姉「はいはーい、暇でーす」(99)
弟「あそ」
姉「繰り返します、暇でーす」
弟「あそ」
姉「ねぇ、暇ぁ」
弟「……」
姉「ふぇぇん……」
弟「ちょっと待て、わかった、わかったから泣くな」
弟「んで何するんだよ」
姉「トランプしよ!」
弟「トランプで何するんだよ」
姉「ばばぬきしよ!」
弟「すぐ終わるから却下」
姉「じゃ、じゃあ大富豪!」
弟「手札多過ぎて面倒だから却下」
姉「ふぇぇん……」
弟「よし、わかった大富豪やろう」
姉「もっかい!」
弟「まだやるのか」
姉「次から本気だもん!」
弟「3回目くらいから本気って聞いたような」
姉「それは本気になったようで本気じゃなかったみたいな感じで…うぅ」
弟「じゃあ何か賭けたらいいんじゃね?熱くなるし」
姉「うーんと、じゃあ野球拳ルールを採用しよう!」
弟「風邪ひくからやめた方がいいと思うぞ」
姉「その言葉そっくりそのまま返してあげるんだから!」
弟「いや、もういいから」
姉「いいもん!負けたんだから脱ぐんだもん!」
弟「それ脱いだら下着だろーが」
姉「姉弟だから恥ずかしくない、多分!」
弟「そういう問題じゃなくてな」
姉「へくちっ!」
弟「ほらいわんこっちゃない」
姉「あぅぅ…」
弟「早く服着とけ」
姉「弟君がいじめたぁ」
弟「俺は悪くないだろ、ねーちゃんがふっかけて…」
姉「ね、見て見て!」
弟「ん?」
姉「必殺!悩殺せくしーぽーず!」
弟「いいから早く服着なさい」
姉「何か反応してよぅ…」
弟「ねーちゃんの裸とか興味ないし」
姉「がぁん…」
弟「必殺なのか悩殺なのかわからないし」
姉「必殺の悩殺なんだもん!」
弟「意味がわかりません」
姉「いーじーわーるぅ」
弟「んで、いつまでパッドブラ晒してるんだ?」
姉「パッドじゃないもん!少しはあるもん!」
弟「いや、それは盛ってる気がする」
姉「ほらほら!盛ってないよ!盛ってないったら!」
弟「見せなくていいから早く服着て下さい」
姉「やることなくなっちゃった」
弟「おー」
姉「おー、じゃなくてえ…本読んでないでさあ…」
弟「さっき遊んだだろー」
姉「暇ぁ…」
弟「大変だなー」
姉「ねーぇ…ひーまーぁ」
弟「じゃあ本読む競争しようか」
姉「おお、何か面白そう!」
弟「先に読み終わった方が勝ちな、読み終わるまで喋っちゃいけない」
姉「がんばる!」
弟(素直なのか本が面白いのか)
姉「……」
弟(静かなのはいい事だ)
姉「……」スクッ
弟(ん?)
弟「うはははは!ちょ、待て!」
姉「はーい!先に喋ったから弟君の負けー!」
弟「くすぐるのは反則だろ!」
姉「相手に触っちゃいけないってルールはないもーん!ほれほれ!」
弟「だからやめっ!」
―ドサッ
姉「あ…」
弟「…ぁ」
姉「弟君、その…顔近い…」
弟「わ、悪い悪い」
姉「……」
弟「なんというか、すまん…」
姉「続き、したかった…?」
弟「ば、ばか!そんなわけないだろ!」
姉「お風呂、入ってくるね」
弟「お、おう」
―パタン
弟(…ふわっとしてたな)
姉「忘れ物忘れ物っと」
弟「い、いきなり入ってくるなよ、びっくりするだろうが!」
姉「えへへえ、めんごめんごー!」
弟「早く入ってこいよ」
姉「一緒に入るう?」
弟「入るわけねーだろ!」
姉「ちぇー」
姉「やっぱお風呂上りのアイスは最高ですなあ」
弟「あ、俺にもくれ」
姉「何味ー?」
弟「バニラ」
姉「あ……バニラ今ので最後だった」
弟「なんてことを」
姉「ん、これ食べるう?」
弟「いらん」
姉「今ならおねーちゃんの食べかけという特典付き!」
弟「ねーちゃんの食いかけとか余計にいらねーよ」
姉「いけずぅー」
弟「あほ言ってないでチョコくれ」
姉「うん、あそうだ!明日予定ある?」
弟「春休みを自宅でゴロゴロしながらゆっくり過ごすという予定がある」
姉「じゃあ一緒にお出かけしよう!」
弟「一人で行ってくりゃいいじゃん」
姉「おねーちゃんが変な人に声かけられてもいいの?」
弟「よかったな、やっと彼氏できるじゃないか」
姉「いらないよ!だって弟君いるし」
弟「なるほど、頭の病院行くのか、それなら一緒に行くのも納得できる」
姉「今遠まわしにいじわる言ったでしょ?」
弟「いいえ、気のせいです」
姉「まぁいいや…、明日暇なら一緒に行こ?」
弟「仕方ないなー…、ま、特にすることもないからいいか」
姉「やった♪」
―翌日
弟「んで、どこいくんだ?」
姉「予定は未定です!」
弟「さて、飯食ったら部屋に戻るか」
姉「待ってぇ…待ってよぅ…」
弟「まったく…」
姉「お買い物行ったりするよ!」
弟「それ今決めただろ?」
姉「なんでわかったの?」
弟「…先が思いやられる」
姉「んー!絶好のお散歩日和!」
弟「縁側で昼寝したいわ」
姉「弟君おじーちゃんみたい」
弟「そんなに老けてねぇ」
姉「あはは、でも気持ち良さそうだよねー」
弟「こうやって散歩するのも嫌いじゃないけどな」
姉「おねーちゃんと一緒にお散歩できて嬉しいってこと?」
