やよい「伊織ちゃんと小鳥さんの一年」 (128)
まったりと投下していきます
4月
やよい「あ、伊織ちゃんだー」
伊織「あら、やよいじゃない、おはよう。偶然ね」
やよい「おはよう、伊織ちゃん!」
やよい「あれ、髪に葉っぱがついてるよ?」
伊織「あら、ありがと。桜の葉ね」
やよい「桜、もう全部散っちゃったね、すごく綺麗だったのに」
伊織「きっと来年も綺麗に咲くから、それまで楽しみにしておきましょ」
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やよい「おはよーございます!」
伊織「おはようございます」
やよい「……あれ?」
伊織「誰もいないのかしら?」
やよい「あ、小鳥さんがいましたー」
小鳥「zzzzzzz」
伊織「何で朝っぱらから寝てるのよ……」
やよい「小鳥さん、朝ですよー」ゆさゆさ
小鳥「ふぇ?」
小鳥「あ……やだ……あれ、もう朝?」
やよい「小鳥さん、大丈夫ですかー?」
小鳥「え、う、うん。寝てるところなんて見せてごめんなさいね」
伊織「ねぇ、ここに泊まる程、今ってそんなに忙しいの?」
小鳥「えっと、そんなには忙しくないんだけど」
伊織「じゃあどうしたのよ?」
小鳥「き、昨日飲んでたら終電終わっちゃってて」
伊織「もうちょっと飲む量考えなさいよ……」
やよい「小鳥さん、ゴミ捨てに行ってきますね!」
小鳥「あ……ご、ごめんねー」
伊織「またやよいにあんなことさせて……」
小鳥「うっ……」
伊織「やよいにばかりゴミ捨てやらせないで、たまには自分でしたらどう?」
小鳥「私もしなくて良いって言ってるんだけど……」
伊織「それでも甘えてるわね。させたくないなら先にしておきなさいよ」
小鳥「朝から厳しいお言葉……でも正論だから反論できない……」
伊織「あと、プロデューサーは?」
小鳥「えっと……どうしたのかしら?」
伊織「なにこのメモ……なになに、電車遅延?」
小鳥「あ、そういえばなんか夢の中で電話取ったような」
伊織「妙に器用ね……」
伊織「あと、言いにくいんだけど、目の下のクマ凄いわよ」
小鳥「え、そんなに?」
伊織「ええ、ちゃんと化粧してるの?」
小鳥「起きたばかりだから……」
伊織「はいはい、プロデューサーが来る前にさっさとしなさい」
小鳥「ご、ごめんなさいね」
伊織「まったく、なんで今日に限って遅刻してるのよ……」
伊織「もう……律子が休みなんだから、少しくらい早く来る努力をしなさいよね」
小鳥「まあまあ。でも今日は確か朝からの収録よね……時間大丈夫かなぁ?」
伊織「ダメそうなら私一人で行くから……と言いたいところだけど、亜美はどうしたのよ」
P「お、おはようございます!」
小鳥「おはようございます」
伊織「あら、随分とゆっくりな出社じゃない」
P「すまん……ちょっと電車が遅れてしまって」
伊織「いいから、早く準備しなさいよ」
P「すぐに準備する。ほんと、ごめん」
伊織「それと亜美が来てないんだけど?」
P「亜美からはさっき寝坊したとメールがあった」
P「あずささんは……連絡ありましたか、小鳥さん?」
小鳥「いえ、まだ……」
伊織「あずさなら連絡があったわ。現場にいるらしいわ……奇跡ね」
P「それは良かった。また消えないうちに行かないと」
P「途中で亜美を拾ってから行っても……よし、十分間に合いそうだな」
やよい「ゴミ捨て終わりましたー」
やよい「あ、プロデューサー、おはようございます!」
P「おはよう、やよい。今日もゴミ捨てありがとな」なでなで
やよい「えへへ、事務所が綺麗になって私もすっきりです!」
伊織「やよい、ごめんなさい。今からすぐに出発しないといけないの」
やよい「伊織ちゃん、今日もいっぱい頑張ってね!」
P「やよいもレッスンしっかりとな」
やよい「はーい」
P「じゃあやよい、小鳥さん、行ってきます」
伊織「行ってくるわね、やよい、小鳥」
やよい「いってらっしゃーい」
小鳥「がんばってね」
高木「おはよう、今日も賑やかだね」
P「社長、おはようございます」
高木「おはよう。今日も忙しそうで何よりだよ」
P「ははは……すいません、すぐに出発しないと行けませんので」
高木「引き止めてすまなかった。気をつけて行ってくれたまえ」
やよい「社長、おはようございます!」
小鳥「おはようございます」
高木「やよい君は元気だね。今日もよろしく頼むよ」
高木「音無君、今日のことなんだが……少しいいかね?」
小鳥「はい、じゃあやよいちゃん、レッスンまでゆっくりしててね」
やよい「はーい」
社長室
高木「水瀬君のスケジュールはどうなっているのかね?」
小鳥「今日は一日、テレビ局で収録と打ち合わせですね」
小鳥「本当は律子さんが付き添いでしたが、倒れてしまったので、一日プロデューサーさんが付き添いです」
高木「ふむ、律子君の調子は?」
小鳥「ただの風邪みたいです。気温の変化が激しいですから」
高木「そうか。音無君も十分に注意してくれ……っと、話が逸れてしまった」
高木「今日の午前中、特別な客人が来る。もてなしの準備をしておいてくれ」
小鳥「はい、えっと……どなたがいらっしゃるのでしょうか?」
高木「水瀬君の兄だ。少し相談したいことがあってね」
小鳥「では伊織ちゃんと会わせまたほうがいいですか?」
高木「いや、構わない。水瀬君は素晴らしい活躍をしている。今は余計な刺激を与えないほうが得策だろう」
小鳥「余計な刺激、ですか?」
高木「律子君や彼から話を少し話を聞いたところ、水瀬君はご兄弟へのコンプレックスがあるようだ」
小鳥「優秀なご兄弟とは聞いていますけど……」
高木「そういうことだ。今日一日外ならば問題あるまい。もし予定に変更があればすぐに言ってほしい」
高木「念のため、他の子達にも秘密にしておいてくれ」
小鳥「あの……外で会うという選択肢はなかったんですか?」
高木「……その手があったか。さすがは音無君だ」
小鳥「えーっと、お茶菓子を買いに行ってきますので、少しの間、電話番お願いしますね」
小鳥「ちょっぴり時間かかっちゃった……ただいまもどりました」
やよい「小鳥さん、おかえりなさーい」
小鳥「あら、お茶なんか持って……もしかして誰か来てる?」
やよい「はい。さっき男の人が来て、社長にご用ということだったので、ご案内しました」
小鳥「あらら……ありがとう。お茶は私が代わりに出しておくわね」
やよい「あ、お茶菓子買ってきてたんですね」
小鳥「みんなの分も一緒に買ってきたから、今日のおやつに食べましょうか」
やよい「おっそーじおっそーじ楽しいな♪」
やよい「きっれいにきっれいにしましょうね♪」
小鳥「ふう……」
やよい「小鳥さん、どうしたんですか?」
小鳥「ううん、なんでもないの。ちょっぴり緊張しただけ」
やよい「お客さんってすごく若かったですけど、あの人も記者さんなんですか?」
小鳥「うーん、経営の助言をしてくれる会社の社長さんかな?」
やよい「そうなんですかー。すごくかっこいい人だったからびっくりしました」
小鳥「あらあら、やよいちゃんはああいう人がタイプ?」
やよい「んー私はかっこいい人よりも優しい人が好きです」
小鳥「それってプロデューサーさんのこと?」
やよい「え、え、と……」
小鳥「じゃあプロデューサーさんと伊織ちゃんだったら、どっちが優しい?」
やよい「はわっ……え、えと……プロデューサーも伊織ちゃんも世界で一番優しいです」
小鳥「やよいちゃんは伊織ちゃんのこと、本当に好きなのね」
やよい「はい!」
小鳥「ごめんね、いじわるな質問しちゃって」
やよい「いじわるはだめかなーって」
小鳥「はぁ……私もやよいちゃんのように伊織ちゃんに甘えたいなぁ」
やよい「うーん、それってちょっぴり難しいかもです」
小鳥「えっ?」
やよい「私も伊織ちゃんも、小鳥さんのことをお姉さんみたいって思ってます」
やよい「だから、甘えられるよりはちょっぴり甘えたいかなーって」
小鳥「私もやよいちゃんや伊織ちゃんみたいな妹は大歓迎!」
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————
———
やよい「っていう話をしたんだよー」
伊織「小鳥がお姉さんねぇ……」
やよい「伊織ちゃんは嫌?」
伊織「ありえないわ。小鳥は姉にするには頼りなさすぎるもの」
やよい「そ、そんなことないよ、伊織ちゃん」
