穂乃果「A-RISEが紅白に?」 (22)
花陽「まだ噂ですが……。第一回ラブライブの盛況を見てもわかる通り、スクールアイドルと言えば今やちょっとした社会現象……特に若者の人気は絶大ということで、MHKもその影響力を無視できないと判断したようです」
真姫「本当なの?それ。確かに最近は色んなメディアで取り上げられることも増えてきたけど、あくまでスクールアイドルはスクールアイドル……いくら何でもそんなこと」
にこ「それが、まんざらデタラメでもなさそうよ」
穂乃果「にこちゃん」
にこ「どうやら、UDX学園の経営陣に芸能界やMHKに顔が効く人間がいるようね。それに加えて、話題性はもちろん実力も本物、第一回ラブライブ優勝グループで実績も文句無し……十分可能性はあるわ」
花陽「実際、卒業後はそのままアイドルとしてデビューするって噂もありますし……」
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穂乃果「はえぇ……凄いなあ……」
真姫「ライバルとしては悔しい部分もあるけど……さすがA-RISEね」
花陽「私はなんだか嬉しい。μ'sに入る前からずっとファンだったから……。にこちゃんも嬉しいよね?」
にこ「……」
花陽「にこちゃん……?」
にこ「え?あ、ああ、そうね」
穂乃果「とにかく凄いことだよ。もし出場したら、みんなで応援しよう!」
—しばらく後。
穂乃果「それにしても紅白なんて……もしホントに出場したらすごいなあ」
穂乃果「次の最終予選でA-RISEに勝ちたかったけど、なんだかどんどん遠い存在になっていくみたい」
穂乃果「μ'sも頑張らないと……あれ?向こうから歩いてくるのは……ツバサさん?」
ツバサ「……」
トボトボ
穂乃果「ツバサさーん」
ツバサ「!!高坂さん……久しぶりね」
穂乃果「ご無沙汰です。それより、噂で聞いたんですけど……」
ツバサ「……もう音ノ木坂まで伝わっているのね」
穂乃果「……やっぱり、本当なんですか?紅白って」
ツバサ「そういう噂があるのは事実よ。でも、私たちには何とも言えないわ。直接聞かされたわけでもないし」
穂乃果「名前が出るだけでも凄いですよ。もし出場が決まったら、穂乃果たちも応援しますね」
ツバサ「……ありがとう。じゃ、私はこれで」
穂乃果「……?行っちゃった」
穂乃果「気のせいかな。なんだか、元気がなかったみたい……」
—翌日。部室。
ガチャ
穂乃果(さーて、今日も練習して……ん?)
穂乃果(どうしたんだろ。みんながパソコンの前に集まってる)
海未「あっ、穂乃果」
穂乃果「どうしたの?みんな集まって」
ことり「穂乃果ちゃんも見て。ひどいんだよ、これ」
穂乃果「ネットの掲示板……?」
【悲報】スクールアイドル、紅白濃厚に
137 名無し
素人集団を紅白に出すとはMHKも落ちぶれたな
138 名無し
ていうかスクールアイドルって何なの
139 名無し
さすがに紅白はないだろ……一般的な知名度はまだまだだし
140 名無し
こういうのはやって欲しくなかった
141 名無し
茶の間が凍りつく未来しか見えないんだが
142 名無し
おいおいマジでこんなの出す気かよ
ガキに媚びすぎだろ
143 名無し
頼むから出ないでくれ……
144 名無し
もし出場なら大人しく格闘技みるわ
穂乃果「これって……A-RISEのこと?」
真姫「ここだけじゃないわよ。色んなところでこういう反応を見かけるわ」
絵里「確かに、名だたるプロの歌手を差し置いて出場となったら、色々と反感も買いそうね」
希「出る杭は打たれる、言うしなあ」
穂乃果「そっか……だから昨日元気がなかったのかな。ツバサさん」
花陽「!綺羅ツバサに会ったんですか……?」
穂乃果「あ、ううん。たまたま道ですれ違っただけだよ。でも、何だか落ち込んでて……ひょっとしたら、こういうのを見ちゃったのかも」