弟「その無駄なプラス思考はどこからくるんだ」
姉「おねーちゃんは弟君が大好きなだけですぅー」
弟「早く弟離れして下さい」
姉「昔はよく一緒にお散歩したね」
弟「昔はな、今じゃ一緒に出歩く事も少なくなったけど」
姉「一緒に住むようになってから家で遊ぶこと多かったもんね」
弟「そうだなー、もう10年になるのか」
姉「まだ弟君がちっちゃくて可愛かった頃のお話だね!」
弟「まるで今可愛くないみたいな言い方だな」
姉「だって今はかっこいいの方が嬉しいでしょ?」
弟「…ばか」
姉「公園で一緒に遊んだ時の事覚えてる?」
弟「遊び過ぎてどのことだかわからん」
姉「ほら、私と一緒に遊んでたら近所の子が来て…」
弟「あー、女と遊んでるーとか言って馬鹿にされた時か、あれはむかついたな」
姉「一緒に遊んで何が悪い!こいつは俺の友達だー!だもんね」
弟「今聞くとこの上なく恥ずかしい台詞だな」
姉「でも私は嬉しかったよ」
弟「わかったわかった」
姉「小さい頃は無邪気に色んなこと言ってたのにね、いつから素直じゃなくなったのかなあ…」
弟「人間そんなものだろ」
姉「はぁ…、大きくなったら結婚しようって弟君言ってくれてたのになあ」
弟「」
姉「いつになったらお嫁さんになれるのかなあ…」
弟「もうなれないだろ、姉弟だし」
姉「んーっと、確か籍はお父さんの親戚の所だったと思うから大丈夫だと思うよ」
弟「どうして籍動かさなかったのか気になるな」
姉「遺産の関係じゃないかな?わからないけど」
弟「なるほどな、でもこっちに面倒見させて遺産だけもらうってのも都合のいい話だ」
姉「施設に入れるか迷ってたところをお婆ちゃんが預かってくれるって話になったの」
弟「おばさんと婆ちゃん仲良かったからな、何か考えるところがあったんだろう」
姉「そうだね…」
姉「何か辛気臭くなっちゃったね!この話おーしまいっ!」
弟「そうだな、今姉弟ならどうでもいいか」
姉「でも安心したでしょ?」
弟「何が?」
姉「もぅ…おねーちゃんと結婚できるんだよ?」
弟「それが?」
姉「いつお嫁さんにしてくれるの?」
弟「永遠にお待ちください」
姉「いじわるぅ…」
姉「久しぶりに弟君と一杯話してる気がするなあ」
弟「普段から話してるだろ」
姉「いつもは『あー』とか『うー』とか適当な返事だけだもん」
弟「そうだっけか?」
姉「むぅー…」
弟「家族なんてそんなもんだと思うけどなー」
姉「なんというかもっとこう…」
弟「ん?」
姉「んーん、やっぱなんでもない」
弟「変な奴」
姉「…あのね、弟君」
弟「…さて、晩飯の食材でも調達しますかね」
姉「あ、えっと…うん!」
弟「外出てるの婆様に言ってないから早く帰ってやらんと」
姉「そうだね…」
弟「晩飯なににするかなー」
姉「……」
姉(わざと遮ったのかな…)
弟「…あのな」
姉「うん」
弟「言いたい事があるのはわかるけど、それは聞いちゃいけない気がするから」
姉「…うん」
弟「そういうことで、頼む」
―聞いたら、壊れてしまう
そんな気がするから
姉「……」
弟「……」
姉「……ごめんね」
弟「……」
姉「…ごめんね」
弟「……」
姉「……」
弟「…泣くなよ、困るから」
姉「だって…」
弟「泣かれたらどうしていいかわからないんだよ…」
姉「うん…」
弟「ごめんな…」
姉「私ちょっと変だった…先、帰るね」
弟「ああ…じゃあ俺は買い物してから帰る」
姉「うん、わかった…」
弟「じゃあ行くから、気を付けて帰れよ」
姉「ん…」
弟「―!」
姉「ごめんね…抱きついてたら、このままじゃ歩けないよね…」
弟「ねーちゃんは俺をどうしたいんだよ…」
姉「わかんないよ…、好きで好きで…」
姉「唯、好きで…」
弟「…」
姉「弟君をもっと感じたいの、ずっと隣に居たいの」
弟「言うなっていったのに…」
姉「だから―」
弟「気持ちの整理がつくまで少し待ってくれ…」
姉「ん…」
弟「俺はねーちゃんを姉として見てきた」
弟「まぁガキの頃は色々言ってたかもしれないけどな…」
姉「それじゃあ…」
弟「俺だってねーちゃんの事は大切にしたいさ、でもそれと好きとは別だと思ってる」
弟「それと、今の俺だとねーちゃんの思ってるような関係にはなれないと思うんだ」
姉「……」
弟「…困ったな」
弟「頼むから」
泣かないでくれよ
弟「……俺、行くから」
姉「……」
弟「ちゃんと家帰るんだぞ」
姉「……」
弟(これで良かったんだ…)
弟(これで…)
―昔から泣き虫で、人見知りするのに寂しがり
弟(今も変わらないけどな、どこが成長してるんだかわからない)
弟(そういえば何時から一緒に居るようになったんだっけか)
弟(おばさんが家に遊びに来た時が初対面だったな)
弟(最初は一人で遊んでるのが寂しそうに見えて…)
弟(寂しくないように一緒に居た、くらいか)
弟(俺が話しかけただけで泣きそうになるし、あれには困ったな)
弟(ちゃんと話せるようになったのは……)
一緒に遊んで何が悪い!こいつは俺の友達だ!
