P「アイドルコントロール!」 (23)
【ある日、事務所】
俺は今、猛烈に憤っていた。
何故なら。
P「あいつら……人を振り回し過ぎだろ……」
そう。
許される事ではない。
例え、俺が彼女達をサポートする役にあると言ってもだ。
P「しかし……そう思い通りにはさせんぞ……クク……」
それが耐えられないならば、俺が振り回してやろうではないか。
P「今こそ思い知るがいい……!己の身の程をな……!」
そんな事を呟いていると、音無さんがやって来た。
小鳥「またロクでもない事を……やめておいた方がいいと思いますよ?」
P「甘いですね音無さん。俺はもう我慢の限界なんですよ」
誰に止められようと、俺は進み続けるのみ。
P「さあ……アイドルコントロールの始まりだ!俺の掌の上で踊り狂うがいい!」
小鳥「はぁ……もう好きしてください……」
言われなくともそうしてやるさ。
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P「ターゲットは千早、あずささん、雪歩、亜美・真美の五人……さて、どうしたものやら……」
手始めに千早からやってやろう。
P「千早か……」
こいつはあれだ。
仕事をしっかりやるのはいいが、歌以外となると途端にやる気をなくすのがよろしくない。
P「誰が仕事を取って来てると思ってやがる……」
如月千早。
歌が大好きで、歌さえあれば何も要らない女だ。
いつもは『ごめんな?』なんて下手に出てはいるが、今回もそうだとは思うなよ。
P「前回拒否したファッション誌の撮影……受けて貰うぞ!」
と、ちょうど千早が来たようだ。
P「ふふ……ショーの開幕だ!」
【千早編】
千早「おはようございます」
P「ああ。おはよう、千早」
何も知らずにノコノコとやって来たな。
P(哀れな奴め……)
俺の演技力に酔いしれるがいい。
P「千早。今度のファッション誌の撮影の事なんだがな」
千早「…………」
千早「はい?ファッション誌ですか?」
P「そうだ。お前も歌以外に活動するべきだと思ってな」
さあ、断ってこい。
それからが真のドッキリだ。
千早「プロデューサー。私は、そういった仕事はあまりやりたくないと言った筈ですが」
よし来た。
P「そうは言うけど、俺はもうちょっと千早の魅力を皆に知って貰いたいんだ」
千早「それは歌でできています。ファッション誌の仕事なんて歌には何の関係もない事ですし、やる意味が分かりません」
何が『やる意味が分からない』だ。
P(まあ、ここは仕事を蹴る姿勢で対応してやろう)
P「そうだよな……すまん……」
P「この仕事……断ってくるよ……はぁ……」
さあ、溜息を吐いたぞ。
どう出る、千早?
千早「ありがとうございます」
P(『ありがとうございます』じゃねーよ!もっと申し訳なさそうにしろよ!)
なかなか手強いじゃないか。
それでこそ千早だ。
俺も負けてはいられないな。
P「ああ……そうだな。俺も頭を下げてくるよ……」
P「あそこのディレクターだろ?この仕事持ち掛けてくれた雑誌記者だろ?それに……」
P「あはは……今日は俺、バッタになるかもしれないな……」
指折り数えて、十人以上に頭を下げなければいけない事をアピールだ。
さしもの千早も、これを見ては罪悪感が湧かない事はないだろう。
千早「はぁ……おめでとうございます」
P(『おめでとうございます』でもねーよ!お前は何色の血が流れてるんだよ!)
なんてやつだ。
俺がバッタになってもいいって言うのか?
P(仕方あるまい……この手は使いたくなかったが……)
P「うぅっ……!千早は……俺が一生懸命取って来た仕事が嫌だって言うのか……?」
何だか、『俺の酒が飲めねーってのか?』みたいな感じになってしまったが、まあいい。
要は、千早がこの仕事を受ければいいのだ。
それでいいのだ。
千早「プロデューサー?泣いてるんですか……?」
ああ、泣いてるよ。
血も涙も無いお前と違ってな。
P(まあ、嘘泣きなんだけど)
よく考えたら男の嘘泣きって絶望的に気持ち悪いな。
P(……考えないようにしよう)
心が折れそうだ。
P「いや、泣いてないよ。いいんだ、俺も千早に嫌な事はやって欲しくない……」
P「でもすまん……少しだけ、一人にさせてくれ……」
後ろを向きつつ、尻ポケットからハンカチを取り出す。
P(ハンカチまで見せたぞ……さぁ!仕事を受けろ!)
ここまでやって受けてくれなかったら本気で泣きそうだ。
千早「あの、プロデューサー」
P「……何だ?」
P(かかったな!)
