【艦これ】シンジ「金剛お姉ちゃん」 (61)

艦これとエヴァをごちゃまぜにしました。

シンジは初めはちびっこ。
金剛さんもちょっと幼い。


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少年----

碇シンジは一人、海を眺めていた。


「うぅ…ぅ…っく」

「父さん…母さん…」


寂しい---

その思いがシンジを満たしていた。
周りに人影はない。もうすぐ日も落ちる。
それでも少年は帰ろうとしなかった。
家に帰っても誰も居ない事を、1人である事を知っていたから。


「男の子がメソメソするのは良くありませんネー」

「…え?」


何時の間に。
シンジは気付かなかったが、後ろに1人の少女が立っていた。
歳は、15ぐらいだろうか。


「隣、失礼するネー」

「う、うん」


どっこいしょっ。

少女の見た目とはかけ離れた掛け声。
思わず吹き出しそうになるシンジ。
それに変わった口調だ、外国人だろうか。


「どこか怪我したんですカ?」

「ううん……ちが」


ふわっ---


とても優しい香りが漂う。
気付けば、包み込むように優しく撫でられていた。

前にエヴァコラボ書いてた人?


「わ、わ」

「痛いの、痛いのぉ~……飛んでいくデース!!」


髪を撫でくりまわし、投げる様な動きをする。
何度もその動きを繰り返した。


「どうですかー? もう痛くないですカ?」

「う、うん」

「よかったネ! さすが日本のおまじない! よく効きネ!」


とても明るく気持ちが良い笑い声が響く。


「お、お姉ちゃんだれ…?」

「ワタシは金剛デース」

「こんごう?」

「イエス!」


苗字だろうか、名前だろうか。
どちらにしても珍しい名前だ。


「なんだか、男の人みたいな名前…」

「うっ…ひ、ひどいデース…」

「ご、ごめんなさい」


少し落ち込んだ様子を見せるお姉さん。


「許しマース!
貴方の名前はなんですカー?」

「い、碇シンジ。8歳…」

「ベリーグッド! 自己紹介バッチリですネ!」


また髪を撫でられた。
なんだかくすぐっったいけど凄く気持ちが良い。
最後に撫でられたのは、いつだったかな。


「シンジ! ちょっとお願いし」


クゥー。

金剛のお腹の虫が鳴いていた。
音はかなり控えめだったがシンジの耳にしっかりと届いた。


「ぷっ」

「わ、笑いましたネ!?
日本に来てからまだ何も食べてないんデース…」

「ご、ごめんなさい」


クゥー。
また鳴った。だが、今度はシンジのお腹の虫だった。


「ふふっ、シンジもハラペコネー。お揃いデース!」

「うん、お腹すいた…」

「そうですネ。
もう夕ご飯の時間ですしお家に帰りましょう。
親御さんも心配してますヨ?」

「ぼく…」
「帰っても…1人で…誰もいなくて…」


泣いちゃ、駄目だ。
涙を堪えようとしたが止められない。


「…」
「…ぅぅ…」
「シンジ!!」
「!? は、はい」
「腹が減っては戦は出来ません! ご飯デース!!」
「え、え!?」


伸ばされる金剛の手。
シンジは戸惑いがちにその手を掴んだ。
離れないよう強く握り返す金剛。







「さっ、行きますヨーー!!」

「わっ、わっーー!!」


>>3
比叡がヒロイン(ぽい)のだったら、自分です。
前のが失敗してしまったので、リベンジする事にました。

前回ナンバリングつけ忘れましたので、
今回からつけていきます。




****


「シンジのお家はどの辺りですかー?」

「ここから30分ぐらい」

「結構距離がありますネー」

「うん……クチュン」


日も落ち風も冷たくなってきた。
街灯もちらほら色を付け街を彩り始めた。


「冷えてきましたネ」

「うん」

「もっとくっつくネー、シンジ」

「わっ、わっ」


シンジと金剛の距離が縮まる。
互いの体温伝わり暖かくなった。


「これでちょっと暖かくなりましたネ」

「…うん」


金剛は悩んでいた。
帰宅時間を考えるとあまりシンジを連れまわすのは良くない。
だが、このままシンジを1人にするのは自分が納得できないし
両親にも一言伝えてたい。
人様の家庭事情でもあるし余計なお世話かもしれないが。


