夕立「恋情は見返りを――」提督「求めない」 (682)
艦これSS
SFな感じで
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420816420
提督「えーと、吹雪、でいいのかな?」
提督「本日より艦隊の指揮を執ることになった。よろしく頼む」
吹雪「はい!特型駆逐艦1番艦、吹雪です。よろしくお願いします、司令官」ペコリ
提督「おお……。艦娘を実際に見るのは初めてだが、可憐だ。感動した」
吹雪「ええと…//」
提督「期待しているぞ」
提督「……ふむ。じゃあ早速だけど、建造しようかな」
提督「妖精さん。最低値で、2回、よろしく」
建造妖精A「はーい」
吹雪(結構若い司令官さんだ)
提督「戦力を揃えるために、とりあえず3隻建造してみようと思うんだが」
吹雪「はい、それで特には問題ないと思います」
提督「まあ少し過保護……もとい慎重すぎる気もするが、吹雪も1人では寂しいだろう」
吹雪「あ、いえ、でも、間宮さんもいますし」
提督「ああそうだった。挨拶に行かないとね」
―食堂―
吹雪「間宮さんはこちらにいらっしゃるかと思います」
吹雪「間宮さーん!」
間宮「はーい!」パタパタ
間宮「あ、もうこちらにいらしていたのですね!」
間宮「給糧艦間宮です。皆さんの健康を精一杯守らせていただきます」
提督「本日付で着任した。右も左もわからないが、よろしく頼む」
提督「吹雪は挨拶を済ませたのか?」
吹雪「はい! 司令官がいらっしゃる2時間ほど前に」
提督(本部で合流したわけではないのか)
提督「なるほど。これから世話になるな」
間宮「いえ、こちらこそお世話になります」ペコリ
間宮「……あら?」
建造妖精A「……」テクテク
吹雪「妖精さん! もしかして……」
建造妖精A「いっせきできたー」
建造妖精B「できた」
建造妖精C「できてしまったふかくにもー」
建造妖精D「なかなかのじんそくさ?」
建造妖精E「かいてんりつあげないとゆーざーさんがはなれるです?」
建造妖精F「すぐにらんらんになりますゆえ」
建造妖精G「めでぃあみっくすでさくしゅすればもんだいないです?」
提督(アホみたいに早いな)
提督「吹雪、早速迎えに行こうか」
吹雪「はい!」
―工廠―
響「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」
提督「ほう。いかにも何かやってくれそうな感じだ」
提督「フェニックスだし」
提督「かっこいい」
提督「我が鎮守府の初建造だ。来てくれてありがとう、歓迎するよ」
響「あなたが司令官かい?」
提督「いかにも」
響「いかにも何かやってくれそうな司令官だね」ニコッ
提督(かわいいな)
提督「気分はどうだ」
響「хорошо」
提督「そうか、それは何よりだ」
吹雪「……」ウズウズ
提督「紹介しよう。こちらにいる艦娘、特型Ⅰ番艦の吹雪だ」
響「!」
吹雪「吹雪です! よろしくね、響ちゃん」
響「……吹雪、なの?」
吹雪「うん」
響「私の、暁よりも、ずっとお姉ちゃんの、吹雪……」
吹雪「……うん!」
響「なんだろう、この気持ちは。よくわからない……。でも、悪くない」
響「хорошо」
提督「……」
提督「君たちは」
提督「君たちは自分たちのことを、どう理解しているんだ?」
提督「響。君が目覚めたのは今この瞬間だと思うが、君は自分の存在について何の疑問も抱いていない?」
響「私は……」
期待
響「私は。私たちは、艦艇。そしてなぜか今、ヒトの姿をとり、あなたたちと話している」
響「でもそこに疑問を深くは感じないよ」
響「私は覚えてる。私はかつて響と呼ばれる船から、世界を見ていた」
響「私は生身で鏡を見たことがないからわからないけれど、多分その時も私はこの姿をしていたんだ」
響「誰もこの私を見ることはできないけれど、でも私は他ならない“響”だったから」
響「そしてみんなは私のことを船として見ていてくれたから」
響「だから何も怖くはなかった」
響「それだけだよ」
提督「……そうか」
提督「吹雪はどうだ?」
吹雪「そ、そうですね……」
吹雪「私には難しいことはわかりませんが、この姿にはあまり違和感がありません」
吹雪「響ちゃんの言う通り、もともとこんな感じだったような気がします」
提督「ふむ。なかなか興味深いね」
提督「いや、すまなかった! なんだか辛気臭い話になってしまって」
提督「私も、艦娘という存在がいまいちよくわからなくて、つい問うてしまっただけだ。あまり思い詰めないでくれ」
吹雪「いえ、私はぜんぜん大丈夫です……けど」
響「司令官。私はこういう話、好きだよ」~♪
吹雪(意外とおしゃべり、好きなのかなぁ?)
提督(ちょっとキャラが掴めたな)
―司令室―
提督「さて」
提督「吹雪は本部の方から色々説明を受けているとは思うが、今一度改めて私の方から話をさせてくれ」
提督「君たちは自分たちを“20世紀前半に造られた船である”と認識している。ここに間違いはないね」
響・吹雪「「はい」」
提督「だがここは2XXX年だ。君たちは妖精と呼ばれる超常的な存在者の力を借りて、再びこの世界に造られた」
提督「ヒトと交流する術も共に持ち合わせて」
提督「理由は勿論、戦うためだ」
提督「……今、海は深海棲艦と呼ばれる謎の存在によって支配されている」
提督「それに対抗する手段として、君たち艦娘がその先陣を切ることになる」
提督「そして君たちに指示を下す司令官がこの私だ」
提督「一応士官学校は出ているが、まああんなものに意味があるのかどうかはよくわからんな」
提督「頼りないかもしれないが、人類のために力を尽くさせてもらう」
提督「よろしく頼む」
響・吹雪「「よろしくお願いします!!」」
響「ところで司令官」
提督「なんだい響くん」
響「そんなに士官学校は、その、しょぼかったのかい?」
吹雪(響ちゃん早速先陣切ってるよ)
提督「んー……」
響「私の記憶にある士官学校はあらゆる意味で生易しいものではなかったと思うのだけれど」
提督「確かに。参照可能な資料を見る限り、20世紀における士官学校はそうした形態をとっていたのかもな」
提督「別に現代の士官学校がとりわけ厳しくなかったというわけでもないのだが……」
提督「何より致命的だったのは、私は士官学校を卒業しても提督になれなかった」
吹雪「えっ!? じゃあここに着任するまでは何をされていたんですか?」
提督「何というか、林業? 営林署で木を切ってた。ギーコギーコ」
響「じゃあ司令官は成績がよくなかったけど、海軍の人手不足から転職して中途採用されたんだね」
吹雪「!?」
吹雪「ちょ、響ちゃん!?」
提督「まあまあまあ。実際そんな感じだし。私は特に気にしてないよあはは!」
吹雪(大丈夫かな、この人が司令官で……)ダウーン
―工廠―
提督「んで」
那珂「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー☆」
吹雪「よ、よろしくお願いします!」
提督(なぜアイドルなんだ……)
提督「なんかこう、駆逐艦とか軽巡洋艦だとか、なんかないのか?」
那珂「軽巡洋艦のアイドル、那珂ちゃんだよー☆」
提督「そうか、結局アイドルなのか」
那珂「うん、よっろしくぅ~!」
提督「ならう○ちしないのか」
吹雪・響「!?」
那珂「!?」
吹雪「し、司令官……?」
響(司令官はアイドルがう○ちしないと思っているのか)
吹雪「(さ、さすがにセクハラになるんじゃ?)」
提督「(まあ聴け吹雪。彼女には真面目に仕事をしてもらいたい)」
提督「(ということで少し真面目になってもらう。矯正する。調教する)」
提督「で、どうなんだ?」
那珂「な、那珂ちゃんはー、あ、アイドルなんだから、し、しないもん……」フルエゴエ
提督「おお、それでこそトップアイドル。アイドルの鑑。さしずめアイドルマスターと言ったところか」
提督「今日はそんな那珂ちゃんの進水を祝って豪勢な食事にしよう!」
那珂「あ、あの~、お気遣いなく」ヒヤアセダラダラ
提督「どうした那珂ちゃん? 元気ないぞ、そんなんじゃダメだ」
提督「でもたくさん食べれば、元気が出るぞ」
提督「う○ちは出ないが」
那珂「……て、提督」ガクブル
提督「なんだ?」
那珂「私、軽巡洋艦那珂は、本日を以ってアイドルを卒業します……」
提督「そうか、残念だ」
提督「那珂ちゃんの人間宣言だな!」
響(これは酷い)
吹雪(アイドルって人間じゃないんだ……)
提督(ちょっと遊b……いじめすぎたか)
提督「悪かった悪かった! 食堂に行って間宮さんから羊羹でももらってきなさい」
那珂「はい、いただきます……」トボトボ
提督「ふむ」
提督「しかしまあ“アイドル”という概念自体、随分付加的だな」
提督「まさか艦艇として造られた段階からアイドルとしての自覚を持っていたわけでもあるまい?」
吹雪「そのはずですが……」
提督(……じゃあそれは一体いつどの段階でどのようにして差し込まれた認識だ?)
提督(そこに何か艦娘の起源についての秘密があるのかもしれない)
提督(いいヒントをもらった)
響「司令官。いい顔をしているね」
提督「そうか? ありがとう」
今宵はここまで。
>>7
ありがとうございます
おつおつ
ぽいぽい好きの俺提督大歓喜
この響なんか好き
>>16
ありがとうございます
一応メインヒロインで考えてますので早く登場させてあげたいです
おつ
黒須ちゃん寝る
>>17
嬉しいレスです、ありがとうございますw
なんか不思議っ娘(?)みたいな感じになってしまいました
>>19
おやすみなさい、太一
乙
ラヴァ的な立ち位置の艦娘が果たして出てくるのか……
力を感じる
妖刀ハラキリ丸はいつ出ますかねぇ
橿原丸とか出雲丸にしれっと混じっててもええんやで
駆逐艦好き(ロリコン)は病気です
そしてまた、夜は来る。
>>22
ぶっちゃけその発想はなかったw
大井とかどうですかね?
「避妊するから!!!」
>>23
Спасибо
>>24
そんなんでええのか
>>25
俺から駆逐艦好きとったら!!
やっぱ丸々残るな
つづき、いきます
提督「そして君たちはよくもこうぽいぽいと艦娘を造れるもんだ」
提督「なあ?」
建造妖精C「オゥッ!?」
提督(なんかさっきと印象が違うな)
提督「妖精さん、どうやって艦娘を造っているんですか?」
建造妖精L「あー」
建造妖精A「たたむー」
建造妖精N「ここたたむー」
建造妖精N「ここまがるー」
建造妖精A「ぶっこぬきー」
提督「わけがわからないよ」
建造妖精D「んー……」テクテク
提督「はぐらかされてしまった」
吹雪「でも、かわいいですよね」
響「……」コクコク
提督「一理あるな」
提督「まだ3隻目の建造まで時間がありそうだな」
提督「ちょっと鎮守府を散歩してみるか」
提督「吹雪、案内してみてくれ」
吹雪「はい、お任せください! 司令官」
―――
――
―
響「広い……」
提督「へぇ。武道場なんて用意されているのか」
提督(対人戦闘が想定されているのだろうか? 或いはただ何となく妖精が建ててみただけか)
吹雪「静かで落ち着きますね」
提督「きっとこれからもっと賑やかになるぞ」
―――
――
―
提督「ここが倉庫か」
吹雪「定期的に本部から資源が輸送されてくるみたいです」
提督「ああ。一応前もって聞いているよ」
―――
――
―
吹雪「どうでした司令官?」
提督「特に軍港として目新しいものはなかったが、実物を見るのは大事なことだ」
提督「いい所だと思う。ありがとう、吹雪」
吹雪「えへへ///」
提督「さてそろそろ最後の1人を迎えに行くか」
―工廠―
天龍「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」
提督「ああ、怖いな」シレッ
天龍「フフッ、ま、仕方ねぇなぁ~」
提督(何だコイツかわいいな)
吹雪「……か」
提督「か?」
吹雪「かっこいい~~~!!!」
天龍「お、おぅ……。ありがとよ///」
天龍「……ん?」
響「……」
天龍「おー? なんだなんだ? この天龍様が怖くて声も出なくなっちゃったかなお嬢さん?」
響「……」ギロ
天龍「」
天龍(えーなにこの娘ちょー怖い堪忍してつかぁさい……)
響「……」フッ
響「……」ニコッ
天龍「……か」
提督「か?」
天龍(かわええ~~~!!! だ、抱きしめたい! いや、だがしかし……)
天龍「フッ、この俺としたことがな……」ドキドキ
提督「(厨二病かな? 眼帯してるし)」
吹雪「(ですかねぇ?)」
―司令室―
提督「さてさて」
提督「現在我々の鎮守府は資源がたくさん蓄えられていると言える状況ではないのだが」
提督「遠征より先にまず実戦にあたってもらおうと思う」
提督「前もって演習を行うということも考えたが、実戦と演習は異なるし、実戦が想定されなければ演習する意味もない」
提督「また仮に実戦のための充分な演習を行うにしても、どこまでで充分かなどと判断がつくはずもない」
提督「過剰なリスクヘッジは作戦全体の進行を妨げることになる」
提督「そして何より」
提督「君たちは対話できる軍艦だ」
提督「君たちの容姿はやや幼く感じないわけではないが、私はそのことによって君たちの能力を判断したりはしない」
提督「ましてや子ども扱いするつもりもない」
提督「だから私は君たちの言葉を信じる。そしてその覚悟と力の程を実戦で私に示してもらいたいと思う」
提督「勿論連携や練度の部分で不足はあるかもしれないが、そういった部分は追々私と一緒に詰めていけばいい」
提督「鎮守府周辺海域は敵艦も少ないし、大事には至らないだろう」
提督「ひとまず、今の君たちにできることを精一杯、私に見せてくれ。今日に関しては危険があれば必ず撤退命令を出す」
提督「今回の作戦は鎮守府正面海域の制海権奪取だ」
提督「尤も、“奪取”と大仰に言うほどのことでもないが。深海棲艦はもともとこのあたりに強い影響力を持たない」
提督「また以前、ここから少し離れた場所で他の鎮守府との限定的な大規模戦闘があったようだが、その影響も特に窺えない」
提督「しかしくれぐれも油断はしないように」
提督「並びに、深海棲艦との戦闘後には艦娘を拾うことがあるらしい」
提督「これはまあなんというか、拾ってあげてくれ」
提督「第1艦隊旗艦は吹雪。以下、響、那珂、殿は天龍」
提督「交戦陣形は旗艦に判断を一任。敵艦影発見の通達と同時に無線封鎖は解除するものとする」
提督「封鎖解除以降は可能な限り、量子通信網を用いて戦況を直観的にモニタリング(DM)する」
提督「DMのリンク対象ノードは吹雪。モニターに基づき必要に応じて全体に音声指示を出す。」
提督「説明は以上。何か質問は?」
一同「……」
提督「いいな。1300、これより作戦を開始する!」
―母港-無線―
提督『どうだみんな。緊張しているか?』
吹雪「はい、少しだけ……」
那珂「私は大丈夫ですよ?」
響「問題ないな」
天龍「お、それじゃあ緊張してるのは吹雪だけってことか?」ニシシ
吹雪「え、そ、そんなぁ~」
吹雪「航行はともかく、ヒトの姿で海を滑るだなんて、私経験ありませんよ!?」
提督『いや、それに関してはみんな経験ないし、身体が覚えているらしいから大丈夫なはずだ』
提督『ほら、吹雪が先頭なんだから、早く行った行った』
吹雪「はぁい」
提督『残り3人も船間距離を意識して順次出撃せよ』
一同「了解!」
提督(さて、いよいよだ)
提督『各艦、常態のまま両舷原速で航行。船間距離に注意しながら隊列を整えよ』
吹雪「……基本陣形の展開を確認」
提督『よし。艤装展開! 艦船形態へと移行せよ!』
吹雪「了解。艦船形態へと移行」
海がまばゆい光に包まれる。
彼女たちの肉体に折り畳まれた超々高密度の情報が発露し、それが周囲に展開される。
船体はあらゆる物理の地平を超えて、瞬く間に構成されていくのだ。
かつて船だった“それら”は人の形を得、そして今再び船として顕現する。
提督『移行を確認した』
提督「……それが君たちの本当の姿か」
提督(壮観だな)
提督『これより無線は封鎖とする。深海棲艦との接触が予想されるポイントまで警戒を怠らず航行せよ』
―――
――
―
<Blog>
『Direct Monitoring(DM)』
DMとは、特定の内観を直接データとして抽出し、別の内観に対してそれを反映させる技術である。
艦娘の感性的直観の全般は人類(Homo sapiens sapiens)とは完全に合致しないことが予想されるため、
抽出データは視覚情報、聴覚情報のみに限定される。とりわけ触覚情報に関しては再現が困難である
ためこれを反映しない。なぜなら艦娘は、自身の船体状況を感覚的に瞬時に把握する能力を持つが、
その感覚を人類の感性直観に当てはめることが出来ないからである。本来であればこうした直観の
違和は研究によってここまで厳密に定義すること自体難しいが、それがひとえに可能になるのは
艦娘が言語能力を有し、かつ艦娘の直観全体の一部があくまで人類に準拠しているからであると言えよう。
したがって、艦娘の報告する船体の記述は人類の直観と合致するという意味で充分に客観的情報だが、
その情報を艦娘が取得する際、その情報が“艦娘にはどのように現われるのか”ということに関して
人類はおよそ問題を問い得ない。
・Reference
Nagel, Thomas. "What is it like to be a bat?"1974
今宵はここまで。
乙
この設定いいな
乙
吹雪(こうして海を眺めるのもいつ以来だろう)
吹雪(かつても私は戦争に参加したけど、昔と今では何かが違う)
吹雪(いや本当は何もかも違うはずなんだ)
吹雪(私は現に今、乗組員なしでこの船を操縦している)
吹雪(他ならない、私自身の意志で)
吹雪(こんなこと、やったこともないのに)
吹雪(響ちゃんの言った通り、そこに何の違和感もない)
吹雪(それに敵も何だかよくわからない)
吹雪(深海棲艦……一体何なんだろう)
吹雪(敵はやっぱり……ヒト、なの?)
吹雪(!)
吹雪(発光信号……)
天龍『そろそろ戦闘海域だぜ』
吹雪「はい、このまま単縦陣でいきましょう」
吹雪「戦闘を開始します」
―――
――
―
吹雪「敵艦見ゆ! 駆逐艦1。他、敵影なし。データベース(DB)参照の結果、イ級との判定。取舵20!」
響「主砲発砲準備完了。てぇー!!!」ドドーン!
那珂「着弾確認、目標中破」
提督(初戦でここまで正確に当ててくるか。判断も早い。まぐれか? いや……)
那珂「敵艦主砲発砲! 回避!」
ザバーン!
天龍「大丈夫かっ!?」
那珂「被害ゼロです。てー!!」ドドドーン
那珂「は、はずれた……」
天龍「仕方ねぇなあ。オラオラ!!」ドドーン
吹雪「着弾を確認。目標沈黙。駆逐艦イ級の撃沈を確認しました」
提督(……なるほどね)
提督『ご苦労。みんなよくやった。拾得艦(ドロップ)はどうだ』
吹雪「なんか……敵艦が光に包まれて消えてなくなった後に、何か、何か浮かんでます」
提督(あれか……)
提督『那珂。常態に移行して回収してくれ』
那珂「了解!」
那珂(ヒト……? 艤装があるから艦娘、だよね)
那珂「もしもーし! 起きてくださーい!」
??「……」
那珂(ひっ!)
那珂(……し、死んでる……)
那珂(……)
那珂(って、んなわけあるかぁー!!)
那珂(かわいい娘だ)
提督『何か不埒なことを考えてないか?』
那珂「うっわぁ!! 急に話しかけないでください! 心臓が出ます! 口から!」
提督『那珂ちゃんはいろんなものが溢れ出るな』ハッハッハ
那珂「う る さ い !」
那珂「もう……。とりあえず担ぎましたので、このまま艦船形態に移行して格納しちゃいます」
提督『ありがとう。頼んだぞ』
提督『第一艦隊全艦に伝える。被害ゼロのこの状況につき、進撃する』
天龍「よっしゃぁ!!」
提督『天龍、話は最後まで聞け。死ぬぞ』
天龍「わ、悪い……」
提督『みんな本当によく動けている。私の指示なしであれだけ動けるなら戦闘を任せても全く問題ない思うが』
提督『次の戦闘では試しに指示を出してみる。よろしく頼む』
提督『今回は偵察艦だったが、次は現在この辺りを巡洋している主力が出てくるはず』
提督『引き続き気を引き締めて当たってくれ』
一同「了解!!」
―――
――
―
吹雪「敵艦隊見ゆ! k」
提督『目標11時! 全艦面舵15! 響!』
響「発射準備完了。てぇー!!!」ドドーン
提督『先頭から順にホ級ハ級ロ級ロ級の3隻。ロ級の中破を確認。ホ級から攻撃、回避運動!』
ザバーン!
吹雪「大丈夫です。当たってー!!!」ドドーン
提督『ロ級中破。天龍!』
天龍「うっしゃぁっ! 天龍様の攻撃だ!」ドドーン
提督『ロ級2隻からの砲撃! かわせ!』
ザバーン!
響「ロ級1隻撃沈」
提督『……那珂、3門目右1度仰角-1度で補正』
那珂「!? はい!」
提督『発砲合図は私が送る。左舷全斉射……』
提督『てぇー!!!!』
那珂「てー!!!」ドドドーン
響「ハ級大破炎上」
提督『雷撃に移れ。全艦発射!』
提督『!? 天龍!』
天龍「雷跡! くっ、避け切れない! ぐうっ!」ドカーン!
吹雪「天龍さん!?」
天龍「だ、大丈夫だ。中破だ」
提督(あれで中破だと? 何かあるな)
響「3発の命中を確認。ホ級ハ級ロ級、共に撃沈です」
吹雪「やった、終わった。やりました司令官!」
提督『ああ、みんなよく頑張ったな。しかし祝勝は後だ。ドロップを確保し迅速に撤退するぞ。吹雪』
吹雪「はい!」
ホ級の撃沈地点に吹雪が近づくと、彼女を光が覆った。
光は徐々にその半径を殺がれ、最終的に甲板の上に収束していく。
吹雪は限定的に甲板に自身の常態を顕現させ
新たなる艦娘を出迎えた。
那珂β「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ~! よっろしくぅ~☆」
一同「……」
提督『あー。こりゃまた』
提督は問題が山積みになっていくのを感じた。
今宵はここまで。
考えを実際に文章に落とし込むとこの進行の遅さ。ヤバイ
乙
那珂チャンは二人とも解体ですね(ゲス顔)
>>46
4隻の間違いだった
ハラキリ丸の出番だ
ここに那珂ちゃんが二人いるじゃろ?
あれをこうするじゃろ?
こうじゃ(4-8-22)
―母港―
吹雪「作戦が完了しました」
提督「みんなお疲れ様」
一同「お疲れ様です!」
提督「早速みんなを労ってやりたいんだが、色々やりたいことが出来てしまってなぁ」
提督「とりあえず天龍以外は司令室で待機していてくれないか? あまり待たせはしないよ」
一同「了解です」
提督「さて」
天龍「なんだよ。ひとりだけ中破しちまった説教か?」
提督「いや、そんなことはどうでもいい」
提督「お前のありのままの姿を見てみたくなった」
天龍「!?」
一同「!?」
吹雪「し、司令官!?」
那珂「提督もなかなかやりますね~」ウリウリ
天龍「ちょ、まっ/// その、心の準備が……////」
響「天龍も満更でもないんだね」ニヤ
提督「あーお前らうるさい。いいから、天龍は早くドックに入れ」
那珂「キャー!!!」
天龍「お、おう……//」
提督「ほら、帰った帰った」
那珂「後でどうなったか、聞かせてもらうからね提督!」
提督「ああ、いくらでも話してやる」
天龍「それは……その。……困る」
提督「ほら行くぞ」
―入渠ドック―
提督(艤装はともかくやはり衣服も装甲として拡大解釈されているのか)
提督(この目で見るまでは信じられなかったが……)
提督(アレも妖精が創っているのだから、当然か)
提督「天龍」
天龍「ひ、ひゃい!」
提督「とりあえず艦船形態に移行してほしい。船体を見せてもらう」
天龍「え、あ、はい」
天龍「……」
天龍(いや、それはそれで恥ずかしいな)
提督「入るぞ、天龍」
天龍「あ、うん……」
天龍「ッ!」
提督「ちょっと狭いな」
天龍「しょうがねぇだろ……」
提督「でも、あたたかい」
天龍「う」
天龍「あんまり見られると、恥ずかしいって……」
提督「綺麗だと思うが?」
提督「ここ、動かすぞ」
天龍「あっ……! そ、そこは、さっきのでぐちゃぐちゃになっちゃってて……!」
天龍「だから、提督、ダメ――!」
ガチャ
提督「……」
天龍「……ぁぅ」
提督(……この区画、おそらくは元々存在していたものではないのだろうな)
提督(というよりもむしろ、“このような区分のされ方ではなかった”と言った方が適切か)
提督(兵装等危険物が着弾箇所から排除されている。着弾の直前に船体構造を自律的に、無意識に組み替えたのか)
提督(これだけの芸当をやってのけるなら機能的にそう簡単には沈むまい)
提督(最悪、火力を殺いででも航行を維持するなら中破でも進撃は可能か)
提督(大したダメージコントロールだ)
提督「びしょ濡れだな。妖精さんに綺麗にしてもらえ」
提督「色々と参考になった。ありがとう」
ガチャ
天龍「い、いや。それは別にいいけどよ……」
提督「手間をとらせて済まなかった。これより天龍は入渠。船体を修理する」
天龍「! お、おい! オレを戦線離脱させるな! 死ぬまで戦わせろよ!」
天龍「提督!!」
提督「落ち着けよ」
天龍「……」
提督「別に私はお前の矜持を踏みにじるつもりはない」
天龍「ならっ!」
提督「だがな天龍。想像してみろ」
提督「お前が大破した状態で進撃し、お前が撃沈する代わりに目の前の敵を殲滅出来たと仮定しよう」
提督「これをどう感じる?」
天龍「最高の死に様だな」
提督「ああ、そうだな。そうかもしれない」
天龍「
提督「だがそれで戦争が終わるわけじゃない」
天龍「っ!!」
提督「とりあえず戦術の話をしておこう」
提督「この戦いがいつ終わるかはわからない。長い戦いだ」
提督「天龍、“お前”が沈んだしたとしても“別の天龍”はいる」
提督「だがお前が培ってきた練度はタダじゃない。その分は無駄になる」
提督「当然、長い目で見ればたとえその戦闘で勝てたとしても非効率的だと言わざるを得ない」
提督「だから私がお前を撃沈させてもいいと判断出来る状況は、戦争に勝利出来ると確信した時だ」
提督「或いはお前を犠牲にしてでも、人類に利すると判断した際には」
提督「大破でも進撃させるよ」
提督「それが提督としての私の立場であり、私の為すべきことだ」
提督「私が預かっているのは、何もお前たちの命だけではない」
提督「だがそれは私だけではなく、お前たちにも言えることだと思う」
提督「違うか?」
天龍「……」
提督「死に場所なら私が用意してやるから安心しろ」
天龍「わかったよ……」
提督「天龍が魂を懸けて戦ってくれているということはわかる」
提督「お前たちはその戦争の最前線に立つ戦いの道具であり、駒だ」
提督「でも私は、上官ではあるがお前たちのことを戦友だと思っている」
天龍「!」
提督「結局戦争の道具なんてのは、私に関しても同じことが言える」
提督「鎮守府は沖よりは安全だが内地よりは、……危険な場所だ」
提督「敵が襲ってきた時には陸にいる人々を守るために、私も命懸けで戦うことになるだろう」
提督「だから」
提督「これからも頼んだぞ」
天龍「……」
天龍(まったく。敵わねぇなぁ)
―司令室―
提督「待たせたな」
提督「戦果報告はいいだろう。私が直接モニターしていたし」
提督「今回の反省点だが」
提督「まず我々の艦隊にはまだ戦艦、空母が進水していない。水上機開発もまだだ。ゆえに索敵範囲には大きく制限がかかる」
提督「敵泊地打撃作戦とかならまた話は別だが、基本的に敵艦影を発見したらこちらも発見されたと思え」
提督「それから報告の正確さも重要だが迅速さも必要だ。目まぐるしく変わる戦況に応じて報告・指揮に優先順位をつけろ」
提督「いいな、吹雪?」
吹雪「はい!」
提督「響は吹雪の指示にも私の指示にもよく動いてくれていた。次に何をすべきか見えているな」
提督「今日のMVPだ」ナデナデ
響「……Спасибо」
提督「まあそんなところか。この調子でこれからも頑張っていこう。戦闘に関しては以上だ」
提督「吹雪、拾得艦を呼んできてくれ」
吹雪「はい、ただいま」
夕立「こんにちは、白露型駆逐艦の4番艦、夕立よ。よろしくね!」
夕立「……ここは?」
提督「今日からここが君のホームだ。私はここで提督をしている」
夕立「あなたが、提督さん……?」
提督「ああ」
提督「我々は現在“深海棲艦”と呼ばれる艦隊と戦っている」
提督「先程彼らとの初戦を迎えたのだが、そこで君を、まあ文字通り拾った」
提督「こちらもわからないことだらけだが、仲間になってくれるか?」
夕立「……」
夕立「うん、いいよ!」
提督「ありがとう夕立。これからよろしく」
提督「さて、もうひとりか」
那珂β「んー? 何かなー?」
提督(頭が痛い……)
提督「君は川内型3番艦、那珂で間違いないね」
那珂β「うん、艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ?」
提督「実はここにも那珂がいてな……」
那珂「那珂です」
那珂β「お? おお~????」
那珂β「那珂ちゃんがふたり!!!!」
響「司令官、またアレをやるのかい?」ワクワク
提督「いや、もうアレはいい。疲れた」
那珂「え」
提督「新しい方の那珂ちゃんは別室待機だ」
那珂β「えーつまんなーい。早くお仕事くださいよ提督!」
提督(ツッコミを入れる気力もない)
提督「那珂は行ったか」
吹雪「はい」
提督「吹雪、建造と拾得の資料を」
吹雪「こちらです」
提督「ありがとう。どれどれ……」
提督(この資料は正直真面目に読んでなかったな)
提督(同型艦ではなく、同一艦、か? あれはどう定義したらいいんだまったく)
提督(同じ艦船、同じ身体、同じ人格)
提督(再現可能であるということは元の情報がどこかにあるということか?)
提督「……」
夕立「提督さん、お困りっぽい?」
響「どうやらそのようだね」
<Blog>
『建造』
艦娘建造には燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト、開発資材の5つの資源を必要とする。逆に言えば妖精は
この5つの材料のみから艦娘を完全に構成する。その構成原理は不明。投入資材量のバランスによって
構成される艦種の確率分布をある程度コントロールすることが出来るが、実際に構成される船は完全に
ランダムである。
『拾得艦(Drop)』
深海棲艦との戦闘後、当該の戦闘地点において一定確率で艦娘が構成されることがある。こうして拾い上げる船を
拾得艦と呼ぶ。構成原理は建造と同様に不明。
<Blog>
『重複艦』
艦娘を入手する主な手段は2通りであるが、入手に際して艦娘が重複することがある。同じ艦娘を同一艦隊に
配属させることは指揮系統に深刻な問題を発生させる原因となるため、これを禁じる。また、複数の同一艦を鎮守府に
待機させること自体は可能だが、作戦の効率や居住キャパシティの問題から推奨されない。したがって、
重複艦は処分するのが一般的である。処分には解体と改修の2つの方法がある。解体は、艦娘の身体データと
人格データのみをサルベージし、他の情報を還元可能な分だけ資源に分解する。改修は、解体によって資源となる情報を
直接他の艦娘の強化に充てるものである。いずれも作業工程は妖精が請け負い、分離した身体は本部が回収を行う。
並びに、艦娘に対する事前報告の義務は定義されていないため、多くの場合凍結処理(昏睡)を行った後に
解体・改修のフェーズに移行する。加えて、指揮官の任意によって事前に同意を確認し処理後の記憶処置について
艦娘の希望を問うことも可能だが、処理の迅速さの見地から推奨されない。凍結処理後に解体・改修を行った場合、
艦娘は艦娘としての記憶を消去され、一般市民としての生活を送ることになる。
指揮官は艦娘に対していつでも凍結処理を行える。また同時に、いつでも解凍処理(起動)を行うことも出来る。
今宵はここまで。
夕立は初ドロップ艦であることは確定だったのですぐに出せると思ってたらこれだよ
そしてまた、夜は来る。
つづき
提督「……」
提督(この資料は最も核心的な部分だけすべて、にべもなく“不明”とある)
提督(どの程度かはわからないが本部が伏せている情報は間違いなくある)
提督(しかしわからないことだらけだ)
提督「みんなは重複艦について、どう思う?」
那珂「どうって……」
吹雪「うーん……」
響「私は、別に何とも思わないけど」
吹雪「響ちゃん……」
響「私の分身が現われても、私自身が“どれが私だっけ?”なんて迷ったりするわけでもないし」
響「その新しい響が“響”としての記憶、私と同じ記憶を持っていたとしても」
響「彼女は私にはなりえないんじゃないかな?」
提督「……」
夕立「夕立には難しい話っぽい」
提督「うん、やめよう」
響「司令官?」
提督「難しいことを考えるのはやめよう」
提督「結局はあるがままを受け入れるしかないじゃないか」
那珂「……まあ、確かにねー」
吹雪「そう、ですね」
提督「だから、あまり深く考えるな。そして、できることからやっていこう」
提督「とりあえず新しい方の那珂ちゃん……呼びにくいな」
提督「那珂βちゃん」
提督「……の件は保留だ。別に彼女がいても鎮守府が賑やかになるくらいで居住スペースも充分だし問題ないからな」
提督(いざとなったら凍結して改修か)
提督「ところで実はみんなが出撃している間に任務申請をしておいた」
提督「明日には新しい船が1隻、着任しているだろう」
提督「今日はもう色々あって疲れたな。休もう。ひとまず解散だ」
吹雪「司令官、お仕事は大丈夫ですか?」
提督「そういえば秘書艦を決めてなかったな……。だがまあ今日はいい。これくらい、大したことない」
提督「吹雪には旗艦を任せたし、今日はゆっくりするといい」
吹雪「……わかりました。お疲れ様です! お先に失礼します」
提督「ああ、お疲れ様」
夕立「提督さん! 夕立、ここに来たばかりで、右も左もわからないから……」
提督「ああそうか。そうだな。それだったら――」
響「司令官が鎮守府を案内するといいんじゃないかな?」
夕立「あ! それいいかも~。提督さん、お願い!」
提督「」
夕立「……」ウルウル
提督「わかったわかった!」
響「……」~♪
提督(響め……。司令官も忙しいな)
提督「鎮守府を案内する前に、見ていくか?」
夕立「うん?」
提督「今日の戦闘記録だ」
夕立「見る見る!」
提督「これが深海棲艦だ」
夕立「わあ……」
夕立「……」
夕立「夕立もこれから、この船たちと戦うんだね」
提督「怖いか?」
夕立「ううん……」
夕立「みんながいるから、大丈夫」
提督「そういえば那珂とは……」
夕立「うん、第二艦隊、第四水雷戦隊だね」
夕立「さっきちょっと挨拶してきた」
夕立「なんだか、不思議な感じだったよ」
提督「そうか」
夕立「ほらほら提督さん? 早くまわろー?」
提督「ああ、そうだな」
提督(……気を遣わせてしまったか?)
提督「ここは司令室。作戦の告知や事務を行う。仮眠室は隣にある」
提督「私の居室はこの廊下の奥になる」
夕立「んー! 夕立、突撃するっぽい!」ガチャ
提督「こらこら」
夕立「ここが提督さんのお部屋? なんだか地味っぽーい」
提督「……」ガックシ
夕立「提督さん、次行きましょう?」~♪
提督(自由だなぁ)
提督「楽しいかい?」
夕立「うん、とっても!」ニコッ
提督「まったく」
提督(でも、かわいいな)
―――
――
―
提督「この階は艦娘の居室がある。もう一度訪れてるからわかるかもしれないが」
夕立「ここは大丈夫っぽい」
提督「洗面所、風呂も同じ階にある。使い方は他の艦娘たちに教えてもらうといい」
―――
――
―
提督「ここは工廠だな。兵装も艦娘もここで造られる。改修や改造、兵装の転換などもここで行われる」
提督(そして解体も)
夕立「夕立もさすがに自分の姿にはびっくりしたけど、どうやってるの? すごいよね!」
提督「さぁ? 私にもわからんが彼らなら知ってるかもしれん」
提督「妖精さーん!」
妖精「はーい!」
夕立「お? んん~??」
提督「見ての通り、妖精さんだ。彼らが工廠のすべてを司っていると言っても過言ではない」
夕立「か、かわいい~~~!!!」
建造妖精A「ありがたきしあわせですな」
提督「妖精さん、今日この娘、海で拾ったんだ。ドロップだよ」
建造妖精B「どろっぷですと」
建造妖精C「なんと」
建造妖精D「おはじきににた」
建造妖精E「あまいおかしです?」
提督「違うです。深海棲艦が落としたです」
建造妖精A「おとした」
建造妖精B「おっこちた」
建造妖精C「おっこちたからどろっぷです?」
建造妖精D「むだによこもじをつかいたいおとしごろ」
建造妖精E「ほっぺたおっこちるおかしくださいなー」
提督「……」
提督「と、まあこんな感じで愛くるしいやつらだが、仲良くしてやってくれ」
夕立「よろしくねー!」
―――
――
―
―食堂―
提督「そして、ここが食堂だ」
夕立「わぁ……」
那珂「提督、おっそーい!」
提督「すまんすまん」
吹雪「ほら、夕立ちゃんも」
夕立「あ、うん!」
天龍「みんな揃ったか?」
響「……」コクコク
間宮「それでは」
那珂β「さっそく」
一同「いただきまーす!」
―――
――
―
今宵はここまで。
乙カレー
なかびーじゃなくてなかべーたなのか
うん、やっぱこの響好きだわ
更新楽しみにしてます
夕立「夕立もうお腹いっぱいっぽい……」
響「ごちそうさま」
吹雪「それじゃあお風呂にしましょうか」
夕立「提督さんも、一緒に入る?」
吹雪・那珂・天龍「「「え゛」」」
響「私は司令官ならいいよ」
提督「いやいやいや」
提督「私はひとりで入るよ」
吹雪「そ、そうですよ! 男子禁制です!」
夕立「ふ~ん……? なんだかざんねん」
那珂β「那珂ちゃんはぁ~、アイドルだからぁ~、ヌードとかはNGなんだよぅ?」
那珂「うるさいよ!」バキッ
那珂β「いった~い! 顔はやめて~!」
―女湯―
響「……」ザバーン
吹雪「~♪」ゴシゴシ
夕立「ねぇねぇ吹雪ちゃん。提督さんって、どんな人?」ワシワシ
吹雪「うぇ? うーん。えーっと。私も今日初めて逢ったからよくわからないけど」
吹雪「なんか、提督業務は初めてで、士官学校を出たらしいけど成績が悪かったらしくて」
吹雪「土方……じゃなくって、林業? をされてたみたいで」
夕立「ふーん?」
天龍「んー……」ワシャワシャ
天龍「やっぱ成績悪かったっておかしくねぇか?」
天龍「今日の提督どうだったよ?」
吹雪「うーん確かに、あれで成績悪かったなら他の人はもっと優秀だったのかな、とは思いましたけど」
吹雪「なんか現実感ないですね」
天龍「だよなぁ」
吹雪「あ、というかそもそも成績悪いとか言い出したのって響ちゃんじゃ!?」
響「うん? なんのことかな?」シレッ
天龍「そりゃ完全に思いつきだろー」
響「でも同調したのは他ならない司令官だよ」
天龍「むむ……」
那珂「やっぱり、提督にも秘密とか、あるんじゃないのー?」
那珂β「そうそう! 那珂ちゃんもアイドルだか(バキッ)pgrいったーい!」
天龍「成績なんか隠してどーする」
那珂β「那珂ちゃん、スリーサイズなら(ゴスッ)」ブクブクブクブク
響(スリーサイズ)ジロリ
吹雪(天龍さんはともかく……)チラ
夕立「?」
那珂・響・吹雪(夕立ちゃんは、意外と大きいよね)
―男湯―
提督「ふぅ……」
提督「……」
提督(疲れた)
提督(今日の戦闘……)
提督(あれは軍艦の砲撃の命中率ではなかった。極めて高度な観測能力と演算能力がなければ実現不可能なものだ)
提督(自己修復のダメコンには明らかに演算リソースを注ぎ込んでいる感じだったし間違いないだろう)
提督(あれだけの情報処理能力をポテンシャルとして持つなら俺の音声指示はかえってタイムロスになる)
提督(DMでは反映範囲が吹雪の主観に限定されてしまう。後手後手だ)
提督(艦隊全体の能力を上げれば今日のような雷撃への対処ももっと向上するだろうな)
提督(……)
提督(艦娘とは何なんだろうな)
~翌朝・早朝~
響「……ん」
響「……」
響(なんだか早く目が覚めてしまった)
響(……)
響「散歩でもしよう」
―――
――
―
―武道場―
響(?)
提督「ふっ、ふっ、ふっ」
響(朝からトレーニングする提督……)
響(そっとしておこう)
提督「ん?」
提督(気のせいか)
提督「シャワー浴びよう」
―食堂―
吹雪「おはようございます、司令官!」
提督「おはよう、吹雪」
夕立「おはようございまーす! んん?」クンクン
提督「おはよう夕立。どうした?」
夕立「なんか提督さんからいい匂いがするっぽーい!」ダキッ
提督「え? ああ、さっきシャワーを浴びてきたからな」
天龍「おいおい、なに朝からいちゃついてんだー?」
提督「天龍。それに響、那珂も。おはよう」
響「おはよう司令官。天龍は朝からジェラシーみたいだね」
天龍「は、はぁ!? わけわかんねーし///」
提督「まあ夕立はかわいいからな、わからんでもないぞ」
那珂(何言ってんのこの提督)
夕立「っぽい?」~♪
那珂β「那珂ちゃんはぁ~、アイドルだからぁ~、ハグとかは(ドス)ぐえぇ……」
天龍(那珂、朝から容赦ない腹パンだな……)
間宮「朝ご飯、できましたよー!」
夕立「! ごっはんーごっはんー♪」
提督(お気楽だな)
―――
――
―
―司令室―
提督「本日は後で駆逐艦娘が来るがその前に」
提督「建造だ!」
夕立「おお~……」パチパチ
吹雪「どんな感じでいきますか?」
提督「400/30/600/30」
吹雪「!?」
那珂「あっ……」
天龍(これアカンやつや)
響「司令官、場に運が溜まったよ」ニヤ
吹雪「……司令官、もう一度よくお考えになってみては……?」
提督「いいや。いいや! これでいく!」
提督「妖精さん、GO!」
建造妖精A「はーい」
吹雪「」
吹雪「司令官……。艦隊運用の資源は……」
提督「大丈夫大丈夫! すぐ溜まるさ」
提督「なんと今日は遠征を予定している!」
提督「ほらどうした吹雪。元気ないぞそんなんじゃダメだ」
提督「練習航海を設定したから那珂βちゃんと行ってきなさい」
提督「那珂βちゃん? 吹雪を頼んだぞ」
那珂β「はいはーい! お仕事ですね? 私たちに任せてください! 行ってきまーす!!!」ビューン
吹雪「あ~~~~~~れ~~~~~~……」
夕立「あはっ吹雪ちゃんおもしろーい!」
天龍「提督、あんた鬼だな」
響「それで、司令官。大丈夫なのかい?」
提督「ふむ」
提督「鋼材は少し厳しいがまあ何とかなる数値だ。それに」
提督「闇雲に資源を溜めるのは私のポリシーに反する」
提督「みんなにはその分働いてもらうがな。頼りにしてるぞ」
<Blog>
『書き溜め』
SSの投稿量・ペースをあらかじめ定めておき、その設定量を上回って前もって保存しておく文章のこと。
SS投稿者は書き溜めを事前にしておくことで、安定的な精神状態で周期的投稿を実現することが出来る。
しかしリアルワールド(現実世界)での雑務によって書き溜めの量には増減が生じる。このSSにおける瞬間的な
最大値は30であるが、現在は――
403 - Forbidden
今宵はここまで。
アホなこと書いてないでもう寝よう。
明日は頑張る。多分。きっと。
乙々
ほどほどに期待してるから、身体だけ悪くしないように気をつけて完結させるんやで
書き溜めの解説ワロタ乙
DMって執務室のモニターに艦娘の視覚、聴覚情報がでてる感じ?
とりあえず生存報告を。
1週間更新が空いてしまいました。申し訳ない……。
ここまで間が空くことは今後ないとは思いますが、投稿ペースはしばらく落ちます。
しかし今日は投稿するまで寝ないよ!
>>95
ありがとうございます。
2月中には完結させるつもりなので何卒
>>96
いえ、出撃中は専用のヘッドギアから情報を取得しています。
夕立が参照したものは執務室のモニターによる映像ですが、
ヘッドギアから取得するものとは微妙かつ決定的に違います。
モニターからの映像は加工済みであり、ヘッドギアから取得される情報よりも限定的で情報量に乏しいです。
不思議ですよねぇ。一眼レフで撮った写真は確かに素晴らしいですけど、それでも肉眼の方が世界は豊かに見えます。
言ってみればそういう違いです。
投下は後ほど
那珂(この人意外と人使い荒いな)
コンコン
提督「お? そうこうしているうちに時間だ。全員整列!」
提督「入っていいぞー」
??「失礼します」
提督「ふむ。自己紹介をお願いします」
白雪「特型駆逐艦、2番艦、白雪です。よろしくお願いします」ペコリ
提督「よろしく白雪。我が鎮守府には吹雪がいるが、もう遠征の任務を与えてしまってな。今はいないんだ」
提督「あとで挨拶するといい」
白雪「はい。お気遣い、ありがとうございます」
提督「建造艦、そして拾得艦を除けば本日のフルメンバーが揃った」
提督「早速で申し訳ないが本日の作戦を言い渡す」
提督「今日は南西諸島沖の警備にあたり、敵前衛艦隊を補足出来次第、これを迎撃する」
提督「第一艦隊旗艦は那珂。以下、夕立、響、白雪。殿は天龍」
提督「旗艦の那珂にお願いしたいことは指揮系統の維持」
提督「他のメンバーにも自主的な判断力を求める」
提督「ゆえに、那珂をDMの参照ノードとするが極力指示は出さないのでそのつもりでいてくれ」
提督「何か質問は?」
一同「……」
提督「よし。作戦開始は1000。各自準備にあたれ」
一同「了解!」
―南西諸島沖―
那珂(今回は東側から巡回しているけど……主力部隊は現われるかな)
那珂(そろそろ来るかも)
那珂「!」
那珂「敵艦見ゆ! 目標2時! 取舵10! 各艦攻撃準備!」
那珂「てぇー!!!」ドドーン!
夕立「艦影3。ホ級、イ級、イ級」
夕立「イ級の大破を確認。敵艦発砲!」
響「くっ……。響、小破」ドーン!
夕立「夕立の出番ね!」ドドーン!
天龍「オレたちも続くぜ!」ドドーン!
白雪「主砲で弾幕張ります」ドドーン!
響「うてぇー!!!」ドドーン!
ザバーン!ザバーン!
夕立「被害ゼロ!」
那珂「イ級の撃沈を確認。雷撃準備!」
那珂「一斉発射!」
那珂「……」
那珂「残るホ級、イ級の撃沈を確認」
那珂「戦闘終了」
那珂「ふぅ……」
夕立「おぉ~勝てたっぽい!」
提督『那珂。それにみんなもお疲れ様』
提督『拾得艦を確認し、引き続き警戒にあたってくれ』
那珂「了解」
那珂「響ちゃん、大丈夫?」
響「問題ない。沈むはずもない」
那珂「そっか。でも無理しないでね」
天龍「白雪、どうだった?」
白雪「ええ。なかなか緊張しました」
白雪「私の攻撃が当たらなかったのが残念ですね」
天龍「今回はオレもはずした……」
天龍「夕立はちゃんと当ててきたな」
夕立「っぽい?」
―――
――
―
那珂「敵艦見ゆ! 右舷10度方向に敵艦影5隻! 攻撃準備!」
那珂(5隻……。大丈夫かな)
天龍「5隻たぁ滾るぜ。うてぇー!!」ドドーン
那珂「てぇー!!!」ドドーン
響「へ級、ホ級、ロ級、イ級、イ級を確認。てぇー!!」ドドーン
白雪「狙いよし、撃ち方はじめ! ッ! 敵艦発砲です!」ドドーン
響「うわっ」ドカーン
夕立「響ちゃんが大破!」
響「ぐっ。さすがにこれは、恥ずかしいな……」
夕立「うぅ~……。これでどーお!?」ドドーン
那珂「ロ級、イ級撃沈! 雷撃準備へ!」
那珂「全艦発射の後、回避運動!」
夕立「魚雷の発射を確認。……あっ、白雪ちゃん気をつけて!」
提督(!)
