幼馴染「時間差ホワイトデー取り立て開始です!」 (20)


幼馴染「開始しちゃうのです!」

男「はあ?」

幼馴染「あ! 忘れてた顔!」

男「忘れてたもなにも、俺なんにももらわなかったし」

幼馴染「もらわなくても返していいんですよ?」

男「釣り針だけで鯛を釣る気か?」

幼馴染「くいこめー針くいこめー」

男「やめろよそのえぐい呪い……」


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幼馴染「くれないんですか?」

男「だってもらってないし」

幼馴染「何にも? 本気で?」

男「割とガチで」

幼馴染「こんなに頼んでるのに?」

男「……見た感じおおよそ頼むような態度じゃない」

幼馴染「くださいよーうくれやがりなさいよーう」

男「だってもらってないしなあ」


幼馴染「じゃあこうしましょう、君は夢破れこの街に着の身着のまま辿り着きました」

男「ん?」

幼馴染「見知らぬ土地で途方に暮れる君。それを助けたのがわたしでした」

男「いや、そんな過去ないけど」

幼馴染「というわけでホワイトデーのブツを」

男「何がというわけでだ」


幼馴染「なんで! なんで信じてくれないんですか!」

男「信じるとか以前の問題だ!」

幼馴染「……のに」

男「え?」

幼馴染「君なら騙されてくれると思ったのに……」

男「そういう方向の信頼はいらない」

幼馴染「シット」

男「こら」


幼馴染「じゃあこうしましょう。わたし実は引っ越すんです」

男「……へえ」

幼馴染「動揺! 動揺しましたね! なんかくださーい!」

男「どういう関連性があるんだ。あと動揺してない。そしてあげない」

幼馴染「ちぇー」


幼馴染「じゃあこうしましょう」

男「じゃあこうしましょうの時点で駄目なことに気づけよ。いや気づいてください」

幼馴染「うーん。あのさ、君は何ももらってないって言うじゃないですか」

男「ああ」

幼馴染「一応あげたんですけど」

男「え?」

幼馴染「覚えてないですか?」


…………


男「あれ? ……あー。悪い、シャー芯分けてもらえね?」

幼馴染「いいですよー」


…………


幼馴染「というわけでください」

男「シャー芯はチョコじゃない」

幼馴染「でも似たようなもんです」

男「どこが」

幼馴染「色」

男「他は?」

幼馴染「味」

男「ないだろ!」

幼馴染「あります!」


幼馴染「シャー芯って苦いんですよ多分! ビターチョコです!」

男「無茶言うな!」

幼馴染「似てます! 疑うならどっちも用意してあるんで食べてみてくださいよ!」

男「え」

幼馴染「まずは手作りビターチョコ」

男「むぐ!」

幼馴染「おいしいですか?」

男「あ、うん。うまい」

幼馴染「次シャー芯」

男「やめろ!」


幼馴染「ちっ」

男「怒るぞ」

幼馴染「というわけでお返しを」

男「借りた分のシャー芯は返すよ。まったく」

幼馴染「シャー芯でホワイトデープレゼントのつもりですか? 頭おかしいんじゃないですか?」

男「お前が言うな!」


男「ちくしょう疲れた。帰る」

幼馴染「あくまでくれないんですね」

男「そんな陰のある顔しても無駄だぞ」

幼馴染「……のに」

男「ん?」

幼馴染「わたしのチョコ食べたのに」

男「もらってないだろ」

幼馴染「あげましたよ、さっき!」

男「いやもらってなんか……あ」

…………

男『むぐ!』

…………


男「あれか……あれなのか……」

幼馴染「お返しください」

男「なんで今頃バレンタインチョコ……」

幼馴染「……だって、上手くできなくて」

男「?」

幼馴染「君には一番上手にできたのを食べてほしかったから……」

男「それで、時間がかかったのか?」

幼馴染「ということにしましょう」

男「え?」

幼馴染「ください。お返し」

男「なんなんだこいつは」


男「まあいいや。帰りになんか買ってやるよ。根負けだ」

幼馴染「わあい!」

男「あまり高いものは駄目だぞ?」

幼馴染「大丈夫。お金は多分いりませんから」

男「ん?」

幼馴染「わたしが欲しいのは君です!」

男「……ん?」


幼馴染「わたし、君がいないと生きていけない」

男「んん?」

幼馴染「これからずっと君と一緒にいたい」

男「んんん?」

幼馴染「というわけで新天地に共に赴きましょう!」

男「何がというわけでだ」

幼馴染「わたし引っ越すことになったんですよー」

男「……あれ? さっきのマジだったの?」

幼馴染「しかも親が両方仕事で海外に。わたし着の身着のまま天涯孤独」

男「いや全然違うと思うけど」


幼馴染「まあ細かいことはいいのでわたしと一緒に来てください!」

男「……つまり一人で不安だから俺を巻き添えにしようと」

幼馴染「でも君が好きなのは本当ですよ」

男「さらっと言うなあ」

幼馴染「だから一緒に行きましょう!」

男「無理」

幼馴染「ええ!?」


幼馴染「そんな! 何でですかー!」

男「常識的に考えてくれよ、急に言われても厳しいって」

幼馴染「うう……」

男「俺たちが一つ屋根の下ってのもいろいろ問題ありそうだしな」

幼馴染「ううう……」

男「……。まあ、だからちょっと気長に待っててくれよ」

幼馴染「え?」

男「時間はかかるかもだけど、きっとそっち追いつくからさ」

幼馴染「ほ、本当?」

男「ああ。お前みたいな変な奴、一人にしとくとやばいだろ」

幼馴染「やったあ!」


男「ま、とりあえずは帰ろうぜ」

幼馴染「はい! 駅前のクレープ買ってください!」

男「は?」

幼馴染「わたしのこと変な奴とか言った罰でーす」

男「馬鹿言うなよあそこのクレープ高いんだからな」

幼馴染「君の財布って結構中身あるんですねえ」

男「あ、てめ、いつの間に!」

幼馴染「おほほほーわたしを捕まえてごらんなさーい」

男「あーこの! 待ちやがれー!」


…………
……


終わり

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