「シンジ」

「なに?」

「時間も遅いですし、やっぱり帰りましょうか」

「え…」

「勿論、送っていくネ! シンジ」


「あ、あの…!」

「ハイ」

「あ、あの…。いや、なんでもない、です…」

「…シンジ」


言いかけた言葉を飲み込み俯くシンジ。
金剛がしゃがみ込みシンジと視線をあわせる。


「伝えたいことは、ちゃんと言葉にしないと伝わりませんヨ?」

「…」

「ネ?」

「…うん。
ぼく、やっぱりお姉ちゃんとお外で食べたい」

「魅力的ですが、時間も遅いので残念ながらまた今度ですネ」

「…そうです、よね。 ごめんなさい」

「その代わり、シンジのお家でご飯作っても良いですカー?」

「え?」

「ほ、ほんとに!?」


シンジにしては珍しい大きな声をあげる。
周りの通行人も何人かこちらを見ているのか、視線を感じた。
恥ずかしさからか、顔が赤くなる。


「イエース!
シンジの好物は何ですカ?
何でも好きなものを作ってあげマース!」

「僕、カレーが食べたい!」

「…カレー?」

「うん!」

「フフフ、良いチョイスです。
カレーであれば手を抜きませんネ!
とびっきりのカレーをご馳走しマース!」


「うん!!」

***


「シンジ、重くないですか?」

「大丈夫!!」


両手で買い物袋を1つ持ち、少しキツそうだったがそう答える。
先程、スーパーで買い物を終えた、金剛が既に自分の荷物があったので
買い物袋は僕が持つ、シンジが申し出たのだ。


「さすが、男の子ネー! 助かりました」

「う、うん!」


なんだかくすぐったい。
照れからか頬が少し赤く染まる。
でも、悪い気はしなかった。


「お姉ちゃん、ここだよ!」」

「Oh、 此処がシンジのホームなんですカー?」

「うん!」

「とっても立派なホームですネ!」


2階建ての一般的な日本の住宅だった。
庭がそこそこ大きい分、広い方かもしれない。
周りを見渡していた金剛だが、ある物を見つけ固まる。


"碇"