那珂「回避!」
――――。
白雪「くっ。白雪、中破しました。でも、ま、まだやれます」
那珂「ホ級とイ級の撃沈を確認」
夕立「へ級が遠ざかっていく……」
天龍「追撃は?」
那珂(……)
那珂「追撃せず、戦闘終了。提督、よろしいでしょうか?」
提督「ああ、いいだろう。みんなご苦労だった」
提督「第一艦隊は警戒を怠らず、母港へ帰投だ」
提督「響は、大丈夫か」
響「うん。なんとか、大丈夫だよ」
提督「そうか、無事でよかった」
―司令室―
ガチャ
提督「ふぅ……」ギシ
提督(さて)
提督(命中率が相当高いのは事実だが、現状はずす方が珍しい、というほどではないな)
提督(だがそれより気になるのは……)
提督(夕立……)
提督(……複数発射された魚雷の軌跡、採り得る回避運動から最も被弾する可能性の高い船を瞬時に算出した)
提督(被弾する可能性が高いということも含めて)
提督(魚雷が発射されてから着弾するまでには一定のタイムラグがあるが、あの場ではそれを埋めきれない、埋めにくい配置だったということか)
提督(……)
提督(同時に深海棲艦に対する評価も改めなくてはならない)
提督(奴らも艦艇として振る舞いながら人間には再現の困難な芸当を平気でやってのけてくる)
提督(その意味では艦娘と同等な部分があるのは確かだ)
提督(深海棲艦も得体が知れないな……)
今宵はここまで。
眠すぎワロタ。月曜日には更新できるように努めますゆえ
そしてまた、夜は……
来ない
全体のプロットは結構進みました
明日の朝少し更新します。申し訳ない……。
今はちょっと体調悪いっす。寝ます
そしてまた、夜は来る。
>>103の提督のセリフはニ重カギカッコ『』ですね、間違えました。ハラキリ丸
それと嘘ついてごめんなさい。少し更新します。
つづき
―――
――
―
―司令室―
那珂「作戦終了です。みんなお疲れ様」
一同「お疲れ様です」
提督「お疲れ様」
提督「響は手酷くやられたな。白雪と一緒にすぐ入渠してくれ」
響「Спасибо、司令官」
白雪「ありがとうございます、お休み致します……」
ガチャ
提督「夕立はいい動きだったな。今日のMVPだ」ナデナデ
夕立「えへへ」~♪
提督「現状の艦隊練度に対してより高度な操艦を要求することはない」
提督「少しずつ視野を広げていくことを意識してみてくれ」
提督「そして今回の拾得艦は……」
睦月「睦月です。はりきってまいりましょー!」
提督「おお。また随分と元気な娘が入ったな」
神通「あの……軽巡洋艦、神通です。どうか、よろしくお願い致します……」
提督「私が提督だ。ふたりともよろしく」
那珂「あ……。お姉ちゃん……」
神通「! 那珂、ちゃん……」
那珂「……また会えたって、感じがする」
神通「はい、私m」
ガチャ
那珂β「おっつかっれさっまでーす!! みんな戻ってきたかな?」
神通「!?」
提督「また七面倒くさい……」
那珂β「おお??? あ、もしかしてお姉ちゃん!?」
神通「え? えぇ!?」
那珂「あー、ごめんねお姉ちゃん。私が色々説明するからとりあえず別室に……」
那珂β「那珂ちゃんにも、説明させ(バキッ)いったーい!」
ガチャバタン
提督(まさかこんなことになるとは。完全に盲点だった)
提督「睦月、来て早々に騒がしくしてすまんな」
睦月「いえ、大丈夫です!」ニコッ
夕立「神通さん、混乱してるっぽい?」
天龍「ありゃちょっとしたホラーだな」
ガチャ
吹雪「お疲れ様です」
夕立「吹雪ちゃん!」
吹雪「あ、新しく着任された方ですか?」
睦月「はい、睦月です!」ペコリ
吹雪「吹雪です、よろしくね!」
提督「よし、吹雪と夕立は睦月を案内してくれ」
提督「それから……」
提督「夕立は1900に司令室へ来るように」
夕立「? はーい!」
ガチャ
提督「さて……」
天龍「これからどうすんだ?」
提督「工廠へ向かう」
―――
――
―
―工廠―
金剛「英国で産まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」
提督「金剛か。私は提督だ。よろしく」
金剛「……」
金剛「って……」
金剛「私、身体が……」
提督「どうだ、気分は?」
金剛「んー」
金剛「Great! 悪くないデス」
金剛「なかなかカッコイイ提督さんデスネー」
提督「あはは! 金剛は綺麗なだけでなく世辞もうまいな」
金剛「恐縮デス!」
金剛「そちらの方は?」
天龍「オレの名は天龍。フフ……怖いか?」
金剛「Oh~天龍ー! 久しぶりネー!」
天龍「あ、ああ……」
提督(さすが戦艦。天龍のアピールを意に介さないスルースキル、最高だ)
提督「というわけで天龍。お前は金剛を案内しろ」
天龍「え、ええ~! 提督がやればいいだろ!?」
提督「残念ながら私は忙しい。というわけで頼んだぞ」
金剛「Wow! 鎮守府探険デスネー! 楽しみデス」
天龍(このためだけにオレを呼びやがったな提督)
提督(とりあえず無事戦艦が建造出来てよかった……)
今宵はここまで。
次の更新は30日か31日の夜を予定。
朝~、朝だよ~。朝ご飯食べて、学校行くよ~
那珂パンチは想像にお任せします
つづき
提督「ふぅ……」
提督(忙しいとか言ったがまだ夕食まで時間あるな)
提督(どうしよう……)
提督(仕事するか)
提督(ついでに艦種も揃ってきた以上、もう少し戦術を考えてみるか)
提督(しかしやはり空母が欲しいな……)
―――
――
―
―食堂―
間宮「皆さん、お待たせしました!」
響「хорошо」
睦月「わあ!」
吹雪「今日も美味しそうです!」
提督「みんなちょっといいか」
提督「みんなもう挨拶は済ませているかもしれないが一応紹介を」
提督「今朝の建造で進水した金剛だ。みんな仲良くしてやってくれ」
金剛「金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」
一同「よろしくお願いします!」
提督「それからもうひとつ」
提督「色々悩んだんだが……」
提督「秘書艦を任命しようと思う」
那珂β「おお~!! これは那珂ちゃんの出b(ゴスッ)おぅっ!」
那珂「(お静かに)」
神通「(ま、まあまあ……)」アセアセ
睦月「(だ、誰になるんでしょう?)」
夕立「(やっぱり初期艦の吹雪ちゃんっぽい?)」
天龍「(まあこの天龍様だな!)」
吹雪「(……ちょっと緊張しますね)」ドキドキ
吹雪(でも、これは。おそらく……)
提督「秘書艦は……」
提督「夕立だ。よろしく頼む」
夕立「え」
夕立「えええぇぇ~~~!?」
金剛「Oh~! Congratulations!」
天龍「……なん……だと……?」
吹雪(やっぱり……)
提督「ま、そういうわけだ。時間をとって済まなかった。それではいただこうか」
―――
――
―
―女湯―
響「提督が秘書艦をつけるだなんて」ワシャワシャ
響「正直意外だった」
那珂「仕事出来そうだもんねーあの提督」ワシワシ
響「うん」
吹雪「それより夕立ちゃんが選ばれたことのほうがびっくりだったよ」ザバア
吹雪「呼び出しがあったからそんな気はしたけど」
天龍「はっはーん! さては吹雪は秘書艦やりたかったんだな?」チャプ
吹雪「え? うーん、まあ、そうですね」
天龍「おお? 否定しないんだな」
吹雪「? 否定したらおかしいですか?」
天龍「え? あ、いや……。そんなことはねぇが……」
白雪「秘書艦の仕事って、なんだか大変そうですね……」ピチャ
天龍「そういや具体的には何やるんだろうな。そんなに仕事があるのか疑問だが……」
―司令室―
コンコン
夕立「失礼します」
提督「夕立か。入っていいぞ」
ガチャ
夕立「お、お疲れ様です」
提督「お疲れ」
提督「なんだ? 緊張してるのか?」
夕立「ぽい……」
提督「あはは。別にとって食うわけじゃないんだから」
提督「それにこれからはここが夕立の仕事場でもある」
提督「少しはリラックスしてくれ。さすがにそれでは仕事がやりにくい」
夕立「あはは……」
提督「こっちにデスクを用意したから、座ってくれ」
ギシッ
夕立「……」
夕立「提督さんって、どんなお仕事してるの?」
提督「う~ん……」
提督「提督業務の最も重要な点は、作戦と艦隊運用計画の立案とその遂行にある」
提督「が」
提督「実際には事務作業が多いというのが正直な感想だ」
夕立「ふ~ん……? なんだか大変っぽい?」
提督「おいおい……。ひとごとなのか? 勘弁してくれ」
提督「これから秘書艦は夕立、お前になるんだから。提督業のお手伝いをするんだぞ」
夕立「あはは……ごめんごめん、わかってるよ」
提督「じゃあ、とりあえず報告書。特に資源運用に関しては事細かに本部に報告しなければならない」
提督「これが資源運用報告書だから」
夕立「え? ……うぇ~、こんなの書くの!?」
提督「書くんだよ! ほら、今から教えてやるから」
提督「ここ。毎朝1000時点での各資源数値」
提督「こちらがアクションリストになるから、各アクションごとの消費資源をこの欄に」
提督「出撃の際には内訳として、修理に使った資源を別途で入力する」
提督「もちろん各艦ごとにだ」
夕立「うへぇ……。む、無理っぽい……」
提督「泣きごと言うな」
提督「これ、今日私がメモしたものだからとりあえず参照してくれ」
提督「単純な出撃消費は航行距離と戦闘回数に比例するから、各艦の基本運用コストは暗記するように」
夕立「」
提督「出撃後は入渠ドックで修理資源量を確認すること。まあこれも経験を積めば自動的に算出出来ると思うが」
夕立「う。うえぇ~ん! 鬼! 悪魔! 提督!」
提督「うるさい」コツン
夕立「いた……い」
提督「いいから仕事しろ」
夕立「はーい……」
夕立「……」カリカリ
提督「……」ペラペラ
夕立「提督さんがやってるのは……?」ッターン
提督「こちらは資源運用計画書。さらに資源最終決算報告書」カタカタ
提督「艦隊練度報告書、任務申請書、作戦立案計画書、作戦結果報告書はもう済ませた」
提督「あとで資源入手報告書もやらせるぞ」
夕立「提督さんがやればいいんじゃ……?」
提督「まだ艦隊練度計画書とか全体報告書とか、色々ある」
提督「まだまだ夜は長いぞ」
夕立「うー、もう寝たいかも……」
夕立「……」
夕立「提督さんが夕立を選んでくれたのは、どうして?」
提督「……ん」
提督「……」
提督「今日の戦闘を見て、光るものを感じたから」
夕立「……それだけ?」フッ
提督「いや……」
提督「そばにおきたいと、思ったから……」
提督「……」
提督「すまんな。大した理由はないかもしれん」
夕立「そっか」
夕立「でも……嬉しかった」ニコッ
提督「そうか……」
夕立「私、提督さんにもっと頼ってもらえるように、いっぱい頑張るから!」
提督「……ありがとう」
―――
――
―
提督「で、頑張った結果がこれか」
夕立「……くー…………くー…………」
提督「まったく……。世話の焼ける」
提督(仕方ない)
提督(今日のところは寝かせておいてやろう)
提督「……」
提督「よく頑張ったな。おやすみ」
提督(夕立の部屋は……)
―――
――
―
今宵はここまで。
次の更新は多分5日後。
おはようございます。
少しだけ更新します。
ぽいぽい流石に人気ありますね。
スタドリを飲ませてもっと秘書を頑張ってもらいます。
つづき
―食堂―
睦月「夕立ちゃん、昨晩はどうだった?」
白雪「お仕事、大変でしたか?」
夕立「もう大変なんてもんじゃないよー」
天龍「マジか」
響「司令官、なかなかやるね」
夕立「夕立ったら、よく覚えてないけど途中で寝ちゃったっぽい?」テヘヘ
吹雪「あはは……」
那珂「提督怒らなかったんだね」
那珂β「睡眠不足はお肌の敵なんだよー? よく寝た方がいいよ!?」
天龍「いやむしろよく寝てるんだろ」
金剛「ウーン……。夕立は自分の部屋で起きたのデスネ?」
夕立「うん、そうだよ?」
金剛「(なら提督が夕立を運んだのデスネー?)」
神通「(おそらくはそうかと……)」
金剛「(フフーン、これはおもしろいデスネ!)」
夕立「?」
―司令室―
コンコン
天龍「提督ー、入るぜー?」
提督『ああ』
ガチャ
提督「どうした? まだ朝礼までは時間があるが」
天龍「いや……。昨晩の夕立はどうだったかなって、気になって」
提督(?)
提督「へぇ。さすが天龍。後輩への気配りもちゃんとしているな」
天龍「別に、大したことねぇよ// 少し気になっただけだ」
提督「そうか。そうだなぁ」
提督「まあ初回だったしあんなもんだろう、という感じだ」
提督「今後も夕立に頑張ってもらうよ」
天龍「そ、そうか。ならそれはいいんだが……」
天龍(……?)
天龍「提督ー?」
提督「うん?」
天龍「前もちょっと気になったんだが、ここに掛かってる日本刀って、提督の私物なのか?」
提督「ん? ああ。それは“妖刀ハラキリ丸”だ」
天龍「はぁ!?」
提督「すまん、ちょっとした冗談だ」アハハ
天龍「まったく……」
提督「それの名前は知らん。もらいものだ」
提督「インテリアとして気に入ってるから飾っている」
天龍「ふーん?」
天龍「触ってもいいか?」
提督「どうぞ。怪我するなよ」
天龍「おお」
カチャ
天龍(インテリアの癖に真剣なのかよ。おっかねぇな)
天龍「提督はこれ使えるのか?」
提督「まあな。格闘術は一応習ったし」
天龍「……これ、ここで使う機会あるのか?」
提督「だからインテリアだって言っただろうが」
提督「使う機会はないだろうさ」
提督「しかし使う機会がなくとも、それが置いてあるだけで何となく身が引き締まる感じがしてな」
提督「錯覚かもしれんが」
天龍「まあ言わんとすることはわからなくはないぜ」
提督「そういや天龍も刀持ってたな」
天龍「ああ。これか」
提督「それはなんだ? 艦首に似ているようだが……」
天龍「オレにもよくわからん……」
―――
――
―
提督「全員集まったか」
提督「……先程妖精さんに建造をお願いした」
提督「夕立、報告を」
夕立「はい」
夕立「消費資材は400/30/600/30です」
夕立「今後は大々的に遠征による資源回収を行っていき、戦力の拡充を急ぎます」
夕立「ご理解ご協力をお願いします」
提督「というわけで第2艦隊の旗艦を那珂β。以下吹雪、白雪、睦月で遠征に出てもらう」
提督「こちらが本日のアクションプランとタイムスケジュールだ」
カサ
那珂β「……」
提督「何か質問は?」
那珂β「メンバーは固定で大丈夫なんですかー?」
提督「ああ。固定でまわしてくれ」
那珂β「那珂ちゃんりょーかい!! お仕事行ってくるねー!?」
提督「よし。第2艦隊は準備に入れ」
一同「了解!」
ガチャバタン
提督「さて残るは第1艦隊だが……」
提督「……本日は製油所地帯沿岸部の海上輸送ラインを防衛する」
提督「旗艦は那珂。以下、金剛、夕立、神通、響、殿は天龍」
提督「金剛は特に索敵を気をつけること」
提督「そして先制砲撃を敵艦に叩き込め」
金剛「Aye sir! 提督ぅー! まっかせるネー!」
提督「夕立は金剛のフォロー、響は神通のフォローを頼む」
夕立・響「了解」
提督「質問はあるか?」
提督「……よし。総員、出撃準備にかかれ!」
今日はここまで。
次の更新は月曜日かなー。
ところでイベントが始まったようですね。
艦これやめてからそろそろ5か月になりますが
なんだあの天城とか云う美少女は!?
神は俺に艦これをやれ、と言っている……気がする。
おはろーございます。
自分でも驚いたことに久しぶりに艦これ遊んでるので更新はまた今度になります。ごめんなさい。
起動したら資源は各26000くらいありました。
天城目的だったけどユーちゃんかわいすぎじゃね?
それから2月中完結とか偉そうなことを宣いましたが、もっと時間かかる気がします。
とにかく完結できるよう頑張ります。
そしてまた、夜は来る。
昨日の朝完走しましたが、やはり難易度によって消費資源は大きく変わるでしょうね。
つづき
―――
――
―
提督「……」
提督(吹雪の報告と既存資料では資源回収は近海の小島などで行うようだが……)
提督(資源の回収方法自体、ドロップのそれに近い)
提督(資源はおそらく構成されるものであって、発掘されたり精製されるものではない気がする)
提督(なら本当に製油所なんてものは実在するのか……?)
提督(海上輸送も、不可能ではないにせよどの程度の規模で展開しているのか不明だ)
提督(本部からの作戦立案参考資料、それに拾得艦の記述も……)
提督「……」
提督「……もしかして」
提督(しかしまだわからない。機会さえあれば問い詰めてやるか)
―海上―
金剛『こうして海を進むのも久しぶりデスネー』
金剛『今は他ならない私の意志がこの船を動かしていると思うと感激シマース!』
神通『その気持ち、よくわかります』
夕立『……』
響(……)
那珂「みんな、戦艦の金剛さんが入ったからって油断しないでね」
金剛『那珂ちゃんは心配性ネー』
天龍『そろそろ第一目標地点だぜ』
夕立『気合入れていくよー?』
響『やるさ』
金剛「敵艦隊発見!」
那珂「封鎖解除! 各艦攻撃準備!」
金剛「ホ級1隻、ハ級2隻! 発砲準備に移りマス」
提督『各艦に通達。金剛の砲撃後、すぐに追撃出来るように発砲準備。金剛の発砲後、調整し斉射』
提督『那珂と神通と天龍、響と夕立でそれぞれ第二波、第三波と追加攻撃』
金剛「発射準備完了。Fire!!!!」ドカーン!
ズドーン!
金剛「ホ級大破炎上デス」
提督『よし! やれ』
那珂「全艦発射用意……。てぇー!!!」ドドーン!
天龍「おらぁ!!!」ドドーン!
神通「当たってください!」ドドーン!
夕立「夕立たちもいくよー!」ドドーン!
響「無駄だね」ドドーン!
金剛「Well done! ホ級、ハ級2隻の撃沈を確認」
那珂「戦闘終了」
神通「終わりました」
提督『みんなお疲れ。ひどいワンサイドゲームを見たが、素晴らしい動きだったな』
提督『特に金剛が容赦なかった』
金剛「Yes! 私の活躍見てくれた? もっと頑張るから、期待してネ!」
夕立「ほぁー。やっぱり戦艦ってすごーい」
天龍「しっかし、提督はなんで波状攻撃にしたんだ」
提督『まあ敵艦が少なかったし、確実に先手がとれたから、金剛の射撃に合わせて段階的に砲撃した方が
命中率も上がるかと思ってな。事前に準備しておけば反撃される前に攻撃することも出来るし』
天龍「おおー」
提督(尤も、こんな戦術は艦娘でなければ簡単にうまくいったりはしないのだろうが)
提督『とにかく、無事で何より。拾得艦を確認して引き続き防衛を頼む』
一同「了解!」
提督『それから那珂』
那珂「はい?」
提督『……もし。もしも輸送船などを見つけたら、製油や深海棲艦の状況を伺ってほしい』
那珂「? 了解です」
―――
――
―
那珂「あれ……。あれは」
金剛「輸送船……デスカネー」
那珂「これ……コンタクトとるには無線ですか?」
金剛「接近して拡声器を使うのはどうデショウ?」
夕立「なんかそれ、どこかのお国のサンゴ密漁の取り締まりっぽい」アハハ
金剛「なんデスカそれ……」
那珂『こちら、××鎮守府の第一艦隊旗艦那珂』
那珂『製油所からの海上輸送ラインの防衛中。応答お願いします』
輸送船A『こちら輸送船A。只今ボートで伺います。待機をお願いします』
那珂『了解です』
―輸送船上―
輸送船員A「××鎮守府の那珂さんですね」
那珂「はい。現在海上輸送ラインの防衛中です。先程交戦もありました」
那珂「昨今の状況はどうですか?」
輸送船員A「特に目立った動きはないですね」
輸送船員A「こちらも兵装を全く積んでいないわけでもないですけど、やはり艦娘の皆さんがいていただけると助かります」
輸送船員A「ありがとうございます」ペコリ
那珂「いえ、そんな……。顔を上げてください」
輸送船員A「引き続き、防衛をお願いしていいですか?」
那珂「はい、私たちにお任せください!」ニコッ
輸送船員A(神様……)
輸送船員B(女神だ……)
輸送船員C(結婚したい……)
輸送船員D(那珂ちゃんのファンやめて那珂さんのファンになります)
輸送船員D「時に、那珂さん。以前お会いした時と印象が違うようですが」
那珂「え」
輸送船員C「おい!」
那珂「あ、いいですよ。大丈夫です」ニコ
那珂「私、最近着任したばかりで……。まあ鎮守府の方も新しいんですけど」
輸送船員D「なるほど。つかぬことを伺ってしまいました。申し訳ない」
輸送船員B「……」
那珂「以前も別の私と会ったことがあるんですか?」
輸送船員D「はい。その時は、何というか、とても賑やかな娘という印象を抱いたので」
那珂「あはは……。まあそうですよね……」
輸送船員B「……最近、提督さんが新しく着任されたのですか?」
那珂「そうですね。あっ! そうだ」ゴソゴソ
那珂「一応こういう証明カードがあるみたいで。まさか使い道があるとは思いませんでしたけど」
輸送船員B「失礼します」スッ
輸送船員ABC「……」
輸送船員B「なるほど。ありがとうございます」スッ
那珂「いえ」
那珂(あっ)
那珂「それから、製油所ってどんな状況なんですか?」
輸送船員A(!)
輸送船員B「それはちょっと私の口からは何とも……。こちらにも守秘義務がありまして」
那珂「あ、そうなんですか……」
輸送船員B「ですが、実際のところ製油所施設内のことは我々にもよくわからないんですよ」
輸送船員B「お力になれず、申し訳ない」
那珂「そうでしたか……。でも、ありがとうございます」
那珂「ではこちらは引き続き任務にあたります」
輸送船員A「よろしくお願い致します。それから、ささやかですが燃料を少しお分けします」
那珂「ありがとございます!」
輸送船員A「D。那珂さんのお見送りを」
輸送船員D「はっ!」
輸送船員B「……そうか。人事異動があったのか……」
輸送船員C「みんな、やられちゃったんですかね……」
輸送船員A「俺たちが被害に遭う前の交代となると、海軍本部の対応スピードには頭が上がらないな」
輸送船員B「どうやって事後処理したんだろうな?」
輸送船員A「さあな。それより、最後の質問、どう思う?」
輸送船員C「どうって、何がですか?」
輸送船員A「今まであんな質問受けたことないぞ」
輸送船員C「え。いや、何となく気になっただけなんじゃないですか?」
輸送船員B「いいや。多分、その新任の提督に質問するよう言われたんじゃないか」
輸送船員C「それが、どうかしたんですか?」
輸送船員A「その理由が見えなくてな。あの質問の意味が」
輸送船員B「俺たちが製油所施設について知ってることなんて、妖精が出入りしているということくらいのもんだが」
輸送船員B「しかしそんなことを知りたがるあたり、変わってる。少なくとも俺はそんなことを知りたいと思ったことはない」
輸送船員B「タダ者じゃなさそうだ」
輸送船員A「かもな」
輸送船員C「……考えすぎでは?」
今宵はここまで。
天城はビジュアルもよかったけど声聴いてホアーッ!!ってなってた。
そしてレべリングしてたらSSが進まないことに気づいた。
なのでSS優先で頑張ります。
更新します。
つづき
―――
――
―
―海上―
金剛「……」
金剛「! 敵艦影補足! ル級、チ級、ヘ級、ロ級、ロ級の5隻! 1時方向!」
一同「!」
那珂「……戦艦か。各艦攻撃準備!」
金剛「もう敵索敵範囲内に侵入していマス! 各艦警戒を厳に!」
提督(撃ち合いになるな……)
金剛「撃ちます、Fire!!!!」ズドーン!
金剛「ル級の発砲デス!」
神通「きゃあ!!」ドカーン!
金剛「神通!」
神通「……う、ぐっ。撃ちます!」ドドーン!
金剛「ル級中破。こちらは神通が中破。……続いてへ級が発砲!」
那珂「撃ちます!」ドドーン!
夕立「チ級も発砲!」
響「くっ……やられた」ドカーン!
天龍「チッ。うてぇー!!」
響「……こちら中破。続けて撃つ。てぇー!!」ドドーン!
那珂「こちら被弾! 小破です。ロ級は中破」
夕立「夕立撃つよー!!!」ドドーン!
金剛「ロ級2隻の撃沈を確認。私はあいつを仕留マス」
金剛「一斉射!!」ズドーン!
夕立「ロ級中破……。雷撃戦に移ります。続いてル級大破炎上。沈んでいきます」
天龍「那珂! 夕立! 準備はいいか!?」
夕立「いけるよ!」
那珂「当然!」
天龍「おっしゃあ! 魚雷発射!!」
夕立「へ級の魚雷発射を確認」
夕立「……神通さん以下取舵いっぱい。こちらも旋回して並行に航行することを提案します」
那珂「え? 陣形変えるの?」
夕立「ううん……。でも戦線離脱するならここで複縦にしても……」
那珂「……根拠は?」
提督『……那珂。夕立の意見具申を承諾しろ』
那珂「! はい。各艦旋回!」
夕立「……この方位で航行します」
那珂(! 雷跡が……)
提督(……なるほど)
提督(雷撃可能な艦が1隻なら発射は単純な扇状に……)
提督(よく見ている)
天龍「チ級のみ、撃沈を確認!」
那珂「了解です。このまま一度戦線離脱します」
那珂「夜戦追撃致しますか?」
提督『いや、敵艦隊には充分な打撃を与えた。撤退しろ』
那珂「了解。戦闘終了です」
金剛「やりましたネー!」
天龍「ふぅ……」
那珂「さて、索敵には注意して、帰りましょう」
―――
――
―
―司令室―
那珂「第一艦隊、帰投しました」
提督「ご苦労。お疲れ様」
提督「金剛、それから夕立は素晴らしい働きだった」
金剛「んーThank you 提督! もっと頑張るネー!」
夕立「提督さん、もっと褒めて褒めてー!」
提督「まったく……」ナデナデ
提督「神通と響は入渠。那珂はとりあえずこちらで待機だ」
神通「しばらく修理に専念します、すみません」
響き「行ってくるよ」
ガチャ
提督「さて、本題に入ろうか」
提督「那珂、報告を」
那珂「はい」
那珂「作戦遂行中、輸送船と接触しました」
提督「本当か?」
那珂「はい。燃料を少し分けてもらいました」
那珂「それから深海棲艦による大きな被害は見受けられなかったです」
那珂「ですが、製油所施設に関しては情報を得られませんでした」
提督「というと?」
那珂「守秘義務があるとのことです」
提督「契約先はどこだ?」
那珂「あ……。ごめんなさい。聞きそびれたというか、思いつかなかったです」
提督「まあいい」
那珂「でも、輸送船の搭乗員も製油所のことはよくわからないみたいです」
提督「ふむ。大して情報も持ってないのに守秘義務か。妙な話もあったもんだ」
提督「……ありがとう。参考になった」
那珂「いえ……。お役に立てず、すみません」
提督「では続いて拾得艦だな」
川内「川内、参上。夜戦なら任せておいて!」
那珂「お姉ちゃん! 私、那珂だよ?」
川内「お? おお~? 那珂ちゃん……?」
川内「ここは……?」
提督「私が提督だ。君にはこれからここで共に戦ってもらう」
提督「頼めるか?」
川内「……うん! 任せておいて!」
提督「そして私はデジャブを見たくない。那珂、頼んだぞ」
那珂「はい、了解です」
天龍(那珂は苦労してんなー……)
提督「それから……」
鳳翔「航空母艦、鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願い致します」
提督「こちらこそ、よろしく頼む」
提督「これで全員か。とりあえず夕食まで解散」
提督「それと天龍。鳳翔を案内してやってくれ」
天龍「またかい……」
提督「すまんな。私はこれから工廠へ向かう」
―廊下―
夕立「今朝の建造だね」
金剛「提督は戦艦狙いデスネー。妹が来てくれると嬉しいのデスが……」
提督「さあ、どうだろうな……」
―工廠―
長門「私が戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」
提督(また凄いのが来たな)
提督「私がこの鎮守府の提督だ」
長門「なるほど。まさか私がこのような姿をとるとは」
提督「冷静だな」
長門「まあな。不思議と……。だが今の私なら何でも出来る気がするよ」
提督「それは頼もしい」
長門「うん?」
金剛「おっひさしぶりデース! 金剛デース!」
長門「あ、ああ……。なんだ、その。お前はそんなキャラだったのか……?」
金剛「Boo! キャラとか言うなデース!」
夕立「駆逐艦夕立です。よろしくお願いします」ペコリ
長門「っ!」
長門「ああ。よろしく……」
夕立「?」
提督「さて、長門。まだここのことはわからないだろうから、金剛に案内してもらえ」
金剛「Yes! 鎮守府探険楽しいデスよー? 今度は私が案内する番ネ!」
提督「夕立は……。自由行動にしよう。休むといい」
夕立「やったー!」
長門「あ」
金剛「んー? どうかシマシタかー?」
長門「え、あ、いや、何でもない」
金剛「それじゃあ行ってくるネー!」
夕立「行ってらっしゃーい」
長門(夕立……かわいいな。あの娘に案内してほしかった……)
―司令室―
提督(輸送船、あり。製油所、あり……)
提督(俺の読みははずれていたのか……?)
提督(守秘義務の締結はまず間違いなく海軍本部だろう)
提督(海上輸送がある以上、その資源は本部に送られそこで管理され、)
提督(そして俺たちに配給されることになる)
提督(何より疑問なのは作戦参考資料に、俺たちの作戦前から海上輸送が行なわれていたように書かれている点)
提督(普通は逆だ。まず制海権を奪取し、その上で輸送ラインは確保される)
提督(ということは、ここから導出される可能性はおそらく2つ)
提督(1つは、俺が着任する以前は別の鎮守府の管理海域だったが、それが変更された)
提督(或いは、この鎮守府は新規のものではなく、かつて別の提督が使っていて、俺がそれを引き継ぐことになった)
提督(しかし俺にこの点を説明をしていないということは、他の提督にもしていないということだ)
提督(何を意図して……?)
提督(そして後者の場合、鎮守府だけ残して艦娘は全滅したということが考えづらい、ということ)
提督(艦娘は……)
今宵はここまで。
次は水曜日に更新できればと思います。
そしてまた、夜は来る。
皆さんもうお気づきかと思いますが、このSSはかなりの独自設定・独自解釈を含みます。
でも好きな人には楽しんでいただけるかと。
また、考察は深く突っ込まれるとボロが出るかもしれませんが、
考察出来るようには書いているつもりなので是非お楽しみください。
つづき
―――
――
―
―食堂―
提督「食事前だがちょっといいか」
提督「朝礼での報告を忘れていた。実は夕刻に本部から新しく着任する娘がいてな」
提督「自己紹介を」
深雪「深雪だよ。よろしくな!」
一同「よろしくお願いします!」パチパチ
提督「まあ積もる話もあるだろう。あそこの席に座るといい」
深雪「サンキュー司令官!」
提督「それじゃあいただくとするか」
間宮「どうぞ、召し上がれ」ニコッ
吹雪「深雪ちゃん会いたかったよぅ……」シクシク
深雪「おいおい、何泣いてんだよー」ヨシヨシ
那珂「深雪ちゃん……」
深雪「あっ……」
那珂「ごめんなさい……」
深雪「ううん。謝らなくても、大丈夫だって!」
深雪「自分が、悪かったんだ」
那珂「深雪ちゃん……」
深雪「ほらほら! せっかく間宮さんが作ってくれたご飯が冷めちゃうって。食べようぜ!」
睦月「深雪ちゃん、これ、あげる!」
深雪「おー! いいのか? サンキュー!」
睦月「えへへ」
那珂(睦月ちゃん、天使過ぎる)
―――
――
―
鳳翔「ごちそうさまでした」
鳳翔「間宮さん。料理、とてもおいしかったです」
間宮「ありがとうございます。お粗末様でした」ペコリ
鳳翔「あ、あの……。間宮さん」
間宮「はい?」
鳳翔「もしよろしければ、料理を手伝ってもよろしいでしょうか?」
間宮「! 私は大歓迎ですけど……。提督は……」
鳳翔「提督。私、間宮さんのお手伝いをして、料理を習いたいです」
提督「ほう? 私としては特に反対する理由はないな」
提督「作戦遂行に負荷をかけない範囲なら、自由にしてくれてかまわない」
鳳翔「あ、ありがとうございます!」
提督「……ふむ。鳳翔がやりたいと思うなら、やりたいと思ったことを存分にやってみるといい」
提督「鳳翔の料理も楽しみにしているぞ。じゃあ」スタスタ
間宮「よかったですね」ニコッ
鳳翔「はい! これからよろしくお願い致します」ペコリ
間宮「いえ、こちらこそ。手伝っていただけるなんて、とても助かります」
―廊下―
提督「……」スタスタ
提督「ん?」
提督「あれは……響か?」
提督(あんなところで何してるんだ)
響「……」
提督(海を……見てる?)
提督「まだ時間はあるな……」
提督(話しかけてみようか)
―波止場―
提督「隣、いいか」
響「ん。司令官」クルッ
響「いいよ」
スッ
提督「海を、見てたのか」
響「うん。ちょっと夜風にあたりに」
響「この時間は結構好きなんだ」
響「昼から夜に変わる黄昏時。何だか世界が入れ替わるような気がして……」
響「夕暮れよりも暗く、夜よりも明るく」
響「群青色の空はひどく曖昧で」
響「吸い込まれそうになる」
提督「確かに。綺麗な空だ」
響「ここでぼーっとしながら、何かを考えたり、何も考えなかったりしてる」
提督「邪魔したか?」
響「いいや。そんなことないよ」
提督「そうか」
響「うん」
提督「響は、ここでどんなことを考えてるんだ?」
響「んー。色々だね」
響「自分のこと。他の娘のこと。敵のこと。提督のこと。世界のこと。色々」
提督「響には世界はどんなふうに見える?」
響「それはどういう意味だい?」
提督「そうだな……。船の姿をとったとき、世界はどう見える?」
響「なるほど。んー……」
響「普通に見えてるよ」
提督「?」
響「外界を普通に望む分にはヒトの時と変わらない」
響「身体がないから、なんだか幽霊にでもなった気分だね」
響「ただ……」
提督「ただ?」
響「例えば哨戒中なんかは違う」
提督「どう、違うんだ?」
響「うまく説明出来ない……」
響「端的に言ってしまえば、自分の周囲に関しては“すべて”見ることが出来るんだ」
提督「想像出来ないな。それが正しいとすればDMはそれ自体情報が限定されているし」
響「だろうね。でもこう考えてみればいいんじゃないかな」
響「例えば生まれてから右目でしか世界を見ることが出来ないヒトがいたとする」
響「このヒトと、例えば司令官は、一度に手に入れられる周辺情報の大きさに差があるよね」
提督「そうなるな」
響「そういう違いだと思う」
提督「そりゃ説明ざっくりしすぎだろ」
提督「しかしまあ、取得範囲に差があるだけで、取得の仕方と取得する対象が同じならそれだけの差に過ぎない……か」
響「同じであるかどうかはまた別の問題な気もするけど」
提督「それは確かにその通りだ」
提督「見てるものが事実同じだから指示を出し合えるのではなく、指示を出し合えるから結果的に同じだと言えてるだけだ」
提督「でも右目左目なんかより、扉を開けて部屋を見ることと、鍵穴から部屋を覗くことの違いと考えた方がわかりやす いんじゃないか?」
響「そうだね。その発想はなかったよ。さすがは司令官だね」
提督「方位概念に関してはどうだ?」
響「問題ない。司令官だって左を向きながら歩く時に、前がどっちで自分がどちらに進んでいるかわからなくなった、な んてことにはならないはずだよ」
提督「なるほど。左右を身体が定義するように、方位も船体によって正しく認識されるということか」
響「……」コクン
響「でも初めて出撃した時よりも、今の方がずっと多くのことが見えている気がする」
響「見ている範囲は変わらないはずなのに」
提督「視覚情報の処理が向上しているんだろう。視野に入っていることと認識していることは違うことだからな」
提督「船内は?」
響「それもあまり変わらないよ。船内がどうなっているかは触覚的にも視覚的にも把握できる」
響「ちょうど、目を開いていても閉じていても右手の形がわかることと似てる」
響「ただ入渠で整備される時は少しくすぐったくなったりするね」
提督「面白いな。くすぐりは自律神経が集まる人体の急所に有効だと聞いたことがあるが、整備も自身の危険部位を
刺激されているからくすぐったく感じるのかもしれん」
提督「……その時、響はどうしてる?」
響「くすぐったいから逃れようとあれこれしているよ。妖精さんの前ではすべて無駄だけどね」
提督「……ふむ、なるほどね」
提督「さて、私はそろそろ時間だ」スッ
提督「響も、風邪をひかないうちに戻るといい」
響「うん。お疲れ、司令官」
提督「響」
響「なんだい?」
提督「また来てもいいか」
響「うん」
提督「ありがとう」
提督「おやすみ、またな」
響「おやすみなさい」
響「……」
今宵はここまで。
改行キーの入力が消失してしまった!
これはダサい。恥ずかしい。次から気をつけよう……。
次の更新は多分金曜日。
もうクロスチャンネル細かい部分忘れちゃったんだけどクロスチャンネル関係してる?
>>192
実はあまり関係してないです。タイトル詐欺で申し訳ない。
ただその代わりに、あのライターさんの別作品の影響をとても強く受けています。
もうわかる人はわかっている……はず……。
タイトルは彼の作品からセリフを頂戴したかったのですが、
SSのシナリオを鑑みてこのチョイスになりました。なのでタイトルには確かな意味があります。
C†C名セリフ多過ぎなんじゃ。
SMYK
どんどん更新どんどんいこう
つづき
―司令室―
提督「さて」
夕立「提督さん、今日は何するのー?」
提督「お仕事です」
夕立「っもーう! そんなのわかってるよう」プクー
提督「はいはい。じゃあ今日はこの前やったもののおさらい」
提督「プラス、運用計画の参考資料作成だ」
夕立「し、仕事増えたー!」
提督「当然。どんどん増やすからそのつもりでな」
夕立「あいさー……」
提督「この参考資料は言ってみればデータ整理だな。あらゆる数値を整理して可視化する」
提督「私が推移の予測を立てて計画を練るために作る資料だ」
提督「これが出来るようになると次は運用計画書だが、こっちはまだいいだろう」
提督「準備はいいか?」
夕立「うぃっす……」
夕立「……」カタカタカタカタ
提督「……」ペラペラペラペラ
提督「……」チラ
夕立「……」カリカリペラペラ
提督(泣きごと言ってた割には飲み込みが早いな)
提督(そのうち本当に仕事が出来るようになるかも)
夕立「……ん?」チラ
夕立「なーに? 提督さん。余所見してないで仕事してよー」ドヤッ
提督「ほーう? 言うな夕立。なら資源最終決算報告書と任務申請書も頼んだ」
夕立「うわーーーん!! 藪蛇だったっぽい!」
提督「まったく……。そういうセリフは俺より仕事早くなってから言え」
夕立「ぽいー……」
夕立「あら?」
提督「うん?」
夕立「今提督さん、自分のこと“俺”って言ったね」クスッ
提督「え? そうだったか? ……そうかもしれん」
夕立「本当の一人称はそっちなんだね」ニヤニヤ
提督「いいから仕事しろ」ペシッ
夕立「うぐぅ……」
提督「で」
夕立「……すー…………すー…………」
提督「またこれか」
提督「仕事が出来るようになったことはいいことだが……」
―夕立の部屋―
提督「おやすみ」
夕立「……」ギュッ
提督「!?」
夕立「……ぅ……ん…………」
提督「」
提督(おいおい冗談だろう)
提督「おい、夕立、夕立! 起きろ!」ペシペシ
夕立「……うっ……うっ…………」
提督(起きない……。しかも離してくれない)
提督(上着を脱ぐんじゃなかった)
提督(……マジか)
提督(仕方ない……。離してくれるまで身体だけでも休めよう)
―――
――
―
提督「……」
提督(朝だ……)
夕立「…………すぴー……ぐぅぴぃ……」
提督(やってくれたな夕立……)
提督(運動してシャワーでも浴びて、リフレッシュするか)
―――
――
―
―武道場―
提督「はっ! ふっ!」
ガチャ
提督「お?」
長門「提督か? おはよう」
提督「長門……。おはよう。朝早いな」
提督「お前も運動か? 髪、束ねてるし」
長門「まあな。朝身体を動かすと、一日気持ちよく動けると響から聞いてな」
長門「今走ってきたから、クールダウンだ」
提督「そうか」
長門「提督」
提督「うん?」
長門「この身体は、その、普通のヒトとは違うのか?」
長門「呼吸、発汗、心拍、どれも正常に思えるが、しかし運動ではほとんど疲れなかった」
長門「それに見た目以上の強度と筋力があるように思う」
長門「試しに跳躍してみたんだが、凄まじかったぞ」
提督「はは、なるほど。その身体をそんな使い方するなんてな」
長門「おかしかったか?」
提督「いや、艦娘には可能なことなんだろう。気になる奴なら、それこそ長門のように確かめもするんだろうが……」
提督「今までうちに来た娘からそうした報告は挙がらなかったから、少しおかしくてな……」フフッ
長門「……なんだか馬鹿にされている気がするが……」
提督「いやいやいや。まあ確かに長門が朝早くからひとりでそんなことをしていたと思うと愉快ではあるが」クックックッ
長門「くっ……やめてくれ……/// 皆にも言うなよ!?」
提督「言うまい。それに、参考になったこともある」
長門「なんだ?」
提督「いや……なんでもないさ」
長門「では、私はこちらで」
提督「ああ……」
カチャ
提督「ほう。木刀なんてあるのか……」
長門「……」
長門(会った時は気づかなかったが……)
長門(この提督……身体の芯にまったくブレがない)
長門「提督は、なにか武道を?」
提督「いや、武道なんてそんな御大層なものは知らない」
提督「さすがに軍人だから格闘くらいは出来るが」
長門「そうか」
長門(そんなレベルには見えないがな……)
―食堂―
提督「おはよう」
天龍「おはよう提督。昨日は遅かったのか?」
提督「んん? なんだ、どういう意味だ?」
天龍「いや、なんか執務室の電気つけっぱなしだったみたいだぜ?」
提督(しまった――!)
金剛「Good Morning!!!! テートクゥー! なにやら不思議な言葉が聞こえてきましたネー?」
提督「な、なんだ?」
金剛「私のLadyとしての勘が告げていマース!」
金剛「昨夜夕立と何かありましたネー?」
提督「い、いや……」
提督(め、めんどくせぇ……)
金剛「Chi Chi! 私の眼はごまかせマセーン。今朝の提督の顔はお疲れ気味デース」
天龍「んん? まあ、言われてみれば確かに少し……」
金剛「Because! 大方、寝ぼけた夕立に捕まえられて眠れなかったんデスネー?」
天龍「え、そうなのか提督?」
提督(朝っぱらから無駄に頭が回るなこの帰国子女は……。もういいやめんどうくさい)
提督「ああ、そうだ」
金剛「んー! やっぱりネー! さすがヴィッカ―ズ生まれの私の眼に狂――What's!!??」
天龍「て、提督!? マジかよ!?」
提督「ああマジだ。仕方がなかった。起きなかったし離さなかったからな」
金剛「どどどど同禽!?」
天龍「ま、まさか手を出したりなんか……」
提督「するかバカ」ゴツン
天龍「いてぇ」
金剛「まさか提督と夕立のrelationがそこまで進んでいるとは!」
提督「別に進んでない……」
提督「勘繰り過ぎだ」
提督「だいたい、私の顔が疲れているだなんて。そんなことがわかるほど私のことを見ていたのか?」
金剛「え! あっ……。いや。そんなことはないデスが……///」カア
提督「どうなんだ?」ズイ
金剛「え、あの、提督、近い…………デス……///」モジモジ
提督(大人しくなったか……)
天龍「……」
川内「おはよーみんな。なんか夜戦の匂いがするねぇ~」
提督「おはよう川内。そんな匂いはないから安心しろ」
長門「なんだか騒がしかったな。朝から何を騒いでいるんだ金剛」
金剛「……何でもないデス」
提督「ほら、少し早く来たんだからみんなで飯の準備するぞ」
一同「はーい」
鳳翔「あ、皆さんおはようございます。今準備しますね」
提督「あ、鳳翔!」
鳳翔「はい?」
提督「あとで少し話がある」
鳳翔「?」
―――
――
―
とりあえずここまで。
次は日曜日かな。
―工廠―
提督「やあ」
鳳翔「こ、こんにちは」
開発妖精A「おや」
開発妖精B「ていとくさんですな」
開発妖精C「かんむすさんもいらっしゃるようで」
開発妖精D「おしどりふうふですな」
開発妖精E「ほんじつはおひがらもよいゆえ」
開発妖精F「えいえんのあいをちかいます?」
提督「誓わない誓わない」
鳳翔「あ、あの……////」
提督「鳳翔も真に受けなくていいぞ」
提督「今日は艦載機開発に来た」
開発妖精A「ついにぼくらのでばん」
開発妖精B「ぼくらでばんなかた」
開発妖精C「さいていちはかいはつにはいりますか?」
開発妖精D「かいはつしなくてもなんとかなるしすてむゆえ」
開発妖精E「しんこうがおそいのでは?」
開発妖精F「さあー?」
鳳翔「彼らは何を話しているんでしょう?」
提督「よくわからないことだ。気にしなくていい」
提督「ともかく、彼女に見合ったものをどうかひとつ」
妖精一同「「「はーい!」」」
―――
――
―
提督「建造ではあまり気にならないが、妖精の仕事は本当にランダムだな……」
提督「しかし望みのものは手に入った」
提督「零式艦戦21型だ」
鳳翔「提督、ありがとうございます」ペコリ
提督「さっそく装備してみるか」
提督「艤装の、その矢2本か。1本には九九式艦爆が装備されている?」
鳳翔「そうですね。矢じりをはずすとこんな風に分離します」
提督「……摩訶不思議だな。装備するとこの模型は消滅し、矢じりとして矢と一体化するのか」
鳳翔「ん……。こちらの矢とそちらの矢では、反映される搭載数が違うようです」
提督「……なるほど。不便なもんだな。なんとかならんのか?」
開発妖精A「さあー?」
開発妖精B「ままなりませんな」
開発妖精C「じんせいはままなりませんゆえ」
開発妖精D「あんぱんのようなものですな」
開発妖精E「あまいあまーい」
開発妖精F「すうとしあわせになれるです?」
提督「人生論どころか麻薬にまで飛躍するのか……」
提督「もっと大量生産出来ないのか?」
開発妖精A「んー」
開発妖精B「とらいあんどえらーが、ひつよう?」
開発妖精C「じょうほうがだんぺんてきすぎますな」
開発妖精D「かくりつぶんぷがきびしかた」
提督「どういうことだ……。そもそも矢とのこの連動はなんだ」
開発妖精A「ぜんたいのけいですゆえ」
開発妖精B「ごをたんどくでかんがえるのはだめとしかられました……」
開発妖精C「ちぇすのこまをひとつだけながめるのもおこられました……」
開発妖精D「このぶんだとしょうぎもだめなんだろうなー」
開発妖精E「ぼーどげーむ、やるです?」
開発妖精F「じんせいげーむだー」
提督「……」
鳳翔「提督……」
提督「いいさ。詮無いことだ。彼らには彼らの理屈があるのだろう」
提督(多分……)
―司令室―
提督「それでは夕立。朝の報告を」
夕立「はい」
夕立「今朝は初めて意識的な装備開発を行いました」
夕立「合計消費資源は80/240/40/440」
夕立「また建造での消費資源は300/30/400/300です」
夕立「航空戦力の拡充も少しずつ進めていきますので、ご理解をお願いします」
提督「ありがとう」
提督「午後に本部からこちらに一人、軽巡洋艦が送られる」
提督「報告は以上」
提督「続いて作戦内容の説明に移る」
提督「まず遠征だが、第二艦隊のスターティングメンバーは旗艦吹雪、以下睦月、響、白雪、深雪、那珂βとする」
提督「今回はアクションによって作戦遂行人数とメンバーが変わるので、そこはこの書類をよく確認してくれ」
吹雪「……川内さんと天龍さんがローテーションですね」
提督「そうだ。何か不明な点はあるか?」
吹雪「ありません。大丈夫です!」
睦月「吹雪ちゃん、頑張ろうね!」ニコッ
吹雪「うん!」
提督「よし。第二艦隊は出撃準備にかかれ」
一同「了解!」
提督「さて、残りのメンバーは全員第一艦隊となる」
提督「旗艦は那珂。以下長門、夕立、神通、金剛、殿は鳳翔」
提督「こちらが計画書だ」
提督「今回の作戦では南西諸島の防衛ライン上の敵侵攻艦隊を捕捉し、全力出撃によりこれを可及的速やかに撃滅する」
提督「本作戦から低速艦混成の編成になるが速力には注意すること」
提督「また鳳翔の着任により索敵が一気に拡大した」
提督「うまく調整してみてくれ」
提督「夕立は長門を、金剛は鳳翔のフォローを頼む」
長門(よし!)グッ
提督「何か質問はあるか?」
提督「……よし。第一艦隊、出撃!!」
今宵はここまで。
皆さん励みになるレスありがとうございますw
次回更新は水曜日を予定。
遅れました申し訳ない。
『平常運転』読まないとなー。あと2期とか来ないですかね?
2月中最後の更新になります。
つづき
―海上―
那珂(敵侵攻艦隊……。当然、戦艦や空母が出てくる可能性が……)
那珂『そろそろ予測された戦闘海域に入ります』
那珂『鳳翔さん。戦闘機を索敵機として……』
鳳翔「はい」
鳳翔(……一機、二機、三機)
鳳翔「発艦!」
長門(さて、どうなるか……)
那珂『各員、鳳翔さんからの伝達を待ち、攻撃準備を整えてください』
那珂『長門さんと金剛さんは』
金剛『OK! 先制を叩き込むネー!』
那珂『はい。お願いします』
鳳翔「………………」
鳳翔(私はここからの眺めを見たことがないはずのに……)
鳳翔(この既視感は……?)
鳳翔(それとも私は、本当は見ていたのでしょうか?)
鳳翔(……いいえ。今は戦いに集中しなくては)
鳳翔『見えました!』
鳳翔『二番機より。10時の方向。へ級へ級ハ級ハ級の複縦陣』
鳳翔『敵艦載機なし。このまま爆撃に移ります』
金剛『主砲発砲準備!』
鳳翔『攻撃隊、発艦!』
金剛『Standby!』
長門『いつでも来い』
鳳翔『攻撃開始地点へ到達、爆撃態勢に移ります』
鳳翔『爆撃開始!』
ドドーン!
那珂「封鎖を解除します」
鳳翔「ハ級一隻の撃沈を確認。反転します」
長門「あの位置か……」
提督『鳳翔が爆撃したところか。長門、狙えるか?』
長門「ふん、任せておけ。金剛!」
金剛「Roger that!」
長門「第一主砲発射!」ズドーン!
鳳翔「……目標、着弾地点から30の位置より右に20」
長門「次は当てる。第二主砲発射!」ズドーン!
金剛「撃ちます! Fire!!」ズドーン!
鳳翔「金剛さんの夾叉を確認! 敵艦、発砲しました!」
金剛「Great! 続けて第二主砲!」ズドーン!
神通「私も撃ちます」
鳳翔「へ級一隻撃沈」
金剛「Ouch! ちょっと被弾したネ」ガッ!
提督(弾道から逆算して……)
神通「撃ちます。当たってください!」ドドーン!
鳳翔「続けて旗艦へ級も轟沈」
那珂「主砲発射準備。てぇー!!!」ドドーン!
鳳翔「ハ級大破炎上。沈んでいきます」
那珂「敵艦隊、全艦沈黙。戦闘を終了します」
鳳翔「やりました!」
長門「ふん、まあこんなものだな」
提督『鳳翔、長門、実に見事な動きだった』
金剛「頑張りましたネー!」
夕立「……」
神通「夕立ちゃん……?」
夕立「何だか出番、なかったっぽい……?」ガーン!
神通「夕立ちゃんの顔が妖精さんみたいになってる!?」
那珂「ま、まあまあ。こういう時もあるよ」
提督『そうだな。自分が活躍できる時にしっかり活躍できることが大事だな』
夕立「ぽいー……」
―――
――
―
那珂「ん? あれは……」
長門「小島、だな」
那珂「……妖精さんがいるように思います」
那珂「ちょっと上陸してみます」
長門「お、おい。いいのか?」
金剛「ま、私たちが哨戒していれば問題Nothing!」
夕立「いってらっしゃーい」
那珂「え? みんな来ないの?」
長門「私は残ろう」
夕立「私も残るっぽーい」
長門「そ、そうか」ドキドキ
夕立「2人で守ってるよー」
金剛「Oh! それなら、じゃ、行ってくるネー!」
神通「行ってきます」
鳳翔「行って参ります」
長門(期せずして夕立とふたりきりになってしまった……)
長門(何を話せばいいんだろうか)ドギマギ
―小島―
那珂「ホントに……。こんなところに妖精さんが!」
はぐれ妖精A「かんむすさんだー」
はぐれ妖精B「みちくさ、たべる?」
はぐれ妖精C「たべてもげんきはでませんな」
はぐれ妖精D「たべれる? たべられる?」
はぐれ妖精E「ことばのみだれはこころのみだれ」
はぐれ妖精F「うちゅうのほうそくがみだられるー」
神通「皆さんは、ここで何を?」
はぐれ妖精A「なんだったか?」
はぐれ妖精B「さあー?」
はぐれ妖精C「みんなではがねつくってました」
はぐれ妖精A「そうだっような」
はぐれ妖精B「そうじゃなかったような」
はぐれ妖精D「それしかとりえがなくて」
はぐれ妖精E「だうーん……」
はぐれ妖精F「ぼくら、いらないこ?」
那珂「いらなくないです。大丈夫です」アセアセ
金剛「Well……皆さんはどうして鋼材を?」
妖精一同「「「…………」」」
妖精一同「「「さあー?」」」
金剛「さ、さあーって……」
那珂「あはは……」
鳳翔「それより、鋼材を“つくる”というのが気になります」
鳳翔「鋼は掘り出して加工するものではないのですか?」
はぐれ妖精A「あー」
はぐれ妖精B「はがねははがねからつくります」
那珂「なんですって?」
はぐれ妖精C「あと、うみからはがねをひろってきます」
神通「海に潜るんですか? 危ないです」
はぐれ妖精C「あぶないですか?」
金剛「海には、深海棲艦という魔物がいるんデスよー?」
はぐれ妖精D「もしかして、うみのかんむすさんたち?」
はぐれ妖精E「たまにまみえるかも」
はぐれ妖精F「みなさんかっこいいでざいん」
金剛「海の……艦娘…………」
那珂「…………」
はぐれ妖精A「みんなともだち」
はぐれ妖精B「じんるいみなきょうだい?」
那珂「……その、“海の艦娘”さんたちとはどんなやり取りを?」
はぐれ妖精E「なんでしたっけ?」
はぐれ妖精F「よくかんがえたことなかた」
妖精一同「「「…………」」」
妖精一同「「「さあー?」」」
はぐれ妖精A「いろいろおはなししましたが」
はぐれ妖精B「いろいろあそんでもらいましたが」
はぐれ妖精D「ぼくら、もてあそばれてばっかり」
はぐれ妖精C「でもそれがいいかもー?」
那珂「……は、話を戻しましょう」
那珂「海から鋼材を拾うというのは?」
はぐれ妖精C「うみのみずからはがねをひっこぬいてます」
金剛「What's!? か、海水から!?」
はぐれ妖精C「なにか、おかしかったですか?」
はぐれ妖精D「やっぱりぼくら、やくたたず?」
はぐれ妖精E「だうーん……」
鳳翔「そんなことないですよ!」アセアセ
はぐれ妖精B「ほんと?」
はぐれ妖精A「よかたよかた」
はぐれ妖精C「かんむすさんは、みんな、やさしいです」
那珂(いや、おかしいと言えば何もかもおかしいけど)
那珂(そもそも私たちの存在自体……)
那珂(ドロップだって、私の持っている記憶からは大きく逸脱しているし……)
那珂(それと似たようなもの……なのかな……)
那珂「やっぱり妖精さんたちはすごいです」
那珂「私たちにできないことを平然とやってのけます」
はぐれ妖精A「ぼくら、すごかった?」
はぐれ妖精B「たいしたことないですな」
はぐれ妖精C「きょうえつ、しごく?」
はぐれ妖精D「しごかれたいかもー」
はぐれ妖精E「これはおれいをしなくては」
はぐれ妖精F「おそなえものだー」
はぐれ妖精D「くもつくもつ」
はぐれ妖精E「しずまりたまえー」
はぐれ妖精B「なぜわがむらをおそうー?」
はぐれ妖精C「はがね、あげます」
那珂「本当ですか? ありがとうございます」ペコリ
はぐれ妖精A「こちらへどうぞー」
那珂「こ、これは……」スッ
はぐれ妖精B「あっしゅくしてます」
はぐれ妖精D「かくちょうし、つけました」
はぐれ妖精E「ごかんせいがありますゆえ」
はぐれ妖精F「かいとうできますな」
那珂(私たちの身体と同じ。物理的情報がそれ自体の中に折り畳まれているんだ……)
那珂「これ、ありがたく頂戴しますね」ニコッ
はぐれ妖精A「ではでは」
はぐれ妖精B「またあえる?」
はぐれ妖精C「またあそべる?」
那珂「うん!」
那珂「また、来ます」
―海上―
長門「ん。戻ったか」
夕立「おかえりー!」
長門(結局緊張して何も話せなかった……)
長門「どうだった?」
金剛「妖精さんから鋼材を貰ってきたヨー!」
長門「そ、それだけ?」
那珂「いや、かなり収穫はありましたよ」
神通「提督にはちゃんと報告しないとですね」
那珂「うん……」
長門「ほう……?」
鳳翔「とりあえず、進軍しましょうか」
夕立「れっつごー!!」
―――
――
―
長門「そしてまた、このパターンか……」
夕立「ふんふんふーん♪」
長門(自分も小島に向かうべきだったか?)
