魔女「あたしにゃ孫なんていないよ」(172)
魔女(もう朝かい)
魔女(最近は眠った気がしないねぇ)
魔女(歳は取りたくないもんだよ、まったく)
魔女(膝が痛むねぇ)
魔女(とはいえ、使わなけりゃ衰えるばかりだわね)
魔女「ごめんよ」
店主「ば、婆さんあんたかい、驚かせんでくれ」
魔女「あんたが勝手に驚いたんだろう」
店主「で、今日は何が入り用だい?」
魔女「いつも通りだよ。お代の薬だ」
店主「毎度あり」
店主「なあ婆さん、あんたいい加減村に住んだらどうだい?」
魔女「意味が分からないね」
店主「確かにあんたを嫌う連中もいるが、俺はあんたをよく知ってる」
店主「多少頑固者だが、連中が言うような悪い魔女なんかじゃない」
店主「あんたもいつ倒れてもおかしくない歳だろう。せめて人里に……」
魔女「ずいぶん偉そうな口を利くじゃないかい、ええ?」
魔女「あたしがいつあんたに心配してくれなんて頼んだんだい」
魔女「いいから黙って品物を寄こしな、役立たず」
店主「はあ。まったく、頑固ババアが過ぎるぜ」
魔女「遅い。もっと速く歩きな」
ゴーレム「……」 ノソノソ
村娘「ねえ、あれ見てよ」
村人「あの魔女、また変なものを連れて」
村娘「怖いわね」
村人「森に一人で住んでるんだってな」
村娘「何をしてるか分かったもんじゃないわ」
村人「いつか何かしでかすぞ」
魔女(好きに言うがいいさ)
魔女(あたしにゃ関係ない)
魔女(どうせいずれ、みんな死ぬだけさ)
魔女「ふう」
魔女(やっぱり膝が辛いねぇ)
魔女「そこに置いときな」
ゴーレム「……」 ドサッ
魔女「よいせ」 ギィ
魔女(今日はもう外には出ずに、何もせずに過ごそう)
魔女(最近、一日が過ぎるのが早いねぇ)
魔女(起きて、動いて、寝て、起きて、動いて、寝て)
魔女(いつか寝たまま起きなくなる日が来る)
魔女「それでいいのさ、それで」
ザァァァァァァァァァァァァァァ
魔女「ん……」
魔女(ウトウトしてたみたいだねぇ)
魔女(外は雨、か。早めに村へ行ったのは正解だったみたいだねぇ)
魔女「恵みの雨、すべてを洗い流す雨」
魔女「すべては流れるがままに、過ぎるがままに」
コンコン
魔女「ん?」
「どなたか! どなたかいらっしゃいませんかな!」
魔女(嫌な客だね。客は大体嫌な奴さ)
魔女(こんな天気の日に来るのは、最悪の部類に決まってる)
「どなたか! どなたかいらっしゃいませんかな!」
魔女「ああ、わかったよ、出ればいいんだろう!」
魔女「誰だい?」 ガチャ
男「ああ、良かった! 誰も住んでいないのかと!」
魔女「あたしが幽霊に見えるかい?」
男「とんでもない!」
魔女「そうかい。人が住んでるって分かって良かったじゃないか、さっさと消えな」
男「ああ、お待ちください!」
魔女「……なんだい」
男「聞いていただきたいお話があるのです。どうかお邪魔させていただけませんでしょうか?」
魔女「話? あたしにゃないよ」
男「どうかお願いします。私は息子さんの友人でした」
魔女「……息子の?」
男「どうしてもあなたにお聞かせしなければならない話があるのです」
魔女「死んだのかい?」
男「はい、残念ながら」
魔女「……帰っておくれ」
男「いいえ、話はまだあります。お願いします、これは大事な話なのです!」
魔女「わかった。わかったよ。あがりな」
男「ありがとうございます。さあ、来なさい」
少女「……」
魔女「……まあいい、雨が入ってくるから入るならさっさとしておくれ」
男「ええ」
魔女「それで、話ってのはなんだい」
男「その前に、私の紹介をさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
魔女「好きにしな」
男「私は、魔導師協会の役員を務めていた者で、男と申します」
魔女「……協会の回し者か」
男「あなたが協会を嫌っている事は彼からも聞いておりました。私も、今の協会を良くは思っておりません」
魔女「どうでもいいよ、そんな事は」
男「そう、ですね。私の話は今は関係がない」
男「ただ、彼と私が同じ信条を抱いていた同志だった事だけは理解していただきたいのです」
魔女「その信条とやらのおかげで息子は殺されたんだろう?」
男「……なぜ」
魔女「今も昔も変わりゃしないさ。奴らの頭にゃ自分達が偉大な魔法使い様であり続ける事だけしか入っちゃいない」
魔女「改革派のあの子が疎んじられる事なんて、あたしにゃ鼻から分かってたのさ」
男「……」
魔女「で、あんたの話ってのはそんなくだらない事だったのかい? なら帰ってくれないかね」
魔女「そこのお嬢ちゃんも、雨の中悪いがとっとと消えてくれるかい? あたしゃ子供が嫌いなんだよ」
少女「……っ」
男「おやめください」
魔女「おっと、こりゃ悪いねぇ。癇に障ったかい? でもね、あたしゃこういう偏屈ババアなのさ」
魔女「協会が嫌いで、人間が嫌いで、子供が嫌いで、そしてあんたの事も気に食わない」
魔女「もうウンザリしたろう? あたしもさ。消えな、今すぐにね」
男「……本当に、あいつに聞いた通りの人だ。だからこそ、私は話を続けなければならない」
魔女「……? 何を言ってるんだい、あんたは。もういいからこの家から」
男「出て行きません。この子をあなたに託すまでは」
魔女「なんだって?」
男「紹介が遅れて申し訳ありません。この娘は、あなたの息子さんの残した一人娘なのです」
魔女「ひ、一人娘?」
男「ほら、御挨拶なさい」
少女「……」
男「ああ、申し訳ありません。この子は少々、人に心を開かない所がありまして」
魔女「ま、待っとくれ! あたしにゃ孫なんていないよ!」
男「目の前にいるではありませんか」
魔女「どこにそんな証拠があるんだい!」
男「逆にお聞きいたしますが、いない証拠がどこにあるのです?」
魔女「そ、それは」
男「息子さんと最後にお会いしたのは、結婚の報告をしに来た時だそうですね」
魔女「それがなんだって言うんだい!」
男「子供の一人や二人、生まれていて当然の時が過ぎているのですよ、もう」
魔女「あんたがあたしを騙してないって誰に言えるんだい!」
少女「……もう、いい」
魔女「……?」
少女「私、帰る」
男「待ちなさい、この方も決して君を嫌ってこう言っているわけでは」
少女「私、一人でいい。おじさんも家に帰って」
男「そんなわけにはいかないよ。私は君のお父さんから君の事を頼まれたんだ」
少女「もう大丈夫だから」
魔女「ずいぶん偉そうなことを言うじゃないか、ええ?」
少女「……別に」
魔女「別になんだい? あんた一人で何ができるんだい? ここまでだってそこのに連れてきて貰ったんだろう?」
少女「私が頼んだわけじゃない!」
魔女「ははは! 頼んだわけじゃない? そいつがいなきゃどうせあんたは今頃野垂れ死んでたろうさ!」
少女「……!」
男「おやめください! もう少しこの子の気持ちを考えてあげられないのですか!?」
魔女「こんな自分一人で生きてるつもりのクソガキの気持ちなんぞ知るわけがないだろう!」
少女「なんで、なんでそこまで言われなきゃいけないの!?」
魔女「あんたが甘ったれてるからだよ! 何もできないガキの分際で一丁前の口利くんじゃないよ!」
少女「……っ」
男「いい加減にしていただきたい」
魔女「ほう?」
男「私は友人の最後の望みを叶えるためにここに来たのです」
男「あなたに友人の大切な娘を罵倒させるためではない」
男「私には、あなたの下でこの子が幸せになれる未来がとても信じられそうもない」
魔女「で、どうするんだい?」
男「私が引き取って育てます」
少女「え……」
魔女「ああそうかい、是非ともそうしてくれると助かるね」
男「ええ、あなたに囃し立てられなくともそうしますとも」
魔女「だとさ? 良かったじゃないかい、せいぜい甘やかされて育つといいさ」
少女「私は……」
男「雨も止んできたようだ。行こう、これ以上ここにいても意味はない」
魔女「そうだとも、さっさと行っちまいな。そして二度とここに顔を出すんじゃないよ」
男「それこそ余計なお世話ですよ。誰がこんな所に……」
少女「私、ここに残る」
男「な、なんだって?」
少女「ここがいい」
魔女「ほう? そんなにここがいいのかい?」
少女「……」
男「……私とでは嫌かい?」
少女「嫌じゃないけど、でも、私ここがいいの」
魔女「はははっ! 見事に振られちまったねぇ。いいよ、面白いじゃないか。ここに住むといいさ」
男「なんですと? さきほどは散々疑っていたではありませんか」
魔女「別にその子が誰の子だっていいのさ。見なよ、実にいじめ甲斐がありそうじゃないか」
少女「おじさん。私大丈夫だから」
男「……本当にいいのかい?」
少女「うん」
男「分かった、君の意志を尊重しよう。……言うだけ無駄でしょうが、この子の事をよろしくお願いいたします」
魔女「ああ、せいぜいこき使ってやるとするさ」
男「では、私はこれで。……元気にやりなさい。何か困った事があったらいつでも私を訪ねて来るんだよ」
少女「ばいばい、おじさん」
魔女「薄情な奴だねぇ、こんな所にあんたを置き去りにするなんて」
少女「私、出て行くから」
魔女「なるほど、出て行ってそれからどうするんだい」
少女「別に、あなたには関係ない」
魔女「はあ。本当に鬱陶しいガキだねぇ。今すぐ殺してやろうか?」
少女「できもしない癖に」
魔女「どうしてそう思うのかお聞かせ願いたいねぇ」
少女「あなたみたいなお婆さん、私にだってどうとでもできるわ」
魔女「ならしてみるがいいさ。ほら、どうしたんだい? それだけ大口叩いて今更怖気づいたのかい?」
少女「……っ、この!」
魔女「我が意に従え、大地の精霊よ!」
少女「えっ、きゃっ!」 ドザッ
魔女「はっはっはっ! どうしたんだい、あたしをどうとでもできるんだろう?」
少女「な、何これ? は、外れない! なんで床から蔦が!」
魔女「魔法使いの子供の癖に、魔法の魔の字も知らないのかい? これはお笑い草だねぇ」
少女「ち、違う! こんなの魔法じゃない!」
魔女「どこがだい?」
少女「魔法は、もっとたくさんの呪文で火や雷を操ったり……」
魔女「炎の精霊よ、舞い踊れ!」 ゴォォォォォォ
少女「ひっ!?」
魔女「今度は雷を操れば満足するのかい?」
少女「な、なんで、なんでそんな短い詠唱で、こんな凄い炎が出るの?」
魔女「精霊の声が聞こえないあんたら紛い物と一緒にされても困るね。あたしは魔女なのさ、本物のね」
少女「……魔女」
魔女「お分かりかい? あんたはその本物の魔女に喧嘩を売ったんだ。どんな目に遭っても文句は言えないねぇ」
少女「あ、う……」
魔女「一人で生きるなんて大口叩いたんだ、死ぬ覚悟くらいできてるんだろう」
少女「……」
魔女「行きな」 シュル
少女「え……」
魔女「今から急いで追いかければ、あの男にもすぐに追いつくだろうさ」
魔女「まさか本気にしたのかい? あたしがあんたを殺すって? あんたみたいなガキ殺して何の得があるんだい」
魔女「分かったのならさっさと消えな。あたしは人といるのが嫌いなんだ」
