女「レズに犯されたっぽい」 (93)
原因はといえば、私が変なところで寝ていたことだと思う。
今はほぼ部室棟として使われている旧校舎には、ベッドが置かれている部屋がある。
もともと保健室だった部屋で、現役だったころのものがいくつか残されているのだ。
その存在を知ったのは偶然だった。
先生の頼みで旧校舎の資料室に教材を戻しに行った帰りに、偶然旧保健室の扉が開いているのを見つけた。
いつもなら閉まっているはずの場所だったため、興味本位で覗いてみると、そこには薬棚や机などが置かれていた。
中でも目を引いたのはベッドだった。
三度の飯より昼寝が好きな私は、思わずそこに足を踏み入れた。
ベッドのそばまで行きシーツに触れる。
なぜか埃っぽくはなく、清潔そのものといった状態だった。
きっとどこかの部が休憩用に管理しているのだろう、そう思った。
いや、正確にはそれ以上考えることを止めてしまった。
なぜなら私は帰宅部で、その日は何も用事がなかったから。
つまり、その時私がとるべき行動は一つだけだった。
私は靴を脱いでベッドに倒れこんだ。
日でよく乾かされた、あの心地よい香りがする。
完全下校時刻までままだ十分時間があった。
どこかの部が管理しているものだったとしたら、後で怒られるかもしれない。
それでも、脳を蝕んでいく心地よい感覚に抗うことは出来なかった。
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結局その日は誰からも咎められることはなく、赤い夕陽が差し込む時間までぐっすり眠ることができた。
味を占めた私は、時折……いや、頻繁にそこに足を運ぶようになった。
友人がいないわけではないが、彼女たちは部活に打ち込んでいるので、放課後は基本的にフリーなのだ。
なので私は気兼ねなく午後の惰眠を貪ることができる。
そんな生活を続けていた、ある日のことだった。
私は友人たちと別れると、いつも通り寝床へと足を運んだ。
そしていつものように上着を脱いで椅子に掛け、靴を脱いでベッドに横たわる。
不思議なことに、ここのシーツは定期的に洗濯をされているようで、いつも清潔だった。
さすがに毎日というわけではないが、少なくとも週一の頻度で交換されている。
パリッとしたシーツに代わっているのを感じる度に、私は見知らぬ誰かに感謝する。
感謝はするが、それが誰かということはどうでもよかった。
使用後は出来るだけ整えるようにしているが、それでも誰かが使ったというのはわかるだろう。
もし勝手に使用したことに対して文句があるなら、書置きなどがあるはずだ。
にもかかわらずシーツの交換以外何の行動も起こさないということは、私が使用していることに対して特に何も思ってい
ないのだろう。
向こうが気にしていないのなら、私も気にする必要はない。
私はただ、ぐっすりと眠れる場所さえあればそれでいいのだ。
今のままで、何も困ることはない。
その日のシーツは交換されたばかりらしく、清潔そのものだった。
最期に使ったのは2日前だったから、前日か当日の早いうちに交換されたのだろう。
かけ布団で首から下を覆うと、私はすぐさま眠りの世界へと落ちていった。
目覚めた時に感じたのは、両手の違和感だった。
頭上に向けて引っ張られているような感覚があった。
ぼんやりとした頭で力を入れてみるが、なぜかその位置から動かすことができない。
そして、だんだんとそれ以外の以上も知覚していった。
まず、何も見えない。
目を開いているはずなのに、映る景色は真っ暗だった。
目のあたりの感覚から、何か布のようなものが巻き付けられているのだと理解した。
同時に、足も動かなくなっていることに気が付いた。
大きく万歳をする形で、手足が縛られているのだ。
寝起きで回らない頭が混乱する。
口から「うぇ!?」とか「んぁ!?」といった間抜けな声が漏れる。
その時だった。
私の体に何かがふれた。
体がビクリと硬直する。
脇腹のあたりに触れた何かは、そのまま私の体をなぞる様にして下半身へと移動していく。
そして何かは、むき出しの太ももをやさしく撫で始めた。
そこで私はようやく、それが誰かの手だということを理解した。
同時に、自分が置かれている状況も理解した。
私は誰かに拘束されているのだと。
気づいた瞬間、言葉にできないほどの悪寒が背筋を駆け抜けた。
誰?なんで?今は何時?そもそもここはあの保健室?