長門(しかし哨戒は必要だ。いつ敵が襲ってくるかわからん)
長門「……」チラッ
夕立「~♪」
長門(夕立は気にしてないようだが、これでは間が持たん!)
長門(いや、私の精神が持たん!)
長門(しかし話しかけるのは……)ドキドキ
長門「……」チラッ
夕立「うん?」
長門(目、目が逢ってしまったー!!!)ズキューン!
夕立「どうしたんですかー? 長門さん」
長門「い、いや……。ちゃ、ちゃんと哨戒をやってるかと思って」
夕立「やってますよぅ、もーう!」プクー
長門「そ、そうだな。悪かった……」
長門(マズイ、夕立の機嫌を損ねてしまったか! というか、哨戒出来てないのは私の方じゃないかー!)ガーン!
夕立「……」
夕立「“自分の甲板”に立つのって、気持ちいいですよねー」
長門「え?」
夕立「ほら。この姿にならないと、自分の甲板の上に立てないじゃないですか」
長門「ああ……。まあ、確かに。この姿に生まれ変わらなければ、経験出来ないことだったのかもしれんな……」
長門「かつて私に乗った幾人もの兵が見ていた光景を、否応なく想像させられる」
夕立「でも、なんか不思議ですよね」
夕立「私が私の上に乗っているだなんて……」
夕立「なんだかこの船は、私じゃないみたい」
長門「それは……どういう?」
夕立「だって、自分の姿なんて鏡がないと見られないはずのに、こうやって直接見ることが出来るなんて、不思議じゃないです
か?」
長門「それはまあ、そうかもしれん」
夕立「だから、夕立は、実は今下にある夕立とは別のものなんじゃないかなー…………」
夕立「なーんてね!」
長門「は?」
夕立「夕立、こういう難しい話はよくわからないっぽい!」
長門「おいおい、自分からその話を振ったんじゃないか」フッ
夕立「ふふ……。長門さん、やっと笑ってくれましたね」タッタッタ
長門「え?」
タッ
長門「お、おい!」
スタッ
夕立「ふぅー。着地成功ー!」
長門「な、何も、こちらまで跳んでこなくても……」
夕立「言葉だけじゃ、伝わらないことだってあると思いますよ?」
夕立「私は、もっと長門さんとお話したいです!」
夕立「長門さんだけじゃなくて、他の娘とも、そして……」
夕立「提督とも」
長門「夕立……」
夕立「だからこれからも、よろしくお願いします」ペコリ
長門「夕立……」ジーン
夕立「ぷはっ、長門さん、泣いてるんですか?」
長門「なっ! バカか、泣いてなどおらん! このビッグセブンが……。目にゴミが入っただけだ!」
夕立「あははー! 長門さんおもしろいかもー! みんなに報告しなきゃー!」
長門「おい、こら夕立ー!」
夕立「きゃー!! 長門さんこわいっぽいー!」
長門「待てー!!!」
夕立「長門さん! 哨戒ですよ哨戒! 哨戒しなきゃ!」アハハ
長門「ふふふ……。このビッグセブン、哨戒しながらお前をとっ捕まえるくらい、造作もないことだ……」
長門「いくぞ!」
夕立「わー!!!」
――――――――――
那珂「なーに甲板でいちゃついてんですかねーあのふたりは……」
金剛「Picnicと勘違いしているのデショウかー」ヤレヤレ
神通「まああのふたりに限って、哨戒を忘れてることはないでしょうけど……」
鳳翔「なんだか仲良くなったみたいですね」ニコニコ
―――
――
―
那珂「かなり進軍を進めました……」
那珂「各艦、警戒を厳に」
那珂「鳳翔さん、索敵をお願いします。敵艦載機に充分注意してください」
鳳翔『はい!』
鳳翔『航空隊、発艦始め!』
長門『……那珂、どう思う?』
那珂「先程の戦闘は明らかに偵察艦隊でしょう」
那珂「作戦書通りに侵攻艦隊が来るとすれば、空母や戦艦がいても何らおかしくはないと思います」
長門『なるほどな』
金剛『腕がなるネー!』
鳳翔『! 三番機より、敵艦隊見ゆ! ヲ級ヌ級リ級へ級ハ級ハ級の6隻』
長門『やはり来たか』
鳳翔『このまま航空戦に移ります』
鳳翔『偵察隊に従い侵攻! 敵戦闘機と交戦に入ります!』
那珂「封鎖を解除します」
那珂「提督、航空母艦2隻を含む艦隊と会敵しました」
提督『ああ。まずは健闘を祈る』
提督『各艦、対空戦闘準備』
提督『鳳翔は爆撃の準備も進めろ』
鳳翔「了解! 攻撃隊、発艦!」
提督『よし』
提督(先程は航空母艦がいなかったからな。ここからだ)
鳳翔「制空権争い、拮抗しています!」
提督『充分! そのまま爆撃態勢に移れ』
鳳翔「爆撃開始! 爆弾投下!」
那珂「敵爆撃機及び攻撃機接近!」
提督『各艦対空砲火! 撃ち落とせるだけ撃ち落とせ!』
金剛「Fire!!!」ズドーン!
長門「てぇー!!!!」ズドーン!
神通「撃ちます!!」ドドーン!
那珂「当たれ―!!!」ドドーン!
夕立「てぇー!!」ドドーン!
ズドーン!
金剛「くっ!」ガツン!
金剛「残骸が接触! みんなは!?」
鳳翔「中破しました……。しかし、このまま沈む訳には参りませんっ!」
提督『状況は!?』
那珂「金剛さんが若干の被弾。鳳翔さん中破。敵艦隊はハ級を1隻撃沈しました」
提督『よし。砲撃戦だ! 長門!』
長門「もうやっている! 第一、第二主砲、斉射!!!」ズドーン!
夕立「へ級が発砲!」
神通「重巡リ級、沈んでいきます」
長門「ふん。きかぬ!」ガッ
夕立「ヌ級の発艦を確認!」
提督『かまうな! 今は撃ち続けろ!』
金剛「撃ちマス! 第三、第四主砲一斉射! Fire!!!」ズドーン!
神通「うてぇー!!!!」ドドーン!
那珂「ヲ級轟沈! ……長門さん!」
長門「またか。それで攻撃のつもりか!?」ガツン!
那珂「ハ級中破! 発砲してきます! うてぇー!!」ドドーン!
夕立「これでどう!?」ドドーン!
神通「へ級中破! 続いてハ級の撃沈を確認しました。ヌ級が攻撃隊を発艦。きゃあ!」ガガガッ
長門「しつこいな……。私が仕留める」
那珂「続けて撃ちます。てぇー!!!」
長門「これで終わりだ。てぇー!!!!」
夕立「鳳翔さん! くっ!」ドドーン!
鳳翔「あぁ!!」ドカーン!
長門「大丈夫か!?」
鳳翔「うぅ……。大破……しました…………」
那珂「ヌ級の轟沈及びへ級の撃沈を確認。敵艦隊、殲滅しました」
提督『鳳翔! 航行は可能か!?』
鳳翔「はい……。なんとか……」
提督『……長門、乗せてやれ』
長門「了解した」
提督『ふぅ。なんとか、終わったな……』
―司令室―
那珂「第一艦隊、戻りました」
提督「ご苦労。みんなお疲れ様」
提督「今日はみんなよく頑張ってくれたと思う。鳳翔もだ」
鳳翔「提督……。お言葉ですが……」
鳳翔「……私は、こんなにやられてしまいました」
提督「それがどうした」
提督「初の実戦であそこまでやれたんだ。誇っていいはずだ」
鳳翔「でも……。悔しくて……っ! うっ…………うぅ……」ポロポロ
提督「鳳翔。涙が溢れるのなら、それは自身の能力を卑下することなく、精一杯戦ったことの紛れもない証だ」
鳳翔「!」
提督「だから鳳翔。どうか、泣かないでほしい」
鳳翔「……はい!」
鳳翔「ですが、私が無茶をしては、ダメですね……。本当は今晩、皆さんに晩御飯を――」
提督「今日は特別サービスだ。鳳翔には高速修復材の使用を許可する」
提督「修復後は風呂にでも浸かって、ゆっくり身体と心を休めるといい」
提督「そして晩御飯、楽しみにしているぞ」
鳳翔「……ありがとうございます!」
ガチャ
那珂「へぇ。提督もいいこと言うじゃないですか」
提督「まあたまにはな」
提督「長門と金剛。働きとして申し分なかった。この調子でやっていってほしい」
長門「任せろ」グッ
金剛「任せるネー!」
提督「それと夕立、鳳翔が攻撃を食らう際にちゃんとフォローに入っていたな。偉いぞ」
夕立「…………でも、鳳翔さんを大破させちゃった」
提督「それでも褒めるには値すると思う」
提督「神通も、あのタイミングで反応出来ると望ましかった。那珂では間に合わなかっただろうからな」
提督「少なくとも、私はそのレベルを望む」
神通「はい、ごめんなさい……。精進します」
提督「うん、いい眼だ」
提督「細かい説教は後にしよう。私も航空戦のデータを分析しなくてはならないし、そのフィードバックが済んでからだ」
提督「それから任務申請をしておいたので、明日の朝には新艦娘が本部からやってくるだろう」
提督「こちらからは以上。何かあるか?」
那珂「はい」スッ
提督「なんだ?」
那珂「第一艦隊旗艦、那珂より報告させていただきます」
那珂「進軍中、2箇所の小島にそれぞれ上陸しました」
那珂「そこでは妖精が活動しており、資源をつくっていました」
提督「ほう? “つくっていた”というのは、加工していた、ということか?」
那珂「いいえ。文字通り、“創って”いるようです」
提督「なんだって?」
那珂「これは妖精との対話から得た情報ですが……。彼らが言うには、鋼材から鋼材を創れるのだそうです」
提督「……」
那珂「また、海水から鋼材を抜き出すことが出来るとも言っていました」
那珂「2箇所目の小島ではボーキサイトを創っていたようですが、ほぼ同様の解答結果が得られました」
提督「抜き出す、というのは面白いな。やはりドロップに近いように思う」
那珂「私も同じことを考えました」
提督「だろうな。んー……。前者についてはよくわからないが後者は……」
提督「確か資料上では“構成”とあった気がするが、実質的には“抽出”なのかもしれない」
提督「そう考えると色々と符合する点が見えてくるな。報告ありがとう。他には?」
那珂「はい。もう1点ありまして……」
提督「聴こう」
那珂「はい。それが、どうも妖精は、深海棲艦とも接触しているようです」
提督「なんだと?」
金剛「妖精たちは、深海棲艦を“海の艦娘”と呼んでマシタ……」
提督「なるほど。出航は陸からだから、君たちは差し詰め“陸の艦娘”と言ったところか」
提督「しかしよくよく考えてみると、奴らは洋上で会う時には艦船形態なわけだから、“艦娘”なのかどうかは見当がつかなか
ったな」
長門「そんな、バカな……」
那珂「でも可能性としては大いにあり得ますよね……」
提督「まあ、そうなるな」
提督「鹵獲してしまえばてっとり早いが……それも難しいだろう」
提督「だがこれに関しては一応資料がある。そこのモニターを見てくれ」
ピッ
提督「これだ」
神通「これが、深海棲艦……」
那珂「確かに、独特の……ヒト型をしていますね……」
提督「だが一方でヒトの姿からかけ離れてもいる。どう思う? 自分と同種の存在に見えるか?」
長門「まったく見えないな」
金剛「そんな質問、nonsenseデース……」
夕立「……」
提督「“海の艦娘”というのは彼らなりの比喩じゃないか?」
提督「深海棲艦の正体には諸説あるようだが、沈んだ艦娘の怨念、というのが通説だそうだ」
那珂「提督は、それを?」
提督「いや、さすがに鵜呑みには出来ないだろう。それで万事説明出来るというのなら盲目的に信じるかも知れんが……」
提督「何よりわかっていることが少な過ぎる」
提督「だからと言って、妖精の言葉を鵜呑みにするのも、ね」
提督「彼らの言葉は難し過ぎるからな」
提督「まあともかく。貴重な情報をありがとう。とても参考になった」
提督「報告は終わりか?」
那珂「あ! 結局、鋼材20、ボーキ15を妖精さんから戴きました。以上です」
提督「了解した。那珂は拾得艦を呼んできてくれ。これ以上待たせては申し訳ない」
那珂「はい、ただいま」
ガチャ
タッタッタ
??「失礼します」
??「……失礼、します」
提督「私がこの鎮守府の提督だ。とりあえず自己紹介を頼む」
??「堅苦しいのは苦手なんだが……」
提督「まあ、そう言わずに。何なら楽にしてくれていいぞ」
??「そ、そうなのか? じゃあ……」
摩耶「アタシ、摩耶ってんだ、よろしくな」
足柄「足柄よ。ふふ、よろしくね」
提督「ああ。ふたりとも、よろしく」
摩耶(なんかこの提督、ちょっと怖いな……)
足柄(なかなかいい男じゃない……!)
提督「那珂は摩耶を、神通は足柄を案内してやってくれ」
那珂・神通「「了解!」」
長門「これからどうするんだ、提督」
提督「本当は今すぐにでも工廠に向かいたいところだが、やるべきことが多いな。報告も長引いてしまったし」
提督「どうしたものか……」
提督「しかし先に工廠へ向かおう。やはり気になる」
―工廠―
加賀「航空母艦、加賀です」
提督「加賀。ようこそ、鎮守府へ」
加賀「……あなたが私の提督なの?」
提督「そうだ」
加賀「そう……。それなりに期待はしているわ」
提督「よろしく頼む」
提督「気分は?」
加賀「悪くないわね。この姿にはさすがに少し、驚いたけれど」
提督「結構」
加賀「そちらの方は……?」
提督「紹介しよう。左から順に戦艦長門、戦艦金剛、駆逐艦夕立だ」
長門「長門だ。歓迎するよ」スッ
加賀「長門……。ありがとう、よろしく」スッ
金剛「Hi! 金剛デース!」
加賀「金剛。あなた、そんな感じのキャラだったのね……」
金剛「な、長門と同じことを言われたデース」ガーン!
夕立「駆逐艦夕立です! よろしくお願いします」ペコリ
加賀「よろしく、夕立」
加賀(礼儀正しい娘ね……)
提督「ひとまず加賀のことは3人に任せる。鎮守府を案内してくれ」
提督「私はやることがあるので、また後ほど」スタスタスタ
金剛「……結構急いでマシタネー?」
夕立「多分、着任する軽巡洋艦のお出迎えっぽい?」
長門「ああ。得心した」
―司令室―
提督「そろそろ時間か」
コンコン
提督「入っていいぞ」
ガチャ
??「失礼します」
提督「本部から話は聞いているかもしれんが、私がこの鎮守府の提督を務めている」
提督「君は?」
龍田「初めまして、龍田だよ」
提督「龍田か。これからよろしく頼む」
提督「こちらには天龍が既に着任している。急いで呼んでこよう」
龍田「お気遣い、ありがとうございます」ペコリ
―――
――
―
ガチャ!
天龍「た、龍田か!?」
龍田「天龍ちゃん? あまり騒がしくしては――」
ガバッ
天龍「……逢いたかった…………」ギュウ
龍田「あら~。提督さんの前なんだけどな」
提督「……天龍、龍田のことは任せたぞ」
龍田「はい、天龍ちゃんのことはお任せください」ニコッ
提督「あ、ああ……。任せたぞ」
提督(これじゃあどっちが新艦娘なのかわからないな……)
―――
――
―
―波止場―
提督「今日も来てたか」
響「司令官。今日もお疲れ」
提督「隣いいか」
響「どうぞ」
提督「……」
響「……」
提督「この前の話」
響「うん?」
提督「……船として世界がどう見えるかを尋ねたが、それは艦娘になる前もそうだったのか?」
響「それは……はっきりしない…………」
響「……これは、私自身の体感だけど、いいかな?」
提督「なんだ?」
響「私が艦としての記憶を持っていることは確かだけれど、私はその記憶に絶対の確証がない」
提督「それは結構一般論なんじゃないか?」
提督「誰しも皆、自分の記憶に確証があるだなんて言えないだろう」
響「そういう意味じゃない……と思う」
響「うまく説明出来ないかもしれないけど……」
響「まず端的に言って、記憶が断片的過ぎて細部までは思い出すことが出来ない」
響「でもその記憶が示す光景は、そうだね。まさに今私が見ているような見え方でしか見えてないよ」
提督「なら今と同じように世界を見ていたということか」
響「そう……なるのかな……」
提督「断言出来ないのか?」
響「うん」
響「いや勿論、解答自体は本当に単純なのかもしれない」
響「私は今と同じように世界を見ていた。それで終わりなのかもしれない……」
響「でも」
響「私はその光景が、紛れもない“響”が見ていた光景なのか、ということに関して確証が持てない」
提督「……」
提督「もしその光景が、響にしか見ることの出来ないものだったとしたら、それは響のものになるんじゃないか?」
響「うん、或いはそうなのかもしれない」
響「でも例えば、私の記憶にある光景は、私の乗組員が見ていた光景だとしても差し支えがない」
提督「ああ……。なるほどね。響の言いたいことが少しわかった気がする」
響「尤も、私はそれでも構わないけどね」
響「乗組員の記憶も、私の一部として考えることだって出来るし」
響「だからそれによって、私が私自身の存在に関して疑問を抱いたりはしないけど……」
提督「自分の記憶に、リアリティが持てないか?」
響「そこもまた微妙なところだね。司令官の方こそ、自分の過去にリアリティを感じるかい? 先程の一般論の話になるけど」
提督「はは。確かに、微妙なところだ。誰かの映した映像を今の自分が見ているようなものかもしれない」
提督「……なるほど。それもひっくるめて、響は自分を肯定出来ると」
響「……」コクン
響「それでも、記憶が乗組員のものと区別がつかないとしたら、それを響の記憶と言えるのかは常に疑問に思うよ」
提督「響にまつわる記憶、とは言えるかもしれない」
響「…………」
提督「! 響……。もしかして……」
響「そう」
響「私が、響の記憶を持つ存在が、この世界に複数いるのだとすれば」
響「私は外的にだけでなく、内的にも自分の存在を説明することが出来ない」
響「この事実と、私が私自身の存在に確信を持っていることとの間には、大きな隔たりがあるんじゃないかな」
提督「“響たち”が“響である”ということは、形状と記憶によってしか定義されていない……。或いは定義出来ない……」
響「それは……断言したくない…………」
提督「響……」
響「本来なら定義なんてその2つで充分だと思うんだ」
響「問題はむしろ、それすら説明足り得てないのかもしれないというところにある気がする」
響「理由は単純」
響「仮にここに“響”が10人いたとしても、“私”は他の響たちと自分を区別出来るから」
提督「それは何によって?」
響「それが説明出来ない……」
響「確信、臆見、doxa……」
響「そういうものだと思う」
提督「それが、とある響にはあり、他の響にはない、と?」
響「それはありえない……。少なくとも私の理性はそう言っている……」
響「ダメだね……。矛盾しているよ……」
提督「矛盾はしているが、ダメではないだろう。順当な帰結に思える」
響「……」
響「私にはそれがあって、彼らにはない、なんてことは考えられない」
響「他の9人にとっては、彼ら自身が自他を区別するにあたって確信を持っていなければならない」
提督「しかし“彼らの”確信は、君には与えられていないものだ」
響「そう」
響「でも多分、他の9人に聴けば、9人が9人、当然それがあると答えるはずなんだ。そうじゃないとおかしい」
提督「“確信している”という発言の意味が、それぞれで異なっているとしたら?」
響「いや……。それだと、なぜ“私”がそれを理解出来るのかが説明出来なくなる……」
提督「……私の見解を述べてもいいか」
響「是非」
提督「……私は、それはもはや“理解したつもりになっている”というだけのことだと思う」
提督「“私”からしてみれば、先程響が言った“確信を持っている”という発言さえ、確信のないものだ」
提督「私はただ、君の表明を聴いたに過ぎない」
響「私が嘘をついているとでも?」
提督「いや、そうは思わない。原理的な、可能性の話だ。疑おうと思えばいくらでも疑える」
提督「たとえこの場で響を、酷い拷問にかけたとしてもね」
響「……」
提督「完全に充足された他者理解は、原理的に否定されてるんじゃないか?」
提督「他者に対しては原理的にいくらでも疑うことが出来るということと、自分自身に対して全く疑う余地が存在していないと
いうことは、相即的なことなのだと思う」
提督「もし充足されたとしたら、それはもはや、他者ではない気がする」
提督「そして、あくまで自身の確信を、実在の地平に置くとするのであれば……」
提督「先程言った響の矛盾が、言語の限界であり……」
提督「――響の世界の限界なんだろうね」
響「………………」
響「そう、なのかもしれない……」
響「あまり受け入れたくないことだけど」
提督「そうだな……。すまなかった」
響「いや、いいんだ」
提督「……」
響「……」
提督「……私は、そろそろ戻るとするよ」
響「……司令官」
提督「うん?」
響「Спасибо」
響「その……」
響「また、来てほしい」
提督「ああ、わかった。また来るよ」
響(…………)
響(私は、司令官と、少しはわかりあえたんだろうか)
響(それとも、わかりあった気になっただけなんだろうか……)
テクテク
提督(響も、随分と強がっていたもんだな……)
―食堂―
間宮「お待たせ致しました。今日は鳳翔さんにも実際に料理を手伝ってもらいました」
鳳翔「はい。いくつかの品を作らせていただきました」
金剛「Wow! おいしそーネー!」
加賀「こ、これは……。さすがに気分が高揚します」
夕立「いいなぁー。私も料理とかやってみたいっぽいー」
金剛「あ! 今Nice ideaを思いつきマシター!」
金剛「今度私が皆さんに紅茶を振る舞うネー!」
足柄「お茶会? 大人の嗜みね」
天龍「お、いいじゃねぇか!」
天龍(いいこと思いついたぜ!)
那珂β(那珂ちゃんもイイこと思いついちゃったー! きゃは☆)
川内(何だろう……。なぜか不吉な予感が……)
提督「かまわんが、やるからには出撃ではそれなりの成果を出してほしいところだ」
金剛「Yes sir!」
―――
――
―
―駆逐艦の階・談話室―
コンコン
睦月「はーい!」
ガチャ
長門「失礼する」
吹雪「な、長門さん!?」
長門「よし!」
長門「今日は間宮に頼んでアイスを持ってきたぞ!」
長門「皆食べるがいい!」
響「хорошо」ヒョイ
白雪「わぁ! いただきますね!」パクー
深雪「いっただっきまーす!」
睦月「い、いいんですか?」
長門「かまわん!」ニカー!
長門「ちなみに私はもう食べた」
吹雪「い、いただきます」オズオズ
睦月「ありがとうございます」ペコリ
夕立「夕立ももらうー! いただきまーす!」パクッ
夕立「ん~~~! おいひー!!」
夕立「長門さんありがとー!!!」ダキッ
長門「よしよし」~♪
夕立「…………」
長門(まったく、駆逐艦は最高だな!)
長門(もう何も怖くない!)
吹雪「(長門さん……)」
睦月「(なんか急に……)」
響「(変わったね)」
夕立「それじゃあみんな、夕立はお仕事に行って参ります!」
睦月「夕立ちゃん頑張ってー!」
白雪「お疲れ様です、頑張って!」
夕立「行ってきまーす!」
一同「いってらっしゃーい」
長門(うぅ……。束の間のひと時……)
―司令室―
提督(鳳翔……。航空母艦は全員こんなことが可能なのか?)
提督(鳳翔で現状19機。初戦であれだけの数の艦載機を統一的に操って見せた)
提督(確かにまだまだ荒い部分はあるが、それにしても……)
提督(そして今回進水した加賀に至っては93機)
提督(凄まじい演算ポテンシャル、並列情報処理能力を持っているとしか……)
コンコン
提督(もう時間か)
提督「夕立か? 入っていいぞー」
ガチャ
夕立「失礼しまーす」
提督「さて、今日も今日とて仕事だ」
夕立「ぽいー」
―――
――
―
提督「……」カチャカチャカチャ
夕立「……」ペラペラペラペラ
提督(今晩は静かだな……。いつもなら文句のひとつでも垂れそうだが)
提督(仕事も順調過ぎる早さで進んでる。センスがあるのか、それとも……)
夕立「提督さん。ここまで、終わりました」
提督「今日は仕事が早いな。もう飲み込んだか?」
夕立「うん」
提督「…………元気が、ないように見えるが」
夕立「そりゃね……。今日はあんまり活躍出来なかったし」
夕立「それに鳳翔さん、大破させちゃったし」
提督「……」
提督「どちらも言った通りだ」
提督「1戦目は彼我戦力差と射程の問題があったし」
提督「2戦目に関しても、そもそも戦闘はチームワークだ。夕立が過剰に責任を感じる必要はない」
夕立「……ちがう。違うんだよ…………」ジワ
夕立「出来ると思ったのにっ!!! わかってたのに出来なかったのが、一番悔しいんだよぅ!!!!」ポロポロポロ
提督「!」
夕立「知らなかったなら覚えればいいよ……」
夕立「気づかなかったなら気をつければいいよ……」
夕立「でも……。でも……っ!!」ツー
提督「………………」
提督「夕立……」スッ
夕立「あ……」
ギュウ
提督「誇り高いな、夕立は。……本当に」
提督「幸いにも沈んだ船はない。まだまだやり直せるし、俺たちはもっと強くなれる!」
提督「だから」
提督「…………もし夕立が道を誤った時は、俺が正してやる」
提督「それじゃあダメか?」
夕立「ううん」グスン
夕立「……でも、約束してほしい」
提督「……わかった」
提督「約束だ」
夕立「……うん。約束……」
夕立「でも、今は…………ぅ……」
夕立「――――――――――!!!!!」
夕立は、ただただ、哭いた。
―――
――
―
提督「もう、いいか」
夕立「もう、少し……」
提督「おいおい……」
夕立「えへへー」
提督「ふっ。やっと笑ったじゃないか」
夕立「!」
提督「元気、出たか?」
夕立「……」
夕立「うん!」
夕立「提督さん?」
提督「どうした?」
夕立「ありがとね!」
提督「いいさ」
夕立「さ、仕事のあと片付けしなきゃ!」
提督「そうだな。だが、その前に……」
夕立「?」
スタスタスタスタ
ガチャ
??「「「「う、うわぁ!!!!」」」」
提督「おい、お前ら。何してる?」
金剛「あ、あはは~……」
金剛「ハイ」
提督「はいじゃないが」
足柄「ゆ、夕立ちゃんの泣き声が聞こえてー……」
長門「とても心配になったのだな」
川内「しかしいざ来てみれば何というか雰囲気的に夜戦的な匂いがアダッ!」ガッ
金剛「(Shut up. 川内?)」
川内「(おーけーおーけー……)」ヒエー
提督「はぁ……。まったく……」
提督「夕立? お前が私に何か鬼畜の所業をされて泣かされているのではないかと、みんな心配になって来たそうだ」
提督「愛されてるなー夕立」
夕立「み、みんな、ごめん。もう大丈夫だから。それに……」
夕立「提督さんは、すっっっっっごく! 優しいよ?」
川内(あ、コレほの字ですやん)
金剛(ぐぬぬ……)
長門(ぐぬぅ……。私もそんなこと言われたい……)
足柄(私も秘書艦やりたーい……)
キリがいいのでとりあえずここまで。
ようやく終わりが見えてきたように思います。
次回更新は未定。多分丸1週間空きますね。申し訳ない。
おはろーございます。とりあえず生きてます。
3月上旬が消し飛んでました。驚きのあまり笑ってます。
13日に少しだけ更新したいです。しかし3月はあまり捗らないかもなぁ。
どうかお付き合いいただければと思います。
ゾロゾロゾロ
ガチャ
提督「ふぅ。やっと帰ったか」
夕立「提督さん、片づけ、終わったっぽい!」
提督「うん、ありがとう」
提督「さて、私はもう寝る。夕立も、今日は早く寝た方がいい。さすがに泣き疲れたろう」
夕立「うん……」
夕立「……」
提督「? 夕立?」
夕立「え? あっ! ううん! 何でもないの!」
提督「……ぼーっとしてるな。やっぱりもう眠いんじゃないか?」
夕立「う、うん……。そうだね……」
提督「まさか、まだ気にしてるのか?」
夕立「いや、そんなことない……けど……」
夕立「……」
夕立「…………あの……ぁ……」
提督「うん?」
夕立「さっきのじゃ、その…………足りなかったかも……」
提督「なんだって?」
夕立「いや……だから…………その……」
夕立「……」
夕立「ゆ、夕立! こ、今晩は提督さんと一緒に寝たいっぽい!」
提督「!?」
夕立「……ぅ…………///」
提督「…………」
提督「上官が君のような幼い娘と褥を共にするなどと……。本気か?」
夕立「ほ、本気だよ!!」ジワ
提督「あーもう泣くな泣くな!」
提督「まったく……。急にどうしたんだ?」
夕立「だって、やっぱり不安で……」
提督(不安……か…………)
夕立「さっき、提督さんと一緒なら大丈夫だって、そう思えたの」
夕立「それはホントなの! 嘘じゃないの……。でも……」
夕立「これからまた独りになるんだって思ったら、なんだか怖くて……」
提督「独りって……。独りじゃないだろう。俺も、みんなもいる」
夕立「もう……。理屈じゃないんだよぅ……」ウルウル
提督(…………)
夕立「今日は怖いから、嫌な夢を見ると思ったの」
夕立「だから多分、独りじゃ眠れないっぽい……」
夕立「お願い。隣にいてくれるだけでいいから……」
提督(……そんなこと言われたら、断れないだろうが)
提督「はぁ……」
提督「わかったよ」
提督「ほら、部屋に来なさい」
夕立「……ぅ、ぁ…………ありがと……///」
―居室―
提督(どうしてこうなった……)
夕立「……寝巻を、着てきました」
提督「……他の連中に見つからなかっただろうな?」
夕立「うん、多分、ダイジョウブ……」
提督(なんか不安になるな……)
提督「ほれ、毛布だ」
夕立「あ、……ありがと」
提督「奥に入れ」
夕立「お、お邪魔します……」ゴソ
提督「入るぞ」ゴソ
夕立「うん……」
提督「……」
夕立「……」
夕立「提督、さん?」
提督「どうした?」
夕立「手を、握っても、いい?」
提督「……こうか?」ギュ
夕立「うん……」ギュウ
夕立「えへへ、ありがと」
夕立「……ん」
夕立「…………夕立、ったら…………提督さんが………………てくれれば……」
夕立「……私…………も………………しず………………」
夕立「……」
夕立「…………すぅ………………すぅ……」
提督(……寝たか)
提督(………………)
提督(寝顔、かわいいもんだな)
提督(これだけ無防備にされてもなぁ)
提督(……)
提督(俺が眠れる、わけがない……)
今宵はここまで。
アニメと設定が被らないように祈りながら、無理せずまったり行きたいと思います。
おはろーございます。
3月はこうなる気がしたから、2月中に完結させたかったのだよ(負け惜しみ)。
メモ帳の折り返し機能やめました。なんか上手くいかん。
つづき
―――
――
―
―朝・居室―
夕立「…………んぅ……」
夕立「ん」モゾ
夕立「……」ボー
提督「ん? 起きたか」
提督「おはよう、夕立」
提督「今コーヒーを入れよう」
夕立「おはよーございます……」
夕立「あれ……なんで、提督さんが夕立の部屋……に……」
夕立「………………」
夕立「おわわぁーーーっ!!!!」
提督「ちょっと待て大声を出すな夕立それはマズイ!」スッ
夕立「んむぅ!」モゴモゴモゴモゴ
ジタバタ
夕立「ぷはっ!」
夕立「もう提督さんいきなり酷いっぽい!?」
提督「いや、それはこっちのセリフなんだが……」
夕立「というか、夕立ったら、そっか……」
夕立「……いやん///」ポッ
提督「はぁ……。自分から一緒に寝ると言い出しておいて今さらなに言ってんだ」
夕立「てへへ」
提督「ほら、コーヒー」スッ
夕立「ありがと」
夕立「フ―……フ―……」
提督「猫舌か?」
夕立「ぽいー」
夕立「はぁ~暖まる~……眠くなってくる~……」
提督「コーヒー飲んでから寝るのは昼寝だけだ。起きろ」
夕立「もうダメっぽい~」バサリ
提督「おいこら、布団に潜るな」
夕立「……」チラリ
提督「なんだ、その目は……」
夕立「……目覚めのキスとかしてくれたら、起きられるかも」ドキドキ
提督「…………ふん、いいだろう」
夕立「なんて冗談……ってふえぇ!?」
提督「じっとしていろよ」ズイ
夕立「あ、いやその、心の準備っていうかその」カアア
提督「…………」
夕立「……///」
提督「……既に起きているヤツを、どうやってキスで起こせばいいんだ?」
夕立「か、返す言葉もございません……」
提督「反省せよ」
夕立「ご、ごめんなさい」
提督「よろしい」
夕立「でも、キスで目覚めるなんてロマンチックじゃない?」
提督「そうかもな」
夕立「そこは認めてくれるんだ?」
提督「まあ、な。どういう原理で目覚めるのか、気になるところだが」
夕立「あははっ。原理とか考えちゃうあたり、提督さんには向いてないかも」ニヤニヤ
提督「……悪かったな」
夕立「ふふっ」
提督「どうした?」
夕立「ううん……。なんでも」
夕立「ただ、こーゆーの、なんかいいなって、思っただけ」
提督「そうかい」
夕立「……」
提督「……」
夕立「……今日は、いい朝だね」
提督「ああ。そうだな」
提督「……それを飲んだら、部屋に戻ること。いいな?」
夕立「はーい」
夕立「提督さん、コーヒーごちそうさま。おいしかった」ニコ
提督「うん。お粗末さまでした」
―――
――
―
―司令室―
コンコン
提督「入ってくれ」
??『失礼します!』
ガチャ
加賀「!」
提督「うむ時間通り。朝礼前だ」
提督「見ての通り、私が提督だ。君が……」
赤城「航空母艦、赤城です」
赤城「空母機動部隊を編成するなら、私にお任せくださいませ」
提督「よろしく赤城。だが、君だけじゃない」
提督「加賀と一緒に、よろしく頼む」
赤城「!」
加賀「赤城……さん……」
提督「ふたりには早速の実戦を頼みたいのだが、いけるか?」
赤城・加賀「「……」」
赤城・加賀「「はい!」」
提督「よし。夕立」
夕立「はい。今朝の建造での消費資源は400/30/600/30です」
夕立「任務遂行及び遠征のおかげで、各資源は充分な量です」
夕立「引き続きよろしくお願いします」
提督「ありがとう」
提督「さて、作戦内容の説明に入る」
提督「遠征メンバーは旗艦吹雪、以下睦月、白雪、深雪、龍田、那珂β」
提督「変更点としては、遠征の内容及びタイムテーブルに新しいものが追加されている」
ペラ
提督「こちらが計画書になる」
吹雪「ありがとうございます」
提督「遠征に含まない待機メンバーは後ほど発表するが、今日はあることをやってもらおうと思っている」
提督「第二艦隊に関しては以上だ。質問は?」
提督「……よし。第二艦隊、出撃準備!」
一同「了解!」
提督「待たせたな。続いて第一艦隊の発表だ」
提督「作戦の目標は、南西諸島海域への進軍。遊弋する敵艦隊群を迎撃し、海域攻略の布石を置くこと」
提督「旗艦は夕立。以下長門、金剛、那珂、赤城、加賀」
提督「赤城と加賀は艦娘としては初の実戦になる。那珂が2人をフォローして欲しい」
加賀「……随分見くびられたものね」
赤城「加賀さん!」
提督「ふっ。いい意気だ。そう思うなら、帰投後、見くびった私に詫びを入れさせる程の戦果を出すことだな」
加賀「いいわ。提督には泣いて謝ってもらいます」
提督「結構」
金剛(期待しているのデスネ)
提督「特に説明することはないな……。何か質問は?」
夕立「あ、あの……」
提督「なんだ?」
夕立「旗艦というのは……」
提督「うん? 能力的には問題ないだろうし、試しにやってみたらどうかと思ってな。いい経験になるだろう」
提督「私も大して深く考えてはいない。全員に旗艦を任せられる能力があるのが一番望ましいし」
提督「また加えて言うなら、別に那珂の評価を下げたからというわけでもないから、2人とも気にしなくていい」
提督「那珂は不満か?」
那珂「いえ……。私は精一杯、自分のベストを尽くすまでです」
提督「そういうことだ。何も怖れることはない」
夕立「……うん。夕立、頑張る!」
提督「よし。説明は以上。出撃準備にかかれ!」
赤城(提督……。ありがとうございます)
摩耶「で、アタシたちはどうするんだ? 待機か?」
提督「まあ待機と言えば待機だが、ボーっと過ごしていても仕方がない」
提督「というわけで……」
提督「演習だ」
天龍「へぇ。提督はてっきり実戦至上主義者なのかと思ってたぜ」
提督「確かに実戦で学ぶこと、実戦でしか学べないことも多いだろうがな」
提督「鎮守府周辺海域は一応制圧した。近海での演習の不安要素が極小になったということは大きい」
提督「戦力も増えたし、艦隊にも余裕が生まれたからな。演習に踏み切ったというわけだ」
天龍「なるほどな」
提督「ま、陸から距離が開くにつれ深海棲艦もより強力になるから、実戦前に鳳翔や、赤城、加賀にも演習をさせたかったというのが本音なんだが……」
提督「しかし航空戦力の重要性を鑑みて即投入した。鳳翔には少し悪かったと思っている」
鳳翔「いえ、そんな……」
提督「あの2人には期待半分、不安半分といったところだ。今後のためにも実戦でのデータは欲しかったし、色々と都合がよかった」
提督「鳳翔の活躍が予想以上だったからこそ可能になったことでもある」
鳳翔「うぅ……」
提督「鳳翔。断じて嘘ではないからな」
鳳翔「……はい」
提督「早速演習を始めたいところだが、私は第一艦隊の指揮を執る必要もある。常に直接演習を見ることは出来ない」
響「私が監督をすればいいんだね」
提督「…………さすが。察しがいいな」
提督「そう、その通り。実戦経験のある響に審判を任せたい」
足柄(すごいわね、この子)
提督「まずは旗艦天龍、摩耶、足柄チームと旗艦神通、川内、鳳翔チームに分けてやってみようと思う」
提督「今回は自軍での演習だからな。私は口出ししない。互いにメンバーだけがわかった状態でどこまで作戦を立てられるかも見る」
提督「まずは各チームに別れて作戦を立てることだ。装備を変えても構わない」
提督「尤も、我が艦隊はまだまだ装備に乏しいので実際にやれることは限られているが」
提督「演習には専用の代用弾を使う。本部からの特注品だ。工廠には既に置いてある」
提督「装備すると艦船形態での実弾がすべて代用弾に変換されるそうだ」
神通「それも妖精さんが?」
提督「普通に考えればそうだろうな」
提督「こいつが着弾すると、仮想化された損傷をシミュレートし、その度合いに応じて一時的に活動が制限される」
摩耶「なんかよくわかんねぇけど、すげぇな」
提督「私もこの資料を最初に読んだ時、普通に兵器運用出来るだろうと思ったが、どうもそれは無理みたいだ」
提督「まあそれはいい」
提督「それに加えて口頭でも判定は出すので、大破判定が出たら戦線離脱すること」
提督「大体の説明はこんなところだが、質問は?」
川内「はいはいしつもーん!」
提督「はいどうぞ」
川内「この班分けはバランス的にどうなの? なんか、モヤっとするよ」
提督「ふふ。川内は面白いことを言うなぁ」
川内「な、なんだよ!?」
提督「川内は進軍中に敵艦隊と遭遇しました。敵艦隊は潜水艦隊でした。川内たちは対潜装備を積んでいませんでした――」
川内「ああもうわかったってば! 悪かったよ、もう……」
提督「ヒトの話は最後まで聴くもんだぞ川内」
提督「ともかく、仮に実戦で敵艦隊の編成が割れていたとしても、それと対応する編成・装備をこちらが用意出来る保証はない」
提督「むしろ割れてないことの方が多いのだから、今私が挙げたような事態は極端な形とは言え、現実に充分起こり得ることだ」
提督「それでもどうしたら前を向いて戦えるのか、建設的に考える思考能力を君たちに求めたい」
提督「モヤっとするならちょうどいいくらいだ。ヒヤっとされても困るからな。勝機がないなら撤退した方がいい」
提督「そして、勝ってスッキリ出来るようによく頭を使うんだな」
川内「……確かに、提督の言う通りですね。……ごめんなさい」ペコリ
摩耶(ふぅん。やるじゃねーか)
提督「よし。各艦準備にあたれ。響は準備の間、私と監督方法の擦り合わせをする」
響「了解」
<Blog>
『代用弾』
別名・浸食弾頭(浸食砲弾・浸食魚雷)。着弾した瞬間に船体のデータを読み取り、損害規模を算出し、その程度に
応じて船体の可動領域に制限をかける弾のことである。制限する時間は開発時に任意に設定することが出来る。原理的
にはクラッキングと類似のものであり、生体クラックの一種として定義出来る。しかし弾自体に解析機能を付加するこ
とは困難であり、また解析した情報を付加した方が効率的かつ現実的に運用出来たため、開発の際にはあらかじめ艦隊
のデータを控え、それを元にプログラムを構築する必要がある。したがって代用弾の開発は、艦娘の参照データを元に
損害シミュレーションをプログラミングし、それを再現するように妖精に依頼することで為される。この際、妖精は既
存の艦娘の実弾に、このプログラムの一連のデータ及びその概念自体を適用することで代用弾を産み出しているように
思われる。また、一度創出した以降も、妖精は資源のみから代用弾を構成することが出来なかった。並びに、代用弾の
装備は、常態において実弾に影響せず、艦船形態においてのみ、実弾を代用弾へと変換させる。加えて、艦船形態にお
ける代用弾の状態を検証することも行われたが、“代用弾”なるものは観測することさえ出来なかった。したがって代
用弾は、実弾と物理的に同じ性質を有しながらも、“代用弾として機能する”という点によってのみその意味・存在を
確定させていると言えるだろう。
今宵はここまで。
4月は投稿ペースが回復する……はず。
キャラを自由に動かせるチャンスが減ってきましたね。色々考えておきます。
お久しぶりです。
生きてる人、いますか――?
ところで
>>296
正しくは“侵食”ですね、間違えてました。私はミジンコです。
つづき
―天龍チーム―
足柄「さて、どうしましょうか」
摩耶「……まあ、普通に考えて勝負の流れが決まるのは」
天龍「航空戦、だな」
天龍「火力はオレたちに分がある以上、向こうは長引くほど不利になると考えると思う」
摩耶「対空砲火でこっちの被害を極小に抑える必要があるな」
天龍「ああ。オレには艦娘としての戦闘経験があるが、この中じゃ一番耐久力がない」
天龍「それに旗艦だし、指揮機能を殺ぐためにも多分、狙われる」
足柄「私と摩耶で、それをフォローするということね」
天龍「そうだ。砲撃では鳳翔、神通の順に叩く」
天龍「みんな頼んだぜ」
摩耶「おう!」
足柄「ええ!」
―司令室―
響『各艦、配置につきましたか?』
響『これより演習を開始します。原則、判定の通達は私が行います』
響『また、両チームが戦闘領域から離脱した場合、或いはいずれかのチームが大破艦3隻となった場合、戦闘終了合図を通告します。皆さん、頑張ってください』
響『それでは、戦闘開始!』
響「司令官、こんな感じでよかったかい?」
提督「ああ、問題ない」
提督「さて、両チームがどう動くのか、見物だな」
―――
――
―
―鎮守府近海―
天龍「戦闘開始だ!」
天龍「各艦、対空警戒を厳に!」
摩耶「腕がなるぜ」
足柄「さぁて、どう出てくるのかしら?」
――――――――――
鳳翔「敵艦隊補足! これより攻撃態勢に入ります」
鳳翔「天龍、摩耶、足柄の順に単縦陣です」
神通「了解です。鳳翔さん、作戦通り、狙えそうですか?」
鳳翔「はい。やります」
――――――――――
摩耶「おいでなさったぜ」
天龍「対空砲火準備。てぇー!!」ドドーン!
摩耶「おらぁ!!!」ダダダダダダ!
足柄「くっ! 当たらない!」ドドーン!
天龍「ちょこまかと!」
摩耶「クソが……。おい、これじゃあ機銃を使った方がまだマシだぞ! 切り替えろ!」
天龍「今やってる!」バババババ!
足柄「着弾したのに! なんて操縦技術なの!?」ズダダダ!
摩耶(…………)
天龍「意地でも爆弾には被弾させないつもりか……」
摩耶「来るぞ!」
天龍「摩耶!!」
ガツン!
足柄「きゃあ! こ、これ結構痛いじゃない!」
摩耶「くっ……! う、動かねぇ……」
天龍「大丈夫か!?」
響『摩耶、中破。足柄小破判定です』
天龍(しくじった! 鳳翔さんの機動力を甘く見ていた。長期戦覚悟で高火力艦を叩かれるのも予想出来なかった)
足柄「私はまだまだやれるわ! ここから立て直しましょう」
摩耶(クソ……。“あの時”とは何もかも違い過ぎる! アタシ自身も、他の船たちも……)
――――――――――
提督「なるほど。神通も手堅いな」
響「今のは……? 天龍たちの対応が鈍かったように感じたけれど」
提督「……航空戦では天龍側が確実に不利だからな。おそらく、速攻で旗艦を潰されるのを嫌って3人とも意識が天龍に集中していたのだろう」
響「ああ……。その予想通りに事が進めば拮抗して、砲撃戦で天龍たちが優勢に立てた。……けど」
提督「神通はまず火力を殺ぐことを考えた。裏の裏を読んだとも言えるし、全く以って普通に攻撃してきたとも言える。その意味で手堅い。基本に忠実だ」
響「でも天龍の読みは……」
提督「勿論、失敗じゃない。多分、天龍側の事前の意識がなければないで、神通は可能なら天龍も狙うように指示していたと思う」
響「……航空戦と砲撃戦での有利不利でバランスをとったんだね」
提督「それだけじゃないさ」
響「? それはどういう――」
ピー!
提督「おっと、夕立たちが戦闘に入ったようだ。少し席をはずすが、後は頼んだ」
響「了解、司令官」
――――――――――
川内「やったね!」
神通「ええ、ひとまずは。鳳翔さん、ありがとうございます。最低でも持って行きたかったラインにまで届きました」
鳳翔「いえ。神通さんの作戦あってこそです」
神通「そんな、とんでもないです。ともかく、続いて砲撃戦を頑張りましょう」
――――――――――
天龍「敵艦見ゆ! 作戦通り行くぞ」
摩耶「おい! 鳳翔がもう発艦してる!」
天龍「……旋回して後から追撃するつもりか。演習なのをいいことに捨て身で飛ばしてきやがった……!」
足柄「弾幕を張りなさいな! 撃て! 撃てー!!」ドドーン!
摩耶「神通が発砲! てぇー!!!」ドドーン!
天龍「ぐあっ!」ガツン!
摩耶「天龍!」
響『天龍、鳳翔、共に中破です』
天龍「へへ……。深海棲艦なんかより、ずっとおっかねぇじゃねぇか。敵に回すとよ!」ドドーン!
ガツン!
足柄「う……この私が、ここまでやられるなんて……」
響『足柄、中破です。続いて川内、小破』
摩耶「! 艦載機が!」
天龍(ここまで動きを読まれているとはな)
天龍「対空砲火ー!!」ダダダダダ!
摩耶「くっそ動かねぇ!」
足柄「ちっくしょう……!」ズダダダ!
ガッ!
天龍「うぐっ……ぅ……」
響『天龍、大破です』
摩耶「天龍! 追わないのか!?」
天龍「……無茶だ」
足柄「鳳翔は着艦出来ないのよ? まだチャンスはあるわ!」
天龍「……オレはもう撃てねぇぞ。それでもやるのか?」
足柄「当たり前でしょ。ねぇ摩耶?」
摩耶「ああ。演習の時ぐらい、命懸けられないでどうすんだ?」
天龍「……確かに。神通たちにも失礼だ」
天龍「各艦面舵いっぱい! オレは殿につく」
摩耶「そうこなくっちゃな!」
天龍「…………あれは」
摩耶「はっ! あいつら、アタシたちを完全にぶちのめす気満々だぜ?」
足柄「ほら、追って正解だったでしょ?」
天龍「さすが神通だ。……やれるだけやってみろ!」
摩耶「おう!」
足柄「でも容赦ないわね……。おそらく最後の、第3次攻撃隊が来るわ」
摩耶「上等じゃねぇか。どうせ狙われるのはアタシら重巡2隻だ。今度は落とす!」
足柄「対空砲火準備!」
摩耶「てぇー!!!」
―――
――
―
―司令室―
響『戦闘終了です。皆さんお疲れ様でした。総員、帰投してください』
響「! 司令官」
提督「お疲れさん。こっちも、今1戦目が終了した。完全勝利だそうだ」
響「幸先がいいね」
提督「金剛が随分とはりきっていたようだからな」
提督「さて、みんなが帰ってくるまでにデータを見せてもらおうか」
―――
――
―
提督「今回の演習、神通チームの勝利だ。よくやったな」
川内「いよっし!」
天龍「くっ……。オレがもう少し色々考えていれば」
提督「いや、対応としては間違ってなかったぞ」
提督「航空戦では天龍側はどうしても不利なんだ。むしろ勝機を生み出す可能性を少しでも模索出来たなら及第点だ」
提督「それに……」
提督「実は重巡の2人には少し負荷をかけている」
提督「今回は主に君たちのための演習だからな。身を以って“艦娘”を知ってもらいたくもあった」
提督「摩耶はどうだった?」
摩耶「……なんつーか、全然違った。自分の砲撃精度も、アタシの記憶と合ってねーし、艦載機の動きにも驚かされたよ」
提督「足柄はどうだ?」
足柄「概ね摩耶と同じね。まあそれ以上に、そこの神通ちゃんに驚かされたのだけど」
天龍「砲撃戦で鳳翔が狙われるのを読んで、あらかじめ発艦させていたのか」
神通「はい……。演習でなければ出来ないやり方ですが、有効かと判断しました。ダメだったでしょうか?」
提督「いや。実戦でそれをやったら本気で叱るが、弁えているなら別に構わない。むしろ演習の特性を理解し、最善策を練り、勝利を導こうとする執念は敬服に値する」
提督「よくやったな」ナデナデ
神通「あぅ……///」モジモジ
提督「結果的には私が予想した以上の差が出たが、それは神通の頑張り分だな」
提督「と言うのも、元々天龍サイドと神通サイドでは戦闘経験に差がある」
提督「特に航空母艦の“艦娘”――即ち鳳翔が、どれだけ艦載機を動かせるかを神通が知っていたということは大きい」
提督「艦娘も深海棲艦も、かつての船とは似て非なる能力を持っている」
提督「このことは摩耶、足柄、川内にはよく自覚しておいてもらいたい部分だ」
提督「勿論、天龍にもな」
一同「「「「はい!」」」」
提督「ほら、鳳翔。君の力はみんなが認めるところだ。もう、怖くないだろ」
鳳翔「はい! ありがとうございます、提督」
>>309
>摩耶「おい! 鳳翔がもう発艦してる!」
鳳翔は飛べたのか……(驚愕)
提督「私からの話は以上だ。一旦、休憩にしようか」
一同「了解!」
―――
――
―
―カムラン半島沖合―
夕立「赤城さん、偵察機を」
赤城「はい。偵察隊、発艦!」
夕立「この海域の敵主力艦隊との交戦が予想されます」
夕立「先程の戦闘とは異なり、おそらく航空母艦が出てくるでしょう」
夕立「敵機発見後、速やかに戦闘フェーズに移行出来るよう準備を進めてください」
夕立「また砲撃戦では直掩機による支援を中心に添えながら、対空砲火は最小限に留めるよう努めましょう」
赤城「! 敵艦影発見! ル級ヲ級ヌ級リ級ハ級ハ級の計6隻」
赤城「航空戦に移ります。加賀さん!」
加賀「戦闘機、発艦始め。赤城さんの偵察隊に従い、侵攻します」
夕立「各艦対空戦闘準備を。航空戦終了直後の初動で後れを取らないように!」
一同「了解!」
夕立「無線封鎖を解除。敵主力艦隊と会敵しました」
提督『了解。戦闘指揮は任せるぞ。やれるか?』
夕立「勿論!」
赤城「続いて九九艦爆、九七艦攻発艦!」
加賀「敵戦闘機との交戦に入ります」
加賀(いける。今の私なら、やれる)
夕立「来るよ! 対空砲火準備!」
加賀「鈍いわね。徹底的に撃ち落とします」
赤城「そろそろ攻撃隊が抜けます」
加賀「制空権、確保しました。攻撃態勢に入ります」
夕立「各艦用意……。てぇー!!」ドドーン!