伊織「毎日のように律子に怒られてるじゃない」
やよい「えっと……」
伊織「私の姉になるんだったら、それなりに頼れる人じゃないと」
伊織「そうね……近い人だとやっぱり律子かしら?」
やよい「律子さんはすっごく頼りになるね」
伊織「もう少し自分を気遣ってさえくれたら言うこと無しなんだけどね」
伊織「あと、ちょっと厳しすぎるところもいただけないわね」
やよい「伊織ちゃんはお姉ちゃんって欲しい?」
伊織「そうね、やよいみたいにしっかりしてる姉なら欲しいわ」
やよい「えへへ、ありがとう」
5月
美希「でこちゃん、なにしてるの?」
伊織「何って見れば分かるでしょ……痛っ」
やよい「ごめんね伊織ちゃん。もうちょっとで大きいの取れそうだったから」
美希「あはっ☆」
伊織「ちょっと、今は耳掃除してるんだから!危ないから!」
美希「ミキもでこちゃんと一緒に、やよいに膝枕してもらうの!」
伊織「膝枕がメインなのね……」
やよい「美希さん、私のお膝だと二人は無理ですー」
美希「でこちゃん……」
伊織「ああもう、譲ればいいんでしょ」
美希「やよいの膝、とっても気持ちいいの」
やよい「じゃあ美希さんも耳掃除しますね。あ、たくさん溜まってますー」
美希「なの〜……いたっ……いたたっ……い、痛いの!」
やよい「あの、まだ入り口なんですけど」
美希「もうちょっと丁寧にしてほしいの……いたっ!」
やよい「ええっ!?」
美希「もっと優しくするの……いっ…………いたいのっ!」
やよい「美希さん、全然です!敏感すぎます!」
美希「やよいはちょっぴり乱暴なの!」
やよい「そんなことないですー!」
美希「乱暴なやよいじゃダメなの。でこちゃん代わりにするの!」
伊織「次から次へと……やよい、交代するわ」
やよい「……えいっ!」ずぼっ
美希「っっっったーーーいの!」
美希「でこちゃんは優しくしてくれる?」
伊織「やよいよりは下手よ?」
美希「気にしないの〜」
伊織「じゃあ……」
美希「あふぅ……いたっ」
伊織「そ、そう……これくらいかしら?」
美希「いたたたたたた」
伊織「やよい、美希の腕掴んで」
やよい「はーい」
伊織「えいえい」
美希「いたーーーーい」
やよい「美希さん暴れちゃだめです!」
P「お前ら、もうちょっと静かにしてくれ……」
小鳥「今日も平和ですね〜」
高木「実に微笑ましい光景だ」
高木「そういえば音無君、少し相談があるんだがいいかね?」
小鳥「私に相談、ですか?」
高木「実は音無君にオファーが来ている」
小鳥「は、はい?」
高木「今度開催されるパーティで、音無君に歌って欲しいという要望がある」
小鳥「ええっ!?ど、ど、どうして私が?」
高木「例のバーの常連が何人か参加する予定でね、その中の一人が推薦してくれたんだよ」
小鳥「こ、こ、こ、こ、困ります。私はそんなところで歌える程上手じゃないですよ!」
高木「そんなに意識しなくても、普段どおりに歌ってくれればいい」
小鳥「ほ、他の誰かは……千早ちゃんとかあずささんとか……?」
高木「音無君をご指名なのだよ」
小鳥「ぴよぉ……えっと、お断りは……」
P「いいじゃないですか、小鳥さんの歌は千早とも良い勝負できますよ」
美希「ハニー、ミキにもこういうお仕事取ってきてほしいの」
P「ぜ、善処する……」
やよい「小鳥さんの歌、私もまた聴きたいです!」
高木「そうだな、またあの店でみんなに音無君の歌を聴かせよう」
やよい「うっうー、お願いしまーす」
高木「というわけだ音無君。私も一緒に行くからそこは安心したまえ」
小鳥「うう……ぴょぉ」
伊織「それっていつの話?」
高木「一ヶ月後の予定だが……もしや水瀬君もかい?」
伊織「ええ、招待状は来てるわ。おまけとして、だけどね」
伊織「でも出るつもりなんて全然無いから安心して、小鳥」
小鳥「ええっと……それって私が行くから?」
伊織「馬鹿なこと言わないでよ。行ったってすることがないからよ」
伊織「私のことは気にしないで、小鳥は小鳥で楽しんできたらいいんじゃない?」
小鳥「け、結構偉い人とか来ちゃう?」
伊織「多分ね。どうせならそこで男の一人くらい捕まえて来なさい。玉の輿確定よ?」
伊織「おじさんばかりだから小鳥にはお似合いかもね、にひひっ」
美希「でこちゃん、無理なことは言っちゃダメなの」
やよい「伊織ちゃん、玉の輿ってなに?」
伊織「んー女の人がお金持ちの男性と結婚と結婚することよ」
伊織「もし男の人がお金持ちの女性と結婚するなら、逆玉って言うの」
やよい「やっぱり伊織ちゃんって物知りです」
やよい「じゃあ、小鳥さんはお金持ちになるんですか?」
小鳥「まだ全然そういう段階じゃないんだけど……」
伊織「そうね、まだ一度も男を捕まえたことの無い小鳥じゃ無理よね」
小鳥「なななななななな、なんでそのことを……!」
伊織「て、適当に言っただけなんだけど……本当のことだったの?」
小鳥「えっ……か、かまかけられた……ぴ、ぴ、ぴよぉぉぉぉぉぉぉ!」
伊織「が、頑張って来てよ……」
P「(不憫だな……)」
6月
小鳥「おはようございます」
真「おはようございます小鳥さん。あれ、その花どうしたんですか?」
小鳥「前に行ったパーティでいただいたの」
真「いろんな種類がありますね」
小鳥「なんだかいっぱい貰っちゃって。いい香りだし、飾りきれないから持って来ちゃった」
小鳥「良かったらいくつか花瓶持ってきてくれる?」
真「わかりました。ちょっと待っててください」
P「小鳥さん、おはようございます。綺麗な花ですね」
小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」
P「雨、また降り始めましたね。そろそろ梅雨到来ってところですね」
小鳥「そうですね、でも今日も頑張りましょう」
P「その様子だと、どうもパーティのほうは成功したみたいですね」
小鳥「はい、おかげさまで。社長に聞きましたか?」
P「今日の小鳥さんは幸せそうな顔をしてますから、大成功だったんだなって分かりました」
小鳥「そこまで分かるなんて、プロデューサーさんは鋭いですね」
P「ははは、これもこの仕事やってるおかげですね」
千早「音無さん、おはようございます。花瓶は4つくらいでいいでしょうか?」
小鳥「あ、千早ちゃん、おはよう。手伝ってもらってありがとう」
千早「いえ、気にしないでください」
小鳥「じゃあ給湯室で分けましょうか。棘があるから気をつけてね」
千早「わかりました」
真美「兄ちゃーん、雨どうにかしてー」
P「さすがに天気だけは俺にもどうしようがないぞ」
真美「じめじめして気持ち悪いー!」
伊織「午後から止むって言ってるんだから、少しは落ち着きなさいよ」
真美「仕事もないし、亜美もいないし、退屈すぎるのが悪いんだよー!」
伊織「なんで亜美だけ風邪ひいてるのよ?」
真美「昨日の帰り、亜美の上にばしゃーんって水が降ってきて」
P「たまにあるよな。屋根とかの上からいきなり落ちてくるやつ」
真美「それで傘を放り出して二人で遊んだら亜美だけ倒れたんだよ」
P「二人ともずぶ濡れになったことには変わらないのか……もうするなよ」
伊織「しっかし、今日は一段と蒸してるわね……」
P「除湿機でもあれば少しは違うんだろうがな……そんなもの律子は買ってくれないだろ」
真美「じゃあじゃあ、ピヨちゃんにお願いしよっ!」
P「小鳥さんにそんな無茶を押し付けようとするんじゃない」
P「しかしこうも雨だと本当に気が滅入るな……」
P「うーん……やよいー」
やよい「はーい、なんですかプロデューサー?」
P「何か湿気対策とかないか?」
やよい「えと……換気です!」
P「換気かぁ……窓開けたら雨が入ってくるな」
真美「やよいっちー、なんでもいいからこの状況をどうにかできる方法をー」
やよい「じゃあ扇いで湿気を飛ばしてみます!」
やよい「下敷きを用意して、いきますよー」ぱたぱた
真美「……微妙に涼しい」
P「ほれ下敷き。真美も扇いでくれ」
真美「やよいっちには負けないもんね!」ぱたぱたぱた
やよい「うーー」ぱたぱたぱたぱた
P「あーちょっと涼しくて気持ちいい」
伊織「扇風機出せばいいんじゃないの?」
小鳥「楽しそうですね。少し早いけど、出しちゃいましょうか」
P「手伝いますよ」
小鳥「そんなに重いものじゃないから大丈夫です」
小鳥「二人が扇いでくれるのも今のうちですよ?」
やよい「うっうー」