様々なことを必死で考えようとする。
だけどそれは、ある一つのことを直視するのを避けるためだった。
おそらく私は今――犯されようとしている。
縛られていること、おそらくベッドの上だということ、そして何より私の体に触れる『誰か』の手つき。
その手は2つに数を増やし、私の体をねっとりとした手つきで撫でまわしている。
考えたくなかった。夢だと思いたかった。
しかし、視覚を封じられた状態で脳に送り込まれる触覚からの刺激が、これが現実だということを突きつける。
恐怖で体が硬直する。声も出ない。
下手に声を出せば、何をされるかわからないというのもある。
しかしそれ以上に、体が自分のものでなくなったかのように、いうことを聞かなくなっていたのだ。
自分がカタカタと震えているのがわかる。
ふいに、体をまさぐっていた手の感触が消える。
一瞬戸惑ったが、次の瞬間ベッドがきしみながら沈み込む感触が伝わる。
どうやら『誰か』が私の腰をまたぐようにして移動したようだった。
間を置かずに、私の体に『誰か』が覆いかぶさってくるのを感じた。
全身を圧迫する『誰か』の重さ。
私の口から擦り切れるように息を吸い込む音が漏れる。
徐々に体と体が密着する面積を増やしていく。
ふと、ある感触が気になった。
私の腹部にから感じられるものだった。
私の胸元にあるのはおそらく『誰か』の顔だと考えられる。
だとするなら、私の腹部には『誰か』の胸部があると考えられる。
その場所が、妙に圧迫されているのだ。
そう、まるで膨らんだ――
突然、ワイシャツの下に手を入れられる感覚がした。
腹部の素肌に直接『誰か』の手が触れる。
手は徐々に胸へ近づき、ブラジャーと胸の隙間に侵入しようとする。
思わず『誰か』を振りほどこうと体を暴れさせる。
相変わらず声は出ないが、それでも必死に抵抗しようとした。
しかしその抵抗は、首筋に当てられた冷たい感触によって抑え込まれた。
冷や汗が出る。
冷たさ、固さから言って、おそらく金属だと考えられる。
それが何なのか、考えたくなかった。
そして私の体から抵抗するための力が抜けていく。
私が大人しくなったことに満足したのか、『誰か』は先ほどの行為を再開する。
もはや私には、耐える以外に選択肢は無かった。
ワイシャツのボタンはすべて外され、ブラジャーも取り去られた。
さらけ出された私の乳房は、『誰か』の手によって弄ばれていた。
そこそこの大きさはある、と自負している私の胸を、『誰か』は撫で、時折指を沈めるように揉んだ。
だんだんとその指が頂へと近づいてくるのがわかる。
そして『誰か』の指が私の胸の先端をとらえる。
やさしくこねるように愛撫しながら、爪でカリカリと引っかかれる。
ゾクゾクとした感覚が、胸から下腹部へ伝わるようだ。
思わず体をよじろうとするが、先ほど首筋に当てられた冷たさが脳裏をよぎり、それすらできなかった。
途切れることなく送りこまれる刺激に、徐々に呼吸が乱れてくる。
認めたくはなかったが、私の体は確実に出来上がっていった。
しかし、『誰か』は一向にそこから先へ進もうとしなかった。
ただ私の胸を弄ぶばかり。
そんな状況が続き、私は思わず腰をくねらせてしまう。
途端に乳首への愛撫が止まる。
もしかしたら、私が動いたことを抵抗ととらえ腹を立てて、何かされてしまうかもしれない。
そんな心配が一瞬浮かんだが、すぐに下半身からの衝撃によってかき消された。
今まで胸を弄っていた手が、私の性器に触れたのだ
それも、敏感極まりない突起を、下着越しに正確に摘まんできた。
思わず腰が跳ねる。
しかし手は離れようとせず、左の乳首とクリトリスを同時にいじり続ける。
胸からの快楽で蕩けきった体には、耐えられるものではなかった。
歯を食いしばりながら、私は絶頂を迎えた。
手足の筋肉が収縮し、拘束具が食い込むのがわかる。
そして脱力した後、私は意識を手放した。
アラーム音がする。