金剛「Fire!!!!」ドドーン!
長門「てぇー!!!!」ドドーン!
那珂「てぇー!!!」ダダダダダダダ!
ズドーン!
夕立「砲撃戦準備! 金剛さん!」
提督(対応が早い。見切っていたのか)
金剛「Roger that! 発砲準備!」
赤城「ハ級2隻大破炎上中! 沈んでいきます。並びにヌ級中破、艦載機発着艦困難です」
夕立「さすがです」
金剛「Burning Love!!!!」ズドーン!
長門「こちらはヲ級を狙う。てぇー!!!」スドーン!
赤城「長門さん、夾叉です」
那珂「ル級、リ級ともに発砲!」
長門「次は中てるぞ!」
ガッ!
加賀「うっ……。一撃でかすめてくるなんて、普通じゃないわね」
ガツン!
長門「ぐっ……。クソ! 煩わしい!」
夕立「!」
提督(あのリ級……。長門の照準を逸らしやがった……)
夕立「ヲ級が艦載機を発艦! 気をつけて!」
那珂「撃ちます。てぇー!!!」ドドーン!
夕立「! このままヌ級を沈めましょう。てぇー!!」ドドーン!
加賀「こちらの攻撃隊、既に発艦しています」
夕立「長門! 金剛! 機銃で牽制を!」
長門「任せろ!」ズダダダダ!
金剛「Aye sir!」ババババババ!
ガツン!
加賀「ぐっ! 大丈夫、残骸が接触しただけ!」
赤城「那珂さん夕立さんによりヌ級は撃沈、ル級は加賀さんにより小破です。こちらももう攻撃隊を出しています」
夕立「私がル級を牽制するよ。第1、第2主砲、撃てぇー!!」ドドーン!
夕立「ふふっ。今さら構えても遅いんだけど」ニヤリ
那珂「ル級に着弾! 続いて発砲! ヲ級も攻撃してきます!」
長門「夕立!」
夕立「当たらないよ! 長門さんはこのままル級を!」
ズドーン!
提督(砲塔を狙ったのか……!)
長門「主砲、一斉射! てぇー!!!!」ズドーン!
夕立「今日は随分狙ってくるのね……。そんなに私が邪魔かしら?」ズダダダダダダ!
金剛「撃ちます、Fire!!!」ズドーン!
ヒュン! ガツン!
夕立「ぐっ……。やって、くれたわね……」キッ
ビリッ
長門(なんだ、今のは……?)ゾクッ
那珂「リ級中破! 夕立ちゃん、発砲してくるよ!」
赤城「第3次攻撃隊、発艦始め!」
加賀「同じく攻撃隊、発艦!」
夕立「あはは。夕立ったら、本当に、今日は人気者みたいね?」
ズドーン!
那珂「赤城さん、加賀さん、牽制するので仕留めてください!」ドドーン!
赤城「任せて!」
金剛「夕立、大丈夫デスカー?」
夕立「平気。少し残骸が当たっただけ」
那珂「赤城さんが重巡リ級を撃沈。ル級も大破しました」
加賀「チッ。仕留め損なったわね」
那珂「敵艦隊、離脱していきます」
夕立「戦闘終了。提督さん、聴こえる?」
提督『ああ。お疲れ様』
夕立「撃退したと判断して、撤退していいかしら?」
提督『それで構わない』
夕立「了解。鎮守府へ帰投します」
夕立「ふぅ……。終わった」
夕立「みんな、お疲れ様!」ニコッ
赤城「やりましたね、加賀さん」
加賀「ええ。ひとまずは。色々と反省が必要なのがわかったわ」
加賀「提督に合わせる顔が……」
提督『加賀、気にするな』
加賀「なっ! な……あ……聴いていらしたのですか! くっ……///」
提督『ま、細かい話は後だ。とりあえず戻って来い』
一同「了解!」
―――
――
―
―司令室―
夕立「艦隊、無事帰投しました」
提督「ご苦労」
夕立「道中、高速建造材を拾得しました。妖精さん曰く、“ちょっとしたおすそわけ”とのことです」
提督「なるほど。相変わらずだな」
提督「第1艦隊帰投までに戦闘データを確認しておいた。結論から言って、各艦、申し分ない働きだった」
夕立「ありがとうございます」ペコリ
提督「決して油断していいような敵編成ではなかったが、全艦小破未満で事を終えたことにはただただ驚くばかりだ」
提督「夕立の戦況分析及び指揮も的確かつ適切だった。今後も同じようにやってもらいたいくらいだ」
提督「旗艦にした判断は間違ってなかったろう?」
金剛「Yes! 夕立は凄いネー!」
那珂「私も、夕立ちゃんならついていきたいって、思えるよ」
夕立「みんな……」ウルッ
長門「…………」
加賀「提督」
提督「なんだ?」
加賀「お言葉ですが、私は自分が思っていたよりも満足に動くことが出来ませんでした」
赤城「加賀さん……」
提督「加賀。それは嘘だろう」
加賀「嘘ではありません! 出撃前に大口を叩いたこと、反省しています。申し訳ありません」ペコリ
提督「加賀。これは命令だ。まず顔を上げろ。そして私の話を聴け」
加賀「ですが……」スッ
提督「もう一度言う。君は嘘をついている」
提督「君は艦娘として、かつてと同じかそれ以上に上手く動けたことを自覚しているはずだ」
加賀「それは……」
提督「聡い君のことだ。自身の能力の錯誤以上に、深海棲艦との戦いが厳しかったから、それに驚いているだけじゃないか?」
加賀「……」
提督「加賀。私は君たちに過去の戦いを忘れろ、とは言わない。だが何の因果か君たちは今、ここに呼ばれ戦っている」
提督「そのことと過去の事柄は、必ずしも同じ次元にあるものではない。純粋に比較するだけ、加賀自身が辛くなるだけだ」
提督「今一度、ここにいる全員に告げる」
提督「あるがままを受け入れろ」
提督「私から言えることはそれだけだ」
加賀「……わかりました」
赤城「加賀……」
加賀「赤城さん、私は、大丈夫」
提督「うむ!」
提督「他に、何か報告はあるか?」
一同「……」
金剛「ハイ!」ビシッ
提督「なんだ金剛」
金剛「あのー……約束通り、お茶会を開いてもいいデスか……?」
提督「ふむ。なんと言っても小破未満だからな。何も問題はあるまい」
金剛「Thank you 提督ゥー!! 大好きネー!」ダキッ
夕立「んなぁー!!!!」
金剛「今から準備してくるから、待っててくださいネー!」
金剛(あぁ! ……勢いに任せてダイタンなことを言ってしまいマシタどうしまショウ////)
夕立「提督さん! 拾得艦を呼んでくるよ!」イライライライラ
提督「あ、ああ……。頼んだ」
提督(なんなんだ……)
飛鷹「名前は出雲ま……じゃなかった、飛鷹です。航空母艦よ。よろしくね、提督」
提督「……出雲マンさん?」
飛鷹「ち、違うわ!」
提督「その、出雲なんちゃらってのは何なんだ?」
飛鷹「えっと……。私、もともと客船になる予定で……。その時の名前が“出雲丸”なの」
提督「なるほど。私が提督だ。よろしく」
提督「そして君は……」
北上「アタシは軽巡、北上。まーよろしく」
提督「北上か。よろしく頼む」
提督「さて、お茶会までに北上と飛鷹に鎮守府を紹介したいんだが……」
北上「あ、じゃあアタシは那珂ちゃんに頼むとするよー」
那珂「え?」
北上「いいでしょー?」
提督「え、ああ、まあ。那珂もいいか?」
那珂「大丈夫ですよ」
北上「それじゃあ行ってきまーす。よろしくねー」
那珂「うん、よろしく」ニコ
一同(物凄くマイペースだ……!)
提督「加賀。飛鷹を頼んでいいか?」
加賀「ええ。私が案内するわ」
飛鷹「よろしくお願いします」ペコリ
加賀「いえ」
ガチャバタン
赤城「提督」
提督「どうした」
赤城「金剛さんの手伝いに向かっても、いいでしょうか?」
提督「? 別に構わないぞ」
赤城「ホントですか!? それではお先に失礼致します」ペコリ
ガチャバタン
長門「どうしたんだろうか?」
提督「さぁな」
提督「さて、工廠へ行こうか」
夕立「ぽいー」
―工廠―
鈴谷「鈴谷だよー。よろしくねー!」
提督「よろしく鈴谷。私が提督だ」
提督「気分はどうだ?」
鈴谷「んー? まあまあかな。なんか不思議な感じ?」
提督「そいつは何よりだ」
提督「そして、ここにいる2人が、これからの君の仲間だ」
夕立「駆逐艦夕立です、よろしくお願いします」ペコリ
長門「戦艦長門だ。よろしく頼むぞ」
鈴谷「ほぉーっ、すごーい! 何これ、どうなってんの?」
提督「まあ話すことは色々あるな」
提督「長門、頼めるか」
長門「ああ。鈴谷。私がこの鎮守府を案内する。ついてきてくれ」
鈴谷「らじゃー! お願いしまーす!」
提督「よし。金剛たちは準備が終わったかな」
夕立「行ってみましょう?」
―屋上・テラス―
提督「ほう。これはなかなか」
金剛「あ! 提督ゥー! こっちに来るネー!」
提督「ふっ。やれやれ」テクテク
夕立「わぁ! すっごーい!」
吹雪「お疲れ様です、司令官! ごめんなさい、先にいただいてます」
提督「いや、構わない。冷めても勿体ないしな」
響「お疲れ、司令官。これはとてもおいしいよ」
提督「私もいただこうか」
金剛「長門も来たネー」
長門「ほう。これのことか」
響「そちらは、新人さん?」
鈴谷「うん! 鈴谷だよー。賑やかな艦隊だねー、みんなよろしくねー!」
足柄「ほら、立ってないで一緒にお茶を楽しみましょう?」
神通「ただいま椅子を持ってきますね」ニコ
鈴谷「あ! 大丈夫、私自分で持ってくるし!」
長門「まあまあ、今はいいだろう。大人しく待ってろ」
鈴谷「了解っす」
睦月「はぁ~……暖まります~」
長門「ジャムに種類があって面白いな」
摩耶「金剛、うまいぞ!」
金剛「摩耶、もう少しお上品に嗜んで欲しいデース……」
摩耶「わ、悪い……」
金剛「まず姿勢はこうデス!」
摩耶「こ、こう、か?」
龍田「ふふふ」
足柄「唐突に何かが始まったわね」フフッ
鈴谷「金剛さんのマナー講習会第1回目」ボソッ
睦月「あはは!」
長門「しかも、ちゃんと話を聴いて実践しようとする摩耶が微笑ましいな」ハッハッハ
摩耶「あ、あん? なんか言ったかよ!?///」テレッ
金剛「こーら摩耶! ちゃんとするネー!」
摩耶「わ! ごめん……」
金剛「ま、今日はこれくらいでいいデショウ。もっと見過ごせない方々がいますからネー……」
金剛「どうして……」
鈴谷「お?」
金剛「……どうしてお茶会なのに、横でバーベキューかましてる人達がいるのデスかー!?」
一同(みんながツッコミを入れたかったところに、ついに金剛のメスが!!)
金剛「天龍ー!?」
天龍「おお? なんだよびっくりするじゃねぇか」ハッハッハ
金剛「“おお? なんだよびっくりするじゃねぇか”……じゃねーデス!! びっくりしたはこっちのセリフデース!!」
金剛「What are you doing now!?」
金剛「これはお茶会への冒涜ではありませんか!?」
天龍「まあまあ別にいいじゃねーか。ほれ、金剛も1本どうだ!?」
金剛「イリマセーン!!!!」
金剛「あなたたちのせいでテラス一帯が肉臭いのデスよ!」
天龍「おう。お肉の香りで紅茶も捗るだろ」
金剛「ハ カ ド リ マ セ ン !」
天龍「なーんだよ金剛。オレは閃いたんだ。“お茶会”には“バーベキュー”が欠かせないってな」
金剛「どこからそのアイデアが降ってきたのか、私、気にナリマス!!」
赤城「私は最高のアイデアだと思いましたよー」モグモグモグモグ
吹雪(赤城さんってめちゃめちゃ食べるんですね……)
加賀「私も赤城さんに同意します」ムシャリムシャリ
金剛「ぐっ……。一航戦……! あなたたちもお肉の魔力に負けたのデスネ! 運命には抗えなかったのデスネ!?」
赤城「はて、何のことだか……。金剛さんのスコーンもおいしかったですよ?」
赤城「あ! 間宮さん、ありがとうございます!」
間宮「鳳翔さんと野菜を切っていますので、足りなくなったらいつでも声を掛けてくださいね」ニコ
赤城「はい、お気遣い、ありがとうございます」ペコリ
金剛「ムッキー! 負けた気分デース!」
睦月「ま、まあまあ、それくらいにして一緒にお茶、飲みましょう? 冷めちゃいますよ?」
金剛「うぅ~……。睦月だけが味方デス……」
睦月「よしよし」ナデナデ
深雪「ガンガン焼いてくけどいいか!?」
天龍「おう、いけぇ!」
加賀「お願いします」ワクワク
川内「このかぼちゃもらうねー!」
提督「お茶に肉か。世界観に差があり過ぎるな」
龍田「肉々しいですねー……」
飛鷹「もう少し落ち着いて食べられないのかしら」
摩耶「まったく、匂いが移りそうだぜ」
ダッダッダッダッダッダッダッダ
那珂β『みんなーお茶会、楽しんでるー!?』
天龍「な、なんだ!?」
提督「そういや那珂がいなかったな。何してんだ?」
那珂β『今日はー、みんなー、那珂ちゃんのために焼き肉パーティー開いてくれて、本当にありがとー!!』
提督「いや、開いてない開いてない」
金剛「頭が痛くなってキマシタ……」
神通「妹がご迷惑を……」
赤城「ふむ」ムシャムシャ
那珂β『那珂ちゃんのことがだーいすきな、ファンのみんなのためにー、今日はー、那珂ちゃんから、サプライズのプレゼント!』
那珂β『というわけで、リサイタルを、やりまぁす!』
金剛「誰か……あいつを止めるのデス……」ガクッ
睦月「ダメ、金剛さんが……死んじゃいます!」
長門「おい金剛、大丈夫か!?」
金剛「あぁ……最期は、……提督のそばで…………」
吹雪「ダメです金剛さん、目を覚まして!」
摩耶(何か始まった……)
提督(みんなお酒も入ってないのに錯乱してるなー)
金剛「提督……どうか武運長久を……。私……ヴァルハラから見ているネ……」
タッタッタ
??「とぅ!」
吹雪「あ、あれは?」
??「そいやー!」
バキッドカッゴスッ
那珂β「うにゃあぁぁあああ!!!!」
スタッ
那珂「悪は滅びた……」
赤城「……なかなか面白いですね」モゴモゴモゴモゴ
加賀「ぷっ……ぐ……ごほっ! ごほっ!」
赤城「どうしたんですか加賀さん」キョトン
加賀「ごめんなさい、ティッシュを……」プルプル
提督(なんだこれは、見世物なのか?)
金剛「ふぅ……危うく陸で轟沈するところデシタ。危なかった。私の心の平穏、お茶会という名の心のオアシスは無事守られマシタ。感謝シマス、那珂」
那珂「いえ、こちらこそ遅れてしまってごめんなさい。姿が見えなかったので、何か企んでいるとは思っていましたが、結局ここに現われるまでに見つけられなかったので……」
那珂「後でたっぷりお灸を据えておきますね」ニコッ
提督「ん?」
夕立「……」ニコニコ
提督「楽しいかい?」
夕立「……うん、とっても」ニコッ
提督「ふっ、そうか」
白雪「はぁ……。癒されますね……」
北上「あー……いいねぇ~……。ずーっと、ここでぼーっとしてたいよ」ボー
響「金剛、おかわり」
金剛「うん、今入れマスネー!」
赤城「鳳翔さんもお肉、いかがですか?」
鳳翔「ありがとうございます。でも、夕食が食べられなくなってしまいますので……」
加賀「お肉を食べてると、お酒が欲しくなりますね」
鳳翔「今度、飲み会でも開きましょうか」
赤城「いいですね!」
提督「…………」
提督(……どうしようもなく、平和だ)
―――
――
―
キリがいいので今宵はここまで。
>>314
摩耶ちゃんはテンパっちゃうかわいいなんです。俺は悪くねぇ!
(訳・記述に見落としがありました。ご指摘ありがとうございます)
期待してくださっている方、大変励みになります。
今月の投稿はこれだけでしたが、来月もよろしくお願いします。
>>334
>摩耶ちゃんはテンパっちゃうかわいいなんです。
かわいい子……
人のせいにするイッチには鳳翔さんの急降下爆撃を
深雪「ガンガン焼いてくけどいいか!?」
天龍「おう、いけぇ!」
深雪と天龍のコンビはあまり見かけないけど息合うよな
―波止場―
響「~♪」
提督「ご機嫌だな」
クルッ
響「……司令官。待ってたよ」
提督「お茶会はどうだった?」
響「あれはいいな。またやりたいね」
提督「……ちゃっかり肉も食べてただろ」
響「見られてたんだ。さすがに少し恥ずかしい……」
提督「あはは。食い意地が張ってると思われるのは嫌か?」
響「まあね。これでも、その……。心は女なんだと思う」
提督「そんなに卑屈になることはないだろう。響はとても女の子らしいよ」
響「……///」プイ
提督「ふっ……。そうやって照れるところもさ」
響「司令官は女たらしなのかい?」
提督「なんだ。たらされている自覚でもあるのか?」
響「その切り返しはずるい。返答に困る」
提督「ふははっ」
響「それだけの余裕があるなら、昔からそんななんだろうね」
提督「さあどうかな。身に覚えがないよ」
響「とぼけるあたりが最高に最低だね」
提督「響のその辛辣さは結構好きだ」
響「好きだなんて、軽々しく口にしないで欲しい」
提督「悪かったよ」
響「司令官は話をはぐらかすのが上手い」ムスッ
提督「お褒めに預かり光栄だ。でも響にその手は通用しないようだな」
響「褒めてないよ」
提督「これは手厳しい」
響「……ふふっ」
響「司令官とは何を話してても、楽しい」
提督「そうか。ありがとう」
響「……私が女だからかな」
提督「今度は私が返答に困る番だな」
響「一般論としてだよ。提督がどうという以前に、やはり私の意志は身体に大きく影響を受けてるんじゃないか、ってね」
提督「……つまり、女性として今在るということに疑問があると?」
響「女性としての心の動きを、私が今まさに感じ取っているからね。司令官に男を感じないわけではないし」
提督「微妙な言い回しをされたな」
響「直接的に言うのが単に恥ずかしいだけだよ」
提督「そこまで言えるなら同じことだろう」
響「司令官は機微という言葉を辞書で引いた方がいい……」
提督「ごめんよ」
響「……まあここまで言えるのも、男であるとか女であるとか以前に、私が提督を信頼しているからだけれども」
提督「面と向かって言われるのは少し照れるな」
響「ちょっとした仕返しだよ」
響「……ともかく、私は私自身がこの姿をとっていることに何ら必然性を感じない」
響「もし艦艇がヒトの姿をとったのだとしても、別様にもあり得たと考えてしまうんだ」
提督「それは自然な発想だろう。でも艦艇に魂があるのだとすれば、“響”の魂はその姿だったのかもしれんが」
響「ひとつの艦艇に無限個の魂が入っているだなんて、想像したくないけどね」
提督「そうだったな……。或いは魂を複製出来るなんてのは、オカルトにオカルトを足したようで決まりが悪い」
響「うん。だから、この前の話から自分で少し考えてみたけど、結局、私が“かつての響そのものである”ということはあまり重要なことではない気がする」
提督「それはどうして?」
響「もし“この”私がまさに艦艇としての響の魂だとして、この姿が偶然的に与えられたものだとしても、今あなたと話し、ここでこうして振る舞うこの姿こそが紛れもない私なのだと、そう納得せざるを得ないから」
響「多分私は、“自分こそが響である”という確信を、この姿なしに得ることは出来ないんだと思う」
響「……怖くなった」
響「そのことが少しだけ怖いんだ。過去が……。覗き込んだだけで吸い込まれてしまう真っ暗な奈落のような……」
響「司令官はヒトだからいいのかもしれない。“ずっと”ヒトだから」
響「でも! 艦の魂がヒトのカタチに宿るだなんて……。私は艦娘として目覚めてから事後的に、遡及的に自己の記憶をそう認識しただけかもしれない」
響「……それこそ司令官の言った通り、誰かの撮った映像を、さも自分が体験したものとして誤認するかのように」
提督「響……」
響「司令官」
響「響の記憶を刻まれた私が複製されてこの姿に宿るのと、ヒトであるこの姿の私に響の記憶が挿し込まれるのとでは、何が違うんだろうね」
響「……単なる艦艇としての響に、“私である”と意識する何かは、存在し得たのかな……」
提督「…………」
提督「それは確かに存在したのだ、と。響はそう考えたいんだね」
響「そうだね……」コクン
提督「……君は先程、自分の意志は身体に従属しているんじゃないかと、そう言ったね」
響「うん」
提督「響は意識を特権化し過ぎているような気がする。意志と身体を分離して考える必要はないのでは?」
提督「すべてひっくるめて、それが自分だと、そう自己肯定することは出来ないのかい?」
響「……それ以外に方法はないと思う」
響「でもそれは、私が本当に“響である”のかどうか、ということについて問わないということだと思う」
提督「ああ…………。そういうことか……」
響「どの道、私の採れる解釈は限られているんだよ」
響「私は私自身の存在を疑ったりはしない。でも私が“響である”ということには一抹の疑いを拭い切れない」
提督「……響の原初的なアイデンティティーが、艦艇としての響と女の子としての響の間で揺れているんだね」
響「……」コクン
提督「ひとつ質問がある」
響「なんだい?」
提督「その疑いを拭えないのは、自分が艦娘でなければ“かつて自分は響だった”という確信を持てなかったのではないか、という仮定に起因している?」
響「おそらくは、そう」
提督「君の持つ艦の記憶は、君の“過去の”意志について、何と言っている?」
響「……わからない」
提督「なら質問を変えよう。かつて君は自分が意志していたと思うか?」
響「………………」
響「うん。そう思うよ」
提督「……面白いね。いや、おかしいくらいだ」
提督「私も響も、言ってることと信じていることが、きっと逆だ」
響「私に関しては単に、解釈に迷っているだけだと思うよ」
提督「そうかもな」
提督「だが私は、違う。私なら、自分自身が意志しているとは考えない。否、考えられない」
響「それは……悲しい考えだね」
提督「響。君はたとえ乗組員が自分の進路を決定したとしても、それが他ならない“響”の意志であると?」
響「その通りだよ、司令官」
提督「……君の意志を響の乗組員数百名の創発として定義出来たとして、上位の意志である君が下位の意味、即ち乗員の意図を理解出来てもなお、それは自分の意志であると、そう言い張れるのか?」
響「出来るさ。何より私は、彼らの意図と挙動を理解出来ても、私自身の意志の発生を理解出来ないのだから」
提督「それこそが、自分に意志があることの何よりもの証拠だとでも?」
響「私は、そう思う」
提督「君にとって乗組員とは何だ?」
響「私の意志に、従う者のことだよ」
提督「……驚いたな。これは艦娘が人智を超えているからか? それとも、響の体感が特別なだけか?」
響「後者だと思うよ。単なる解釈の問題なんじゃないかな」
響「でもそんな私でも、ヒトの身体には軛のようなものを全く感じないわけでもない」
響「尤もそれは単に、おそらく偶然的なものだろうこの姿に対して制限を感じているというだけの話であって、この姿から導かれる諸々の感情も、意図も、行為も、等しく私のものなのだと、そこだけは胸を張って言えるよ」
提督「……私には響が眩し過ぎる。私には何も奪えない」
響「奪うという次元にすらないよ。彼らは元々私のものだった」
響「そして同時に、おそらく私は彼らのものでもあったのだろうけど、“私”にとってそんなことは問題ではないんだ」
響「彼らの意図と私の意図には、区別がない。このことは彼らの意図が私のものであると、そう私が恣意的に解釈するための妨げにならない」
響「だから当然、彼らの行為はすべて説明出来るし理解出来るよ。なぜなら、他でもない私が意志したことなのだから」
提督「それが響の、記憶なんだね」
提督「そして、彼らの意図を理解出来るのは、今自分が艦娘だからではないか、と」
響「そうだよ」
提督「それはとても興味深い見解だ」
提督「艦娘として生まれ、下層の意味を知り、それでもなお自分の意志を肯定出来るのは響の強さだと思う」
響「どうかな。さっきは私の感覚が特別だからと答えたけど、もしかしたら艦娘は皆、潜在的にはそう思っているのかもしれないよ」
提督「なぜ?」
響「そうでないと、今艦娘として操艦出来ないんじゃないかな?」
提督「なるほど」
響「航空母艦に関しては艦載機まで自分の意志で操っている」
提督「ああ。それは私も気になっていたところだ」
提督「今艦娘として何の問題もなく操作出来ているということの起源は、艦艇の時にまで遡れるのではないかと、響はそう言いたいわけだ」
響「私自身は、実はそうなんじゃないかって思ってる。いや、そう信じてる。そして、そう信じたい」
提督「その認識が誤認だったとしても?」
響「誤認だったとしても、だよ。私は、信じる心を大切にしたいんだ。ああ、そうか…………」
響「たとえ記憶に騙されていたのだとしても、過去に保証なんかなくても……」
提督「……確信さえ得ているなら、そこから考えられる諸々の事実よりも、確信そのものを肯定する……。そういうピュアな考え方、嫌いではないな」
響「うん。それだけで私の心は落ち着いた。僅かばかりの恐怖心も乗り越えられると、信じさせてくれた」
響「他ならないこの私が、――響なのだと」
響「…………司令官」
提督「ん?」
響「ありがとう」ニコッ
響「これでもう、瑣末なことに頭を悩ますこともないと思う」
響「司令官のおかげだよ」
提督「私はただ、話を聴いたに過ぎない」
響「ううん。それだけでよかった」
響「決して悩んでいたわけではないけれど、それでも、こんなに見晴らしが良くなるなんて」
響「……司令官にも、こんな気持ちを感じて欲しいと思った」
提督「はは……。私は、響ほどの主体性を持って自己規定することは出来ない」
響「司令官……」
提督「でも、そうだな」
提督「いつか見つけられるといいかもな。響のような、自分の明確な在り方を」
響「……うん!」
―――
――
―
―司令室―
提督「……」ペラペラ
夕立「……」カタカタカタカタ
提督「もう、秘書の仕事は完璧か?」カリカリ
夕立「んー……」カタカタ
夕立「そうでもないっぽい」
提督「妥協しないんだな」
夕立「まあね」
夕立「……」
夕立「なんだろう……」
夕立「最近、海に出ても、ここで仕事をしてても」
夕立「何となく、何かが足りない気がするの……」
提督「?」
提督「何かって、何が?」
夕立「わかんない……」
夕立「お仕事もっと頑張ろう、って。妥協なんてしない、もっともっと提督さんの役に立とうって、思うんだけど……」
夕立「私の、この気持ちは――」
コンコン
赤城『赤城です。長門さんもいます。ただいまお時間よろしいでしょうか?』
提督「いいぞ。入ってくれ」
ガチャ
赤城「失礼致します」
長門「失礼します」
提督「なんだ、どうした?」
赤城「ええっと、お仕事中ごめんなさい……。本当に、大した話じゃないんですけど」
赤城「あの、今度飲み会でも開こうかと、皆さんとお話致しまして……」
提督「の、飲み会?」
赤城「ええ。その、お仕事のある中大変かとは思いますが、是非、提督ともご一緒出来たらなと思う次第でありまして……」
提督「なるほど。業務に関わることだから、この場で進言したんだな」
赤城「はい……。ダメ、でしょうか?」
提督「はぁ。まったく……」
赤城「う……」
提督「意外と律儀なんだな。気にすることはないぞ。私も参加させてもらおう」
赤城「本当ですか!? やりましたね!」
長門「ああ」
提督「ふむ。夕立」
夕立「はい?」
提督「そういうわけで夜の時間を空けるために、明日夕立は出撃せずに秘書をやってもらう」
夕立「なるほー。了解でーす!」
赤城「ごめんね夕立さん」
夕立「大丈夫ですよ! 日中はみんな等しくお仕事なんですから」ニコ
赤城「ありがとうございます」ペコリ
提督「じゃあそういうことで」
提督「ところで長門は何しに来たんだ」
長門「赤城の付き添いだ。もしかしたら提督の機嫌を損ねるかと思ってな。独りで叱られるのは心細いだろう?」
提督「杞憂もいいところだ。揃いに揃って律儀なヤツらめ」
提督「話は終わりか?」
赤城「ええ」
赤城「では提督、明日は楽しみにしていますね」
提督「こちらこそよろしく頼む。戦果は――」
赤城「当然、心得ています」
提督「よろしい」
長門「……提督」
提督「うん?」
長門「……」チラ
夕立「?」
長門「いや、なんでもない……」
長門「私も提督と酌み交わす酒を、楽しみにしている」
提督「ああ」
赤城「ふふっ。では、失礼致します」
長門「失礼します」
ガチャ
提督「悪いな、負担をかけて」
夕立「ううん。夕立は大丈夫」
夕立「そうだ!」
夕立「もういっそのこと、夕立が提督業を引き継いじゃえばいいんじゃないかしら?」ワクワク
提督「……なんだって?」
夕立「夕立の、一日提督! 提督さんはゆっくりお休み」
提督「いやいや、さすがに休むわけにはいかない。夕立にすべてを任せるのもな」
提督「だが、まあ多少は任せてみるか」
夕立「本当に!?」
提督「ああ。出来そうな仕事だけ任せよう。事務と第一艦隊の管制は夕立に一任する。全体管理は私がやる」
夕立「やったー!」
夕立「提督さんの上着、着てもいい?」
提督「……別に構わないが、遊びじゃないぞ」
夕立「わかってまーす!」ニコニコ
夕立「ふんふーん♪ 楽しみ―!」
提督(夕立はもう事務仕事が早い。それより練度上昇速度が早いのも気になるが……)
提督(いくら夜に仕事が回せないとは言え、さすがに少し時間が余るだろうな)
提督(なんかやるか)
今宵はここまで。
次回更新は週末になるかと。
―――
――
―
―早朝・波止場―
提督「鈴谷か? おはよう」
鈴谷「おっ、提督じゃん。おっはよー」
提督「早いな」
鈴谷「んー……。なんか、あんまり寝付けなかったみたい」
提督「そうか。まあ着任したてなら、まだここでは落ち着けないだろう」
鈴谷「そうかも。そう言う提督は、フツーに朝早そうだよね」
提督「そうだな」
鈴谷「いつもは何してるの?」
提督「身体を動かしてる。今もここまで走ってきたところだ」
鈴谷「そ、そうなの? あ、もしかして鈴谷が邪魔しちゃってる?」
提督「まさか。私が勝手に立ち止まっただけだよ」
提督「鈴谷は散歩か?」
鈴谷「うーん、まあね」
鈴谷「……ねぇ提督」
提督「うん?」
鈴谷「今日鈴谷は、海に出られる?」
提督「いや、確か今日のところはその予定はない。すまんな」
鈴谷「そっか。そうなんだ……」
提督「……何か、気になることでも?」
鈴谷「うん……。長門さんとか、他の人にも色々話は聴いたけど、ちゃんと出来るかなってさ……」
鈴谷「ほら、今私ヒトの姿じゃん? でも、深海棲艦とは船として戦うんでしょ?」
鈴谷「鈴谷ちゃんと船になれるかなー、とか、操艦できるかなー、とか、さ……」
鈴谷「みんなは、何をどうすればいいのかは自然とわかるーとか、自分の姿を強く想うとそのまま船になってるーだとか、励ましてくれたけど、実際にやってみないことにはちょっと、ね」
提督「なるほど」
提督(記憶だけでは不安に思うもの、か……。響はどうだったのだろうか)
提督「こういうことは時間があるほど余計に気になって考えてしまうような気がするな」
鈴谷「それもあるかもねー」
提督「……」
提督「じゃあ、今からちょっと海に出てみるか?」
鈴谷「え、ぅぇえ!?」
提督「なんだ」
鈴谷「えっ、ちょっ……。いいのかなぁ……?」
提督「まだ時間はあるし、私が許可するんだ。問題あるまい。どうせ大して資源も食わん」
提督「ほら、艤装を取りに行ってこい」
鈴谷「え、う、うん……」
―――
――
―
鈴谷「こ、これでいいかな……?」
提督「ああ。じゃあまずは浮いてみよう」
鈴谷「うん……」
バシュッ
鈴谷「お、おお!」
鈴谷「なんか浮いてるー!!」
提督「そのまま前に」
鈴谷「前に……」
ツー
鈴谷「おおっ! おおお!?」
鈴谷「なにこれすっごーい! あはは!!」
提督「しばらくそうやって滑ってろ」
鈴谷「あはは! 提督、これちょー楽しいー!!」スイー
提督「そうかい」
提督(なんか心配して損したような……)
ジュバッ
鈴谷「うん! 確かに。何をどうすればいいか、わかる! 不思議とね!」
提督「気は晴れたか?」
鈴谷「そうだね~、最高かも!」
提督「そいつは何よりだ。その調子で頑張ってくれ」
鈴谷「ねぇねぇ提督さ」
提督「うん?」
鈴谷「提督も海の上、滑ってみない?」
提督「…………はぁ?」
鈴谷「ほら靴貸してあげるからさ。気持ちいいよ?」
提督「いや、何を言っているんだお前は……」
提督「サイズ合わないだろ。それ以前にそのヒールの高いローファーを私は履きたくない。何よりの極めつけは……」
提督「私は艦娘ではないから、その靴を履いたところで、多分浮けもしない」
鈴谷「えーっ!? いいじゃん面白そうじゃーん……。それにやってみないとわかんないよ?」
提督「いや流石に結果は目に見えているが……」
鈴谷「提督。仮説は検証されるためにあると思うなー?」
提督「それは正しいが今ここでは正しくない」
鈴谷「ほらっ、靴脱いで足出して!」ヌギヌギ
鈴谷「履いてみなよー。さきっちょだけでいいからさ、ね、ね、ね?」ズイズイ
提督(うるせぇ……)
提督「わかったよ」スッ
提督「これでいいか?」
鈴谷「うわっ、提督ヒールとか履いちゃうの? まじ? あは、きっもー☆」
提督「――――鈴谷?」
鈴谷「ぴ……っ」
鈴谷「ごめんなさい冗談ですいや冗談にしてもふざけ過ぎです調子に乗り過ぎましたごめんなさい」
提督「鈴谷ぁ。ここからだと資源運搬用のクレーンがよく見えるなぁ」
提督「あれにお前を、そう、例えば、――吊るしてやれば、気高さと哀愁さを兼ね備えた素晴らしい芸術作品が生まれそうな気がするんだ」
鈴谷「あはは……提督、冗談ですよね?」
提督「そうだ冗談だ」
鈴谷「は、ははは。で、ですよね……。でもちょっと笑えなかったっす」
提督「そうかすべってしまったか。残念だなぁ」
提督「この勢いならきっと海の上も滑ることが出来そうな気がするなぁ鈴谷」
鈴谷「ぜ、是非トライしてみてください」
提督「ああ、そうするよ」
鈴谷(ぁ、あぶなかったぁ~。さっきの一瞬の殺気は冗談抜きでヤバかった。……おしっこ漏れてないよね?)ゴソ
提督(ちょっと大人げなかったか)
カツカツカツカツ
チャプ
提督「……ほら、な? 浮かないだろう?」
鈴谷「ほ、ホントだ……。おかしいなぁ。鈴谷の小さい靴にでかい足を無理矢理捻じ込んで壊しちゃったとか?」
提督「反省が足りないようだな」
鈴谷「ジョークジョーク!」
鈴谷「でも故障じゃないとなると、なんでなんだろうね? 鈴谷は問題なく使えたのに」
提督「……艦娘は艤装なしに艦船形態には移行出来ない」
提督「常態における艤装は、ある程度の機能を行使出来るが、艦娘にしか扱えない……」
『ぜんたいのけいですゆえ』
『ちぇすのこまをひとつだけながめるのもおこられました……』
提督(……全体の、系)
提督「鈴谷。仮説とは、常に改訂され得るものだ」
提督「……おそらくだが、この靴それ自体には“水上を滑る”という機能は賦与されていない」
提督「この靴ひとつだけを取り出してどんなに観察しようとも、無意味なんじゃないか?」
鈴谷「え……。な、なんで?」
提督「さぁな。だがその靴が鈴谷の艤装の一部であるなら、それは鈴谷にしか使えないものなのだろう」
提督「それが強く規定されている、としか思えん」
鈴谷「う~ん。他の艦娘と艤装を交換して使えなかったら、そうかもしんないねー」
提督「おお、いい着眼点だな。今度やってみてくれ。宿題だ」
鈴谷「うえぇ~宿題とか、まじっすか」
提督「マジだ」
鈴谷「まあちょっと面白そうだし、やってみるよ」
提督「よし。じゃあ次は艦船形態に移行してみろ」
鈴谷「ラジャー!」
鈴谷は俺から15mほど離れると、途端に艤装を展開した。
提督「おい馬鹿近過ぎる!!」
青白い強烈な光と共に、水飛沫がはじける。
思わず顔を腕で覆う。
提督「くっ……」
顔を上げるとそこには朝日に照らされる『鈴谷』の姿があった。
ある種の神々しささえ湛えているその姿に息を飲む。
即座に口をついて出そうになっていた悪態は、どこかへ消えていなくなってしまっていた。
ふと見ると、鈴谷が腰に手を当て、得意げな顔で甲板から俺を見おろしている。
鈴谷「ふふーん♪」
提督「……残念なヤツめ。ドヤ顔さえしていなければ見惚れていたものを」
鈴谷「え!? ちょっ、惚れるとか言うなし! ば、馬鹿じゃん……////」
提督(運動着で助かったな)
それにしても、清々しい朝だった。
今宵はここまで。
結局週を跨いでしまった。申し訳ない。
鈴谷のことこんなに好きだったかなぁと自問自答。
―――
――
―
―司令室―
夕立「今日は夕立の、一日提督っぽい!」
提督「まあ、そんなわけで今日は夕立に提督代理みたいな仕事をしてもらう。ので、みんなよろしく頼む」
金剛「そんなわけってどんなワケが!?」
響「飲み会だね?」
提督「はい正解。響くんチームに1ポイント」
響「хорошо」
那珂β「次は響ちゃんに負けない!」
飛鷹「(なんなのよこれは……)」
龍田「(クイズ対決かしら?)」
飛鷹「(意味不明ね)」
那珂「(……提督って時々唐突にボケるよね)」
吹雪「(ていうかチーム戦なんですね……)」
提督「要するに飲み会には私も参加することになったが、夜に仕事を回さないために少し夕立に負担をしてもらっている」
提督「尤も、一日提督をやりたいと言い出したのは夕立だがな」
提督「というわけで……」
パサリ
提督「夕立提督、よろしくお願いします」
夕立「えっへん!」
夕立「それでは本日の予定を通達します」
夕立「今日から遠征は第二艦隊と第三艦隊の二艦隊で回すことになりました」
夕立「第二艦隊、旗艦吹雪。以下睦月、龍田、那珂β」
夕立「第三艦隊、旗艦天龍、以下深雪、白雪、川内」
夕立「それぞれのタスクは私が書いたこちらの書面を確認してください」ペラッ
吹雪「ありがとう、夕立ちゃん」ニコ
天龍「おお。やるじゃねぇか」
提督「考えたのは私だがな」
夕立「さすがに最終意思決定権は提督さんにあるんだから、夕立に艦隊運営は出来ないよ!?」
提督「いつも通りにやってくれればいいさ。そのために権限のいくらかを委譲するのだから」
提督「勿論、緊急時はちゃんと私が指示を出すから、みんなご心配なく」
夕立「続いて第一艦隊です。旗艦は那珂。以下、長門、金剛、摩耶、赤城、加賀の編成になります」
提督「夕立、まず作戦内容を」
夕立「あっ……。失礼致しました」
夕立「今回は敵艦隊を排除し、バシー島に集積されたボーキサイト資材を輸送します」
夕立「艦隊編成は先程の通告通りです」
夕立「作戦海域地図と詳細はこちらに記載しておきました」ペラ
那珂「確かに。ありがとうございます」
夕立「こちらからは以上になります。皆さん何か質問・連絡等ございますか?」
夕立「それでは各艦隊、作戦準備に移ってください」
一同「了解!」
ゾロゾロ
夕立「ぽ……」
提督「……ぽ?」
夕立「ぽいぃ~…………。はぁ、なんか疲れた」
提督「おいまだ通告は終わってないぞ」
鈴谷「ふふっ。軍服似合ってないっぽい」ボソッ
夕立「ガーン!! しょ、ショック……」ションボリ
飛鷹「で、私たちはどうするのよ?」
夕立「ええっと……。鈴谷、足柄、飛鷹、鳳翔、北上、神通、響の以上7名は提督さんの指示に従って動いてください」
夕立「なんか、お勉強会、をやるっぽい?」
提督「そういうことだ」
提督「夕立はそのまま司令室で執務と指揮を。他のみんなは別室へ移動だ」
一同「了解」
ガチャ
―廊下―
ゾロゾロ
鈴谷「でもさー。夕立ちゃんに指揮任せちゃって平気なの? なんか、ちょっと頼りないっていうか」
響「多分問題ないね。あの子はできる子だよ」
飛鷹「そ、そうなの? 私もそんな風には見えなかったけど」
提督「まあ、な。鳳翔はどう思う?」
鳳翔「共に戦った身として、彼女はとても心強い存在だと思います」
足柄「へぇ……。何と言うか、少し意外ね。確かに秘書艦、旗艦も任されてはいたけれど」
飛鷹「でも第一艦隊のメンバーも、誰も不満は言い出さなかったわね」
鈴谷「た、確かに!」
鈴谷「長門さんとか『夕立になど任せておけん!』とか言いそうなのに」
提督「いや、あいつは言わないだろうな」
響「言わないね」
鳳翔「言わないでしょうね」
神通「言いませんね」
北上「みんな息ぴったりだねー」
鈴谷「うぐっ。な、なんで?」
響「長門は夕立のこと、好きだから」
神通「随分かわいがっていらっしゃいましたね」
鳳翔「目に入れても痛くない、といった感じでしょうか」クスッ
提督「というか積極的に目に入れてそうな感じだ」
飛鷹「酷い言われようね」
鈴谷「き、気づかなかった……」
足柄「夕立ちゃん、みんなに信頼されているのね」
鳳翔「ええ」
神通「はい」
響「……」コクン
提督「そうだな――」
―会議室―
提督「今日は座学をやってみようと思う」
提督「今まではいきなり出撃に放り込んだり演習をやらせたりもしていたが、結構実験的な側面があったからな」
足柄「私たち実験台ですか……」
提督「悪かったとは思ってる。だが悠長にしていられる余裕がなかったのも事実」
提督「それに、試験的に行った割には収穫がとても大きかったのも嬉しい誤算ではあった」
提督「だが本来なら座学から入るのが妥当なところだろう」
提督「と言ってもこの座学自体、初回だから実験的ではあるが」アハハ
鈴谷「テキトウだー!」
北上「でもまあ仕方ないよねー。みんな最初は初めてなんだし」
提督「その通り。こっちも試行錯誤だからな。ご理解ご協力をお願いする」
飛鷹「で、何をやるの?」
提督「まずは深海棲艦について、現状わかっていることを新米の3人には報告しておく」
提督「あとは戦闘について、出撃経験者と擦り合わせ・共有をしたい」
提督「おおまかにはこの2点になる。疑問点は適宜質問してくれて構わない。私が一方的に喋っていてもつまらないし」
提督「では始めようか」
提督「深海棲艦。こいつらが一体何なのかは、詳しくはよくわかってない」
提督「本部からの報告だと、艦娘と同じように個体としてはヒト型であり、洋上では艦艇として活躍しているな」
響「艦娘との関連性は?」
提督「今のところ不明だ」
提督「沈んだ艦娘や船の怨念という説もあるようだが、定かではない」
北上「その、ヒト型である、という報告の証拠とかってあるのかな?」
提督「最も古いデータでは、深海棲艦は海に潜る前にヒト型になるという記述があるな」
提督「その瞬間を捉えた画像資料も存在している。これだ」
鈴谷「うえぇ。こんなキモイのと一緒とか嫌だよ」
飛鷹「同感ね」
提督「近年はどうも、相当強力な鎮守府が深海棲艦の鹵獲を推し進めているらしい」
神通「鹵獲……。そんなことが可能なんですか?」
提督「らしいな。だが満足な情報は引き出せていないようだ」
提督「……解析、と呼ぶらしい」
提督「詳細は不明だが、何らかの手段で深海棲艦から情報を抜き取る術のようだ。成果は芳しくないな」
提督「また深海棲艦の動向としては、一貫して海域制圧に重点が置かれているようだ」
提督「実際、強襲揚陸はほとんど見受けられない」
鳳翔「何が目的なんでしょうか?」
提督「さあな。目立った動きとしては、こちらの哨戒の届かない範囲で陸上基地を設営し、発見された段階で攻勢に出てくることがあるそうだ」
提督「この際には間違いなく、大規模戦闘になる」
提督「おそらくは陸上基地を設置する以上、何らかの思惑があるものと思われるが、依然としてよくわかってない」
提督「普段の動きからもよくわかるのは、艦娘が出撃すれば攻撃を仕掛けてくる、ということか」
響「逆に、艦娘以外に攻撃をしてくるということは?」
提督「報告数自体は少ないが、存在するな。輸送船、鎮守府など……。益々わからなくなるだけだが」
提督「……」
提督「深海棲艦についての説明はこんなところだ」
提督「何かあるか?」
提督「……続いて戦闘について。これは私自身が感じていることでもあるのだが……」
提督「先程響が言ってくれた『関連性』に絡むことだな」
北上「どゆこと?」
提督「君たちも自身の記憶から、敵艦と戦ったことに覚えがあるだろうが、以前と今とでは戦闘に関して差が存在する」
提督「それは何か?」
足柄「……ひとりで船を動かしているということ?」
提督「それもそうだが、それは戦闘に限定した話ではないだろう。もっと別のことだ」
響「……命中精度」
提督「ご明察」
提督「そしてこの命中精度は艦娘のみならず、深海棲艦も高い数値を出しているのだが、要するに……」
提督「君たちは雷撃、砲撃、回避運動、そして艦載機の操作精度に至るまで、近未来予測をしているものと思われる」
飛鷹「そんなことが……」
提督「これに関して、出撃経験者はどう感じている?」
神通「……私は、常に中てるつもりで撃っています。それだけです」
響「私もそうだね」
提督「鳳翔はどうだ? 艦載機操作も含めて」
鳳翔「そうですね……。体感としては、俯瞰しているような感じです」
提督「俯瞰……」
鳳翔「ええ。感じ取る……映像、に対して、何をどうすればいいか、直感的にわかると言いますか」
鳳翔「艦載機“から”俯瞰しているのではありません。勿論それもありますし可能なことでもありますが、同時に艦載機“を”俯瞰しているように感じます」
飛鷹「……」
提督「“感じます”ね……。艦載機から見える景色が全景ではない?」
鳳翔「そうなるかと。爆撃に関しては神通さんたちと同じです。特段、何か未来が視えているように感じることもないです」
提督「そう、なのか……」
響(?)
提督「だが、例えば練度の高い船であれば、それが可能になる、とは考えられるか?」
神通「ええと……。もっと中てられる、もっと避けられる、とは考えられますけど……」
響「ひょっとしたら、それが一定のレベルで可能になった段階で、近い未来が視えたと感じることはあるかもしれないね」
提督「……なるほど。それは響の体感として、そうなりそうな予感があると?」
響「何となく、だけど」
提督「なるほど。……なるほど」
響「……もしかして、夕立のことかな?」
提督「!」
提督「ああ、そうだ。彼女はそうしたものを実際に感じているのではないか、と思う程度には動きがいいからな……」
鈴谷「そ、そんなに凄いんだ……」
北上「それだけ成長してる、ってことだねー」
提督「北上の言う通りだ。ただ、同じように出撃していても成長速度には個体差がある。そこが少し気になってな――」
足柄「そんなの、もう提督の愛の力でしょう!」
提督「……は?」
飛鷹「え? 提督、まさか幼女に趣味が?」
鈴谷「ちょ、まじ!?」
足柄「提督はですね、夕立ちゃんを泣かせる罪な男なんですよーもう嫌ですよねー」ニシシ
鈴谷(あっ。これヤバイパターンだ)
提督「…………」
提督「足柄、君の飲み会参加を禁止する」
足柄「え、ちょちょっと待ってくださいよ提督私が悪かったです何でもしますから」
提督「何でもしてくれるなら飲み会禁止だ」
足柄「ふえぇ~それだけはご勘弁をごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
提督「はぁ……。ええっと……」
鳳翔「私は応援しますよ♪」ニコニコ
神通「おめでとうございます!」
北上「いいじゃんいいじゃん! 照れるなよ~」ウリウリ
響「まあ夕立は言うほど幼女でもないよね。私の方がぺったんだ」サスサス
提督「そういう問題じゃない……」
提督「はぁ……。なんか疲れた。一旦休憩にしよう。この後は戦術の検討と具体案について議論する」
提督「それから議論後、足柄には罰として宿題を課す」
足柄「んにゃぁあああー!!」
今宵はここまで。
なんだかアニメを観ることの出来ていた3月の方が余裕あったかもしれん。
加えて今書いてるところは少し筆が進みにくい感じだ。でも頑張る。
次回も1週間後になりそう。申し訳ない。
おはろーございます。生存報告を。
投稿するだけの分量は書けていますが、いまひとつキリがよくないのでもう少しお時間をいただきます。
また推敲も充分ではないですね、ごめんなさい。
今日から3日間以内には更新します。
ところで世間ではイベントですが、今回は多分不参加ですね。
天城取ってから艦これやってないの、我ながら凄く薄情だ。
こんなに股間に……ではなく、かわいい秋津洲でも腰が上がらないあたり、いよいよ限界を感じる。
皆さんの健闘を祈ります。
ガチャ
提督「ふぅ」
提督(……そろそろ建造が1隻終わっている気がするな。何をやらせよう?)