真美「いえーい」
P「これはこれで嬉しいんですけどね……っと、電話だ」
P「はい、こちら765プロでございます」
P「もしかして伊織の?はい、いつも大変お世話になっております……社長ですか?」
P「小鳥さん、社長って今日どうしてます?」
小鳥「今日はまだ来てませんけど……」
P「すいません、生憎、まだ出社していないようでして……ええ、携帯にも繋がらない、ですか」
P「では連絡が取れ次第、折り返し電話を差し上げるよう致します」
P「ええ、はい、ではこれで……え、音無ですか?ええ、はい」
P「小鳥さん、1番お願いします」
小鳥「私ですか?」
P「はい」
小鳥「はい、お電話代わりました音無です。はい、私ですけど……あ、この前はどうも……」
小鳥「はい……はい……いえ、そんなことはないです……」
真美「兄ちゃん、なんの電話?」
P「ん、社長宛ての電話だったよ。携帯繋がらないとか何やってるんだか」
伊織「ねえ、それでなんで私の名前が出るのよ?」
P「水瀬って言ってたからな。実際、伊織の兄だったしな」
P「確かコンサルタント会社の社長だったか?」
伊織「ええ」
P「うちもあんまりよろしく無いからな。社長が相談したくもなるだろ」
真美「兄ちゃん、悲しすぎるよぅ」
やよい「ごめんなさい、私もっともっと頑張ります」
P「俺が頑張らないとダメなんだがな」
伊織「……そう。それで何で小鳥に?」
P「さあ?」
小鳥「はい、わ、分かりました。ではこれで……わざわざありがとうございます」
伊織「小鳥」
小鳥「どうしたの、伊織ちゃん?」
伊織「兄さんとなんの話をしてたの?」
小鳥「この前のパーティに、出席してたみたいで、素敵な歌って褒められちゃった」
伊織「そう、それは良かったじゃない。兄さんに褒められるなんてやるわね」
小鳥「えへへ〜」
伊織「それで誰か気になる人はいた?」
小鳥「……そんな余裕はありませんでした」
伊織「まったく、折角の機会だったのに、何やってるのよ」
小鳥「だって、それどころじゃなかったし……」
小鳥「話しかけてもしだめだったりしたらって思うと……」
伊織「はぁ……小鳥って何でそんなに弱気なわけ?」
小鳥「なんというか……じ、自信がなくて」
伊織「少しくらいは自信持ちなさいよ。兄さんに褒められたんでしょ?」
伊織「私が言うのもなんだけど、兄さんの見る目は確かなんだから」
伊織「小鳥は自信持ってもいいわ。私が保証してあげるから」
小鳥「ありがとう、伊織ちゃん」
今日はこのあたりで。続きはまた明日投下します。
鯖落ちが解消したみたいなので再開します。
今日中に終わるかなぁ。
7月
やよい「うー……うー……」
伊織「もう少しだから、あとちょっと頑張ればいけるから……」
やよい「あ、わかりました!」
伊織「そう、正解!」
やよい「えへへ」
小鳥「あら、教科書いっぱい広げて何してるの?」
やよい「学校の宿題です」
やよい「わからないところがいっぱいあるんですけど、伊織ちゃんにお手伝いしてもらってます」
伊織「もうちょっと漢字の勉強した方がいいわよ。問題が読めないなんて解く前の問題なんだから」
小鳥「やよいちゃんはまだ漢字が苦手なの?」
やよい「あう……頑張ってるんですけど、まだちょっぴりダメです」
小鳥「ちなみにその机にあるプリントが全部宿題?」
やよい「もうちょっと家に……いっぱいあるんです」
小鳥「そっか。今は夏休みだもんね」
伊織「私たちには全然関係ないけどね」
やよい「あんまりかすみたちとも遊んであげられないのが残念です」
小鳥「最近は忙しくなってきたからね……」
やよい「でも、私が頑張ってお仕事しないと給食費が払えないので、やっぱり頑張ります!」
伊織「あの馬鹿プロデューサー、もっと良い仕事取ってきなさいよね」
小鳥「やよいちゃんは帰ってからも家事をして、なんだか休む暇が無さそう」
やよい「お仕事は疲れちゃいますけど、帰って弟たちの顔を見ると疲れなんて吹っ飛んじゃいます」
やよい「私の調子が悪い間もしっかりと家事をしてくれたから、頑張らないとです」
小鳥「あんまり無理はしないでね」
伊織「いざとなったら私がやよいの代わりに家事でもなんでもするわよ」
小鳥「……伊織ちゃんが家事?」
伊織「な、なによ?私にはできないって言うの?」
小鳥「やったことあるのかなって」
伊織「そ、それはないけど……できるに決まってるわ」
伊織「そういう小鳥はどうなのよ?」
伊織「どうせ料理なんてまともにしたことないんでしょ?」
小鳥「ふふふ、伊織ちゃん、私が料理下手なんて決めつけるなんて早計!」
小鳥「じゃじゃーん。このお弁当を見て」
伊織「な、なによこれ……え、小鳥が作ったの?」
小鳥「そう、実は私は料理が得意なのです!」
伊織「へぇ、一口いい?」
小鳥「どうぞ〜」
伊織「あ……おいしい」
伊織「意外ね……料理なんてからっきしダメだと思ってたけど」
小鳥「一人暮らしは長いから!」
伊織「他の家事はどうなのよ?」
小鳥「時間があれば頑張るかな?」
小鳥「家事ができないと結婚した時に大変だと思って」
小鳥「相手はいないけど……」
伊織「……聞かなかったことにするわ」
伊織「そうなるとますます謎ね」
やよい「なぞ?」
伊織「てっきり家事が壊滅的だから恋人ができないものだと思ってたんだけど」
小鳥「ひどい!」
伊織「何が原因なのか、本気で考えたくなるわね」
やよい「あ、もしかしたら、男の人が小鳥さんのことを気づいてないだけかもしれないです!」
小鳥「」
伊織「や、やよい……」
小鳥「そうよね……私なんて気づかれないまま終わっていく人間よね……」
伊織「ちょ、ちょっと……そ、そんなこと無いわよ!」
やよい「小鳥さん、どうしたんですかー?」
伊織「やよい、えっと、良い意味で言ったのよね?」
やよい「はい!小鳥さんの素敵なところ、男の人は全然気づいてないと思います!」
伊織「そ、そうよ。ま、全く、世の中の男どもは小鳥の良さを全然分かってないんだから」
小鳥「……ほんと?」
やよい「小鳥さん、美人で優しくて家事とかなんでもできるなんて、とっても凄いです」
伊織「スタイルもそんなに悪くないし、頭の回転だっていいわよね」
小鳥「そ、そうかな?」
伊織「そうよ。プロデューサーや律子がつつがなく仕事できるのは小鳥のおかげじゃない」
やよい「小鳥さんは縁の下の力持ちなんです!」
やよい「私だったら、ここで一人で仕事してるなんて、寂しくて死んじゃいます!」
小鳥「……」
伊織「ああ、もう!」
小鳥「伊織ちゃん……やよいちゃんがいじめる……」
やよい「ええっ!?」
伊織「もう、こんなことで泣かないでよ……」なでなで
伊織「やよいが言いたいのは、それだけ私たちが小鳥を信頼してるってこと」なでなで
伊織「帰ってきたときに小鳥の顔を見ると、それだけでほっとするんだから」なでなで
伊織「ここがゆっくりできる場なのは、小鳥のおかげなんだからね」なでなで
伊織「ほら、誰かが帰ってきて小鳥が泣いてたら安心できないでしょ?」なでなで
やよい「こと」
伊織「やよい、ちょっと黙ってて」
やよい「えー」
小鳥「……伊織ちゃん、ありがとう」
伊織「もう、手間かけさせないでよね」
小鳥「やよいちゃんも悪気があって言ったんじゃないよね、ありがとう」
やよい「はい!」
伊織「もっとしっかりしなさいよ。せっかくの美人が台無しじゃない」
小鳥「伊織ちゃんがそう言ってくれるなら頑張れそう」
やよい「そういえば小鳥さん」
小鳥「ん、どうしたの?」
やよい「これって小鳥さんのお弁当なんですよね?」
小鳥「ええ、そうだけど」
やよい「お昼ごはん食べてないんですかー?」
小鳥「……」
伊織「……」
小鳥「作ってたの忘れて普通にたるき亭で食べちゃった、てへ」
伊織「意味ないじゃない!」
伊織「あ、ここ間違ってるわよ」
やよい「……難しいです」
小鳥「そういえば、伊織ちゃんの方は勉強は大丈夫?」
伊織「もちろん。両立できないとアイドル活動なんてすぐにストップされるわ」
小鳥「伊織ちゃんはしっかりとしてるわね」
やよい「ううー」
小鳥「ち、違うのよ。やよいちゃんはやよいちゃんでしっかりしてるじゃない!」
小鳥「お仕事しながら家事もするっていうのはすごく大変なことよ」
伊織「そうよ。やよいは私なんかよりもずっと頑張ってるんだから」
伊織「サボってばかりの小鳥よりもよっぽど世の中に貢献してるわよ」