そう書かれた表札を見て、金剛はある人物を思い浮かべた。



「イカリ…?
ま、まさかネー」





「お姉ちゃん? どうかした?」

「ごめんなさい、少し考え込んでました。
では、お邪魔するしマース!」



***

短いですが投下終わります。
予想以上に覚えててもらって驚きました、ありがとうございます。
次回は碇夫妻と、とある艦娘が1人登場する予定です。




「ごちそうさまでした」

「お粗末さまネー」


2人分にしては多い量ではあったが、
先ほどまで様々な料理で彩られた皿も、すっかり綺麗になっていた。


「とっても美味しかった」

「ありがとうございマース!
シンジは好き嫌いが無くて偉いですネ」

「う、うん。 全部美味しかったから…」

「ありがとうございマース! 嬉しいデース!!」


久々の手料理。
それが何よりもシンジの胃袋を刺激した。


「じゃあ、お片づけするね」

「デスネ、じゃあ」

「僕が全部やる! ご飯、作ってもらったから」


金剛が席を立とうとするのをシンジが遮る。


「わお、本当ですカ?」

「うん!」

「サンキュー! 良い子ですネーーー!!」


金剛がシンジの頭を撫で回す。
恥ずかしさからか顔が少し赤くなる。


「ちょっ…ぉ、お姉ちゃん。」

「問答無用ネーー!!」


「わ、わー!」


***



「シンジー、ちょっと電話してきますネー」

「うん! わかったーー」


台所からシンジに声をかける金剛。
リビングからだと距離があるせいか少し声が遠い。
金剛は一旦、家の外に出て電話を掛けた。


「ヘーイ、ユイ! 今日もハッピーですカー?」

『こんばんは、金剛ちゃん。 ふふ、元気よ。久しぶりの日本はどうかしら』

「まだちょっと時差ボケがありますネー…、でもやっぱり落ち着くマース。
 あっ、とでも素敵な出会いもありましたヨ!」

『あら、そうなの?素敵なボーイフレンドでも捕まえた?』

「秘密デース! とっても良い子とだけ言っておくネ」

『ふふふ、そう。
遅くなったけど艦娘おめでとう』

『貴方なら無事に達成できると信じていたわ』

「ありがとうございマース! そう言われるとちょっと照れますネ」

『日本初の戦艦級として期待してるわよ。
慣れない環境でプレッシャーも多いと思うけど、いつでも相談してちょうだい』

「サンキュー、ユイ! 心強いネ」


***



『もう少しお話ししてたいけど、時間ね。
また明日ね、おやすみ。金剛ちゃん』

「ハーイ! 良い夢を、ユイ」


ユイとの通話が終わり、携帯を見つめる金剛。
先程、シンジに教えてもらった番号を打ち込む。
ユイの番号とは違った、杞憂だっただろうか。


「じゃ、もう一仕事、ですネー」



***


《深海棲艦特殊対策部》


ある研究室の一室。
その部屋でポツンと1人、報告書を眺めている女性がいた。
碇ユイ、シンジの母親である。


「深海棲艦の検証実験、ね」


報告書には検証実験の記述され検証内容も多種多様だったが、
共通してある単語で占められていた。


----効果無し、と。


「ふぅ」


最近、暗いニュースばかりだ。
唯一、明るい話題といえば金剛が艦娘として見事認められた事だろう。
日本において戦艦級の艦娘は彼女で2人目。
未だ駆逐艦級が主戦力の日本にとってかなり嬉しい知らせだった。


「ユイ」

「あら、貴方。いつのまに」

「今だ、ノックはしたが気付かなかったようだな」


振り向くと強面の男が背後に立っていた。
ユイの伴侶でありシンジの父親でもある碇ゲンドウだ。


「ずっと寝ていないのだろう、仮眠でもとったらどうだ。
作業に没頭すると体調を顧みないのはお前の悪い癖だ」

「ふふ、ありがとう。
もう少し作業したら休むわ。
新種の深海棲艦もちょっと気になってね」

「ヒトガタか」

「そう、目撃例もほとんどないし、真偽はまだ分かってないけどね。
嫌な予感が拭えないの」


でも、とユイが続ける。


「嬉しい報告があったのよ。
金剛ちゃんが艦娘になって日本に戻ってきてくれたわ」

「例の彼女か」

「そう」


ピピピ。
再び携帯が鳴った。


「あら、今度は誰かしら」

「シンジ!?」

ディスプレイに浮かぶ文字を見て声荒げるユイ。
確認するやいなや通話の応答した。

「どうしたの!? 眠れないの?」

『ヘーイ! ユイ! さっきぶりネ』

「金剛ちゃん…?」

何故、思わずディスプレイを見直す。
先程と同様に"シンジ"の文字が浮かんでいた。
どうやら見間違いではないらしい。

「どういう事かしら?」

『そうですネー、どこから話せばよいですしょうか』


***



「そう…そういう事なの」

『シンジ、ユイ達の事が恋しくて泣いてましたヨ?』


沈黙が続く。



『ユイ、仕事の事は分かりますがシンジの事も構ってあげないと』

「ええ、そうね…」


ユイは金剛の話を聞きつつ、別の事を考えていた。
艦娘である金剛、そしてシンジ。
偶然だろうか---? いや、偶然ではない。
科学者として感が告げていた。
今、この瞬間は大事な場面だ、選択を間違ってはいけないと。