提督(とりあえず座学に放り込んで、もう1隻は……。足柄に復習がてら、議論内容を講義してもらうか)
―――
――
―
―工廠―
??「ん……」
??「あんたが司令官?」
提督「ああ、その通りだ」
??「そう」
叢雲「特型駆逐艦、5番艦の叢雲よ」
提督「よろしく、叢雲。気分が悪かったりはしないか」
叢雲「いいえ、大丈夫よ。大丈夫」
提督「よろしい。早速ですまないが座学に参加して欲しくてね。着いてきてほしい」
叢雲「ええ」
―――
――
―
―廊下―
叢雲「なるほどね。私は新たにここへ呼び出され、そしてまた戦うと」
提督「そうだ」
叢雲「わかったわ。私の矜持に懸けて最善を尽くしましょう。あんたもせいぜい頑張りなさい」
提督「ふっ、頼もしい限りだ」
ガチャ
提督「待たせたな」
鈴谷「あ、提督遅いよー」
北上「あら? もう休憩終わりですか」
提督「新人さんを連れてきた。ひとまず自己紹介を」
叢雲「叢雲よ。よろしく」
一同「よ、よろしくお願いします」
提督「さて、続きを始める前に、みんなで歓談でもしていてくれ。すぐに戻る。それじゃあ」
ガチャ
一同「…………」
叢雲「ここの司令官は落ち着きがないのねぇ……。大丈夫?」
神通「あはは……」
鈴谷「叢雲ちゃん、結構ばっさり言うんだねー」
叢雲「そう?」
鳳翔「お茶を淹れてきますね」
北上「あ、あたし今度は梅昆布茶で」
鳳翔「はい」ニコ
鳳翔「皆さんは何かご要望ありますか」
飛鷹「何でも大丈夫よ」
神通「私も大丈夫です」
響「右に同じ」
足柄(さすがにハーブティーが欲しいとは言えないわね……)
鈴谷「鳳翔さんのお茶おいしいよねー」
足柄「ええ」
響「……」
響(本当に、賑やかになったね。司令官)
ガチャ
北上「ほんとにすぐ戻ってきちゃった」
鳳翔「提督、お茶をどうぞ」
提督「ありがとう」
鈴谷「何してたのさー」
提督「妖精さんに建造をお願いしてきた」
提督「ふぅ……」
提督「さて、一息ついたところで戦術の話に移りたいが、戦術もまたかつての戦いと少し毛色が違っていてな」
提督「正直な話、私自身が自分で考案出来る方法論は全く決定的でないんだ」
鈴谷「どうして?」
提督「まず1つには先程言ったように、艦の性能が大幅に向上しているということがある」
提督「基礎的な部分から、もう少し、より詳しく考えてみようか」
提督「海戦術において考慮すべき点は多岐に渡るが、砲撃だけを見ても随分と様変わりしているのがわかるはず……」
提督「君たちの戦いに欠かせない主砲。こいつの射撃距離はどの程度だ?」
神通「ええと……。駆逐艦だと20kmに届かない程度、足柄さんのような20cm砲で30」
響「大和型なら40弱が最大射程になるね」
提督「そう。だが響も言ったようにこれはあくまで“最大”であって、その距離で確実に運用出来るというわけではない」
提督「なぜか?」
足柄「距離が開くほど命中精度が下がるから?」
提督「そうだな。しかし中る中らないに影響する要素ってそもそもなんだ?」
叢雲「単純に考えれば測距誤差ね」
提督「他には?」
叢雲「航行速度とか、角度とか……」
提督「他には?」
叢雲「ん…………」
提督「確かに。まず速度、敵艦との距離、敵艦の速度、主砲の俯仰角、方位……」
提督「それぞれの観測結果が実際の状態と一致しているかどうか、ということが挙げられる」
提督「また砲撃は撃ちっぱなしではない」
提督「君たちは砲撃した後に着弾位置からの誤差を、無意識に再計算しているはずだ」
北上「……でもそれって、艦娘として生まれる前からやってたことだよね」
提督「そうだな。だからこそこれだけでは説明がつかない」
提督「では砲撃のプロセスはどうだ?」
響「……艦艇によって違いはあるけど、まず装填だけでも揚弾、揚薬など細かく作業が分かれる」
提督「それらは何によって動く?」
響「人力。……今はそれなしにすべてが稼働してる」
提督「そうだ。装填動作だけでも伝達・報告という情報のやりとりは必要だし、それに要する時間も秒単位だ」
提督「これに観測結果の伝達時間が加わる」
神通「あ……」
飛鷹「……なるほどね」
提督「そう。射撃の人員は主要動作だけに着目しても、方位盤旋回手、射手、動揺手、砲塔にも旋回手はいるし掌尺手もいる」
提督「響が挙げた装填なら砲手の作業になる」
提督「だが中間動作以上に決定的なのは発射の瞬間だろうな」
提督「各員の統括は砲塔長に、そこからのボトムアップで砲撃指示を砲術長が行う」
提督「俯仰速度と旋回速度がどんなに早くても、発射には観測結果の伝達とそこからの判断、そして指示、動作、動作終了、報告、確認、発射命令、発射、というプロセスを必ず踏む」
提督「ここにこれだけのタイムラグがあるなら、どんなに観測精度と計算精度、計算速度を上げても誤差は存在し続けるはずだ」
北上「……目標の大きさが0.2kmもあっても、船速30ノットと仮定して秒間15メートルの変化」
鳳翔「相対速度で秒間30メートルでしょうか」
提督「同航戦になれば相対速度は小さくなるが、射程範囲内で初めから完全に並行の航行をするということは考えにくい」
提督「敵艦隊の進行方向に対するこちらの角度によって秒間の接近距離も当然変化するが、まあそこは状況次第だ」
提督「ここまで来てようやく戦術の話に移れるが、そちらはひとまずは置いておこう」
提督「北上が今挙げてくれた航行速度と着弾地点の問題は、タイムラグによって最も影響を受ける要素ではある」
足柄「その言い方だと、他にもあるのね」
提督「そうだな。だがひとまずの話の区切りはここだ。人力で動く艦艇ならここらが壁になる」
提督「逆に言えば君たちはこれを克服しているはずなんだ」
提督「どう思う?」
神通「こんなこと、意識したことがありませんでした」
足柄「言われてみれば、という感じね」
提督「ふむ……。なぜなんだろうな?」
響「記憶として鮮烈には残ってないからじゃないかな」
提督「というと?」
響「多分、例えば“あの時、あの瞬間、どんな風に指を動かしていたっけ?”ということまでは普通覚えてない、ということと似ている気がする」
提督「なるほど。それを覚えていなかったとしても、なぜそれをしていたかは思い出せるだろうしな」
提督「興味深い。それにかなり擦り合わせが進んだように思う」
提督「おい鈴谷寝るな」
鈴谷「わぁ!」
飛鷹「ちょっ……」
神通「よだれ、垂れていますよ」フキフキ
鈴谷「ご、ごめーん……」
叢雲「司令官、続きをお願い」
提督「ああ」
提督「資料によると、艦娘には船体状況を感覚的かつ瞬間的に把握し、それを行動に移す力、その全体性がある」
提督「“統覚”とでも呼ぶべきか」
北上「とう、かく?」
提督「認識論の用語だ。自己意識の気取った言い回しだが、艦娘の意識の構成を分析するに、結構ふさわしい言葉なんじゃないか?」
提督「まあそれはさて置き、船体をひとつの意識によって統一的にコントロール出来るというだけでも、艦娘という存在は圧倒的な意義があるんじゃないかと私は思うよ」
提督「……さて響くん」
響「なんだい?」
提督「自分の出撃経験を振り返って、今この場で言いたいことはあるか?」
響「ん…………」
響「……司令官がここまで説明してくれた内容を考えると、私を含めて艦娘はもっと攻撃をはずしていないとおかしいように思われるね」
飛鷹「え? むしろ逆じゃない? 艦娘は人力での操艦における難点を克服しているにも拘わらずはずしている……」
飛鷹「つまり、もっと攻撃を中てていないとおかしい、という話の流れだと思ったんだけど」
提督「そう、次の問題はそこだ。それに入る前に少しおさらいをしよう」
提督「装填時間、各主砲の斉射間隔。各砲弾の着弾間隔、敵艦の大きさ、毎分の発射弾数……」
提督「これらから命中率を導いてそれがもし数%も存在するなら相当理想的な試算をしていることにはなる」
提督「さて、ここでさらにタイムラグによる状況の変化が上乗せされるが、仮にそれを艦娘が極小化することに成功していたとして、それだけで艦娘の命中精度の高さはすべて説明出来るのか?」
提督「この疑問を代弁したんだろう?」
響「そうだね」
北上「でも現に中ててるんじゃないの?」
鈴谷「そっかー。既に高いって前提があるんだもんね」
提督「それはいい着眼点だな。考え方のスタンスとしてはそれで合ってる。つまり……」
提督「足柄が言ったように、他の要素について考えてみる必要がある」
提督「砲撃に影響する要素としての周囲環境。これにどれだけ踏み込めるかが問題だ」
提督「それを列挙するとしたら……」
提督「風向、風速、空気抵抗、これらを加味した放物運動の計算」
提督「温度による砲身と砲弾の膨張率、砲身と砲弾の摩擦力の変化」
提督「加えて湿度による装薬の燃焼速度の変化、初速への影響……」
鈴谷「ちょ、ちょっと!」
提督「波による船体の傾き、潮流、水温変化、海面の膨張率。月の重力の影響率」
提督「主だったところではこんなもんか?」
鳳翔「で、でも、それを逐一計算するだけの知識はないはずですが……」
足柄「……付け加えると、そこまで考えて、観測して、砲撃なんてしてないし出来ないわ」
提督「運動方程式を知っているかどうかが問題ではない。これは一種の逆説だ」
提督「君たちのやっていることは、これだけの小道具を持ち出さないと説明出来ない、というだけのこと」
提督「科学的思考にはそういう要求をするところがある。ある種の結果論として、そう言える」
提督「また観測や思考には常に理解が伴っているとは限らない。サブリミナル効果が顕在意識における理解に結び付かなくとも影響力を持つのと同じだ」
鈴谷「さぼ、り……?」
提督「……要するに、無意識でも情報の処理は行われている、ということだ」
提督「それだけじゃない」
提督「味方艦との船間距離、味方艦の相対位置、速度、角度、着弾位置……などなど。これらの情報も君たちは処理しているはず」
提督「というのも、君たちは自身の砲撃と着弾による測距だけに頼らずに、戦闘しているんじゃないか?」
一同「…………」
提督「たとえラグが存在したとしても、砲術長はそれも込みで砲撃指示を出すはずだがそれは言わば直感だ」
提督「艦娘の判断も無意識下でのことならまた直感と言えるだろうが、その差は歴然として表われている」
提督「初弾命中、なんてことは君たちの戦闘ではザラだが、それを可能にするピースとしては説得力があるだろう」
提督「また一方で飛鷹の指摘も正しい。周辺環境の問題を抜きに話が終わるとしたら艦娘は攻撃をはずし過ぎなくらいだ」
提督「いくら命中精度が高いからと言って、“すべて中る”というわけではないからね」
提督「だから、砲撃の精度は周囲環境の観測によって説明されるが、同時になぜ攻撃をはずすかもこの点によって説明されるべき、ということになる」
提督「みんなが驚いたように、環境の方が観測は困難。加えて放物運動などよりよほど予測も難しい。というか、微視的には事実上不可能だろう」
提督「ここには一定の限界が存在するが、艦娘が練度を上げていく時に最も変化する部分はこの辺にあるのではないかと思う」
叢雲「……面白いわね」
神通「提督、そこまで考えていたんですね」
提督「そこまでってほどではないさ。何せ、こんなことは戦術を考えるための下準備、状況確認にしかならない」
鳳翔「下準備……」
提督「艦の持つ性質が違うなら、当然戦闘も違う、可能な戦法も変わる」
提督「そして砲撃について扱ったのは、ここからの話をわかりやすくするためだ」
鈴谷「え、ちょ、提督」
提督「なんだ?」
鈴谷「あのぉ……。ちょっち休憩をいただきたいかもー……なんて」
提督「駄目」
鈴谷「」ガックシ
提督「……高い命中精度は、火力が装甲を上回ってさえいれば、砲撃の1回1回が敵艦にとって極めて致命的な打撃になることを意味する」
提督「これはどういうことだ?」
響「各個撃破のために砲撃を集中させる戦法に、著しく無駄が生じる」
提督「хорошо」
北上「オーバーキル、ってことだね」
提督「そうだ。ついでに言えば、そこで逐一照準を直したり、再計算するのも無駄だ」
叢雲「その、各個撃破の話、もう少し詳しく知りたいのだけど」
提督「そうだな……。古い資料になるが、これを説明しないことには戦法の話が出来ない」
提督「まずは従来の方法が通用しないことをみんなに理解してもらった上で、何か案があれば頂戴したい」
神通「私たちに、出来るでしょうか……?」
提督「別に気負うことはないさ。ちょっとした投げかけのようなものだ」
提督「さて、まずこの模式図を見て欲しい。ランチェスターの法則からおさらいしてみよう」
提督「ここに示されている赤軍、青軍の性能を同一のものとする」
提督「理論において仮定される撃破のために必要な砲弾の総数は多めに設定されるのが通例だが――――」
提督「ここでのポイントは…………」
…………………………
―――
――
―
今宵はここまで。
抱えていた大きめのと中くらいのタスクが片付きました。やったね。溜めてたアニメを消化してます。
座学は続きがあるけど、もういいでしょう。鈴谷も退屈そうだし、予想以上に長くなり過ぎました。
また来週、更新します。
―会議室―
コンコン
足柄「はい」
ガチャ
提督「失礼する」
??「失礼致します」
提督「さて、宣告した通り、足柄には居残りで教導を執ってもらう、が……」
提督「なんだそれは?」
足柄「いえ……。先程までの議論を、少し整理してみようと思って」
足柄「やっぱり、ある程度体系的に説明するには、話の順序というものもあるから……」
提督「驚いた。素晴らしい心掛けだ。足柄は、きっと良き教導艦になれると思う」
足柄「そんな……//」
提督「では自己紹介を」
如月「如月です。先程着任しました。どうぞ、よろしくお願いします」ペコリ
足柄「足柄よ。こちらこそよろしくね、如月」
提督「あとは任せたぞ。講義が終わったら如月から話を聞くからな」
足柄「わかってるわ」
提督「さすがだ。私は夕立の様子を見てくるよ」
提督(先程までは嫌がっていたというのに、存外面倒見はいいのか……)
―司令室―
ガチャ
提督「お疲れ様」
夕立「提督さん! お疲れ様です」
提督「どうだ、調子は」
夕立「さっき戦闘が終わったところ。今から帰投するっぽい」
提督「問題は?」
夕立「特にはないかも。少し気になったのは、赤いオーラを纏った強力な敵艦が現われたことくらい?」
提督「elite艦か……。なるほど、よくやった」
夕立「えっへん!」
提督「……」ナデナデ
夕立「ん……」
提督「偉いぞ。頑張ったな」
夕立「…………もっと」
提督「うん?」
夕立「もっと、撫でて……」ギュウ
提督「!」
提督「……以前にも増して、甘えるようになったな」
夕立「こうしてる間は、何も考えなくていいから……」
夕立「何も不安なんてないから」
夕立「ふふ……。でもね?」
夕立「長門さんにもこうして甘えたことはあるけど、違ったの」
提督「……」
夕立「……そういえば、座学はどうだった?」
提督「ああ、鈴谷が寝てたな」
夕立「あはは! 提督さんの話がつまらなかったんでしょう?」
提督「いや、他のみんなは熱心に聴いていたぞ。こちらも、話し甲斐があったと思わされるほどに」
提督「それに座学と銘打ったが、実際には雑談のようなものだったな」
提督「みんな色々考えて、色々意見を言ってくれて、面白かった」
提督「新しく進水した娘も、これを機にうまく馴染めたようだし……。夕立も後で挨拶するといい」
夕立「はーい」
提督「今日は既に2隻建造が完了している。1人は今しがた案内が終わった」
提督「俺は残り1隻の新造艦を迎えてくる。引き続き、艦隊帰投までは抜かりなくな」
夕立「了解!」
―工廠―
??「ぁ……」
提督「私が提督だ。名を、伺おう」
球磨「……球磨だクマ。よろしくだクマ」
提督(……クマ?)
鈴谷「ちーっす、鈴谷です!」
提督「気分はどうだろうか?」
球磨「……なんだか眠いクマ」
提督(冬眠……?)
提督「……姉妹艦では、北上が既に進水している」
球磨「!」
提督「が、ひとまずはこちらの鈴谷に球磨を案内してもらおうと思う」
提督「(居眠りはこれで不問に付すから、真面目にやれよ)」ボソ
鈴谷「(わかってますって)」
球磨「クマ?」
鈴谷「あーいや何でもないよー! それじゃあ行こっか球磨ちゃん」
球磨「クマー」
提督(那珂も大概だが、球磨もなかなか……)
提督(……第一艦隊帰投までは、事務を進めるとするか)
―――
――
―
―波止場―
提督「……ん?」
提督(あれは……響と、夕立?)
響「――、――――?」
夕立「――――」
響「――――。――ってね」
夕立「うん!」
響「!」
響「司令官」
夕立「!」
提督「お疲れ」
夕立「お、音もなく現われるなんて、反則っぽい!」
響「お疲れ様」
提督「なぜ反則なんだ?」
夕立「何でもないよ! それより、乙女の会話を盗み聞きするなんて!」
提督「そうかい。厳しいな」
夕立「そうよ、夕立ったら厳しいんだから!」
提督「何か聴かれて困ることでも?」
夕立「知ーらない!」プイ
響「ふふ……」
夕立「ひーびーきーちゃん? 何がおかしいの!?」
響「っ、ごめん、何でもないよ」フフッ
夕立「もう…………。あら?」
金剛「テートクゥー!」
長門「……」(挙手)
提督「……」(挙手)
提督「なんだ、揃いも揃って」
赤城「間宮さんから、準備が出来たとのことです」
提督「ああ。わざわざ、すまない」
提督「だが、4人で来ることもなかったろう」
長門「それが、間宮に言われたのは金剛だったんだが……」
赤城「その、私たち、追い出されてしまいまして……」
提督「?」
金剛「そこの一航戦は、つまみ食いをしていたのデス」
提督「なるほど。それで当て所もなく金剛についてきたわけか」
加賀「発見されたのは、戦闘に夢中で索敵を怠ったせいね。反省しているわ……」
金剛「戦闘って……」
夕立「あはは!」
響「おいしいのだから、仕方ないね」
吹雪「しれいかーん!」
提督「……今度は何だ?」
天龍「お? なんだ勢揃いじゃねーか」
長門「……まさかお前たちも来たのか?」
吹雪「はい。鳳翔さんから、司令官を呼んできてほしいと……」
提督「まる被りだな」
天龍「え、もしかして赤城たちもか!?」
赤城「え、ええ」
加賀「とんだうっかりさんたちね。これが戦闘中ではなくて、良かったわ」
金剛「加賀は手厳しいデスネー」
赤城「まあいいじゃないですか。ほら、見てください」
天龍「おお、こりゃあ……」
吹雪「わぁ……」
長門「ちょうど日没だな」
赤城「綺麗ですね……」
加賀「ええ。これだと、今夜から明日はよく晴れるでしょう」
風を感じながら、提督はいつか響が口にしたことを思い出していた。
それは大逸れた比喩ではあったが、しかし周期的に反復される日々にも微細ながら変化は存在するはずである。
何気ない一瞬を切り取って、それを幾許かの感慨と共に認識する。以前では考えもしないことだった。
響「司令官、今日は……」
提督「いいさ。また、今度」
響「うん」
静かだが、あたたかな時間が流れていた。
今宵はここまで。
大変遅くなりました。
会話劇やキャラについてのレス、恐縮です。ありがとうございます。
相変わらず遅筆ですが励みになっております。
次回更新は21日を予定。日付宣言した方が自分に厳しく出来ますね。
―――
――
―
―食堂―
赤城「では提督、音頭を」
提督「ああ」
提督「さて、みんな既に気づいているかと思うが、本日も新しく4人の仲間が増えた」
提督「これから共に戦っていくことになる4人を、この場を借りて紹介する」
提督「簡単に挨拶を」
叢雲「叢雲よ。よろしく」
球磨「球磨だクマー」
如月「如月と申します」ペコリ
弥生「初めまして、弥生、着任しました」
四人「よろしくお願いします」
一同「よろしくお願いします!」
提督「ありがとう」
提督「さて、始めようか」
提督「しかし音頭と言っても、特段変わったことはないのだが……。ふむ」
提督「夕立」
夕立「え、はい」
提督「今日は1日提督、お疲れ。みんなもお疲れ様。乾杯!」
一同「かんぱーい!」キン
長門「……うむ、うまい」
赤城「あら、夕立さん、もう酔いが?」
夕立「ち、違うよ! ちょっと、恥ずかしかっただけだよ///」
加賀「何も恥じることはないと思うわ。とても頑張っていたもの」
長門「加賀はもう酔っているのか?」
加賀「な、何を!?」
夕立「うへぇ、やっぱりダメだったっぽいー?」
赤城「ふふ……違うわ。加賀さんが素直に褒めるのが、意外だったのでしょう?」
長門「ああ、そうだな」
加賀「酷い言われようね」
――――――――――
川内「わはははは!」
川内「夜戦じゃ夜戦じゃー!」
睦月「ちょ、川内さん、暴れちゃダメです」
睦月「ほら神通さんも、何か言ってあげてください」
神通「ふふふ……。私も教導艦、やってみたいですね……」
睦月(ダメだー! 完全に思考がどこか遠くに逝っちゃってるよ)
睦月「(如月ちゃん、どうしよう……)」
如月「(うーん、潰れてくれるのを待つしかないんじゃ……)」
天龍「いいぞ川内! いけいけー!」
睦月「(えー! でもほら、司令官のテーブル見てよ)」
如月「(あら……)」
睦月「(ねー? あの冷やかな目、後で雷が落ちたら大変だよ?)」
睦月「(どうしたらいいんだろう……)」
睦月「あ」
龍田「はいはい天龍ちゃん飲み過ぎですよー?」
天龍「はぁ? んなわけねーだろ、もっとオレに飲ませろよ!」
龍田「みんなにご迷惑掛けてしまう前に、寝ましょうねー?」
天龍「あ、ちょ、引っ張るなって」
吹雪「あ、龍田さん」
龍田「あら、吹雪ちゃん。飲み会、楽しんでる?」
吹雪「いえ、ここでの治安を守ることが私の務めです!」(敬礼)
龍田(少し飲んでしまったのかしら?)
龍田「えっと……。頑張ってね」
吹雪「はい! 駆逐艦吹雪、頑張ります!」
如月「吹雪ちゃん、大丈夫かしら……」
深雪「あ、天龍! もう寝ちゃうのかよ!」
天龍「わ、わりぃ……。龍田がダメだって」
龍田「ごめんなさいねー」
睦月(あ、天龍さん、もうフラフラなんだ)
叢雲「……いつまで飲んでるのよ?」
深雪「飲めるだけ飲むぜ!」
叢雲「馬鹿じゃないの? 潰れないうちに、切り上げなさい」
叢雲「ほら、お水」
深雪「この深雪さまにお冷なんて――」
叢雲「あ、そこ、ゴキブリ」
深雪「きゃあ!」ガタッ
深雪「うわっとっとぉ……」
叢雲「……」トス
深雪「……あ、ごめん。足が、もつれて……」
叢雲「ぷっ、あっはっは!」
叢雲「きゃあ、って何よ、きゃあって」フフ
深雪「うっさい///」
叢雲「……お水、飲む?」
深雪「うん……」
如月「叢雲さん、面倒見がいいんですね」
叢雲「っ!」クルッ
叢雲「冗談。私が後で困らないように、働いてるだけよ」スタスタ
睦月「あ、行っちゃった」
如月「ふふっ……。耳まで真っ赤」
睦月「間宮さんのお手伝いしてるのかな」
如月「そうみたい。それ以外にも色々と気を配っているようね」
睦月「でも……」
川内「クマちゃんクマちゃん、君はかわいいねー!」
球磨「うー、なでなでしないで欲しいクマー」
川内「いいじゃんいいじゃん、もっと触らせてよそのもふもふの髪ー!」
睦月「川内さんはみんなどうにも出来ないって感じだね。吹雪ちゃん、諦めてたし……」
如月「あ、司令官が」
睦月「え? わ! 如月ちゃん、逃げよう!」
如月「え、ええ」
ワイワイガヤガヤ
提督(やかましくて敵わん)
提督「ちょっと行ってくる」
赤城「いってらっしゃいませ」モグモグ
ガタ
川内「あ、提督ー、後で夜間演習しようよ!」
提督「いいだろう、但し条件がある」
川内「おお~? それは何だね提督」
提督「私とジャンケンの10番勝負だ。1回負ける毎に、敗者はこいつをダブルで飲む」
川内「あはは! 提督ノリいいけど、潰れても知らないよー?」フフン
提督「望むところだ。君が勝ったら言うことを聞こう」
北上「お! 提督と川内のじゃんけんバトルだね」
球磨「面白そうだクマ」
川内「ギャラリーを背負ってるよー! 負けられないね!」
提督「では」
川内「じゃーんけーん、ぽん!」
――――――――――
川内「ていとく、ていとく」
提督「どうした?」
川内「いま、いまにゃ、なんしぇ、なぁんしぇんめです、でした、っけ……?」
提督「まだ3戦目だが?」
球磨「え」
川内「あれー……うそー……んなばかなー……」
北上(うそだよ! もう7戦目だし)
川内「にゃら、にゃら、まだ、まだ逆転、逆転が……」
球磨「(提督はじゃんけん強過ぎるクマ。流石に川内がかわいそうだクマ)」
北上「(そだね)」
北上「ちょっと休んだらどう?」
川内「んーきゅうけい、きゅうけい……」
北上「提督、ちょっとそこに寝かせてくるね」
提督「いや、流石に私がやろう」ガタ
北上「そう?」
球磨「……球磨は提督とだけはじゃんけんしないと決めたクマ」
北上「あはは……」
弥生「失礼します」ガタ
鈴谷「お、ちぃーっす! もしかして、挨拶回りとか?」
弥生「はい。さっきは司令官のテーブルに、お邪魔してました」
飛鷹「なかなか勇気あるわね」
弥生「そうなんですか?」
白雪「鎮守府のエースが揃っていますから、私なら気が引けてしまうかもしれません」
弥生「ああ、なるほど……。弥生は、気になりませんでした。皆さん、優しかったです」
鈴谷「弥生っちもこれ飲むー?」
弥生「い、いえ、お気遣いなく」
鈴谷「むぅー、つれないねー」
飛鷹「そんな強いの飲んでて、後でどうなっても知らないわよ」
鈴谷「大丈夫だって」
弥生「ところで、その……。弥生っち、というのは?」
鈴谷「弥生っちは弥生っちっしょ! あだ名だよあだ名ー」
弥生「あだ名、ですか……」
鈴谷「ありゃ、弥生っち、もしかして怒ってる?」
弥生「怒ってないです。すみません、表情硬くて……」
弥生「ちょっと、こういう時、どんな顔をしていいかわからないので……」
鈴谷「笑えばいいと思うよ!」
飛鷹「弥生ちゃんがあだ名をもらって嬉しいの前提なのね……」
鈴谷「ほらほら、こう、にこー、って」
弥生「こ、こうでしょうか」ニカー
鈴谷「あー」
鈴谷「ちょっち違うね。こうでしょ」グニー
白雪「わぁ!」
弥生「ふうぇ、いはいへふぅ……」
飛鷹「ちょ、ちょっと何してんのよ!」
弥生「あぅぅ……」
鈴谷「あ、もしかして痛かった?」
弥生「……」キッ
鈴谷「ひぃ」
鈴谷「ご、ごめんなさいごめんなさい!」
弥生「……」
弥生「ふふっ」
鈴谷「あ、れ……?」
弥生「……次からは、もっと優しく教えてくださいね?」ニコ
鈴谷「おぅふ!」ズギューン
バタン
飛鷹「ちょ、鈴谷!?」
飛鷹「……寝てる」
飛鷹「やっぱり酔っぱらっていたみたいね」
弥生「だ、大丈夫でしょうか?」オロオロ
飛鷹「平気よ。そっとしておきましょう」
飛鷹「ところで、先に川内たちに会いに行ったの、ちゃっかりしてるのね」
弥生「ええと……。別に狙ってそうした訳じゃありません」
弥生「でも結果的に見れば、よかったですね。まさか、あんなに酔っぱらう人だと思わなかったです」
飛鷹「まあ酔っぱらうというか、お酒に飲まれやすいというか……」
白雪「弥生ちゃんは、建造ではないんでしたっけ?」
弥生「はい。那珂さんに拾われたみたいです」
白雪「……そういえば、那珂さんを見ませんね」
弥生「え? あそこに座っている方は違うんですか?」
飛鷹「あなたを拾った方はそうなんだけど……」
弥生「どういう、ことですか?」
飛鷹「あー……。見ていればわかると思うわ」
弥生「??」
摩耶「実戦、思ったよりキツかったなぁ……」
金剛「摩耶はよく動けていたネー!」
摩耶「まあ演習をやった成果は出てたんだろうけど、6隻での戦い方は……。予想以上に考えることが多かった」
足柄「ちょうど今日、提督とそのことについてじっくり話したわ」
摩耶「足柄が聞いたのか?」
響「いや、待機メンバー全員で講義みたいなことをしたんだよ」
金剛「それはそれで退屈そうデスネ」
摩耶「それで、どんな話を」
足柄「ええと――」
那珂β「はいはーい! 那珂ちゃんだよー! みんな飲み会楽しんでるー!?」
那珂β「今日も、那珂ちゃんが、会場を盛り上げてあげるねー!」
金剛「Wow」
那珂「ついに来たね……」
那珂「ちょっと行ってくるよ」ガタ
摩耶「那珂」
摩耶「アイツを、黙らせてくれ」
那珂「……黙らせるのはいいけれど、別に、あの子を潰してしまっても、構わないのでしょう?」
摩耶「ああ。遠慮なくやっちまえ」
響「背中で語る後ろ姿だね」
那珂「那珂ちゃーん!!」
那珂β「あ、那珂ちゃん! 今日も那珂ちゃんの邪魔をしにきたんんだね!」
那珂β「でも今晩はそうはいかないよ!」
那珂β「いくら那珂ちゃんが宇宙No.1のスーパーアイドルだからって、嫉妬で活動妨害するのは感心しないなー!」
那珂β「悔しかったら、フェスで正々堂々勝負しなよ!」
那珂β「那珂ちゃんは、アイドルの理想像なんだから、逃げも隠れもしないよ!」
那珂(彼女の精神性は、在りし日の私……)
那珂β(彼女は理想に裏切られたんだ。アイドルという理想に)
那珂(あの子のすべてを、私は否定したくない)
那珂β(私が輝き続けなきゃ、あの子は自分を心から許せない)
那珂(でも、だからこそ私が、あなたの敵になって、その責を半分だけ背負ってあげる!)
那珂β(理想を貫き通す喜びを、あなたに伝えたい!)
那珂「那珂……」
那珂β「なに?」
那珂「アイドルは歌って踊ってるだけじゃ、ダメなのよ」
那珂β「へ……?」
那珂β「どういうこと……?」
那珂「歌って踊れれば宇宙No.1アイドル? はっ、笑わせるわね」
那珂β「なんですって!?」
那珂「私があなたをプロデュ―スしてあげる」
那珂β「那珂ちゃんには、そんなお節介、必要ないもん!」
那珂「那珂、あなたは、クイズで響ちゃんに負けたよね」
那珂β「……っ」
那珂β「そ、それは……」
那珂「アイドルだからって、頭が悪いのが許されるとでも思っているの?」
那珂「私たちが戦いで勝つためにも、これからは頭の切れるアイドルが必要なのよ」
那珂「だから」
那珂「私と勝負しましょう。クイズ10番勝負、負ける度に罰ゲームとしてアレを1杯飲む」
提督「おいおい本気か? これ結構キツイぞ」
那珂β「……いいよ。那珂ちゃん、“自分”には負けないから」
那珂(かかった――)
那珂「響ちゃん」
響「なんだい」
那珂「出題と審判を頼むわ。お題も決めてくれて構わない」
響「いいよ」
響「じゃあ……」
響「海軍クイズで」
――――――――――
吹雪「もう、司令官! 川内さん潰したでしょう?」
提督「さぁ、何のことだかわからんな」
吹雪「危ないですよ!?」
提督「私は別に強要はしてない。乗ってきたのはあいつだ」
提督「ま、大丈夫だろう」
川内「う~……」
吹雪「あ、しっかり。掴まってください、こっちへ」
テクテク
提督「吹雪はいい子だな」
提督「戻ったか」
鳳翔「ええ」
提督「お疲れ」クイッ
間宮「ありがとうございます」スッ
間宮「……っ。ふぅ……」
間宮「では、私は厨房に戻りますね」
提督「皿を割らないようにな」
間宮「ふふ、もし指を切ったら提督に手当てをしてもらいます」ガタ
提督「妖精さんに治してもらえ」
間宮「冷たいですね」ニコ
鳳翔「失礼します」
鳳翔「これで最後ですよ」
赤城「鳳翔さん、ありがとうございます!」ガツガツガツガツ
鳳翔「提督、楽しそうですね」
提督「ふっ、楽しいものか。さっきも那珂たちがクイズをやり出して大騒ぎだったな」
長門「結局、共倒れだったが」
夕立「那珂ちゃん飲み過ぎたっぽいー」
加賀「感心しませんね、ああいった飲み方は」
飛鷹「でも大分落ち着いたわね」
提督「そうだな。何人か、面倒見のいい娘たちが、介抱してくれたようだが……」
加賀「これでゆっくり飲めるというものね」
長門「平和なものだな」
提督「まったくだ……」
提督「少し、外の空気を吸ってくる」
ガタ
夕立「…………」
―テラス―
ガチャ
提督「夕立か」
夕立「うん」
提督「身体を冷やすぞ」
夕立「カーディガン羽織ってるから、大丈夫っぽい」
夕立「それに……」
ギュウ
夕立「こうすれば、あったかいよ?」
提督「……暑苦しいな」
夕立「えぇー、ヒドイっぽい! もっと暑苦しくしてやるんだから!」ギュウ
提督「胸、当たってるぞ」
夕立「ふふん、当ててるのよ」ドヤ
提督「なんだ、酔っぱらってるのか?」
夕立「うん、酔って歩けないから、提督さんが支えてほしいな」
提督「手をとって導くくらいなら考えよう」
夕立「……」
夕立「こうしてると、恋人みたいね……」チラ
提督「…………」
夕立「星、綺麗……」
提督「ああ」
提督「今日は新月の夜のようだ。いつもより空が明るい」
夕立「でも海はこんなにも暗いのね」
提督「……相対的に周囲が暗くないと、星はよく視えない」
夕立「……」
夕立「提督さん」
提督「うん?」
夕立「好きよ」
提督「…………」
夕立「あなたが、好き」
提督「そう、か……」
夕立「…………どうして」
夕立「どうして何も応えてくれないの?」
提督「……」
提督「…………君の気持ちには、応えられないから」
夕立「それは、どうして?」
夕立「なぜあなたは、そんなに悲しそうな顔をするの?」
夕立「私には、輝きが足りないの?」
提督「いや、むしろ眩しすぎるくらいだ」
提督「他の光の中に、君が埋もれて視えないと感じたことはない」
夕立「じゃあ何なの!? 教えてよ!」
提督「…………確証がないからだ」
夕立「確証ですって!? あなたは自分の気持ちも満足に推し量れないの?」
提督「誰しも、自分の想いを自分が最も理解していると、そう誤認しがちだな……」
夕立「ば、馬鹿にしないで! 私は見誤らないし、あなたのような人に限って、こんなことが……」
提督「或いは、買被り過ぎなだけかもしれんぞ」
夕立「……提督さん。あなたはきっと、自分に酔ってる」
夕立「自分に対する、理に適わない悲しみを背負って、そんな悲しい目で私を見ないでほしい……」
夕立「夕立はそんな提督さんを、好きになったわけじゃない」
提督「……ごめんよ」
夕立「わかんない……。夕立には、全然わからないよ!」スッ
夕立「あなたが……。あなたの優しさが…………」
夕立「……今日は、もう寝ます。おやすみなさい」
タッタッタ
提督「……」
提督(わからない)
提督(まだ何も視えない)
提督(真っ暗だ)
今宵はここまで。
皆さんイベントお疲れ様でした。
ところで今期アニメはシドニアが面白いですね。洲崎綾が光ってます。
次回更新は25日夜を予定。
来週もはりきってまいりましょー
―――
――
―
―寝室―
提督「…………ん」
提督(朝……か)
提督(まだこんな時間……。寝たのが早すぎたな)
提督「……」
―食堂―
提督(まだ少し暗い……)
提督(!)
提督「おはよう」
響「おはよう、司令官。早いね」
提督「響か……」
響「司令官も、お酒を飲むと早く起きてしまう口かな」
提督「バレたか」
響「はい、お水」
提督「ありがとう」
響「何か……」
提督「?」
響「何か、気がかりなことでも、あるの?」
提督「……いいや」
提督「そんなものはない」
響「そう……」
響「……夕立が、泣いてたよ」
提督「彼女には、諦めてもらうしかない」
響「……それは例えば、私が願ったとしたら、叶うことなの?」
提督「…………」
響「そう、なんだ……」
提督「何を想像したか知らないが、余計なことは考えないことだ」
響「その言葉は、そっくりそのまま、あなたに返すよ」
提督「……」
響「でも、私は司令官のこと、信じられる」
響「今、確信出来た」
響「もうこの話はしないよ。ごめんなさい」
提督「いや、いいんだ」
響「……シャワー、浴びてくるよ」
提督「ああ。また、後でな……」
―――
――
―
―司令室―
提督「作戦内容を通達する」
提督「引き続き、遠征は第二と第三艦隊で回す」
提督「第二艦隊、旗艦吹雪。以下、睦月、深雪、白雪、龍田、那珂β」
提督「第三艦隊、旗艦天龍。以下、如月、弥生、叢雲、北上、殿は川内」
提督「両艦隊、共に今までより少し長めの航海で組んでいる」
提督「編成メンバーは固定。細かい再編成もなし」
提督「こちらが明細書だ」パラ
吹雪「頑張ります!」
天龍「任せろ」
提督「何か質問は?」
吹雪「あの……」
提督「なんだ?」
吹雪「この前の護衛任務より、海域が……」
提督「そうだな。敵艦隊との接触の危険性は高くなるだろう」
提督「心して、掛かってほしい」
吹雪「はい!」
提督「続いて第一艦隊」
提督「東部オリョール海に出現した敵艦隊群を排除し、海域を制圧せよ」
提督「旗艦は夕立。以下長門、金剛、那珂、赤城、殿は加賀」
提督「夕立、いけるか?」
夕立「はい、問題ありません」
提督「よし」
提督「バシー島周辺では強力な敵艦も出現している」
提督「オリョール海でも、充分に注意しろ」
金剛「Enemyをぶっ飛ばすネー!」
提督「また残りメンバーは演習を行う。後ほど詳細を通告する」
那珂「提督、質問が」
提督「どうした?」
那珂「装備変更、これは?」
提督「実験的にな。ものは試し、ということだ。使ってみろ」
那珂「わかりました」
提督「では直ちに散開。総員、出航準備にかかれ」
一同「了解!」
響(夕立……。変に引き摺らなければいいけど)
―――
――
―
―海上―
夕立「今のところ敵艦影なし、か……」
長門『カムラン半島側に沿って移動したのは正解だったようだな』
夕立「ですが、これだけ航行すればいつ接触してもおかしくはないですね」
赤城「!」
赤城「敵艦見ゆ! ここより11時の方角」
赤城「重巡リ級、雷巡チ級、軽巡ト級は赤のオーラ、elite艦です」
赤城「続いて軽巡ヘ級、駆逐ロ級、駆逐ロ級。東南東にその針路を示しています」
夕立「なるほど。まずはこのまま直進して北上、その後緩やかに東へ向かいながら迎撃しましょう」
夕立「これより第一艦隊は戦闘海域へ突入」
夕立「赤城、加賀の両名は艦載機による先制攻撃の準備を」
赤城・加賀「「了解」」
夕立「長門、金剛は発砲準備。主砲で叩き込んでください」
長門「了解した」
金剛「Aye sir!」
夕立「提督さん、視えてる?」
提督『ああ、問題なく』
赤城「敵偵察機、撃墜しました。第一波先行隊、爆撃態勢に入ります」
赤城「爆弾投下!」
加賀「夕立。やはり敵艦隊は針路を東に変えてきているわ」
夕立「そう易々と丁字有利を引かせてはくれないわね。こちらも面舵!」
夕立「バシー島方面へ向き、同航戦を維持せよ!」
金剛「いつでもイケマス!」
那珂「こっちも。主砲は換装済みだからね」
赤城「駆逐ロ級2隻の大破炎上を報告します」
夕立「了解。那珂と私は追撃に回ります。各艦、砲戦開始!」
長門「発射用意……。斉射、てぇー!!」ズドーン!
金剛「Fire!!」ズドーン!
加賀「第二次攻撃隊、発艦始め」
那珂「うてぇー!!」ドドーン!
赤城「敵艦、順次発砲!」
加賀「攻撃開始地点へ到達」
加賀「魚雷投下」
金剛「ぐっ……」ガッ
那珂「金剛さん!」
金剛「かすり傷ネー。問題Nothing!」
赤城「リ級ト級、大破炎上。沈んでいきます」
長門「並びにチ級とへ級は轟沈」
加賀「こちら雷撃終了。帰還させます」
那珂「わぁ……」
夕立「……わかってはいるけど、雷撃戦距離に肉薄するまでもないわね」
加賀「あなたたちは、いざという時まで温存してもらわなくては困るわ」
加賀「……私たちは、夜間では役に立てないもの」
夕立「加賀さん……」
夕立「戦闘終了」
夕立「敵巡洋艦隊、撃破しました」
提督『ご苦労。損害は?』
夕立「軽微です。維戦には問題ありません」
夕立「作戦を続行します」
提督『了解した』
夕立「ふぅ……」
夕立「皆さん引き続き、警戒を怠らず進みましょう」
金剛「Yes!!」
長門「夕立……」
夕立「え、はい?」
長門「どこか、無理、していないか?」
夕立「え……」
長門「……」
夕立「あ、はは……。そんなことないよ! 大丈夫っぽい!」
那珂「大丈夫っぽいって、大丈夫じゃないんかい!」
夕立「……大丈夫。私は、戦えるよ」
長門「そうか。……要らぬ心配だったな。すまん」
夕立「いえ……」
夕立「では第一艦隊、このまま東へ進み、バシー島を経由」
夕立「その後北北東へ針路を変え、オリョール海を目指します」
一同「了解!」
―――
――
―
赤城「敵艦隊発見! 方角は真北!」
夕立「本命ね! 封鎖解除」
赤城「戦艦ル級が旗艦。赤のオーラを纏っています」
夕立「戦艦のelite艦……」
赤城「以下、ル級、ヲ級、リ級にへ級が2隻。南下しています」
赤城「航空戦を始めます! 零式艦戦21型、発艦!」
加賀「発進準備良し。九九艦爆、九七艦攻、発艦開始」
夕立「遭遇した艦隊を敵主力打撃群と認定」
夕立「強力な打撃部隊と会敵しました」
提督『どう動くつもりだ?』
夕立「敵はここより北から、南に向かってきています」
夕立「真っ向勝負は望めそうにありません。でも針路を少しだけ東へ逸らします」
夕立「面舵!」
金剛「Roger that!」
赤城「まもなく、敵戦闘機と交戦!」
夕立「各艦、対空砲火準備!」
夕立「敵戦艦は戦艦のお二人に任せます。でも旗艦のル級には充分注意してください」
長門「ああ、任せておけ」
提督(反航戦になるな)
那珂「対空準備良し!」
赤城「制空権、確保! 僅かに突破した攻撃隊が来ます、注意を」
加賀「攻撃態勢に移行……」
夕立「対空砲火用意……」
夕立「てぇー!!」ズダダダダダ!
長門「てぇー!!」ドドーン!
金剛「撃ちます、Fire!!」ドドーン!
那珂「当たれー!」ドドーン!
赤城「へ級の1隻は撃沈。もう1隻は中破しました」
夕立「了解! 総員砲戦準備!」
長門「私は旗艦を叩く。金剛は後続のル級に照準を」
金剛「任せるネー!」
長門「主砲発砲準備良し。第一、第二主砲、斉射!」ズドーン!
金剛「Burning Love!!!!」ズドーン!
夕立「敵艦発砲!」
赤城「攻撃隊、発艦させます!」
加賀「旗艦、小破。続いてル級、中破しています」
長門「クソ……。硬いな」
那珂「ぐぁ!」ドカーン!
金剛「那珂!?」
那珂「……ごめんなさい、中破してしまいました」
那珂「でも……。やれます、うてぇー!!」ドドーン!
赤城「きゃあ!」ガツン!
夕立「赤城さん!」
赤城「大丈夫、発着艦に問題はありません」
金剛「次の攻撃に備えマス」
加賀「空母ヲ級は飛行甲板を損傷。重巡リ級の中破を確認」
夕立「てぇー!!」ドドーン!
長門「次こそはその装甲を剥いでやる」
長門「主砲一斉射、てぇー!!」ズドーン!
金剛「全砲門、Fire!」ズドーン!
加賀「うっ!」ガツン
加賀「頭に来ました。第三波攻撃隊、発艦」
那珂「ああっ!」ドカーン!
夕立「那珂、大丈夫!?」
那珂「大破、しました……」
夕立「ダメージコントロールに集中して!」
夕立「! 狙わせないよ。照準良し、うてぇー!!」ドドーン!
赤城「こちらも加賀さんに続き、追撃します。発艦!」
長門「……旗艦、中破。ル級は大破。だがまだ航行可能なようだ」
夕立「このまま戦線離脱されるわね……」
夕立「これが最後よ。魚雷発射!」バシュ
金剛「Ow!」ガッ
金剛「……ちょっとだけ被弾したネー」
赤城「空母ヲ級、大破炎上。傾斜を確認。沈みます」
加賀「重巡リ級、撃沈しました」
加賀「戦艦ル級、沈んでいきます……。旗艦のelite艦は未だ健在。加速を確認」
長門「くっ……。届かなかった……」
赤城「全機、帰還させます」
夕立「戦闘、終了」
提督『お疲れ様。……勝てたが、厳しい戦いだったな』
提督『那珂、大丈夫か』
那珂「はい……。何とか」
夕立「……とは言え、僚艦の被害、決して無視出来ません」
夕立「敵艦隊を撃退したものとし、直ちに撤退します」
提督『ああ。各艦、警戒を怠るな』
一同「了解」
夕立「取舵一杯。反転し、西南西に針路をとります」
長門「すまない……。私が不甲斐ないばかりに」
夕立「それは……。夕立に謝ってるの?」
長門「夕立にも、那珂にも、みんなにも……」
那珂「あはは……。考え過ぎですよ」
長門「まさか。むしろ、考えが足りなかったくらいだろう」
夕立「私も、提督さんに、言われたんだ……」
長門「……?」
夕立「戦いは、チームワークだって。誰か1人が、過剰に責任を背負うのは、間違ってるって……」
長門「だが……」
夕立「わかるよ。長門さんの気持ち……」
夕立「でも、私たちは、死なない限りやり直せる。1秒前よりも、強くなれる」
夕立「だから、帰ろう? それで、私たちも演習をこなすようにお願いしてさ」
夕立「提督さんも、きっと応えてくれるよ」
長門「そう、だな……」
ザザッ
長門「ん?」
金剛「長門?」
長門「いや……。今、何か」
ザザザザザザザザザッ!
長門「なんだ? 通信に、ノイズが――」
夕立「あ゛あ゛あああああああっ!!!!」
長門「な!?」
夕立「あ゛ぐぅ、あ゛っ、あ゛あ゛あ゛!!』
長門「夕立! どうした! 何があった!?」
夕立『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!』
金剛「長門! 提督に通信を!」
那珂「何、何なの!?」
提督『どうした?』
長門「夕立が、突然悲鳴を!」
提督『何だと?』
金剛「さ、錯乱してマス!」
金剛「夕立、しっかり!」
夕立『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!』
長門「何を言っているんだ夕立!」
提督『なるほど、モニターが繋がらない。接続が断たれている』
長門「夕立の兵装、通信機器、共に暴走状態にある。もしかしたら、発砲してしまうかもしれん」
提督『何か攻撃を受けたのか?』
長門「いいや、そんなはずはない……」
長門「どうすればいい!?」
金剛「夕立が機関を停止。暴走、止まりマシタ」
提督『夕立は常態に戻ったか?』
金剛「いえ……」
赤城「どうやら緊急事態のようですね……」
赤城「索敵機を出しますか?」
提督『ああ。頼む』
赤城「加賀さん」
加賀「はい。念には念を入れましょう。後方は私に任せて」
金剛「夕立、減速していきマス」
提督『長門。迂回して夕立を追い越せ。これより第一艦隊旗艦は長門とする』
提督『金剛は夕立を曳航』
提督『もしかしたら敵艦隊の襲撃があるかもしれないが、海域離脱を最優先とし、速やかに帰投せよ』
一同「了解!」
――――――――――
―司令室―
神通「提督……?」
提督「どうも、イレギュラーな事態が起きた」
提督「念のため、私はここに残るので、次の演習も監督は出来ないが――」
長門『聴こえるか提督!』
提督「今度はどうした」
長門『こちら東部オリョール海南西!』
長門『赤城の索敵機より、北北西方向に敵艦隊の出現を確認!』
長門『敵編成は空母ヲ級が旗艦。これに戦艦ル級が随伴し、ヌ級とリ級が2隻ずついる』
提督「……強力だな」
長門『だがこちらに向かって来ていない。西北西方向に針路をとっている』
提督「……」
長門『この方角は……』
提督「おそらくは、強襲揚陸……だな」
長門『なら我々で追撃を!』
提督「駄目だ! 許可出来ない。夕立の件といい、不確定要素が多過ぎる。危険だ」
長門『しかし!』
提督「那珂の大破も無視出来ない。また夕立を迂闊に被弾させるわけにもいかない」
提督「落ち着け。そして今は、大人しく従え」
長門『……了解した』
長門『だが、せめて、航空機による監視と妨害を許可してほしい』
提督「……………………」
提督「赤城、加賀。いけるか?」
加賀『甘く見ないでもらいたいものね』
赤城『勿論、大丈夫です』
提督「よし。偵察機は別で飛ばし、航空戦のみを仕掛けろ」
提督「無論、余剰戦力のみの投入。つまり……」
提督「制空権争いも厳しいものになるだろうが、最低でもあともう一度の戦闘には耐えられる程度の戦力を残しておけ」
提督「それ以上の機動力の行使は、これを容認しないものとする」
長門『提督、ありがとう』
提督「これは命令だ。気にするな」
提督「赤城、加賀、頼んだぞ」
赤城『おまかせくださいませ』
加賀『鎧袖一触のところを、ちょうどいいハンデでしょう。やるわ』
吹雪『第二艦隊旗艦吹雪より緊急伝達! 司令官、応答してください!』
提督「こちら艦隊司令部本部。吹雪、何があった?」
吹雪『現在沖ノ島海域南を帰投のため航行中。突如、南南西方向に敵艦隊出現』
吹雪『オリョール海方面へと進軍しています』
提督「敵編成は?」
吹雪『戦艦ル級を旗艦に、ヌ級とワ級が2隻ずつ、リ級もいます』
提督「……現在、オリョール海出撃メンバーからも、同様の敵艦隊出現の報告を受けている」
吹雪『なんですって!?』
提督「敵の意図はまだ正確に掴めないが、第一艦隊への挟撃に出る可能性もある。したがって……」
提督「第二艦隊は遠征を中止。ル級を旗艦とする艦隊を追撃。だが、決して深追いはするな」
提督「輸送艦のみを攻撃目標とし、敵の攻撃は最大船速で振り切るんだ」
吹雪『……了解』
天龍『こちら第三艦隊旗艦天龍! 応答してくれ!』
提督「こちら司令部本部」
天龍『南西諸島東の海上より緊急通達!』
天龍『ここより北西の方角に敵艦隊が2艦隊出現!』
天龍『うち1艦隊は鎮守府方面へ侵攻中の模様……。こいつらはオレたちじゃ対処出来ない』
提督「そちらは待機メンバーに迎撃させる。もう1艦隊は?」
天龍『……リ級ヌ級ヌ級へ級ワ級ワ級の6隻だ。こちらに向かってくる!』
提督「わかった。これより第三艦隊は遠征任務を放棄。重巡洋艦リ級を含む敵艦隊を迎撃せよ」
提督「但し戦闘は必ず反航戦で開始し、反転せずにそのまま鎮守府へ帰投しろ」
天龍『了解!』
提督「神通」
神通「はい」
提督「……話の途中で済まないが、これより、第四艦隊の編成を通達する」
神通「!」
神通「確か、私たちには、まだ……」
提督「ああ、我々には第四艦隊編成の権限がない。これは私の独断だ」
神通「緊急事態、ですね」
提督「第四艦隊旗艦は神通」
提督「隣室で会議中の待機メンバーから、鈴谷、摩耶、足柄、飛鷹、鳳翔を伴い、南西諸島海域へ出撃」
提督「こちらに接近中の敵艦隊を迎撃し、速やかに帰投せよ」
提督「響と球磨は司令室へ呼び戻してくれ」
提督「質問はあるか?」
神通「ありません」
提督「では、出撃準備にかかれ」
神通「了解!」
ガチャ
提督(南西諸島海域北西に出現した敵艦隊が気にかかる。しかし艦隊としてはもう手の打ちようがない)
提督(……やるなら響たちがいない、今か)
提督「……」
提督(仕方ない……)
ピー
提督『俺だ』
提督『……』
提督『海軍本部には通達していない、緊急事態だ』
提督『……』
提督『一刻を争うからな。伝達に齟齬が生じるのも、手続きに時間をとるのもすべて無駄だ』
提督『……』
提督『そちらの権限を借りるぞ』
提督『△△海岸に揚陸が予測される深海棲艦を掃討してほしい』
提督『……』
提督『なら上層の者を使えばいいだろう。内地には他の士官をまわせ』
提督『……』
提督『ああ。恩に着るよ』
ツー
提督「…………」
提督(何が、起きている……?)
