とある愚王の後悔 (19)
民が、家臣が、誰もが私を指差し口を揃えてこう言った。
「王の器ではない」
永久から続く東の帝国との大戦の最中、国政は安定せず、誰もが飢えに苦しんでいた。勿論の事、国民はその責任を父上に押し付けデモを行い、あまつさえ狂った愚か者を殺せと罵詈雑言を浴びせ、その混乱に便乗した帝国の刺客により父上は毒を盛られ暗殺された。
そうして第一王位継承者である私が王位を継ぐことになった。
当時私は19歳。民は若き王に対し不安を露にしデモはより過激になった。私自身、自分が王に相応しくない事は理解していた。どんなに頑張ろうと私が王国を復興させることは不可能である事も。
だがある日の事である。私は天啓を得た。それはまさしく狂気に満ちた自己満足の提案。だが私はそれを甘んじて受け入れた。それはきっと間違いだったのだろうけど。国の再興だけをねがって。
これは愚王であり狂王であった私の独り善がりな懺悔である。
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異世界暦423年5月23日
天啓を受けた私はまずデモの対処に当たらせていた者を呼び寄せた。その者は数多くの汚職を重ねていると言う噂、帝国のスパイであるとの噂などが入っていた。その者が今まで罰っせられていなかったのは父上が彼は潔白だとしたからである。実際、噂の確かな証拠が出ることは無かった。だが、火のないところに煙はたたない。彼にスパイの容疑がある以上これから先の私の王国には必要のない人物であると私は考えた。
謁見の広間に来た彼は見るからに善人面をしていて、汚職もスパイ容疑もまるっきりの冤罪ではないのかと考えたが、例え彼がまるっきり潔白の身だとしても私には成さねばならないことがあると自分に言い聞かせ、活を入れる為に背筋をより一層伸ばした。
「王よ」
顔を伏せていて彼の表情は見ることができなかったが、それでもわかるほどに彼は不安がっていた。
「この度は……」
「すまない」
不意に口から出た言葉に彼は顔を上げた。そうして私の顔をじっと見つめると、ただ何もかもわかったかのように頷きそして微笑んだ。父上の言っていた通り聡明な人物のようだ。彼は私の瞳を見据えて言った。
「家族を……頼みます」
彼の瞳には涙がたまっていた。私も彼の瞳を見据え、一つ深呼吸をした。そして私は戻ることの出来ない一歩をふみだす。
「衛兵。この者を連行しろ」
異世界暦423年5月27日
彼を拘束してから4日。
処刑用の断頭台が王都の中央広場に設置された。 デモに参加していた国民たちはその異様な化け物に好奇心をかきたてられ、広場に集まりだした。
人を殺す為だけに造られた無機質で冷たいアレがこれから先、私の唯一の友となるであろう。
明日、処刑を執り行う。もしも止めるなら今日が最後のチャンスだ。
異世界暦423年5月28日
彼を殺した。もう後には退けない。
異世界暦424年5月16日
あの運命の日から一年が経った。初めは抵抗を感じていた人の死に対してはもう何も感じる事はなくなり、広場の断頭台は今では私の最高の親友だ。
日に日に強くなる民衆や家臣の恐怖心が私のしている事が決して間違っていない事の証明のようでとても心地良い。
今では法を司る者は他でもない私であり、民は皆従順に成りつつある。
今日も七人を処刑した。その誰も彼もが革命を大義名分にし、王位を狙う不届きな輩であった。死んだのは当然の報いだろう。王位を継ぐのであれば例えどんなことをしてでも民を幸せにする事ができなければ。
あと少しだ。あともう少しで現れてくれるだろう。
異世界暦427年12月19日
周りの者は我を王の器ではないと言う。だがどうだ。我が王となって3年その間に不穏分子は全て取り除き、前までの活気にあふれただただ煩かったか王都が、今では人も少なくなり静かで我がいるに相応しい都となった。
一部の者は我を魔王と呼んでいるらしいが、だがどうだ。たった、たった3年で王都は見違えた。我は正しく善王であると言えるであろう。
そう言えば何処だかの村が魔物によって破壊されたと聞いたが。
明日にでも誰かを遣わせるとしよう。
近頃、魔物活動が活発になっている。私の望む者が現れるのもそう遠くはないであろう。
異世界暦428年2月30日
どうやら私の身体は病に犯されていたらしい。今では息をするのも苦しくなっている。だがまだ死ぬわけには行かない私は……(この先は血が付いていて文字が読めない)
異世界暦428年8月4日
断頭台が壊れた。おそらくは、寿命だったのであろう。
我の命も。
異世界暦428年9月13日
近頃、勇者を名乗る者が現れたとの情報が入ってきた。その者はこちらに向かってきていると言う。まず我を殺し王国を建て直す腹なのだろう。
異世界暦428年10月21日
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
異世界暦428年11月24日
神よ、数々の罪を犯した私にチャンスを与えてくださり感謝します。
もう少し時間を私に。
異世界暦428年11月30日
勇者が来た。我を殺す気なのだろう。
返り討ちにしてくれる。我は、魔王なのだから。
謁見の広間。
そこに彼はいた。三人の仲間を引き連れて。
「よく来たな勇者よ。お前の活躍は我が耳にも入っているぞ」
そう言う私の顔を彼等は哀れな者を見るような目で睨み付けてくる。
その力強い瞳に私は惹き付けられる。この者こそ相応しい。
私は笑った。
私は……。
「王よ貴方は狂っている。貴方が生き続けるる限り民は幸せにはならないだろう」
…………………………。
私に剣が向けられた。
私は口を閉じ、そして腕を広げた。
さあ殺せ。この出来損ないの悲劇に終止符を…………。
「我が王国に永久の繁栄をッ!」
勇者の剣が私に突き刺さる。
ここは何処だろう。身体が重い。
「王よ」
聞き覚えのある声がする。
「もうお休み下さい」
私にはまだ、成さねばならないことがあるのだ。
「もう終わったのです。もう貴方は王ではない」
…………そうか。
…………………………………。
………………………………………………。
………………………………………………………………。
「勇者」
俺の名前を呼ぶ声に顔を上げる。
すると目の前に僧侶の顔があった。
「どうかしたの?」
俺が驚きのあまり口を金魚の様にぱくぱくさせていると、僧侶は手元にある洋紙の束を覗き込んできた。俺が慌ててそれを背中に隠すと
「むー」
と、不満の意を表した。
「見ても面白い物じゃないから」
「ふーん」
俺が慌てて言い訳すると彼女は渋々と言った風に引き下がった。が、目は俺の身体の後ろを凝視している。
「これは……」
「?」
「どこぞの愚王の下らん日記だよ」
そう言うと彼女は納得したようで
「そっか」
と、俺に向けて微笑んだ。
勇者殿。王国を頼みます。
一応これで終わりです。
こんな短い駄文に付き合って下さりありがとうございました。
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