少女「……私を、ここに置いてください」
魔女「はあ? 人の話を聞いてなかったのかい? あたしの一人の時間を邪魔しないどくれ」
少女「私が、間違ってました。私は、一人じゃまだ生きていけません」
少女「だから、私に魔法を教えてください。一人で生きていけるように」
魔女「やだね。誰があんたなんかに教えるもんか」
少女「お願いします」
魔女「いやだって言ってるだろ。別にいいじゃないか、あの男に甘やかされて育てば」
少女「おじさんは、いい人だから」
少女「きっと大事にしてくれるから」
少女「だから、迷惑掛けたくない」
魔女「はあ。わかったよ、好きにしな」
少女「本当?」
魔女「条件がいくつかあるがね」
少女「条、件?」
魔女「1つ。あたしに口答えするな、黙って従え。あたしは他人に煩わされるのが死ぬほど嫌いなんだ」
魔女「2つ。あたしがいいと言うまで勝手に魔法を使うな。半端な魔法を使われたら教えるあたしの恥だ」
魔女「3つ。あたしに余計な干渉をするな。あたしはあんたのママでもなければ保護者でもない。以上だ」
少女「……わかった」
魔女「よし、いい子だ。その調子でいれば住む場所くらいは貸してやる。二階の部屋を使いな」
少女「あの」
魔女「なんだい?」
少女「あなたの事はなんて呼べばいいの?」
魔女「……そうだね、先生とでも呼びな」
少女「はい、先生」
魔女(先生、か)
魔女(最後にそう呼ばれたのは、いつだったかねぇ)
魔女(まあ、どうでもいいさね)
魔女(今のあたしがするべき事は)
ドシンッ ドシンッ
魔女「うるさいよ! 少しは静かにできないのかい!」
魔女(あの馬鹿娘の根性を叩き直す事だわね)
少女「げほっ」
少女(酷い埃)
少女「窓、開けなきゃ」 ガタ
少女(ずっと使われてないみたい)
少女「おじさん、大丈夫かな」
少女(私は大丈夫。心配しなくても大丈夫)
少女(一人で生きていくから)
少女「あ」
少女「このベッド、すごいふかふか」
少女「……」 ムズムズ
少女「えいっ」 ポフ ポフ
「うるさいよ! 少しは静かにできないのかい!」
少女(……いいよ、すぐに出て行くから)
少女(どうせあの人も同じ、他の人と同じで嘘だらけで自分勝手)
少女(だから私も、せいぜいあの人を利用してやるんだから)
魔女「夕食にするよ」
少女「……」
魔女「パンと豆のスープだけじゃ不満があるかい? あるなら出て行くといいさ」
少女「別に……」
魔女「別にと来たもんだ。はっ、ならさっさと座りな。……今日の恵みに感謝を」
少女「今日の恵みに感謝を」
少女「……」 ゴクッ モグモグッ
魔女(ふん、マナーはキチンと躾けられてるようだね)
魔女「もう少し美味しそうに食べられないのかい。辛気臭いったらありゃしない」
少女「……自分だって」
魔女「ああ? 今なんか言ったかい?」
少女「なんでもないです、先生」 モグッ
魔女「食い終わったらさっさと上に行って寝な。うちは無駄な油を使うような贅沢はしないんだ」
少女「……」 スタスタ
魔女「……ふん」 ギィ
魔女(さて、これからどうするかね)
魔女(ま、なるようになるか。すべては流れるがままに、過ぎるがままに)
魔女(それにしても、あの馬鹿息子。親より先に死ぬ奴があるかい)
魔女(おまけに、子供まで残して逝くなんて)
魔女「……」
魔女「なぁに、死も生もただの自然の営みさ」
魔女「あたしもさっさと寝るとするかね」 ギィ
魔女「さっさと起きな!」
少女「んんぅ……」
魔女「いつまでもダラダラ寝てるんじゃないよ! もう日は登ってるんだよ!」
少女「うるさい……」
魔女「ああん? 今のは口答えかい? 誰が口答えしていいって言ったんだい?」
少女「……今起きるから」
魔女「風の精霊よ、このアホなガキを叩き起こしてやっとくれ!」 ブオオオオオオッ
少女「ぎゃー!?」
魔女「よし、これで目も覚めたね? あたしゃ先に下に降りとるよ」 スタスタ
少女「……クソババア」
魔女「裏に井戸がある。顔を洗っといで」
少女「……はい」
魔女「それが終わったら魔法の基礎を叩き込んでやる」
少女「すぐ行ってくる!」 スタスタ
魔女(あれは魔法を便利な道具とでも思っとるんだろうねぇ)
魔女(さぁて、どうやってその勘違いを正してやろうかねぇ)
少女「顔洗い、終わりました!」
魔女「そうかい、なら井戸の隣に切り株があったろう」
少女「はい!」
魔女「その切り株に座りな。自分が一番楽な姿勢でいい。後は、そうだね、目でも瞑って数でも数えてな」
少女「それだけ、ですか? 他には何もしないんですか?」
魔女「そりゃ口答えかい?」
少女「……質問です」
魔女「質問と来たかい。そりゃご立派だねぇ。ならあたしの答えはこうだ、『黙って言われた通りにしな、このクソガキ』」
少女「……」 スタスタ
魔女「あたしがいいって言うまでそうしてな」
魔女(なんて言われて、素直にやる玉でもないだろうね)
魔女(中身はガキの癖に、どうしてああも頑ななのかねぇ)
魔女(さて、そろそろ様子を見に行くかね。そうだね、わざと足音でも立ててやろうか)
ガサッ
魔女「調子はどうだい?」
少女「……普通です」
魔女「普通ねぇ。で、いくつ数えたんだい?」
少女「……1000、くらい」
魔女「嘘を吐くならもう少し上手く吐くんだね」 ゴツッ
少女「痛っ! 何するの!?」
魔女「朝飯にするよ。さっさと来な」
少女「……っ」
魔女「さてと。朝食も済んだ事だし出掛けるよ、付いてきな」
少女「はい先生」
魔女「あんたに言ったんじゃないよ」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「え!? こ、この子ゴーレム!?」
魔女「それ以外の何に見えるんだい」
少女「で、でもこんな小柄なゴーレム、見た事ない」
魔女「図体だけデカいのじゃあ邪魔にしかならないだろう。騒いでないでさっさと行くよ」
ゴーレム「……」 ノソノソ
店主「おや? 婆さん、二日連続とは珍しいな!」
魔女「あたしがいつ来ようがあたしの勝手だろう」
店主「そりゃそうだが。ん、そっちの女の子は誰だい?」
少女「……」
魔女「あたしの弟子さ。生意気な事ばかり抜かすもんだから根性叩き直してやってる所さ」
店主「へえ、そりゃ大変だな」
魔女「そうだろう?」
店主「ああ、こんな性格の悪い婆さんの相手をさせられてなぁ」
少女「くすっ」
魔女「あんた、少し痛い目に遭わせてやろうかい?」
店主「じょ、冗談だよ、勘弁してくれ!」
魔女「ふん」
店主「で、今日は何の用なんだい? その子の紹介に来ただけってわけじゃないだろ?」
魔女「このバカ弟子がろくな荷物もなしで転がり込んで来たんでね、見繕ってやっとくれ」
少女「え?」
店主「生活用品一式って事でいいのかい?」
魔女「ああ」
少女「ちょ、ちょっと待って、私そんな」
魔女「あんたは黙ってな!」
店主「まあまあ、そんな怒鳴らなくてもいいだろ?」
魔女「これはあたしのメンツの問題だよ。弟子に取る以上はまともな暮らしくらいさせるのは務めだろう」
店主「おっけーおっけー、これ以上口出しはしないよ。そうだな、支払いは少し注文を付けていいかい?」
魔女「勝手にしな」
店主「実は、女房に子供ができたみたいなんだ」
魔女「そりゃめでたいねぇ。で、誰の子だい?」
店主「この世界で一番女房を幸せにしてやれる男の子供さ」
魔女「はん、ずいぶん自信がおありな事だ」
店主「そう誓ったから一緒にいるのさ。でも女房はあんたも知っての通り、体が強くないんでね」
魔女「今何ヶ月だい?」
店主「2ヶ月ってとこか」
魔女「産む気かい? なら保証はできかねるよ」
店主「覚悟の上さ」
魔女「いいだろう。産まれるまで面倒見てやるよ」
店主「本当かい! ありがとう、あんたが付いててくれれば希望が持てるよ!」
魔女「貰うもんは貰ってくがね」
店主「金でどうにかなるならいくらでも払うさ」
魔女「そりゃ景気の良いことだわね」
魔女「二週間分ずつ配合を変えて渡す。最初の分は明後日だ。それでいいね?」
店主「もちろんさ。よろしく頼むよ、婆さん」
店主「そうだ、君には砂糖菓子をやろう」 ジャラ
少女「い、いいです」
店主「はは、遠慮しなくていいよ。はい、それじゃまた明後日」
魔女「行くよ」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「あ……」
店主「ん?」
少女「……っ」 スタスタ
村人「また魔女が来てる」
村娘「子供を連れてるわ」
村人「どこから連れて来たんだか」
村娘「生贄にでもする気かしら」
村人「森の魔女め」
少女「ねえ」
魔女「黙って歩きな」
少女「……」
ゴーレム「……」 ノソノソ
魔女「ふう」
少女「もう疲れたの?」
魔女「あんたの何倍も生きてるもんでね、草木が腐り枯れるのと同じさ」
少女「年老いてるんだ」
魔女「ああ、その通りさ」
少女「……怒らないの?」
魔女「怒る必要がどこにあるんだい? 草木は枯れる、人は年老いる。当たり前の事だろう」
少女「分からない」
魔女「嫌でも分かる日は来る。それが生きるって事さ」
少女「そんなの、おかしい」
魔女「おかしい事なんて何一つない。すべてはなるがままだ」
魔女「あんたにもいずれ分かる時が来るだろうさ」
ゴーレム「……」 ドサッ
魔女「さて、あんたにはこの薬草と同じ物を探してきてもらう」
少女「薬草? どうして?」
魔女「口答えするんじゃないよ」 ゴツッ
少女「痛っ! このクソバ……」
魔女「ん?」
少女「……なんでもありません」
魔女「この森は薬草が豊富でね、必要なものは大体手に入る。さあ、頑張って探してきな」
少女「……はい」
魔女(とはいえ、さすがに子供一人で探させるには安全とは言い難いねぇ)
魔女「ゴーレム、この子のお守りをしてきな」
少女「……お守りなんていらない」
ゴーレム「……」 ノソノソ
魔女「この森にはたまに狼が出るんだよ。山向こうの狼が群れをはぐれてやってくるのさ」
少女「そ、それくらい平気」
魔女「あら、そうかい? 少し前にも狩人が一人食い殺されてるんだがねぇ」
少女「……行ってきます」 スタスタ
ゴーレム「……」 ノソノソ
魔女「ああ、気を付けておゆき」
少女(薬草、これと同じ薬草)
少女「……こんなの、意味ない」
少女(何が弟子よ、嘘つき)
少女(ただの使い走りじゃない)
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「来ないでよ」 スタスタ
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女(邪魔)
少女(あのクソババアの言いなり人形)
少女「そうだ!」
少女「あははは!」
ゴーレム「……」
少女「眉毛はもっと太くして、ぷ、ぷぷ!」
少女「ふ、ふふ! お似合いね!」
ゴーレム「……」
少女「……やりすぎちゃったかな」
少女「あなたは悪くないのにね」
少女「ごめんね、すぐに消すから」 ゴシゴシ
少女「全然見つからない」
少女「本当にあるのかな、これ」
