―放課後の音楽室―
…♪~♪♪~♪~♪~♪~
ガララ…
男「やっぱり、セイ野さんだったか」
セイ野レン子「あっ…////」
セイ野レン子「男さん」
男「下の図書室で委員をしていると、いつも聞こえてきて、つい聴き入っちゃうんだ」
セイ野レン子「やだっ…男さん、冗談がお上手ですね////」
男「いやいや、本心だよ、本心」
セイ野レン子「ふふふ、嬉しいです。でも、サボっていらっしゃいますと注意を受けるのではありませんか?」
男「もう図書委員の仕事は終わったんだ」
セイ野レン子「あら!もう外が暗くなっていたんですね!」
男「もうすぐ下校時間だな」
セイ野レン子「うっかりしてしまいました…」
男「帰ろうと思ったのに誘われて来てしまったんだよな」
男「好きなんだ、俺」
セイ野レン子「えっ!!?////」ドッキーン!
男「セイ野さんの歌声」
セイ野レン子「あ!?ああ!////」ポシュウ
男「今、歌ってたのってクラシックとかになるのかな?」
セイ野レン子「あ、っと、ええ…そうですよ」
男「正直、流行りの音楽以外に聴く趣味は無いんだ、俺」
男「それでも…そんな俺でも…」
男「とても綺麗で」
男「もっと聞きたいって誘われるような」
男「魅力を感じるんだ、セイ野さんの歌声は」
セイ野レン子「私(わたくし)の歌をそんなにまで誉めて頂いて…。ありがとうございます」
セイ野レン子「お世辞でも嬉しいです」
男「お世辞じゃないさ」
男「歌うの、好きなの?」
セイ野レン子「ええ。生まれた時から、私は歌と共に過ごしてきましたから…」
男「お母さんは確か、声楽家…だったっけ?」
セイ野レン子「ご存知でしたか?」
男「まあ、少し小耳に挟んだだけなんだけど…」
セイ野レン子「父も、オペラの公演で世界を飛び回っているんですよ」
男「へえ!すごいな!」
男「そりゃ、歌が上手くて当然だな」
セイ野レン子「そんな…私なんて…。お父様お母様と比べるとまだまだです…」
男「偉そうに言える立場じゃないけど」
男「そういう、単純な上手いとか下手とかじゃなくて…」
男「とにかく良いんだ、セイ野さんの歌は」
セイ野レン子「ありがとうございます」ニコッ
男「また、聴きにきていいか?」
セイ野レン子「私の歌で良ければいつでもどうぞ!」
男「なら、また聴きに来させてもらうよ」
セイ野レン子「でも、図書委員のお仕事はサボっちゃダメですよ?」
男「さすがは、学級委員。抜け目ないな」
セイ野レン子「ふふふ」クスクス
男「それと…もうひとつ…」
セイ野レン子「はい?」
男「こんなこと、ホントは今聞くべきじゃないのかもしれないけど…」
セイ野レン子「は、はい…」ゴクリ
男「初めてセイ野さんを見たときから」
男「ずっと、気になってたんだ」
セイ野レン子「えっ!?////」
セイ野レン子「えええええっ!?あのっ…ややややっぱりっそれって…?えっ?////」
男「セイ野さん…」ジッ…
セイ野レン子「はぁひぃんっ!!」ドキドッキーン!!
男「首筋…、うなじの少し下あたりから生えてる翼はいったい何だ?」
セイ野レン子「…」
セイ野レン子「え」
男「ずっと気になってたんだ」
セイ野レン子「ななナンノコトでしょウ?」ボハッ
男「…羽、すんげぇ逆立ってるぜ?」
セイ野レン子「ひゅぐっ…」
男「俺、昔から霊感が強いっていうか、よく視えるんだ、特異なモノが」
セイ野レン子「…」
男「セイ野さんの事も、どうやら俺だけらしい…」
セイ野レン子「…」
男「そんなだから周りに聞くなんてできないし」
セイ野レン子「…」
男「だから、いつか聞けたらって思ってたんだけど…」
セイ野レン子「ちゃんと隠していたつもりだったんですが…」
セイ野レン子「…もう少し気を引き締めねばなりませんね」
男「え?」
セイ野レン子「少し慢心していたようです」
男「はい?セイ野さん?」
セイ野レン子「これからはこのようなことが無いようにしないと…」
男「は?意味がわから セイ野レン子「男さん」
男「はいっ!?」
セイ野レン子「すぅ…」
♪♪♪~♪~♪~♪~~
♪~♪♪~♪~♪~
セイ野レン子「…ふう」
セイ野レン子「これでこれからは、また普通のクラスメイト、ですよ」ニコ
男「…」
セイ野レン子「では…また明日」
男「ちょ、ちょっと!?」
セイ野レン子「…え」
男「また明日、じゃないよ!」
セイ野レン子「えっ!?」ビク
男「いや、セイ野さんの歌は好きだぜ?」
男「でも、今はその首筋の翼が気になってんだって!」
セイ野レン子「嘘…!?も、もう一度!!」
♪♪♪~♪~♪~♪~~
♪~♪♪~♪~♪~
男「だーかーらー!」
セイ野レン子「そ、そんなっ…!!」
セイ野レン子(『忘却の歌』が効かない!?)
男「触れちゃいけなかったのかもしれないけど…」
セイ野レン子(詞、音程、テンポ…)
男「どうしても気になっちゃって…」
セイ野レン子(…いや、狂ってはいない!完璧だったハズ!!!)
男「…ごめん。ちょっと話して、流れで聞いてしまって…」
セイ野レン子(もう一度っ!!)
♪♪♪~♪~♪~♪~~
♪~♪♪~♪~♪~
男「あの?セイ野さん?」
セイ野レン子「…うそ…嘘…なぜ?」ガクガク
男「えっと…」
セイ野レン子「あ、ああ…あ、あのっ、お願い、します…」
男「せ、セイ野さん?」
セイ野レン子「私の事は…この事は…、誰にも、言わないでっ…下さい…」
男「え?」
セイ野レン子「なっなんでもっ、あなたの仰る事を聞きますからっ…!」
セイ野レン子「どんな事でもっ従い…ますから…!」
男「はあっ!?」
男「何言って…?え??」
セイ野レン子「…お願い致します」
ダッ!
男「お、おいっ!?」
ダダダッ!
男「ちょっ、ちょっと待てって!」
男(マズイこと聞いちゃったか…)
キーンコーンカーンコーン
校内放送「間もなく、下校時刻です」
校内放送「クラブ活動、委員会など、用のない生徒は下校しましょう」
校内放送「間もなく………」
男(セイ野さん…、何なんだろう?あの翼は…)
――
―
―翌日―
ガヤガヤ
オハヨー!
オハヨー!
セイ野レン子「あ」
バッタリ
男「あ」
セイ野レン子「あの…男さん…」
男「おはよ」
セイ野レン子「…え、あ!おはよう、ございます」
男「全く…、あんなに慌てて帰ることもないだろうに…」
セイ野レン子「…ごめんなさい」
男「いや、こっちも急に悪かった」
セイ野レン子「昨日の事…」
男「ああ」
クラスメイト「セイ野さーん!」
セイ野レン子「は、はいっ!」
クラスメイト「先生がホームルームで配るプリント取りに来てくれってさ!」
セイ野レン子「あっ、はっはい!わかりました!」
男「セイ野さん」
セイ野レン子「はっ、はひぃっ!」ビクッ
男「そんなに怯えなくていいから!」
セイ野レン子「…ごめんなさい」
男「放課後、音楽室に」ボソ
セイ野レン子「え?」
男「今は時間がないし、人が多いから…」
セイ野レン子「わかりました…」
男「悪いようにはしないし、安心して構わないから」
男「先生が呼んでるんだろ?」
セイ野レン子「は、はい」
男「また放課後にな」
セイ野レン子「はい…」
――
―
―
――
教師「……であるから、この文章から作者の心情はこのように推察されます」
セイ野レン子「…」
教師「また時代背景も作品に影響を与えたようで…、……」
セイ野レン子「…」チラ
男「…」カリカリ
教師「特にここの文章などは…、……」
セイ野レン子「…」ジーッ
…
……
………
―昨日・セイ野邸―
バターン!!
セイ野レン子「お母様っ!お母様ぁっ!」ダダダッ
お手伝いさん「お、お嬢様っ!?そんなに慌てていかがなさいましたか!?」
セイ野レン子「あのっ…お母様は?どこにいらっしゃいますかっ?」
お手伝いさん「あ、はい。奥様なら、自室にいらっしゃるかと」
セイ野レン子「ありがとうございます!」
ダダダッ
――
ドバターン!!
セイ野レン子「お母様ぁっ!!」
レンママ「きゃあっ!」
レンママ「レンちゃん!そんなに乱暴にドアを開けて!はしたないわよ!」
セイ野レン子「そんな事よりっ、どうしましょう!一大事ですっ!!」
レンママ「…どうしたの?」
セイ野レン子「それが…」
――
レンママ「ふぅん…正体がバレた上に、歌が効かなかった、か」
レンママ「…さぞかし慌てたでしょう」
セイ野レン子「…」コクン
レンママ「それで?その男の子には?」
セイ野レン子「その…気が動転していて…、『なんでも言うことを聞きます、従いますから他言はしないで』、と」
セイ野レン子「そうお願いして」
レンママ「相手の反応も、ろくに見ずに帰って来ちゃった、と」
セイ野レン子「…」コクン
レンママ「アホね、レンちゃん…」
セイ野レン子「あ、あ、アホっ…!?」
セイ野レン子「こちらはっ…本当に慌てていてっ…!」
レンママ「わかっているわ」
レンママ「でもその対応は、無策で無謀で無防備すぎるわねぇ…」
セイ野レン子「た、確かに落ち着いて考えると、とんでもないことを言ってしまいました…」
レンママ「成績は申し分ないのに…」
レンママ「ホント、もう少し柔軟なアタマになってほしいわねぇ…はあ」
レンママ「もし危険な目に遭ったらどうするの?」
セイ野レン子「は、はわわわ…」
レンママ「翼が視えてしまったのは、レンちゃんがその子の力を甘く見ていたから」
レンママ「希にそういった人も居るということよ。油断したわね」
セイ野レン子「…猛省しております」
セイ野レン子「しかし、歌が効かないというのは聞いた事がありませんでした」
レンママ「…そうね」
レンママ「それに関しては、ママもあなたにちゃんと教えなかったから、それがいけなかったとも言えるけど」
セイ野レン子「え?」
レンママ「私達の歌には、ある秘密があるの」
セイ野レン子「秘密?」
レンママ「『忘却の歌』がその男の子に効かなかった理由よ」
レンママ「レンちゃんはまだそういう事には興味が無くて」
レンママ「お堅いからまだまだ早いと思っていたけど…」
レンママ「…そうね、もう高校生だもの」
レンママ「あなたも年頃の乙女になったのよね」
セイ野レン子「ど、どういうことですか?」
レンママ「私達の歌はね…、……」
……
…
セイ野レン子「…」チラリ
男「…」
セイ野レン子「…」ジーッ
教師「……、…では、セイ野さん」
セイ野レン子「…」ジーッ
教師「セイ野さん?」
セイ野レン子「はわっ!!」ガタン!
男「!」
教師「今の質問、聞いていましたか?」
セイ野レン子「あ、あああのっ…」
セイ野レン子「も、申し訳ありません。聞いていませんでした…」シュン…
教師「セイ野さんが珍しいですね。体の調子でも悪いんですか?」
セイ野レン子「あの…いえ…、ご心配なく」
教師「そうですか。では次はしっかり聞いていてくださいね」
セイ野レン子「…はい」
男「…」
―――
――
―
―昼休み―
レン友「レンぴょん、珍しいね。授業中に上の空なんて」
レン友「それも何度も」
セイ野レン子「え、ええ。少し考え事をしておりまして…」
レン友「良かったら相談に乗るよ?」
セイ野レン子「あ、いえっ!そのように、ご心配頂く程の事ではありませんので」
レン友「そう?ま、友達なんだから、頼ってくれても構わないんだよ?」
セイ野レン子「ありがとうございます」
レン友「気にしない気にしない!」ニコッ
セイ野レン子「では…、あのぅ…」
レン友「ん?」
セイ野レン子「この学校に、化け物が出るとか…」
レン友「は?」
セイ野レン子「怪物が紛れ込んでいるとか、変な噂、聞いていませんか?」
レン友「…」ヒタ
セイ野レン子「???」
セイ野レン子「あ、あの…友さん?」
レン友「熱は無さそう、と」
セイ野レン子「えっと…」
レン友「あのね?」
セイ野レン子「はい?」
レン友「小学生じゃあるまいし、何を言ってんのよ?」
セイ野レン子「あ、あはは、そうですよねっ」
レン友「今じゃ小学生はおろか、幼稚園児だって信じないわよ、そんなの!」
セイ野レン子「で、ですよね!」
セイ野レン子「わ、私、少々このテの話が苦手でして…////」
ツン
セイ野レン子「あうっ!?」
レン友「んふふー♪」
ツンツン
セイ野レン子「どうしておでこをつつくんですか!?」
レン友「レンぴょん、かーわいいー!」
ツンツンツン!
セイ野レン子「んやぁあぁ?」
レン友「んふふー♪」
――
―
―放課後・音楽室―
ガララ…
男「や、お待たせ」
セイ野レン子「いえ…」
男「その、色々迷惑かけてごめん」
セイ野レン子「え!?」
男「悩んでるみたいだったから。俺が余計な事を言ったばっかりに」
セイ野レン子「いえ、そのような事は…」
男「授業も上の空っぽい感じだったし…」
セイ野レン子「…」
セイ野レン子「それより…、ありがとうございます」ペコリ
男「え?」
セイ野レン子「この翼の事」パッタパタ
セイ野レン子「黙って頂いていて…」
男「ああ」
セイ野レン子「ですから、そ、その…や、約束通り、男さんに、従います…」
男「えっ!?」
セイ野レン子「昨日、言いました通り…」
男「ちょーい待ち!」ピシャリ!