音のなるほうへ手を伸ばし、音源を手に取ると、それは私の携帯だった。
アラームをストップさせ、同時に時間を確認する。
完全下校時刻の10分前だった。
慌てて起き上がり、荷物をまとめて保健室を出る。
旧校舎は真っ先に施錠されてしまうので、早く出ていかないと、最悪警備会社のお世話になってしまう。
なんとか玄関から外へ出て、一息ついた。
と、その時、手首に少しこすれたような傷があることに気が付いた。
いつこんなけがをしたのだろう……
そう考えた次の瞬間、記憶がよみがえる。
頭が真っ白になり、校庭に立ち尽くす。
さらに追い打ちをかけるように、下半身に冷たくべっとりと張り付く下着の感触に気が付いた。
私はしばらく、その場から動くことができなかった。
以上プロローグです。
一週間後くらいに続きをかけると思います。
形式は台本混じりになると思いますが。
来週の土日が無理っぽいので、今日のうちに続きを投下したいと思います
姫カット「……」
女「……」ボー
姫カット「なぁ、今日なんか疲れてる?」
女「え?」
姫カット「具合が悪いなら、早退したほうがいいんじゃない?」
女「あ、いや、べつに体調が悪いわけじゃないんだけど……」
姫カット「でも朝からずっとボーっとしてるし」
女「ちょっと夜更かししちゃって、それで集中できないのかな」
姫カット「……ふぅん」
夜更かしをしていたのは事実だ。
というより一睡もしていない、いや、できなかった。
昨日の放課後、旧校舎の保健室で起こったことが頭から離れなかった。
学校で昼寝をしていたら、恐らく女だと思われる『誰か』に犯された。
あまりにも現実離れしすぎていて、夢なんじゃないかと思いたくなった。
下着が濡れていたのはそういう夢を見ていたから……いや、それはそれで自分が嫌になりそうだけど。
しかし、手首と足首に残った擦過傷が、私に現実を突きつける。
幸いにして性器に痛みはなかったし、脱いで確認したところ血の跡もなかった。
だから何かを突っ込まれたということ、すなわち男性に犯されたとは考えにくかった。
襲われている最中に感じた『誰か』の胸部のふくらみのこともあり、『誰か』は女性だと判断した。
女「ねぇ」
姫カット「んー?」
女「レズってどう思う?」
姫カット「ごふぉ」
後ろの席で紙パックのジュースを飲んでいた友人が盛大に咳き込む。
この友人――姫カットは、お嬢様のような見た目の割に普段から落ち着きがない。
ジュースくらいゆっくり飲めばいいのに。
姫カット「おま……いきな、ごふっ、なに、げほっごほっ」
女「もうちょっと落ち着いたほうがいいと思うよ」
姫カット「お前が変なこと言うからだろ!」
短髪「女ちゃん、そういうのに興味があるの?」
女「えーっと……この学校にそういう人っているのかなぁって」
短髪「まぁ女子校だし、一握り……一摘まみくらいはそういう人もいるんじゃないかしら」
女「そっかぁ……知り合いでいる?」
短髪「私は知らないわね」
姫カット「なんで、けほっ、いきなりそんなこと聞いたんだよ」
結構な量が気道に入ってしまったらしい。
私が短髪ちゃんと話している間もずっと咳き込んでいた。
女「いや……ちょっと昨日読んだ本の影響で」
短髪「っ!、もしかして女ちゃん、百合とか好きなの?」
女「ゆ……え?」
姫カット「やめときなって」
短髪「違うんだ……残念」
なぜか残念そうな短髪ちゃん。
いったい何のことなんだろう、ゆりって。
姫カット「あー、あれとかそうなんじゃない?ツインテール」
短髪「あの娘はただのシスコンだと思うけど」
姫カット「そっか……それもそれでアレだけど」
やはりその辺にゴロゴロいるわけではないようだ。
犯人が誰なのか、ある程度絞り込めるのではないかと思ったが、それも無理なようだ。
そこでふと思う。
犯人が誰だか特定できたとして、私はどうするつもりなのだろうか。
別に訴えたりするつもりも今のところはない。