少女「もう疲れちゃった」
ゴーレム「……」
少女「あなたは疲れなくていいね」
少女「……」
少女「ん」 ノシッ
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「うわっ! す、ストップ!」
ゴーレム「……」 ピタッ
少女「え? ……ゆ、ゆっくり歩いて」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「ふふ、あなたお利口じゃない!」
魔女(そろそろ日が暮れる頃だわね)
魔女(あまり遅いようなら探さきゃならないけど、どうだろうねぇ)
少女「ただいま!」
魔女「おや、ずいぶん元気じゃないか。で、どうだったんだい?」
少女「これでどう?」
魔女「ふむ」
少女「この子と私の二人で探したのよ? すごいでしょ?」
ゴーレム「……」
魔女「これとこれ、それにこれ。……他は全部違うねぇ」
少女「え、ええ!? ちゃんとよく見て!」
魔女「あたしが何十年この森に住んでると思ってるんだい」
少女「でも」
魔女「これは葉の形が違う。これは色と葉脈の形が違う。別の草なんだよ」
魔女「とはいえ、上出来だ」
少女「え?」
魔女「なんだい、その驚いた顔が」
少女「……先生が誉めるなんて」
魔女「あたしだって人くらい誉めるさ。あんたに褒める所が全然ないってだけでね」
少女「……」
魔女「何か文句がおありかい?」
少女「い、い、え!」
魔女「なら結構、2階の片付けでもしてきな」
少女「……あの」
魔女「まだ何か用かい? あたしは薬作りで忙しいんだがね」
少女「ゴーレムくん、上に連れて行っていい?」
魔女「はあ。ゴーレム」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「あ、ありがと」 スタスタ
魔女「ありがとう、ね」
魔女(ようやく第一歩って所かい。まだお人形遊びから離れられない年頃って事かねぇ)
魔女「いや」
魔女(それだけ根が深いっていう事かねぇ)
魔女「……精霊よ、どうか幸薄いあの子に御加護を」
少女「ベーコンスープ……」
魔女「黙って食べな」
少女「……」 ゴクッ
少女「ぎゃー!?」
魔女「あんたも学習しないねぇ」
少女「クソババア!」
魔女「とっとと支度しな、クソガキ」
魔女「数字は?」
少女「……700までは数えた」
魔女「嘘じゃないようだね。だが少なすぎる」 ゴツッ
少女「痛っ!?」
魔女「薬が完成した。届けて来な」
少女「いつになったら魔法を教えてくれるの」
魔女「口答えは許さない。そう言ったはずだよ」
少女「約束が違う」
魔女「どこが違うのか言ってごらんよ、ええ? 素人のあんたが魔女のあたしに何が言えるって言うんだい?」
魔女「それとも、この家を出て行って野垂れ死ぬかい? そうしたいのならいつでもするがいいさ」
魔女「止めやしないよ。せいぜいあんたの死体を指差して笑ってやるさ」
少女「この……っ」
魔女「ああん? 今何か言ったかい?」
少女「……届ければいいんでしょ!」
魔女「ふん、最初から素直にそう言っとけばいいのさ。ほらさっさと行きな」
少女「クソババア! クソババア! クソババア!」
少女(騙された。騙された。騙された)
少女「……別に」
少女(別に最初から信じてなかった)
少女(それに、私だって少しなら魔法が使える)
少女「何か秘密があるんだ」
少女(それが分かるまで、まだあの家にいる)
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「遅れてるわよ。ほら、急いで」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「もう、しょうがないんだから」
少女「こん、にちは」
店主「ん? ああ、君かい! もしかして今日は婆さんの代理?」
少女「この薬、渡すようにって」
店主「良かった! ああ、ありがとう!」
少女「失礼、します」
店主「急ぎかい?」
少女「……? いえ、別に」
店主「なら家に来ないか? 今日は元々婆さんが来たら店を閉めるつもりだったんだ」
少女「え? で、でも」
店主「そうだ、昼食にしようか。食べ盛りの君には婆さんの所じゃ食べ足りないだろ? 婆さん、素直じゃないからな」
少女「あの」
店主「よし! そうと決まれば善は急げだな! さっさと閉めちまおう!」
少女(私、行くって言ってないのに)
店主「実は店のすぐ裏が自宅でね」
嫁「あら、可愛い女の子ね。どこの子?」
店主「ほら、話したろ? 婆さんの所に来たっていう弟子の」
嫁「え? この子が?」
少女「……」
店主「な? 言ったろ? あの婆さんとは似ても似つかない素直な子だって」
嫁「本当ね。てっきりあのクソババアみたいなクソガキかと思ったわ」
少女「ぶっ、げほげほっ!」
嫁「あらごめんなさいね、私ったら。だってあのクソババアったら本当に酷いのよ。うちの亭主の事を散々罵って」
店主「あれは婆さんなりの挨拶なんだよ、気にするなって言ってるだろ?」
嫁「気にするわよ! 自分の亭主を馬鹿にされて怒らない女房がどこにいるのよ!」
店主「落ち着けよ。お腹に悪いだろ」
嫁「それもそうね。……すぅ、はぁ……それで、お客さんって事でいいのかしら?」
店主「ああ」
嫁「それじゃご飯の準備するわね」 スタスタ
嫁「天の恵みに感謝を」
店主「感謝を」
少女「……あの」
店主「ん? なんだい?」
嫁「もしかして、そっちの子にも何かあげた方がよかったのかしら?」
ゴーレム「……」
少女「い、いえ。あの、本当に食べていいの?」
店主「ああ。婆さんには普段から世話になってるしね」
嫁「世話させておけばいいのよ、あんなクソババア」
店主「はは。ま、あれで悪い人じゃないんだよ、あの人もね」
少女「……私は、そうは思わないけど」
嫁「でしょ? この人ったらいつもあのクソババアを庇うのよ」
店主「あのな、あの人がいなきゃお前今頃どうなってたか分からないんだぞ」
嫁「関係ないわよ、そんなの」
少女「何かあったんですか?」
店主「あー、嫁は元々こっちの人間じゃないんだ」
店主「街の方に住んでいてね、あまり空気が合わなくて病みがちでね」
店主「俺がちょっとした商店の奉公人をやっていた頃に出会って、嫁を連れて戻って来たってわけさ」
嫁「猛アピールされたのよ。結婚してくれなきゃ死んでやるなんて言ってたかしら?」
店主「そこまでは言ってないさ。君が隣にいない人生なんて何の意味もないって程度だよ」
少女「仲良し、ですね」
嫁「あら。私はいつでも別れていいと思ってるのよ?」
店主「俺以上の男がいるならいつでも別れていいと思ってるさ」
嫁「なかなか見つからないから仕方がなく一緒にいてあげてるって事」
少女「ふふっ」
店主「おい、笑われちまったぞ」
嫁「あなたが馬鹿な事ばかり言うからよ、もう」
店主「と、そろそろ食べちまおうぜ。せっかくの料理が冷めちまう」
少女「はい、いただきます」
嫁「また遊びにいらっしゃい」
少女「でも、あの」
店主「どうせなら婆さんも一緒に連れて来て仲直りさせてくれよ」
嫁「絶対に連れて来ないでね?」
少女「……はい、さようなら」
ゴーレム「……」 ノソノソ
村人「おい見ろよ」
村娘「生贄の子だわ」
村人「魔女の弟子だって噂だぜ」
村娘「弟子?」
村人「あの子供も魔女って事さ」
村娘「気味が悪いわ」
少女(親切な人なんて、ほんの少しだけ)
少女(おじさんと、あの二人くらいなもの)
少女(勘違いしちゃいけない)
村人「せっ!」 ヒュッ
少女「え?」
ゴーレム「……」 ガシッ
少女「今の、石……」
村人「ちっ」
村娘「行きましょ」
村人「ああ」
ゴーレム「……」 ゴロッ
少女「……ありがとね」
少女(何も信じちゃいけない)
少女(誰も信じちゃいけない)
少女(一人で生きていかなきゃ、いけない)
魔女「おや、遅かったじゃないか。どこで道草食ってたんだい?」
少女「……魔法」
魔女「魔法がなんだい?」
少女「教えてください」
魔女「また口答えかい? あんたはそればっかりだねぇ」
少女「教えてよ」
魔女「……今のあんたに教える魔法はない」
少女「なんで!?」
魔女「あんたに精霊の声が聞こえるかい? 聞こえないだろう?」
魔女「物事を捻じ伏せるために力を欲しがるような輩に何を教えろって言うんだい?」
少女「私はただ一人で生きていきたいだけ! それのどこが悪いの!?」
魔女「今のあんたに話しても分かりゃしないよ。だが本当は誰でも知ってる事さ。自分で考えな」
少女「……嘘つき」
少女「何が約束よ! 自分の都合だけ押し付けて! 嘘つき!」 タッタッタッ
魔女「……」
魔女(もうじき日が落ちるねぇ)
魔女(あの子は出て行ったまま帰って来ない)
魔女(ゴーレムが一緒にいるとはいえ、安全とは言えないけどね)
魔女「そりゃ、人間は結局一人さ。でもね」
魔女「本当に一人きりで生きていける存在なんて、どこにもいないのさ」
魔女(それはあんた自身が気付かなきゃいけないんだよ)
魔女「……」 ギィ
少女「ここ、どこだろ」
少女(暗い)
少女(何も見えない)
少女「……疲れた」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「休もっか」
ゴーレム「……」
少女「風、寒いね」
少女(私、なんでこんな所にいるんだろ)
少女「パパ」
少女(パパはもういない)
少女(ママの顔は覚えてない)
少女(……おじさんの子供になってたら)
少女(おじさんがパパになってたら)
少女「……やだな」
少女(だって、パパはパパしかいないもの) ギュッ
ゴーレム「……」
少女「このまま死んじゃったら、パパに会えるかな」
少女「それもいいよね。どうせ、一人だもん」
少女「……お腹空いたな」
少女「あ、これ」
少女(前に頼まれた薬草)
少女「……薬草なら食べても大丈夫だよね」
少女(私ってば賢いわ)
少女「えぅっ!?」
少女「に、苦っ、苦っ!」
少女「うっ、うっ!」
少女(こんな酷いの食べられない!)
少女「そうだ!」
少女(私だって魔法が使えるんだ!)
少女「詠唱は確か……」
少女「……汝、偉大なる万物の祖」
少女「悠久に揺蕩いし素、大地を巡りゆく血」
少女「風止まず、波絶えず、然れど天仰ぐ子らの嘆き聞き届けよ」
少女「汝はあまねく生命の止まり木にして終焉を告げる者」
少女「哀れな子らに汝の抱擁を与えん事を」
少女「……えと」
少女(多分これで大丈夫、だよね)
少女「精霊よ、舞い踊れ!」 ボッ
少女「……これは失敗、だよね」
ザワッ
少女「え?」
魔女「……森が騒いどるな」
魔女「あの馬鹿娘が」
ザザザッ ザザザッ ザザザッ
少女「な、何?」
少女(急に風が)
ザザザッ ザザザッ ザザザッ
少女「な、何なの」 ギュッ
ゴーレム「……」
ザザッ ザッ ザッ
少女「治、まった?」
少女(今の、何だったんだろう)
ゴーレム「……」 ダダッ
少女「きゃっ!?」
狼「ガウゥッ!!」 ガリッ
ゴーレム「……」 ゴッ
少女(お、狼!?)