千早を信じていてよかった。
しかし、このままあっさりと受けてくれるだろうか?
P(まだ気は抜けないな……)
が、そんな俺の決意を知ってか知らずか。
千早「その仕事、受けます」
P(……あれ?)
あっさりと、仕事を受けた。
P「い、いいのか千早?ファッション誌だぞ?」
千早「何を言ってるんですか?プロデューサーが持ってきたのに」
P「いや、それはそうなんだが……」
ここまで素直だっただろうか?
P(いや、当初の目的は果たした筈だ……)
成功と見て間違いはないだろう。
P(これも俺の演技力の賜物か……)
P「ククク……クハハハハハ!」
勝った!勝ったぞ!
千早「……プロデューサー、頭大丈夫ですか?」
P「お前に言われたくはねーよ!」
千早編——END
【翌日、事務所】
P「なんだか千早が素直すぎたような……」
いや、あれは俺の演技力の為せる技だ。
きっとそうに違いない。
小鳥「あ、本当にやってるんですね」
下らない事を考えていると、音無さんが話しかけてきた。
P「ええ。あ、そうだ。音無さん。今回は協力して貰いますよ」
小鳥「えぇ〜……私もですか……?」
何でこの人はこんなに乗り気じゃないんだろうか。
いつもは妄想全開だというのに。
P「勿論です。そうそう、このバットを持ってください」
そう言って、金属バットを渡す。
小鳥「まさか、これで皆を殴れなんて言うんじゃ……」
P「言うわけないでしょ!?俺を何だと思ってるんですか!?」
真、遺憾である。
小鳥「じゃあ、これは何に使うんですか?」
P「俺を殴ってください」
小鳥「…………」
P「ああっ!ドン引きしないでください!別にドMとかそういうんじゃないですから!」
まあ、俺だって『自分を殴ってくれ』なんて言われたら、そいつと縁を切る自信があるけど。
P「次のターゲットはあずささんなんです。期待してますよ」
小鳥「殴られるのを期待するなんて……こんなに気持ち悪い人だったかしら……」
P「だから違うんですって!」
_,|__|,_
,.;x=7/>─</7ァx,
,ィ´///./ \//ヽ
,;'////// \ ヽ/∧ 安価が
,'////// o| |V∧
;//////! o! lo}/ハ 「 'ニ) 、_
i//////| o| |o|/リ 、_,) __) 」 だと? ルーシー
V/////ハ__⊥ =-──┴--'--、
////\//|L -z、‐───=zァ7 ̄ ̄ヽ 予想外だ……
. //////./|ハ rテ汞ト- ,ィァテ ∧___,ノ この世には
〈_//_, イ: |l:|: :〉 `冖` /´冖'/|: | その「安価」のために
.  ̄ |: :|: :|l:|:/ │ ': l: :l 無償で…喜んで…
_/l: :|: :|l:|' -ト、ノ / :│: ', 生命を差し出す者も
/ L:!: l : | | ヽ --`- /l: : :l :_:_ゝ 大勢いる
_r─‐x_ノ\l ∨ : |:l/⌒\ ー‐ ' イ┴<\
/二二二\ \_ ∨ l:! __` ー‐ '__|___/ ノ たとえば
. /ニニニニニ∧ ヽV:/ /、  ̄二´ ,.ィ__ その者が
{ニニニニニニハ \/、 \____// |∧___ 「女」であろうと
/ニニニニニニニ}、 ,ィ \_ i / ./ ゚ \\_ ……
r{ニニニニニニニ//。{  ̄ ̄ 「 ̄\ } У \ 修道女のような
| \__二二二∠,.イ i \_ ハ ゚ ゙ヽ 「jー-- 。〉 …………
|ヽ.  ̄ ̄∧゚__\_l___,ノ__。 ̄了 \__厂\._/
人 \__/ ./ / {_j / | l |.l
/ \, 〈 / /ヽ---< -‐=  ̄ \_。_|ハ
∨。 ./ | | ___|_|_∧
/`ヽ__ }/ | | _ -‐  ̄  ̄ ̄Τl〉
ニニニ\___ l l | |__ -‐  ̄ i:. }ニ|
【あずさ編】
P「なかなか出ないな……」
三浦あずさ。
通称、『地磁気と衛星を狂わす女』
以前、方位磁針とGPSを持たせてみたが、見事に意味不明な方向に旅立った実績を持つ猛者だ。
今日も恐らく、事務所に真っ直ぐ来れていないだろう。
P「毎度毎度、俺が迎えに行ける思ったら大間違いですよ……あずささん」
本日はご自分の足で事務所までお越し願いたい。
P「お、繋がったな」
あずさ「はい、もしもし?」
携帯電話越しにあずささんの声が聞こえてくる。
話している間も何処かを彷徨っているのだと思えば、憤りもするが何だか可哀想でもあるな。
P(低い声)「ん、んんっ!三浦あずさだな……?」
あずさ「…………」
あずさ「えーと、プロデューサーさん……じゃないみたいですね」
瞬時に状況を把握してくれるなんて、手間が省けて嬉しい限りだ。
P(低い声)「そうだ……貴様には、今から俺の言う通りの場所に向かって貰う……」
P(低い声)「さもなくば、プロデューサーとやらの命は無いぞ……」
あずさ「そんなっ!?プロデューサーさんをどうするつもりなんですか!?」
取り乱す声が聞こえてくる。
P(愉快痛快爽快だなぁ!いつもはゆったりしているやつが取り乱す声はよぉ!)
