【モバマス】運河を渡る船 (17)
壮年の男性が船に乗りながら、船頭に話しかける
「ここは景色がきれいだね」
「そうですね。それが売りなんですよ」
「それにしてもやけに集落や村を通るね。まあ、牧歌的でいいとは思うが……」
「村の人々もこっちを見て手を振ったりしてるんで、見られているのはお互い様じゃないでしょうか」
「そうだねぇ。案外こんな風にゆっくりと人を見ることはなかったのかもしれないなぁ」
「まあ、ちょっと離れてるんで声は聞こえませんね」
「それは残念だね」
「ええ。この運河もだいぶ広いんで……」
「こういうものを人が作るだなんて偉大だよ」
「よく言われますよ」
「ああ、そうだろうな」
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ふと見るとドレスを着た女の子が服を汚しながら、球蹴りをしている。
「あの子は……」
「ああ、あいつはですね。男兄弟の末っ子に生まれたんですよ。だから、男っぽいところがありまして。無理やりドレスを着せてみたんですが、あの調子で……」
「ははは、元気な子には元気な格好が一番だと思うんだがなぁ」
「そうですか?でも、女の子だからなぁ……」
「ドレスより似合う格好があると思うよ。まあ、ドレスも可愛いがね。なんというか、あの子が嫌がりそうでね」
「わかりますか?」
「ああ。あの子はきっとカッコよさを求めてるんだよ。時には求めるものを与えることが必要だよ」
「はぁ……」
「それにしても楽しそうだなぁ」
「ええ。本当に……」
「ん、こっちに気づいたみたいだね」
「手を振ってますね。振り返しますか?」
「ああ、もちろんだとも。君もどうかね」
「船が進みませんから」
「残念だ」
「本当にそうですね」
少し時間が経った。見えてきたのは、遠い目をした少女を乗せた馬車だった。
「あれは……」
「あれは劇団員の子役ですね。いろんなところからオファーが来て。毎回馬車に揺られて……」
「家族は……」
「さぁ……」
「そうかい」
「私も数回話したくらいで……」
「なんというか、才能があることは幸せにつながらないのかねぇ」
「環境さえ良ければ……」
「家族も仲間もいないか」
「ええ。お金で取引されている事実を知っている顔ですよ」
「悲しい世の中だ」
「本当に自分の力のなさを恨みますよ」
「君は若い。きっとあの子を助けられるよ」
「そうですか?」
「チップを渡そう。君の一助にするといい」
「いえ、結構です」
「そうかい。残念だ。真面目なことは時として悲劇を生むよ」
「でも、私は真面目な自分をあの子に見せたいです」
「そういう考えは嫌いじゃないよ。精進してくれよ」
「はい!!」
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