勇者「勇者ってのは総じて馬鹿」 (142)

勇者が魔王を討ってから十数年
平和を取り戻したかに思えたが、急激な発展による環境汚染、格差社会などにより
世界は戦争中と同じ、またはそれ以上の死者を出し、
一概に平和と言える状況では無くなっていた
さらに追い打ちをかけるように、魔王が新たに出てきたとの噂もあり
世界はまたも混沌に包まれつつあった...

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謎の男「あー臭ぇ、汚ぇ、王様の入ったトイレの後と同じ位嫌気が差すぜ…」カツカツ

傷の男「…こっちだ」ボソッ

謎の男「ん、あんたが」

傷の男「静かにしてくれ」ボソッ

謎の男「了解、了解、 おえっ、マジ早く帰りたいわ~あんたもよくこんなとこにいれるよな…」カツカツ

傷の男 「聞こえなかったのか?」ギロッ

謎の男「へーへー分かってるよんでもここの連中に見られようが聞かれようがどうでもいいだろ
ここにいる奴らは何も分からねぇし最悪斬っちまえばいいだけだろ
いや、こんなとこにいる死に損ないなんて斬る前に死ぬかもな」カツカツ

傷の男「ハッ、お前はそれでも…ここだ、とりあえず中に入ってくれ」ガチャ

謎の男「バレねぇだろ、そこら中に人が死んでるし、バレたって問題無ぇ、王様だってここには嫌悪感しかねぇからよ」バタン

傷の男「適当に座ってくれ」

謎の男「へーあんたの家だけ別世界だな、まああんたは金あるもんな、あんたってよお、例えばだけどここのウンコまみれの人を救おうとか考えたりするのか?まあしねぇか。愚問だったな、今やってることを思えば」

傷の男「実際には何をやらされているか知らされてないがな」

謎の男「ま、世間的に考えると良いことでは無いって事くらいはわかってるだろ?」

傷の男「…早速だがこれが例の」スッ

謎の男「あいよ、これが報酬の金な。」ゴトッ

傷の男「確認しなくていいのか?」

謎の男「いや、だって本物だろこれ
本物じゃ無かったら次からあんたには頼まない、そしたらあんたは収入源が無くなる、いや、その前に俺が斬るかもな
どちらにしろお前は死ぬだけだ。そんな馬鹿な真似はしないだろあんたは」

謎の男「まあいい、とりあえず俺は早く帰りたいんだわ、帰るぜ」ガタッ

謎の男「じゃ、また頼むからよ」クルッ

カツカツ ガチャ バタン

傷の男「あークソがっ!俺はなんて最低なんだ…」


ガチャ

孤児「いや、別に生きるためだろ、自分さえ良ければ別にいいだろ」バタン

傷の男「お前なぁ、その年でそんなことばっか言ってるとロクな人生送れないぞ」

孤児「お前が言うな」

傷の男「…少しは言い方ってもんがあるだろ」

孤児「んでいくら貰ったんよ」

傷の男「は~、いくらも貰って無いよ」

孤児「毎度毎度嘘とか面倒くせぇな、そんなにバラされたいのこの事?」イラッ

傷の男「わかった、わかったから、
でいくら欲しい?」

孤児「報酬の9割だな」

傷の男「9割~!?それはちょっとよ~」

孤児「は?ふざけんなよ、大体お前一人じゃこんな運び屋なんて仕事できないぞ?お前の隠れるセンスの無さなんて笑っちゃうレベルよ、んでもって何度もゴツイ奴に囲まれて、その度にそいつらを始末したのは俺だからな?」

めげないぞ俺は
もうズタボロだけどな

傷の男「分かってるよ!本当に感謝してるよ、でも8割で何とか」ペコペコ

孤児「…お前ってさ、見た目は厳ついのに中身は本当に弱っちいよな」

傷の男「いやーそれほどでもー」

孤児「褒めてねぇよ!」

孤児「…まああれだ、今回は8割でいいよ。」

傷の男「さっすが!このまま7割に…いや、3割…」

孤児「は?」

傷の男「ウッソでーす☆」

イタイイタイヤメテヤメテ ウルセェ!!

孤児「じゃあ帰るわっつても家なんて無いけどな」

傷の男「だから泊まってけよ」

孤児「いや、いい…」

傷の男「…お前はさ、いつもそうだな」

傷の男「俺の事くらい頼ったっていいじゃんか。」

孤児「いや、人のことなんて信頼する奴は馬鹿。いつそいつに殺されてもおかしく無い状況で丸腰いるなんて無理。そいつを殺して金が手に入るなら俺なら殺すだろーな」

傷の男「なら俺のこと殺せばいいだろ。」

孤児「お前んとこには仕事が来る。生かしておけば半永久的に金が手に入るだろ」

傷の男「…お前な、もう少し素直に生きろよ」

孤児「今のは素直にも程がある答だったぞ」

傷の男「お前さんの過去はを詳しくは知らんけど、でも過去ばっか見てちゃあ生きるの辛いぜ?
過去は変えられないんだから未来に楽しんで生きれるようにしろよ」

孤児「…だからお前が言うなって、本当に〆るぞ」

孤児「まあいい、じゃあな」ガチャ バタン

ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーー

孤児「あー、糞眠いな」

『もう少し素直に生きろよ』

孤児「…たまにはあいつんちで飯でも食うかな」スタスタ

孤児「ん、あれって昨日の」

謎の男「いやー昨日のやつニセモノだったんだよね」

傷の男「そんなわけ無いだろ!」

謎の男「うそうそ、あれは本物だったよ」

傷の男「…んでなんの用だ」

孤児(なんの話だ…?)

謎の男「あんたいつもなんかガキにボディガードやってもらってただろ?」

孤児(!?)

謎の男「あのガキはどこにいる?」

傷の男「さぁ、まずどのガキかも分からねぇなー」

孤児(…)

謎の男「あんた斬られたいの?」

傷の男「俺がいなくなったらお前らも困るんじゃないか?」

孤児(…あいつ馬鹿じゃないのか?)

謎の男「舐めた態度取って損しても後悔しかしないよ?」

傷の男「そっちこそ」

孤児(この状況で俺を庇う意味ないだろ…)

謎の男「今の一番の優先順位はガキだ」

傷の男「だから知らないって」

孤児(俺の居場所くらい吐けばいいのに!)

謎の男「あーウゼッ!メンドっ!」ズパッ

傷の男「ぐわー!」ジタバタ

孤児(何やってんだよあいつ!)

謎の男「なんだよこいつ見た目だけで弱っちいな」

傷の男「はっ、まるで腐った今の政治状況を表したような行動だな」ハァハァ

孤児「クソッタレが!」

謎の男「吐かないなら他あたるわ」スパッ

傷の男「ぐはっ!」ポタポタ

バン!!

孤児「おい!俺はここだ!」

傷の男「おい!バカかお前!」

孤児「お前が言うな!」

傷の男「はは…蹴飛ばしたドア代は貰うからな」

謎の男「ふーん、キミが例のガキね」チラッ

謎の男「良かった良かった、あんたのおかげで見つかったよ
じゃあさいなら」

孤児「え、」

ズッパシ

傷の男「」ドサッ

孤児「…え、どういう事だよ?」

謎の男「いや、用済みだから斬っただけ」ヒュンヒュン

孤児「…下衆が…」

孤児「うおおぉぉぁぁあああ!」

キンキンキン

孤児「中級光撃魔法 閃光!」キラッ

ドドドドドン

謎の男「やっぱりビンゴだ」

謎の男「お前、あの勇者の子供だろ」

謎の男「じゃなきゃこの年で光撃魔法なんて使えねぇ」

孤児「テメエらが勇者なんて言葉発するんじゃねぇ!」

謎の男「おいおい、それは八つ当たりってもんだ」

孤児「どこがだ消えろ蛆虫が」

謎の男「勇者の死刑はちゃんと民意の下だっただろ」

孤児「王の私利私欲のためのでっち上げだろ!」

謎の男「ま、なんにせよ民意だったんだから仕方ないだろ」

孤児「…あぁそうだ、助けたはずの民衆に殺された無様で無様で笑っちゃうレベルの父親よ」

孤児「そして常に周りから俺と母親も狙われて、母親は俺を逃がすために盾になって死んだ」

孤児「馬鹿な親どもだ、他人のために命を落とした」

孤児「一人で生きていけば、他人のせいで死ぬことはない」

孤児「自分が強くあればいい、簡単なことだ」

謎の男「別によー、お前の自分語りとかどうでもいいんだわ」

謎の男「お前も知ってると思うけど最近魔王が新たに現れたっぽいのよ」

謎の男「っつー訳でお前城に呼ばれてっから」

謎の男「こんな反吐みたいなとこで過ごさなくても、始めに金も支給されっだろうし」

孤児「はっ、誰が俺を勇者と認めんだよ、みんな俺のこと殺したいほど嫌いだろ」

謎の男「いーや、一応お前は親父の事が憎くて仕方ないちゃんとした勇者って事になってる」

孤児「…なんだよそりゃ、まああながち間違えではないかな」

孤児「じゃあ城に行くけどその前に」

ズパン!! ゴォォォォ!!

謎の男「な、っんのクソガキ…」グッ

孤児「弱え奴はよう、結局強い奴の気まぐれで虐げられる存在なわけよ」

孤児「もう少し俺の機嫌とった方が良かったんじゃない?」ヒュッ

謎の男「く、糞がっ!外道が!」ドサッ

孤児「お前が言うなよ」

孤児「…よし、行くか」

孤児「…なんだこれ、涙?あんな金づるが死んだところで…」グスッ

孤児「…馬鹿かよあいつは…他人のために自分が殺されてよ…」ウッ

孤児「ほんと人を信用するとロクな事ねえな」

孤児「このまま話信じて城に行っても罠で俺も捕まる可能性もあるな」

孤児「………いや、負けねぇだろ
何にしろ金になりそうだしな」

孤児「うわーひっさびさに移動魔法使うわ」

孤児「えぇっと城は…こんな感じだっけ?」

ゴンッ!

孤児「痛ってえー!頭かち割れるわ!外に出なきゃい行けなかったんだよな」

シュン!