『って聞いてますカー? ユイ』

「ええ、聞いてるわ。
金剛ちゃん、それを踏まえてお願いがあるんだけど」

『なんですカー?』

「私達もこんな調子でしょう? これからもシンジの事、面倒見てくれないかしら」

『イエース! 全然構いませんヨー!』


言質を得たと言わんばかりに笑みを浮かべるユイ。
電話の向こうにいる金剛には伝わらないが傍らにいる
ゲンドウは自分の苦労が増えそうだというと嫌な予感がしていた。


「ありがとう、じゃあ手配しておくわね」

『ワッツ!? て、手配!?』

「じゃあ、今度こそおやすみ。金剛ちゃん」

『ちょ、ちょっと待つネー!』


プツッ。


その後も何度かコールされたが電源毎落とすことで無視を決め込む。
傍目に見えるゲンドウが苦悩の表情を浮かべているが気にしない。


「貴方、仕事よ」

「少しは状況を説明しろ」

「簡潔に言うわ、シンジは提督適正者よ。おそらくね」

「何故それが分かる」

「女の感よ」


ユイの言葉を聞きさらにゲンドウの顔が渋る。
目で話の続きを促したが通じたのか話を続ける。


「というのは半分冗談だけどね。
艦娘と提督は惹かれあうというデータがあるのは知ってるかしら?」

「聞いたことはあるが、根拠もない噂だろう」

「そうね、"まだ"根拠を示せてないのは確かよ。
でも、シンジに関しては金剛ちゃん以前にあの子の前例もあるでしょう?」


ゲンドウの表情がさらに渋る。
尤もその表情の変化が分かるのはごく限られた人物だけだが。


「百歩譲ってシンジが適正者というのは信じよう。
だが、面倒を見れというのは話が別だろう」

「あら、良いじゃない。
最高の提督と最高の艦娘が一緒に居るのは当然でしょう?
それに日本において最強のボディーガードよ。彼女は」


お前の場合は最高の提督ではなくシンジという事が重要なのだろう。
ゲンドウは言葉にせず心の中でつぶやく。
ただ、シンジの事を考えると悪い選択肢ではないと思う。
金剛という少女には迷惑極まりないだろうが。


「…行ってくる」

「頼んだわよ、ア・ナ・タ♪」




「天使の寝顔とはこの事ですネ」


金剛の傍らでシンジが眠りについていた。
あれから何度もユイに連絡を試みたが反応がなかった。
明日、戻ってくるという情報を頼りに一晩泊めてもらう事にした。
最初は帰ろうとも考えたがシンジの寂し気な表情に負けてしまったとも言う。


「ほっぺも柔らかいデース」

「ん…んぅ~」

「Oh,起きてしまいますネ」


これからの生活に思いを馳せる。
勉強する事が多すぎてスピードで時が過ぎていったが、
日本に帰って来て何か変わるだろうか。


何も変わらないのかもしれない。
深海棲艦が存在する限りは。


「おやすみ、シンジ」


***


翌朝。


ピンポーン。

チャイムの音と共に目が覚めた。


「ここは…?」

隣に居るシンジを見つけ状況を思い出す。
シンジを起こそうかと思ったが熟睡しているのでやめた。


玄関まで降りてきたが、この家の者ではない自分が、
そのまま出るのは問題ないのだろうか。


ガチャ。

「え?」

出るか悩んでいると施錠が外れる音が響いた。
ドアがゆっくりと開いていく。
髭を生やし黒ずくめのスーツを着た長身の男が立っていた。

その出で立ちは堅気の人間にはとても見えない。
金剛は警戒しつつ話しかけた。


「おはようございマース、ご近所さんですカー?」

「…」


ジリ。
男は無言で近付く。


「ちょっと待ってください!要件は何ですカー?」

「…」

なおも男は近づいく。


「け、警察呼びますヨー??」


艦娘として鍛えた金剛であれば一般男性に身体能力では圧倒的に優っている。
だが、まだ10代半ばの少女である事に変わりはない。
男から発せられる謎の威圧感に圧されていた。


