といった佇まいの自動車修理工場でした。

工場内に響き渡るのは、外の錆びついたトタン波板が風でたわむ音と、私達の足音だけ。
しばらくして場内のどんつきにあったデスクの前で足を止めると、御老人はそこにあった事務椅子に座るよう促してくださりました。



老人「ここは、今はせがれが経営しとる自動車の修理工場なんだが……」

老人「不景気なもんで、今日は仕事が全く入っとらんらしい」

老人「……まぁ関係ない、わしはわしで、“老後の楽しみ”をもっぱらここで行っておる」

加賀「老後の楽しみ……ですか」

老人「あぁ……」

老人「根っから機械いじりが好きなものでね」ニコッ








老人「こう見えても、昔は航空機のエキスパートだったんだよ」

老人「“かいぐんこうくうぎじゅつしょう”……知ってるかい?」

加賀「……存じ上げています」

老人「ははは、そうか……感心なお嬢さんだね」カチカチ

パカッ


海軍航空技術廠……それは、先の大戦中に海軍で設置された、航空機専門の研究機関です。
私達にとっても馴染みのある艦載機“彗星”、そしてこの“景雲”も、かつて彼らの設計によって生み出されたものです。

景雲の点検口を手際よく開き、真剣な眼差しで点検に取り掛かる彼の姿を見て、私は胸を撫で下ろしました。

まさか、こんなところで実機の開発に携わっていた方と出会えるとは、願ってもない幸運でした。
これなら、上を通すことなく穏便に解決できる……そう思っていたのです。









老人「あー……こいつはエンジンを換えちまわないとな……」

老人「……もう、元通りにはなんないかもしれないねぇ」

加賀「……!?」



しかし、景雲を見た彼の第一声とその結論は、意外なものでした。









加賀「……直りませんか」

老人「直らないわけではない……」

老人「先にも言ったとおり、実物を見るのはこれが初めてだが……」

老人「実は、あんたらが模型大の航空機を使って戦っとるという噂は、かねがね聞いておった」

老人「だから、こういうこともあるだろうと、それに合わせたエンジンを独自に作っていたのだが……」


大変嬉しいお心遣いです。

……しかし、それなら尚更……


老人「だが……こいつのエンジンは半ワンオフといってもいい代物でな」

老人「要は、アツタ液冷エンジンを並列にしたものなのだが……」

老人「ただ並べればいいというものでもないんだよ」

老人「だから、これを一から作ろうとすれば……一年はかかるな」

加賀「一年……」








老人「どうかね、素直にあんたらのお偉いさんに謝って」

老人「こいつを直してもらうように打診してみては」

加賀「…………」




一年といえども、今の私にとっては気の遠くなるような時間です。

日ごろ、元気すぎてう鬱陶しいくらいだった瑞鶴が更に深く悲しむ顔が、容易に想像できました。


……もう、他に方法はありません。

彼女がそうしたいというのであれば、私も一緒に頭を下げる覚悟を決めました。









加賀「……」シュン

加賀「……お手数を、おかけしました」

加賀「これで失礼します、ありが……」


老人「……ぷっ」

老人「はははっ!」ケラケラ

加賀「!?」









加賀「……どうして笑うのですか」

老人「あんた、顔に見合わず……なかなか熱い所もあるみたいだナ」ニヤニヤ

加賀「……おっしゃっている意味が、よく分かりません」ムッ

加賀「もう、景雲はこちらで修理致します、ですから……」

老人「まぁ待ちなさい」クスッ



老人「元通りにはならんが……とっておきの良い方法がある」ニヤリ

加賀「え……?」



その時の御老人のお顔は、まるで子供のような悪戯心を含んだ……とても良い笑顔でした。








………………
…………
……


デスクへと向かった彼は再び真剣な眼差しとなって、景雲の修理に取り掛かります。


カチャカチャ

加賀「……すみません、おじいさん」

加賀「見ず知らずの私達のために、こんな……」シュン

老人「…………」


老人「……なぁに、誰しも内緒ごとの一つや二つ……あって然るべきだ」

老人「そう思わないか?」

加賀「…………」

加賀「……それは、分かりません」








老人「……ま、これはわしのキッカと遊んでくれた礼だと思ってくれれば、それでいい」

老人「それに、わしの方こそ……久しぶりに“気分が高揚して”おるものでね」フフッ

加賀「……それは、どういうことですか」

老人「…………」



老人「……昔、やり残した仕事があったんだよ」

老人「いや……正確には、達成はしているんだが……」

老人「それもまた、ロクでもない使われ方をされようとしていてな」

加賀「?」








老人「……へへっ、お嬢さんは知らんでいいことだな」

加賀「……そうですか」

老人「まぁとにかく、“こいつ”を真っ当に使ってもらえる時代がようやく訪れたんだ」

老人「いつか、この空にもう一度飛ばしたいと思って作っておいた“こいつ”をな」



老人「身体は老いても、心が未だにチャレンジを求めておる……」

老人「これは、そんなわしに巡ってきたチャンスでもあるんだ」

加賀「……」

老人「せっかくの内緒事、とことん付き合ってもらうよお嬢さん」フフ



……私はこの時、彼の言っている言葉の含みを理解できずにいました。








それからしばらくして……。



加賀「…………」コクッ…コクッ

老人「…………」カチャカチャ…



老人「……よしっ、できたぞお嬢さん!」

加賀「……っ!」ハッ



“船を漕いでいた”私は、御老人の声によってようやくこちらの世界に戻ってくることができました。

工場の窓に目線を配ると外は既に暗くなっていて、彼のデスク上には壊れた発動機とプロペラ、スピナーの一式が置かれていました。









加賀「おじいさん、もしかしてこれは……!」

老人「あぁ……そうさ」フフッ



老人「ちゃんと飛べるか、保証はできんがね」クスッ

老人「なんなら、明日の昼間にもう一度ここに来なさい」

老人「今日はもう、暗いからなぁ……」

加賀「……」




加賀「……おじいさん……感謝いたします」ニコッ

老人「こちらこそ」ニコッ



……
…………
………………







翌日……


瑞鶴「…………」トボ…トボ…

加賀「……」スタスタ



瑞鶴「あ……」

加賀「……瑞鶴……」

瑞鶴「…………」

 