孤児「相変わらず外見は立派なとこだな」

門番1「誰だ貴様は」

門番2「お前の様な汚い奴が来るとこでは無いぞ」

孤児「何か王様が魔王が出たとかで呼んでんだけど
んなこと言うなら帰るぞ」

門番1「それはそれは失礼しました」

門番2「しかしながらお一人で来られたのですか?
王直属の腕の立つ者が見極めも兼ねて寄越したはずなのですが」

孤児(あーちょっとこれは面倒だな
、あんま先まで考えてなかったな)

孤児「いやー、ちょっと遅れてくるとか」

門番1「何故?」

孤児「あれよあれ、転移魔法酔い、よくあるやつじゃん」

門番1「よくあるのか?私はしたことが無いので如何せん分からないですが」

孤児「あぁ、それにスラム街の臭さも合わせて吐いちまったんだ」

門番2「では少しここでお待ちしてて貰えますか?」

孤児「んーちょっと早く会いたいんだよね…」

孤児「初級光撃魔法!」

門番1「おおーそれは」

孤児「信じてもらえた?」

門番2「いやいや、最初から疑ってなど」

孤児「ほんとに早くお茶飲みたいから」

門番1「分かりました、それではどうぞ」

ギギギィィィ

門番2「にしても臭くなかったか?」ボソボソ

門番1「ああーほんとに吐きそうだぜ」

孤児(聞こえてるっつーの)

ガチャ

孤児「失礼するよっと」

王様「よく来てくれた!例を言うぞ!」

孤児「全く嬉しくないくせによくそんなこと言えるよな」

護衛1「いくら勇者と言えど口を慎まぬか!」

孤児「へーへー」

護衛1「貴様ッ!」

騎士団長「落ち着かぬか護衛1、
勇者よ、貴殿もだ」

王様「まあよい、勇者よ、話は知っておると思うが」

孤児「話遮って悪いけど俺のこと勇者って呼ばないでくれない?
どいつもこいつも勇者勇者、俺は違うから」

王様「何故勇者を嫌がる?」

孤児「勇者ってのは自分の人生を他人、いや他人ってレベルじゃない存在すら知らない様な奴らのために行動するやつだろ?」

孤児「そんな役はゴメンだね
全くもって自分の好きなように行動できない操り人形、勇者様とおだてられただけで誇らしげにして意味も分からず命を危険に晒す」

孤児「それのどこが勇ましいんだよ、勝手な事言ってのせて魔王倒してきてーって言われてハイハイーって、馬鹿かよ!勇者?そんな奴は愚者だ」

孤児「愚か、愚か極まりない、勇者=愚者」

孤児「俺は愚者だー!なんてアピってるとか俺には恥ずかしくて出来ないね」

王様「しかしながら勇者じゃないのなら援助もできないのだが」

勇者「勇者やります!」

騎士団長「金目当てか…今回の勇者も問題だな」

王様「うむ、まあ先代に比べればいい方だろう」

勇者「ああ、ほんとにあいつは愚者だが何をしたって言うんだ?」

騎士団長「あやつはこの国を、いや世界を手に入れようとしたのだ、というよりはその事くらいは知っているだろう」

勇者「いいや、全くだな」

勇者「腕の立つ、他人のことばっか考えてる馬鹿だとしか知らない」

勇者「魔王を討った後、お前らが国力を示すために城下町だけ栄えるように金をばら撒き、地方からは限界まで徴収、
さらには軍まで拡大し他国に威圧もかけ始めた」

勇者「でも戦争のない今、軍事用武器の生産なんてイメージが悪い、傷の男にちょくちょく運ばさせていたのはその辺のものだろう」

勇者「だから親父は魔王討伐後各地を回って人々を助けることに専念した」

勇者「するとどうだ、親父はやはり救世主だと言われ始め、国は悪政により求心力を失っていった」

勇者「そこで親父にその悪政の原因を押し付け、その上国を乗っ取り世界を手に入れようとしているとデマを流した」

勇者「王様が魔王討伐後の親父の凱旋パレードの時に撮った写真を使って脅されてるとか言った時には笑うしかなかったね」

勇者「民衆の中にサクラも紛れ込ませ、デマを国全体に信じこませることに成功した、後は自然に出てくる民衆の声を待つだけ」

勇者「親父を殺せってな」

王様「勇者よ、親父さんは本当に世界を手に入れようしていたのだ」

勇者「いや、親父が世界を手に入れようとしたとわかる理由を言えよ」

王様「いや、それは…」

騎士団長「圧倒的な力はあるだけで恐れの対象になります」

騎士団長「魔王討伐後は民衆を助けて自分の存在を肯定していたが、やはり世界で一番戦力がある、一人で軍1つ落とすのも難しくはないでしょう」

騎士団長「また権力もある、その武力を認められて人を先導できる程の権力まで得た」

騎士団長「悲劇的にも魔王がいなくなったら今、魔王に一番近い存在になってしまったのです」

騎士団長「民衆は力を持ち過ぎた勇者に
恐れを感じ始めていた」

騎士団長「その時、武力ではそこそこ名の馳せていた町の強者の戦士が俺の腕になれと勇者に言われたと」

騎士団長「何故、魔王がいない今戦力を得ようとしたのか、もう力の向ける先は世界しか無いと」

騎士団長「民衆は震え上がり私達に勇者の死刑を要求しました」

騎士団長「勇者を死刑にする…私達も頭を悩ませましたがやはり民意に答えるのが政治と言うもの」

騎士団長「たとえ世界を救ったとも、危険因子なら仕方なかったのです」

王様「そ、そそ、そういうことなのだ」

勇者「ちぃっ、あんたはちょっと出来そうだな、王様と違ってよ」

勇者「でもその強者、実際はお前の軍の奴だろ」

勇者「王様は勇者を殺してでも金が欲しかったか、そんなんだから民衆は離れていたんだろ」

勇者「勇者倒して面子保ててよかったですねー」

護衛1「何度も何度も王様を侮辱しよって!」

勇者「お?やるか?」ジャキ

騎士団長「止さぬか王様の前で」

王様「…後、そっちには使いをやったはずなんだがまだなのか」

勇者「あぁ、ほんとはよー俺が勇者だって示すために珍しい魔法をちょっとやったらあいつビックリしちゃってさ」

勇者「ビックリし過ぎて剣を放り投げてよ、そしたらそれが自分の胸に刺さっちったんだよ」

勇者「だから病院に運んどいたけど命あるかなー」

騎士団長「…よくもまあそんな嘘を」

勇者「お前が言うな」

騎士団長「いやいや、下手過ぎですよ…」

王様「…まあよい…仕方あるまい…」

王様「勇者よ、これから多くの困難が待ち受けると思う、今回は魔王の情報も少ない」

王様「だが勇者ならできると信じている、頼んだぞ!」

勇者「まさかね、親父を殺した奴に頼まれるとはね」

王様「あと金だ、これで装備をもう少し揃えとくとよい」

勇者「あーあと風呂だな、風呂に入らないと」

王様「この街の酒場には多くの冒険者がいる」

王様「今、三人程経験豊富な者達がいると聞いている」

王様「その者達も誘うと良い」

勇者「あーはいはいテキトーテキトー」

勇者「んじゃ、行くかな」

ガチャ

王様「…ったく風呂も入らずにくるとはあのゴキブリめ」

王様「しかもあの態度!前の勇者の方は礼儀はちゃんとしていたぞ!」

王様「あいつは一度懲らしめた方がいいよな!」

騎士団長「私もそう思いますが少し声が…」

王様「父親も息子も本当にゴミだ」

王様「あいつらは魔王と戦ってればいいのだ、魔王と相討ちになって消えればいいのだ」

ガチャ

勇者「おい、聞こえてんぞ」

ガチャ

騎士団長「…王様、これからそういう話はもっと小さい声でして下さい」

勇者「ったくよー、何だよあの王様!魔王よりよっぽど俺の敵だろ、あの豚倒してハッピーエンドだろ」

ヒソヒソ ナニアノキタナイノ…

勇者「とりあえず服買おう」

服屋「いらっしゃい!ってどうしたんだい君は?」

勇者「とりあえず色々あんだよ、風呂入りたいけど風呂入ったあとこれ着るわけにもいかねぇからよ」

服屋「他に何も服持ってないのかい?」

勇者「あぁ、シンプルで安いやつでいい」

服屋「シンプルで安いやつね、今来てる服は元は随分と高価に見えるが」

勇者「まあ色々だな」

服屋「分かったけど君はちょっと試着は出来ないよ」

勇者「あぁ構わない」

服屋「こんな感じでいいか?」

勇者「あぁ、いくらだ?」

服屋「120Gになります」

チャリーン

勇者「うっし、風呂入ろう」

銭湯婆「10Gだ、にしても早く入ってき」

勇者「そのつもりよ」

銭湯婆「おいコラ、ガキそっちは女風呂だ」

ゴシゴシ ザプン

勇者「はぁぁぁ、生き返るなぁ、もうこの金であと2年は暮らして行けるってのに」

ザバッ

勇者「よし、これでとりあえず一般人と同じ感じにはなったろ」

銭湯婆「おう、もういいのかい?」

勇者「ああ、フルーツ一本くれ」

銭湯婆「4G、っておや?さっきはみすぼらしくて解らなかったが随分と凛々しい顔してるじゃないか」

勇者「まあそういう血筋なのかな」

銭湯婆「いや、勇者じゃないかあなたは?」

勇者「見間違え見間違え」

銭湯婆「まあ勇者があんなみすぼらしい訳ないか」

勇者「…勇者はそろそろ出発と聞いたんだが全く歓迎ムードじゃないね」

銭湯婆「まあ今の勇者の父親があれだからね」

勇者「…そうだったな」

勇者「最後に酒場行って仲間集めと…」

勇者「…いや、いらなくね?」

勇者「4人で行動したら金が4倍かかる、メリットは…あるのか?」

勇者「うーん、とりあえず中に入るか」

チリンチリン

勇者「えーと強い奴いるって言ってたよな」キョロキョロ

勇者「ん?あそこにいるのは?」

魔法戦士「おや、君は勇者じゃないかい?」

勇者「いや違います」

魔法戦士「誤魔化したって無駄よ、僕には分かるよ」

勇者「あぁ、俺も分かった、君とは組まない」

魔法戦士「えぇぇっ!」

忍者「へへ、断られてやんのwww」

SS「もう少し話し方を変えたらどうかしら?」

魔法戦士「話し方ねぇ、君と僕のような美しい男は」

勇者「チェンジで」

魔法戦士「なんで!?」

忍者「まあこの馬鹿はほっといて、勇者、俺らとパーティを組むってのはどうだ?」

勇者「まあ上級職3人は大きいよな」

勇者「だが断る」

SS「アハハ、忍者まで断わられてるwww」

勇者「だってお前ら王様の部下だろ」

SS「??なんのこと??」

勇者「何で俺が勇者って分かったんだよ」

魔法戦士「そりゃあ僕の目にかかれば」

勇者「それに魔法戦士、忍者、スーパースター、上級職がいきなり声をかけてくるなんておかしいって疑わない方が不思議よ」

SS「…わかったわ、でも王様の部下であろうとも関係ないじゃない」

忍者「そうだな、力にはなる」

勇者「でも要するに監視だろ?」

SS「いえいえそんな」

勇者「俺は自由にやりたいんだよ、っつーわけで却下」

勇者「あ、そこの人達、一緒に魔王倒さない?」

魔法使い「へ?」

僧侶「わ、わわ、わ、私達ですか?」

戦士「おいおい、急に誰だよ!」

忍者「ちょっと待ちな!こんな奴となぜ組むんだ?」

勇者「あー、盾向きだからな」

戦士「た、盾だと?」

勇者「あーうそうそ、将来強くなりそうだから」

勇者「なんでもいいんだよ、俺の勝手よ」

魔法使い「いや、ちょっと待って、なんで勝手に…」

勇者「冒険者として魔王討伐ほどワクワクするものは無いだろ」

戦士「んーまあ」

僧侶「や、やや、でもほんとに私達!?」

魔法使い「ってかあんた誰よ!」

SS「勇者様、ちょっと待って下さい!」

魔法使い「えぇー!勇者!?」

勇者「いやそんな馬鹿と一緒にしないでくれ」

戦士「ゆ、勇者なのか?」

勇者「だから違う」

戦士「でも、勇者の力無くして魔王は倒せないとも聞くぞ?」

勇者「あああああ!うるせぇ!行くったら行くんだよ!」

勇者「パーティは決定した!これ以上は連れてけません!っつー訳で他の奴は帰れ!」

忍者「お、おい!」

勇者「そっちが残るならこっちから出て行く!」

勇者「移動魔法!!」

ゴンッ!