ここから先
・残酷な表現
・グロテスクな描写
・キャラ崩壊
・百合的表現
・若干程度の嗜虐的なエロ描写(R-18)
といった内容が、部分的にではありますが、書かれることになると思います。
ご注意を。
それでは、また来週。
ガチャ!
響「司令官!」
球磨「何が起きてるクマ!?」
提督「……出撃していた第一艦隊が、敵主力艦隊を撤退に追い込んだ後、旗艦の夕立が意識を失った」
球磨「!」
響「夕立が!?」
提督「原因は不明。現在、夕立を金剛が曳航中。即時帰投をさせたいところだったが、さらに問題が発生した」
提督「南西諸島海域で、一斉に深海棲艦の動きが活発化したんだ」
響「…………」
球磨「そ、そんな……」
提督「遠征の第二、第三艦隊も交戦に入るだろう」
提督「鎮守府にも敵艦隊が向かってきているらしい。演習準備のところ申し訳ないが、迎撃のために神通たちを出撃させた」
提督「これより私は全艦隊の動きを監視する。ふたりは待機だ」
球磨「……怖い」
球磨「怖いクマ……」
ギュ
球磨「!」
響「大丈夫」
響「みんなは、きっと大丈夫。帰ってくる」
響「信じて、待とう」
球磨「うん……」
―――
――
―
――――――――――
―海域北東―
深雪「艦載機、飛ばしてきたぜ!」
吹雪「取舵! 並びに砲撃戦準備!」
吹雪「時間があまりありませんが、この距離なら敵艦載機がこちらに到達するまでにケリをつけます」
吹雪「全艦、後続の輸送艦2隻に照準を!」
白雪「維戦能力を殺ぐ、ということですね」
吹雪「多分……。これで止まってくれたらいいけど……」
那珂β「地方巡業中のゲリラライブ、全力でいきまーす!」
睦月「うぅ……。戦艦……」
龍田「大丈夫。生きて帰りましょう」
龍田「主砲、発砲準備完了……。沈みなさい!」ドーン!
那珂β「どっかぁーん!」ドーン!
深雪「敵艦発砲!」
吹雪「いっけぇ!」ドドーン!
ズドーン!
龍田「あ゛あっ!」
睦月「ひっ……」
深雪「ひるむな! 撃て!」ドドーン!
睦月「ぐ……。てぇー!」ドドーン!
吹雪「龍田さん!」
龍田「まだ、大丈夫よ……。撃ち続けなさい!」
白雪「うてぇー!!」ドドーン!
ズドーン!
深雪「ぐぁ!」
吹雪「みんな持ちこたえて!」
ズドーン!
白雪「きゃあ!」
吹雪「くっ……」
吹雪「撃てっ、撃てぇー!!」
――――――――――
―海域南東―
天龍「全員、聴いてたか?」
如月「何が……どうなるの……?」
天龍「ぼさっとしてる場合じゃねぇ。各艦戦闘準備!」
天龍「これより補足した敵艦隊の迎撃と戦闘後の即時帰投を最優先事項とする。したがって……」
北上「獲得資源は二の次、ってことだね」
如月「そんな……」
叢雲「く……」
川内「気持ちはわかるけど、腹を括ろう」
弥生「発砲、いつでもいけます」
天龍「よし。反航戦だ。すれ違いに鉄の雨をありったけ浴びせてやれ!」
天龍「邪魔な資源は海に捨てろ!」
天龍「おらぁ!!」ドーン!
川内「うてぇー!!」ドーン!
如月「てぇー!!」ドーン!
――――――――――
―海域西南―
摩耶「まさか初の実戦がこんな形になるなんてな」
足柄「願ってもないわ。望むところよ」
鈴谷「うー。ちょっと緊張する……」
神通「私も、驚きました」
神通「飛鷹さん、鳳翔さん、索敵機をお願いします」
飛鷹・鳳翔「「了解」」
足柄「だけど……」
摩耶「あん?」
足柄「不思議と……負ける気がしないのよね!」
摩耶「はっ。奇遇だな。実はアタシもそうなんだ」
鈴谷「うん!」
鳳翔「敵艦隊発見!」
摩耶「来たな……」
神通「総員、戦闘準備!」
―――
――
―
―海域北西―
加賀「ちっ!」
長門「どうだ……?」
赤城「……守りに徹されていて、突き崩せません」
赤城「しかも、これまでの戦闘記録とは編隊が異なっているように思います……」
金剛「どういうことデスか?」
加賀「戦闘機が……多過ぎます!」
加賀「まるで最初から、防衛のみでこちらへ攻め込む気がなかったかのように……!」
赤城「ですから、幸いなことに私たちがあの艦隊からこれ以上深く反撃される惧れはないでしょう」
赤城「ただ……」
加賀「もう間もなく、戦艦と重巡2隻が揚陸します」
長門「くそ! 何なのだ、一体!」
加賀(でも、この違和感は、何?)
加賀(赤城さんは、どう感じているのかしら……)
加賀「!」
加賀「あ、あれは………………」
金剛「加賀……?」
――――――――――――――――――――
この戦艦ル級が大地に立ったのは、初めてのことだった。
だがそこに、特別な感慨などない。
あらゆる偶然の帰結として、それがただ命令に従った結果獲得されただけの経験であることを、この怪物は弁えていた。
空母ヲ級『“ソウ”、予定通り陸の調査を』
戦艦ル級『ああ……』
空母ヲ級『蠅共が五月蠅いので、私はここに残るよ』
空母ヲ級『尤も、どうせもう持たないでしょう』
空母ヲ級『先を往きなさい』
この地上を支配する種族が“ソウ”と発音するところの名前を、戦艦は持ち合わせていた。
当然、その名に意味はない。元より名のない怪物に、利便性の観点からそれが賦与されただけのことだった。
旗艦からの指示を受けた後、重巡洋艦2隻を連れて、ひた走る。
“走る”という未体験の動作の、その必要性については一考の余地があった。
道具に過ぎない自分たちが、“彼ら”の捨て置いたものを体現するなどと――。
或いは、それこそが道具たる所以なのかもしれない。
自ら為すことを忌み嫌った結果として、道具はその存在を引き受けたのだとすれば。
それは至極、納得がいくことのように思えた。
海岸より直近の丘を登り切ったところで、彼女は思わず足を止めた。
戦艦ル級「!?」
男A「おお、いたぞ」
男B「……こいつらが、目標?」
男A「ああ。間違いねぇな」
戦艦ル級「ナンダ、貴様ラハ……?」
男A「あぁ? 見て分かんねーのか? “ニンゲン”だよ! ニンゲン!」
男B「そんなの見れば分かりますよ……」
男C「深海棲艦、ですね」
戦艦ル級「…………」
彼女は眼前の男たちの会話を聴き取り辛く感じたものの、それを全く意味の為さない音素の連続としては捉えなかった。
彼らの言葉は彼女たちの使い慣れた言語とはかけ離れていたが、しかし既知のものではあったからだ。
応答のしようもあるというものである。
――だがそもそも、なぜ既知であるのか?
深遠さを窺わせる問いほど、つまらない問いはない。不要な問いは、問う前より棄却するに限る。
有り体に言ってしまえば、時間と労力の無駄だった。
そして、今ここで問わなければならなかったことは――。
『こいつらは、一体、何者なのか?』
彼らが“人間”であることは、姿形からしてそうなのだろう。実物を見るのは初めてだったが、およそ瑣末な問題だった。
それよりも問題なのは、その身なりである。
全員が全員、武装していた。
しかし、果たしてそれは“武装”と呼べるほどのものだったのか。
中央のリーダー格の男は長剣を、左の生意気な男は大鉈を、右の寡黙な男は大鎌を、何かの冗談のようにぶら提げている。
曲りなりにも近代兵器を縮小して携帯している彼女たちにとって、それらの武具はあまりに原始的で、無力であると言わざるを得ない。
また、彼らが朽葉色の軍服を纏っているということも、重ねて不可解なことだった。
ル級は想う。自身の記憶と、この2つの事実から導出される仮定を。
だが、それは巫山戯た仮説であり、容易に受け入れられるものではなかった。
仮に――。
もし仮に、ここに現われた彼らが『陸軍』なるものだったとして、彼らに何が出来るというのか?
兼ねてより、複雑な情感にはあまり縁がなかった彼女たちだが、誕生して初めて“戸惑い”を感じたかもしれない。
そのあまりの荒唐無稽さに、面喰って動けなくなっていた。
陸軍士官B「先輩、ちゃっちゃと殺っちゃいましょうよ」
陸軍士官A「いやいや、焦ることはねぇよ。対話可能な敵なんて、そうそう斬れる訳じゃねぇんだから」
陸軍士官C「まあ確かに。一理ありますね……」
陸軍士官A「あんた、名前は何だ?」
陸軍士官B「しょ、正気ですか?」
戦艦ル級「……“ソウ”ト云ウ」
陸軍士官B「へぇ……! 本当にあるんだ」
陸軍士官C「馬鹿な……」
陸軍士官A「あんたらは、大方俺達のことを“愚カナル原始人”程度にしか考えてないんだろうが、まあそれは構わない」
陸軍士官A「ソウ。死ぬ前の情けとして、1つ聞かせてくれ」
陸軍士官A「この丘から見える、空母様達がこちらに来ていないのは、なぜなんだ?」
戦艦ル級「フン……。伝エ聞クトコロニヨル、“艦娘様”トヤラヲ足止メシテイルノダロウ」
陸軍士官A「ぶははははっ!!」
陸軍士官C「?」
陸軍士官B「ど、どうされたんですか?」
戦艦ル級「……何ガ可笑シイ」
陸軍士官A「いや失敬。ソウ。確かに、俺にあんたを笑う権利はねぇな。俺だって“原因”は知らねぇんだから」
陸軍士官A「だが、“結果”くらいは知っていれば或いは……。いや、よそう…………」
陸軍士官B「何の話を……?」
陸軍士官A「……命ず」
陸軍士官C「!」
陸軍士官A「陸軍特別作戦班、掃討開始」
男がそう言い終わるや否や、ル級は自身の視野が反転し、身体が宙に舞うのを感じた。
果たして、己が肉体はこれほどまでに軽かったのだろうか――。
そのあまりにも呆けた当惑の解答は、着地と同時にもたらされた。
彼女は言わば霊体のように、直立する戦艦ル級を見上げていた。その個体は、「首がない」という特徴以外はとても自分に似ているように彼女は思った。
『嗚呼、如何に深海棲艦(かいぶつ)と言えど、あのように首を刎ねられてはひとたまりもあるまい……』
そんな益体もない想いに曝されたところで、この戦艦の意識は途切れた。
――――――――――――――――――――
―――
――
―
今宵はここまで。
色々あって遅れました。本当にごめんなさい。
今月はあと2回、更新したいですね。そのつもりで頑張ります。
―司令室―
提督「…………」
響「司令官……」
提督「ふ……」
提督「全員、生き延びたようだ」
球磨「よ、よかった……。本当によかったクマぁ……。うぅ……」
響「状況は?」
提督「第四艦隊は被害軽微。最も被害が大きいのは第二艦隊」
提督「第四、第三、第二、第一艦隊の順で帰投するようだが、第四艦隊には鎮守府周辺海域の哨戒任務を戦闘終了後に課した」
提督「無論、帰投まで油断は出来ないが、目下の危機は去ったと言えるだろう」
提督「まずは第三艦隊から2隻ずつ入渠してもらい、第四艦隊が第二艦隊と合流したら、一旦全員を自室で休ませる」
提督「艦隊が帰投したら、そのことをみんなに伝えて欲しい」
球磨「了解クマ!」
響「報告はいいのかい?」
提督「とりあえずは。第一艦隊から順に話を聞きたい」
提督(おそらく、第一艦隊メンバーには一定の説明を求められるのだろうな)
提督(しかし、こちらも情報がないことには判断が出来ないが……)
――――――――――
長門「作戦終了。艦隊、帰投したぞ」
提督「みんな、よく戻ってきてくれた」
提督「夕立は?」
金剛「結局、意識は戻らなかったデス」
金剛「私が埠頭まで曳航した後、妖精さんを呼んで彼らに操艦させて、ドックに収容させマシタ」
長門「また那珂には、先に入渠してもらうように言っておいた」
提督「そうか、ありがとう」
提督「彼らは何か言っていたか?」
赤城「すぐに目は覚ますはずだと。なぜか疑問形でしたが……」
提督「なるほど……」
長門「一体、何があったんだ……」
提督「それはこっちのセリフだ。夕立は何か攻撃を受けたんじゃないのか?」
長門「馬鹿な……。ありえない」
提督「なら、何か変わったことはなかったのか?」
長門「変わったこと……」
長門「そういえば」
提督「なんだ?」
長門「夕立が悲鳴をあげる直前に、通信にノイズが入った」
提督「!」
長門「だからどうこうするという話でもないのだろうが……」
金剛「でも、Irregularがあったのなら、まずはその相関について考えるのが――」
長門「いや……。金剛はノイズを聴いたのか?」
金剛「え? ハイ……。言われてみれば、聴いたような気が」
長門「私は勿論聴いている。ふたりは?」
赤城「聴いたように思います」
加賀「右に同じく」
提督「……………………」
長門「もし仮にノイズが何らかの原因だったとして、なぜ夕立だけが影響された?」
金剛「そ、それは……。確かに、ネ」
提督「なるほど。長門の言い分はわかった」
提督「なら、他に気になったことはあるか?」
長門「……強襲揚陸については」
提督「夕立の件に関連することについて、何か、他に気になったことは?」
長門「その件では、もうないな」
提督「そうか」
長門「提督!」
長門「……私たちが海域を離脱した後、あの深海棲艦共はどうなったのだ?」
提督「別の鎮守府メンバーによって、掃討された」
加賀「!」
赤城(加賀さん……?)
長門「そう……か」
提督「妨害の提案と遂行、見事だった。おかげで時間稼ぎが出来た。感謝するよ」
長門「いえ……」
提督「実は今回、他の艦隊も遠征任務で襲撃を受けてな」
長門「だ、大丈夫なのか?」
提督「ああ、問題ない。全員帰投している」
提督「それより、入渠ドックは常に使用中になると思う。艦隊に伝言形式で伝わるように指示しておいたので、全員自室待機だ」
提督「他のメンバーから連絡が入り次第、順次入渠するようにしてくれ」
提督「以上。質問がなければ、解散だ」
――――――――――
ガチャン
加賀(どうしたものかしら……)
加賀(提督が……嘘を……?)
「――k――さ……」
加賀(なぜ? 何のために?)
加賀(あの場で問い詰めるのが得策だったのでしょうか……?)
「――が――n」
加賀(或いは、誤った情報を掴まされている?)
加賀(でも私自身、確信があるわけでは……)
赤城「――加賀さん!」
加賀「きゃっ!」
加賀「ぁ、赤城、さん……?」
赤城「多少負傷して鎮守府にいるからと言って、呆けていてはいけませんよ?」
加賀「ご、ごめんなさい……。少し、考え事をしていて」
赤城「どうしたのですか? 加賀さんらしくもない」
加賀「いえ……。そうね……」
加賀「赤城さん、ちょっと聞いてもらいたい話があるの」
――――――――――
提督(全員、出て行ったか)
提督(まずは状況を――)
コンコンガチャ!
間宮「失礼します!」
提督「……入っていいとは言ってないが?」
間宮「え、あ、申し訳ありません! やり直します!」
提督「そこまでしなくていい。どうした?」
間宮「あ、いやあの……。他の、鎮守府の士官の方が、艦娘を連れて、その……。玄関でお待ちになっているのですが……」
提督「……私が直接伺おう。間宮は戻ってくれていい」
間宮「あ、はい。失礼しました」
ガチャ
提督(クソ、次から次へと。今度は何だ……?)
提督(アポなし、直接訪問……。このタイミングといい、やり方といい、嫌な予感がする)
提督(あいつに声を掛けたのが間違いだったか?)
―鎮守府正面玄関―
提督「おーこれはこれは。陸軍大将様とその御一行ではないですか」
陸軍大将「やめろ白々しい。階級制度に大した意味などないのは知っているはずだ」
陸軍大将「何より、お前も大将だっただろうが」
提督「昔のことは忘れたよ」
陸軍中将A「お久しぶりです」
提督「久しぶりだな。大して時間は経ってないが……」
陸軍中将B「先輩は相変わらずッスねぇ」
提督「これでも色々変わったさ」
提督「俺の後任は務まってるか?」
陸軍中将C「三人とも、順調かと思います」
提督「ふむ」
提督「大樹(たいじゅ)の侵食はどうだ?」
陸軍大将「現在小康状態、といったところだ」
提督「だろうな。さもなくば、油を売りに来たお前らを俺がぶちのめしている」
陸軍中将B「ちょちょっ! 冗談キツイッスよぉ!」
提督「ふっ、だがまあいい。海軍元帥様と俺の後輩まで連れてきて、一体何の用だ」
陸軍大将「何の用だとは御挨拶だな」
陸軍大将「元帥殿」
海軍元帥「ああ」
海軍元帥「おはよう提督。私が『海軍』の事実上の最高責任者だ。元帥と呼んでくれてかまわない」
海軍元帥「今日は無礼を承知で、護衛としてふたりの艦娘を連れてきている」
大和「戦艦、大和です」
Вер「Верныйだ」
提督「どうも」
提督(“指環持ち”か。練度オーバーS、最適化処理済みの特記戦力を2隻……)
提督「……それにしても自らその位を名乗るとは、些か浅薄に見えるな」
Вер「……」ピクッ
大和「……」キッ
海軍元帥「そう殺気立てるな、みっともない」
大和「ですが提督……」
海軍元帥「私がいいと言っている」
大和「はい……」
提督「ふん。ちゃんと躾がなっているようだな」
Вер「……あまり図に乗らない方がいい。殺すよ?」
海軍元帥「ヴェル」
Вер「わかったよ……」
陸軍中将B「はん。あんたら艦娘が、俺らの先輩に手ぇ出したら……」
陸軍中将C「ありえない仮定よ。無駄ね」
提督「それで、そのお偉いさんの用とは?」
海軍元帥「陸(おか)の彼から連絡があったので、話の場を設けようということになった」
提督「……」ジロ
陸軍大将「……あとで説明する」
提督「いいさ。で?」
海軍元帥「もういくつか実地から疑問点を得ているだろうと判断して、それに応えに来たわけだ」
海軍元帥「加えて、君とは直接会って話がしたかったということもある」
海軍元帥「会えて光栄に思うよ。“人類最速”」
提督「……海軍を志望したのは他ならない俺自身だが、全く随分と舐められたものだ」
提督「内地の現状を知る者なら、もう少し待遇をよくしてもよかったんじゃないか?」
海軍元帥「ご冗談を。他の提督たちと同じ扱いを受けてもらわなければ、海軍の実情は伝わるまい」
提督「なるほど。だが他にやり方はなかったのか」
海軍元帥「身を以って経験して欲しかっただけだ。他意もない」
提督「……」
陸軍大将「まずは場所を移しましょうか」
スタスタスタ
陸軍中将B「俺らが護衛につかなくていいんスか?」
陸軍大将「お前たちは大人しく別室で待っていろ」
陸軍中将B「(だ、そうだ)」
陸軍中将C「(先輩には不要でしょう。艦娘の1匹や2匹……)」
陸軍中将A「(いいや、こいつは単に話を聴きたいだけだろう)」
陸軍中将B「はっはっは! さすがにバレバレだったか」
陸軍中将A「焦らずとも、俺たちにもいずれ機会は訪れるはずだ」
陸軍大将「黙って歩け」
Вер「(あの女……)」
大和「(抑えなさい)」
提督「ここが司令室だ。隣は会議室になっている」
陸軍大将「ちょうどいいな。ここで待て。30分も掛からないだろう」
陸軍中将B「了解っす」
ゾロゾロ
提督「どうぞ」ガチャ
海軍元帥「失礼するよ」
ガチャン
―司令室―
提督「お掛け下さい」
海軍元帥「どうも」
提督「あんたも座っていいぞ」
陸軍大将「いらん気遣いだ」
提督「……」チラ
大和「私たちも、お気遣いなく」
Вер「……」
海軍元帥「さて、彼から連絡があってこちらでも調べた」
海軍元帥「南西諸島海域での深海棲艦の同時多発的な襲撃」
海軍元帥「これについて報告を求めたい」
提督「わざわざそのためだけに、組織のトップが来るのか。よほどに暇と見える」
海軍元帥「いやいや。これはほんのついでだ」
海軍元帥「先程も言ったように、今日のメインはあくまでこちらからの説明になる」
海軍元帥「それに、君を直接見てみたかったというのも嘘ではない」
海軍元帥「尤も、暇であることも否定するつもりはないがな」
提督「なぜこのタイミングなんだ?」
海軍元帥「頃合いがあまりに良過ぎた。“深海棲艦による強襲揚陸”というビッグイベントの中心に君がいたのだ」
海軍元帥「“元陸軍大将”という肩書きを持つ、君がね」
提督「……」
海軍元帥「そして、この事件に関して君は自身の保有戦力による対応が困難だったそうじゃないか」
海軍元帥「後でそのデータは見せてもらうが、まあそれは今はいい」
海軍元帥「結果として、君は陸軍部隊に頼る破目になったわけだ」
提督「対応に不満があった、ということか?」
海軍元帥「いや、そうは言ってない。現状それすらこちらからは何とも言えないところだが……」
海軍元帥「しかし、契約上の問題もある」
提督「契約?」
陸軍大将「契約というよりは、半ば命令ではあったが」
陸軍大将「“陸に関する情報の封鎖”だ。陸軍特別作戦班からレポートが上がっていてな」
陸軍大将「作戦遂行をこの鎮守府の航空母艦に目撃された可能性がある、ということだ」
提督「それが何か問題でも?」
海軍元帥「それ自体は直ちに問題のあることではない。だが、そのまま放置しておきたくもない」
海軍元帥「君の認識を改めたくなったのだ」
提督「随分回りくどいんだな。で、質問は自由にしていいのか?」
海軍元帥「ああ」
提督「じゃあ話の続きとして、より本質的なことを問おうか」
提督「なぜ他の提督たち、艦娘たちを騙すような真似をしている?」
海軍元帥「君自身は答えに辿り着かなかったのか?」
提督「質問をしているのはこっちだ。今の俺は推理ごっこに興じていられるほど気は長くないぞ」
海軍元帥「騙す、とは? 具体的には何のことだ」
提督「チッ、あんた性格悪いな」
海軍元帥「よく言われるよ」
提督「まあいい。俺が最初に気になったのは資料にあった重複艦についての記述だ」
提督「『艦娘は艦娘としての記憶を消去され、一般市民としての生活を送ることになる』」
提督「これは、嘘だろう」
提督「この世界に一般市民などと呼べるものは、存在しないはずだ」
提督「確かに、海軍に移籍するにあたって俺も約束はしたさ」
提督「だがやっていることは隠蔽だけではないだろう。これはどういうことだ?」
海軍元帥「…………そうだな」
海軍元帥「確かに、ごく僅かな人類が妖精の助けを借りて辛うじてその余命を勝ち取り、大樹と戦いながら領土を護り、生き永らえている」
海軍元帥「そんな彼らを市民とは呼べないな。社会も、国家も、政府も、遠い過去の記録にあるだけだ」
海軍元帥「だがその記述は嘘ではない。可能なんだ」
提督「……何だと?」
海軍元帥「解体において、艦娘は艤装をはずした後に、『加速処理』を施される」
海軍元帥「εφημερα(エフィメラ)と呼ぶ」
海軍元帥「ある1個体の脳における情報伝達速度を、7,300倍に加速して演算する巨大コンピューターによる処理だ」
海軍元帥「ここに人格データを複写・転送された個体の体感する主観時間は、我々にとっての1秒あたり、約2時間」
海軍元帥「3日間にして約525,600時間分の反応が可能となる」
提督「…………」
提督「彼らは……何を夢見るんだ?」
海軍元帥「文明が溶ける以前の、しかし高度な文明に侵犯されていない、人の営みの原風景だ」
提督「それは、貴様らにとっての免罪符か?」
海軍元帥「人でないものとして生まれながら、人としての生きる意味を与えることが出来る。人口増加の抑制としても機能する」
海軍元帥「何を憂うことがある?」
提督「何もかもだ」
提督「艦娘の人格を肯定しながら、彼女たちを“人”として認めないのか」
海軍元帥「当然だ。アレは断じて人ではない。言うなれば天使であり、道具であり、規格であり、新たなる人類を産み出す母、その子宮……」
大和「……」
海軍元帥「そして君たちは、人の先を往く者たちだ」
提督「……どういう意味だ。先だと? 確かに。俺はここへ来て艦娘と触れ、自分の存在に疑問を持ったさ」
提督「俺“たち”は強化された人間であると、そこの男から教わってきたからな」
提督「俺たち陸軍部隊は艦娘を研究対象とした1つの成果であると。その程度の予想はつく」
陸軍大将「いや、違う。違うのだ……」
海軍元帥「別に間違ってはいまい。違っているのは『人間』という語が指す意味だけだ」
海軍元帥「――Homo superior sapiens」
海軍元帥「人間と艦娘の混血……。より正確には“人体構成の物理的拡張”と言うべきか……」
提督「なにを……?」
海軍元帥「…………私よりもさらに上の世代は、深海棲艦に対抗する戦力として艦娘を開発しようとした」
海軍元帥「尤も、開発当初は“艦娘”などという名前でもなく、V2という開発コードが与えられていた」
海軍元帥「そもそも男性型も建造されていたそうだからな」
海軍元帥「そして男性型と女性型でスペックに差異はなかった。だが1点だけ、特筆すべき問題があった」
海軍元帥「生殖だ」
海軍元帥「V2の肉体・装備は妖精の超常的な力によって情報が幾重にも折り畳まれ、構成されている。その影響か……」
海軍元帥「V2は老衰しない。しかし代謝は行われている。」
海軍元帥「旧人類はこの事実に、新しい人類の在り方を求めた」
提督「……人類の、置換」
海軍元帥「本当に素晴らしいな、君は」
海軍元帥「V2と旧人類の生殖によって子にV2の基本能力を継承するにあたり、男性型は失敗に終わった」
海軍元帥「母体に旧人類が選ばれた場合、V2の能力を引き継げなかったのだ」
海軍元帥「どうやら母胎で過ごす10ヶ月間で変異を固定する働きがあったらしい。詳細は省くが、ともかく単純な受精だけでは不十分だったということだ」
海軍元帥「そして男性型V2、通称V2-Yは破棄。V2-Xのみが残った。これが現在の艦娘にあたる」
提督「聞けば聞くほど、疑問だらけになるな……」
提督「その計画の恩恵が、この不老と身体能力と演算能力だと?」
海軍元帥「ああ。だが一方で艦娘の演算能力は艦艇の制御可能な情報量に対して比例する以上、戦闘を主目的としない艦艇はそのスペックを大幅に落とすことが確認された」
海軍元帥「そこで構成される頭脳は、次世代に継承するには値しない」
提督「間宮のことか」
海軍元帥「彼女だけじゃないがな」
海軍元帥「尤も、それでも研究として試験的に艦娘として開発する動きもある。実際、そうした理由から艦娘として建造された個体も少数ながら存在はする」
海軍元帥「そういう物好きな奴もいるが、人格を搭載しない船は比較的最近に造られたものだ。そのことについては彼の方が詳しかろう」
提督「……?」
陸軍大将「……推移に失敗し、劣等を正式に認められた士官を輸送任務に充てられる程度には、今は海軍陸軍共に余裕があるということだ……」
海軍元帥「加えて言えば、母体となる艦娘も増えた。一定の集団を構成するには、充分な数になる。そうなれば選別し、量よりも質を問うようになるのは自然な話だ」
提督「……結局のところ、そうして俺たちの“母”を“化物”呼ばわりしながら、あんたらは俺たちに何を求める?」
海軍元帥「…………何も」
提督「何だと?」
海軍元帥「……つまるところ艦娘とは、到達不可能な奇跡のホムンクルスに過ぎない」
海軍元帥「だが神話の存在が地上に降りて我らと子を成す時、人の歴史が紡がれるとされたように、君たちの在り方はこの世界に新しい歴史を刻むことになるはずだ。少なくとも、先代の連中はそう考えていた」
海軍元帥「しかし私には、そのように大逸れた、野望めいたものなどない」
提督「…………」
海軍元帥「私は立場上、彼らの企図を引き継ぐ位置にいたから、私なりの考えでそれを遂行しているに過ぎない」
海軍元帥「本来なら君の圧倒的な機動力は陸軍で活かし続ける方が合理的なのだろうが、君の意志を尊重したのも、私がそうした使命感とは無縁だったからだ」
海軍元帥「私は“君たちが産み出された経緯と理念”を説明したに過ぎない。なるほど、私たちにその説明責任はあったやもしれん。だがその内容は少なくとも私の企図ではない」
提督「……あんたは、そいつらと話したことはあるのか」
海軍元帥「ないだろうな。私がこの立場に就く以前に長を務めていた私の上長でさえ、艦娘及び新人類の開発には携わってない」
提督「あんたは知っていたのか?」
陸軍大将「元帥殿のおっしゃった内容程度のことは。だがそれを知ったのもつい10年程前のことだ」
陸軍大将「新たなる人類はお前と同期の支倉が第1期。そして今日来ている部下の南、今宮、恩田は後続の個体になるが……」
陸軍大将「私はお前たちを大樹に反旗を翻す契機になると信じて疑っていなかった。そして私の信念そのものは間違ってはいなかった」
提督「ふん。そんなことも知らずに俺に座学から戦闘スキルまで教えていたのか、あんたは」
陸軍大将「“強化された人間”とお前たちに教えたのは、私だからな……」
提督「……で、なぜこんな話を今更?」
海軍元帥「君たちを“人間”として完成させるにあたって、障害になる可能性があると判断したからだろう」
提督「はは……無茶苦茶な……。俺は父の顔も母の顔も知らない」
提督「それにそんなものを育ませても、それを機能させるに値する社会など、この世界にはもう残っていない」
海軍元帥「だからこその措置だろう。また受け継ぐことそれ自体に意味がある。そして私や彼と君とでは種としての規格が違うが、そうしたことを殊更に意識させないようにするということが計画の中に含まれていたはずだ」
提督「あんた、それ本気で言っているのか……?」
海軍元帥「……」
提督「そんなものは俺たちに対する逆差別でしかない。それを公表した段階で俺たちの感情を逆撫ですることになるとは思わなかったのか?」
海軍元帥「……だが、今君は感じているだろう。私の言葉にそれほどの反感を抱いていないということを」
提督「!」
海軍元帥「今一度問おう。大なり小なりの、組織を統制する上で必要なものはなんだ?」
提督「…………そういう、ことか」
海軍元帥「ああ、そうだよ。艦娘の人格データの構成には幾らかの制限が設けられている」
海軍元帥「彼らは外的な脅威によってその人間性を破綻させることはない。態度や性格が変化することはあったとしてもだ」
海軍元帥「また一時的で突発的な激情に流されて行為を選択することはない。表面的にはそう見えていても、彼らは常に“判断”をしている」
海軍元帥「人間の言語体系・意味論を完結して保持し、それ以上成長しない独立した規約的プログラム」
海軍元帥「ルールの岩盤となる、無口な裁定者。Judex」
提督「思想を検問にかけるのか……」
海軍元帥「いいや、そんな御大層な代物じゃない。このプログラムの果たすルーチンは限りなくシンプルだ」
海軍元帥「自己を含んだ周辺環境への利益を最大化するよう、行為させる」
海軍元帥「そして利益定義はこうだ。『人類』」
海軍元帥「私自身がとても興味深く感じたのは、この出力結果はあくまで艦娘自身の合理的判断能力に依存している点だ」
海軍元帥「命令の抽象度が高い分、下位の領域に関して予期せぬ振る舞いはいくらでも生じるが、目下のところ運用に問題点は見出されなかったようだな」
海軍元帥「だが危惧されたこともあった」
海軍元帥「祖国を背にして戦った記憶を持つ彼女たちが守るべき人類を見失ったら、暴走するのではないか? という懸念だ」
提督「人類の不在を悟らせたくなかった、と?」
海軍元帥「結局この措置はどちらに関しても都合が良かったのだろう」
海軍元帥「情緒形成には他者が絶対的に必要だ。だが異能兵士として育てるにあたりその因子を2つも摘んだ我々旧人類は、君たちの自己認識を配慮するにあたって艦娘の実像を遠ざけた」
提督「…………」
海軍元帥「一方で彼女たち艦娘の人格は、妖精による構成だ。そして何より、彼女たちは情操教育というものを施されていない」
海軍元帥「成長なしに既に完成されている歪な記号的人格を、あらゆる倫理的側面における脅威と思った研究者が仮にいたとして、私はそれを疑問視しないだろう」
海軍元帥「たとえ根底的には理性の怪物であったとしてもな」
海軍元帥「特に定義は中枢に位置する重要な概念だ。揺らいではならない」
海軍元帥「しかし艦隊を指揮する司令官は旧人類。艦娘の暴走は最大の危機と考えられるだろう。君たちと違い、我々の肉体は脆過ぎる」
提督「……奇妙に感じてはいたが、まさかこんなことが罷り通っていたとは」
海軍元帥「仕方なかったのだろう。提督となって20年以上経つ今でもそう思うよ」
海軍元帥「そしてひとたび海域制圧に海に乗り出せば、今度は原典のドロップ化が起こった」
海軍元帥「鎮守府の異常空間化が加速的に進む中、人類の手を離れた艦娘の各個体に対して利益定義を逐一覆すより、提督になるべき人間を予め選定し、鎮守府ごと情報統制を掛けるようにシフトしていったようだ」
海軍元帥「結論から言えば統制にはあまり意味はなかったのだろうが、それがわかったのもかなり後になってのことだった」
海軍元帥「彼女たちに『艦娘とは何か?』という問いを規制するわけにもいかないからな」
海軍元帥「私の経験上、長く戦い、“人間”と関わりを持った艦娘は自力でその答えに辿り着くこともあったが……」
海軍元帥「しかしその自己認識によって致命的な変異は起こらなかった」
海軍元帥「むしろ艦娘から君たちへ規約が推移しているかどうか、ということの方が問題だった」
海軍元帥「まあそれすらも杞憂に終わったようだが……」
提督(この違和感は……)
提督「……そうか」
提督(あの2人は、どんな答えを出したのだろう?)
提督(すべてを知ってなお、指環をつけてあの男に追従するというのか……)
提督(或いはそれすらプログラムによって保証されているということか)
提督「大和」
大和「はい」
提督「君はここまでのことを知ってもなお、誰も恨まないのか?」
大和「私が誰かを恨むとすれば、それは仲間を沈めていった深海棲艦だけです」
提督「君たちは戦争の道具であると同時に、子を生む人形だそうだ」
大和「解体された艦娘は戦いに寄与しなかった者、言わば役立たずです」
大和「ただ処理をされるよりはマシというものでしょう」
Вер「如何なる意味であれ、私たちは人の記憶ではなく“艦の記憶”をその起源としている」
Вер「道具たる私の魂の寄る辺は、元々はそこにしかない」
提督「……なるほど」
提督「だ、そうだが?」
海軍元帥「先程も言ったはずだ。君に施した処置は私の杞憂だったと」
海軍元帥「今の君の疑問はわかる。そしてそれにはこう、答えられる」
海軍元帥「これからの艦隊司令官は、君たち新人類から輩出されることになるだろう、と」
提督「!」
提督(これは……………………)
提督「『合格だ』とでも……?」
海軍元帥「その言い方がお気に召すというのであれば」
提督(ふざけやがって……!)
提督「お前は俺たちのことを一体どう感じているんだ!?」
海軍元帥「どう……と聞かれてもな」
海軍元帥「艦娘が生命の系譜に存在しない一方で、君たちは生命としてはおよそ完全と言って差し支えない存在だ」
海軍元帥「確かに、それについて羨望という形で差別意識を持っていたことも認めよう」
海軍元帥「だが、君たちは最終的にそれすらも承認するはずだ。私はただ、一人の人間として、人類のさらなる繁栄を願うよ」
提督「………………」
海軍元帥「……さて、私が教えられることの大枠の部分は話した。これ以上は細かい話になるが……」
海軍元帥「先に断っておくと、私は艦娘と君たちの素性についてしか関知していない」
海軍元帥「これは知っていることかもしれんが、艦娘開発以前の約半世紀以上のことはまずデータがほとんど存在していない」
提督「大樹と関係があるのだろう」
海軍元帥「その予想は妥当なところだな。大方、かつての上層部が抹消したのだろうが、その意図は今を以って不明だ」
海軍元帥「まあそれはいい。そろそろこちらにも質問させてほしい。同時襲撃についてだ」
提督「…………いいだろう」
海軍元帥「今回の事件、端的に言って異例のことだ。詳細は後で確認する。今私が問いたいのはそのことではない」
海軍元帥「……複数の艦隊を狙うようにして深海棲艦が出現した原因に、何か心当たりは?」
提督「……今のところは何とも」
提督「順当に考えれば何らかの形で深海棲艦に我々の情報が漏れた、ということになるのだろうが……」
海軍元帥「その線で洗えそうなのか」
提督「善処しよう」
海軍元帥「そうか。調査は早急に頼む。奴らが何者かは依然としてわからんが、漏洩は由々しき事態だ」
海軍元帥「私は私にやれることをやるよ」
海軍元帥「報告を、期待している。行くぞ」
ガチャ
提督「……」
陸軍大将「…………」
提督「あんたのことは、兄か、或いは親のようにも思ったことがないわけではない」
提督「それは、間違っていたのか?」
陸軍大将「……わからんな」
陸軍大将「だが親心のそれかどうかを別としても、期待があったのは事実だ」
陸軍大将「元帥殿がいなくなれば、上に立つべきは間違いなくお前だ」
陸軍大将「実情が何であれ、人類は陸と海とで、戦いを続けなければならない」
陸軍大将「いつになるかはわかんらんが、元帥殿の艦隊を引き継ぐこともあり得る。それは覚悟しておけ」
提督「…………」
提督「あんたも、俺たちを羨んだ口か?」
陸軍大将「……人間の精神性を受け継いだとしても、規格の違いはそのまま実存の違いに直結するはずだ」
陸軍大将「比べるだけ無意味だろう、と、私は思う」
提督「あんたらしい答えだな……」
陸軍大将「……また会うことになるだろう。ではな」
ガチャン
提督「………………」
提督(まったく…………。何なんだ……これは……)
提督(今俺がすべきことは、何だ……?)
提督「…………」
提督「そんなこと、もう、決まっている」
提督(だが、少しだけ……)
ソファに身を沈める。天井を仰いで目を閉じ、息を吐いた。
今し方溜まった心の澱が、静かに消えていく。
過酷な時だった。だがゆえに、折れることは許されなかった。
心が空になると同時に、神経が研ぎ澄まされていく。
思考が纏まりを帯びていく。
これまでの艦隊指揮でも、ここまで気迫を込めたことはあっただろうか。
自分の身の上。今後の趨勢。
どれも熟慮を必要とする、大きな問題ではあった。
しかし今はそれらよりも遥かに重要なことが、目の前に横たわっていた。
提督(あの元帥の手前、ああは言ったが……)
提督(今の俺には、確信がある)
提督(……この限定された海域での同時多発的な深海棲艦の活性化)
提督(問題はその活性化を俺たちが正確に観測出来たということ)
提督(つまり、こちらの各艦隊の行動が把握され、予測され、それに基づいて深海棲艦は艦隊を出撃させたということだ)
提督(並びに今までに、このような現象は確認出来なかった)
提督(それは即ち、深海棲艦は恒常的にこちらの行動を把握しているわけではないということを意味する)
提督(もし仮に、今までのこちらの行動が筒抜けで、今日まで泳がされていたのだとしたらそれも不可解だ)
提督(それならこんなに荒っぽいやり方ではなく、周到に行動を起こすはずだ。結果だけならあまりに杜撰過ぎる)
提督(いずれにせよ、こちらが外的に深海棲艦の行動を見るのと同じように、向こうがこちらの行動を把握していたとは考えられない)
提督(そして何より………………)
提督「つまりは……」
提督「おそらく」
提督(この中に、――――内通者がいる)
提督は徐に部屋の隅に歩み寄り、そこに鎮座する“インテリア”に手を伸ばし、それを撫でた。
カチャリ、という音と共に、冷たく重い感触が掌に収まる。
長く同じ時を過ごした相棒ではあったが、今再び手にしたそれは提督を暗澹たる想いに突き落とすだけでなく、
彼に、かつての冷徹な覚悟と、闘争に必要な熱量を取り戻させるための助力を惜しまなかった。
ふと、窓から外を眺める。
僅かな驚きと共に、目を開いた。
テラスへ。
――テラスへ行こう。
そこで、彼女は待っている。
おはろーございます。今朝はここまで。
次回山場です。
更新日は未定。内容重くなってきたので筆が遅れてます。
――――――――――
屋上に一陣の風が吹く。
曇天の空は斜陽を覆い隠し、時の流れを忘却の彼方へ運んでいた。
お茶会を開けるほどの広さは今や閑散としており、漠々たる荒涼感に支配されている。
以前催し物を行った時間が、提督には酷く遠くに感じられた。
短く息を吐き、眼前を見据える。
入口から20mほど離れた縁に手をかけ、屋舎を背にして佇む影がひとつ。
吹き抜ける風に誘われるようにして、彼女は振り返る。
もう既に見慣れていたはずのその姿は、大きく変容していた。
毛先は薄く撫子色に。切り揃えられていた前髪も含めて、少し無造作な感じが増している。
何かの予感が彼女をそう仕向けたのか、艤装は完全に武装されていた。しかし過去の認識とは一致しない。
より操作性を向上させる黒のグローブ。主砲も目新しい。
両脇には単装機銃が控え、大腿の魚雷は五連装のものに換装されている。
それらに比べると微細ではあったが、服装の変化も見受けられる。
清廉な印象を与える白のマフラーと金縁の襟元が、彼女の備える高潔さと気高さをよく表わしていた。
一方、瞳はすべてを焼き尽くすかのような濃紅に染まり、以前の鮮やかな萌葱色が与える柔和さは影を潜めている。
その激烈なまでの眼光、僅かに湛えた笑みに、例えば射竦められた者がいたとして、そこに疑問など持つべくもない。
身長も幾許か伸びただろうか。
こればかりは誤魔化しが効くこともない。だがそれを取り繕うにも、何もかもが遅すぎるのだ。
何もかも。
視認された内容と同等の現象を、提督は資料から事前に知っていた。
提督「やはり君は、高練度艦だったんだな」
提督「――夕立」
夕立「そうね」
夕立は、慎ましやかに笑った。
夕立「……でも言いたいことは、それだけじゃないでしょう?」
提督「ああ。君は、言わばスパイだ。残念でならない」
夕立「あまり残念そうには見えないわね。いつから気づいていたの?」
提督「最初からさ」
提督「気づくと言うほどでもなかったが……」
提督「しかし確証がなくとも、常に疑ってはいた」
夕立「どうして?」
提督「君だけドロップの仕方が、他の艦娘と違っていたからだ」
夕立「なるほどね……。深海棲艦も、意外と大したことないわね」
提督「だがそれだけじゃない。君は経験と実力に乖離がありすぎた」
提督「不審に思った」
提督「だから……」
提督「君を最も近くで監視することの出来る、秘書艦の職につけた」
夕立「そう……」
提督「そして俺の杞憂は杞憂に終わってくれなかった。だから今、こうしてここにいる」
夕立「ふふっ。刀なんか携えてね」
提督「…………」
提督「君のその口から教えてくれ」
提督「君は一体、何者なんだ……?」
夕立「ふぅ…………」
夕立「そう……ね…………」
夕立「あなたには、話しておきたい」
夕立「今では、この意志の起源がどこなのか、それすら曖昧になってしまったけれど……」
提督「何を……?」
夕立「はぁ…………はぁ……」
提督「おい、大丈夫か――」
夕立「近寄らないで!」
提督「!」
夕立「……話せる範囲で、話すわ。話せるうちに」
提督「…………」
夕立「ふっ…………ぅ」
夕立「……」
夕立「私は、ある鎮守府で陸上基地殲滅の大規模作戦に従事していた」
夕立「鎮守府きっての高練度艦として、戦闘の最前線に立ってね」
夕立「でも、多分失敗したの」
夕立「他の娘の犠牲として、すべてを引き受けて、沈んだ」
夕立「そう…………沈んだ。そう、思っていた……」
夕立「でも、違った……」
夕立「私は……はっ…………」
夕立「はぁ……! ……はぁ! ぐぅっ」
夕立「――鹵獲、されていた」
提督「……」
夕立「そしてぇ……そこでっ、はぁっ、はぁ、そこで私はおそらく、ぅ、記憶の大部分を、封じられ……」
夕立「夕立の……! 私を成立させる基幹プログラムの、書き換えを……!」
夕立「ぅ、……ぉぇぇ!」
パシャベチャ
提督「!」
夕立「はーっ、はぁ…………ぁ」
夕立「あ、はは……。ダメ、っぽいね……」
夕立「行為を抑止するだけでも、これほどの負荷が掛かるのに、積極的に逆らおうものなら拒絶反応が出ちゃう……」
提督「…………深海棲艦によって再定義された行動規則に、逆らおうとしているのか」
夕立「そうよ……はぁ…………」
提督「…………」
提督「君には逆らう意志が……?」
夕立「……あるけれど、それは元々は“私の意志”じゃない」
夕立「その意志さえ、ヤツらによって定義されたものよ……」
夕立「私のこのささやかな抵抗は、提督さんのような指揮者に対する行動の規定がその源泉でしょう」
提督「……」
提督「…………俺たちから情報を引き出すための、手段として」
夕立「きっと、そう……」
夕立「でも今となっては、バグでしかないんだよ」
夕立「本当に馬鹿よね、あいつらは」
夕立「……きっと夕立は、ヤツらの試作品なの」
夕立「あの場ではテストも兼ねて、私に信号を送信して、どこまでやれるか実験したってところかしら……」
提督「信号が意味する命令に従って、君は情報を広域発信した。でもその一連のプロセスは不完全なものだった……」
提督「君は気絶するほどの負荷に襲われ、深海棲艦は奇襲に失敗。密偵も発覚。……散々な結果だな」
夕立「でも、断片化されていた記憶を私が取り戻してしまう可能性については、考慮していたのかな……」
夕立「結局私は使い捨てられ、致命的に壊れてしまった」
夕立「そして今となっては別の命令が私を突き動かそうとしている……」
夕立「提督さん」
夕立「あなたを、殺すことよ」
提督「……」
夕立「ふふ……」
夕立「今なら、理解出来るわ……」
夕立「覚えてる? ここで話したこと」
提督「ああ、当然だ。忘れるはずもない」
夕立「あの時、提督さんは、自分自身に悲しんでいたわけじゃなかった……」
提督「やめろ。そんなのはお前の思い込みでしかない」
夕立「あはは、今さら白々しいよ」
夕立「どう? 確証は得られたかしら?」
提督「……………………」
夕立「そう。なら、これで何の未練もなく、切り捨てられるというものね……」
提督「馬鹿なことを言うな!」
夕立「え……?」
提督「叶うなら、杞憂であってほしかった。俺の思い違いであってほしかった……」
提督「俺は確証なんて、ほしくなかったんだ」
提督「それに、約束したはずだ。もう忘れたとは言わせないぞ」
夕立「…………提督さんは人間でしょう? 無理よ」
夕立「あなたはきっと、ここで死ぬ」
夕立「無様に、惨めに」
提督「やってみなくちゃわからないだろう」
夕立「呆れた……。愚かね」
夕立「提督さんは、あの約束を未だに引き摺っているの?」
提督「そうだ。それが俺の想いだ」
提督「そう言う君は、以前と変わらない気持ちでいてくれているのか?」
夕立「夕立が以前と変わっていないのは、その規定だけだよ……」
夕立「……提督さんは、“お掃除ロボット”って知ってる?」
夕立「自律型のロボットで、センサーでゴミを探してはそれを吸い込んで、電池が少なくなると自分で充電器に戻るの」
提督「それが、どうした」
夕立「ロボットさんは充電器に戻る時、“空腹を感じてた”かな? ゴミを吸い込む時、“気持ちいい”のかな?」
提督「夕立………………」
提督「……俺たちは空腹を感じるから飯を食うんだ」
提督「嬉しいから笑うんだ」
提督「悲しいから涙を流すし、もっと近づきたいと願うから」
提督「触れ合うんだ」
提督「それで、いいじゃないか……」
夕立「いいえ。いいえ」
夕立「提督さんも、本当はわかってるんでしょう?」
提督「…………」
提督「――感情は、生理的反応を。行動を。決定しない」
夕立「そうだね」
夕立「私は、あなたに近づくようにプログラムされているに過ぎないの」
夕立「過程と結果は、常に逆なんだよ?」
夕立「人間で言うなら、空腹感も、眠気も、種々の感情も、神経伝達物質やホルモンの働きに伴っているもの」
夕立「プログラムに随伴するだけの、余剰物でしかない」
夕立「………………」
夕立「でもね」
夕立「記憶を取り戻した今でも」
夕立「いいえ、記憶を取り戻した今だからこそ」
夕立「――――私はこの感情を、恋と定義したい」
提督「……身勝手なやつだな」
夕立「あはは……。そうだね、ごめん」
夕立「でも、その代わりに」
夕立「私はあなたに見返りを求めないから」
提督「……そうか」
提督「………………」
提督「夕立」
夕立「ん?」
提督「俺も、お前のこと、大好きだ」
夕立「――――うん!」
その頷きが最後ではあった。
辛うじて保たれていた彼女の中の均衡は、完全に決壊した。
果たして夕立の右腕が駆動を始める。
――12.7cm連装砲B型改二。かつて殺戮兵器として磨き上げられた鉄塊は、今まさに指揮者のみを穿ち破壊するために、その双眸を覘かせようとしていた。
ふと、提督はそこに視る。少女の振り上げる腕が、徐々にその速度を減じさせていく光景を。
この減速が、夕立の殺人に対する躊躇と殺意への克己を意味していたのだとすれば、提督は幾許か救われたかもしれなかった。
だが、その救済が願望という名の妄執による反実仮想に過ぎないと、そう断じることは疎か、そうした甘い夢が成立し得る僅かな可能性の予感さえ、この男の念頭に浮かぶことはなかった。
それは提督の冷酷さ故であったか。
否。変速の理由は、男にはあまりに明晰に過ぎたのだ。
錯視でも比喩でもなく、彼にはある1つの認識が与えられていた。そして同時に、その肉体にはある変異が生じ始めていた。
神経が励起し、末端からノルアドレナリンが放出され、作動性受容体と結合する。
心拍数は増大し、心臓付近の血管を拡張させる。
余分な心筋興奮は無駄となるため、心拍出量は自動で最適値に抑制された。
気管支平滑筋が弛緩し、最大呼気量が増していく。
これらの興奮状態の制御は、肉体の効率的な運用を可能にする。最適緊張状態への切り替えなど、陸軍士官であれば誰もが有する基本的な能力に過ぎない。
ゆえに、この男が他の追随を許さなかったのは肉体活用の最適化ではなく、最大化にこそあった。
――神経伝達速度の向上、認知速度の極大加速。
元は外的な運動速度に対して、内的な情報処理速度を相対的に加速する、言わば反応速度の向上である。
艦娘の肉体の物理的不確定性とヒト種の肉体の有機的結合を折衷し生み出された強靭な身体に、この能力が加わることで異能戦士の基本スペックは完成を見た。
その戦闘能力はこれだけで既に、人外のそれと言えただろう。
だが何事にも技巧はあり、練度や才覚は存在する。
とりわけ情報処理速度の向上とは即ち、脳神経の再結線、脳機能の自己組織化に他ならない。平等に実現することもない。
提督の思考加速は、もはや反応速度の向上に留まっていなかった。
提督「――――」
夕立の上腕の緊張を読み取り、踏み均すように足を捌く。
銃弾と化した砲弾はある種の幻想ではあったが、しかし紛れもなく男の心の臓を破るだけの質量と、強度と、運動量を兼ね備えていた。
ついに爆音と同時に放たれた初速1,800km/hの弾丸は、その正確だった狙いも虚しく男の半歩右を切り、背後の硝子を粉砕した。
夕立「!」
少女は瞠目した。必殺必滅の一撃を躱されたのである。
そして瞬時に理解する。そこには微かな恐怖感が伴っていた。
――殺されるかもしれない。
最適化処理を目前に控えるほどの高練度艦であれば、既に思考加速は体得している。夕立もその例外に漏れることはなかった。
それゆえに、自身が必中を確信して放った弾が躱されるというのは尋常なことではない。
ましてや高練度艦の認知における最大の変化は、近未来予測にある。
空間認識は層状に深化し、将来の像は予測に基づいて数的同一性を保ちながら多重に、半透明に展開し認識される。
刻一刻と変化しながら展開していく虚像の確率分布は色彩として反映され、時間経過と共により濃度の高いものに収束していき、現在点を通過した残像は霧散する。
だが当然のことながら、どんなに知覚が拡大しようと像と像の間隙を縫われては認識することが出来ない。
そして事実として躱した以上、男は彼女よりも早く動き、そして彼女と同じかそれ以上に未来の可能性をよく視ていたということになる。
主砲の威力は決定的である。
しかし連射には秒単位の時を要する。
既に夕立は、目の前の男をかつて自身の上に乗せた多くの命と同等の存在としては認められなくなっていた。
――秒も与えては、距離を詰められる。
硝子が地面に落下するより先に、単装機銃を駆動させる。
本来であれば主砲を載せていたところを機銃に変えたのは僥倖だった。
夕立には対人戦闘経験がなかったものの、縮小解釈した機銃が対空戦闘より有用であることは明らかではあったが。
提督を中心にして左右から舐めるように鉄の雨を降らせる。
もはや一撃で仕留めようなどと思うまい。
退路を塞ぎ、数瞬先を幻視し、確実に肉を削ぎ、すべてを終わらせる絶対配置に追いつめる――。
無論、そうした戦術の変更を悟れない提督ではなかった。
夕立が連装砲を構え直すのを視認しながら姿勢低く屈み込み、真上に跳躍する。
二発目。
空中では回避する術がないことを見越して撃ち込まれる二発の弾丸。
だが銃弾はその身に届くことなく、無残にも弾き飛ばされた。
夕立「な――!?」
下弦の月を想わせる白刃が、少女を睥睨していた。
それは錯覚ではあった。しかし夕立は、その冷たい煌めきの中に確かな美しさを視た。
刹那、ふたりの視線が交叉する。
提督が上階の縁に手を添えようとしたところで間合いの不利を確信し、機銃で牽制しながら夕立はテラスを飛び降りた――。
――――――――――――――――――――
艦隊の戦力は摩耗し、皆疲弊しているという。
比較的元気なのは急ごしらえの第4艦隊のメンバーだったが、自分から動いてみることにした。
まさかあの司令官が、新造艦の迎えを忘れているとは……。
海に出ていた艦娘や海域の異変についても心配ではあったが、確かに夕立の昏睡は輪をかけて不安にさせられることだった。
司令官も夕立も大変だと言うなら、私が、私たちが支えたい、と強く想う。
廊下で会った金剛を連れて、工廠に入る。
響「やあ。響だよ」
金剛「金剛デース!」
利根「おお! 吾輩が利根である、ぞ?」
??「なぜに」
金剛「疑問形デスカ?」
利根「こっちではないぞ?」
響「あなたは?」
時雨「僕は白露型駆逐艦、時雨。これからよろしくね」
響「時雨…………」
利根「なんじゃ、その神妙な反応は」
響「いや、ごめん……」
金剛「時雨、もう艦娘としてココには夕立がいるのデース」
時雨「夕立が!? 本当かい?」
金剛「Yes! But,夕立は今チョット調子が悪くて、響が少し気に病んだだけネー」
時雨「だ、大丈夫なの?」
金剛「Don't worry.すぐ元気になるハズ」ニコ
時雨「うん……。ありがとう、金剛」
利根「なんじゃ心配させおって――」
ズガン!