少女「あ、あ……」
狼の瞳が闇の中に一際大きく見えると、少女の目には追い切れない俊敏さで狼は飛び掛かりました。
迫る狼の体躯は闇に膨れ上がり、死そのものの輪郭さえ少女には感じられましたが、
次の瞬間、狼の体は少女の脇へ逸れてゆきました。
狼の爪の一撃に傷付きながらも、無言のゴーレムは戦意を萎えさせなかったのです。
その小さな騎士は狼の身体にしがみつき、振り落とされそうになりつつ必死に戦いました。
少女は何もできませんでした。
1匹と1体の戦いが終わり、狼が逃げてゆくまで。
少女はずっと何もできませんでした。
魔女(さて、あの馬鹿娘をどう叱るべきかねぇ)
魔女(やれやれ、面倒臭い事だよまったく)
魔女(と、あれだね)
魔女「おい、そこの馬鹿娘。あたしは言ったはずだがねぇ、あたしがいいと言うまで魔法を使うなって」
魔女「おかげで森の精霊達がざわめいてるじゃないか。あんたみたいな半端者が何を勝手に……」
少女「……かないの」
魔女「ああん?」
少女「うご、かないの……ゴーレムくんが、動かないの……」
少女「わ、私を守って、狼と、戦って……う、動かなく、なっちゃったの……」 ポタポタ
少女「な、なんでもするから! もうワガママ言わないから! だから助けて、この子を助けて!」
魔女「……やれやれ、本当に面倒臭い子だよ」
魔女「ゴーレムってのは精霊の一部が宿った物質に過ぎないんだよ」 スッ
魔女「多少肉体が壊れた所で、元になった物質さえあればいくらでも修復はできるのさ」 スッ
魔女「このゴーレムの場合は土だ。どこにでもある物質で作られている分だけ脆いが、治すのも容易い」 スッ
魔女「大地の精霊よ、戻りたまえ」
ゴーレム「……」 ノソ
少女「ゴーレムくん!」 ギュッ
少女「良かった……本当に良かった……」 スリスリ
魔女「だからそいつは……ああ、もう好きにしな」
少女「……ありがと」
魔女「それはあたしに言ってるのかい?」
少女「うん」
魔女「あたしはただ精霊に語りかけただけだよ。何もしちゃいない」
少女「……精霊に」
魔女「それ以外何もしちゃいないのさ」
少女「あの」
魔女「なんだい?」
少女「ゴーレムくんには、精霊が入ってるの?」
魔女「精霊の一部が、だ。精霊そのものが物質としての形を持つなんてのは、そうある事じゃない」
少女「でも、ゴーレムくんを動かしてるのは精霊なんだよね」
魔女「まあ、そうなるかね」
少女「……ああ、そっか」
少女「私は、ゴーレムくんがいなきゃ狼に殺されてて」
少女「ゴーレムくんは、先生がいなきゃ治らなくて」
少女「ううん。すべて、そうなんだ」
少女「きっと、そうなんだ」
魔女「……そいつをよく覚えておきな。さあ、帰るよ」
少女「うん。……この森の星空って、こんなに綺麗だったんだね」
少女「おはようございます、先生」
魔女「おや、今日は早起きじゃないか」
少女「昨日はすぐに寝ちゃったから」
少女「それと、おはようゴーレムくん」
ゴーレム「……」
魔女「さっさと顔洗って来な」
少女「顔を洗ったら黙って座ってればいいんでしょ?」
魔女「よく分かってるじゃないか。ああ、数はもう数えなくていいよ」
少女「え、どうして?」
魔女「それは口答えかい? 質問かい?」
少女「ううん、ただ知りたかっただけ」
魔女「ふん。必要がないからだよ。あんたは何も考えずに座っていればいい」
少女「はーい」
少女「ん」 バシャ
少女「……」 スッ
少女(何も考えずに座っているだけでいい、か)
少女(うん、そうしよう)
少女「……」
少女「……」
少女(こうしていると)
少女(色々な物を感じる)
少女(風なんて全然吹いてないのに、風の音がする)
少女(匂いなんてないのに、太陽の匂いがする)
少女(何よりも、私の心臓が響いてる)
少女「……うん」
魔女「調子はどうだい?」
少女「……良いみたい」
魔女「騒がしいだろう」
少女「とっても」
魔女「気付くか気付かないかの違いでしかないのさ」
少女「うん。こんなにすぐ側にいたんだ」
魔女「精霊ってやつはね、自分を愛してくれる奴には優しいのさ」
少女「最初から教えてくれればいいのに」
魔女「はっ、言った所であんたみたいなクソガキが人の話を聞くもんかい」
少女「そっちだってクソババアの癖に」
魔女「言ってな。あたしゃ後50年は生きる予定なんだからね」
少女「馬鹿みたい。そんなの無理に決まってるじゃない」
魔女「分かるもんかい、先の事なんてね」
魔女「そうだね、これからしばらくは精霊と話す事に慣れな」
少女「慣れるって?」
魔女「息をするように精霊を感じて、声に出さずに精霊と話すのさ」
魔女「あんたはようやく精霊の存在に気付いたってだけなのさ」
魔女「無数の精霊の無数の声に耳を傾けるんだよ」
少女「できる、かな」
魔女「ようは慣れさ。そうなれば精霊は応えてくれる」
少女「友達みたいに?」
魔女「ああ、そうさ」
少女「なりたい。私、そうなりたい!」
魔女「なればいいだろう?」
少女「なれる?」
魔女「なれないわけがないだろう。あんたは自分が誰の孫だと思ってるんだい?」
少女「……あははっ、うん、そうよね!」
店主「おっ、二週間ぶりだね!」
少女「こんにちは、店主さん。砂糖菓子、ありますか?」
店主「ああ、あるけど」
魔女「はあ。……包んどくれ」
少女「ありがとうございます、先生」
店主「ほう」
魔女「なんだい、その物珍しげな視線は。何か文句でもあるのかい?」
店主「いやいや、とんでもない!」
魔女「ふん。で、あんたの女房の調子はどうなんだい?」
店主「ああ、あんたの薬のおかげか良いみたいだよ」
魔女「……そうかい」
少女「先生」
魔女「ああ分かってる、急かすんじゃないよ!」
店主「なんだい、何か良くない話かい?」
魔女「はあ。……あんたの女房の様子を直接見ておきたい、案内しとくれ」
嫁「あ、このクソババア!」
魔女「誰がクソババアだい! あんたには礼儀ってもんがないのかい!」
嫁「礼儀? あんたみたいなクソババアの頭に礼儀なんて言葉があったなんて驚きだわ!」
魔女「この……ああ、もういい! あんた、代わりに言って聞かせな」
少女「こんにちは」
嫁「あら、こんにちは。余計なクソババアがいたせいで気付かなかったわ。お昼食べてく?」
少女「いえ。あの、今日は話を聞きたくて。何か変わった事とかありませんか?」
嫁「変わった事? んー、最近妙に食欲があるのよね。あと旦那がいつもより優しくて毎日快適ね」
魔女「帰るよ。もう十分だ」
嫁「あ、何よ! そっちから聞いたんだから最後まで聞きなさいよ!」
魔女「やってられるかい。あたしは他人のノロケ話を聞かされるのが死ぬほど嫌いなんだよ」
少女「ふふっ、先生がそんなに嫌な顔するの、初めて見たわ」
魔女「うるさいね、さっさと帰るよ」
少女「それじゃ失礼します」
嫁「元気になったみたいね」
少女「え?」
嫁「ん。またいつでも遊びに来なさい」
少女「……はい」
少女「先生、ゴーレムくん、待ってよ!」
ゴーレム「……」
魔女「あたしはもう疲れたよ」
少女「先生、本当に苦手なのね」
魔女「苦手なんじゃない、嫌いなんだ。そこの所を間違えるんじゃないよ」
少女「はーい」
魔女「ま、しかし。……自分を気に掛けてる誰かがいるってのを覚えておいて損はない」
少女「うん。私、おじさんに手紙書こうかな」
魔女「書けばいいさ。誰も止めやしないよ」
少女「先生、寂しがらない?」
魔女「あんたは誰に物を言ってるんだい? はあ、少し教育が必要なようだねぇ」
少女「きょ、教育って?」
魔女「そうだねぇ、三日間も木に吊るしておけば素直な良い子になるんじゃないかい?」
少女「やめてよ、もう」
村人「おい見ろよ」
村娘「魔女だわ」
村人「何か話してるぞ」
村娘「生贄でも探してるのかも」
村人「早くにどうにかしないとな」
少女「……私、言ってくる」
魔女「放っときな」
少女「でも」
魔女「ああいう連中はね、言うだけ無駄なんだよ。何かに悪意を向けなきゃ生きていけないのさ」
少女「だからって、あんな奴らに言われ放題なんてらしくない」
魔女「らしくない、か。じゃあどうすればいいと思うんだい、あんたは?」
少女「私は言葉には言葉で、石には石で返す」
魔女「そりゃ勇ましいね。で、次は矢が飛んでくるわけだ」
少女「それは」
魔女「矢には矢で返すかい? 次は砲弾でも飛んでくるかもしれない、家が焼かれるかもしれない」
魔女「家を焼き返すかい? それで何が残るんだい?」
少女「でも、それは向こうが悪いんでしょ!」
魔女「誰が悪いかじゃない、どうなるかだよ」
魔女「あんたはあいつらより余程賢いんだ、賢明な道を選ぶ勇気だってあるはずだろう」
少女「そんなの勇気じゃない」
少女「大切な物を傷付けられても黙ったままでいるなんて、そんなの私は絶対に嫌」
少女「私だけじゃない、あいつらは先生まで馬鹿にした。ううん。魔女を、精霊を馬鹿にした。だから」
魔女「……あんたは良い魔女になる。ただ、良い恋人にはなれないね。なにせ、情が濃すぎる」
少女「何それ?」
魔女「あんたの恋人は苦労するって話さ。さあ、さっさと帰るよ。あたしはもう疲れたよ」
魔女「ふう」 ギィ
少女「そんな調子じゃ50年も生きられないよ?」
魔女「ああん? 50年と言わず100年だって生きてやるさ。あんたの墓の世話だってしてやろうじゃないか」
少女「ふふっ、できるものならしてみなよ。お婆ちゃん」
魔女「誰がお婆ちゃんだい! あたしの事は先生だろう!」
少女「はいはい先生、今日も薬草探し?」
魔女「ああ。この3つの薬草を探してきな。効能は後で説明してやる」
少女「了解。行ってきます」
ゴーレム「……」 ノソノソ
魔女「さてと、今日の様子なら薬は十分効いてるようだ……が……」 フラ
魔女「とと、危ないねぇ」
魔女(なぁに、これくらいなんて事はない。無理をすれば10年は生きられるだろうさ)
魔女(人はいずれ死ぬ。だが、今である必要はない。そうだろう?)