「ふぁ~…お姉ちゃんどうしたの?」

「シンジ、来ちゃ駄目ネ!」


シンジはこちらの声が聞こえてないのか。
構わず男に近づいていく。


「お父さん!」

「へ?? シンジのパパ?」

「ただいまだ、シンジ」

「おかえりー!」


サングラスでよく見えづらいが表情が和らいだのが伝わる。
僅かに見える表情は失礼だが男にあまり似合わない表情を浮かべていた。


「全然シンジと似てませんネー…」


「お父さん、元気出して」

「…」


金剛からすると全く落ち込んでいる様には見えないが、
息子であるシンジからは分かるものがあるらしい。


「コホン。 時間がないのでな、手短に話をさせてもらおう」


ゲンドウが話を切り出す。
よく分からないが気分も回復したようだ。


「金剛君、まずいきなりの申し出について謝罪させて欲しい」

「ユイの事ですカー?」

「ああ」

「手配っていうのは何の事だったんですカー??」

「まず君の新居についてだが取り消しになった」

「Why!?」

「もう暫らくするとこの家の近くに空きが出来る予定なのだ。
空き次第そちらに入ってもらう事になる」


金剛が抗議のため口を開こうとするが、
次のゲンドウの言葉を聞き動きが止まる。


「勿論、君の妹達に対しても便宜を図ろう。
すぐにとはいかないかもしれないが」

「う、まだ話を決めてなかったのでそこは正直助かりますネ…」

「妻が夜には帰ってくるはずだ、その時に話を聞いてくれ」

「わかりました、ユイにも話したいことたくさんありマス」

「済まない時間が無くてな、もう行かなくてはならない」

「お父さん、もう行っちゃうの?」

「うむ」


ゲンドウが膝を曲げしゃがみ込み
シンジと目線を合わせる。

「シンジ、お前は男の子だ。私が留守の間この家の事は頼んだぞ」

「--うんっ」

ポン。
シンジの頭を撫でる。


「良い返事だ」

「えへへ」


ニヤリ。
他人から見ると恐怖を抱くような悪い笑みを浮かべているように見えるが
シンジにとっては違うらしい。その辺りは親子といったところか。


「金剛君、色々迷惑をかけて申し訳がないが
シンジの一父親としてよろしく頼む」

「イエース!」

「ではな」

「お父さん、いってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」


***

シンジと別れ次の目的地に向かうゲンドウ。


「司令、こちらの件についてですが…」


秘書と思われる人物との会話している最中、
ユイが言っていた"提督適正"について考えていた。
感と言ってたが妻が口にした以上、ほぼそうなるだろう。
声にならない溜息を吐く。