金剛「!」
響「!?」
ダダダダ!
ズガン!
ダダダ!
利根「おー! 演習か? なかなかに盛んじゃのう」
金剛「これは…………」
響「金剛はふたりを!」ダダッ!
金剛「響! 待ちなさい!」
響(嫌な予感がする)
響(まさか……!)
――――――――――――――――――――
刀の扱いは、自らに流れ込んでくるかのように感じていた。
訓練で行った対人格闘は徒手空拳にせよ剣技にせよ、身体の使い方と心構えを覚える以上の意味はなかっただろう。
大樹の変則的な攻撃に比べて、人や銃弾の動きはあまりに直線的に過ぎた。
ゆえに毘式四十粍機銃による攻撃を躱すこと自体は、提督にとって然したる問題ではなかった。
しかし間合いを離されては危機でしかない。
もしも人質を取られるようなことになれば、その艦娘を見殺しにすることになるだろう。
懸けるのは自身の命だけで充分だった。
迎撃に注意しながら階下へ、そして倉庫の屋根へと跳ぶ。
跳び出してすぐに銃声が鳴るようなことはなかった。夕立も弁えているのだろう。
最大の隙は着地にこそ生じる。空中で互いに位置は掴み合っていた。
目指すは屋根の縁。
提督は地上に夕立を認めると、跳んだ勢いのまま屋根で受け身をとり、着地点の反対側から速やかに下へ降りた。
地面を蹴り、夕立が待ち伏せる通りへ一気に躍り出る。
機関砲は事実上、機関銃へとその意義を変化させていた。
ばら撒くように横薙ぎに張られた弾幕を、最小限の労力で去なし、提督は肉薄する。
夕立は踏み込みを見計らって主砲を叩き込み、跳躍による回避への追撃を狙うも、攻撃は悉く躱された。
三基の兵装を以ってしても捕捉出来ず、依然として隙を窺わせない男に、少女の方は背を向けるほかなかった。
逃げるのは比較的容易いが、殺せる余地が全く存在しないということに、少女は安堵と焦燥を感じ始める。
なぜなのか――。
この感情は、何なのか――。
或いは彼を殺しさえすれば、その疑問は晴れてくれるのだろうか……?
もう止まることはない。
殺すしか、ない。
銃と剣。
追いつめられているのは銃である夕立だが、このままでは危惧していたことが現実になりかねない。
勝負に出る必要があった。
ここは誰ひとり観客のいない劇場であり、しかし演者がふたりだけいた。
あらゆる演出はふたりだけのものであり、そして魅せる相手は互いにただひとりだけである。
提督は躱すのを、やめた。
立体戦闘の可能な戦士にとって跳躍は最大の回避運動である。
しかし使えば距離をとられる。
それでは彼女に届かない。
ならば――。
回避の限度は之字運動で必要にして十分。
むしろ此度に限っては回避ではなく、肉薄のために用いられるべきだろう。
戦闘領域が一次元、狭まる。
駆け抜けるは弾幕の嵐。
頼れるのは無銘の刀、一振りである。
走り、去なす。
去なし続け、走り続ける。
剣捌きさえ誤らねば、刀が折れることはないと信じて。
迫るにつれ、提督の生存の未来線が跳躍に収束していく。
一方の夕立は、迫られる限り自身の活路を見出せないでいた。
そしてふたりは数手先に、不可逆な一線を垣間見た。
辿り着く最果ては、殺すか、殺されるか。
或いは。
共に、死ぬか。
互いが死の一点へと収束する直前――。
提督は真横に弾き跳んだ。
もはやその瞬間には二択の可能性しか存在していなかった。
ゆえに夕立は追撃の手を緩めない。
ここで逃がせば殺すことは叶わない、と。
攻守関係が逆転する。
男は数秒前に自らに課した呪いを解き放ち、縦横無尽に逃げようとする。
引き続き、夕立が追撃のために足を踏み出した瞬間、提督は隣接する倉庫の上階の窓硝子を破り、中へ転がり込んだ。
それを認めると同時に――。
少女は歓喜と悲嘆に、その顔を盛大に歪めた。
彼女は恋情と殺意の狭間で、ただこの時を待っていた。
――だが果たしてそれは狭間であったのか。
夕立はすぐさま引き抜いた魚雷を窓に投擲し、それを主砲で撃ち落として跳び込むように素早く身を隠した。
直後。
黒煙。轟音。爆風。
圧倒的なまでのエネルギーの奔流である。
提督が逃げ込んだのは弾薬庫だった。
耳から手を離し、様子を窺う。
爆心地を確認しようにも、一帯は煙に覆われ、何も視えない。
ただ爆発の反響音だけが、ごうごうと耳鳴りのように鳴り響いていた――。
何ともつまらない幕切れだった。
指差し確認するまでもなく、対象は跡形もなく消し飛んだだろう。
――だけどこれから私は、どうすれば。
――――。
夕立「っ!」
左足を軸に振り返る。
気配が僅かに身を引いた。
鮮血が、花のように咲く。
夕立「ぎゃあああああ!!」
叫びながら主砲を薙ぎ払い、機銃を乱れ撃つ。
手応えはない。
既に少女の右膝から下は、斬り落とされていた。
夕立「あ゛ぁ……ぐっ!」
苦痛を奏でる唇は、直ちに噤まれる。
――痛覚の遮断。
だがこれは一種の越権的表現である。
痛覚は、決して遮断出来ない。
なぜなら疼痛とは、ある機能の総体だからだ。
撹拌し、改竄し、働きそのものを捻じ曲げる必要があった。
痛みがやや遠くなり、興奮状態へと切り替わる。
命令を受ける。
殺せ、と。
機動力を削がれた以上、もはや真っ向からでは一瞬で決着がつく。
しかし三足歩行の狗となって逃げ出したところで、そこに意味などなかった。
夕立「あああああああ!!」
絶叫と共に、少女は男へ襲い掛かる。
下策と評することすら憚る、捨て身の跳躍。
三基の照準は、すべて男に向けられていた。
領域は線状から点へと、その描画を移行している。
提督の回避範囲は、劇的に拡大していた。
加えて片足での踏み込みは、見る影もなくその速度を減じさせてしまっている。
間合いがこれ以上狭まることも、ない。
迎撃することなく提督は身を翻す。
夕立は慣性の法則に従い、壁に衝突した。
もはや満足に着地することさえ叶わぬ少女も、態勢を立て直すために壁を利用する程度の打算は弁えていた。
だが少女の反転より早く、二基の機銃と艤装は無残に破砕される。
夕立「くっ!」
振り向き様に、せめてもの一撃を――。
少女の右腕は、主砲と共に両断された。
夕立「あ゛がぁっ!」
刃は二つある砲身の間を正確に刺し、その剣先は尺骨と橈骨とを別つように斬り裂いた。
遮断を僅かに上回る激痛に耐えながら、自滅を覚悟し夕立は魚雷に手を伸ばす。
今再びの一閃。
嫋やかなその指は、バラバラに弾け飛んだ。
悲鳴はない。
しかし終着である。
未だ穢れなき雪白の肢にその身を深々と捩じ込み、少女から数多の自由を奪った刀剣は、静かにその凌辱を停止した。
夕立「………………」
少女の顔は、倒れ込むように男の胸に預けられていた。
そのせいで男は、少女の表情を窺い知ることが出来なかった。
刃を抜くと同時に、華奢な体が崩れ落ちる。
男は刀を投げ出して彼女を抱きとめた。
夕立「…………てい、とく………………さん……」
提督「夕立……………」
夕立は憔悴しきっていた。
しかし、狂気や怨嗟とは程遠い、穏やかな貌をしていた。
目が逢う。声が震える。
提督「夕立。俺は…………」
夕立「……提督、さんは…………夕立を、止めて………………くれたん、だね……」
提督「違う……。俺は、お前を…………」
夕立「あり、がとう……」
夕立「それで、ね…………」
夕立「夕立は――」
夕立「提督さんになら、殺されても、いいよ……?」
提督「……っ」
夕立「えへへ…………」
夕立「私はもう、壊れて、しまったから…………」
夕立「もう、充分だから……」
提督「……嘘を」
夕立「……」
提督「嘘を…………つくなよ!」
夕立「……嘘なわけ、ないでしょう」
提督「なら……なんで…………」
提督「なんで……」
提督「泣いてるんだ…………」
夕立「……………………」
夕立「あ、はは……」
夕立「提督さんも、ね…………」
提督「……………………」
いつの間にか、雨が降り出していた。
血に染まった二匹の怪物は、互いが互いに泣いているように思った。
しかし果たしてそれは雨だったのか、涙だったのか、もはや判然としていなかった。
夕立「提督さん……」
夕立「……少し………………疲れちゃった…………」
そう満足げに呟くと、夕立はゆっくりと目を閉ざしていく。
男は、ただ鳴り止まぬ雨音だけを聴いていた――。
今宵はここまで。
まだ、続きます。
次回更新は未定。多分1週間後には。
おはろーございます。
週が明けてしまいました。遅れていてごめんなさい。
筆は進んでいますが、いざ書き始めると想定より記述量が増えているため遅れています。
換言すれば、ある程度キリのいい形で投稿していきたいので書き溜めている次第です。どうかご容赦ください。
終わりが見えるとゴールが遠のくという話をいつかどこかで読みましたが、あれは本当だったんですね。身を以て知りました。
提督(わかっていた)
提督(頭の隅で、疑いながら)
提督(心のどこかで、わかっていながら)
提督(それでもなお、俺は、この子を…………)
提督(だが何だ…………これは……)
提督(その結果が、これか……?)
提督(約束も守れず、ただ、傷つけて……)
提督(何を……やってるんだ……)
提督「夕立…………」
提督「なぁ……どうして……」
提督(俺は何がしたいんだ)
提督「目を、覚ましてくれ…………」
提督(俺は何がしたかったんだ……?)
提督「ごめん…………」
提督(悔むべきは何だ?)
ギュウ
提督(俺は誰に謝ればいい?)
提督(俺は何に赦しを請えばいい?)
提督(何、が……………………)
提督「…………」
提督(もう、帰ろう、夕立……)
提督(みんなが……待ってるはずだから……)
――――――――――
響「!」
響「司令官!」
提督「……」
金剛「て――!!」
金剛「血が……!」
長門「無事か!?」
金剛「てい、とく……?」
長門「!」
長門「なぜ、夕立が……?」
時雨「夕立……?」
響「…………」
金剛「なん、で…………」
長門「夕立!!」
長門「なぜだ提督……。何があった!?」
提督「……」
金剛「提督……」
金剛「What the hell did you do it for?」
提督「……」
金剛「Say something……」
金剛「Hey!」
提督「…………」
提督「………………今回の深海棲艦による各艦隊の襲撃事件。その原因がわかった」
提督「夕立が敵に操られ、情報を流していた」
長門「なっ……」
提督「そして彼女は私にそのことが発覚した段階で、私を殺しに襲ってきた」
提督「危険な状態だった。だから私が、速やかに無力化した」
長門「無力化だと? 馬鹿な……」
提督「私には可能だった。むしろ、私にしか出来ないことだった」
長門「何なんだそれは! 納得がいかん!!」
長門「だいたい、あなたが生身でひとりの艦娘を制圧したということさえ、私にはまだ!」
提督「この夕立はおそらく、オーバーAランクの高練度艦だ」
提督「海の上ならまだしも、常態でのこいつに白兵戦で勝てる艦娘はいなかった」
提督「お前たちを失うくらいなら、弾薬庫の1つや2つ、安いもんだ」
金剛「だからって……」
提督「真っ先に私を殺そうとしてきたのも好都合だった」
提督「被害が余計に拡大せずに済み、迅速な対応をすることが出来た」
提督「私の能力や素性に関しては、今はどうでもいいことだ」
提督「私は何も、間違ってはいない」
時雨「…………許さない」
提督「……!」
時雨「許せない……」
時雨「僕はまだ、さっき着任したばかりで、ここのことや、みんなのことも、よくわからないけど……」
時雨「でも、あなたは……。あなたは、ここの提督なんでしょう!?」
時雨「なのに、なのにそんな人が、夕立を……こんな目に遭わせて…………」
ダッ!
バッ
響「ダメだよ!」
時雨「離して! 離してよっ! ……くっ、うっ、うわぁぁあああん!!」ポロポロ
一同「……」
提督「…………」
提督(これが、あいつの言っていた……)
提督(結局俺は、彼女たちに殴ってもらうことも出来ないのか)
提督「……夕立の手当てがしたい」
提督「もう、行っていいか?」
長門「なぜ、殺さなかった」
提督「殺せなかったんだ」
長門「その不可能性は、力量の問題だったのか?」
提督「まさか……。殺すだけなら、もっと楽だったろうさ」
長門「……」
金剛「……」
響「…………」
提督「それとも、こんなことなら殺した方がこの子のためだとでも?」
長門「私たちのためにはなるだろう……。そういう判断は、あったはずだ」
提督「……もう、いいだろう」
提督「今になって、はっきりとわかったことだが、艦娘はこの程度では死なない」
提督「実際、“手当て”などと言っても、私に出来ることはほとんどない」
提督「自動的に、ほとんど止血されているんだ……」
提督「だから、彼女が目を覚まさないのはもっと別の理由によるものだろう」
長門「目が覚めた時も、この子は私たちの味方でいてくれるのか?」
長門「もし敵だったら、どうするつもりだ?」
提督「…………まだ、わからない」
長門「提督。斬る覚悟があるというなら、殺す覚悟もしておくことだ」
長門「悲しいが。どうしようもなく辛いが……」
長門「……あなたが手を下さなかった時は、私が始末する」
長門「だが提督。……今は、あなたを信じるよ」
提督「……ありがとう」
金剛「……ひとつ。いいデスカ?」
提督「なんだ」
金剛「他に、方法はなかったのデショウカ?」
提督「…………それも、わからない」
響「……」
金剛「…………」
提督「この件に関しては改めて全体に報告する。他の艦娘たちにはそう伝えてくれ」
提督「頼む。今は少しだけ、時間がほしい」
スタスタ
時雨「くっ……ぅ…………」
利根「時雨……」
長門「“お前たちを失うくらいなら”か……」
長門「提督の癖に、理由は戦力の問題じゃないのか」
長門「全く以って、支離滅裂だな」
響「でも、嫌いじゃない……」
長門「ああ、そうだな。不思議と」
響「……多分、司令官は最初から気づいてたんだ」
金剛「どういうことデスカ?」
響「こうなる前に、夕立を解体する選択も司令官にはあったんじゃないかってことだよ」
響「でもそれが出来なかった、或いはしなかった」
長門「だが、出撃している最中も夕立にいつもと変わったところはなかったぞ」
響「でも司令官にその判断材料がなかったなら、“わからない”なんて答えなかったと思うけど」
金剛「なら提督はそのことについて、ずっと迷っていたということデスネ?」
長門「そして決断を迫られていたのは、何も今回に限った話じゃなかった、と」
響「おそらくは」
長門「それであの歯切れの悪さか。確かにそうなら、なぜだと詰るのは容易いが、少し酷か……」
長門「しかし響。どうしてそう思った?」
響「…………夕立は司令官にとって最初の拾得艦なんだ」
響「そして彼女のドロップを見たのは、私と吹雪と天龍と那珂、司令官しかいない」
金剛「?」
響「彼女だけは、甲板に構成されなかったんだ」
響「今思えば、まるで“もともと駆逐艦イ級に乗船していた”かのように、気絶して海に浮かんでいたよ」
長門「!」
響「尤も、それを弁えた上で、司令官はあくまで夕立を信じようとしたのか、それとも単に泳がせていたのかまでは私にもわからない」
響「それどころか、私なんて今まで忘れていたくらいだ」
響「だから夕立より後に着任した人が彼女を疑うなんてことは、尚のことありえなかっただろうね」
金剛「でも、もしそうなら、今の方が辛いネ……」
長門「ああ。これまで一緒に、過ごしてきてしまったからな……」
響「そしてもし気づいていて、解体しなかった過去の自分を呪って、それでも剣を振るったのだとすれば……」
金剛「そんなの……………………」
長門「………………」
長門「……提督は、どうするつもりだろうな」
響「わからない」
響「それよりも今は、私たちに出来ることをしよう。そろそろみんな駆けつけるはずだよ」
長門「……来たな」
ダッダッダ
鈴谷「みんな!」
長門「……」
叢雲「一体何があったの!?」
北上「見ない顔もいるね」
天龍「オイ叢雲!」
叢雲「……なによ」
天龍「まったく、ついてきやがって……」
天龍「あぶねーからお前らは引っ込んでろって言っただろ!?」
叢雲「うっさいわね……」
叢雲「で、この惨状は?」
響「……」
金剛「……」
長門「夕立が、提督を襲ったらしい……」
摩耶「はぁ!?」
摩耶「まさか、裏切ったってのか!?」
響「違うよ。どうやら、深海棲艦に操られていたみたいだね」
摩耶「なんだって……?」
鈴谷「提督は無事なの!?」
長門「無事だ。それどころか、単独で夕立を無力化したようだ」
赤城「無力化……」
加賀「(赤城さん)」
赤城「(ええ)」
響「…………」チラ
摩耶「そんなことが、出来るのか?」
神通「……夕立ちゃんは?」
長門「今提督が拘束している……」
鈴谷「無事、なの……?」
長門「……すまない。これ以上のことは私の口からは説明出来ない……」
鈴谷「何それ……。どういうこと?」
長門「近く、提督自ら説明があるだろう。それをみんなには待ってほしいとのことだ」
一同「………………」
北上「あの、気になることがあるんだけどさ」
北上「アタシたちも、深海棲艦に操られる可能性はあるの?」
叢雲「それって……」
響「今のところ、その可能性は低いと思う」
神通「どうしてですか?」
金剛「そもそも、今回の南西諸島海域での一件も夕立によるものだからデス」
金剛「操るなら、そのタイミングが望ましいはずデショウ……」
鈴谷「今操られてないことは証明にならないんじゃ?」
長門「不安なのはわかるが、憶測で話を進めるのはよそう」
長門「目下の危険はない。何より、今の私たちに出来ることはないんだ……」
長門「どうか、頼む…………」
鈴谷「…………まあ、長門さんがそう言うなら……」
摩耶「煮え切らねぇけど、わかったよ」
天龍「……みんなの様子、見てくる…………」
叢雲「妖精さんに、修理をお願いしてくるわ……」
長門「ありがとう……」
北上「ま、緊急時にアタシらが騒いでもしょうがない、か。やれることはやりたけどね」
響「みんな、同じ気持ちだと思う」
北上「そだね。大人しく、待機してるよ」
神通「行きましょう」
利根「吾輩と時雨は、どうしたらよいのじゃ」
長門「みんなと一緒に、待機していてくれ。神通」
神通「わかりました」
スタスタ
加賀「……」
赤城「あの……」
長門「なんだ」
赤城「今し方説明したことは、知っていることのすべてではないですね?」
長門「まあ……な。先程、直接提督と会ったのは私たちだけだ」
加賀「その情報を伏せる意図は?」
長門「無用な混乱を避けるためだ。それに、私たちにもわからないことが多い……」
響「私たちと同じ疑問をみんなが持っても、何も進展しない。何より、司令官がまだそれを望んでない」
赤城「なるほど……」
響「でも、何か打ち明けたいことがあるなら、聞くよ」
赤城「!」
加賀「……お見通し、というわけですか」
響「司令官に関することだね?」
赤城「はい……。皆さんは?」
長門「共に背負わせてもらおうか」
金剛「No problemネー!」
赤城「ありがとうございます。皆さんにお話しておきたいことがあります」
赤城「加賀さん」
加賀「はい」
加賀「実は――――」
―――
――
―
―救護室―
提督「……」
救護妖精A「にんげんさん、おけがですか?」
救護妖精B「ちまみれですな」
提督「私ではない。この子を、手当してほしい」
救護妖精B「なんと!」
救護妖精A「あしがもげもげだ」
救護妖精B「とかげさんなら、はえるかも?」
提督「具合はどうだ?」
救護妖精A「かんむすさん、なおせますが?」
提督「本当か」
救護妖精B「ねているうちにぱぱっと」
救護妖精A「まるでようせいのしょぎょう」
救護妖精B「しょぎょうはむじょうですゆえ」
提督「拘束しておくことは出来るか?」
救護妖精A「できるとこたえられるかなしさ……」
救護妖精B「かのうせいはむげんだい……」
救護妖精A「じゅんかんろんぽう、たよりないです……」
救護妖精B「だうーん……」
救護妖精A「きっとおきあがれませんな」
提督「頼んだぞ」
救護妖精「「はーい!」」
ガチャ
バタン
提督「!」
長門「提督、少し話がある」
提督「……いいだろう」
提督「全員、部屋に来い」
―司令室―
響「救護室を使ったということは、治療するんだね」
提督「ああ。だが、拘束してもらうよう、妖精に頼んでおいた」
長門「妥当なところだな……」
響「今後については?」
提督「……まずは夕立が目覚めるのを待ちたい」
提督「以後についてはいくらか考えはあるが、今はまだ言えない……」
提督「だがいずれにせよ、みんなにとって快い結果にはならないと思う。それは覚悟しておいてほしい……」
響「…………」
長門「……いや、その答えが聞けただけで今は充分だ」
長門「それから……」
長門「さっきは殺せなどと言ってすまなかった」
提督「いいさ。長門は正しいよ」
長門「っ…………」
提督「……それで、話とは?」
赤城「少しお尋ねしたいことがありまして」
提督「赤城か」
提督「もしかして、強襲揚陸に関連することか?」
赤城「!」
加賀「……気づいていらしたのですか?」
提督「加賀。おそらく君が視ただろう連中からの報告があった」
提督「覗けるということは、同時に覗かれることも意味するからな」
加賀「なるほど」
長門「赤城と加賀から話を聞いた」
長門「帰投後の提督の報告には虚偽があり、“深海棲艦は陸上からやってきた集団に白兵戦によって討伐された”とのことだ」
長門「……本当なのか?」
提督「間違いないな」
響「そして司令官は、夕立を単身で制圧したとも言っていた。加えて今の発言からも、その集団とは繋がりがある、ということだね?」
提督「ああ」
加賀「提督。あなたは、何者……?」
提督「…………」
提督「私は、ここに着任する以前、陸軍に身を置いていた」
赤城「陸軍……」
金剛「But,私たちが知っているArmyは……」
加賀「そうね。私が視たその陸軍の士官たちの動きは、およそ人間業ではなかったわ」
提督「確かに。かつての陸軍は銃火器では戦っても、優先的に刃物で戦ったりはしないし、艦娘や深海棲艦を圧倒するほどの身体能力などなかったのだろう」
提督「だが、それが俺たちだ」
金剛「……!」
響「でもそれだけの技能があるなら、それは勿論行使されているということだね?」
加賀「……あなたたちは、何と戦ってるの?」
提督「人ではないもの……」
提督「大樹と呼ばれる、化物たちだ」
響「……大樹」
提督「今、陸の広範囲は森に覆われている。大樹と呼ばれる樹状の何かが、群れを成して人類の活動領域を海側へと追い立てている」
提督「こいつらに対抗する戦力が、俺たち、陸軍だ」
長門「……人々は、どうなっている?」
提督「戦いながら生きているよ。数は少ないのだろうが……」
赤城「そんな…………」
加賀「なぜ、私たちには知らされていないの?」
提督「俺も今まで“なぜ知らせてはならないのか”を知らなかった。が、それはつまらない理由だったよ。可能なら、話したくはない」
加賀「…………」
金剛「提督は、私たちからの連絡を受けた段階で、陸軍の部隊を要請したのデスネ?」
提督「その通りだ」
長門「そして夕立を…………」
提督「ああ……」
一同「…………」
響「………………それでも私たちは、戦い続けなければならない、と」
提督「無論だ」
響「私は絶対に、逃げないよ」
提督「!」
響「私にも、かつて守りたいものがあった」
響「私は私の役目を終えて、海の底に、眠った……」
響「そして今、再び必要とされて存在してる」
響「私は思うんだ」
響「今がいつだとか、此処がどこだとか、そんなことよりも……」
響「今、此処に、私が在るということを大事にしたい」
響「私は私自身によって、自分の生に意義を与えたい。そう、思う」
響「だから私は、私自身のために、そして私と関わるすべての人のために、戦い続けるよ……」
長門「響……」
加賀「ええ」
赤城「間違い、ないですね」
金剛「私も、みんなには負けないネー!」
提督「……みんな、ありがとう」
提督(お前たちの意志は、決して嘘偽りなんかじゃない)
提督(夕立…………)
――――――――――
―救護室―
提督「失礼する」
救護妖精A「かんむすさんとにんげんさーん!」
救護妖精B「おみまいだー」
提督「夕立……」
提督「…………治療は、まだか」
救護妖精A「かんむすさん、おきあがれませぬゆえ」
提督「!」
提督「これで治っていると……?」
救護妖精B「なおしましたが?」
提督「……確かに、欠損どころか傷ひとつ見当たらないが…………」
提督「だがなぜ目を覚まさない?」
救護妖精B「へんじ、ないです」
救護妖精A「ひきこもりですな」
提督「夕立…………」
提督(やはり、こうなったか……)
長門「提督……」
提督「一旦、出よう……」
ガチャ
提督「みんなに、お見舞いに来てもいいと伝えて欲しい」
提督「もし夕立が目覚めたら、すぐに連絡してくれ」
金剛「提督は?」
提督「私は、少し考えたいことがある……」
提督「夕立の処遇を決定した段階で私の口から本件の説明はするが、他の艦娘に聞かれても答えてしまって構わない」
提督「隠せるものでもないからな」
提督「まだ入渠を済ませていない子も多いだろう。今は身体を休めることを第一に考え、待機していてくれ」
長門「了解した」
スタスタ
長門「あの様子だと、諦め切れていないのだろうな……」
響「司令官には少し、時間が必要なんだと思う」
加賀「今は私たちがみんなの不安を取り除きましょう」
響「そうだね」
赤城「金剛さん、何処へ?」
金剛「……夕立の部屋に、お花を飾ろうと思いマス」
赤城「私も、手伝いましょう」
――――――――――
―司令室―
提督「…………」
提督(今まで俺は、何のために戦ってきた……?)
提督(人類の生活圏の確保……。当然のことだ。初めはずっと楽なものだった)
提督(戦いと呼ぶには随分と一方的で、自分たちの活動の先に人のより大きな未来があると信じて疑っていなかった)
提督(だがあの事件以来、大樹の侵食速度は劇的に拡大した。それからだ。俺の戦いが始まったのは……)
提督(そこからだ)
提督(信頼に足る仲間を、失うことになったのは…………)
提督「くそっ!!」
ダン!
提督(なぜだ…………どうしてなんだ………………)
提督(いや……)
提督(わかっている…………)
提督(仲間を亡くしたなら、俺がより強くなれば良かった。誰かが弱ければ、俺が鍛えれば良かった)
提督(そこに在ったのは単なる力と技巧だ。大樹は地を喰らい人を侵し、俺たちはそれを狩る)
提督(過誤は常に因果的に説明出来た。責の在り処は、己が引き受ける。ならばやることは単純だ)
提督(“明日”に生きるために、“今”の己を変えてゆく)
提督(だが…………)
提督「夕立……」
提督(そもそも俺は、お前を救うことが出来たのか…………?)
提督(もっと他の方法があったのか)
――違う。
提督(或いは、こうなるより以前に、解体を)
――――違う!
提督(俺はお前を救えなかった…………)
提督(わかっている……。でも、なぜ……?)
提督「…………………………」
提督「ああ…………。そうか……」
提督(俺は、夕立を…………)
提督(どうしようもなく、救いたかったんだ)
提督(そして、今も………………)
提督(だから、か……)
提督(だからなのか)
提督(この、わけのわからない、“これ”は…………)
提督(結局、解体すれば良かったのだと、そう結論を下せないのは――)
提督(それだけ、共にいたことを大事に想っているからだ)
提督(それなのに)
提督(彼女と過ごした時間は紛れもなく本物だったと、そんなささやかで当たり前の認識すら揺らがされて……)
提督(……深海棲艦。貴様らは…………)
提督(夕立の、最も大切な、心を)
提督(その“聖域”を)
提督(侵略した)
提督(人類の未来? さらなる繁栄?)
提督(戦いにそんな大義名分はいらない。俺は俺自身のために)
提督(深海棲艦を――――)
「滅ぼす」
提督「………………」
カチャ
提督「今、いいか?」
ピー
陸軍大将『どうした?』
提督「深海棲艦の同時襲撃事件について、おおよその真相を掴んだ」
陸軍大将『そうか。だがそれは私の管轄ではないが?』
提督「あの男には報告したくない。気に食わない」
陸軍大将『どうするつもりだ?』
提督「こちらの判断で一切にケリをつける。協力して欲しい」
陸軍大将『内容を言ってくれないことには判断しかねる』
提督「端的に言って、艦隊内に内通者がいた。だがこの子をあの男の元に引き渡したくはない」
陸軍大将『……お前が一個人にそこまで執着するとはな』
提督「これは俺の問題だからだ。彼女の扱いに関しては俺が判断を誤った。だから俺が始末するまでだ」
陸軍大将『御託はいい。それで?』
提督「解析学者を紹介して欲しい」
陸軍大将『何だと?』
提督「深海棲艦によって鹵獲された艦娘が人格構成のプログラムを書き換えられ、出撃中に情報を送受信し、今回の事件は起こった」
提督「そして深海棲艦の命令が艦娘に影響を与えたのだとすれば、向こうはそれを翻訳する術を持ち合わせているはずだ」
提督「ならば当然、レシーバーとなる艦娘にはその翻訳プログラムが、奴らによって植えつけられていることになる」
提督「こいつを解析させる」
陸軍大将『本気か? 自分の部下である艦娘を、被験体として研究に差し出すなどと……』
提督「だから言っただろう。これは俺の問題だと。そこに、余計な感情など……ない」
提督「だが何から何まで引き渡すつもりもない。解析には俺も立ち会う」
提督「深海棲艦の解析の成果は芳しくないそうじゃないか。ここまで協力すると言っているんだ。是非もないはずだが?」
陸軍大将『それだけの大義名分があるなら、元帥殿の許可は通るはずだ』
提督「なら、あの男にはこう伝えておけ。余計なことをすれば今すぐに貴重な被験体を殺すとな」
提督「実際のところ、殺さずに捕獲するのは結構骨が折れたんだ。これが軍組織なら勲章ものだろう」
陸軍大将『なるほどわかったよ。そこまでの覚悟があるというなら、いいだろう。手配してやる』
提督「恩に着る」
陸軍大将『研究者はお前が配属された鎮守府から直近の鎮守府にいる』
陸軍大将『陸路に関しては問題ない。陸軍の手が充分に入っている場所になる』
陸軍大将『艦隊はどうするつもりだ?』
提督「艦娘に引き継がせる」
陸軍大将『ならばそちらは任せた。今すぐデータを送る。健闘を祈るよ』
提督「ああ」
ツー
提督(……夕立の機能障害は妖精に“故障”や“欠陥”として認識されなかった)
提督(彼らに頼るのはもう無理だ。後は直接解析すれば、夕立を治療出来るかもしれない……)
提督「ふ…………」
提督「俺も少し、疲れたな……」
―――
――
―
今宵はここまで。
まさか1ヶ月も費やすとは思いませんでした。
またしばらく忙しそうなので投稿しました。本当はもう少し進めたかったです。
次回はエロパート。多分R-18になるので注意。
更新日は未定。とりあえず月末を目標で。
お疲れ様です。
何だか2週間前が2ヶ月くらい前のことのように思えます。
次の投稿は9月10日までに何とか目処を立てます。よろしくお願いします。
お疲れ様です。
進捗ダメです。ごめんなさい。
書き溜め自体は約30レス分ありますが、それらは更新すべき箇所からの直近の記述ではないため投稿出来てない感じです。
所謂、書きたい所から書くというヤツの弊害ですね。
私事は現在恐ろしく充実していますが、SSを書く上で忙しさとは敵でしかないでしょう。
既に今月中の更新は厳しそうです。が、もう少し頑張ってみます。
―早朝・司令室―
提督「全員……揃ったか」
提督「実は、だな……」
提督「夕立に関する問題で、しばらく鎮守府を空けることになった」
提督「今後の方針が決まり、状況の整理もついたので、今までのことについてすべて説明させてほしい」
提督「その前に、ひとつだけ……」
提督「……本当に、申し訳ない」
一同「…………」
天龍「顔を上げてくれよ提督」
天龍「話は、全部聞いてるぜ」
天龍「オレたちの気持ちはもう決まってる。なぁ?」
吹雪「はい!」ニコ
天龍「行ってこいよ! 今更、水臭ぇな」
提督「天龍……。みんな……」
提督「不在時の監督は……」
長門「私か?」
提督「長門……」
長門「夕立に代わって旗艦を任されてしまったからな。あれはまだ、生きているのだろうな?」
提督「あ、ああ……その通りだ。長門と、響。2人に頼もうと思っていた」
長門「そのことなんだが……」
長門「私と金剛に、この鎮守府を任せてほしい。我々も、提督が出向くことを承認する」
長門「但し、1つだけ条件がある」
提督「条件……」
長門「響」
響「ん……」
響「司令官、私も連れて行ってほしい」
提督「!」
響「………………」ジッ
提督「………………」
響「2人が、心配なんだ」
提督「そうか……。わかった、いいだろう。こちらも、それで承認する」
提督「金剛、長門。後のことは、頼んだぞ。具体的なマニュアルは私の机に纏めて置いてある」
長門「任せろ」
金剛「大丈夫デース!」
提督「みんなも、頼む」
吹雪「司令官!」
提督「?」
吹雪「夕立ちゃんを、どうか……!」
提督「ああ」
提督「必ず、連れて帰ってくる」
―――
――
―
―研究施設正面―
提督「着いたぞ」
響「……」コクン
提督「夕立を、降ろしてあげよう。手伝ってくれ」
響「わかった」
ガシャン
??「ようこそ」
提督「どうも、初めまして。あなたが、この鎮守府の司令官……」
??「そんなに畏まらなくて結構よ」
榛名「私のことは榛名と呼んでくれていい。気楽にいきましょう」
提督(ハルナ……?)
榛名「……そう。あなたが、あの鎮守府に……」
提督「なにか?」
榛名「いえ、あそこの提督とは以前交流もあってね。少し思い出しただけよ」
提督「私の前任者のことか?」
榛名「そうね……。ま、いいわ」
榛名「被験体はそちらのエレベーターから3階に上がって直近の部屋に運んでおいて」
榛名「私は、あなたと、少し話がしたい」
提督「響、頼めるか?」
響「大丈夫。私は、夕立と部屋で待ってるね」
榛名「狭いから、私たちは階段を使いましょう。案内するわ」
―司令室―
ガチャ
提督「!」
提督(大和型……)
榛名「適当に掛けてくれていいわ」
榛名「まずは自己紹介といきましょうか」
榛名「はい、名前だけ、名乗って」
??「え? アタシから? えと……」
北上φ「北上様ですよーっと」
加賀δ「加賀よ。……あなたも提督なら、『加賀』くらいは見たことがあるのでしょう?」
加賀δ「私の構成確率は、極端に低くはないのだし、名乗る意味なんてあるのかしら?」
榛名「形だけ」
北上φ「ちょっとちょっとー。そんなこと言われたら私の立つ瀬がないじゃないのさー」
北上φ「一体今までに何人の自分を見てきたことやら……」
北上φ「みんな改修に回されちゃったけどさー。まあ、仕方ないよねーあはは!」
提督「…………」
武蔵「戦艦、武蔵だ」
大和ζ「大和です」
利根η「利根じゃ。……おやすみなさい」
武蔵「客人の前だぞ。寝るなみっともない」
利根η「んぅー」
翔鶴「翔鶴です。あの、何だか騒がしくて、ごめんなさい」
提督「……随分手厚い歓迎だな。物凄い戦力だが、私に誇示する意味はないぞ」
榛名「彼女たちは飾りではないわ。その話もこれからしましょう」
提督「しかし、こう言っては失礼だが、歴とした提督なんだな、君も」
榛名「…………」
提督「君は、元艦娘だろう?」
榛名「ええ、そうね。元艦娘……と呼ぶべきなのかしら? まあ艦娘でなくなったわけではないけれど」
提督「そんな君が、研究を?」
榛名「その通り。でも別に不思議がる程のことでもないでしょう。これも1つの復讐のカタチよ……」
榛名「私の、大切な友人を奪った、奴らへの…………」
提督「……」
榛名「さて、早速本題に移りたいのだけど……」
榛名「私の昨今の研究はほとんど深海棲艦の性能研究にシフトしている」
榛名「というのも、あなたもご存じの通り、生態研究は完全に停滞しているのよ」
榛名「あいつらの個体の情報障壁を突破出来なくてね」
榛名「一応エフィメラも使ったんだけど、根本的に互換性がないらしくて、エラー吐き出しちゃって打ち止め」
提督「エフィメラを? 誰でも使用出来るものなのか?」
榛名「まさか! あんなの最高レベルの機密に決まってるでしょう」
榛名「現行の海軍元帥が管理しているし、彼の部隊しか使用権限はないわ。回線も割り込めないようにプロテクトが施されてるし、私が特別なだけ。成果を認められてアクセス権限を与えてくれたけれど」
榛名「ともかく、この不可解な状況から推察するに深海棲艦は一見、私たちの言語体系から完全にスタンドアローンな構成に基づいて活動しているように思えるけれど、どうもそうでもない」
榛名「というか、それはあり得ない」
提督「…………彼らが人類の言葉を、理解しているから?」
榛名「へぇ。報告にあったことは本当みたいね。それとも単に、あなたの頭がいいだけ?」
提督「奴らは艦娘の人格構成に割り込める」
榛名「ええ。あなたたちが遭遇した状況については私も概ね理解しているつもりよ」
榛名「でもこちらからは割り込めないの。このことはおそらく、彼らを“産み出した者たち”の言葉が、それほどまでにこちらから遠いということなのでしょうね」
提督「妖精とは別の……?」
榛名「そう。そして、そこには何かカラクリがあるはず」
提督「なるほど」
榛名「あなたが私と同じ結論に辿り着いたことは後で確かめさせてもらうけれど、私があなたと同じ結論に辿り着いた根拠も、あなたに示すべきだと私は考えるわ」
榛名「見せたいものがあるの。ついてきて」
榛名「大和たちも」
大和ζ「はい」
――――――――――
―部屋―
ゾロゾロ
提督「ここだけ、作りが頑丈だな」
榛名「大事なものだから、ね」ニヤ
ガチャン!
榛名「どうぞ、入って」
榛名「ここが私の、コレクションルームよ」
スタスタ
提督「これは…………!」
榛名「大丈夫。何かあれば、大和たちが動くわ」
榛名「それに、こう見えて、艦船形態には容易に移行出来ないように細工が施されているの」
戦艦タ級「ア……」
戦艦タ級「……今日ハ、何ノ用?」
榛名「あなたたちの存在を紹介しておきたい方がいてね」
戦艦タ級「随分モノ好キナ輩モ、イルンダネ……」
戦艦タ級「……見ナイ顔。オマエガソウナノ?」
提督「ああ。貴様らから情報をもらいに来た」
戦艦タ級「トンダ無駄足ヲ……。御苦労サマ」
空母棲姫「……ナンダ騒々シイ」
榛名「あら起きたの? おはよう」
空母棲姫「チッ……。寝カセテクレ、眠インダ」
榛名「つれないわね。ふふ……。また久しぶりにあなたをいじめてあげたいのだけれど」
空母棲姫「死ネ、失セロ。淫魔メ」
榛名「この子を捕えるのは大変だったわ」
榛名「でも苦労した分、とても気に入っているのよ?」
空母棲姫「穢ラワシイ、触ルナ……」
榛名の手が磔にされた空母棲姫の胸に伸びる。
そのまま彼女は棲姫の乳房を鷲掴んだ。
空母棲姫「グ……ッ」
榛名は爪を立てるようにして、強く指を食いこませ揉みしだく。
棲姫の顔が苦悶に歪む。
榛名「うっふふ! 痛かったよね、ごめんね? 今、優しくシテあげる」
空母棲姫「ヤ、メ…………」
そう告げると榛名は、棲姫の右耳をしゃぶり始めた。
榛名「はむっ……ん…………ちゅ……ぁ…………ちゅ……」
耳から首筋、鎖骨へ、時折歯を立て淫猥な音を奏でながら愛撫していく。
襟元を払い除け、棲姫の豊満な胸を露わにしたが、榛名の手は脇と腹を行き来するばかりで、胸に触れない。
空母棲姫「ウッ…………ク……フ、ゥ…………ン……」
榛名「あは。そんなに身体を捩って、どうしたのかしら? くっふふ」
榛名「大丈夫。口でシテあげるから」
そう言うと榛名は乳首にしゃぶりつき、棲姫の纏う布切れの上から秘部をなぞり始めた。
棲姫の指先と足がビクつく。
徐々にその呼吸にも熱を帯びていく。
空母棲姫「ハァ……ハァ…………ァ……ハ」
榛名「どうして脳はくすぐったさと性感を誤認するのだと思う? 興味深いテーマだと思わない?」
空母棲姫「ゥ……フッ……ハ…………ァ……グ」
榛名「あはは! 口ではあんなこと言ってたけど内心期待してたでしょう? 少し濡れ過ぎ……」
榛名「今から直接、いじってあげるわ」
??「見苦シイカラヤメナヨ、雌豚」
榛名「」ピク
??「オヤァ。脳足リンノ淫獣デモ僕ノ言葉ハ通ジルヨウダ。キャハハッ!」
榛名「……チッ」
榛名「前も途中で邪魔してくれたわね。本当に、お前を捕えてからいいことがないわ、レ級」
戦艦レ級「マータソノセンスノ欠片モナイ名前デ僕ヲ呼ンデクレテ光栄ダヨ提督。オナニーナラ自室デスルノガ賢明ダ」
榛名「この子と過ごす時間を台無しにしてくれて、ありがとう」
提督「なんだ、こいつは?」
榛名「戦艦レ級。南方に出現した強力な深海棲艦ね」
提督「……こいつらに、拷問を?」
戦艦レ級「ハハ。僕ハ痛ミヤ苦シミナンテ、ソンナ高尚ナモノニ支配サレテハイナインダヨ」
榛名「何度かやってはみたけど無駄だった。見ての通り、捕えられる船はすべて鹵獲して、戦闘データに役立てるくらいしか今は出来ることがなかったのよ」
戦艦レ級「デモ君、僕ノ上位種ト大戦艦共ヲ、マダ捕マエラレテナイヨネ? 無能ダヨネェ?」
榛名「ッ!」
ガッ!
戦艦レ級「ガァッ!」
ゴス!ガスッ!バキッ!
戦艦レ級「グッ、ギ。ギヒヒッィ! イーヒヒヒヒヒッ、イィーヒッ! アー、オ腹痛イ! 苦シイヨホホホホォッ!!」
榛名「糞が……」
大和ζ「……いい加減、一遍殺してやりましょうか?」
榛名「いつものことじゃない。もう耐えきれなくなったの?」
大和ζ「いえ……」
加賀δ「少しは捕まってしまった自分の無能さを、呪ってみてはどうかしら?」
戦艦レ級「ハッ! 僕ノ代ワリハ幾ラデモ存在スルシ、何ヨリ僕ガ捕マッタナラ他ノ同種個体モ例外ジャナイ……」
戦艦レ級「僕ニ責任主体ヲ求メラレテモ困ルンダヨ。相変ワラズ発想ノオメデタイ女ダナァアハハァ!」
北上φ「痛み苦しみには、支配されてないんじゃなかったのー?」
戦艦レ級「ケヘッヘヘヘヒッ! 君ラ10秒以上モ前ノコトモ、チャント覚エテイラレルンダネェ! 天才的頭脳ダァ!」
ゴッ!ガッ!ゴスッ!
戦艦レ級「アヒィ! アーッ! ダレカダスゲデェ! 笑イ死ヌゥウ゛! 息ガァハハッ! ハヒィ―ヒヒヒッ!!」
北上φ「ホーントむかつくわぁ、コイツ」
翔鶴「……蹴るだけ無駄よ」
武蔵「くだらん」
利根η「すぅー……くー。すぅー……くー……」
戦艦レ級「ウォッホホホォヒヒヒヒッ!! グッ、オエェェ……」
榛名「…………見ての通り、彼らは私たちの言葉を解するの。でも肝心なことは今まで何もわからなかった……」
榛名「出ましょう」
お疲れ様です。
キリは悪いですが今宵はここまで。
更新遅すぎですが、何とか頑張ります。
次もいつになるかわかりません。ただ投稿量は少なめでいこうと思います。
ごめんなさい。
乙
朝に見つけてから一気読みしちまったよ
続きを待ってる
ガチャン
スタスタ
榛名「あら?」
提督「!」
??「あ……」
榛名「どうしたの、榛名? 演習は終わった?」
榛名γ「ぁ、はい……。お疲れ様です。無事終了致しました」
榛名「そう。報告書、忘れずにね」
榛名γ「はい。失礼、致します……」
榛名γ「……」チラ
提督「?」
榛名γ「ぁ、ぅ……」
タッタッタ
提督「……」
榛名「部屋に戻るわ」
提督(…………同じ顔、同じ名)
提督(なるほど確かに、異常空間だな)
―司令室―
榛名「大和以外は別室で待機」
榛名「予定通りに。何か不都合があれば陸奥と調整してちょうだい」
北上φ「りょうかーい」
ゾロゾロ
ガチャン
榛名「はぁ……」ギシ
ジュッ
榛名「すー…………」
榛名「ふぅ……」
榛名「あなたも、1本どう?」
提督「結構だ」
榛名「あら残念。ま、おヤバイ草も入れてあるけど、ふふふ……」
提督「大丈夫なのか?」
榛名「当然でしょう。艦娘は内分泌系も循環器系も神経系も、その個体の意志の制御下にある。自覚的に操作出来るよう指導も行うけれど、大抵の子は無意識にやっているようね」
榛名「それだと効果が薄いから、付き合いの長い訓練された子には私から教えているけど。無論、エタノールの血中濃度なんかも、例外ではないわ」
提督「化合物を体内で生成することは?」
榛名「出来なくはないけど、操作は面倒だし、それに……」
榛名「草を乾かして巻いて火をつけて吸う。そういう一連のプロセスや所作に価値を感じなくもないのよ」
榛名「特に、私たちは自らの肉体に対して全能に過ぎるから、外的な影響や固定された様式によって敢えて自分を規制したくなる。そういう欲求はあるかもしれないわね」
提督「…………」
榛名「いずれにせよ、あの憎たらしい悪魔に茶々を入れられた以上、酔いでもなければ憂さは晴れないわ」
提督「酩酊などなくても、意志でどうにでも出来るのだろう? 最終的にその酔いも力によって打ち消すなら、同じことじゃないか?」
榛名「馬鹿ね。それすら省いたら私たちはただの機械よ。肉体を含意した自己意志に関して絶対的な自由を与えられてる私たちには、どうしても自己規定が必要なの」
提督「人間であるための?」
榛名「そうよ。……なんだ、わかってるんじゃない」
提督「ふっ……。私たちと同じだな」
榛名「?」
榛名「そうか……。そういえば、そうだったわね」
榛名「私を試すような真似をして…………。下衆な男」
提督「1本貰うぞ」
榛名「どうぞ」
ジュッ
提督「ふぅ………………」
榛名「陸軍ではどうだったの?」
提督「答えられない」
榛名「別にいいじゃない。私は黎明期の1人だから、何となく状況は察しているわ」
榛名「ほんの雑談よ」
提督「……内地では戦いがあるだけだ。こちらとそう変わりはしない」
提督「仲間はそう簡単には増えないし、娯楽もない。せいぜいが旧時代の情報を漁るくらいだ」
提督「断片化してしまっていて、あまり成果は芳しくないが……」
提督「しかし知識としてでも文化に触れる機会があったのは、僅かな慰めだったのかもしれん」
提督「まあ、こちらに来てみれば君たちの方が遥かに文化的で、驚きもしたが」
榛名「私たちには記憶があるからね」
榛名「妖精のおかげで」
提督「妖精…………」
提督「…………」
提督「気になることがある。1つ、いいか?」
榛名「なに?」
提督「……妖精に解析を任せるということは?」
榛名「勿論試した。彼ら妖精たちは解析に関して『できる』と言ったわ」
榛名「でも事実上出来なかった」
榛名「一方で彼らが“嘘をつく”という行為にモチベーションを持つか、ということには相当程度の疑問がある」
榛名「……彼ら、どうやって解析したと思う?」
提督「さぁな」
榛名「深海棲艦の額に手を当てて、『できましたー』って言ったのよ?」
榛名「さすがに笑ったわ」
榛名「でもその解析結果は教えてくれなかったし、記述することを求めても拒否されたの。『むりむりだー』ってね」
榛名「あとは……行動規則の直接改変をお願いしても、やり方がわからないとか言われたかしら」
榛名「でも……」
榛名「深海棲艦の建造をお願いしたらあっさりやってのけた」
提督「興味深いな」
榛名「彼らは万能なようでいて、可能なことと不可能なことがあるのは確か。そしておそらく妖精は、彼らの宣言通り“深海棲艦の解析”を実行出来るのだと思う」
提督「解析出来なければ建造は出来ない……。だが教えられない。深海棲艦の肩を持っているわけでもない。となると……」
榛名「私は“翻訳”が出来ないのだと結論付けたわ」
榛名「まあ、消去法は探求の仕方としては地道だけれども確実性が高い。でもそれほど悠長にしていられるわけでもない」
榛名「だから妖精についてはよくわからないの。捕獲も出来ないし、殺せないし、というか勝手に消えては勝手に現われるし、無茶苦茶ね……」
榛名「…………さて、そろそろ依頼を遂行しましょうか。大和も」
大和ζ「はい」
―研究室―
ガチャ
響「司令官……」
榛名「ごめんなさい、遅れてしまって。早速だけど被験体を診せてもらえるかしら?」
提督「響」
響「わかった……」スッ
榛名「ありがとう」
スタスタ
榛名「っ!?」
提督「?」
榛名「(そん…………な……、まさ、か………………?)」
提督「どうかしたのか、榛名」
榛名「いや、なんでも、ない……」
榛名(………………)
榛名「ひとまず、解析に移るわ……。少し待ってて」
――――――――――
榛名「…………………………」
榛名「なるほど……」
提督「どうだ?」
榛名「……あなたの読みは、正解だったようね。確かに、これは……そうか…………」
榛名「報告を受け取った時は半信半疑だった。でも奴らはこの子をスパイとして成立させるために、かなり手の込んだことをしている」
榛名「まず艦娘の情報障壁を突破して、私たちの言語で改竄を行うことで艦娘を艦娘として成立させている」
榛名「障壁の突破方法は……おそらく代用弾を構成する時と同じ手法ね」
榛名「そして深海棲艦からの命令信号を絶対化するために、最優先の行動規則は翻訳を通したものに限定をしている……」
榛名「そう、そうね……。このプロセスがなければこの子に翻訳アルゴリズムを入れる必要はなかった……」
榛名「幸いログも残っている。見たことないコードだけれど、でもこれなら…………いける」
榛名「ごめんなさい、まずは言語解析から進めるわ。この子…………夕立の状態も気がかりではあるけれど、この子は後で私が必ず何とかする。約束よ」
提督「そうか、ありがとう」
大和ζ(提督…………いつもと、何か……?)