戦士「痛っ!」ガンガン

魔法使い「ちょっと!あんた馬鹿じゃないの!?ただの魔法使いの私でも移動魔法が部屋で使えないことくらい分かるわよ!?」ズキズキ

僧侶「あぁ、ちょっと目眩が」クラクラ

勇者「おい、魔法使い!俺のこと馬鹿だと言ったか!?」

忍者「ふん、逃がさないぜ勇者」ガシッ

勇者「んだよ邪魔だ!火炎魔法 鳳仙花!」ボウッ

店主「邪魔なのはお前らだ!出てけっ!」ドカッ

勇者「…ったく本気で殴りやがってあの店主」イライラ

勇者「糞がっ!」

戦士「こっちのセリフだ、お前のせいでこんな目に」

勇者「ハイハイ俺悪い悪い」

僧侶「ま、まま、まあちょっと落ち着いて」

魔法使い「僧侶ちゃんもね」

戦士「んでどうするんだよ」

勇者「んー、パーティ解散する?」

魔法使い「なんでよ、頭ぶつけ損じゃない」

勇者「んー、まあそれは嘘なんだけどとりあえず移動していい?」

戦士「いや、だからそれをどうするって話」

勇者「いや、とりあえずどこかなんだよ」

忍者「ったくパーティに入れればこんなことしなくて済むのに」ヒソヒソ

魔法戦士「いや、スパイ行動なんて楽しいじゃないか!」

SS「はいはい、スパイ行動の意味をしらないなら調べてくださいね」ヒソヒソ

魔法戦士「闇に紛れ、まるでターゲットの影になったかの様に常に掴めず、うん、いい!」

魔法戦士「大体忍者はこれが自分の職業だろ」

忍者「…あぁ、職業柄お前みたいなうるさい奴は嫌いなんだ」

魔法戦士「ったく素直じゃないね!」

魔法戦士「んで、勇者が移動魔法使ったらどうやって追うんだい?」

忍者「あ…」

SS「………突撃するわよ」

上級職共「待てぇ勇者ー!」

勇者「あーもう来たか、移動魔法!」

シュン!

忍者「…どうするんだよ!」

SS「どうするも何ももはや広い世界のどこかにいるって事しか分からないのにどうやって探せって言うのよ!」

魔法戦士「うむ、困難が待ち受けると俄然やる気が出るね」

忍者「…ほんとにお前は黙っとけ」

シュン!

勇者「…ふぅ」

戦士「お前無茶苦茶だな」

魔法使い「ホントよ、全く…」

僧侶「えぇっとここは?」

勇者「適当に飛んだから俺は知らんよ」

魔法使い「あんたねぇ、いきなり声かけてきて転移魔法で適当に?あーもう!ホントなんなの?」

戦士「魔法使い、ちょっと落ち着け」

魔法使い「アタシなの?まず転移魔法は一度来た場所にしか飛べないでしょ!」

勇者「忘れちまったんだよ、良いじゃねぇか別に、んな小せえこと」

魔法使い「迷子だってのに小さい~?」

勇者「嫌ならいいんだよ解散解散、正直俺はパーティとか組むタイプじゃないのはなんとなくわかるだろ」

戦士「ごめん魔法使い、ちょっと静かにしろ」

魔法使い「いや、だからなんでアタシ」


戦士「お前にいくつか聞きたいんだが」

勇者「なんだよ急に畏まって」

戦士「お前は勇者なのか?」

勇者「ったく違うといったじゃねぇーか」

勇者「俺は『勇者よ、これから多くの困難が待ち受けると思う、今回は魔王の情報も少ない』『だが勇者ならできると信じている、頼んだぞ!』なんて言われて金が出るって言ってたからやったけど勇者じゃない」

僧侶「あの、じゃあ勇者なんですね?」

勇者「いーや、正直に魔王なんてどうでもいい、俺は魔王なんかより王様の方がよっぽど嫌いな俺が勇者な訳?」

勇者「ついこないだ職を失った、金が無えと生きてけねーからこんなことやってるだけ」

勇者「要するに傭兵みたいなもんだろ」

戦士「勇者、なんで俺達を連れてきたんだ?」

勇者「酒場に腕の立つ者がいるって王様が言っててよ、怪しいけどとりあえず見て決めようと思ったら案の定クロだ」

僧侶「クロってどういうことですか?」

勇者「お前らも見たろ?あの忍者たちは王様の命令で俺とパーティを組むように命令されてる」

戦士「でもそれなりの力があるのは確かだったぞ」

勇者「んなのどうでもいいんだよ、俺は王様が嫌い、王様サイドの人間と一緒に旅とか無理!」

勇者「剣でスパッと殺ってもいいと思ってるくらいだね」

勇者「パーティは4人まで連れていけるから、あいつらは俺が一人で行っても強引に入って来る可能性も無くはない」

勇者「だからお前らをメンバーに入れて穴を埋めたってだけよ」

戦士「最後に…お前の父って…」

勇者「…」ピクッ

戦士「…何でもない、気のせいだ」

魔法使い「戦士、最後にじゃないでしょ」

勇者「はい?まだなんかあんの?」

戦士「勇者、俺達を魔王討伐の旅に連れてってくれ!頼む!」

魔法使い「アタシからもだ!」

僧侶「も、もちろん私からも!」

勇者「は?は?急に何?真面目に意味分からんて」

勇者「何?何かあるわけ?」

勇者「…正直回復魔法と攻撃は同時に出来ないしーとか考えて」

三人「…」シーン

勇者「…はいはい色々あるよねー、あぁはいはい、でもたまたま目的が一緒でしたねーよかったよかった」

戦士「ありがとう勇者、恩に着る」

勇者「うん、てかね、結局ね、勇者って勝手に決めてるのね、うん、もう面倒臭え」

魔法使い「それで勇者、この後は?」

勇者「何もわからん、だから適当に飛んだ」

三人「…」

《桜の町》

町人A「ようこそ、桜の町へ!」

僧侶「ん?あ!みてみて!魔法使いちゃん!あの大きな桜の木!」

魔法使い「へぇー、すごい綺麗ね!こんな立派な桜の木なんてあるのね」

町人A「はい!あれがこの町のシンボルの桜の木になります!」

勇者「ん?桜の町…」

魔法使い「まあ流石のあんたでもあれを見れば何か思い出すわよね」

勇者「思い出した!めっちゃデカい桜の木があるよな!」

僧侶「あのー今見てから言いましたよね?」

勇者「とりあえずだな、まあこの街は全員初めて来た町だ」

勇者「っつーわけで二手に別れて聞き込みだな」

スタスタ

戦士「あ、すまない、今旅をしていてこの町に初めて来たのだがこの町について教えてくれないか?」

町人B「この町っても特別なのは桜の木以外に無いからなー」

町人B「ただこの辺の町の中では断然大きい図書館があるくらいかな」

勇者「図書館ね…」

町人B「あぁ、だから多くの学者も集まる町なんだ」

戦士「なるほど、ありがとう」

戦士「どうした気難しい顔して」

勇者「いやーよお、まあ情報の無い今図書館は願ったりだけどよ」

勇者「本読むの嫌いなんだわ」

僧侶「あのーすみません!」

村人C「はいはい、なんですか?」

魔法使い「この町に初めて来たんだけど何があるか教えてもらってもいいかしら」

村人C「まあ見てわかる通りあの桜の木がと、図書館くらいかしらね、基本はただの田舎の町よ」

魔法使い「んー、だいたいみんな言う事は同じねー」

僧侶「うん、そうだね、それにしても立派ですねこの桜!」

町人C「はい!この木は樹齢3000年ともい言われています」

魔法使い「さ、3000年!?」

僧侶「そんなに長く生きるものなのでしょうか…」

町人C「いいえ、桜の種類にもよりますがどんなに長くても1000年がいいところでしょう」

魔法使い「え、じゃあこの木は?」

町人C「きっと私たちには分からない何かがあるのでしょう」

町人C「それ故にこの町の人たちはこの木を神のように崇めているのです」

町人C「しかし…」

魔法使い「しかし?」

町人C「先ほど言ったようにここの町の人はこの木を神のように崇めています」

町人C「なのでこの町の人は桜の木の下に祭壇を作ったのです」

町人C「もうその祭壇が出来たのは遠い昔の事になります」

町人C「この町の外れに入り口があるのですが、ここ最近魔物が住み着いてしまって、根を食い荒らしてるんではないかとも言われているのです…」

町人C「正直に根が食い荒らされてるとしたらもうこの木も…」

町人C「原因は正直言って祭壇を作ってしまった町人にあります」

町人C「なので何とかしようと勇敢な町人たちが魔物を退治しようとしたのですが、返り討ちに遭い、大きな怪我をしました…」

町人C「それ以来、みんな頭を悩ませてるだけで何も出来ないのです…」

魔法使い「んー、なるほどねー」

僧侶「何とかしてあげたいですね…ここの町の人はみんな気さくでいい人でしたし、この綺麗な木が消えるのも悲しいし」

魔法使い「まあ、何かのご縁かも知れないね、ちょっと力振るうっちゃいますか!」

《桜の町》酒場

戦士「こっちは何人にも話を聞いたが図書館がある位しかわからなかった」

魔法使い「こっちはちょっとしたこの町の問題を聞いたかな」

勇者「何だそれ?」

僧侶「かくかくしかじかで…という事なんです」

戦士「なるほど、確かに力になれるなら成りたいな」

勇者「はぁ?マジで言ってんの?お前ら初めて来たんだろ?」

戦士「だがしかし」

勇者「ちょっと人より力を持ったからってヒーロー気取…いや、嘘、この話受るわ」

魔法使い「え、う、うん、それは嬉しい心の変わり様だけど…急に何かあった?」

勇者「けどまあ、俺達が勝手に祭壇に向かって討伐するのも、何かしらこの町のルールもあるかもしれねーし」

勇者「俺が町長とちょいと話してくるからお前らその間図書館で魔王について調べてくんね?」

戦士「分かったが、なんで一人で行くんだ?」

勇者「俺は本読むのが大嫌い、大の苦手な訳、効率を考えれば読めない俺が町長と話をつけて、それ以外は魔王についての情報を調べるのが最善策だろ」

僧侶「ま、まあそうですね」

魔法使い「…なにか企んでる?」

勇者「いーや何にも」

戦士「まあじゃあ明日は三人で図書館、勇者は村長の家だな」

《桜の町》町長の家

勇者(ちょろっ!ほんとちょろいな!って顔に出てちまう、一応ちゃんとしないとな)