セイ野レン子「え?」
レスありがとうございます
スマホの操作に慣れず、いささか投下が遅れる事もあるかと思いますが、最後までお付き合い頂けると幸いです
よろしくお願いいたします
男「あのさ?確かにその翼は不思議っつーか、あり得ないっつーか…、セイ野さんが、他の子達とちょっと違うのはわかる」
セイ野レン子「…はい」
男「でも」
男「それで、今まで何かヤバイ事起こしたか?」
男「そのせいで、今まで誰かに迷惑かけたか?」
セイ野レン子「…いえ、そのような事は無いように、日々努めております」
男「じゃあ、むしろ今の状況は」
男「俺の方がセイ野さんに迷惑かけちゃったんだよ」
セイ野レン子「ええっ!?」
セイ野レン子「い、いえっ!そのような事ありませんよ!」
男「セイ野さんは、首から翼が生えてちょっと変わってるけど、学級委員長で真面目な普通の女の子…」
男「なのに、すまなかった」フカブカ
セイ野レン子「お、男さん!?」
男「セイ野さんは嫌だったろうに、俺が視えるせいでズカズカ探っちゃって…」
セイ野レン子「と、とにかく顔はお上げになって下さい!」
男「…うん」
セイ野レン子「た、確かに最初は驚いてしまいましたが、人間社会に紛れて暮らしている以上、仕方のない事といいましょうか…!」
セイ野レン子「今まで、この翼が普通の方に視えた事がなかったもので…!」
セイ野レン子「私の未熟さというか、読みの甘さといいますかっ…」
セイ野レン子「逆に、男さんが冷静でいて下さったから、大事に至らなかったといいますか…!」
セイ野レン子「どうか、気になさらないで…」
男「うん」
男「あ!でもひとつだけ!」
セイ野レン子「はい?」
男「仮にセイ野さんがどんなだとしてもだ。女の子の弱みを握って、それで脅したりしないからなっ!?」
男「そこは勘違いしないでくれよな?」
セイ野レン子「男さん…」
セイ野レン子(この方になら…男さんなら…私の秘密を…!)
セイ野レン子「…」ゴク
セイ野レン子「…今回の出来事の秘密、私の正体、男さんにお話し致します」
男「い、いいのか?それ」
セイ野レン子「もちろん他言無用ですが」
男「ああ、わかってる」
セイ野レン子「お願いしますね」ペコリ
セイ野レン子「実は私…」
セイ野レン子「…ヒトとは違う、セイレーンという種族なんです」
男「せ、セイ…レーン…?」
セイ野レン子「遥か昔、魔性の歌で船乗りを惑わせ、船を沈める海の魔物として」
セイ野レン子「船乗りの間では恐れられていました」
男「海の魔物…」
セイ野レン子「そ、そうは言いましてもっ、決して恐ろしい存在ではないんですよっ!」
セイ野レン子「そもそも私達セイレーンはただ歌う事が好きで、海の岩場や砂浜で歌っていただけなんだそうです!」
セイ野レン子「その歌声に聴き入ってしまった船乗りの方々が、操船を誤り、次々と海難事故を引き起こしただけなんです!」
男「とばっちりじゃないか」
セイ野レン子「そのせいで私達のご先祖様は、魔性の怪物…魔物として知られるようになりました」
男「大変だったんだな」
セイ野レン子「いえ、悪いことだけではありませんでした」
セイ野レン子「自らの歌の魅力に気づいたご先祖様方が、その歌を基礎に、セイレーンの魔力と掛け合わせ」
セイ野レン子「様々な効果を持った歌を作り出したそうなのです」
セイ野レン子「癒し、誘惑、幻惑、睡眠…」
セイ野レン子「その力を使い、人間社会にたくさんの恩恵をもたらし」
セイ野レン子「ときには、社会を裏から操った事もあったとか…」
男「それはそれですげぇな…」
セイ野レン子「その歌で種族は、ずいぶんと栄えたそうなんです」
男「ふーん…」
男「で、その繁栄していたセイレーン族が何故人間社会で暮らしているんだ?」
セイ野レン子「単純には環境の変化です」
セイ野レン子「中世には、航海技術の発達により、たくさんの船が行き交うようになりました」
セイ野レン子「その中で、船との事故が多発したそうです」
セイ野レン子「また、人も進歩し、繁栄してくると私達の歌のような非科学的なモノは信じなくなってきました」
男「…」
セイ野レン子「そうして廃れていくうちに、丘に移住したと伝えられています」
男「そうだったのか…。ワリィ、なんか嫌な事聞いてしまって…」
セイ野レン子「い、いえっ!大昔の事ですし、気になさる必要などございませんよ!」
セイ野レン子「私のように、素性を隠して生活しなくてはなりませんが」
セイ野レン子「丘に移住した他のセイレーンの方々も、それなりに代々幸せに暮らしています」
セイ野レン子「無論、私も幸せです」ニコ
男「…そうか」
男「あ、そうだ!昨日の事で気になった事があるんだ」
セイ野レン子「はい?」
男「もし、今回みたいに素性がバレた場合」
男「それをネタに脅されたりしたら危ないんじゃないかって」
セイ野レン子「そのための能力が先ほどお話した、ご先祖様の魔法の歌です」
セイ野レン子「その中に相手の記憶を消す歌があります」
男「なるほど…」
男「あれ?でも、俺には効かなかったじゃないか?」
セイ野レン子「う…、そ、それはですね…」タジッ
セイ野レン子(どっ、どうしましょう!?)
セイ野レン子(歌が効かない理由をお伝えすると、男さんに迷惑に思われてしまうかもしれませんっ…!!)
セイ野レン子「え、ええと…」
…
……
セイ野レン子「秘密?」
レンママ「『忘却の歌』がその男の子に効かなかった理由よ」
レンママ「レンちゃんはまだそういう事には興味が無くて」
レンママ「お堅いからまだまだ早いと思っていたけど…」
レンママ「…そうね、もう高校生だもの」
レンママ「あなたも年頃の乙女になったのよね」
セイ野レン子「ど、どういうことですか?」
レンママ「私達の歌はね」
レンママ「歌を聴かせるその相手に恋をしちゃうと、効かなくなってしまうの」
セイ野レン子「…」
セイ野レン子「…え!?」
セイ野レン子「えええええぇぇっ!?」
セイ野レン子「こ、ここここ恋!?私が!?どなたにっ!?」
レンママ「どなたにって…、だからその男の子でしょ?レンちゃんが恋したのは」
セイ野レン子「そ、その方とは…と、特に親しい間柄でもなく」
セイ野レン子「放課後、私が歌っているときによく聴きに来て下さっただけで…!」
セイ野レン子「私の歌が好きだとか、綺麗な歌声と褒めては頂きましたがっ…!」
レンママ「そりゃ、落ちるわ」
セイ野レン子「お、落ち…?」
レンママ「褒められて、どうだった?嬉しかった?」
レンママ「そのあと、どう思うようになった?」
セイ野レン子「さ、最初は恥ずかしく思いましたが」
セイ野レン子「幾度か聴いて頂くうちに、嬉しく感じるようになりました」
セイ野レン子「すると今度は、この方によく思われたい、もっと聴いて頂きたいと」
セイ野レン子「その方が放課後に訪れてくれないものかと…楽しみになりました」
レンママ「それが『恋』よ!!!」ビシッ
セイ野レン子「ひゃっ!?」
セイ野レン子「しっしかし、私はその方と深い関係になりたいとは…」
レンママ「でも何より、歌が効かなかったのが一番の証拠よ?」
セイ野レン子「むぐぅ…」
レンママ「恋のきっかけなんて、自分でも気づきにくい、ほんの些細なものよ」
レンママ「それでかまわないの!」
レンママ「そこから『恋』を実感していくものなのよ?」
レンママ「乙女は恋するもの!あなたも存分に恋しなさい!」
セイ野レン子「お母様…」
レンママ「ただーし!」
セイ野レン子「!?」
レンママ「対象者に恋をすると歌が効かないということは」
レンママ「セイレーンの能力は全て使用不可能!」
レンママ「ならば自らの身一つで相手を魅了させなければならない!!」
セイ野レン子「は、はぁ…」
レンママ「というわけで!」
レンママ「その男の子の事が気になるなら!」
レンママ「セイレーンとしてのあなたより!」
レンママ「一人の女としての力で!」
レンママ「その男の子を恋仲になるのですっ!!!」ビシィッ!!
セイ野レン子「はっ…」
セイ野レン子「はいぃっ!!」
……
…
セイ野レン子(お、お母様にけしかけられたようでもありますが…)
セイ野レン子(急に『あなたに恋したからです』なんてっ…!)ムム…
セイ野レン子(ああっ!それに、私の片想いなのですからっ…!)ムムム…
セイ野レン子(お断りされたりしたら、これからどう接してよいのやらっ!)
セイ野レン子(どうしましょどうしましょ!?)
セイ野レン子(どう誤魔化せばよいのでしょう!?)
セイ野レン子(男さんに悟られず、誤魔化すには…!!)
セイ野レン子(どうしましょったら、どうしましょ!?)
セイ野レン子「うぅむむ…」ムムムム…
男「あのさ?」
セイ野レン子「ひゃ!?////」ドキーン!
男「無理に言わなくていいよ?」
セイ野レン子「いいんですか?」
男「まあ、気になるっちゃ気になるけど、セイ野さんがセイ野さんであることには変わりないだろ?」
男「また変に探って、無駄に傷つけたくないし」
セイ野レン子「男さん…」
男「それにさ」
セイ野レン子「?」
男「俺はセイ野さんの歌声が好きだ」
セイ野レン子「あ////」
男「セイレーンの秘密に触れて、わだかまりが残ったりするとイヤだからな、ははは…」
男「これからも聞きたいし、歌」ニコッ
セイ野レン子「で、でもでもっ…、き、気味悪くはないのですか?」
男「何が?」
セイ野レン子「何がって…、歌で他人を操ったり、こんな風に翼が生えてる人外の存在なんて…」ファサファサ
男「さっきも言ったろ?セイ野さんはセイ野さんだって」
男「それに…、綺麗だと思うよ、その翼」
セイ野レン子「綺麗…////」
男「うん」
男「こんな綺麗な物が視れるなんて、自分の特異体質に感謝だな」
セイ野レン子「そ、そんなものですか?」
男「そうそう、そんなものそんなもの!」
男「セイレーンの歌の能力にしたって、真面目なセイ野さんが悪用なんてするワケないし」
セイ野レン子「もちろんです!」
男「じゃあ、今までのなーんにもセイ野さんと変わらないよ」
54訂正
?男「じゃあ、今までのなーんにもセイ野さんと変わらないよ」
○男「じゃあ、今までのセイ野さんとなーんにも変わらないよ」
男「だから、また…セイ野さんの歌、聴きたいな」ニコッ
セイ野レン子「あ////」ドキ
男「もちろんセイレーンの事は秘密にするから」
セイ野レン子「は、はいっ…是非っ!いくらでもお聴かせしますよ!」
キーンコーンカーンコーン
校内放送「間もなく、下校時刻です」
校内放送「クラブ活動、委員会など、用のない生徒は下校しましょう」
セイ野レン子「あ、もうこんな時間…」
男「今日は歌が聴けなくて残念だな」
セイ野レン子「ふふ、そう言って頂けるとやっぱり嬉しくなりますね」
セイ野レン子「私も聴いて頂きたかったです!」
男「休み、挟んじゃうな…」
セイ野レン子「週明けまでのお楽しみとなりますかね?」
男「うーん、じゃあさ…」
セイ野レン子「はい?」
――
―
―セイ野邸―
バターン!!
セイ野レン子「お母様っ!お母様ぁっ!」ダダダッ
お手伝いさん「お、お嬢様っ!?またそんなに慌てていかがなさいましたか!?」
セイ野レン子「あのっ…お母様は?どこにいらっしゃいますかっ?」
お手伝いさん「あ、はい。奥様なら、自室にいらっしゃるかと」
セイ野レン子「ありがとうございます!」
ダダダッ
――
ドバターン!!
セイ野レン子「お母様ぁっ!!」
レンママ「きゃあっ!」
レンママ「レンちゃん!またそんなに乱暴にドアを開けて!はしたないわよ!」
セイ野レン子「そんな事よりっ、どうしましょう!一大事ですっ!!」
レンママ「はあ…今度はどうしたの?」
セイ野レン子「あのっ…あ、明日…」
セイ野レン子「でででっ!」
レンママ「ででで?」
セイ野レン子「でででデートに誘われてしまいましたぁっ!!!」
レンママ「デート…ということは、例の男の子でしょ?急に進展したわね」
セイ野レン子「そそそそうです!男さんといいます!」
セイ野レン子「デートと言いましてもカラオケなんですが!!」
レンママ「いいじゃない。楽しんでらっしゃいな」
セイ野レン子「そんな悠長な!」
セイ野レン子「どうしましょ!どうしましょ!?」
レンママ「どうしましょって、行けばいいじゃない」
セイ野レン子「もちろん行きますとも!!」
セイ野レン子「しかし!」
セイ野レン子「服は!?」アタフタ
セイ野レン子「お化粧は!?」アタフタ
セイ野レン子「お小遣いなどは!?」アタフタ
セイ野レン子「あっ!おやつは300円まででしょうか!?」
レンママ「…はあ。レンちゃん、落ち着いて」
セイ野レン子「しかし、殿方とのデートなんて!」
セイ野レン子「初めてでどうしてよいのやら!」
レンママ「とにかく、デートにおやつはいりません!」
レンママ「それじゃ遠足になっちゃうじゃない」
セイ野レン子「あ、ああ…、そうですね…ふう…」
レンママ「落ち着いたらよく聞いて」
セイ野レン子「はい」
レンママ「いつものレンちゃんでいればいいのよ」
レンママ「変に着飾ったり、取り繕ったりしても、レンちゃんが疲れちゃうでしょ?」
セイ野レン子「は、はい…」
レンママ「それでなくても、好きな人とのデートですもの」
レンママ「少しでもレンちゃん自身がリラックスできる状況にしないと」
セイ野レン子「お母様…」
レンママ「でもね?」
セイ野レン子「はい?」
レンママ「下着だけは」
レンママ「イチバン良いものを着けていきなさい!」
セイ野レン子「し、した…?なぜですか?」
レンママ「殿方とのデート…」
レンママ「世界はまるで二人を楽しませるように光輝く」シャラン…
レンママ「『ああ…、今、私には何もかもが輝いて見えます』」
レンママ「『君の輝きの前ではどんな輝きも淡い…』」
セイ野レン子「お、お母様…?」
レンママ「しかし、楽しい時は瞬く間に過ぎてゆき…」シャララン…
レンママ「やがて別れの時間(とき)…」
レンママ「『私…あなたと離れたくありません』」
レンママ「『…レン子…』」
レンママ「どちらともなく、抱き締めあう二人…」
セイ野レン子「…!」ゴクリ
レンママ「切ないながらもロマンチックな雰囲気に二人の気持ちは高まり…!」シャララーン!