瑞鶴「……ごめんなさい」









瑞鶴「……昨日は……私もさすがにやり過ぎたわ」

加賀「……」

瑞鶴「景雲のことも……気にしなくていいから」シュン

加賀「……」



加賀「二度目は無いわよ、五航戦」

加賀「ついてきなさい……」クルッ

瑞鶴「え……?」



……
…………
………………







猫「にぃにぃ」

加賀「よしよし」ナデナデ

瑞鶴「加賀さん……ここは?」

加賀「……この子猫の住処よ」

瑞鶴「?」



老人「おぉ、来たか!」

加賀「……こんにちは」ペコ

瑞鶴「こ、こんにち……は?」ペコッ

老人「こんにちは」ニコッ


老人「と、いうことは……この子があの景雲の……」ニヤ

加賀「えぇ……そうです」ニコ

瑞鶴「え、え……なんで二人して、そんないい顔を?」オロオロ

瑞鶴「っていうか、おじいちゃん……だれ?」








老人「さぁ、とくとご覧あれっ」

老人「これが、生まれ変わった君の景雲だよ!」バッ



景雲改「」ジャーン!



瑞鶴「加賀さん、この景雲……プロペラが付いてないよっ!?」

加賀「えぇ、そうね」

瑞鶴「……直そうとしてくれたのは凄く嬉しいけど」

瑞鶴「これじゃ、飛べないよ……」シュン

老人「……ふふふ」








加賀「瑞鶴、良いから……あなたの装甲甲板でそれを回してみなさい」

瑞鶴「…………」

瑞鶴「……うん……」カチ



キイイイイイイイイィィィィィィィィィィィッ!



瑞鶴「!?」

加賀「っ!」

老人「おぉ……!」

猫「フシーッ」ダダダッ








瑞鶴「あはは……す、すごい……!」

瑞鶴「これって……もしかして噴進式なのっ!?」

加賀「そうよ、瑞鶴」クスッ

老人「これは昔のターボジェットエンジンに改良を加えたものだ」

老人「やはり、この大型の機体にはよく馴染むな……良い音だよ」ニコッ

瑞鶴「すごい……ホントにすごいよっ!」ピョンピョン



瑞鶴「ねぇ、さっそく飛ばしてもいい!?」クルッ

加賀「えぇ」

老人「民家にだけは、絶対に落とさないでくれよ」ヘヘッ

瑞鶴「うん!」ニコッ








ゴロゴロゴロゴロ……

キイイイイィィィィィン……



瑞鶴「わぁ……!」キラキラ

加賀「さすがに気分が高揚します……!」ワクワク

老人「…………」



従来エンジンにはない、重みのある独特のエンジン音が、青く晴れ渡る大空にこだまします。

緑に塗られた景雲が私達の頭上を高速で飛び回り、その様子を三人で仰ぐように口をあけて眺めていたその時……
私は恥ずかしながら、顔のほころびを抑えることができませんでした。

しかし……今思えば、それでもよかったのだと思います。








老人「……」ポロ…ポロ…

瑞鶴「あれ、おじいちゃん泣いてるの?」

加賀「…………」

老人「……仕方ないだろ」グスッ

老人「わしの……わしの、長年の夢だったんだからなぁ……」ゴシゴシッ

加賀「おじいさん……」



先の大戦において、空技廠がかの国の技術を元に開発したジェットエンジン……
及びロケットエンジンのほぼ全てが、末期の特攻兵器のために使われてしまったそうです。

今思えば……御老人にとって、それはたまらなく悔しいことだったのだと思います。








老人「……」ポロ…ポロ…

瑞鶴「あれ、おじいちゃん泣いてるの?」

加賀「…………」

老人「……仕方ないだろ」グスッ

老人「わしの……わしの、長年の夢だったんだからなぁ……」ゴシゴシッ

加賀「おじいさん……」



先の大戦において、空技廠がかの国の技術を元に開発したジェットエンジン……
及びロケットエンジンのほぼ全てが、末期の特攻兵器のために使われてしまったそうです。

……御老人にとって、それはたまらなく悔しいことだったのでしょう。








瑞鶴「おじいちゃん……ありがとうね!」ニコッ

加賀「私からも……改めてお礼申し上げます」ペコリ

老人「……ははは」


老人「歳を取っても、やはりチャレンジは続けてみるものだな……」

老人「こんな老いぼれでも、若い者の役に立てたのだからな……」ニコッ




瑞鶴「よぉし!このパワーアップした景雲で、もう一度加賀さんの私生活を覗いてやるんだから!」

加賀「……」ゴゴゴゴゴ…

瑞鶴「……冗談です、はい……」シュン

老人「あっはっは!」ケラケラ

猫「にぃ……」




それは、ある穏やかなお昼下がりの出来事でした……。




終わり




技術者のお話は、僕も気分が高揚しますねぇ(ねっとり)

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年04月11日 (月) 00:14:41   ID: gwBX4IEo

感動しました。

2 :  SS好きの774さん   2016年11月27日 (日) 14:32:15   ID: 2sauqL0f

こういうssほんと好き^^

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