真姫「気にすることないのに。どうせ、A-RISEの成功が気に入らない人たちが騒いでるだけでしょ」
花陽「そうですよ。こんなの、みんなヤッカミで叩いているに決まってます!」
にこ「……そうかしら」
ボソッ
真姫「え?」
穂乃果「にこちゃん……?」
にこ「確かに、もともとA-RISEが嫌いなだけのアンチや、叩いて騒ぎたいだけの連中もいるでしょうね。でも、みんながみんなそうだとは思えないわ」
穂乃果「どういうこと……?」
にこ「ニコも、半分くらい理解できるもの。そんな風に言いたくなる気持ちが」
花陽「!?にこちゃん、ずっとA-RISEを応援してたんじゃないの?」
にこ「私の場合、どちらかというとライバルとして追いかけてきたつもりではあるけど……もちろんその上でリスペクトしてるし、応援もしてる。だからこそ……好きだからこそ出て欲しくない、ということもあるわ。愛情ゆえの不安とでも言うか」
希「難しいもんやね」
にこ「そこに書いてあるとおり、ブームとは言えスクールアイドルの知名度なんてたかが知れてる。それが、あんな誰もが視聴する媒体に露出したらどうなるか……」
穂乃果「それは、まあ……」
にこ「A-RISEはスクールアイドルという文脈の中でこそ輝き、それを理解するファンに支えられてカリスマ性を培ってきた存在……何も知らない一般視聴者の前という、いわばアウェーのような環境に晒されて、本来の魅力が発揮できるのかという不安は拭えないのよ」
絵里「お客さんの反応が冷たかったら、見ている方も辛くなるものよね」
海未「ひっそりと応援しているものを、それを知らない人たちと一緒にいる時に目にしたりするのは……ただでさえ気恥ずかしいものがありますから」
にこ「そもそも、出場することが本人たちのためになるかどうかもよく分からない。金儲けに利用されるだけされて、今後のA-RISEのキャリアに悪い影響を及ぼすかも知れないし。下手に露出が増えて、本人たちやファンが望まないイメージがついてしまったら……知名度の代償に失うものは小さくないわ」
花陽「うーん、私はそこまで考えたことなかったかも……ただ、紅白でA-RISEが見られたら嬉しいなぁって」
にこ「もちろん、それもファンとしての一つの反応よ。何が正しいというものでもない。でも、本当に出場という運びになったら……荒れるでしょうね、色々と」
真姫「じゃあ、にこちゃんはA-RISEの紅白出場を望まないってこと?」
にこ「それは……まだ分からないわ。自分の中で気持ちの整理がついてないというか」
希「……まあ、どっちにしてもまだ出場すると決まったわけやないからね。うちの占いでも五分五分と出てるし……こればっかりは見守るしかないんとちゃう?」
にこ「ええ。そうね……」
—その夜。穂乃果邸。
雪穂「お姉ちゃんお姉ちゃん!」
穂乃果「どうしたの雪穂?そんなに慌てて」
雪穂「聞いた?A-RISEが紅白に出るかも知れないんだって!」
穂乃果「……らしいね。今日学校でも噂になってたよ」
雪穂「やっぱりすごいなあ〜A-RISE……いきなりそんなところまで行っちゃうなんて」
穂乃果「さすがだよね」
雪穂「μ'sには声はかからなかったの?」
穂乃果「え?」
雪穂「最近じゃ、μ'sも結構評判になってるし」
穂乃果「まさか。あるわけないでしょ」
雪穂「……だよね。冗談だよ、冗談」
穂乃果「もう、雪穂ったら……」
雪穂「ああ、早く発表にならないかな。楽しみ〜」
—穂乃果の部屋。
穂乃果(……)
穂乃果(紅白、か……)
穂乃果(もしμ'sがそんなことになったら、みんなは応援してくれるのかな)
穂乃果(お母さんやお父さん、雪穂に亜里沙ちゃん、ヒデコにフミコにミカ、学校の友達……そして、ずっと応援してくれてるファンの人たち)
穂乃果(みんなが喜んでくれるなら穂乃果もうれしいけど、でも……)
穂乃果(……昼間ににこちゃんが言ってたみたいに、やっぱりそう単純なものじゃないのかな……?)