レンママ「『俺も…離れたくないな…』」
レンママ「彼の腕は私を一層強く抱き締める…」
セイ野レン子「…!!!」ゴクリゴクリ!
レンママ「『…なら、今夜は私と共に過ごしていただけませんか?』」
レンママ「『…いいのか?レン子…』」
レンママ「『ええ。構いません』」
レンママ「『私は貴方と一つになりとうごさいます…』」
レンママ「『身も…心も…』」
レンママ「『あなた様に全て捧げます…////』ポッ」
レンママ「そして二人は…」
セイ野レン子「ひゃっ…」
セイ野レン子「ひゃあああああっっ!!!!////////」ボッカーーーン!
パタ
レンママ「あ」
セイ野レン子「きゅうぅぅ?////」
レンママ「リラックスさせる冗談のつもりが…」
セイ野レン子「う?…////」キュウ?
―――
――
―
―翌日―
スタスタ…
セイ野レン子(まったく、お母様ったら!)
セイ野レン子(まだ手も握っていないどころか、お付き合いもしていないのに、あんなハレンチなことっ…!)
セイ野レン子(…)
セイ野レン子(…と、言いつつ、お気に入りを選んできましたが…////)
セイ野レン子(『…レン子…』)
セイ野レン子(////)
セイ野レン子(はっ!?////)
セイ野レン子(わ、私ったら何を考えて…!)
セイ野レン子(…待ち合わせまでまだ時間があります)
セイ野レン子(少し、落ち着…)
男「セイ野さん!」
セイ野レン子「ぃわあっ!?」ビクッ
男「ご、ごめん!」
セイ野レン子「あ、いえ!こちらこそすいません!大きな声を出して!」
男「いや、いいよ」
男「随分早くから来てたんだな」
セイ野レン子「楽しみにしていましたので、つい…」
セイ野レン子「って男さんこそ!」
男「うん、俺はまあ、女の子を待たせるワケにはいかないからな」
セイ野レン子「紳士、ですね」
男「そんな大層なもんじゃないだろ」
男「エチケットだよ、エチケット」
男「俺から誘ったんだしさ」
セイ野レン子「はい!誘って頂いてとても嬉しかったです!」
セイ野レン子「カラオケ!!」ウキウキ
男「そんなにはしゃぐもんでもないだろう?」
セイ野レン子「ずっと行きたかったんですよ!」
男「あんまり行かないの?」
男「見てる限り、友達も多いみたいだけど」
セイ野レン子「…一度、中学生の時に友達と行ったきり、です」
男「歌が好きっつーから、よく行ってるもんだと思ってた」
セイ野レン子「男さんと、だからですよ」
男「え!?」
セイ野レン子「あっ、えっ、そっその、深い意味ではありませんよ!?」アセアセ
男「う、うん」
セイ野レン子「…今はたぶん大丈夫だと思うんですけど」
セイ野レン子「以前は魔力の調節が不完全でして」
セイ野レン子「カラオケに友達と行ったときに、ついうっかり…」
男「魔法の歌を歌っちゃった?」
セイ野レン子「故意では無かったんですよ!?」
セイ野レン子「学校だと『授業』ということで、精神的に落ち着いて歌えたんです」
セイ野レン子「でもカラオケで」
セイ野レン子「好きな歌を好きなように歌っているとですね?」
男「うん」
セイ野レン子「カラオケという雰囲気もありますが、テンションが上がると言うんですかね?」
セイ野レン子「だんだん、気持ちよくなってしまいまして…」
セイ野レン子「いつの間にか、魔力全開で熱唱をしてしまいまして…」
男「…」ポカーン
セイ野レン子「それがトラウマになってしまって、行く事ができなかったんです…」
セイ野レン子「だから今日、誘って頂いて…」
男「ふふっ…」
セイ野レン子「?」
セイ野レン子「お、男さん?」
男「あはっ、はははっ!」
セイ野レン子「なっ!?」
男「ホンットっ、セイ野さんって、はははっ」
男「しっかりしてんだか、抜けてんだか!」クスクス
セイ野レン子「そっ、そんなに笑うなんてっ!」
男「あはは、ごめん。でも…ふふ…」
男「おとといも、『なんでも言うことを聞きますから』って」
男「突拍子もない事言うし!」クスクス
セイ野レン子「こ、こちらは本当に、真剣に気にしていて…」
セイ野レン子「その時は魔力が『眠り』に作用したようで、皆さん気持ちよく眠っただけで大事には至らなかったんですが…」
セイ野レン子「一歩間違うとっ…!」ギリッ
男「あ…そう、か…」
男「ごめん…」
セイ野レン子「やはり、私は…人外ですから、色々と気をつけて過ごさなければなりません…」
男「…うん」
セイ野レン子「先日、誰にも迷惑はかけていないと申し上げましたが…」
セイ野レン子「中学生時代の、この一件は、私にとっては大事件だったんです」
男「うん…」
セイ野レン子「だからっ…」
男「笑ったりしてごめん…」
男「セイ野さんにとっては…笑い事じゃなかったよな」
セイ野レン子「ええ…」
男「そうか…だから今日、こんなに楽しみにしててくれたのか」
セイ野レン子「…はい」
男「俺には魔法の歌が効かないから、存分に歌えるからな」
セイ野レン子「あっ、決して、そのために男さんを利用している、なんて事はありませんよ!?」
セイ野レン子「いつも私の歌を褒めて下さって」
セイ野レン子「そう言ってくれる方の前で思う存分歌えると思うと…」
セイ野レン子「とても…楽しみになってしまったのです」
男「うん、ごめんな」
セイ野レン子「いえ、私も少しキツく言い過ぎたかもしれません」
男「だからさ、今日は思いっきり楽しんで歌ってくれよ?」
男「俺のおごりだから、気にせずにな?」
セイ野レン子「いえっそんな!そこまでは悪いですよ!」
男「いいのいいの!誘ったのは俺なんだし」
男「いっぱい楽しんでくれよ!」
セイ野レン子「ではお言葉に甘えて…はいっ!」
男「あ」
セイ野レン子「…どうかしました?」
男「そういえば…今日は翼は見えてないな」
セイ野レン子「男さんに一度視破られたということは、他にもその可能性があるので」
セイ野レン子「隠すための魔力を多くしています」
男「それで俺にも見えないのか」
男「でも、なんか疲れそう」
セイ野レン子「まあ多少は…」
男「そうか。じゃあ、早く行こうぜ」
男「個室に入りゃ幾らかは、緩めれるだろ?」
セイ野レン子「ええ!」
セイ野レン子「では早速参りましょう!」タッタッタッ
男「おい、走って行くことないだろ」
男「ハシャギすぎじゃないか?」
セイ野レン子「え!?////」
セイ野レン子「だって…あの…////」
セイ野レン子「すごく楽しみにしていたんですもの!」
男「ま、まあ、そう言ってくれると嬉しいけど…」
セイ野レン子「でしょう?ささ、行きましょう行きましょう?!」
男「はははっ、わかったよ!」
―――
――
―
いくつかのレスで、半角?が表示されていると思いますが、>>1でも使っている「波線」が文字化けしているようです。
ご了承お願いいたします
―
――
セイ野レン子「あのっ…」
セイ野レン子「すいません…私ばかり歌ってしまって」
男「…いや、いいんだ。別に」
セイ野レン子「魔力全開で歌えると思うとつい…」
男「うん、いつにも増して綺麗だったと思うよ」
セイ野レン子「そ、そうですか////」テレテレ
男「でもさ?」
男「歌う曲、全部満点はやりすぎじゃないか!?」
セイ野レン子「え?」
男「定番のあの曲も!」
男「懐かしのあの曲も!」
男「難易度の高いあの曲も!」
男「満点連発って!」
セイ野レン子「えへへ…////」
男「最近流行りのあの曲に至っては!」
男「採点機能、エラーだとさ!」
セイ野レン子「あの曲だけは下手だったんですかね?」
男「逆だっ!!」
セイ野レン子「え?」
男「上手すぎなんだよ!上、手、す、ぎ!!」
男「採点メーターが振り切れたの初めて見たよ」
セイ野レン子「あは、あはは…////」
セイ野レン子「やはり、誰かに聴いてもらえると…嬉しくてつい…」
男「アイドルとか歌手とか、すぐになれそうだな」
セイ野レン子「え!?」
男「これだけ上手けりゃ、デビュー即ミリオン、間違いないだろ、はははっ」
セイ野レン子「いやっ、そんなぁ…」
セイ野レン子「プロの世界はそんなに甘くないですよ?」
男「だろうな」
セイ野レン子「お父様お母様でさえ、苦労されたようですから」
セイ野レン子「それに、仮にその才能が私に有ったとしても」
セイ野レン子「たくさんの方に聴いて頂くのは、やはり抵抗があります」シュン
男「そうか…トラウマ、か」
セイ野レン子「はい。私は…こうして好きなように歌う方が好きです」
セイ野レン子「それに…」チラリ
男「ん?」
セイ野レン子「…いえ」
セイ野レン子「…また、一緒に歌いにきて下さいますか?」
男「ああ。俺で良ければ、いつでもどうぞ」
セイ野レン子「やった!んふふっ!」ニコニコ
男「さて」
男「これからどうしようか?」
セイ野レン子「夕方5時を少し回ったところですね」
男「少し早いけど、もう帰る?」
セイ野レン子「あ…」
……
「しかし、楽しい時は瞬く間に過ぎてゆき…」
「やがて別れの時間(とき)…」
「『私…あなたと離れたくありません』」
……
セイ野レン子「…」ドキン
ゴクッ
セイ野レン子「あっ、あのっ…!」ドキッドキッ…
男「ん?どした?」
セイ野レン子「ももももし、このあと予定が無いようでしたら…」ドッドッドッ…
セイ野レン子「わちゃわたたたわたきゅしゅのっ!」
男「お、落ち着こう!な?」
セイ野レン子「は、はひぃ…」
セイ野レン子「すーはー…」
セイ野レン子「すーはーすー…」
セイ野レン子「はー…」
セイ野レン子「…あ、あのっ、このあと…時間がおありでしたら、私のっ…家で、少しお茶でもしていきませんか?」
男「えーっと…いいのか?」
セイ野レン子「はいっ!」
セイ野レン子「それに今日はお母様も家に居ますので、ご紹介をと…」
男「え゛っ!?」
セイ野レン子「い、いやっ、いややっ!違うんです!違うんです!!」
セイ野レン子「深い意味は無いんです!」
セイ野レン子「私の素性を知った事を、お母様にも理解して頂こうというですねっ!?」
男「あ…そうか、そうだよな、ははは…」
セイ野レン子「は、はい…。それで良ければ、ですけど」
男「うーん。そうだな…」
男「けっこうな秘密を見破っちゃったし、一言挨拶ぐらいはさせてもらおうかな…」
セイ野レン子「じゃあっ!」パァッ!
男「お邪魔させてもらいます」ペコ
セイ野レン子「はい!」ニコニコ
セイ野レン子「少し電車に乗りますけど、早速参りましょう!」
――
―
―
――
男「…豪邸」
セイ野レン子「お父様お母様の練習用のスタジオがありますから…」
セイ野レン子「あとステージ衣装の部屋に」
セイ野レン子「今日はお休みされていますが、お手伝いさんの休憩室もあります」
男「お手つっ…!?」
セイ野レン子「時々、両親が歌手仲間の方々を招いてパーティーもしますので、少し大きめの部屋なども…」
男「生粋のお嬢様っ…!!」
セイ野レン子「…ですね」
男「あっさり認めた!」
セイ野レン子「ただ、今の私の生活は私の力で手に入れたものではなく」
セイ野レン子「お父様お母様が築いて下さったものなので」
セイ野レン子「私はそれに甘えてはならないのです」
男「偉いな」
セイ野レン子「偉いだなんて…////」
男「確かに立ち振舞いは上品だなって思うけど、嫌な感じはしないよな」
セイ野レン子「はい」
セイ野レン子「私はあくまでお父様お母様の娘として」
セイ野レン子「二人の顔に泥を塗らぬように振る舞っています」
セイ野レン子「娘が学校などで変に威張ったりすると、両親の面目がありませんので」
男「ふーん」
セイ野レン子「あ、立ち話もなんですので、中にお入り下さい」
男「あ、はい」
ギィイイィ…
男「門でかっ!庭も広っ!」
セイ野レン子「綺麗に保てているのはお手伝いさんのおかげです」
トコトコ
ガチャ
セイ野レン子「ただいま帰りましたー」
レンママ「あら、随分早いお帰りだこと」
セイ野レン子「あ、お母様!」
レンママ「そちらは?」
男「初めまして。男といいます」
レンママ「ああ!例の視える男の子!」
セイ野レン子「はい。今回の事で、お母様にも少しお話をと思いまして…」
男「すいません、俺のせいでご迷惑おかけしてしまって…」ペコ
レンママ「ううん。気にしなくていいのよ」
男「…」ジー
レンママ「?どうかした?」
男「あ、いえ、お母さんの翼は見えないな、と」
レンママ「フフン!バッチリ隠してるもの」
レンママ「レンちゃんとは経験が違うわ」フフン
セイ野レン子「…未熟者扱いしないで下さい」
レンママ「あら。男君の力を見誤ったのはどちら様でしたっけ?」
レンママ「そのあと、スンゴイ慌ててたのはどちら様でしたっけ?」
セイ野レン子「…もう、言わないで下さい」シュン
レンママ「まあ、もっと精進することね」
セイ野レン子「…はい」
レンママ「随分とレンちゃんの歌、気に入ってくれてるんだってね?」
男「ええ。とても綺麗な歌です」
セイ野レン子「お、男さん…////」
レンママ「ふふ、良かったわね、レンちゃん!」
セイ野レン子「お、お母様っ!////」
レンママ「ふふっ♪」
セイ野レン子「そ、それより、どこかお出かけですか?」
セイ野レン子「荷物を準備されているようですが…」
レンママ「そう!そうなのよ!」
レンママ「急にステージの代役頼まれちゃって」
レンママ「1公演だけでいいから歌ってくれないかって劇場の支配人から」
セイ野レン子「今からですか!?」
レンママ「ナイトステージだから、今から急げばなんとか…」
レンママ「せっかく、まとまった休みが取れたのに」
レンママ「私は泊まりになるから今日の夜は一人になるけど、ごめんなさいね」
セイ野レン子「いえ。頑張ってきてくださいね」
レンママ「ええ」
レンママ「わざわざ来てくれたのに、男君もごめんなさい」
男「そんな…、こちらこそ急にお邪魔してすいません」
レンママ「また今度、ゆっくりお話しましょ?」
男「はい。お仕事、頑張ってください」
レンママ「ふふ、ありがとう」
ソソソ…
セイ野レン子「?」
レンママ「お手伝いさんもお休みだし、大したおもてなしはできないけど…」ボソ
レンママ「プライベートな空間で二人っきりね!」ボソ
セイ野レン子「なっ…!!?////」
レンママ「じゃ、行っくるわね」
セイ野レン子「あ、いいい、いってらっしゃいませ!」
バタム
セイ野レン子「…」
男「…」
セイ野レン子(はわわわわわわわぁっ!)