勇者「失礼します」

町長「おう?君は誰だね?」

勇者「旅の者です、一応勇者の血を引いております」

町長「む、風の噂で聞いてはおったがまさかこの町にいるとは、何でも父親とは違って、素晴らしい勇者だとか」

勇者「…ありがとうございます」

町長「それでどうしたのだ」

勇者「この町の祭壇の話が耳に入りまして、大変困っている様子でしたので私達が魔物を退治しようと思いまして」

町長「な、勇者殿が!?それはありがたい!」

勇者「しかしながら少し問題がありまして…今回の敵がどのようなものか少し分からなくて、準備にかなりのお金がかかってしまうのです」

勇者「今なんとか準備は終えましたが次の町まで持つかどうか…」

勇者「そこで少し報酬を用意してもらいたいのですが…」

町長「なるほど…仕方あるまい、こちらこそ大変な中すまない、それで幾らほど用意すればよいのだ?」

勇者「申し訳ありませんが100000G程…もちろん成功したらで良いので」

町長「なるほど、…わかった、工面しよう」

勇者「じゃあこちらにサインを」

町長「さ、サインね、ずいぶんしっかりとしてるんですなー、別に魔物を追い払ってくれるなら喜んで出しますがな」

勇者「まあ、逃げられることも多々ありますので…」

勇者「厚かましくすみません、では失礼します」

勇者(むはっ!ちょろい!ちょろいよなー!)

チラッ

勇者(ん?今誰か…気のせいか…)

《桜の町》祭壇入り口

勇者「ふぅーそろそろあいつら来るかな」ニマニマ

勇者「100000Gはデカイなぁ、っといけねぇな、あいつらにバレると面倒だ」ニヤニヤ

戦士「おーい、勇者!」

僧侶「遅れてすみません!ちょっと調べるのに時間がかかって…」

勇者「大丈夫だ、それより何か分かったか?」ニヤニヤ

魔法使い「…あんたなんでそんなニヤニヤしてんのよ?」

勇者「まあちょっと気分が良くてな~」

勇者「それで結局何が分かった?」

僧侶「大まかなことしか分からなかったのですが、この世界には一つの大陸に一つ祠があって、それ開放すればいいらしいのですが、開放のやり方、何が開放されるかもさっぱりで…」

戦士「ただ、この町のずっと南に今いる大陸の祠があるみたいだ、その近くの町の人なら何かしら知っているだろう」

勇者「なーるほーどねー、んじゃまあ、とりあえずこの祭壇を片付けちゃいますか」ニヤニヤ

《桜の町》祭壇上層

勇者「でもよーなんでこんな地下に作ったんだよ…地上でいいだろ」

勇者(おかげで100000Gだけど!)

戦士「もう地上の光も届かないな…魔法使い、火を頼む」

魔法使い「はい」ボウッ

勇者「へぇー呪文唱えずにも魔法使えるのか」

魔法使い「ま、まあこの位の火なら当たり前よね」

戦士「ありがとう、ん?」

バサバサッ!

勇者「ちぃっ、火つけたら魔物にバレたか!」

戦士「仕方あるまい、どちらにしろ一本道なら必ず当たる、見えない内に攻撃を喰らうほうが危ない」

キェーーー!キェーーー!

勇者(コウモリ型の魔物か、ざっと5
0はいるぞ…)

戦士「俺と勇者が前に立つ、僧侶は援助、魔法使いは隙を見て魔法ぶっ放してくれ!」

勇者(俺はこいつらの戦い方を知らねぇからよく見とく必要があるか…)

勇者「はあぁぁぁあ!」ズシャッ!

戦士「おぉぉぅううら!」ザザザン!

勇者(戦士は大剣か、こりゃ小せぇ敵には向いてねぇな、俺の片手剣のがこういう時は有利だ)

魔法使い「…」ブツブツ

勇者(魔法使いは詠唱中、詠唱無しでも火が出せる奴が少し時間をかけてる…ってことはそこそこ大技でくるか…)

勇者(僧侶は回復に徹底、それをさっきの会話で決めたのか、まあチームワークはあるな)

勇者「はっ…ッ!」シュシュシュシュン!

ギギュー!ギョェェェ…

勇者(まあ、雑魚だ、とりあえず剣を振り回すだけで大丈夫だ)

戦士「うわっ!危ねえ勇者!」ブン!

勇者「のわっっ!っぶねぇどこ振り回してんだよ!」

戦士「いや、お前こそいきなり出てきて来られても振り回せなくて困るんだよ!」

勇者「とりあえず色々キレたいとこだが、終わってからだ」ヒュッ

魔法使い「よし!行くよ!」

戦士「あ、待て勇者!もう大丈夫だ!」

勇者「は?」

魔法使い「中級炎撃魔法 大団炎!」

ギョェェェ!
アッツ!

僧侶「初級治癒魔法!」

魔法使い「あんたなんで避けないのよ!」

勇者「いや、俺今日ついこないだパーティ来たばっか!ほんと危ない!もう今頃消し炭でもおかしくなかった!」

僧侶「まあまあ、治してあげましたから」

勇者「でも熱かったんだよ!あぁーもうマジやる気無くす…」

《桜の町》祭壇最下層

戦士「とりあえずあのコウモリ以降は敵が出てこないが…」

魔法使い「返ってそれが怖い位ね…町の人でもコウモリの魔物くらいは倒せるだろうし…」

勇者「ん、広いとこに出たぞ」

戦士「…いや、そんなことはないかもしれん…」

魔法使い「へ?そうか……確かにそうかもね…」

目の前にいたのはさっきのコウモリの数百倍、数千倍の大きさはあろうと思われるドラゴンだった

勇者(でもドラゴンの割には小さめで細身だし、喋らねえってことは知能も低め、割りと簡単に勝てるかも知れねえな…さっきの奴らみたいにただ突っ込むだけなら楽なんだが…)

四人が臨戦態勢に入ろうとした時にはもうすでに遅かった

ドラゴン「キーーンキーーン!」

ドラゴンは甲高い声を上げると
四人は反射的に耳を塞いでしまった
その隙を見逃さずドラゴンは急降下してくる

勇者「っぶねぇ!なんちゅう速さ…くっ!?ガハッッ!」

戦士(避けたはずの勇者が風圧で吹き飛ばされた…そのスピードで直撃は致命傷だが…俺の後ろにはすぐ近くに魔法使いと僧侶)

戦士(魔法使いは防御が低く、僧侶がダメージを受けたらパーティはお終いだ…)

戦士(もう構える時間もない)

戦士「…覚悟を決めるか…」

ドラゴン「ギャー!」ガシュッ!

ドラゴンはそのままの勢いで尻尾を振るう
ドラゴンの尻尾は戦士の腹に穴を空ける

戦士「ぐふッッ!」ポタポタ

魔法使い「いやっ…せ、戦士!」

戦士(空を飛ぶ上に速いやつと戦うにはこのパーティには分が悪い…ならば地に引きずり降ろすのみ!)ガシッ

魔法使い「せ、戦士!」

戦士「俺が尻尾を掴んでおく!その間にトドメを刺すんだ!」

僧侶「戦士さん!中級治癒魔法 聖光!」

戦士「ン…ググッ…」

僧侶「まだまだ!中級治癒魔法 聖光!」

勇者「はあぁぁぁぁあああああ!」

ガキン!

勇者「なんだコイツ…硬すぎる…」

魔法使い「中級水撃魔法 華厳!」

魔法使い「くっ!中級炎撃魔法 大団炎!」

勇者「中級光撃魔法 閃光!」

勇者「中級雷撃魔法 迅雷!」

ドラゴン「グギギギ ギャーギャーッ」

魔法使い「はぁはぁ、全然効いてない…」

勇者「このドラゴン、半端じゃなく硬ぇ…」

勇者「魔法使い、作戦を練るぞ」

戦士「…」フラフラ

魔法使い「そんな、時間がないわよ!」

勇者「…眼、はダメだろーな…閉じられたらお終いだ…」

魔法使い「でも、眼にかけるのもありじゃないかしら…閉じられたとして瞼って皮膚が薄いでしょ…なんとか貫通できないかしら」

勇者「薄くても突き通せるかどうか…突き通した所で…」

勇者「いや、少しでも穴を開ければどうにかなるかも知れないけど…

勇者「…はぁ、なんで俺はこんなことやってんだろ…性に合わねぇってレベルじゃねえんだけど」

魔法使い「あ、あんたねぇこの状況で何言ってんのよ!?」

勇者(まあ、簡単に100000Gは無理かー)

勇者「目に剣ブッ刺すから俺にさっきの滝の技当てろ」

魔法使い「は、はあ?」

勇者「いいか?俺がドラゴンをよじ登ってく」

勇者「そしたら俺に滝を当てろ、頭の上に行くんだ、当然相手は暴れる」

勇者「それじゃあ力が入らねぇからお前の滝の勢いをつかって目にブッ刺す」

勇者「もうほんとに時間がねぇ、戦士が離しちまったら勝ち目はねぇ」

魔法使い「でも滝を受けるなんて…」

勇者「…死にたくねぇ、死ぬのは超怖え…あいつは殺らないと殺られる…」ガタガタ

魔法使い「ゆ、勇者?」

勇者「…ふう…行くぞ!」

僧侶「中級治癒魔法 聖光!」

僧侶「中級治癒魔法 聖光…っ!」フラッ

戦士「…カハッ…フーフー…」

僧侶(ダメ…全然回復が間に合ってない…)

僧侶(戦士くん…ダメだ…私が諦めちゃダメだ!)