穂乃果(……)
穂乃果(!!な、何考えてるんだろ、私。こんな、ありもしない妄想するなんて)
穂乃果(忘れよう……)
穂乃果(……)
穂乃果(それにしても、ツバサさんたち、何だか気の毒だなあ)
穂乃果(誰も悪いわけじゃないのに、こんなことになっちゃうなんて)
穂乃果(どうするのがみんなにとって一番いいんだろう……)
—数日後。
真姫「いよいよね。紅白出場者の発表……」
花陽「何だか、私まで緊張してきました」
希「……あれ、今日はにこっちは来てないの?」
海未「そう言えば、姿を見かけませんね」
花陽「発表を見るのが怖いのかな……」
穂乃果「気持ちの整理がついてないって言ってたし、家で一人で見るつもりかも……」
ガチャ
にこ「いえ。気持ちの整理はついたわ」
花陽「にこちゃん!」
にこ「あれから色々と考えたけど……今は前向きな気持ちで発表を待つつもりよ」
希「どういう心境の変化があったん?」
にこ「変化というか……これで何かが変わるわけじゃない、ただのご褒美だと思えばいいんだって気づいたの。ちょっとした、ご褒美みたいなもんだって……」
穂乃果「ご褒美……?」
にこ「私たちスクールアイドルのほとんどは……報われない時代をくぐり抜けてきたはず。現在進行形でそんな経験をしている子たちだって大勢いるわ。それは私たちもよく知ってるはずよね、穂乃果?」
穂乃果「μ'sの出発点は、誰もお客さんがいなかったあのライブだもんね……」
にこ「それはA-RISEだって例外じゃない。スクールアイドルとしてはトップの位置にまで上り詰めた彼女たちだけど、結成当初から何もかも順調だったわけじゃないのよ。一般には知られていないような苦労があったという話も、私は色々と耳にしたわ」
穂乃果「へえ……」
真姫「あのA-RISEがねぇ……」
にこ「だからA-RISEの物語は—私たちスクールアイドルみんなの物語でもあるの。お客さんさんがいなくても、冷たい視線を投げかけられても、懸命に歌って、踊って、自分たちで作成したCDを買ってもらうために必死に頑張って、そんな私たちを見守ってくれるファンに支えられて……私たちはそうやって、夢を、物語を繋いできたのよ」
穂乃果「物語……?」
にこ「ええ。誰にも見向きもされなかった私たちと、誰も見向きもしないアイドルをずっと応援してくれたファンの人たちとが、一緒になって紡いできた、長い長い物語」
穂乃果「……」
にこ「その結末に待っているのが、こんな絵空事みたいなご褒美なんだとしたら……それって、ちょっとだけ素敵だと思わない?」
穂乃果「にこちゃん……」
にこ「私は、この物語の結末を見届けたい。だから今は、心の底からA-RISEを応援するつもりよ。たとえニコしか応援する人がいなくても、どんなにみっともなくっても構わないから……」
穂乃果「……」
絵里「……別に、みっともなくなんてないんじゃないかしら」
希「うちも、もちろんA-RISEを応援するよ」
真姫「まあ結果がどうなるかは分からないけど、私も彼女たちが大舞台でどんなパフォーマンスをするかは興味があるし」
花陽「みんなで祈りましょう……!」
ことり「あっ、そろそろ発表が始まるみたいだよ」
海未「果たしてどうなるのか……」
凛「ドキドキするにゃー」
穂乃果(A-RISEの……私たちの物語)
穂乃果(その結末に待っているのは……)
—数日後。路上。
穂乃果「!!ツバサさーん!」
ツバサ「高坂さん。よく会うわね」
穂乃果「大晦日、頑張ってくださいね。少しだけ残念でしたけど……」
ツバサ「ありがとう。出場歌手としてではなく、今年の流行を振り返る企画コーナーへの出演という形だけど……ちょっとは歌わせてもらえるみたいだし、どこまで出来るか分からないけど頑張るわ」
穂乃果「それでもすごいですよ。私たち、当日はみんなで応援してますから!」
ツバサ「ふふっ」
穂乃果「ツバサさん?」
ツバサ「……ごめんなさい。高坂さん、本当に屈託なく私たちを応援してくれるのね。何だか救われるわ」
穂乃果「……救われる?」
ツバサ「噂が出回ってから、学校に抗議のメールが送られてきたり、面と向かって出場するなと言われたり……みんな、私たちのことを思ってくれてのことだと理解はしているけれど、少し精神的に辛い時期もあるにはあったの」
穂乃果「そんなことが……」
ツバサ「もちろん、こういう形であれステージに立つと決めた以上は、そんな声も全部受け止めた上でパフォーマンスで返していくしかないと覚悟は決めているのだけれど……まさか、ライバルであるあなたが一番素直にエールを送ってくれるなんてね」