弟(そうだ、あの時に悪がきと喧嘩して泥だらけになった時だな)
弟(でも友達っていうのは咄嗟に出ただけで、その時の俺は)
弟(姉の事が好きだった…)
弟(今はどうなのかと聞かれると大切にしたいとしか)
何で大切にしたいのか?
弟(そりゃ家族だし…、昔から一緒に居るから)
弟(じゃあ他にねーちゃんを大切にして守ってくれる人が現れたら離れていって幸せになる、か)
弟(……)
弟(俺はねーちゃんを守っていきたいし、大切にしたい)
弟(ずっと一緒に居てやりたい)
弟(ああ、そういうことか)
俺は今も
――ねーちゃんの事が好きなんだ
それを伝えたからと言って何が変わるわけでもない
弟(俺は今まで通りねーちゃんの傍に居る、それで良かったんだ)
弟(難しく考える必要なんてなかった)
弟(しかし、どうやってそれを言うべきか…)
弟(照れ臭くて言えたもんじゃないな)
弟(困ったもんだ)
弟「ただいまー」
弟「あれ、ねーちゃん帰ってきてないのか」
弟「晩飯の支度でもするかな」
―
弟(遅い)
弟(いくらなんでも遅過ぎる)
弟(どこほっつき歩いてるんだ)
弟(そろそろ日付変わるじゃねーか)
弟(遅くなる時は連絡しろってあれだけ言ったのに)
弟(……)
弟(いつも連絡してる奴と話し辛い場合は誰に言ったらいいんだよ)
弟(そんなこともわからねーのかよ、俺は)
弟(…くそが)
―バタン
――
弟「やっぱりここか…」
姉「あ、弟君…ごめんね、考え事してたら遅くなっちゃった」
弟「早く帰るぞ」
姉「うん、それとね」
姉「さっきの話で迷惑かけちゃってごめんね、本当にごめんね」
弟「何で謝って」
姉「弟君はずっと傍に居てくれるって、私が勝手にそう思ってただけだから…」
姉「自分勝手だよね、迷惑だよね、散々あんな話して弟君困らせて…自分がそう思ってただけで終わらせるなんて」
弟「迷惑だなんて思ってねーよ、少しは困ったけどな」
姉「弟君いなくなっちゃったら『また』一人になっちゃうから、それが嫌だったの」
姉「だから―」
弟「一人にして…寂しい思いさせて」
姉「弟君…?」
弟「一緒に居てやれなくて、ごめんな」
弟「俺、ねーちゃんの事が好きでどうしようもないらしい」
姉「弟君…っ」
弟「もう、一人にしないから、ずっと一緒に…傍に居るから…」
姉「良かっ…ぐすっ……」
弟「ねーちゃんも俺の傍に居て欲しい」
姉「ふぇ…ひくっ…」
弟「泣くなよ」
姉「らって…」
弟「まったく、ほんとうに泣き虫な奴だな」
姉「……嬉しいんだもん」
弟「それなら良かった」
姉「弟君、あのね…」
弟「ん」
―ありがとう
その日を境に何かが変わった
なんてことはなく、生活はいつも通りだった
姉「ねーぇ…ひまぁ」
弟「おー」
姉「おー、じゃなくてぇ…」
弟「本読んでるから後でなー」
姉「ひーまーぁ」
弟「おー」
姉「むぅー……えいっ!」
弟「うおっ!」
姉「ね、構って♡」
弟「あーもう…仕方ねーな」
姉「やった♪」
強いて変化をあげるならば
姉の甘え方が直球になった
姉「ねーねー、せっかくの連休なんだからさーどこかいこーよー」
弟「あー」
姉「ねーぇ」
弟「おー」
姉「よし!明日海行きます!」
弟「ああ、っは?」
姉「やっと反応した!」
弟「海って季節外れだな」
姉「泳いだりするんじゃなくてー、海辺のお散歩的な?」
弟「それなら近所でもいいんじゃね?」
姉「はぁ…弟君鈍感すぎておねーちゃん困っちゃう」
弟「何のことだ」
姉「でぇとなの!雰囲気大切なの!」
弟「近所でも雰囲気はでるだろ」
姉「はぅ…」
弟「まぁどうしても行きたいならいいけどさ…」
姉「やった♪」
弟「結構距離あるんだよなー…」
姉「そういえばここ数年行ってなかったような…」
弟「山の向こうにあるんだよ、電車も乗り換えがあって待つ時間長い」
姉「その間いちゃいちゃできるってことだよね!」
弟「どうしたらそういう答えが出てくるんだ」
姉「えへへえ、デートだから一杯甘えるの」