僧侶「中級治癒魔法 聖光!」

勇者「ったく、暴れんなよ!ヘナチョロトカゲが!」ガッガッ

ドラゴン「グルルル…ゴォォオオ!」ブンブン

勇者「っく!…これじゃあ登る前に戦士が…殺らなきゃ死だ…死にたくねぇ…」ガッガッ

勇者「糞ったれがー!」ドサッ!

魔法使い(勇者が頭に飛び乗った…)

勇者「魔法使い!来い!」

魔法使い「行くよ!中級水撃魔法 華厳!」ドドドッ

グサッッ!!

勇者「うっし!刺さった!」

勇者「っく!はあはあ…」

勇者(今倒れたら正しく水の泡だ…)

勇者「おい、ドラゴン、お前皮膚は硬くても中はどうやってんだろうな!」

勇者「中級雷撃魔法 迅雷!」バリバリ

濡れた剣は避雷針の様になり
雷はドラゴンを内側から焼いていた

ドラゴン「ガ、ググォォー!」

勇者「まだまだ!中級雷撃魔法 迅雷!中雷撃魔法 迅雷!中級雷撃魔法 迅雷ィィィィ!」バリバリバリバリバリバリッ!

ドラゴン「ォォォオオオオォォォ…」

ズトンッ!

勇者「ふぅー…」

魔法使い「戦士!」

戦士「…やったか…」ハァハァ

僧侶「せ、戦士くん!まだ動かないで!止血しながらゆっくり抜いてから!」

勇者「…はぁ死ぬかと思ったー!怖ぇぇぇーったくこんな奴いるなんて聞いてねぇっツーの!」

勇者(でもこれで100000G…勝てば全て良し!ちょろい!)

《桜の町》町長の家

勇者(そういえば、みんなで来ちまったけど金どーするよ…)

勇者「まぁ何とかなるかー貰ったらすぐ出れば良いだけだしな…」ボソボソ

戦士「どうした勇者?」

勇者「いや、なんでもねーよ」ニヤニヤ

魔法使い「……」

勇者「失礼します」

町長「ん、勇者殿、戦士殿、魔法使い殿、僧侶殿!」

勇者(…ん?今違和感が…)

勇者「無事に祭壇に住み着いていた魔物の討伐は終わりました」

町長「ありがとう、ありがとう…やはり噂通り前勇者とは違った素晴らしい勇者の誕生だ!」

勇者「…ありがとうございます」

町長「あとこれが報酬の…」

勇者(うっしゃー!はよ!はよ!100000G!100000G!100000G…ッ!)

町長「この桜の木で出来た御守だ」

勇者「は?」

僧侶「ありがとうございます!」

魔法使い「ホント綺麗な色ね!」

町長「この木の散った花びらや木で出来ている、それらをかなりの時間をかけて御守の大きさにしてあるものでな」

町長「年に一体出来るか出来ないか…この町だけの滅多いない代物だ」

戦士「そんなものをほんとにいいんですか?」

町長「いいんだいいんだ、この桜を、私達を、守ってくれたんだ」

勇者「いやいや、は?」

町長「本当に感謝している!」

僧侶「…少し光ってる…」

魔法使い「神秘的ねぇ~」

町長「今日は四人には酒場も宿もただで使っていいぞ!町の者にも言っておる」

町長「私達にできることはそれくらいしかないが、ここから常に武運を祈っている!そしてまたこの町に来てくれ!いつでももてなそう!」

戦士「ありがとうございます!よし、勇者、言葉に甘えて今日は楽しもう、行くぞ」

勇者「え?へ?あ?は?はぁー!?」

バタン

僧侶「もう日も暮れますね…」

魔法使い「いやー、疲れたね…戦士は大丈夫?」

戦士「あぁ、僧侶のお陰で悪くない調子だ」

勇者「おい、どういう事だよ!」

戦士「落ち着けって、みっともないぞ勇者」

勇者「落ち着いてられるか!あんな命懸けの戦いだったっつーのに!」

勇者「どうりで違和感があったんだ!俺しか町長に会いに行ってねぇーんだから町長がお前らを知ってる時点でおかしかったんだ!」

魔法使い「急に態度が変わったから、こんなこともあるかなって思ってるアタシが見に行ってみたら全く予想通りで…」

魔法使い「あんた恥ずかしくないの?勇者ともあろうものが『金だ金だ!』って」

勇者「んなこと言ってねぇよ!やっつけてやるから成功したらでいいから金出せっつったんだ!」

戦士「あまり変わらないだろう…それに金ならまだあるだろ?」

勇者「いいか?人が集まれば喧嘩が起こるかもしれねぇが金は集まれば集まるほど幸せになるもんだ」

勇者「どれだけあっても足りねぇんだよ、あればあるだけいいんだよ!」

僧侶「でも滅多にない御守貰ったじゃないですか」

勇者「んなもんガラクタだよ、ガ!ラ!ク!タ!」

戦士「おいおいその言い方は無いだろう!」

勇者「んだよ!散った花びらと木だぞ!ゴミじゃねぇか!」

僧侶「そんな…こんなに綺麗なのに」

勇者「綺麗なゴミ!ゴミゴミ!」

魔法使い「全く…呆れるわ…」

勇者「…そうだ!あいつからはハンコを
…!」

魔法使い「無駄よ、あれパーティの名義で貰おうとしたでしょ?100000Gと御守を交換って新たにアタシがサインしたから」

勇者「てめぇ…余計なことしやがって…」

僧侶「まあまあ、勇者さんに持たせてあげますから」

村人「勇者様ー!ありがとう!」
「きゃー!!勇者様ー!」
「よっ!勇者!」

勇者(うるせぇ!感謝してるなら金出しやがれ!)

《桜の町》酒場

店主「さぁいくらでもいいぜ!今日はこの町の救世主が来てくれてるんだからな!」

戦士「ありがとうございます」

僧侶「ふぅ…もうヘトヘトです…」

戦士「ほんとにすまない…」

僧侶「戦士さんのせいでは無いです!私達を庇っての怪我ですから当然です!いやこっちが謝らなくては…」

魔法使い「さらに動きまで止めてもらっちゃったしな」

戦士「まあついでみたいなもんだ」ハハハ

戦士「しかしここまで苦戦するとはまだまだ修行が足りんな…」

魔法使い「うーん、でもまあ今日はさ、パーッと行こうよ!」

僧侶「あ、でも戦士さんはお酒は控えてください、傷が開くので…」

戦士「…そうか仕方あるまい」

グビグビ ドン!

勇者「おっちゃん!おかわり!!」ヒック

店主「おう!どんどんいってくんな!」

僧侶「…勇者さん…荒れてますね…」

勇者「100000G…100000G…俺の…100000G…」グズグズ

ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーー

『…逃げなさい』

『やだよ!母さんはどうするのさ!』

『二人で逃げるのは無理よ…追いつかれるわ…』

『そんな…いやだいやだいやだ!』

『お願いだから…早くして!』

『だって…』

『母さんは大丈夫よ、追い返してみせるわ!』

『うっ…うぐっ…やだよ…』

『おらぁ!開けろ魔物め!』
『くそっ!こんな近くに魔物がいたなんて!』
『魔物だから言葉も解らねぇか!』
『魔物のくせに家に住んでるんじゃねぇ!』
『あーそうだそうだ!このドアもブッ壊しちまえ!』

『お願い…お願いだから…ね?』

『うっ…ぐすっ…わ、わかった…』コクコク

バキバキッ!

『ウォオラァ!魔物め!この町から消えろ!』

『ほら、泣かない!バレちゃうでしょ?』

『いい子だから…泣かないの…ね?』

『う、うん…』

『台所の裏から逃げれるようになってるから…追い払ったらすぐ会いに行くから大丈夫よ!』

『…やくそく…だよ?』

『さぁ、お行き!』

『…わかった』ダッ!

カチャッ

『いたぞ魔物め!消えろ消えろ!』バキッ!

『おい!子供はどこ行った!』

『はん!子供なんていないわよ!』

『あぁ?嘘つきやがったなこの野郎!正真正銘クソ魔物だ!』ドカッ!

『きゃっ!』

『(母さんの悲鳴だ…)』

『おらおら居場所吐きやがれ!』ボコッ!

『…なんのことかしら…?』

『んだよコイツ!ムカツク!オラッ!』ゴッ!

『うっ、や、野蛮ね…あんた達こそ魔物なんじゃないかしら?』

『(…なんで逃げてるんだ…僕は…僕は…)』タッタッ

『なんだとー!』ドカッ!
『クソ野郎死ね!』ザシュッ!

『きゃぁぁぁああああ!』

『うっ、うぐっ…母さん…』タッタッ

『父さんはもういないんだ…僕が何とかしないといけないのに…けど…』

『うるせぇ魔物!』バキッ!

『ぐふっ…うぅ…』ドサッ

『くそっ!最後まで吐かなかったぞコイツ!』

『母さん…うぅっ…』タッタッ

『探せ!まだ近くに居るはずだ!』
『おうよ!魔物は一人残らず倒してやるぜ!』

『うっ、うぅ…』

魔法使い「はぁ…もう眠いわ…」

勇者「うっ…うぅう…」

魔法使い「…ゆ、勇者…?」

勇者「う、うわぁぁぁぁぁぁぁああああ!」ガバッ!