少女「……これは毒草ね」
少女(なんとなく分かる。良いものと悪いもの、誰かが教えてくれてるみたいに)
少女「私も少しずつ魔女に近付けてるのかな、ゴーレムくん」
ゴーレム「……」
少女「なんてね、他の場所を探そっか」
少年「あ……」
少女「……誰?」
少年「ぼ、僕は、あの、そ、そこの村に住んでて、き、君、最近村に来てる子だよね?」
少女「そうだけど」
少年「あ、あ、あの、僕と、と、友達に、なって欲しいんだ!」
少女(なって欲しい、なんて言われても……)
少年「だ、ダメかな?」
少女「ダメじゃないけど」
少年「良かった! ねえ、僕いい場所知ってるんだ! あのね、向こうに泉があるんだ!」
少女「え、そうなの?」
少女(変わった薬草でも生えてるかな)
少年「ねえ、一緒に行ってみない?」
少女「ん、行くだけなら」
少年「じゃあ僕が案内するよ! 付いて来て!」
少女(なんだか変な子)
少女「行こ、ゴーレムくん」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少年「ほら!」
少女「本当、思ったより大きいわね」
少女(ここだけ空気が違う。これも水の精霊がいるのかしら)
少女「……」
少年「ど、どうしたの?」
少女「……え? ああ、別に」
少年「ここ、僕だけの秘密の場所なんだ」
少女「ふぅん。私に教えてよかったの?」
少年「う、うん! もちろん! 今日からは君と僕の秘密の場所だよ!」
少女(秘密の場所、か)
少女(先生もここの事は知らないのかな)
少年「ねえ、君っていつも森で何してるの?」
少女「何って?」
少年「だってあのお婆さんと二人で暮らしてるんでしょ? 僕なら飽きちゃうよ」
少女「……別に」
少年「えー、でもさ、他の人と遊んだりしたいでしょ? 一人じゃ楽しくないよ」
少女「……私達には精霊がいるから」
少年「せいれい? 何それ?」
少女「いつでも側にあるもの。私達を生かしてくれるもの」
少年「よく分かんないよ」
少女「そう。なら別にいいじゃない、分からなくて。あなたは魔女になるわけじゃないでしょう」
少年「や、やっぱり魔女なの、君達って?」
少女「そうだけど」
少年「じゃ、じゃあ人や動物を生贄にしたり、悪魔と契約したり……」
少女「はあ? するわけないじゃない、そんなの」
少年「で、でも父さんや母さんはそう言ってるよ? 他の村の人もさ」
少女「……あなたは人に言われたらそれを全部信じるの?」
少年「そ、そうじゃないけど」
少女(悪い子じゃないんだろうけど、なんだか疲れるわ)
少女「もういい? 私用事あるから」
少年「あ、う、うん、またね!」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「ただいま」
魔女「ああ、おかえり」
少女「なんだか私も疲れちゃった」
魔女「ほう、それだけ熱心に働いたって事は、お目当ての薬草も相当集めて来たんだろうねぇ?」
少女「あ」
魔女「まさか忘れたとでも言うんじゃないだろうね」
少女「わ、忘れてたわけじゃないわ!」
魔女「じゃあ何なのか言ってごらんよ」
少女「……少し休憩に戻っただけ」
魔女「そうかいそうかい、ならさっさと行ってきな。若いあんたにゃ休憩はもう十分だろう」
少女「この、クソババア!」
魔女「うるさいよ、クソガキ」
少女「またパンとスープ? ちょっとスープの中身が変わるだけじゃ飽きるよ」
魔女「文句があるなら自分で作りな」
少女「そうしようかな。……今日ね、男の子に話しかけられたの」
魔女「へえ、そりゃ大層な事だね」
少女「友達になろうだって。でも、友達って何?」
魔女「街にいた頃はいなかったのかい?」
少女「いたけど、パパが死んだらみんないなくなっちゃった」
魔女「そりゃあんたのパパと友達になりたかった連中だね」
少女「だったみたい。でも、それはなんとなく分かってた」
少女「私の周りには、そんな人ばっかりだったから。だから友達って分かんない」
魔女「今日のそいつはどうだったんだい?」
少女「変な子。ベラベラ喋って、でもナヨナヨしてて」
魔女「はっ、なるほどね。そいつはのぼせてんだろうさ」
少女「何に?」
魔女「さてね。まあ何事も経験だよ、好きにしな」
少女「あ、そういえば」
魔女「ん?」
少女(一応、秘密の場所だったっけ)
少女「えと、この辺りの水場ってある?」
魔女「村の方にゃ川があるが、それはあんたも知ってるだろう?」
少女「そっか」
少女(先生もあの場所は知らないんだ)
少女「ふぅん」
魔女「なんだい、ニヤニヤして。気持ち悪いね」
少女「別にー。あ、スープお代わりするね」
魔女「卑しい奴だね」
少女「私は若いからね」
魔女「今日の課題はこの5つだ。いいかい、この内の2つは毒草だ。扱いには注意しな」
少女「なんで毒草なんて集めるの?」
魔女「毒草も使い方によっちゃ薬になる。それに、知っておけば薬草と間違う事もないだろう?」
少女「ん、了解。行ってきます」
魔女「はいはい」
少女(残りは1つ、か)
少女「さて、どこを探そうか?」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女(あまり見ない形の葉だし、普段行かない方にあるのかも)
少女「ついでにあの泉に行ってみよっか?」
ゴーレム「……」 ノソノソ
少女「ふふっ、あなたは無口よね。そういう所、好きよ」
少女「あ」
少女(泉の畔に探してた毒草が)
少女「……もしかして先生、分かってて課題にしたのかな」
少女(んー、クソババアだしあるかも)
少女「本当、あんな風になったらオシマイよね」
ゴーレム「……」
少女(でも)
少女(パパは先生の事を悪く言ったりしてなかったな)
少女(あまり先生の話はしなかったけど、時々懐かしそうに……)
少女「……」
少年「うわっ!?」
ゴーレム「……」 ガシッ
少女「え? ……何してるの?」
少年「こ、この人形が急に!」
ゴーレム「……」
少女「……あなた、何かしようとした?」
少年「な、何かって?」
少女「この子はおかしな事をしないかぎり、大人しくしてるはずよ」
少年「し、してないよ! な、なんだよ、僕よりそんな人形の事を信じるの?」
少女「ええ。だってこの子は、私の命の恩人だもの」
少年「た……たしかに、ちょっと驚かせようとしたけど、それだけだよ」
少女「そう。ゴーレムくん、放してあげて」
ゴーレム「……」 スッ
少年「……」
少女(やっぱり、なんだか合わない)
少女(この男の子が何を考えてるのか、私には全然分からないもの)
少女(先生ならこういう時、なんて言うのかな)
少女「……気に掛けてる誰か、か」
少年「え?」
少女「ううん、なんでもないわ。ねえ、あなたは普段何をしてるの?」
少年「え、僕?」
少女「昨日私に聞いたでしょ? 何をしてるかって」
少年「僕は、畑を手伝ったり」
少女「今日はしてないの?」
少年「う、うん。今は畑を寝かせてるから」
少女「寝かせる?」
少年「ずっと同じ畑を使ってると、畑が悪くなるんだ。だから寝かせるんだよ」
少女「その間は何もしないの?」
少年「まさか! うちは父さんの兄弟が近くに畑を持ってるから、交互に使ってるんだ」
少女「そっちは手伝わなくていいの?」
少年「う、うん。……僕、あそこの家の子嫌いなんだ」
少年「いつも、その……う、ううん、なんでもない!」
少女「まあ、色々あるわよね」
少年「う、うん! 色々あるんだ!」
少年「あ、あの、聞きたい事があるんだ、けど……」
少女「何?」
少年「君、魔女なんだよね」
少女「そうなりたいと思ってる。ううん、なる」
少年「そ、そっか。あ、あの、そ、それじゃ、や、やっぱり」
少年「そ、そういう事、してるの?」
少女「そういう事?」
少年「だ、だから、え、え……エッチな事だよ!」
少女「何、言ってるの?」
少年「み、みんな言ってるよ! 魔女っていうのは淫売だって!」
少年「悪魔と交わったり、体を売って生活したり!」
少年「う、うちの婆さんが言ってたんだ、君と一緒に住んでたお婆さんも昔はそうだったって!」
少年「も、もし本当にそうなら、ぼ、僕と、僕と、あ、あれを、その」
少女「……それが言いたくて私に付き纏ってたの?」
少年「え?」
少女「そんな事が言いたくて私に話しかけたの?」
少年「え、あ、な、なんで怒って」
少女「……いい勉強になった。二度と話しかけないで」
少年「ま、待って!」
ゴーレム「……」 ガシッ
少年「は、放せよ! この! う、うわっ!?」 ズルッ グキッ
少年「痛……っ」
少女「……」
少年「き、君までそんな目で僕を見るのかよ」
少年「僕は、僕はただ、君と話したかっただけで」
少女「嘘つき」
少年「ほ、本当だ! でも、君がそうだって聞いて、ほ、本当にそうなら僕とだってって」
少年「そうだよ、僕は意気地なしだよ!」
少年「でもしょうがないじゃないか、だって、一緒にいたって君はつまらなそうにして!」
少年「だから僕は!」
少女「……」 スタスタ
少年「あ……う……」
少年「うう……」
少女「……ただいま」
魔女「ほう、思ったより早く戻ったねぇ。で、課題は?」
少女「これでいいでしょう」 バサッ
魔女「……何かあったね」
少女「言いたくない」
魔女「なら聞かないどこう」
少女「……」
魔女「はあ。……何があったんだい?」
少女「例の男の子と話したわ」
魔女「で、その男があんたに迫りでもしたかい?」
少女「ええ。おまけに魔女はみんな淫売だって言いながらね」
魔女「ははは! なるほど、そりゃあんたも一人前の魔女だよ!」
少女「何よ、それ」
魔女「あたしだって若い頃は何十回も同じ事を言われたもんさ」
少女「なんであんな事言われなくちゃいけないの?」
魔女「それだけあんたが魅力的に見えたんだろうさ」
少女「そんなの、嬉しくない」
魔女「でも嫉妬ってのは怖いもんでね、どれだけ迷惑がっても連中にはそれが傲慢に見えるのさ」
少女「理不尽だわ」
魔女「まったくもってね。だがそんなもんさ、世の中道理の通る事の方が珍しい」
少女「何を言われても受け入れろって言うの?」
魔女「生き方を通して誤解されるか、生き方を曲げて上手くやるか」
魔女「それのどっちが幸せかなんて、あたしにも言えやしないさ」
魔女「ただ。自分が守りたい物が何かって事を自分だけが分かっていれば、それでいいとあたしは思ってるがね」
少女「……うん。ありがと、先生」
魔女「ああ、良い顔だ。しっかり生きな」
「おい! ここを開けろ!」 ドンドン
魔女「ふん、やかましいね」
少女「私が出る」
魔女「いらないよ。あんたは二階に引っ込んでな。顔も出すんじゃない、いいね?」
少女「え?」
魔女「いいから言われた通りにしな。……はいはい、今開けるよ」 ガチャ
父親「待たせてくれたな! この魔女が!」
母親「苛々させてくれるじゃない! 魔女の分際で!」
魔女「ほう? ずいぶん威勢がいいじゃないか。連れ立って何の用だい? ここはパーティー会場じゃないんだがねぇ」
父親「あぁ!? 馬鹿にしてるのか、あんたは! うちの息子にこんな酷い怪我をさせておいて!」
少年「あの……ぼ、僕……」
魔女「あたしがかい? その坊主の顔も覚えちゃいないがねぇ」
父親「あんたの所にいる娘がだ! うちの息子を誘惑した挙句に、こんな酷い怪我をさせたそうじゃないか!」
母親「見なさいよ、この手首のアザ! 治るのにどれだけ掛かるか!」 グイッ
少年「痛っ!」
やっと最後まで書き溜め終わったんでササッと投下する
