響「我が輩の猫である」 (17)

 「読むだけ無駄」と申し上げておきました。

 雪歩「君はお煎餅」http://ss.vip2ch.com/jmp/1458807822

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 猫は私の前まで来るとボトッと鼠を足元に落とす。落ちた瞬間に凄まじいスピードで走り出す鼠。

 テレビ台の下に逃げ込む鼠。呆然とする私。

 猛烈な勢いで追かける猫。テレビ台の下に鼻を突っ込む猫。シャーッと奇声を上げる猫。手を突っ込んで、引っ掻き回す猫。あきらめる猫。その場に座り込むと毛繕いを始める猫。

 私は(よし、殴ろう。)と決心した。

 鏡の前でタンスしている所をアンマーに見られた。アンマーの蔑んだ眼が痛かった。悲しい気持ちで部屋に戻る。猫が自分のシッポを追かけてぐるぐる回っていた。

 昨日よりも今日、少しだけ優しい気持ちになれるかもしれない。(今日は一緒に寝よう?)と目で語りかけると猫は寄り添ってニャーンと鳴いた。

 十五分後、にぃにが(寒い寒い。)とつぶやきながら部屋に入ってきて猫を強奪して行った。

 にぃには猫が好きすぎてたまに発作を起こす。猫を捕まえると両手で持ち上げて顔をぺろぺろ嘗める。猛烈に抵抗する猫。にぃには多少引っ掻かれたぐらいではびくともしない。顔がぐっしょりぬれてきた頃には、手も足も尻尾も力なくぶら下がっている状態。にぃには満足すると手を離す。

 その場に崩れ落ちぐったりして動かない猫。陵辱された猫を見てなぜかニヤニヤするおじー。ニヤニヤするアンマー。(なんか、嫌な家族だなぁ。)としみじみ思う私。

 おじーの部屋から凄い音がして怒号が聞こえてきた。何事かと向かう途中、走り去る猫とすれ違った。

 おじーは(あの痩せ猫を、殺してやる。)と物騒な事を言っている。手に持ったこけしの首がもげていた。

 その日一日、猫は姿を見せなかった。

 夜、なにか不安になっておじーの部屋の様子を見に行った。やっぱり、奴はおじーの布団の上で箱座りしていた。おじーは苦悶の寝顔でう~う~言っていた。

 奴は、殺られる前に[ピーーー]気だ。

 おじーが猫カーペットに正座してテレビを見ていたときだった。後ろから歩いてきた猫がリモコンを踏んだ。

 テレビの画面が変わった。

 おじーが(おっ、おばぁか?!)と叫んだ。

 猫が家を出たきり帰ってこない。

 一週間程度帰ってこないことは何度かあった。が、こんなに長いのは初めてだ。にぃにはプチ廃人になっている。日曜日の朝、おじーが猫を探しに家を出て、夜遅くにパトカーで帰ってきた。

 それからおじーは猫カーペットに座らなくなった。(俺が猫のカーペットを奪ったのが悪かったのか…。)と頻りに気にしている。(それは関係ない。もしそうだとしても今更遅いっての!)と私は思った。

 今日も猫は帰ってこなかったけど、私は、少しだけおじーのことが好きになった。

 中学の夏休み、私は夏目漱石の岩波判全集を読破しようと市の図書館に通いつめたことがあった。感想文で『坊っちゃん』を題材にしたものを書いたのがきっかけだった。

 そのなかに『猫の墓』と題した文章があった。

 小説家としての夏目漱石を有名にしたあの「猫」は、実際は溺れ死にでなく衰弱して死んだという。台所で硬くなって死んでいたそうだ。

 衰弱して座布団に粗相する猫にひどく冷淡な漱石の妻だったが、死んだと聞くとわざわざその死に様を見に行った。そして墓をつくって墓標をたてるから何か書いてくださいと頼んだという。

 そして漱石は、

 『此の下に稲妻起る宵あらん』

 と詠んだ。でも、当時の私はこの句に何が込められているのかよくわからなかった。

 綺麗ずきなアンマーが(家を汚すから)といって、長いこと猫を飼うことはできなかった。でもふとしたきっかけで飼うことになった。一緒に暮らして、明るさや感情の変化で猫の目がいろいろ変わるを知った。

 たしかに真っ暗な夜に外を走る猫の目は稲妻のように見えた。そのときふとこの句を思い出し、実際の解釈がどうだか俳句に暗い私には判らないが、漱石は死んだ猫にたまにでいいから目を光らしてくれと頼んでいるのかなと解釈した。やっと胸のつかえが取れたのを覚えている。

 その漱石も宿痾に倒れ、大正五年に亡くなった。没後、今度は門弟が漱石にこんな句を詠んだという。

 『凧やあの世も風がふきますか』

 時間が経ってからはもう道路脇で硬くなって死んでいる猫を想像することもない。でも猫の好きだったススキもあの世で風に揺れていればいいなとは、今でも思っている。

どんとはれ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月27日 (日) 08:27:35   ID: DdC95f9D

面白かったが、ひょっとして之は艦これじゃなくてアイマスなのか?

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