小鳥「ひ、ひどい……私も仕事くらいしてるもん!」
伊織「そう?じゃあどうして律子が後ろで怒ってるのかしら?」
小鳥「……」
律子「小鳥さん、そろそろ仕事に戻る気になりましたか?」
小鳥「頑張ります」
小鳥「あ、そうだこれ。頭を動かしてるときは飴でも食べてね」
やよい「ありがとうございますー」
伊織「ありがとう。でも小鳥も少しくらいは食べたほうがいいんじゃない?」
小鳥「飴は食べるのに時間がかかっちゃうから、電話がかかってくることを考えるとなかなかね」
伊織「そういうところもきっちりとしてるのね」
小鳥「ふふん。これで伊織ちゃんも私のこと見直してくれた?」
伊織「もうちょっと空気が読めたら見直すわ」
律子「こーとーりーさーん」
小鳥「ごめんなさい」
伊織「さてと、やよい、そろそろ帰りましょ」
やよい「うん。伊織ちゃん、今日は宿題手伝ってくれてありがとう」
伊織「何言ってるの。帰ってからも手伝うわよ」
やよい「?」
伊織「やよいの家に行って宿題を全部終わらせて、それからみんなで遊びましょ」
伊織「私がみんなの相手をすれば、やよいも少しは家事が楽になるでしょ」
やよい「伊織ちゃん、明日もお仕事なのにいいの?」
伊織「大丈夫よ。私がしたくてやってるんだから」
伊織「それに久しぶりにかすみたちの顔を見たくなったしね」
やよい「うっうー!伊織ちゃんありがとう!」
律子「まったく、もう少ししっかりとですね……」
小鳥「う……あ、電話だーとらないとーもしもし765プロでございます」
律子「まったく逃げることだけは早いんだから」
小鳥「はい……えっと……あと2時間くらいしたら戻ってくると思います」
小鳥「え、キャンセルですか?」
小鳥「……わかりました。ではそう申し伝えます」
小鳥「では……はい……はぁ…………ええええええ!?」
小鳥「わ、わ、私をですか!?い、いえ、全然そんなこと……だ、大丈夫です」
小鳥「はい、はい……では……」
小鳥「……」
律子「小鳥さん、なにかキャンセルという不穏な言葉が聞こえたんですけど」
小鳥「社長の明日のアポを別日にしてほしいとのこと……でした……」
律子「なら大丈夫ですね。それで後半の電話はどういった内容で〜?」
小鳥「えっと……」
律子「小鳥さ〜ん?」
小鳥「しょ、食事に誘われました……来月ですけど」
律子「……ホントですか?」
小鳥「……」こくこく
律子「よかったじゃないですか」
小鳥「ど、ど、ど、どどうしましょう?」
律子「頑張ってきてくださいね。あ、報告はちゃんとしてくださいね」
小鳥「ぴよぉ……」
8月
あずさ「伊織ちゃん、昨日眠れなかったの?」
伊織「んーどうしたの、あずさ?」
あずさ「とっても眠そうにしてたから〜」
伊織「ちょっとね……ふぁ……」
亜美「いおりーん、少し寝た方がいいんじゃない?」
伊織「大丈夫よ……律子はまだ来てないの?」
あずさ「さっき来て、レッスンの支度してって言われたじゃない」
伊織「え、うそ?」
亜美「いおりん、全然聞いてないよー」
律子「……伊織」
伊織「なあに、律子?」
律子「午前中はここで寝なさい」
伊織「だ、大丈夫よこれくらい」
律子「だーめ。ただでさえ暑いのに、睡眠不足だなんて身体を壊すもとよ」
伊織「で、でも」
律子「半日くらいだったら、問題ないから」
律子「午後はプロデューサーが戻ってくるはずだから、一緒に送ってもらって。いいわね?」
伊織「わ、わかったわよ」
律子「小鳥さん、それでは行ってきますね」
小鳥「はい、いってらっしゃい、律子さん、亜美ちゃん、あずささん」
あずさ「行ってきますね〜」
亜美「いおりん、またあとでねー」
伊織「ふぁ……小鳥、じゃあ私は少し横になるから」
小鳥「大丈夫?」
伊織「ええ……ちょっと昨日、蚊がうるさくて眠れなかっただけだから」
小鳥「あらら……それは大変だったのね」
小鳥「はい、タオルケット。エアコンは効かせてるけど、寒かったりしたらいつでも操作してね」
伊織「ありがと……おやすみ」
小鳥「……うふふっ♪」てぃんっ
小鳥「伊織ちゃん、膝枕してあげよっか?」
伊織「うん、お願い」
小鳥「えっ!?」
伊織「なあに?」
小鳥「膝枕してあげようかって言ったんだけど……」
伊織「だからお願いって言ってるでしょ」
小鳥「……どうしてこうなった」
伊織「自分の言ったことくらい、責任持ちなさい……ふぅ」
小鳥「いいかな、律子さんに見られたら怒られそうだけどね」
伊織「……小鳥」
小鳥「ん、なあに?」
伊織「……なんでもないわ」
小鳥「えー、そこまで言ったんだから、言ってくれる?」
伊織「……小鳥に話してもね」
小鳥「だったら、独り言でも構わないから、ね」
伊織「そう……」
伊織「今日、やよいに作ってくるはずのお弁当、忘れたの」
小鳥「お弁当?」
伊織「やよい、きっと楽しみにしてくれてるのに……」
小鳥「大丈夫、やよいちゃんなら許してくれるから」
伊織「ええ……でもやよい、きっとがっかりすると思う」
小鳥「そう、かも」
伊織「今から作っても、私一人じゃきっと間に合わないわ」
伊織「小鳥、手伝ってくれる?」
小鳥「……だーめ」
小鳥「今の伊織ちゃんは寝ることが仕事。そんなことはさせません」
伊織「そう……」
小鳥「私が代わりに作ってあげるから。それでいい?」
伊織「……うん、お願い」
小鳥「はい、おやすみなさい、伊織ちゃん」なでなで
伊織「おやすみ」
—————
————
———
P「ただいま戻りましたー……ふひー」
やよい「もどりましたー」
P「はぁ……暑かった暑かった」
やよい「とっても疲れましたー」
P「なんでこんな炎天下に外で撮影なんだか……」
やよい「プロデューサー、お茶入れますね」
P「疲れてるのはやよいだろ。俺が入れるからやよいはゆっくりしててくれ」
やよい「お言葉に甘えて、お願いしますー」
P「麦茶とオレンジジュース、どっちがいい?」
やよい「えと、えーっと……どっちも好きだから選べないです」
P「わかった」
やよい「あ、小鳥さん、ただいま戻りましたー」
小鳥「あ、やよいちゃんお帰りなさい。でも……しー」
やよい「はわっ……伊織ちゃん眠ってます」
小鳥「昨日、部屋に蚊が出て、気になって眠れなかったみたいなの」
やよい「……えへへ、伊織ちゃん可愛い」
やよい「でも、なんで小鳥さんが膝枕してるんですか?」
小鳥「断られると思って提案したのに、了承されるとは思ってなかったの」
やよい「小鳥さん、嬉しそうですー」
小鳥「それはもうね、天国」
P「やよいー持ってきたぞ。麦茶とオレンジジュース」
やよい「しー」
P「ん……ああ、ごめん。伊織がいたのか……なんで小鳥さんが膝枕?」
P「伊織の寝てる姿なんて中々見る機会が無いが……無防備な表情も可愛いものですね」
小鳥「そうですね。私たちからしたらまだまだ小さい女の子ですから」
やよい「伊織ちゃん、幸せそうです」
小鳥「こうやって撫でてあげるとね、すごく気持ちよさそうにするのよ?」なでなで
小鳥「髪だってすごくさらさらしてるから気持ちいいし」
やよい「私もしていいですか?」
小鳥「うん、ゆっくりとね」
やよい「えへへ、伊織ちゃん良い子だね」なでなで
伊織「……ん…………ん……」
P「あんまりやりすぎると起きちゃうぞ」
小鳥「そういえば、伊織ちゃんがやよいちゃんに謝りたいことがあるって言ってたわね」
やよい「伊織ちゃんがですか?」
小鳥「うん、何でもお弁当を作るのを忘れちゃったんだって」
やよい「そうなんですかー?」
小鳥「うっかりしちゃったのね」
P「やよい、お弁当って?」
やよい「はい、伊織ちゃんとお弁当を一日交代で作ってます!」
P「お弁当交換か。ああ、そういえば確か貴音と響もそんなことしてたな」
小鳥「ブームが来るかもしれないですね」
P「今度、全員の料理番組でも企画しましょうか?」
小鳥「是非してください、プロデューサーさん!」
P「やよい、伊織の料理の腕はどうだ?」
やよい「はい、とっても上手になりました」
P「そうか、できないよりかはできる方がいいもんな」
やよい「最初はちょっぴりだめだったんですけど、教えたらすぐに覚えてくれました」
P「伊織は本当に吸収が早いな」
やよい「あ、プロデューサーは伊織ちゃんのご飯食べたいんですか?」
P「上達したって言うのなら食べてみたいと思っただけだよ」
やよい「今度、伊織ちゃんの作ったお弁当食べますか?」
P「いいのか?」