弟「そうですか…、頑張ってください」
姉「明日は早起きするぞー!」
弟「俺がいつもの時間に起きたら海に着いたら昼過ぎになってるだろうな」
姉「大丈夫だよ、それはないから!」
弟「ほう、どのようにして?」
姉「おねーちゃんが一緒に寝たら一緒に起きるでしょ?」
弟「なるほど、却下」
弟「あのさ」
姉「なーに?」
弟「本気で一緒に寝るのか?」
姉「もっちろん!」
弟「いや、ちゃんと起きるから部屋戻っていいぞ」
姉「明日起こしてあげる為だけじゃなくてー…」
弟「なんだよ」
姉「一緒に寝たいなーって思っちゃったり」
弟(一緒に寝る、同じベッドの中で触れ合う肌、密着するお互いの身体、火照った吐息、自然に求め合う二人……そして)
姉「ねーねー、弟君ー?」
弟「っは、はい?」
姉「ぼーっとしてたよ?」
弟「いや、特に何も考えてなかったから大丈夫だ」
姉「ほえ?」
弟(…何を考えているんだ俺は)
弟「ま、まあその同じベッドだと狭いから、俺マットレス出して寝るよ」
姉「ぎゅっと抱き合ってたらそんな狭くもないんじゃない?」
弟「えっとなー…」
姉「あ、わかった!弟君のえっち!」
弟「ぐっ…」
姉「いーよ、したかったら…その、優しくしてね」
弟「まだしねーよ!…多分」
姉「まだ、ってことはいつかするんだ?」
弟「おいそれは言葉の綾ってもんで…」
姉「あはは、照れてるー!」
弟「くそ、からかいやがって…」
姉「でも、さっきのは冗談じゃないよ、弟君ならしてもいいからね?」
弟「はい、俺は寝ます、ねーちゃんはベッドで寝て下さい、早く今日という日を終わらせましょう、おやすみなさい」
姉「可愛いなあ、もぅ…、おやすみ!」
―翌日
姉「弟君、朝だよ」
弟「ん…」
姉「ほらあ、早く起きて」
弟「五分…」
姉「後五分もおねーちゃんの胸触ってるの?くすくす」
弟「はっ!?」
姉「おはよう♪」
弟「いつから隣で寝てたんだ…」
姉「ちょっと早く目が覚めちゃったからこっそりと」
弟「まったく…」
姉「それでね、その、弟君…当たってる」
弟「っ!こ、これはな、朝こうなってるもので!別にしたいとか思ってるわけじゃなくて!」
姉「あはは、わかってるから平気!それじゃ準備してくるね!」
弟「はぁ…」
姉「目ー覚めた?」
弟「おかげさんで、婆様には言ってあるのか?」
姉「うん、気を付けてねーって言ってた!」
弟「なら大丈夫だな」
姉「はいてんてー!」
弟「はいそこ」
姉「バナナはおやつに入りますか!」
弟「また使い古されたネタを持ってきたな」
姉「一度言ってみたかったの!」
弟「ゆっくりするだろうし嵩張らない程度に好きな物持って行けよ」
姉「りょーかいっ!」
弟「それじゃ行くか」
姉「はーい!」
弟「電車乗り換えるまで寝るなよ?」
姉「弟君こそ!」
弟「俺は大丈夫だけどな」
姉「私に限って電車で寝るなんてことは!」
―
弟「と言ってたのはどこの誰だったっけかな」
姉「すぅすぅ…」
弟「ほら、乗り換えだぞ」
姉「ふぇ…あぅ、寝ちゃってた…」
弟「そんな事だろうと思ってた」
姉「次は起きてるよ!多分!」
弟「そうだといいけどな」
姉「次の電車いつ来るの?」
弟「30分待ちだな」
姉「ながっ!」
弟「海の方面に行く電車が30分に1本らしくてな」
姉「そっかあ…あ、売店あるよ!」
弟「何か甘いもの食べたいな、行くか」
姉「うん♪」
姉「れ…?」
弟「誰もいないな」
姉「無人販売…?」
弟「まさか?良心的なお店でお金はいらないんだろうよ」
姉「あ、弟君!勝手に持って行っちゃだめだよ」
弟「もっていかねーよ」
姉「すみませーん!」
「はいよーぅ」
姉「ほら、人居たよ、勝手に持って行っちゃめーですよ」
弟「だから持っていかねーって」
姉「おばあちゃーん、これとこれ頂戴ー」
「あいよー、銭はそこさ置いといてくんろー」
弟「大分客を信頼してる店だな」
姉「田舎の人に悪い人はいないってこういうことなのかな…?」
弟「そういうことなんだろう」