魔法使い「勇者!!」

勇者「はぁはぁ…どこだ…ここ」

魔法使い「何を言ってるの?酒場でしょ?飲みすぎよあんた…」

勇者「はぁはぁ…あと二人は?」

魔法使い「もう寝たわよ、戦士もいくら傷は治してもらったとはいえ流石に全快ではないし」

魔法使い「僧侶は魔力を限界まで使ってたからもうヘトヘトだったし」

魔法使い「第一何時だと思ってるのよ!3時よ!夜中の3時!」

勇者「じゃあなんでお前は起きてるんだよ」

魔法使い「そ、そりゃあ、あれよ!勇者一人にして置くとまた金だなんだ言い出しそうだからよ!」アセアセ

魔法使い「それで二人は今日頑張ってたじゃない?だ、だからアタシが見張ってただけで…」アセアセ

勇者「確かにお前が今日したことと言えば火と水を俺にぶつけたくらいだもんなwww」

魔法使い「ちょっと!滝はあんたがやれって!」

勇者「はいはいそうでしたねー」

勇者「ふぅ…まだ眠みーわ…先に寝るわ…」

魔法使い「あんたねぇ、起きてたこっちの身にもなりなさいよ」

勇者「お前らが勝手にやってたことじゃねぇか…てかさ、金稼ぎくらいよくね?」

魔法使い「あんたのはなんか悪巧み感が凄いのよね…」

勇者「んだよそれ、人を悪みたいに言いやがって…」

魔法使い「…ね、ねぇ…大丈夫?」

勇者「何がだ、今日のショックは大丈夫どころの騒ぎじゃねーぞ?」

魔法使い「もう金金うるさいわね…そのことじゃ無いわよ、ほら、うなされてたから…」

勇者「…知らねぇーよ」

魔法使い「それにドラゴンと戦ってる時も異常に震えてたじゃない?」

勇者「覚えてねぇ」

魔法使い「何よ強がっちゃって…でもなんだかんだ言ってさ、
今日はあなたも活躍してたじゃない?」

勇者「そうだな、戦士がケガして、僧侶が応援して、てめぇが俺に滝ぶつけてる間に俺が片付けたんだからな」

魔法使い「は?いやいや、そんな大活躍ではないわよ?」

勇者「でもまあ、戦士は動きを止めた、僧侶は瀕死の戦士を助けた、俺は機転を利かせて相手を倒した、でお前は?」

魔法使い「うっ、…どうせアタシは、突っ立ってただけですよ!」

魔法使い「少し励ましてやろうかと思えばすぐにこれか!」

魔法使い「でもほんとに助かったから…ありがと…か、かこ、カッコ良かったわよ…」

勇者「…金のためだって何回言わせんだっつーの」

魔法使い「またそうやって…」

勇者「別によーお前らが俺をどう思おうが勝手だしな、あーだこーだ言うつもりはねぇーけどよ…」



勇者「俺はピンチだったら構わずお前らを盾にして逃げるぜ、そういう奴だからな…」

魔法使い「勇者…」

勇者「さて、明日はもうこの町を出るんだ、俺は寝る」

勇者「俺が起きた時にお前寝てたら置いてくから」

魔法使い「誰のせいだと思ってるのよ!」

勇者「人のせいにすんなよ…」

戦士「起きろ勇者」

勇者「…あーあ、なんで男に起こされなきゃなんねーのよ」

戦士「馬鹿なこと言ってないで下でみんな待ってるから早く行くぞ」

勇者「あれ?お前その鎧どうしたんだ?」

戦士「ああ、流石に穴の空いた鎧じゃ意味を成してないからな」

戦士「朝防具屋を見ていたら半額にしてくれるって話だからお言葉に甘えたよ」

勇者「半額か…全額まで押せよ」

戦士「俺は半額でもかなり申し訳なく感じたがな」



僧侶「魔法使いちゃんまだ疲れてますか?」

魔法使い「い、いや全然大丈夫よ!」

魔法使い(あー完全に寝不足だわ…立ったまま寝ちゃいそう…)

戦士「勇者起こしてきたぞ」

僧侶「あ、勇者さんおはようございます」

勇者「うぃっす、んじゃまあ今日はこの大陸にある祠目指してとりあえず南に適当に」

勇者「あと魔法使いは俺に魔法を当てないことな」

戦士「ん、魔法使い目の下黒いぞ」

勇者「お前らが魔法使いに俺のこと監視させてたんじゃないのか?」

戦士「監視?」

魔法使い「あーほら!きっと勇者昨日飲み過ぎて記憶が曖昧なのよ!早くしないと日も暮れちゃうから行きましょ!」

村人「ありがとなーお前ら!」
「また来てくれー!」

《菜の花草原》

戦士「はっ!」

しかし戦士の剣は空を切った

戦士(ネコ型の魔物、こっちから狙いに言っても避けられてしまうな、なら…)

ネコ魔物「キーーーッ!」ダッ!

戦士(向こうから来たところを、合わせるッ!)

戦士「ふっ!」ズシャッ

ネコ魔物「ウゥ…」トサッ

魔法使い「初級水撃魔法!」

ネコ魔物「ニャ!」スカッ

勇者「よっ、と」ヒュヒュン

ネコ魔物「ギャッ…」トサッ

勇者「まあ、こんなもんか」

戦士「昨日のドラゴンの後だと小さく感じるな」

魔法使い「でもあれだけ苦戦したんだから私達もまだまだよ」

勇者「いやいや、今外してた奴が何言ってんの?」

僧侶「ま、まあそういうこともありますよ!」

戦士「でも確かに今のままでは…」

勇者「いやいや、負けそうになったら逃げるだけだろ」

戦士「そういう訳にも行かないだろ」

魔法使い「それに逃げられない可能性だってあるじゃない」

勇者「逃げられるって絶対、強敵なら戦わずして逃げる」

僧侶「いや、勇者さん、魔王を倒さないといけないこと忘れてませんか?」

???「さてさて、お手並み拝見としようかねぇ」ボソボソ

ブンッ!

勇者「ん? あっぶねっ!岩!?」

戦士「あれは、ゴーレムか?」

勇者「あんなとこから岩投げてきやがったのか!?」

僧侶「ま、まずこんな草原にゴーレムなんて出るんですか!?」

魔法使い(ここは名誉挽回のチャンスよ!)

ゴーレム「ゴゴゴ…ッ!」

勇者「ちっ、向かってくるか…」

戦士「遅く見えるがデカいからな、実際のスピードは割と早いかもしれん」

魔法使い「」ブヅブツ

勇者「っても動きもデカいからな、ゆっくり見てからでも避けられる」

戦士「油断は良くない、ん?」

魔法使い「中級炎撃魔法 大団炎!」ドン!

ゴォォウ!

魔法使い(よし!当たった!)

魔法使い「へへーん!どうだ!」

???(まだまだ未熟じゃな)

戦士「…いや、」

ドシン!ダシン!

魔法使い「え?」

ゴーレム「グオォォォ…」グググッ

戦士「来るぞ!」ダッ

ゴーレム「オン!」ブンッ!

ドガッ! ガラガラ…

勇者(近づいても大振り…容易く避けられるが…)

僧侶「あれ!地面に大きな穴が!」

勇者(…喰らうとお終いだ…)

魔法使い「中級水撃魔法 華厳!」ドドド!

ゴーレム「ゴゴゴ…」

魔法使い「こ、これもダメか…」

???(そろそろ前線二人の出番かな?)

戦士(遅くても正面から近づきたくはないな、後ろに回り込む…)ダッ!

戦士(上を狙うのは難しい…まずは足)

戦士「はっ!」

ガイィイイン

戦士「くっ!硬いなこいつも…」ビリビリ

ゴーレム「」クルッ

戦士(来るっ!)ザッ!

勇者「余所見して余裕そうだな、そのまま余裕ブッこいてくれ」

戦士の方を見た瞬間、勇者は一気に距離を詰める

勇者(戦士の剣で弾かれた…だけど関節はどうだ)

勇者(戦士に気を取られてる今がベストだ)

勇者(全体重を前足に乗せて飛ぶ)

勇者(ゴーレムの攻撃は0だ、あり得ない、気にしなくていい)

勇者(全体重を乗せて…)

勇者「オラッ!」

ガイィイイン

勇者「クソ!全然効かねぇ…」

???(あらら……もういいかのぉ)

ゴーレム「」クルッ

勇者「ちっ!」ダッ!

魔法使い「勇者、戦士…」

勇者「ダメだありゃ全然効かない」

戦士「こっちもだ…」

僧侶「み、みんなで考えれば…」

勇者「はぁ…逃げるぞ…」

魔法使い「なっ、ここで勝てなきゃ」

勇者「今は無理だって分かんねぇのか?」

勇者「力不足だ…お前らみんな思うところあるだろ」

魔法使い「ま、まぁ…」

勇者「なら戻って修行だ」

???「ふぅ、情けないのぉ…」

勇者「は?」

老婆「まあ、孫の世話と成長を見れるのはは楽しみじゃがな」ボソボソ

ゴーレム「ゴゴゴ…」

戦士「お、お婆さん!何してるんですか!?」

勇者「ちっ、逃げるぞ…」

僧侶「え、でもお婆さん…」

勇者「知らねぇ奴だ、あの歳でゴーレムの前に立つとか死にたがりだろ、そんなの助ける余裕は無ぇ」

僧侶「で、でも…」

老婆「勇者よ、いつまで逃げとるんじゃ?」

ドシン!ダシン!

勇者「婆さん悪いことは言わない、今なら一緒に逃げれるぞ…って何で俺の名前」

老婆「まあ、見とけって…」

老婆「上級水撃魔法 青龍」ズズズ

魔法使い「な、何あれ?水の龍…?」

ゴーレム「…オン!」ブンッ!

ゴゴゴ ザッパーン!

戦士「な!?」

勇者「水でゴーレムぶっ飛ばしやがった…」

ズダン!

ゴーレム「ゴゴゴ…ゴ!」ドシン!

老婆「上級氷撃魔法 銀世界」

魔法使い(上級魔法をこんなに連続で…信じられない…)

ゴーレム「…ゴゴゴ…」

魔法使い(ゴーレムに襲いかかっていた水を、ゴーレムが地に打ちつけられた瞬間に凍らせてゴーレムを地面に固定させた…そんなことができるの?)

勇者「だ、誰だあんたは?」

老婆「しがない白髪美人よ」ハハハ





老婆「おい誰か反応せんか」

老婆「今はゴーレムは私が魔王城の近くから転移魔法で持ってきたのだ」

戦士「な、なぜですか?」

老婆「おぬしらが来ることはわかってたからの、実力を見せてもらおうと思ってな」

老婆「祠へ向かってるんじゃろ?」

戦士「そ、そうですが…」

老婆「今のおぬしらの実力じゃあ祠の開放は無理じゃな」

勇者「…どういうことだ」

老婆「そのままの意味じゃよ、魔王城の近くにはゴーレムなんて比じゃないモンスターも普通に歩いてて見かけることもある」

老婆「そういう奴らをこちらの大陸に来られたら困るから祠があるのじゃ、まあ祠のせいでこちらの大陸から向こうに渡るのも無理じゃがな」

老婆「それを開放したらどうなると思う?」

老婆「…祠は強き者にしか開放してはくれない、何故かはわかるな?」

老婆「ゴーレムも倒せないひよっ子にゃ開放できんよ」

勇者「そんなに詳しい上に力もある、あんた魔王倒しに行ったらどーよ」

老婆「私はもういいのじゃ、流石にもう歯も立たん、次はおぬしらの番…」

勇者「もう…?」

老婆「まあ一度祠に行ってみると良い、まあまた会うことになるがな」

老婆「じゃあの」シュン

魔法使い「い、今の転移魔法よね…」

僧侶「何者だったのでしょうか…」

勇者はまだ桜の町から祠まで半分も来ていない状況、日が暮れると野営の準備が大変だということ、そしてなにより今日のゴーレムとの戦いで精神的な疲労も溜まっていることを考慮し、まだ影も自身と同じ程にしか伸びてない時刻に水の確保と食料の調達に入っていた

ガラガラ

勇者「薪はこんなもんでいいだろ…」

一瞬勇者の人差し指が赤く光る

ボウッ パチパチ

その後、勇者は狩った動物を捌き始める

戦士「勇者、随分手際がいいが」

勇者「つい最近までずっとこんな暮らしをしてたからな」

勇者「お前らは野営は初めてなのか?」

戦士「そうだな、いつもは行商に護衛の代わりに馬車に一緒に泊めさせてもらっていたからな」

勇者「魔法使いと僧侶が目を背けてると思ったら動物捌いてるとこは見たことないのか」

勇者「普段からあんなに魔物を殺してるのにな」

魔物と動物は違うものであり、
魔物は瘴気により一から生み出されるか、瘴気に充てられた動物が魔物に堕ちたものを指す
瘴気は人間も含めて動物にとっては毒であるが、人間はそれに身を委ねない限り魔物に堕ちることはない

勇者(まあ基本的に瘴気は魔の大陸に満ちているものなんだけど、魔王が出ると瘴気が溢れだして他の大陸まで魔物の発生を許しちゃうんだね!)