私は決断しなければならないのだろうか。
ゲンドウのサングラスの奥に隠れた瞳が僅かに揺らいだ。


「ああ、問題ない」


その言葉は秘書に向けての言葉であったが、
どこか自分自身に言い聞かせているようだった。



シンジはその人物が苦手だった。


「よう、がり勉。お前いっつも本ばっか読んでんな」

「別に、いいじゃないか」


無遠慮に自分の世界に土足で踏み込んでくるから。
1人にさせてほしいのに。


「人数たりねーんだ」

「今日は何するの?」

「サッカーだよ」

「僕が入ったら負けちゃうし…」

「お前はオレの所はいるんだから気にすんなよ」

「でも…」

だが、憧れてもいた。
正直にストレートに自分の気持ちを表現できる彼女に。


「うるせーなぁ! ほら行くぞ!」

「ま、待ってよ! 麻耶!」


***


「やった! 勝ったー!」

「あの摩耶にかったぜ!」

「残念だったなー」


「チッ、うぜえ!」

僕のせいで負けた。
せっかく摩耶が誘ってくれたけど悔しかった。

「やっぱり、僕のせい…」

「はあ? まだそんな事言ってんのか。
気にすんなつってんだろうがっ!」

「…ぼく、帰るっ」

そう言い残し鞄を拾い走り去っていくシンジ。


「お、おいっ…!」

「…チッ」

****


「それで、摩耶を怒らせちゃったんだ…」

「なるほどですネ」

「それは明日ちゃんと謝らないとノーですネ」

「うん…」


シンジは金剛に今日学校で起きた事を話していた。
"毎日の出来事は食卓で話すこと"
金剛が一緒に暮らしていく上でシンジと決めた約束毎の1つであった。


「やっぱりスポーツとか苦手で…」

「最初から全てうまくいく人なんていませんヨ」

「そうかな…?」

「イエース! お姉ちゃんだって色々と上手くいかなくて苦労してるんですヨ?」

「金姉ちゃんが…」


少し苦い表情を浮かべる金剛。
シンジにとって金剛は何でもこなせて完璧な姉のイメージだった。
それだけに今の言葉はシンジにとって意外だった。


「それに友達なんですから一緒に遊びたいのは当然だと思いマース」


「ともだち…ぼくと摩耶って友達…なのかな?」


呆れた表情を浮かべる金剛。
シンジの傍らに近づく。


「シンジ」

パチンッ
かなり弱めた力ではあるが金剛がシンジの額に指ではじく。

「い、いたい」

「それはとっても摩耶ちゃんに失礼デス、シンジは友達だと思ってなかったんですカー?」

「ぼ、ぼくは…」

思い返す、自分の感情を。
誘われる時は少し嫌、自分のしたい事が出来ないから。
遊んでる時は、うまくいかないけど楽しい。
一緒にいる時は、怖いこともあるけど摩耶と居るといつもワクワクした。


「分からない…けど友達になりたい」

「ならシンジが素直に言ってみればいいんデス」

「素直に…?」

「イエース。友達になってくださいって。
悩んだときは考えずにまずは行動するネ」

「金姉ちゃん…。うん、頑張ってみる!」

「イエース! 頑張るネー、シンジ」


***



「摩耶!」

「あんだよ」

「昨日はごめん!」

「あっ…?」

「ああ、別に気にしてねーよ」

「本当?」

「ああ」

「ぼく、誘われて嬉しかったんだ。でもやっぱり足手纏いになっちゃうから…」

「だーかーらー! 誰もんな事気にしねーって!」

だが、そこで一旦言葉を区切る摩耶。
ニヤリとした表情を浮かべる。

「まあそんなに気になるんだったら特訓だな!」

「え…えぇ~」


「ね、ねえ」

「んー?」

「ぼ、ぼくと友達になって!!」


「…は?」


摩耶が怪訝な表情を浮かべ、
それを見たシンジの体が強張る。

(やっぱり駄目なのかな…)


「友達だと思ってたのはオレだけかよっ!」

「摩耶…」


「ほ、本当に?」

「ったりめーだろ! 誰がこんなくだらない冗談言うかよ」

「良かった…」


「ってお、おめえ泣くなって…」

「な、泣いてないよ!」

「はははっ、おまえやっぱ泣き虫だなぁ!」


豪快に笑う摩耶。
僕はもう一歩踏み出してみることにした。


「シンジ」

「あ?」

「おまえじゃない、僕の名前、シンジだ」

「ああ」

「シンジって呼んでよ」


摩耶が少し照れた表情で頭をかく。


「わかったよ、シンジ。 これで良いか?」

「うん!!」


「ったく、そんな事、気にしてたのかよ。早く言や良いのに」

「摩耶が強引だから言う機会がなくって」

「ああっ!?」

「えへへ」


昨日までの摩耶の言葉が少し怖かったけど、
今は何故か心地良い。
少しだけ摩耶の事が分かった気がする。


「ま、いいや。 今日も遊ぶぞ!」

「うん!!」

「でも、たまには本も読もうよ、楽しいよ」

「げっ……」

「眠くなるんだよなぁ…」

「そんな事ないよ! 面白いよ、おすすめ教えるから」


心底嫌がる表情を浮かべる。
すぐに否定されないのがちょっと嬉しかった。


「仕様がねえな、じゃーお前が勝ったらな!」

「え!?」

「おら、早くいくぞーーー」

「待ってよーー!}


ただ、僕が彼女に勝てるのはまだまだ先みたい。
色んな意味で。

ちなみに摩耶の特訓はかなりキツかったけど、
お蔭であの時、負けた相手を見返すことが出来た。
それを金姉ちゃんに話したら凄く褒めてくれた。えへへ。
うん、ありがとう摩耶。