姉「おばーちゃーん、ありがとー!」
「あいよー」
弟「凄まじき田舎マジック」
姉「ね、何か珍しいもの見て得した気分」
―
姉「電車そんなに長くなかったね」
弟「思ったよりはな」
姉「ゆっくりできそうだね」
弟「そうだな」
姉「バス、二人っきりだね」
弟「海に向かうだけのバスで時間も季節も外れてるからな、しかも春休みだから学生もいないんだろ」
姉「もっと雰囲気出るような事言ってよぅ…」
弟「そんなスキルは持ち合わせてないんだな、これが」
姉「むぅー…」
姉「ついたー!」
弟「どこまでも、海」
姉「ばかやろー!」
弟「やらんでいいから」
姉「えへへ…」
弟「でもこういう季節に来るのもいいもんだな」
姉「綺麗だよね…」
弟「じゃあ海でも見ながら飯食うか」
姉「うんっ!」
弟「サンドイッチか、いつの間に作ってたんだ?」
姉「昨日の夜からちょっと準備してたの」
弟「そんな楽しみだったのかよ」
姉「だって弟君と初めてのデートだもん、何か嬉しくなっちゃって…」
弟「俺も何か……幸せというか…」
姉「わあ、弟君赤くなってるー!」
弟「い、いいから!頂きます!」
姉「照れちゃってー…あはは」
弟「それにしてもこんな景色のいいところがあるとは知らなかった」
姉「えへへ、秘密の場所なの――あっ!ハンカチ飛んじゃった、取ってくるから待っててね」
弟「おう」
弟(どこまで取りに言ってるんだ?)
弟(ちょい見に行くか)
―ビュゥ
弟(風が強い場所だなー)
弟「おーい、ねーちゃーん」
弟「あれ?ハンカチ木に引っ掛かってるじゃ―」
弟「は…これ……」
弟「まさか…!」
『危険!!この先断崖、進むべからず』
弟「姉ちゃん!どこだ!」
―胸騒ぎがする
弟「そんな、いくらなんでも…」
何故最悪の想像しかできないのか
弟「姉ちゃ―」
目の前に広がる光景に背筋が凍りつく
弟「ぅ……ぁ……」
断崖の下、鮮血で白い服を染めた姉の姿がそこにあったから
弟「は、はは」
弟「なに、してるんだよ」
弟「そんな、ところで」
弟「待ってられなくて……」
弟「来ちゃだめ、だったの…か?」
弟「なぁ…」
弟「なぁ!!」
弟「ああああああああああああああああああああああああ」
弟「待てよ待てよなにしてるんだよなにしてるんだよなにしてるんだよ!」
弟「いくらドジだからってそんなところで寝てたら駄目だろうが」
弟「いつまでも俺に心配ばっかりかけやがって…今そっちに行ってやる!」
―ズルッ
弟「っぁ!」
弟「うわあああああ!!!」
――ピッ――ピッ―――ピッ
弟「ん…ぁ」
「大丈夫か?自分の名前わかるかい?」
弟「はい……ここ、は?」
「見ての通り病院だよ」
弟「そうです、か…―っ!」
「肩脱臼してたからちょっと痛むよ、安静にしてなさい」
弟「姉、姉は!!」
「違う病室にいるよ、君の方が重傷だったんだ」
弟「そんなはずは…崖から落ちて…血が……」
「お姉さんはね、救急隊が来た時には意識があった」
弟「では…!」
「……君は動くにはまだ早い、少し休んでおきなさい」
弟「大丈夫です!せめて姉の顔を見せて下さい!」
「…そうか、それなら案内しよう」
弟「お願いします!」
「骨折はしていなかったが足もまだ痛むだろう、車椅子を持ってくるから待ってなさい」
弟「色々すみません」
「………」
弟「何か?」
「…いや」
―
「君は、人形をどう思う?」
弟「人形?」
「そう、例えるなら紐の切れた操り人形と言ったところか」
弟「脱力したような感じの、あれですか?」
「大体その想像であっているかもしれんな、それが間近にあった時、君はどんな心境になる?」
弟「不気味…というのが第一印象ですね」
「そうか……」
弟「何故そんなことを?」
「これからどんなことを見ても、現実から目を背けないでくれ」
弟「…姉、姉に何かあったんですか?」
「……」
弟「先生っ!」
「…着いた、君のお姉さんはこの扉の向こうにいる」
弟「……」
―ガラララッ
弟「姉ちゃん!」
姉「……」
弟「姉ちゃん?」