勇者(祠とやらは瘴気まで止めとけっつーの、めんどくせぇ)

勇者「うし、出来たぞ」

勇者「うし、出来たぞ」

僧侶「いただきます」

勇者「弱肉強食だってのーに偉いねぇ弱者に礼かい?」ムシャムシャ

魔法使い「礼儀は正しくするべきよ」イタダキマス

戦士「俺もそう思うぞ」イタダキマス

他愛もない話をするがすぐに静まり返り、そのままの流れで次の日に備えて寝ることになった

勇者(旅出てから大きな戦闘は2回、どっちも自信を無くすような戦いだったからな…)

勇者(めんどくせぇけど修行は必要だな…死にたくねぇし…)





戦士「勇者、起きてくれ」

勇者「はぁ、またお前に起こされちゃうとか今日一日元気にいこう!って思えねぇよ」

戦士「お前は一度もそんなこと思ったこと無いだろう」

戦士「そんな話をしに起こしたんじゃない」

戦士「勇者、手合わせしてくれ」

勇者「んなことだと思ったよ…いいぜ」ムクッ

戦士「ここら辺でいいか?」

勇者「全然、どこでも構わねぇよ」

戦士「修行だが手加減しない、いいか?」

勇者「おいおい、俺を誰だと思ってるんだよ…勇者だぜ?」

戦士「ふっ、都合のいい時だけ勇者を名乗るんだな」ダッ!

言葉を発し終わると同時に戦士は地面を蹴り、勇者に迫る

勇者(大剣と片手剣、完全にリーチは相手に分がある)

勇者はその場で剣を構えたまま動かない

勇者「来る!」キッ!

戦士「はぁああ!」ブンッ!


勇者は戦士の横薙ぎをギリギリまで引きつける
そして前に倒れこむかのような体制を取る
戦士の剣は勇者の頭上を通り過ぎる

勇者は前のめりになったその姿勢から右足を前に出し地を蹴り上げる
体にかかる重力の力を活かして一気に懐に入っていった

勇者(リーチが関係ない懐に入れば俺に分がある)

勇者は再度剣を握り締め、切り上げようとする
がしかし視界の端に何やら飛んでくるものが見える

勇者(な、に?完全にあいつの筋力じゃあ剣に振られてるはずだろ…)

戦士は躱された剣を捻じ伏せて、斜め下に、勇者に向かってその剣を、半ば強引に

咄嗟に勇者は剣を大剣に向かって刀身を垂直にし受ける

ガキン!

勇者「ちっ!」ズザザザザ

しかし戦士の一撃は重く、勇者は2mほど後ろに飛ばされていた

勇者「…一日でそんな力がつくはずねぇよな?」

戦士「ああ、今のでもうすでに腕が悲鳴をあげてるよ…でももっと速く軽々振り回せるようにならないとな」

戦士「じゃないと勇者位にしか勝てないからな」ニヤ

勇者「ははは、面白え面白え」

勇者「何だとこのゲロ面ハゲ野郎」ボソ

戦士「おいおい、聞こえてんぞ、俺は禿げてないし何だゲロ面って」

勇者(まあ修行なんだから今ある選択肢を選んでちゃあ意味ねぇよな…)

勇者「次はこっちから行かせてもらうぜ」ダッ!

勇者は正面から戦士に接近する

戦士「正面近距離は俺の土俵だ、舐められたものだな」

戦士が腕に力を込めると血管が薄っすら浮かび上がる

勇者(しかし厄介だって、あのデカイ剣をブンブン回すとかゴリラかよ)

勇者(ここは動きを制限させてもらうべ)

戦士は剣を構えながら、勇者がどの様な手に出るかを思考していた

しかし、それは勇者の行動は想定外のものだった
勇者は戦士のリーチに入る寸前に上に飛んだのだ

戦士「自ら地に足が着いていない状況を作るとはな」

戦士は勇者に向かって前進する
今勇者は宙に浮いている
十分に躱すこともできず、踏ん張れない状況で剣を受け止めても吹き飛ばされるだけだと戦士は判断した

勇者「」ニヤ

戦士「死ぬなよ!」ブンッ!

戦士は全力で剣を切り上げる

しかし勇者は初めから刀身を下に向けていた
左手で刀身を抑え、戦士の大剣の先端に剣を横から当て受け流した

戦士「な!?」

勇者はまるで戦士が切り上げをしてくることを読んでいたかのような動きだった

いや、実際には読んでいた
勇者は戦士が切り上げをしてくることを知っていたのだ

勇者は戦士の剣を受け流し、その場で着地する

勇者「」トン

戦士の首に勇者の剣が突き付けられていた

勇者は戦士が先程の衝突で自身の力に自信を付けていたことで、自分が飛んだらすかさず接近して勝負に出ることを読んでいた
そして勇者は飛ぶことによって戦士の剣が切り上げしか届かない状況を自ら作り出していた

勇者(相手を誘き寄せる、翻弄する、俺の細身の剣ではこの戦い方がベストか…)

戦士「やるじゃないか…」

勇者「ってもこれじゃあ修行になってねぇかもな…」ボソッ

戦士「どうした?」

勇者「いやーお前じゃ相手にならないって話」ニヤァ

戦士は後ろに飛び退いた
何やら顔が引きつっている

戦士「ハ、ハハハ…ブッ飛ばす…」

《星の町》

戦士「やっと着いたな…ここから数キロ先に祠がある」

勇者「ったく疲れたわもう…誰かのせいでよ」

戦士「なるほど、誰のせいだろうか…きっとそれは勇から始まって者で終わる奴ではないか?」イラッ

勇者「…んだと?」ピキッ

戦士「もう一度言わなければ分からないか?」

魔法使い「もう!アンタたちバカじゃないの!」

勇者「うるせぇガヤは黙っとけ」

魔法使い「が、ガヤですって~?」

戦士「そうだぞ、魔法使いは同じパーティじゃないか、お前みたいな馬鹿な問題児を心配してくれてるだけ感謝するんだな」

魔法使い「戦士!アンタもよ!」

僧侶(桜の町を出発して3日、それで二人が修行と言う小競り合いをし始めて2日…正直そんなことで回復魔法使わなきゃならないこっちの身にもなって欲しいよ…)

僧侶「どうしよう…この旅、大丈夫かしら…」

???「どうやら元気そうじゃな」

僧侶「え?」

勇者「なんでお前がここに…」

老婆「勇者、お前って呼び方はどうかと思うぞ」

勇者「いやそれより」

老婆「また会うことになると言ったじゃないか」

老婆「私はこの村の住民じゃよ」

勇者「話を遮んないでくれ、何で俺が勇者だって知っていた?」

老婆「…秘密は多いほうがミステリアスでより一層美人に拍車がかかるじゃろ?」







老婆「だから反応せんかい」

僧侶「あ、あの!」

老婆「何じゃ?」

僧侶「祠について少し教えて欲しいんですけど」

老婆「いや、一度行ってみるとよいと言ったじゃろ?」

僧侶「それでも教えて欲しいんです!」

魔法使い「アタシも!」

老婆「急にどうしたんじゃ?」

僧侶「男二人が心配で…」

戦士「…」

魔法使い「ただでさえ未知の所に行くのにあの二人が何をしでかすか心配で」

勇者「意味わかんねぇーしでかすとか意味わかんねぇー」

老婆「まあ大丈夫じゃよ」

老婆「お主らひよっ子じゃあまだ祠に試されることも無いわい、あの男どもとか見るからに弱そうじゃしな、安心して行ってこい」ハハハ

僧侶「なら安心ですけど…」

老婆「私の家はあそこじゃ、何かあったら来ると良い、じゃあの」テクテク

魔法使い「まあとりあえず危険ではなさそうだしよかったわね」

戦士「何が安心だ僧侶、魔法使い」

僧侶「え?」

勇者「お前と同じとは気に食わんがそれには同感だ戦士」

魔法使い「ど、どういうこと?」

戦士「お婆さんに馬鹿にされて黙っていられるか」

勇者「ああ、ふざけやがってあんのババァ」

老婆(こうも簡単に挑発に乗るとは…いいのか悪いのか…)

老婆「おい勇者、お前さん覚えとけよ」クルッ

《光の祠》

勇者「はぁ、めんどくせぇな…」

魔法使い「どうしたのよ、昨日までやる気だったじゃない」

勇者「いや、これって何の金にもならねーじゃん」

魔法使い「仕方ないじゃない!魔王討伐に祠の開放が必要なんだから」

勇者「適当に町助けて報酬ガッポリ貰って隠居してぇー!」

魔法使い「魔王討伐はどうするのよ!」

勇者「だって魔物が現れようとも魔王クラスは祠で来れねぇんだろ?どーでもよくね?」

僧侶「でも最近は強い魔物も現れ始めてると聞きますし、魔王がもし攻めこんで来るとなったら戦いに勝ったとしても、きっと大量の瘴気に人間の住む大陸まで汚染されてしまうんじゃないでしょうか?」