日曜の朝。
多くの人達が休日であろう1日である。
シンジもまたこの日を待ち望んでいた。


「おーい、シンジ」


閑静な住宅街に子供の声が響く。
それはシンジのよく知る人物の声だった。


「摩耶だ!」

今か今かと待ち構えていたシンジが勢いよく飛び出していく。
慌てて転びかけたがすぐに立ち上がり玄関にむかい扉を開ける。


「ったく、朝っぱらから慌ただしいなぁ、お前」

「おはよう、摩耶。よく来てくれたね」

「んー、ま。暇だったし」

「どうぞ、中に入ってよ」

「おう、じゃあ失礼するぜ」


友達が家に遊びに来る。
初めての経験という事もありシンジの気分を高揚させていた。


「ここが僕のお部屋だよ」

「へー、随分かたずいてるな」

「摩耶の部屋は違うの?」

「オレのは聞くな」


学校の摩耶の周辺を思い浮かべる。
あまり綺麗という印象はシンジに無かった。


「ふーん、確かに」

「お前、いま失礼な事考えただろ」


摩耶がシンジの頭を両手で掴み力を込める。


「い、痛いってば。離してよ」

「お前が謝るまで離さんっ」

「何も言ってないじゃん」


確かに何も言われていない。
だが、このまま見逃すのも何か癪に障る。
悩んでいると聞きなれない声が響き手を離した。


「シンジー、ちょっと失礼するネー」

「金姉ちゃん! うん、いいよー」


「これ、自由に食べてくださいネ」


金剛の両手にはジュースが注がれたコップと
ティーカップ、そしてお菓子が並んでいた。


「摩耶はジュースで良いですカー?」

「はい、ってどうしてオレの名前を」

「シンジからいつも聞かされてるネ」

「こ、金姉ちゃん」


身内から友達事情をバラされてシンジの顔が赤く染まる。
照れくささが伝染したのか摩耶の表情も同様に少し赤くなっていた。


「はー、ばっか。おめー。本当、オレがついてなきゃダメだな~」

「そ、そんなこと…」

「あるかも…」

「そこは否定しろよっ」

「ふふっ、2人ともとっても仲良しネ」


「だけど摩耶は女の子ですから、もっと可愛い言葉を使った方がいいネ」

「か、かわいい??」

「イエース、"オレ"よりも"ワタシ"とかの方がキュートだと思いマース。
日本語は使い分けないと駄目ですヨ」


それはあんたに言われたくない。
言葉が喉まで出かかったが飲むこむ。

「摩耶はとってもキュートネ! そうですネ。
洋服も可愛いのを着てみませんカー?」

「お、おれはこれの方が動きやすいし…」

「うーん、勿体ないデース。 シンジ、麻耶を借りてくネ」

「え!? ちょ、ちょっと!?」

「問答無用デース」

「シンジ―――――――――! 助けろおおおおおおおおおおおおお」


突然の展開に茫然としているシンジ。
ズルズルと金剛に引きずられて摩耶の姿が段々と視界から消えていく。



「金姉ちゃんに摩耶をとられた…」

ポツンとし1人残された部屋。
呟きが空しく響いた。





「調子はどうだ」

「あまり良いとは言えないわ。
彼女自身はかなり優秀なんだけど」

「戦力としては不十分、という事か」

「相性が良い提督が見つからないのよ。
まぁ彼女は単艦でも日本で勝てる艦娘はほとんど居ないわ」


"超弩級戦艦 金剛 提督システムにおけるシンクロについて"
報告書を眺めつつゲンドウの問いに答えるユイ。


「その強さが故の戦艦級なんだけどね、扱いが難しいところね。
有力な提督候補が見つかればいいんだけど」

「ふむ、しかし要員補充は厳しいな。予算が足りない」

「分かってるわよ」


声に若干の苛立ちを混ぜつつ答える。


「ドイツに支援をお願いしようかしらねぇ」


自身の言葉でドイツの天才少女について思い出す。
史上最高と呼ばれる実績を数値としても明確に表していた。
そういえば彼女はシンジと同世代だったはず。


「…想定より早いけど本気で考えてみようかしら」

「何をだ」

「なんでもないわ」


