勇者「自殺」 (28)
普通の人間になりたかった。
強いとか弱いとか勝ち負けとか……
そんなものから遠い所に立っていたかった。
けれどあの時はそれだけを求められていた。
正しさや常識、道理なんてものは必要ないし関係ない。
ただ強ければいい、勝ち続ければいい。
裏で蠢く人の思惑など知らなかった俺は、求められるままに戦いに身を投じた。
人は美しいものだと、そう信じていたから。
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女騎士「やはりお一人で行かれるのですか……」
勇者「俺にしか出来ないからな、だったら行くしかないだろう」
女騎士「何故そこまで尽くせるのです?疑問や疑念は無いのですか?」
勇者「ない。というか王宮騎士とは思えない発言だな」
女騎士「いえ、そういうつもりでは…」
勇者「なら何だ?俺が不憫だと言いたいのか?」
女騎士「そんなっ!違います!」
勇者「そう言っている割に先程から義手義足を見ているな」
女騎士「!!それは……いえ、申し訳ありませんでした」
勇者「まあいい、それで?何か言いたいのならはっきり言え」
女騎士「私は……その体で迷わず戦い続ける貴方に疑問を感じています」
勇者「一応訊くが、それは騎士としての質問か?」
女騎士「いえ、これは騎士としてではなく一人の人間として疑問に思うのです」
勇者「人間、人間か……お前は俺を人間だと思っているのか?」
女騎士「はい。どんな力を持っていようと、心は人間だと信じています」
勇者「いつか裏切る可能性もある、大きすぎる力は人をも滅ぼしかねない……」
勇者「そう言っている連中もいるが?」
女騎士「彼等が何と言おうと、貴方が裏切るなど絶対にあり得ません」
勇者「……何故そう断言出来る?何を根拠に」
女騎士「貴方が人の為に戦ってきた数年間がそれを証明しているからです」
勇者「…………」
女騎士「誰が何と言おうと、貴方は誰よりも優しい『人間』です」
勇者「……そろそろ行く、お前のような人間と話せて良かった」
女騎士「戦いが終わったら、また話せますか?」
勇者「さあな、それは戦後の人間次第だろう」
この後求められた全てを完遂し、俺の戦いは終わった。
数年に及ぶ戦いで失ったのは左手と右足のみ、それだけでも奇跡的だと言えるだろう。
全ての戦いに勝利したが、俺は国に戻ることなく逃げるように姿を消した。
結局、人という生き物は異なる種を排除せずにはいられないのだ。
血眼で俺を捜す兵は魔物よりも恐ろしく野蛮に感じたのを憶えている。
これが神の気紛れで選ばれた一人の人間の末路。
選ばれし者だの英雄だのと言われ目を曇らせた男の末路。
強く願う
普通の人間であれたら……
自由に望むままに生きられたら……
来世というものがあるのなら、そう生きたい
終わる
一人の人間に世界を左右するような力があったら怖い。
お国に帰ってお姫様と結婚とか
普通の人間であるはずの格闘家や盗賊魔法使いと仲間になって魔王倒すとか無理じゃないか
努力でどうにかなるもんでもないだろうし。
大体そんな凄まじい力があったら好かれるどころか人は遠ざかる
。
戦って戦って、戦が終われば煙たがられ、守った手前人は殺したくないし、最期は思い詰めて死ぬんじゃないかと思います。
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