勇者「まず自分の身くらい自分で守れっつーの」

戦士「情けないな勇者」

勇者「あーもうお前には構ってらんねぇよ」

戦士「何とでも言え、ただお前はお婆さんに馬鹿にされといても不貞腐れるだけの情けない奴だと言うとは間違いない」

勇者「あんな安い挑発に乗るお前はもっと情けねぇけどな」

戦士「戦わない奴の言い訳かな」

魔法使い「やめなさいよ二人とも!」

僧侶「…ねぇ?さっきもここ来なかった?」

魔法使い「うーん、そんな事ないはずだけどなぁ」

僧侶「そ、そうだよね!」

魔法使い「でも随分歩いたのに何もないのはちょっと変よね…」

勇者「確かにもう体感的には1時間は歩いたよな…この建物自体そんなに大きくはねぇはずだ」

魔法使い「そうよね、ちょっとありえない話になってきたわね」

僧侶「やっぱり私達にはまだ早いってことだったんでしょうか…」

勇者「認めたくねぇけどそうなのかもな」

戦士「…もう少し歩こう」






僧侶「あ…」

魔法使い「…あの壁はさっき僧侶ちゃんがさっきも来たって言ってた所よね…」

僧侶「うん…」

勇者「どうすっかなぁ…一度来た道を戻るか」

戦士「…」

勇者「戦士、別に戻ることは諦めることじゃねぇ、状況を確認するために必要だ」

魔法使い「そうよ、もしかしたら見落としてる所があるかも知れないし…」

勇者「とりあえず一回来た道辿るぞ」



勇者「そこを俺達は左から来たんだよな」



勇者「ん?」

僧侶「あ…」

魔法使い「うーん……どう見ても入ってきた所と同じよね…」

戦士「…」

体感で1時間、景色の変わらない、魔物が出ない中での体感時間だ
きっと実際にはそんなに時間は経ってないのかも知れない
しかし、戻ってきた道は20m程、時間にして15秒程、曲がった角は2つ
これは体感時間云々の問題では無いのは明らかだ

勇者は溜息をついた

勇者(小さいドラゴンに戦士は瀕死まで追い込まれ、賭けに出た策が偶然と通って何とか生き延びた)

勇者(ゴーレムに総攻撃すると通る気配がしなかった、婆さんが途中入ってきて圧倒したから自分達の弱さは感じたけど負けた感じはしなかった)

勇者(でもこれは…)


勇者「負け…いや、勝負すらなってねぇ」

戦士「あぁ、逃げていたのは自分だったのかも知れん…実力不足を受け入れなければ…」

僧侶「どうしましょう…」

勇者「祠の壁にぶつからなかったことで俺達は大きな壁にぶつかっちまったな」キリッ



魔法使い「…別に上手いこと言ってないわよ」

勇者「いいじゃねぇか、お前今そういう雰囲気じゃなかったろ!?」

戦士「純粋に考えて、強くなるしか方法はないな」

魔法使い「でもその方法を…ガムシャラにやっても私達だけで出来ることなんて限られてるわ…」

勇者「いや、宛はあるだろ、本ッッ当に嫌だけど」

魔法使い「え?」

勇者「この際ウダウダ言ってらんねぇよな、本ッッ当に嫌だけど!」

《星の町》老婆の家

老婆「やはり来たな」

勇者(んだよ知ってたみたいな言い方うぜぇーー!)

老婆「まあ聞かんでも分かるが一応聞こう、祠はどうだった?」

勇者「…何でか分からねぇけど気づいたら同じとこをぐるぐると回されてたな」

老婆「だろうな」ニマッ

戦士「」イラッ

勇者「なんだよその顔」

老婆「お主らははっきり言って弱過ぎる、だがそれを認めなければ先はないぞ」

老婆「んでどうするんじゃ?」ニマッ

勇者(糞が!楽しんでやがる…)

勇者(ってもここしか無ぇもんな…)

勇者「…俺達を弟子にしてください」

老婆「よろしい」

老婆「まあお主らを育てるのは私の役目だからな」

勇者「あ?」

老婆「気にしないでよい」

老婆「お前達にはこれから当分の間この町にいてもらうぞ」

勇者(イラッと来るけどしゃーないな)

勇者「進む宛もないしいいよな?」

僧侶「はい!」

魔法使い「大丈夫よ」

戦士「…あぁ」ムスッ

老婆「何じゃ戦士、私が気に食わんか?」ハハハ

戦士「いや…」

老婆「まあ今日はもう時間も遅い」

老婆「2階に空き部屋が2つある、自由に使え」

僧侶「えっ!」

魔法使い「アタシたちここに住むんですか!?」

老婆「だってお主ら魔物も倒さず職もないのにどうやって収入を得るんじゃ?宿に泊まり続けてたらいずれ金が尽きるぞ」

勇者「マジかよ!確かに金はマズイけどそれでも常にこの婆さんと一緒は耐えられねぇー!」

老婆「じゃったらお主は外で寝ろ」

勇者「…」

魔法使い「でもあんだけいつも金金言ってるのに金を取るかお婆さんを取るか悩むって…このお婆さん相当ね」

老婆「どうせこの家で寝るんじゃろ?」

勇者「…」

老婆「風呂はそっちじゃ、飯は勇者、お主が作れ」

勇者「はぁぁ?何で俺が」

老婆「人んちに居候してる身で何を言う」

勇者「そっちが勝手に決めたことじゃねぇー…婆さんそれが目的か!?」

老婆「ほれほれ、そろそろ作り始めてくれんかの」

勇者(ただ、普通に考えてタダ飯タダ宿って考えりゃあ…得か~…)

勇者「ったく、やるよやるやる」

老婆「女の子二人には掃除を頼む、今日はもういいがな」

僧侶「はい!」

魔法使い「任せてください!」

勇者「いやいやお前らはよくそんな元気な返事が出来るよな」

魔法使い「居候の身なんだから手伝うべきでしょ」

勇者「いや、これは居候してるんじゃねぇ、させられてるんだ」

僧侶「なんでもいいですよ、私達は強くならないといけないんですから」

老婆「僧侶は分かっとるの」

勇者「はぁぁ…何も分かっちゃいねぇよ」

老婆「戦士は洗濯じゃな」

戦士「仕方あるまい」

勇者「さっきまでの威勢はどうしたんだよ!」

戦士「強くなるためなら…自分は弱い、プライドだとか、んなもんに縛られてる場合じゃない」

老婆「戦士も分かってきたな」

勇者「もう嫌…」

老婆「勇者には一番時間のかからんパートを与えてるんだ、お主の修行は大変だからの、感謝せい」

勇者「あぁ、あぁ、もうめんどくせぇー、ってか修行って柄でも無えこともしなきゃなんないとか急に憂鬱だわこれ」

老婆「ウダウダうるさいのお」

勇者「…あっ!そういえば婆さんが吹っ飛ばしたゴーレム…そのままだわ」

老婆「なに!?」

魔法使い「確かに…」

僧侶「私達じゃあどうしようもありませんでしたしね」

戦士「横を通り過ぎたな」

老婆「桜の町のが近いか…」

僧侶「移動魔法?」

魔法使い「いや、ここ室内ですよ!」

老婆「」シュン

老婆はロケットが発射されたが如く上に跳ね上がり天井、屋根を突き抜けて行った

勇者「何でもありだなあの婆さん…」

ドンドン

老婆「はよ起きろ」

勇者「…ん、ってまだ外暗いじゃねーか…」

戦士「今は朝の4時半だな」

老婆「時間が勿体ないからの」

勇者「年寄りの早起きに付き合わせるんじゃねぇーよ…」ボソボソ

老婆「なんか言ったか?」

勇者「いいや何にも」

老婆「何でもいいからはよ来い、町の入り口の所で待ってるからの」

《星の町》星見の森

勇者「どこだここ?」

老婆「星の町は占いが有名での、と言うより星を見て占う人がいたから星の町なんじゃな」

老婆「んでここはその星を見る場所、じゃがもう誰も使わんな、私が少し力を継いでる位で他にはもう占う力を持つ人もいない」

老婆「じゃから暴れても大丈夫、修行に持って来いの場所よ」

魔法使い「確かに空気も済んでるし、ここで星なんて観察してたら最高ね!」

老婆「何呑気なこと言ってるんだい?」

老婆「大体、日が暮れる前には家に戻るぞ」

老婆「お主らには家事が残ってるからな」ハハハ

老婆「じゃあ修行に入るがその前に少し、お主らは気と言うものを知っとるか?」

勇者「知ってるか?」

魔法使い「アタシは知らないわね」

老婆「まあお主らの戦いを見ていると知らないだろうと思っていたが、これは戦う上では知らなきゃいけないぞ」

老婆「ちょっと見せた方が早いかの」

老婆「ほれ」ヒョイ

戦士「む、これはただの石か」パシッ

老婆「そうじゃな、これを素手で割ってみろ」

戦士「素手で、か…」

老婆「地面に置いて、板割りの容量でやってみると良いじゃろ」

戦士「い、いやしかし」

老婆「出来ないのか?」

戦士「…」

老婆「まあそうじゃろな、普通は出来ない」

老婆「それじゃあその石を貸してみい」

老婆「お主ら、よく見とけよ」パシッ

老婆は石を自分の足元に置く
ズリズリと少しばかり右足を引く
服の右袖を眉間にシワを寄せ鬱陶しそうに捲ると少し皮が余っていて血管も見えている細い腕、至って歳相応の腕が姿を現した

老婆は右腕を振りかぶって

バキッッッ!!

戦士「……ッ!」

勇者「おいおい、マジかよ…」

老婆「接近戦が主でない私でも気を使えばこの位はまあ出来るようになる、魔法使い、僧侶もここまでは出来るようになって欲しいんじゃが…」

魔法使い「いやいや、アタシこれ無理だと思うわ…」

僧侶「私も…」

老婆「何を行っておる、どちらかといえば女子二人はこの修行において一歩先に進んでおるんじゃがな」

僧侶「へ?」

魔法使い「どういうことですか?」

老婆「魔法使い、僧侶、そして勇者、お主らは魔法が使えるな?」

老婆「魔法も気の一種なのじゃ 」

老婆「気というのは他の世界では〈まじっくぱわー〉とか〈まじっくぽいんと〉とか言われてるらしいんじゃ、詳しいことはよくわからんがな」

老婆「気というのは体内に巡っているものでの、今やってみせたのは右腕に気を溜めてただ殴るだけしかやっとらん」

老婆「体内に巡っている気は外に出すには才能がいる、それがお主らの使う魔法、気というのを魔力に変換、更に呪文を唱えたりすることでやっと具現化出来るものなのじゃ」

戦士「ただ溜めて殴るだけでこれか…」

老婆「ただ溜めるってのが難しい上に、強い相手ではこうやって止まってる時なんて無いからの」

老婆「ちなみに足に気を溜めれば」

シュッ!

戦士「消、え…」

老婆「後ろじゃよ」

戦士「な!?」クルッ

老婆「分かったかな気の大事さが」

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