ゲンドウがユイの言葉について追及しようとするが
言わせるまもなく次の悩みのネタを提供してくる。


「それに金剛ちゃんの体調もあまり良いとは言えないの」

「シンクロにおけるデメリットの事か?」

「ええ、感情の伝達の方ね。
まぁ本来なら必ずしもデメリットになるわけじゃないんだけど。
あの子達の歳ぐらいだとね…」

「難しいところだな」

「提督レベルが高いとその辺りは制御できるようになるはずだけど」


東洋最高の頭脳と言われたユイであったが、全てが万能にこなせるわけではない。
日本における提督レベルはまだ低さはまだ悩みの種でもあったが、
他にも解決しなければならない問題は山ほどあった。

「いっそ、深海棲艦がもっと攻めてこれば予算に融通がきくんだけどね」

「やめてくれ」


***


「シンクロテスト完了です。お疲れ様でした」


「おつかれさまデース」


シンクロテスト。
金剛はこの訓練について良い印象を抱いていなかった。
シンクロ中は心の中を無理矢理覗かれているような感覚がするのだ。
正直言って気持ち悪い。


「おつかれ、金剛ちゃん」

「おつかれさまデース」


声を掛けてきたのは先程シンクロテストで訓練が一緒だった提督候補の男性だ。
見た目は爽やかでありおおよその人が好印象を受けるであろう。

だが、体が拒否反応を起こしてしまう。


「今日この後、空いていない?」

「ちょっと用事がありますネー…」

「そっか残念だなぁ。金剛ちゃんとディナーを楽しみたかったんだけど」

「ソーリー」


シンクロ率の向上には親密度に関係がある。
その定説が原因なのか艦娘と提督は比較的同世代から選ばれる場合が多く、
また日本における提督候補の男女比率は男の方が高かった。

金剛は十分美少女と呼べる容姿をしている。
異性が意識するなというのが難しい注文かもしれないが、
無遠慮にぶつけられる---性的な感情が金剛を苦しめていた。


「また今度だね、約束だよ」


そう言いつつ金剛の髪に触れようとするが
手でそれを払い距離を取る。


「そうですネー、でもあまりこういうスキンシップは得意じゃないですネ」

「金剛ちゃん、意外と初心だね。 そういう所も素敵だよ」

「…褒め言葉として受け取っておきますネ」

「うん、それじゃあまたね。金剛ちゃん」


「ハァ~…」

パチーン。
己に喝をいれるため頬を叩く。


「頑張らないとデスネ。こんな顔していたらシンジが心配してしまいマス」


己に喝を入れなおすが心の靄は晴れそうになかった。




こ、ここにお姉様が!!

お姉様から頂いたお手紙の住所だとこのお家のはず。


シンジの家の前に1人の少女が佇んでいた。

遠くから来たためか額に汗が浮かんでおり疲労の色が見えた。

とはいえ、こまで来れた行動力はかなりのものだった。

それでも年相応な子供に変わりはない。

辿り着いたという安著から感極まりずっと堪えていた涙が溢れでていた。



「やっと、やっと…! お姉様ぁ」


チャイムを鳴らす。

扉の向こう側で人が近づいてくる気配がする。


ガチャ。

扉が開く。


お姉様!!!


感極まり、興奮そのままにドアの向こうの人物に勢いよく抱き付く。



「お姉様~~~~~~!!! お姉様!お姉様!お姉様!!!!」

「比叡は! 比叡は寂しかったですーーーー!!」



あー、お姉様はやっぱり良い匂いがします!

でも、なんだか少し小さくなったような…。

いえ比叡も成長しているからでしょうか!


「え、えーっと…」

「誰かと間違えてない? かな」



あれ…?

相手を確かめると自分と同世代と思われる男の子だった。

顔を真っ赤にして声が出ず口をパクパクさせる。



「お、落ち着いて、ね?」

「ひ、ひえーーーーーーーー!!!」

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