セイ野レン子(どうしましょどうしましょ!?)アタフタ
セイ野レン子(お、同じ二人っきりでも)アタフタ
セイ野レン子(確かにカラオケとはまた勝手が違います!)アタフタ
セイ野レン子(しかし、チャンスなのも事実…!)
男「あー…お母さんが出掛けたんなら、また今度に…」
セイ野レン子「ああっ!?」
セイ野レン子「いえっ、あああのっ、せっかく来られたんですからっ」
セイ野レン子「お茶の一杯ぐらいは、飲んでいって下さい」
男「でも…」
セイ野レン子「もう少し、男さんとお話がしたいんです…」ジッ
男「そ、そうか…。じゃあ、少しだけ」
セイ野レン子「はいっ!」
―
――
男「…」
男(応接間…、初めて実際に見た…)
男(広い、ソファーふかふか、なんか高級そうな…調度品っつーのか…)
男(…あ)
スクッ
男(家族写真…たくさんある)
男(小さい頃のセイ野さんから、ずっと…)
男(翼も写ってる…)
男(隠すのもそれなりに大変みたいなことも言ってたし)
男(…家族の前だと、リラックスできるんだな)
ガチャ
セイ野レン子「お待たせしました」カチャカチャ
男「わざわざありがとう」
セイ野レン子「本当にお茶では何ですので、ぶどうジュースにいたしました」
男「ありがとう」
セイ野レン子「あ」
セイ野レン子「写真、見られてたんですか?」
男「ああ、ごめん、勝手に」
セイ野レン子「いえ、とんでもない!」
男「親子、仲が良いんだな」
セイ野レン子「はい」
セイ野レン子「普段、留守がちな両親ですが、家族みんな揃う時には」
セイ野レン子「よく写真を撮って、記録しておくのです」
セイ野レン子「少しでも私が寂しくないようにと…」
男「へぇ」
セイ野レン子「ですから、このようにたくさんの写真が飾ってあるのです」
男「どれもいい写真だな」
セイ野レン子「ありがとうございます」
男「翼、出してもいいぜ?」
セイ野レン子「え?」
男「写真に写ってるセイ野さんは、全部翼が写ってるだろ?」
セイ野レン子「はあ、まあ…」
男「全部家の中の写真だけど、それだけリラックスしてるってことじゃないか?」
セイ野レン子「そう、ですね」
セイ野レン子「家で家族と共に居るとすごく落ち着きます」
男「今日はご両親はいないけどさ」
男「自分の家なんだから、隠さなくてもいいんじゃないか?」
セイ野レン子「しかし…、気持ち悪くありませんか?」
男「前にも、言っただろ?綺麗だって」
セイ野レン子「はい…////」
男「それに、いつまでも気を張ってちゃ疲れるだろ?」
セイ野レン子「…ではお言葉に甘えて…」
セイ野レン子「…ふう」
バサ…
バササッ
男「改めて見るとやっぱり綺麗だ」スッ
セイ野レン子「わっ!!」ビクッ
男「なっ何!?」ビクッ
セイ野レン子「あの、触るのはちょっと…!」
男「あっ!」
男「ごめん!翼とはいえ、女の子の体に!」
セイ野レン子「少し、敏感な部分ですので…////」
男「びんか…っ!」
セイ野レン子「////」モジモジ
男「////」モジモジ
セイ野レン子「ととと取り敢えず、お掛けになってジュースを召し上がって下さい!」
男「あ、ああ、うん。ありがとう」
セイ野レン子「わ、私も早速頂きますね」ゴクゴクッ
男「…」
男(家族写真…)
男(お父さんお母さんがよく留守にするから、お手伝いさんがいるのか)
男(…セイ野さん自身もしっかりしないといけないんだな)スッ
ゴクッ
男(!!?)
男「んぐっ、これっ…なんだコレ!?」
セイ野レン子「んー」ゴクッゴクッ
男(妙に渋いっつか、辛いっつか…)
男(これ、ホントにぶどうか?)チラ
男「あっ!…このボトルっ」
男(銘柄なんかはよくわからんが、ワイン…!)
男(しっかりしてねぇ!!おっちょこちょいだ!)
男「待った!ストップ!セイ野さん!コレ、ワインだ!」
セイ野レン子「はい?」
男「ワインだよ!酒だ!」
セイ野レン子「ええっ!?」
セイ野レン子「よくお母様が飲んでおられますが…」
セイ野レン子「キッチンに置いてあったので、ぶどうジュースだとばかり…」
男「ほら、ボトル見て」
セイ野レン子「はわわ…!本当です!ワインです」
グラス「」カラッポ
セイ野レン子「い、一気に飲んでしまいましたぁ!」
男「き、気付かなかったのか?」
セイ野レン子「あの、その、喉が乾いておりまして…」
男「大丈夫?なんともない?」
セイ野レン子「大丈…」フニャ…
セイ野レン子「あれ?」フニャン
男「せ、セイ野さん?」
セイ野レン子「少しぽかぽかします」
男「ほ、本当に大丈夫?」
セイ野レン子「大丈夫…でしょうか?////」
男「あ、ダメだ。顔、まっ赤」
セイ野レン子「少しぽかぽかします////」
男「そのセリフ二回目!」
セイ野レン子「うーん…まだ喉が乾いていますねー」
セイ野レン子「でしゅから、もう一杯…」スッ
男「わああっ!ダメダメ!」
セイ野レン子「ああっ…」
男「水!水持ってくるから!」
男「キッチン、教えてくれ」
セイ野レン子「きっちんはですね…」
セイ野レン子「ここから四つ目の信号を、左に右折しまふー」
男「ダメだ…完全に酔ってる…、どうしよう…」
ピリリッピリリッ
男「着信?」
男「俺のじゃない」
ピリリッピリリッ
男「セイ野さん!電話鳴ってないか?」
セイ野レン子「んひ?」
ピリリッピリリッ
男「電話だよ、電話!」
セイ野レン子「電話とは、音声、つまり音の波を電気信号に変換し、距離を問わず会話ができる装置であります」
ピリリッピリリッ
男「違う違う!鳴ってるんじゃないかって!」
セイ野レン子「鳴ってますねー」
ピリリッピリリッ
セイ野レン子「はいはい、今出ますよ~っと」
ゴソゴソ
ピッ
セイ野レン子「はいはい~」
セイ野レン子「あ、お母ひゃま~」
セイ野レン子「はいーはいー」
セイ野レン子「あひゃひゃひゃ!ぶどうジュースだと思いまひて…」
セイ野レン子「はいーはいーはいー」
セイ野レン子「男ひゃん?いますよー」
男「俺?」
セイ野レン子「お母ひゃまが換わってほひいとのことです~」ヒョイ
男「わかった」
男「もしもし、換わりました」
レンママ『ごめんなさい、本当に…はあ…』
男「いえ…」
レンママ『飲んでたワインを出しっぱなしにしてたのを思い出して、慌てて電話したんだけど…』
レンママ『案の定…、あの子、おっちょこちょいというか、抜けてるというか』
レンママ『『ここぞ!』ってときにやらかすのよ…』
男「まあ、否定はできませんね」
男「俺が翼の事を言った時も、とんでもない事を言いましたから」
レンママ『随分驚いたでしょう?』
男「はあ、まあ色んな意味で」
レンママ『ふふふ、それでもレンちゃんの事、普通に見てくれるのね』
レンママ『…ありがとう』
男「え?」
レンママ『レンちゃんの事、特別扱いしないでくれてって事』
男「特別も何も、セイ野さんは普通の優等生ですよ」
男「まあ、確かにおっちょこちょいではありますが」
レンママ『…正体がバレたのが男君で良かったわ』
レンママ『これからもよろしくね』
男「はい!」
レンママ『…それより、今の心配はそっちのヨッパライね…』
男「…ですね」
セイ野レン子「男さぁ~ん!お母ひゃまと何をおひゃなししてるんですかぁ?」
レンママ『あーあー、もう…』
レンママ『今からレンちゃんを看てくれる人を探すわ』
男「お手伝いさんは?」
レンママ『うーん…、お手伝いさんも私が休みだから週末は旅行にでもって言ってたから』
レンママ『無理っぽいのよね…』
男「そうですか…。他に心当たりは?」
レンママ『知り合いとか色々あたってみるけど…』
男「だったら俺が落ち着くまで看ておきます」
レンママ『え!?そんな!』
男「あ、えっと…心配、ですよね。年頃の娘さんが男と二人じゃ」
レンママ『そうじゃなくて』
レンママ『男君の予定は?』
男「俺は特にありませんよ」
男「ですから、お母さんが許可してくれるなら、ですけど」
レンママ『んふ~んふふ~♪』
男「あ、あの?」
レンママ『ふっふ~ごめんなさい。んふふ~何でもないの~♪』
男(う、嬉しそう…?)
レンママ『じゃあ、お願いしようかしら』
男「いいんですか?」
レンママ『私達の正体を受け入れてくれる人だもの』
レンママ『大いに信用できるわ。だからお願いしていいかしら』
男「わかりました。じゃあですね…」
セイ野レン子「男ひゃーん!まだれすかー?」
男「…とまあ、セイ野さんがこんな様子なんで、水を飲ませたいのでキッチンの場所を…」
レンママ『玄関から真っ直ぐ行った突き当たりよ』
男「わかりました」
レンママ『はあ、まったく…、成人してもお酒の飲み方だけは気をつけるように言うわ』
レンママ『気を使わせてごめんなさい。レンちゃんをよろしくお願いします』
男「あ、はい。お母さんもこれからステージですよね?」
男「俺が言うのも変かもしれませんが、こちらは任せて、ステージ頑張って下さい」
レンママ『ふふ、ありがとう』
レンママ『帰ってからレンちゃんとお話するの楽しみだわぁ?♪』
男「楽しみ、ですか?」
レンママ『んー、詳しくはまだナイショ!』
レンママ『じゃーねー!』
男「あ?あ、はい。では」
プッ…ツーツーツー
男「…さて」
セイ野レン子「女の子を放っておくなんてぇ…」
セイ野レン子「罪な方ですねぇ////」
男(いかん、酔いが回ってキャラが変わってきてる)
男「水持ってくるから、ちょっと待ってて」
セイ野レン子「あぁん…また放っておくんですかぁ?」
男「ちょっ、ちょっとだけだから!////」スクッ
男(ちょっと色っぽい…)
男(おっと)
ヒョイ
男(ワインは片付けておかないと、また飲んだら危ないな)
―
――
ゴクッゴクッ
セイ野レン子「ぷはぁ~!」
男「どう?」
セイ野レン子「はぁい!全然ヘーキですよーぅ!あははは!」
男「大丈夫に見えないんだけど…」
セイ野レン子「ひしゃびしゃ(久々)のカラオケで、気分が高揚しっぱなしなんですよーぅ!」
男(まあ、それだけ楽しんでくれてたってことだよな)
セイ野レン子「しかーし!」
男「!?」ビクッ
セイ野レン子「まだ歌い足りにゃいのであります!」スクッ
男「大人しくしてなよ。あんまり動くとふらついて危ないぞ」
セイ野レン子「大丈夫でっす!」
セイ野レン子「それに、まだまだ男ひゃんには、わたくひの歌を聴いてほしいのでっす!」
男「だからって…」
セイ野レン子「エントリーナンバーはちばん!!」
男「何のエントリーだ!?」
セイ野レン子「セイ野レン子、歌いまぁす!」
セイ野レン子「すぅ…」
セイ野レン子「ほげぇー!」
男「!?」ズルッ!
セイ野レン子「ぞえぇー!もんげー!」
男(ひ、ひどいっ!)
セイ野レン子「ぶぇあー!!ほがぁー!」
男(酔ってるせいでスンゴイ音痴に…!)
セイ野レン子「ぽあー!」
セイ野レン子「ごがー!」
セイ野レン子「…」
セイ野レン子「ふぅ…」
男「…」
セイ野レン子「…いかがでひたか?」
男「いや、いかがも何も…」
セイ野レン子「…やはり私のセイレーンの歌は、男ひゃんには効果が無いんですね」
男「効果も何も、今のは果たして歌と言えるのかどうか…」
セイ野レン子「あ」フララ…
男「あ!ほらっ!危ないっ!」ガシッ
セイ野レン子「はぁう…////」
男「ほら、座って」
ストン
男「大丈夫か?」
セイ野レン子「…どうすれば…」
男「ん?」
セイ野レン子「どうすれば…、男ひゃんに…好きだという気持ちを伝えられるのでしょう…はあ」
男「えっ!?」
セイ野レン子「セイレーンの歌は、恋する相手には効かにゃいのですぅ…」
男「ええっ!?」
セイ野レン子「好き、ですよ…、男さん…」ジッ…
男「…よ、酔ってるから冗談言ってんだよな?」
セイ野レン子「酔ーってーいーまーせーんー!」
セイ野レン子「私は…本気です…」
男「あ…」
男(こないだの放課後…)
男(無理に聞き出すのも悪いと思って、理由は聞かなかったけど…)
セイ野レン子「一個人としての魅力で勝負ですぅ…」
男(そういう事だったのか…、セイ野さんは俺を…)
男(うあ…、マジか…////)ドキ
トン
男「ん?」
セイ野レン子「男ひゃんの暖かさ…」スリ…
男「ちょっ、ちょっとっ!////」
セイ野レン子「うぅ…ん…」スーリスリ
男(しなだれてきた…!)
