※完全オリジナル、地の文有。
初投稿で色々と至らない点があると思いますがどうかご了承下さい。
書き溜めたので徐々に投下して行きます。
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ーー勤務歴3年ほどで、俺は仕事を辞めた。
思えば俺なりに必死にやって来たと思う。中流の大学に入学し、何社にも落とされる中めげずに就活を続けようやく内定を勝ち取った。
不動産業、それが俺の就いた仕事だった。
今思えば何故俺があの仕事をしていたか分からない。
ーー俺は一体、何がしたかったんだ?
深夜近くまでなど当たり前な残業。ようやく帰宅してもやることは寝るだけ。そうして翌日も朝早く出社し、モデルルームだのなんだのを売る為に必死に営業に回る。数少ない休みは不定期で、それすら潰れる日も多くあった。
最初は契約を取った時にやり甲斐を感じた。今までの苦労が報われた、と。
しかしそんな喜びはすぐに次の業務の数々に打ち消される。
そうしていくうちに、心は確実に磨耗し、すり減っていった。
ーー俺が弱い事はわかっている。
小、中、高、大学とずっと運動部でやってきた。だから精神的にも肉体的にも自分は周りより幾分かは強い自信があった。
ただ、それはただのちっぽけなプライドだったわけだ。
俺なんかよりキツい思いをしながら仕事をしている人だっているだろう。むしろそれが圧倒的だ。多数派だ。
そんな中、俺はこうして仕事を辞め、社会のレールから逸脱したのである。
ーー
もうやけクソだった。
気付いたら辞意を表明し、辞表を出し、手続きを済ませ退社していた。
それからは少しの解放感に胸を躍らせ、普段ならできない事をやっていた。
ギャンブルや酒、買い物、テレビゲーム、周辺や遠くへ旅もした。
しかしそれら全て出尽くすと、今度は不安や焦燥に駆られる。
ーー俺はこんな事をしていていいのか?仕事は? 未来は?
幸い前職の給料の貯金がまだ残っている。
しかしいつまでもこんな生活をするわけにもいかないことは重々わかっていたのだ。
そこで、俺は地元に帰ることにした。もうこんな都会にいる理由もない。何故かここでまた別の仕事をする気には未だになれなかった。
「ーーこれで良し、と」
予め借り部屋の家具、荷物等は引越し屋に運搬してもらった。
部屋の解約その他諸々も済ませた所だ。
後は地元に帰るだけ。
俺は駅を乗り継ぎ、新幹線に乗車して、片道3時間程かけ帰省したのであった。
ーー
「ーー帰って来たのはいいが、何もすることねぇ…」
それから数日経ち、俺は見事なまでの穀潰しと成り果てている。
実家に帰って来て、まずは両親に仕事を辞めた訳を説明した。
二人は苦い顔をしながらも、俺の身を案じて何も言わなかった。てっきり怒鳴り散らされるかとばかり思っていた俺は、なんだか申し訳ない気持ちで一杯になった。
そうして時間だけが流れるーー
「暑いな…」
真夏の炎天下。
なんだか最近やけに独り言が増えた気がする。
今日は職業安定所に来ていた。
しかしどうもまだ働く気にはなれない。自分が怠け者の底辺なのはわかっている。しかし興味を惹かれる求人がなかったのだ。
ーー選ばなければ、何かしら仕事はある。
だが本当にそれでいいのか?
またあんな仕事場だったら?
地元は中々の田舎。選ばなければあると言っても、その総体的な数は都会のものと比べれば圧倒的に少ない。
はぁ、と一つため息をつく。
両親にこの事を帰って話せば、またあの苦い顔をされそうで、それを想像するとなんともいたたまれなくなった。
「なんだか帰りたくねぇな」
高校時代に通学用に使っていたバイクにまたがる。
時刻は正午を回っていた。
「寄り道でもしてくか」
なんだかまだ帰りたくはなかったので、道草を食うことにした。
ここが小学。
ここが中学。高校は隣町だからーー
何故か感傷的な気分になり、俺は自分が生きてきた道を回顧するように地元を周っていた。
思い出すのは学生時代、級友達の顔、部活での思い出など。
ーーあの頃は良かった。
世間体など気にせずに、目の前の事に取り組んでいれば良かったし、それが楽しかった。
恋愛、部活、勉強。
その全てが今となっては懐かしい。
遠く、記憶の片隅に置かれたセピア色の瞬間たち。
それは今になって俺の中で再び輝きを放っては、胸を締め付る。
「ーー帰るか」
やがてコンビニに着いて一服する。
煙草をふかしながら、家に帰ると一つ決心した。
そうしてバイクにまたがり、キーを回しエンジンをかけて発進する。
そういえば。
バイクを走らせながら、俺は未だ追憶の中にいた。
「ーー見えた」
国道を上って行くと、彼方に見える小高い丘陵地のてっぺんに洋館がチラリと顔を出す。
「どうせ帰っても暇だしな」
追憶は今、中学時代に遡っている。
ーー心霊スポット、いわゆるどこにでもある噂だ。
あれは確か夏休み、地元の仲間達と肝試しに行った時の話。
あの彼方に見える洋館に俺達は夜中突入した。
いや、突入と言うのは語弊があるかもしれない。何故なら中には入っていないのだ。不気味に佇む洋館を前にして俺達は怖気付き、遂に引き返したのである。
行ってみるか?