しかし立てる場所間違えたんだろうか。それとも内容を間違えたんだろうか。よく分からん
魔女「で、その怪我がうちの所の娘がやったって証拠はどこにあるんだい?」
父親「証拠? 何が証拠だ! 息子が言ったんだ、そいつと一緒にいたとな!」
母親「そうでしょ? ね、少年? そうなんでしょう?」
少年「い、一緒にいたけど、でも」
母親「ほら見なさい! どうしてくれるの! これじゃあうちの仕事も手伝えないじゃない!」
父親「こっちに正義があるんだ、何したって誰も文句なんて言いやしねえんだぞ!」
魔女「……やれやれだねぇ。つまりあんたらの話はこうかい? その坊ちゃんが怪我した、うちの娘がやった、だから金を払えと?」
父親「そうだ、当然だろう? 証拠証拠と言うがな、それこそ証拠は揃ってんだ!」
魔女「そうかい。で、坊ちゃん。あんたも同意見って事でいいんだね?」
少年「ぼ、僕は」
母親「さっきもそうだって言ったでしょう! 何度同じ事を言わせるのよ!!」
父親「そうやって誤魔化そうったってな、こっちはそうはいか……」
魔女「あんたらは黙ってなッ!!」
母親「ひ……っ」 父親「ぐ……う……っ」
魔女「で、どうなんだい?」
少年「僕の怪我は、その……」
魔女「はっきりお言い」
母親「……」
父親「……」
少年「……彼女に、されました」
父親「ほれ見ろ!」
母親「どうしてくれるのよ!」
魔女「ふん。なるほど、こんなつまらん男に口説かれたんじゃ、あれがウンザリするのも分かるってもんだね」
少年「う……」
父親「くだらん事を言ってないで張本人を連れて来たらどうだ!?」
母親「いくら淫売だからってこんな時までコソコソ逃げ隠れするなんて卑怯よ!!」
魔女「……黙りな」
母親「な、何よ、あんたみたいなババアが凄んたって怖かないわよ!」
魔女「ババア? そうかい、あんたはあんたの目の前にいるババアが、ただのババアだと思ってるのかい」
魔女「上等じゃないか。言っておくがね、あたしゃ穏便に事を済ませてやろうとしてたんだよ」
魔女「それを事もあろうに、うちの娘を淫売呼ばわりとは……タダで済むと思うんじゃないよ」
父親「お、おう、どうしようって言うんだ!? こっちはてめえなんざ怖か……っ」
魔女「風の精霊、こいつらを外に叩き出しな」
ゴゴオオオオッ
父親「うがぁっ!?」 母親「いやぁぁっ!?」 少年「ひ……っ」 ドササッ
父親「な、何が起きたんだ、クソ!」
母親「何のつもりよ!?」
魔女「……汝を縛る鎖は無く、汝を定める名も無し」
魔女「我が怒りに応え来たれ、祖なる精霊」
大地は恐れ戦くように激しく鳴動し、まさにこれから何事かが起きるのだという予感が辺りを包み込んでいた。
しかし、それは既にそこにいたのだ。
あたかもこの世界が誕生した時からそこにいたとでも言うかのように、それは大地から浮き上がって現れた。
巨大な獣。そうとしか言いようがない。土煙を上げ、体表に森を纏い、突然目覚めた巨大な獣。
それはあまりにも巨大すぎたがゆえに、その場にいた誰一人としてそれが何に類似した獣なのかが理解できなかった。
獣は欠伸でもしたのだろうか。大気を震わせた後、ゆっくりと元の大地に伏せ、何事もなかったかのように沈黙した。
母親「……」
父親「は……はは……」
少年「ひ……あ……っ」
魔女「さて、もう一度言おうか」
魔女「あたしは、うちの娘をあたしの目の前で淫売呼ばわりするような輩に、一歩だって引く気はない」
魔女「覚悟はできてるんだろうねぇ」
少年「ご……ごめんなさい! 許してください!」
魔女「ああん? あたしは今あんたに話しちゃいないんだよ! そこで呆けてる二人に言ってるんだ!」
少年「僕が、僕が悪いんです! この怪我は、僕が勝手に転んだだけなんです! だから殺すのは僕だけにしてください!」
魔女「ほう。なるほど、そりゃいい考えだ。見せしめにあんたを殺して晒しもんにしてやろうじゃないか」
少女「……先生」
魔女「あん? 出て来るなって言ったろうが!」
少女「物事には限度ってものがあるでしょ?」
魔女「これはあたしの信条の問題なんだ、あんたは黙ってな!」
少女「はあ。……もう行って。そして二度と私達に関わらないで」
少年「……あ、ありがとう」
少女「いいから早く消えて。そこの二人も連れて行って」
少年「ごめん……本当にごめん」 スタスタ
少女「私が何言いたいか、分かってるでしょ」
魔女「知らんね」
少女「私の時は賢明な道を選べだの石に石を投げるなだの言っておいて、これはどういう事なの?」
魔女「あたしが賢明な人間だとでも思ったのかい?」
少女「お、思ってないけど! でも、いくらなんでもやりすぎじゃないの!」
魔女「あたしはあたしの守るべき物を守った、それだけの事さ」
魔女「……まあ、たしかに少しやりすぎた気もしないでもないけどねぇ」
少女「どうするの、これから」
魔女「どうもしやしないさ。今までだって魔女だ魔女だと言われてたんだ、それがハッキリしただけの事だろう?」
少女「……ああもう、バカ! バカ! 大バカ!」
少女「誰もここまでしてなんて言ってないのに、なんでもう! もう……」 ポタポタ
魔女「まったく、なんで泣いてんだい? 訳の分からない娘だねぇ」
魔女「ふう。今日はさすがに疲れたねぇ」
少女「……」
魔女「まだ拗ねてんのかい? まったく、あたしは先に寝るよ」
少女「あの」
魔女「あん? なんだい?」
少女「一緒に、寝ていい?」
魔女「あたしとかい?」
少女「……うん」
魔女「……ま、そうだね。それもいいだろうさ」
少女「ん」 モゾモゾ
魔女「はは、こりゃ暖を取るにはいいね」
少女「……先生」
魔女「なんだい?」
少女「あの、お婆様って、呼んでいい?」
魔女「なんだいそりゃ、ムズムズするねぇ」
少女「……」
魔女「はあ、まあ好きにしな」
少女「うん」
少女「パパが子供の頃のお話、聞かせて」
魔女「そりゃまた、ずいぶん昔の話になるねぇ」
魔女「……あの子が産まれた時はね、まだこの家には住んでなかったんだよ」
魔女「その頃はあたしもまだ協会にいたのさ」
魔女「まあ、そこで色々あってね。あたしはホトホト嫌気が差した」
魔女「魔法を権力に利用するだけの連中にも、何事にも無関心な連中にも」
魔女「まだ小さかったあの子を連れて、あたしは精霊をより強く感じられる場所で生きる事にした」
少女「それがここ?」
魔女「ああ。精霊は自然から生まれる。逆に、精霊のいない自然はすぐに朽ち果てる。表裏一体なのさ」
少女「うん」
魔女「あたしは元々ここと似たような田舎の出でね」
魔女「そこはもう跡形もなくなっちまったが、似た土地で子供を育てたかったのさ」
魔女「幸い、あたしにゃ薬の知識もあった。子供を育てるには困らなかった」
魔女「あの子に魔法を教え始めたのは、あんたより小さい頃だったかな」
魔女「……なんであたしなんぞに憧れちまったのかね」
魔女「いくらでも、他の道を選べた子だったんだ。頭も良けりゃ体だって強かった」
少女「パパは、魔法が人を幸せにするって言ってたよ」
少女「だからもっとたくさんの人に魔法を使えるようにしたいって」
魔女「それも、間違いじゃないんだろうさ」
魔女「ただあたしには、どうしてもそれを良しとできなかった」
魔女「あんたは魔法ってもんが何だと思う?」
少女「……精霊にお願いすること」
魔女「そうさ。魔法ってもんの根本は、精霊と意思疎通する事にある」
魔女「だが、ここに来る前のあんたならきっとこう言ったはずさ」
魔女「『炎や雷を操るような凄い力』。そうだろう?」
少女「……うん」
魔女「あんたが特別なんじゃない。それが協会や世間一般の認識なのさ」
魔女「詠唱と事象、その二つの因果関係だけに魔法を集約させたのが協会の考え方で」
魔女「あの子の話も、突き詰めてしまえば同じ所に行き着く。つまり精霊の介在が意識されない魔法」
魔女「協会の詠唱が冗長な理由は、誰でも使える形がそれだからさ」
魔女「それぞれの精霊を個別に認識し、対話し、力を借りる」
魔女「それを正しい形で行える魔法使いなら、形のある言葉さえ必要なくなる」
魔女「ただ、それは危険な行為でもあるんだよ」
少女「なんで?」
魔女「言葉を介さずに魔法を使うようになると、精霊の世界とあたしらの世界の区別が徐々に付かなくなる」
魔女「そうなれば向かう先は廃人か、ヘタをすれば物質としての形さえ失う事になるだろうね」
魔女「精霊ってのはね、身近にいながら遠い存在なんだ。非物質世界の住人とでも言うのかね」
魔女「あたしはあんたに精霊と友達になれるような事を言ったが」
魔女「あたしらとは別の存在だって事を決して忘れるんじゃないよ」
魔女「それは驕りにもなる。いいね?」
少女「……うん」
魔女「さて、あたしの話はこんな所だ。まだ何かあるかい?」
少女「お婆様は、パパが死んで悲しかった?」
魔女「……あの子との別れは、もうとっくに済ませたつもりだったんだがね」
魔女「悲しくなかったと言えば、嘘になるだろうね」
少女「後悔した? もっとたくさん話したかったって、もっと一緒にいたかったって思った?」 ギュッ
魔女「この手でもう一度抱き締めてやりたかったさ」 ギュッ
少女「……ん」
魔女「どうも感傷的になっていけないねぇ。こういう日は早く寝ちまうにかぎるさ」
少女「おやすみなさい、お婆様」
魔女「おやすみ、少女」
魔女「……風の強い日には風の精霊を探し」
魔女「……炎燃える所では火の精霊を探し」
魔女「……森深い所では樹の精霊を探し」
魔女「……水流れる所では水の精霊を探す」
少女「……うん、感じる」
魔女「よし、目を開けな」
少女「ねえ先生、この訓練いつまで続けるの?」
魔女「あんたが普通に過ごしながら精霊を感じ取れるようになるまでだね」
少女「別に不満はないけど、もう何ヶ月も修行してるのに一度も魔法を使ってないよ?」
少女「わ、分かってるよ? 精霊と対話するのが魔法の本質だって事は! でも」
魔女「でもも何もないさ。その日が来たらあんたにも分かるさ、あたしが何を言っていたかがね」
少女「……うん、わかった」
魔女「さてと、それじゃあ薬を届けに行こうかねぇ」
店主「お、婆さん!」
魔女「様子はどうだい?」
店主「ああ、もうすぐって所みたいだ」
魔女「ふむ、ならもう薬は必要ないだろうね。後は本人の体力と気力次第さ」
店主「そうだな。……しばらくはこの店も閉めようと思うんだ。女房の側にいたくてね」
魔女「そうかい。ま、それがいいかもしれないねぇ」
少女「あの」
店主「ん、なんだい?」
少女「話して行っていいですか? お腹の赤ちゃんと」
店主「ああ、そうしてくれると二人とも喜ぶよ」
魔女「あたしは先に帰ってるよ」
少女「ダメです」
魔女「勘弁しとくれよ、まったく」
嫁「あら」
少女「こんにちは!」
魔女「……元気そうで何よりだよ」
嫁「心にもない事言っちゃって。ま、この子が産まれるまでは休戦しといてあげるわ、お婆さん」
魔女「気味が悪いねぇ」
嫁「さすがに、もうすぐこの子が産まれてくると思うと、余計な事に力は使いたくないわけよ」
魔女「ま、産まれてくる子供には罪もないさ」
嫁「あら、まるで私に罪があるような言い方じゃない?」
少女「お婆様」
魔女「お婆様はやめろって言っとるだろう!」
嫁「ふふっ、クソババアも形無しね」
嫁「ん、また動いた……」
少女「子供、ここにいるんだよね」
嫁「早く出たいって言ってるのよ。パパとママの顔が見たいってね」
魔女「ノロケ話が始まる前に帰るよ」
