老魔女「愛しの小僧に応えて一肌脱いでやろう」 (43)


少年「え、お婆ちゃん脱ぐの……?」

老魔女「誰が服を脱ぐと言った、生意気な小僧に手を貸してやると言ったのさ」

少年「本当!?」

老魔女「何処で噂を聞いたかは知らないがね、あの森を抜けて私の所へ来るとは良い度胸だ」

老魔女「こんなババァに恋の相談とは、目の付け所が良い」



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老魔女「まぁ座りな」

少年「うん」スッ

老魔女「それで、お前さんが想いを寄せている少女について聞こうじゃないか」

少年「えへへ……その子の名前は『少女』、僕の村の教会に住んでいる子なんだ」

老魔女「シスターか」

少年「ううん、ずっと前に教会に連れてこられて、そのまま住んでるんだって」

老魔女「へぇ、だとしてもいずれはシスターになる娘だね」

老魔女「続けな」

少年「うん」


少年「その子はとても綺麗な金色の髪で……」

老魔女(初めて見る髪色に心をまず動かされたね)

少年「それから頭も良いんだ、初めて会って間もない時、僕が読めないでいた本を一緒になって読んでくれたんだよ」

老魔女(声、優しさ、そして恐らくは自分よりも物を知っている神秘性)

老魔女(中々どうして可愛らしい恋じゃないか、付け加えるなら……近くに寄られてドキドキしたって所だろう)

少年「僕はその子と毎日会っていて……」

老魔女(もうこりゃ一目惚れの域だねぇ、完全に落とされている)

少年「……お婆ちゃん?」

老魔女「なんだい」

少年「何をニヤニヤしてるのかなって」

老魔女「年寄りの癖さ、ほらまだあるんだろう? 少女の話」

老魔女「今日はまずアンタの知っている事から知らないとね」


● ● ●


老魔女「それじゃ気を付けてお帰り」

少年「うん、ありがとうお婆ちゃん!」タッ!

老魔女「お待ち」

少年「?」ピタッ

老魔女「左手を見せてみな」

少年「左手を? ……こうかな」

老魔女「……」

老魔女「ちょっと待ってな」スタスタ

少年「え?」


老魔女「これを左手の薬指に填めておきな」

少年「指輪? なんで?」

老魔女「おまじないだよ、愛しの娘を抱けなくなるのは嫌だろう」

少年「??」

老魔女「まぁ填めておいて損はない、明日ここへ来たら外しな」

少年「何だかよくわからないけど……ありがとう!」

老魔女「ああ」


老魔女「ふむ」キィ……

老魔女「若いってのは良いねぇ、私もあの位の頃があったっけ」キィ……

老魔女「住んでいた村の一番年長だったあの男、今は何をしてるかねぇ」キィ……

老魔女「……」ピタ……

老魔女「500年も経っていたら流石に死んでるか……あーつまらない」

老魔女「どれ、暇潰しに水浴びでもするかい……今夜は月が出てるしねぇ」


老魔女「たまには肌でも綺麗にしなきゃね」


────『少年の村』────


少年「行ってきまーす!」

< 「コラ、また仕事をサボって何処かへ行こうとする!」

少年「綺麗な石拾ってきたんだから良いでしょー?」

< 「……全く、仕方ないわね」

< 「良いわ、いってらっしゃい」

< 「そのお婆さんに失礼の無いようにね」

少年「はい!」タッ!



少年母「はぁ……あの子ったら何処まで行ってるのかしらね」スタスタ

少年母(本当に魔法使いのお婆さんがいた、だなんて言って……途中の森であんな大きな宝石を拾ってくるだなんて)

少年母(盗みとかしてないと良いのだけど……)


猟師「よう少年、お母さんから聞いたぞー? 森へ遊びに行ってるんだってな」

少年「おはよう猟師さん、そうだよ」

猟師「あんまり奥には行くんじゃねえぞ、お化けが出るからな彼処は」

少年「そうなの?」

猟師「おう、うちのせがれにも言い聞かせてるんだ」

< 「とうちゃーん!」

猟師「噂をすればだな」


猟師息子「父ちゃん父ちゃん! 鏃の取り付け出来たよー!」

猟師「おう見せてみろ……よし、上手く出来たな」

猟師「後で的を狙う練習だな」


猟師息子「えー、そんなの必要ないよ! 父ちゃんの見ててやり方分かるよ!」

猟師「駄目だ! 弓の持ち方もなってねぇ奴が獣一匹仕留められるわきゃ無いだろうが」

猟師息子「そんなことないって!」


少年「あはは、それじゃ猟師さん待たね!」タッ!

猟師「ん、おう! 気を付けてな!」



少年(猟師さんの所はお父さんいて楽しそうだなぁ)タッタッ

少年(僕のお父さんはいつ帰ってくるかなぁ?)



< 「ほら! 見てよ父ちゃん! おれこんなに上手く弓を引けるよ!」

< 「こら危ないだろ!!」

< 「大丈夫だよ、ほらここをちゃんと掴んでれば飛ばないんでしょ?」


少年(行く前に教会に寄ろうかな、少女が今ならお花に水をあげてると思うけど……)

< ジュゥゥッ……!