セイ野レン子「男ひゃんは…、わたくひはいかがですか?」
男「えっ?」
セイ野レン子「わたくひの事を…どのように思っていらっひゃいますか…////」ジッ
男「ええっ!?」ドキ
男「どどどうってっ…!?」ドキッ
セイ野レン子「私は…男さんが…好きですよ…」
男「あのっ…、セイ野さんはっ、かっ可愛いと思うし!」ドキッドキッ
セイ野レン子「…」
男「歌は上手いし、成績は良いしっ…!」ドキッドキッ
セイ野レン子「…」
男「俺なんかが釣り合うのかなって…!」ドキッドキッ
セイ野レン子「…」
男「でも…正直、嬉しいって言うか…」
セイ野レン子「すーすー…」
男「いやっ、でも、俺でいいのかな…って、ありゃ?」
セイ野レン子「すーすー…んんっ…」
男「寝てる…」
セイ野レン子「男…ひゃん…」
男「はあ…」
男(気持ち良さそうに寝ちゃって…)
男(いきなりコクられたこっちの気も知らないで)
セイ野レン子「すーすー…」
男(セイ野さん…)
――
―
セイ野レン子「…え?」
男「俺もずっと好きだったよ…」
セイ野レン子「ほ、本当ですか!?」
男「ああ」
男「だから…」グイ
ドサッ
セイ野レン子「ひゃん////」
セイ野レン子「おおお押し倒っ…!?」
男「レン子…」
セイ野レン子「え?」
男「レン子が…レン子の全てが欲しい」
セイ野レン子「ほうあっ!?」
男「…」ズイ
セイ野レン子「男っさんっ!?」
男「…」ズイッ
セイ野レン子「たたた確かに両想いとなりましたがっ…!!」
セイ野レン子「ふたりのお付き合いにも、順序というものがあることですしっ…!」
男「大丈夫だよ」ズイズイッ
セイ野レン子「ああああっ!!!」
セイ野レン子「こ、心の準備がぁっ…!」
男「大丈夫…」
セイ野レン子「はわわわわっ!!」
男「レン子…」
セイ野レン子「ああああのっ…!!!」
セイ野レン子「男さんっ…」
セイ野レン子「男…さん…んんっ…」
…
……
セイ野レン子「男さっ…はぅわああああっ!」ガバッ
男「おわぁっ!!」ビクッ!
セイ野レン子「ああぁぁぁ…」
セイ野レン子「あれ?」
男「あ、起きた!」
セイ野レン子「あ、男さん…」
男「大丈夫?」
セイ野レン子「あれ?夢?」
男「頭痛いとか、気持ち悪いとか…ない?」
セイ野レン子「えっと…、はい、大丈夫です」
セイ野レン子(そうでした…)
セイ野レン子(私、ジュースと間違えてワインを…)
男「なら安心した////」フイッ
セイ野レン子「?」
セイ野レン子「お、男さん…?」
男「うん?////」フイッ
セイ野レン子「どうしてそんなに顔をそらすんですか?」
男「え!?そうかな?」
セイ野レン子「そうですよ」
男「気のせいじゃないか?////」フイッ
セイ野レン子「あ!」
セイ野レン子「もっ、もしかして酔っている間に、何か失礼な事をっ!?」
男「い、いやっ、大丈夫だったよ!////」
セイ野レン子「え」
男「うん。何も無かった、うん」フイッ
セイ野レン子「しかし、その様に避けられると…」
セイ野レン子(あれ?)
セイ野レン子(何か、こう…、ぼんやりと…)
セイ野レン子(酔っていた間の記憶が…)
セイ野レン子「…」
セイ野レン子「…!」ドキ
セイ野レン子「!!」ドキッドキッ
セイ野レン子「!!!!」ドキッドキッドキッドキッ!
セイ野レン子「ああああの…、男さん?」
男「はいぃっ!な、ナンデショウ?////」
セイ野レン子「ああのっ、私っ…酔っている間にっ、あのっそのっ…!」
男「あー…、覚えてるの?」
セイ野レン子「う、薄らぼんやりとですが…」
セイ野レン子「何を言ったか…、その…、覚えています…////」
男「…そうか」
セイ野レン子「突然すいませんでした!すいませんでした!」ペコペコ
男「いや、うん、ええっと…まあ、酔ってたんだから仕方ない、と思うよ」
セイ野レン子「あ、わわわわ…////」
男「気にするなよ、な?」
セイ野レン子「おっ、男さん…////」
男「うん、まあ、体調に問題無いなら、俺、そろそろ帰るよ」
男「時間も時間だしな」
セイ野レン子「あっ!」
セイ野レン子(酔った挙げ句、家に呼んでおいて二時間近くも放置してたなんて…!)
セイ野レン子(その上…!!!)
……
セイ野レン子『好きですよ…、男さん…』ジッ…
……
セイ野レン子(酔いの勢いで告白なんて、はしたないっ!!)
セイ野レン子(セイ野レン子、一生の不覚ですっ!)
セイ野レン子(何か…、何か挽回しないと…!)アタフタ
セイ野レン子(7時前…)
セイ野レン子「あのっ!」
男「ん?」
セイ野レン子「その…良かったら、お夕食、召し上がっていかれませんか?」
男「え!?」
セイ野レン子「か、介抱して頂いたお礼の意味も兼ねて…」
男「大した事じゃないし、そんなにしてもらっちゃ悪いよ」
セイ野レン子「いえ、是非ともっ!」
男「で、でもっ…!」
グゥゥ?
>>139
最後の一行
グゥゥ~
に訂正お願いします
男「あ」
セイ野レン子「あ」
男「あう…////」
セイ野レン子「ふふっ、せっかくですから、ね?」
男「腹の音聞かれたんじゃ、食べさせてくれって催促したみたいだよな…ははは…」ポリポリ
セイ野レン子「気にしないで下さい」
セイ野レン子「丁度、夕食時ですからね」
セイ野レン子「かく言う私も少し…」
グゥゥ~
セイ野レン子「あ」
男「あ」
セイ野レン子「はわわ…////」
男「あー、うん…セイ野さんもそうなら…」
セイ野レン子「////////」マッカッカ!
セイ野レン子(セイ野レン子、二度目の一生の不覚!!)
――
―
―
――
男「ごちそうさま」
セイ野レン子「お粗末さまです」
男「料理も上手いんだな。おいしかったよ」
セイ野レン子「ええ、一人で夕食というのも多々ありますから」
セイ野レン子「簡単なものですけどね」
男「それでもテキパキしててスゴいと思ったよ」
セイ野レン子「そ、そうですか…」
セイ野レン子「…」
男「…」
セイ野レン子「…」
男「…」
セイ野レン子(また…沈黙…)
セイ野レン子(お食事中も…ほとんど何も話さず…)
セイ野レン子(男さんは、私の気持ちを知ったハズなのに)
セイ野レン子(その事に触れてくれません…)
セイ野レン子(…酔った状態というのが良くなかったのでしょうか…)シュン
セイ野レン子(それとも、私の事など…)
男「なあ?」
セイ野レン子「は、はいっ!」
男「お母さんは、俺に正体がバレた事、何か言ってた?」
セイ野レン子「いえ、特には…」
男「そうか…」
セイ野レン子「逆に、私が注意されました」
セイ野レン子「男さんの力を甘く見ていた、と」
セイ野レン子「反省はしていますが…」
セイ野レン子「もし、バレなければこのように過ごす事も無かったでしょうね」
男「…うん」
セイ野レン子「…」
男「…」
セイ野レン子(ああぁぁ…また沈黙…)
セイ野レン子(どうしましょ…)
男「なあ」
セイ野レン子「は、はいぃっ!」
男「種族は気にしないのか?」
セイ野レン子「はい?」
男「俺は人間で、セイ野さんはセイレーン」
セイ野レン子「そうですけど、種族を気にしないとは一体…?」
男「俺で…いいのかなって」
セイ野レン子「はい?」
男「改めて聞くけど」
男「俺の事、好きって…本当?」
セイ野レン子「…」パクパク
セイ野レン子「…」パクパク
セイ野レン子「//」カッ
セイ野レン子「////」マッカ
セイ野レン子「////////」マッカッカ
男「酔っていたからとかじゃなくて…」
セイ野レン子「そっ…」
セイ野レン子「そうですっ!」
セイ野レン子「私はっ、あなたの事が好きですっ!!」
セイ野レン子「そのっ…、酔った勢いで想いを打ち明けただけでっ!」
セイ野レン子「その想いに嘘偽りはありませんっ!!」
セイ野レン子「本当に好き…、です…」
男「…おう////」
セイ野レン子「えーっと、その…!////」
セイ野レン子「が、学校で男さんに歌を聴いてもらうとっ…」
セイ野レン子「とても…嬉しくなりました!」
男「うん…」
セイ野レン子「音楽室に来られない日は、とても寂しく思い」
セイ野レン子「来て下さった日は、嬉しいと同時にお別れの時を寂しく思い」
セイ野レン子「いつの間にか…」
セイ野レン子「いつも…男さんの…、あなたの事を想うようになりました」
男「セイ野さん…」
セイ野レン子「…私はセイレーンです」
男「うん」
セイ野レン子「それでも」
セイ野レン子「私を一人の女の子として」
セイ野レン子「私の想いを…」
セイ野レン子「その想いを受け入れて下さるのなら…」
セイ野レン子「『セイ野』ではなく…」
セイ野レン子「『レン子』と…、呼んで頂けませんか?」
男「…」
セイ野レン子「お、男さん…」
男「れ…」
男「…レン子」
セイ野レン子「!男さんっ…!」
男「レン子!」
セイ野レン子「男さんっ!!」ガタッ
タッ…!
セイ野レン子「男さぁんっ!」ダキッ!
男「本当に、俺でいいの?」
セイ野レン子「はい!」
セイ野レン子「種族は違いますが」
セイ野レン子「好きという気持ちには抗えません!」
男「うん…!嬉しいよ!」
男「こちらこそ、よろしくな、セイ野さ…」
男「じゃなくて…、レン子!」ギュ
セイ野レン子「はい!」
スッ
セイ野レン子「では…、すぅ…」
男「?」
♪~♪~♪~♪~♪~♪~
♪~♪~♪~♪~♪~♪~
♪~♪~♪~♪~
♪~♪~
セイ野レン子「…ふぅ」
男「今のは?」
セイ野レン子「愛の宣告」
セイ野レン子「これでこれからは、正真正銘の恋人同士、ですよ」ニコ
男「…魔法の歌は俺に効かないんじゃなかったっけ?」
セイ野レン子「そうですよ?」
男「それにわざわざ、魔法の歌を歌わなくたって、想い合うことには違いないだろ?」
セイ野レン子「そう言って頂けると、両想いになれたのだと実感できます////」ポッ
男「だったら、どうして…」
セイ野レン子「…この『愛の宣告』だけは、セイレーンの歌で唯一、魔力を組み込んでいません」
セイ野レン子「純粋に己の声だけで歌い上げ…」
セイ野レン子「相手に愛を誓う…そのための歌です」
男「そうか…////」ポリポリ
男「あ」
セイ野レン子「?どうかしましたか?」
男「いや、恋する相手に魔法の歌は効かないって話…」
セイ野レン子「それが何か?」
男「ホントのところ、効いていたと思うよ」
セイ野レン子「え!?」
セイ野レン子「いえいえ!実際、『忘却の歌』は効かなかったではありませんか!」
男「確かにそうなんだけどさ」
男「元々はセイ野さ…じゃなくて、レン子の歌声に誘われて話し始めたのがキッカケだろ?」
セイ野レン子「そうですね」
男「な?」
セイ野レン子「え?ど、どういうことですか?」
男「純粋に歌声に誘われたってこと」
セイ野レン子「ああ!」ポン
男「あの歌声に魅せられていた時点で、魔力云々抜きで俺はレン子の虜だったのかも」
セイ野レン子「…男さん!////」ギュ…
男「どした?」
セイ野レン子「嬉しいのです////」
セイ野レン子「男さんも、少し強めに抱きしめてくれませんか?」
男「レン子がそう言うなら」
ギュッ
ワシャ
セイ野レン子「ひゅぐぅっ!」
男「あっ、ごめん!翼ごと…!」
セイ野レン子「はぁ、ぁあ…いいん、です」
セイ野レン子「す、少し敏感なだけで…、嫌な気持ちにはなりませんから」
セイ野レン子「むしろ心が満たされるようです」ギュ
男「う、うん…////」
セイ野レン子「不束者ですが…」
男(その言葉だと、これから先も意識しちゃうよな…////)
セイ野レン子「よろしくお願いいたします!」ペコリ
男(まあ、でも、レン子となら…、うん!いいな!)
男「ああ。よろしく!レン子!」
セイ野レン子「はいっ!」
―――
――
―
―
――
―数日後・放課後の音楽室―
セイ野レン子「…」
ガララ…
男「やっぱり、レン子が先に来てたか」
セイ野レン子「あっ…////」
セイ野レン子「男さんっ!」ダキッ
男「連絡がなかったから待ってくれてるとは思ってたけど」
男「付き合い出してから、学校で歌わなくなったよな?」
セイ野レン子「そうですね」
男「俺としたら、レン子の歌声が聴こえないのは少し寂しいんだけどな」
セイ野レン子「すいません…。でも、ここだと沢山の方の耳に私の歌声が届いてしまいます」
男「まあ、学校だからな」
セイ野レン子「以前、歌手デビューすれば?というような事を言われたのを覚えていますか?」
男「…ああ!二人でカラオケに行った時の!」
セイ野レン子「はい」
男「それがどうかした?」
セイ野レン子「こうして、沢山の方がいらっしゃる所で歌わないのは」
セイ野レン子「歌声を男さんにだけ届けたいと思ったからなのです」
男「…おおぅ////」
セイ野レン子「ふふっ」
セイ野レン子「…トラウマの事もありますが」
セイ野レン子「仮に歌手になってしまうと」
セイ野レン子「歌声が男さんだけのものではなくなってしまいます」
男「俺が一人占めできるってことか」
セイ野レン子「是非とも、そうして頂きたいな、と!」ニッコリ
男「うん、うん。悪くないな、綺麗な歌声を独占できるのは」
セイ野レン子「はい!」
セイ野レン子「もちろん私自身もですが」
セイ野レン子「男さん!」
男「ん?」
セイ野レン子「この歌声も、貴方だけのものですよ!」
おわり
最後までお付き合いいただき、また途中レスしていただき、ありがとうございました
慣れないスマホのため、文字化けや誤字脱字多数あったこと、それに伴い訂正を挟んだこと、ご容赦くださるとありがたいです
最後まで読んでいただき、改めてお礼申し上げます
ありがとうございました
>>50
×レンママ「その男の子を恋仲になるのですっ!!!」ビシィッ!!