やよい「うっうー、伊織ちゃんが私のために作ってくれてますから、あげません!」
P「やよいはいじわるだなぁ」
P「じゃあやよい、お昼は一緒にどこかで食べるか?」
やよい「はい、残念ですけど、そうします」
小鳥「やよいちゃん、伊織ちゃんからお願いされたんだけど、私が作ってもいい?」
やよい「小鳥さんが……いいんですか?」
小鳥「うん。やよいちゃんも今日は暑い中頑張ったからね」
小鳥「さっぱりしたものをご馳走しようと思います。もちろんプロデューサーさんも」
やよい「うっうー、嬉しいです!」
P「小鳥さん、俺も手伝いますよ」
小鳥「やよいちゃん、場所交代してくれる?」
やよい「はい!」
P「それじゃあ買い物に行きましょうか」
小鳥「いえ、冷蔵庫にいっぱいありますから、それ使っちゃいましょう」がちゃっ
P「なんでこんなにいっぱい食材が?」
小鳥「お弁当作ってる人が補充してるみたいです」
P「勝手に使って大丈夫ですか?」
小鳥「……あとで入れときます」
P「経費で?」
小鳥「律子さんには内緒で」
やよい「伊織ちゃん、狸寝入りはだめかなって」なでなで
伊織「……いつから気づいてたの?」
やよい「私が帰ってきたときに起きたかなって」なでなで
伊織「ふう……やよいには隠せないわね」
やよい「そんなに小鳥さん、気持ちよかったの?」
伊織「……ちょっとね」
やよい「伊織ちゃん、顔、真っ赤だよ?」
伊織「う、うそ!?」
やよい「えへへ、嘘だよ、伊織ちゃん」
伊織「はぁ……やよい、オレンジジュースもらってもいい?」
やよい「うん」
伊織「ふう、おいしい」
伊織「その、お弁当……ごめんなさい、やよい」
やよい「代わりに小鳥さんが作ってくれるから大丈夫だよー」
やよい「そんなことより、身体は大丈夫?」
伊織「少しは眠れたから……ええ、すっきりしたわ」
やよい「今日はとっても暑いから無理したらだめだよ」
伊織「わかってるわ。小鳥にも迷惑かけたんだしね」
伊織「さてと、スケジュールに変更はっと……何これ?」
P「小鳥さん、料理も上手なんですね」
小鳥「いえいえ、やよいちゃんに比べたらまだまだです」
P「しかし、小鳥さんって本当になんでもできますよね」
小鳥「そんなことないですよ〜」
P「できることがかなり多いんですよ。料理も歌もかなりのものですし」
P「仕事だって、事務はもちろん、ちゃっかり営業もできますよね?」
小鳥「器用貧乏なんです、私」
P「随分と高性能な器用貧乏ですね……」
伊織「ねえ小鳥?」
小鳥「おはよう、よく眠れた?」
伊織「ええ、おかげさまでね。それよりも、今日のお昼に何かあるの?」
小鳥「お昼?」
伊織「ホワイトボードに書いてるんだけど。書いたのはきっと律子かしら」
P「なんて書いてるんだ?」
伊織「おっきく『小鳥さん食事!』って」
小鳥「あっ!?」
P「結構大切な用事ですか?」
小鳥「えっと……実は今日、先約がありまして、外で食べる約束をしてたんです」
P「そうでしたか、珍しいですね。相手は社長ですか?」
小鳥「いえ、ちょっとした知り合いの方というか何というか、えっとその……ですね」
P「まさか……男?」
小鳥「ち、ち、ち、ちがいますよ!いえ、違わないですけど、あくまでも仕事上のお付き合いですよ!」
P「なんて分かりやすい反応を……」
P「しかし小鳥さんにもとうとう春が来ましたか」
伊織「信じられないわね」
小鳥「だから違いますってば!」
やよい「プロデューサー、今は夏ですよー?」
P「この場合の春が来るって言うのは季節じゃなくて、恋人が出来たっていう意味なんだ」
やよい「小鳥さん、おめでとうございます!」
小鳥「あの、話聞いてます?」
P「この場合はスルーしたほうがいいかなと」
小鳥「なんで!?」
P「小鳥さんも本気になれるんじゃないかと」
P「折角のチャンスなんですから、一気に攻め落としてください」
小鳥「どうしてでしょう……プロデューサーさんがやたら押してきます」
P「小鳥さんが好きだからですよ」
小鳥「ぴよっ!?」
P「やよいも小鳥さんは好きだよな」
やよい「大好きです!」
P「好きな人の恋路は応援しないと」
やよい「私も小鳥さんに恋人ができるように応援します!」
小鳥「うぐぐぐぐぐ……やよいちゃんを使うとは卑怯な」
小鳥「もういいです。プロデューサーさんなんて嫌いです」
P「でも昼食なら急いだ方がいいですよね」
小鳥「でもまだ……」
P「あとは俺がやっときますよ」
小鳥「えっと……ちょっと生姜を多めにしてください」
P「分かりました。こっちは気にせず、小鳥さんも楽しんできてください」
やよい「がんばってくださーい」
小鳥「はい……」
伊織「小鳥」
小鳥「ん?」
伊織「お昼、ありがと」
小鳥「どういたしまして」
伊織「その、頑張ってきてね」
小鳥「応援してくれるの?」
伊織「そ、そうよ……は、早く行きなさいよ!」
小鳥「行ってきます!」
P「いただきます」
やよい「いただきまーす」
伊織「いただきます」
P「久しぶりだな、こうして三人で食事っていうのは」
やよい「はい、みんな急に忙しくなっちゃいましたね」
伊織「最近は特にね……」
P「みんなの頑張りが評価されてるから良い事だよ」
やよい「うっうー、嬉しいです!」
P「小鳥さんもデート頑張って成功してくれるといいけどな」
やよい「相手の人って、どんな人なんでしょうか?」
伊織「さあ……でも小鳥を誘うなんて、なかなか見る目があるじゃない」
P「小鳥さん、あんまり男っ気があるように見えなかったからなぁ……ちょっと不安だな」
—————
————
———
P「ごちそうさま」
やよい「ごちそうさまでした」
伊織「ごちそうさまでした」
P「さてと、一服したらやよいはテレビ局に行って、響と真、千早と合流だ」
やよい「わかりましたー」
P「伊織、体調はどうだ?」
伊織「ええ、大丈夫」
P「じゃあ送っていくよ。ただ、無理はするなよ」
小鳥「た、ただいまもどりました……」
伊織「あら、随分早かったじゃない」
やよい「お帰りなさい、小鳥さん」
P「お疲れ様です……どうしました?」
小鳥「やよいちゃん……ほっぺたつねってくれる?」
やよい「こうですかー?」ぎゅー
小鳥「うん……ありがとう」
P「その、大丈夫ですか?」
小鳥「はい、大丈夫です……やっぱり大丈夫じゃないです」
P「顔真っ赤ですよ」
小鳥「なんだか夢を見ているみたいで……」
P「あれ、もしかしてデート大成功だったりします?」
小鳥「…………」
小鳥「…………ぴよっ」
P「ぴよ?」
小鳥「あーーーーもーーーーだーーーーめーーーー」
P「おおう」
小鳥「すいません、早退します」
P「へ?」
小鳥「おつかれさまでした」ばたんっ
P「え、ちょっと小鳥さん……」
伊織「……なによあれ?」
やよい「プロデューサー、小鳥さんが変でした」
P「喜びの余り壊れたか……」
やよい「じゃあ、小鳥さんに恋人ができたってことなんですか?」
P「かもしれないな……しかし……」
やよい「?」
P「小鳥さんがいないと事務所が空っぽになるな……どうしたものか」
9月
やよい「おはよーございまーす!」
P「おう、やよいおはよう。今日はオフだけどどうした?」
やよい「おはようございます、プロデューサー!」
やよい「今日は伊織ちゃんがお買い物に付き合ってくれるので、来ちゃいました」
P「そうか、もう少しで帰ってくると思うぞ。ところで何の買い物?」
やよい「えへへ、お弁当箱です」
P「お弁当箱?」
やよい「今までお弁当を一日交代で作ってきたんですけど、これからは交換しようってことになりました!」
P「そうか、伊織も毎日やよいのご飯が食べられるとなると幸せだろうな」
やよい「私もとっても幸せです!」
律子「小鳥さん」
小鳥「はぁ……」ぽけー
律子「小鳥さーん」
小鳥「はぁ……」ぽけー
律子「こ・と・り・さん!」
小鳥「律子さん、そんなに大声出さなくても聞こえてます」
律子「じゃあ一度で返事してください」
律子「頼んでおいた会議の資料、金曜までに作れそうですか?」
小鳥「はい、これです」
律子「え、昨日頼んだばかりなのにもう作ったんですか?」
小鳥「はぁ……」ぽけー
律子「あと、さっきお願いしたライブの打ち合わせ資料なんですが、いくつか修正がですね」
小鳥「これです。気づいた修正点は直しておきました。一応修正前の場所は付箋貼っています」