高鳴る鼓動。冒険心がくすぐられる。どうせ帰っても暇なのだ。それにまだ15時を回ったところで、家族に心配をかけることもない。
なんだか少年の頃に戻ったような気分で、俺は洋館に向けバイクを走らせた。
「ーーあった」
林に覆われた道を上って行くと、やがて拓けた頂上に到着する。
頂上までは舗装された道を行けばいいだけなので、簡単に来ることができた。あの頃と変わりない状態で、あの夜の記憶がフラッシュバックする。
「相変わらずデカイな」
西洋風の広大な洋館。
あの頃と変わらず、不気味な雰囲気を纏って鎮座している。
ホラー映画の舞台と言われても何ら違和感はない。
バイクを止め、洋館の入り口前に立つ。思わず見上げると、その大きさ、異質さを改めて実感できた。
建物自体は年季が入り、とても誰かが住んでいるようには見えないし、そうであるようなことは聞いたこともない。
「廃墟、なんだよな?」
建物自体には人が住んでいなくても、誰かの管理下にあるかもしれない。
もしそのような状態だった場合、許可なく立ち入れば法を犯すことになるのだ。
しかし。
「ーーどうせただの廃墟だ」
俺の中の冒険心が勝り、その危惧を彼方に押しやる。
お邪魔します、と心の中で唱え、古びた重い扉のノブに手をかける。
「ーースゲーな…」
施錠はされていなかった。
恐る恐る扉を開いていき、遂に俺は洋館内に足を踏み入れる。
そして辺りを見渡してみた。
ーーもしや、誰か住んでいるのか?いや、そんなはずは…
洋館の外見は寂しく、すすけて、ジメジメとして陰鬱。人がいるはずがない。
ならば、これは何だ?
外見とは真逆の洋館内。大理石の床は新品のようにピカピカで、誰かが数時間前にワックスでもかけたのかと思わせるくらいに、見たところチリ一つ落ちていないし、輝きを放っている。
エントランスはただっ広く、正面に
は階段。俺が立つ入り口から階段の最上まではいかにも高価そうなレッドカーペットが引かれている。
そしてフロアには何個かの扉。
もし誰かがいるならば、俺はただの不法侵入者だ。
しかし冒険心に煽られた俺は、自然と足を一番手前の部屋に向け進めていた。
ギギギ、と重苦しい音を立てて扉が開く。
「ーーここは?」
自分から見て左側、一番近くにあった部屋に入る。
縦に長いテーブルが端から端までずっと続き、その前には幾つもの椅子が不気味な程にズレ一つなく整然と並べられている。
「食堂か何かか?」
まるで洋画で見たような富豪の豪邸にある食堂を連想させる。
長いテーブルには真白なテーブルクロスが敷かれていて、そこには皺や汚れは一つもない。
ーー本当に誰かが住んでいるんじゃ。
今のところ人の気配はまるで感じない。しかし内部の様子は廃墟とは考えられないほどに整い過ぎている。
家主はただ外出していただけだったら?
遅すぎるが、ここに来て初めて後悔の念が湧く。
「ーーさっさと出よう…」
本当は廃墟なんかじゃなくて、誰かが住んでいるか管理下にあるんだ。
通報されたらたまったもんじゃない
懺悔の念に駆られ、さっさと洋館を出ようと踵を返した。
ーーやっちまった。
その瞬間であった。
食堂らしき部屋、俺が入ってきた目の前の扉が開いたのだ。
ギギギ。
軋む音を立て開かれた扉。
無職になり、加えて俺は前科者に成り果てるのか。
何度も己に叱責、罵倒を浴びせるが、それも今となっては後の祭り。
俺の馬鹿野郎。
遂に扉は全て開かれた。
ーーそこに立っていた者。
「ーーこんにちは。何か御依頼ですか?」
妖艶な美女の銀髪がサラリと揺れた。
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