おっと、つい役にはまり込んでしまった。
P(低い声)「心配せずとも、コイツの命はまだある……おい」
P「ひ、ひぃっ!?やめてくれ!」
P(音無さん!今です!俺に金属バットを!)
小鳥(えぇ!?本気ですか!?)
無論、本気だとも。
呻き声一つにもリアリティが必要なのだ。
P(さぁ!)
小鳥(もうどうなっても知りませんからね……えいっ!)
唸りを上げて近付くバット。
P「ちょっ——!?」
そこは膝なんですけど!
P「——がぁぁああああ!」
痛すぎる。
あの、膝頭のちょうど窪んでる所に当てるなんて。
P(ちぃっ!無駄な才能をっ!)
しかし、これしきの事でへこたれて堪るものか。
絶対に自分の足で事務所に来させて見せる!。
P(低い声)「聞いたか?まだこの男は生きている。死なせたくなければ——」
あずさ「——分かりました。要求を言ってください」
どうやら欺けたようだな。
俺の膝はズル剥けているだろうけど。
P(低い声)「……現在位置を教えろ」
あずさ「スーパーの看板が見える場所に立っています」
P(低い声)「よし、ではそこの先にあるコンビニを左に——」
【誘導後、事務所】
あずさ「プロデューサーさんっ!大丈夫ですか!?」
あずささんが息せき切って扉を開けて入ってくる。
俺の誘導は完璧だったようだな。
P「あずささん?どうしたんですか?」
あずさ「あれ……?確か、怖い男の人が居た筈じゃ……?」
P「あはは……面白い事を言いますね。そんな人、何処にもいませんよ?」
ただし、膝に向かってフルスイングする非常識な人間は居るが。
さっきから音無さんが目を合わせてくれない。
あずさ「おかしいですね……?確かに聞いたんですけど……」
P「夢でも見たんじゃないですか?」
できる事なら、膝の怪我は夢にしておきたいぐらいだが。
まだじんじんしている。
あずさ「うーん……?何だったんでしょう……?」
あずさ編——END
【翌日、事務所】
膝の調子も治ってきたので、病院には行かない事にした。
それと、音無さんに協力を頼むのも止めておいた。
P「俺の膝に二度目はないだろうな……」
この年で膝の心配をしなくてはならないとは。
なかなかに因果な世の中だ。
小鳥「全部プロデューサーさんが悪いと思いますけど」
P「音無さんだってプロ野球選手の素振りみたいに振ってたじゃないですか。バットの真ん中に重りまで付けて……」
P「この恨み、忘れはしませんよ……」
小鳥「勝手だなぁ……」
偶には勝手に振る舞ったっていいじゃないか。
俺はいつも振り回される側なんだから。
P「そういえば……」
今日は雪歩だったな。
あいつはズルイ。
何がズルイかって、泣けば俺が慰めると思ってる辺りがだ。
P「まあ、慰めるんですけど」
小鳥「激甘じゃないですか」
P「だって、ねぇ?」
目の前でめそめそ泣いている奴に『甘ったれるんじゃねーぞクソ虫が!』とか言える筈もない。
P「だが……それならそれでやり様はいくらでもあるのだよ……ふふふ……」
萩原雪歩。
通称、『私なんて駄目とか言ってるけど予想以上に駄目じゃない女』
P「人がいつでも慰めてくれると思えば大間違いだ」
貴様には、俺を慰めて貰う。
P「目の前で仕事の愚痴言いまくってやる。この鬱陶しい俺を慰めきれるかな?」
いつも弱気な雪歩が、おろおろと俺を慰める姿が目に浮かぶようだ。
実に楽しい。
小鳥「何か情けないですねぇ……」
それは言わないお約束。
P「言わぬが花ってやつですよ。ところで音無さんの季節はどこに行きました?」
小鳥「……それこそ言わぬが花ですよ?鮮血の徒花を咲かせましょうか?」
脳裏に蘇るバットの感触。
……音無さんには逆らわないようにしよう。
P「それはさておき、次は雪歩ですよ。さあさぁ、ご照覧あれ!」
小鳥「その元気を仕事に向けて貰いたいですね……」
【雪歩編】
雪歩がやって来たので、お茶を淹れてくれるよう頼んだ。
お茶を淹れてくれたのを褒めると大抵『いえ、私なんてお茶ぐらいしか取り得が無いですから……』とか謙遜する。
そこが今回のドッキリ開始地点だ。
雪歩「あの、プロデューサー。お茶どうぞ」
P「ああ、ありがとう雪歩」
雪歩から湯呑を受け取り、一口啜る。
P「ふぅ……雪歩のお茶はやっぱり美味いな」
さあ、謙遜してこい。
雪歩「いえそんな……私なんて、お茶を淹れるぐらいしかできませんから……」
来たな。
もはや逃げる事は叶わんぞ!