穂乃果「もちろん、今だってライバルですよ?最終予選ではμ'sだって負けませんから。でも—」
ツバサ「—でも?」
穂乃果「もし立場が逆だったら、ツバサさんだって応援してくれますよね?μ'sのこと……」
ツバサ「当たり前でしょ」
ツバサ「私は、あなたたちを—あなたたちμ'sがμ'sであることを、一番よく知っているんだから」
穂乃果「……じゃあ、私はこれで。次は最終予選で会いましょう」
ツバサ「ええ。その日が楽しみね。高坂穂乃果さん」
—大晦日。UDX学園前。
穂乃果「うう、寒い……」
にこ「しかし、さすがはUDX学園ね。あの大型ビジョンで、A-RISEの出演シーンを街中に映し出すなんて」
真姫「結構、通行人が足を止めてるわね」
穂乃果「ホントだ……」
凛「あっ、出てきたよ。A-RISE!」
花陽「わぁ……すごいなあ。今この瞬間に、日本中の人が彼女たちを見てるんだよね」
にこ「本当に、あんな大きなステージに立つなんてね。さすがだわ」
穂乃果「……ねえ、にこちゃん」
にこ「え?」
穂乃果「もしも、もしもだよ。μ'sがあそこに—あのステージに立っているとしたら……みんなは応援してくれるのかな」
にこ「はあ?バカじゃないの、アンタ。そんなありもしないこと考えるなんて」
穂乃果「えへへ。それはそうなんだけど、A-RISEがホントにあそこに立っているのを見ると、つい……」
にこ「まったく……。そりゃ、色んな人がいるでしょうよ。今だってホラ、周りを見てみなさい」
穂乃果「え?」
ザワザワ……ザワザワ
にこ「本当に嬉しそうに画面の中のA-RISEを見ている人もいれば、不安そうに見守っている人もいる。何だかよくわからないけど足を止めた人、おかしなものでも見るように薄ら笑いを浮かべている人まで……色んな人がいるわ」
穂乃果「……だね」
にこ「ここにいる人たちだけじゃない。会場で見ている人。家で見ている人、今日は見ないと決めた人。応援している人、興味がない人。そんな全ての人たちを前にして、今A-RISEはステージに立ってるのよ」
穂乃果「会場の雰囲気は、どうなのかなあ……」
にこ「それは画面からはよくわからないけど……でも大丈夫よ」
穂乃果「……」
にこ「だって、私たちがここでこうして応援してるんだもの。A-RISEがA-RISEであることを誰よりもよく知っている、私たちμ'sが」
穂乃果「!!」
にこ「だから……大丈夫よ」
穂乃果「……それ、ツバサさんも同じことを言ってました。もしあのステージに私たちが立つとしたら応援してくれるか聞いた時に……」
にこ「!呆れた……アンタ、ホントにそんなこと聞いたの?やめてよね、そんな痛いこと……」
穂乃果「えへへ」
花陽「あ、今から歌うみたいだよ」
♫♫
穂乃果「ああ、やっぱり素敵だなぁ……」
にこ「……それに、ね。関係ないじゃない?」
穂乃果「え?」
にこ「さっきの話。例えどんなステージに立つことになっても、私たちがやることは変わらない……最高のものが届けられるように、ただ一生懸命歌って、踊るだけ。今までだってずっとそうしてきたじゃない。違う?」
穂乃果「そっか……そうだよね」
にこ「周りを見て。興味をなくして去っていく人たちもいるけど、画面の中のA-RISEに吸い寄せられるようにして集まってくる人たちもたくさんいる……」
穂乃果「本当だ。さっきより、人が増えたみたい」
にこ「この人たちもみんな、物語の立会人よ。こうやって多くの人たちに見守られながら、A-RISEの……私たちの物語はこの先も続いていくんだわ」
穂乃果「私たちの物語……」
♫♫
穂乃果(私たちの—μ'sの物語がどんな結末を迎えるのか、今はまだ分からない)
穂乃果(あらゆる物事がそうであるように……やがて終わりの日が来るのかも知れない。それがいつになるかも、まだ、分からない)
穂乃果(けど……その日が来るまでは、μ'sのやることは—μ'sは変わらないんだ。たとえどんな形でステージに立つことになっても、必死に歌って、踊るだけ)
穂乃果(いつだってそれが最高のステージになるように)
穂乃果(一人でも多くの人たちと一緒に—私たちみんなの物語を叶えられるように……)
—おしまい—
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
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