深海提督「憎悪の果て」 (32)
鬱要素・場合によってはグロ要素があるかもしれないので閲覧注意。
あとたまに安価を使うかもしれません。
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とある海域にて、今まさに二つの命が失われようとしていた。
「ごめん、なさい、司令官……先に、逝きます、ね……」
そうつぶやく少女の有り様は見るに堪えないものだった。
雷撃を受けたことで体に重度の火傷を負い、膝から先は消失していた。
少女の死は、刻一刻と近づいてきている。
「……」
少女のそばには、一人の男。
少女が身を挺して彼を庇ったことで、雷撃による損傷は少ない。
しかし、それ以前に腹部に受けた砲撃により、彼も死期を待つばかり。
司令官と呼ばれた男は、虚ろな目で空を見上げていた。
やがて、少女は息を引き取った。
「……ごめんな」
男は、そばにいる少女の亡骸にそれだけ言い放つ。
それは、何に対する謝罪だったのだろうか。
「……くそっ」
死期を間近に控え、虚ろな男の目に感情が宿る。
それは憎しみ。それは怒り。それは後悔。それは絶望。
あらゆる負の感情が、男の内側で渦巻いていた。
「くそっ、くそっ、くそおおおおおっ!!」
獣のごとき咆哮があがる。
この世の理不尽を呪うかのような怨嗟の声が響き渡る。
「許さん許さん許さん許さん許さん……絶対に許さんぞ!!」
「なんだァ……おもしれえやつがいるナ」
怨嗟の声に導かれたのであろうか。
少女が、無邪気な笑顔をフードから覗かせ、男のもとにやってきた。
大きく胸をはだけたレインコート状の服から見える白い素肌。
少女の体躯とほとんど変わらない大きさの尻尾。
少女はまさしく異形だった。
「……深海棲艦か」
「ああ、そうだヨ」
男の問いかけに対して、少女はフランクに答える。
「何しに来た?」
「ウーン……別になにかしにきたわけじゃねえけド」
「はっ、深海棲艦にも暇なやつがいたもんだ」
「死にかけのくせに減らず口を叩くかヨ……大物だナ」
少女は楽しそうにけらけらと笑っていた。
深海棲艦を前に男が平然としていられるのは、もう死期が間近ゆえか。
「ところであんたサ」
「なんだ?」
不意に少女は笑うのをやめ、男の顔を覗き込む。
「何がそんなに憎いんダ?」
「……」
男は何も言わない。
ただその目に負の感情を湛え、少女を睨むだけだった。
「……やっぱりおもしれえやろうだナ」
少女が再びけらけらと笑う。
「何がそんなに可笑しいんだか」
男は不快感を隠そうともせず、吐き捨てるように言い放つ。
「さっきのあんたの叫び聞いてたヨ。どれだけの憎しみがあれば、あんな叫びができるんだろうねェ?」
「……そうだな。殺したいほど憎いやつがいればできると思うぞ」
淡々とした口調で放たれた言葉。
内容はひどく剣呑なものだったが。
「殺したい奴がいるんだネ?」
「ああ」
「だけどもうあんたは死んじゃうから、それは叶わぬ願いだねェ」
「……それでも殺す」
「無茶苦茶言うなァ」
男の支離滅裂な返答を受けて、少女は笑みを深める。
「あーあ、あんたが死ぬのはなんかもったいねえナ」
「でも、まあ、しかたねえカ。じゃあオレはもう行くゼ」
少女は男に背を向け、その場を去る。
間もなくその場にある亡骸は二つになった。
それから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
どこかに流されたのか、はたまた魚たちの餌にでもなったのか。
その場にあったはずの二つの亡骸はどこにもなかった。
とりあえずここまでが導入です。
スレを立てた後に、修正しなきゃ後でまずいことになりそうな部分があることに気づいて投稿が遅れました。
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