【艦これ】 時雨「痩せ蛙」 (14)
今晩ふと思いたって書いた短編
数レスで終わります
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その日彼はザーっという微かな音で目が覚めた。
冬の早朝、その身に滲みいるような寒さに顔をしかめつつふと昨晩布団に潜り込んできたいてはずのものの感触が無いことに気づいた。
提督「…トイレだろうか」
外はどんよりと薄暗い。
彼は未だに布団にくるまって寝入ろうとする自らの惰性を振り切って洗面所へと向かうことにした。
その途中、バルコニーの隅に少し癖のある黒髪が深夜に降り出したのであろう小雨に濡れて艶やかに佇んでいるのが見えた
提督「時雨…」
ドアノブを回し外へ出る。
その音に彼女はこちらを一瞥しただけでまた元の方向へ顔を戻してしまう。
提督「…風邪引くぞ」
時雨「提督…ボク、夢を見たんだ
皆がいなくなっちゃう夢」
「扶桑が…最上が…みんなどんどん消えて行っちゃうんだ」
「…そして、気がつくと暗い中にボク一人、周りには誰もいないんだ」
「でね、その…ね…、あと「わかったもういい」」
彼女を自分の胸に引き寄せ声を遮った。
提督「…取りあえず戻ろう、このままじゃ体に障る」
ゆっくりと頷いた彼女の肩に手をまわしひとまず部屋へ戻る。
小さな体は震えていた。それは雨に打たれた寒さからだろうか、それとも思い出してしまった苦い過去、その哀しみからだろうか。
いや恐らくそ両方だろう。
部屋に戻り彼女には着替えるように言った。
あいにくここには彼女の着替えは置いていない。かといって彼女の部屋にとりにいくのはその部屋で眠っている他の子を起こしてしまうことになる、そして何よりこのまま彼女をおいていくことだけは避けなきゃいけないと思えた。それだけ今の彼女には危うさがあった。
─────────────────
結局その場しのぎで自分の寝間着を渡した。彼女も特に躊躇わずに受け取ってくれたので今は着替えも終わりベッドに腰掛けている。
古びた石油ストーブの炎が吊された服の向こうでユラユラ揺れている。
小林一茶だっけ?
提督「なあ…なんであんなところにいたんんだ」
コーヒーを淹れ、落ち着いたあたり尋ねる。
時雨「…ボクが雨は嫌いじゃないって言ったの覚えてるかい?」
確かに彼女は以前そんなこと言っていた。
両手で包んだカップの湯気を眺めつつ彼女は話を続ける。
時雨「雨はねボクを包んで塗りつぶしてくれるんだ」
「嫌な気持ちを流して落としてくれるんだ」
「─泣いてることをごまかしてくれるんだ─」
時雨「ボクはあの日から泣かないことにしたんだ」
「皆はボクが泣くとすごく心配してくれるんだ」
「普段扶桑の話しかしない山城ですらすごく哀しい顔をするんだ」
「…でもそんな皆はもういないんだ」
「だったらせめてこれ以上あの人たちを哀しませたくないと思ったんだ」
彼はただ静かに彼女の声を聴いていた。
時雨「でもね、たまに思い出すんだ」
「あの時ボクにもなにか出来たんじゃないかって」
「皆を助けられたんじゃんないかって」
「それで悔しくて寂しくて泣きたくなるんだ」
「でね、思わず涙が出てきちゃったんだ」
「そのとき雨が降っていたんだ」
「だから、これはボクの涙じゃなくって雨で濡れてるんだって」
「そう言えば皆を心配させなくて済むと思ったんだ」
「ボク自身をごまかせると思ったんだ」
彼女は話始めてからはなるべく普段のように明るくつとめようとしているようだった。
しかしところどころに滲み出る嗚咽がかえって彼の心を締め付ける。
提督「…それであの雨の中…泣いていたのか」
時雨「ごめんね、あのまま布団で泣いちゃったら提督心配させちゃうと思って」
「結局提督に迷惑かけてるよね」
彼は思わず彼女を抱きしめた。
突然のことに彼女は動揺を隠せずにいた。
時雨「どうしたんだい提督」
提督「お前は迷惑なんかじゃない」
「それに、お前にはまだ私がいる」
「だからもう強がらなくたっていい」
そのとき頑なに張られていた何か吹っ切れた。
彼女は彼の肩に大粒の涙を流し大声で泣き始めた。
その姿は幼く、しかしながら彼女の見た目相応等身大の姿だった。
しばらくして彼女の涙も収まり再び部屋が落ち着きを取り戻した頃
提督「落ち着いたか?」
時雨「ごめんね、今日はボクがその、沈んだときのこと思い出しちゃっただけなんだ」
「だから、もう大丈夫だから…ありがとうね?」
気がつくと雨も止み、雲の隙間から薄い光が指してきていた。
時雨「雨はいつか止むさ。なんてね」
そこにはいつも通りの明るい笑顔があった。
─今日は1月25日─
─大丈夫、あなたは今も笑えているわ─
以上で投下終了となります。
読んでいただいた方ありがとうございました。
>>5
はい、雨から連想して拝借しました。
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