律子「え、さっき頼んだばかりですけど……」
小鳥「はぁ……」ぽけー
律子「全部修正されてる……あ、ここも間違ってたんだ。気づいてなかった……」
律子「でもどっちもA2で印刷されると役に立たない……はぁ、余計な出費が……」
律子「……」
律子「プロデューサー、話があるので会議室に来てください!」
亜美「あずさお姉ちゃん、あれ誰?」
あずさ「音無さんのはずよ〜」
亜美「ピヨちゃんはあんなのじゃないよ!」
あずさ「そうね〜。最近様子がおかしいけど、何かあったのかしら?」
美希「ため息して外ばかり見てるのに、手だけが別の生き物みたいに仕事してるの」
亜美「ちょっと気持ち悪いよ……」
美希「今の小鳥には近寄りたくないの」
あずさ「亜美ちゃん、美希ちゃん、それは音無さんに失礼よ〜」
美希「じゃああずさがあの小鳥を調査するの!」
亜美「けってーだね!」
あずさ「あらあら、できないことを無理矢理させようとするのはどこの悪い子かしら?」
亜美「ミキミキだよ」
美希「亜美なの」
あずさ「でも、本当にどうしたのかしら?まるで恋する乙女みたい」
亜美「それだっ!」
美希「それなの!」
会議室
律子「ちょっと、あれどうなってるんですか?」
P「俺に訊くなよ……話しただろ。もう律子と知ってることなんてほとんど一緒だ」
律子「たかだか恋をしたくらいで、ああはならないでしょ?」
P「まあまあ、恋の病って言うくらいだし。小鳥さんには初めてのことだろ?」
律子「仕事がやりにくすぎます。どうにかしてください」
P「やりにくいって言うがな……むしろ前よりも効率的に仕事してると思うんだよ」
律子「……それはそうですけど」
P「仕事が早くなって精度も良くなった。いいことじゃないか」
律子「でも分かりやすいところで凄いミスもしてますよ?」
P「まあまあ……しばらくすれば落ち着くと思うよ、多分」
律子「小鳥さん、初めてとは言いますが、どれだけうぶなんですか?限度ってものがあるでしょう?」
P「だから俺に訊くなって」
こんこんっ
小鳥「プロデューサーさん、律子さん、いいですか?」
P「は、はいなんですか、小鳥さん?」
小鳥「先にお昼行ってもいいですか?その、配達するものもありますので……」
P「え、ええ、もちろんですよ。な、律子?」
律子「は、はい。今日はあまり仕事もないようですので、ゆっくり食事してきてくださいね」
小鳥「はい、ありがとうございます」ばたん
P「……」
律子「……」
P「ゆっくりしてもらうのが一番だよな」
律子「プロデューサー、小鳥さんのことは他の子たちに言わないんですか?」
P「やよいと伊織が知ってるからな……いつかはバレるだろう」
P「バレたときにでも話せばいいだろ。プライベートなことだしな」
律子「ちょっとどう転ぶか分からないですよね。最悪、振られたりしたらどうなることやら」
P「おいおい、怖いこと言うなよ……」
亜美「やよいっちおはよー」
やよい「亜美、あずささん、美希さんおはようございます!」
美希「ねえやよい、小鳥のことでちょっと聞きたいの」
やよい「小鳥さんのことですか?」
亜美「もしかしてーピヨちゃんって恋してる?」
やよい「うん、してるよ」
あずさ「え゛」
美希「あはっ、小鳥も人並みに恋するなの」
亜美「えーでも片思いっしょ?」
やよい「この前だけど、小鳥さんが誰かとお昼を食べたって話をしてたかなって」
あずさ「」
亜美「えっ、じゃあもしかしてデートってこと?」
やよい「プロデューサーはそう言ってました」
美希「え、じゃあもしかして片思いじゃなくて両想いなの?」
やよい「さあーどうなんでしょう?私、相手の人見たことないです」
亜美「ふっふっふ。これは面白くなってきましたな」
やよい「亜美、だめだよ。小鳥さんの邪魔なんてしたら怒るよ?」
亜美「じゃ、邪魔なんてしないよっ。おーえんするだけだよ」
美希「やよいがそういうなら見守るの。だからちゃんとみんなには周知するの!」
やよい「美希さん、ちょっぴり聞こえてないみたいなので、耳掃除しましょうか?」
美希「ご、ごめんなさいなの」
美希「あ、ハニー!小鳥に恋人ができたってホントなの?」
P「あー……まだ直接訊いたわけじゃないから、本当かどうかは分からない」
P「ただあんな状態だから、恋人ができたとまではいかなくても、結構親密になってるんじゃないか?」
美希「なーんだ、まだ恋人ができたわけじゃなかったの……あふぅ」
P「おいおい寝るんじゃない……プライベートなことだから、あんまり言いふらすなよ」
亜美「あーい」
P「さてと、美希、あずささん、そろそろ行きますよ」
美希「はーいなの」
あずさ「」
P「あずささん?」
伊織「おつかれさま」
やよい「伊織ちゃん、おはよーっ」
伊織「やよい、お待たせ。あら、なんであずさと亜美がいるの?」
亜美「真美まち〜」
あずさ「」
伊織「あずさ?」
P「なんかさっきから動かないんだよ……理由知らないか?」
亜美「さぁ?」
美希「あふぅ」
伊織「……まあ大丈夫でしょ。行きましょ、やよい」
やよい「はーい」
やよい「伊織ちゃん、どこに行くの?」
伊織「そうね、お弁当箱以外にも見たいものもあるし、まずはデパートにでも行きましょ」
やよい「あう……デパート」
伊織「大丈夫。そんなに高いものなんて買うわけじゃないし。あくまでも見ることが主体ね」
伊織「それに、やよいも少しは流行に慣れていかないとね」
やよい「なんだか難しそうかなーって」
伊織「やよいは折角の休みなんだし、もっと羽を伸ばして、ゆっくりしなさいよ」
やよい「伊織ちゃんといると、それだけで疲れなんて吹き飛んじゃいます!」
伊織「私もやよいから元気をもらってるから、毎日頑張れるのよ、にひひっ」
やよい「えへへ〜。あ、そういえば、今日って何の日か知ってる?」
伊織「秋分の日よね」
やよい「今日はね、昼と夜の時間が一緒なんだよ!」
やよい「だから、今日はいつもよりも一緒にいられるね!」
伊織「(本当は昼の方が長いんだけど……それでもどういう理論かしら)」
やよい「伊織ちゃん、これはどう?」
伊織「だめね、全然可愛くないわ。なんでこんなに無愛想なものばっかりなのよ」
やよい「じゃあこれは?」
伊織「子供っぽすぎやしない?」
やよい「でもうさぎさんだよ?」
伊織「ちょっとそれは……」
やよい「伊織ちゃん、うさぎさん好きだよね?」
伊織「ええ、好きだけど」
やよい「うっうー、これに決定!」
やよい「あ、このコップ可愛いね」
伊織「ひよこのコップね」
やよい「うー……」
伊織「どうしたの?」
やよい「えっと、これ、小鳥さんに似合うかなーって」
伊織「小鳥に?」
やよい「うん、いつも飴とかお菓子とかいっぱい貰ってるから、お返しできないか考えてました」
やよい「コップに少しだけどヒビが入ってたから、そろそろ換え時かなって」
伊織「この前誕生日プレゼントあげたばかりじゃない」
やよい「誕生日プレゼントは私も毎年貰ってるからおあいこだよ?」
伊織「やよいがいいならいいんだけど……きっと小鳥、喜ぶわね」
やよい「えへへ、これくださーい」
伊織「やよい、ちょっと化粧品見てもいい?」
やよい「うん、いいよー」
伊織「やよいがプレゼントするなら、私もね」
伊織「最近、律子が頑張ってるって褒めてたから、少しくらいはいいかしら」
やよい「あの、小鳥さんお化粧道具持ってないの?」
伊織「前に事務所に寝泊りしたときの顔を見たんだけど、酷かったわ」
伊織「一応アイドル事務所の人間なんだから、それくらいはきちんとしてもらわないとね」
やよい「でも、簡単な道具なら置いてるよ?」
伊織「会社の備品ってことだから使ってないみたい。使ったって誰も咎めやしないのに」
やよい「小鳥さん、真面目だね」
伊織「……そうかもね」
伊織「さてと、とりあえず買うものは買ったわ」
やよい「可愛いのが見つかってよかったね!」
伊織「よく考えたら私たち以外はお弁当箱なんて滅多に見ないもの。可愛いのが一番よね」
やよい「うっうー!」
伊織「この後はどうしよっか?」
やよい「ちょっぴりお腹が空いたかなーって」
伊織「じゃあちょっと遅いけど、食事をしてから小物でも見て回りましょ」
やよい「はーい……あれ?」
伊織「どうしたの?」
やよい「あれって小鳥さんかなぁ?」
伊織「小鳥?どこ?」
やよい「あそこのエレベーターの近くにいます」
やよい「えと、男の人と一緒です!