○レンママ「その男の子と恋仲になるのですっ!!!」ビシィッ!!
度々すいません。上記訂正お願いします
新しくスレッドを立てようとも思いましたが、こちらのスレがまだまだ余っているので、このまま別の話を2つ投下します
両話とも短めの予定ですが、最後までお付き合い頂けると幸いです
タイトル
ポセ井ドン奈「あぁっあっっっはぅううぅぅぅぅんっ!!!////」
男「ポセ井会長」
ポセ井ドン奈「止さぬか。私はもう生徒会長ではないのじゃぞ?」
ポセ井ドン奈「現会長はお主ではないか」
男「じゃあポセ井先輩」
ポセ井ドン奈「ふむ」
ポセ井ドン奈「して、わざわざ屋上まで呼び出して何の用じゃ?」
男「まあ、晴れて俺が会長、ポセ井先輩は『元』会長となったワケっすが」
ポセ井ドン奈「じゃのぅ」
男「先輩との関係がギクシャクして、生徒会に支障が出るとマズイんで、言えなかった事があるんすよ」
ポセ井ドン奈「ふん。お主も趣味が悪いのぅ」
ポセ井ドン奈「その場その時にしっかり私に意見を言わぬと、より良い生徒会運営、しいてはより良い学園生活に活かせぬではないか」
ポセ井ドン奈「多少意見のぶつかりもあるじゃろう」
ポセ井ドン奈「じゃが、そのように及び腰で、生徒会長が務まるのか?」
男「いや、生徒会に直接関係のある話じゃないんです」
ポセ井ドン奈「?」
男「ポセ井先輩、好きです」
ポセ井ドン奈「は?」
男「俺、先輩の事好きです」
ポセ井ドン奈「わ、私に文句を言いたかったのではないのか?」
男「違いますよ」
男「先輩の会長としての振る舞いは完璧でした」
男「文句の言い様なんてありませんでしたよ」
ポセ井ドン奈「それは言い過ぎ…////」
ポセ井ドン奈「って!今はそうではなくっ…!」
男「そっすよ。今は…」
男「ポセ井先輩に会長としてではなく、一人の女の子として」
男「俺は生徒会の一員ではなく、一人の男として」
男「俺の想いを伝えているんです!」
ポセ井ドン奈「お、おおお、お主っ…!?」
ザザザ…
ポセ井ドン奈「あ、ああっ…!」
ザザザザザザーン…
ポセ井ドン奈「いかんっ…!」
ドドドド…!
男「…先輩」ジッ…
ポセ井ドン奈「そ、そんな…真っ直ぐ私を見つめるなっ…!!」
男「俺は真剣っす!」
ポセ井ドン奈「あ、ああっ…あああ…」
ドドドドドドドドッ!!
ポセ井ドン奈「ああっいかんっ!?」
ポセ井ドン奈「く、来るぅっ、来てしまうっ!!////」
ザッパッアアアァァァァァァーーーーン!!!
ポセ井ドン奈「ふぅあはぁあああぁぁぁんっ!!////」
―校庭―
ヤンキー1「なんだコラァ!またやんのかコラァ!」
ヤンキー2「今日こそ決着つけてやんよオラァ!こいよオラァ!」
ドドドド…!!
ヤンキー2「な、なんだ?この音…?」
ヤンキー1「2っ!後ろっ!!」
ドドドドドドドドッ
ヤンキー2「え?」
ドザザザザ!
ヤンキー1&2「みっ、み、水ぅっ!?」
ザッバーーーー!
ヤンキー1「うぅわっ、と!なんで、学校でこんなに大量の水がっ!?」
ヤンキー2「くそっ、まるで川じゃねぇか!何なんだ一体!?」
ヤンキー1「ん!?」
ヤンキー1「お、おいっ!2!てめぇの足下!」
ヤンキー2「あぁ?」チラ
ウニ「」チマッ
ヤンキー2「なんだこりゃ?」
ヤンキー2「…ウニ?」
ヤンキー1「これ…ただの水じゃねぇ!」
ヤンキー1「海水だ!」
ワーワー
男子生徒「おい!中庭で伊勢エビ取り放題だってよ!」
女子生徒「このクエは我が料理部が頂きましたわ!」
ワーワー
ヤンキー2「な、なんだってぇ!?」
ヤンキー2「こうしちゃいられねぇっ!」
ヤンキー1「あ?」
ヤンキー2「俺も食材集めに行ってくらぁ!」
ヤンキー1「てめっ…!俺との勝負はっ!?」
ヤンキー2「…すまねぇ」
ヤンキー1「あぁ?」
ヤンキー2「…普段、母ちゃんには迷惑かけてるからよォ…」
ヤンキー2「…旨いもん、食わしてやりてぇんだ」
ヤンキー1「お前…」
ヤンキー2「笑うなら笑えよ。いつもはイキがってるくせに、急に母親のためになんて言い出すんだからよ」
ヤンキー1「ふふ…」
ヤンキー2「…」
ヤンキー1「ははは。俺も、親父とおふくろに持って帰ってやりてぇなぁ」
ヤンキー2「1…お前…」
ヤンキー1「たしかお前んち、おふくろさん一人だろ?」
ヤンキー2「あ、ああ」
ヤンキー1「俺らもよぅ、いつまでもガキみたいなことしてらんねぇよな」
ヤンキー1「親に孝行しねぇとな…」
ヤンキー2「お前…いいやつだな」
ヤンキー1「てめぇこそ!」
ヤンキー1&2「ははははっ!」
―その後、二人は唯一無二の親友になったという…
―再び屋上―
ポセ井ドン奈「んぁっ…はあっ、あぁ、はぁっ…」
男「すいません…動揺させてしまって…」ビショビショ
ポセ井ドン奈「んん…、くっ…お主っ…!」
ポセ井ドン奈「よくも私を辱しめおって!!」
男「そんなつもりは!」
男「俺は本当にポセ井先輩が好きで!」
ポセ井ドン奈「お、お、おのれぇっ…!!!」ゴポ…
ゴポッゴポゴポッ!
バシャッ!
ポセ井ドン奈「ふぅっ!!」パシッ!
ヒュン!
男「!!」
ピタ!
ポセ井ドン奈「まだ戯れ言を言うかっ!」グッ!
ポセ井ドン奈「…このまま、お主を貫いてやってもよいのじゃぞっ!!」
男「三叉の矛…『トライデント』」
男「海神ポセイドンの血を引く者の証」
男「そして究極と謳われる神の兵器」
ポセ井ドン奈「ああ、そうじゃ!」
ポセ井ドン奈「我が名はポセ井ドン奈!」
ポセ井ドン奈「海神ポセイドンの長女にして、その後継者候補の一人!」
ポセ井ドン奈「この矛も父上のそれの複製と言えどっ!」
ポセ井ドン奈「お主の胸を貫くには十分過ぎる代物じゃっ!」
ポセ井ドン奈「それでも尚っ…、私に狼藉を働くかぁっ!!」グッ!
男「…」
ポセ井ドン奈「…」ググッ
男「…」
ポセ井ドン奈「ははっ!あーははははっ!恐れで声も出ぬか!」
男「…狼藉、すか」
ポセ井ドン奈「は?」
男「…俺は俺で、真剣なんですが」シュン
ポセ井ドン奈「いや…、あのっええ?」
男「先輩にそんな風に伝わったんでしたら、少し急過ぎましたかね…」シュン
ポセ井ドン奈「あ、その…な?」
男「…すいません」シュン
ポセ井ドン奈「あああのっ、えっと」アセアセ
ポセ井ドン奈「い、いくら、わわ私と言えど、そのっ…年頃の女子(おなご)であって…!」アセアセ
ポセ井ドン奈「やはりいきなり、告白などをされるとな?」アセアセ
ポセ井ドン奈「いや、まあ、うん、は、恥ずかしいというか…照れるというかのぅ…」アセアセ
ポセ井ドン奈「私こそ、その…キツく言い過ぎた…、すま 男「…スキ有っ!」トン
ポセ井ドン奈「あっ!?」
タンッ!
ポセ井ドン奈(矛を払い除けてっ…!)
男「ホンット、すいませんっ!」
ポセ井ドン奈「!!!」
ポセ井ドン奈(間合いを詰められたっ…!)
ダキッ!ギュッ!
ポセ井ドン奈「はぅん!?」ビクン!
カラーン、カランカラン…
ポセ井ドン奈「お主っ…謀ったな!?」
男「ホントにすいません…」
男「これこそ狼藉…、乱暴な振る舞い、ですかね?」
ポセ井ドン奈「はっ、はなっ、離せっ!」グイッグイッ
男「すいません、離しません!ってか離したくないっす!」
ポセ井ドン奈「またそのような事をっ!」
ザザー…
ポセ井ドン奈「ああっ、はぅうう…ん…んんんっ!!!」
ザザザザーン…
男「俺は!」
ドドドドッ…!
男「本当に!」
ドドドドドドドドッ…!!
男「先輩が好きなんでっす!!」
ドッバアアァァァァーーーン!!!!
ポセ井ドン奈「あぁっはぁあああぁぁぁーーーーんんっっっ!!!」
ザザーン…
ポセ井ドン奈「はあっ、あ、んぁ…」クタ…
男「ホントすいません」ビッショビショ
ポセ井ドン奈「んふぁっ、はあっ、くぅ…くそ!」
ポセ井ドン奈「くそっくそっ!くそぅっ!」
ポセ井ドン奈「くそっ!このようにすぐに動揺しっ、悦楽のあまりっ、すぐに波を呼び寄せるなどっ!!」
ポセ井ドン奈「まるで私がふしだらで節操なしの女のように見えてしまうではないかぁっ!!」
男「…今、悦楽って言いましたよね?」
ポセ井ドン奈「ああ!そうじゃ!文句あるか!?」
男「や、いえっ文句とかじゃなくてですね?」
男「悦楽…、そのままの意味で取っていいんすかね?」
ポセ井ドン奈「そっ…」
ポセ井ドン奈「そうじゃあっ!そのとおりじゃあぁぁっ!!」
ポセ井ドン奈「よ、喜び満足することっ!!」
ポセ井ドン奈「その通りに取るが良いっ!!」
男「とすると、先輩も俺の事を…?」
ポセ井ドン奈「ふん!図に乗るな。先ほどまでは気になって仕方ないという程度のものじゃった」
男(それは世間一般では好きになってくれたってことなんじゃないのかな?)
ポセ井ドン奈「ふん、少し落ち着いた」
ポセ井ドン奈「…もう、お主に打ち明けてしまおう。心して聞け」
男「はい」
ポセ井ドン奈「まあ知っての通り、私は少し近寄り難い雰囲気をしておるようでな」
ポセ井ドン奈「特別、他人を避けたいわけではないんじゃが…」
ポセ井ドン奈「良くも悪くも『一目置かれている』というのは感じておった」
男「先輩には『私がすべて実行する』っつーような感じがありましたから」
ポセ井ドン奈「加えて『海神の娘』というのも一線を画しておったのかもしれんな」
男「でしょうね」
ポセ井ドン奈「しかし、男。お主は違った」
ポセ井ドン奈「…生徒会に入ってからずっと、献身的に私を支えてくれたじゃろう?」ギュ
男「自分の役割を果たしていただけなんすけどね」
ポセ井ドン奈「じゃがのぅ、お主のようにすんなり私の内側に入ってくる他人は、今までおらんかったのじゃ」
ポセ井ドン奈「嫌な侵入の仕方ではなく、こう…なんじゃろぅの…、そっと寄り添い、いつも側にいてくれるような、そんな存在じゃったな、男は」
ポセ井ドン奈「不思議と…、頼りたくなってしまった」
ポセ井ドン奈「と、同時に、頼ってくれて嬉しいときもあったのぅ」
ポセ井ドン奈「それほど、お主は人当たりの良い性格なのじゃろな」
男「ありがとうございます」
ポセ井ドン奈「…そのように接しているうちにのぅ」
ポセ井ドン奈「私の意識のどこかに、常にお主がおるようになった」
ポセ井ドン奈「…いつもそばで優しく支えてくれる異性じゃ。気にならぬワケがなかろう?////」ギュム
男「先輩…」
ポセ井ドン奈「はあ…、ここまで他人に心の内を晒したのは初めてじゃ!」
ポセ井ドン奈「うぅ…顔が熱い…!////」カァ!
男「…まとめると、さっきの告白の返事は?」
ポセ井ドン奈「う、うむ////」ギュム
ポセ井ドン奈「良いのじゃ////」ギュムムー
男「耳、赤いですよ?」
ポセ井ドン奈「うるさい!////」
ポセ井ドン奈「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!////」
ポセ井ドン奈「うぅるっっさあぁぁぁぁーーーーいっっ!////」
男「~~!」ミミキーン
ポセ井ドン奈「お主への好意を自覚したのはつい先刻じゃぁっ!」
ポセ井ドン奈「落ち着いたとは言ったものの、まだ胸の高鳴りは収まっておらん!」
ポセ井ドン奈「否っ!むしろ激しくなっておる!」
男「ええ。わかります」
男「俺がさっき抱きしめてから、最初こそほんの少し抵抗しましたけど」
男「話している間は、ずっと先輩の方から抱きしめてくれてますもんね」
ポセ井ドン奈「はっ////」
男「鼓動がわかるくらい密着していますよ」
ポセ井ドン奈「い、いかんっ!語るのに夢中でっ…!」
ポセ井ドン奈「は、あぁ、ああ…」
ザザー
ポセ井ドン奈「あぁっ、いかんっ…こんなに異性と密着してしまって…!」
ザザザザーン
ポセ井ドン奈「ああっはぁっ!来るっ!!////」
―以下略―
―
――
男「…」ビッショビショ
ポセ井ドン奈「た、度々すまぬ…////」
男「大丈夫っす」
ワーワー
ホッタテホッタテー!アワァァヴィィー!!