そもそも同性へのレイプは強姦罪になるのだろうか。
それに、なぜか私に『誰か』を憎んだりする気持ちは沸いてこなかった。
そういったことは別にしても、やはり相手が誰だったのかは知っておきたい気がする。
これが単純な興味から来るものなのか、それとも別の理由があるのかは、自分でもよくわからないが。
昼休み。
姫カットと短髪ちゃん、そして短髪ちゃんの部活の先輩、赤髪さんと一緒に茶道部の部室へ向かう。
以前お弁当を食べる場所を探していた時に、短髪ちゃんが呼び止められ、そのまま部室で昼食を取り始めたのが始まりだ
った。
それ以来茶道部の部室で4人そろって昼食を食べるのが日課になっていた。
赤髪さんは短髪ちゃんの幼馴染で、短髪ちゃんのお母さんが開いている茶道教室の生徒でもある。
物腰が柔らかく、気さくでとてもいい人だ。
女「赤髪さん」
赤髪「ん?」
女「知り合いにレズの方っていますか」
赤髪「…………」
姫カット「女……いったいどうしちゃったんだ」
短髪「本当に目覚めちゃったわけじゃないの?」
赤髪「えっと……私が知る限り、そういう人は……」
女「そうですか……」
赤髪「女ちゃん、どうしたの、突然」
女「いえ、ちょっと……」
姫カット「こいつ、朝からなんかおかしいんですよ」
短髪「も、もしパートナーを探してるとかだったら、その、協力しても……」
短髪ちゃんの顔が少し熱っぽい気がするけど、よくわからないから放っておこう。
それにしても、交友関係の広い赤髪さんが知らないとなると、捜査はさらに難航してくる。
姫カット「っていうか、もし本当にそういう趣向の人がいたとしても、普通は隠してるから分からないだろ」
女「…………そうなの?」
赤髪「まぁ……一般的にそういうものだとは思うけど」
困った。
それでは本当にこれ以上捜査ができない。
私が『誰か』を特定するために持っている情報はあまりにも少ないのだから。
相手が女性である可能性が高いということ。
あとは――
女「あ」
姫カット「なんだ?」
女「姫カット、ちょっとこっちに来て」
姫カット「な、なんだ、おい」
困惑する姫カットを、少し離れた場所まで引っ張っていく。
そこで私は、仰向けに寝転がった。
続いて、姫カットの腕を引っ張り、私にのしかかる様に引き倒す。
姫カット「なっ!?」
赤髪「えっ」
短髪「キマs…」
女「うーん」
姫カット「な……」
ちょうど私の胸に顔をうずめる形で倒れた姫カット。
そして私の腹部には、姫カットの胸が押し当てられる。
この感触は……
そして姫カットの顔を見ると、目が明らかに泳ぎまくっている。
怪しい。
私は確認してみることにした。
女「ねぇ」
姫カット「ぇ、ぁ、うぅ……」
女「姫カットってレズ?」
一体何が悪かったというのだろう。
姫カットにレズかどうかを聞いただけなのに、脇腹にフックをお見舞いされてしまった。
その後弁当を置き去りにして、姫カットはどこかへ行ってしまった。
赤髪「女ちゃんが不思議な生き物だとは思っていたけど、まさかここまで……」
短髪「コレハツマリソウイウコトマエカラアヤシイトハオモッテタケドデモイマノハタンニオドロイタダケナノカモソレデモ」
なぜか妙な雰囲気になってしまった。
赤髪さんはあきれたような表情で私を見てくるし、短髪ちゃんは畳を見つめたままブツブツ独り言を言っている。
それにしても、姫カットがあれほどまでに取り乱したのはなぜなのだろうか。
私は友人が残していったお弁当を食べながら、よくわからない行動をした彼女のことを考えていた。
放課後。
私はとりあえず昨日の現場へ行ってみることにした。
扉を開けると、そこはいつもと変わらない様子に見えた。
ベッドへ近づいていくと、あるものが目に入った。
枕元に何かが書かれた紙のようなものが置いてある。
手に取ってみると、アルファベットの羅列が一列だけ書かれているメモ用紙だった。
書かれているのは恐らくフリーのメールアドレス。