少女「また来ますね」
嫁「ん、その時は子供の顔を見ていってね」
少年「あ」
少女「……」 スタスタ
魔女「坊主、調子はどうだい?」
少年「いえ、あの」
魔女「しっかりしな。あんたの生き方はあんたが決めるんだ、それを忘れるんじゃないよ」
少年「……なんで、僕なんかに」
魔女「今のあんたは上等な男とは言えないけどね、あの両親よりは見所がある。それに、まだ若い」
魔女「ま、老い先短いババアとしては、あんたら若い子には頑張って欲しいのさ」
少年「……はい」
魔女「ま、じっくりやんな」
少女「私、男の子って嫌いだわ」
魔女「アホらしい。あんたのどこに男を語るほどの経験があるんだい?」
少女「だって、嫌いなものは嫌いなんだもん」
少女「私、ゴーレムくんと結婚しようかな」 ギュッ
ゴーレム「……」 ノソノソ
魔女「馬鹿な事言うんじゃないよ。たかが一回ハズレを引いただけで何を言ってるんだい」
少女「ふんだ、どうせ乙女心なんて擦り切れちゃってるお婆様には分かんないんでしょう」
魔女「ああもう鬱陶しいね! 男を語る前に少しは自分の女を磨きな!」
少女「……ふん」
魔女(まったく、日に日に小生意気になって)
魔女(しかし、こんな日がずっと続けばいいんだがね)
魔女「……ん?」
少女「どうかしたの、お婆様?」
魔女「いや。森が少し騒がしいような気がしたんだが」
少女「……特に感じないわ」
魔女「気のせいかもしれないが、一応気を付けた方がいいかもしれないね」
少女「だって、ゴーレムくん? いざって時には私を守ってね」
ゴーレム「……」 ノソノソ
魔女「……」 ギィ ギィ
少女「まだ気になるの?」
魔女「いや、もう気にはならなくなったよ。間違いなく異変が起きてる」
少女「え?」
魔女「あんたも耳を澄ませてごらん」
少女「……何、この精霊の声」
魔女「どうやら何かが迫ってきているようだね」
少女「ど、どうするの?」
魔女「あまり気は進まないが、とりあえず周りの状況を確認しておかないとね」
少女「どうやって?」
魔女「飛ぶのさ」
少女「ほ、本当に大丈夫なの、お婆様!」
魔女「黙ってな、舌を噛むよ。……風の精霊よ、力を貸しな!」 フォン
少女「ひっ」
魔女「……村の方から、人の列が西へ向かってるね」
魔女「馬も見える。あれは、騎士かい?」
魔女「どうやら村の住人が避難をしてるようだね」
少女「お、おば、お婆様、こ、これ、お、落ちてる! 落ちてる!」
魔女「風の精霊、頼むよ!」 フワッ ストッ
少女「ば、馬鹿じゃないの!? これ飛んでないよ、浮かんで落ちただけだよ!」
魔女「うるさいねぇ、この方が楽なんだよ」
魔女「さて、精霊の騒ぎようとあの騎士団の様子からすると、おそらく魔物の群れでも迫ってるんだろうねぇ」
少女「ま、魔物?」
魔女「この辺りじゃ珍しくもない事さ。ここらは魔物の領域に近いからねぇ。その分自然も豊かなんだが」
少女「に、逃げなきゃ!」
魔女「ま、それしかないかねぇ。後は、せいぜい早く討伐隊でも組織されてくれる事を祈るくらいかね」
少年「はあ、はあ……ど、どなたかいますか!?」
魔女「そんなに慌ててどうしたんだい?」
少年「あ、よ、よかった! じ、実は今、この村に魔物が迫っているんです!」
少女「……ええ、知ってるわ。あなたもさっさと避難したらどう?」
少年「ち、違うんです! そうじゃなくて、あの、あの!」
魔女「深呼吸しな」
少年「は、はい。……すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」
少年「……実は、まだ村に取り残されてる人がいるんです」
店主「……やあ、あんたか」
嫁「はあ、はあ、うっ、はあ、はあ……っ」
魔女「……なんてこった、もうお産が始まってたのかい」
少年「僕も避難しようとしたら、ここで騎士団の人と何か揉めていて……」
店主「見ての通りさ、女房はとても動けるような状態じゃない。避難なんて無理だ」
少女「で、でも、それじゃあ」
店主「俺が守るさ、命に代えても」
魔女「あんた一人でどうにかなるもんかい。これは1匹や2匹じゃない、少なくとも数百匹単位の群れだよ」
店主「分かるのかい?」
魔女「ここまで近くなれば嫌でもね」
嫁「あなた一人でも、逃げてよ……っ」
店主「できるわけがないだろう! お前と子供を置いて逃げて、俺にどんな未来があるって言うんだ!」
魔女「……やれやれ、騒がしい連中だね。子供が産まれるっていうのに、もう少し静かにできないのかい?」
店主「そんな事言ったって、この状況で静かになんてっ!」
魔女「馬鹿だねぇ。ようはその魔物を一匹もここに近付けなきゃいいってだけの話だろう? 簡単な事じゃないか」
店主「か、簡単って」
魔女「あたしを誰だと思ってるんだい? ただのババアだとでも? あたしはね、本物の魔女だよ」
少年「あ……そっか、あの時の魔法!」
店主「魔法? 婆さんあんた、ただの薬師じゃなかったのか!?」
魔女「とんだ勘違いだね。あたしがまだ協会にいた頃は、純粋な魔法勝負であたしに勝てた奴は一人もいなかったさ」
店主「ほ、本当かい!?」
魔女「ああ、任せときな。魔物なんぞ何百何千いようが物の数じゃないさ」
魔女「少女、あんたはこの店主と一緒にお産を手伝いな」
魔女「そっちの坊主、あんたはそこの剣を持って扉の前で見張りだ。できるね?」
少年「もしこっちに魔物が来たら、僕一人で守るって事ですよね……」
魔女「ああ、命懸けだよ」
少年「……や、やります」
魔女「よし、いい子だ。それじゃあ作戦開始だ!」
魔女「……ふう」
少女「お婆様、待って。……私に言う事あるでしょ?」
魔女「言う事? 何の話だい?」
少女「お婆様、あの男の子が来るまでは逃げるしかないって言ってたじゃない」
魔女「そりゃ逃げた方が楽ができるからそう言ってただけさ。誰が進んで苦労なんてするもんかい」
少女「本当にそれだけ?」
魔女「あたしだって自分の身の程は弁えてるさ。できない事をやろうとなんてしやしないよ」
少女「信じていいの?」
魔女「ああ、もちろんだとも」
少女「……わかった、信じるからね」
少女「……もう誰かがいなくなるなんて、絶対に嫌だからね」 スタスタ
魔女「……参ったね」
魔女(死ぬ気でやってなんとか、と思ってたんだが)
魔女(無事に帰らなきゃいけなくなったわけだ。ま、やるしかないさ)
魔女「すべてはなるがまま。やれるだけやってやろうじゃないか」
僅かな微風に砂埃が揺れる。老婆は風の精霊の声に耳を澄ました。
「精霊よ」
老婆の足は地を離れ、重力を忘れたかのように浮き上がってゆく。
視線は東、最早精霊の声に耳を澄ませるまでもない。
山を一面黒く染める生物の蠢き、それは軽々と千を超えている。
「参ったね、まったく」
既に老婆の視点は山の中腹ほどにまで上がっていた。
視界を埋め尽くす圧倒的な数の敵にも老婆は不敵に笑った。
「まさかハッタリ以外でこの魔法を使う事になるとはね」
「……汝を縛る鎖は無く、汝を定める名も無し」
「我が願いに応え来たれ、祖なる精霊」
詠唱の終わりと共に、老婆の視線の先で山が爆ぜた。
地表にいた魔物は塵同然に吹き飛ばされて宙を舞う。
顕現したそれは、土塊の竜であった。
嫁「うっ、うぅ……っ」
店主「う、産まれそうか!?」
嫁「あっ、うっ、うぅ……っ」
少女「店主さん、赤ちゃんを包む布は?」
店主「え? あ、確かに向こうに用意してあったような」
少女「他には? 何か言われてないの?」
店主「お、お湯で赤ちゃんの体を拭いて」
少女「他には!」
店主「お、思い出せない!」
嫁「手! 手、握って!」
店主「あ、ああ!」
土塊の竜の咢は魔物も土も木も区別なく噛み砕き、飲み込んでゆく。
突然襲い掛かった脅威に魔物達はなす術もなく、彼らは捕食されるだけの存在と化していた。
しかし。
「ぐっ、うっ、あっ、あっ!」
宙を彷徨う老婆は激しく悶え苦しんでいた。視界は酷く歪み、自分の見ている物が何なのかさえ老婆には分からない。
これが副作用とでも言うべきものであった。
老婆の呼びかけた精霊の存在を知る者は、現在の魔法使いの中には誰もいない。
それはあまりにも起源が古く、その存在が巨大すぎるために認識する事さえ困難なのだ。
それは例えば、人が己の立っている星が球体であると認識できないように。
しかし、顕現した竜の中身でさえ、その精霊そのものの巨大さに比べれば僅かなものである。
その巨大すぎる存在が持つ力の大きさに比例して、接触した者の精神は急速に精霊界へと引き寄せられてゆく。
(これ以上は、引きずり込まれる!)
限界を感じた老婆は、精霊との接続を強引に断ち切った。
途端、土塊の竜は形を失い、雪崩のように魔物達の頭上を襲っていった。
少年「す、凄い」
少年「あれが、魔法の力……」
少年「と、違う!」
少年(僕の役目はこの家を守る事なんだ!)
魔物「グ、ググッ!」 ヨロヨロ
少年「ひっ!?」
少年(な、なんでこんないきなり!? ま、まさかさっきの竜に飛ばされて?)
魔物「グガアアアッ!」
少年「ぼ、僕だってぇぇぇぇっ!」 ブンッ
風の精霊の加護を失い、老婆は落下する。
そしてどうにか精神の均衡を取り戻した時には地表近くであった。
「せい、霊よ!」
急減速に老いた体が軋みを上げる。
「はあ、はあ……」
精神は磨耗し、肉体は悲鳴を上げていた。
だが、土塊の竜の与えた被害を考えれば、魔物達が撤退の判断を下していてもおかしくはない。
おかしくはないはずだったのだが……。
「お互い、譲れないってわけかい」
魔物達は進撃の速度を緩める事なく、一直線に街へと向かっていた。
何がそこまで魔物達を駆り立てるのか老婆には分からなかったが、
おそらく彼らにも信じる物や守りたい物があるのだろうと思った。
「なんでだろうねぇ、いよいよあたしもイカれちまったってとこかい」
韜晦の間にも戦いは迫っていた。
ゴーレム「……」 ゴギャッ
魔物A「ギッ!?」
ゴーレム「……」 ノソノソ
ゴーレム「……」 ゴギャッ
魔物B「グガッ!」
魔物C「グ、グガガガッ!!」 ブンッ
ゴーレム「……」 ガギンッ
ゴーレム「……」 ドゴッ
魔物C「ギグッ!?」 ドサッ
ゴーレム「……」 ノソノソ
「大地の精霊よ、あいつらを止めとくれ!」
言葉に呼応し、隆起した大地はそそりたつ壁となって魔物達の進撃を阻んだ。
地形そのものが変化していくその様は魔法の域を超えつつあった。
(持ってかれてるね、これは)
時間の感覚は時折曖昧になり、今自分が本当に立っているのかどうかを足元を確認しなければ分からない。
それでも、今だけはそれも都合が良かった。
「上等じゃないか、ええ? 精霊の声だけはよく聞こえる、さあたっぷりと力を貸してもらうよ!」
隆起した土壁を乗り越える魔物、破壊する魔物が現れ、壁が壁の役目を失い始めていた。
しかし老婆は不敵に笑う。
「さあ、力を貸しな! 大気の精霊よ!」
変化は緩やかに起き、そして瞬く間にすべてを呑み込んだ。
微風に舞う砂埃は渦を巻き、風量が増す毎に分厚い砂のカーテンと化してゆき、膨れ上がる。
それは竜巻だった。土壁は老婆の魔法により跡形もなくなり、竜巻が止むと共に魔物の死体が空から落ちて来る。
たった一人の老婆により蹂躙されてなお、瀕死の魔物達は立ち上がり前へと進む。
だが、老婆は立ち尽くしたまま動こうとはしない。なぜなら、老婆の意識は消えていた。
(ああ)
(これは、ダメだね)
(世界が、広すぎる)
(いや、狭すぎる)
(あたしは誰だった?)