姉「………」
弟「どうしたんだよ?」
姉「……」
弟「何で、喋らないんだ、よ」
弟「先生っ!」
「…救急隊が駆け付けた時には、既にこうだったらしい」
「何も喋らず、表情一つ変えない」
弟「そ……んな…」
医師「そう、例えるなら―」
紐が切れてしまった人形
「まるで自分以外の存在に気付いていないかのような」
「天井を見上げては、窓の外に向き直る」
「それ以外は何も…」
弟「じゃあ…俺の声は……まったく」
「記憶があるのかも定かではない、残念なことに」
弟「なんで……」
弟「なんでこんな…」
「呼びかけは試みる、何かの拍子で意識の活性化があればなによりだが…」
弟「……うっ……えっ…ぁ」
「君も少し休んた方がいい…、病室に戻ろう」
弟「うぐっ…おえっ……はぁっ……はぁっ」
「…辛いだろうが、今はそっとしておくしかない」
弟「ぢ…ぐ、しょう……ぢく…しょう…」
「……」
再び対面した姉は壊れた人形のままだった
何も話さず、顔色すら変えない
食事も箸をつけることなく、そのままの状態で置かれている
時折何かを喋ろうとしているのか口を動かすことはあるが、そこに音は無く
漏れた吐息となるだけだった
どうしてこんなことになってしまったのか
――逃げ出してしまいたくなる
弟「なぁ、今月何があるか覚えてるか?」
姉「……」
弟「はは…そんなことも忘れちまったのかよ……」
姉「……」
弟「今月な、姉ちゃんの誕生日なんだよ」
姉「……」
弟「今月っていってもまだ先は長いけどな…」
弟「二人で、楽しく…去年みたいに」
姉「……」
弟「笑いながら…、はしゃいで……」
姉「……」
弟「うっ……ぐすっ…」
姉「……」
「……あまり長時間話すのは君の身体にも良くない」
弟「すみません…」
「聞いていた保護者の方も面会に来たが……」
弟「婆さ…祖母が?」
「酷く辛そうな顔をしていた、手を握り締めて、ひたすら」
『ごめんね…、ごめんね…』
「と、言っていたよ…」
弟「婆様…」
「とりあえず、今日は休もうか」
弟「はい……」
弟(何か……、何かないのか…)
弟(姉ちゃんがもう一回笑顔になるような……)
弟(記憶喪失みたいに何かを見て思い出すような事があるのか…?)
弟(いや…)
弟(何をしたらいいんだ……)
―何を
それから少しして俺は退院した
姉は俺よりも軽傷だったが、精神面に不安が残っているという医師の見解で入院は長引いていた
入院といっても生活面に関しては普通の人のそれと変わりなく、体調も順調に回復していた
看護婦の話によると、最近の姉は病室から出ることが多く、暫くすると戻ってくるらしい
弟「こんにちは」
「あら、こんちには」
弟「姉はいますか?」
「さっき部屋から出るのを見たので、またお散歩かと…」
弟「そうですか、わかりました」
「どこにいってるんでしょう?」
弟「ちょっと探してきますね」
関心がないのか、行き先に興味がないのか、姉の居場所を知る人はいなかった
姉が姿を消した初日は俺も必死に探したが、見晴らしの良い所を好む姉の性格に助けられたといってもいい
弟「…またここか」
姉「……」
弟「屋上に入れないからって非常階段で座ってるのはどうかと思うぞ」
姉「……」
弟「今日は調子いいのか?」
姉「……」
弟「…そうか」
姉「……」
弟「外はまだ寒いし薄着だと体調を悪くする、部屋に戻ろう」
姉「……青」
弟「―え、今……」
姉「……」
弟「ちょ、ちょっと待てよ」
姉「……」
弟「ん、部屋戻るんだったよな、ごめんな」
姉「……」
弟(…青、か)
弟(海のことを覚えているのか…?)
弟(病室に戻ったら聞いてみるか)
戻ってから姉に海の事を話したが、期待は空しいもので
話をしている俺と一度も目を合わせることなく、姉は窓の外を見ていた
弟(そう簡単に今の状況が解決するとは思わないけどな…)
弟(何かしら反応くらいは欲しかった…)
姉は今、何を考えているのだろうか?
俺は今、何をしてあげるべきなのだろうか?