昨日ここに来た時はこんなものはなかったはずだった。なのに――
女「……っあ」
もしかしたら、これは『誰か』からのメッセージなのかもしれない。
そこでさらに、昨日慌てて出ていったはずのベッドが、キチンと整理されていることに気が付く。
そのあと、恐らく今日になってから、再びここを訪れ、ベッドを直してこのメモを置いていったのではないだろうか。
私は、そのメモを見つめたまましばらく考え込んだ。
次は再来週になるかと思われます
済みませんバイトに精を出していました。
本当に申し訳ない。
ということで続けます。
旧校舎の保健室に残されたメモ。
私はそれを家に持ち帰った。
夕食もお風呂も済ませた私は、自室のパソコンの画面を、もう既に1時間ほど睨み続けている。
画面には、ついさっき作った某検索エンジンが運営しているフリーメールのページが映っている。
送信先のアドレスには、メモに書いてあったメールアドレスが入力してある。
だけどそこから先、内容は愚か件名すら一文字も入力していない。
書き出しは『先日あなたに犯された者ですが』とでも書けばいいのだろうか。
いや、そもそもこのメールアドレスが『誰か』のものだと断定はできない。
そういったことを、ぐるぐるぐるぐると考えているうちに、時間はあっという間に過ぎてしまっていた。
女「あー……」
椅子の背もたれに体重を預け、天井を見上げる。
このアドレスが『誰か』のものだとして、『誰か』はどう言う意図でこのメモを置いていったのだろう。
そして私は『誰か』に何を伝えたいのだろう。
女「もうこんな時間……」
いつもならもう床につく時間だった。
寝ることが趣味と言い切れる私は、毎日たっぷり9時間は睡眠をとる。
その上で学校でも寝ているのだ。
既にまぶたが重くなってきているのが感じられる。
もう寝ないと明日に響いてしまう。
女「まぁいいか、どうでも」
保健室で『誰か』に犯されたこととか、謎のメールアドレスのこととか、
そういうことの全てがだんだんどうでも良くなってきていた。
考えても思い浮かぶものでもない。
もう寝よう、寝てしまおう。
今表示しているメールも、とりあえず適当な文章で送ってしまおう。
そんなノリで、私は一気に適当な文字を打ち込んだ。
件名は『旧校舎の保健室の件』。
内容は未入力。
このアドレスが『誰か』のものだとすれば、向こうから何かしらの反応があるはず。
これ以上私が頭を悩ませる必要はない。
送信ボタンをクリックすると、急激に眠気が強まった。
電気を消し、ベッドに倒れこむ。
きっとメールの文面を考えることで脳を酷使しすぎたのだろう。
頑張った脳を労うためにも、私はすぐさま睡眠を取る必要があるのだ。
目が覚めると、いつもよりも少しだけ早い時間だった。
なんだかとても心地いい夢を見ていたようで、気分がとてもいい。
二度寝ができるほどの余裕はないが、しばらく夢の余韻に浸っていることぐらいはできそうだった。
寝返りをうって仰向けになると、パソコンが起動したままになっているのが目に入った。
そういえば、昨日の夜メールを送ったらすぐに寝てしまった気がする。
もしかしたら、返信があるかも――
一瞬、その考えが頭をよぎった。
ベッドへの執着がどんどん薄れていく。
なんとなく、確認したいようなしたくないような、そんな状態でしばらくベッドでモゾモゾしたあと
意を決して画面を見てみた。
そこには
『送信が完了しました』
の文字が。
女「……はぁ」
当たり前のことだが、なぜだかそこで一気に冷めてしまった。
もう一度ベッドに戻ろうかどうか考えながら、受信箱をクリックする。
『Re:旧校舎の保健室の件』
あった。
来ていた。
体が熱くなって、少しだけ震える。
いや、まだ関係ない人である可能性は消えていない。
震える手でメールを開くと、そこにはたった1行の文が記されていた。
『明日の放課後、待ってる』
明日の放課後? 待ってる?