(呼ばれている)
(力を?)
(あたしは)
「お婆様!」
少女「お婆様! お婆様!」
魔女「……なんだい、やかましいねぇ」
少女「あ、う、もう、もう!」
魔女「涙ぐんでるのかい? 今あたしは忙しいんだよ。あんたの涙を拭いてやる暇なんてないよ」
魔女「……おや、なんであんたがここにいるんだい?」
魔女「ん、それにここはどこだい? いやに暗いね」
少女「お婆様……もしかして、目が」
魔女「ああ、どうやらそうみたいだねぇ。ま、こういう事もあるさ。だが、今の問題はだ」
魔女「なあ、いるんだろう? あたしにゃ見えないが、奴らはまだそこにいるんだろう?」
少女「……うん」
魔女「数はどれくらいだい?」
少女「多分、100匹はいると思う」
魔女(精霊の声が聞こえない)
魔女(なるほど、これが代償か)
魔女「どうやらあたしはもう戦えそうにないようだよ」
少女「うん」
魔女「ま、大健闘って所だわね。さすがに老体に堪えたよ」
少女「うん」
魔女「ああ、ずいぶん近づいてるようだね。あたしの耳にも声が聞こえるよ」
少女「うん」
魔女「さて、あたしはあんたに言っとかなきゃならない事がある」
少女「うん」
魔女「あたしもいい加減歳だからね、後はよろしく頼むよ」
少女「……え?」
魔女「魔法解禁だ。存分に使いな」
老婆は言うべき言葉は言い尽くしたとでも言うように黙り、迫る魔物の群れに見えない瞳を向ける。
少女は老婆の言葉を慎重に噛み締めていた。
魔法を使う。それは、大切な友人のゴーレムを失いかけたあの日以来の事だ。
「私、できるかな」
少女は老婆に問いかける。
「あんた、自分が誰の孫だと思ってるんだい?」
それだけで答えは十分だった。
「炎の精霊」
呼んだ途端、チリチリとする感覚が少女の中に生まれた。
炎の精霊が呼び掛けに応えているのだと少女には分かった。
6匹ほどの魔物の集団が、2人の方へと駆けてくる。
どうお願いすれば精霊は助けてくれるだろう?
少し考えてみて、少女はただこう言った。
「どうにかして」
そしてどうにかなった。
突如現れた炎は6匹の集団を呑み込み、まず呼吸を奪った。
しかし窒息を待つ間もなく、炎は彼らの体を焦がし、物言わぬ肉塊へと変えた。
少女はお願いした。精霊は応えた。
そのあまりに単純な関係は、かつて少女が学んだ魔法という学問からは程遠く、
そしてどこか温かく、どこか懐かしかった。
魔女「言ったろう? 精霊は愛してやれば答える寂しがり屋なんだよ」
少女「なんでこんなに簡単な事を学ぼうとしないんだろ、協会の人は」
魔女「気付けるかどうかなんだよ。あんたは気付けた、そういう事さ」
少女「……温かい」
魔女「さあ、後はあんた一人でどうとでもなるだろう。あたしは休ませてもらうよ」
少女「うん。ありがとう、お婆様」
魔女「なんだい急に?」
少女「私に魔法を教えてくれて、私を愛してくれて、本当にありがとう」
魔女「誰が誰を愛したって?」
少女「ふふっ、私お婆様のそういう所も好きよ」
魔女「はん、まったく……」 ズルッ
ゴーレム「……」 ガシッ
少女「お婆様をよろしくね、ゴーレムくん」
少女「さて、と」
少女「それじゃあさっさと終わらせて、お婆様と赤ちゃんの所に行かせてもらうわ!」
少年「……は、はは……僕、生きてる……」
少年「……おしっこちびりそう」
少女「別に止めないけど、そこ退いてくれる?」
少年「うわっ!? ぶ、無事だったんだね、良かったよ!」
少女「お婆様は中にいるわよね」
少年「う、うん、さっき君の所のチビくんが連れて来てたよ」
少女「ありがとう。……ふーん」
少年「な、何?」
少女「前よりはマシになったんじゃない?」 ガチャ
少年「え、えと……僕、褒められたのかな」
少女「ただいま! 子供は!?」
嫁「ふふっ、どうぞ」
赤子「んぅ、んぅ」
少女「あはっ、猿みたい」
店主「おいおい、うちの子になんて事言ってくれるんだ!」
嫁「いいじゃない。猿みたいに可愛い、って事でしょ?」
少女「もちろんよ!」
魔女「……やかましいね、もう少し静かにしてくれないかい?」
少女「お婆様、子供って可愛いわね」
魔女「子供が何言ってんだい。それに子供が作りたきゃまず男を探しな。順序が逆だよ」
少女「それは、そうだけど……」
魔女「ま、何はともあれ、家に帰ろうじゃないか。あたし達の我が家にね」
少女「……うん!」
エピローグ
「いつか来るその日」
魔法使い「ごめんください」
店主「あいよ! と、今急ぎかい?」
魔法使い「いえ、大丈夫ですけど。何かあったんですか?」
店主「実は息子がぐずっちまっててな、女房も娘で手が離せねえってんで」
魔法使い「いいですよ、また今度来ますから。これ、いつものお薬置いてきますね」
店主「おう、ありがとうよ! ああそうだ、君宛てに手紙が来てるぜ」
魔法使い「私、ですか?」
店主「ま、しっかり読んでやってくれよ」
『どう書き出そうか、何を書こうかと色々考えましたが、形を気にせず自由に書こうと思います。』
『僕が村を離れてもう1年が過ぎましたが、お変わりなくやっていますか?』
『初めて君に会った頃の僕は、今にして思えば色々な事に怯えて、何にも自信が持てなくて。』
『あれから少しは変われたかな、と自分では思っていますが、どうなのでしょう。』
『手紙を差し上げたのは、あらためてあの頃の事を謝りたいと思ったからです。』
『僕は君に対して酷い言葉を浴びせ、それがどれだけ酷いのかさえ理解していませんでした。』
『いつも他人に流されてばかりで、何も自分で考えられていなかった僕には、理解できていませんでした。』
『本当にごめんなさい。今更謝られても困るかもしれませんが、どうか謝らせてください。ごめん。』
『この謝罪は、君だけでなくお婆さんにも向けたものだと思ってもらえれば助かります。』
『最後に。ええと、君 えー あの』
『君を初めて見た時に好きだと思った気持ちに嘘はありません。あのごめんなんでもない忘れ』
魔法使い「まったく、結局変われてないじゃない」
魔法使い「ただいま」
魔女「ああ、おかえり」
魔法使い「調子はどう、お婆様?」
魔女「そうだね、天にも昇るくらいに絶好調さ」
魔法使い「それは困るわね。どこにも行かないように紐で結んでおかなくちゃ」
魔女「なんだい、老人虐待かい?」
魔法使い「いつも私が虐められてるわよ。お婆様には一生勝てそうにないわ」
魔女「ふん、調子の良い事ばかり言うようになって」
魔法使い「御飯の前に散歩でもする? あ、食べたい物があるなら言っておいてね」
魔女「……そうだね、少し日光を浴びたい気分だね。外まで運んでくれるかい?」
ゴーレム「……」 グイッ
魔女「すまないね」
魔法使い「日光浴か。お婆様、どこがいい?」
魔女「そうだねぇ、井戸の隣の切り株があるだろう? あそこでいいよ」
ゴーレム「……」 ノソノソ
魔女「よいしょ」
魔法使い「なんだか懐かしいわね」
魔女「ああ。あんた最初は瞑想もサボってたねぇ」
魔法使い「だってお婆様が何も説明しないから」
魔女「説明したってどうにもならないのは、今のあんたなら分かってるだろう?」
魔法使い「そうだけど……」
魔女「散々クソババア呼ばわりもされたねぇ」
魔法使い「も、もういいじゃない、その話は!」
魔女「顔を触らせておくれ」
魔法使い「……うん」
魔女「……美人になったね。背も伸びたんだろう?」
魔法使い「ええ、もちろん」
魔女「胸も少しは大きくなったのかい?」
魔法使い「お婆様!」
魔女「聞いてみただけじゃないか、うぶだねぇ」
魔女「精霊の声は聞こえるかい?」
魔法使い「うん。みんなとっても穏やか」
魔女「ああ、あたしにも聞こえる気がするよ」
魔法使い「……行かないで」
魔女「わかってるだろう? どっちにしろあたしはもうじき死ぬのさ」
魔法使い「そんな事ないっ!!」
魔法使い「私、薬の作り方だっていっぱい覚えたし、それに、それに言ったじゃない! あと50年生きるんでしょ!」
魔女「無理に決まってるだろう? 本当に馬鹿な子だね、あんたは」
魔女「無駄に情ばっかり深くて。誰に似たんだかね」
魔法使い「お婆様に、決まってるじゃない……」
魔女「あんたはもう一人で生きていける」
魔法使い「無理、お婆様がいないと、私ダメなの!」
魔女「情けない事言うんじゃないよ、自分を誰の孫だと思ってるんだい?」
魔法使い「だって、だって!」
魔女「だっても何もない」
魔女「あんたは私の孫なんだ。こんな老人の世話をして過ごすだけの人生なんて許されないんだよ」
魔法使い「いい! 私、お婆様の側にいられるならそれでいいのっ!」
魔女「本当、あんたは口答えばっかりだね。ろくな弟子じゃあないよ」
魔女「だがまあ、あたしにとっちゃ最高の孫だったよ」
魔女「後はただ終わるだけの人生だと思ってたあたしに、あんたは成長を見守る楽しみをくれたんだ」
魔法使い「嫌、嫌! そんな最後みたいな事言わないでよ! そんなのらしくないじゃない!」
魔女「らしいもらしくないもあるかい、これが最後なんだよ。泣くんじゃないよ、みっともない」
魔女「……さて、時間だ」
魔法使い「嫌……嫌ぁ……!」
魔女「あんたは精霊と一緒さ、どうしようもない寂しがり屋だ」
魔女「そうしてると、あんたと会った時の事を思い出すよ」
魔女「どれだけ強がったって見え見えだったさ、悲しくて辛くてしょうがないって顔に書いてあった」
魔女「いいかい? あたしがいなくなっても、あんなみっともない姿見せるんじゃないよ」
魔法使い「嫌ぁ……!」
魔女「……よくお聞き」
魔女「今はあたしが世界のすべてに思えるかもしれない」
魔女「でも、いずれあんたが心から愛せる人が、心から愛してくれる人が必ず現れる」
魔女「必ずだよ」
魔女「……元々半分は向こう側に置いてきちまってたんだ」
魔女「ただ帰るだけさ。在るべき姿にね」
魔法使い「ま、待って、行かないでっ!」
魔女「あたしはいつでも側にいるさ」
魔女「あんたが精霊の声に耳を傾けるかぎりね」
老婆は風景に溶けるように形を失い、切り株だけが残った。
涙を拭うのも忘れ、ただ天を仰ぐ彼女に。
何事か囁くように、風が一陣過ぎ去っていった。
魔法使い「……うん、わかってる」
魔法使い「私、頑張るから」
魔法使い「大丈夫だから」
魔法使い「そこで見守ってて」
魔法使い「この家の事、お願いね」
魔法使い「それとこの調合表、店主さんに届けておいて」
ゴーレム「……」
魔法使い「いつか必ず帰って来るから」 チュッ
魔法使い「それまで、ここを守っててね」
ゴーレム「……」
魔法使い「行ってきます」
物言わぬ人形は彼女の背中が見えなくなるまで立ち尽くし、ゆっくりと家に戻った。
彼女の旅の行く末を知る者はまだいない。
ただ精霊達だけが、その道を照らしている。 おわり
首痛い
今気付いたけど、
魔女をただの薬師だと思ってた店主って、ゴーレムの事を何だと思ってたんだろう
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