男「えっ〇〇の携帯じゃない...んですか?」
女「はい。この番号の前の所有者でしょうか」
男「あっごめんなさい!本当にごめんなさい!失礼しました!!」
女「構いません。では。」
プチッ
間違い電話と言うより、相手が前からこの番号を知っていたような様子だった。買い換えて1年立つが、こんな事は初めてだ。
電話が来ること自体珍しいが。
それにしても、この電話のせいで貴重な休日の貴重な睡眠が中断されてしまい、思い出したかのように倦怠感が体を飲み込んだ。
ピロン♪
切ったばかりの携帯が再び音を鳴らした。またもや珍しい、メッセージが入ったようだ。
?『先ほどは本当に申し訳ありませんでした。私は△県在住の男と申します。朝からご迷惑をおかけしました。』
先ほどの奴が、電話番号からメッセージを送ってきたようだ。声だけで若い女と判断したのだろうか?わざわざ住まいと名前まで名乗るあたり、そして△県がすぐ隣であるあたりに気持ち悪さが増す。
返事しなくてもいいか。
携帯を放り、ゴロンとベッドに横たわり、引き続き惰眠を貪ることにする。
初めて書き込みます!
ご覧いただきありがとうございます。
SSも初めてで、ペースは遅いかも知れませんが、
よろしくお願いします。
携帯を放り、ゴロンとベッドに横たわり、引き続き惰眠を貪ることにする。
文面、一人称が『私』なあたり、社会人だろう。
住まいと名前を名乗ってメッセージを送ってくるということは、俗に言う出会い厨という奴だろうか。
寝転んだのに、先ほどのささやかにレアな体験で気が落ち着かない。
社会人生活3年目、寝て起きて仕事して、オフの日に会う友達もおらず、休日は寝貯めする生活を、退屈に感じていた。
...返事、してみる?
放った携帯をたぐり寄せる。倦怠感が覆っていたからだは、地がめぐり始め、久々に自分が高揚しているのを認めざるを得なかった。
返事するだけ。大丈夫。何かあったら連絡を止めればいいだけ。
『全く気にしていないので大丈夫です。前の所有者の方に連絡取れそうですか?』
変に思われても、知らない人だしいっか。隠れていたずらをしている子供のような、そんな気持で返事を待った。
ピロン♪
女「って返事早!」
男『新しい連絡先は知りませんが、大したことでは無いので大丈夫です。ご心配ありがとうございます。』
確かに、男は「久しぶり」と言っていた。しばらく連絡とってない相手に、いきなり電話することがあるんだな。
コミュ障な私ではそんなこと絶対出来ない。さぞコミュ力の高い奴か、何も考えてない奴か。
相手の人間像を想像するのは楽しかった。
女『電話をするのは久しぶりだったので、驚きました。』
男『確かに、最近はLINEなどで片付きますもんね。僕も久しぶりに知人に電話をしたと思ったら、別の方だったので驚きました。』
女『がっかりさせてしまって申し訳ありません。』
男『そんなことないですよ!こうして誰かとやりとりするのも久しぶりなので嬉しいです。今日はお休みなんですか?』
ここで、魔が指した。
このままやり取りを続けると、どうしても私個人のことを話してしまうだろう。
ならいっそ、別人を演じてしまえばいいのではないか?
知らない人だし、どうせ分からないだろうし。
女『はい。明日から学校です!月曜日いやだなぁ』
自分でも笑えた。独りで笑ってる私は自分でも痛々しいと思う。おばさんに偽装するか若く見せるか迷ったが、どうせ化けるなら若い方がいい。
男『えっ学生さんだったのか!25歳くらいだと思ってました。すみません。』
だ、だいたい合ってる...声とメールの文面だけでよく分かるな。
女『子供らしくないとよく言われます。男さんは何歳ですか?』
男『22です。学校は楽しいですか?』
女『普通です。何の代わり映えのない毎日です。』
男『学生時代思い返すと、好きなことばっかやってたなぁ。若いんだから、退屈なら色々やってみたらいいと思うよ。』
いや、あんた私より年下だからね。と内心ツッコミを入れる。
まぁでも確かに、退屈だ。
女『色々って、何やればいいんですか?』
男『盗んだバイクで走り出すとか?』
女『15の夜ですか。犯罪はしたくないですね(笑)』
男『今時の子も15の夜知ってるんだね!さすがに僕も犯罪はしてないけれど。よく親を困らせてたな』
ぎく。い、いや、有名な曲だし、知っててもおかしくないよね?うん。
思えば、私は学生時代からつまらない奴だった。何にも本気になれなくて、それは今でも同じなのかもしれない。だから、人生退屈なんだろう。
本気になれるものを、探す努力をすればよかった。
女『じゃあ、男さんは何をしていましたか?』
男『ピアノを、ちょっとね』
ピアノか。私も小さいころさせられていたけど、そこまで上達せずやめちゃったな。部活でも続けていたのだろうか。
女『何かに熱中できるって、すごいです。』
素直な気持ちでそうメールした。
その返事は、夜になっても返ってこなかった。
~翌朝~
女「は?ダンス?」
上司「べ、別にダンスじゃなくてもいいんだけどさ。うちの課、忘年会の余興を若手にやってもらっててね。新人ちゃん1人じゃ可哀想だし...」
新人「す、すみません...女さんお忙しいですよね...難しければ私1人でやりますので...」
今年から人手不足で急遽配属された課では、何故か周囲から怖がられている。去年、前の配属でちょっと問題を起こしたことが、耳に入っているんだろう。
新人も、怖がって近づいてこなかったし、私も面倒くさくて人間関係を疎かにしていた結果だろう。
女「いや、やってみます」
周囲「えっ!!?」
上司と新人以外も一緒に驚いていた。そこまでか?確かにそんなキャラでは無いが。
なんとなく、新しく何かやってみたい気持ちがあった。退屈な日々が、少しはマシになるかもしれない。
~夜~
新人「お、女さん!今よろしいですか?」
女「いいよ。ダンスのこと?」
新人「はい!引受けて下さってありがとうございます。早速なんですが、打ち合わせしておきたいなと思いまして...」
女「もうちょいで片付くから、ちょっと待ってて」
そういえば、こうしてまともに会話するのも初めてかもしれない。新人にとっては初めての職場、私が唯一の年の近い先輩だ。もっと、早く接してあげれば良かった。
女「おまたせ。どっか店入る?」
新人「はい!夜ご飯まだなので...あと、女さんとご飯行くの初めてで、嬉しいです」
大げさだな。でも、悪い気はしなかった。話してみると、内気だけど裏表の無さそうな、愛嬌のある可愛い子だった。
ダンスは、週に1回新人の家で練習することになった。
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