初期艦赤城と新人提督 (40)
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・下手な絵が投下される恐れあり
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・登場人物
「赤城」
初期艦で秘書艦
http://i.imgur.com/BC7qHwC.jpg
「提督」
青年の新人提督
http://i.imgur.com/l3v9Ae3.jpg
大淀『この部屋でお待ちくださいね。しばらくすれば秘書艦の子が来ますので』
提督「と言われてもなぁ……落ち着かないぞ」
なにせ俺には立派過ぎる部屋だ。まず何畳あるんだってくらいだだっ広い。
机なんか新車のように光沢を放っているし、おまけに立派な軍艦の模型も置いてあるし……
提督「あれは……赤城か?」
近くで鑑賞しようとそちらに足を向けたときだった。ちょうど扉を叩く音がした。しかし声は無い。
秘書艦の子が来たのだろうか? 大淀さんだったら声を掛けてきそうなものだしな。
提督「はい、どちらさまですか?」
扉を開けると、おっとりした雰囲気の女性が其処にいた。少したれ目で、長い黒髪がよく似合っている。
「はじめまして。赤城型航空母艦、一番艦の赤城です。これからお世話になります」
提督「こちらこそよろしく……赤城さん、貴女が秘書艦でいいのかな?」
赤城「はい。僭越ながら、全力で提督の補佐をさせていただきたいと思っております」
提督「そんなに畏まらなくてもいいよ。僕も新人の身だから、偉そうに出来る立場じゃないし」
自虐気味に笑って、少しでも親しみやすいように言ってみた。
赤城「ふふ、新人どうしですね。お気持ちは嬉しいのですが、畏まります。提督は私の上官ですから」
どうやら赤城さんはそれなりの慎ましさをお持ちのようだ。
少なくとも執務中は、敬意を持って接してくれるらしい。
生意気とは対極の部下だ。いきなりタメ口で小突いてくるような子でなくて良かった、一安心だ。
挨拶を済ませた後、俺達は和菓子屋に向かった。時刻はヒトゴーマルマル、おやつの時間だ。
暖簾をくぐると、店のおばあちゃんが声を掛けてきた。
「あんらぁ、海軍の人だば、めずらしっちゃ。どうぞ、好きなどご座ってけれ~」
提督「座敷がいいなぁ……あそこに座ろうか」
赤城さんは頷いて俺の後に続いた。俺達が腰を下ろすと、おばあちゃんが近寄ってきた。
「お二人さんは何食うや?」
提督「あはは……お品書きを見てから決めますね」
「おすすめは、みたらし団子だ。うちの団子はんめぞぉ」
提督「そうなんですか! ではみたらし団子と……赤城さん、遠慮なく注文していいよ?」
赤城「わ、私はその……提督と一緒で大丈夫です」
提督「え? 僕、結構たくさん食べるから、赤城さんは食べきれないと思うよ」
赤城「そうなのですか?」
提督「うん。おばあちゃん、抹茶羊羹と、抹茶ぜんざい……あときんつばと、ずんだもち、お願いします」
「ずんでねいっぺ食うのぉ。さすが軍人さんだの!」
おばあちゃんは歯を見せて笑った。褒められてるのか、茶化されてるのか、よく分からないけれど……悪い気はしなかった。
「あんちゃは決まったの。そっちの別嬪さんは何食うや?」
注文を取ったおばあちゃんは、お菓子を用意するために店の奥に下がっていった。
そして俺の正面に居る別嬪さん(おばあちゃん談)は……顔を真っ赤にしてむくれている。
ふくれているともいう。頬のふくれ具合が、向日葵の種を詰めるハムスターさながらである。
もっともハムちゃんずは怒ってそうする訳ではないだろうけれど、赤城さんは怒りのふくれっ面だ。
提督「ほっぺた、凄いことになってますよ?」
赤城「……こうなったのは誰のせいだと思ってるんですか」
提督「す、すみません……」
赤城「どうせ私は大食いおなごですよーだ……」
つい先程、おばあちゃんに言われたのを気にしているらしい。それだけでなく、俺が笑ったことも気にしているようだ。
赤城さんは結局、俺と同じものを注文した。
本当に食べきれるのかと心配したけれど、赤城さんは食べきれると言い切った。
『もし食わいねば、包んでやっさげの』とおばあちゃんの配慮もあり、俺も一応は注文を了承した。
同じお菓子を二人分ずつという注文を受けたおばあちゃんは、さぁ用意するぞと座敷を立ち去ろうとする。
しかし、赤城さんがおばあちゃんを呼び止めた。
それを見て、やはり俺と同じ量は食べられないんだろうなと思った。