伊織「どこよ……ああ、あれ……ね……え、にい……さん……?」
やよい「手まで繋いで、なんだかとっても幸せそう」
やよい「伊織ちゃん、もしかしたら、あの人が小鳥さんの恋人なのかな?」
やよい「伊織ちゃん?」
伊織「え、え……え……?」
伊織「え……え……うそ……え……」
伊織「なん……こと……え……」
伊織「どう……して……なんで……」
伊織「なん………………」ふらっ
やよい「伊織ちゃん!!」
店員「お、お客様、大丈夫ですか!?」
やよい「伊織ちゃん、しっかりして!!」
やよい「こ、小鳥さん!!小鳥さーーーん!!」
—————
———
——
小鳥「やよいちゃん、一体なにがあったの?」
やよい「わからないんです……」
やよい「伊織ちゃんに小鳥さんがいるよって言ったら、そのまま倒れちゃったんです」
やよい「さっきまであんなに元気だったのに……伊織ちゃん、大丈夫なんでしょうか?」
小鳥「ええ、さっき薫さんにお願いしたから、大丈夫」
やよい「伊織ちゃん……」
小鳥「やよいちゃんのせいじゃないから……そんな顔しないで」
やよい「でもでも……」
小鳥「一応病院で検査もしてくれると思うから、ね?」
やよい「はい……あの、小鳥さんの……その……」
小鳥「あの人なら大丈夫。伊織ちゃんのことをとっても大切にしてる人だから」
やよい「それって……」
小鳥「薫さんは、伊織ちゃんのお兄さんだから」
10月
律子「伊織、何かあったの?」
伊織「なにが?」
律子「ここのところ、ずっと機嫌が悪いわよ」
伊織「そう?」
律子「まだ影響は出てないけど、周囲にもその空気が伝わってくるわ」
律子「悩みがあるなら話してくれる?」
伊織「別に、大したことじゃないわよ」
律子「なら話せるわよね?」
伊織「まだ話したくないわ。自分でもどうしようもなくなったら、そうさせてもらうわ」
律子「……結論は早めに出してね」
律子「……はぁ」
P「律子、伊織のことか?」
律子「はい、わかりますか?」
P「まあそれだけため息ついてればな。まだ機嫌悪そうなのか」
律子「はい、理由を訊いても答えてくれません」
P「伊織は抱え込むタイプだからな。あずささんと亜美は?」
律子「ええ、二人も何も」
P「そうか。なら俺の方でもちょっと探りを入れてみるよ」
律子「すいません、仕事増やしてしまって」
P「こういうことはお互い様だ。俺も律子に頼むことが多いしな」
小鳥「……」
やよい「伊織ちゃん……」
伊織「あら、やよい、どうしたの?」
やよい「あの、伊織ちゃんにお願いがあります」
やよい「小鳥さんと仲直りしてください」
伊織「……別に喧嘩なんてしてないわ」
やよい「だったら、どうしてずっと小鳥さんと話してないんですか?」
伊織「小鳥と話す機会がないだけよ」
やよい「今の伊織ちゃんは小鳥さんを避けてます」
伊織「……気のせいじゃないかしら?」
やよい「小鳥さんが伊織ちゃんのお兄さんと付き合ってることが原因?」
伊織「……そうよ」
やよい「小鳥さんと伊織ちゃんのお兄さん、とっても幸せそうでした」
やよい「私、二人が一緒になったら、もっと幸せになると思います」
やよい「なのに、伊織ちゃんはどうして反対なんですか?」
伊織「……」
やよい「伊織ちゃん!」
伊織「……これは私と小鳥の問題。やよいには……関係ない」
伊織「事務所だって関係ない……プロデューサーや律子にも言わないで」
やよい「伊織ちゃん……」
やよい「小鳥さん!」
小鳥「あら、やよいちゃん、どうしたの?」
やよい「あの、これ、受け取ってください」
小鳥「えっと、どうしたの?」
やよい「小鳥さんが今使ってるコップ、ひびが入ってるから……その、良かったら使ってください!」
小鳥「こんなに可愛いコップ……ありがとう」
やよい「あと……これも、です」
小鳥「化粧道具?」
やよい「はい、伊織ちゃんが小鳥さんのために買ったんです」
小鳥「そう……なんだ」
やよい「伊織ちゃんと仲直り、できないんですか?」
小鳥「……今、考えてるところ、かな」
小鳥「伊織ちゃんの気持ちは知ってるから、あとは私の気持ちを整理したらいいだけ」
小鳥「やよいちゃんには心配かけてごめんね。できるだけ早く結論を出すからね」
小鳥「大丈夫。すぐに伊織ちゃんと仲直りするからね」
やよい「それって、小鳥さんも納得できる答えになりそうですか?」
小鳥「もちろん。やよいちゃんには嘘なんてつきません!」
やよい「あの、お願いします!」
小鳥「うん……」
春香「プロデューサーさん、少し訊いてもいいですか?」
P「ん、なんだ?」
春香「伊織と小鳥さんのことなんですけど」
P「伊織と小鳥さん?二人がどうかしたのか?」
春香「ずっと喧嘩してるみたいなんですけど、どうして何も言わないんですか?」
P「……喧嘩?」
春香「はい」
P「なんのことかわからないんだが……喧嘩なんてしてるのか?」
春香「だって、ここ二、三週間は口きいてないですよ?」
P「そんなはずはないだろ……う?」
春香「も、もしかして、全然気が付いてなかったんですか!?」
P「ちょっと待て。それって本当か?」
春香「プロデューサーさんに嘘なんてつきませんよ!」
P「律子、少し質問していいか?」
律子「はい、なんですか?」
P「小鳥さんと伊織、喧嘩してるのか?」
律子「……何の冗談ですか?」
P「さっき春香に言われたんだがな……伊織と小鳥さん、喧嘩してるらしい」
P「俺だって冗談だと思った。でも、確かに春香の言うとおり、二人って最近全然話してないよな?」
律子「それはそうですよ。竜宮は暇じゃないんですから、ここには中々来れません」
P「でもな、春香が断言してるんだよ」
律子「それは私も気になりますね……小鳥さんが何か言ってた記憶は?」
P「いや、全く。まだ半信半疑なくらいだ。ちょっと訊いてみるよ」
律子「話してくれなかったら?」
P「誰か一人くらいは事情を知ってるやつがいるだろう」
一週間後
P「……zzzzz……zzzzz」
律子「プロデューサー、起きてください」
P「んあ…………んん……」
律子「起きてくださーい!」
P「んん……お、はよう……律子。今何時?」
律子「おはようございます、プロデューサー。今は7時半です」
P「んーそうか……ちょっと寝すぎたか」
律子「またこんなところで泊まって。今週はずっとじゃないですか?」
P「あー気のせい気のせい。昨日はちょっと良い感じに筆が進んでな」
律子「はぁ……体調を壊さない程度にしてくださいよ」
律子「はい、コーヒーです」
P「サンキュ。何かつまめるものってあるか?」
律子「プロデューサーの机の上にクッキーがありますよ」
P「クッキー?春香はもう来てるのか?」
律子「いえ、私は見てませんけど。もしかしたら近くのコンビニに行ったのかもしれません」
P「そうか……ん、小鳥さんもまだ来ていないのか」
律子「今日は休むとの連絡がありました」
P「……最近、頻繁に休むようになってるな」
律子「恋人とデートでもしてるんじゃないですか?」
P「だったら嬉しいんだけどな」
律子「ですよね……」
P「しかし……伊織と小鳥さん、本当に喧嘩してるとはな」
律子「……すいません、私のミスです」
P「俺だって春香に指摘されるまで気が付かなかった。二人揃ってダメダメプロデューサーだ」
律子「それで、プロデューサーの方は何か分かりましたか?」
P「原因も過程も何もわからん。ただ、小鳥さんは自分が悪いみたいなことは呟いてたな」
律子「伊織もですよ。こっちも独り言でした」
P「でも、そんなにつまらないことで喧嘩する二人じゃないんだよなぁ」
P「伊織だって、そこまで小鳥さんのこと嫌いじゃないだろうし」
律子「他の子たちは何か知りませんでしたか?」
P「んーさっぱりだな。美希は二人を心配してたから、もしかしたら何か察していたのかもしれん」
律子「あずささんと亜美も、原因までは」
P「肝心のやよいも何にも気づいてなかったんだよな」
律子「そうでしたか。いよいよ手がかりなしですね」
P「少しでも情報が揃ってから社長に相談と思ったけど、そうは言ってられないか」
律子「そうですね、社長に…………やよいが何も?」
P「ああ、いつもどおりって……あれ?」
律子「美希と同じか、それ以上に伊織を見ているやよいが何も?」
律子「何かに悩んでいるとすら言わなかったんですか?」
P「……あれ、もしかしてやよいに誤魔化された?」
律子「みたいですね。やっぱりもう少し睡眠をとったらいかがですか?」
P「この件が解決したらそうしようか」
P「やよい、ちょっと来てくれー」
やよい「はーい、なんですかー?」
P「やよい、クッキー食べるか?」
やよい「はい、いただきまーす」
P「よし、捕まえた」
やよい「はわっ、捕まっちゃいました!」
P「じゃあこれ」
やよい「とっても美味しいです!」
律子「餌で釣りましたか……」
P「やよい、伊織と小鳥さんについて教えてほしい」
やよい「えと……なんのことですか?」
P「二人が喧嘩してるみたいなんだ。やよいは心当たり、あるんじゃないか?」
やよい「その……前にも言いましたけど、知りません」
P「そうか……やよいは嘘をつくんだな……俺の大切なクッキーを食べたのに」
やよい「あう……」
P「そうだよな……俺なんてやよいに頼りにされないだめプロデューサーだもんな」