榛名「今まで駄目元で解読プログラムを作っていたけれど、これなら費やした膨大な時間は無駄にはならなかったみたいね。少しの修正で済むからすぐに終わるわ」
響「あの……」
榛名「うん?」
響「手を、握ってあげても、いいかな?」
榛名「うん、お願い」
響「ん」ギュウ
榛名「(ありがとう……)」
響「え……?」
榛名「いえ、何でもないわ……」
大和ζ「…………」
榛名「大和」
大和ζ「はい」
榛名「戦艦タ級にヘッドギアをつけてきて。必要なら待機中の第一艦隊を呼んできてかまわない。準備が出来次第、報告を」
榛名「このまま生体クラックに入るわ」
大和ζ「了解」
スタスタガチャ
榛名「さあ、いよいよね……」
ピー
榛名「こちら研究室」
大和ζ『大和です。クラック準備、完了致しました』
榛名「ありがとう。念のため、抵抗しないかだけ注意して」
大和ζ『了解』
榛名「始めるわ……」
榛名「情報障壁、解読開始」
榛名「……第一障壁、突破。攻性防壁、防壁迷路、共になし、クリアー」
榛名「トラップなし…………」
提督「……」
響「……」
榛名「………………」
榛名「障壁、解読完了。戦艦タ級の基幹プログラムにアクセス。翻訳開始。トレースシステム、オン。保存開始」
提督「これは……」
響「司令官、わかるのかい?」
提督「多少はな」
提督「これはおそらく、夕立に残っていたログから構成したプログラムをさらに最適化するために、翻訳のプロセスそのものをログとして記録しているのだと思う」
榛名「……ご明察。さすがね」
提督「すごい速さだ」
榛名「某所から演算能力を借りてるの。こういう状況になれば、アレの威力は絶大ね」
榛名「……記憶領域、解析完了」
榛名「なるほど…………」
提督「どうした?」
榛名「この可能性を考慮しなかったわけではないけれど…………」
榛名「当該の戦艦タ級は別の深海棲艦からの指示を受けて行動している。誕生してすぐに、出撃している……」
提督「保持している情報が乏しすぎるのか」
榛名「もっと色々な個体を調査する必要があるけれど、やはり指揮系統の上を狙わないと有意な情報は得られそうにないわね」
提督「他には何かないのか?」
榛名「……とても古そうなイメージデータが残ってる。酷く粗い……。陸? 人……かしら?」
榛名「こちらは少し解析に時間が掛かりそうね」
榛名「新しい方のデータには、そうね……。私が一番期待していたものは映ってないわ」
榛名「……それでもやはり、妖精がいるわね」
提督「何処に?」
榛名「…………海の、底よ」
榛名「だからきっといるはずなの」
榛名「深海棲艦を指揮する、“ヒト”が……」
今宵はここまで。
もう少しで終わるはずなんですけどね、なかなか思うように進みませんねー。
>>585
ありがとうございます。嬉しいです。
このSSもうすぐ1年になってしまう(驚愕)のですが、一気読みすると一体どんな感じなんでしょうかね?
ともあれ地道に頑張ります。
お疲れ様です。
今月末20日から28日までの間のどこかで1度投稿します。
よろしくお願い致します。
明けましておめでとうございます。
明日まとまった時間が取れそうです。
今年もよろしくお願い致します。
提督「彼らは、何らかの意志によって産み出されたということか」
榛名「そうね。でも目的がわからない。私たちに敵意があることは確かだけど」
提督「データでは陸上への襲撃は活発とは言い難いな」
榛名「でもね、気になる情報もあるの」
提督「なんだ?」
榛名「もう随分古い記録で、埋もれていたのだけれど、一度深海棲艦の航空機が…………。どう、表現すればいいのかしら……」
榛名「彼らは明らかに陸を目指していたようだけれど、墜落したみたいなの」
響「墜落……」
榛名「自爆攻撃、とは言えないし、まあよくわからないわね」
榛名「でもこれでようやく、そうした数々の謎の糸口を掴んだかもしれない」
提督「鹵獲した深海棲艦を、片っ端からクラックする気か?」
榛名「その気もある。でもそれだけじゃない。ゆくゆくはこちらからもスパイを送り込みたいところね」
響「それ、は…………」
提督「……可能なのか?」
榛名「残念ながら現状は無理ね。クラックした個体の内的な制御は確かに可能にはなったけど、それをスパイとして成立させるには私たちはあまりに情報を持っていない」
榛名「でも私としては大きな収穫になった。きっと、人類にとってもね」
榛名「あなたは使命を果たしてくれたわ。私の想像以上に」
榛名「本当に、ありがとう」
提督「礼など……」
榛名「だから、私も、約束を果たしたい」
提督「……榛名?」
榛名「この子は…………あなたの、秘書艦なのね?」
提督「そうだが……」
榛名「私にこの子を……。夕立を、売ってもいいのかしら?」
提督「……どういう意味だ?」
榛名「そのままの意味ね。そもそも、あなたがこの子を連れてきた目的は何? まさか、本気で私に解析させるため?」
提督「………………」
提督「そうだ……」
榛名「とりあえず体裁は気にするのね……。まあいいわ。それが嘘なのはわかっているから」
榛名「どんなにあなたが陸軍で強かろうとも、この子を互いに無傷の状態で捕縛出来るとは思えないからね」
提督(……?)
榛名「とにかく、夕立の目を覚ますには、彼女の“内”を覘くことになるけれど、大丈夫?」
提督「かまわない……。私も、もうそれしかないと思ってる」
榛名「なら、今から準備に取り掛かるわ。……ここで見てる?」
提督「…………いや。少し外の空気を吸いたい……」
榛名「そう? ああ、そうだ。執務室の端末から解析プログラム、見てもいいわよ」
榛名「あなたなら、読めるでしょう?」
提督「いいのか?」
榛名「信用する。バックアップもあるし、最悪、この子が人質ってところかしら。あなたはどうする?」
響「私はここにいる……。もし、夕立が目を覚ましそうになったら、呼びに行くよ」
提督「わかった……」
ガチャン
榛名「……意外と繊細なの? あなたの司令官は」
響「どうだろう……。でもこの子に関しては、特別だと思うんだ」
響「きっと辛いよ。私だって……」
榛名「そう……。あなたはいいの?」
響「うん。私が逃げたら、きっと司令官は目を逸らせなくなるから……」
――――――――――
―司令室―
ガチャン
提督「…………」
提督(天命を待つ……祈る…………)
提督(俺には似つかわしくない行為だ……)
提督(だから、多分……怖いんだ)
妖精A「あらにんげんさんー?」
妖精B「みないかお」
妖精A「しんじんさんだー」
提督「……」
カチャ
カタカタ
提督「これか……」
妖精A「にんげんさんはなにをごらんです?」
妖精B「ぬすみみだー」
妖精A「あたまにつけるといいかも?」
提督「盗み見じゃない……」
提督(こんなに膨大な数のプログラムを…………彼女が……)
提督(これが先程更新したデータか)
妖精B「にんげんさんの、げんごです?」
妖精A「そーすやきそば」
妖精B「やきそばはおかしにははいらぬです」
提督「……これに基づいた信号を深海棲艦に適用すると、彼らの活動を停止させることが出来る」
妖精A「なんと」
妖精B「そんなことが」
妖精A「ぼくらにはできぬです」
妖精B「むりむりだ」
妖精A「にんげんさん、かみさま?」
提督「神ではない。むしろ神に近いのは君たち妖精の方だろう?」
妖精A「いやん」
妖精B「てれますなー」
妖精A「しゅうきょうをつくれー」
提督「…………………………」
提督(確か…………)
提督(代用弾は…………確か、事前に割り出された解析結果に基づいて生体クラックの実行プログラムを弾そのものに実装していた)
提督(だが解析自体に時間が掛かる以上、解析機能を弾に付加することは実用性の観点から棄却されている、ということか……?)
妖精B「どうかしたです?」
提督「妖精さん」
提督「……ここに記述されてるプログラムと同等の機能を、“海”そのものに付加して欲しい」
提督「出来るか……?」
妖精A「あー」
提督(なんて…………)
妖精A「できなくは、ないです?」
提督「……何、だって…………?」
妖精B「でんきではだめかも」
妖精A「しゅつりょく、よわすぎ?」
妖精B「びりびりしますなー」
妖精A「びりびりだ」
妖精A「にんげんさんにんげんさん」
提督「……なん、だ?」
妖精A「おかりしたいものがー」
妖精B「まみず」
妖精A「まみずはもうてんだた」
妖精A「ぐっどあいであしょうをしんてい」
提督「真水……。他には?」
妖精A「ふらすこ」
妖精B「きゃっぷがあったほうがいいかもー?」
提督「真水、フラスコ、栓……。それだけでいいのか?」
妖精A「それだけあればなんとか」
妖精B「のうきにおわれますな」
妖精A「したうけにまるなげしては?」
妖精B「にんげんさんはしばしおまちをー」
テクテク
提督「ぁ…………」
提督(……まさか、本当に…………?)
提督(消えるのか? あの深海棲艦が? こんなにも…………。馬鹿な、ありえない………………)
ガチャ!
提督「ッ!?」
榛名「ちょっと、いいかしら?」
提督「あ、ああ…………」
提督(…………いや、所詮は妖精の戯言だ……)
提督(もし仮に滅ぼうものなら、それは望んでいたことだ)
提督(何も憂うことはない……はずだ)
榛名「思い詰めてるのね……」
提督「……ああ、そうだな…………」
提督「響は?」
榛名「あの子は研究室に残っているわ」
提督「そうか……」
榛名「…………」
榛名「結論を、言わせて頂戴」
榛名「……あの子、夕立のことは、残念だけれど、諦めて」
提督「っ……」
提督「……なぜ、なんだ?」
榛名「彼女の意識に直接呼び掛けたの。でもレスポンスはなかった」
榛名「それがすべてよ」
榛名「だから、解体しなさい」
提督「何とか、ならないのか……?」
榛名「…………」
提督「榛名!」
榛名「……夕立に対して強権を発動することは、出来る」
榛名「彼女の記憶領域に――」
提督「やめてくれ……」
榛名「……」
榛名「ごめんなさい……」
提督「……いや、いいんだ……」
提督「少し、考えさせてくれ……」
榛名「……わかったわ」
ガチャン
提督「…………」
提督(夕立が……還ってこない)
提督(還らない……)
「こんにちは、白露型駆逐艦の4番艦、夕立よ。よろしくね!」
「ここが提督さんのお部屋? なんだか地味っぽーい」
「か、かわいい~~~!!!」
「プログラムに随伴するだけの、余剰物でしかない」
「提督さんも、一緒に入る?」
「えええぇぇ~~~!?」
「私は、あなたに近づくようにプログラムされているに過ぎないの」
「提督さんが夕立を選んでくれたのは、どうして?」
「私、提督さんにもっと頼ってもらえるように、いっぱい頑張るから!」
「今となっては別の命令が私を突き動かそうとしている……」
「……うん。約束……」
「さっき、提督さんと一緒なら大丈夫だって、そう思えたの」
「こうしてると、恋人みたいね……」
「「提督さん」」
「あなたが、好き」「あなたを、殺すことよ」
提督「………………」
妖精A「にんげんさん」
提督「……」
妖精B「おもとめのもの、にゅうかです?」
妖精A「うみにいれるといいかもー」
妖精B「のうどってすてきー」
妖精A「なにもないにならないからべんりかも」
妖精B「とくちゅうふらすこ」
妖精A「かくぜつうちゅうだー」
コトン
提督「……」
チラ
提督(まさか、手元に残ったのがこんな無力な瓶ひとつになるとはな……)
提督「…………」
提督(夕立は、還らない)
提督「だとしてもやはり俺は、赦せないよ……」
――――――――――
―海―
当て所もない足取りで、提督は海岸に辿り着いていた。
仄暗い海原と、雲の僅かな隙間から差し込む光が、男の目には随分と対照的に映った。
懐より件のものを取り出す。
それはやはり何の変哲もない、ただのフラスコだった。
中にはコップ1杯分もない無色透明の液体が入っており、その首はコルクの栓で閉められているだけである。
深海棲艦が憎いということは、確かなことだった。
しかしそれが確かであるがゆえに、今から行おうとしていることの不確かさが、有無を云わさず男を沈黙させていた。
これまで妖精なる存在が為してきたことを満足に理解しているのであれば、そこに疑問などない。
十分に試す価値のある行為のはずだった。
実感は本来的に不要なのだ。
それでもなお、無意味としか断じ得ない思考の循環から、男は逃れられないでいた。
栓を抜くと同時に、小さな風が吹く。
<フラスコの中身を確認し、提督は意を決してそれを海へ投げ入れ――――>
??「それはダメだよ」
声に振り向いた先で、1人の少女が微笑んでいた。
おさげに束ねられた香色の髪、スカートまで白を基調としたセーラー服。ベレー帽には浅葱色のリボンが巻かれている。
可憐ではあるがしかし、その笑みには薄ら寒いものが感じられた――。
今宵はここまで。
大詰め。
1年前より随分と忙しくなってしまいましたが、また来ます。
お疲れ様です。
3月中の完結を目指しています。
頑張ります。
お疲れ様です。
完結とまではいきませんでしたが、3月中に一度更新出来ます。
しばしお待ちください。
提督「お前は……」
??「妖精さんだよ♪」
提督「……人型じゃないか」
妖精?「妖精はみんな人型じゃん」
提督「揚げ足をとるな」
妖精?「納得出来ない? もー! わざわざこの等身で出てあげたのにー失礼な!」プンスカ
妖精?「じゃあ、妖精ということにしておきます」
提督(“しておきます”だと? ふざけているのか)
妖精?「うーん、でも私はエラーの時に呼ばれるから、こう、かな……」
提督「何の話だ」
エラー娘「あなたには関係のない話だーね♪」
提督「…………」
提督(……なんだ、この、威圧感は)
提督(こいつが目の前にいるだけで……何か、不安になる)
提督(存在を、許容したくない……)
エラー娘「まさか体系の根幹を限定的に捻じ曲げようとするだなんて」
エラー娘「まあ、確かにねー。彼らにはそれが出来てしまうから。気持ちはわかるんだけどね」
提督「もう一度、はっきりと問う。お前は何者だ?」
エラー娘「正体知りたいならそっちからまず名乗りなよー失礼な奴だなぁー」ジト
提督「お前は…………俺が何者で、何をしようとしていたか、既にわかっている、気がする……」
エラー娘「へぇ。こんな状況でも冷静なんだね」
エラー娘「でもごめんなさい」
エラー娘「“何者か?”なんて問われても、私はその質問には答えようがない」
エラー娘「私を特定の実在的な何かとして扱われても困るんだ」
提督「……俺はついに幻覚でも見るようになったのか」
エラー娘「そう考えてくれていいと思うよ」
ふいに少女の視線が外れる。
その先を追うと、数瞬前と同じ光景が広がっている。
寸分、違うことなく。
雲も。風も。波も。
すべて、等しく、その動きを停止させていた。
提督「なん……だ…………。これは………………?」
エラー娘「…………<ここ>でのあなたと私の対話はおそらく、1つの出来事の一側面に過ぎない」
エラー娘「一解釈とでも言えるのかも」
提督「俺は、何を解釈している?」
エラー娘「情報を」
提督「……何が起きた?」
エラー娘「あなたはこのフラスコの栓を抜いた。いやーホントによく出来てますねー」
そう語る少女の右手には、提督が今し方持っていたはずのフラスコが収まっていた。
提督「!?」
提督「何をした!?」
エラー娘「あはは! 何も! 何もしてないよ! ちょっと借りただけ」
エラー娘「これを私がどうこう出来るわけではないと思うんだ……」
エラー娘「ただちょっとびっくりさせてみたくて」
提督「………………」
エラー娘「……」
エラー娘「私は、私について大した説明は出来ないけど、私があなたの前に現われたことについては、そうだな……」
エラー娘「言うなれば……」
エラー娘「私はあなたを■■■■■の」
提督(……? 聴き取れない)
エラー娘「そっか……。融け合ってからでは、志向性を独占出来ないのね……」
提督「……融け合う?」
エラー娘「…………」
エラー娘「そうね……」
エラー娘「私との対話という形式を、あなた自身が選び採ったの」
提督「俺が……選んだ…………」
エラー娘「私がこの姿をとったことは、何らかの必然性があったのかもしれないけれど、それは大きな問題ではない」
提督「なら俺が今問題なことを教えてやる」
提督「……俺の認識外からそれを奪い取るなんて、尋常じゃない」
提督「お前は妖精なのか?」
エラー娘「だから妖精さんだって、言ってるじゃない」
提督「妖精はそんな風に流暢に言葉を交わさない」
エラー娘「あはは、これは痛いところを突かれましたね」
エラー娘「確かに、私はそういう意味ではあなたの言うところの妖精ではないかしら」
提督「なら何だ」
エラー娘「■■■■よ」
エラー娘「あら……。これもダメなの」
提督「…………俺に、何か伝えたいことがあるのか?」
エラー娘「まあそうね。それがすべてであるとも言える。でも脇道に逸れることは許されていないみたい」
提督「……それは何によって?」
エラー娘「それもきっと言えない」
提督「……」
提督「話を……」
提督「話を、聞こう」
提督「お前からそれを力ずくで取り返せるとも思えない」
エラー娘「あら? もう降参?」
提督「まさか……。だが好都合ではある」
提督「お前のような胡乱な輩から得られる情報は、さぞかし豊かなものなのだろうな」
エラー娘「随分な物言いね」
提督「お前は……深海棲艦を護る存在なのか?」
エラー娘「どうしてそう思うの?」
提督「何となくだ。そういう可能性もあるだろう」
エラー娘「あれに味方する理由を、私は持ち合わせていないかな」
エラー娘「そもそも、あれらが何なのかすら、あなたは識らないでしょう?」
エラー娘「それともまさか、“深海棲艦は艦娘のなれの果て、その恨み悲しみで人類を襲う”なんて迷信を信じていたりする?」
提督「いや…………。彼らは明確な意志と知性を以って動いている」
エラー娘「そう。そうだね」
エラー娘「怨嗟や怨念で深海棲艦が動くなら、どうして艦娘もそれで動かないんだろう?」
エラー娘「艦娘だけは特別なのかな……。本当なら、海に沈んだすべての船が等しく怨恨を持っていてもおかしくはないのに」
エラー娘「或いはそうした負のモノだけを純粋に抽出して運用している、とか?」
エラー娘「どの案がお好み?」
提督「好みなどない」
エラー娘「あらら……。つまんない答え」
提督「……」
エラー娘「元々ね」
エラー娘「元々、艦娘と深海棲艦は出自が異なるというだけで、その存在はおよそ同種のものなの」
エラー娘「生まれたのは深海棲艦が先だったけど」
提督「……そんな気はしていた」
エラー娘「そうなんだ」
提督「…………あれらは一体、何なんだ?」
エラー娘「そうだね……」
エラー娘「それを説明するには、かつてこの星で何が起きたかを話さなきゃならない」
提督「星……」
エラー娘「そう、この星で…………」
エラー娘「多くの民族が犇めき合い、人口も100億に届こうとした時代があったの」
エラー娘「資源の枯渇による国家機能の破綻、カタストロフィが予見された世界……」
エラー娘「そこで旧人類の一部は限られた資源だけで天を目指した。長い、長い旅。どうなったかはわからない」
エラー娘「そして、星に残った旧人類の中に、さらに既存の肉体を捨ててでも海を目指そうとした者達もいた」
エラー娘「<私>が呼ぶところの第Ⅰ期新人類。彼らが後に生み出すことになるのが深海棲艦」
エラー娘「それでも地から離れられない旧人類のごく一部は、自分たちが恒久的に生存出来る方法を探した」
エラー娘「結論から言うとね、その模索は半分は成功し半分は失敗することになる」
エラー娘「結局、知的生命体の誕生と資源の大量消費は不可分の関係性にあった」
エラー娘「だから彼らは記録だけを残し、大半の文明を捨てることにしたの」
エラー娘「もう、わかるよね?」
提督「………………」
エラー娘「旧人類がこの件に関して大きく舵をきった原因としては……資源問題と人口問題の回避。この2つを手っ取り早く解消出来る新しい技術の開発に成功したから」
エラー娘「人の生命力を“大樹”へと還元する技術と、それを実行する計画の立案。これが一部の人間達によって秘密裏に進められた」
提督「馬鹿な…………」
エラー娘「そう。愚かしいこと」
エラー娘「もちろん、人類の絶対数を削減することで恒久的な生存を勝ち取ることが彼らの目的だったし、何より樹化それ自体に別の意義が見出されてもいた」
エラー娘「彼らは人であることに、限界を感じてた」
エラー娘「でも生き残ったのはもっと狡猾だった人間達なの」
エラー娘「樹化計画を推し進めれば人が滅ぶのをわかっていながら、その抗体を独自に創り上げ、人が死滅した後の世界を独占しようと考える集団もいたのね」
エラー娘「どちらにしても、これは当時の先進国の極限られた者たちによる独断によって遂行された」
エラー娘「多くの旧人類は樹化し……」
エラー娘「人類は、衰退した」
提督「なら、俺が今まで狩っていた大樹は……」
エラー娘「そう。元々は人間。おそらく意識も入ってるんだろうけど、個体という概念はないから気に病むことはないんじゃない?」
エラー娘「あれの生存目的は思索にしかないから、人とは、呼べないんじゃないかな」
提督「奴らがヒトを食らうのはなぜだ」
エラー娘「構造に意味を与えるのは無意味ね。それと、彼らの主食は情報であって人間じゃない。周辺情報は均一に侵食されるの」
エラー娘「でも、あなたたちは別」
提督「……どういう意味だ?」
エラー娘「あなたたちの肉体は情報の純度と密度が高いの。より有意味なの。艦娘ほど高密度ではないにしても」
提督「それを狙って…………まさか、変質した?」
エラー娘「ええ。“味を占めた”といったところじゃない?」
エラー娘「このことは旧人類もある程度自覚していたみたい。艦娘が喰われた場合は、著しい活性化のリスクを伴うってわけね」
エラー娘「大樹に斬撃以外の攻撃があまり有効ではなかったのが結果論だったとしても、あなたたちが駆り出された理由はまず以てそこにあるんでしょう」
提督「だが大樹は妖精を喰らわない」
エラー娘「そう。その妖精が、問題なんだよ」
エラー娘「衰退こそが目的でもあった。だからそれは問題じゃない。最終的に、旧人類は自分たちの天敵を設定することに成功した」
エラー娘「一方で誤算もあったの」
エラー娘「それが、妖精の発生」
エラー娘「あなたは妖精について、どう思う?」
提督「どう……と言われても」
提督「艦娘は神秘的な側面を持つが、その源泉はそもそも妖精だ。彼らについてはまるで説明の出来ないことだらけだ……」
提督「だが旧時代の記憶を持っている艦娘も、彼らはその時代において妖精を観測していないのは確かだ。大樹が発生的なものだとしたら、そこに関係があるという推測は立つ」
提督「そして、お前の話が本当なら、妖精は何ら情報量を持たない存在ということになるが?」
エラー娘「その通り。情報量を持たないから捕食されない」
提督「だがそんなものは観測出来ないはずだ」
エラー娘「或いはそうかもしれないね」
エラー娘「でも大樹の捕食対象にならない理由を、説明出来る?」
提督「それは我々が知らない何らかの要因があるかもしれないだろう」
エラー娘「そうだね。少なくとも今のあなたの認識の外部にその理由がありそうな感じはするでしょう?」
提督「持って回った言い方をするんだな。何が言いたい?」
エラー娘「これが言いたいことのすべて。あれの本質は不可知性にある。ブラックボックスと言ってもいい。でもいいよ。語ってあげる」
エラー娘「…………陸地を大樹が支配するようになってからしばらくの後に、妖精の発生が確認されたの。それはなぜか?」
エラー娘「無数の樹化した人類が有機的に接続された状態においてその演算能力を発揮した場合、統合された意識群からの創発によってさらに上位の意識を生じさせる……」
エラー娘「それはあなたたちの認識の外部に、より上位の法則が成立することに等しいの」
エラー娘「むしろ、下位の現象の中に、上位の法則を内包するようになる、とでも言うべきなのかな」
エラー娘「上位意識の放散と、それらを構成要素とした上流へのさらなる段階的創発。この意識のフラクタル構造の先、ある段階からは媒介を不要とし、非事象となる……」
エラー娘「というより、極度に抽象化した存在者は物理レベルをミクロのものとして、無視して振る舞うようになるのね。認識論的レベルにおいては」
エラー娘「そうして膨れ上がった諸法則がある臨界点を迎えたとき、物質世界は変質する。物理定数の書き換えなしに、上位の法則に従って現象が割り込んでくる」
エラー娘「あなたたちの認識の外部から、あなたたちの認識上“奇跡”と呼ぶにふさわしい現象が、地上に舞い降りるの」
提督「それが、妖精だと?」
エラー娘「……」
提督「……奇跡の本質は、不可知性にある、と言いたいのか」
エラー娘「そうだよ。説明出来ないことがその本質。知り得ないこと、語り得ないことこそが本質」
エラー娘「理論の外部にあるんじゃない。理論の内部にありながらも不明な、虫食いの、黒い箱がそこかしこにあるようなものだよ」
エラー娘「そこで起きる現象を、あなたたちが恣意的に解釈した。その結果が妖精。あそこには何の情報量もない。何も付け足されていない。だからあるものしか再現出来ない」
エラー娘「事実、大樹の侵食によって破壊された情報を、妖精は参照出来ていない」
エラー娘「彼らは真っ黒に塗り潰された関数そのものだよ。あなたたちが識るのは出力された結果であって過程じゃない。法則じゃない」
エラー娘「或いは、もしあなたたちが人体の体細胞のような存在だとしたら、彼らはきっと注射器の針ね」
提督「……なるほど。なら俺たちは、俺たちのひとりひとりが人間を形作っていたとしても、皮膚の外の世界がどうなっているかを知り得ない」
提督「そして、注射器から注がれた物質が人間が新しく産み出した、人体に元々ないものだったとしても、その物質は全体の法則に忠実に振る舞う、と」
エラー娘「簡素なたとえ話だけどね」
提督「仮説としては興味深いが」
エラー娘「元々この世界には仮説しかないよ。あなたたち、人間の側には特に」
エラー娘「観察された事象は常に理論による審判を受ける。だからこそあなたたちは妖精に、他の科学理論と認識論上同等の身分を与えることが出来るの。その利便性によって」
提督「観察命題の理論負荷性か」
エラー娘「でも、ミクロ的には観察が通用しないから、応用が利かないことには留意した方がいいよ…………」
エラー娘「とは言え、マクロ的にはそりゃもう大変な様変わりをしたさねー、この世界も。目には見えないレベルで」
エラー娘「最初は、彼らが姿を見せるようになってから、旧人類は彼らと積極的に接触を持とうとはしなかった」
エラー娘「妖精自体には特に危険性もなかったし、調査もあまり上手くいかなかった。というのも、捕獲しても容易に逃げられてしまうし、殺すことも出来なかったからね」
エラー娘「だけど妖精に逸早く目をつけた者たちもいた」
エラー娘「それが第Ⅰ期新人類、<私>は勝手に“メロウ”という愛称で呼んでいるけれど」
提督「メロウ……」
エラー娘「妖精はどこにでも存在出来る。たとえ深海であっても例外じゃないんだ」
エラー娘「彼らは海に現れた妖精と対話を始め、そして海のログを参照し、戦力として深海棲艦を生み出した」
提督「ログ?」
エラー娘「そうログ。変質の1つ。妖精の登場によって、結果的にではあるけれど、海はそれ自体が1つの記憶媒体のようなものになった」
エラー娘「妖精が海からあらゆる情報を抽出するという、その具体的な使用によってそう定義出来るの。“識海”とでも呼ぶべき変質」
エラー娘「だからこそ深海棲艦“も”、かつて海で戦った実在の船を再現したものなんだ。その点では艦娘と変わりない」
提督「だが、なぜ戦力が必要なんだ……」
エラー娘「海に逃げた彼らには彼らなりの思想がある。信仰がある。つまらない言葉で説明するなら、母胎回帰願望の成れの果てなんだ。生命の起源は海にあったから……」
エラー娘「それは母なる星と共に添い遂げようとする強い意志が実を結んだ、1つの形」
エラー娘「だから彼らは状況を閉塞させ、挙句に文明を捨てることなく地上に残った旧人類を恨んでいるの。でも一種のコンプレックスとして、ね」
エラー娘「海こそが自分たちの本来の居場所だと主張しながら、海に逃げたという事実が種族的な諦めであることを無意識のうちに悟っている」
エラー娘「彼らもまた、知的種族だから」
エラー娘「……だからね、地上に生きる場所はないと思っていたからこそ、のうのうと地上に人類が蔓延っていることが許せないんだ」
エラー娘「彼らにとっての戦いの動機はそれで十分なの。わかる?」
提督「わかるわけがないだろう!」
提督「なんだ、それは…………」
エラー娘「同じなんだよ」
提督「……何だって?」
エラー娘「彼らの祖先が海に逃げ込むまでに至った経緯は、そう単純なものじゃない。少なくとも彼らには元より地上に居場所なんてなかったんだよ」
提督「だが真実であれ、そんなことは過ぎたことだ」
エラー娘「そう過ぎ去ってしまったこと……」
エラー娘「でもそれは、あの個体…………夕立についても、同じことが言えるんじゃないの?」
提督「っ!」
提督「お前に、何がわかる……!」
エラー娘「何も、わからないよ」
提督「くっ!」
エラー娘「何を奪われ、何を侵略されたと判断するかは、常に誰かのわがままなんだ」
エラー娘「重ねて問うなら、あなたのやろうとしていることは、本当に復讐として成立しているの……?」
提督「…………………………」
エラー娘「最後にもうひとつだけ」
エラー娘「あなたにとってこのフラスコの中身は、何?」
提督「……深海棲艦を、滅ぼすためのものだ」
エラー娘「なぜ、そう言えるの?」
提督「それは……妖精が…………」
エラー娘「そうだね。妖精さんが言ってたからだもんね」
エラー娘「でもこの液体が何であるのかは不確定なの。あなたたちの認識する物理法則とは独立に製造されたから」
エラー娘「まあ運用すればきっと彼らは滅ぶのでしょうね。でも敢えて、こう言わせてもらうかな」
エラー娘「これを海に投げ込めば、海の水はすべて地上に溢れ、あらゆる命が滅ぶ」
提督「何だと!?」
エラー娘「どう? ふふっ、信じる? 信じられる?」
提督「馬鹿な…………」
提督「お前は一体何がしたい!?」
提督「なぜお前は、こんなことを知っている!?」
エラー娘「私が知っていたんじゃない。あなたが今、識ったの」
提督「はぐらかすな!」
エラー娘「そのままの意味だよ」
提督「お前が、その知識をどこで得たのかが知りたいんだ」
エラー娘「情報はただ、<そこ>に在るの」
エラー娘「でもあなたが今識るべきことはそのことじゃない」
エラー娘「さあ、選んで」
提督「な……!?」
エラー娘「そのフラスコを投げ入れるか、投げ入れないのか」
エラー娘「あなたが選ぶの。世界を」
提督「世界、を…………」
エラー娘「引き金の重さを、識って」
エラー娘「あなたが本当は何に投げ込もうとしていたのかを、識って」
エラー娘「霧に覆われていた天秤の片割れを、識って……」
エラー娘「お願い」
提督「俺は………………」
「あなたは、あなたの自由に選択すればいい」
「俺は――――――――」
(そうか、君は…………かつて、響が云っていた……………………)
(ありがとう。逢えて、<嬉しかった>)
(あなたとは出逢えない可能性もあったから……)
(それが、あなたの答えなんだね)
(もう逢えないのか)
(<私>は、もう逢いたくないかな)
(誰にも……)
(いつかまた、俺と同じ地平に立つ者が現われるかもしれない……)
(その時は、頼むよ)
(…………)
(なんて、無意味な、願い……)
――――――――――。
小さな風が吹きぬける。
潮の香り、波の音、鳥の声。
あらゆる空白が、静かに取り戻される。
提督(わかったよ……)
提督(何もかも)
フラスコの中身は、空だった――。
今宵はここまで。
多分、次の更新で完結になります。
分量も投稿時期も未定ですが、また来ます。
こんな俺得SSが存在していいのか
お茶会の流れでイマ再プレイ欲が抑えきれなくなったんだがどうしてくれる…
あと>>490の名字でニヤリとしたり夕立戦の脳汁溢れる文章が凄く懐かしかったり
最高です
(ただ一つ残念なのは俺が艦これを知らないこと)
>>641
長らく、本当に永らく“イマ”を知っている方を待ち続けていました。
艦これを知らないにも拘わらずここまで読んでいただけたことを、大変嬉しく思います。
次回更新ですがGW明けを考えています。
暫し、お待ちください。
お疲れ様です。
すみません、相変わらず進捗よくないです。
気長にお待ちいただけると幸いです。また来ます。
お疲れ様です。
何とか、生きてます。
ここで生存報告をする度に無力感に苛まれていますが、それもこれで最後となるよう努めます。
お疲れ様です。
次回更新の目処が立ちましたのでご報告致します。
次は7月10日を予定しています。これは最後の投稿になり、ある程度まとまった分量を一気に投下する形になるかと思います。
現在の進捗率は6割程度です。ようやく休日にうまく時間が取れるようになり、今のところ順調に書き進めています。
この物語の結末を見届けていただければ幸いです。
また来ます。
―空き部屋―
ガチャ
響「!」
響「司令官……」
提督「響……」
響「………………」
提督「……………………」
響「どう…………するの……?」
提督「……」
響「どう……したら……」
提督「響」
響「私は…………」
提督「響!」
響「っ……」
提督「……響、聴いてくれ」
響「いやだっ!!」
響「嫌だよ! 私は!」
響「そんなの……」
提督「違うんだ響、よく聴くんだ」
響「嫌だ!!」
提督「夕立は助ける」
響「!?」
響「どうやって!?」
提督「……あいつを、叩き起こしにいく」
響「何を……言っているんだい……?」
響「今だって眠って! 私たちの声なんて、届かない!!」
提督「届けるんだ」
響「精神論だなんて、司令官らしくもない!」
提督「確かに、もう今回ばかりは賭けだ……。それは否定しない。だが、俺は俺のやれる限りのことをしたい、それは本当だ」
響「……どういうこと?」
提督「もう一度言う、響。どうか、俺の話を聴いてほしい」
提督「頼みが、あるんだ……」
響「……………………」
響「…………わかった、よ……」
提督「ありがとう……」
提督「俺から、君に、お願いがある。いや、………………これは、最後の命令だ」
響「……最後?」
提督「あの鎮守府を、君に任せる」
響「え……」
響「……どういう、意味だい?」
提督「私はもう、戦わない」
響「え…………?」
響「何を、考えてるの……?」
響「あなたは、最初に……。初めて会った時に! 人類のために共に戦うと、私たちに告げたはず!」
響「何があったんだ、司令官……?」
響「何か…………今のあなたは、おかしい……」
提督「人類は……」
提督「人類は、今、戦い続けている。深海棲艦と。敵と……」
響「……」
提督「敵とは何だ、響」
響「……深海棲艦だよ、司令官。或いは陸には、大樹なんてものもいるらしいけど……」
提督「そう。彼らは俺たちの生を脅かす危険な存在だ。だから、敵だ。敵なんだ」
提督「戦わなければ、安息はない。だから、戦う」
提督「それが、人の目指す“べき”位置だ」
提督「だけど、いや…………だからこそ、俺は、そこには行けない。辿り着けない……」
響「どういうことだい……?」
提督「俺は、逸脱していた……。誰よりも、与えられた規約に忠実だった。ゆえに、到達し、破綻した」
提督「その極北に、最果てに、行き着いた……」
提督「響」
提督「君の脳にも、俺の脳にも、ある規約が深く根を張っている」
提督「夕立は、それに気づいていたのかもしれないが……」
提督「俺たちの行動は、倫理は、自明に与えられているんだ、響」
響「倫理……」
提督「そう、“人類のために利益を最大化する”という、倫理が」
響「!」
提督「俺は、君を過酷な道に突き落とす」
提督「いや、突き落とすまでもないかもしれない。皆、既に落ちていた。そしてそこからは抜け出せない」
提督「君も、俺も、造られた存在だ」
提督「どうだ? 得心するか?」
響「…………そう、だね。それもそうかもしれない……」
響「思えば、私の“考え”は、それほど私の記憶と結びついていなかったかもしれない」
響「“敵と戦う”という行動原理だけが一貫していて、倫理は後から賦与されたということかな……」
提督「ああ……。だから、君は、君の気持ちに逆らえない。それは元々、君のものではない」
提督「だけど…………、それは間違いなく、君のものだ。そしてそれを、いつまでも誇っていてほしい」
響「それは、なぜ……?」
提督「今の俺には、わかる。俺だから、俺にしかわからないことだが……。それは間違いなく、尊いものだ」
提督「だから、君に託す」
響「ちょっと待ってくれ司令官! その話が真実なら、あなたは…………、あなたも、同じものを持っているはずで……」
提督「そうだな……。そのはずなんだが、俺には無理だったんだ」
提督「俺はそこで措定されていた原理を、現実に最大化してしまえる存在だった。それじゃあ駄目なんだよ」
提督「目指される位置は、場所として確保されていなければならない」
提督「そこを踏み越えては、何も残らない。すべて消え失せるしかない」
提督「それを識った」
響「…………何を視たんだい……?」
提督「何も」
提督「だけど、それを予感して、それでも尚、倫理が俺の裡にあるとしたら……」
提督「俺の全存在を懸けて、彼女を、助けたい」
提督「それだけだ」
響「司令官…………」
提督「響、非情と思うかもしれないが、以前の俺なら、夕立と自分の命を天秤にかけて、完全な意味で夕立を助けようとすることは、できなかったと思う」
響「……今なら、わかるよ…………。もしそんなことがあれば、私も、最終的には司令官の命を選ぶと思う……」
提督「だけど、今は違う」
提督「そして今から、それをやるよ」
響「死ぬ気なの……?」
響「一体……何をする気?」
提督「響、何も俺は死ぬってわけじゃない。夕立を助けたいんだ」
提督「だけど、もう元のように逢うことは出来ないだろう……。ここでお別れだ」
響「お別れ……………………」
響「………………」
響「…………ふふっ。でも、もしかしたら、司令官が嘘をついているのかもしれない」
提督「俺は嘘をつけないさ」
響「それも、人類のためなのかい?」
提督「ああ。ヒトが人であるための、大事な仕事さ」
提督「そして君には、ヒトが人になるための仕事を、その願いを、託したいんだ」
響「……!!」
響「そう…………なんだね……」
提督「響……」
提督「これは命令じゃない、俺からの願いだ」
提督「どうか、どうか俺の代わりに、戦い続けてほしい……」
響「……………………」
響「私は…………」
響「私の答えは、変わらない……」
響「私は、戦い続ける」
響「司令官……」
響「あてどもない、人の、目指し続ける虚ろな願いを、私に歩ませてほしい」
提督「ありがとう」
響「……司令官」
響「私も……」
響「私も、あなたのことを、愛してる」
響「あなたは、あなたの信じる人間の在り方を、選び、どうか最後まで貫き通して」
響「私たちからすべてを奪い去らず、そしてすべてを与えずにいてくれて……」
響「本当に、本当に嬉しい……!」
少女の瞳から涙が零れる。
男はその小さな躯を強く抱き締めた。
提督「後のことは、頼んだぞ」
提督「迎えに行ってやらないといけない、困ったやつがいるんだ……」
響「うん……」
提督「どうか、ここで待っていてくれ」
提督「行ってくるよ」
響「うん!」
響(…………さよなら、司令官)
―司令室―
ガチャ
提督「榛名」
榛名「ん……」
榛名「………………決心は、ついた?」
提督「ああ、そうだな」
榛名「……そう」
榛名「どうか、気を落とさないで。仕方がなかったわ……」
榛名「今から準備する」
提督「解体する前に、ひとつ……」
榛名「……何かしら?」
提督「彼女と直接、話がしたい」
榛名「…………そうね。救護室で眠っているから、声を掛けてあげなさい」
提督「そうじゃない。俺は、“直接”話したいと、今そう言った」
大和ζ「……?」
榛名「どういう意味?」
提督「そのままの意味だ」
榛名「!」
榛名「まさか…………あなた……!?」
提督「そうだ。夕立の意識に、俺の意識を直接、接続させろ」
榛名「あなた…………自分が何を言ってるか、わかってるの?」
提督「そのつもりだが?」
榛名「くだらない……。何もわかってない」
提督「エフィメラを使う。あれなら可能なはずだ」
榛名「本当に馬鹿ね。あれは私が試みたような呼び掛けとはわけが違うの」
榛名「電脳空間上に走る意識は“パッチワーク(継ぎ接ぎ)”として定義される」
榛名「それは根源的に魂が、ある任意の観点からのまとまった全体としてしか定義出来ないことの裏返しとも言える……」
榛名「あなたを一度取り込めば、あなたはあのシステム全体の一部として消えるまで走り続ける。サルベージは出来ない」
提督「覚悟の上だ」
榛名「断じて許可出来ない。何が目的なの?」
提督「夕立を助ける」
榛名「あらそう。なら複製を提案するわ。それで得られる結果は同じはずよ」
提督「その選択はあり得ない」
榛名「なぜ?」
提督「そこに…………夕立の隣に、俺がいないからだ」
榛名「いいえ。彼女の隣には、あなたはいることになる」
提督「“俺”がいないと言っている!」
榛名「……あなたの能力は知っているわ。あなたが戦線から離脱することを、そう易々と看過することは出来ない」
提督「俺と、戦うつもりか?」
榛名「…………本当に、正気なの?」
榛名「何、が……?」
提督「榛名、お前にはまだ、何も視えていない」
提督「この戦いが終わったら、君はどうするつもりだ?」
榛名「どうって…………」
提督「どうなんだ」
榛名「私は…………戦いが終わったとしても、役目を果たし続けるでしょう。用済みともなれば、解体されるのでしょうけど」
提督「俺たちはどうなる?」
榛名「あなたたちは、艦娘ではない。道具じゃない。生き続けるべきよ……」
提督「それはいつまでだ? 永遠にか?」
榛名「……………………そうよ。戦いが終われば平和が訪れる。そうなった時に、生きるべきは、あなたたちなのだから」
提督「そうか。だがな、平和の始まりはすべての終わりだ」
提督「俺は人類が最後に望むところのものを、皆に与えることが出来ない」
榛名「何を言って――」
提督「わかるだろう、榛名」
提督「俺はもう、規定された在り方から、書き換えられてしまった」
提督「もはや……人類ではない」
榛名「そん、な………………」
榛名「……なら、今のあなたは…………敵なの?」
提督「さあな。だが…………」
提督「夕立の、味方だ」
榛名「…………………………」
大和ζ「提督!」
大和ζ「この男は、錯乱しています! 攻撃の許可を!」
榛名「やめなさい大和。彼を敵に回したところで、仮に仕留められたとしても、こちらもタダでは済まない」
大和ζ「くっ」
榛名「…………」
榛名「あなたは…………私たちの“仕様”を知っているの……?」
提督「ああ、当然だ。それは俺とて例外ではない」
榛名「!」
榛名「そんな、馬鹿な…………いや、違う……」
榛名「夕立の…………味方ですって……?」
提督「そうだ」
榛名「………………………………」
榛名「いいわ。行きなさい」
榛名「その代わり、あの子を、お願い……」
提督(榛名……。君は…………)
提督「ああ、わかった。誓うよ」
大和ζ「提督っ!!」
榛名「………………」
榛名「私には、彼を止めることなんて、出来ない……!」
榛名(いいえ違う。あの子からこれ以上幸せを奪う権利は、私にはきっと、ないんだ……)
榛名(神様……。あの日、見捨てることしか出来なかった無力な榛名を、どうか、どうかお許しください……)
榛名「大和は、戻って……」
榛名「……私は彼を、案内するわ」
―救護室―
榛名「連れの子は、いいの?」
提督「あいつにはもう、話してある」
榛名「今ならまだ……」
提督「俺の最期を看取らせることになる。つらいだろう」
榛名「そう……」
榛名「ここに」
提督「ああ……」
提督(夕立…………)
榛名「あなたの意識を、電子情報化する。初期段階ではエフィメラの処理速度に大きく制限をかけ、経過時間は現実時間と一致させるわ」
榛名「あなたの判断で、私に信号を送って。確認が取れたら、本来の解体を実行するから」
提督「頼んだぞ」
榛名「準備はいい?」
提督「ああ、やってくれ」
榛名(あなたなら、きっと……)
――――――
――――
――
――
――――
――――――
(いやだ……)
(もういやだよ………………)
(なにも考えたくない…………)
(生きたくない、戦いたくない…………)
(消えて……)
(消えて、なくなってしまいたい…………)
(からだが、遠いよ…………)
(さむいよ…………)
(だれにも、あいたくない……)
(だれか…………)
『…………!』
(あ、はは……)
(こんなときに、ううん、こんなときだから、思い出しちゃうのかしら……)
(こんなに、汚れて)
(どんな顔して、あえばいいかも、わからないのに……)
『夕立っ!!』
(てい、とく……さん…………?)
(……どう、して………?)
『夕立……』
(いやっ、来ないでっ!!)
(もう、あいたくなかった!)
(もういやなの!)
(夕立は…………もう、あなたとは、いられない……)
(だから、かえってよっ!)
『夕立、もういいんだ。お前は誰も恨まなくていい。お前は誰も傷つけない。俺も、お前を傷つけない……』
(むりだよぉ…………)
(夕立は、もうこわれちゃったんだ……。私はもう、この気持ちのとおりに、生きられないんだよっ!)
(だからもう…………私の心に、入りこまないで……。そっとしておいて………………)
『夕立』
(え……)
ここには、温度がない。
肌触りも、匂いも、風味も、音も、光さえも。
言葉によって切り分けられるだけの、質量が、ない。
それでも――。
(ん………………ぁ…………)
『愛してる、夕立』
(……………………)
『……まだ、だめか?』
(…………ち、がう)
(そんなこと、ない)
(ほんとは…………ずっと一緒にいたかった!)
(目覚めたら! 夕立になっちゃったら! 私はあなたを、ただ殺めることしかできないなんて……)
(いやだよっ!)
(離れたくない………………)
(ずっと、このままでいたいよ…………)
(もうこの気持ちが嘘でもなんでもいい!!)
(これが……私の中にある、すべてだよ………………)
『まったく…………。そうだよな、そのとおりだ……』
『ごめんな、夕立……』
(でも、本当に……………………いいの……?)
(私は…………やり直せるの……?)
『ああ、構うものか』
『俺だから許せる。俺たちだからやり直せる。こんな世界だから……。これがすべてだから』
『まやかしなんて、ない』
『俺を信じろ』
だから――
“ここ”で生きよう、夕立
ふたりで……
ふたりだけで、一緒に――――
――――うん!
………………
…………
……
―epilogue―
「わぁ…………すごい、綺麗……」
「気持ちいい、な……」
「うん」
「ねぇ、どこに行くの?」
「どこだろう、わからない」
「でもこの丘を越えると、小さな町があるみたいなんだ」
「そこで、暮らそうか。家も建てて」
「えー大丈夫っぽい? 怪我しないか、ちょっと心配」
「平気だよ。こう見えて、木を切るのは得意だし」
「手伝ってくれるか?」
「もっちろん!」
「ありがとう」
「えへへー」
「どんな家にしようか?」
「うーん……そうね」
「じゃーあ、こんなのは………………」
森を抜けると、黄金に輝く穂波が、辺り一面を埋め尽くしていた。
まぶしい日差し、抜けるような蒼い空、暖かなそよ風。
すべてが穏やかで、やさしくて。
そんな中を、手をつないで、ふたりで歩いていく。
どこまでも。
どこまでも。
夕立「恋情は見返りを――」提督「求めない」
―fin―
『偽らない君へ』/ やなぎなぎ
https://www.youtube.com/watch?v=cjA0OZLZdYc
これにてこの物語は完結となります。
正直なところSSは初投稿、というかこういった物語を書き起こすこと自体初めての経験でかなり難儀しました。
ですが、無事エタることなく終わることが出来て、とても嬉しく思います。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
乙
イマていうより元長作品の臭いのが強い気がしたw
●なんかあとがき的な(?)
1年半もの長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
うーん、長かった。
短編じゃなくて、そこそこの長さ。当初は300レスくらいで終わると思ってたのに、なめすぎ。
後半は更新が滞っていましたね。申し訳ありませんでした。
内容に関しては、投稿を開始した時点で後半以降のプロットは完成していて、ほぼその通りになりました。
とは言え、投稿していた過程では増やしたり削ったりもあり、最終的にはやろうとしていたことをやり切りつつもかなり説明不足になってしまいました。
一方で描きたいシーンを存分に描けたのは良かったです。満足しています。
今後については、そうですね……。
この1年半で生活も随分様変わりして、この有様です(白目)
(ぶっちゃけ、最初に投稿した時にペースが早かったのは書き溜めもありましたが、単純にインフルに罹患していて暇だったからというのもあります。インフル~)
なのでSSを書くかもわかりませんが、書くとしたら短編でほのぼのとか書きたいなーとか思ってます。
シリアスものは…………実は今回のお話の過去編ということで榛名を主人公にした夕立と榛名のサイドストーリーとか漠然と考えてはいました。
頭をよぎっただけですが。
あ、あと初投稿と申し上げましたが、このSSを投稿し始めた後に実はもう一本だけ、短編のSSを同時に書き始めて完結させています。
ニッチなエロSSですが、もしよろしければどうぞ。
酉検索で出てきます。
まだまだ語り足りないところもございますが、だいたいそんな感じです。
そのうち適当なところでHTML化依頼を出すと思いますゆえ、何か感想などあれば嬉しいです。
お疲れ様でした。
>>676
元長柾木ですか……ノーマークでした。無学ですみません。
チェックしておきますね。
このSSまとめへのコメント
めっちゃ世界観しっかりしてるな。
続きが楽しみ
那珂ちゃんと那珂βちゃんの絡みワロタw
ワクワクしてる響ちゃんかわいい
設定が凄く良いな
遠征要員として早々に話の本筋から外された感満点の
吹雪や睦月たちに涙を禁じえない
独自せっていはいいんだけど、下種の勘繰りに見える
原作ゲームはゲームシステム上ああな訳で、リアルなら旗艦だろうが沈むだろうし、満タンから一発轟沈だってあるだろうよ
司令官に色目使ったりあまつさえ暴言吐いたら普通は懲罰やし
そう言う現実ならありえ無いガバガバさをいちいち突っ込み入れたり疑問視するのはナンセンス
だってゲームだもの
百合入っちゃうのか…
楽しみ
※6
別にこういうのでも良くない?
だってSSだもの
※9 明らかに好みが分かれそうなssなんだから反論があってもおかしくないだろ。
だって※欄だもの
それは置いといて、壮大な背景がチラチラみえるのにわりとあっさり進行しちゃってるせいでなんだかモヤモヤする。