普通の女性なら、みたらし団子ときんつば一つでもお腹一杯になるだろうし。
赤城「最中とまろんもお願いします!」
思わず俺は噴出した。わざとボケたのかと勘違いする程の鋭さを持った一言だった。
一方おばあちゃんは『あいよ』と快諾した。赤城さんは真っ赤になって俺を睨んだ。
そうして現在に至る訳であった。仕方ないだろう、まさか追加で注文するとは思わなんだ。
お菓子を食べ始めると、途端に上機嫌の赤城さん。さっきまでのふくれっ面はどこへやら。
まずは金鍔が気になったようだ。カブトムシを見つけた子供のように興味深々のご様子。
口に運んで、神妙な顔で咀嚼し始めたかと思うと、すぐに笑顔を浮かべた。
赤城「これ凄く甘いですよ。美味しいです」
提督も早く食べてください、とでも言いたげな顔だったので、一口噛り付いてみる。
提督「……うん、おいしいね。近所のスーパーで売ってるやつとは大違いだ」
赤城「これならいくらでも食べられそうです……ん~しあわせ~……」
本当に幸せそうである。見ているこっちまで幸せな気持ちになるようだった。
赤城「提督? 食べないなら、私が貰っちゃいますよ?」
提督「いやいやいや……僕だって和菓子大好きだからね。あげないよ」
赤城「あら、残念です。……んく、んく……ふぅ。お茶もほろ苦くて、お菓子にぴったりですね」
いやしんぼうな赤城さんを眺めながら、上等な甘味に舌鼓を打つのだった。
http://i.imgur.com/08alAgV.jpg
食べきれないだろうという心配もなんのその、堂々の完食である。
更に自分の分だけでは足りなかったらしく、俺の分を指を咥えて見ていたので、分けてあげたくらいだ。
自分の食べる分が少なくなった訳けれど、赤城さんを責める気は全くなかった。
彼女が幸せそうにお菓子を頬張る姿を見ているだけで、十ニ分に満たされたからだ。
今日だけでなく、これからも赤城さんと食事を一緒に出来たらいいなとさえ思った。
それが叶うなら、待ち受ける厳しい戦いの中でも、挫けずに頑張れる気がした。
まあ、良い気持ちだけではなく、見た目からは想像できない食欲に驚いたし、財布の心配もしたけれど。
彼女の食べっぷりの前では、そんなのは些細な事に思える。食べる赤城さんは、それ程魅力的だった。
おばあちゃんもニコニコ笑いながら、赤城さんを見守っていた。俺と同じ気持ちがあったはずだ。
大淀さん達へのお土産を両手に抱え、俺達は和菓子屋さんを後にした。
帰り道、ふと思ったことを口に出してみた。
提督「赤城さんと一緒に食べ放題の店に行ったら、お店が潰れちゃうかもね」
赤城「食べ放題? そんな素敵なお店があるのですか!?」
しまった……余計な事を教えてしまったか。というか知らなかったのか。誰でも知っているだろうに。
赤城「じゃあいつ行きます? 今でしょ! ……あれ、私、滑っちゃいました?」
出会った時のお淑やかな印象はもうどこへやら。ただの食いしん坊お姉さんじゃないか。
でも、そんな赤城さんの方が魅力的だと思ってしまっている自分が少し不思議だった。
赤城「加賀さんも連れて行ってあげたいですね……」
提督「加賀さん?」
赤城「はい。私と同じ一航戦の仲間……相棒ですね」
提督「へえ……じゃあ、加賀さんに逢えたら、三人で行こうか? なんて……」
赤城「是非!」
凄く目が輝いてる……どれだけ食に飢えているんだ、この子は。実はフードファイターだったりするのか。
とりあえず、食べ放題のお店の人達には、今から謝っておこう。
鎮守府へと戻った俺達は、執務室でくつろいでいた、というよりだらけていた。
何をすればいいのか分からなかったからだ。赤城さんに聞いても、困らせてしまっただけだった。
大淀さんが居れば良かったのだけど、生憎、彼女は不在だった。
赤城「どうしましょうか……このままぼーっとしてるのも、いけない気がしますし」
提督「そうだね。大淀さんを探してくるよ。赤城さんはゆっくりしててください」
赤城「私も一緒に行きますよ?」
提督「大丈夫、すぐ戻るから。あれだけ食べたんだから、お腹一杯でしょ?」
赤城「……では、お言葉に甘えます。すみません」
提督「うん。じゃあ行ってくるね」
赤城「はい、行ってらっしゃいませ」
赤城(実は少し足りないくらいだなんて、恥ずかしくて言えないです……)
そういう訳で、一人で大淀さんを探すことになった。
鎮守府は広く、着任初日の俺はうろうろと不審者のように彷徨っていた。
歩けど歩けど、人っ子一人居やしない。妖精さんだけはちょくちょく見かけたけれど。