姉の笑顔が脳裏を過る度に感情が込み上げてくる
弟(姉ちゃん……)
弟(青、青、青…)
弟(だめだ…思いつかない)
弟(でも今日初めて喋ったな、会話にはならなかったけど…)
弟(何かしらのきっかけがあればもっと話してくれるのかもしれないな)
弟(そのきっかけがわからないから困ってるんだよ…まったく)
弟(なんでこうも心配をかけるんだよ、本当に)
弟(世話の焼ける姉だ…)
弟「ただいま」
婆「おかえりい」
弟「珍しいな、何してるんだ?」
婆「お姉ちゃんがいないと落ち着かなくてねえ…」
弟「そうか……、ごめんな」
婆「いいのさあ、誰が悪いわけでもないんだからあ」
弟「俺は一緒に居たのに何もできなかった……」
婆「一緒にいてもねえ、見てることしかできない時もあるのさあ」
婆「でもそれは必然であって、人じゃどうしようもないものなんだよ…」
弟「……」
婆「昔話が過ぎたねえ、婆やはお部屋に戻りましょうかねえ」
弟「婆様…」
婆「なんだい?」
弟「どうして、その…姉ちゃんを引き取ろうとしたんだ?」
婆「……一人になるっていうのはねえ、寂しいものだからねえ」
弟「?」
婆「婆やは疲れたから横になってくるわあ」
弟「ああ、すまない」
それから数日後、生活に支障がないと判断により姉は退院した
病院に居るよりも自宅療養した方が以前の姉を呼び覚ますきっかけになるのではないか、とのことだ
しかし、家に帰ってきた姉は入院中と変わらず、自室で窓の外を見ているだけであり、空白の世界に一人佇んでいるようにも見えた
弟「姉ちゃん、飯持ってきたよ」
姉「……」
弟「今日は天気悪いな、少し曇ってる」
姉「……」
弟「この前海行った時はいい天気だったのにな」
姉「……」
弟「また天気のいい日に一緒に行こうな」
姉「……」
弟「それじゃあ部屋に戻って―」
不意に服の端を引かれ振り向くと、俯いたままの姉が力なく服の端を持っていた
弟「ん、どうした?」
姉「……」
こちらを見上げた姉はゆっくりと口を開いたが、そこに声はなかった、
それでも、俺には理解できた気がする
―姉が何を伝えたいのかを
それが間違いでも構わない
今は小さな希望にも縋りたい
些細な事でも、それが姉の為になるなら俺にできる事をしてあげたい
行こう、あの場所へ
二人で見た景色を、もう一度
姉が一緒に来てくれるか不安はあったが、一緒に出かける事を伝えると黙って同行してくれた
先日とは違って、談笑する事や、楽しそうな雰囲気もない
続く沈黙に堪らず涙が出そうになる
弟「もうすぐで着くから…」
姉「……」
無言で向かい側の窓を眺め続ける姉からは、このまま消えてしまいそうな儚さだけを感じる
弟「少し、歩こうか」
姉「……」
弟「疲れたら言ってくれよ?」
姉「……」
弟「…俺な、姉ちゃんがこうなった時、どうしていいかわからなかったんだ」
弟「だけど、今こうやって一緒に歩いてるだけで……傍に居られるだけでも幸せで……」
弟「前の姉ちゃんが戻ってこなかったとしても、俺は姉ちゃんの傍に居続けるし、大切にしたい」
弟「ずっと悩んでたけど、それが一番のだと思ったんだ」
姉「……」
弟「はは…変なこと言ってごめんな」
弟「少し前にこんなこと言ったらどんな顔したんだろう」
弟「嬉し過ぎて泣くんだろうな、姉ちゃん泣き虫だから……」
弟「でも、こんなことが無ければ俺は気付けなかったと思うんだ」
弟「姉ちゃんに対する気持ちも、その大切さも…」
弟「…今まで素直になれなくてごめんな」
弟「ここ、覚えてるか?姉ちゃんと来た場所だよ」
姉「……」
弟「今日も風が強いな……」
弟「ハンカチ飛ばされないようにするんだぞ」
弟「もし飛ばされても姉ちゃんには行かせないから……」
弟「今度は俺が取りに行ってやるから……」
弟「だからもう…、遠くに行かないでくれ」
弟「ずっと……ずっと傍にいてくれ」
姉「……海」
弟「え……」
姉「…風、今日も……強い、ね」
弟「あ……あ……姉…ちゃ」
姉「弟君……」
――ただいま
弟「姉ちゃん……姉ちゃん……ぐすっ…」
姉「うん…、うんっ…!」
弟「思い出して……俺の事も…今までの事も…」
姉「暗かったよ…、怖かったよ……何も見えなかった……」
弟「俺も寂しかった…っぅ…姉ちゃんが…もう戻ってこないと思って……」
弟「俺のことも忘れちゃったんじゃないかって……」
姉「ごめんね……いっぱいいっぱい心配かけて、ごめんね…」
弟「よかった…ほんとに……よかった…っ」
姉「ずっと、ずっと一緒にいるから……弟君もお姉ちゃんの傍に居て……」
弟「ああ!約束だ、絶対にもう一人にしない!俺は姉ちゃんの傍にいる!」
姉「ありがとう……」
その日、姉は帰ってきた
姉の記憶が戻り、元通りの生活に戻ったことを知った婆様は一言だけ
「良かった……」と呟いていた
恐らく涙を見せたくなかったのだろう
―それから数日して
姉「そろそろ学校始まるね!」
弟「かったるいよなあ」
姉「私は寂しいかなあ…」
弟「なんでだ?」
姉「弟君と一緒にいる時間少なくなっちゃう」
弟「同じ学校なんだからそれくらい我慢しろよ、な?」
姉「お昼は一緒に食べようね!」
弟「周りの目は少し気になるけど、まぁいいか」
姉「わぁぃ!」
そもそも、俺の気にする周りの目というのは、巷で言うところの男女関係のようなものではなく