やよい「そんなことないです!私はプロデューサーを一番頼りにしています!」
P「でも話してくれないんだよな……」
やよい「ううー……」
P「自信無くしたなー俺、仕事辞めた方がいいなー」
やよい「だめです!辞めないでください!その……言いますから」
律子「(こんな汚い大人になっちゃだめよ……)」
P「できるなら知ってることを全部話してくれ」
やよい「……」
P「頼むよ、俺たちも二人を仲直りさせたいんだ」
やよい「……小鳥さん、伊織ちゃんのお兄さんと付き合ってるんです」
律子「え゛っ」
P「……マジか」
やよい「前に伊織ちゃんとデパートへ買い物に行ったとき、デートしてるところを見ちゃったんです」
やよい「伊織ちゃん、とってもびっくりしてました」
律子「え、ええ……」
P「そりゃ……驚くか」
やよい「でも……伊織ちゃん、小鳥さんを認めないって言ってたんです」
やよい「伊織ちゃんと小鳥さん、二人の問題だからって言われて、私、何にも言えませんでした」
やよい「プロデューサーにも言っちゃだめって言われて……ごめんなさい」
P「やよい、ありがとう。状況が大体飲み込めた」
やよい「黙っててごめんなさい。あの、プロデューサー、辞めないでください!」
P「やよいが素直に話してくれたんだから、辞めないよ」
P「だけど……律子、これはあまりにもプライベートな問題だな」
律子「プロデューサー。私たちだけではこれは対処できません」
やよい「あの……」
P「ん、どうした?」
やよい「伊織ちゃんと小鳥さん、仲直りさせてください」
やよい「あと、小鳥さんが別れちゃうなんてことも絶対に嫌です!」
やよい「私も何でもしますから……プロデューサー、お願いします!」
P「まさか小鳥さんの相手がよりにもよって伊織の兄とは……」
律子「びっくりですよ……頭が一瞬、真っ白になりました」
P「しかし……これはどうしたものか」
律子「伊織は案外甘えん坊ですからね。小鳥さんに兄を取られると思ったんでしょうね」
P「伊織らしいと言えば伊織らしいな」
P「しかし、小鳥さんも難儀なところを攻めるなぁ。伊織の兄なんてまず無理だろ」
律子「もう少しハードルの低い人ならすぐそばにいるんですけどね」
P「そうなのか?」
律子「すいません、間違いでした」
社長室
律子「……という状況です」
P「報告が遅れ、申し訳ありません」
高木「そうか……水瀬君に知られてしまったか」
律子「どういう意味でしょうか」
高木「薫君……水瀬君の兄だがね。彼に音無君を紹介したのは、私だ」
P「お見合いということですか?」
高木「いや、初対面はこの部屋だよ。薫君に相談事があって来てもらった時だ」
高木「一目惚れというわけではないが、6月に音無君がパーティで歌ったときに、彼は音無君に惹かれたそうだ」
高木「その時はまだ音無君だとは気づいていなかったようだが」
高木「その後、ここに電話を掛けてきたときに、音無君が件の人だと気づいた」
高木「あとは食事に誘って……交際が始まったということだ」
高木「その間にもいくつか彼からの相談にも乗っていた」
高木「彼は相当、音無君に惚れ込んでいるよ」
律子「でしたら、伊織が反発する可能性くらい予想できましたよね?」
高木「それでも私は彼と音無君を応援したいと思った……君たちにはすまないと思っている」
高木「それに、すでに薫君は音無君に、プロポーズもしたと言っていた」
律子「え゛っ」
P「も、もうそんなところまで……小鳥さんは受けたんですか?」
高木「まだだろうな。水瀬君とのことが決着するまではしないだろう」
P「でも方針は決まりました」
高木「そうか、どう言った内容かな?」
P「二人の仲がそこまで進んでいる以上、伊織には折れてもらいます」
律子「……大丈夫ですか?」
P「まあ俺なんかが介入したら伊織は激昂して殴ってくるだろうな」
律子「言えてますね」
P「だから、伊織が絶対に逆らえない人を使うまで」
律子「また汚い手を使うつもりですか……」
P「なんとでも言ってくれ」
P「やよい、ちょっといいか?」
やよい「はい、なんでしょーか!」
P「さっき、伊織と小鳥さんのことについて社長と律子と話したんだ」
やよい「……はい」
P「残念だけど、諦めてもらう」
やよい「あの、それって……」
P「ああ、すまん。伊織には小鳥さんと兄との仲を認めてもらうってことだ」
やよい「プロデューサー、そんな大事なところで間違わないでください!」
P「ご、ごめん」
P「で、だ。やよいにも協力してほしい」
やよい「なんでも協力します!」
P「伊織を説得できるか?」
やよい「……難しいです」
やよい「今の伊織ちゃん、誰にも話そうとしてくれません」
P「そうか……」
P「実はな、小鳥さんが765プロを辞めるって話が出ているんだ」
やよい「小鳥さんが……ここを辞めちゃうんですか?」
P「ああ……伊織の最近の不調は全部自分のせいだって言ってな……」
P「俺も律子も引き止めたんだが……ごめん、説得できなかった」
P「小鳥さんには辞めてほしくない。だから、どうしても伊織には納得して二人の仲を認めてほしいんだ」
やよい「……やります!」
やよい「絶対に伊織ちゃんを説得してみせます!」
P「難しいことをお願いしてごめんな」
やよい「プロデューサー、時間をください!」
P「わかった。やよいが出来る限りのことをしてくれ。俺もサポートする」
やよい「はい!」
律子「……変な嘘に私まで巻き込まないでくださいよ」
P「吐きそう……」
律子「悪いものでも食べましたか?」
P「今日だけでやよいに3回も嘘をついた……」
律子「やよいからお願いされたのに、結局やよいに頼ってるんだから……私たち、役立たずもいいところですよね」
P「どうしようもないだろう……律子だってそうだろ?」
律子「恥ずかしい話、まだ頭が全然ついていけてません……」
P「あ、ダメかも……トイレ行ってくる」
律子「どこまでも汚いですね、プロデューサー」
キリがいいので今日はここまでです。
続きは明日投下します。
これは良SS
でもやよいが伊織に敬語使うのが違和感
再開します。
>>123
伊織とのやりとりは敬語とタメ口が半々とどこかで見た気がするので、そちらを採用しています。
お願いしてるときや怒ってるときは敬語、それ以外はタメ語にしようと意識してますが、序盤は粗いです。すいません。
適時修正しつつ投下していきます。
11月
やよい「プロデューサー!」
P「やよいか、どうした?」
やよい「今日、伊織ちゃんと小鳥さんにお話させてください!」
やよい「今日のために、いっぱい考えてきました!」
P「伊織か……今日の伊織は外回りなんだがな。小鳥さんは休みだし」
やよい「それでもお願いします!」
P「伊織の方は律子に頼めば何とかなるか。小鳥さんは……俺が連れて行くよ」
やよい「うっうー、ありがとうございます!」
P「一応訊くけど、これからあるレッスンはどうするんだ?」
やよい「はい、今日は行きません!」
P「ほう、俺に堂々とサボり宣言か」
やよい「私は今日、悪いことをします。だから、気にしません!」
P「分かった。悪い子にはあとでお仕置きしてやる。だから、頼んだ」
やよい「はい!」
伊織「プロデューサーに言われて戻って来たけど……やよい、何の用?」
やよい「伊織ちゃん、捕まえました!」
伊織「やよい?」
やよい「えへへ、はい、今日のお弁当」
伊織「え、今日は会えないって聞いてたから用意してないんだけど……」
やよい「うん、気にしないで食べて!」
伊織「今から?」
やよい「はい!」
伊織「まだお腹空いてないんだけど……どういうこと?」
やよい「食べて!」
伊織「別にいいけど……うん、美味しいわね」
やよい「本当?」
伊織「ええ、本当よ」
やよい「これ、小鳥さんが伊織ちゃんのために作ったお弁当なんだよ」
伊織「……どういう意味?」
やよい「小鳥さんが作ってくれたってことだよ?」
伊織「やよい、私はやよいのことなら何でも分かるわ。明らかに嘘じゃない」
やよい「どうして?」
伊織「今日、小鳥は休みよ。やよいとは会えないわ」
やよい「先にお家に行って、作ってもらいました」
伊織「……これ、見た目も味も、ぜーんぶやよいのもの。他人が真似たってできやしないわ」
伊織「どうしてこんな嘘をつくの?」
やよい「伊織ちゃんは私のこと、信じてくれないんですか?」
伊織「信じるも何も……」
やよい「私、伊織ちゃんの言うことは全部信じます」
やよい「でも、伊織ちゃんが私を信じてくれないのは、とっても残念です」
伊織「……やよい、どういうつもり?」
伊織「どうしてそんなことを言うの?」
やよい「伊織ちゃんこそ、どうしてそんなこと言うんですか?」
やよい「私、伊織ちゃんに疑われて、とっても悲しいです」
伊織「やよい、いい加減に……!」
やよい「伊織ちゃんが信じてくれないから、私、とっても自信がなくなっちゃいました」
やよい「だから、私、アイドル辞めます」
伊織「はぁ!?」
やよい「私のことを信じてくれた大好きな伊織ちゃんはもういません」
やよい「だったら、ここにいたって悲しいだけです」
やよい「ごめんね、伊織ちゃん」
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