そんな時だった。工廠を覗いていたら、ピンク髪の女性に声を掛けられた。
明石「提督? 探し物ですか?」
挨拶だけは済ませた人……名前、何だったっけな……
提督「明石さん、でしたっけ?」
明石「あ、覚えててくれたんですね。嬉しいです」
提督「あの、大淀さんを探してるんだけど、何処にいるか分かります?」
明石「大淀さんですか? 自室に居ると思いますけど……呼びましょうか?」
提督「……えっと、明石さんでもいいんですけど」
明石「私でもいいんですか? どんな要件です?」
提督「仕事、何をすればいいのかなって……具体的な業務を知らないもので」
明石「あー……それなら、大淀さんを呼ばないとですね。彼女が任務担当で、私は修理担当なので」
提督「そうなんですか? それなら呼んでもらいたいです」
明石「了解しました、ちょっとお待ちくださいね」
彼女は携帯取り出しポパピプペ、大淀さんに執務室へと向かうように伝えてくれた。
提督「明石さんは何をしてたんですか?」
明石「えーと……工廠の整備、ですね。これから艦娘が増えて、使う機会が多くなると思いますので」
提督「なるほど。明石さんは工廠担当な訳ですね?」
明石「い、いえ、そういう訳では無いんですけど。性分なもので……」
提督「性分?」
明石「工作艦としての血が騒ぐといいますか……それに妖精さん達に任せっきりなのもいけないですし」
提督「へぇ……」
工廠は妖精さん達の管轄なのか。ずいぶん和む場所だなぁ。
明石「よ、余計な事しちゃったかなって思ったりもしたんですけどね」
提督「そんなことないですよ。明石さんって責任感がある人なんですね」
明石「あ、あははは……あっ、提督は何をしてたんです?」
提督「赤城さんと三時のおやつを食べてきたんですよ。明石さんにもお土産ありますよ」
明石「ほんとですか!? うわぁ楽しみだなぁ……」
そうしてお喋りをしているうちに、執務室へ到着した。なんと大淀さんは俺達より先に着いていた。
彼女はこちらに気付くと、苦笑いを浮かべて、ソファーの方を見た。するとそこには……
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涎を垂らしながら、幸せそうに眠っている赤城さんの姿があった。
提督「あらら……一杯食べたから眠くなっちゃったのかな」
明石「食べた後すぐに寝ると、牛になるって言いますよね」
提督「そうですね……赤城さんに会った時のイメージが完全に消えちゃったなぁ」
明石「どんなイメージ持ってたんですか?」
提督「第一印象は、清楚なお嬢さんって感じだったんですよ」
明石「では、現在は?」
提督「おデb……は違うか。赤城さんは太ってないし……ちょっと残念な食っちゃ寝美人かなぁ」
大淀「それ、本人には言わないで下さいね。結構繊細なんですよ、赤城さん」
提督「そうなんだ……肝に銘じておきます」
明石「でも、出撃もしてないのに、よく太りませんよねぇ……どうなってるんだろ? 代謝がいいのかな?」
明石さんは赤城さんの身体をまさぐっている。そんな事は露知らず、満足げな顔で、すやすやの赤城さんであった。
提督「それにしても幸せそうだなぁ。昨日寝てなかったのかな?」
大淀「緊張していたから、気疲れてしまったのではないでしょうか」
提督「そんな風には見えなかったけど……」
大淀「眠っているのが、何よりの証拠ですよ。いくら大食いの赤城さんでも、食後にすぐ寝るのは珍しいですから」
提督「……ひょっとして、初対面の僕と一緒だったからかな」
大淀「まぁそうですね……それもあると思いますが、提督は男性ですからね」
提督「どういうことですか?」
大淀「此処には男性が来ませんから。特に若い男性は。来てもお偉いさんの御老人が精々ですね」
提督「確かに鎮守府に来てから、男の人は見てませんね」
大淀「ええ。だから、免疫が無いんです。私だって、実は緊張してるんですよ?」
明石さんがもの凄い勢いで頷いてる……そんな事には微塵も気付かなかったな。
女性しか居ないと意識すると、今度はこっちが緊張してしまいそうだった。
大淀「あ、男一人だからって、緊張しなくても大丈夫ですよ」
提督「な、なんで分かったんですか?」
大淀「エスパーですから」
明石「そうだったんですか!?」
大淀「貴女が驚いてどうするんですか……」
冗談を真に受けてしまう明石さんに少し萌えてしまったヒトヨンサンマル。
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