少年「っ!? あ、熱っ…! なに? なに? 指輪が熱く……!?」バッ!


────────── ヒュカッッ・・・!



少年「…………え?」

< ビィィンッ…!


猟師「馬鹿野郎!! 大丈夫か少年!?」ダッ!

少年「う、うん……僕には当たってないよ……」

少年(……でも、もう少しずれていたら…)


猟師息子「……ぁ…ぁぅ…ごめんよ少年……」

猟師「この馬鹿!! 当たってたらごめんじゃ済まねえんだぞ!!」

猟師息子「ぅっ……ぅっ……」

少年「え、と……僕は大丈夫だから! それじゃ待たね!」バッ!

猟師「あ、おいっ! 詫びさせてくれ!」


少年「急いでるからー!」タッタッ



少年「お婆ちゃん! お婆ちゃん!」

< ドンドン!

少年「大変なんだお婆ちゃん! お願い開けて!」ガチャガチャ

少年「この指輪外れないんだよ! お婆ちゃん!」


< 「何だい騒がしいね」

少年「お婆ちゃん!」クルッ


老魔女「その様子だと私の予想は当たりだね、おいで見てやろう」



老魔女「ふむ」

少年「油とか使えば外れるかな?」

老魔女「こんなことは初めてだね」

少年「どうしたの」

老魔女「まだ効力を失っていない、つまりまだお前さんは……」

少年「?」キョトン

老魔女「……」

老魔女「この指輪はね、危険から小僧を遠ざける力を持ってるのさ」

老魔女「怪我や毒、人の悪意からね」

老魔女「本来なら役目を果たしたろうにまだお前さんを守る気でいるらしい、その指輪は」


少年「……そうなんだ」

少年「じゃあさっき話した猟師さんの子供が射った矢が当たらなかったのは、この指輪のおかげなんだね」

老魔女「恐らくはね」


少年「さっき予想通りって言ってたけど、お婆ちゃんには分かってたの?」

老魔女「アンタが怪我をする事をかい」

少年「うん、それで僕に指輪をくれたのかなって思って」

老魔女「はっきりとは分からなかったがね、ババァの勘ってやつさね」

少年「あははっ、何それ?」

老魔女「女の勘よりもずっと正確なのさ、覚えときな」

少年「うん!」



老魔女「さて、今日はアンタの事を知ろうかね」キィ……

老魔女「そこの椅子にかけな、今からする質問に答えて貰うよ」

少年「うん」スッ

< キィ……

老魔女「……」

老魔女「座り心地はどうだい」

少年「ちょっと硬いけど、背中に優しい反りだね」

老魔女「揺らしてご覧」

少年「こう?」キィ……


老魔女「まず最初の質問だよ、アンタの名前は?」

少年「? ……少年だよ、お婆ちゃん」

老魔女「そうだろうねぇ」

少年「??」キィ……キィ……



老魔女「じゃ、次だ」キィ……

老魔女「アンタは想いを寄せる娘に、今日会ってきたかい?」

少年「まだだよ、それに今日は会えない日なんだ」ユラユラ…

老魔女「椅子は常に揺らすんだよ、いいね?」

少年「え、うん、分かった」キィ……

老魔女「素直な男は好かれるよ、さて今の答えだが」

老魔女「会えない日、とは何だね?」


少年「お薬を飲んだ日は安静にしてないといけないって、神父様が言ってたんだよ」

少年「2日おきにいつもそうだよ」キィ……


老魔女「薬だって?」


老魔女「病にでもかかってるのかい、その子は」

少年「元気なんだけど、健康の為って少女は言ってたよ」キィ……

老魔女「ほー」

老魔女「……次だよ、何故その事を『隠していた』?」

少年「神父様に人には言うなって言われてたの」

少年「それに、あの子の事でそれは言わなくても大丈夫かなって思ったんだ」

老魔女「なるほどそれもそうか」


老魔女「……」



老魔女「……どれ、探りを入れるのもこの辺にしとくかね」キィ……

老魔女「私の噂は誰から聞いたんだい」

少年「お母さんからだよ」

老魔女「少年のかい」

少年「うん」

老魔女「この『霧の森』に、魔女が住んでるって?」

少年「昨日、会った時はそう言ったんだけど本当は違うんだ」


少年「僕のお母さんはね、魔女に会ったんだって、この森で」


老魔女「ほう? 名前は」

少年「『少年母』だよ」

老魔女「聞いたこと無いねぇ、それにしては適当な話にも聞こえない」

老魔女「私が居たんだからね」


老魔女「さぁて、この話はここまでにしとくかい」

老魔女「紅茶は飲めるかい?」

少年「お茶? 飲めるよっ」

老魔女「なら後ろの丸いテーブルに置いてある、淹れて良いよ」


< キィ……スタンッ

少年「……?」

少年「あれ、僕何してたっけ?」


老魔女「今日はアンタの事を聞くって言って、まずは名前を聞いたろう?」

少年「そうだっけ……?」

老魔女「ああ、紅茶でも飲みながら他の事も聞かせて貰おうかね」

老魔女「少年の村での人間関係、そして少女の周囲をもっと深く……ね」ニヤリ


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