シャケシャケシャケ!
ワーワー
男「校庭(した)、賑やかですね」
ワーワー
マダイイシダイキンメダイ!
アナーゴー!
ワーワー
ポセ井ドン奈「まあ、恥ずかしいことこの上ないが」
ポセ井ドン奈「この短時間で幾度も波を呼んでしまうと、海の幸も大漁じゃろうな」
ワーワー
ノドグロノドグロ、ノドォグルォー!
イカ!
ワーワー
男「みんな楽しそうですね」
ポセ井ドン奈「む」
ギュムー
ポセ井ドン奈「むむむー!」
ギュムムムー!
男「あの…どうしたんすか?」
ポセ井ドン奈「下は気にするな。私だけを見ておれ!」
男「え…」
ポセ井ドン奈「お主は、私に想いを告げて私はその想いを受け入れたワケだ」
男「はあ、そうですけど」
ポセ井ドン奈「いわゆる恋人というやつじゃぞ!?」
ポセ井ドン奈「こっ、恋人となったからには、私だけを見るのじゃ!」
ポセ井ドン奈「他を見てはイヤなのじゃっ!」ギュムー
男「きゅ、急に甘えんぼになりましたね」
ポセ井ドン奈「それもじゃ!」
男「は?」
ポセ井ドン奈「先ほどから聞いておれば、バカ丁寧にですますですます言いおって!」
ポセ井ドン奈「私はお主の、か、彼女なのじゃから」
ポセ井ドン奈「他人行儀な接し方はやめろ!」
男「…うん」
ポセ井ドン奈「そのっ…、名前も、下の名前で…////」モジッ
ポセ井ドン奈「ドン奈…と、呼べ////」モジモジ
ポセ井ドン奈「というか…呼んで、ほしい…のじゃ」モジモジ
男「…ドン奈」
ポセ井ドン奈「!!」ドキッ
男「ドン奈」
ポセ井ドン奈「う、うむ////」
男「ドン奈!」
ポセ井ドン奈「うむっ!////」
ギュ
ポセ井ドン奈「わは、わはははは////」ギュムムムー
男「俺が好きになった頼り甲斐のある人は」
男「ホントはとんだ甘えんぼさんだったんだな」
ポセ井ドン奈「何とでも言うが良いわ!」
ポセ井ドン奈「お主と通じ合った今、私は何を言われても幸せ以外感じはせん!」フン!
男「そりゃどうも」
ポセ井ドン奈「ふふん!のぅ、男よ」
男「何?」
ポセ井ドン奈「私は海神ポセイドンの娘じゃ」
男「うん、わかってる」
ポセ井ドン奈「海を統べる一族の愛情をなめるなよ?」
ポセ井ドン奈「私の愛は」
ポセ井ドン奈「海より広く大きく、そして深いぞ?」
ポセ井ドン奈「覚悟しておくんじゃな!」
男「ああ、覚悟しておく」
ポセ井ドン奈「と、まあ、偉そうに見得を切ったものの…」
ポセ井ドン奈「私も色々と覚悟せねばのぅ」
男「どういうこと?」
ポセ井ドン奈「そのぅ…、なんじゃぁ…、お主と共におって今日(こんにち)のように度々興奮して波を呼び寄せていては」
ポセ井ドン奈「お主に迷惑がかかるし」
ポセ井ドン奈「何より、周囲が水浸しになってしまうからな」
男「そうだな」
ポセ井ドン奈「もう少し冷静になれるよう、精進せねばの!」
男「じゃあ、訓練しようか?」ズイッ
ポセ井ドン奈「は?くんれ…」
チュ
ポセ井ドン奈「んっ!!!!!!////」
男「ふっふっふ、どうだ?」ニシシ
ポセ井ドン奈「せ、接吻っ…!!?////」カァッ
ザザザ…
ポセ井ドン奈「あ、ああっ…!」
ザザザザザザーン…
ポセ井ドン奈「お、男ぉっ…くそぅ、またっ…!」
ドドドド…!
男「慣れ、だろ?」ニシシ
ポセ井ドン奈「い、イヤらしい笑いを浮かべおってぇええぇぇぇ!!」
ポセ井ドン奈「あ、ああっ…男の唇が…、私の唇にっ…!」
ドドドドドドドドッ!!
ポセ井ドン奈「ああっはあんっ!?」
ポセ井ドン奈「あぁっ、くぅ、来るぅっ、来てしまうっ!!////」
ザッパッアアアァァァァァァーーーーン!!!
ポセ井ドン奈「あぁっあっっっはぅううぅぅぅぅんっ!!!////」
おわり
最後までお読みいただき、ありがとうございました
機種変更の際に、以前の携帯に残っていた書きかけのものを最後までまとめた話です
もう1つも近々まとめた後、投下したいと思いますので、その時は是非ともよろしくお願いいたします
タイトル
ユグ寺シル乃(で、できちゃった…)
ユグ寺シル乃(ど、どどどどうしよう…)アワワ
ユグ寺シル乃(できちゃったなんて…男ちゃんになんて言おう…)アワワワワ
ユグ寺シル乃(どーしよー!?)アワワワワ!
男「シル姉~」カララ…
ユグ寺シル乃「お、男ちゃ…っ!!」
男「参考書貸してほしいんだけどー?」
ユグ寺シル乃「…っ!!」
男「どしたの?シル姉?」
ユグ寺シル乃「でっ…!!」
男「で?」
ユグ寺シル乃「出てってぇええぇぇぇっ!!」
男「ええっ!?ちょっちょっ!?何?何!?」
ユグ寺シル乃「きゃーっ!!」ブン!
男「ちょっ!」マクラ、バフ!
ユグ寺シル乃「いやーっ!!」ブン!
男「お互いの部屋の窓から行き来するなんていつも通りだろ!?」ヌイグルミ、ボフッ!
ユグ寺シル乃「だめーっ!」シュッ!
男「危なぁっ!」ボールペン、ピュン!
ユグ寺シル乃「出てってーっ!」ピャッ!
男「いだぁっ!」CDケース、カツーン!
男「か、角がモロにっ…!!」
ユグ寺シル乃「出ぇてぇってぇええぇぇぇ!」ズヌォォ…!
男「タンスは止めて!死んぢゃうっ!」
ユグ寺シル乃「ふぅうぅっ、ふぅっ!」
男「わかった!わかった!出ていくから!」ソソクサ
男「俺何かしたっけなぁ…?」ボソ
ピシャ…
ドスン!
ユグ寺シル乃「ふうっ、ふうっ…」
ヘタン…
ユグ寺シル乃(いい歳して動揺し過ぎちゃった…)
ユグ寺シル乃(突然追い出しちゃって、怒らせちゃったかな…)シュン
ユグ寺シル乃(ホント、どうしよう…)
ゴロン
ユグ寺シル乃(はぁ…)ハァ
ユグ寺シル乃(私の方が6つも上で…)
ユグ寺シル乃(男ちゃんは高校生…)
ユグ寺シル乃(私みたいなのに好きになられても困るだろうな…)
ユグ寺シル乃(告白されてたこともあったし…モテるのかなぁ、男ちゃん…)
ユグ寺シル乃(あの小さかった男ちゃんが…)
ユグ寺シル乃(最近はめっきり男らしくなっちゃって)
ユグ寺シル乃(いつから好きになっちゃったかわかんないや…)
ユグ寺シル乃(…男ちゃん家が隣に越してきて、10年以上経つもんね)
ユグ寺シル乃(と、家族ぐるみで仲良くなったのも同時…)
ユグ寺シル乃(長いのか短いのか)
ユグ寺シル乃(出会い方はアレだったけど)
ユグ寺シル乃(今でもはっきり思い出に残ってるなぁ…)
…
……
………
シトシト
ユグ寺シル乃「ふんふーんふふーん♪」
シトシト
ユグ寺シル乃(久しぶりの雨でお肌が潤うわぁ!)
ユグ寺シル乃(なーんつって、ちょっと大人ぶったりする今日この頃)
シトシト
ユグ寺シル乃「♪あっめあめ、ふっれふっれ、もぉっとふれー♪」
ユグ寺シル乃「♪あっめふり、すいぶんうれしいなー♪」
ユグ寺シル乃「♪ゆっぐゆぐ、どらどら、ランランラン♪」
ユグ寺シル乃(っと!思わず歌っちゃった!////)
ユグ寺シル乃(高学年なんだから、もう少し大人っぽくしないと、ね)
ピッピルーピッピリー♪
ユグ寺シル乃「!」
ピッピルーピッピリー♪
ピッ
ユグ寺シル乃「はい、もしもし?」
シル母『あ、シル乃!あんた今どこらへん散歩してる!?』
ユグ寺シル乃「えっと、今、近くの公園だけど?」
シル母『公園…、もしかしたらいるかもしれないわね』
ユグ寺シル乃「いるって誰が?」
シル母『ほら、今日、お隣さん引っ越してきたでしょう?』
ユグ寺シル乃「うん」
シル母『曇りのち雨の予報だったから、みんな慌てて作業してたみたいなのよ』
シル母『そしたら、ちょっと目を離したスキに』
シル母『5歳の息子さんがどこかに行っちゃったのよ!』
ユグ寺シル乃「ええっ!?だっ大丈夫なの!?」
シル母『みんな心配して大変よ!』
シル母『気付いたのがついさっきで、予報通り雨も降ってるし…』
シル母『あなたも探すの手伝ってあげて!』
ユグ寺シル乃「う、うん!わかった!」
ユグ寺シル乃「とりあえず、公園を探してみる!」タッタッタッ
シル母『特徴は、髪の毛は短くしてて』
ユグ寺シル乃「うん!」タッタッタッ…
男の子「ひっく…」
シル母『今日は赤のパーカーを着てるらしいわ!』
ユグ寺シル乃「…うん」ピタ
男の子「えぐ…」
シル母『名前は男ちゃん!』
ユグ寺シル乃「…えっと、男ちゃん?」
男「ひくっ、おねえちゃん、だれ?」
シル母『え?』
ユグ寺シル乃「居たぁっ!!」
……
…
ユグ寺シル乃(ふふふ…)クスクス
ユグ寺シル乃(そう。引っ越してきた初日から、みんなに心配かけて)
ユグ寺シル乃(そのあと電話でおばさんにすっごく怒られて…)
…
……
男「へぇが、うげぁっ、ご、ごべんなざいぃいぃぃぃ~」
男母『ちゃんとお姉ちゃんにありがとうって言ったの!!?』
男「はぅっ、あげぅんがぁのぉ~(ありがとう~)」
ユグ寺シル乃「新しく住む所で、わくわくしてつい出歩いちゃって、雨が降ってきて寂しかったんだよね」ナデナデ
男母『本当にありがとう、えーっと…』
ユグ寺シル乃「あ、シル乃といいます、ユグ寺シル乃です」
男母『シル乃ちゃん、本当にありがとうございました』
ユグ寺シル乃「いえ、私はたまたま近くに居ただけで!」
男「へぐっ、ひっく…」
男母『すぐに迎えに行くからもう少しだけ見ててくれないかしら?』
シル母『あら、奥さん、シル乃に連れて帰ってきてもらえばいいじゃない』
男母『いや、そんな!』
シル母『ほら、ドタバタして引っ越し作業もちょっと遅れてるし』
シル母『ほんの5、6分だけど、ね?』
男母『いいのかしら…』
シル母『ダイジョブダイジョブ!シル乃、小さい子好きだから』
男母『え!?』
シル母『え?』
ユグ寺シル乃「ちょっ、ちょっちょっとお母さん!変な事言わないでよ!」
シル母『変な事って…、あんた子供が好きだから、将来保育士さんになりたいなぁっていつも言ってるじゃない?』
ユグ寺シル乃「あ、いや、そうだけど…」
男母『あ、ああ、そういうこと…』
シル母『奥さんも、これからお隣さんになるんだし、気にしなくていいわよーぅ』
男母『うーん…、じゃあ少しだけ任せてかまわないかしら?』
ユグ寺シル乃「あ、はい!任せてください!」
男母『ふふふ、あなたのお母さんの言う通り、お隣さんになるんだし、そんなにかしこまらなくていいわよ』
男母『お願いね!シル乃ちゃん』
ユグ寺シル乃「うん、任せて!おばさん!」
シル母『じゃあ奥さん!私も手伝うから、はやく片付け終わらせましょう!』
男母『そうね!お願いするわね、シル乃ちゃん!』
プッ
ユグ寺シル乃「だって!じゃあ帰ろうか、男ちゃん!」
男「ひっく、えっと…」
ユグ寺シル乃「シル乃よ」
男「しるのおねえちゃん」
ユグ寺シル乃「さ、帰りましょ?」
男「かえったら、もういっかいおとうさんおかあさんにおこられちゃう…」
ユグ寺シル乃「ダイジョブよーぅ」
ユグ寺シル乃「私が付いてるから」
男「おねえちゃん…」
ユグ寺シル乃「でも、心配かけてごめんなさいは言わないとダメよ?」
男「…うん」シュン…
ユグ寺シル乃「…そだねぇ、少し元気出そうか?」ニコニコ
男「え?」
ユグ寺シル乃「おなか、空いてない?」
男「ちょっとすいてる」
ユグ寺シル乃「ちょっと待っててね」
男「??」
ユグ寺シル乃「むぐー…むぐむぐー」
ニュニュ~
ポン
男「おねえちゃんのあたまに、バナナができた!!」パァ
ユグ寺シル乃「お、バナナか」
男「おおおおっ!」キラキラ
ユグ寺シル乃「えへへー。すごいでしょ?」
男「なんでー!?どしてー!?」
ユグ寺シル乃「お姉ちゃんはね、ユグドラシルっていう種族なの」
男「ゆぐどりゃちる?」
ユグ寺シル乃「あははは、ちょっと難しいかな?」
ユグ寺シル乃「この世界にはね、男ちゃん達や私達以外にもたくさんの種族がいて、みんな仲良く暮らしてるの」
男「ん~?」
ユグ寺シル乃「まだわかんないよね」
ユグ寺シル乃「でも、これからずっと仲良くできるってことだから」
モギッ
ユグ寺シル乃「はい」ペロンペロン
ユグ寺シル乃「どうぞ、あーん」
男「あーむ」パク
男「!!!」
男「おーいしーーーー!」
ユグ寺シル乃「そう?よかった」
男「うん!」モグモグ
……
…
ユグ寺シル乃(それがきっかけで仲良くなって…)
ユグ寺シル乃(私は一人っ子だから、弟みたいに面倒見てて)
ユグ寺シル乃(そういえば、男ちゃんからプロポーズされたこともあったなぁ)
…
……
男「今日がっこうでね!」
男「しょうらいの夢を発表しましょうって!」
ユグ寺シル乃「ほうほう」
男「そんで、ほら!」ペラ
『ツル姉とけっこんします』
ユグ寺シル乃「ま!」
ユグ寺シル乃(ふふふ、『シ』が『ツ』みたいになっちゃってる)
シル母「あら、男ちゃんからプロポーズ?」
ユグ寺シル乃「ふふふ、うれしいなー」
男「おかーさん!」
男「かならずシル姉をしあわせにするので、シル姉を僕にください!」
シル乃&シル母「!!!」
男「?」
シル乃&シル母「あはははははははっ!」
男「なんで笑うー!?」
……
…
ユグ寺シル乃(…ホント、ずっと弟みたいに見てきたのに…)
ユグ寺シル乃(心ってものはわかんないねぇ…)
ユグ寺シル乃(いつからか、男ちゃんを『男性』としか見れなくなって…)
…
……
男「…、…、…」
女子「…、…」
男「…、…?」
女子「…、…!」
男「…、あ、じゃあまた明日」
男「はあ…」
ユグ寺シル乃「よ!男ちゃん今帰り?」
男「あ、おぅ、シル姉…」
ユグ寺シル乃「今の娘、誰?彼女?」
男「何でもいいだろ。てか覗き見かよ、趣味悪いな」フン
ユグ寺シル乃「はあ!?違うってば!」
ユグ寺シル乃「あの娘が離れるときにたまたま見かけたのよ!」
男「あそ」
ユグ寺シル乃「ありゃ?なんか機嫌悪い?」
男「ほっとけよ」
ユグ寺シル乃「つれないなぁ」プー
ユグ寺シル乃「あぁ!さてはフラれたなぁ!」
男「…」
ユグ寺シル乃「にっしっしっ、オネーサンが慰めてあげようか~?」
男「…」
ユグ寺シル乃「あれ?」
男「…」
ユグ寺シル乃「ホントどしたの?」
男「全然、フォローできなかった」
ユグ寺シル乃「え?」
男「俺の事、好きって言ってくれた。コクられた…、なのに…」
ユグ寺シル乃「は?え?フォローできなかったって…?」
ユグ寺シル乃「フッたってこと?」
男「俺、他に好きな人…いるからって、断った」
ユグ寺シル乃「あ…、そう…なんだ」…ズキン
男「手が届くかわかんないけど、半端なまま自分に嘘つきたくないから…、断った」
ユグ寺シル乃「ごめん、知らずに茶化して…」
男「いや、いいんだ」
男「でも、あの娘の事傷つけたかもしれないって思うと…」
バシン!