P「そんな事はないぞ。雪歩は頑張ってると思う」
実際、雪歩はちゃんと仕事をこなしている。
それは評価されるべき点なのだが、どうしてこうも自信がないのか。
P(そんなお前に、真に自信がない人間を見せてやろう……)
この俺の、最高の演技力でな!
雪歩「そんな……私なんてダメダメで……何をやっても上手くいかなくて……」
浅はかだよ雪歩……
俺にチャンスを与えた事が、お前の敗因と知るがいい。
P「雪歩でダメダメ、か……じゃあ、俺って何なんだろうな」
雪歩「え……?」
P「お前達9人を同時にプロデュースして、全員を有名なアイドルに押し上げたのに……」
P「一向に給料が上がらない俺なんて、雪歩からしたらゴミ虫みたいなものだよな……」
俯き、雪歩のお茶を両手で握りしめる。
さあ、フォローするがいい!
P(もしフォローしても更に落ち込むだけだけどな!)
お前に今までの俺の苦労を思い知らせてやる。
雪歩「そんな事ありません!プロデューサーは頑張ってますっ!それは私達が一番——」
P「じゃあ、俺の給料が上がらないのは何でだろうな……」
P「二十歳を過ぎて……毎日毎日早朝に出勤して、残業して家に帰って……」
P「プロデューサーなんて言えば聞こえはいいが、所詮はうだつの上がらないただのリーマンだよ……」
あれ?
俺ってどうしてここで働いてるんだろうか?
雪歩「プロデューサー……そんな悲しい事、言わないでください……」
雪歩「私達、プロデューサーのお陰でここまで来れたんです。なのに……」
おお、あの雪歩が俺を元気づけてる。
凄い新鮮な感じがするな。
P(だが、俺の落ち込みはここで終わったりしないのだ)
今日は徹底的にやってやる。
P「お前達をプロデュースするのが、楽しくないって言ったら嘘になるよ」
P「でもさ。いい大人だって言うのに、子供に稼ぎは負けてるし」
P「やよいなんて、家事に加えて事務所の掃除してくれてるのに……俺はと言えば、家は洗濯物散らかしっぱなしでさ……」
P「挙句に一人暮らしなのに料理の一つもできなくて……雪歩で駄目なんだったら、俺って一体何なんだろうって思う事もあってさ……」
おかしい。
目薬使ってないのに涙出てきた。
P(あれだな。俺の演技レベルも目薬無しで泣けるレベルに達したって事だな)
それにしてもこの涙、全く止まらない。
P(そろそろ潮時かな?)
あんまり時間を掛け過ぎると、自分の中の何かが壊れそうだ。
袖で目尻を拭って、雪歩に微笑みかける。
P「なんて、こんなの言っても仕方ないよな……ごめんな?」
雪歩「……いいんですよ。偶には泣いたって」
P「え……?」
雪歩、お前ってやつはそこまで成長していたのか。
もうダメダメなんて言ってたお前じゃないんだな。
P(うむ、感慨深い)
このドッキリをしかけた甲斐があったというものだ。
雪歩「私は見なかった事にしますから、だから——」
そう言って、雪歩は俺の頭を抱える。
鼻先が胸にうずまって、温かさとふんわりとした香りがして……
気づけば、俺は嗚咽を漏らしていた。
雪歩編——END
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