友「ういーっす!」
弟「おう」
姉「おはよう!」
友「おはようございますっ!」
弟「それじゃあ俺行くから、また昼な」
姉「うんっ、またね」
友「……毎日あんな可愛い子と登校できるお前が羨ましいよ」
弟「まぁ可愛いよな」
友「はぁ……人間ってなんでこうも不平等なんだろうな」
弟「また始まった」
学校の男子からの嫉妬の眼差しだった
弟「でも姉ちゃんだしな、仕方ないだろ」
友「姉とは言ってもさあ、こう家ではいちゃいちゃしてるんじゃないの?」
弟「…………さぁ?」
友「…なんだ、今の間は?」
弟「別に、深い意味はない」
友「ええい、吐け!あんなことやこんなこともしてるんだろう!さぁ吐け!今飲んでるコーヒー牛乳と一緒に全てを吐け!」
弟「吐かねーし、まだそこまでしてねーよ!」
友「は?『まだ』 だと…」
弟「言葉の綾だ」
友「おいおまえらあああああああああ、こいつ縛りあげるぞおおおおおおおおおお」
弟「お前ら落ち着…なああああああああああああああああああああ」
憂鬱だ
―
弟「そんなこんなで酷い目にあった」
姉「あはは、弟君面白いからね!」
弟「ちげーよ、姉ちゃんが可愛いから男子が目の敵にしてくるんだ」
姉「おかしいなあ、告白してきた人にはちゃんとごめんなさいって言ってるのに……」
弟「聞いたことなかったけど、やっぱりされてるのか」
姉「うん、今朝もいきなり『付き合って下さい!』だからびっくりしちゃって…」
弟「いつもどうやって断ってるんだ?」
姉「大切な弟を一人にはできないから…ごめんなさい、って」
弟「廊下で殺気を感じるのはそれか」
姉「何かまずかったかな?」
弟「いや、原因がわかったからそれでいいような気がした」
姉「?」
姉「ねぇねぇ、変なところあったら直すよ?」
弟「ま、姉ちゃんは今まで通りでいいと思うから安心しとけ」
姉「うん、わかった!」
弟「さて、午後も頑張って寝よう」
姉「ちゃんとお勉強しなきゃだめだよー」
弟「わかってるってー」
姉「わかってないー」
弟「大丈―」
―トン
弟「あ、ごめん」
女の子「あ、ああああのっ!」
弟「俺?」
女の子「これ読んでくださいっ!」
弟「へ?」
姉「あ、行っちゃった」
弟「なんだろ」
姉「弟君?」
弟「ん?」
姉「浮気しちゃやだよ?」
弟「 」
弟「どれどれ」
姉「んっ!」
弟「わっ、ちょ!返せよ」
姉「先輩の事がずっと気になってました」
弟「後輩か……って新入生かよ!」
姉「他のことを考えられないくらいに頭がいっぱいです」
姉「頭がいっぱい過ぎて、何もない所で転んだりお財布落としたり地球が平和になりません」
弟「…最後のは関係ないような」
姉「それくらい先輩の事が好きです!よろしければ付き合って下さい!」
弟「またベタだな」
姉「新入生を一瞬で虜にしちゃう弟君が心配になってきた」
弟「いやでも、ずっとってことは俺の事前から知ってたってことだよな…?」
弟(どこで…?)
姉「でも名前もクラスも書いてないよ、これ」
弟「どんだけ頭いっぱいなんだよ」
姉「それくらい弟君の事が好きって事なんだね」
弟「困ったもんだ」
姉「なんかやだなー」
弟「何が?」
姉「弟君はー、お姉ちゃんのだからー、ね?」
弟「そういうこと言うなよ……その、照れるから」
姉「大丈夫だよ、私信じてるから!弟君はずっと一緒に居てくれるって!」
弟「そ、そうか……」
弟(そんな幸せそうに言われたら反応に困るじゃねーか、まったく…)
姉「ねーねー、せっかくの連休なんだからさーどこかいこーよー」
弟「あー」
姉「ねーぇ」
弟「おー」
姉「よし!明日海行きます!」
弟「ああ、っは?」
姉「やっと反応した!」
弟「海って季節外れだな」
姉「泳いだりするんじゃなくてー、海辺のお散歩的な?」
弟「それなら近所でもいいんじゃね?」
姉「はぁ…弟君鈍感すぎておねーちゃん困っちゃう」
弟「何のことだ」
姉「でぇとなの!雰囲気大切なの!」
弟「近所でも雰囲気はでるだろ」
姉「はぅ…」
誤爆しますた
姉「それでーどうするのー?」
弟「んー?」
姉「ほんっとーに可哀想…、おねーちゃんだったら死んじゃう」
弟「何が?」
姉「さっきの子だよぉ」
弟「返事がない、ということで諦めるだろ」
姉「せっかくラブレターもらったのに……」
弟「本文以外書いてない手紙にどうやって対応したらいいんだよ、自業自得だ」
―テテテテッ
女の子「すみません!名前書き忘れました!」
弟「 」
一人で食べる昼飯は辛いと聞くが
談笑する女子二人に挟まれながら食べる弁当も中々にきついものがあった
勿論、精神的に
姉「あはは、それでね、弟君は鈍感だから気付かないんだよー」
女の子「もう少し女心というか雰囲気的な物を察して欲しいですよねー」
どうしてこうなったのかといえば、この子の人懐っこい性格と姉の面倒見の良さが原因だろう
「弟君鈍感だから手紙くらいじゃ動かないよ!」
という姉の一言に
「そうですよねー…、アプローチしてるのに全然気付かないし」
と反応したのが姉のツボだったのか
そこから意気投合したらしく二人は延々としゃべり続けていた
俺に関する愚痴を、延々と
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