待っているということは、つまり私を待っているということだろうか。
明日の放課後……メールの送信時間を確認すると、ギリギリで昨日という時間に送られてきていた。
どこで待っているんだろう。
そんなことは考えるまでもない。
きっと、間違いなくあの場所のことだろう。
短髪「おかしいわ……」
女「何が?」
短髪「だって、午前中の授業で一度も寝てないでしょう、女ちゃん」
赤髪「それっておかしいことなの?」
女「あー……確かにそうかも」
赤髪(おかしいんだ……)
短髪「ね、なんで寝なかったの? もしかして誰かのことを考えたら……とか?」
短髪ちゃんが隣で黙々とお弁当を食べている姫カットのことをチラチラ見ている。
私と話しているのに、どうして姫カットのことを見ているんだろう。
それに、様子がおかしいのは姫カットの方だと思う。
朝から目を合わせてくれないし、いつもより口数がずっと少ない。
一体どうしたんだろう。
女「うーん……確かに『誰か』のことを考えてたから、眠くならなかったのかも」
姫カット「っ!?」ビクッ
短髪「っ!!」ガタッ
赤髪(なんだこれ……)
女「っていうか、ちょっとどうしようか悩んでて」
短髪「なっななにをどうするの!?」
姫カット「……」チラチラ
おかしいのは私じゃなくて、短髪ちゃんと姫カットの二人なんじゃないだろうか。
明らかに二人とも挙動不審だ。
女「まぁ、いろいろと」
これ以上、この件について話す必要はないだろう。
そもそも相談できるような内容でもないし。
短髪「大丈夫よ! 私は何があっても女ちゃんの味方だから!」
女「え、何が?」
短髪「女ちゃんがどんな人とお付き合いしても、私は絶対にっ」
女「待って待って、お付き合いって何」
姫カット「…………」チラチラチラチラ
赤髪「もういい加減落ち着きなさいよ……女ちゃん困ってるじゃない」
姫カットの挙動不審度が増している。
そういえば、昨日体の感触を確かめたあとに「レズ?」と聞いたときも態度が豹変した。
そして今日の朝からのおかしな態度。
…………怪しい。
女「ねぇ、姫カット」
姫カット「っ、うぇ!?」
ウェ、ってなんだ。
でも、とりあえず置いておこう。
女「今日の放課後って、なにか予定ある?」
短髪「っ! っ!」
姫カット「ほっ!? ほほほ、放課後は……その、部活が……」
しまった、すっかり失念していた。
姫カットはバド部の主力メンバーだった。
ということはつまり、放課後のアリバイがある可能性が高い。
女「姫カットって、一昨日も部活に行ってた?」
姫カット「そ、それはまぁ……大会近いし……」
女「あー……そっか」
姫カット「で、っでも今日くらいなら、その、別に休んでも……」
女「え、いや、いいよ、私も予定あるし」
姫カット「……ぇ」
短髪「は?」
姫カットはシロ……の可能性が高い。
バド部の人たちに裏をとってみないと確定はしないけど、ほぼ間違いないだろう。
それよりも重要な問題がある。
今日の放課後のことだ。
おそらく『誰か』だと思われる人物から「放課後」に「待ってる」という内容のメール。
現段階ではほとんどなんの情報もない『誰か』と接触できるチャンス。
もしもこれを不意にしたら、こんな機会は、おそらくもう訪れないだろう。
そんな気がする。
相手の思惑はまったくもって不明だけど、この機会を逃して、これから先ずっとモヤモヤしたものを
抱えながら生活していくのは、気持ちのいいものではない。
何が待っているかはわからないけど、とにかく行ってみよう。
女「よしっ!」
何が「よし」なのか自分でもよくわからないけど、とりあえず気合を入れてみる。
腹は決まった。
あとは前に進むのみ。
そこで、周囲の視線が私に向いていることに気がついた。
姫カット「……」
短髪「女ちゃん……」
赤髪「はぁ……」
絶望、非難、諦観。
様々な色の視線が私に突き刺さっている。
やっぱり独り言で気合を入れるのはまずかったんだろうか。
放課後、お馴染みの保健室へ向かう。
いつものように扉を開けて、いつものように部屋に入る。
部屋の中を見渡してみるが、誰もいない。
もしかして、ここではなかったのだろうか。
それとも、ただ単にからかわれただけなのだろうか。
そんな風に思いながら、ベッドの方へと向かう。
そこで、昨日メモが置いてあった場所に、今日も何かがあるのを見つけた。
一見して何かわからなかったため、その黒い物体を手にとってみる。
手触りや見た目は布製。
折りたたまれているようなので、広げてみる。
女「……アイマスク?」
今日はこれで終わります。
2月中は岐阜の山奥に行ったり新潟に行ったり岩手に行ったりしないといけなくて時間がないのですが
その間になんとか2回くらいは更新したいと思います。
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