男「いだぁっ!」
ユグ寺シル乃「あのね?男ちゃんは適当に断ったワケじゃないんでしょ!?」
男「誠意は伝えられた、と思う」
ユグ寺シル乃「男ちゃんがそんな自信無さげだと、好きになってくれたあの娘にも失礼だし」
ユグ寺シル乃「男ちゃんの好きな人にも、そんな情けない態度でいたら失望されちゃうでしょ!?」
男「シル姉…」
ユグ寺シル乃「…男ちゃんの悪い所は、そうやってすぐに自分で責任を感じちゃうとこ!」
ユグ寺シル乃「まあ、逆に責任感の強さも良い所ではあるんだけど」
男「うん」
ユグ寺シル乃「さっきのあの娘の顔、晴れ晴れしてたと思うよ」
ユグ寺シル乃「きっと解ってくれてるわよ」
ユグ寺シル乃「もっと自信持ちなよ!」ポン
男「ありがとう、シル姉」
ユグ寺シル乃「小さい頃から見てきたんだから、水くさいこと言わないの!」
……
…
ユグ寺シル乃「はあ…」
ユグ寺シル乃(好きな人がいるって聞いて…、年甲斐もなくショック受けちゃって)
ユグ寺シル乃(情けないなぁ…)
ユグ寺シル乃(あああっ!こんなものができちゃうユグドラシルの能力が恨めしいっ!)
ユグ寺シル乃(これさえ無ければ、気持ちを押し殺すことだってできたかもしれないのに!)
ユグ寺シル乃(下手に壊れちゃうよりも、今の関係が続けばって思うこともあるし…)
ユグ寺シル乃(けど…ちゃんと決着させないと!)
ユグ寺シル乃(私は!気高き世界樹ユグドラシルの一族だから!)
ユグ寺シル乃(恥ずかしい真似はできない!)
ユグ寺シル乃(ちゃんと男ちゃんに告げよう!)フン!
ユグ寺シル乃(…)
ユグ寺シル乃(も少し心の準備をしてから…)フー
――
―
―
――
シル母「シル乃は部屋にいるわ」
男「おじゃましまーす」
シル母「珍しいわね、玄関からうちに来るなんて」
男「あー、うん。さっきシル姉に窓から追い出されちゃって…」
シル母「シル乃に何かしたの?」
男「うーん…、それが、考えたけど何もしてないハズなんだよ」
男「おばさん、シル姉の事で何か心当たりない?」
シル母「私も無いわねぇ…」
男「そーかぁ…」
シル母「なんだぁ残念ねぇ」
男「残念?」
シル母「いつもは窓から出入りしてるじゃない?」
シル母「それが玄関から訪ねてくるんですもの」
シル母「なんか、改まってるなーって思うじゃない?」
男「それが?」
シル母「いや、『娘さんをください!』的な展開を予想してたんだけど」
男「俺、まだ高校生っ!」
シル母「小学生の時に、『シル姉をください』って言ってたのにぃ!」
男「いや、今も子供だけど、あれは子供の勢いっつーかなんつーか…」
シル母「確かにまだ若いし、現実にそうはいかないだろうけど」
シル母「あんたの性根の真面目さは昔から知ってるわよ」
シル母「うちは男ちゃんならいつでも大歓迎だから!」
男「ったく、おばさんは…」
シル母「ふふふ、早く仲直りしてらっしゃいな」
男「はいよー」
スタスタ…
―
――
…コン
「…る…?」
コンコン
「シ…姉?」
ユグ寺シル乃「ん…」
「シール姉ー?」コンコン
ユグ寺シル乃「んあ…私、うたた寝…?」
男「ごめん、入るよ」ガチャ
ユグ寺シル乃「え」
男「あ、寝てたのか」
ユグ寺シル乃「お、とこ、ちゃ…」
男「保育士さんも大変そうだよな」
ユグ寺シル乃「あ、うん…」
男「だからってうたた寝しちゃ、風邪引いちまうぞ?」
男「体が資本なんだから気をつけないと!」
ユグ寺シル乃「ありがとう」
男「今度は『出てけ』って言わないんだな」
ユグ寺シル乃「…うん、さっきはちょっと動揺しちゃって…」
男「気付かないうちに悪いことしたかなって思ったけど、全然わかんなくて」
男「とりあえず、こうやって玄関から来たんだけど…」
チラリ
男「あ…」
チョコン
男「あ、そか…、その実、か…」
ユグ寺シル乃「あ、あのっ、なんて言うか…、今日の朝、できちゃってて…」
男「そ、そかそか。シル姉にもそれができるぐらい好きな人が居たんだな!」
ユグ寺シル乃「////」
男「そりゃ幼なじみとは言え、男が窓から出入りはもうできないし、してほしくないよな」
ユグ寺シル乃「////」
男「…俺、応援するから」
男「シル姉は保育士さんだから母性的っつーのかな?」
男「女らしいから大丈夫だよ、きっと」
ユグ寺シル乃「ホント?////」
男「ああ。自信持ちなよ!」
ユグ寺シル乃「じゃあ、応援して!」
男「うん。応援する!」
ユグ寺シル乃「よし!それじゃ…」
ユグ寺シル乃「答えをっ…!聞かせてっ!」
男「はい?」
ユグ寺シル乃「こ、これ!」ズイッ
男「これ、って好きな人に食べてもらうっていう…?」
ユグ寺シル乃「ユグドラシルの『本命果実』よ!」
ユグ寺シル乃「この実は、ユグドラシルが唯一、本能で実らす果実」
ユグ寺シル乃「ユグドラシル一族は」
ユグ寺シル乃「真に愛を告げたい相手が出来た時」
ユグ寺シル乃「その身にハート型の果実、『本命果実』を実らせる」
ユグ寺シル乃「意中の相手に食べてもらう事で永遠の愛の誓いを意味し」
ユグ寺シル乃「叶わなければ、その場で朽ち果てる」
ユグ寺シル乃「また、何もしないままそのまま放置しておくと、枯れもせず朽ちもせず新鮮なまま、自らへの戒めとして手元に残ってしまう」
ユグ寺シル乃「もし、私の気持ちを受け取ってくれるなら…」
ユグ寺シル乃「食べて…ほしいですっ!」グイッ
男「シル姉…」
ユグ寺シル乃「…」ジッ…
男「…」スクッ
ガララッ
ユグ寺シル乃(あ…)
ユグ寺シル乃(行っ…ちゃっ…た…)
ユグ寺シル乃(そりゃそうよね…)
ユグ寺シル乃(高校生男子からすれば、6つも年上なんて、オバサン同然よね)
ユグ寺シル乃(いい大人が高校生相手に失恋して、感傷に浸っちゃって…あはは…)
ユグ寺シル乃(…でもスッキリしたな)
ユグ寺シル乃(好きな人いるって言ってたし、応援してあげないと!)
ユグ寺シル乃(って…あれ?)
ユグ寺シル乃(実が…、朽ちてない!?)
ユグ寺シル乃(え、え?は?えぇ!?)
男「シル姉っ!!!」タンッ!
ユグ寺シル乃「お、男ちゃん!」
ユグ寺シル乃「どうして戻って…?」
男「実、枯れてないだろう?」
ユグ寺シル乃「えっと…、う、うん…」
男「これ」ペラ
『ツル姉とけっこんします』
ユグ寺シル乃「ずいぶんと昔の…」
男「食べるぞ!」パッ
ユグ寺シル乃「えっ!?」
男「はぐっ!」ガブリ
男「ふむぐっ!」モグモグ
ユグ寺シル乃「男…ちゃん…」
男「はむっ」ガブリ
男「くあーっ甘ぇーっ!」モグモグ
男「食感良好ーっ!」ゴクン
ユグ寺シル乃「…」ポカン
男「んぐっ…いつからか『姉ちゃん』みたいな存在から、『好きな人』に変わってたんだ」
男「でも俺まだ子供だし、シル姉は気立ても良いし、綺麗だし」
男「俺が一人前になるのが早いか、誰かにシル姉を盗られるのが先か…」
男「とか、勝手に自分で決めてたんだけど…、…か、かなり嬉しい」
ユグ寺シル乃「男ちゃん…」ウルウル…
男「シル姉…」
男「いや、シル乃」
ユグ寺シル乃「はっ、はひっ!!」ビシッ
男「食べちゃったぞ?」
ユグ寺シル乃「…うん」
男「いいんだな?」
ユグ寺シル乃「うん!」
男「ただの幼なじみじゃなくなったぞ?」
ユグ寺シル乃「うん!うんっ!」
ダキッ、ギュウ!
ユグ寺シル乃「男ちゃんこそ、いいの?」
男「何が?」
ユグ寺シル乃「私、オバサンだよ?」
男「シル乃がオバサンなら、うちの母さんはオバアサン、いや、ミイラだ」
ユグ寺シル乃「ぶぉふっ!」
ユグ寺シル乃「ぷふっ、ふふふっ、それは言い過ぎ!」
ユグ寺シル乃「じゃあ、うちのお母さんなんか出涸らしだよ!」
男「…」
ユグ寺シル乃「…」
男&シル乃「あはははははははっ!!!」
ギュゥ
男「俺、まだまだ子供で半人前だから、少し…いや、長く待たせることになるけど」
男「待っててくれな?」
ユグ寺シル乃「うん。待ってる。今までもこれからもずっとあなたの傍で見守ってるから」
ユグ寺シル乃「それにね」
ユグ寺シル乃「どんな大樹も、例え世界樹であっても」
ユグ寺シル乃「大地にしっかり根を張って、足元から支えないと」
ユグ寺シル乃「決して、良い稔りは獲られない」
ユグ寺シル乃「力強い幹も」
ユグ寺シル乃「青く繁る葉も」
ユグ寺シル乃「美しい花も」
ユグ寺シル乃「豊潤な果実も」
ユグ寺シル乃「根が充分でなければ稔らない」
ユグ寺シル乃「私達の『これから』の種は、まだ蒔かれたばかりだもの」
ユグ寺シル乃「しっかりじっくり、根を巡らせましょう?」
男「さすが、大人の余裕。こっちは必死に頑張らないとなぁ」
ユグ寺シル乃「あなたなら大丈夫!ずっと見てきた私が言うんだもの!」
ユグ寺シル乃「真面目で努力家、時々、真面目さが裏目に出ることもあるけど」
ユグ寺シル乃「芯の強さはきっと誰よりも強いよ」
男「シル乃…」
男「俺、頑張るから!」
ユグ寺シル乃「うん!」
ユグ寺シル乃「好きよ、男ちゃん…」
ギュ
――
―
――
シル母(おうおうおうおう!!お茶の一杯でも用意してみりゃ…)
シル母(私を出涸らしだとぅ!?)
シル母(好き放題言いよってぇ…!)
フゥ
シル母(…ま、男ちゃんはまだまだ若いけどいい子だし)
シル母(なんつっても我が家の愛娘、シル乃がついてるし、その本人が選んだ相手だものね)ニコニコ
シル母(あの二人なら大丈夫でしょ)
シル母(ハッ!!そうと決まれば!)
シル母(男ちゃん(あっち)の家族も呼んで!)
シル母(祝宴じゃぁー!!!)バンザーイ
―その時、母が取った万歳の姿勢は
世界中のどの万歳よりも美しく
そして
気高かったという
おわりです
三編合わせて、お付き合い頂いた方、おられましたらお礼申し上げます
最後までお読みいただき、ありがとうございました
>>1乙!
欲を言うならもっとみたいです
おつかれさま!
私も名残惜しいです。
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